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【事件名】業務用プログラム“BSS−PACK”事件
【年月日】平成31年2月5日
 東京地裁 平成30年(ワ)第13092号 プログラム著作権確認請求並びに著作権侵害差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年11月5日)

判決
原告 ソフトウェア部品株式会社
原告 株式会社ビーエスエス
原告 ソフトウエア部品開発株式会社
原告 A
原告 B
被告 日本電子計算株式会社
同訴訟代理人弁護士 難波修一
同 三谷革司
同 安部雅俊


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1(1)(主位的請求)別紙対象プログラム目録記載1及び2のプログラムの著作権(著作権法27条、28条に規定する権利を含む。)は、原告らが保有することを確認する。
(2)(予備的請求)別紙対象プログラム目録記載1及び2(ただし、(3)ア及びイ並びに(4)ないし(6)を除く。)のプログラムの著作権(著作権法27条、28条に規定する権利を含む)は、原告らが保有することを確認する。
2 被告は、JIPROS(以下「被告製品」という。)を販売してはならない。
3 被告は、被告製品及びそのカタログ類を全て廃棄せよ。
4 被告は、被告のホームページ上及びインターネットを利用した広告媒体上から被告製品に関係する掲載情報を全て削除せよ。
5 被告は、被告製品のファイルを含むプログラム(オブジェクトコード及びソースコード)をこれらが保存されている記憶媒体を含むコンピュータから全て削除せよ。
第2 事案の概要
 本件は、別紙対象プログラム目録記載1及び2の各プログラムにつき著作権を有すると主張する原告らが、@主位的には上記各プログラムの全てにつき著作権を有することの確認を、予備的には上記各プログラムのうち、後記1(2)ウの登録済みプログラムに係るものを除いた残部(以下「非登録プログラム」という。)につき著作権を有することの確認を求めるとともに(前記第1の1)、A被告において被告製品を販売する行為が、原告らの上記著作権を侵害すると主張して、著作権法112条1項、2項に基づき、被告に対し、被告製品の販売差止め・廃棄等を求める(前記第1の2ないし5)事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告ソフトウェア部品株式会社(以下「原告ソフトウェア部品社」という。)、原告株式会社ビーエスエス(以下「原告ビーエスエス社」という。)及び原告ソフトウエア部品開発株式会社(以下「原告ソフトウエア部品開発社」という。)は、いずれもソフトウェア開発とその販売等を業とする株式会社である。(甲1の1〜3)
 原告A(以下「原告A」という。)は原告ビーエスエス社の、原告B(以下「原告B」という。)は原告ソフトウェア部品社及び原告ソフトウエア部品開発社の各代表取締役である。(甲1の1〜3)
イ 被告は、コンピュータシステムによる情報処理サービス及びソフトウェアの開発、販売等を業とする株式会社である。(甲2)
(2)原告ビーエスエス社による「BSS−PACK」等の開発及び販売等(甲3〜5)
ア 原告ビーエスエス社は、平成2年から平成9年3月頃にかけて、各種業務用ソフトウェア・パッケージ群である「BSS−PACK(VAX/VMS版)」(以下「旧BSS−PACK」という。)を開発し、これを販売していた。旧BSS−PACKは、「オリジナルソフトウェア部品」及び「中核部(ミドルソフト)」の各プログラムから構成されていた。
 なお、別紙対象プログラム目録記載1(1)のプログラムは上記「オリジナルソフトウェア部品」に、同目録記載1(2)のプログラムは上記「中核部(ミドルソフト)」の一部にそれぞれ相当する。(弁論の全趣旨)
イ 原告ビーエスエス社は、平成9年4月、データベースを統合したERP(EnterpriseResourcePlanning)システムである「BSS−PACK」(以下「BSS−PACK」という。)を開発し、その販売を開始した。BSS−PACKについては、UNIX、WindowsNT、LINUX、Windows2000、WindowsXPの各OS(operatingsystem)に対応する製品が販売されていた。
 BSS−PACKは、「先行ソフトウェア部品」と「中核部(ミドルソフト)」の各プログラムから構成されているところ、「先行ソフトウェア部品」のプログラムは前記オリジナルソフトウェア部品プログラムを翻案したものであった。
 なお、別紙対象プログラム目録記載2(1)のプログラムは上記「先行ソフトウェア部品」に、同目録記載2(2)及び(3)の各プログラムは上記「中核部(ミドルソフト)」の一部にそれぞれ相当する。(弁論の全趣旨)
ウ 原告ビーエスエス社は、プログラム著作物である「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」、「BSS−PACKサーバー(UNIX)」、「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」、「部品マイスター」及び「部品ビュー」(以下、これらを「登録済みプログラム」と総称する。)を創作したとして、それぞれ平成7年10月16日、平成8年1月16日、平成9年3月14日、平成10年2月13日及び平成11年5月13日に創作年月日の登録を受けた。(甲6の1〜5、乙1の1〜5)
 なお、別紙対象プログラム目録記載2(4)のプログラムは上記「BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)」に、同目録記載2(5)のプログラムは上記「部品マイスター」に、同目録記載2(6)のプログラムは上記「部品ビュー」にそれぞれ相当する。また、同目録2(3)アのプログラムは上記「BSS−PACKサーバー(UNIX)」の一部に、同目録2(3)イのプログラムは上記「BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)」の一部にそれぞれ相当する。(弁論の全趣旨)
(3)原告ビーエスエス社と訴外株式会社サンライズ・テクノロジー(以下「サンライズ社」という。)との間の契約
ア 原告ビーエスエス社は、サンライズ社との間で、平成18年3月28日付「事業継続支援に関する合意書」(以下「本件合意書」という。)を作成し、サンライズ社による原告ビーエスエス社の事業継続の支援に関する合意(以下「本件合意」という。)をした。本件合意においては、原告ビーエスエス社が有する登録済みプログラムその他の著作物及びこれに関する著作権等の一切の権利を代金11億5000万円(消費税別)でサンライズ社へ譲渡すること(なお、この譲渡に当たって詳細な条件を定めた最終契約書の作成が予定されていた。)、原告ビーエスエス社の全従業員をサンライズ社の指定する会社へ移籍させて雇用を確保し、当該会社が上記譲渡の対象となったプログラムに関わる開発を行うことができるようサンライズ社が支援を行うことなどが定められていた。(甲7の3、乙3)
イ 原告ビーエスエス社は、サンライズ社との間で、平成18年3月30日付「ソフトウェア譲渡契約書」(以下「本件譲渡契約書」という。)を作成し、原告ビーエスエス社が有する上記アの著作物及び権利を代金11億5000万円(消費税別)で譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。(甲7の4)
(4)登録済みプログラムの譲渡の登録
 登録済みプログラムに係る著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)は、平成18年4月7日譲渡(ただし、部品マイスターのみ同年9月27日)を原因として、同年4月17日(ただし、部品マイスターのみ同年10月4日)に原告ビーエスエス社からサンライズ社への移転登録がされた。その後、上記著作権は、平成19年にサンライズ社から株式会社フロンテックへ、平成21年に同社から被告へそれぞれ譲渡され、その旨の登録がされた。(甲6の1〜5、乙1の1〜5)
(5)被告製品の販売
 被告は、平成15年に統合管理パッケージソフトウェアである被告製品の販売を開始した。(甲11の1、乙5)
(6)前件訴訟(乙7、甲9)
ア 原告ソフトウェア部品社は、被告に対し、別紙対象プログラム目録記載2(2)の営業秘密部プログラムが原告ソフトウェア部品社の営業秘密に当たるところ、被告がこれを取得して使用し、被告製品を製造して販売したことが不正競争行為(不正競争防止法2条1項4号又は5号、10号)に当たると主張して、不正競争防止法3条1項及び2項に基づき被告製品の販売差止め及び廃棄等を求め(当庁平成28年(ワ)第360号)、原告ビーエスエス社、原告ソフトウエア部品開発社、原告A及び原告Bは、被告に対し、原告ソフトウェア部品社と上記営業秘密部プログラムを共有するに至ったと主張して承継参加を申し出て、上記請求と同趣旨の請求をした(当庁平成28年(ワ)第2943号。以下、前記の当庁平成28年(ワ)第360号と併せて「前件第1事件」という。)。
 また、原告らは、被告に対し、別紙対象プログラム目録記載2(2)の営業秘密部プログラムで使用されるプログラムのうち、BSS−PACK(サーバー)LINUXに付属する先行ソフトウェア部品、BSS−PACK(サーバー)Windows2000に付属する先行ソフトウェア部品及びBSS−PACK(サーバー)WindowsXPに付属する先行ソフトウェア部品(以下、併せて「前件先行ソフトウェア部品プログラム」という。)について、@これを創作したことによる著作権、A「オリジナルソフトウェア部品」という名称のプログラムを原著作物とする二次的著作物である前件先行ソフトウェア部品プログラムについての二次的著作権を有することの確認を求めた(当庁平成28年(ワ)第4961号。以下「前件第2事件」という。)。
 当庁は、平成28年10月25日、原告ビーエスエス社が前記営業秘密部プログラムについての営業秘密や前件先行ソフトウェア部品プログラムについての著作権を有していたとしても、これらはサンライズ社に譲渡されており、原告らが現時点でこれらを有するということはできないとして、原告らの前件第1事件及び前件第2事件に係る各請求をいずれも棄却した。
イ 原告らは前記アの判決を不服として控訴したが(知的財産高等裁判所平成28年(ネ)第10107号)、知的財産高等裁判所は、平成29年4月27日、原告らが、前記営業秘密部プログラムについての営業秘密や前件先行ソフトウェア部品プログラムについての著作権を有するということはできないものと判断した原判決は相当であるとして、控訴を棄却した。
2 争点
(1)本件譲渡契約の全部又は一部が錯誤無効となるか否か(争点1)
(2)非登録プログラムに係るサンライズ社の履行請求権の消滅時効の成否等(争点2)
(3)被告による著作権侵害の有無(争点3)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件譲渡契約の全部又は一部が錯誤無効となるか否か)について
[原告らの主張]
ア 契約対象の要素の錯誤による全部無効
 原告ビーエスエス社は、契約時、本件譲渡契約の重要な要素である非登録プログラムとその著作権は販売担当のサンライズ社ではなく開発をする原告ビーエスエス社らが保有するとの認識であった。そのためにこれらを譲渡する認識・意思を欠いて、本件譲渡契約を締結した。そこで、非登録プログラムと著作権の譲渡の意思を欠いた本件譲渡契約は、契約の重要な要素に錯誤があったこととなり、無効である。
イ 本件譲渡契約の一部無効
 原告ビーエスエス社は特定された登録済みプログラムの著作権譲渡の認識とその意思であったから、非登録プログラムの著作権の譲渡の認識とその意思を欠くために、非登録プログラムの著作権はサンライズ社に移転されていない。仮に、本件譲渡契約書に明記され、原告ビーエスエス社がその譲渡を認識しその意思を実行した登録済みプログラムの著作権のみについて本件譲渡契約は有効であるとしても、その余の非登録プログラムとその著作権については、本件譲渡契約書上その記載が不特定不明確であり、原告ビーエスエス社が認識しなかったことに過失はなく、そもそも詐欺であるから重過失もなく、無効である。
ウ 表示された動機が要素の錯誤となることによる全部無効
 本件譲渡契約締結に至った原告ビーエスエス社側の動機は、サンライズ社との協業・支援を文書化した本件合意書の締結である。本件合意書で明示されサンライズ社が約束した協業・支援は同社がBSS−PACKの販売事業を本格開始することもなく1年で解消され、その後登録BSS−PACKは転売された。本件合意書明記の支援の打ち切り等は本件譲渡契約の重要な要素の錯誤となるものであり、故に、本件譲渡契約は無効である。
[被告の主張]
 否認ないし争う。前件訴訟の控訴審判決で認定されたとおり、本件譲渡契約において原告ビーエスエスが保有するBSS−PACKに係るプログラムについてのすべての権利が譲渡対象であった。
(2)争点2(非登録プログラムに係るサンライズ社の履行請求権の消滅時効の成否等)
[原告らの主張]
 仮に、本件譲渡契約が成立したとしても、原告ビーエスエス社の義務が「全部のプログラム」のプログラムとその著作権の引渡しであった場合、実際に原告ビーエスエス社が履行したのは登録済みプログラムとその著作権の譲渡・引渡しであったから、その余の非登録プログラムとその著作権の引渡しが履行されていないこととなる。
 サンライズ社の履行請求権の消滅時効の進行は、平成19年2月末もしくは平成19年6月24日の事務所移転日のいずれかが始点となるが、遅い方の平成19年6月24日を始点としても既に10年を超えて経過している。
 そこで、サンライズ社の履行請求権は時効により既に消滅しており、原告らはこの時効を援用する。
[被告の主張]
 否認ないし争う。
(3)争点3(被告による著作権侵害の有無)
[原告らの主張]
 被告製品は、原告らの許諾なくBSS−PACKプログラムを作動・稼働させ、改ざんしたものであり、被告は、これを複製し販売し、販売先で稼働させて収益を得ることにより原告ら保有の著作権を侵害している。
[被告の主張]
 否認ないし争う。被告製品は、被告が独自に開発したものであり、BSS−PACKとは無関係である。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件譲渡契約の全部又は一部が錯誤無効となるか否か)について
(1)認定事実
 前記前提事実、証拠(甲6の1ないし5、甲7の3・4、甲15の1・2、乙1の1ないし5、乙2、乙3)及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。
ア 原告ビーエスエス社は、平成9年頃以降、登録済みプログラムの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)に譲渡担保権を設定して、日本開発銀行、株式会社住友銀行、株式会社三和銀行及び株式会社東京三菱銀行など多数の金融機関から融資を受けていたが、平成11年以降、訴外インターナショナル・システム・サービス株式会社からも融資を受けるようになり、平成15年には、部品マイスターを除く登録済みプログラムの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)は、前記インターナショナル・システム・サービス株式会社が単独で保有するに至っていた。
イ 原告ビーエスエス社は、平成18年3月頃までに、前記インターナショナル・システム・サービス株式会社に替えて、サンライズ社から資金援助を受けることとし、そのために、原告ビーエスエス社は、部品マイスターを除く登録済みプログラムの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を前記インターナショナル・システム・サービス株式会社から取得した上、これをサンライズ社に譲渡し、その旨の登録をするとともに、登録済みプログラムのうち、部品マイスターの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)については、譲渡担保権者と交渉の上、譲渡担保権設定契約の解除を受けて、これをサンライズ社に譲渡し、その旨の登録をすることになった。
ウ 原告ビーエスエス社とサンライズ社は、平成18年3月28日、次の内容が記載された本件合意書(甲7の3、乙3)を作成して、本件合意をした。
(ア)原告ビーエスエス社はサンライズ社に対し、原告ビーエスエス社の所有する登録済みプログラム、そのバージョンアップ等改良後のプログラム、その他関連する一切のプログラム及びこれらのプログラムに関連する各著作物(文書、図面、磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)並びに当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権(以下、「本件ソフトウェア」という。)を譲渡価額11億5000万円(消費税別)で譲渡する。なお、本件ソフトウェアの譲渡にあたっては、より詳細な条件を定めた最終契約書を別途締結する。原告ビーエスエスはサンライズ社に対し、上記の最終契約書締結日以降、本件ソフトウェアについて著作者人格権を一切行使しないものとする。(第1条)
(イ)サンライズ社は、同社の指定する会社(以下「指定会社」という。)に原告ビーエスエス社の従業員を全員移籍させ継続的に雇用を確保するとともに、指定会社に対し本件ソフトウェアに関わる開発を委託するものとし、指定会社が継続的に事業を行えるように支援を行う。(第2条)
エ その後、原告ビーエスエス社とサンライズ社は、上記の最終契約書として、平成18年3月30日付の本件譲渡契約書(甲7の4)を作成して、本件譲渡契約を締結した。本件譲渡契約書では、本件ソフトウェアの譲渡について上記ウ(ア)と同旨が定められる(第1条、2条、4条)と共に、本件ソフトウェアに係る権利の移転及び著作物の引渡期限を同年4月末日とする旨が定められた。(第1条)
オ 登録済みプログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)、BSS−PACKサーバー(UNIX)及びBSS−PACKサーバー(WindowsNT版)及び部品ビューにつき、平成18年4月17日、原告ビーエスエス社からサンライズ社に対する平成18年4月7日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた。
 また、登録済みプログラムのうち、部品マイスターにつき、平成18年10月4日、インターナショナル・システム・サービス株式会社、グローバル債権回収株式会社及び株式会社山田債権回収管理総合事務所から原告ビーエスエス社に対する平成18年9月27日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされるとともに、原告ビーエスエス社からサンライズ社に対する平成18年9月27日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた。
(2)以上の認定事実からすれば、原告ビーエスエス社とサンライズ社は、原告ビーエスエス社のBSS−PACKに係る全事業を全従業員ごと指定会社に移転させ、その事業に係るプログラムについての全ての権利をサンライズ社に譲渡し、サンライズ社が前記権利から利益を得るとともに、サンライズ社が、本件譲渡契約の対価を原告ビーエスエス社に支払い、指定会社が当該事業を継続的に行えるように支援をすることを約したものということができる。
 そうすると、本件譲渡契約において、登録済みプログラム及び非登録プログラムについての全ての権利が、著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて、譲渡の対象とされたものと認められる。
(3)本件譲渡契約の対象に係る錯誤の主張について
 原告らは、本件譲渡契約の締結当時において、原告ビーエスエス社が非登録プログラムの著作権を譲渡する認識・意思を欠いていたことを前提に、本件譲渡契約に係る意思表示には要素の錯誤があったとして、本件譲渡契約の全部又は一部の無効を主張する。
 しかしながら、前記(2)のとおり、本件譲渡契約においては、登録済みプログラム及び非登録プログラムについての全ての権利が、譲渡の対象とされたものと認められ、譲渡人である原告ビーエスエス社において、非登録プログラムとその著作権を譲渡する認識・意思を欠いていたとは認められない。そうすると、本件譲渡契約において、非登録プログラムも含むプログラムについての全ての権利を譲渡対象とするとした意思表示に錯誤はなく、原告らの上記錯誤無効の主張は前提を欠く。
 (4)本件譲渡契約締結の動機に係る錯誤の主張について
 また、原告らは、本件譲渡契約締結に至った原告ビーエスエス社側の動機は、サンライズ社と協業し、同社から支援を受けることにあり、かかる動機は本件合意書において明示されているところ、サンライズ社が約束した協業・支援は同社がBSS−PACKの販売事業を本格開始することもなく1年で解消され、その後登録BSS−PACKは転売されたことから、表示された動機に要素の錯誤があるとして、本件譲渡契約の無効を主張する。
 しかしながら、前記認定事実((1)ウ)のとおり、本件合意書には、サンライズ社の指定会社への支援の具体的内容は記載されておらず、支援の期間も記載されておらず、原告ビーエスエス社がサンライズ社からの長期間の支援を期待し、それが本件譲渡契約締結の動機になっていたとしても、その支援の具体的内容及び期間につき、サンライズ社に表示されたとは認めるに足りない。そうすると、実際に原告ビーエスエス社及び原告ソフトウエア部品開発社に対しサンライズ社が行ったことが、原告ビーエスエス社の期待したものに達しなかったとしても、意思表示の内容に錯誤があったとは認められない。
(5)よって、本件譲渡契約締結に係る原告ビーエスエス社の意思表示に錯誤は認められず、本件譲渡契約の全部又は一部が錯誤無効となることはない。
2 争点2(非登録プログラムに係るサンライズ社の履行請求権の消滅時効の成否等)について
 前記1(2)のとおり、本件譲渡契約において、登録済みプログラム及び非登録プログラムについての全ての権利が、譲渡の対象とされたものと認められる。そして、前記1(1)エのとおり、本件譲渡契約の対象とされた権利の移転時期については平成18年4月末日までとする旨が定められており、権利の移転時期につき譲渡人である原告ビービーエス社の別段の行為に係らしめる旨の記載はないことからすれば、本件譲渡契約の対象とされた権利は、遅くとも平成18年4月末日までに原告ビービーエス社からサンライズ社に移転したと解するのが相当である。
 原告らは、「非登録プログラムとその著作権の引渡し」に係るサンライズ社の履行請求権の消滅時効の成立及びその援用を主張するところ、その意味するところは必ずしも定かではないが、上記のとおり、非登録プログラムについての著作権は遅くとも平成18年4月末日までに原告ビービーエス社からサンライズ社に移転したものであるから、その履行請求権の消滅時効などを問題にする余地はなく、原告らの上記主張は、主張自体失当である。なお、仮に、原告らの上記主張が、非登録プログラムに係る著作権の移転に別段の行為を要する旨の主張であるとすれば、権利移転時期に係る上記認定に反するものであって、採用できない。
3 結論
 以上によると、登録・非登録を問わず、別紙確認対象プログラム目録記載のすべてのプログラムの著作権は、本件譲渡契約の成立によって、原告ビーエスエス社からサンライズ社に移転し、原告ビーエスエス社は上記著作権を喪失したものと認められる。
 よって、原告らの本件各請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 横山真通
 裁判官 奥俊彦


別紙 対象プログラム目録
1 BBS−PACK(VAX/VMS)を構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース(VMS用)
2 BBS−PACKを構成する次のプログラム
(1)ソフトウェア部品
(2)中核部(ミドルソフト)のうち、営業秘密部
(3)中核部(ミドルソフト)のうち、OSインターフェース部
ア UNIX用
イ WindowsNT用
ウ Windows2000用
エ WindowsXP用
オ LINUX用
(4)BBS−PACKクライアント(メニュークリエイト)
(5)部品マイスター
(6)部品ビュー
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日本ユニ著作権センター
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