判例全文 | ||
【事件名】医師のパブリシティ権等事件 【年月日】平成31年1月25日 東京地裁 平成29年(ワ)第40121号 損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 平成30年12月12日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 長尾卓 同訴訟復代理人弁護士 権藤孝典 被告 株式会社メドレー 同訴訟代理人弁護士 升本喜郎 同 金子剛大 同 井上貴宏 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、600万円及びこれに対する平成29年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、別紙1記載の謝罪文書を、別紙2記載の各医療機関に対して送付せよ。 3 被告は、被告が管理するホームページ1(URLは省略)及びホームページ2(URLは省略)のトップページに、それぞれ別紙1記載の謝罪文書を6か月間掲載せよ。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 仮執行宣言 第2 事案の概要等 本件は、遠隔診療に従事している医師である原告が、遠隔診療を可能にするスマートフォン向けアプリケーションを提供している被告に対し、原告の肖像が掲載された新聞記事を被告が広告用ポスターに使用して複数の医療機関に配布したことが原告のパブリシティ権(主位的請求)及び肖像権(予備的請求)を侵害するとともに、需要者の間に広く認識された原告の氏名、原告の運営する医院の名称及び原告の写った写真を同ポスターに使用することが不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に当たるとして、民法709条又は不競法5条2項、同4条に基づき、損害賠償金合計600万円(上記不法行為及び不正競争行為について各300万円)及びこれに対する不法行為日の後である平成29年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払、並びに不競法14条に基づく信用回復措置として謝罪文書の送付及び掲載を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実) (1)当事者 ア 原告は、B内科(以下「原告医院」という。)の院長を務める医師である。 イ 被告は、スマートフォンを利用して遠隔診療サービスを行うことを可能にするアプリケーション「CLINICS」(以下「本件アプリ」という。)を医療機関に提供し、同アプリを運営する法人である。 (2)遠隔診療に関する記事の掲載 2016年9月15日付け日本経済新聞(夕刊)には、原告が写った写真(以下「本件写真」という。)とともに、遠隔診療の現状、利用法、注意点などを説明、紹介する記事(以下「本件記事」という。乙1参照)が掲載された。 本件記事においては、原告医院における遠隔診療の実情が紹介され、原告のコメントも紹介されている。また、本件記事に掲載された本件写真には、パソコンに映った人物と向き合う原告の横向き上半身が写っているが、これは「遠隔診療の流れ」の紹介の中で、遠隔診療の具体的なイメージを示すものとして掲載されたものである。 また、本件記事には、医療機関向けに遠隔診療システムを提供する主体として被告が紹介され、その執行役員の発言も紹介されている。 (3)本件ポスターの作成及び配布 被告は、平成29年4月頃、冒頭に「今、スマホ通院をしている患者さんが増えてます。」と記載され、中央部に本件記事を転載したポスター(以下「本件ポスター」という。乙1)を作成し、医療機関に配布した。本件ポスターにおいては、その冒頭部分及び下部において、被告の有する登録商標(登録番号第5979680号。以下「被告商標」という。甲5)である「スマホ通院」という文字が記載され、その最下部には「CLINICSbyMEDLEY」と記載されているほか、「スマホ通院とは?」との記載がされている箇所においては本件アプリのロゴが表示されている。 被告は、本件ポスターを作成するに当たり、本件記事が掲載された日本経済新聞の発行元である株式会社日本経済新聞社から事前に記事利用の許諾を得ていたが、原告の許諾は得ていなかった。 2 争点 (1)パブリシティ権侵害の有無 (2)肖像権侵害の有無 (3)不競法上の請求権の有無 (4)損害の存否及び損害額 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(パブリシティ権侵害の有無)について 〔原告の主張〕 (1)原告は、マスメディア等で頻繁に取り上げられており(甲1、甲2の1〜7、甲8の1〜6)、遠隔診療の第一人者として医療界において広く認知されている人物である。原告がマスメディア等に紹介される際には原告の写真が掲載されることが多いので、多くの医師は原告の肖像を見れば原告と特定できる。 そのため、原告の肖像等は、その信用性や実績等により、その肖像等が掲載されたサービスの利用を医療機関に促進するなどの顧客吸引力を有し、原告は、この顧客吸引力を排他的に利用するパブリシティ権を有している。 (2)被告は、原告の肖像等が掲載されている本件ポスターを多数の医療機関に配布している。また、本件ポスターの冒頭部分及び下部には被告商標である「スマホ通院」という文字が大きく記載され、下部には「CLINICSbyMEDLEY」と記載されて本件アプリの名称及び被告の社名が示されているほか、「スマホ通院とは?」との記載がされている箇所においては本件アプリのロゴが記載されている。 そして、原告医院は本件アプリを使用しておらず、遠隔診療サービスに関15して「スマホ通院」という用語を使っていないにもかかわらず、被告は「スマホ通院」との用語が大きく記載された本件ポスターの中央付近に顧客吸引力を有する原告の肖像等を掲載しており、本件ポスターに掲載された本件写真が小さいということもできない。 このような本件ポスターの記載や本件写真の掲載方法等からすれば、専ら20本件アプリの広告をする目的で、原告の肖像等を本件ポスターに掲載したものということができる。 (3)したがって、被告は、専ら原告の肖像等の有する顧客吸引力を利用する目的で、本件ポスターに原告の肖像等を掲載し、複数の医療機関に配布したものであり、その行為は原告のパブリシティ権を侵害する。 〔被告の主張〕 (1)原告がパブリシティ権を有することの根拠として挙げる記事は、一般論として遠隔診療の利点等を紹介する記事であり、原告及び原告医院は遠隔診療を行う医療機関の一つとして紹介されているにすぎない。また、遠隔診療に関する記事は無数に存在し、原告及び原告医院以外の医師や医療機関を紹介した記事(乙2の1・4〜6・9・14〜17など)も多数存在するのであるから、原告が遠隔診療の第一人者として顧客吸引力を有するほど著名な存在であったということはできない。 (2)本件ポスターは医療機関に本件アプリの導入や利用継続を促すための広告ではなく、本件ポスターを目にする患者に対する遠隔診療一般の普及啓発を目的としたポスターである。現に、本件ポスターにおいては、最下部に小さく本件アプリのロゴマークが表示されている点を除けば、本件アプリに関する言及は一切なく、これを閲覧した者が本件ポスターを本件アプリの広告と理解するとは考えられない。また、本件ポスターは、既に被告と本件アプリの利用契約を締結し、本件アプリを導入済みの医療機関に配布したものであるから、本件アプリの導入や利用継続を医療機関に促す目的で制作、配布されたものではない。 また、本件記事が本件ポスターに使用されているのは、同記事が遠隔診療の特集記事だったからであり、原告の肖像等が本件記事に掲載されていたからではない。本件記事において原告の氏名が登場したのは1回、原告医院名が登場したのは2回にすぎず、本件写真が本件ポスターに占める割合はごく小さなものであり、同写真は遠隔診療に関する具体的なイメージを抱かせるために付随的に使用されているにすぎない。さらに、本件写真は白黒で、原告はその横顔しか写っておらず、本件写真に写っているのが原告と判別するのは困難である。 このように、本件ポスターは、専ら原告肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的として制作、配布されたものではない。 (3)したがって、原告にはパブリシティ権は認められず、本件ポスターは専ら原告の肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的として制作、配布されたものでもないから、原告のパブリシティ権侵害の主張は理由がない。 2 争点(2)(肖像権侵害の有無)について 〔原告の主張〕 原告は、本件記事に自らの氏名や写真が掲載されることを承諾したが、これは、あくまで遠隔診療一般に関して、同新聞の読者に対して情報提供することを目的として、本件記事に限って使用されることを条件として、承諾したものである。 しかし、被告は、本件アプリの宣伝広告目的で制作、配布された本件ポスターに無断で原告の肖像等を使用し、その使用態様も原告が本件アプリを導入しているかのような誤解を生じさせるものであり、かつ、本件ポスターは医療機関において継続的に掲示されている。 このように、本件ポスターにおいては、原告が当初肖像等の公表を承諾した条件とは全く異なった目的、態様、期間等の条件で使用されていることが明らかであり、このような態様で原告の肖像等が使用される場合についてまで、原告が承諾し、肖像権を放棄したものということはできない。 したがって、仮にパブリシティ権侵害が認められないとしても、被告が原告の肖像等を原告に無断で本件ポスターに掲載した行為は、原告の肖像権を侵害する。 〔被告の主張〕 他人の肖像等を公表することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、被撮影者の活動内容、掲載の場所、掲載の目的、掲載の態様、掲載の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超えるものといえるかどうかを判断して決定されるべきであり、被撮影者の承諾を得ない肖像等の使用であっても、上記諸要素を総合考慮し、被撮影者の不利益が小さく、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超えるということができない場合には、肖像権侵害は成立しない。 新聞の読者等が新聞記事を紹介し又は転載することは一般に行われていることであり、日本経済新聞に掲載された本件記事が医療機関や医療関係者を含む第三者により遠隔診療の紹介や普及啓発等の目的で紹介されたり、転載されたりすることは原告にとっても容易に予想し得たはずである。 また、原告が原告医院において遠隔診療を導入していることからすれば、原告の肖像等が含まれる本件記事が遠隔診療の普及啓発を目的とする本件ポスターに使用されることは、原告にとって何ら不利益となるものではない。 そうすると、本件ポスターにおける原告の肖像等の使用が原告に与える不利益は存在しないか、仮に存在するとしても極めて軽微なものにとどまるのであるから、原告の人格的利益に与える不利益は社会生活上の受忍限度を超えるものということはできず、原告の肖像権を侵害するものではない。 3 争点(3)(不競法上の請求権の有無)について 〔原告の主張〕 被告が本件ポスターを制作、配布する行為は、以下のとおり、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当する。 (1)本件ポスターに使用された原告の氏名、原告医院の名称、本件写真は、自他商品識別力及び出所表示機能を有しており、「商品等表示」に該当する。 (2)原告医院における遠隔診療はマスメディアに取り上げられるなどしているため、原告の氏名、原告医院の名称、原告の遠隔診療の様子を写した写真は、需要者である医療機関に広く認識されている。 (3)被告は、本件ポスターに、原告の氏名、原告医院の名称、本件写真をそのまま掲載し、本件ポスターの冒頭部分及び下部に被告の登録商標を大きく記載し、これを原告の商品等表示と一体のものとして、本件アプリを広告する本件ポスターに組み入れているのであるから、自他商品識別機能を果たすものとして原告の商品等表示を「使用」しているということができる。 (4)原告は、現在医療機関向けに遠隔診療の導入に関するコンサルティング等を行っているため、被告とは競争関係にあるところ、本件のポスターにおいては、被告商標が大きく記載され、「CLINICSbyMEDLEY」との記載が下部にあり、その中央付近に原告の商品等表示が掲載されているため、需要者である医療機関は原告が本件アプリの直接の営業主体であると混同するおそれがある。 そして、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」には、緊密な営業上の関係や同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係があると誤信させる行為(広義の混同)も含まれると解されるところ、本件ポスターの掲載方法等からすると、被告の本件行為は、「スマホ通院」につき原告と被告とが緊密な営業上の関係があることや、原告が本件アプリに基づく「スマホ通院」という同一のサービス事業を営むグループに属すると医療機関に誤信させる行為であるということができる。 〔被告の主張〕 (1)原告が周知性の根拠として挙げる記事等は、原告の肖像等が医療機関の間に広く認識されていることの裏付けとして十分ではない。遠隔診療に関する新聞やインターネット上の記事は無数に存在するのであって、その中のごく一部の記事によって、原告の肖像等が原告の営業を表示するものとして医療機関の間に広く認識されているということはできない。 (2)本件ポスターにおいて原告の肖像等が本件アプリの出所(提供主体)を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で使用されているとはいうことはできない。 前記のとおり、本件ポスターは本件アプリの広告をするものではないので、本件アプリの出所識別機能を果たすことはなく、また、原告の氏名及び原告25医院の名称は、本件記事において、遠隔診療を導入している医療機関の一例として取り上げられているにすぎず、本件写真も遠隔診療についての具体的なイメージを抱かせるために使用されているにすぎない。 したがって、本件ポスターにおける原告の肖像等は、本件アプリの出所を表示するものとして使用されているということはできないので、不正競争防止法2条1項1号にいう「使用」には当たらない。 (3)「CLINICSbyMEDLEY」との表示が本件アプリを示すとしても、同表示を見れば、本件アプリの提供主体が被告であることは明らかであるから、需要者がその出所について混同するとは考えられない。 また、本件ポスターには原告が本件アプリを導入し、又はその開発に関与していることをうかがわせる記載は存在しないのであるから、需要者が、本10件アプリについて原告と被告とが緊密な営業上の関係があることや同一のサービス事業を営むグループに属する関係があると誤信するとは考え難い。 4 争点4(損害等の有無)について 〔原告の主張〕 (1)原告が被告の不法行為(主位的にパブリシティ権侵害、予備的に肖像権侵15害)により被った精神的損害及び原告が本来被告に対して請求することができる顧客吸引力を有する肖像等の利用料相当額の損害は、合計300万円を下らない。 (2)被告が上記の不正競争行為により得た利益額は300万円を下らないので、不競法5条2項に基づき、原告は、被告に対し、同額の損害賠償請求をすることができる。 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)25(パブリシティ権侵害の有無)について (1)人の氏名、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利はパブリシティ権として、人格権に由来する権利の一内容を構成するものと解される。そして、他人の肖像等を無断で使用する行為は、@肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、A商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、B肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる(平成21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁)。 (2)原告は、原告の氏名、原告医院の名称又は原告の肖像は顧客吸引力を有するので、これを排他的に利用することのできるパブリシティ権を有すると主張する。 しかし、原告がその根拠として挙げる証拠(甲2の1の1頁目、甲2の2、甲8の1〜6。なお、甲2の1の1頁目の記事は本件ポスターに掲載されている記事と同一)は、原告及び原告医院が遠隔医療に積極的に取り組んでいることや原告及び原告医院の診療上の工夫等について紹介する記事にすぎず、他にも遠隔医療サービスを提供する医師や医療機関が存在するとの事実も認められること(乙2の1・4〜6・9・14〜17)も考慮すると、原告の氏名、原告医院の名称又は原告の肖像が、需要者である医療機関向けの商品やサービスの販売等を促進する顧客吸引力を有すると認めることはできない。 (3)したがって、原告の氏名、原告医院の名称又は原告の肖像が顧客吸引力を有すると認めることはできないので、原告のパブリシティ権侵害に基づく請求は理由がない。 2 争点(2)(肖像権侵害の有無)について (1)原告は、本件ポスターは原告の肖像の写った本件写真を無断で掲載したものであり、原告の肖像権を侵害すると主張するところ、このように他人の肖像を撮影した写真を多くの人の目に触れる場所に貼付するポスター等に掲載することが当該他人の肖像権の侵害に当たるかどうかは、その経緯、使用目的、使用態様、原告の受ける不利益の程度等を総合考慮して、その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるか否かに基づいて判断することが相当である。 (2)これを本件についてみると、本件ポスターは、日本経済新聞の記事をその発行元の承諾を得て、出典を明記して転載したものであり、本件記事を掲載した結果、同記事に掲載されていた本件写真が本件ポスターに掲載されることになったものであると認められる。 本件ポスターは、その記載に照らすと、遠隔診療の利便性を強調し、患者等に遠隔診療の利用を推奨することを目的とするものであると認められ、被告が本件ポスターに本件記事を掲載した理由は、遠隔診療の現状、利便性、遠隔診療の実際の流れや受診方法、遠隔診療に適する疾患、今後の課題などについて患者等に情報を提供し、その理解を得るためであると認めるのが相当である。 また、本件ポスターにおける本件写真の掲載態様は、前記のとおり、本件記事をそのまま転載しているにすぎず、本件記事に掲載された本件写真の大きさを改変したり、本件記事中の原告又は原告医院に関する記載内容に変更を加えているものではない。 さらに、原告が本件記事の掲載については事前に承諾していることからすると、本件ポスターに掲載された本件記事の内容自体は原告の意に反するものではなく、その内容を見ても、原告及び原告医院が遠隔診療に積極的に取り組んでいることを紹介するものであり、原告又は原告医院に不利益を及ぼす内容は含まれていない。 以上のとおり、本件写真が本件ポスターに掲載されるに至った経緯、掲載の目的、態様、原告の受ける不利益の程度等を考慮すると、本件写真の掲載による原告の人格的利益が侵害される程度が社会生活上の受忍限度を超えるということはできない。 (3)したがって、原告の肖像権侵害に基づく請求は理由がない。 3 争点(3)(不競法上の請求権の有無)について 原告は、本件ポスターにおける原告の氏名、原告医院の名称又は原告の肖像の使用が不競法2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張する。 (1)前記判示のとおり、原告が周知性の根拠として挙げる証拠(甲2の1の1頁目、甲2の2、甲8の1〜6)は、原告及び原告医院が遠隔医療に積極的に取り組んでいることや原告及び原告医院の診療上の工夫等について紹介する記事にすぎず、これらの証拠を総合しても、原告の氏名、原告医院の名称又は原告の肖像が、本件ポスターの制作、配布当時、原告の営業(遠隔診療サービス)を表示するものとして需要者である医療機関の間で周知であったということはできない。 (2)また、不競法2条1項1号の不正競争行為に当たるというためには、他人の商品等表示が商品等の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たすものとして使用されていることを要するところ、前記のとおり、本件ポスターにおける原告の氏名、原告医院の名称は、原告や原告医院が遠隔診療サービスを行っていることを説明、紹介する中で言及されており、また、原告の肖像は、原告又は原告医院の行う遠隔診療の具体的イメージを明らかにするために掲載されているものであって、被告製品である本件アプリの出所を表示するものとして記載又は掲載されているものではない。 そうすると、本件ポスターにおける原告の氏名、原告医院の名称及び原告の肖像の記載又は掲載行為は、不競法2条1項1号の「使用」に当たらない。 (3)さらに、本件ポスターには本件アプリの説明や広告に関する記載は存在しないが、仮に、本件ポスターの最下部の「CLINICSbyMEDLEY」との記載が本件アプリの宣伝、広告に当たるとしても、同記載によれば、本件アプリの提供主体が被告であることは明らかであり、また、本件アプリについて原告と被告とが緊密な営業上の関係があり、同一のサービス事業を営むグループに属する関係があると誤信させるような事情も存在しない。 そうすると、本件ポスターにおける原告の氏名、原告医院の名称及び原告の肖像の記載又は掲載行為により、本件アプリの提供主体が原告であると需要者が混同するおそれがあるということもできない。 (4)したがって、原告の不競法に基づく請求は理由がない。 4 結論 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 遠山敦士 裁判官 今野智紀 別紙1 謝罪文書 私たち株式会社メドレーは、以前配布した当社の提供するスマホ通院アプリ「CLINICS」のポスターにおいて、B内科院長のA医師に全く確認を取らずに勝手に顔写真等を掲載しておりました。本件に関してA医師からご指摘がなされ、A医師の主張が裁判において認められましたので、ここに真摯に謝罪致します。また遠隔診療は対面診療と適切な組み合わせのもと行われるべきものであるにもかかわらず、営業時には遠隔診療を行うと患者さんが増える、売上アップになるなど不適切かつ過度の営業表現があったことを配布先医療機関からのご指摘があったとも伺っております。以上から、A医師が当社の提供するサービスに関与していると誤認して当社のサービスを契約してしまったという方がいらっしゃいましたら、即刻解約に応じるなど、真摯な対応を行います。 (別紙2の添付省略) |
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