判例全文 line
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【事件名】システム開発委託に伴う著作権帰属事件(2)
【年月日】令和元年6月6日
 知財高裁 平成30年(ネ)第10052号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第32433号)
 (口頭弁論終結日 平成31年4月18日)

判決
控訴人(一審原告) 株式会社マルスジャパン
同訴訟代理人弁護士 青木寛文
同 町田麻美
被控訴人(一審被告) 株式会社マルイチ産商(以下「被控訴人マルイチ産商」という。)
同訴訟代理人弁護士 中山修
同 中山耕平
同 中山千晶
被控訴人(一審被告) 株式会社テクニカルパートナー(以下「被控訴人テクニカルパートナー」という。)
被控訴人(一審被告) Y1(以下「被控訴人Y1」という。)
被控訴人(一審被告) Y2(以下「被控訴人Y2」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 倉ア哲矢


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審において追加した請求を棄却する。
3 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほか、原判決に従う。原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1)主位的請求
ア 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して1620万円及びこれに対する被控訴人マルイチ産商、被控訴人Y1、被控訴人Y2につき平成29年10月15日から、被控訴人テクニカルパートナーにつき同月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年9月17日から被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を停止するまで1か月45万円の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人マルイチ産商は、原判決別紙プログラムを使用してはならない。
ウ 被控訴人マルイチ産商は、原判決別紙プログラムのソースコードを廃棄せよ。
(2)予備的請求
ア 被控訴人マルイチ産商は、控訴人に対し、1620万円及びこれに対する平成29年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに同年9月17日から被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を停止するまで1か月45万円の割合による金員を支払え。
イ 被控訴人マルイチ産商は、原判決別紙プログラムを使用してはならない。
ウ 被控訴人マルイチ産商は、原判決別紙プログラムのソースコードを廃棄せよ。
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)は、以下のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決4頁25行目から26行目「原告が被告マルイチ産商に対して」を「被控訴人マルイチ産商が、控訴人に対して」と改める。
(2)原判決5頁2行目「(原告を甲とし、被告を乙とする。)」を「(被控訴人マルイチ産商を甲とし、控訴人を乙とする。)」と改める。
(3)原判決8頁8行目「を締結した」を「が成立した」と改める。
(4)原判決8頁21行目から22行目「ただし、」から23行目「また、」までを削除する。
(5)原判決8頁24行目「この点にも争いがある。」を「この点については争いがある。」と改める。
(6)原判決8頁25行目から9頁4行目までを削除する。
(7)原判決9頁5行目「(5)」を「(4)」と、10行目「(6)」を「(5)」とそれぞれ改める。
(8)原判決9頁12行目「平成26年9月17日」を「同年9月17日」と改める。
2(1)本件の原審は、控訴人が、被控訴人らに対し、以下の各請求をした事案である。
ア 主位的請求
 控訴人は、@被控訴人らは、本件基本契約の終了(平成26年9月17日)前の平成25年11月27日、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に際し、本件共通環境設定プログラムのソースコード(以下「本件ソースコード」という。)を複製・翻案してその複製権又は翻案権を侵害し、上記本件基本契約の終了後、本件共通環境設定プログラムのダイナミックリンクライブラリ形式のファイル(以下「DLLファイル」という。)、エグゼファイル(以下「EXEファイル」という。)及び本件ソースコード(以下、単に「本件共通環境設定プログラム」というときには、上記DLLファイル、EXEファイル及び本件ソースコードを併せたものを指すこととする。)を複製・翻案して本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権を侵害し(主位的請求原因1)、又はA上記本件基本契約の終了後、被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を継続したことが、著作権法113条2項又はその類推適用により、本件共通環境設定プログラムの著作権を侵害するものとみなされる(主位的請求原因2。なお、主位的請求原因1、2は選択的請求原因と解される。)と主張し、民法709条、719条1項前段及び著作権法114条3項に基づく損害賠償請求として、1620万円(平成26年9月17日から平成29年9月16日まで1か月当たり45万円の使用料の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被控訴人マルイチ産商、被控訴人Y1及び被控訴人Y2につき平成29年10月15日、被控訴人テクニカルパートナーにつき同月16日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払並びに平成29年9月17日から被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を停止するまでの間1か月45万円の使用料相当額の支払を求めるとともに、同法112条1項及び2項に基づき、被控訴人マルイチ産商に対し、原判決別紙プログラムの使用の差止め及び原判決別紙プログラムのソースコードの廃棄を求めた。
イ 予備的請求
 控訴人は、被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約又は条理に基づき、原判決別紙プログラムの使用を停止し、本件ソースコードを廃棄する債務を負うところ、被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を継続していることが、上記債務の不履行に当たり、又は原判決別紙プログラムの使用料相当額の支払を免れていることが不当利得に当たると主張し、被控訴人マルイチ産商に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(予備的請求原因1)又は不当利得に基づく利得金返還請求(予備的請求原因2。なお、予備的請求原因1、2は選択的請求原因と解される。)として、1620万円(前記の合計額)及びこれに対する平成29年10月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払並びに同年9月17日から被控訴人マルイチ産商が原判決別紙プログラムの使用を停止するまでの間1か月当たり45万円の使用料相当額の支払を求めるとともに、本件基本契約又は条理に基づく債務の履行請求として(予備的請求原因1)、被控訴人マルイチ産商に対し、原判決別紙プログラムの使用の差止め及び原判決別紙プログラムのソースコードの廃棄を求めた。
(2)原判決は、@本件ソースコードが本件基本契約の終了前に複製又は翻案されたこと及び本件基本契約の終了後に本件共通環境設定プログラムが複製又は翻案されたことを認めるに足りる証拠はなく、A仮に、これらの複製又は翻案がされたとしても、本件共通環境設定プログラムは、本件基本契約で規定された「成果物」に該当し、本件基本契約の終了前及び終了後において、被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約に基づき本件共通環境設定プログラムを使用するために必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案して利用することができたから、複製権又は翻案権の侵害は成立しないとし、さらに、B被控訴人マルイチ産商が、本件共通環境設定プログラムの複製物の所有権を取得しているから、本件共通環境設定プログラムを使用することができ、その使用による著作権法113条2項のみなし侵害も成立せず、C被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができるから、その使用が債務不履行に当たらず、不当利得も成立しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
(3)控訴人は、控訴を提起するとともに、当審において、前記(1)アAの主位的請求原因2を撤回し、同請求原因を予備的請求の請求原因3(予備的請求原因1〜3はいずれも選択的請求原因である。また、控訴人は当審において、予備的請求原因3のみなし侵害の主張の対象を本件ソースコードとした。)として追加する訴えの変更をするとともに、前記(1)ア@の主位的請求原因における被控訴人テクニカルパートナーの責任を民法715条1項に基づくものとした。
3 争点
(1)本件ソースコードが、平成25年11月27日の本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に伴って複製・翻案されたか否か。
(2)本件基本契約終了後、本件共通環境設定プログラムが複製・翻案されたか否か。
(3)上記サーバ移行に伴い本件ソースコードを複製・翻案することが本件基本契約によって許されるか否か。
(4)本件基本契約の終了後、本件共通環境設定プログラムを複製・翻案することが、本件基本契約によって許されるか否か。
(5)被控訴人Y1及び被控訴人Y2の故意又は過失並びに被控訴人テクニカルパートナーの民法715条1項の責任の有無
(6)著作権法47条の8の適用の可否
(7)著作権法47条の3の類推適用の可否
(8)本件基本契約終了後の本件ソースコードの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項又はその類推適用)の有無
(9)被控訴人マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務の有無
(10)不当利得返還請求権の有無
(11)損害額及び不当利得額
(12)消滅時効の抗弁の成否
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件ソースコードが、平成25年11月27日の本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に伴って複製・翻案されたか否か。)について
(控訴人の主張)
 控訴人と被控訴人マルイチ産商は本件保守契約を締結し、控訴人は本件新冷蔵庫等システムのメンテナンスを請け負ったが、メンテナンス作業には本件ソースコードを用いてするメンテナンスが不可欠であったことから、控訴人は、メンテナンス作業の便宜のため、被控訴人マルイチ産商の本社サーバ(以下「旧サーバ」という。)に本件ソースコードを保存した。被控訴人マルイチ産商は、被控訴人テクニカルパートナー(同社社員である被控訴人Y1及び被控訴人Y2)をして、平成25年11月27日に本件新冷蔵庫等システムを仮想サーバ(本件新冷蔵庫等システム専用の仮想サーバ。以下「新サーバ」という。)に移行させ、もって本件ソースコードを複製・翻案した。
(被控訴人らの主張)
 被控訴人マルイチ産商は、サーバの老朽化対策等を目的として、平成25年11月27日、被控訴人テクニカルパートナーに依頼して、被控訴人マルイチ産商の本社にある旧サーバに保存されていた本件新冷蔵庫等システムのプログラム及び本件共通環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイルを、別の場所に設置された新サーバに単純移行しただけであり、本件ソースコードを複製・翻案した事実はない。
(2)争点(2)(本件基本契約終了後、本件環境設定プログラムが複製・翻案されたか否か。)について
(控訴人の主張)
 控訴人は、平成26年9月17日に本件基本契約を解除したところ、同日以降、被控訴人マルイチ産商は、人材派遣契約を締結した被控訴人テクニカルパートナー(同社社員である被控訴人Y1及び被控訴人Y2)をして、保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案させた。
(被控訴人らの主張)
 被控訴人テクニカルパートナーと被控訴人マルイチ産商は、平成23年12月、情報システム及び情報ネットワークシステム運用保守のための人材派遣契約を締結し、被控訴人テクニカルパートナーは被控訴人マルイチ産商に対して上記運用保守管理業務を請け負っているが、当該契約にはプログラムの保守管理は含まれておらず、本件共通環境設定プログラムは複製又は翻案されていない。
(3)争点(3)(サーバ移行に伴い本件ソースコードを複製・翻案することが本件基本契約によって許されるか否か。)について
(被控訴人らの主張)
ア 本件ソースコードは、本件基本契約2条(2)にいう「成果物」に該当する。
(ア)本件基本契約2条(2)には、「本件契約における『成果物』とは、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムに関する設計書、仕様書、マニュアル等の資料及びその他甲が作成を委託するコンピュータシステムに関わる有体物または無体物全般をいう。」と規定されている(甲6)。
 平成20年8月22日付けの見積書(乙16の1)の記載内容と、当初の同年6月16日付けの見積書(乙15の1)の記載内容を比較すると明らかなとおり、乙16の1の見積書には、当初の見積書(乙15の1)に記載されていなかった本件共通環境設定プログラムとされる「システム共通クラスライブラリー・共通関数及び運用後の制御アプリケーション」が新たに記載され、その対価が300万円とされているから、本件共通環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイル並びに本件ソースコードは、いずれも被控訴人マルイチ産商が控訴人に300万円の対価を支払い、作成を委託したコンピュータシステムに関わる無体物であって、上記「成果物」に該当する。
(イ)乙16の1で、本件ソースコードが納入の対象外とされているのは、納入の対象物や納入の形を巡っての議論にすぎず、本件ソースコードが「成果物」であるか否かについて影響を及ぼすものではない。
 控訴人は、納入・検収の有無が成果物か否かを決定すると主張するが、成果物か否かは、定義規定である本件基本契約2条(2)によって決せられるものであり、本件基本契約16条1項、17条1項及び19条1項にある納入・検収の有無によって決せられるものではない。
 本件基本契約16条1項、17条1項及び19条1項は、成果物の「所有権」の移転時期や納入検収に関する定めであり、無体財産に属する「成果物」についての利用権に関する規定ではない。この利用権は、本件基本契約21条3項及び26条によって決定される問題である。
 また、控訴人は、平成20年10月16日、本件共通環境設定プログラムである「システム共通環境プログラム一式((1)クラスライブラリー機能一覧、(2)共通関数仕様、(3)共通環境ソースプログラム)」を「納品」し(乙1の1)、控訴人は、被控訴人マルイチ産商に対する同月20日締めの請求書(乙1の3)の2項により、「システム開発(共通環境設定)一式」の代金として300万円を請求し、これを受領している。控訴人が平成20年10月16日に「納品」した上記プログラムは、最終的な本件共通環境設定プログラムではなく、代金の分割支払を得るためのダミー(まやかし物)であり、被控訴人マルイチ産商は控訴人を信用し、実際には検品をせずに、検収書を交付して、その段階で分割代金を支払ってしまったということが本件訴訟中に初めて明らかとなったが、最終的に本件共通環境設定プログラムは控訴人によって被控訴人マルイチ産商に納入されている。
イ 本件共通環境設定プログラムは、本件ソースコードも含めて本件基本契約21条3項(1)にいう「新規に作成された成果物」に該当するから、被控訴人マルイチ産商が著作権の半分を取得し、上記21条3項(1)に基づき、著作権法65条2項によらずに自由に著作権法上の利用を行うことができる。
 仮に、本件共通環境設定プログラムが、「新規に作成された成果物」に該当しないとしても、本件基本契約21条3項(2)にいう「従前から有していた成果物」に該当するから被控訴人マルイチ産商は、上記21条3項(2)に基づき「自ら対象ソフトウエアを使用するために必要な範囲で、著作権法に基づく利用(著作権法に基づく複製権、翻案権等の著作物を利用する権利をいう)を無償で許諾」されていた。
 なお、控訴審において控訴人が提出した平成20年6月16日付けの見積書(甲13)は作成日付に作成されたものではなく、信用性がないものである。
(控訴人の主張)
 本件ソースコードは、本件基本契約2条(2)の「成果物」に該当しない。これは、以下のことから明らかである。
ア 本件個別契約締結の経緯
 控訴人は、被控訴人マルイチ産商と本件新冷蔵庫等システムについての本件個別契約を締結するに当たって、まず被控訴人マルイチ産商に対し、総額を1550万円とする平成20年6月16日付けの見積書(甲13)を提示した。この段階では本件共通環境設定プログラムの機能に相当するプログラムを新規開発することが企図されており、金額が高額なものとなっていた。
 その後、被控訴人マルイチ産商から高額すぎるという要望が出されたため、受注後4か月の納期に間に合わせるとともに開発費用を低額に抑えるため、控訴人は、本件共通環境設定プログラムの機能に相当するプログラムを新規開発するのではなく、既存のプログラム、すなわち本件共通環境設定プログラムを流用することとして平成20年8月22日付け本件見積書(甲5)を再提示した。本件見積書においては、本件共通環境設定プログラムについては、新規開発をしない以上、控訴人が著作権を有し、控訴人は本件共通環境設定プログラムの利用許諾をするにすぎず、他の新規開発したプログラムと同じように被控訴人マルイチ産商が自由に利用することができないよう、本件共通環境設定プログラムに当たる「5システム共通クラスライブラリー・共通関数及び運用に制御アプリケーション」については、プログラム名のみが記載されており、「作成」の表記はなかった。また、その「納入物件」欄には、「ただし、システム共通クライスライブラリ及び、運用制御アプリケーションについてはソースは対象外、dll・exc(exe)での納品。」と表記されており、あえて本件ソースコードを納入の対象外とすることが明示されていた(甲14)。
 また、本件見積書を受けて作成された本件注文書(甲4)においても、「見積書No.2000847」と本件見積書のNo.が摘示され、作業期間は2008年(平成20年)10月1日〜2009年(平成21年)2月10日の約4か月間として注文がされている。また、その契約金額も控訴人が提示した値引き前の代金1300万円(甲5)から若干の減額がされた1218万円とされている。
イ 本件ソースコードが納入されていないこと
 本件基本契約16条1項、17条1項、19条1項からすると、「成果物」の所有権が控訴人から被控訴人マルイチ産商に移転する時期は、上記17条1項に規定される検収完了のときとされていて、「成果物」の所有権移転のためには検収が不可欠となっている。そして、検収の対象となる「成果物」は、上記17条1項に「前条(判決注:16条)により納入された成果物」とあるため、納入が不可欠ということになる。また、「前条により納入」される成果物は「個別契約及びシステム確認書所定の成果物」の完成品であるから、本件個別契約及びシステム確認書で「成果物」とすべきことが合意されているものということになる。すなわち、@本件個別契約及びシステム確認書で「成果物」とすべきことが合意された上で、A納入されて検収を受けたものが、基本契約19条1項により控訴人から被控訴人マルイチ産商に所有権が移転される「成果物」である。
 しかし、本件ソースコードについては、被控訴人マルイチ産商自身が、@本件個別契約における納入・検収の対象となっていなかったこと、A実際に納入・検収がされなかったことを自認しているから、本件ソースコードは「成果物」ではないし、その所有権が被控訴人マルイチ産商に移転することもない。
ウ なお、控訴人は、被控訴人マルイチ産商に対し、本件ソースコードをCDで交付したが、これは、被控訴人マルイチ産商から、代金を分割して支払う関係上、「何らかの形のある物を納入してもらいたい」という要請を受け、控訴人が本件新冷蔵庫等システムのための微修正を行う前の本件ソースコードをCDで交付したものにすぎず、本件基本契約及び本件個別契約上の納入義務に基づき納入したものではなく、納入には当たらない。
 また、控訴人は、平成21年2月10日、本件冷蔵庫等システムの保守管理の必要上、本件ソースコードを被控訴人マルイチ産商所有の旧サーバに保存しているが、これは控訴人による保守管理の便宜のためであり、本件基本契約に基づく目的物の納入としてされたものではない。
(4)争点(4)(本件基本契約の終了後に、控訴人の許諾なく本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することが、本件基本契約によって許されるか否か。)
(被控訴人らの主張)
 本件基本契約26条は、同21条について、本件基本契約が終了した後も有効であると定めているから、被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約終了後も同条3項(1)又は(2)に基づき、本件共通環境設定プログラムを複製等することができる。
(控訴人の主張)
 以下のとおり、本件基本契約の終了に当たって、本件基本契約26条の適用はなく、本件基本契約終了後は、被控訴人マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムを使用することができない。しかし、本件においては、控訴人の管理の都合上、本件ソースコードが被控訴人マルイチ産商所有の旧サーバに複製されていたのを奇貨として、被控訴人マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案したにすぎない。
ア 本件基本契約21条3項(2)は、著作権の譲渡について定めていて契約の消長に影響されない同項(1)とは異なり、控訴人が既に保有している著作物について使用権を許諾する規定といえるところ、通常のプログラムの使用許諾契約においては、使用許諾契約が終了すると、当然に使用権を喪失するのであって、同項(2)についても同様に解すべきである。したがって、本件基本契約21条3項(2)は、本件基本契約が存続する場合に限り、控訴人所有の著作物について被控訴人マルイチ産商による無償利用を認めるものであって、本件基本契約が解除された以上は、被控訴人マルイチ産商の使用権が消滅すると解すべきである。
イ また、本件個別契約においては、本件ソースコードについて、控訴人と被控訴人マルイチ産商との間において、被控訴人マルイチ産商に納入しないことが合意されていたから、本件基本契約が解除された後は、本来、本件ソースコードを有しない被控訴人マルイチ産商は、サーバ移行等の複製や翻案ができず、その当然の帰結として被控訴人マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムの利用ができなくなるはずであり、これは、本件個別契約において控訴人と被控訴人マルイチ産商との間において所与の前提とされていた。
ウ 本件基本契約は更新しない旨の意思表示による解約(28条1項ただし書)により終了したから、本件基本契約26条の「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合」に直接該当しないし、同条が規定するのは「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」であり、例えば、同21条3項(1)が定める権利の帰属主体が契約終了によっても変わらないことを定めているにすぎず、同項(2)の利用に関する定めは射程外である。
(5)争点(5)(被控訴人Y1及び被控訴人Y2の故意又は過失並びに被控訴人テクニカルパートナーの民法715条1項の責任の有無)について
(控訴人の主張)
 被控訴人Y1及び被控訴人Y2は、控訴人の元従業員であり、本件共通環境設定プログラムの著作権が控訴人に帰属しており、被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することができなかったことを認識していた。しかし、退職後、被控訴人テクニカルパートナーの従業員となった被控訴人Y1及び被控訴人Y2は、被控訴人テクニカルパートナーの事業の執行について、本件基本契約終了前に本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に伴い、本件ソースコードを複製するとともに、本件基本契約終了後、保守管理業務の一環として、本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案したのであるから、被控訴人Y1及び被控訴人Y2には故意又は過失があり、被控訴人テクニカルパートナーは使用者責任を負う。
(被控訴人テクニカルパートナー、被控訴人Y1及び被控訴人Y2[以下、併せて「被控訴人テクニカルパートナーら」という。]の主張)
 被控訴人テクニカルパートナーらは、控訴人と被控訴人マルイチ産商間の本件基本契約の内容を知り得る立場になく、複製権又は翻案権侵害について、被控訴人テクニカルパートナーらに故意又は過失はない。
(6)争点(6)(著作権法47条の8の適用の可否)について
(被控訴人らの主張)
 被控訴人マルイチ産商は、著作権法47条の8に基づき、必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することができる。
(控訴人の主張)
 著作権法47条の8は、同一の電子計算機内における複製のみを対象とする規定であるところ、本件において旧サーバと新サーバは別物であり、同条の適用はない。
(7)争点(7)(著作権法47条の3の類推適用の可否について)
(被控訴人らの主張)
 本件共通環境設定プログラムの複製物が保存されていた旧サーバは、リース物件であり、被控訴人マルイチ産商はリース契約のユーザの立場であったが、そのような場合にも著作権法47条の3第1項の類推適用により被控訴人マルイチ産商は、必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することができる。
 また、控訴人は、被控訴人マルイチ産商に対し、本件共通環境設定プログラムの元となったプログラムのソースコードを本件ソースコードと偽ってCDに保存して交付したから、被控訴人マルイチ産商は、禁反言上又は著作権法47条の3第1項の類推適用により、上記CDの所有者として本件共通環境設定プログラムを複製等できる。
(控訴人の主張)
 被控訴人マルイチ産商は、リース契約のユーザにすぎず、本件共通環境設定プログラムの複製物の所有権を有していない。また、本件共通環境設定プログラムのソースコードは、納入の対象外であり、メンテナンス作業の便宜のため、控訴人が旧サーバに保存したものにすぎず、被控訴人マルイチ産商は、本件ソースコードの正当な所持者とはいえないから、著作権法47条の3第1項は類推適用されない。
(8)争点(8)(本件基本契約終了後の本件ソースコードの使用によるみなし侵害[著作権法113条2項又はその類推適用]の有無)について
(控訴人の主張)
 本件ソースコードについては納入の対象物ではなく、被控訴人マルイチ産商が本件基本契約19条に基づきその複製物の所有権を取得する余地はないものであった。
 被控訴人マルイチ産商としても、控訴人が被控訴人マルイチ産商の旧サーバに本件ソースコードを複製した時点で本件ソースコードを利用できないことを認識していた。
 しかし、被控訴人マルイチ産商は、本件ソースコードを本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に伴い複製し、本件ソースコードを業務上使用し続けている。
 したがって、被控訴人マルイチ産商が、本件ソースコードを使用する行為については、著作権法113条2項が直接又は類推適用されて、みなし侵害が成立する。
(被控訴人マルイチ産商の主張)
 本件ソースコードは、本件基本契約2条(2)の「成果物」に該当しており、被控訴人マルイチ産商はこれを利用できる。また、控訴人が旧サーバに本件ソースコードを納入(複製)した時点において、被控訴人マルイチ産商は本件ソースコードを利用できるものと認識しており、また、それは当然の権利でもあった。
 したがって、被控訴人マルイチ産商が本件ソースコードを使用する行為は、著作権第113条2項のみなし侵害には該当しない。
(9)争点(9)(被控訴人マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務の有無)について
(控訴人の主張)
 本件基本契約終了により本件共通環境設定プログラムについての被控訴人マルイチ産商の使用権限は失われるから、被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約及び条理上、本件基本契約終了後は、本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、本件ソースコードを廃棄する債務を負っている。それにもかかわらず、被控訴人マルイチ産商は、その債務の履行を怠り、使用を継続している。
 したがって、控訴人は被控訴人マルイチ産商に対し、債務不履行に基づく損害賠償の支払及びその債務の履行を求めることができる。
(被控訴人マルイチ産商の主張)
 被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約終了後も本件基本契約26条、21条3項(1)又は(2)に基づき、本件共通環境設定プログラムを使用することができる。
(10)争点(10)(不当利得返還請求権の有無)について
(控訴人の主張)
 被控訴人マルイチ産商は、本件基本契約終了により本件共通環境設定プログラムの使用権限が失われた後も本件共通環境設定プログラムの使用を継続しており、法律上の原因なく、本件共通環境設定プログラムの使用料相当額の利得を得て、控訴人に同額の損失を与えている。
(被控訴人マルイチ産商の主張)
 被控訴人マルイチ産商は本件基本契約終了後も本件基本契約26条、21条3項(1)又は(2)に基づき本件共通環境設定プログラムを使用することができる。(11)争点(11)(損害額及び不当利得額)について
(控訴人の主張)
ア 損害額
(ア)著作権侵害による損害
 本件共通環境設定プログラムの使用料は、1か月当たり45万円であるから、控訴人は、被控訴人マルイチ産商、被控訴人Y1及び被控訴人Y2に対し、民法709条、719条1項前段及び著作権法114条3項に基づき、被控訴人テクニカルパートナーに対し、民法715条1項、719条1項前段及び著作権法114条3項に基づき、平成26年9月17日から平成29年9月16日まで期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円(45万円×36か月)及び同月17日から被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまで、1か月当たり45万円の使用料相当額の損害賠償の支払を求めることができる。
(イ)債務不履行による損害
 控訴人は、被控訴人マルイチ産商に対し、債務不履行に基づき、平成26年9月17日から平成29年9月16日までの期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円(45万円×36か月)及び同月17日から被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまで、1か月当たり45万円の使用料相当額の損害賠償の支払を求めることができる。
イ 不当利得額
 控訴人は、被控訴人マルイチ産商に対し、不当利得に基づき、平成26年9月17日から平成29年9月16日まで期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円(45万円×36か月)及び同月17日から被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまで、1か月当たり45万円の使用料相当額の不当利得の支払を求めることができる。
(被控訴人らの主張)
 控訴人の主張する損害額及び不当利得額は争う。
(被控訴人マルイチ産商の主張)
 被控訴人マルイチ産商は、平成30年6月13日以降、本件新冷蔵庫等システムを使用していない(乙22)。
(12)争点(12)(消滅時効の抗弁の成否)について
(被控訴人らの主張)
 控訴人は、遅くとも平成26年8月8日までには、本件の著作権侵害の不法行為について損害の発生及び加害者を認識した。そして、被控訴人テクニカルパートナーらは、平成29年11月20日付け答弁書において消滅時効を援用する旨の意思表示をし、被控訴人マルイチ産商も、控訴審において被控訴人テクニカルパートナーらの主張を援用したから、控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求権は時効消滅した。
(控訴人の主張)
 争う。複製行為は、著作物を記録し、保存するというものであり、複製権侵害は継続的な不法行為である。被控訴人らがした複製行為は現在まで継続しており、現在まで損害が発生しているから、消滅時効は成立しないし、違法に複製された著作物の利用を継続しているにもかかわらず、消滅時効を援用することは権利の濫用に当たり、許されない。
第3 当裁判所の判断
1 判断の前提となる事実
 証拠及び弁論の全趣旨によると前記第2の1の前提事実に加えて以下の事実が認められる。
(1)コンピュータプログラムにおけるソースコード、DLLファイル及びEXEファイルの関係について
 DLLファイル及びEXEファイルは、ソースコードを作成して、それをコンパイル等することで生成される実行形式のファイルであって、DLLファイル及びEXEファイル自体を直接に作成・改変することはできない(弁論の全趣旨)。
(2)本件共通環境設定プログラムにおけるDLLファイル及びEXEファイルについて
 本件新冷蔵庫等システムにおいて、本件共通環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイルは、それ単体で機能するものではなく、冷蔵庫管理システム及び社内受発注システムに一体として実装されるもの、すなわち、上記両システムを構成するプログラムと一体となることによってはじめて機能するものであった。
 控訴人は、上記両システムを構成する本件共通環境設定プログラム以外のプログラムについては、本件新冷蔵庫等システムの開発に合わせて新たに開発したが、本件共通環境設定プログラムについては、控訴人が有していた既存のプログラムを改変して作成した。
 (甲4、5、乙18、乙19の2、弁論の全趣旨)
(3)本件個別契約に関する事実経過等について
ア 本件個別契約に先立って、控訴人が被控訴人マルイチ産商に交付した見積書(本件見積書。甲5)では、本件ソースコードは納入の対象とされていなかった。また、本件個別契約上、本件共通環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイルは、平成20年10月10日に控訴人から被控訴人マルイチ産商に対して納入される予定とされていたが、DLLファイル及びEXEファイルが、実態としては、前記(2)のように冷蔵庫管理システム及び社内受発注システムに実装されて一体となってはじめて機能するものであり、かつ、本件新冷蔵庫等システムに合わせてDLLファイル及びEXEファイルを改変する(前記(1)のとおり、これは直接的にはソースコードを改変することを意味する。)必要があったため、実際には同日に本件新冷蔵庫等システムに合わせて改変されたDLLファイル及びEXEファイルが納入されることはなかった。本件新冷蔵庫等システムに合わせて改変された本件環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイルは、本件個別契約に基づいて新たに作成された冷蔵庫管理システム及び社内受発注システムが、平成21年2月10日までに控訴人から被控訴人マルイチ産商に納入される際に、それらのシステムと一体となって納入された。
 (甲4、5、乙2の1・2.乙3の1・2、乙18、弁論の全趣旨)
イ もっとも、本件個別契約において、被控訴人マルイチ産商が、控訴人に対して代金を分割して支払うことが合意されており、被控訴人マルイチ産商が、控訴人に対し、平成20年10月に代金を支払う関係で、形があるものと欲しいと要望したため、本件新冷蔵庫等システムに合わせた改変がされる前の共通環境設定プログラムのソースコードが、同月10日にCDに入れられて控訴人から被控訴人マルイチ産商に渡され、被控訴人マルイチ産商は、本件共通環境設定プログラム開発の代金として300万円を支払った(乙1の1〜3、弁論の全趣旨)。
2 争点(3)について
 事案に鑑み、まず、争点(3)、(4)について判断する。
(1)本件ソースコードの成果物該当性について
ア 本件基本契約2条(2)は、「成果物」について「コンピュータプログラム、コンピュータプログラムに関する設計書、仕様書、マニュアル等の資料およびその他甲が作成を委託するコンピュータシステムに関わる有体物又は無形物全般をいう。」と定義している。
 そして、前記第2の1の前提事実及び前記1の事実によると、被控訴人マルイチ産商は、控訴人に対し、コンピュータシステムたる本件新冷蔵庫等システムの開発を委託し、その一環として、本件共通環境設定プログラムの開発を300万円で委託し、控訴人はそれに応じて、控訴人が有していた既存のプログラムのソースコードを本件新冷蔵庫等システムに合わせて改変し、それによって作成された本件ソースコードをコンパイル等して本件共通環境設定プログラムのDLLファイル及びEXEファイルを生成し、その対価として300万円の報酬を得たものと認められる。
 そうすると、本件ソースコードは、上記のように被控訴人マルイチ産商の委託に基づいて作成されたものであるから、本件基本契約2条(2)の「成果物」に該当するというべきである。
イ この点について、控訴人は、@本件ソースコードが本件個別契約における納入の対象とされていないこと、A控訴人が既存のプログラムを流用することを前提として、契約代金額が減額され、かつ本件ソースコードが納入の対象外とされたという本件個別契約における経緯からすると、本件ソースコードは「成果物」に該当しないと主張する。
 また、被控訴人マルイチ産商も、B本件ソースコードは、本件新冷蔵等システムの開発に伴って新たに作成されたものであって、被控訴人マルイチ産商が本件基本契約21条3項(1)に基づいて本件ソースコードの著作権の2分の1を取得していると主張する。
(ア)上記@について、本件基本契約16条及び17条は、「成果物」の納入及び検収について定めているが、「成果物」の定義規定たる本件契約2条(2)は前記のように納入や検収について何ら規定していない。また、上記定義規定の内容からすると、「成果物」については多種多様なものが該当し得るのであって、一概に全てのものについて納入・検収が必須であるとはいい難い。さらにいえば、本件ソースコードのように汎用性があって控訴人の重要なプログラム資産となり得るようなものについては、それが「成果物」であっても社外への流失等を防ぐために納入がされないということもあり得るのであり、この点からしても「成果物」であるためには納入・検収が必須であったとまではいえないところである。
 そして、本件基本契約19条は検収の対象となるものに関する規定であり、検収の対象とならないものとは無関係な規定である。
 したがって、前記1(3)のとおり、本件個別契約において、本件ソースコードが納入の対象とされておらず、また、実際に納入及び検収がされていない(前記1(3)イのCDの交付は納入及び検収とはいい難い。)としても、本件ソースコードが「成果物」に当たらないということはできない。
(イ)上記Aについて、本件ソースコードが本件個別契約において納入の対象外とされていたとしても、そのことによって前記アの認定が左右されないのは前記(ア)のとおりである。
 また、本件ソースコードは控訴人が有していた既存のプログラムを改変して作成されたものと認められるが、被控訴人マルイチ産商の委託により作成されたものである以上、「成果物」に該当することに変わりはなく、控訴人が主張する流用及びそれに伴う代金額減額の経緯に関する事実経過は、本件ソースコードの「成果物」該当性の認定を左右するものとはいえない。
(ウ)他方、上記Bについて、本件ソースコードは、新たに開発されたものではなく、控訴人が有していた既存のプログラムを改変して作成されたものであるから、本件基本契約21条3項(1)ではなく、同項(2)が適用され、被控訴人マルイチ産商が、同項(1)に基づいて本件ソースコードの著作権の2分の1を取得することはない。
(2)本件基本契約終了前の本件ソースコードの複製・翻案について
 前記(1)のとおり、本件ソースコードは、本件基本契約にいう「成果物」に該当するものである。
 そして、本件基本契約21条3項(2)は、控訴人が従前からその著作権を有していた「成果物」についても、被控訴人マルイチ産商が、自ら使用するために必要な範囲で著作権法に基づく利用を無償でできると規定しているところ、旧サーバから新サーバへの移行に伴って、本件ソースコードを複製したり、新サーバ移行に必要な限度で翻案したりすることは、上記自ら使用するために必要な範囲に該当するものといえる。
 したがって、仮に控訴人が主張するとおり、旧サーバから新サーバへの移行に伴って本件ソースコードが複製又は翻案されたとしてもそれが複製権又は翻案権の侵害となることはないというべきである。
3 争点(4)について
(1)本件基本契約26条は、「(契約終了後の権利義務)」との見出しの下、「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合でも、本契約に定める・・・著作権・知的財産権および諸権利の帰属」についての定めが有効であると定めている。本件基本契約26条の「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」との文言は、本件基本契約21条の見出しと同一である。そして、本件基本契約21条3項は、成果物についての著作権の帰属を定めるとともに、著作権が共有となる場合(同項(1))と控訴人のみに帰属する場合(同項(2))とに分けて、著作権の利用範囲をそれぞれ定めているものであるところ、そのような規定において、本件基本契約終了後、著作権等の帰属の定めの部分のみが有効に存続すると解するのは不自然であり、むしろ、本件基本契約26条がいう契約終了後も有効とされる「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」の定めとは、本件基本契約21条の定め全体を指し、同条が規定する利用に関する定めも含んでいるものと解釈するのが相当である。
 また、本件基本契約26条の見出しが、「(契約終了後の権利義務)」とされており、同条が、「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合でも」となっていることからすると、文言上、本件基本契約26条の適用範囲が、合意解約又は解除の場合に限られるとはいえないこと、実質的に考えても、本件基本契約の終了原因が、合意解約又は解除である場合と、更新しない旨の意思表示により終了した場合とで差異を設ける必要性は乏しいことからすると、本件基本契約26条は、本件基本契約が合意解約又は解除により終了した場合でも、同条に定められた各内容が有効であることを明示的に規定するとともに、それ以外の原因によって本件基本契約が終了した場合にも、上記各内容が有効であることを規定したものであると解するのが相当である。
 したがって、本件基本契約26条からすると、本件基本契約の更新しない旨の意思表示による終了後も、本件基本契約21条3項(2)は有効であり、被控訴人マルイチ産商は、上記21条3項(2)に基づき、本件共通環境設定プログラムについて、自ら使用するために必要な範囲内で、著作権法に基づく利用を無償ですることができたものと解される。
 そして、保守管理のために、本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することは、自己使用のために必要な範囲でされるものといえるから、本件基本契約終了後に、控訴人が主張するように被控訴人らが保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することがあったとしても、それについて複製権又は翻案権の侵害となることはないというべきである。
(2)この点、控訴人は、@本件基本契約21条3項(2)は、使用権を許諾した規定であり、本件基本契約が終了した以上、被控訴人マルイチ産商は使用権を喪失する、A本件ソースコードが本件個別契約で納入対象外とされていたことからして、控訴人と被控訴人マルイチ産商との間では本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案ができないことが前提とされていた、B本件基本契約26条は、本件のように本件基本契約が更新されずに終了した場合には適用されないと主張する。
ア 上記@について、本件基本契約21条3項(2)が使用権を許諾した規定であるとしても、本件基本契約26条が適用されないというべき理由はない。また、前記1のとおり、本件共通環境設定プログラム以外の本件新冷蔵庫等システムを構成する冷蔵庫管理システム及び社内受発注システムに関するプログラムについては、本件新冷蔵庫等管理システムの開発に伴って新たに作成されたものであると認められ、そうすると、上記冷蔵庫管理システム及び社内受発注システムに関するプログラムは、本件基本契約21条3項(1)により、その著作権の2分の1が被控訴人マルイチ産商に譲渡され、本件基本契約の終了後も、被控訴人マルイチ産商が、自由に著作権法上の利用をできるものであったと認められる。そして、前記1のとおり、本件共通環境設定プログラムのDLLファイルやEXEファイルは、実際には冷蔵庫管理システム及び社内受発注システムのプログラムと一体となってはじめて機能するものであるから、仮に控訴人が主張するとおり、本件基本契約の終了に伴って被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムを利用できないとすると、被控訴人マルイチ産商が本来自由に利用できた部分も含めて本件新冷蔵庫等システム全体の利用が妨げられる結果となるが、そのような解釈は不合理なものといわざるを得ない。したがって、控訴人の上記@の主張は採用することできない。
イ 次に、上記Aについて、本件基本契約終了後も、被控訴人マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムを利用することができ、それに必要な範囲で複製又は翻案をすることができたことは、既に判示したとおりであって、このことは本件ソースコードが本件個別契約における納入の対象外であるかどうかで左右されるものではない。
ウ 上記Bについては既に判示したとおりである。
4 争点(8)について
 本件ソースコードについて、本件基本契約の終了の前後を問わず、被控訴人マルイチ産商が自己の利用する範囲内で複製又は翻案することができることは、前記2、3で検討したとおりであって、被控訴人マルイチ産商が著作権を侵害した行為によって作成された複製物を使用しているとは認められない。
 したがって、争点(8)についての控訴人の主張は採用することができない。
5 争点(9)、(10)について
 前記3で検討したとおり、本件基本契約の終了後も、被控訴人マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムを使用することができたものであって、控訴人の主張するような債務や条理の存在を認めることはできないし、その使用が不当利得となることもない。
 したがって、争点(9)、(10)についての控訴人の主張もこれを採用することができない。
第4 結論
 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は結論において相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきであり、また、控訴人が当審において新たに追加した請求についても理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 眞鍋美穂子
 裁判官 熊谷大輔
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