判例全文 line
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【事件名】“眠り猫”イラストTシャツ事件
【年月日】平成31年4月18日
 大阪地裁 平成28年(ワ)第8552号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成31年2月20日)

判決
原告 P1
同訴訟代理人弁護士 安部将規
同 網本浩幸
同 井上圭吾
同 待場豊
同 船戸貴美子
同訴訟復代理人弁護士 石川慧
被告 株式会社三高
同訴訟代理人弁護士 久保田伸


主文
1 被告は、別紙「被告イラスト目録」記載1ないし16の各イラストを複製、翻案又は公衆送信してはならない。
2 被告は、別紙「被告イラスト目録」記載1ないし3、5ないし12、15及び16の各イラストを使用した別紙「被告物品目録」記載の各物品を廃棄せよ。
3 被告は、別紙「被告イラスト目録」記載1ないし3、5ないし12、15及び16の各イラストに関する画像データを記録した記録媒体から、当該データを削除せよ。
4 被告は、原告に対し、167万3570円並びにうち160万0443円に対する平成28年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち別紙「遅延損害金一覧表」の「元金」欄記載の各金額に対する「起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用はこれを5分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙「被告イラスト目録」記載の各イラストを複製、翻案又は公衆送信してはならない。
2 被告は、別紙「被告イラスト目録」記載の各イラストを使用した別紙「被告物品目録」記載の各物品を廃棄せよ。
3 被告は、別紙「被告イラスト目録」記載の各イラストに関する画像データを記録した記録媒体から、当該データを削除せよ。
4 被告は、被告が運営するホームページから別紙「被告イラスト目録」記載の各イラストが掲載された別紙「被告物品目録」記載の各物品の表示をそれぞれ削除せよ。
5 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成28年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は、別紙「謝罪広告目録」記載の内容の謝罪文を同目録記載の要領で1回掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、別紙「原告イラスト目録」記載のイラスト(以下「原告イラスト」という。)をデザインした原告が、別紙「被告イラスト目録」記載の各イラスト(以下、各イラストを同別紙の番号により「被告イラスト1」などといい、各イラストをまとめて「被告イラスト」という。)の一部が描かれたTシャツ等を製造販売している被告に対し、@被告イラストは、原告イラストを複製又は翻案したものであり、上記Tシャツ等の製造は原告の複製権又は翻案権を侵害すること、A上記Tシャツ等の写真を被告が運営するホームページにアップロードしたのは、原告の公衆送権を侵害すること、Bさらに被告が原告イラストを複製又は翻案し、原告の氏名を表示することなく上記Tシャツ等を製造等したのは、原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害することを主張して、(a)著作権法112条1項に基づき、被告イラストを複製、翻案又は公衆送信することの差止め、(b)同条2項に基づき、被告イラストを使用した別紙「被告物品目録」記載の各物品の廃棄並びに被告イラストに関する画像データ及び被告が運営するホームページの被告イラストが掲載された上記各物品の表示の削除、(c)著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づき、原告の損害の一部である1000万円の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、(d)著作権法115条に基づき、謝罪文の掲載を請求する事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、本名で動物等の水彩画を描くとともに、動物をモチーフにしたデザイン等を描いている者である(甲22、23、53)。
イ 被告は、「錦」のブランド名により、インターネットによって直接、又は大手ショッピングモールやインターネット上に出店する量販店を通じて、自社で製造した繊維製品等を販売する事業者である。
(2)原告イラスト
 原告は、平成23年9月までに原告イラストを作成し、同月18日以降、「モジュー」のデザイナー名を使用して、デザインTシャツマーケット「Hoimi」において、「POKKA POKA T-SHIRT」のブランドで、原告イラストが胸の辺りに付された「眠り猫」という商品名のTシャツを販売している。また、原告は同月以降、オリジナル・グラフィック・アイテム・オンラインショップである「ClubT」でも同じTシャツを販売し、少なくとも平成24年5月以降、デザインTシャツの通販サイトである「T-SHIRTSTRINITY」でも同じTシャツを販売しているほか、平成27年頃まで、Tシャツ販売サイト「UPSOLD」で同じTシャツを販売した(甲1、2、24、33ないし35、39ないし44、53)。
(3)被告の行為
ア 被告は、平成26年6月頃以降、別紙「被告商品一覧」のとおり(ただし、色違いの商品を含む。)、被告イラストの一部が色を変えつつ描かれた半袖Tシャツ、長袖Tシャツ、ワークシャツ、トレーナー、パーカー、ショーツ、財布(ウォレット)、ベルト、バッグ、帽子等の衣類及び服飾雑貨(以下「被告商品」といい、同別紙の番号により「被告商品1」などという。別紙「被告イラスト1〜16を付した商品の販売数及び売上額」の「整理番号」欄の数字は被告商品の番号を指しており、甲3ないし18の各書証と被告商品との対照関係は、同別紙の「備考」欄記載のとおりである。なお、同別紙の「整理番号」欄に枝番号が付されているのは、色違いの商品である。)を製造し、「家紋猫」、「流水家紋猫」、「眠り猫」、「荒波猫」、「波猫」などの商品名で、自らの通販サイトで直接、又は量販店に対し、販売している。なお、被告商品には、原告の氏名や原告が使用していたデザイナー名は表示されていない。
イ 被告は、被告商品の写真をインターネット上の被告が運営するホームページにアップロードしていたが、そこにも原告の氏名や原告が使用していたデザイナー名は表示されていない。
2 争点
(1)原告イラストの著作物性(争点1)
(2)被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等(争点2)
(3)原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無(争点3)
(4)差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否(争点4)
(5)原告の損害額(争点5)
第3 争点についての当事者の主張
1 争点1(原告イラストの著作物性)
(原告の主張)
(1)原告イラストは、眠っている猫を横から描く方法で、円の中に丸く収め、円の中の猫の身体に相当する部分に猫の模様と一体化する形で、和風にデザインした雲を配して、家紋風の和風デザインとした点に大きな特徴がある。原告は、家紋らしいデザインとするため、和風のデザインを基調として、デザイン上やむを得ず猫の耳及び尾は円から飛び出すこととしたが、極力、円の中に猫を収めるとともに、猫の身体全体を使って家紋の枠の円を表現することとし、他方で、家紋であることから、写実的に過ぎず、一方で実在の猫からかけ離れたかわいすぎるデザインとならないように心がけて、試行錯誤しながら原告イラストを創作した。
 被告は原告イラストが応用美術であると主張するが、原告イラストは実用目的で制作されたものではなく、アート作品であって、個展と同様に、デザイナーの発表の場として用意されているTシャツ販売サイトにおいてその作品を発表しているにすぎない。
 以上より、原告がデザインした原告イラストは、原告の思想・感情を創作的に表現したものであって、美術の著作物に該当する。
(2)仮に原告イラストが応用美術に当たるとしても、原告イラストは、実在する猫をヒントとしながらも、猫の表現について随所に原告独自の解釈やアレンジを加え、かつこれを和風にデザインした雲と組み合わせて家紋風に表現するという制作過程において、高度の創作性が認められる。そして、原告イラストは、上記のようなTシャツ販売サイトを通じて、審査を受けた上で発表されていることからも理解されるとおり、一般的な美的鑑賞の対象となる、相当程度の美術性を備えるものである。したがって、原告イラストは、純粋美術作品をそのままTシャツという実用品に応用したものであり、美術の著作物に該当する。
(被告の主張)
(1)原告イラストは、Tシャツの原案とされているものであり、制作者が、その作品を専ら鑑賞の対象とする目的ではなく、実用目的で制作したものであり、かつ、一般的平均人が、実用目的で制作されたものと受け取るものというべきであるから、純粋美術には該当せず、上記制作目的及び一般的平均人の認識からすれば、原告イラストは、応用美術に該当する。
(2)原告イラストは、猫が丸まって寝ているイラストに、1.5周程度の渦巻き線が、前足の付け根部分に1個、胴体部分に3個存在しているというイラストである。猫が丸まって寝ている姿は、一般的によく見られるものであり(乙1ないし4のとおり、平成23年9月以前から原告イラストと同種のイラスト又は写真が存在していた。)、制作者が、独自の解釈、アレンジを加えたというような事情は見当たらない。
 原告イラストには、1.5周程度の渦巻き線が4個存在するが、これだけでは、美的創作性を具備しているとはいえない。
 したがって、原告イラストは、制作者の個性が強く表出されているということはできず、その創作性は高くない。よって、原告イラストは、一定の美的感覚を備えた一般人を基準に、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備しているとはいえず、著作権法上の「著作物」には該当しない。
2 争点2(被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等)
(原告の主張)
(1)原告イラストと被告イラストの類似性
ア 前記1記載のような原告による創意工夫の結果、原告イラストには、例えば、以下のような特徴が見受けられ、かつ、これらの多くの部分は被告イラストと共通している。
@ 原告イラストの猫(以下、単に「猫」という。)のモチーフを、いわゆるハチワレ猫としたこと
A 全体として猫の各パーツをデフォルメして描いていること
B 耳部分に特徴があること
C 実在の猫よりも目を大きく強調し、また目の周りを白色で縁取りしていること
D 猫の鼻の頭頂部を黒色の短い線で表現し、顔にはひげを3本、あご下(前足の付け根)付近にかかる長さで配置していること
E 猫の足の位置を調整し、毛筆のイメージのハネを描き込んでいること
F 背後の後ろ足は先端部分が円の外に飛び出す形で描かれ、また後ろ足5の下部の曲線と円の外枠によって猫の尾が表現され、かつ頭部と尾の先端の間に空白を設けていること
G 猫の身体と一体化する形で、家紋によく見受けられる和風の図柄を配置していること
イ 原告イラストと被告イラスト1、5、9、13及び17の共通点及び相違点は、別紙「原告イラストと被告イラストの共通点及び相違点」記載のとおりであり(被告イラスト2ないし4は被告イラスト1と、被告イラスト6ないし8は被告イラスト5と、被告イラスト10ないし12は被告イラスト9と、被告イラスト
14ないし16は被告イラスト13と、被告イラスト18ないし20は被告イラスト17と、それぞれ実質的に同一であるから、同別紙に記載のない被告イラストにも同別紙記載のことがそのまま当てはまる。)、原告イラストと被告イラストは類似している。
(2)原告イラストへの依拠
 被告の主張によれば、被告イラストは被告とデザイナーが共同して作成したというべきである。そして、被告はインターネット上の原告イラストにアクセスすることは容易であったし、創作性が高い原告イラストと被告イラストの共通点や類似性の程度、被告が「眠り猫」という原告イラストと同じキーワードを用いて広告宣伝等を行っていたことからすると、被告イラストは、被告及びデザイナーが原告イラストに依拠して、共同して作成したものと考えられる。
 また、被告イラストの作成者がデザイナーであったとしても、デザイナーは原告イラストに依拠して被告イラストを作成したと考えられるから、被告イラストは原告イラストを複製し、又は翻案したものである。
(3)被告の故意・過失
 被告は被告商品を販売するに際し、「眠り猫」などといった原告イラストと共通する表現を用いているが、これは原告イラストが掲載されたホームページを参照していたからに他ならないし、被告は「眠り猫」シリーズとしてシリーズ化するに当たり、イラストや権利関係について慎重に検討したはずである。したがって、被告イラストを基に被告商品の製造販売を開始した段階で、被告イラストが原告イラストを複製又は翻案したものであることを知り、又は知り得たというべきであり、被告には原告の著作権及び著作者人格権の侵害について故意又は過失があった。
(被告の主張)
(1)原告の主張は否認し、争う。
(2)仮に、原告イラストが著作権法上の「著作物」と認定されたとしても、前述のとおり、原告イラストのうち、猫が丸まって寝ているという点に創造性はなく、原告イラストの特徴は、1.5周程度の渦巻き線が、足の付け根に1個、胴体に3個存在しているのみである。アイディアや着想、表現方法、作風、画風それ自体は、著作権法の保護対象ではなく、イラストの要部は客観的に捉えられるべきである。そして、原告イラストと被告イラストは、次のとおり、要部において明確に相違しているから、類似していない。
ア 被告イラスト1ないし4について
 各イラストは、胴体部分に波模様が6個存在し、かつ胴体部分に大小異なる11個の黒塗り円が存在しており、原告イラストとは要部が明確に異なっている。
イ 被告イラスト5ないし8について
 各イラストは、前足が2本存在し、ひげはなく、胴体部分に唐草模様の連続線が存在しており、原告イラストとは要部が明確に異なっている。
ウ 被告イラスト9ないし12について
 各イラストは、前足を上に上げており、後足も上を向いており、1〜1.5周程度の渦巻き線が11個存在しており、原告イラストとは要部が明確に異なっている。
エ 被告イラスト13ないし16について
 各イラストは、前足が2本存在し、胴体部分に波模様が5個存在し、黒塗り円が16個存在しており、原告イラストとは要部が明確に異なっている。
オ 被告イラスト17ないし20について
 各イラストは、猫の向きが異なり、前足に扇子を持ち、胴体に波模様が11個存在し、大小異なる9個の黒塗り円が存在しており、原告イラストとは要部が明確に異なっている。
(3)被告イラストは、被告の社員がグループとして企画したものであり、社内での議論の結論及び収集資料(乙1、2、4、5)を被告が契約するデザイナーであるP2(以下「被告デザイナー」という。)に手渡し、被告デザイナーが原告イラストを見ることなく、上記企画に合致するように、独自の制作の成果として被告イラストを完成させたのである。したがって、被告イラストは、既存の原告イラストに依拠して作成されたものではなく、依拠性も認められない。
3 争点3(原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無)
(原告の主張)
 被告は、原告に無断でその意に反して、原告イラストを改変して被告イラストを作成し、また、原告の氏名を表示することなく、被告イラストを掲載したTシャツ等を自ら製造販売し、それらをインターネット上の販売サイトや全国各地のショッピングモールに出展する事業者に譲渡した。被告は以上の行為によって、原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害した。
(被告の主張)
 原告の主張は否認し、争う。
4 争点4(差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否)
(原告の主張)
(1)被告は、原告の警告にもかかわらず、被告イラストが原告イラストに依拠したものであることを否定した上で、被告イラストが描かれた衣類等の製造販売を継続するなどしている。被告は被告商品が一時期的なシーズンものであると主張するが、被告イラストを用いた衣類等をシリーズ化して、力を入れて商品展開を行っており、本件訴訟提起後も被告イラスト1をアレンジした商品(甲26)を新たに展開している。したがって、今後も原告の著作権及び著作者人格権が侵害されるおそれがある。
 現時点で被告イラスト4、13、14、19及び20が用いられた被告商品は発見できなかったものの、被告による被告イラストの使用状況を踏まえると、これらのイラストも今後使用される蓋然性は高く、原告の著作権及び著作者人格権が侵害されるおそれが認められる。
 したがって、被告イラスト1ないし20について、複製、翻案等の差止めを認めるべきであるし、これらに係る物品の廃棄及びデータの削除等も認めるべきである。
(2)本件では著作権法115条に基づく名誉回復等の措置が必要である。
(被告の主張)
 原告の主張は否認し、争う。
 被告商品は一時期的なシーズンものであり、被告は既にこれらの製造販売をしていない。また、ホームページの記載も存在しておらず、在庫も存在していない。したがって、原告の被告に対する差止請求は、既に対象物がなく、認められるべきでない。
5 争点5(原告の損害額)
(原告の主張)
(1)著作権法114条3項に基づく損害
ア 譲渡数量
 被告は譲渡数量に返品数を加えていないが、著作権法114条3項は、著作権の侵害に対する損害賠償を認めるものであるところ、複製権及び翻案権については、被告が原告イラストを複製等したことにより侵害されるものであって、被告が返品により代金を受領したか否かにより侵害の有無は変わらない。
 したがって、使用料算出のための譲渡数量には、被告が販売店から返品を受けた被告商品の数も含むべきであり、譲渡数量は別紙「損害額計算表(原告作成)」記載のとおり、少なくとも4870個である。
イ 小売価格
 本件における使用料相当額は小売価格(別紙「損害額計算表(原告作成)」の「小売価格又は推定小売価格(円)」欄参照)を基準に判断されるべきである。
 すなわち、原告にとっては、原告イラストを許可なく複製、翻案等した者が卸売業者であろうが小売業者であろうが、原告の著作権、著作者人格権を侵害された事実に変わりはない。にもかかわらず、著作権等を侵害した者が卸売業者である場合に、使用料算定の基礎とすべき価格が卸値になってしまうとすれば、権利侵害者が小売業者か卸売業者かという自らの与り知らない事情により原告の損害の填補の程度が左右されかねない。また、被告は、自らも直接小売りも行っているのであって、被告にとっても小売価格を基準として使用料を算定することは不当ではない。そして、原告が原告イラストの使用を許諾しているのは、一般消費者に直接Tシャツ等の衣類を販売する小売業者に対してのみであり、卸売業者に対して原告イラストの使用を許諾したことはなく、上記の全ての小売業者との間で、小売価格を基準として使用料を設定している。
ウ 使用料率
 原告は、原告イラストをプリントしたTシャツがTシャツ販売サイトで販売されたときに受ける報酬(使用料)を販売代金の20%ないし40%に設定しており、これを下回る使用料率では使用を許諾していない。そして、原告は画家としての活動だけでなく、デザインTシャツ等の販売サイトにおいても人気を博しているデザイナーであるし、被告商品を見ると、いずれも各商品の最も重要な構成部分は原告イラストと特徴が一致した被告イラストであり、また1つの商品に多数の被告イラストが使用されているものもある(被告商品1ないし4、6ないし7、9ないし15、19、20)。
 さらに、被告は被告商品を「眠り猫」シリーズとして販売していて、いずれの商品についても、被告イラストを前面に押し出して販売しており、被告商品における被告イラストの寄与は大きい。これに対し、被告商品の被告イラスト以外の部分は、日本の伝統的な柄を配置しただけの創作性が認められないもので、従たるデザインでしかなく、販売における寄与度は低い。
 被告が主張する第三者との間の契約における使用料率は不知であるが、そもそも誰にいかなる経済的条件のもとで原告イラストの使用を許諾するかは原告の自由であるし、被告主張の使用料率は一般的な使用料率ではない。
 以上のことを踏まえると、原告イラストを商品化した場合の通常の使用料率は小売価格の25%が相当である。
エ 以上をもとに著作権法114条3項に基づく損害を算定すると、別紙「損害額計算表(原告作成)」の右下欄記載のとおり、828万0810円となる。
(2)慰謝料
 被告は原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したところ、被告イラストが自社の創作にかかるデザインであることを強調しているほか、被告イラストを掲載したTシャツ等は、現在も、インターネット上で多数公開されたままとなっている。
 以上の事情に照らせば、被告による著作者人格権侵害により原告に生じた慰謝料は200万円を下らない。
(3)弁護士費用
 原告は、被告に対し被告イラストの使用差止等を求め、また原告に生じた損害について本件訴訟を提起する必要が生じたところ、これに当たっては弁護士に委任せざるを得ず、これにかかる弁護士費用は100万円を下らない。
(被告の主張)
(1)被告商品の販売数及び売上額は、別紙「被告イラスト1〜16を付した商品の販売数及び売上額」記載のとおりであり(このうち、被告が通販サイトで販売した分は11万8960円である。)、原告のその余の主張は否認し、争う。
(2)譲渡数量等
 使用料は実際に被告が代金を受領した金額をもとに算出すべきであり、被告に返品された商品については、不良品を理由として返品されており、被告は代金を受領していない(市場に流通する可能性も0である。)から、使用料算出のための譲渡数量に含めるべきでない。
 また、使用料を計算する基準となる金額は、被告が販売店に販売した金額(基準卸値、卸売価格。ただし、これを値下げした場合には値下後の金額。基準卸値につき、別紙「被告イラスト1〜16を付した商品の販売数及び売上額」の「基準卸値(税抜)」欄参照)である。
 以上をもとに被告商品の売上額を算定すると、同別紙記載のとおり、合計1460万9309円となる。
(3)使用料率
 被告商品では、丸い猫とは無関係な被告のオリジナルな図柄の中に丸い猫が一部として印刷されており、丸い猫のイラストが占める割合は50%以下である。また、丸い猫のイラスト部分においても、原告イラストと共通しているのは一部分である。そして、被告イラストはイラストごとに原告イラストとの関連の程度も異なっている上に、被告商品において被告イラストが全体に占める割合も商品ごとに異なっており、使用料率は商品ごとに検討すべきである。
 原告が主張する使用料率については不知であるが、それは限られたTシャツ販売サイトだけでの使用料率であり、販売数もごく少数であるから、一般的な使用料率とはかけ離れたものである。
 国民的人気を誇るキャラクターの場合(乙14)でも、衣服に用いる場合の使用料率は小売価格の4%(卸売価格の8%)であることも踏まえると、本件での使用料率は被告の卸売金額の5%を超えることはない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告イラストの著作物性)について
(1)証拠(前記第2の1掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
ア 原告について
(ア)原告は、平成2年から独学で絵を描き始め、平成5年には関西美術文化展に入選し、平成6年以降、個展を開催し、画家として、動物をモチーフとする手描きの水彩画を作成し、販売している。
(イ)原告は、平成20年から、パソコンでイラスト等を作成するようになり、作成したイラストを広めるために、平成21年頃から、前記「Hoimi」等のTシャツ販売サイトに登録して、原告が作成したイラストを付したTシャツの販売を行うようになった。
(ウ)前記「Hoimi」の場合、デザイナー又はデザイナーを目指す人を応援することを目的とするサイトとされ、利用するためには審査を受けてデザイナーとして登録することが必要であり、Tシャツが販売されると、デザイナーは、そのランクに応じた報酬を受け取ることができるが、「Hoimi」側の委託を受けてデザイナーがデザインを作成したり、デザインの著作権を「Hoimi」に譲渡したりすることは予定されていない。
イ 原告イラストの作成等
 原告は、当初、魚の絵を多く描いていたが、後に猫の絵やイラストを多く描くようになり、原告イラストについては、平成23年9月までにこれを作成して、同月18日以降、前記「Hoimi」等のTシャツ販売サイトに、「眠り猫」のタイトルを付して原告イラストを登録し、希望する者がTシャツ販売サイトに依頼すれば、同サイトを通じ、原告イラストを正面に印刷したTシャツを購入できるようにした。
ウ 原告イラストの表現上の特徴
 原告イラストについては、以下の表現上の特徴を看取することができる。
(ア)原告イラストは、丸まって眠っている猫を上方から描くに当たり、円形状の上部に配された猫の顔のあごの下から片前足を出して、その片前足を片後ろ足や尻尾とほぼ同じ場所でまとめて描くことによって、ほぼ全体を略円形状の輪郭の中に収める一方で、輪郭より外の部分等は描いていないため、全体が一個のマーク(原告は家紋と表現する。)であるかのような印象を与える。
(イ)原告イラストの基本的輪郭は円形状であるが、耳や片後ろ足が円から若干突出して描かれているほか、猫の後頭部から肩にかけての部位は若干ふくらむように描かれ、機械的な真円ではないことから、猫がきれいに丸まっているという基本的な印象を維持しつつも、柔らかく自然な印象を与える。
(ウ)略円形状の上半分には、猫の頭部、片前足、片後ろ足及び尻尾が猫と分かるように描かれているのに対し、略円形状の下半分は、雲を想わせる抽象的な紋様となっているところ、略円形状の輪郭に沿って右回りにたどると、猫の顔や首の白黒の模様が徐々に変化して雲を想わせる紋様となり、さらにたどると、猫の片後ろ足と尻尾になるという形で連続的に変化しており、また、猫の片前足の付け根は渦巻状になっているが、これを白黒反転させた紋様が下半分の雲を想わせる紋様の中に三個存在するため、全体として、猫を描いた部分と抽象的な紋様の部分とが、うまく一体化している。
(2)被告の主張について
 被告は、平成23年9月以前から、原告イラストと同種のイラスト又は写真(乙1ないし4)が存在していたことを理由に、原告イラストはありふれたものであって創作性がなく、美術の著作物に該当しないことを主張する趣旨と解される。
 しかしながら、乙1及び2は、実物の猫が鍋の中で丸まって眠っている様子を上方又は横から撮影した写真であるが、原告イラストは、実物の猫をそのまま忠実にデッサンしたものではないから、これらの写真によって原告イラストの創作性が否定されるとはいえない。
 また、乙3及び4は猫が丸まって眠っている様子を上方から描いたイラストであるが、乙3及び4の絵には原告イラストとは異なる点が相当数みられ、これらによっても、原告イラストがありふれたものであると認めることはできない。
 なお、被告は、被告イラストを作成する過程で乙5を入手し、被告デザイナーに渡した旨主張しているが、これが原告において原告イラストを作成した平成23年9月までの時点で存在していたことを認めるに足りる証拠はない(甲31、32参照)。
(3)争点1についての判断
 原告イラストは、前記(1)ウで述べたとおり、表現上の特徴を有するところ、前記(2)で検討したとおり、これらはありふれたものということはできず、創作性が認められるから、原告イラストは、原告がこれを作成した時点で、美術の著作物として創作されたものと認められる。
 原告は、前記(1)ア及びイで認定した経緯により、原告イラスト作成後、それを広めるために、あるいは商業的に利用するために、Tシャツ販売サイトを介して、原告イラストを付したTシャツを販売したことが認められるが、これは原告が創作した美術の著作物を用いたTシャツを販売したにすぎないから、このことは、原告イラストの著作物性を否定する理由とはならず、原告イラストが応用美術に属するものとして、その著作物性を否定する被告の主張は、採用できない。
2 争点2(被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したものか等)について
(1)原告イラストと被告イラストの類似性
 被告イラストには、原告自身が被告商品に用いられていないことを自認しているものも含まれている(被告イラスト4、13、14、19、20)が、原告はそれらを含めて複製や翻案等の差止めを請求していることから、上記各被告イラストを含め、原告イラストの複製又は翻案に当たるかを検討する。
ア 被告イラスト1ないし4について
 まず、原告イラストと被告イラスト1ないし4は、丸まって眠っている猫を上方から円形状にほぼ収まるように描くとともに、片前足と片後ろ足と尻尾をほぼ同じ位置でまとめて描きつつ、耳や片後ろ足を若干円形状から突出して描いている点で共通している。これらの共通点は、前記1で認定した原告イラストの創作性が認められる表現上の特徴部分そのものであり、上記各被告イラストの表現上の特徴は、原告イラストのそれと共通しているといえる。
 他方、原告イラストでは猫の目の周囲が黒いのに、上記各被告イラストはそうではないが、全体からすると微差にとどまるものというべきである。
 また、上記各被告イラストでは、猫の胴体部分に波様の紋様が描かれており、原告イラストの雲様の紋様とは異なっているが、前述のとおり、原告イラストの表現上の特徴は、上半分に猫と分かるよう描かれた模様が徐々に変化して抽象的な紋様につながり、猫の片前足の付け根の模様が、下半分の紋様にも使われるなど、猫を描いた部分と抽象的な紋様とが連続的、一体的に構成され、全体として略円形状のマークのような印象を与える点にあると解され、上記各被告イラストは、これらをすべて有していると認められるが、下半分の抽象的な紋様にどのようなものを用いるかは表現上の本質的特徴といえるものではない。
 以上より、原告イラストと上記各被告イラストとの上記共通点に照らせば、上記各被告イラストは、原告イラストを有形的に再製したものと認めることができる。
イ 被告イラスト5ないし8について
 上記アで認定した原告イラストと被告イラスト1ないし4の共通点は、被告イラスト5ないし8にも認められる。
 他方、被告イラスト5ないし8には、猫の前足が2本とも描かれる一方で、ひげが描かれておらず、抽象的な紋様が唐草様であるといった相違点もみられるが、それらの前足は片後ろ足や尻尾とほぼ同じ場所にまとめて描かれており、前記1で認定した原告イラストの表現上の特徴は維持されているといえるし、ひげの有無等の相違点は微差であり、抽象的な紋様の相違は本質的ではない。
 以上より、上記各被告イラストは、原告イラストを有形的に再製したものと認めることができる。
ウ 被告イラスト9ないし12について
 上記アで認定した原告イラストと被告イラスト1ないし4の共通点は、被告イラスト9ないし12にも認められる。
 他方、被告イラスト9ないし12には、猫の前足が2本とも描かれ、そのうち左前足が円形状の外に突出しているという相違点や、足裏(肉球)が見えるように描かれている(したがって、猫が両前足を上げているように描かれている)という相違点等が認められる。
 しかし、右前足は片後ろ足や尻尾とほぼ同じ場所にまとめて描かれており、前記1で認定した原告イラストの表現上の特徴が基本的に維持されているということができるし、左前足が円形状から突出しているものの、耳や片後ろ足の円形状からの突出の程度は原告イラストと同程度にすぎず、丸まって眠っている猫を上方から描き、猫を描いた部分と抽象的紋様の部分が連続的、一体的に構成され、全体として略円形状のマークのように見えるという原告イラストの基本的な特徴は維持されており、上記相違点によって、原告イラストの表現上の本質的な特徴を感得できなくなるものとは認められない。
 以上より、上記各被告イラストは、原告イラストの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、一部を変更したものと認めることができる。
エ 被告イラスト13ないし16について
 被告イラスト13ないし16は、被告イラスト5ないし8と類似している点が多く、被告イラスト13ないし16では、顔の傾きや2本の前足の重ね具合、片後ろ足が円形状の中に収められている点等が異なっているものの、ひげが描かれている点で原告イラストに近く、全体として前記イの判断が妥当するといえる。
 したがって、上記各被告イラストは、原告イラストを有形的に再製したものと認めることができる。
オ 被告イラスト17ないし20について
 被告イラスト17ないし20は、そもそも丸まって眠っている猫を描いたものではなく、前記1で認定した原告イラストの表現上の特徴との共通点がみられない。したがって、上記各被告イラストは原告イラストを有形的に再製したものとは認められないし、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることもできない。
(2)依拠性
ア 原告イラストとの類似性
 乙8、弁論の全趣旨及び被告商品におけるイラストの使用状況に照らせば、被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16は、いずれも被告デザイナーが作成したものと認められる。
 そこで、被告デザイナーが上記各被告イラストを原告イラストに依拠して作成したと認められるかが問題となるが、乙8及び弁論の全趣旨によっても、上記各被告イラストが作成されたのは平成24年6月頃から平成25年3月頃であると認められ、これは原告イラストが作成されて、複数のTシャツ販売サイトに原告イラストが付されたTシャツが出品された平成23年9月よりも後のことであるから、被告デザイナーが原告イラストに接する機会はあったと認められる。
 そして、上記(1)で検討したことを踏まえると、上記各被告イラストは、表現上の本質的な特徴部分において、原告イラストに類似又は酷似しているということができるのであって、特に被告イラスト1については、原告イラストを見ずにこれをデザインしたということが実際上考え難いといえる程に似ている。
 以上のように、原告イラストと上記各被告イラストとが類似又は酷似していることに照らせば、そのようなイラストを作成した被告デザイナーが、原告イラストを参照し、これに依拠して上記各被告イラストを作成した事実が推認される。
イ 被告の主張について
 被告は、上記各被告イラストが原告イラストに依拠するものであることを否定し、被告の依頼を受けてデザインを作った被告デザイナーの陳述書(乙8)を提出し、同デザイナーは、原告イラストを参照せず、被告より交付された資料(乙1、2、4、5)を基にデザインを作った旨を述べている。
 しかしながら、上記資料のうち乙5については、被告はその入手の経緯は不明であるとしている上に、それが乙1、2及び4とは別に証拠提出されたことに照らせば、被告が乙5の資料を被告デザイナーに交付したか疑問があり、被告主張の時期に交付されたと認めるに足りる証拠もない。また、乙1、2及び4については、原告イラストとも上記各被告イラストとも相違点が多く、むしろ上記各被告イラストと原告イラストとの間に表現上の共通点が多いといわざるを得ないから、上記陳述については、採用できない。
 さらに、被告は被告デザイナーが作成した他のイラスト(乙6、7)と被告イラストの類似性を指摘しているが、そもそもそれらのイラストは動物の全身を丸めて描いたものではなく、被告イラストとは表現上の特徴を全く異にするものであるから、それらの証拠の存在は上記認定を左右しない。
ウ まとめ
 以上より、被告デザイナーは、原告イラストに依拠して上記各被告イラストを作成したと推認することができる。
 そして、仮に被告が被告商品を製造販売した際に原告イラストの存在を認識していなかったとしても、被告は被告デザイナーから、原告イラストに依拠して作成された上記各被告イラストの提供を受け、これを付して、被告商品を製造販売したのであるから、被告の依拠性も認められる。
(3)著作権侵害についてのまとめ
 上記(1)及び(2)によれば、被告イラスト1ないし8及び13ないし16は原告イラストを複製したものと、被告イラスト9ないし12は原告イラストを翻案したものと認められるが、被告イラスト17ないし20については、原告イラストの複製、翻案のいずれにも当たらず、また、被告イラスト1ないし16の写真を被告が運営するホームページにアップロードしたことは、公衆送信権侵害に当たるというべきである。
(4)被告の故意又は過失
 被告はイラストをTシャツ等に付して製造販売する業者であるから、自らが製造販売するTシャツ等に付されるイラストが他人の著作権等を侵害するものでないかを調査・確認する義務を負っているというべきである。
 そして、前記認定したとおり、被告は自らインターネットを利用して猫に関するデザインを収集しており(乙4、8、弁論の全趣旨)、被告が被告デザイナーから上記各被告イラストの提供を受け、被告商品の製造を開始した時点では、既に原告イラストが付されたTシャツはTシャツ販売サイトで販売されており、被告がこれを見付けることが困難であったとの事情は認められないから、少なくとも被告には過失があったと認められる。
(5)争点2についての結論
 以上より、被告は、少なくとも過失により、原告イラストについての原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害したことになる。
3 争点3(原告の同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無)について
 前記1及び2の認定・判示によれば、被告は原告イラストを改変した被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16を付した被告商品を製造し、被告が運営するホームページに被告商品の写真をアップロードした上に、その際に原告の氏名や原告が使用していたデザイナー名を表示しなかったから、原告イラストについての原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害したものと認められる。
4 争点4(差止請求や謝罪文の掲載請求等の成否)について
(1)差止請求
 まず、前記2(1)オの判示によれば、被告イラスト17ないし20の複製、翻案及び公衆送信の差止請求には理由がない。
 そこで、その他の被告イラストに関する差止請求について検討すると、まず被告は、被告商品が時期的なシーズンものであり、既に製造販売を中止したと主張している。
 しかし、仮に被告の主張のとおりであったとしても、被告は被告商品の一部を少なくとも平成29年11月28日まで販売し続けており(乙13の37頁)、本件訴訟では被告イラスト1ないし16を含め、原告イラストを複製し、翻案したものであることなどを争うのみならず、本件訴訟係属中である同年12月頃、被告イラスト1をアレンジした虎のイラストを付した商品を新たに販売している(甲26)。
 以上の経緯を踏まえると、被告が被告商品に使用していた被告イラストを複製、翻案又は公衆送信することによって、原告イラストについての原告の著作権及び著作者人格権を侵害するおそれは、なお存在していると認めるほかない。
 また、被告イラスト4、13及び14については、被告商品に用いられていないことを原告自身が自認しているものの、被告は商品によってイラストを左右反転させたり、色を反転させたりしており、これまで使用していなかった上記各被告イラストについても、既に使用していた被告イラストの左右を反転させたり、色を反転させたりして、Tシャツ等に付すおそれがあると認めることができる。
 なお、被告イラスト1ないし16からは原告イラストの表現上の本質的な特徴を相当強く感得することができるから、その被告イラストを翻案することは、原告イラストを翻案することに他ならないと認めることができる。そして、前記認定の被告の行為態様によれば、原告イラストの一部を変更することで作成した被告イラストについて、さらにその一部を変更することで新たな被告イラストを作成した経緯が認められるのであり、この点を考慮すると、被告イラスト1ないし16の翻案の差止めも認めるのが相当である。
 以上より、被告イラスト1ないし16については、原告による複製、翻案及び公衆送信の差止請求には理由がある。
(2)廃棄請求等
 まず、前記2(1)オの判示によれば、被告イラスト17ないし20を使用した物品の廃棄請求や、同イラストに係るデータ等の削除請求には理由がない。
 また、被告イラスト4、13及び14については、原告自身がこれを用いた被告商品がないことを自認しており、それらのイラストを使用した物品の廃棄請求及び同イラストに係るデータの削除請求等にも理由がない。
 さらに、被告は原告が主張するホームページの記載は存在していないと反論しており、被告がその運営するホームページに被告商品の写真を現在もアップロードし続けていることを認めるに足りる証拠はないから(なお、甲49は検索サイトの画像検索の結果にすぎない。)、被告が運営するホームページからの表示の削除請求にも理由がない。
 もっとも、被告イラスト1ないし3、5ないし12、15及び16を用いた被告商品は被告によって、平成27年3月18日(乙14の38頁)ないし平成29年11月28日まで販売されており、その返品もあったというのであり(乙13、弁論の全趣旨)、被告が被告商品をすべて売り尽くしたとか、在庫をすべて廃棄したことを認めるに足りる証拠があるわけでもないから、被告が上記商品を所持していることは推認され、その廃棄請求を認めるのが相当である。また、被告はそれらのイラストに関する画像データを記録した記録媒体を所持していることも推認されるから、その削除請求も認めるのが相当である。
(3)謝罪文の掲載請求
 被告の行為態様を踏まえても、後記5で認める損害賠償に加えて、著作権法115条の信用回復等の措置を認める必要があるとはいえない。
5 争点5(原告の損害額)について
(1)著作権法114条3項に基づく損害
ア 双方の主張
 原告は、要旨、被告の卸売先である販売店の小売価格に、原告が利用するTシャツ販売サイトに準じた使用料率を乗じて、著作権法114条3項の損害の額を算定すべきであると主張するのに対し、被告は、被告の販売店に対する販売金額(基準卸値、卸売価格)に、より一般的な使用料率を乗じ、さらに販売店から返品されたものについては控除して、これを算定すべきであると主張する。
イ 被告に販売店から返品された商品の売上げを含むことの当否
 著作権法114条3項に基づく損害を算定する基礎となる譲渡数量に、被告が販売店から返品を受けた商品の数を含むべきか、換言すれば、使用料率を乗じる売上額から返品分に係る売上額を控除すべきかについて、当事者間に争いがある。
 しかし、被告は返品を受けた被告商品を含めて製造し、その時点で原告イラストについての原告の複製権又は翻案権の侵害が発生し、それを販売店に販売することによって一旦売上げが計上されたのであるから、被告が製造し、販売店に販売した被告商品の数をもって上記譲渡数量と認めるのが相当であり、返品を受けた商品の数(売上げ)を控除すべき旨の被告の主張は採用することができない。
 この点については、被告が提出する乙14の第6条において、ジャージやTシャツに関する商品化権許諾契約の対価(使用料)は使用料単価に「製造数量」を乗じて算定することとされ、その「製造数量」には見本品、試供品その他販売、頒布を目的としない商品についても含まれるものとされており(同1条3項)、まさに製造された商品の数量によって使用料を算定することが定められている。被告商品は上記契約の対象とされるジャージやTシャツと同じ種類の物品であるから、乙14の上記条項は、被告商品についても、製造され、販売店に販売された商品の数量(売上げ)をもとに使用料を算定することを正当化する根拠になると考えられる。
ウ 使用料率
(ア)原告の主張について
 まず、原告は自らがデザイナー登録してTシャツ等を販売しているサイトにおける報酬割合(甲24の2)や報酬パーセンテージ(甲45)を引用したり、原告が実際に支払を受けていた報酬額と販売価格とを対比したりして、本件では少なくとも25%の使用料率が相当であると主張している。
 しかし、原告がデザイナー登録しているサイトは、前記1(1)で認定したとおり、デザイナー等を応援することをコンセプトとしたものであったり、デザイナーが自らデザインしたイラストを付したTシャツを販売したりするためのサイトとしての性質も有しており、原告イラストあるいは原告の作品自体を入手することを目的として購入する者が多いと考えられるのに対し、被告による商品の販売態様は、主として、ショッピングモールに店舗を構えるなどして、多種多様な商品を販売する販売店(量販店)に対して商品を販売するというものであり、販売態様が大きく異なっている。
 また、原告がデザイナー登録しているサイトにおいては、上記性質上、必ずしも一般的に、商品登録の際に多くの販売(売上げ)が見込まれるという性質のものとまで認めることはできないのに対し、被告は上記のような量販店に商品を販売することから、被告商品の製造販売を開始する時点で、ある程度の販売数(売上げ)が見込まれるのが一般的と推認される。
 このように、商品の販売実態も、原告が引用している販売サイトの例と、被告の例とでは大きく異なっているから、上記のように著作物が複製等された商品が量販店に対して販売され、かつ、ある程度の販売数(売上げ)が見込まれる本件において、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たり、商品の販売態様や販売実態の異なる原告主張の販売サイトの報酬割合等を参考にすることは相当でないといわざるを得ない。なお、原告は甲46ないし48の例も引用しているが、その実態は以上検討した例と変わるものではなく、甲46ないし48にも以上の判示が同じく妥当する。
(イ)本件の使用料率
a 上記(ア)の判示を踏まえると、本件では、著作物が複製等された商品が量販店に対して販売され、かつ、ある程度の販売数(売上げ)が見込まれる場合を前提とした使用料率によるのが相当であるところ、そのような契約の例としては、被告が引用している乙14の契約の例が挙げられ、被告商品の販売態様・販売実態と同じ例と認められるから、本件の使用料率を算定にするに当たって、これを参考にするのが相当である。
b また、乙14の契約は、乙17ないし19(甲54の1ないし3も参照)の各商品について商品化権を許諾した契約であるから、これらとは商品における著作物の使用割合等が異なれば、当然、使用料単価(使用料率)も異なってくるものと考えられる。したがって、本件において乙14の契約の例を参考にするに当たっては、被告商品における原告イラストを複製又は翻案した被告イラスト(被告イラスト17ないし20を除く。以下同じ。)の使用割合、ないし売上げへの寄与を考慮すべきである。
 そのような観点から被告商品を見てみると、被告商品においては、被告イラストのみを単独で付したようなものはなく、被告において作成した他のデザイン、他の紋様と組み合わせる形で、全体的なデザインの一部として被告イラストが使用されており、例えば、被告商品4、16、18及び21のように、被告イラストが比較的目立つように付されている商品がある一方で、被告商品5のように被告イラストが見えにくい商品や、被告商品19のように別のイラストの方が相当目立つ形で付されている商品等があり、商品における被告イラストの使用割合は相当異なっている。
 したがって、本件の使用料率を認定するに当たっては、原告イラストを複製又は翻案した被告イラストの商品における使用割合(大きさや数)を考慮するのが相当であり、その際には、乙14で使用料単価(使用料率)が定められた乙17ないし19の各商品においては、キャラクターが比較的大きく描かれていることを踏まえつつ、相当な使用料率を認定すべきと考えられる。
c 被告の主張について
 被告は、被告商品では被告のオリジナルな図柄も描かれていることを指摘しているが、そのことは乙17ないし19の各商品においても同じであるから、乙14を参考にする場合には、上記bで述べた被告商品における被告イラストの使用割合の中で考慮すれば足りると考えられる。
 また、被告は、被告イラストごとに、原告イラストと関連する程度に応じて使用料率を考慮すべき旨を主張しているが、被告イラストは原告イラストを複製又は翻案したもので、前記2の判示によれば、原告イラストの表現上の本質的な特徴を強く感得することができるものと認められるから、上記被告が主張する点を、使用料率の認定に当たり考慮する必要はないというべきである。
 さらに、被告は乙14の契約の例が国民的人気を誇るキャラクターについての契約であることを強調しているが、乙14の契約においてどのような点を考慮して使用料単価(使用料率)が定められたのかは不明であるし、また乙14の契約は商品の小売価格が1万1000円ないし1万7000円であることを前提としたものであるところ、被告商品の小売価格は、一部1万円を超えるものがあるものの、大半は7000円程度であり、安い商品では5000円を下回っている(甲6ないし14、16ないし18、弁論の全趣旨)から、乙14の契約の例では、結果的に使用料単価が高く設定されているとみることもでき、本件で乙14の契約の例よりも使用料率を低くすべき事情があるとまでいうことはできない。
d 小売価格と卸売金額のいずれをもとに算定すべきか
 著作権法114条3項の著作権の行使につき受けるべき金銭の額を算定するに当たっては、特段の事情のない限り、販売店に対する卸売価格ではなく、販売店における小売価格を基準とするのが相当であるが、その場合においても、被告が当初販売店に卸売りした際に予定していた価格(定価、標準価格)に固定するのではなく(原告はそれを前提とする主張をする。)、被告商品においては、季節の変わり目に被告商品を値下げして販売することもやむを得ないと解されるから、販売店が値下げして販売した場合には、その値下げ後の価格をもとに算定するのが相当である。
 そして、本件では、被告商品が販売店において、実際にいくらで販売されたかを認めるに足りる証拠はないが、被告の卸売金額から逆算して販売店での販売価格を認定することができ、被告は、販売店がこの金額で被告商品を販売することを前提に、販売店に卸売りしたのであるから、この販売店での販売価格に基づき、原告が受けるべき金銭の額を算定するのが相当である。
 被告が販売店に対して卸売りした被告商品に係る卸売金額(返品分を含む。)は、別紙「損害額(販売店関係)計算表(裁判所認定)」の「販売店関係の売上額(円)…C」欄記載のとおりであるところ(乙12、13)、被告は販売店に卸売りするに当たり、原則として小売価格を基準卸値の2倍の金額に設定していること(弁論の全趣旨)を踏まえると、販売店における販売額は、その金額の2倍に相当する金額(同別紙の「販売店における販売額(円)」欄記載のとおり)と認めることができる。
 以上に対し、被告が通販サイトにおいて小売りした被告商品については、被告が実際に販売した金額(別紙「損害額(通販サイト関係)計算表(裁判所認定)」の「通販サイト関係の売上額(円)」欄記載の金額。乙13)をもとに算定することになる。
e 上記a及びbで判示した諸事情を考慮しつつ、乙14を参考にすると、本件の使用料率は次の通り認定するのが相当である(別紙「損害額(販売店関係)計算表(裁判所認定)」及び「損害額(通販サイト関係)計算表(裁判所認定)」の「使用料率」欄参照)。
(a) 被告イラストの使用割合、ないし売上げへの寄与が比較的高いもの 小売価格の5%
 被告商品4、16、18、21
(b) 被告イラストの使用割合、ないし売上げへの寄与が比較的小さいもの 小売価格の3%
 被告商品19
(c) 被告イラストの使用割合、ないし売上げへの寄与が極めて小さいもの 小売価格の2%
 被告商品5
(d) 被告イラストの使用割合、ないし売上げへの寄与が平均的なもの 小売価格の4%
 上記(a)ないし(c)記載の商品以外のもの
f 上記d及びeをもとに著作権法114条3項に基づく損害の額を算定すると、次のとおりとなる。
(a) 被告が販売店に販売した商品に係る分
 別紙「損害額(販売店関係)計算表(裁判所認定)」の右下欄記載のとおり、合計121万9681円となる。
(b) 被告が通販サイトにおいて小売価格で販売した商品に係る分
 別紙「損害額(通販サイト関係)計算表(裁判所認定)」の右下欄記載のとおり、合計3889円となる。
(c) 以上より、著作権法114条3項に基づく損害は、合計122万3570円である。
(2)慰謝料
 本件で認定した被告の行為態様が、原告イラストを複製又は翻案した被告イラストを多種多様な衣類等に付して幅広く販売し、被告商品の写真を被告が運営するホームページにアップロードするというものであること、原告イラストと被告イラストとが類似又は酷似しているにもかかわらず、被告は、本件訴訟で著作権侵害等を争っていること、他方で、被告は、被告イラストを商業的に利用しているのであって、原告イラストを揶揄したりすることを目的に翻案等しているのではないこと、以上の点を指摘することができるのであり、その他の本件に現れた一切の事情を総合すると、原告の著作者人格権侵害による慰謝料は30万円と認めるのが相当である。
(3)弁護士費用
 原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人弁護士に委任したところ、被告の著作権及び著作者人格権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は15万円と認めるのが相当である。
(4)小括
 以上より、被告の著作権及び著作者人格権侵害による原告の損害額は、合計167万3570円である。
 なお、原告は訴状送達日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求しているが、被告は訴状送達後にも被告商品を販売等しているから、訴状送達日の翌日までに不法行為がされたものと、その後に不法行為がされたものとを区別する必要がある。
 そのような観点から検討すると、本件では被告商品の製造日は不明であるから、販売日を不法行為日とみるほかなく、訴状送達日の翌日より後に不法行為がされたものは、別紙「平成28年9月9日以降の販売一覧表」記載のとおりであり(同別紙の「原告の損害」欄の金額は1円未満を四捨五入したものである。)、同表記載の各販売分に係る損害を時系列順に並べると、別紙「遅延損害金一覧表」記載のとおりとなり、同別紙の「元金」欄記載の各金額については「起算日」欄記載の各日が遅延損害金の起算日となる。
 他方で、著作権法114条3項に基づくその余の損害に係る賠償支払債務は、訴状送達日の翌日までには遅滞に陥っていたと認められる。また、訴状送達日の翌日までに、被告商品の大半が販売されていたことを踏まえると、慰謝料と弁護士費用に係る損害についても、訴状送達日の翌日までには遅滞に陥っていたと認めるのが相当である。したがって、これらについては、訴状送達日の翌日を遅延損害金の起算日とすべきである。
6 以上より、原告の請求は主文第1項ないし第4項記載の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の請求は理由がないから、いずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、原告は主文第1項ないし第3項についても仮執行の宣言を付すことを求めているが、相当でないので、これを付さないこととする。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 野上誠一
 裁判官 島村陽子


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別紙2
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