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【事件名】ブライダルビデオの著作権侵害事件
【年月日】平成31年3月25日
 大阪地裁 平成30年(ワ)第2082号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成31年1月29日)

判決
原告 P1
被告 株式会社Bee
同訴訟代理人弁護士 佐藤進
被告 P2
被告 P3
被告 P4
被告 P5
上記4名訴訟代理人弁護士 紫牟田洋志
同 隈慧史


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙被告らビデオコンテンツ目録記載の著作物を複製し、頒布してはならない。
2 被告らは、別紙被告らビデオコンテンツ目録記載の著作物を廃棄せよ。
第2 事案の概要
1 請求の要旨
 本件は、原告が、自己が著作権及び著作者人格権を有する別紙被告らビデオコンテンツ目録記載の著作物について、被告らが複製、頒布するおそれがあると主張して、被告らに対し、@著作権(複製権、頒布権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、公表権)に基づき、同目録記載の著作物の複製、頒布の差止めを求める(著作権法112条1項)とともに、A同目録記載の著作物の廃棄を求めた(同条2項)事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠又は弁論の全趣旨より容易に認められる。なお、本判決において書証を掲記するときは、枝番号の全てを含む場合はその記載を省略する。)
(1)原告は、「●(省略)●」の屋号で映像制作等を業として営む者である(甲1ないし3、24)。
 被告株式会社Bee(以下「被告Bee」という。)は、映像企画制作及び映像演出並びにブライダル等プロデュース等を業とする会社であり(甲4)、平成20年12月8日、福岡市でホテル「グランドハイアット福岡」(以下「本件ホテル」という。)を経営する株式会社エフ・ジェイホテルズ(元ジー・エイチ福岡株式会社。以下「エフ・ジェイホテルズ」という。)から、本件ホテルで開催される婚礼等のビデオ撮影等について業務委託を受け(甲9)、遅くとも平成26年11月29日以降、本件ホテルで開催される挙式及び披露宴のビデオ撮影を原告に委託してきた。
(2)原告は、平成26年11月29日に本件ホテルで開催された被告P2及び被告P3の挙式及び披露宴、並びに平成27年4月18日に本件ホテルで開催された被告P4及び被告P5の挙式及び披露宴(以下、これらの被告4名を「被告P2ら」という。)について、被告Beeの委託に基づきビデオ撮影し、撮影した映像のデータ(別紙被告らビデオコンテンツ目録記載3のうち「原告が被告ビーに寄託した被告P2及び被告P4に関する撮影著作物」がこれに当たる。以下、これを「原告撮影ビデオ」という。)を被告Beeに納品した。被告Beeは、原告から納品された映像のデータ(原告撮影ビデオ)を編集する等して、別紙被告らビデオコンテンツ目録記載1及び2の「記録ビデオ」(以下「本件記録ビデオ」といい、原告撮影ビデオと併せて「本件ビデオ」という。)として完成させて、エフジェイホテルズの委託の下、被告P2らに対してそれぞれの記録ビデオの複製物を納品した。
3 主な争点
(1)著作権侵害のおそれの有無
ア 原告が本件ビデオの著作権を有するか
(ア)原告は、被告Beeに対し、原告撮影ビデオの著作権を譲渡したか(争点1)
(イ)被告Beeは著作権法29条1項により本件ビデオの著作権を取得したか(争点2)
イ 被告Beeによる本件ビデオの複製について原告が許諾したか(争点3)
ウ 被告らが本件ビデオを複製、頒布するおそれがあるか(争点4)
(2)著作者人格権侵害のおそれの有無(争点5)
第3 主な争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告は、被告Beeに対し、原告撮影ビデオの著作権を譲渡したか)について
【被告らの主張】
 原告と被告Beeとの間においては、記録ビデオ作成の基になるビデオ撮影業務のみの委託が行われていたところ、撮影ビデオは、新郎新婦及びその家族の利用に供するためだけに撮影されたもので、原告がその著作権を留保することに意味があるようなものではなく、被告Beeが一たび原告の撮影したビデオを受領すれば、それを原告に返還することは予定されておらず、原告は、被告Beeが自由に編集等を行うことを承諾していたのであるから、原告と被告Beeとの間では、撮影委託費等の支払をもって、原告が撮影したビデオの著作権を被告Beeに包括的に譲渡する旨の合意が成立していたというべきである。
 したがって、原告は、被告Beeに対し、原告撮影ビデオの著作権を譲渡している。
【原告の主張】
 否認する。原告は、被告Beeに対し、第三者の利益を侵害することなく適法に原告が撮影したビデオを利用する場合に限ってその利用を許諾したが、その著作権を譲渡する合意はしていない。
2 争点2(被告Beeは著作権法29条1項により本件ビデオの著作権を取得したか)について
【被告らの主張】
(1)本件記録ビデオは、映画の著作物であるところ、エフ・ジェイホテルズから委託を受けてこれを完成させる法律上の義務を負ったのは被告Beeである。また、実際にも被告Beeは、事前に新郎新婦との打合せを行い、その具体的要望を聴取した上で、映像の構成を創り上げ、また、当日の撮影では、原告に対して撮影場所、撮影時間を指示するとともに撮影内容についても適宜指示を行い、さらに原告からの撮影ビデオの納品後には、編集・複製を実施して記録ビデオを完成させ、期限までに納品する等、製作の全過程を通じて指揮を行っている。これに対し、原告は、被告Beeから指示を受けて撮影を実施するにすぎない。
 さらに、被告Beeは、本件記録ビデオを製作する際に生じる製作費を全て負担しており、原告に対する撮影委託費等も支払っているから、経済的な収入・支出の主体である。
 したがって、被告Beeは、本件記録ビデオの製作に発意と責任を有するものであるといえ、「映画製作者」に当たる。
(2)そして、原告は、被告Beeによる本件記録ビデオの製作に参加することを約束して撮影業務を行ったのである。
(3)したがって、被告Beeは、著作権法29条1項により、本件記録ビデオの著作権はもとより、その中間成果物的著作物である原告撮影ビデオの著作権も有する。
【原告の主張】
 被告らの主張は争う。
 原告は、映像制作を業として営む個人事業主として被告Beeを知る知人からの依頼で撮影業務を引き受けたものであり、被告Beeの指揮監督下で業務を行ったものではない。原告は、被告Beeから入館証の提供を受けることなく、個人事業主として本件ホテルに入館した。
 被告Beeからは撮影業務に対する指示はなく、当日の日時の連絡があるだけであり、原告は、自己の裁量により撮影していた。原告は、被告P2らについての撮影業務について、被告Beeから事前の説明を受けたことはなく、必要な撮影機材を持参した上で、自分で考えて当日2時間前に現場に入り、ホテル備付けの撮影設備を操作するなどして撮影を行っており、現場には被告Beeの管理者はいなかった。このように、原告は、本件ビデオを製作する工程全ての決定権を有するプロデューサー業務を行う者であり、撮影機材も全て自己の負担で準備し、当日の新郎新婦やホテル側との現場の打合せ等も全て行い、自ら撮影プランを立てた上、本番で突発的に生じる事態にも対応しつつ、美しい映像となるためのさまざまな創作的工夫をして撮影を行い、音響面での演出も考慮して監督・演出的業務も行っており、映像に映る会場での参加者の所作、装飾品の飾り方等の助言を行う美術業務も行っている。これに対し、被告Beeが行う編集作業は、原告撮影ビデオの余分な部分を削除するだけの単純な作業にすぎない。
 したがって、被告Beeは、本件記録ビデオの「映画製作者」ではない。
3 争点3(被告Beeによる本件ビデオの複製について原告が許諾したか)について
【被告Beeの主張】
 仮に原告が本件ビデオ(原告撮影ビデオ及びこれを編集して作成された本件記録ビデオ)の著作権を有しているとしても、原告撮影ビデオは、被告Beeにおいて編集してエフ・ジェイホテルズに納品することを原告も熟知しているから、被告Beeにおいてその複製、編集、使用、処分を行うことは当然の前提であり、原告は、被告Beeに対して本件ビデオの複製、頒布を許諾していた。
【原告の主張】
 原告は、被告Beeに対し、第三者の利益を侵害することなく適法に本件ビデオを利用する場合に限ってその利用を許諾したが、被告Beeは、本件ビデオに収録されている楽曲の著作権等について、適法な処理をしていると述べていたにもかかわらず、そのような処理をせずに本件ビデオを利用しているから、許諾の範囲外である。
4 争点4(被告らが本件ビデオを複製、頒布するおそれがあるか)について
【原告の主張】
(1)被告Beeは、現在も本件ビデオを保持し続けているから、本件ビデオを複製、頒布するおそれがある。本件ビデオは既に廃棄した旨の被告Beeの主張は否認する。
(2)被告P2らは、本件記録ビデオを記録したDVD等を所持しており、それにコピープロテクションは施されていないから、パソコン等を用いて容易に複製することができる。そして、近時は、挙式・披露宴会場のサービスでも、参加者が撮影した写真をSNSサービスに投稿してコメントをつけることを多くの新郎新婦が利用しているから、被告P2らは本件ビデオを複製、頒布するおそれがある。
【被告Beeの主張】
 被告Beeでは、原告から納品された原告撮影ビデオを編集して記録ビデオを作成した後は、原告撮影ビデオのデータを廃棄している。また、記録ビデオのデータも、2年間は保存することとしている(顧客との契約ではDVDで1年間保存することとなっている。)が、本件記録ビデオのデータは既に期間経過により廃棄している。したがって、原告撮影ビデオ及び本件記録ビデオのデータについては、被告Beeでは全て廃棄しているから、被告Beeにはそれらを複製、頒布するおそれがない。
【被告P2らの主張】
 被告P2らは、本件記録ビデオについて、原告が主張するようなパソコン等を用いた複製、頒布やSNSへの投稿をしたことはなく、今後も予定していないから、被告P2らが本件記録ビデオを複製、頒布するおそれはない。
5 争点5(著作者人格権侵害のおそれの有無)について
【原告の主張】
 原告は、別紙被告らビデオコンテンツ目録記載の著作物について著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、公表権)を有しているところ、被告らは、それらを複製、頒布することにより、原告の著作者人格権を侵害するおそれがある。
【被告らの主張】
 争う。原告は、被告Beeが本件記録ビデオを製作するに当たり、適宜編集し、原告の氏名を表示しないことを承諾していた。また、被告らは本件記録ビデオを公表していない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実に加え、後掲書証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)被告Beeは、平成20年12月8日、エフ・ジェイホテルズ(元ジー・エイチ福岡株式会社)から、本件ホテルで開催される婚礼等のビデオ撮影等について業務委託を受け(甲9)、社内の人間だけでは撮影業務をこなせないことから、複数の外部業者に撮影業務を委託するようになり(甲18、37)、原告については、遅くとも平成26年11月29日以降、ビデオ撮影を原告に委託するようになった。
(2)新郎新婦が婚礼ビデオの作成を希望するときは、「映像お申込み書」により被告Beeに申込みをし、被告Beeにおいて新郎新婦と打合せを行い、その意向を聴取する(甲11、文書提出命令申立てに係る疎甲1)。その際、被告Beeでは、挙式等を撮影したビデオとは別に、新郎新婦の依頼により、披露宴の中で上映する「オープニングムービー」、「プロフィールビデオ」、「フォトムービー」、「エンドロール」の製作も別途受注していた(甲26、疎甲1)。
(3)その後、被告Beeは、原告に対し、申込みのあったビデオの撮影を依頼し、挙式及び披露宴の日時と場所を連絡するとともに、新郎新婦からの特段の依頼があれば、特記事項として、「映像演出はすべてノーカットでみている人を撮影してください。」などと連絡していた(甲22、23)。
(4)原告は、撮影当日、会場に自己が保有する撮影機材(甲27ないし29、33ないし35)を持参して会場に入り、新郎新婦と撮影の打合せをした上で、会場に設置されたリモートカメラの操作も行い、挙式及び披露宴の様子を撮影した(甲30ないし32)。原告は、撮影に当たっては、自ら撮影プランを立てた上、本番で突発的に生じる事態にも対応しつつ、音響面での演出も考慮して、美しい映像となるための様々な工夫をして撮影を行い、時には映像に映る会場での参加者の所作、装飾品の飾り方等の助言を行うこともあった(被告P2らの挙式等を撮影したビデオのサムネイルとして甲38)。披露宴では、新郎新婦が指定した楽曲が流されることから、原告が披露宴の様子を撮影するに当たっては、それらの楽曲も収録することになった。
(5)原告は、こうして撮影したビデオについて、撮影データをUSBフラッシュメモリー又はSDカードに記録して、被告Beeに納品した。被告は、このような撮影業務の対価として、原告に対し、1件当たり3万円の撮影料と往復の交通費を支払った(甲20)。
 その後、被告Beeでは、納品された原告が撮影したビデオを編集して記録ビデオを作成し、DVDに記録して被告P2ら新郎新婦に納品していた。被告Beeが原告が撮影したビデオを編集するに当たっては、不要部分を削除するほか、披露宴中で被告Beeが製作したプロフィールビデオが流れる場面では、招待客の様子を主画面に配しつつ、プロフィールビデオの様子を小窓画面に配することや、プロフィールビデオに使用される楽曲について改めて音源から採取して差し込むといった作業を行った(甲26)。
(6)原告が被告Beeから委託を受けて挙式等を撮影する中では、平成27年9月6日の撮影の際に、新婦側の両親を撮影すべきところ、誤って新郎側の両親を撮影するミスをしたため、被告Beeにおいて新郎新婦に謝罪し、ビデオ代金を返金するとともに迷惑料を支払うということがあった(甲37、乙7)。
(7)原告は、同年6月2日に、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「日本音楽著作権協会」という。)との間ではブライダル演出記録用録音・録画物に係る利用許諾契約(甲6、7)を、一般社団法人日本レコード協会との間ではブライダルコンテンツ制作に係るレコード複製許諾契約(甲8)を締結していたが、本件ホテルで行われた披露宴等を録画したビデオに関しては、被告Bee、エフ・ジェイホテルズ及び原告のいずれも日本音楽著作権協会等に著作権料を支払っていなかった。
 そして、原告は、平成29年3月28日、日本音楽著作権協会から、記録用ビデオの利用許諾料として411万円余の請求を受けた(甲10)。
 そこで、原告は、同年5月16日、被告Beeが原告に対して福岡地方裁判所小倉支部に提起していた訴訟について反訴を提起し、披露宴等を録画したビデオを製作するに際して被告Beeが日本音楽著作権協会等に著作権料の支払を行わなかったこと等が不法行為を行使すると主張して損害賠償を請求したが、第一審においても控訴審においても、不法行為の成立を否定して原告の反訴請求を棄却する旨の判決がされた(乙1ないし5、7)。
2 本件で、原告は、被告らに対し、著作権及び著作者人格権に基づき、別紙被告らビデオコンテンツ目録記載の著作物の複製及び頒布の差止めとその廃棄を請求している。
 しかし、1で認定した事実によれば、同目録記載1及び2のうち、「フォトームービー」(「フォトムービー」の誤記と解される。)及び「エンドロール」は、被告Beeが原告の関与なく製作するものであり、それらが著作物であるとしても、原告は著作者ではなく、著作権及び著作者人格権を有するものではないから、それらについて原告が複製、頒布の差止め等を請求することはできない。
 また、同目録記載3のうち、「収録された管理著作物」というのは、披露宴等で使用された楽曲をいうものと解されるが、原告がその著作権及び著作者人格権を有するものではないから、それらについて原告が複製、頒布の差止め等を請求することはできない。
 さらに、同目録記載3のうち、「原告が被告ビーに寄託した被告P2及び被告P4に関する撮影著作物」とは原告撮影ビデオをいうものと解されるが、被告Beeについては編集前のビデオである原告撮影ビデオを今後新たに編集等するとは考え難く、被告P2らについては編集前のビデオである原告撮影ビデオをそもそも有したことがないと考えられるから、被告らがそれを複製、頒布するおそれがあるとは認められない。
 したがって、本件請求のうち上記で検討したものについては、その余の点について検討するまでもなく理由がないから、以下では、同目録記載1及び2のうちの「記録ビデオ」、すなわち本件記録ビデオに係る請求について検討する。
3 著作権に基づく請求について−争点2(被告Beeは著作権法29条1項により本件ビデオの著作権を取得したか)について−
(1)本件記録ビデオは、被告P2らの挙式等の様子を撮影・編集したビデオであり、そのサムネイル画像(甲38)も参酌すると、挙式等が進行する状況に応じた撮影対象の選択や構図等に創作的工夫が施されていると認められるから、著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」であり、同法10条1項7号所定の「映画の著作物」に当たると解される。
 そして、前記1で認定した事実によれば、挙式等の撮影については基本的には原告の裁量に委ねられており、原告は様々な工夫をして撮影をしたと認められるから、原告は、原告撮影ビデオについて、「映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者」(著作権法16条)としてその著作者であると認められ、本件記録ビデオはその複製著作物又は二次的著作物である。
(2)そこで、被告らが主張する著作権法29条1項の適用の有無について検討する。
 著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいい(同法2条1項10号)、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。
 前記1で認定した事実のとおり、本件では、被告Beeは、社内の人間だけでは撮影業務をこなせないことから複数の外部業者に撮影業務を委託するようになり、原告はその外部業者の一人であったことからすると、被告Beeは、各婚礼のビデオ撮影業務の担当を各外部業者に割り振って委託することにより、全体としての婚礼ビデオの製作業務を統括して行っていたといえる。
 また、エフ・ジェイホテルズから委託を受けて、新郎新婦から婚礼ビデオ製作の申込みを受け、その意向を聴取して打合せをするのは被告Beeであり、婚礼ビデオを完成させて納品するのも被告Beeである。また、被告Beeは、原告による撮影に不備があった場合の新郎新婦に対する責任も負担している。そうすると、婚礼ビデオを適切に製作し、納品する義務は、エフ・ジェイホテルズからの委託の下、被告Beeが負っていたといえる。
 加えて、現場での撮影業務自体は基本的には原告の裁量と工夫に委ねられていたが、被告Beeも、新郎新婦に特段の意向がある場合には原告にそれを伝えて撮影の指示を行っており、原告の裁量等も被告Beeからの指示という制約を受けるものであったほか、被告Beeは、婚礼ビデオを完成させるに当たり編集作業を行い、その中では、被告Beeが独自に製作した「プロフィールビデオ」等の上映シーンを加工し、そのBGMを音源から採取して差し込むなど、独自の演出的な編集も行っているから、製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被告Beeであるといえる。
 そして、被告Beeは、原告に対して撮影料と交通費を支払っているほか、それ以外の製作費用も負担しているから、本件記録ビデオの製作に関する経済的な収入・支出の主体となっているのは原告ではなく被告Beeである。なお、被告Beeは、本件記録ビデオに収録された楽曲についての著作権使用料等の支払をしていないが、原告は、本件記録ビデオに収録された楽曲の著作権使用料は被告Beeが負担することとなっていたと主張しており、この主張は、上記のとおり本件記録ビデオの製作に関する経済的な収入・支出の主体が被告Beeであることと符合する(この点については、被告Beeも、別件の福岡地方裁判所小倉支部に提起された事件で原告の上記主張を争うに当たり、結婚式の様子を撮影したビデオ等に結婚式の映像とともに式場で流された音楽が収録された場合に、その音楽について日本音楽著作権協会等に対して著作権使用料を支払うべき義務があるかは法律上確定されているものではなく、支払義務があるとしても、それを原告が支払った場合には求償権の問題が発生すると主張するにとどまり〔乙3、7〕、日本音楽著作権協会等に対する支払義務がある場合にそれを被告Beeが負担すべきことを特段争っていたわけではないと認められる。)。
 以上からすると、本件記録ビデオの製作に発意と責任を有する者は、被告Beeであり、被告Beeは「映画製作者」に当たると認めるのが相当である。
 そして、原告は、被告Beeから委託を受けて原告撮影ビデオの撮影をしたのであるから、被告Beeに対して本件記録ビデオの製作に参加することを約束したものといえる。
 したがって、著作権法29条1項により、本件記録ビデオの著作権は被告Beeに帰属するから、原告は著作権を有しない。
 これに対し、原告は、ビデオ撮影に当たっての自己の負担や工夫をるる主張するが、それらは、原告が著作者であることを基礎付けるものであっても、被告Beeが映画製作者であることを否定するに足りるものではない。
(3)したがって、原告は本件記録ビデオの著作権を有しないから、その著作権に基づく請求は理由がない。
4 争点5(著作者人格権侵害のおそれの有無)について
(1)同一性保持権についてみると、本件記録ビデオは原告撮影ビデオを編集したものであるが、前記1で認定した事実からすると、原告は、被告Beeが原告撮影ビデオを適宜編集することを承諾していたと認められるから、本件記録ビデオは原告の同一性保持権を侵害して製作されたものではない。
 したがって、仮に被告らが本件記録ビデオを複製、頒布するとしても、意に反する改変を行うことにはならないから、同一性保持権の侵害は生じない。
(2)氏名表示権についてみると、氏名表示権は、著作物の「原作品」に、又は「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」、又は「その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際して」、著作者名を表示し又は表示しないこととする権利である(著作権法19条)ところ、原告は、本件記録ビデオが原告の氏名を表示しないままで複製され、頒布されることが氏名表示権の侵害に当たると主張しているものと解される。
 しかし、まず、被告らがそもそも「原作品」たる原告撮影ビデオを複製するおそれが認められないことは先に述べたとおりである。また、著作物又は二次的著作物の「公衆への提供又は提示」とは、特定多数の者に提供又は提示することも含む(著作権法2条5項)が、本件記録ビデオが被告P2らの挙式及び披露宴の様子を収録したものであることからすると、仮に被告らが本件記録ビデオを複製するおそれがあるとしても、被告Beeが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのは被告P2らに限られ、3年以上前に挙式等を行った被告P2らが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのも肉親くらいであり、被告P2らが今後SNSサービスに投稿するおそれがあるとも認められないから、被告らが特定多数の者に対してであっても本件記録ビデオを複製し、頒布するおそれがあるとは認められない。
 したがって、被告らが原告の氏名表示権を侵害するおそれがあるとは認められない。
(3)公表権についてみると、上記(2)で指摘した点に照らせば、被告らが、本件記録ビデオを公表(著作権法4条、3条)するおそれがあるとは認められない。したがって、被告らが原告の公表権を侵害するおそれがあるとは認められない。
(4)したがって、被告らが原告の著作者人格権を侵害するおそれがあるとは認められない。
5 原告のその他の主張について
 原告は、本件において、本件ビデオに収録された楽曲の著作権使用料を被告Beeが負担することとなっていたにもかかわらず、被告Beeがそれを支払っていない結果、本件ビデオは楽曲を違法に使用されたものであると主張する。しかし、仮に原告の主張がそのとおりであるとしても、そのことは、原告の著作権の有無や被告らの侵害行為のおそれの有無に影響を及ぼすものではないから、上記の判断を左右するものではない。
 なお、原告による被告P2らの本人尋問申請については、本件ビデオの収録楽曲の著作権等使用料を被告Beeが支払っていない点や原告の損害額を主たる尋問事項とするものであり、また、原告による文書提出命令申立ても、原告の損害額を立証趣旨とするものであって、いずれも上記の認定判断に影響を及ぼすものではないから、当裁判所は必要性を欠くものとしてこれらを却下した次第である。
6 まとめ
 以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松宏之
 裁判官 野上誠一
 裁判官 大門宏一郎


(別紙)被告らビデオコンテンツ目録
1 平成26年11月29日に行われたP2及びP3の挙式・披露宴のために制作された、「フォトームービー」、「エンドロール」、「記録ビデオ」ビデオグラム
2 平成27年4月18日に行われたP4及びP5の挙式・披露宴のために制作された、「エンドロール」、「記録ビデオ」ビデオグラム
3 原告が被告ビーに寄託した被告P2及び被告P4に関する撮影著作物及び収録された管理著作物の全て
 以上
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