判例全文 | ||
【事件名】英語教材の販促DVD事件 【年月日】平成31年2月28日 東京地裁 平成29年(ワ)第16958号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成30年12月20日) 判決 原告 株式会社エスプリライン 上記訴訟代理人弁護士 神田知宏 同 田村有加吏 同 平津慎副 被告 ラクサス・テクノロジーズ株式会社 上記訴訟代理人弁護士 松永克彦 同 白日雄歩 同 中川徹 同 安西紀皓 主文 1 被告は、原告に対し、36万5000円及びこれに対する平成29年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、293万円及びこれに対する平成29年5月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、原告が、被告による別紙被告DVD目録記載のパッケージ内のDVD(以下「被告DVD」という。)の作成、配布等が、主位的には、映画の著作物又は編集著作物である、別紙原告DVD目録記載のパッケージ内のDVD(以下「原告DVD」という。)に関して原告が有する複製権及び翻案権並びに同一性保持権を侵害すると主張し、予備的には、言語の著作物である、原告DVDのスクリプト部分(音声で流れる言語の部分)に関して原告が有する複製権、翻案権及び譲渡権並びに同一性保持権を侵害すると主張して、被告に対し、民法709条に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実) (1)原告は、外国語教材の企画、開発、販売等を目的とする株式会社であり、「スピードラーニング」という名称の英会話教材(以下「原告商品」という。)を製造、販売している。(甲1、2) 被告は、インターネットを利用した各種情報提供サービス、広告業、広告代理業、各種通信販売等を目的とする株式会社であり、少なくとも平成26年6月から同年9月末頃までの間、「スピードイングリッシュ」という名称の英会話教材(以下「被告商品」という。)を製造、販売していた。(争いがない) (2)原告は、原告DVDを制作し、少なくとも平成20年9月頃から、原告商品の購入を検討している顧客に対し、原告DVDを配布した。原告DVDは、原告商品の受講者の体験談、原告商品の開発者からのメッセージなどが収録されたものである。(甲5、11、弁論の全趣旨) 被告は、被告DVDを制作し、平成26年、被告商品の購入を検討している顧客等に対し、被告DVDを配布した。被告DVDは、被告商品の受講者の体験談、被告商品の開発者からのメッセージなどが収録されたものである。(甲6、乙5、弁論の全趣旨) (3)原告DVD及び被告DVDの内容は、それぞれ、別紙「DVDの内容の対照表」の「原告DVDの構成」欄及び「被告DVDの構成」欄記載のとおりであり、それらの画面の一部は、別紙「動画画面対照表」の「原告DVD」欄及び「被告DVD」欄に掲げたとおりである。(争いがない) また、原告DVD及び被告DVDでは、それぞれ、別紙「DVDスクリプト内容対照表」の「原告DVD」欄及び「被告DVD」欄記載のとおり、ナレーションとして音声が流れる。(甲9) 3 争点(争点1ないし3の関係について、原告は、主位的に争点1及び2を選択的に主張し、予備的に争点3を主張する。) (1)映画の著作物としての複製権、翻案権侵害の有無(争点1) (2)編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無(争点2) ア 原告DVDが編集著作物に該当するか(争点2−1) イ 原告DVDが編集著作物である場合に、被告DVDは原告DVDを複製又は翻案したものであるといえるか(争点2−2) (3)言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無(争点3) (4)同一性保持権侵害の有無(争点4) (5)損害の有無及びその額(争点5) (6)原告の請求の権利濫用該当性(争点6) 4 争点に関する当事者の主張 (1)映画の著作物としての複製権、翻案権侵害の有無(争点1) (原告の主張) 原告DVDは映画の著作物である。原告DVDと被告DVDの内容は、映像の被写体、構成や映像効果、音声スクリプトや表示されるテキストの内容、それらの表記のタイミングという特徴のある具体的表現において、以下のとおり類似性ないし同一性があり、いずれも創作的表現に関するものである。そして、被告DVDから原告DVDの表現上の本質的特徴を直接感得することができる。 ア 全体的な構成 原告DVDと被告DVDは、いずれも、イントロダクション、受講者インタビュー、商品紹介、商品の特徴の説明、開発者等のインタビュー、商品特徴の説明、エンディング、という構成を採用しており、類似している。 イ イントロダクション(なお、この標題は、別紙「DVDの内容の対照表」の「1原告DVD@イントロダクションと被告DVD@イントロダクション」に記載された標題に対応する。以下の標題も同じである。) (ア)別紙「DVDの内容の対照表」の「項目」欄の「ア」(以下「項目ア」という。上記各別紙の他の項目についても、同様である。なお、「項目イ」以降については、別紙「動画画面対照表」の項目欄にも対応している。) 最初に社名が表示されるという表現が共通している。 (イ)項目イ 白い扉がクローズアップされるに従って扉が開き、そこから宇宙に繋がっていく様子が映し出される表現が共通している。 扉や宇宙の具体的な表現は異なるものの、扉や宇宙の色、扉の動き、視点の動きなどの表現が共通している。 これらの表現は、商品を利用することにより、宇宙という新しい世界につながるということや、新しい世界に行けるということを連想させる点で創作性を有する。 (ウ)項目ウ 英語を話していることを連想させる静止画が、宇宙の奥からテンポよく表示される表現が共通している。 静止画には拡大するという動きを持たせ、他方で「外国人の友達が欲しい」等の一般的な英語学習の動機となる文字テキストには縮小するという動きを持たせた上で、表示された文字テキストをナレーションが読み上げるという表現が共通している。 これらの表現は、視聴者に対し、一般的に有している英語学習の動機を思い起こさせることを意図したものであり、創作性を有する。 (エ)項目エ 受講者が外国人と話している動画を流しつつ、ナレーションが「あなたはどんな自分になりたいですか。なりたい未来のあなたを想像してください。」と問いかける表現が共通している。 これらの表現は、視聴者に対し、未来の自分を想像させることを意図したものであり、創作性を有する。 (オ)項目オ 雲の切れ間から光が差し込む映像を流すとともに、「新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる力が備わっています。」というナレーションが流れ、その後に各商品によって新たな世界が開けることを意味するナレーションが流れ、最後に、「さあここから一緒に始めましょう。(商品名)の世界へようこそ」というナレーションが流れ、その最後のナレーションが流れる際の映像として、白い光の手前に商品のDVDを配置し、その周囲を受講者の静止画が衛星のように左回りで周り、「Welcometo(商品名)、(商品名)の世界へようこそ」という文字テキストが表示されるという表現が共通している。 これらの表現は、いずれも他には見られないものであり、創作性を有する。 ウ 受講者インタビュー(その1)−項目カ 冒頭に「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」というナレーションが流れ、その後、一人目の受講者として、海外で活躍する女性を紹介するに際し、「○○さんもその一人です」と紹介し、その女性のインタビューが始まる前に「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」というナレーションを流すとともに、「英会話の原点は(商品名)」という赤色の文字テキストが表示されるという表現が共通している。 これらの表現は、各商品を使用して海外で実際に活躍する人を登場させることにより、各商品の信頼性を高め、各商品により夢が叶うという印象を与える効果があり、創作性を有する。 エ 受講者インタビュー(その2)−項目キ 冒頭に地名が表示された後、二人目の受講者として、男性の肖像、肩書き及び氏名が文字テキストで表示され、その後、受講者は英語が苦手であったものの、それを変えたのが各商品であったという内容のナレーションが流れた後、その男性のインタビューが始まるという表現が共通している。 これらの表現は、受講者の個人情報を提供することで、受講者のインタビュー内容に信憑性を持たせるものであり、創作性を有する。 オ その他受講者インタビュー−項目ク 多数の受講者のインタビューを内容に取り入れているという表現が共通である。 カ 商品紹介−項目ケ 上部から光に照らされ、雲が浮かんでいる空の映像が流れた後、空から階段が伸びてきて、階段を下から見上げる構図を採り、目の前の階段の側面に英語学習のステップを示すフレーズが表示され、そのステップを習得すると一段上の階段の側面がクローズアップされると同時に、その階段の側面に次の英語学習のステップを示すフレーズが右からスライドして表示されていき、7つ目の英語学習のステップを示すフレーズが表示されると、階段の下の方までスクロールされるという表現が共通している。 また、英語学習のステップは7段階であり、それらを示す原告DVDのフレーズは、@「聞くことを習慣化する」、A「単語やフレーズの音がキャッチできるようになる」、B「言っていることが理解でき短い言葉で反応できるようになる」、C「短い言葉で自分の意思を伝えられるようになる」、D「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」、E「言葉のキャッチボールが長く続くようになる」、F「意識せずに自然に外国人との会話が楽しめるようになる」であるのに対し、これに対応する被告DVDのフレーズは、@「流して聞くことを習慣化する」、A「単語、フレーズの音が聞き取れるようになる」、B「言っていることが分かり、短いフレーズで返事ができるようになる」、C「短いフレーズで自分の言いたいことが伝えられるようになる」、D「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」、E「言葉のキャッチボールが長く続けられる」、F「意識せず、自然に外国人との会話が楽しめるようになる」であるところ、これらのフレーズはほぼ同一であり、それらがナレーションにより読み上げられる点でも、表現が共通している。 両者は、英語学習のステップを階段に見立て、ステップを習得して階段を上る際に次のステップとして表示されるフレーズの表示方法(右からスライドして表示される)と、視聴者から見た視点の動き方が酷似していることに加え、酷似したフレーズが同一の順序で読み上げられることから、視覚的にも聴覚的にも両者が酷似しているという印象を与える。 これらの表現は、空に浮かんだ階段を下から見上げる構図を採ることによって、階段を駆け上がっていくイメージを与えるとともに、階段と英語学習のステップを結びつけることによって英語学習の各ステップを着実に習得することができるイメージを与えるものであり、創作性を有する。 キ 商品の特徴の説明 (ア)項目コ 外国人と話している様子の静止画又は映像が流れつつ、「なぜ、(商品名)を手にすると外国語を話せるようになって人生が変わるのか」という趣旨のナレーションが流れ、その後に「そこには(商品名又は会社名)独自の画期的なシステムがある」というナレーションが流れるという表現が共通している。 (イ)項目サ 画面中央付近に青色、緑色、オレンジ色の三つの球体があらわれ、それらの三つの球体が床と平行に左回りで周り、その後、垂直に回転し、青色の球体が上部、緑色の球体が左下部、オレンジ色の球体が右下部で停止して正三角形の頂点を形成した後、それらの三つの球体がそれぞれ黒い線で結ばれるという表現が共通している。 これらの表現は、三つの球体を用いて商品には三つの柱を構成する独自のシステムがあるという説明をする点、三つの球体の動きが他には見られない複雑なものである点、三つの独自のシステムが協働して英語が話せるようになるというイメージを与える点などで、創作性を有する。 ク 商品の特徴の具体的な内容の説明−項目シ 青色の球体がクローズアップされ、その後、赤ちゃんが言葉を習得するプロセスについての説明が始まり、そこでは、ナレーションと文字テキストにより、赤ちゃんは言葉のシャワーを自然に浴びることで聞きためた言葉をある日突然「ふっ」とわき出るように話し出すこと、人間にはもともと言葉を習得する力が備わっていること、「聞く」、「話す」のプロセスを踏めば、必ず自然に英語が話せるようになることなどを説明するという表現が共通している。 これらの表現は、赤ちゃんが言葉を習得するプロセスを例に挙げて、本来、人間は言葉を習得する力が備わっており、「聞く」、「話す」のプロセスを踏めば、誰でも容易に英語を話せるようになることを伝え、英語の勉強のハードルを低く感じさせることを意図している点で、創作性を有する。 ケ 開発者等インタビュー (ア)項目ス 開発者のインタビューが流れ、そのインタビューの中で、あきらめないことが大事であると伝える表現が共通している。 (イ)項目セ 英語を学習し始める動機を尋ねるナレーションが流れ、その後、試験のための勉強ではつまらなくなること、英語の勉強がつまらないことはもったいないこと、本来の目的は外国人の友達が欲しいということ、相手のことを知りたいということ、自分のことを伝えたいということであったはずであること、各商品では外国語を習得する本来の目的を大切にしていることについて、ナレーションが流れるとともに、同趣旨の文字テキストが表示されるという表現が共通している。 これらの表現は、各商品が、試験で苦しんだ英語の勉強ではなく楽しい目的のためのものであるというイメージを与えるものであり、創作性を有する。 (ウ)項目ソ 各商品の製作メンバーのインタビューが流れるという表現が共通している。 (エ)項目タ まずは100日間聞き続けてみましょうとの内容のナレーションが流れるという表現が共通している。 コ 商品の特徴の具体的な内容の説明 (ア)項目チ 商品のサポートシステムについての説明に際し、天気の悪い空の光景を背景にして、受講生が感じる不安として、「効果が感じられない」、「このまま続けていいの?」というナレーションが流れるとともに、同趣旨の文字テキストが表示されるという表現が共通している。 また、そのような不安に対応するため、「サポートメール」というシステムがあることや無料でネイティブと話せるシステムがあることなどを紹介する映像、ナレーション及び文字テキストが表示されるという表現が共通している。 これらの表現は、英語学習者が誰でも感じやすい不安を事前に伝え、これに対応するシステムが準備されていることを紹介することで、受講者に安心して各商品を利用した勉強を始めてもらうことを意図するものであり、創作性を有する。 (イ)項目ツ 従業員のインタビュー動画が流れるという表現が共通している。 サ エンディング (ア)項目テ 画面に日本列島が現れ、日本列島のいろいろな場所が光る映像が流れるとともに、各商品の和が日本全国に広がるというナレーションが流れるという表現が共通している。 その後、日本列島が光った後に地球に変わり、受講者の静止画がその地球の周囲を周る映像に移行し、各商品の和が「世界中へと広がり始めています。」というナレーションが流れるという表現が共通している。 (イ)項目ト 日の出とともに太陽が上昇していく映像が流れ、その後、青空の映像に変わり、あなたの心があなたの未来を創るという趣旨のナレーションが流れるとともに、同趣旨の文字テキストを表示するという表現が共通している。 (被告の主張) 複製ないし翻案の有無を判断するためには、原告DVDと被告DVDの同一性のある部分を認定し、その同一性のある部分が創作的表現であるか否かを判断した上で、同一性があり、かつ、表現上の創作性が認められる部分において、被告DVDから原告DVDの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかを検討すべきである。原告DVDと被告DVDが共通するのは、いずれも、アイデアであるか創作性が認められない部分であり、被告DVDは原告DVDを複製又は翻案したものではない。 ア 全体的な構成 原告DVDと被告DVDの全体的な構成が共通しているとしても、それらは具体的な表現ではなくアイデアにすぎない。 イ イントロダクション (ア)項目ア 最初に社名が出てくる構成は表現ではなくアイデアであるし、仮に表現であるとしても、そのような表現はありふれた表現であって創作性が認められない。 最初に社名が出てくる両者の映像は、社名が異なることから具体的な表現が異なっている。 (イ)項目イ 映像作品におけるイントロダクションにおいて、扉の奥に宇宙のような広い世界が広がるという表現はありふれた表現であるから、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、白い扉について窓の形、数、大きさ等の形状が全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 (ウ)項目ウ 両者の映像を比較すると、使われている映像は登場人物、背景画像、表示されているテロップのフレーズ等が全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 英語を話していることをイメージさせる静止画が現れる構成自体はアイデアである。仮に表現であるとしても、英会話教材の広告でそのような静止画が使用されることはありふれた表現であって、創作性が認められない。また、画面に表示される文字テキストの表現は、英会話教材の広告に使用されるものとして特別な内容ではなく、創作性は認められない。 (エ)項目エ 受講者が外国人と話をしているという構成は、表現ではなくアイデアにすぎない。また、ナレーションが問いかけるという手法やそのナレーションの内容は、いずれも英会話教材の広告としてありふれたものであって創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、登場人物、背景が全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 (オ)項目オ 雲の切れ間から光が差し込む映像表現はありふれたものであって創作性は認められない。また、「新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる能力が備わっています。」とのナレーションは意見や事実に過ぎず、また、表現であるとしても英会話教材の広告としてありふれた表現であって、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、原告DVDの映像は「花が咲く映像が流れ、再度、空の映像が流れる」のに対し、被告DVDの映像は「握手と地球の映像が流れ、日の出の映像が流れる」ものであること、原告DVDの映像は「背景は青色で、中央部分は白く光っている」のに対し、被告DVDの映像は「背景は薄いオレンジ色で、中央部分は白く光っている」ものであるから、具体的な表現が異なっている。 ウ 受講者インタビュー(その1)−項目カ 「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たがたくさんいらっしゃいます」とのナレーションは、ありふれたものであって創作性は認められない。また、海外で実際に活躍する人を登場させてインタビューを流すという構成は、具体的な表現ではなくアイデアにすぎないし、仮に表現であるとしても、受講者の感想を映像として表現することはありふれており、創作性は認められない。テキスト表現を強調したい場合に赤色で行うことも、ありふれた表現であって、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、受講者インタビューの内容は、登場人物、撮影場所、インタビュー内容等が全く異なることから、具体的な表現が異なっている。 エ 受講者インタビュー(その2)−項目キ 地名、受講者本人の肖像とともに肩書きと名前がテキスト表示されるとの構成自体は具体的な表現ではなくアイデアであって、創作性は認められない。受講者のインタビュー内容に信憑性を持たせるために、受講者の個人情報を提供すること自体はアイデアであるし、仮に表現であるとしてもありふれた表現であって、創作性が認められない。 両者の映像を比較すると、受講者インタビューの内容は、登場人物、撮影場所、インタビュー内容等が全く異なることから、具体的な表現が異なっている。 オ その他受講者インタビュー−項目ク 多数の受講生のインタビューを内容に取り入れている構成自体はアイデアにすぎない。 両者の映像を比較すると、受講者インタビューの内容は、登場人物、撮影場所、インタビュー内容等が全く異なり、また、個々のインタビューの時間や人数も異なるから、具体的な表現が異なっている。 カ 商品紹介−項目ケ 階段の側面に示されるフレーズは、外国語学習のための当然の事実であるか、ありふれた表現であって、創作性が認められない。また、外国語学習に5限らず、何かを習得するための学習においてはステップを踏む必要があり、そのことを表現するために階段を表現として利用することはありふれたものであって、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、階段の背景の表現(雲の流れの向き、光源の光方)、階段の色、階段に示されるフレーズの文字の色や内容、階段が下までスクロールされた後に階段が消える時の表現(原告DVDの映像は自然と次の会話のシーンに移るが、被告DVDの映像は、一旦、真っ白なシーンが挿入されて階段が消えてから次のシーンに移っている。)、使用されている音楽が異なり、具体的な表現が異なっている。 キ 商品の特徴の説明 (ア)項目コ 商品説明の前に、外国人との会話の様子を流すという構成はアイデアに過ぎない。 両者を比較すると、原告DVDは受講者が外国人と話している映像であるのに対し、被告DVDは外国人と交流している静止画であるし、使用されている映像や静止画を構成している登場人物や撮影されているシーンが全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 (イ)項目サ 三つの球体を用いて、それらを線で接続させる表現は特徴的なものではなく、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、三色の球体の背景の色、三色の球体に記載されている商品特徴の説明の記載内容、音楽及びナレーションの内容が異なっており、具体的な表現が異なっている。また、被告DVDでは、最初に青い球体に近づく際に「ピローン」と効果音が鳴る特徴があるが、原告DVDの映像にはそのような特徴はない。 ク 商品の特徴の具体的な内容の説明−項目シ 赤ちゃんの静止画等を利用すること自体はアイデアである。また、外国語学習の宣伝等において、赤ちゃんが言葉を習得するプロセスを表現することはありふれた表現であって、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、青色の球体がクローズアップさせるシーンでは、背景画面や、球体に記載されている商品の特徴の記載内容が異なっている。また、青い球体については、原告DVDの映像では、球体の上部が白く光っているが、被告DVDの映像では球体の中央が白く光り、周辺部も青と白の2色で表現されている。 原告DVDの映像は、青色の球体のシーンの後、直ちに赤ちゃんの映像に切り替わる。これに対し、被告DVDの映像は、青色の球体のシーンの後、「独自開発の2段階スピード」と表示されて商品の特徴の説明があった後、実際に商品を聞いている受講者の静止画や動画を使用した映像となっている。そして、その後に「流して聞くだけ」と書かれた緑色の球体がクローズアップされ、ナレーションとともに黄色の背景に文字テキストが表示されて赤ちゃんが言葉を話すプロセスについての説明がされるものであり、その際に使用されている母子の静止画や動画はいずれも原告DVDが使用している母子の動画と全く異なる。 したがって、原告DVDの映像と被告DVDの映像では、具体的な表現が異なっている。 ケ 開発者等インタビュー (ア)項目ス 商品の宣伝をするためのDVDに開発者のインタビュー動画を含めること自体はアイデアである。また、そのようなインタビューの中で、あきらめないことが大事であると伝えられる点は、それ自体は事実に過ぎないし、表現であるとしてもありふれたものであって創作性がない。 両者の映像を比較すると、インタビューの登場人物や内容が全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 (イ)項目セ 原告が類似すると主張するナレーションや文字テキストの内容は、事実であるか、英会話教材を宣伝するに際しての表現としてありふれたものであって創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、原告DVDでは、説明する主体や背景画像などが全く異なり、具体的な表現が異なっている。 (ウ)項目ソ 商品の宣伝をするための映像に、製作責任者のインタビュー動画を含めるという構成は、アイデアにすぎない。 両者の映像を比較すると、登場人物も発言内容も全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 (エ)項目タ 原告が類似していると主張する「まずは100日間聞き続けてみましょう」とのナレーションは単なる呼びかけであり、アイデア又は事実の範疇に属するものといえ、仮に表現であるとしても、商品を宣伝するための表現としてありふれたものであり、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、動画を構成する登場人物も背景も全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 コ 商品の特徴の具体的な内容の説明 (ア)項目チ サポートメールという名称のシステムや無料でネイティブと話せるシステムについて紹介するという構成は、アイデアにすぎない。「効果がなかなか感じられない」、「このまま続けていいの?」というテキスト表示についても、外国語習得に限らず、一定の成果を上げるために時間を要する ことに取り組む者の一般的な悩みを表したものであって、ありふれたものであり、表現に創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、映像やナレーションの内容が全く異なるものであり、背景に使用されている天気の悪い画像も異なる画像であって、具体的な表現が異なっている。 (イ)項目ツ 従業員のインタビュー動画が流れる構成自体はアイデアにすぎない。両者の映像を比較すると、動画を構成する登場人物、発言内容が全く異なっており、具体的な表現が異なっている。 サ エンディング (ア)項目テ 日本列島を利用すること自体はアイデアであるし、仮に、表現であるとしても、商品を宣伝するための表現としてありふれたものであって、創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、日本列島を映す順序が異なっており、日本列島の光り方も異なっている(原告DVDは日本列島中に多数の光る点が存在するのに対し、被告DVDでは一定のエリアが光っている。)。 地球の周囲を受講者の静止画が周るシーンについては、使用されている受講者の静止画が異なるし、静止画の周り方も異なっている(原告DVDは、地球を背景に地球の前を静止画が右回りで回っており、かつ、静止画は等間隔ではなくバラバラに配置されているのに対し、被告DVDは、等間隔に並んだ静止画が地球を中心に回るようになっている。)。また、上記のシーンにおいて、被告DVDでは地球と静止画との間に、赤や黄の円環が存在するのに対し、原告DVDではそのような表現は存在しない。 したがって、原告DVDの映像と被告DVDの映像では、具体的な表現が異なっている。 (イ)項目ト 日の出の映像を使用すること、青空と雲の映像を使用すること自体はアイデアにすぎない。また、青空に表示される文字テキストの内容は、事実であるか、ありふれた表現であって創作性は認められない。 両者の映像を比較すると、日の出の映像も、青空と雲の映像も、いずれも異なっている。また、青空に表示される文字テキストも、その内容や外側色が異なっている(原告DVDは青枠白抜であるのに対し、被告DVDは赤枠白抜である。)。したがって、両者は具体的な表現が異なっているといえる。 (2)編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無(争点2) ア 原告DVDが編集著作物に該当するか(争点2−1) (原告の主張) 原告DVDの構成要素(別紙「DVDの内容の対照表」の「1」ないし「10」の各項目に付された表題に対応する映像のまとまりをいう。)が、編集著作物の素材に該当する。上記の構成要素は、それ自体が映画の著作物として創作性を有するものであるが、そのような創作性のある素材を選択し、配列したという点に創作性を見出すことができる。 また、前記の順序で構成要素を配列した意図は、原告商品の説明の前にまずは原告商品に対する安心感を持ってもらうとともに、英語が上達するイメージやプロセスについて納得してもらうために最初に受講者のインタビューを配列し、また、商品紹介の後にその特徴について三つのポイントを挙げるのであれば、その三つのポイントを続けて紹介するのが自然であるが、原告DVDにおいては、開発者の意向により、一つ目のポイントを説明する動画の後に開発者のインタビュー動画を配列し、その後に、二つ目と三つ目のポイントを説明する動画を配列したというものである。 (被告の主張) 編集著作物性が認められるためには、素材を収集し、分類し、選別して配列するという一連の創作行為に着目し、その創作行為によって生じた編集物である必要がある。原告DVDは、英会話教材である原告商品の購入を検討している顧客に対し、広告宣伝のために原告商品の特徴等を案内して体験してもらうことを目的とするものであり、素材を収集、分類、選別して配列する行為に着目したものではないから、編集物であるとはいえない。 仮に、編集物であるとしても、編集著作物といえるためには素材の選択又は配列による創作性(編集方針による創作性)が必要であり、無作為に選択して配列した場合には編集著作物としての創作性は認められないところ、原告DVDについて、全体を通じた動画の選択方針や配列の編集方針は明らかでない。また、英会話教材の広告宣伝用の無償DVDにおいて、受講生が英語を話している動画、受講生が体験談を話している動画、商品の特徴を案内する動画、開発者や製作者が商品の説明をする動画などを選択することや、それらの動画について、@英語を話すことによるメリットを謳い文句として並べて視聴者に英語を学ぶことの動機付けをさせ、A実際に受講したとされる者に体験談を語らせることで視聴者に「自分も英語が話せるようになる」という気持ちを持たせ、B商品についての特徴、その特徴に対する製作者の意図、アフターサービスについての説明をした上で、C最後にエンディング動画で終わるという順序で配列することは、いずれもありふれたものであり、素材の選択や配列に創作性は認められない。 イ 原告DVDが編集著作物である場合に、被告DVDは原告DVDを複製又は翻案したものであるといえるか(争点2−2) (原告の主張) 原告DVDと被告DVDには、構成要素の項目や配列に基礎的な共通性が認められる。また、素材となる構成要素の内容も、映像の被写体にとどまらず、画面の構成や映像効果、スクリプト部分の内容、テキスト表示及びその表記のタイミングという特徴ある具体的表現について強度の類似性ないし同一性を有している。 原告DVDの内容と被告DVDの内容は、具体的表現内容のレベルにおいて強度の類似性ないし共通性を有する素材を選択した点や、それらの素材を類似の順序に配列したという点において、編集著作物としての同一性が認められる。 (被告の主張) 原告DVDと被告DVDの内容は、開発者等のインタビューの配列が異なること、素材とされている構成要素の長さ(時間)及びDVD全体の長さ(時間)が異なること、受講生のインタビューの人数が異なることなどの事情に照らし、基礎的な共通性が認められない。 また、原告DVDと被告DVDはいずれも英会話教材の広告宣伝用のDVDであることに照らせば、それらの一番の特徴は教材の受講者のインタビュー部分にあるというべきであるところ、原告DVDと被告DVDでは受講者のインタビュー部分の内容は全く異なるのであるから、具体的表現内容のレベルにおいて類似性は認められない。 (3)言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無(争点3) (原告の主張) 原告DVDに含まれるスクリプト部分は、言語の著作物であるところ、原告DVDに含まれるスクリプト部分と被告DVDに含まれるスクリプト部分は、別紙「権利侵害対照表」記載のとおり、内容や配列がほぼ同一である部分がある。 したがって、被告スクリプト部分は、原告スクリプト部分を複製ないし翻案したものである。 (被告の主張) 原告スクリプト部分は思想又は感情を創作的に表現したものではなく、仮に表現であると認められる部分があるとしても、ありふれた言葉の組み合わせにすぎず、個性ないし独自性があらわれているとはいえないから、創作性は認められない。 (4)同一性保持権の侵害の有無(争点4) (原告の主張) 被告は、原告DVDを原告の意に反して改変し、被告DVDを作成したものであるから、原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害する。 (被告の主張) 否認ないし争う。 (5)損害の有無及びその額(争点5) (原告の主張) ア 著作権の侵害による損害額の算定(著作権法114条3項) 被告DVDの譲渡数量は215枚であり、権利者が単位数量当たり受けるべき利益は2000円を下ることはない。したがって、以下の計算式のとおり、被告の著作権侵害による原告の損害額は、43万円である。 (計算式) 2000(円)×215(枚)=43万円 イ 著作者人格権の侵害による損害額 200万円が相当である。 ウ 弁護士費用相当損害額 50万円が相当である。 (被告の主張) ア 著作権の侵害による損害額の算定(著作権法114条3項) 原告は、「単位数量当たり受けるべき利益」について立証していない。被告DVDが原告DVDの著作権を侵害するものであるとしても、その侵害態様は複製ではなく翻案であり、かつ、翻案と認められる部分は極めて限定的な一部分であって、原告DVD及び被告DVDを構成するメインコンテンツである受講者のインタビュー部分は全く異なるものであることからすると、その侵害部分は数パーセントを超えることはない。 イ 著作者人格権の侵害による損害額 被告DVDの作成により、原告の著作者人格権の侵害が認められるとしても、原告は法人であること、被告DVDによる著作権侵害が認められる部分の割合は極めて限定的なものであることなどを考慮すると、著作権侵害による財産的損害の額を超える無形的損害を認めることは相当でない。原告の主張する200万円という損害額は明らかに高額である。 ウ 弁護士費用相当損害額 否認ないし争う。 (6)原告の請求の権利濫用該当性(争点6) (被告の主張) 原告の被告に対する損害賠償請求権が認められるとしても、以下の事情からその権利を原告が行使することは権利の濫用(民法1条3項)であって許されない。 ア 原告は、平成26年7月時点で、被告が原告の著作権を侵害している可能性を認識していたにもかかわらず、被告に対して被告DVDの製造ないし頒布の差止めを求めることなく黙認していた。 イ 原告と被告との間では、平成26年頃から、原告が、被告に対し、被告が原告のキャッチフレーズの著作権を侵害したなどと主張して損害賠償を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)が係属しており、別件訴訟については平成27年3月20日に東京地方裁判所において原告の請求を棄却する判決が、同年11月10日に知的財産高等裁判所において原告の控訴を棄却する判決が、平成28年3月22日に最高裁判所において原告の上告を受理しない決定がされている。本件は、前訴において原告が敗訴したことを受けて訴訟提起されたものであり、前訴の意趣返しの側面がある。 ウ 本件は、平成26年6月から起算して消滅時効期間である3年間を経過する直前である平成29年5月23日付けで訴訟提起されており、それ以前に原告から被告に対して裁判外で損害賠償の請求や、電話やメールでの問い合わせ等も全くなかった。 エ 原告は、訴状においては著作権使用料として60万円、無形的損害として60万円、弁護士費用相当額として30万円の合計150万円の損害賠償を請求していたところ、被告からの早期和解の提案を拒否し、その後、請求額の根拠を明らかにしないまま、合計3000万円という極めて過剰な請求に拡張している。 オ 被告は、経営判断から被告商品の新規販売を早期に中止し、スポット(売り切り)の商品である「エブリデイイングリッシュ」に注力していたものであり、被告DVDの製造や頒布枚数は少数であり、その期間も短期間であったところ、原告は、そのような被告の事業内容や事業展開を調査していたはずである。 カ 被告は、現在はブランドバックのレンタル事業を中心に事業を展開しており、原告と被告の競業関係はほとんど解消されている。 (原告の主張) 裁判を受ける権利は憲法で保障された権利であり、裁判上の請求が権利濫用になる場合があるとしても、それは、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。原告の主張は、著作権侵害の事実的、法律的根拠を欠いたものとはいえず、通常人であれば容易にそのことを知り得たともいえない。被告の主張は、以下のとおり、原告の請求が権利の濫用に当たることの理由にはならない。 ア 原告が被告DVDを入手した後、直ちに差止請求をしなかったのは、別件訴訟の準備中だったからであり、被告DVDの作成や配布を黙認していたものではない。 イ 本件訴訟は、別件訴訟とは異なる訴訟物について争うものであるから、紛争の蒸し返しではない。本件訴訟は、被告が原告の別の著作物について著作を侵害している事実があったことによるものであり、その損害賠償責任を問うものであって、正当な目的を有する。 ウ 前訴において、被告は和解の可能性はないと発言していたことなどから、本件においても任意交渉での解決は困難であり、訴訟手続によらないで解決することはできないことが容易に想像できた。 エ 原告が、訴えの変更後の請求金額を3000万円としたのは、被告DVDの頒布枚数が不明であり、原告の利益を基礎にして損害額を算出したためである。 オ 原告が購入した被告DVDを配布しているウェブサイトについては、購入後も注視はしていたものの、被告商品がいつ商品展開を開始し、いつそれを止めたのかまでは調査していなかった。 カ 被告は現在でも「エブリデイイングリッシュ」という英語教材を販売しており、原告と競業関係にあるから、本件訴訟は、将来の被告による知的財産権侵害を防止する目的がある。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(映画の著作物としての複製権、翻案権侵害の有無)について (1)複製(著作権法21条)とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(同法2条1項15号)、翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年5月28日判決・民集55巻4号827頁参照)。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであり、既存の著作物に依拠して作成、創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製又は翻案には当たらないと解される。 (2)原告DVDと被告DVDは、いずれも連続する影像に音声(ナレーション、インタビューを受けた者の発言等)を組み合わせたものである。 ここで、原告の主張に基づき、まず、原告DVDと被告DVDの各項目について、被告DVDの内容と原告DVDの内容を検討する。 ア イントロダクション(項目アないしオ) 前記前提事実及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、最初に社名が表示される点(項目ア)、紺色の背景の中央に白い扉が現れ、白い扉が拡大されるに従いその扉が手前に開き、その奥に宇宙が広がる点(項目イ)、扉の先の宇宙の中心に白い光が現れ、それが次第に大きくなり、その後、海外の光景の写真が表示され、その写真が拡大していくとともに、「外国人の友達が欲しい」という英会話を学ぶ動機を示すフレーズが画面の下部に赤色で表示され、そのような写真の表示、拡大とフレーズの表示が、写真及びフレーズを変えて5回繰り返される点(項目イ、ウ)、外国人と話している様子と共に、「あなたはどんな自分になりたいですか。なりたい未来のあなたを想像してください」などの音声が流れる点(項目エ)、白い雲の奥に太陽が白く光る青空の光景となり、その後、別の画面となった後、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景となり、「新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる力が備わっています」という音声が流れ、さらに、その後、「さあここから一緒に始めましょう、(商品名)の世界へようこそ」という音声が流れ、画像中央の商品のDVDが回転するとともに、その周囲を人物の写真が左回りで周り、「Welcometo(商品名)、(商品名)の世界へようこそ」という文字テキストが表示される点(項目オ)などにおいて、共通している。また、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景では、全く同じ光景を使用している。 他方、上記の白い扉における具体的な模様は異なり、原告DVDでは、白い扉の奥はすぐに宇宙となるのに対し、被告DVDでは、白い扉の奥は人物が写されている多数の写真が貼られたトンネルであり、そこを進んだ後に宇宙が光る点(項目イ)、写真が表示される前に被告DVDでは全体が金色に光り、また、拡大する5枚の写真の間に、縮小していく写真が1枚ある点(項目ウ)、青空と暗い雲の一部から太陽が差す光景の間が、原告DVDでは花が開く様子であるのに対し被告DVDでは握手と地球である点(項目オ)などが異なり、使用される写真、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景を除いた光景、登場人物やその背景、DVDが回転する際の背景の色(項目ウないしオ)も異なる。 (イ)原告DVDと被告DVDの項目アにおける共通点である動画に社名を表示することは、アイデアである。 他方、項目イ及びウにおける原告DVDと被告DVDの共通点は、白い扉を抜け、その先に英会話を学ぶ動機となるフレーズと共に写真が現れるというもので密接に関係するものといえるところ、英会話の宣伝、紹介用のDVDにおいて、教材を利用することで新しい状況となることについて、紺色の背景とする白い扉やその奥に広がる宇宙で表現するとともに、教材により達成できる状況について、扉の奥に、その状況を表しているともいえる写真を英会話を学習する動機を示すフレーズとともに複数回示すことで表現しているものといえ、その表現は、全体として、個性があり、創作性があるといえる。 項目エにおける原告DVDと被告DVDの共通点のうち、英会話の宣伝、紹介用のDVDにおいて、外国人と話している様子を用いる点はアイデアであり、そこにおける問いかけの表現は通常よく使用される、ありふれた表現といえる。 項目オにおける原告DVDと被告DVDの共通点は、教材を学ぶことで状況が変わることを、二度にわたる太陽の光を含む空の情景で示し、また、自社の商品を用いることで交流の範囲が広がることなどを人物が写った多数の写真を自社商品の周りを回転させることなどで表現しているものといえ、その表現は、全体として、個性があり、創作性があるといえる。 以上によれば、イントロダクションの部分の原告DVDと被告DVDは、少なくとも、項目イ、ウ及びオにおいて表現上の創作性がある部分において共通するといえる。そして、上記共通する内容に項目イ、ウ及びオの内容等を考慮すれば、上記部分の原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができると認められる。 イ 受講者インタビュー(その1)(項目カ) 前記前提事実及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」という音声が流れ、その後、海外で活躍する女性を紹介し、その女性へのインタビューの様子となる点、「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」という音声が流れるとともに、同趣旨が赤色の文字テキストで表示される点などが共通する。 他方、原告DVDと被告DVDの当該部分において、登場人物やインタビューの内容、表現は異なっている。 上記共通点のうち、英会話教材の宣伝、紹介用の動画において、海外で活躍する受講者を紹介した上でその受講者へのインタビューの様子を用いることや、その受講者の活躍の契機となったのが自社の教材であるという説明をすることは、アイデアであるといえるし、また、それらを上記のような順序で構成することは、通常行われることといえ、これらをもって表現上の創作性があるとはいえない。また、「(商品名)を始めた人の中にはすでに新しいステージへと人生を開いていった人たちがたくさんいらっしゃいます」、「英語を話す原点になったのが(商品名)だったのです」との部分について、英会話教材を宣伝、紹介する際に、教材による学習によって自らの状況が変わったことを新たなステージへと人生を開くと表現することや、その契機等となった商品を原点と表現することはありふれたものであるといえ、いずれも創作性があるとは認められない。 したがって、受講者インタビュー(その1)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。 ウ 受講者インタビュー(その2)(項目キ) 前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、地名が表示された後、受講者の男性の肩書き、氏名が文字テキストで表示されると共に、その人物は、英語が苦手であったが、それを変えたのが原告又は被告の商品であったという内容の音声が流れ、その後、その人物へのインタビューの様子となる点などが共通する。 他方、原告DVDと被告DVDの当該部分において、登場人物やインタビューの内容、表現は異なっている。 英会話教材の宣伝、紹介用の動画において、受講者とされる人物の肩書きや氏名等を文字テキストで表示すること、英語についての苦手意識を克服できたのは商品のおかげであるという音声を流すこと、受講者とされる人物のインタビューの様子を用いることは、いずれもアイデアであるといえるし、また、それらを上記のような順序で構成することも、普通に行われることであり、これをもって表現上の創作性があるとはいえない。 したがって、受講者インタビュー(その2)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。 エ その他受講者インタビュー(項目ク) 前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、受講者への複数のインタビューの様子である点、「人生が変わりました」との文字テキストが表示される点で共通している。 他方、原告DVDと被告DVDの当該部分において、登場人物やインタビューの内容、表現は異なっている。 上記共通点のうち、英会話教材の宣伝、紹介用の動画において、受講者とされる人物のインタビューの様子を用いることはアイデアであるといえる。また、「人生が変わりました」という文字テキストは、表現であるということができるとしても、教材を宣伝、紹介する場面で、教材による学習によって自らの状況が変わったことを人生が変わると表現することは、ありふれた表現であるといえ、創作性があるとは認められない。そして、インタビューの様子に文字テキストを組み合わせることについても、普通に行われることであり、このことをもって表現上の創作性があるとはいえない。 したがって、その他受講者インタビューの部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。 オ 商品紹介(項目ケ) (ア)前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、まず、画面上部が光り、雲が浮かんでいる空の様子となった後、画面の上方から階段が伸びてきて、階段を下から見上げる構図となり、その後、空を背景に、最下段の階段の側面に英語学習のステップのフレーズが表示され、そのフレーズの読み上げが終わると一段上の階段の側面が拡大されると同時に、その階段の側面に次の英語学習のステップのフレーズが右からスライドして表示されるとともに、そのフレーズがナレーションされ、それを7回繰り返して、7つ目の英語学習のステップが表示されると、側面にフレーズが記載された階段が最下段まで表示されるという点で共通している。また、各階段の側面に表示されるフレーズは、原告DVDでは@「聞くことを習慣化する」、A「単語やフレーズの音がキャッチできるようになる」、B「言っていることが理解でき短い言葉で反応できるようになる」、C「短い言葉で自分の意思を伝えられるようになる」、D「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」、E「言葉のキャッチボールが長く続くようになる」、F「意識せずに自然に外国人との会話が楽しめるようになる」であるのに対し、被告DVDでは@「流して聞くことを習慣化する」、A「単語、フレーズの音が聞き取れるようになる」、B「言っていることが分かり、短いフレーズで返事ができるようになる」、C「短いフレーズで自分の言いたいことが伝えられるようになる」、D「簡単な会話のキャッチボールができるようになる」、E「言葉のキャッチボールが長く続けられる」、F「意識せず、自然に外国人との会話が楽しめるようになる」であり、その内容、表現はほぼ共通している。 他方、原告DVDでは、階段は側面も含めて青色であり、フレーズが白色の文字で表示されるのに対し、被告DVDでは、階段は側面を含めて白色であり、フレーズが青色の文字で表示される。また、原告DVDと被告DVDにおいて、階段の背景はいずれも白色の雲がある青空であるが、具体的な光景は異なる。 (イ)項目ケの部分の原告DVDと被告DVDの上記の共通点は、空に浮かんだ階段を下から見上げる構図とすることによって、階段を上っていくイメージを抱かせ、階段と英語学習のステップが結び付くものであり、原告DVDと被告DVDでほぼ共通するフレーズの内容に照らしても、一定の段階を踏んで英語学習を進めることができるなどのイメージを与えるものである。そのようなステップが7段階あり、その内容がほぼ同一であることをも考慮すると、この共通点は、作成者の個性が現れており、全体として創作的な表現であると認められる。 そして、上記共通する内容に項目ケの内容等を考慮すれば、項目ケの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することがきると認められる。 カ 商品特徴(項目コ、サ) (ア)前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、外国人と会話している様子となり、「なぜ、(商品名)を手にすると外国語を話せるようになって人生が変わるのか」、「そこには(商品名又は会社名)独自の画期的なシステムがある」という音声が流れる点(項目コ)、英語を話せるようになるための商品独自の画期的なシステムがあるという音声が流れるとともに、画面中央付近に青色、緑色、オレンジ色の三つの球にも見える円が現れ、それらの三つの円がまず水平方向に周り、その後、それぞれの円が移動して、青色の円が上部、緑色の円が左下部、オレンジ色の円が右下部で停止して、正三角形の頂点を形成した後、それらの三つの円がそれぞれ線で結ばれる点(項目サ)で共通するといえる。 他方、原告DVDと被告DVDで、外国人との会話の登場人物やその内容は異なる。また、青色の円に記載された文字は「スピードラーニングメソッド」(原告DVD)、「2段階スピード音声」(被告DVD)であり、緑色の円に記載された文字は「サポートシステム」(原告DVD)、「流して聞くだけ」(被告DVD)であり、オレンジ色の円に記載された文字は「仲間」(原告DVD)、「サポートシステム」(被告DVD)であって、それぞれ異なる。また、その背景も、原告DVDは、全体が青の色調で、下方が格子模様の床のようになっていて最上方から青色が薄くなるのに対し、被告DVDは、画面の中央部分が濃いオレンジ色でその周りにほぼ円形に黄色が広がっているものである。 (イ)項目コの共通点のうち、受講者と外国人が交流している様子を用いることはアイデアである。また、ナレーションにおいて、教材に独自のシステムがあることを述べる部分は事実を述べているものといえ、また、教材を手にとると世界が広がると述べる部分も、ありふれた表現といえる。そして、上記の共通点の組合せも、英会話教材の宣伝、紹介用の動画として、いずれもよく使用される要素を通常の方法で組み合わせたといえるもので、表現上の創作性が認められるものとはいえない。 また、項目サについて、商品等を宣伝、紹介する際などを含め、一般に、説明の際に3つなどの複数の要素を挙げること、各要素を色のついた円で示すこと、動画において、それらの円を回転させること、それぞれの円が正三角形の頂点を構成するように配置し線で結ぶことなどは、ごく一般的にされていることといえる。原告DVD及び被告DVDで選択された色やその組合せも特段の特色があるものとはいえない。それぞれの円に記載された文字が異なる本件において、原告DVDと被告DVDに共通する上記部分については、表現上の創作性があるとはいえないとすることが相当である。 したがって、商品特徴(項目コ、サ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。 キ 商品特徴(項目シ) 前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、項目サで登場した円の一つである青色の円が拡大する点、その円の項目に関する説明として赤ちゃんが言葉を習得するプロセスについて説明の音声と文字テキストが流れる点、赤ちゃんや赤ちゃんと母親の様子となる点、プロセスの内容として赤ちゃんは言葉のシャワーを自然に浴びることで聞きためた言葉をある日話し出し、人間にはもともと言葉を習得する力が備わっていて、「聞く」、「話す」のプロセスを踏めば必ず自然に英語が話せるようになることなどが説明される点などが共通する。 他方、原告DVDと被告DVDの当該部分において、青色の円に書かれているキーワードが、原告DVDでは「スピードラーニングメソッド」であるのに対し、被告DVDでは「2段階スピード音声」であり、円の背景の色や全体的な構成、赤ちゃんと母親の様子などは異なる。 上記共通点のうち、複数の要素をそれぞれ表す円のうち、一つの円を拡大すること、その後、その円が示す要素についての説明をすること、英会話教材の宣伝、紹介用の動画において赤ちゃんが言葉を習得するプロセスを説明すること、それに併せて赤ちゃんや赤ちゃんと母親の様子を用いることは、いずれもアイデアといえるものであり、それらを上記のような順序で構成することも、通常行われることといえ、これをもって表現上の創作性があるとはいえない。また、赤ちゃんが言葉を習得するプロセスの内容として上記のような説明をすることは、単に一般的な知見に属する事実を述べるものともいえ、また、その表現に創作性があるとはいえない。 したがって、商品特徴(項目シ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものといえる。 ク 開発者等インタビュー(項目スないしタ) 前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、開発者へのインタビューの様子となり、そのインタビューで、あきらめないことが大事であると述べられる点(項目ス)、英語を学習し始める動機を尋ねる音声が流れ、その後、試験のための勉強ではつまらなくなること、英語の勉強がつまらないことはもったいないこと、本来の目的は外国人の友達が欲しいということ、相手のことを知りたいということ、自分のことを伝えたいということであったはずであること、各商品では外国語を習得する本来の目的を大切にしていることについて、音声が流れるとともに、同様の文字テキストが表示される点(項目セ)、商品の製作メンバーへのインタビューの様子となる点(項目ソ)、まずは100日間聞き続けてみましょうとの内容の音声が流れる点(項目タ)などが共通する。 他方、原告DVDと被告DVDの当該部分において、登場する開発者やその話の表現、人物の背景等は大きく異なっている。 上記共通点のうち、英会話商品の宣伝、紹介用の動画において、その開発者へのインタビューの様子を用いることはアイデアといえる。また、インタビュー、音声及び文字テキストにおいて、英語学習ではあきらめないことが大事であると伝えることや、前記のような問いかけによって英語を学習し始める動機などを尋ねることに関する部分は、事実を述べているものともいえ、また、その表現に創作性があるとは認められない。また、これらを上記のように組み合わせることも、通常行われることといえ、それをもって表現上の創作性があるとはいえない。 したがって、開発者等インタビュー(項目スないしタ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。 ケ 商品特徴(項目チ、ツ) 前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、商品の「サポートシステム」があることを説明した後、多くの暗い雲で覆われた空の光景を背景に、受講生が感じる「効果が感じられない」、「このまま続けていいのか」という不安を示す音声が流れるとともに、同内容の文字テキストが表示されること、そのような不安を解消するため、サポートシステムの具体的な内容として「サポートメール」などがあると紹介する点(項目チ)、従業員へのインタビューの様子となる点(項目ツ)などが共通する。 他方、原告DVDと被告DVDのサポートシステムの具体的な内容、具体的な空の光景、インタビューの構成や内容などは異なっている。 英会話教材を宣伝、紹介するDVDにおいて、受講者が感じる不安の内容を示した上で、それを解消するために従業員等へのインタビューの様子を用いること、不安を示す際に暗い雲で覆われた空の光景を背景に用いること自体はアイデアであるといえ、そのことのみをもって創作性がある表現であるということは相当でない。また、サポートメール等のサポートシステムを紹介することや、受講生の「効果が感じられない」、「このまま続けていいのか」などという不安を紹介することは、事実又は一般的な知見を紹介するともいえ、また、その表現もありふれたもので創作性があるものとはいえない。そして、これらを上記のような順序で構成することも、通常行われることといえ、これらをもって表現上の創作性があるとはいえない。 したがって、商品特徴(項目チ、ツ)の部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、いずれもアイデアなどの表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分に関するものであるといえる。 コ エンディング(項目テ、ト) (ア)前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、当該部分において、日本列島の一部を上から見下ろした後に、暗い日本列島に光る部分が現れて、それが増えていき、日本列島全体がおおよそ光り、その後、人物が映った多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る点、商品をきっかけにできた仲間達の輪又は商品の輪の広がりについて、日本列島全体がおおよそ光る部分で、それが日本全国に広がる旨の音声が流れ、その直後の多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る場面で、それが世界中へ広がり始めている旨の音声が流れる点(項目テ)、日の出の情景の後、赤っぽい太陽が大きく映され、その後、左上方に太陽の光が見える青空に変わり、「あなたの心があなたの未来を創ります。」(原告DVD)、「あなたの心であなたの未来が180度変わります。」(被告DVD)という音声が流れるとともに、同趣旨の文字を画面に表示する点(項目ト)などが共通する。 他方、原告DVDでは、日本列島は最初に関東地方を中心とする地域が映され、その後、それより北の地域、南の地域、日本列島全体が順に映され、また、地球の周りを回る写真相互の位置関係には特段の規則性は見られないのに対し、被告DVDでは、日本列島は最初に中国、四国、九州地方が映され、その後、それより東の地域、日本列島全体が順に映され、また、地球の周りを回る写真は、地球を中心に楕円形に並べられて回っている。また、原告DVDと被告DVDで、地球の周りを回る写真は異なる。 (イ)項目テの上記共通点は、各DVDにおいて宣伝している英会話教材が日本全国で広く支持を得ていることやその英会話教材を使用することによって、日本中、世界中の人間とつながることができることにつき、音声に加え、日本列島における光や地球の周りの写真を用いて伝えることを意図していると考えられるものであり、具体的な表現において作成者の個性が現れており、全体として創作的な表現であると認められる。また、項目トの上記共通点も、英会話の上達について、日の出から青空への変化を通じて伝えることを意図したものであると考えられ、具体的な表現において作成者の個性が現れており、全体として創作的な表現であると認められる。 そして、上記共通する内容に項目テ及び項目トの内容を考慮すれば、項目テ及び項目トの原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができる。 (3)原告は、原告DVDと被告DVDが、@イントロダクション、A受講者インタビュー、B商品紹介、C商品特徴の説明、D開発者等のインタビュー、E商品特徴の説明、Fエンディングという全体的な構成が類似することも主張するので、以下、検討する。 ア 前記前提事実及び証拠(甲5、6)によれば、原告DVDと被告DVDは、いずれも、@イントロダクション(項目アないしオ)、A受講者インタビュー(項目カないしク)、B商品紹介(項目ケ)、C商品特徴の説明(項目コないしシ)、D開発者等のインタビュー(項目ス)、E商品特徴の説明(項目チ及びツ)、Fエンディング(項目テ、ト)という構成を有するということができる。なお、上記各項目においては、前記(2)記載の共通点がある一方、基本的に、使われている写真、光景、登場人物やインタビューを受けた者が話す内容などは異なる。 イ 原告DVDと被告DVDは、いずれも英会話教材の宣伝、紹介用のものであり、このようなDVDにおいて、宣伝の対象である商品の購入等を促すという目的のために、商品の内容や特徴、商品を利用した場合の効果、サポート体制の説明をすることは、ごく一般的であるといえる。そして、商品の内容、特徴や商品を利用した場合の効果を説明するために、受講者や開発者に対するインタビューを用いることも、一般的であるといえる。 原告DVDと被告DVDの全体的な構成は、前記アのとおり、原告が主張する7つという少なくない要素において一致するが、その各要素は、上記のとおり、同種の目的を有するDVDにおいては、いずれもごく一般的といえるものである。また、原告DVD及び被告DVDにおけるそれらの各要素の順序について、特別の印象を与えるようなものであるとはいえない。これらを考慮すると、原告DVDと被告DVDの原告主張の全体的な構成について、その各要素が共通する点をもって創作的な表現であるとは認められない。 また、前記(2)のとおり、被告DVDは、複数の部分において、原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができる。しかし、それらの本質的な特徴を感得することができる表現について、英会話教材の宣伝、広告用の動画における表現としては関連するとはいえるが、それ以上にそれらが表現上及び内容上、相互に密接に関連しているものとはいえない。このことに、全体的な構成の各要素が同種の目的を有するDVDにおいてごく一般的なものであること、被告DVDには、原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができるとはいえない部分も多いこと(前記(2))を考慮すると、被告DVDに原告DVDの表現上の本質的な特徴を感得することができる部分があるとしても、原告DVD全体についての表現上の本質的な特徴を被告DVDから感得することができるとまではいえない。 (4)小括 以上によれば、被告DVDは、少なくとも、項目イ、ウ、オ、ケ、テ及びトにおいて、原告DVDの表現上の本質的特徴を被告DVDから直接感得することができる。 そして、原告DVDと被告DVDの配布時期(前提事実(2))、別紙「動画画面対照表」及び「DVDスクリプト内容対照表」における共通点の内容等及び弁論の全趣旨に照らし、被告DVDは、原告DVDに依拠して作成されたものといえる。 これらのことに、前記のとおり、原告DVDと被告DVDでは、画面自体は異なり、原告DVDの表現に一定の修正、増減、変更等が加えられて別の表現となっていることなどから、被告DVDは、少なくとも、上記各項目において、原告DVDを翻案したものと認められる。 2 争点2(編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無)及び争点3(言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無)について 原告の主位的な主張のうち、編集著作物としての侵害の主張は、別紙「DVDの内容の対照表」の「イントロダクション」などの標題によって区切られた部分を一つの素材として、その選択と配列について創作性を有すると主張するものである。しかし、この主張は、少なくとも、前記1(3)の全体的な構成に関する類似の主張において述べたところと同様の理由により、理由がない。また、原告は、予備的に、原告DVDに含まれるスクリプト部分の言語の著作物の侵害を主張するところ、共通するスクリプトは、事実を述べるものか、英会話教材の宣伝、紹介用の動画において、ありふれたものということができ、その順序にも表現上の創作性があるとは認められないから、原告の主張は理由がない。 3 争点4(同一性保持権侵害の有無)について 原告DVDと被告DVDの配布時期(前提事実(2))、前記1のとおりの原告DVDと被告DVDの内容及び弁論の全趣旨に照らし、被告DVDは、原告DVDの複数の項目について、原告DVDの表現に改変を加え、制作されたものと認められ、その制作は、原告DVDについてその著作者が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと認められる。 4 争点5(損害の有無及び額)について (1)証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、原告DVDの著作者及び著作権者は原告であると認められる。 また、原告DVD及び被告DVDの内容等に照らし、被告DVDを制作した被告は、原告DVDに係る原告の翻案権、同一性保持権を侵害することについて、故意又は過失があったと認められる。 (2)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。 ア 被告は、平成26年1月16日から同年8月1日頃までの間、合計215枚の被告DVDを頒布した。(乙5、弁論の全趣旨) イ 被告DVDの頒布の態様には、被告DVDと被告商品の初回セットと併せて一般ユーザーに配布する方法、被告DVDのみを一般ユーザーに配布する方法、被告DVDのみを一般ユーザー以外の関係者等に配布する方法があった。このうち、被告DVDと被告商品の初回セットを併せて配布する方法により配布した枚数は128枚であった。(弁論の全趣旨)被告商品の初回セットには、教材CDの第1巻及び第2巻や被告商品に関する冊子に加え、被告DVDや視聴用CDが含まれていた。 被告商品の初回セットの価格は8800円(税込)であり、それ以降に送付される2回目以降のセットの価格は4100円(税別)であった。(甲4)被告商品を申し込むと、申込者に対し、初回セットが送付され、申込者は、その後、引き続き受講する場合には初回セットの代金を支払い、受講しない場合には教材CD第1巻及び第2巻を返品することができた。(甲4) ウ 原告DVDは、原告商品の受講を申し込んだ後に送付される原告商品の初回セット(原告DVDのほか、試聴用CD、教材CDの第1巻(CD2枚組)及び第2巻(CD2枚組)その他の教材CD、スクリプトブック、原告商品の案内、情報誌などが含まれる。)に同梱されており、顧客は、引き続き受講する場合には初回セットの代金を支払い、受講しない場合には初回セットを原告に返品することが可能である。(甲11) 原告商品の初回セットの価格は9400円(税別)であり、それ以降に送付される2回目以降のセット(教材各巻(CD2枚組)その他の教材CD、スクリプトブック、原告商品の案内、情報誌などが含まれる。)の価格は4300円(税別)である。(甲11) エ 原告は、発音方法を学ぶ「らくらく発音システム」という教材を製作、販売するに際し、発音方法の説明や教授内容について著作権を有する他社に対して教材開発を委託するとともに、そのライセンス料として当該教材の売上げの10パーセントを支払っている。当該教材の1本当たりの売上げは8500円であり、原告が当該他社に支払うライセンス料は1本当たり850円(税抜)となる。(甲13、14、15) (3)翻案権の侵害による損害額(著作権法114条3項) 原告は、原告の損害として、前記(1)ウの事実関係を挙げたうえで、原告が被告DVDについて利用許諾した場合の料金は1枚当たり2000円を下ることはないとして、原告の損害を主張する。 前記(1)イ及びウ並びに弁論の全趣旨によれば、被告DVDは、被告商品の宣伝、広告用のDVDとして、被告DVDのみで配布されたり、被告商品の初回セットに含んで配布されたりしたものであり、被告DVDのみが販売された事実は認められない。もっとも、被告商品は、初回セットの価格が8800円(税込)であり、それ以降も受講者が継続的に2回目以降のセットを購入することも想定されていて、被告DVDは、そのような被告商品を顧客が継続的に購入するための重要な役割を果たすことが期待されていた。そこで、被告DVDのこのような性質、被告DVDは原告商品と競合する被告商品の宣伝、広告のためのものであること、原告DVDと被告DVDで共通する創作的な表現の内容や量その他の諸般の事情に照らせば、原告が受けるべき金員の額は、被告DVD1枚当たり1000円であると認めることが相当である。 以上によれば、翻案権の侵害についての著作権法114条3項に基づく損害額は、以下の計算式のとおり、21万5000円であると認めることが相当である。 (計算式) 1000(円)×215(枚)×=21万5000円 (4)同一性保持権の侵害による損害額 同一性保持権の侵害が問題となる被告の改変の内容及び程度、本件訴訟にあらわれたその他一切の事情を総合的に勘案すれば、同一性保持権の侵害によって原告に生じた無形的損害に係る損害額は10万円と認めるのが相当である。 (5)弁護士費用相当損害額 本件訴訟にあらわれた一切の事情を総合的に勘案すれば、本件訴訟における弁護士費用相当損害額は5万円と認めるのが相当である。 (6)上記(3)ないし(5)の合計 36万5000円 5 争点6(原告の請求の権利濫用該当性)について (1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。 ア 原告の従業員は、平成26年6月29日、被告商品を販売している被告のウェブサイトを発見し、同年7月8日、被告DVDを含む被告商品の初回セットを購入した。(弁論の全趣旨) イ 原告と被告との間では、平成26年頃から、原告が、被告に対し、被告が原告のキャッチフレーズの著作権を侵害したなどと主張して損害賠償を求める別件訴訟が係属していた。その別件訴訟においては、平成27年3月20日に東京地方裁判所において原告の請求を棄却する判決がされ、同年11月10日に知的財産高等裁判所において原告の控訴を棄却する判決がされ、平成28年3月22日に最高裁判所において原告の上告を受理しない決定がされて、上記判決が確定し、原告の敗訴が確定した。(争いがない) ウ 原告は、平成29年5月23日、本件訴訟を提起した。原告は、本件訴訟提起前に、裁判外で被告に対して問い合わせをしたり、損害賠償を求めたりすることはなかった。(争いがない) エ 被告は、経営判断から、発売後程なく被告商品の新規販売を停止しており、現在も、被告商品を製造販売していない。(弁論の全趣旨、争いがない) (2)被告は、原告が平成26年時点で被告が原告の著作権を侵害している可能性を認識していたにもかかわらず、原告が、平成29年5月まで、被告DVDの製造、販売の差止めを求めず、同月、本件訴訟を提起して損害賠償を請求することは権利の濫用に該当すると主張する。 しかし、原告が平成25年時点で著作権侵害の可能性を認識したとしても、原告には上記認識後直ちに被告に対して被告DVDの製造、販売の差止めを求めなければならない義務はない。また、原告が、その製造、販売を容認していたなどの事情を認めるに足りる証拠はない。原告被告間では、前記イの別件訴訟が係属していたが、そこでは、本件とは別個のキャッチフレーズの著作権侵害の有無が争われていて、同訴訟の係属の事実が、別個の著作物に関する本件訴訟の提起が権利濫用となることを基礎付けるものとはいえない。被告主張の事実をもって、原告が平成29年5月まで被告DVDの製造、販売の差止めを求めず、本件訴訟を提起することが、権利の濫用になるとは認められない。 第4 結論 よって、原告の請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 安岡美香子 裁判官 佐藤雅浩 別紙 DVDの内容の対照表 (別紙一部省略) |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |