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【事件名】水尾PR動画事件(2)
【年月日】平成31年3月14日
 大阪高裁 平成30年(ネ)第1709号 映像著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・京都地裁平成28年(ワ)第2247号)
 (口頭弁論終結日 平成30年12月14日)

判決
控訴人(一審原告) 株式会社ビジョンエース
同訴訟代理人弁護士 南出喜久治
被控訴人(一審被告) 株式会社たにぐち(以下「被控訴人会社」という。)
被控訴人(一審被告) P1(以下「被控訴人P1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 坂本正壽
同 津田政典


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、原判決別紙著作権目録記載の著作物たる静止画像及び映像動画の一部又は全部を、自ら又は親族・関連会社・顧客その他の第三者をして、コンピュータネットワークを相互接続したネットワークによるコミュニケーションツール(インターネット及びメール等)への掲載及び閲覧あるいは複製の上直接頒布及び閲覧等の方法を用いて使用し又は同様の方法により使用させてはならない。
3 被控訴人らは、原判決別紙著作権目録記載の著作物を廃棄せよ。
4 被控訴人らは、控訴人に対し、1406万7000円及び平成22年5月1日から前記2及び3の履行完了まで月1万円の割合による金員を支払え。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 控訴人の請求と裁判の経過
 本件は、控訴人が、被控訴人らに対し、原判決別紙著作権目録(以下「本件目録」という。)記載一の1から9まで、同二及び同三の各映像(DVDに記録された映画)並びに同四の1及び2の各写真(以下、併せて「本件各著作物」という。)について、控訴人が著作権を有しているとした上で、被控訴人らが被控訴人会社のウェブサイトに掲載(公衆送信)するなどして控訴人の著作権を侵害していると主張して、著作権法112条に基づく本件各著作物の複製、使用の差止め、不法行為に基づく損害賠償金1406万7000円及び平成22年5月1日(不法行為の日)から使用の中止及び著作物の廃棄まで月1万円の割合による金員(ただし、月20万円の割合による金員の一部)の支払を求めている事案である。
 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したが、これを不服とした控訴人が控訴を提起した。
2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められ、本件の争点を判断する前提となるものである。
(1)当事者等(弁論の全趣旨)
ア 控訴人は、放送番組の企画及び制作等を目的とする株式会社である。
イ 被控訴人会社は、菓子、酒類、茶、清涼飲料水等の製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
 被控訴人P1は、平成27年4月27日まで、被控訴人会社の代表取締役であった者である。
ウ P2は、粘着テープの販売業及び印刷業を目的とする会社を経営している。(証人P22頁)
(2)組合の成立(甲36、73)
 控訴人の代表者であるP3、被控訴人P1及びP2は、それぞれ出資をして、ゆず姫有限責任事業組合契約(以下「本件組合契約」という。)を締結し、平成21年8月6日にゆず姫有限責任事業組合(以下「本件組合」という。)が成立した。
 本件組合は、有限責任事業組合契約に関する法律に基づくものであり、法人格はない。
(3)ゆずの里映像等の製作(甲4〜7、21〜29、弁論の全趣旨)
 P3は、平成22年4月頃までに、本件目録記載一の1から9までの映像(以下、これらの映像を総称する場合は「本件ゆずの里映像」といい、上記各映像に係るデータを媒体に記録したもの〔映画の著作物〕を併せて、便宜上「本件各ゆずの里映像」という。なお、本件ゆずの里映像の静止画である同目録記載四の1のデジタル写真を「本件写真1」、同じく同目録記載四の2のデジタル写真を「本件写真2」、本件写真1と本件写真2を併せて「本件各写真」、本件各ゆずの里映像と本件各写真を併せて「本件各ゆずの里映像等」という。)の素材を撮影した。
 控訴人は、P3が上記映像を編集して作成した本件目録一の1の映像を記録したDVDを製作し、平成21年5月20日、被控訴人P1に対し、上記DVDを交付した。
 控訴人は、本件各写真を被控訴人P1に交付するほか、上記と同様の方法によって、本件各ゆずの里映像(本件目録一の2〜9)を記録したDVDを製作し、本件各写真とともに、被控訴人P1もしくは本件組合に交付した。
 なお、これら本件各ゆずの里映像の著作権の帰属については、争いがある(本件各写真の著作権については、控訴人に帰属することに争いがない。)。
(4)被控訴人らによる本件各ゆずの里映像等の使用(甲4、6、7、15、21〜29、37、38、弁論の全趣旨)
 被控訴人らは、平成21年8月頃から少なくとも平成28年10月15日までの間、被控訴人会社の通販サイトに本件各ゆずの里映像のうちのいずれかを掲載し、また、前記通販サイトの2か所に本件写真1を掲載して公衆送信した。
 被控訴人らは、平成21年8月頃から少なくとも平成27年8月頃までの間、被控訴人会社のウェブサイトに本件各ゆずの里映像のうちのいずれかを掲載し、平成22年3月頃、上記ウェブサイトの1か所に本件写真2を掲載して公衆送信した。
(5)貴船神社映像の製作(甲30、弁論の全趣旨)
 P3は、平成25年8月頃から平成26年4月頃、本件目録記載二の映像(以下、上記映像に係るデータを媒体に記録したもの〔映画の著作物〕を便宜上「本件貴船神社映像」という。)の素材を撮影した上、これを編集して本件貴船神社映像を作成し、控訴人は、上記映像を記録したDVDを製作した。
(6)P4さん映像の製作(甲31、弁論の全趣旨)
 被控訴人会社は、平成24年9月以降、中国市場への菓子販売を目的として、中国向けウェブサイトに掲載する映像の製作を控訴人に依頼した。
 P3は、上記被控訴人会社の依頼に基づき、本件目録記載三の映像(以下、上記映像に係るデータを媒体に記録したもの〔映画の著作物〕を便宜上「本件P4さん映像」という。)の素材を撮影し、これを編集して本件P4さん映像を作成し、控訴人は、上記映像を記録したDVDを製作し、被控訴人会社に対し、平成25年1月28日ころ、これを納品した。
(7)被控訴人会社によるP4さん映像の使用
 被控訴人会社は、平成25年頃、本件P4さん映像を、中国市場への菓子販売の目的で、被控訴人会社のウェブサイトに掲載して公衆送信した。
3 争点
(1)本件各ゆずの里映像等について
ア 著作権の帰属(争点1)
イ 著作権の譲渡の有無(争点2)
ウ 使用許諾の有無(争点3)
(2)本件貴船神社映像について複製、使用の有無(争点4)
(3)本件P4さん映像について
ア 複製、使用の有無(争点5)
イ 著作権の譲渡の有無(争点6)
ウ 使用許諾の有無(争点7)
(4)控訴人に生じた損害の額(争点8)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件各ゆずの里映像の著作権の帰属)について
【控訴人の主張】
 控訴人は、本件各ゆずの里映像等を製作し、その著作権を原始的に取得した。
【被控訴人らの主張】
 本件ゆずの里映像等のうち本件各写真を除く本件各ゆずの里映像は、映画の著作物であり、その製作に発意と責任を有する者(著作権法2条1項10号)は本件組合である。本件組合は、平成21年7月15日には活動を開始しており、著作者であるP3(控訴人代表者)は、映画製作者たる本件組合に対し、本件各ゆずの里映像のうち、本件目録一の3から9までについて、「製作に参加することを約束して」同映画を製作した。したがって、著作権法29条1項の適用により、本件各ゆずの里映像のうち上記7編の著作権は、映画製作者たる本件組合に帰属すべきところ、本件組合は法人格を有しないから、各組合員に合有的に帰属することになる。
 本件各ゆずの里映像のうち、本件目録一の1及び2の2編の著作権についても、遅くとも平成21年7月15日をもって、上記同様に、著作権法29条1項の適用により、各組合員に合有的に帰属する。
 したがって、控訴人は本件各ゆずの里映像について、著作権を有しない。
(2)争点2(本件各ゆずの里映像等の著作権の譲渡の有無)について
【被控訴人らの主張】
 仮に本件各ゆずの里映像の著作権が控訴人に帰属するとしても、控訴人は、被控訴人P1に対し、本件各写真を含め、本件各ゆずの里映像等の著作権を譲渡した。
【控訴人の主張】
 否認する。控訴人は被控訴人P1に上記著作権を譲渡していない。
ア 控訴人は、被控訴人らからの依頼を受けて、本件各ゆずの里映像等を製作した。
イ 本件各ゆずの里映像等の撮影期間や製作費用を踏まえれば、控訴人が被控訴人らに対して無償で本件各ゆずの里映像等を譲渡するはずはない。
(3)争点3(本件各ゆずの里映像の使用許諾の有無)について
【被控訴人らの主張】
 仮に本件各ゆずの里映像の著作権が控訴人に帰属するとしても、控訴人は、被控訴人らに対し、本件各写真を含め、本件各ゆずの里映像等の使用を許諾した。
ア 包括的使用許諾
 P3は、平成21年6月7日、被控訴人P1に対し、「水尾のゆずの紹介映像を製作したので、無償で提供する。水尾の振興活動に役立ててもらいたい。」旨述べて、本件各ゆずの里映像のいずれかが記録されていたDVDを交付した。
イ 個別的使用許諾
 P3、被控訴人P1及びP2は、平成21年8月20日の打合せにおいて、本件各ゆずの里映像等の被控訴人会社の通販サイト及びウェブサイトに掲載することを決定し、その後、P3は、本件各ゆずの里映像等のデータを被控訴人らに交付した。このことは、同年10月5日の被控訴人会社の会議の議事録にも記載されている。
【控訴人の主張】
 いずれも否認する。
(4)争点4(本件貴船神社映像の複製、使用の有無)について
【控訴人の主張】
 被控訴人らは、次のとおり、本件貴船神社映像を複製、使用した。
ア 控訴人は、被控訴人らから、被控訴人会社の販売する商品の販売促進を図るためのイメージ映像の製作を依頼されて本件貴船神社映像を製作し、平成25年10月21日、被控訴人P1に納品した。
イ 被控訴人らは、京都の行政機関や産業界等から助成金や優遇措置を得るための申請やプレゼンテーションにおいて使用したり、営業活動において配布ないし貸出等の方法による販売促進において活用したりする目的で、本件貴船神社映像を複製、使用している。
【被控訴人らの主張】
 否認する。被控訴人らは、本件貴船神社映像を複製、使用していない。
ア 控訴人は、被控訴人会社からの紹介により、貴船神社及び同神社奉賛会からの依頼を受けて、本件貴船神社映像を製作した。
イ 被控訴人らは、控訴人に対し、本件貴船神社映像の製作を依頼したことも控訴人から納品を受けたこともない。
(5)争点5(本件P4さん映像の複製、使用の有無)について
【控訴人の主張】
 被控訴人らは、本件P4さん映像を、被控訴人会社のウェブサイトに掲載する以外にも、販売促進活動におけるプレゼンテーションで上映し、DVDにして頒布ないし貸出すなどの行為を行って、これを複製、使用している。
【被控訴人らの主張】
 否認する。被控訴人らは、本件P4さん映像を、被控訴人会社のウェブサイトに掲載する以外には、複製したことも使用したこともない。
(6)争点6(本件P4さん映像の著作権の譲渡の有無)について
【被控訴人らの主張】
 控訴人は、次のとおり、被控訴人会社に対し、本件P4さん映像の著作権を譲渡した。
ア 被控訴人会社は、平成24年度京都企業中国市場開拓支援事業補助金の交付決定通知を受けたことから、中国での取引を行うことになった。
イ そこで、被控訴人会社は、中国向けウェブサイトに掲載する映像として本件P4さん映像の製作を控訴人に委託し、平成24年12月20日に上記映像製作委託料として18万円の請求を受け、同月28日に同額を控訴人に支払い、平成25年1月28日に納品を受けた。
【控訴人の主張】
 否認する。控訴人は、被控訴人会社に対し、本件P4さん映像の著作権を譲渡していない。
ア 控訴人が、被控訴人会社から、18万円の支払を受けたことは認める。
イ しかし、上記支払は、本件P4さん映像の著作権の対価ではなく、映像製作の報酬でもない。
(7)争点7(本件P4さん映像の使用許諾の有無)について
【被控訴人らの主張】
 上記(6)【被控訴人らの主張】ア、イの事実に照らすと、控訴人は、被控訴人P1に対し、本件P4さん映像を使用することを許諾したといえる。
【控訴人の主張】
 否認する。
(8)争点8(控訴人に生じた損害の額)について
【控訴人の主張】
 控訴人は、被控訴人らの前記各著作権侵害行為により、本件各著作物の製作原価、すなわち、本件各ゆずの里映像等については1213万9200円、本件貴船神社映像については89万6400円及び本件P4さん映像については103万1400円の損害を受けた。
 また、被控訴人らは、平成22年5月から本件各著作物の利用を停止するまでの間、月20万円の利益を得ている。
【被控訴人らの主張】
 否認ないし争う。
 本件各著作物の製作原価が損害となる理由がない上、原告が製作原価の根拠としている請求書は、明らかに過大であり、全く根拠のないものである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)被控訴人P1が取り組んでいた活動等
ア 被控訴人P1は、平成6年、中小企業の経営者の交流会である京都中小企業家同友会右京支部に入会し、平成16年頃から、過疎化が進む京都市右京区嵯峨水尾地域(以下、単に「水尾」ともいう。)の振興活動に取り組んでいた。具体的には、水尾の柚子を用いた菓子の製造・販売を通じて、水尾のPRをしようと考え、平成19年の年末から、被控訴人会社において、商品開発に着手し、その後、原材料の加工、包装やチラシのデザイン等を業者に発注するなどした。(乙37、弁論の全趣旨)
イ 被控訴人会社は、平成20年に、被控訴人会社の創業100周年記念パーティーを開催した。被控訴人P1は、その際に上映する映像の製作を業者(控訴人とは別業者)に依頼した関係で、担当者であったP3(現在の控訴人代表者)と知り合い、その後、頻繁に会うようになった。(甲71、乙37)
ウ 被控訴人P1が、P3に水尾の振興活動について話したところ、P3は、これに興味を持った。これにP2が加わり、それぞれが得意分野を持ち寄って、水尾の振興活動に係る事業を進めていくということになった。(証人P22頁、弁論の全趣旨)
(2)本件組合の成立に至る経緯(事業の準備)
ア P3は、水尾のイメージ映像を製作することを想定し、水尾の歴史等の情報をインターネット等で調査し、映像作成のための準備を行い、平成21年4月、ブランドコンセプト案及びネーミング案を被控訴人P1に提出した。そして、同年5月から、水尾のビデオ撮影が行われ、控訴人は、同月26日までに、水尾の風景等を撮影したDVDを被控訴人P1に交付した。(甲71)
イ 控訴人は、平成21年5月30日付け納品書(水尾のゆず姫パッケージデザイン5種一式28万円、水尾柚子の里PVプロモーションDVD取材、編集一式20万円、特別値引4000円、合計47万6000円と記載されたもの)及び同日付け請求書(税込合計金額49万9800円などと記載されたもの)を作成し、被控訴人会社に送付した。(甲3)
 これに対し、被控訴人会社は、平成21年7月1日、49万9800円を控訴人に支払った。(甲56)
ウ 被控訴人P1、P3及びP2は、どのような形で事業を行うかについて協議した結果、有限責任事業組合を設立することとした。
 そして、水尾の振興活動では、名産品である柚子を対外的にアピールすることに重点を置くこととし、「ゆず姫」という名称を使用することとなった。(弁論の全趣旨)
(3)本件組合の成立等
ア 被控訴人P1、P3及びP2は、それぞれ20万円を出資して、本件組合契約を締結し、平成21年8月6日に本件組合が成立した。(前提事実(2))
 本件組合の事業は、水尾の産品を利活用した加工食品の製造販売等である。また、本件組合契約には、本件組合の事業に関連して発生した費用は、第三者がこれを負担すべきものを除き、組合財産より支払われるものとし、組合員の固有財産より支払うことはできないとの定め(第19条)がある。(甲36、73)
イ 事業の具体的な内容としては、被控訴人会社が水尾の材料を加工した菓子を製造し、これを本件組合が購入し、第三者に販売するということが念頭に置かれていた。(証人P217頁)
(4)本件組合のウェブサイトの製作等(本件各ゆずの里映像等の使用)
ア 事業を展開するに当たり、広報活動用に名刺を作成することが決まり、本件組合のウェブサイトを製作して水尾の映像を閲覧できるようにし、そのURLを名刺に記載することになった。
イ しかし、本件組合には、レンタルサーバー料や独自ドメインの取得料金を支払って、自前のウェブサイトを製作するような資金はなかった。そこで、被控訴人会社は、水尾の映像を閲覧するためのウェブページを、被控訴人会社のウェブサイトと同一ドメインの下層ページに、無償で製作した。
 そして、このURLを名刺に記載した。(乙12、13)
ウ 上記の経緯の中で、被控訴人らは、平成21年8月頃、水尾の映像(本件各ゆずの里映像のうちいずれか)を、被控訴人会社の上記ウェブサイトに掲載して公衆送信した。(前提事実(4))
エ 被控訴人らは、平成21年8月頃、通販サイト(楽天市場内の「京都お菓子の部屋」)の、被控訴人会社の柚子製品を取り扱うページにも水尾の映像と静止画像(本件写真1)を掲載して公衆送信した。(前提事実(4))
オ 被控訴人らは、京都府の企業認証制度である「知恵の経営」に応募し、京都府宛てに提出する「知恵の経営報告書2010」を作成し、これを被控訴人会社のウェブサイトに掲載して公衆送信したが、その中に、水尾の静止画像(本件写真2を含む。)が含まれていた。(甲15、37、38、45)
(5)その後の状況等
ア 平成21年10月5日、被控訴人会社の第5回企画会議が開催された。同会議上、ゆず姫シリーズについて、P3が、ホームページ用映像が記録されたDVD(本件各ゆずの里映像のうち第5版)及び商品画像データを被控訴人らに交付した旨が報告された。(乙21、控訴人代表者26、27頁)
イ 控訴人は、上記DVDに修正を重ねるなどし、第9版(本件目録一の9の映像が記録されたDVD)までを平成22年5月11日までに被控訴人らに交付した。(甲72、弁論の全趣旨)
ウ P3は、遅くとも平成23年1月26日には、本件各ゆずの里映像等の一部が通販サイトにも掲載されていることを確認した。(甲4、控訴人代表者17頁)
エ 控訴人は、本件ゆずの里映像に関して、平成28年2月4日付けの請求書2通(合計金額684万7200円のものと、合計金額529万2000円のもの。)を被控訴人会社に送付した。(甲32、33)
 なお、控訴人は、それまで、被控訴人らに対し、本件ゆずの里映像に関して、費用ないし報酬等の請求をしたことはなかった。(弁論の全趣旨)
(6)本件各ゆずの里映像を記録したDVDの内容
ア 本件目録記載一の1から4までを記録したDVDについて
 いずれも「ゆず姫有限責任事業組合」の記載はなく、本件目録記載一の1(以下、「初版」ともいい、順次、第2版から第9版という。)については、柚子の映像がつぼみの状態のもので、第2版については、柚子の映像が開花したものである。第3版及び第4版については、第2版の映像を修正したものである。(甲21〜24)
イ 本件目録記載一の5を記録したDVDについて
 第5版の映像の内容は、第2版を基本としたものであるが、映像の冒頭とDVDの表面に「ゆず姫有限責任事業組合」との記載がある。(甲25)
ウ 本件目録記載一の6から8までを記録したDVDについて
 第6版の映像は、前編(つぼみから開花まで)と後編(結実から収穫まで)とに分かれ、映像の冒頭とDVDの表面に「ゆず姫有限責任事業組合」との記載がある。(甲26〜28)
 さらに、第7版のDVDの表面には「ゆず姫有限責任事業組合」との記載の前に「製作著作」との記載があり、映像は、前編と後編が連続して再生される。(甲27)
 第8版の映像の冒頭には、ゆず姫のアニメーションが入る。また、DVDの表面には「ゆず姫有限責任事業組合ロゴアニメ入り」との記載がある。(甲28)
エ 本件目録記載一の9を記録したDVDについて
 第9版の映像は、それまでの版の映像にはなかった季節の水尾の情景(雪の降る冬景色から春のつぼみまで)を撮影したものである。また、DVDの表面には「ゆず姫有限責任事業組合ロゴアニメ入り」との記載がある。(甲29)
(7)本件貴船神社映像について
ア 本件貴船神社映像の製作(甲30、弁論の全趣旨)
 被控訴人会社は、貴船神社の奉賛会に加盟していたが、広報のため、同神社のPR映像を製作することが提案され、被控訴人P1は、控訴人に対し、上記PR映像の製作の企画を紹介したところ、控訴人が、「水の神を祀る・貴船神社」を題材に、貴船神社のイメージ映像を製作することとなった。
 P3は、平成25年8月頃から平成26年4月頃、本件貴船神社映像を作成し、控訴人は、上記映像を記録したDVDを製作した。
イ 本件貴船神社映像を記録したDVDの試写
 控訴人は、上記アのDVDを被控訴人らに交付し、平成26年4月頃、貴船神社奉賛会において試写(上映)された。
 なお、本件貴船神社映像を記録したDVD(甲30)の表面には「株式会社たにぐち」の記載があるが、映像の中には「貴布禰総本宮貴船神社」とのタイトルのみが表示されており、誰のために上記映像を作成したのか必ずしも明らかとはいえない。
ウ 控訴人は、平成28年2月4日(前記(5)エの請求書作成日と同じ日)になって、同日付け請求書(貴船神社映像制作一式プロモーション1編合計金額89万6400円(税込み)と記載されたもの。)を作成し、これを被控訴人P1に送付した。(甲34)
 なお、控訴人が、それまで、被控訴人らに対し、上記映像に関して、費用ないし報酬等の請求をしたことはなかったし、その後、これが支払われた事実もない。(弁論の全趣旨)
(8)本件P4さん映像について
ア 被控訴人会社は、平成24年8月31日付けで平成24年度京都企業中国市場開拓支援事業補助金交付決定通知書の送付を受けた。
 被控訴人会社は、その後、有限会社セブンズに対して、中国向けウェブサイトの製作を依頼するとともに、控訴人に対し、上記ウェブサイトで使用する映像として、本件P4さん映像の製作を依頼した。(乙2、3、10の1・2、被控訴人P1本人、弁論の全趣旨)
イ P3は、被控訴人会社の依頼に基づき、本件P4さん映像の素材となる映像を撮影し、これを編集して本件P4さん映像を作成し、控訴人は、上記映像を記録したDVDを製作し、平成25年1月28日ころ、被控訴人らに対し、これを納品した。(前提事実(6)、甲31、52、72、乙6。なお、完成版の日付は同年2月15日)
ウ 被控訴人会社は、平成24年12月20日、控訴人から、中国用ホームページ映像(本件P4さん映像)の製作一式として18万円の請求を受け、同月28日、控訴人に対し、上記金額を支払った。(乙4〜7、被控訴人P1本人、弁論の全趣旨)
2 争点1(本件各ゆずの里映像の著作権の帰属)について
 前記1(以下「認定事実」という。)(2)、(3)、(6)のとおり、被控訴人P1、P3及びP2は、それぞれの得意分野を持ち寄り、水尾の振興活動に係る事業を進めていくこととし、本件組合を成立させ、本件組合は、その事業活動の広報等のため、本件ゆずの里映像を製作することを企画し、これをP3に依頼した。そして、本件各ゆずの里映像を記録したDVDは、いずれもその内容から映画であると認められるところ、そのうち、第5版以降には、本件組合の名称がDVDの表面及び記録された映像に表示されており、また、第7版には「製作著作ゆず姫有限責任事業組合」と記載されている。
 これによると、本件各ゆずの里映像のうち、本件各ゆずの里映像の第5版以降は、本件組合が企画し、その責任をもって製作したものであって、P3は、その著作者として、その製作に参加したものということができる。したがって、本件各ゆずの里映像のうち第5版以降に係る著作権については、本件組合の組合員に合有的に帰属するというべきである。
 また、第1版から第4版の内容からすると(認定事実(6))、これらの映像は、将来、本件組合による活動に活用するためのビデオを製作するための習作的なものであったことが認められ、上述したとおり、本件組合が成立し、第5版以降の本件各ゆずの里映像の著作権が本件組合の組合員に合有的に帰属することを考えると、第1版から第4版にかかる著作権は、本件組合成立前は、製作者であるP3あるいは控訴人に帰属していたとしても、本件組合成立後、第5版以降のものと同様に取り扱われることが想定されていたと考えられる。そうすると、第1版から第4版にかかる著作権についても、本件組合の成立に従い、組合員に合有的に帰属するよう了解されていたものと認めるのが相当である。
3 争点2(本件各ゆずの里映像等の著作権の譲渡の有無)について
 被控訴人らは、仮に、本件各ゆずの里映像に関する著作権が控訴人に帰属するとしても、控訴人が、被控訴人P1に対し、本件各写真を含め、本件各ゆずの里映像等の著作権を譲渡したと主張する。
 しかし、何らの対価を得ることもなく、控訴人が本件各ゆずの里映像等の著作権を他に譲渡するとは考えられず、これを認めるに足りる証拠もない。
4 争点3(本件各ゆずの里映像等の使用許諾の有無)について
(1)はじめに
 前記2のとおり、本件各ゆずの里映像にかかる著作権は本件組合の組合員に合有的に帰属することが認められる。しかし、仮に、これらが控訴人に帰属するとしても、以下に述べる理由により、控訴人は、被控訴人らに対し、本件ゆずの里映像等の使用を許諾したと認めるのが相当である。
(2)被控訴人会社による本件各ゆずの里映像の使用態様
 認定事実(4)ウからオまでのとおり、被控訴人らは、本件各ゆずの里映像等を被控訴人会社のウェブサイトや通販サイトなどに掲載し、これらを公衆送信した。
 なお、通販サイトでは、ゆず姫のロゴが大きく掲載され、その下に「『水尾のゆず姫』は、ゆず姫LLPのイメージキャラクターです。」との説明が記載されており、その左横に本件写真1の静止画像が掲載され、これらの下に本件各ゆずの里映像のいずれかの映像が動画で掲載されていたが、その後、上記動画は削除された(甲4、5)。
(3)本件各ゆずの里映像等の使用許諾の推定
 前述したとおり、本件組合の事業は、水尾の振興活動を主たる目的とするもので、本件組合の組合員である被控訴人P1、P3及びP2において、それぞれ、得意分野を持ち寄って業務を行うことが予定されており、具体的には、水尾の産品(柚子)を利活用した加工食品(菓子)の製造販売等が予定されていた(認定事実(1)ア、ウ)。また、本件各ゆずの里映像が記録されたDVDのうち第5版以降には、本件組合の名称が記載されており、第7版には「製作著作ゆず姫有限責任事業組合」と記載されている(認定事実(6))。しかし、本件組合のウェブサイトを独自に製作することができず、被控訴人会社のウェブサイトと同一ドメインの下層ページを使用することになった(認定事実(4))。
 以上によると、控訴人及び被控訴人らの間では、本件各ゆずの里映像等が、被控訴人会社のウェブサイト上に掲載されることは、当然の前提として認識されていたと認めることができる。
 それだけでなく、P3は、平成21年10月5日に開催された被控訴人会社の企画会議において、ゆず姫シリーズの商品についての販売促進のため、ホームページ用DVD(本件各ゆずの里映像のうち第5版)及び商品画像データを被控訴人らに交付しており(認定事実(5)ア)、P3は、本件組合と被控訴人らが一心同体であると認識していたとも供述している(控訴人代表者17丁)。
 控訴人は、平成21年7月1日に、被控訴人会社から、水尾柚子の里PV(本件ゆずの里映像)の取材、編集一式20万円を含む、49万9800円の支払を受け(認定事実(2)イ)、その後、通販サイトにおいて、本件ゆずの里映像が掲載されているのを確認したものの、平成28年2月に請求書(甲32、33)を被控訴人会社に送付するまでの間、被控訴人会社に対し、本件ゆずの里映像等について、費用や報酬の請求をしていない(認定事実(5)エ)。
 上記各事実に照らすと、控訴人と被控訴人らとの間では、被控訴人らが、本件各ゆずの里映像等を前記(2)のとおり、通販サイトを含めて使用することが当然予定されており、控訴人は、前記(2)の使用を許諾していたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(4)まとめ
 したがって、本件各ゆずの里映像等に係る著作権が控訴人に帰属するとしても、被控訴人らが、控訴人の上記著作権を侵害したということはできない。
5 争点4(本件貴船神社映像の複製、使用の有無)について
 認定事実(7)のとおり、P3が本件貴船神社映像を製作し、控訴人が、上記映像を記録したDVDを製作したこと(前提事実(5))、控訴人は、上記DVDを被控訴人らに交付し、貴船神社奉賛会において試写されたことが認められる。
 しかし、被控訴人らが、本件貴船神社映像を複製し、もしくは公衆送信などにより使用したことを認めるに足りる証拠はなく、被控訴人らが本件貴船神社映像に係る著作権を侵害したということはできない。
6 争点5(本件P4さん映像の複製、使用の有無)について
 前提事実(6)のとおり、P3は、被控訴人会社の依頼に基づき、本件P4さん映像の素材となる映像を撮影し、これを編集して、中国語ウェブサイト用の本件P4さん映像を作成し、控訴人は、上記映像を記録したDVDを製作し、平成25年1月28日ころ、被控訴人P1に対し、これを納品したのであるから(完成版の日付は同年2月15日)、その後、被控訴人会社が、本件P4さん映像をその目的の範囲内で複製し、もしくは公衆送信などにより使用したことが推認される(弁論の全趣旨)。
7 争点7(本件P4さん映像の使用許諾の有無)について
 本件P4さん映像の製作経過が前記6のとおりであることに加え、認定事実(8)のとおり、被控訴人会社は、控訴人から、本件P4さん映像を記録したDVDを受領し、中国用ホームページ映像製作一式として18万円を支払ったことが認められる。以上によると、少なくとも、前記6の使用を控訴人が許諾していることが認められる。
 なお、控訴人は、上記18万円について、映像製作の報酬でもないと主張するが、請求書(乙5)や領収書(乙6)の記載(「中国用ホームページ用映像制作」)に照らし、採用できない。
 したがって、被控訴人らが本件P4さん映像に係る著作権を侵害したということはできない。
第4 結論
 以上によれば、控訴人の本件各請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は結論において相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 中尾彰
 裁判官 三井教匡
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