判例全文 | ||
【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件G 【年月日】平成31年2月12日 東京地裁 平成30年(ワ)第37538号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成31年1月29日) 判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、別紙発信者目録の「原告」欄記載の各原告に対し、それぞれ対応する同目録の「日時」欄記載の日時頃に、同目録の「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名、住所及び電子メールアドレスを開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 本件は、別紙レコード目録に係る各レコードの送信可能化権を有すると主張する原告らが、氏名不詳者が上記各レコードを圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動公衆送信し得る状態にした行為により上記送信可能化権を侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。 1 請求原因(原告の主張) (1)ア 別紙レコード目録の「レコード製作者」欄記載の者は、それぞれ対応する同目録の「実演家」欄記載の実演家が歌唱する同目録の「楽曲」欄記載の楽曲を録音したレコード(以下、同目録の番号に従い「レコード1」などといい、「本件各レコード」と総称する。)を製作し、同目録の「発売年月日」欄記載の日に同目録の「CD(商品番号)」欄記載の音楽CDに収録して日本全国で発売した。 イ レコード1の製作者であるエイベックス株式会社(その後、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社に商号変更した。以下、商号変更の前後を問わず「ホールディングス社」という。)は、レコード2の製作者であるエイベックス・ディー・ディー株式会社を吸収合併し、その後、エイベックス株式会社(その後、エイベックス・エンタテインメント株式会社、エイベックス・デジタル株式会社に順次商号変更した。以下商号変更の前後を問わず「デジタル社」という。)を新設分割し、レコード1及び2に係る送信可能化権を含む音楽映像事業等の権利義務等一切をデジタル社が承継した。さらに、デジタル社は、原告エイベックス・エンタテインメント(当時の商号は、エイベックス・マーケティング株式会社であり、その後、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社、エイベックス・エンタテインメント株式会社に順次商号変更した。)に対し、レコード1及び2に係る送信可能化権を含む音楽事業本部に係る資産及び負債の一切の権利義務(ただし、出版権と原盤の二次利用に関するライセンスの窓口業務に係る権利義務を除く。)を吸収分割により承継させた。 ウ したがって、原告エイベックス・エンタテインメントは、レコード1及び2の製作者が有していた同レコードに係る送信可能化権を、また、レコード3の製作者である原告キングレコードは同レコードに係る送信可能化権を、レコード4の製作者である原告徳間ジャパンコミュニケーションズは同レコードに係る送信可能化権を、レコード5の製作者である原告バップは同レコードに係る送信可能化権をそれぞれ有する(著作権法96条の2)。 (2)氏名不詳者(以下「本件各発信者」という。)は、別紙発信者目録の「レコード」欄記載のレコードを圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置した上、被告の提供するインターネット接続サービスを利用して、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同目録の「日時」欄記載の日時頃、ファイル交換共有ソフトウェアにより、インターネットに接続している不特定の他の同ソフトウェア利用者からの求めに応じて同ファイルを、インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いて、本件各レコードの送信可能化権を侵害した。 (3)被告は、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。 (4)被告は、本件各発信者についての氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの情報(以下「本件各発信者情報」という。)を保有している。 (5)原告は、本件各発信者に対し、本件各レコードの送信可能化権の侵害に基づく損害賠償等の請求を行う必要があるが、本件各発信者の氏名、住所等が不明であるため、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 2 被告の認否 請求原因(1)はいずれも否認、不知ないし争う。 請求原因(2)は不知、否認ないし争う。 請求原因(3)は認める。 請求原因(4)、(5)は不知ないし争う。仮に、本件各発信者情報の開示が認められる場合であっても、住所が開示されれば足り、メールアドレスは不要である。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因(1)について 証拠(甲1、6、7、9、10、13、14〔枝番を付したものは各枝番を含む。以下同じ〕)及び弁論の全趣旨によれば、別紙レコード目録の「レコード製作者」欄記載の者は、それぞれ対応するレコードを製作し、「発売年月日」欄記載の日に「CD(商品番号)」欄記載の音楽CDに収録して日本全国で発売したこと、レコード1の製作者であるホールディングス社は、平成10年4月1日、レコード2の製作者であるエイベックス・ディー・ディー株式会社を吸収合併し、その後、平成16年10月1日、デジタル社を新設分割し、レコード1及び2に係る送信可能化権を含む音楽映像事業等の権利義務等一切をデジタル社が承継したこと、デジタル社は、平成26年7月1日、原告エイベックス・エンタテインメントに対し、レコード1及び2に係る送信可能化権を含む音楽事業本部に係る資産及び負債の一切の権利義務(ただし、出版権と原盤の二次利用に関するライセンスの窓口業務に係る権利義務を除く。)を吸収分割により承継させたこと、以上の各事実が認められる。 したがって、原告エイベックス・エンタテインメントは、レコード1及び2の製作者が有していた同レコードに係る送信可能化権を、また、レコード3の製作者である原告キングレコードは同レコードに係る送信可能化権を、レコード4の製作者である原告徳間ジャパンコミュニケーションズは同レコードに係る送信可能化権を、レコード5の製作者である原告バップは同レコードに係る送信可能化権をそれぞれ有することが認められ(著作権法96条の2)、められる。 2 請求原因(2)について 証拠(甲1、2、3、15、16〜18)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者は、別紙発信者目録の「レコード」欄記載のレコードを圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置した上、被告の提供するインターネット接続サービスを利用して、それぞれ対応する同目録の「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同目録の「日時」欄記載の日時頃、ファイル交換共有ソフトウェアにより、インターネットに接続している不特定の他の同ソフトウェア利用者からの求めに応じて同ファイルをインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置き、もって、本件各レコードの送信可能化権を侵害したことが認められ、請求原因(2)は認められる。 3 請求原因(3)ないし(5)について 上記のとおり、本件各発信者は、原告らが送信可能化権を有する本件各レコードを複製して作成したファイルを多数の者に対して送信可能な状態に置いたものであるから、本件各発信者が原告らの本件各レコードに係る送信可能化権を侵害したことは明らかである。 そして、被告がプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たること(請求原因(3))には争いがなく、また、証拠(甲4、5)及び弁論の全趣旨によれば、本件各発信者は被告が提供するインターネット接続サービスを経由してファイルをアップロードしたこと、被告が本件各発信者情報を保有していること(請求原因(4))が認められるから、原告らは本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(請求原因(5))。なお、被告は、電子メールアドレスについては開示を受ける必要はないと主張するが、被告が保有する氏名又は名称、住所に関する情報が正確性を欠くなどして発信者の特定が不十分な場合に、電子メールアドレスの情報によって発信者を正確に特定することができる可能性もあるから、電子メールアドレスは、発信者の特定及び原告らの権利行使に資する情報といえ、原告らには、電子メールアドレスを含めた本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるというべきである。 4 結論 よって、原告らの請求はいずれも理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 佐藤雅浩 裁判官 大下良仁 (別紙)当事者目録 原告 エイベックス・エンタテインメント株式会社(以下「原告エイベックス・エンタテインメント」という。) 原告 キングレコード株式会社(以下「原告キングレコード」という。) 原告 株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ(以下「原告徳間ジャパンコミュニケーションズ」という。) 原告 株式会社バップ(以下「原告バップ」という。) 原告ら訴訟代理人弁護士 前田哲男 同 福田祐実 同 尋木浩司 同 林幸平 同 亀井英樹 同 塚本智康 同 石坂大輔 同 笠島祐輝 同 佐藤直子 同 佐藤省吾 同 松木信行 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦 同 小塩康祐 同 森田祐行 |
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