判例全文 | ||
【事件名】“なびシリーズ”プログラム事件 【年月日】平成31年2月15日 東京地裁 平成29年(ワ)第10909号 損害賠償等請求事件(本訴)、 平成29年(ワ)第35131号 損害賠償請求反訴事件(反訴) (口頭弁論終結日 平成30年12月14日) 判決 本訴原告・反訴被告 A(以下「原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 笹浪靖史 同訴訟復代理人弁護士 伊藤敦 本訴被告・反訴原告 ネットフロイド株式会社(以下「被告」という。) 同訴訟代理人弁護士 平野敬 主文 1 被告は、原告に対し、4190万5662円及びうち4040万2997円に対する平成29年4月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち147万7308円に対する平成29年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち2万5357円に対する平成29年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 被告の反訴請求を棄却する。 4 訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1本訴 (1)被告は、原告に対し、5279万8318円及びうち5033万2313円に対する平成29年4月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち150万4308円に対する平成29年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を、うち96万1697円に対する平成29年4月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は被告の負担とする。 (3)仮執行宣言 2 反訴 (1)原告は、被告に対し、871万7812円及びこれに対する平成29年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は原告の負担とする。 (3)仮執行宣言 第2 事案の概要等 本訴は、原告が、ポータルサイトの開発、運営の事業を共同で営んでいた被告に対し、@被告が経費を過大に計上するなどして原被告間の契約に基づく収益の分配をしなかったことから、平成29年3月31日をもって同契約を解除したとして、未払収益分配金1183万6621円(平成28年4月分から平成29年3月分まで)及び同契約の解除に伴う損害賠償金(逸失利益)の一部である4000万円の支払を求めるとともに、上記未払収益分配金のうち1033万2313円(平成28年4月分から平成29年2月分まで)及び逸失利益4000万円の合計5033万2313円に対する訴状送達の日の翌日である平成29年4月23日から支払済みまで、上記未払収益分配金のうち150万4308円(平成29年3月分)に対する平成29年5月1日(その支払期限の翌日)から支払済みまでいずれも商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め、A被告が、同事業の運営に必要なプログラムであり、原告がプログラム著作権を有するプログラムを無断で複製したとして、著作権侵害に対する損害賠償金(使用料相当損害金)として96万1697円(以上合計5279万8318円)の支払を求めるとともに、同損害賠償金に対する不法行為日(継続的不法行為の最終日)である平成29年4月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 反訴は、被告が、原告に対し、原告が上記プログラムを被告に無断で消去したと主張して不法行為に基づく損害賠償金871万7812円及びこれに対する不法行為日である平成29年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。) (1)当事者等 ア 原告は、個人事業主(屋号省略)としてウェブサイトやソフトウェアの設計、開発を業として行っている。 イ 被告は、平成19年10月まで個人事業主(屋号省略)であったB(以下「B」という。)を代表者として平成19年11月に設立され、ウェブサイトのコンテンツの企画・制作・運営等のインターネット関連事業を目的する株式会社である。なお、Bは、平成30年9月20日、被告の代表取締役を辞任し、妻であるCが代表取締役となった。 (2)原告とBは、平成18年3月頃、全国の様々な商店や飲食店、美容室等の事業者のサービスを電話帳のように網羅的に掲載し、サイト利用者が自ら必要とする近隣のサービスをインターネットで探すことができるというウェブサイト「なびシリーズ」を運営するという事業(以下「本件事業」という。)を開始した。 本件事業において、原告は主にプログラム開発やサイトのシステム運用を担い、Bは主にサイトの企画や顧客対応等の運営を担っていた。本件事業の主な収益は広告収入であり、本件事業の収益分配については、収益から経費として引いた金額を、原告とBと平等に分配することで、原告とBとの間で合意していた。 (3)Bは、平成19年11月、被告を設立し、原告と被告との間で引き続き本件事業を行うこととなったが、共同事業の内容や役割分担に変更はなく、収益分配の方法も変わらず、従前と同様に、「なびシリーズ」の共同事業を継続した。 (4)原告と被告は、平成21年1月30日、従前の合意内容を文書において明記することとし、「業務契約書」(甲5。以下「本件業務契約」という。)を作成した。本件業務契約書には以下の内容の条項が定められていた。 ア 「『なびシリーズ』の企画の所有は被告が、プログラムの所有は原告が、ただし、その利用においては双方が、無条件に利用できる。」(第3項) イ 「『なびシリーズ』内の、基礎的な立場について、主催・運営は被告が持ち、技術部分については原告が持つ。」(第6項) ウ 「『なびシリーズ』の収益について、アフェリエイトの収益については、収益から経費を引いた利益を二分配する。但し、経費の内訳については、その時、その時の状況により『なびシリーズ』全体の運営費により変化する。 A−事務経費等の費用が発生するケースが想定できる。 B−日頃のルーティン作業について、(承認作業等)人を雇用し、やらせるケース等が生じる可能性がある。 C−税務上の処理は、全て独立した事業者として処理をする。 D−収益の向上に向けた作業について、無条件に協力する。」(第8項) エ 「『なびシリーズ』の仕事において、対外的な契約の必要性が生じた場合、被告が契約締結者になる。又、原告は、被告の技術部部長とし…」(第9項) オ 「事務経費、契約上の問題が生じた場合、協議の上決定する」(第9項) (5)被告は、本件事業開始後から平成27年5月(同年4月分)までの間、本件事業から生じた収益を分配する際、原告に対し、毎月の収益及び経費の項目及び金額が記載された明細を開示していた。 原告とBの関係は平成27年5月頃には悪化し、被告は、同月分から、収益金の送金は行っていたものの、収益分配金の明細を開示しなくなった。これに対し、原告がその開示を要求したところ、平成28年8月頃、平成27年5月分から平成28年3月分までの収益分配の明細が開示された(甲8。なお、原告は、同月分までの収益分配金の支払については争っていない。)。 被告は、本件事業につき、平成28年4月分以降の支払について、収益分配における経費の算入等を追加変更し、別紙1−1〜1−10の各「被告計上金額」欄記載の各金額を経費として計上した上で収益分配の計算を行い、原告に対し、以下のとおり収益分配金を支払った。(甲9)
(7)原告は、平成29年4月1日、「なびシリーズ」に使用しているプログラム(以下「本件プログラム」という。)を停止したところ、被告は、同日、同プログラムのバックアップから本件プログラムを「なびシリーズ」のサーバに複製して同プログラムを再稼働させ、同日から同月23日まで使用した。 2 争点 (1)本訴関係 ア 未払収益分配金の有無及びその額(争点1) イ プログラム著作権の複製権侵害の成否(争点2) ウ 債務不履行及びプログラム著作権侵害による損害の有無及びその額(争点3) (2)反訴関係 ア プログラム消去による不法行為の成否(争点4) イ 損害の有無及び額(争点5) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(未払収益分配金の有無及びその額)について 〔原告の主張〕 (1)本件業務契約に基づき原告が受けるべき収益分配金の額は、広告収入等の収益金から、事業に直接関連するサーバ代、電気代、弁護士費用等の経費を差し引いた金額を二分した額であり、被告は、本件事業の開始当初から平成28年3月分までの間は、上記方法に従って原告に対して収益分配を行っていた。 本件業務契約において、収益から差し引く経費については、本件業務契約書上、「原告と被告が協議して決定する」と定められ、原告と協議の上で意思決定することとされていた。実際のところ、本件事業の開始当初から平成27年4月までの間は、原告と被告間で協議が行われ、双方了承の上で経費の支出をしていた。 原告と被告との間で経費として計上することが合意されていた費目は、サーバ電力代(甲13)、冷暖房費(甲13、14)、通信回線費(甲15)、法律事務所の顧問料(甲16)、IT損害保険料(甲17)、サーバリース代(甲18)、蓄電池代(甲19)、プロバイダー料金(甲20)、ドメイン更新料(甲21)、バックアップ用サーバ費用(甲22)、共同事業の人件費(甲23〜28)などであった。 なお、収益分配金の支払時期については、本件業務契約書には明記されていないが、被告は収益のあった月の翌月末までに原告に収益分配金の支払をしており、かかる内容で双方了解していた。 (2)このように、本件業務契約における収益分配に当たり経費として計上するためには、原告と被告との間で事前協議を行い、経費支出について合意することが要件とされていたが、被告は、平成28年4月分以降の収益分配につき、原告の同意なく一方的に収益分配の方法を変更し、本件事業に直接関係のない別紙1−1〜1−12の各「番号」欄「あ」〜「た」記載の経費項目(以下項目「あ」などという。)を計上し、原告に対して本来支払うべき収益分配金を支払わなかった。 (3)被告が原告の同意なく経費として計上した個別経費の費目及びその内容は、以下のとおりである。 ア 役員報酬(項目「あ」) 被告の計上した役員報酬はお手盛りである上、本件事業全体の収益からBの役員報酬を控除し、残りを被告に収益分配すると、実質的には、Bが役員報酬と収益分配とを二重取りすることになる。また、原告とB間では、Bの役員報酬は被告自身が得た収益分配金から被告が支払うこととされており(甲39)、平成28年4月まではBの役員報酬は費用として計上されていなかった。 また、Bの妻である被告代表者は本件事業に関与しておらず、所得の分散による節税目的で名目上の役員になっているにすぎないので、その役員報酬を本件事業の収益計算に参入することは不当である。 イ 人件費(項目「い」「う」) 被告が経費計上した人件費のうち、D氏及びE氏については、被告の単独事業である「なび特派員」又は「なびセレクト」に従事している人員であり(甲40の2、甲42の1・2)、原告が収益分配を受けていないこれらの事業の人件費を負担すべき理由はない上、原告が同人らの人件費を本件事業の経費として計上することについて事前協議を受け、同意したことはない。 ウ 車両に関する減価償却費(項目「え」)、租税公課(項目「こ」)、車両保険料(項目「し」)、備品消耗品費(項目「す」) これらの費用は被告が保有する車両に関する費用である。被告は、同自動車が現地調査や取材活動に必要であると主張するが、本件事業には現地調査や取材は不要であり、同車両は、B夫妻の私的利用に使用されたものであって、原告がその費用を負担すべき理由はない。また、同費用を本件事業の経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 また、項目「す」について、被告はハードディスク等の機材購入費用の残部であると主張するが、その費用の内容、残金が不明である。 エ 企業保険(項目「お」) 被告は、項目「お」は、中小企業倒産防止共済及び生命保険であると主張するところ、これらの費用はいずれも原告や本件事業には関係のない被告の経費であり、実質的には被告の節税を目的とするものであって、税務上の処理はそれぞれ独立した事業者として処理するという本件業務契約第8項にも違反する。また、同費用を本件事業の経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 オ 地代家賃(項目「か」) 被告の主張する地代家賃は、Bの居宅の1階についてのものであるところ、本件事業に関連するサーバ室はその一部にすぎず、同サーバ室の地代を経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 カ 修繕費(項目「き」) 項目「き」の修繕費は、被告の主張によると、上記自動車及びBの自宅のサーバ室の空調機器の修繕費ということであるが、上記自動車及びサーバ室の地代は経費として計上されるべきものではないので、その修繕費についても原告が負担する理由はない。 キ 事務消耗品費(項目「く」) 被告の主張する画像編集ソフトの年間ライセンス料は、被告の単独事業でも利用されていると考えられ、いずれにしても、同費用を経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 ク 通信交通費(項目「け」) 被告の主張する携帯電話の費用は、被告の単独事業の要員との連絡費用も含まれていると考えられ、いずれにしても、同費用を経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 ケ 接待交際費(項目「さ」) Bの支出した接待交際費を経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 コ セコム(項目「せ」) 項目「せ」の警備費用は、Bの居宅全体の警備費用であると考えられ、これを原告が負担すべき理由はない上、同費用を経費として計上することについて、原告が被告から事前協議を受け、同意したことはない。 サ 支払手数料(項目「そ」「た」) 上記各項目の費用のうち、項目「そ」のマネタイズパートナー株式会社(以下「マネタイズパートナー」という。)に対するコンサルティング費用については、対外的な契約について原告に事前協議するという本件業務契約第9項の規定に反して締結されたものであり、原告がこれを負担すべき理由はない。 また、項目「た」の顧問税理士に対する顧問費用等については、税務上の処理は原告と被告が独立した事業者としてそれぞれ行う旨の本件業務契約書第8項に違反するものであり、同様に、原告がこれを負担すべき理由はない。 (4)原告は、被告に対し、平成28年11月5日、未払収益分配金の支払を催告するとともに、催告後1か月が経過したときは、平成29年3月末日限り本件業務契約を解除するとの意思表示をした。被告は、未払収益分配金を支払わず、催告後1か月が経過したため、本件業務契約は同日をもって解除された。 (5)以上を前提にすると、平成28年4月分から平成29年3月分までの未払収益分配金の合計は、以下のとおり、1183万6621円となる(なお、平成29年2月分及び3月分については、収益明細の開示及び収益分配金の支払がされていないので、グーグルについてはその売上(甲9、乙12)を基礎とし、その他については平成28年2月から平成29年1月までの月平均売上金額を算出し、その合計額から相当と認められる費用を控除した上で、収益を二分したものである。)。 分配済みの額不足額
(1)被告は、共同事業開始当初は、原告に対し恩恵的な配慮として自らの取り分を削って原告に優先的に利益を配分していたところ、原被告間の関係が悪化した平成28年5月以降は、恩恵的な分配を止めて適正な計算方法に戻したにすぎない。原告が主張する平成28年3月以前の分配金額と同年4月分以降の分配金額との差額分は、契約上の義務に基づくものではなく、贈与である。 (2)本件業務契約は共同事業を行うための組合契約の一種であり、組合の単独業務執行者である被告は自己の裁量として人件費等の費用を支出する権限を有していることから、運営費の支出にあたり、原告との間で個別的な承諾を得ることは契約の内容とはなっていなかった。 (3)被告が原告に対して行った収益分配は適正なものであり、不足額は存在しないから、被告が債務不履行責任を負うことはなく、原告による債務不履行解除も認められない。また、原告による本件業務契約の解除は組合にとって不利な時期における脱退として許されない。 (4)被告による本件事業の経費計上は、以下のとおり、適正なものである。 ア 役員報酬(項目「あ」) 被告は本件事業のみに従事しており、B及びその妻である被告代表者は被告の役員として本件事業に専業で従事していた。前記のとおり、被告は本件業務契約における業務執行者として自己の裁量により人件費を支出する権限を有しているのであるから、上記役員報酬は経費として認められる。 イ 人件費(項目「い」「う」) E氏は福岡県在住のスタッフであり、D氏は熊本県在住のスタッフであって、九州在住のスタッフは、被告が直接訪問することが難しい遠隔地において「なびシリーズ」のコンテンツの拡充のための取材に貢献していた。このため、両人の人件費は「なびシリーズ」の事業としての経費性を有している。 ウ 車両に関する減価償却費(項目「え」)、租税公課(項目「こ」)、車両保険料(項目「し」)、備品消耗品費(項目「す」)「なびシリーズ」において絶えずコンテンツの拡充を必要としており、現地調査や写真撮影を含む取材活動が欠かせず、これらに関連するものとして経費性を有する。車両は専ら「なびシリーズ」のために利用されており、項目「え」「こ」「し」はその維持管理に必要な費用である。また、項目「す」の一部には同車両のガソリン代が計上され、その残部は、蓄電池のリース料、バックアップ用のハードディスク等の機材購入費及びアプリケーションライセンス費用であり、いずれも「なびシリーズ」の運営等に必要なものである。 エ 企業保険(項目「お」) 保険として計上されている費用は、中小企業倒産防止共済の加入費用及び取締役であるBらの生命保険である。本件事業の存続のためには対外的に契約を締結する被告の経営を安定化させる必要があり、本件事業に不可欠なBらの欠員によるリスクヘッジをする必要があるから、これらの費用は本件事業に必要な経費である。 オ 地代家賃(項目「か」) 「なびシリーズ」に供するサーバを設置するための建物はB所有に係るものであり、被告はBからこれを賃借しているのであるから、その費用は本件事業に必要な経費である。 カ 修繕費(項目「き」) 上記ウの車両及び上記オのサーバの設置されたサーバ室の空調機器の修繕費として支出したものであり、上記ウ及びオと同様の理由から、本件事業に必要な経費である。 キ 事務消耗品費(項目「く」) 画像編集ソフトの年間ライセンス料等のソフトウェア利用料であり、本件事業に必要な経費である。 ク 通信交通費(項目「け」) 本件事業のコンテンツ拡充のためには取材活動が必要であり、スタッフ間で頻繁に連絡を取り合わなければならない。項目「け」の通信交通費はそのために必要な携帯電話の費用であるから、本件事業に必要な経費ということができる。 ケ 接待交際費(項目「さ」) 被告は多くの企業と「なびシリーズ」に関する商談を行っており、そのためには飲食等の接待交際費が必要であるから、項目「さ」の接待交際費は本件事業に必要な経費である。 コ セコム(項目「せ」) 項目「せ」は、上記サーバ室の安全確保を目的とする警備会社の費用であり、本件事業の運営のために必要な経費である。 サ 支払手数料(項目「そ」「た」) 項目「そ」「た」には、マネタイズパートナーに対するコンサルティング費用支払、顧問税理士に対する顧問費用の支払及び銀行の振込手数料が含まれているが、これらは本件事業の収益性改善又は節税を含む税務対応のためであり、本件事業に必要な経費である。 2 争点2(プログラム著作権の複製権侵害の成否)について 〔原告の主張〕 (1)原告は、平成17年11月頃、「なびシリーズ」のシステム開発に着手し、平成18年3月頃に最初期のバージョンが完成し、サイト運用が開始された。 本件業務契約書には、原告のプログラミング作業により「なびシリーズ」が作り上げられたことが明記され、「プログラムの所有」は原告に帰属する旨が確認されていた。 被告は、平成29年4月1日、「なびシリーズ」プログラムのバックアップから、「なびシリーズ」サーバにプログラムを複製した。「なびシリーズ」のウェブサイトの構成は、複数の著作物の集合体であり、@WEB閲覧者からのリクエストを受け、サーバ内部でデータベース(下記B)の検索等の処理を行い、特定のHTMLテンプレートファイル(下記C)を表示するプログラム、A複数のバッチプログラム群、B地域の店舗情報データベース、Cサイト画面に表示する複数のHTMLテンプレートファイルであるところ、本件業務契約における「プログラム」は基本的に@とAを意味しており、これが本件プログラムに当たるものである。原告が利用を停止したのは@とAであり、被告が新しく作ったと主張しているのは@とAに代替するプログラムのことである。上記@〜Cは、全体としては結合著作物であり、それぞれが独立した著作物である。 (2)原告は、本件業務契約の解除の伴い、平成29年4月1日、「なびシリーズ」プログラムを停止したところ、被告は「なびシリーズ」プログラムのバックアップから原告が著作権を有するプログラムを原告に無断で「なびシリーズ」サーバに複製し、プログラムを再稼働させた。被告の行為は、原告のプログラム著作権の侵害に当たる。 〔被告の主張〕 (1)本件プログラム開発に当たり手を動かしてコーディング(プログラム言語によりソースコードを記述すること)を行う工程は原告が担当したが、「なびシリーズ」はBの企画開発した「さいなび」を原型として全国版に展開したものであり、コーディングの前提となる着想や仕様はBが提供したものである。そして、本件業務契約は、その用語は不明確であるが、本件プログラムが共同著作物であることを定めたものである。 したがって、同プログラムは「二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(著作権法2条1項12号)に当たり、被告は、本件業務契約(第3項)に基づき、被告はその権限に基づいて本件プログラムを無条件に利用することができたものである。 (2)被告が、平成29年4月1日に本件プログラムのバックアップから「なびシリーズ」を復旧させ、これを同月23日まで使用したことは認める。 3 争点3(債務不履行及びプログラム著作権侵害による損害の有無及びその額)について 〔原告の主張〕 (1)債務不履行に基づく損害賠償請求 本件事業における1年間の収益は、1555万2338円(平成28年4月から29年1月分に平成29年2月分及び3月分の収益分配金を合算した額)である。そして、被告の債務不履行がなければ、本件事業は少なくとも5年は継続したといえることから、5年分の逸失利益は7776万1690円となるところ、原告は、その一部である4000万円の支払を求める。 (計算式) 1279万7680円+125万0350円+150万4308円=1555万2338円 1555万2338円×5年=7776万1690円 (2)プログラム著作権の侵害に基づく損害賠償について 被告は、本件業務契約が解除された後に、原告の著作物である本件プログラムの複製権を侵害し、無断使用した。本件プログラムは、本件業務契約に基づき過去に利用許諾がされていたものであり、原告は本件業務契約がなければ本件プログラムを他者に利用させることはない。したがって、本件業務契約が有効であった当時の原告の収益分配額が本件プログラムの相当使用料となる。 これを計算すると、本件業務契約が有効であった平成28年2月から平成29年1月までの1年間の原告への本来の収益分配額1526万1724円が1年間の相当使用料であり、被告が使用した期間は23日であるから、96万1697円が原告の損害として推定される(著作権法114条3項)。 (計算式) 1526万1724円÷365×23=96万1697円 〔被告の主張〕 (1)債務不履行に基づく損害賠償請求 平成29年5月から平成30年4月までの「なびシリーズ」売上は、1月あたり平均約151万円であり、平成28年5月から平成29年4月まで1月当たり平均約337万円であって、直近の売上が減少しているところ、売上減少の原因は、平成29年4月の原告の破壊行為により、検索エンジンの評価が急落し、閲覧者が低下し、売上げが減少したことにある。 原告は「なびシリーズ」から継続的に収益分配を受けられる立場にありながら、「なびシリーズ」の存立自体を危うくするプログラム消去行為に及んでいる。そのような行為を行った原告が従前どおりの逸失利益を請求するのは背理であって、因果関係がない。 (2)プログラム著作権の侵害に基づく損害賠償について 否認ないし争う。 4 争点4(プログラム消去による不法行為の成否)について 〔被告の主張〕 原告は、平成29年4月1日、サーバに格納された「なびシリーズ」のプログラムを削除して、当該サーバが正常に稼働できないようにした。原告は自らの権限を恣意的に解釈して本件破壊行為に及んだものであって、その行為の違法性を阻却する事由はなく、不法行為が成立する。仮に原告にプログラム著作権を有するとしても、自力救済として正当化される行為とはいえない。 〔原告の主張〕 原告は、本件サーバにアクセスし、その内部に格納されたプログラム等を変更・削除する包括的なアクセス権があり、サイトの開始作業やサイトの停止、不適法なプログラムの消去も含む広範な裁量と権限があったのであり、利用権がなくなったプログラムを削除する権限もあった。被告は、本件業務契約の解除により原告が著作権を有する本件プログラムを使用する権限を失ったのであるから、著作権者である原告がその利用を停止したとしても、その行為が違法になるものではない。 5 争点5(損害の有無及び額)について 〔被告の主張〕 原告の破壊行為により、なびシリーズの売上げが減少し、平成29年4月から同年8月まで合計792万5284円の売上げが失われたものであって、当該金額が損害となる。また、本件反訴における弁護士費用として、売上高の1割に相当する79万2528円が相当である。 したがって、本件破壊行為によって被告に生じた損害は、少なくとも871万7812円である。 〔原告の主張〕 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(未払収益分配金の有無及びその額)について (1)収益分配に関する合意の内容 ア 前記前提事実(第2の1(4))のとおり、本件業務契約書(甲5)には、「なびシリーズの収益については、収益から経費を引いた利益を二分配する」(第8項)、「事務経費、契約上の問題が生じた場合、協議の上決定する」(第9項)旨の定めが置かれている。本件業務契約は、「なびシリーズ」の事業運営に関するものであるから、同契約第8項にいう「経費」が本件事業に必要な経費を意味することは当然であり、同契約第9項は、同事業の経費であることが客観的に明らかであるものは格別として、経費として計上することに疑義があるものについては、同契約当事者間の協議により相手方の同意を得なければならない旨を規定したものであると解するのが、契約当事者の合理的意思解釈に合致するというべきである。 イ そして、証拠(甲13〜28)によれば、本件業務契約の締結された平成20年1月以降、原告とBとの間でメールをやりとりするなどして協議を行い、原告と被告は、サーバ電力代(甲13)、冷暖房費(甲13、14)、通信回線費(甲15)、法律事務所の顧問料(甲16)、IT損害保険料(甲17)、サーバリース代(甲18)、蓄電池代(甲19)、プロバイダー料金(甲20)、バックアップ用サーバ費用(甲22)、共同事業の人件費(A女、F、H、I分。甲23〜28)を経費として算入することについて合意したとの事実が認められる。 このように、本件業務契約締結後に経費算入の可否について原告と被告間で協議の上、意思決定が行われたという事実は、上記ア記載の合意が原告とB間で形成されたことを裏付けるものということができる。 ウ これに対し、被告は、平成28年3月以前の分配金額と同年4月分以降の分配金額との差額分は恩恵的配慮からの贈与であり、変更後の分配金の計算が本来の計算方法であったと主張する。 しかし、当該差額分が贈与であったとの被告主張を認めるに足りる証拠は存在せず、収益分配につき特段の問題が生じていなかった事業開始後から平成28年3月分までの原告と被告との間の収益分配の状況とも整合しないことから、被告の主張は採用できない。 また、被告は、本件業務契約は組合契約の一種であり、組合の単独業務執行者である被告は自己の裁量として費用を支出する権限を有していることから、原告との間で個別的な承諾を得ることは契約の内容とはなっていなかったと主張する。 しかし、本件業務契約は、共同の事業を目的とするものではあるものの、団体としての組合を設立するものとは考え難く、契約各当事者の出資の内容についても明確ではなく、本件事業の遂行のために組合員全員の共有とされる財産が形成されたとも解し難いことに照らすと、同契約は、独立した事業者間の業務提携・協力を内容とする無名契約の一種と解するのが相当である(甲29参照)。このため、本件業務契約が組合契約であることを前提とする被告の上記主張は採用し得ない。 エ 以上のとおり、本件業務契約にいう「経費」は本件事業に必要な経費を意味し、原告と被告との間には、少なくとも同事業の経費として計上することに疑義があるものについては、同契約当事者間の協議により相手方の同意を得なければならない旨の合意が存在したと認めるのが相当である。 また、原被告間の収益分配金の支払状況に照らすと、収益分配金の支払時期については、収益金が入金された月の翌月末日までに支払を行う旨の合意があったと認められる。 (2)個別経費についての検討 以下、経費として計上すべきかどうかについて、当事者間に争いがある個別経費について検討する。 ア 役員報酬(項目「あ」) 被告は、平成28年4月分以降、B及び被告代表者の役員報酬を経費として計上するようになったところ、被告の役員報酬は被告全体の利益等から支払われるべき報酬であり、本件事業の経費としての性質を有するものではないから、これを本件事業の経費に算入するのは相当ではない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 イ 業務委託費(E氏、D氏分)(項目「い」「う」) 被告は、平成28年4月分以降、E氏及びD氏に対する業務委託費を経費として計上するようになったところ、E氏及びD氏が本件事業に従事したと認めるに足りる証拠はないので、同人等に対する業務委託費を本件事業の経費として算入することは相当ではない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 ウ 車両の減価償却費(項目「え」) 被告は、平成28年4月分以降、車両の減価償却費を経費として計上するようになったところ、同車両が本件事業に使用されたことを示す証拠はないので、同費用は本件事業の経費と認められない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 エ 企業保険(項目「お」) 被告は、平成28年4月分以降、企業保険費用を「厚生費」名目で経費として計上するようになったところ、同費用は、被告の経営安定化のための中小企業倒産防止共済の加入費用及び被告の取締役であるBらの生命保険に関する費用であり、本来、被告が負担すべきものであって、本件事業の経費としての性質を有するものではない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 オ 地代家賃(項目「か」) 被告は、平成28年4月分以降、B及び被告代表者の自宅1階のサーバ室等の地代家賃を経費として計上するようになったところ、本件事業に使用しているサーバが置かれている部屋は一体として使用されている自宅の一部(乙31の4、5枚目)であり、被告が経費として計上している地代家賃は当該部分のみの地代家賃とはいえない上、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 カ 修繕費(項目「き」) 被告は、平成28年4月分以降に経費として計上するようになった修繕費について、同費用は上記車両及び上記サーバ室の空調機器の修繕費であると主張する。しかし、当該費用の内容及び必要性、支出の有無等を認めるに足りる証拠はない上、車両については本件事業との関連性も明らかではない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 キ 事務消耗品費(項目「く」) 被告は、平成28年4月分以降に経費として計上するようになった事務消耗品費について、同費用は画像編集ソフトに関するソフトウェア利用料であると主張する。しかし、当該費用の内容、支出の有無、本件事業との関連性等を認めるに足りる証拠はなく、また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 ク 通信交通費(携帯電話等の通信料金)(項目「け」) 被告は、平成28年4月分以降に計上するようになった通信交通費について、同費用は本件事業の取材活動に必要な携帯電話等の費用であると主張する。しかし、費用として計上された通信交通の内容、必要性、本件事業との関連性を認めるに足りる証拠はなく、また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 ケ 租税公課(項目「こ」) 被告は、平成28年4月分以降、本件車両に関する自動車税を経費として計上するようになったところ、上記ウのとおり、同車両が本件事業に使用されたことを示す証拠はないので、同費用は本件事業の経費と認められない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 コ 接待交際費(項目「さ」) 被告は、平成28年4月分以降に経費として計上するようになった接待交際費について、本件事業の収益性を高めるために必要なものであったと主張する。しかし、同費用の支出の有無及び日時、接待の相手方、本件事業との関連性等を認めるに足りる証拠はなく、また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 サ 車両保険料(項目「し」) 被告は、平成28年4月分以降、本件車両に関する保険料を経費として計上するようになったところ、上記ウのとおり、同車両が本件事業に使用されたことを示す証拠はないので、同費用は本件事業の経費と認められない。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 シ 備品消耗費(蓄電池のリース代以外)(項目「す」) 被告は、平成28年4月分以降に経費として計上するようになった備品消耗費について、蓄電池のリース代のほかに、ガソリン代、ハードディスク等の電気製品の購入代金、ソフトウェアの購入代金を含むものであると主張するが、原告と被告との合意により経費算入が認められる蓄電池のリース代以外の費用については、本件事業との関連性が明らかではなく、本件事業に必要な必要であるとは認められない。また、これらの支出を本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 ス 管理諸費(警備費用)(項目「せ」) 被告は、平成28年4月分以降、Bの自宅の警備費用を管理諸費名目で費用として計上するようになったところ、その自宅には本件事業に使用されるサーバを置く部屋が含まれるとしても、同部屋は自宅として一体として使用され、その一部を構成するにすぎないのであるから(乙31の4、5枚目)、これを本件事業の経費に算入することは相当ではなく、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 セ マネタイズパートナーのコンサルティング費用(項目「そ」) 被告が本件事業の費用として計上しているマネタイズパートナーに対するコンサルティング費用については、平成28年4月分より前である平成27年11月分から平成28年3月分までの間、経費(甲8の7〜11)として、「マネタイズパートナー広告管理54000円」が計上されていることが認められる。原告が、平成28年4月分より前の経費については争っていないことに照らすと、マネタイズパートナーのコンサルティング費用については、これを本件事業の経費とすることについて原告の黙示の承認があったと解するのが相当である。 ソ 税理士費用(項目「た」) 被告は、平成28年4月から税理士費用を経費として計上するようになったところ、本件業務契約書第8項には、税務上の処理については原告及び被告が独立した事業者として処理する旨の規定があり、税理士費用は同契約の各当事者が負担する旨の合意があったと認められる。また、これを本件事業の経費に算入することについて、原告が被告から協議を受け、同意したと認めるに足りる証拠もない。 (3)被告に対する未払収益分配金 ア 以上のとおり、被告が本件業務契約に基づかずに各経費を算入したことにより、本来分配すべき金員を理由もなく減額し、その分、本来原告が分配を受けるべき金員を支払わなかったということができるのであるから、原告は、被告に対して、未払収益分配金の支払を求めることができる。 イ 被告の原告に対する平成28年4月分から平成29年3月分までの未払収益分配金は(下記C)は、別紙2のとおりである(式:(@本件事業からの収益金−A算入すべき経費)÷2)−B既払収益分配金)。 なお、平成29年2月及び同年3月における本件事業からの収益金は、グーグルからの売上げについては、平成29年2月が304万1745円、同年3月が355万2469円であったと認められ(甲9の12、乙12の1)、その他の売上げについては、平成28年2月から平成29年1月までの月平均売上金額に基づいて計算すると、別紙3のとおりであると認められる。そして、同各月について計上すべき経費は、別紙1−11及び1−12記載の各金額に前記第4の1(2)セのとおりマネタイズパートナーのコンサルティング費用5万4000円をそれぞれ加えた金額であるので、同各月の被告の未払収益分配金は、別紙2のとおりの金額(小数点一位は切下げ)となる。 (4)したがって、原告は、被告に対し、平成28年4月分から平成29年3月分までの未払収益分配金として1148万2957円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができる。 2 争点2(プログラム著作権の複製権侵害の成否)について (1)本件プログラムのプログラム著作権の帰属に関し、証拠(甲53)によれば、「なびシリーズ」の運営に必要なシステムの開発を行ったのは原告であると認められ、本件業務契約書第3項には、プログラムの所有権は原告に帰属する旨の規定が置かれている。これによれば、本件プログラムのプログラム著作権は原告に帰属すると認めるのが相当である。 これに対し、被告は、「なびシリーズ」は従前の「さいなび」を原型とするものであり、本件プログラムの前提となる着想や仕様はBが提供したものであることや、本件業務契約第3項も本件プログラムが共同著作物であることを定めていると主張する。 しかし、「さいなび」に係るプログラムはBが創作したものではなく、本件プログラムの前提となる具体的な着想や仕様をBが提供したと認めるに足りる証拠もない。また、仮に、Bが何らかの着想等を提供したことがあったとしても、共同著作物と認められるためには、「2人以上の者が共同して創作した」ことが必要であり、客観的に各著作者が共同して創作行為を行うこと、主観的に各著作者間に共同して1つの著作物を創作するという共同意思が必要であるところ、被告が客観的に本件プログラムの創作行為を行ったと認めるに足りる証拠はない。 さらに、本件業務契約第3項は、その文言に照らすと、本件プログラムのプログラム著作権が原告に帰属することを規定したと解するのが自然であり、本件プログラムが共同著作物であることを規定したものとは理解し得ない。 したがって、本件プログラムのプログラム著作権は原告に帰属すると認めるのが相当である。 (2)そして、前記前提事実(第2の3(7))のとおり、原告が本件業務契約を解除後「なびシリーズ」プログラムを停止した後、被告が「なびシリーズ」プログラムのバックアップから原告が著作権を有するプログラムを原告に無断で「なびシリーズ」サーバに複製し、平成29年4月1日から同月23日までの間、これを認識しつつプログラムを再稼働させていたと認められる。被告の同行為は、本件プログラムのプログラム著作権の侵害となる。 3 争点3(債務不履行及びプログラム著作権侵害による損害の有無及びその額)について (1)債務不履行に基づく損害賠償(逸失利益) 前記判示のとおり、被告は、原告に対し、本件業務契約に基づく収益分配金の支払義務を履行しなかったのであるから、原告による債務不履行を理由とする同契約の解除は有効であるということができる。 債務不履行解除に伴う逸失利益について、原告は、平成28年4月分から平成29年3月分までの収益分配金を基礎として5年間は同程度の収益を上げることができたと主張する。 この点について、逸失利益の算定の基礎については、原告の主張するとおり、本件解除の直前である平成28年4月から平成29年3月までの収益分配金に基づいて算定することが相当である。他方、逸失利益を認める期間については、本件事業の売上げが平成27年頃に比べると減少していること、本件事業のようなポータルサイトは同様のサービスを提供する事業者が出現するなどして比較的短期間で事業環境が変化する可能性があることなども考慮し、2年間と認めることが相当である。 したがって、原告の被告に対する債務不履行に伴う逸失利益は3039万7348円となる。 (計算式)1519万8674円(別紙2のB及びCの合計額)×2年=3039万7348円 (2)プログラム著作権の複製権侵害による損害賠償金について 前記判示のとおり、被告は、本件プログラムを違法に複製し、それを平成29年4月1日から同月23日まで使用したということができる。原告は、プログラム著作権の複製権侵害に対する使用料相当損害金として、原告への収益分配額を基礎とすべきであると主張するが、年間の使用料相当損害金としては、本件事業から生じる年間の収益金4024万1514円を基礎にして、その1%であると認めることが相当である。 そうすると、被告のプログラム著作権侵害に対する使用料相当損害金は、上記年間使用料相当額のうち23日分に相当する2万5357円(小数点一位は切下げ)となる。 (計算式)4024万1514円(別紙2の@の合計額)×1%×23日/365日=2万5357円 4 争点4(プログラム消去による不法行為の成否)について 前記2のとおり、本件プログラムのプログラム著作権は原告にあるものと認められ、被告に対する同プラグラムの使用許諾が本件業務契約の解除により平成29年3月31日をもって終了したと解される。そうすると、原告が、同年4月1日に自らが管理する本件プログラムを停止したとしても、それは正当な権利行使にすぎず、同行為が不法行為を構成するということはできない。 したがって、被告の反訴請求はその余の点について検討するまでもなく、理由がない。5 結論 よって、原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容しその余は理由がないから棄却することとし、被告の反訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 遠山敦士 (別紙1及び別紙3は、添付省略) |
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