判例全文 | ||
【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件D 【年月日】令和元年6月20日 東京地裁 平成31年(ワ)第2629号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成31年4月16日) 判決 原告 日本コロムビア株式会社 原告 株式会社バンダイナムコアーツ 原告 キングレコード株式会社 原告ら訴訟代理人弁護士 笠島祐輝 同 林幸平 同 尋木浩司 同 前田哲男 同 福田祐実 被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 同訴訟代理人弁護士 渡邉峻 同 横山経通 主文 1 被告は、別紙対象目録の「原告」欄記載の各原告に対し、それぞれ対応する同目録の「日時」記載の日時頃に「IPアドレス」欄記載のアイ・ピー・アドレスを使用してインターネットに接続していた者の「発信者情報」欄記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文第1項と同旨 第2 事案の概要 本件は、レコード製作会社である原告らが、自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ、氏名不詳者において、当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置し、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にして、原告らの送信可能化権を侵害したことが明らかであると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求める事案である。 1 前提事実 (1)原告らの送信可能化権(甲3、7、11、15、弁論の全趣旨) 別紙対象目録の「原告」欄記載の各原告は、それぞれ対応する同目録の「実演家」欄記載の各実演家が歌唱する「楽曲」欄記載の楽曲等を録音したレコード(以下「本件各レコード」という。)を製作し、「CD(商品番号)」欄記載の音楽CDに収録して「発売年月日」欄記載の日に日本全国で発売した者であって、本件各レコードについて、レコード製作者の送信可能化権(著作権法96条の2)を有する。 (2)被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行う特定電気通信役務提供者(プロバイダ責任制限法2条3号)であり、別紙対象目録の「IPアドレス」欄の各アイ・ピー・アドレスを管理している(当事者間に争いがない)。 2 争点及びこれに対する当事者の主張 (1)本件各レコードの送信可能化権を侵害されたことが明らかであるか(争点1) [原告らの主張] 氏名不詳者は、本件各レコードを圧縮して複製した別紙対象目録の「ファイル名」欄記載の各ファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上、それぞれ対応する同目録「IPアドレス」欄記載のアイ・ピー・アドレスを被告から割り当てられて上記コンピュータをインターネットに接続させ、「日時」欄記載の日時頃、ファイル交換共有ソフトであるShare互換ソフトウェアを用いて、同ソフトを利用する他の不特定の利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して各ファイルを自動的に送信し得る状態にした。上記の各送信可能化行為について著作隣接権の権利制限事由(著作権法102条。同条1項が準用する同法30条以下を含む。)は存在しないため、被告の各サービス利用者である氏名不詳者によって、原告らが有する送信可能化権が侵害されたことが明らかである。 [被告の主張] 不知。 (2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2) [原告らの主張] 原告らは、本件各レコードの送信可能化権を侵害した氏名不詳者に対し、損害賠償請求権や差止請求権を行使する必要があるから、上記氏名不詳者に係る発信者情報(住所、氏名及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある。 [被告の主張] 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1について (1)証拠(甲2、6、10、14、19)によれば、次の事実が認められる。 ア 株式会社クロスワープ(以下「クロスワープ」という。)は、別紙対象目録の「日時」欄記載の各日時頃、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会によりP2P型ファイル交換ソフトの利用者のアイ・ピー・アドレス等を特定する方法として信頼性が認められると認定された「P2PFINDER」というシステム(以下「本件システム」という。)を使用して、P2P型ファイル交換ソフトであるShare(以下「本件交換ソフト」という。)を介して公開されている音楽ファイルを監視していた。 本件システムは、設定されたキーワードに基づき、本件交換ソフトを介して公開されている音楽ファイルの中からそのキーワードを含む音楽ファイルを検索し、その音楽ファイルが検出された場合には、ダウンロード先のアイ・ピー・アドレス等の当該ファイルに関する情報を自動的に取得してダウンロードを要求し、当該ファイルを自動的にダウンロードすることにより、市販されている音楽CDの音源が本件交換ソフトを介して公開されていないかを監視するものである。 イ クロスワープが本件システムにより検索した結果、別紙対象目録の「ファイル名」欄記載の各ファイルが検出され、それぞれ対応する同目録の「日時」欄記載の日時頃、同ファイルのダウンロードが完了した。上記各ファイルのダウンロード先のアイ・ピー・アドレスは、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」欄記載のアイ・ピー・アドレスであった。 クロスワープは、上記各ファイルを他のファイルとともにDVD−Rに記録し、そのDVD−Rをそれぞれ対応する同目録の「原告」欄記載の各原告の担当者に交付した。 上記担当者が上記各ファイルを再生して記録されている音楽を聴取した結果、上記各ファイルには、本件各レコードに録音された楽曲を複製した音楽が記録されていることが確認された。 (2)前記前提事実及び上記(1)によると、被告から別紙対象目録の「IPアドレス」欄記載のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた氏名不詳者が、インターネットに接続し、それぞれ対応する同目録の「日時」欄の日時頃、本件交換ソフトを介して「ファイル名」欄記載のファイルを公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって、「原告」欄記載の各原告が有する本件各レコードの送信可能化権を侵害したことが認められる。 2 争点2について 上記1(2)によれば、被告は、被告からアイ・ピー・アドレスを割り当てられた氏名不詳者による本件各レコードの送信可能化権侵害との関係において、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たるところ、原告らが同侵害に基づく差止請求権や損害賠償請求権を行使するためには、上記氏名不詳者に係る発信者情報(氏名(又は名称)、住所及び電子メールアドレス)の開示を受ける必要があるから、原告らにはその発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。 3 結論 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 田中孝一 裁判官 横山真通 裁判官 奥俊彦 (別紙)対象目録
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