判例全文 | ||
【事件名】NTTぷららへの発信者情報開示請求事件B 【年月日】令和元年6月26日 東京地裁 平成31年(ワ)第1955号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成31年4月24日) 判決 原告 X 被告 株式会社NTTぷらら 同訴訟代理人弁護士 松尾翼 同 小杉丈夫 同 西村光治 同 髙橋慶彦 同 古谷健太郎 同訴訟復代理人弁護士 池田曉子 主文 1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対して、被告の電気通信設備を経由してされたインターネット上のウェブサイトへの写真の掲載によって、当該写真についての原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)が、その侵害に係る発信者情報であって、上記の掲載をした者(以下「本件投稿者」という。)に対する損害賠償請求を行うために被告の保有する発信者情報の開示が必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて、本件発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)被告は、電気通信事業を営み、インターネット接続サービス等を提供する株式会社である。 (2)本件投稿者は、平成30年7月28日20時11分、株式会社カービュー(以下「カービュー」という。)が運営する、インターネット上でブログサービス等を提供する「みんカラ」とのウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を利用して、別紙2侵害情報目録記載のページURLに係るウェブページに同目録記載の画像(以下「本件画像」という。)を含む同目録記載のタイトルの記事(以下「本件記事」という。)を掲載した(以下、この行為を「本件投稿」という。)(甲1、2、6、41)。 (3)本件記事は、不特定の者が閲覧可能なものであった(甲1、弁論の全趣旨)。 3 争点 (1)本件投稿による権利侵害の明白性(争点1) ア 本件画像の著作物性・原告の著作権(争点1-1) イ 違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否)(争点1-2) (2)本件発信者情報が、本件投稿による侵害に係る発信者情報であるといえるか(争点2) (3)開示を求める正当な理由の有無(争点3) 4 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について ア 争点1-1(本件画像の著作物性・原告の著作権)について 【原告の主張】 (ア)本件画像の著作物性 本件画像は、ライトアップされた横浜ベイブリッジを中心にデジタル一眼レフカメラで撮影した写真であり、構図、気象条件、撮影時間帯の選択、カメラの設定などの点において創作性を持った著作物である。 (イ)原告が本件画像の著作権を有すること 原告は、本件画像を撮影した著作者であり、本件画像の著作権を有している。 【被告の主張】 (ア)本件画像の著作物性について 本件画像には創作性がなく、著作物に該当しない。 本件画像の被写体である横浜ベイブリッジは屋外に恒常的に設置され、これを被写体として撮影しようとすれば、焦点距離や撮影位置、構図等の表現の選択の幅は自ずと限定されるところ本件画像それ自体は特異なものではなく、個性が現れたものとはいえないので、創作性がなく、著作物に該当しない。 (イ)原告が本件画像の著作権を有することについて 原告が著作権者であることについては不知である。 イ 争点1-2(違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否))について 【原告の主張】 (ア)適法な引用の成否 本件記事への本件画像の掲載は、公正な慣行に合致するものではなく、報道・批評・研究のような引用の目的上正当な範囲内のものでもないから引用として違法性が阻却されるものではない。 (イ)その他違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しない。 【被告の主張】 (ア)適法な引用の成否について 本件投稿者が本件画像を本件記事内で使用したのは、引用に当たり、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるから、著作権法32条1項により著作権侵害は成立しない。 本件投稿者は、本件画像を自らが撮影した写真として投稿しているのではなく、あくまで比較対象として投稿しているにすぎないし、引用した写真は1点に留まり、改変せずクレジット表記がされたまま投稿しているので、引用の目的上正当な範囲内のものといえる。 本件画像は、本件記事の他の部分と明瞭に区分されており、本件記事では本件投稿者が撮影したと思われる写真等が主で、本件画像は従であるといえるし、「X」とのクレジット表記がついたまま投稿されているので出所の明示もなされており、本件画像の引用は公正な慣行に合致するといえる。 (イ)その他の違法性阻却事由が存在しないことについては争う。 (2)争点2(本件発信者情報が、本件投稿による侵害に係る発信者情報であるといえるか)について 【原告の主張】 次のとおり、本件投稿は、平成30年7月28日20時11分に、被告が保有する別紙2侵害情報目録記載のIPアドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を使用して行われたものであり、本件発信者情報は、本件投稿による侵害に係る発信者情報に該当する。 ア 本件サイトが提供するブログサービスには会員登録が必要であり、記事を投稿できるのはログインIDとパスワードでログインしたユーザー本人に限られる。 ログインIDやパスワードの共有は本件サイトにおいては禁止されており、本件記事やその他のブログの記事の内容からしても複数人がログインIDを共有して投稿を行っていたとは考えられない。 イ 本件投稿者は、平成30年7月28日の14時23分及び20時20分に、本件IPアドレスを使用して本件サイトにアクセスしている。 本件投稿は同日20時11分にされているが、前後に本件IPアドレスから本件サイトにアクセスがされていることからして、本件投稿についても、本件IPアドレスが使用されていた可能性が極めて高い。 【被告の主張】 本件IPアドレスが被告保有のものであることは認めるが、本件投稿が本件IPアドレスを使用してされたといえるかについては不知である。 ア 本件サイト上での投稿がログインIDとパスワードでログインした者により行われるものであるとしても、ログインIDやパスワードが複数人で共有されていることもあり得る。そうすると、本件投稿がされた時刻に前後するアクセスのIPアドレスが同一であっても、本件投稿がされた時刻において、前後のアクセスをした者とは別の者が本件投稿をした可能性を排除することはできない。 イ また、あるインターネットプロバイダを利用する発信者が近接した時間帯に断続的にインターネットを利用するような場合、当該発信者に対して同一のIPアドレスが連続して割り当てられることが事実上多いことは否定しないが、これは、少なくとも被告においては、システム上の設定によるものではないから、理論上または技術上推測されるものではない。 (3)争点3(開示を求める正当な理由の有無)について 【原告の主張】 原告は、本件投稿者に対して、本件画像の著作権侵害(複製権及び公衆送信権侵害)による、不法行為に基づく損害賠償請求をするため、被告にその保有する本件発信者情報の開示を求めるものであり、正当な理由がある。 【被告の主張】 原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件投稿による権利侵害の明白性)について (1)争点1-1(本件画像の著作物性・原告の著作権)について ア 本件画像の撮影者について 証拠(甲1~4)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像の右下には原告の氏名のローマ字表記と合致する「NIGHTVIEW PHOTO GRAPHERX」との表示がされていること、原告が管理する「夜景INFO」とのウェブサイトにおいて本件画像と同じ画像が公開されていること、上記表示が埋め込まれる前の本件画像のデータを原告が所持していることが認められ、これらの事実からすれば、本件画像は原告が撮影した上で上記の表示をするなどの加工をしたものと認められる。 イ 本件画像の著作物性について 証拠(甲1~4、18、19)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、夕方に横浜ベイブリッジを中心とする風景を撮影した写真であるところ、手前の陸地が映らないようにされ、横浜ベイブリッジの背後の風景や月が取り込まれるなど、構図、アングル等を工夫して撮影されたものと認められるから、写真の著作物であると認められる。 ウ 原告の著作権について 以上によれば、原告は、本件画像を撮影した著作者であり、本件画像の著作権を有する者と認められる。 (2)争点1-2(違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否))について ア 適法な引用の成否について 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿者が、本件記事内に本件画像を掲載したのは、本件画像自体についての批評等をするためではなく、夜間にライトアップされた横浜ベイブリッジの様子を示すために、その例として使用したものと認められる。 しかしながら、上記の目的のために、本件画像を使用する必要性が高いとまではいえない上、本件記事において、本件画像に前記(1)アの表示がされたままであるとはいえ、本件画像について、その出所や、本件投稿者以外によって撮影されたものであることが明示されていたとは認められないことも併せ考慮すれば、本件記事における本件画像の使用は、引用の目的上正当な範囲内のものであるとも、公正な慣行に合致するものとも認められないというべきであり、適法な引用(著作権法32条1項)には該当しない。 イ そして、本件全証拠によっても、本件画像の掲載について、その他の違法性阻却事由をうかがわせる事情は認められないから、本件投稿によって、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 2 争点2(本件発信者情報が、本件投稿による侵害に係る発信者情報であるといえるか)について (1)事実認定 証拠(甲1、5~10、13~15、28~30、41、43)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿及び本件サイトの運営者であるカービューに対する発信者情報開示請求等に関して、以下の事実が認められる。 ア 本件サイトでブログの記事を投稿するためには、ID登録をした上で、ログインIDとパスワードを入力してログインする必要がある(甲13、14、15、28、29)。 イ 本件記事は、「(省略)」と表示されるID(以下「本件ID」という。)を登録した者が管理するブログ(以下「本件ブログ」という。)に投稿されたものである(甲1、6、43)。 ウ カービューは、原告から「みんカラユーザー「(省略)」の2018年7月28日における投稿時点のIPアドレス」の開示請求を受けて、平成31年1月10日、平成30年7月28日の本件IDによる本件サイトへのアクセス状況等について、次の内容を回答した(甲6の2)。 (ア)同日14時23分、20時20分に本件IPアドレスからのアクセスがあったこと (イ)本件投稿は同日20時11分にされたものであり、投稿された前後のログから、本件記事の投稿は上記(ア)と同一のIPアドレスからの投稿と推測されること エ カービューの担当者は、平成30年12月17日、前記ウの回答のほか、同年7月28日20時11分時点のアクセスログについて、サーバーの設定の問題で、本件投稿時点のログからはIPアドレスが特定できなかったこと及び前記ウと同旨の記載を含むメールを、原告に送信した(甲30の2)。 オ 被告は、本件IPアドレスにおける、平成30年7月28日14時23分、20時20分の通信ログ及び通信ログに係る契約者情報のほか、同日20時11分の通信ログ及び通信ログに係る契約者情報を保有している(甲9、10)。 (2)検討 ア 前記(1)ウ及びエのカービューからの回答内容に加え、本件投稿がされた平成30年7月28日20時11分に本件IPアドレスを使用したアクセスが存在していたこと(前記(1)オ)、特定の回線を使用する者が断続的にインターネットを利用するような場合、当該発信者に対して同一のIPアドレスが連続して割り当てられることが多いことを被告が認めていることからすれば、本件投稿は、同日20時11分に本件IPアドレスからされたものと認めるのが相当である。 イ この点について、被告は、本件IDを複数人が共有していた可能性があり、本件画像が投稿された際には、平成30年7月28日14時23分及び20時20分にアクセスした者とは別の者が本件画像を投稿した可能性があると指摘する。 しかしながら、本件サイトにおいては、複数人がログインID及びパスワードを共有することは想定されていなかったものと認められ(甲15)、本件ブログの記載内容も複数人が管理していることをうかがわせるものであったとは認められない(甲1、43、47)。また、平成30年7月28日のアクセス状況に関するカービューの回答内容(前記(1)ウ、エ)も、本件IDを使用した複数人によるアクセスがあったことを示すものとはいえず、その他、本件IDを複数人が使用していたことをうかがわせる証拠はない。 ウ また、被告は、平成30年7月28日14時23分及び20時20分に本件IPアドレスを割り当てられた契約者に、同日20時11分の時点では本件IPアドレスが割り当てられていなかった可能性がある旨も主張するが、この点を裏付ける具体的な主張立証はない。 エ 以上のとおり、被告の主張する前記イ及びウの点はいずれも抽象的な可能性を指摘するものに留まり、本件画像の投稿について、上記アの認定を覆すに足りるものではない。 (3)したがって、本件発信者情報は本件投稿による侵害に係る発信者情報と認められる。 3 争点3(開示を求める正当な理由の有無)について 証拠(甲5、8、10、17)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対して、本件画像の著作権侵害について不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるものと認められるから、その開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 4 結論 以上のとおり、本件投稿による原告の権利侵害が明白であるところ、本件発信者情報は本件投稿による権利の侵害に係る発信者情報に該当し、その開示を受けるべき正当な理由もあるといえるから、本件投稿に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者(法4条1項)として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 山田真紀 裁判官 神谷厚毅 裁判官 矢野紀夫 (別紙1)発信者情報目録 別紙2侵害情報目録記載のIPアドレスを、同目録記載の投稿日時頃に使用して情報を送信した者に関する情報であって、次に掲げるもの。 1 氏名又は名称 2 住所 3 メールアドレス (別紙2)侵害情報目録
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