判例全文 line
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【事件名】CATVの地上波無許諾再放送事件
【年月日】平成31年2月1日
 東京地裁 平成28年(ワ)第28925号 損害賠償請求事件(本訴)、
 平成29年(ワ)第17021号 使用料規程無効確認請求事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 平成30年11月14日)

判決
本訴原告・反訴被告 一般社団法人日本テレビジョン放送著作権協会(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 前田哲男
同 中川達也
同 福田祐実
同 岡崎洋
同 村尾治亮
同 新間祐一郎
同 関谷健太朗
本訴被告・反訴原告 株式会社ひのき(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 中田祐児
同 島尾大次
同 高木誠一郎
同 益田歩美
同 妹尾祥


主文
1 被告は、原告に対し、1億7956万5012円及びうち8906万3219円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち9050万1793円に対する平成30年4月1日から支払済みに至るまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 反訴請求を却下する。
4 訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1)被告は、原告に対し、3億5913万0024円及びうち1億7812万6438円に対する平成28年9月10日から支払済みまで、うち1億8100万3586円に対する平成30年4月1日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
(3)仮執行宣言
2 反訴
(1)原告(反訴被告)が平成25年9月4日文化庁長官に届け出た使用料規程第3条(1)及び(2)はいずれも無効であることを確認する。
(2)訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。
第2 事案の概要等
 本訴は、著作権等管理事業法に基づき登録を受けた著作権等管理事業者であり、放送法で定めるテレビジョン放送による地上基幹放送を行う放送事業者から信託により著作権及び著作隣接権の有線放送権等の管理委託を受けた原告が、有線テレビジョン放送事業を行っている被告に対し、被告は原告の許諾を受けることなく平成26年4月1日以降継続して上記放送事業者の地上テレビジョン放送を受信して有線放送し、原告の有線放送権(著作権法99条1項)を侵害したと主張して、有線放送権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、民法709条、著作権法114条3項により、3億5913万0024円(原告が文化庁長官に届け出た使用料規程に基づく使用料相当損害金3億2648万1840円及び弁護士費用3264万8184円の合計額)及びうち1億7812万6438円(平成26年4月1日から平成28年3月31日までの分)に対する平成28年9月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで、うち1億8100万3586円(平成28年4月1日から平成30年3月31日までの分)に対する平成30年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 反訴は、被告が、原告が平成25年9月4日に文化庁長官に届け出た使用料規程第3条(1)及び(2)がいずれも無効であることの確認を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、平成25年4月に設立され、著作権等管理事業法に基づき同年6月に文化庁長官の登録を受けた著作権等管理事業者である。原告は、放送法で定めるテレビジョン放送による地上基幹放送を行う放送事業者(以下「地上テレビジョン放送事業者」という。)である別紙信託者目録記載の各放送事業者から、著作権や著作隣接権の有線放送権等について信託による管理委託を受け、著作権等管理事業を行っている。原告は、平成26年4月1日以降、日本全国の有線テレビジョン放送事業者に対し、地上テレビジョン放送を受信してこれを有線放送することを許諾し、その使用料を徴収する著作権等管理事業を行っている。
 なお、原告による使用料徴収の対象となる全国384の有線テレビジョン放送事業者のうち、被告を含む2社を除く382事業者は原告と利用許諾契約を締結している。
イ 被告は、有線テレビジョン放送施設の設置許可を得て、徳島県板野郡北島町、松茂町の各全域及び上板町の一部の区域において有線テレビジョン放送事業を行っている株式会社である。
(2)本件有線放送権の信託
ア 原告は、遅くとも、平成26年4月1日までに、株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)、朝日放送株式会社(以下「朝日放送」という。)、関西テレビ放送株式会社(以下「関西テレビ」という。)、四国放送株式会社(以下「四国放送」という。)、テレビ大阪株式会社(以下「テレビ大阪」という。)、讀賣テレビ放送株式会社(以下「讀賣テレビ」という。)を含む別紙「信託者目録」記載の地上テレビジョン放送事業者114社のうち、讀賣テレビを除く113社から、有線テレビジョン放送事業者が別紙「放送目録」1〜5記載の各放送を受信してこれを徳島県板野郡北島町、松茂町及び上板町を含む地域において有線放送することについて、信託により以下の権利の移転を受けた(以下、毎日放送、朝日放送、関西テレビ、テレビ大阪、四国放送及び讀賣テレビを併せて「毎日放送等6社」といい、毎日放送、朝日放送、関西テレビ、テレビ大阪及び四国放送を併せて「毎日放送等5社」という。)。(甲3の1〜5、甲4)
@ 放送事業者の著作隣接権のうち有線放送権(著作権法99条1項)
A 地上テレビジョン放送事業者が製作し、又は将来製作する映画の著作物(テレビジョン放送番組に限る。)について当該地上テレビジョン放送事業者が有する又は将来取得する著作権(当該地上テレビジョン放送事業者が原告の委託者でない者と共有する又は将来共有する著作権を除く。)のうち有線放送権
イ 原告は、平成25年11月12日、讀賣テレビから、有線テレビジョン放送事業者が別紙「放送目録」6記載の各放送を受信してこれを徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域において有線放送することについて、信託により上記ア@及びAの権利の移転を受けた(以下、上記ア及びイの信託契約を総称して「本件信託契約」といい、同信託契約により原告に移転した有線放送権を総称して「本件有線放送権」という。)。(甲3の6、甲4)
(3)被告の行為
 被告は、平成26年4月1日以降、原告から使用許諾を得ることなく、継続して、別紙「放送目録」1〜6記載の各放送を受信して、これらを徳島県板野郡北島町及び松茂町の2町の各全域並びに上板町の一部の区域において有線放送している(各放送局との契約に従い、同一時間に編集及び内容を一切変更することなく、全ての放送をそのまま再放送している。)。
(4)本件使用料規程の届出
ア 原告は、平成25年9月4日、著作権等管理事業法の定めに基づき、地上テレビジョン放送を受信してこれを有線放送しようとする有線テレビジョン放送事業者に当該有線放送を許諾する際の使用料の額を記載した使用料規程(甲5。以下「本件使用料規程」という。)を定め、これを文化庁長官に届け出た。
イ 本件使用料規程は、「再放送」の意義について「地上テレビジョン放送事業者の放送を受信し、同時にかつ、編成及び内容を一切変更することなく、有線テレビジョン放送事業者が再放送すること」とした上で、「区域内再放送」及び「区域外再放送」の意義について、以下のとおり定義している。
(ア)「区域内再放送」とは、地上テレビジョン放送の再放送(放送法11条)のうち、当該再放送に係る地上テレビジョン放送を行う地上テレビジョン放送事業者の放送法に定める放送対象地域内で、有線テレビジョン放送事業者が当該地上テレビジョン放送を再放送することをいう(本件使用料規程2条(6))。
(イ)「区域外再放送」とは、地上テレビジョン放送の再放送のうち、当該再放送に係る地上テレビジョン放送を行う地上テレビジョン放送事業者の放送法に定める放送対象地域外で、有線テレビジョン放送事業者が当該地上テレビジョン放送を再放送することをいう(同条(7))
ウ 本件使用料規程3条(1)(2)は、有線テレビジョン放送事業者が地上テレビジョン放送を再放送する場合の使用料は、以下により算出した金額に消費税相当額を加算した額とすると定めている。
(ア)年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合
@ 区域内再放送
 地上テレビジョン放送1波あたり、有料視聴世帯数に年額120円を乗じた額
A 区域外再放送
 地上テレビジョン放送1波あたり、有料視聴世帯数に年額600円を乗じた額
(イ)年間の包括的利用許諾契約によらない場合
@ 区域内再放送
 地上テレビジョン放送1波あたり、有料視聴世帯数に月額20円を乗じた額
A 区域外再放送
 地上テレビジョン放送1波あたり、有料視聴世帯数に月額100円を乗じた額
エ 区域内再放送については、有料視聴世帯のうち、現に受信障害が発生し、放送法140条で定める義務再放送として受信障害区域において再放送を視聴する有料視聴世帯については、使用料を免除することとされている(本件使用料規程3条(3))。そして、原告は、実際の受信障害世帯数の割合にかかわらず、その全国平均値である15%が受信障害世帯数であるとして区域内再放送の使用料を計算している。
(5)ケーブル連盟との間の基本合意
ア 原告は、平成25年4月17日、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟(以下「ケーブル連盟」という。)との間で「地上民放テレビをケーブルテレビで再放送する際の著作権及び著作隣接権の使用料(平成26年度〜平成28年度)についての基本合意」(甲11。以下「本件基本合意」という。)を締結した。
イ 本件基本合意では、区域外再放送について「欠落波」と「重複波等」とで異なる使用料を適用している。全国の多くの地域をカバーする地上民放テレビ系列には、日本テレビ系列、TBS系列、テレビ朝日系列、フジテレビ系列の4系列が存在しているところ、有線テレビジョン放送事業者がある県域において区域外再放送をする場合、当該県域にいずれかの系列の放送局が存在しない場合、当該欠落している系列の放送局の放送波のことを「欠落波」といい、当該県域において存在する同一系列における他の放送事業者の放送波等を「重複波等」という。
ウ 本件基本合意(1)は、本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の再放送使用料」の適用に当たり、原告は、ケーブル連盟の会員であるケーブルテレビ事業者に対し、以下の算定方式による使用料を適用すると定めている。
(ア)区域内再放送
 有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額24円×区域内再放送ch数
(イ)区域外再放送(欠落波)
 有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額120円×区域外再放送
(欠落波)ch数
(ウ)区域外再放送(重複波等)
 有料視聴世帯数×1世帯1chあたり年額600円×区域外再放送(重複波等)ch数
エ さらに、本件基本合意(2)は、区域外再放送使用料に関し、以下のとおりの減額措置を定めている。
(ア)欠落波の減額措置(重複波再放送を行わない場合に限る。)
 上記ウ(イ)にかかわらず、民放1波地区において、欠落2波までは1世帯1chあたり年額24円とする。また民放2波地区において、欠落1波を1世帯1chあたり年額24円とする。
(イ)重複波等の減額措置(激変緩和措置として再放送同意を得ているものを除く。)
 上記ウ(ウ)にかかわらず、重複波等のうち、平成25年1月1日時点で適法に同意を得て再放送しているものであって、かつ使用料徴収開始後も適法同意が継続して行われる場合は、1世帯1chあたり年額120円とする。
(ウ)広域圏内県域局の減額措置(激変緩和措置として再放送同意を得ているものを除く。)
 同(イ)及び上記ウ(ウ)にかかわらず、重複波等のうち、広域圏内県域地上波発局の区域外再放送が当該県域地上波発局の属する広域圏内で行われる場合に関しては、平成25年1月1日時点で適法に同意を得て再放送しているものであって、かつ使用料徴収開始後も適法同意が継続して行われる場合は、1世帯1chあたり年額24円とする。
(6)放送法上の規律等
ア 上記のとおり、本件使用料規程は、放送法に定める放送対象地域内かどうかで「区域内再放送」と「区域外再放送」を区別しているところ、放送法は、基幹放送の放送対象地域を「同一の放送番組の放送を同時に受信できることが相当と認められる一定の区域をいう」と規定し(放送法91条2項2号)、基幹放送普及計画において「放送対象地域ごとの放送系の数の目標」を定めるものとされている(同法91条2項3号、基幹放送普及計画の第3)。その上で、放送法は、基幹放送事業者は、その基幹放送局を用いて行われる基幹放送に係る放送対象地域において、当該基幹放送があまねく受信できるように努めるものとする旨規定している(同法92条)。
イ 放送法11条は、放送事業者は、他の放送事業者の同意を得なければ、その放送を受信し、その再放送をしてはならないと規定している(なお、有線テレビジョン放送事業者が地上テレビジョン放送を受信し、これを有線放送することは、著作権法上は「有線放送」に該当し、放送事業者が有する有線放送権(著作権法99条1項)の対象となるが、放送法上は「再放送」に当たり、本件使用料規程においても放送法上の用語が用いられている。)。
ウ 放送事業者が、地上基幹放送を行う基幹放送事業者に対し、放送法11条の再放送の同意につき協議を求めたものの同意が得られない場合には、総務大臣の裁定を申請することができる(同法144条1項)。この場合、総務大臣は、基幹放送事業者がその地上基幹放送の再放送に係る同意をしないことにつき正当な理由がある場合を除き、当該同意をすべき旨の裁定をするものとされ(同条3項)、総務大臣が同意裁定をする場合には、再放送の業務を行うことができる区域及び当該再放送の実施の方法を定めなければならない(同条4項)。
 なお、有線テレビジョン放送法の改正により再送信同意裁定制度(現在の放送法144条の同意裁定制度)が設けられた際の参議院文教委員会において、政府委員等は、同制度と著作権法上の制度の関係について「この再送信同意制度…は放送事業者の方の放送の意図を保護することにより…放送秩序の維持を図るというところにポイントがある…。したがいまして、著作権制度とはその制度の趣旨を異にしておると…考えております。…再送信制度の関係での裁定が、著作権法上の著作権とか著作隣接権に影響を与えるものではない」、「放送秩序の維持の観点から同意制度はございますけれども、著作隣接権制度は、放送事業者の経済的な利益を担保するための権利として有線放送権を与えている…性格的に全く異なるもの」、「CATV事業者が再送信を行います場合に、有線テレビジョン放送法による同意を要するわけですが、あわせまして、非営利でかつ無料であるようなCATV施設を除きますと、著作権法によりまして放送事業者の方の許諾を得るという必要がある」と説明している。(乙26)
(7)徳島県における放送等の状況
ア 放送法上の放送対象地域は、関東、中京、近畿広域圏以外は、一部の地域を除いて県域単位となっており、四国放送は徳島県を、毎日放送、朝日放送、関西テレビ及び讀賣テレビは近畿広域圏(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県の各区域を併せた区域)を、テレビ大阪は大阪府をその放送対象地域としている。
イ 被告が徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域並びに上板町の一部の区域において四国放送の放送を受信して再放送することは、本件使用料規程にいう「区域内再放送」に当たり、同地域において毎日放送、朝日放送、関西テレビ、讀賣テレビ及びテレビ大阪の各放送を再放送することは「区域外再放送」に当たることになる。
 徳島県において被告が区域外再放送をする場合、毎日放送、朝日放送、関西テレビを同県において再放送をすることは、本件基本合意にいう「欠落波」の区域外再放送に当たり、テレビ大阪及び四国放送と同系列の讀賣テレビの再放送を行うことは「重複波等」の区域外再放送に当たる。
(8)被告による再放送の同意取得状況
ア 被告は、平成26年以降、毎日放送等5社から同意を得て、これらの放送事業者のテレビジョン放送を同時再放送している。同各事業者の再放送同意書(乙1〜5)には、再放送される放送に関し、同各事業者が原告に委託している著作権及び著作隣接権について、原告と再放送の許諾に関する契約を締結し、許諾の対価(使用料)を払うことを要する旨の規定が置かれている。
イ 被告は、読売テレビに対し、テレビジョン放送の同時再放送について同意するように求めたが、讀賣テレビがこれに同意しなかったため、平成23年6月21日付けで、放送法144条1項に基づき総務大臣に対する同意裁定の申請を行った。総務大臣は、平成25年7月23日、讀賣テレビに対し、徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域につき同時再放送に同意しなければならないとの裁定をしたが、同郡上板町の区域については同意しなければならないとは認められないとの裁定をした。これに対し、被告は同裁定に対し異議申立をしたが、総務大臣は同異議申立てを棄却した。(乙6、60)
 被告は、上記異議申立てを不服として東京高等裁判所に取消訴訟を提起した。東京高裁は、平成29年12月7日、異議申立棄却決定を取り消す判決をし、同判決に対する上告受理申立ては不受理となり、同判決が確定した。(乙7、90、110)
(9)原告と被告の交渉の経緯
ア 原告は、平成25年12月25日、被告に対し、地上テレビジョン放送を受信してこれを有線放送することについての利用許諾契約締結の申込みを誘引する文書を送付した。同文書には、「JASMAT『年間の包括的利用許諾契約』による使用料一覧」(資料2)を添付されていた。(甲9、乙11)
イ 被告は、平成26年4月1日、原告に対し、@平成25年4月17日にケーブル連盟と原告との間で締結された本件基本合意は、有線テレビジョン放送事業者に等しく適用されなければならないものである、A「本件基本合意」は、区域内再放送と区域外再放送とで、また区域外再放送のうち欠落波と重複波とで大きな格差をつけている点で不合理であり、その点が訂正されるべきである、B被告は、上記Aにより訂正されるべき「本件基本合意」に基づく使用料にて許諾契約の締結をするよう申し出るという旨の書面を送付した(甲12、乙16)。
ウ 原告は、被告に対し、平成26年4月16日付の書面で@「本件基本合意」は、本件使用料規程に定める使用料の減額措置を定めたものであり、ケーブル連盟を当事者に加えて同連盟、原告及び有線テレビジョン放送事業者の3者で許諾契約が締結される場合にのみ適用される、A「本件基本合意」における区域内・区域外等の使用料の区別はケーブル連盟との協議に基づき合意された合理的なものである、B「本件基本合意」に基づく使用料が訂正されるべきことを前提とする許諾契約の締結の申出には応じられない旨を回答した(甲13、乙17)。
エ その後、原告と被告との間で書面のやりとりがあったが、使用許諾契約の締結には至らず、被告は、原告を被供託者として、@平成26年11月10日、平成26年度分の使用料として76万9176円を、A平成28年3月24日、平成27年度分の使用料として167万8683円を、B平成29年3月31日、平成28年度分の使用料として169万0658円を、C平成30年4月3日、平成29年度分の使用料として170万3255円を各供託した。(甲16、18、31、32、乙75)
2 争点
(1)本訴について
ア 請求及び請求原因の特定の十分性(争点1)
イ 本件信託契約の適法性又は有効性(争点2)
ウ 本件有線放送権の使用許諾の有無(争点3)
エ 権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反等の有無(争点4)
オ 損害額(争点5)
(2)反訴について
ア 確認の利益の有無(争点6)
イ 本件使用料規程の有効性(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1争点1(請求及び請求原因の特定の十分性)について
〔原告の主張〕
 被告は、個々の著作物を特定することを要すると主張するが、被告が行っている利用行為は、放送波を包括的に再放送することであり、極めて多数の放送番組が再放送されることになるため、個々の著作物に着目した許諾を行うことは困難である。このため、全国の有線放送テレビジョン事業者は、原告から包括的な許諾を受けて再放送を行っている。このように、包括的な利用行為に対して適用される本件使用料規程に基づく使用料相当額を請求する場合においては、訴訟物の機能・役割を果たすために必要な範囲で著作物の特定を行えば足りる。
 また、放送番組において創作性の有無が問題になるものは現実的には考えられず、仮に著作物性のないものが含まれているとしても、それは本訴による損害賠償請求の対象ではない。
 さらに、原告が著作権に基づいて対価請求をしているのは、地上テレビジョン事業者が制作して著作権を有する放送番組についてであり、これには、番組製作会社の単独著作物や放送事業者と番組製作会社の共同著作物は含まれないので、請求対象となっている放送番組の著作権を原告への信託者が有していることは当然の前提とされている。
 以上のとおり、本訴請求及びその請求原因は十分に特定されているということができる。
〔被告の主張〕
 原告は、原告が著作権又は著作隣接権を有する著作物について、単にチャンネル、地域、デジタル周波数をもって特定しているにすぎず、具体的な著作物を特定せず、著作物として保護されるための創作性の要件を具備すること及び著作権の取得原因事実を特定していないので、主張自体失当である。
2 争点2(本件信託契約の適法性又は有効性)について
〔被告の主張〕
(1)放送法上、再放送に同意する資格を有する者は放送事業者に限られており、放送事業者ではない第三者が再放送に同意することはできない。著作権法上の有線放送権は、その放送を受信してこれを有線放送する権利であるから、放送法上の再放送をする権利にほかならない。本件信託契約は、少なくとも著作隣接権としての有線放送権、及び著作権のうち再放送の形態による有線放送権を対象とする部分については、放送法上の免許人の地位を離れて第三者に処分できない一身専属的な権利を信託処分の対象としているので無効である。
(2)著作権等管理事業法2条1項1号は、「委託者が受託者に著作権又は著作隣接権を移転し、著作物等の利用の許諾その他の当該著作権等の管理を行わせることを目的とする信託契約」を管理委託契約と定め、単に管理行為を行わせるのみで利用許諾権限の付与は伴わない契約を除外している。
 本件信託契約は、放送事業者に対し再放送同意書の副本の提出を求めているので、当該放送事業者が特定の有線放送テレビジョン事業者に対し同時再放送についての同意を既に与えていることが前提とされている。放送事業者が同時再放送について同意するということは、その性質上当然に、放送事業者が有する著作隣接権としての有線放送権及び著作権のうち再放送の形態による有線放送権の許諾を含むので、原告は、既に許諾済みの有線放送権について使用料を徴収する事務を委託されているにすぎないことになる。そうすると、本件信託契約は利用許諾権限の付与を伴わないので、著作権等管理事業法にいう管理委託契約に当たらない。
〔原告の主張〕
(1)著作隣接権は財産権であって、当然に譲渡することができる(著作権法103条、61条1項)。放送事業者の有線放送権(同法99条1項)は、著作隣接権の一つであり(同法89条6項)、有線放送権についてのみ譲渡が制限されると解する余地はない。
 後記3〔原告の主張〕のとおり、放送法11条の同意を与える地位又は権限と、放送事業者の著作隣接権である有線放送権とは、制度の目的・趣旨が異なる上、その違反があった場合の効果も異なるのであり、相互に別個・独立のものである。
 そうすると、放送法11条の同意を与える地位又は権限が第三者に譲渡することができないとしても、そのことから有線放送権が譲渡不能の権利であるということはできない。
 したがって、本件有線放送権の移転を内容とする本件信託契約は適法かつ有効である。
(2)被告は、本件信託契約は利用許諾権限の付与を伴わないので、著作権等管理事業法にいう管理委託契約に当たらないと主張するが、本件信託契約は、著作隣接権等を原告に信託により移転するものであるから、その利用許諾権限が原告にあることは明らかである。被告は、再放送の同意が著作隣接権等の許諾を含んでいることを前提とするが、再放送の同意制度と著作権上の使用許諾とは異なる制度であり、再放送の同意又は同意裁定は著作権法上の使用許諾の効果を付与するものではない。
3 争点3(本件有線放送権の使用許諾の有無)について
〔被告の主張〕
 再放送は、有線テレビジョン放送事業者が電波で送られてきたデジタル信号を受信し、ケーブルを使って同信号を視聴者の受信装置に送信するという行為であり、この行為は著作隣接権等の行使を抜きにして行うことはできない。そうすると、放送法による再放送の同意には、同時に著作隣接権等の使用許諾も含まれていると解すべきである。
 また、総務大臣の同意裁定が出されたにもかかわらず、有線放送テレビジョン事業者が放送事業者から別途著作隣接権等の使用について同意を得なければならないとすると、その同意が得られない限り同意裁定の対象となった放送を再放送できないことになってしまう。これでは、同意裁定を得た意味がないので、総務大臣の同意裁定には著作隣接権等の使用許諾を行うべきことも含まれており、その許諾権限は放送事業者に留保されていると解すべきである。
 以上のとおり、被告は著作隣接権等の使用許諾を得ているということができるので、不法行為は成立しない。
〔原告の主張〕
 被告は、放送法による再放送の同意又は同意裁定は、同時に、著作権及び著作隣接権の使用許諾も含むと主張するが、放送法11条が再放送の同意を要するとしているのは、放送秩序を維持するとともに放送事業者の番組編集上の意図を保護して放送に対する国民の信頼を保護するためであり、放送事業者の著作権や著作隣接権など財産的利益を保護するための制度とは異なるものである。
 放送法上の再放送の同意又は同意裁定と著作隣接権等の制度が異なるものであることは、@現在の放送法144条の同意裁定制度に相当する再送信同意裁定制度が設けられた際の参議院文教委員会において、政府委員等が「再送信同意制度は、著作権制度とはその制度の趣旨を異にしている」等の答弁をしていること(乙26)、A放送法11条の逐条解説(甲19)においても、「本条は、著作権法の特例を規定したものではないことから、著作権等に関する権利義務関係は著作権法によって規律される」と記載されていること、B平成19年8月17日付けの裁定(甲28)には、有線テレビジョン放送法上の「同意が直ちに著作権法上の許諾の効果を付与するものではなく」と記載されていること、C乙1〜5のいずれの再放送同意書においても、再放送同意を受けた有線テレビジョン放送事業者は、再放送される放送の著作権及び著作隣接権について、原告と再放送の許諾に関する契約を締結し、許諾の対価(使用料)を払うことが求められ、その許諾契約の締結を条件の一つとして同意を受けていることなどからも明らかである。
 このように、放送法上の再放送の同意又は同意裁定の制度と著作隣接権等の制度とは異なる制度であり、有線テレビジョン放送事業者は、放送法上の再放送の同意とは別に著作隣接権等の使用許諾を得る必要があるところ、本件において、被告が原告から著作隣接権等の使用許諾を得ていないことは明らかである。
4 争点4(権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反の有無)について
〔被告の主張〕
 本訴における原告の請求は、以下のとおり、権利の濫用、信義則違反又は公序良俗に反するものとして許されない。
(1)被告が放送事業者からの再放送の同意又は総務大臣の同意裁定を得ているにもかかわらず、原告が本訴請求を行うことは権利の濫用又は信義則違反であること
 仮に、毎日放送等6社が、再放送について著作権及び著作隣接権を許諾する権利を自己に留保していなかったとしても、放送法上の再放送の同意と著作権法上の再放送に関する著作権及び著作隣接権の使用の許諾は、再放送に関する契約締結義務の履行として、一体のものとして同時に行われるべきものであり、毎日放送等6社は使用許諾を拒むことができない。実際のところ、被告は、毎日放送等6社から、昭和62年以降、放送法上の再放送の同意と著作権法上の再放送に関する著作権及び著作隣接権の使用の許諾を、一体のものとして同時に受けてきた。
 本件において、被告が毎日放送等5社から再放送の同意を得ており、讀賣テレビについては同意裁定がされている以上、毎日放送等6社から信託譲渡を受けている原告には、著作隣接権等の使用許諾を拒むことができないという制約が付されている。それにもかかわらず、原告が、使用料についての合意ができないとして著作権及び著作隣接権の使用を拒み、著作権及び著作隣接権が侵害されたことを理由に多額の損害賠償を請求することは、権利の濫用に該当し又は自己矛盾行為として信義則に違反して許されない。
(2)本件使用料規程及び本件基本合意が憲法14条に違反すること
ア 放送法は、同法91条1項及び2項において、基幹放送普及計画を定める旨規定し、同計画において、総合放送4系統の放送が我が国国内において、あまねく受信できるようにすることなどを、「基幹放送を国民に最大限に普及させるための指針」として定めている。そのために、同法93条1項5号は、国が基幹放送事業者に対し、基幹放送の免許を付与するに際し、基幹放送普及計画に適合すること、その他放送の普及及び健全な発達のために適切であると認定することを条件としている。
 有線放送テレビジョン事業者は、放送法に定める基幹放送を国民にあまねく受信できるようにするため、協力すべき立場にある放送事業者の放送を補完する立場にあるのであるから、放送事業者は有線テレビジョン放送事業者の行う再放送に積極的に協力しなければならず、合理的な根拠なくして、区域内再放送と区域外再放送を区別し、異なる取扱いをしてはならない。
イ 本件使用料規程は、有線放送テレビジョン事業者の再放送を区域内と区域外に区別して、両者の間に5倍の価格差をつけるものであり、また年間の包括的利用契約を結ぶ場合と結ばない場合でも両者の間に2倍の価格差をつけるものである。また、本件基本合意は区域外再放送を欠落波と重複波に区別して、両者の間に5倍の価格差をつけている。その結果、区域内再放送の使用料は年額24円(さらに15%の値引きが行われている。)であるのに対し、区域外再放送の使用料は最も高いものが年額1200円で50倍もの価格差がつけられている。
 区域内再放送と区域外再放送では、放送事業者が区域内再放送に比べて区域外再放送の場合に多額の費用を投じている事情もなく、有線放送テレビジョン事業者は、放送対象地域を越えて飛び出している電波を受信して再放送を行なっているにすぎない。実際のところ、大阪を中心にすると徳島県は兵庫県北部や京都府北部と距離的に変わらないのであるから(乙23)、徳島県とこれらの府県で使用料が異なるのは不合理である。
 水道事業等の公共事業においては料金について原価主義の考え方が採られていることに鑑みても、区域内再放送と区域外再放送とを区別する合理的な理由はない。
ウ また、本件基本合意において区域外再放送について欠落波と重複波を分けて使用料を設定すること、テレビ大阪の再放送を重複波と同じように扱って使用料を設定すること、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場合を分けて使用料を設定することにも同様に合理的な理由はない。
エ 徳島県は、関西広域連合の一員であり、徳島県の視聴者を近畿広域圏内の視聴者と区別する理由はない。徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市の距離は1629メートルにすぎないが、鳴門市の視聴者が南あわじ市の視聴者に比べて5倍から50倍の視聴料を払わなければならないのは不合理である。
オ 関東広域圏、中京広域圏、近畿広域圏のケーブルテレビの視聴者は全体の約73%に上っている。これに区域外再放送の欠落波、テレビ大阪を加えると、使用料が1世帯1ch当り年額24円で計算される場合は使用料全体の80%以上となると考えられる。そうすると、再放送の同意につき公平・公正な使用料は、上記のとおり80%以上の視聴者から徴収している1世帯1ch当たり年額24円であり、この金額を超える使用料には合理的な理由がない。
カ 以上のとおり、本件使用料規程及びこれに基づく本件基本合意は、地域もしくは使用者の立場によって視聴料に大きな価格差をつけるものであり、その価格差には合理的な理由がないので、憲法14条1項の定める法の下の平等に反し、公序良俗に違反するものであって無効である。
(3)原告の請求が著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反すること
 原告の請求は著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反するものとして許されず、被告は原告の権利を侵害しているとはいえないので不法行為は成立しない。
 著作権等管理事業者は、文化庁長官に使用料規程を届け出なければならず(著作権等管理事業法13条1項)、使用料規程に定める額を超えて使用料を請求してはならない(同条4項)。上記(2)のとおり、実際上は多くの場合において本件基本合意が定める1世帯1ch当たり年額24円という金額が適用されていたのであるから、原告は本件基本合意を使用料規程として届け出なければならなかった。しかるに、原告は、実際の金額とかけ離れた金額を定める本件使用料規程を届け出たものであり、本件使用料規程は無効であるから、同法に基づく使用料規程の届出はされていないことになる。
 本件請求は、無効な使用料規程に基づくものであり、著作権等管理事業法13条1項及び4項を潜脱するものとして許されず、被告は原告の権利を侵害しているとはいえないので不法行為は成立しない。
(4)再放送同意及び同意裁定を潜脱するものとして公序良俗に反すること
 原告の請求は、実質的に放送法上の再放送についての任意の同意や同意裁定を潜脱して被告の再放送を妨害・阻止しようとするものであり、放送法144条3項及び7項に違反し、公序良俗に違反するものである。
 同意裁定において、放送事業者が有線放送テレビジョン事業者に対し、その再放送を実質的に妨害・阻止する条件を独自に付すことは、実質的に同意裁定を潜脱して再放送を妨害・阻止しようとするものであって、放送法144条3項及び7項に違反する。これは、任意の再放送同意についても同様である。
 原告が被告に対し、損害賠償の名目で、再放送の条件として、通常の50倍の使用料の支払を請求することは、被告に再放送を継続することが困難なほどの経済的負担を負わせることにより、被告の再放送を実質的に妨害・阻止するものであるから、放送法144条3項、7項に違反し、放送法上の公序良俗に違反するものである。
(5)原告の請求が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に違反すること
 原告の請求は独占禁止法に違反し、公序良俗に違反するものである。
ア 徳島県板野郡松茂町、北島町、上板町において、被告が毎日放送等5社の放送を再放送しなければ、四国放送は独占的に放送を行なって高い視聴率を確保することができ、また、被告が再放送している讀賣テレビと四国放送とは番組内容が重なっている。このため、四国放送と被告は競争関係にある。
イ 被告は、原告が管理する著作権及び著作隣接権の使用の許諾を受けなければ、放送を再放送できないので、原告は被告に対し優越的地位に立っているということができる。そして、原告は、被告に対し、本件使用料規程及び本件基本合意に基づく使用料契約を締結するように迫り、被告がこれに応じなかったところ、本訴を提起して通常の使用料金の50倍もの損害賠償金の支払を請求している。これは、優越的地位の濫用であり、独占禁止法2条9項5号ハに違反する。
ウ 独占禁止法2条9項6号は、「不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと」(同号イ)及び「不当な対価をもって取引すること」(同号ロ)を不公正な取引方法と定め、これに基づき、一般指定3号は「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」を「差別対価」と定め、同4号は「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすること」を「取引条件等の差別取扱い」と定めている。
 本件において、市場を完全に独占している原告は、本件使用料規程において、同じ放送の再放送であるにもかかわらず、区域内と区域外を区別することにより、区域内と判断される有線放送テレビジョン事業者と区域外と判断される有線放送テレビジョン事業者との間に使用料において5倍もの格差を設け、また、包括的利用契約締結の有無により2倍の格差を設けている。
 また、原告は、本件基本合意において、区域外再放送について欠落波と重複波を区別し、重複波について欠落波の5倍の使用料を設定する一方で、広域圏内県域地上波発局の区域外再放送については、特別な減額措置を設けている。
 原告の上記各行為は、被告と競争関係にある四国放送の利益を図り、放送事業者にとって都合の良い業界秩序を守るために、被告が四国放送以外の放送を再放送する場合の価格を高く設定するものであり、公正な競争を阻害するものとして、独占禁止法2条9項6号イ及びロ並びに一般指定3号及び4号に該当する。
 本訴における原告の請求は、独占禁止法に違反し、公序良俗に違反する無効な行為の実現を図るものであり、許されない。
(6)原告の請求が暴利行為に該当すること
 前記のとおり、本件有線放送権の使用料としては、1世帯1ch当たり年額24円(実際にはさらに15%引き)が通常であり、区域外、区域内欠落波、重複波及び契約者の立場によって使用料に格差をつけることに合理的な理由はない。
 しかるに、原告は、被告に対し、不合理、不公平な使用料規程及び本件基本合意を受け入れさせようとして、被告の著作権及び著作隣接権侵害を理由に莫大な損害金を請求しているが、これは年額24円の使用料の約50倍に相当する金額である。このような原告の請求は、暴利行為に該当して許されない。
(7)承諾の意思表示を命ずる判決を得ないで損害賠償請求をすることが許されないこと
 平成26年(オ)第1130号同29年12月6日大法廷判決・民集71巻10号1817頁(NHK受信料訴訟事件)は、受信設備設置者に日本放送協会との受信契約の締結を強制する放送法64条1項という放送法の明文の規定がある場合でさえ、受信契約の成立に双方の意思表示の合致が必要であるとして、日本放送協会からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定により受信契約が成立すること等を判示している。
 本件においても、被告が放送法に基づき適法に再放送を行っており、かつ、原告が承諾の意思表示を命ずる判決を得ることにより使用料を請求できるにもかかわらず、原告がかかる手続を経ないでいきなり不法行為名目で本件使用料規程に基づく使用料を請求することを容認すれば、放送法の再放送秩序を乱して、有線放送テレビジョン事業者との間で使用料規程に基づく使用料合意を締結せずして使用料を徴収することを認める結果になる。
 したがって、原告が、被告に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求めることなく損害賠償請求をすることは許されない。
〔原告の主張〕
(1)「被告が放送事業者からの再放送の同意又は総務大臣の同意裁定を得ているにもかかわらず、原告が本訴請求を行うことは権利の濫用又は信義則違反であること」に対して被告は、被告が毎日放送等5社から再放送の同意を得ており、讀賣テレビについては同意裁定がされている以上、同各社の受託者である原告が著作権及び著作隣接権の使用を拒むことは、権利濫用又は信義則違反に当たると主張する。
 しかし、そもそも原告は被告との契約締結を拒んでおらず、被告に対し、再三にわたって契約締結を誘引しており、それにもかかわらず、被告が原告との契約締結を拒み、かつ、契約を締結しないまま再放送を行っているために、不法行為に基づく損害賠償を請求しているにすぎない。しかも、原告は、被告に対して再放送の差止めを請求していない。
 また、毎日放送等5社が再放送の同意をし、また讀賣テレビについて同意裁定があったとしても、前記のとおり、放送法上の制度と著作隣接権の制度は異なるので、本件使用料規程に基づき使用料の請求を被告にすることが妨げられるものではない。
(2)「本件使用料規程及び本件基本合意が憲法14条に違反すること」に対して
ア 本件使用料規程について
 原告は、原告が文化庁長官に届け出た本件使用料規程(甲5)の算定方法に従って本件請求を行っているものであるが、同規程の定めは合理的である。
(ア)昭和50年以降、日本音楽著作権協会、日本シナリオ作家協会、日本文芸著作権保護同盟、日本放送作家組合、日本芸能実演家団体協議会の権利者の5団体は、日本放送作家組合を窓口団体として包括許諾で個々のケーブルテレビ事業者に再放送の許諾を与えていた。その際に用いられた使用料の算定式は、区域外再放送の使用料と区域内再放送の使用料の算定方法を明確に区別した上で、区域外再放送と区域内再放送の使用料に6倍の差を設けるものであり、それによる長年の使用料の徴収実績が過去にあった。現在でも日本シナリオ作家協会、日本文芸著作権保護同盟(現:日本文藝家協会)、日本放送作家組合(現:日本脚本家連盟)は、上記と同様に、区域外再放送と区域内再放送の使用料に6倍の差を設けて使用料を徴収している。
(イ)また、放送法は、放送対象地域ごとに分割された地域を対象として放送事業者がそれぞれ放送を行うこととしており(放送法91条)、区域内再放送については、同法92条が放送対象地域において地上基幹放送事業者の放送があまねく受信できるように努めるべきと規定しているのに対し、区域外再放送にはこのような義務は課されていない。このように、我が国の放送法制は、放送対象地域ごとに分割された地域を対象として放送事業者がそれぞれ放送を行うこととしており、実際上も、地上基幹放送事業者は、それぞれの放送対象地域内において受信されることを目的とした放送番組の制作及び放送事業を行っている。このため、全国一律に同内容の情報が同時に提供されるべきであるとの被告主張は我が国の放送法制にそぐわないものである。
(ウ)さらに、区域内再放送と区域外再放送とでは、有線テレビジョン放送事業者にとって顧客吸引力という側面で明確な差異がある。区域外再放送は、視聴者にとって、当然のものとして視聴することのできない番組を提供することになるので、強い顧客吸引力を有し、いわゆる「キラーコンテンツ」として有線テレビジョン放送事業者の営業活動に大きく貢献している。
(エ)こうした事情を踏まえ、本件使用料規程は、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の区域内再放送の使用料を地上テレビジョン放送1波・有料視聴世帯1世帯当たり年額120円、区域外再放送の使用料を地上テレビジョン放送1波・有料視聴世帯1世帯当たり年額600円としているのであり、同規定の定める使用料は合理的である。
 また、本件使用料規程では、年間の包括利用許諾契約を結ばない場合には、地上テレビジョン放送1波当たり、有料視聴世帯数に対し、区域内再放送については月額20円を、区域外再放送については月額100円を乗じた額としている。これは、年間の包括的利用許諾契約を結んだ場合には毎月使用料を徴収する等の事務処理が軽減されることや有線テレビジョン放送事業者との契約の促進を考慮したものであり、このような差を設けることは合理的である。
(オ)なお、被告が区域外再放送を行っている各放送は、徳島県板野郡北島町、松茂町及び上板町のいずれにおいても、ほとんどの地点において放送法関係審査基準が定める基準に満たない電界強度しかない上、視聴が可能なレベルの画質であった場所も3町それぞれに数か所ずつしかなく、これらの地点において継続的に良好な視聴が可能であるわけではない。
イ 本件基本合意について
 原告とケーブル連盟との本件基本合意は、本件使用料規程に定める使用料の減額措置を定めたものであり、本件使用料規程のうち「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合」の適用に当たり、ケーブル連盟の会員であるケーブルテレビ事業者に対しては、地上波テレビジョン放送1波当たり、有料視聴世帯数に対し、区域内再放送については年額24円を、区域外再放送については、欠落波については年額120円、重複波等については年額600円を乗じた額としている(甲11)。
 本件基本合意は、ケーブル連盟から、@区域内再放送については対価を不要とすべきである、A「基幹放送を国民に最大限に普及させるための指針」の定めが欠落波の区域外再放送に対するニーズが生じる要因になっており、そのことを使用料において斟酌すべきであるとの意見が述べられたことを踏まえ交渉した結果であり、区域内再放送と区域外再放送について料金を別とすることについては特段の異論はなかった。原告は、原告による使用料徴収の対象となる全国384の有線テレビジョン放送事業者のうち、382事業者と利用許諾契約を締結しているが、区域外再放送の使用料と区域内再放送の使用料との区別について異議を唱えているのは被告のみである。
ウ 区域内再放送と区域外再放送とは性質の異なる行為であって両者を区別して使用料を定める本件使用料規程は合理的なものであり、また、全国の有線テレビジョン放送事業者に公平、公正に適用されているものであるから、本件使用料規程は憲法14条1項の定める法の下の平等に反するものではない。
(3)「原告の請求が著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反すること」に対して
 被告は、原告が届け出るべき使用料規程は本件基本合意であったと主張するが、本件基本合意は、本件使用料規程の存在を前提として、ケーブル連盟の会員であるケーブルテレビ事業者が原告と年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合についての一時的な措置を取り決めたものであり、本件使用料規程第4条に基づき減額措置を定めるものであるから、本件基本合意を使用料規程として届けるべきであったとの被告主張は失当である。
 したがって、原告の被告に対する請求は著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反しない。
(4)「再放送同意及び同意裁定を潜脱するものとして公序良俗に反すること」に対して
 原告は、被告に対し、再三にわたって利用許諾契約締結を申し込むよう誘引してきているが、その際に想定されていた使用料は、被告が主張する50倍の使用料ではなく、減額措置が適用された後の使用料であり、被告以外のケーブルテレビ事業者と同じ条件である。そして、他のケーブルテレビ事業者は、そのような計算方法によって算出された使用料を現に支払った上で、健全に再放送事業を継続している。このことからも、原告が誘引した際に想定されていた使用料が同意裁定及び任意同意の趣旨を没却するような額ではないことは明らかである。
 また、不法行為を理由とする損害賠償請求の場合は、著作権法114条3項が適用され、その際は本件使用料規程4条の減額措置は考慮されないことになるから、本訴の請求が任意の交渉で想定されていた使用料より結果的に高額となることは法が当然に予定するところである。
 したがって、本訴請求が再放送同意及び同意裁定を潜脱するものとして公序良俗に反するとの被告主張は理由がない。
(5)「原告の請求が独占禁止法に違反すること」に対して
ア 被告は、原告の行為が独占禁止法に違反するとするが、本件有線放送権に基づく許諾やその侵害に基づく損害賠償請求など、著作権法による権利の行使と認められる行為には、独占禁止法の適用がない(独占禁止法21条)。
イ 被告は、原告が優越的地位を濫用したと主張するが、被告は、本件基本合意に基づく使用許諾を受けることを拒絶し、多くの有線テレビジョン放送事業者に対して現に許諾している条件よりも特に有利な条件で許諾をすることを執拗に要求した上で、原告との契約を拒んだものである。被告のこのような一方的かつ差別的要求を拒むことは、著作権等管理事業者として当然の行為であって、正常な商慣習に照らして何ら不当なものではない。
ウ 被告は、本件使用料規程において区域内再放送と区域外再放送を区別していること、年間包括利用許諾契約締結の有無によって区別をしていること、本件基本合意において欠落波、重複波等の区別をしていることが、独占禁止法2条9項6号イ及びロに違反するとともに、一般指定3号の差別的対価、同4号の取引条件等の差別的取扱いに該当する旨主張する
 しかしながら、原告は、有線テレビジョン放送事業者に対し、本件使用料規程及び本件基本合意に基づき、同一の条件を提案しているのであって、被告だけを不利益に取扱うなどの対応をしていない。したがって、被告を不当に差別したものではなく、本件使用料規程、本件基本合意に定めた金額及び区域内区域外等の区別は合理的なものである。
エ 以上のとおり、原告の請求が独占禁止法に違反し、公序良俗に違反するとの被告主張は理由がない。
(6)「原告の請求が暴利行為に該当すること」に対して被告は、原告の請求は暴利行為に該当して許されないと主張するが、本件使用料規程は合理的なものであり、区域内再放送の使用料(年額120円)及び区域外再放送の使用料(年額600円)は決して高額ではない(なお、1波・1世帯当たりのNHKの受信料は年額6800円である。甲20)。
 したがって、本件使用料規程の使用料が公序良俗に反し、又は暴利行為に該当しないことは明らかである。
(7)「承諾の意思表示を命ずる判決を得ないで損害賠償請求をすることが許されないこと」に対して
 原告は、NHK受信料訴訟事件の最高裁判決に依拠して、本件においても、被告に対する承諾の意思表示を命ずる判決を得ないで損害賠償請求をすることが許されないと主張するが、本訴請求は、許諾契約又は契約締結義務に基づく請求をしているのではなく、不法行為に基づく損害賠償を請求するものであり、被告の行為が不法行為に該当する以上、承諾の意思表示を命ずる判決を経ることなく損害賠償を請求することができるのは当然である。
5 争点5(損害額)について
〔原告の主張〕
(1)被告の有線放送(徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域並びに上板町の一部の区域)の有料視聴世帯数は、平成26年度は1万2568世帯(うち15%である1885世帯を受信障害世帯とする。)であり、平成27年度は1万2699世帯(うち15%である1905世帯を受信障害世帯とする。)であり、平成28年度は1万2790世帯(うち15%である1919世帯を受信障害世帯とする。)であり、平成29年度は1万2885世帯(うち15%である1933世帯を受信障害世帯とする。)であった。
 また、徳島県板野郡北島町及び松茂町における被告の有線放送の有料視聴世帯数は、被告が有線放送を行っている3つの町の合計世帯数(平成27年国勢調査速報値によれば1万8961世帯)のうち北島町及び松茂町の2町の世帯数(同1万4698世帯)の割合を3町全体における被告の有料視聴世帯数(平成26年度は1万2568世帯、平成27年度は1万2699世帯、平成28年度は1万2790世帯、平成29年度は1万2885世帯)に乗じると、平成26年度は約9742世帯、平成27年度は約9843世帯、平成28年度は約9914世帯、平成29年度は約9988世帯であったと考えられる。
 したがって、仮に原告と被告が利用許諾契約を締結していた場合の使用料相当額は、
@ 区域内再放送(別紙「放送目録」1記載の四国放送株式会社の放送)
 平成26年度(平成26年4月1日から平成27年3月31日)
 (1万2568世帯−1885世帯)×月額20円×12カ月×1ch=256万3920円
 平成27年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日)
 (1万2699世帯−1905世帯)×月額20円×12カ月×1ch=259万0560円
 平成28年度(平成28年4月1日から平成29年3月31日)
 (1万2790世帯−1919世帯)×月額20円×12カ月×1ch=260万9040円
 平成29年度(平成29年4月1日から平成30年3月31日)
 (1万2885世帯−1933世帯)×月額20円×12カ月×1ch=262万8480円
A 区域外再放送のうち、別紙「放送目録」2〜5記載の株式会社毎日放送、朝日放送株式会社、関西テレビ放送株式会社及びテレビ大阪株式会社の放送について
 平成26年度
 1万2568世帯×月額100円×12カ月×4ch=6032万6400円
 平成27年度
 1万2699世帯×月額100円×12カ月×4ch=6095万5200円
 平成28年度
 1万2790世帯×月額100円×12カ月×4ch=6139万2000円
 平成29年度
 1万2885世帯×月額100円×12カ月×4ch=6184万8000円
B 区域外再放送のうち、別紙「放送目録」6記載の讀賣テレビ放送株式会社の放送について
 平成26年度
 9742世帯×月額100円×12カ月×1ch=1169万0400円
 平成27年度
 9843世帯×月額100円×12カ月×1ch=1181万1600円5
 平成28年度
 9914世帯×月額100円×12カ月×1ch=1189万6800円
 平成29年度
 9988世帯×月額100円×12カ月×1ch=1198万5600円
の計3億0229万8000円に消費税8%を加算した3億2648万1840円である。
 以上より、被告が平成26年4月1日から平成30年3月31日までの間に本件有線放送権を侵害した行為につき、本件有線放送権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する3億2648万1840円が、原告の受けた損害の額となる(著作権法114条3項)。
(2)原告は、本件訴訟を提起追行するための弁護士費用として、上記損害の10パーセントに相当する金3264万8184円の損害も受けた。
(3)よって、被告が平成26年4月1日から平成30年3月31日までに本件有線放送権を侵害したことより原告の受けた損害の額は、3億2648万1840円に弁護士費用相当額3264万8184円を加算した3億5913万0024円である。
(4)仮に被告が原告からの申込みの誘引に応じて、使用料一覧(甲9の資料2)の記載に則って計算される使用料を支払うことを前提として利用許諾契約締結の申込みをしていれば、原告は、当該申込みを承諾し、被告に対しても減額措置による使用料を請求することになったはずであるが、被告は、原告からの文書による注意喚起を受けていながら、本件有線放送権を侵害する再放送を平成26年4月以降も2年以上にわたり継続し、その結果、原告は不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の提起まで余儀なくされている。このような被告の侵害行為について、原告が本件訴訟を通じて受けるべき金銭の額に相当する額を算定するに当たっては、契約の促進等のための措置である上記減額措置が考慮されるべきでないことは明らかである。
 また、使用料規程では、「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合」(第3条(1))と「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」(第3条(2))とを区別し、前者の場合の使用料を後者の場合の使用料の2分の1としているところ、現時点において原告と契約を締結している有線テレビジョン放送事業者は年間を通じた再放送を行っているので、「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」に基づく支払をしている事業者は存在しない。しかし、有線テレビジョン事業者が1年に満たない期間に限定して有線放送を行うことも想定することができ、また、使用料規程による使用料の算出方法が複数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求することができるのであるから(なお、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号。平成30年12月30日施行)による改正後の著作権法114条4項はこの趣旨を確認的に法制化したものと解される。)によれば、本件有線放送権の行使につき原告が受けるべき金銭の額に相当する額を算定するに当たっては、使用料規程のうち「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」の条項によることが相当である。
〔被告の主張〕
(1)仮に、被告の行為が本件有線放送権を侵害するとしても、原告は被告に対し1世帯1ch当り年額24円(さらに15%値引きする)以上の損害賠償を請求することはできない。本件有線放送権の使用料は、約73%が1世帯1ch当り年額24円で計算され、さらに15%の値引きが行われている。
 したがって、年額24円から15%値引きされた金額が相当な使用料というべきである。そして、被告は、年額24円で計算した使用料を供託しているので、原告の請求は棄却されるべきである。
(2)本件使用料規程3条(2)の「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」は、例えば、年末年始の番組のみを放送する場合や、特定のドラマなどの放送をする場合に適用されると考えられるが、有線放送テレビジョン事業者は、放送を再放送することを業とするものであるから、毎日放送、朝日放送、関西テレビ、讀賣テレビ、テレビ大阪の基幹放送や地元の放送局の放送を再放送する際、年間の包括的利用許諾契約を締結しないで再放送することはあり得ない。
 このように、本件使用料規程3条(2)は、年間を通じて放送を同時再放送する場合に適用されるべき規定ではないので、同規定に基づき損害金を計算することは相当ではない。
6 争点6(確認の利益の有無)について
〔被告の主張〕
(1)確認の利益については、給付の訴えや債務不存在確認が可能な場合であっても、基本となる権利ないし法律関係について確定することが自己の法的地位の安定に資する場合には認められる。
 本件使用料規程は、水道料金、ガス料金、電気料金、鉄道料金等を定める契約約款と法律的な性質を同じくするものであり、被告は、本件使用料規程に基づいて継続的に使用料の請求を受ける立場にあるところ、こうした継続的契約においては、個々の請求について債務不存在確認を求めることは迂遠であり、より抜本的な紛争解決のためには、本件使用料規程自体の無効確認を求めることも許されると解すべきであり、それにより、将来の請求に関する被告の地位の不安・危険を除去することができる。
(2)本件使用料規程は、原告と被告間において、再放送に関する著作権ないし著作隣接権の使用の対価に関する基本的な法律関係であるところ、本訴請求において既判力が及ぶのは、請求の対象とされている期間において、被告が原告に対し使用料相当の損害金の支払い義務を負うかどうか、負うとした場合にその額にとどまり、本件使用料規程の有効性について既判力は及ばない。そうすると、本訴請求において本件使用料規程の有効性について判断されたとしても、原被告間の紛争を終局的に解決することはできない。
〔原告の主張〕
(1)本件反訴の確認請求は、原告が文化庁長官に届け出た使用料規程が無効であることの確認を求めるものであるが、確認請求においては、確認を求める対象は原則として現在の権利義務関係でなければならない。また、判決をもって法律関係の存否を確定することがその法律関係に関する法律上の紛争を解決する目的のために必要かつ適切でなければならず、その目的のため最も直接的かつ効果的になされることを要するから、紛争解決のためにより直接的かつ効果的な確認対象が別にある場合には、これを確認請求の対象にすべきである。
(2)原告が文化庁長官に届け出た使用料規程が無効であるかどうかは、被告と原告との具体的な権利義務又は法律関係ではなく、それ自体は法律上の争訟に当たらない。もちろん、使用料規程の有効性が当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の判断の前提として争点となることはあり得るが、本件使用料規程の有効性が確定しても、それによって原被告間の具体的な権利義務又は法律関係は何ら確定することがない。
 原告被告間では、被告が行う再放送について被告が原告に対して損害賠償債務を負うかどうか、負うとしてその金額が争われているところ、少なくとも本訴請求において原告が請求している損害賠償義務の存否及びその金額は、本訴請求によって確定されるのであるから、被告がこれとは別に確認を求める利益は認められない。
 また、仮に被告が今後も同様の再放送を継続する意思を有しているとしても、被告は、その継続を前提として、原告に対する損害賠償債務の不存在確認を求めれば足りる。
(3)被告は、本件使用料規程は原告と被告との間の基本的な法律関係に該当すると主張するが、原告と被告との間には契約関係がなく、本件使用料規程が基本的な法律関係になることもあり得ない。本訴請求が認められるかどうかは、民法709条の不法行為の要件が認められるかどうかによって決せられるのであり、本件使用料規程は著作権法114条3項の「著作権、著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」の算定において参照されるにすぎない。
(4)したがって、反訴請求は、確認の利益を欠くというべきである。
7 争点7(本件使用料規程の有効性)について
〔被告の主張〕
(1)本件使用料規程は、前記2〔被告の主張〕記載のとおり、原告が適法に信託を受けたということができない権利について使用料の額を定めるものであるから無効である。
(2)本件使用料規程は、前記4〔被告の主張〕(3)記載のとおり、著作権等仮事業法13条1項に違反して無効である。
(3)本件使用料規程は、前記4〔被告の主張〕(2)記載のとおり、法の下の平等に反し、公序良俗に反するものであるから無効である。〔原告の主張〕
 本件使用料規程が無効とはいえないことは、前記2及び4の〔原告の主張〕のとおりである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(請求及び請求原因の特定の十分性)について
 被告は、本訴請求及びその請求原因について、具体的な著作物の特定、創作性の要件の主張、著作権の取得原因の特定がされていないので、特定が不十分であると主張する。
 しかし、本件においては、被告が、平成26年4月1日以降、別紙「放送目録」1〜6記載の各放送を包括的に受信して、これらを徳島県板野郡北島町及び松茂町の2町の各全域並びに上板町の一部の区域において有線放送していることについては争いがないところ、原告が著作権法114条3項の「著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」として主張している本件使用料規程は、有料視聴世帯数に月額又は年額の使用料を乗じた金額に消費税相当額を加算した額を地上テレビジョン放送1波当たりの使用料としており、視聴する著作物の数量、種類などの個別的な事情は使用料の額を左右しない。
 また、放送事業者により放送される放送番組は多数に上る上、放送番組が創作性を欠くことは通常考えられず、仮に放送番組に創作性を欠くものが含まれていたとしても、視聴する著作物の数量は使用料の額を左右しない。
 本件における以上の事情に照らすと、本訴における請求の趣旨及び請求の原因の記載は請求を特定するに足りるものであるということができる。
2 争点2(本件信託契約の適法性又は有効性)について
(1)被告は、本件信託契約は、少なくとも著作隣接権としての有線放送権、及び著作権のうち再放送の形態による有線放送権を対象とする部分については、放送法上の免許人の地位を離れて第三者に処分できない一身専属的な権利を信託処分の対象としているので無効であると主張する。
 しかし、著作権及び著作隣接権の全部又は一部を譲渡することができることは著作権法61条1項、103条に明示的に規定されており、著作隣接権としての有線放送権及び著作権のうち再放送の形態による有線放送権について譲渡を制限する旨の規定は存在しない。後記のとおり、放送法上の再放送の同意と著作権法上の有線放送権は異なる制度であり、放送法上の再放送の同意権限を第三者に処分することができないとしても、そのことは、財産権である著作権法に基づく譲渡を制限する理由となるものではない。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(2)被告は、放送法上の再放送の同意は、その性質上当然に著作隣接権としての有線放送権及び著作権のうち再放送の形態による有線放送権の許諾を含むことを前提とした上で、原告は、既に許諾済みの有線放送権について使用料を徴収する事務を委託されているにすぎず、本件信託契約は利用許諾権限の付与を伴わないので、著作権等管理事業法にいう管理委託契約に当たらないと主張する。
 しかし、本件信託契約の内容を定める管理委託契約約款(甲4)は、信託の範囲について、「委託者は、著作権等(判決注:前記第2の1(2)ア@A記載の権利)のうち著作権等信託申込書において指定した地域における本件再放送に係る権利…を受託者に移転し、受託者は委託者のための管理収益を目的として、これを引き受ける。」と規定している。これによれば、本件信託契約は本件有線放送権の移転を目的とするものであり、委託者である原告は移転を受けた権利の使用許諾をする権限を有すると認められる。
 被告は、再放送の同意が著作隣接権等の許諾を含むと主張するが、そのような主張が採用し得ないことは、後記3で判示するとおりである。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
3 争点3(本件有線放送権の使用許諾の有無)について
(1)被告は、放送法による再放送の同意には、同時に著作隣接権等の使用許諾も含まれており、また、総務大臣の同意裁定には著作隣接権等の使用許諾を行うべきことも含まれていると主張する。
 しかし、放送法11条の再放送の同意は、放送事業者が他の放送事業者の放送番組の放送を受信して再放送すると、放送番組が無断で改変されるなどして、放送事業者の番組編集の意図を害し、歪曲する可能性があることから、このようなことが生じることがないように当該放送事業者の同意を得なければならないとしたものである(甲19)。これに対し、放送事業者の著作権や著作隣接権等は、その財産的利益の保護を目的とするものであるから、再放送の同意及び同意裁定の制度と著作権上の使用許諾とは目的・趣旨を異にする制度であるというべきである。
 このように、再放送の同意制度と著作権上の使用許諾とが趣旨・目的を異にする制度であることは、前記第2の1(6)ウのとおり、有線テレビジョン放送法の改正により再送信同意裁定制度(現在の放送法144条の同意裁定制度)が設けられた際の参議院文教委員会において、政府委員等が、再放送の同意制度と著作権制度の制度趣旨は異なり、有線テレビジョン放送事業者が再放送する場合には放送法上の同意のほかに著作権法に基づく許諾を得ることが必要である旨の答弁をしていることなど、立法担当者の説明によっても裏付けられる。
 したがって、再放送の同意及び同意裁定の制度と著作権及び著作隣接権の許諾とは趣旨・目的を異にする制度であり、再放送の同意又は同意裁定があったからといって当然に著作権及び著作隣接権の許諾があったと解することはできない。
(2)これに対し、被告は、有線テレビジョン放送事業者が放送事業者から再放送の同意又は総務大臣の同意裁定を得たにもかかわらず、別途著作隣接権等の使用について同意を得なければならないとすると、その同意が得られない限り再放送できないことになるので、再放送の同意を得た場合には著作隣接権等の使用許諾権限が放送事業者に留保されていると主張する。
 しかし、前記判示のとおり、再放送同意の制度と著作権及び著作隣接権の許諾とは趣旨・目的を異にする制度であるので、再放送の同意を得た場合に著作隣接権等の使用許諾の権限が放送事業者に留保されていると解すべき理由はない。また、被告は、著作隣接権等の使用許諾を再放送の同意とは別に得なければならないとすると再放送ができなくなると主張するが、本訴において原告は放送の差止めを求めているものではない。
 したがって、被告の上記主張には理由がない。
(3)以上のとおり、放送法上の再放送の同意又は同意裁定と著作隣接権等の制度は異なる制度であり、有線テレビジョン放送事業者は、放送法上の再放送の同意とは別に著作隣接権等の使用許諾を得る必要があるところ、本件において、被告が原告から著作隣接権等の使用許諾を得ているということはできない。
4 争点4(権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反等の有無)について
(1)被告が放送事業者からの再放送の同意又は総務大臣の同意裁定を得ているにもかかわらず、原告が本訴請求を行うことは権利の濫用又は信義則違反であるとの主張について
 被告は、被告が放送事業者から再放送の同意又は同意裁定を得ている以上、当該放送事業者の受託者である原告には著作隣接権等の使用許諾を拒むことができないという制約が付されているにもかかわらず、原告が著作隣接権等の使用を拒むのは、権利の濫用又は信義則違反であると主張する。
 しかし、前記3で判示したとおり、放送法上の再放送の同意又は同意裁定と著作隣接権等の制度は異なる制度であり、被告が放送事業者から再放送の同意又は同意裁定を得た場合に、原告が著作隣接権等の使用許諾を拒むことができないと解すべき理由はない。
 したがって、被告の上記主張は前提を欠くものであり、理由がない。
(2)本件使用料規程及び本件基本合意が憲法14条に違反するとの主張について
 被告は、本件使用料規程が、有線放送事業者の再放送を区域内再放送と区域外再放送を区別して使用料を設定すること、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場合を分けて使用料を設定すること、区域外再放送について欠落波と重複波等を分けて使用料を設定することには合理性はなく、設定された価格差についても不合理であるとして、本件使用料規程及びこれに基づく本件基本合意は、憲法第14条1項の定める法の下の平等に反し、公序良俗に違反すると主張する。
ア 本件使用料規程について
(ア)前記第2の1(4)のとおり、本件使用料規程は、区域内再放送と区域外再放送を区別した上で、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合には、区域内再放送について有料視聴世帯数に年額120円を乗じた額、区域外再放送について有料視聴世帯数に年額600円を乗じた額と定め、年間の包括的利用許諾契約によらない場合には、区域内再放送について有料視聴世帯数に月額20円を乗じた額、区域外再放送について有料視聴世帯数に月額100円を乗じた額(以上いずれも地上テレビジョン放送1波当たり)と定めている。
(イ)被告は、本件使用料規程について、区域内再放送か区域外再放送かの相違により異なる使用料を設定することは不合理であると主張するが、前記第2の1(6)のとおり、放送法上、基幹放送には放送対象地域が定められており(放送法91条2項2号)、基幹放送普及計画においては「放送対象地域ごとの放送系の数の目標」が定められている上(同法91条2項3号、基幹放送普及計画の第3)、基幹放送事業者は、その放送対象区域において、当該基幹放送があまねく受信できるように努めることとされている(放送法92条)。
 このように、放送法は放送対象地域の内と外で明確に区別をしており、放送法に基づく基幹放送普及計画等により、放送対象地域制度を前提として放送番組の地域性を確保するための制度設計がなされているものということができる。そうすると、区域内再放送と区域外再放送とで一定の異なる扱いをすること自体は法が予定しているというべきである。
 これに対し、被告は、放送事業者は、放送法に定める基幹放送を国民が全国あまねく受信できるように協力すべき立場にあるので、これを補完する立場にある有線テレビジョン放送事業者の再放送に積極的に協力しなければならないなどと主張するが、前記のとおり、放送対象地域制度を前提とする現在の放送法の下で、放送事業者がその放送対象地域を越えて全国あまねく基幹放送を供給する義務を負うと解することはできない。
(ウ)次に、本件使用料規程における使用料の差違が合理性を有するかについて検討する。
a 本件使用料規程は著作権等管理事業法13条に基づいて文化庁長官に届出のされたものであるが、同法は、著作物の利用の円滑性確保という観点から著作物等管理事業者に対して、使用料規程の作成、届出義務を定めている。そして、同法は、使用料規程作成に当たっての利用者又はその団体から予め意見を聴取する努力義務と、使用料規程を届け出た場合における使用料規程の概要の公表義務を定め、恣意的な使用料規程の作成を防止するとともに(同法13条)、使用料規程において不相当に高額な使用料の額が設定され著しく利用者の利益を害する場合などには、文化庁長官が一定の要件の下で、業務改善命令(同法20条)による是正措置を講じることとされている。このように、同法においては、使用料規程の不合理な使用料の規定の是正を図るための規定が置かれているところ、本件においては、文化庁長官による原告に対する業務改善命令がなされた等の事実はうかがわれない。
b また、日本音楽著作権協会、日本シナリオ作家協会、日本文芸著作権保護同盟、日本放送作家組合、日本芸能実演家団体協議会の権利者の5団体は、昭和50年以降、個々のケーブルテレビ事業者に再放送の許諾を与えており、その際に用いられた使用料の算定式は、区域外再放送と区域内再放送の使用料に6倍の差を設けるものであって、上記団体の一部については、現在も同様の算定式に基づいて使用料の徴収が行われているとの事実が認められる(弁論の全趣旨)。cさらに、地上基幹放送事業者は、それぞれの放送対象地域内において放送を行っているところ、有線テレビジョン放送事業者の提供する区域外再放送は、視聴者にとってはその区域においては当然には視聴することのできない番組の視聴が可能になるものであるため、強い顧客吸引力を有していることがうかがわれ(甲25)、さらに日本放送協会の受信料が1波・1世帯当たり年額6800円であること(甲20)なども考慮すると、本件使用料規程の定める使用料が不合理に高額であるということはできず、また区域外再放送と区域内再放送の使用料及びその間の差(5倍)が不合理であるということはできない。
d これに対し、被告は、放送事業者が区域内再放送に比べて区域外再放送の場合に多額の費用を投じている事情もなく、有線放送テレビジョン事業者は、放送対象地域を越えて飛び出している電波を受信して再放送を行なっているにすぎず、大阪を中心にすると徳島県は兵庫県北部や京都府北部と距離的に変わらないなどと主張する。
 しかし、総務省が平成25年に行った調査によれば、被告が讀賣テレビの区域外再放送を行っている徳島県板野郡北島町、松茂町及び上板町のいずれにおいても、電界強度が放送法関係審査基準の基準値未満であり、画質についても継続的に良好な受信が可能であるとまではいえない状態であったとの事実が認められる(乙6)。また、毎日放送等の親局(大阪局)の放送エリアには上記3町は含まれず、その中継局の放送エリアにも同各町は含まれていない(甲24)。
 以上によれば、区域外と区域内で電波の受信状況は必ずしも同一ということはできず、放送事業者が区域内再放送に比べて区域外再放送の場合に多額の費用を投じる必要がないと認めるに足りる証拠もない。
e 被告は、水道事業等の公共事業においては料金について原価主義の考え方が採られていることに鑑みても、区域内再放送と区域外再放送とを区別する合理的な理由はないと主張する。
 しかし、原告の行う管理事業は水道事業のような公営事業ではなく、また、水道法においては、水道事業者の定める供給規程が「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること。」との要件に適合しなければならないと定められている(同法14条1項1号)のに対し、著作権等については再放送使用料を原価に基づいて設定すべきことが義務付けられているものではない。
 このように、水道等の公益事業と原告の行う管理事業とは、その根拠法令、制度趣旨、使用料の算定の方法等が異なっているのであり、水道事業等の公共事業との対比において本件使用料規程の合理性を判断することは相当ではない。
f 被告は、徳島県は、関西広域連合の一員であるところ、徳島県鳴門市の視聴者が隣接する兵庫県南あわじ市の視聴者の5倍から50倍の視聴料を払わなければならないのは不合理であると主張する。
 しかし、前記判示のとおり、放送法は放送対象地域の内と外で明確に区別をしており、区域内再放送と区域外再放送とで一定の異なる扱いをすること自体は法が予定している以上、隣接した市町村であったとしても、放送対象地域が異なる場合には視聴料が異なるのはやむを得ないというべきである。そして、本件使用料規程における使用料の額及び区域内再放送と区域外再放送の使用料の差が不合理とはいえないことは前記判示のとおりである。
 なお、被告は、本件使用料規程の年間の包括的利用許諾契約によらない場合の区域外再放送の使用料(年間で計算すると1200円)と本件基本合意の区域内再放送の使用料(年間24円)とを対比して、50倍の格差があると主張するが、本訴の請求は本件使用料規程の算式によるものであるから、区域内再放送と区域外再放送の使用料の格差の合理性については、同規程の同一種別についての料金を比較して判断すべきであり、本件使用料規程と本件基本合意のしかも異なる種別における料金を比較することは相当ではない。
g 被告は、関東広域圏、中京広域圏、近畿広域圏のケーブルテレビの視聴者は全体の約73%にのぼっていることなどを指摘し、再放送の同意につき公平・公正な使用料は1世帯1ch当たり年額24円であり、この金額を超える使用料には合理的な理由がないと主張する。
 しかし、後記のとおり、本件基本合意は、本件使用料規程第4条に基づき減額措置を定めるものであり、しかも年額24円という使用料はその中でも最も低い金額であるから、同金額を超える使用料が合理性を欠くということはできない。本件使用料規程における使用料の額が不合理とはいえないことは前記判示のとおりである。
h 以上のとおり、本件使用料規程における使用料の額及び区域内再放送と区域外再放送の使用料の差が不合理ということはできない。
(エ)被告は、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場合を分けて使用料を設定することは不合理であると主張する。
 しかし、年間の包括的利用許諾契約を結んだ場合には毎月使用料を徴収する等の事務処理が軽減されることを考慮すると、年間の包括的利用許諾契約を締結しない場合の使用料を一定程度高く設定することは合理的であり、また、その使用料が年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と比較して不合理に高額であるということはできない。
 したがって、年間の包括的利用許諾契約を締結する場合と締結しない場合を分けて使用料を設定することが不合理であるということはできない。
イ 本件基本合意について
 被告は、本件基本合意において、区域外再放送について欠落波と重複波等を分けて使用料を設定することには合理性はない等と主張する。
 しかし、本訴の請求は本件使用料規程に定められた使用料の算定方法に従って損害賠償の支払を求めるものであるから、本件基本合意における欠落波と重複波等の区別の合理性やその使用料は結論を左右するものではなく、また、本件基本合意は、本件使用料規程第4条に基づき減額措置を定めるものであるから、本件使用料規程の定める使用料が不合理に高額とはいえない以上、それより低い金額を定める本件基本合意の使用料が不合理に高額であるということもできない。
 したがって、この点についての被告主張は失当である。
ウ 以上のとおり、本件使用料規程は憲法14条1項の定める法の下の平等に反するものではなく、また公序良俗に違反するということもできない。
(3)原告の請求が著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反するとの主張について
 被告は、原告が実際に届出をすべき使用料はケーブル連盟との本件基本合意であるから、文化庁長官に対する原告の届出は著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反し無効であると主張する。
 しかしながら、本件基本合意(甲11)は、同(1)柱書に「JASMATは自らが別途定める使用料規程のうち、『年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の再放送使用料』の適用にあたり、…以下の算定方式による使用料を適用する。」と規定されているとおり、本件使用料規程を前提として、ケーブル連盟の会員であるケーブルテレビ事業者が原告と年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合についての一時的な措置を取り決めたものであり、本件使用料規程第4条に基づく使用料の減額措置であると認められる。
 そうすると、本件基本合意は、原告が文化庁長官に届け出るべき規程には該当しない。
 したがって、原告が著作権等管理事業法13条1項及び4項に違反したということはできない。
(4)再放送同意及び同意裁定を潜脱するものとして公序良俗に反するとの主張について
 被告は、原告が被告に対し、多額の損害賠償を請求することは、被告に再放送を継続することが困難なほどの経済的負担を負わせることにより、被告の再放送を実質的に妨害・阻止するものであるから、放送法144条3項、7項に違反すると主張する。
 しかし、再放送同意の制度と著作権及び著作隣接権の許諾とは趣旨・目的を異にする制度であり、被告が著作隣接権等の使用料を支払わずに再放送を行った場合に原告が使用料相当額の損害賠償を求めることができるのは当然であり、本件使用料規程に定められた使用料についても不合理といえないことは、前記判示のとおりである。
 したがって、原告による本訴請求が被告の再放送を実質的に妨害・阻止するものであって、放送法144条3項、7項に違反するということはできない。
(5)原告の請求が独占禁止法に違反するとの主張について
ア 被告は、原告は、本件使用料規程等に基づく使用料契約を締結するように迫り、被告がこれに応じないと、本訴を提起して不合理に高額の損害賠償を求めるものであり、優越的地位を濫用するものとして独占禁止法2条9項5号ハに違反すると主張する。
 しかし、証拠(甲6、7、9、10、12〜18、乙11〜21)によれば、原告は被告に対し他の有線テレビジョン放送事業者と同様の契約条件を提示して契約を誘引し、被告からの照会に対しても誠実に回答をするなどして交渉を尽くしたものであり、原告が被告に対し優越的地位を濫用して契約締結を強要したことをうかがわせる証拠は存在しない。
 したがって、原告が優越的地位を濫用したとする被告主張は理由がない。
イ 被告は、原告の行為は、独占禁止法2条9項6号の「不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと」(同号イ)及び「不当な対価をもって取引すること」(同号ロ)に該当し、同各号に基づき公正取引委員会が指定する行為のうち、一般指定3号の「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」(差別対価)、同4号の「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすること」(取引条件等の差別取扱い)に該当すると主張する。
 しかし、前記判示のとおり、原告は被告に対し他の有線テレビジョン放送事業者と同様の契約条件を提示して契約を誘引していたのであり、本件使用料規程の定める使用料が不合理であるともいうことはできないのであるから、原告が被告を「不当に差別的に取り扱」い又は被告に対して「不当に不利な取扱い」をしたということはできず、また、本件使用料規程が「不当な対価」又は「差別的な対価」に当たるということはできない。
ウ 以上のとおり、原告の本訴請求が独占禁止法に違反し、公序良俗に違反するとの被告の主張は理由がない。
(6)原告の請求が暴利行為に該当するとの主張について
 被告は、原告の本訴請求は、本件基本合意で定める年額24円の使用料の約50倍に相当する金額の支払を求めるものであり、暴利行為に該当して許されないと主張する。
 しかし、前記判示のとおり、本件使用料規程の定める使用料が不合理に高額であるということはできないので、原告の本訴請求が暴利行為に該当するとの被告主張は理由がない。
(7)承諾の意思表示を命ずる判決を得ないで損害賠償請求をすることが許されないとの主張について
 被告は、NHK受信料訴訟事件の最高裁判決に依拠しつつ、原告は本件においてまず承諾の意思表示を命ずる判決を得なければならないところ、かかる手続を経ることなく本件使用料規程に基づく使用料相当額を請求するのは許されないと主張する。
 しかし、本訴は上記最高裁判決とは事案を異にし、放送事業者から著作隣接権等の信託を受けた原告が、原告からの使用許諾を得ないで有線放送を行う被告に対し、不法行為に基づき、使用料相当額の損害賠償を求める事案であり、かかる不法行為に基づく請求をするに当たり、著作隣接権等の使用許諾の意思表示を命ずる判決を予め得ることが必要であると解することはできない。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
(8)まとめ
 以上のとおり、原告の本訴請求が権利の濫用、信義則違反又は公序良俗違反に当たるという被告の主張は理由がない。
5 争点5(損害額)について
(1)前記判示のとおり、被告の本件行為については本件有線放送権を侵害するものとして不法行為が成立し、その損害額は本件使用料規程に基づいて算定をすることが相当であるところ、原告は、本件においては、同規程の定める年間包括利用契約による場合と年間包括利用契約によらない場合のうち、年間包括利用契約によらない場合を前提として損害額を算定すべきであると主張する。
 しかし、@被告は別紙「放送目録」1〜6記載の各放送を、編集及び内容を一切変更することなく、全ての放送を同一時間にそのまま再放送しており、その放送形態に照らし、被告が年間包括利用契約によらない使用許諾を受けることは考え難いこと、A原告と被告との交渉の過程においても、年間包括利用契約によらない使用許諾を受けることが検討された形跡はうかがわれず、年間包括利用契約によることが前提とされていたと考えられること、B原告が、被告と同様に有線放送事業を行い、本件有線放送行為と同様に基幹放送の同時再放送を行っている事業者につき、年間包括利用契約によらずに利用料を支払っている実績はないことなどによれば、本件における使用料相当額の算定に当たっては、年間包括利用契約による場合の算定方法を用いるのが相当である。
 この点について、原告は、使用料規程による使用料の算出方法が複数あるときは各方法により算出した額のうち最も高い額を請求することが相当であると主張するが、前記判示のとおり、本件においては、年間包括利用契約によらない場合を前提とすることは相当ではないと解されるので、算出方法が複数あるということはできない。
 他方、原告は、本件基本合意で定められた年額24円の使用料を適用することが相当であると主張するが、本件使用料規程第4条に基づく減額措置であり、ケーブル連盟との間で個別的に合意された本件基本合意の定める使用料に基づき本件の使用料相当損害金を算定することが相当であるということはできない。
(2)以上を前提に、本件使用料規程に基づく利用料につき、検討する。
ア 被告の有線放送(徳島県板野郡北島町及び松茂町の各全域並びに上板町の一部の区域)の有料視聴世帯数は、平成26年度は1万2568世帯(うち15%である1885世帯を受信障害世帯とする。)であり、平成27年度は1万2699世帯(うち15%である1905世帯を受信障害世帯とする。)であり、平成28年度は1万2790世帯(うち15%である1919世帯を受信障害世帯とする。)であり、平成29年度は1万2885世帯(うち15%である1933世帯を受信障害世帯とする。)であったものと認められる。
 また、徳島県板野郡北島町及び松茂町における被告の有線放送の有料視聴世帯数は、被告が有線放送を行っている3つの町の合計世帯数(平成27年国勢調査速報値によれば1万8961世帯)のうち北島町及び松茂町の2町の世帯数(同1万4698世帯)の割合を3町全体における被告の有料視聴世帯数(平成26年度は1万2568世帯、平成27年度は1万2699世帯、平成28年度は1万2790世帯、平成29年度は1万2885世帯)に乗じると、平成26年度は約9742世帯、平成27年度は約9843世帯、平成28年度は約9914世帯、平成29年度は約9988世帯となる。
イ 次に、仮に原告と被告が利用許諾契約を締結していた場合の使用料につき検討すると、別紙「放送目録」1記載の四国放送の放送につき、平成26年度が128万1960円、平成27年度が129万5280円、平成28年度が130万4520円、平成29年度が131万4240円であり、別紙「放送目録」2ないし5記載の毎日放送、朝日放送、関西テレビ及びテレビ大阪の各放送につき、平成26年度が3016万3200円、平成27年度が3047万7600円、平成28年度が3069万6000円、平成29年度が3092万4000円であり、別紙「放送目録」6記載の讀賣テレビの放送につき、平成26年度が584万5200円、平成27年度が590万5800円、平成28年度が594万8400円、平成29年度が599万2800円であると認められる。
 そして、上記各金額の合計の1億5114万9000円に消費税8%を加算した1億6324万0920円が使用料相当額であると認めるのが相当である。
 (以下、計算式)
@ 区域内再放送(別紙「放送目録」1記載の四国放送の放送)
 平成26年度(平成26年4月1日から平成27年3月31日)
 (1万2568世帯−1885世帯)×年額120円×1ch=128万1960円
 平成27年度(平成27年4月1日から平成28年3月31日)
 (1万2699世帯−1905世帯)×年額120円×1ch=129万5280円
 平成28年度(平成28年4月1日から平成29年3月31日)
 (1万2790世帯−1919世帯)×年額120円×1ch=130万4520円
 平成29年度(平成29年4月1日から平成30年3月31日)
 (1万2885世帯−1933世帯)×年額120円×1ch=131万4240円
A 区域外再放送のうち、別紙「放送目録」2ないし5記載の毎日放送、朝日放送、関西テレビ及びテレビ大阪の各放送について
 平成26年度
 1万2568世帯×年額600円×4ch=3016万3200円
 平成27年度
 1万2699世帯×年額600円×4ch=3047万7600円
 平成28年度
 1万2790世帯×年額600円×4ch=3069万6000円
 平成29年度
 1万2885世帯×年額600円×4ch=3092万4000円
B 区域外再放送のうち、別紙「放送目録」6記載の讀賣テレビの放送について
 平成26年度
 9742世帯×年額600円×1ch=584万5200円
 平成27年度
 9843世帯×年額600円×1ch=590万5800円
 平成28年度
 9914世帯×年額600円×1ch=594万8400円
 平成29年度
 9988世帯×年額600円×1ch=599万2800円
ウ 以上のとおり、被告が平成26年4月1日から平成30年3月31日までの間に本件有線放送権を侵害した行為につき、本件有線放送権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する1億6324万0920円が、原告の受けた損害の額となる(著作権法114条3項)。
(3)本件事案の内容、審理の経過、請求額、認容された額その他一切の事情を考慮すると、本件における不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、1632万4092円が相当である。
(4)よって、被告は原告に対し、損害額の合計1億7956万5012円及びうち平成26年度及び平成27年度分の使用料相当額の合計額8096万6563円に弁護士費用相当額である809万6656円を合計した8906万3219円に対する平成28年9月10日から支払済みまでの遅延損害金について、うち平成28年度及び平成29年度分の使用料相当額の合計額8227万4357円に弁護士費用相当額である822万7436円を合計した9050万1793円に対する平成30年4月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めることができる。
6 争点6(確認の利益の有無)について
(1)確認の訴えは、現に、原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるものである(最高裁判所昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。
(2)被告は、著作隣接権等の使用許諾のような継続的契約においては、個々の請求について債務不存在確認を求めることは迂遠であり、より抜本的な紛争解決のためには、本件使用料規程自体の無効確認を求めることが必要かつ適切であり、これにより将来の請求に関する被告の地位の不安・危険を除去することができると主張する。
 しかし、本件使用料規程が無効であるかどうかは、被告と原告との具体的な権利義務又は法律関係ではなく、それ自体は法律上の争訟に当たらない上、本訴請求において原告が請求している損害賠償義務の存否及びその金額は本訴請求によって確定されるのであるから、被告がこれとは別に確認を求める利益はあるとは認め難い。
 また、原告の本訴請求は、著作隣接権等の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償であり、本件使用料規程は、著作権法114条3項の「著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」を認定する上で参照されるにすぎず、仮に同規程が無効であるとしても、他の証拠等に基づいて使用料相当額が認定されることとなる。このため、本件使用料規程の無効を確認することにより、原告と被告との間の紛争が抜本的に解決されるものではなく、これにより将来の請求に関する被告の地位の不安・危険を除去することができるものでもない。
(3)以上によれば、反訴請求は、確認の利益を欠くというべきである。
7 結論
 よって、原告の本訴請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容しその余は理由がないから棄却することとし、被告の反訴請求は不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 遠山敦士
 裁判官 今野智紀


(別紙信託者目録及び別紙放送目録の添付省略)
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