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【事件名】注文管理プログラム“でんちゅ〜”事件
【年月日】令和元年5月21日
 大阪地裁 平成28年(ワ)第11067号 著作権侵害差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成31年3月19日)

判決
原告 P1
同訴訟代理人弁護士 城間博
被告 株式会社ネクストシステム・コンサルティング
同訴訟代理人弁護士 島袋勝也
同 鈴間淳一
同 小林健一
同 補佐人弁理士
同 大久保秀人


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、「でんちゅ〜」という名称の「コンピュータ及びタブレット上で動作する注文管理及び商品管理のために利用されるソフトウェア」のプログラムを、複製、販売、頒布してはならない。
2 被告は、前項のプログラムを廃棄せよ。
第2 事案の概要
 本件は、被告が飲食店等に対して頒布している「でんちゅ〜」という名称の「コンピュータ及びタブレット上で動作する注文管理及び商品管理のために利用されるソフトウェア」(以下「でんちゅ〜」という。)に係るプログラム(以下「被告プログラム」という。)は、以前、原告が開発したプログラム(以下「原告プログラム」という。)を複製又は翻案した物であるから、「でんちゅ〜」を制作し、被告プログラムを複製、販売、頒布する被告の行為は、原告の、原告プログラムについての著作権(複製権、翻案権ないし譲渡権)を侵害する旨を主張し、著作権法112条1項に基づき、被告プログラムの複製、販売、頒布の各差止めを、同条2項に基づき、同プログラムの廃棄を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等(甲18、乙19)
 原告は、システムエンジニアとして自営する者である。被告代表者は、平成23年3月まで、公益財団法人沖縄県産業振興公社(以下「産業振興公社」という。)において、専門コーディネータとして勤務し、起業相談などに対応していた者であるが、同年5月10日に、情報システム開発に関するサービスの提供、総合経営コンサルタント等を目的とする株式会社である被告を設立し、被告は、飲食店等に「でんちゅ〜」を頒布している。
(2)原告プログラム及び被告プログラムの概要(甲1、18、20、被告代表者)
 「でんちゅ〜」は、複数のパソコン用アプリケーションプログラム及び複数のタブレット用アプリケーションプログラムからなる飲食店用システムに係るプログラムであり、飲食店において、顧客や従業員が、顧客の携帯電話や従業員が保有する端末を使用して、インターネットを介して商品を注文することができ、かつ、その情報がサーバーのデータベースに格納され、キッチン(厨房)において伝票を出力したり、顧客の退店時にレジにおいて清算処理を行うこと等を特徴とするものである。
 「でんちゅ〜」は、大きく分けて、店舗側のアプリケーションである@レジ(清算処理を行う。)、Aキッチンモニター(厨房において未印刷の注文データを印刷する。)、Bマスタメンテナンス(商品の名称や価格等の基本データを登録・変更する。)、及びCスタッフオーダー(スタッフが持つ端末から注文を入力する。)、並びにサーバ側のアプリケーションであるDサーバ側プログラム(店舗側から受け付けたデータをデータベースに登録したり、データベースからデータを取り出し店舗側に送信する。)、及びEデータベース(正規化されたデータを格納する。)により構成されており、上記@〜Eのプログラム相互の関係の概略は、別紙「システム概要図」のとおりである(従前は、顧客の携帯電話から注文を入力するFモバイルオーダーの機能が存したが、現在は使用されていない。)。
(3)原告プログラムの開発の経緯等(甲18、19、乙1、2)
 被告代表者は、平成22年5月、利用者が携帯電話を利用して飲食店で注文することのできるモバイルオーダ事業の提案をしていたところ、原告は、平成23年3月17日、外国為替取引を扱う会社を退職して、自らが開発したレジアプリケーションにより起業しようと考え、起業の相談のため、被告代表者が勤務していた産業振興公社を訪れた。
 原告は、被告代表者より、モバイルオーダ事業についての説明を受け、以後、被告代表者とメール等でやり取りしながら、モバイルオーダ事業に使うプログラムの開発を行った。被告代表者は、同年5月10日、被告を設立し、同年6月16日、発明の名称を「セルフオーダーによる注文処理方法」とする特許を出願し(特開2013−3812。以下「本件特許」という。)、被告は、同月以降、「でんちゅ〜」の、飲食店への試験導入を開始し、平成24年以降、「でんちゅう〜」を頒布して利用料金を取得するようになった。
 原告は、同年5月22日時点の「でんちゅ〜」のプログラムを、原告プログラムと特定している。
(4)原告と被告との関係(乙3)
 平成23年3月以降、原告が被告代表者とやり取りをしながら、プログラムを開発した際の法的関係については、後述のとおり争いがあるが、平成24年12月5日に原告が被告から給与として24万3600円の支給を受けた後は雇用関係となり、原告は、平成27年7月に被告を退職するまでの間、被告の被用者として、「でんちゅ〜」の開発に従事した。
(5)被告プログラムの頒布(甲2)
 被告は、原告が被告を退職した後も、飲食店向けオーダーシステム「でんちゅ〜」を、ウェブサイト上で広告し、飲食店向けに導入を勧誘し、飲食店からの申込みに応じて頒布し、売上に連動した利用料金を徴収している。
 原告は、現在被告が頒布する「でんちゅ〜」を、被告プログラムとして特定している。
第3 争点
1 原告プログラムの著作物性
2 原告プログラムが職務著作に当たるか。
3 被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案した物か。
4 差止め・廃棄請求の必要性
第4 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告プログラムの著作物性)について
【原告の主張】
(1)原告プログラム開発の経緯
 原告は、平成22年5月から平成23年2月にかけて、当時の勤務先(株式会社外為どっとコム。以下「外為どっとコム」という。)に在籍しながら、将来起業するために、以前、POS(販売時点情報管理)システム及びインターネットを介した外国為替取引システムを開発した経験を生かして、独自に原告プログラムの原型となるレジアプリケーションの開発を行い、平成22年中に、概ね適切に動作する程度に完成させた。
 原告は、平成23年3月までに、上記レジアプリケーションのシステムのうち、@レジ、Bマスタメンテナンス、Dサーバー側プログラム及びEデータベース部分のプログラム(○内の番号は、前記第2の1?における説明及び別紙システム概要図に沿う。以下同じ。)を完成させた。同システムは、当時から、店舗側のプログラムがサーバー側プログラムとデータを送受信する機能を備えたクラウド型のシステムとなっており、店舗側で売上データ等を保持せず、インターネットを介してデータをサーバー側に保持するという点に特徴があった。なお、被告は、原告のメール中にある、「Webじゃないので、持ち運ぶ為にどっかに移植させないといけない」との記述から、当時のプログラムがクラウドでは使用できないものであったと主張するが、「Webじゃない」というのは、プログラムを端末にセットアップしなければ使用できないという意味であって、Dサーバー側プログラムとデータを送受信する機能を持たないという意味ではない。
 原告は、同月ころ、かつて同じ職場で勤務したことのある被告代表者にメールで連絡を取り、起業について相談するために産業振興公社を訪れた。被告代表者は、原告に対し、上記レジアプリケーションのプログラムに、モバイルオーダーの機能、すなわち、顧客の携帯電話端末を注文用端末として利用するという機能を追加することを提案し、これを受けて原告は、同プログラムの改良作業に加えて、モバイルオーダーの機能を追加する作業を開始した。このとき、原告は、被告代表者からプログラムの開発を行うための仕様書等を一切受け取っていない。
 原告は、同年6月ころ、スタッフオーダー、モバイルオーダー機能及び注文後の清算機能を追加したレジアプリケーションを一通り完成させた。被告は、これを「でんちゅ〜」として、試験的に1店舗に導入し、同年11月ころ、モバイルオーダー機能の付いていない仕様のレジアプリケーションを、別の店舗に導入した。なお、モバイルオーダー機能は、あくまで顧客の携帯電話端末を追加のスタッフオーダー端末として利用するものであるため、このような導入の方法も可能であった。
 平成24年ころには、モバイルオーダー機能を使用しない上記レジアプリケーションは、複数店舗において採用される程度に完成度を高め、同年5月22日には、原告プログラムが完成していた。
 被告代表者は、プログラムに関する技術的スキルがなく、顧客との仕様調整等も原告が行っていた。
(2)原告プログラムの創作性
 あるプログラムがプログラム著作物の著作権を侵害するものと判断し得るためには、プログラム著作物の指令の組合わせに創作性を認め得る部分があり、かつ、後に作成されたプログラムの指令の組合わせがプログラム著作物の創作性を認め得る部分に類似している事が必要であるとされる(東京高裁平成元年(ラ)第327号同年6月20日判決・判例時報1322号138頁参照)。
 原告プログラムは、スタッフオーダー端末等により入力された情報をサーバー側プログラムを経由して飲食店用に最適化されたデータベースにおいて情報を一括管理し、その情報をレジやキッチンモニターに出力する機能を持たせるという部分が一体となって創作性が認められるべきプログラムであって、原告が、遅くとも平成24年5月22日までに完成させたものである。
 被告は、個々のプログラムの命令文がウェブ上に公開されていたり、変数や条件等の文字列の場所が決まっていたりするため、独創的な表現形式を採る余地がないと主張するようであるが、そもそも、システムエンジニアは、プログラム言語内の多数の命令を体系的に組合せて一つのシステムを作り上げるのであるから、プログラムに一般的な命令文が含まれていることは著作物性を否定する根拠とはならない。
【被告の主張】
(1)原告プログラム開発の経緯
ア 「でんちゅ〜」の着想・開発・完成の経緯
 被告代表者は、遅くとも平成22年5月までに、顧客の携帯電話端末を注文用端末として利用するモバイルセルフオーダー方式による注文システムの事業(乙1)を企画し、システムの設計等の検討を重ね、継続的に訴外株式会社あきない総合研究所(以下「訴外あきない総合研究所」という。)の代表取締役である訴外P2に相談するなどしていた。
 被告代表者は、当時、産業振興社において専門コーディネーターとして勤務していたが、平成23年3月17日、原告から、起業や転職についての相談を受けた際、原告に対し、上記システムを実行するためのプログラムとして「でんちゅ〜」の企画とそのシステムの概要を話し、手伝ってくれないかと持ちかけた。原告は、これに応じ、同月18日に仕様確認を行い、同月23日に被告代表者が考案した仕様を基にクラウドで利用することを前提としたサンプルプログラムを作成し、同月25日にキッチンに伝票を出す仕組みを作成し、同年4月12日に被告代表者の仕様指示に従ってレシートの画像を作成し、同月13日に被告代表者の送付したオーダーシートの画像を基にキッチンに出力する伝票を作成するなど、被告代表者から細かい指示を受けながら、その指揮管理の下で原告プログラムのコーディングを行った。
 なお、「でんちゅ〜」という名称は、「電話で注文」を省略したもので、被告代表者が考案したものである。
 被告代表者は、同年3月、産業振興公社を退職し、同年5月10日に被告を設立した上で、同年6月16日までに、モバイルセルフオーダー方式の飲食店向けアプリケーションとして「でんちゅ〜」を完成させ、同日、本件特許を出願した。また、被告は、訴外あきない総合研究所より、起業家支援を目的としてベンチャー企業に出資する「スタートアップ支援ファンドkatana-1号」に認定され、事業資金の出資を受け、同年7月7日、「でんちゅ〜」についてプレスリリースを出した。
イ 原告の主張について
 原告は、被告代表者から、原告の作成していたレジアプリケーションプログラムに、モバイルオーダーの機能を追加することを提案されたと主張するが、否認する。原告は、被告代表者との面談前にはレジアプリケーションのプログラムを完成させておらず、原告が作成していたものは、クラウドでは使用できない(店舗側ではなくサーバー側にデータを持たせるシステムではない)、従来のスタンドアロン型の自作のPOSシステムのみであった。このことは、原告が、平成23年3月24日、被告代表者に対して送ったメール(乙16の2)の中に、「今度自分のPOSの方も見てもらいたいです。Webじゃないので、持ち運ぶ為にどっかに移植させないといけないのですが、何とか頑張ってみます。(※現在の品質は自己満レベルです)」と記載したことからもうかがえる。この後、原告は、被告の指示に従って、クラウド式のPOSを作成し始め、キッチンの伝票を出す仕組みを作成し、その後、順次、被告の指示により原告プログラムを完成させていった。
 なお、モバイルセルフオーダー方式は、顧客の携帯電話端末を注文用端末として利用するものであって、従業員が操作するアンドロイドタブレット端末を注文用端末として利用するスタッフオーダー方式のソースコードとは、使用言語や詳細な機能が異なるのであって、顧客の選択によって適宜追加されるオプションのような機能ではない。
(2)原告プログラムに創作性がないこと
ア プログラム著作物の著作物性について
 原告プログラムについて、著作物性が認められるためには、「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要する」(知財高裁平成21年(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁)のであり、これらの点については、原告に主張立証責任がある。
 しかし、原告は、単に多数の命令を体系的に組合せた程度の主張しか行っておらず、原告プログラムの著作物性を基礎づける具体的な事実について主張立証しない。
イ 汎用性のあるソースコードが使用されていること等について
 @レジ、Aキッチンモニター及びBマスタメンテナンスは、どの飲食店向けオーダーシステムにおいても構成要素となるものであるところ、原告プログラム及び被告プログラムでは、これらのプログラムが、書籍やインターネット上において公開されているPOS端末の表示画面を参考に、汎用されているソースコードをそのままもしくは多少変更するだけで作成されている。したがって、原告プログラム及び被告プログラムのうち、少なくとも@レジ、Aキッチンモニター及びBマスタメンテナンスには創作性がない。
 また、原告プログラムの他の部分についても、単に多数の命令を体系的に組合せたにすぎず、何ら創作性を認め得るような内容ではない。
ウ まとめ
 したがって、原告プログラムに著作物性は認められない。
2 争点(2)(原告プログラムが職務著作に当たるか。)について
【被告の主張】
(1)原告の勤務形態
 原告は、平成23年3月17日、被告代表者に対し起業についての相談をしたことをきっかけとして、同年4月ころから原告プログラムの作成に携わるようになり、被告代表者から細かい指示を受けながら、その指揮管理の下でコーディングを行っていた。
 被告及び原告は、原告が勤務を始めるに当たり、原告の勤務時間として午前10時から午後7時までと口頭で約束した。
 原告は、原告プログラムの開発作業を、専ら那覇市内に所在する被告の事務所において、被告代表者所有のパソコン及びレジスター機等の機器を使用して行っていたが、使い慣れた自己所有のパソコンを持ち込んで作業をすることもあり、原告プログラムのデータを自己所有のパソコンにも保存していた。なお、原告が、平成24年5月22日当時の原告プログラムのソースコードを保有しているのは、このような事情によるものであり、原告が原告プログラムを作成したからではない。
(2)原告に対する給与の支払等
 被告代表者は、平成23年4月から、原告を被告の社員として雇用するつもりであったが、被告設立当初の資金繰りが苦しかったこと、原告が、休職中の職場(外為どっとコム)から傷病手当金を受給しており給与の支払は不要であると申し出たことから、平成24年5月までの期間は給与を支払わなかった。その後、原告が、被告代表者に対し、同社を退職したこと、当面は失業保険を受給する予定であるが、受給額が低額であるため給与を支払ってほしい旨を述べたため、被告は、原告に対し、給与として、同月以降は毎月5万円を、同年11月以降は毎月約25万円を支払った。
 また、原告は、遅くとも平成23年7月ころから、被告の名称が印刷された名刺(乙10)を使用していた。
(3)「でんちゅ〜」に関する権利を被告に帰属させる旨の明示又は黙示の合意
 原告は、平成23年7月7日、被告が「でんちゅ〜」を被告の商品としてプレスリリースを行い、その後も被告の商品として販売頒布をするに当たり、何らの異議を述べず、権利も主張しなかった。
 被告及び被告代表者は、原告から、「でんちゅ〜」のプログラムの使用について許可を受けたり、使用の対価について提案を受けたりしたことは一度もない(そもそも、原告プログラムの権利者は被告であり、原告から使用許可を受ける必要はない)。
 すなわち、「でんちゅ〜」に関する権利はすべて被告に帰属することが当然の前提とされていた。
(4)まとめ
 以上より、原告は、平成23年3月から被告を退職するまでの間、被告又は被告代表者との間において、雇用関係又はこれに類似する関係にあったといえるのであり、被告及び被告代表者の指揮監督のもとに、「法人等の業務に従事する者」として、職務上、原告プログラムの作成に携わっていたのであるから、原告プログラムの著作者は、被告である(著作権法15条2項)。
【原告の主張】
(1)被告からの指揮管理及び給与の支払を受けていなかったこと
 原告は、原告プログラム開発を自宅において行っており、機能ごとのプログラムがいったん出来上がると、被告代表者に連絡し、ユーザー目線での動作確認を頼んでいた。プログラム開発につき、被告代表者から指揮管理を受けたことはない。
 被告は、平成24年5月以降、原告に対し給与として5万円を支払ったと主張するが、否認する。原告は、被告代表者に対し、かねてより、同年12月以降は金銭的に困窮することを伝えていたところ、同月からは給与を受け取ることになったが、それ以前は給与を受け取っていなかった。
 なお、被告の名刺は、被告から依頼があったため使用していたにすぎない。
(2)被告が原告プログラムを使用することの許諾について
 原告は、平成23年5月に被告代表者が被告を設立した際、原告と被告代表者との関係が良好な間は、被告及び被告代表者が、原告の作成するレジアプリケーションのプログラム(後の原告プログラム)を使用することについて許可したが、永続的に利用する許可を与えたことはない。このとき、原告は、被告から原告プログラム開発の対価を全く受け取っておらず、このような状況で原告が永続的な許可を与えることはあり得ない。
 また、原告は、前記?のとおり、平成24年12月から被告から給与を受け取ることになり、原告が被告に雇用されている間は、被告が原告プログラムを利用することについて同意した。原告は、平成27年7月に被告を退社したので、この時点で、被告が原告プログラムを利用する権限は失われた。原告は、同年9月、被告に対し、原告プログラムの使用中止を求める文書を送付した。
3 争点(3)(被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案した物か。)について
【原告の主張】
 被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案した物である。
(1)プログラム言語について
 原告プログラムのうち、@レジ、Aキッチンモニター、Bマスタメンテナンスは、「Microsoft Visual C#」というプログラム言語を使用して作成され、Cスタッフオーダー、Dサーバー側プログラム、Fモバイルオーダーは、「Java」というプログラム言語を使用して作成された。
 被告プログラムのうち、Cスタッフオーダーのプログラム(乙17)は、原告が、原告プログラムにおいてCスタッフオーダーのプログラム(甲7。書証は枝番号を含む。以下同じ。)を一部改良して作成したFモバイルオーダーのプログラム(甲8)と同一の機能を有するものであって、その処理内容も同一である。
 また、被告は、被告プログラムがJavaではなく「HTML」というプログラム言語により作成されたものであると主張するが、同プログラムのソースコードの記述には、「<%」と「%>」で文字列をくくるというJavaの記載方法が見られるから、同プログラムは、結局、Javaで作動するプログラムであって、HTML形式のデータを出力する機能を有するに過ぎない。そして、このような機能を有するプログラムは、原告が先にFモバイルオーダーに係るプログラムとして完成させていたものである。
 なお、HTMLはデータベースから任意のデータを抽出し、データを加工する機能は有していないため、HTMLのみできちんと動作するアプリケーションプログラムを作成することはそもそも不可能である。
 また、被告プログラムのDサーバー側プログラムは、Javaのプログラムが動作しており、Eデータベースへの登録内容(データベースへの送信情報の内容)も同じである。
 したがって、被告プログラムは、原告プログラムの一部改良の意味しか持たない。
(2)被告の主張について
 被告は、被告プラグラムには、原告プログラムにはないテーブルセルフオーダー端末のプログラムがあると主張するが、被告プログラム及び原告プログラムの核心は、スタッフオーダー等により入力された情報をサーバー側プログラムを経由して飲食店用に最適化されたデータベースにおいて情報を一括管理し、その情報をレジやキッチンモニターに出力する機能を持たせる部分であるところ、テーブルセルフオーダー端末は、スタッフオーダー端末と同じ機能を有するにすぎないから、両プログラムの同一性を否定する根拠とならない。
【被告の主張】
(1)被告プログラムは、「でんちゅ〜」を導入した飲食店の各店舗に合わせて利便性を高めるために修正を重ねて現在に至ったものであるから、原告プログラムの単なる複製又は翻案ではない。
(2)原告プログラムと被告プログラムは、以下のとおり、システム構成及びソースコードに違いがある。
ア システム構成
 原告プログラムに係るシステムにおいて、Aキッチンモニターは、@レジ及びBマスタメンテナンスの機能を持つ1台の端末から独立した機器とされており、それぞれに、レジプリンタと厨房プリンタが接続されている。また、Cスタッフオーダー端末は備えているが、テーブルセルフオーダー端末は備えていない。
 一方、被告プログラムに係るシステムにおいては、Aキッチンモニターは、@レジ及びBマスタメンテナンスの機能を持つ1台の端末内に構成され、この端末にレジプリンタ及び厨房プリンタが接続されている。また、Cスタッフオーダー端末に加え、テーブルセルフオーダー端末を備えている。
イ Cスタッフオーダーのプログラムの使用言語
 被告プログラムと原告プログラムとは、部分的に共通する記述がみられるとしても、目的や構成のほか、記述されている言語が異なる。
 原告プログラムにおいて、Cスタッフオーダー及びFモバイルオーダーのプログラムにおける使用言語はJavaであるのに対し、被告プログラムのCスタッフオーダーのプログラムは、Android端末以外にも、iOSやWindowsパソコン等、複数のOSにおいて利用できるようにするため、HTMLで作成されている。なお、「<%」と「%>」で文字列をくくる記述が使用されているのは、この間にJavaのスクリプトを埋め込むためであり、その前後はHTMLで記述されている。
 したがって、被告プログラムのCスタッフオーダーのプログラムは、原告プログラムのソースコードを複製したものでも翻案等したものでもない。
4 争点(4)(差止め・廃棄請求の必要性)について
【原告の主張】
 被告は、原告の許諾を得ず、被告プログラムを複製、販売、頒布している。これは、原告の著作権(複製権、翻案権ないし譲渡権)を侵害するものである。
 したがって、原告は、被告に対し、著作権法112条1項及び2項に基づき、被告プログラムの複製、販売、頒布を差し止め、同プログラムを廃棄するよう求めることができる。
【被告の主張】
 争う。被告は、「でんちゅ〜」を導入した飲食店に対し、同システムを実行するプログラム(被告プログラム)を無償で提供しているのであって、被告プログラム自体をパッケージソフトとして提供することはしていない。
第5 当裁判所の判断
1 認定事実(前提事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
(1)「でんちゅ〜」開発・実用化の経緯等
ア 原告は、平成5年に入社した株式会社沖縄富士通システムエンジニアリング(以下「沖縄富士通」という。)において、POSシステムの設計、検証、納品、稼働、保守等の業務及びプログラミング開発を行った後、平成18年に、外国為替取引を扱う「外為どっとコム」へ転職したが、数年後に同社の業績が低下したことから、自分で作って売ることのできるシステムを開発しようと考え、平成22年4月ころから、インターネットを介してデータ連携ができるPOSシステムの開発を始め、平成23年初めころ、同システムに係るプログラムであるレジアプリケーションが概ね完成したため、「外為どっとコム」からの退職を決意した(甲18、原告本人)。
イ 被告代表者は、沖縄富士通でスーパーマーケットのPOSシステムの開発をした後、大学院で経営学を学び、産業振興公社に入り、専門コーディネータとして地元企業に経営のアドバイス等を行っていたところ、遅くとも平成22年5月までに、顧客の携帯電話端末を注文用端末として利用するモバイルセルフオーダー方式による注文システムの事業を企画し、便益と収益のスキーム、携帯電話端末の表示画面のイメージ例や、導入・運用費用の試算を含む、「モバイルオーダ(仮称)事業のご提案」というプレゼンテーション資料(乙1)を作成し、同月以降、ベンチャー企業や起業家の支援を行う訴外あきない総合研究所の代表者である訴外P2に対し、同システムを利用した事業の将来性について相談するなどした(乙18、被告代表者)。
ウ 原告は、平成23年3月、以前、同じ沖縄富士通で働いたことのある被告代表者に対し、起業について相談するために連絡を取り、同月17日、被告代表者が勤務する産業振興公社へ赴いた。
 原告と被告代表者は、同日、原告が構想していた、売上等のデータを店舗側のプログラムではなくインターネットを介してつながるサーバー側プログラムのデータベースに格納するという特徴を備えたPOSのレジアプリケーションシステムと、被告が構想していた、顧客の携帯電話端末を注文用端末として利用する(モバイルオーダー機能)という特徴を備えたシステムについて話し合った。当時、飲食店が使用するPOSシステムの中には、データをクライアント側ではなくサーバー側に保存するものはほとんどなく、顧客の携帯電話端末を注文用端末として使用するものもないという状況であり、原告は、原告において開発中のレジアプリケーションシステムにモバイルオーダー機能を追加する等の改良を行うことを提案し、被告代表者はこれを了承した。この際、原告と被告代表者は、完成したシステムの著作権の帰属先や、開発作業を行う際の契約関係等については詳細に定めなかった(甲18、乙18、原告本人、被告代表者)。
エ 原告と被告代表者は、前記面談後の同月18日午前1時ころ、モバイルオーダーで注文を受けた後の厨房への指示のために必要となる機器についてチャットで協議し、同月23日、原告は被告代表者の案に基づき注文画面の案を作成した。これに対し、被告代表者は、同月24日、「見せてもらいました、基本的にはこれでOKですね。(略)お互いの今の仕事より良い条件で共同で起業する形にもっていければと思っています。」等と返信し、さらに、原告は、同日、自作のPOSシステムを被告代表者に見てもらいたい旨(「今度、自作POSの方も見てもらいたいです。Webじゃないので、持ち運ぶ為にどっかに移植させないといけないのですが、何とか頑張ってみます。」)を述べた。また、原告は、同月25日、厨房用のアプリを、同年4月12日、レシート及びバーコードをそれぞれ作成し、被告代表者に確認を促した(甲13〜19、乙15、16)。
 被告代表者は、原告に対し、同年5月2日、「本日の打ち合わせメモ」という件名のメール(乙9の1)を送り、「だんだんと、いいものに仕上がってきました。引き続きよろしくです。」とした上で、細かい仕様についての変更点や、PR用のサイトや提案資料の作成等を準備事項として挙げ、同月11日、「【でんちゅ〜】5/11メモ」という件名のメール(乙9の2)を送り、細かい修正事項を挙げるなどした。
オ この間、被告代表者は、同年3月末に産業振興公社を退職し、同年5月10日に被告を設立した。
 被告は、同年6月、試験的に「でんちゅ〜」を1店舗に導入し、被告代表者は、同月16日、発明の名称を「セルフオーダーによる注文処理方法」とし、請求項1を「セルフオーダーシステムにおいて、顧客の入店時に、注文シート発行装置へ顧客グループの精算単位となる識別番号を入力することにより、精算単位毎に重複がない乱数を発生させ精算番号とし、前記精算番号をセルフオーダー総合管理サーバーへ格納する手段を備え、前記セルフオーダー総合管理サーバーは、前記精算番号を、注文情報入力装置で読み取り可能な手段に変換し、変換されたデータを注文シート発行装置へ送信し注文シートとして印刷する手段を備え、前記注文情報入力装置は、注文シートを読み取ることにより、自動的にセルフオーダー総合管理サーバーへ送信が行われ、前記注文番号との一致確認を行い精算番号を含む情報を注文用URLとして生成し、注文用URL通知データとして、顧客の注文情報入力装置へ送信する手段を備えたことを特徴とするセルフオーダーによる注文処理方法。」とする本件特許を出願した(甲18、乙2)。
カ 被告は、同年7月7日、「でんちゅ〜」についてプレスリリースを行い、ビジネスモデル、運用イメージ等の説明に加え、オーダーシート発行場面、オーダーシート見本、携帯による注文イメージ、レシート見本等の写真を掲載した資料(乙7)を交付したところ、同月12日、株式会社沖縄タイムス社は、被告が「セルフオーダーシステムでんちゅ〜」を開発したこと等を紹介する記事を、新聞に掲載した(乙8)。
キ 被告は、同年8月31日、訴外あきない総合研究所がベンチャー企業に対して小口分散投資を行う「katanaファンド」から出資を受けた(乙4)。
 被告は、同年11月に、モバイルオーダー機能の付いていない「でんちゅ〜」を 1店舗に導入し、平成24年中には、同様のシステムをさらに5店舗に導入した。
ク 上記認定の補足説明
(ア)被告は、平成23年3月17日の原告との面談時点において、原告は作成中のレジアプリケーションを持っていなかったと主張し、被告代表者はこれに沿う供述をするが、面談前に原告が被告代表者に対して送ったメール(甲13、15)には、「自分で起業することも選択肢に入れてみたい」、「前向きな話が出来ると思います。」等の記載があり、原告は、ある程度具体的に起業の見込みを持っていたことがうかがわれる。また、前記エのとおり、原告は、上記面談当日の深夜に、被告代表者との間においてモバイルオーダーを使うシステムについて具体的なやり取りをしたり、その後約1週間の間に、注文画面や厨房用のアプリ、レシート、バーコード等の案を作成したりした一方で、当時、被告代表者は、システムについての企画案はあったものの具体的なプログラミングには至っていなかった(被告代表者)。なお、原告が、同月24日、被告代表者に対して送信した、「今度、自作POSの方も見てもらいたいです。Webじゃないので、持ち運ぶ為にどっかに移植させないといけないのですが、何とか頑張ってみます。」とのメールは、原告の作成したシステムがクラウド型でないことを示すものと認めることはできない。
 よって、原告は、上記面談時に、レジアプリケーションとしてある程度完成したプログラムを準備していたと認めるのが相当であり、上記被告の主張を採用することはできない。
(イ)被告は、被告代表者が原告に対し、メール等により作成すべきプログラムについて細かく指示を出し、原告はその通りにプログラミングした、と主張し、被告代表者もこれに沿う供述をする。しかし、被告代表者は、本人尋問において、「でんちゅ〜」の構想を開始した当初から、モバイルオーダー部分のプログラミングは自分以外の者を雇うか任せようと思っていたと述べる上、原告と被告代表者の前記エのメールのやり取りからは、被告代表者が原告に対し、具体的にプログラムの内容について指示したものとは認められず、これを裏付ける他の客観的な証拠もない。
 したがって、「でんちゅ〜」のプログラミングは主に原告が行い、その中で、被告代表者と協議しつつ仕様を決定していったものであり、原告プログラムは、店舗導入可能な程度に完成した、「でんちゅ〜」のバージョンの1つであると認めるのが相当である。
(2)原告と被告との雇用関係
ア 原告は、上記?のとおり、平成23年3月17日の被告代表者との面談の直後から、モバイルオーダー機能付きのレジアプリケーションの開発に取り組んだが、原告と被告代表者は、雇用契約や請負契約等を結ぶことをせず、被告代表者は原告に対して給与を支払わなかった。
 原告は、同年4月に「外為どっとコム」を退職し、同年5月10日に被告が設立されたが、その後も、被告と原告が雇用契約を締結したり、被告が原告に対して給与を支払ったりすることはなく、原告の勤務時間も定まっておらず、原告は、主に自宅のパソコンでプログラム開発を行っていた。
イ 平成24年12月から、被告は原告に対し、毎月約24万3000円の給与を支払うようになり、原告は、このころから勤務時間中は被告の事務所に出勤するようにした。
ウ 原告は、平成27年7月、被告の他の従業員との感情的あつれき等を理由に、被告を退職し、同年8月10日付けで、被告に対し、平成24年12月1日から平成27年7月31日までの未払いの残業代につき支払を請求し、被告はこれを支払
った。原告は、被告を退職する直前の時期に、「でんちゅ〜」は自分が作成したものである旨を主張するなどしたが、原告が被告を退職するにあたり、被告又は被告代表者との間で、「でんちゅ〜」の権利の所在について、確認したり、協議したりするということはなかった。(甲19、乙3、13、14、原告本人、被告代表者)。
エ なお、被告は、平成24年5月から、被告代表者が原告に対し月5万円を支給していたと主張し、被告代表者はこれに沿う供述をするが、これを裏付ける客観的証拠はなく、上記被告の主張を採用することはできない。
(3)原告プログラムの概要
ア 原告プログラムは、@レジ、Aキッチンモニター、Bマスタメンテナンス、Cスタッフオーダー、Dサーバー側プログラム、Fモバイルオーダーの各プログラムによって構成され、情報はすべてEデータベースに格納される。原告プログラムのソースコード全体の記述は、甲3のとおりである。原告は、上記構成のうち、Eデータベースを除いた各アプリケーションのソースコードの一部をそれぞれ印刷して証拠(甲4〜8)として提出し、その内容について説明するところ、これらの証拠並びに原告の陳述書(甲18)及び本人尋問の結果によれば、各アプリケーションの主な動作は以下のとおりである。
イ @レジ及びCスタッフオーダー
 @レジは、店舗側のアプリケーションであり、WindowsXP及び同7のOS上で起動し、起動時に、Eデータベースより使用する店舗番号に応じて必要なデータを取得し、店舗にあるパソコン内部にテキストデータとして保存し、店舗からの受信依頼に応じて、Dサーバー側プログラムがEデータベースから「商品ボタン情報」データを受信して送る。店舗の従業員が、パソコン画面上の商品ボタンを押すと、売上明細エリアに対象商品の名称や価格が表示され、会計の際、顧客の支払金額を入力して登録及び会計ボタンを押すと、Dサーバー側プログラムに会計データが送信され、Eデータベースに登録される。
 従業員によるCスタッフオーダー(Android端末)を利用した注文においては、従業員が、保有するタブレット端末上のCスタッフオーダーアプリケーションにおいて、特定のテーブル番号の顧客の注文を入力し、注文送信ボタンを押すと、Dサーバー側プログラムに注文データが送信され、Eデータベースに登録される。@レジの方では、従業員がパソコンの画面上で「テーブル番号」を入力し、登録ボタンを押すと、入力されたテーブル番号がDサーバー側プログラムに送信され、Dサーバー側プログラムは、Eデータベースより該当のテーブル番号の注文情報を取得し、@レジに返信すると、上記注文が店舗のパソコン画面上において当該テーブル番号の売上明細に反映される。
ウ Aキッチンモニター
 Aキッチンモニターは、店舗側のアプリケーションであり、Windows XP及び同7のOS上で起動し、Eデータベースに格納された顧客からの注文情報のうち未印刷のもの(後記オーダーシートナンバーが付与されていないもの)を、Dサーバー側プログラムを介して取得し、その情報を画面上に表示し、レシートプリンタで印刷する。印刷終了後は、当該注文情報に対してオーダーシートナンバーが付与され、画面上にも当該オーダーシートナンバーが表示される。
エ Bマスタメンテナンス
 Bマスタメンテナンスは、店舗側のアプリケーションであり、Windows XP及び同7のOS上で起動し、商品の新規登録や、更新を行うプログラムである。Bマスタメンテナンスの画面上の「商品マスタ」のメニュー画面から、「新規登録」ボタンを押すと出現する商品マスタ新規登録画面において、商品の情報(商品名、部門、印字名称等)を入力し、登録ボタンを押すと、Dサーバー側プログラムを介し、Eデータベースに入力された商品データが登録される。また、上記メニュー画面から、「参照・変更」ボタンを押し、商品マスタ参照画面において検索条件を指定して検索すると、Dサーバー側プログラムが該当する商品情報をEデータベースから抽出して商品マスタ参照画面に返却するので、更新対象のデータを選択して「詳細表示」ボタンを押し、表示される商品マスタ更新画面において商品の情報を更新し、更新ボタンを押すと、Dサーバー側プログラムを介し、Eデータベースに、更新された商品データが登録される。なお、このとき、Dサーバー側プログラムは、新規登録と更新を1本のプログラムで行う。
オ Fモバイルオーダー
 Fモバイルオーダーは、顧客の携帯電話端末上のアプリケーションであり、顧客が、携帯電話の画面に表示された注文画面上において、メニューの中から対象商品の数量を入力して「注文送信へ」ボタンを押すと、注文データ(顧客の座席番号、商品番号等)が、Dサーバー側プログラムに送信され、仮登録される。さらに、顧客が、携帯電話の画面に表示された注文送信画面上において、「送信」ボタンを押すと、Dサーバー側プログラムに注文確定の指示が送信され、Dサーバー側プログラムは、Eデータベースに、上記仮登録された注文データの確定処理を行う。
(4)被告プログラムの概要
ア 被告プログラムの構成等
 被告プログラムは、原告プログラムに変更を加えたものであり、@レジ、Aキッチンモニター、Bマスタメンテナンス、Cスタッフオーダー、Dサーバー側プログラム、Eデータベース、という構成は原告と同じであるが、Fモバイルオーダーの機能は使用されていない。@レジ及びBマスタメンテナンスについては、一般的なPOSシステムに使用されているソースコードとほぼ同一のソースコードを使用している(乙20、被告代表者)。
 被告は、被告プログラムの中から、Dサーバー側プログラムのうちCスタッフオーダーによる注文処理機能に関する一部のソースコードを原告に対して開示し(甲11、12)、証拠として提出するが(乙17)、その他の部分については任意に開示しないところ、原告は、被告プログラムについて文書提出命令等の申し立てを行わない。
 上記開示部分は、スタッフの保有する端末からの注文をインターネットを介してDサーバー側プログラムに送信し、その注文をDサーバー側プログラムがEデータベースに登録する、という処理についてのソースコードの一部分である(甲20)。
 上記開示部分によれば、被告プログラムは、一部はHTML言語で記述されているものの、<script language=“JavaScript”>(乙17の3)との記述や、「<%」及び「%>」で括られた部分の記述の存在から、Java言語で記述されている部分もあることが認められる。
イ 被告プログラムにおける変更点
 平成24年11月ころにおける「でんちゅ〜」と、平成27年5月から7月ころ及び平成28年6月時点における「でんちゅ〜」を比較すると、@レジ画面、Aキッチンモニター画面、Cスタッフオーダー画面の表示は、小さな相違点はあるものの、画面の項目の名称、配列等について相当の類似性が認められる。一方、Dサーバー側プログラムは、追加・変更のあったファイルが大半であり、Eデータベースにも相当数の項目が追加されたことが認められる(甲1)。また、被告が証拠として提出する上記アの開示部分は、Cスタッフオーダーに関するものであるが、その画面表示(乙21)は、平成24年11月時点のものとも、平成28年6月時点のものとも、異なっている。
2 争点(1)(原告プログラムの著作物性)について
(1)プログラムの著作物性について
 プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合せたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピューターに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組合せ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
 したがって、プログラムに著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない(前掲知財高裁平成24年1月25日判決)。
(2)原告プログラムのソースコードの創作性について
ア 原告プログラムのソースコードのうち創作性が認められ得る部分前記1のとおり、原告プログラムは、原告が作成していたレジアプリケーションソフトを基に、原告と被告が協議しつつ、原告がソースコードを書くことにより完成したものであって、顧客の携帯電話端末を注文端末として使用することができる点や、店舗において入力した情報を店舗(クライアント)側ではなくサーバー側プログラムを介してデータベースに保持し、主要な演算処理を行う点等について、従来の飲食店において使用されていた注文システムとは異なる新規なものであったと一応推測することができる。また、原告の書いた原告プログラムのソースコード(甲3)は、印刷すると1万頁を超える分量であって、相応に複雑なものであると推測できる(原告本人)。
 そして、Eデータベースにおける正規化されたデータの格納方法や、注文テーブル及び注文明細テーブルに全てのアプリケーションからの注文情報を集約するための記述(甲18)等に、原告の創作性が認められる可能性もある。
イ コンピュータに対する指令の創作性について
 前記?のとおり、プログラムの著作物性が認められるためには、プログラムにより特定の機能を実現するための指令の表現、表現の組合せ、表現順序等に選択の幅があり、ありふれた表現ではないことを主張立証することが必要であって、これらの主張立証がなされなければ、プログラムにより実現される機能自体は新規なものであったり、複雑なものであったとしても、直ちに、当該プログラムをもって作成者の個性の発現と認めることはできないといわざるを得ない。
 コンピュータに対する指令(命令文)の記述の仕方の中には、コンピュータに特定の単純な処理をさせるための定型の指令、その定型の指令の組合せ及びその中での細かい変形、コンピュータに複雑な処理をさせるための上記定型の指令の比較的複雑な組合せ等があるところ、単純な定型の指令や、特定の処理をさせるために定型の指令を組合せた記述方法等は、一般書籍やインターネット上の記載に見出すことができ、また、ある程度のプログラミングの知識と経験を有する者であれば、特定の処理をさせるための表現形式として相当程度似通った記述をすることが多くなるものと考えられる(乙12、被告代表者)。
 そうすると、ソースコードに創作性が認められるというためには、上記のような、定型の指令やありふれた指令の組合せを超えた、独創性のあるプログラム全体の構造や処理手順、構成を備える部分があることが必要であり、原告は、原告プログラムの具体的記述の中のどの部分に、これが認められるかを主張立証する必要がある。
ウ 本件における主張立証
 被告は、原告プログラムについて、@レジ、Aキッチンモニター及びBマスタメンテナンスの各プログラムのソースコードは、汎用性のあるソースコードであり創作性が認められないと主張し、被告代表者の陳述書(乙12)において、上記@〜Bの各プログラムのソースコード(甲4〜6)の大部分について、指令の表現に選択の幅がなく、一般書籍(乙6)やインターネット上にも記載のあるありふれたものであることを指摘する。また、被告は、原告プログラムのうち他の構成についても、指令の組合せがありふれたものであると主張する。
 これに対し、原告は、Cスタッフオーダー等によって入力された情報を、Dサーバー側プログラムを経由して飲食店用に最適化されたEデータベースにおいて一括管理し、レジやキッチンに出力する機能が一体となる点に創作性が認められる旨主張するが、これは、プログラムにより実現される機能が新規なもの、複雑なものであることをいうにとどまり、それだけでプログラムに創作性が認められることにはならないことは前述のとおりであるところ、原告は、具体的にどの指令の組合せに選択の幅があり、いかなる記述がプログラム制作者である原告の個性の発現であるのかを、具体的に主張立証しない。
 むしろ、乙6、12によれば、原告が開示した原告プログラムの@レジ、Aキッチンモニター及びBマスタメンテナンスのソースコード(甲4〜6)に表れる指令の組合せのうちの多くは、原告プログラムの作成日以前から一般的に使用されている指令であり、変数や条件等の文字列の場所が決まっているため独創的な表現形式を採る余地のないものであって、インターネット上に使用例が公開されているものも多いことが認められる。
エ まとめ
 (ア)前記認定したところによれば、原告は、平成23年3月の時点で、一定のレジアプリケーションを完成していたが、これは「でんちゅ〜」そのものではなく、「でんちゅ〜」を事業化しようとする被告代表者と協議しながら、「でんちゅ〜」のプログラムを開発したこと、平成24年12月までの原告と被告との法的関係は不明であるが、「でんちゅ〜」の事業化の主体は被告であり、原告は、被告の依頼又は内容に関するおおまかな指示を受けてプログラムの開発を行ったこと、「でんちゅ〜」は平成23年に飲食店に試験導入され、平成24年以降本格導入されたこと、原告は、少なくとも同年12月から平成27年7月の退社までの2年半余り、被告の被用者として被告の指示を受け、前記導入の結果を踏まえ、「でんちゅ〜」の改良、修正等に従事したこと、以上の事実が認められる。
(イ)上記事実の中で、平成24年5月22日の時点における原告プログラムの構成が、ありふれた指令を組み合わせたものであるには止まらず、原告の個性の発現としての著作物性を有していたと認めるに足りるものであることの立証がなされていないことは、既に述べたところから明らかである。
(ウ)また、平成23年の導入以降、「でんちゅ〜」については、段階的に改良や修正が施され、原告自身も、少なくとも2年半余り被告の従業員としてその開発、修正に従事しており、前記認定のとおり、原告プログラムと被告プログラムには相当程度の差異が認められるのであるから、仮に原告プログラムの一部に、原告の個性の発現としての創作性が認められる部分が存したとしても、その部分と同一又は類似の内容が被告プログラムに存すると認めるに足りる証拠はなく、結局のところ、平成24年5月22日時点の原告プログラムの著作権に基づいて、現在頒布されている被告プログラムに対し、権利を行使し得る理由はないといわざるを得ない。
第6 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 野上誠一
 裁判官 島村陽子


別紙 システム概要図
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