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【事件名】営業チラシの著作物性事件 【年月日】平成31年1月24日 大阪地裁 平成29年(ワ)第6322号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成30年11月22日) 判決 原告 SNY株式会社 同訴訟代理人弁護士 明石法彦 同 玉井秀樹 同 藤村慎也 被告 有限会社ローテックジャパン 同 訴訟代理人弁護士 村川昌弘 同 村川真理 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、920万4092円並びにうち370万4092円に対する平成29年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち550万円に対する同日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が、被告に対し、@著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の不法行為及び違法な従業員の引抜きに係る不法行為に基づく各損害の賠償並びにこれらに対する不法行為の後である平成29年8月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、A競業避止義務違反の債務不履行若しくは不法行為又は違法な競業行為に係る不法行為に基づく損害の一部550万円の賠償及びこれに対する請求(訴状送達)の日の翌日である平成29年8月18日から支払済みまで商事法定利率である年6分(不法行為に基づく損害賠償請求については、不法行為の後である同日から支払済みまで民法所定の年5分)の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 なお、原告は当初、本件を別件訴訟(当庁平成28年(ワ)第10854号営業行為差止等請求事件)における反訴として提起したが、その後、当該反訴を別訴として取り扱うことを希望したため、これを独立の訴えとして取り扱うこととした。そして、その後、本件の口頭弁論から顧客情報等の不正取得に関する損害賠償請求についての口頭弁論を分離した。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、本判決における書証の掲記は、枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。) (1)当事者等 ア 原告は、高度管理医療機器の販売、医薬品及び医薬部外品の販売等を目的とする会社であり、「コンタクトレンズギャラリー」又は「スマートコンタクト」という屋号でコンタクトレンズ販売店を経営している。 イ P1は、平成27年1月27日、原告の取締役及び代表取締役に就任したほか、平成25年10月14日、被告の取締役に就任した。もっとも、平成28年1月8日、P1が被告の取締役を解任された旨の登記がされた。 ウ 被告は、不動産の売買、賃貸及び管理、高度管理医療機器の販売、医薬品及び医薬部外品の販売等を目的とする会社であり、「スマイルコンタクト」という屋号でコンタクトレンズ販売店を経営している。 エ P2は医師であり、平成25年10月14日、被告の取締役及び代表取締役に就任したが、平成28年1月8日、その代表取締役を辞任した。また、P2は、医療法人山樹会の理事長を務めている。 オ 被告の代表者は、P2の姉であり、平成28年1月8日、被告の取締役及び代表取締役に就任した。 (2)旧大阪駅前店が開店されるまでの事実関係 ア P1は、昭和60年頃から、コンタクトレンズ販売業を営む原告とは別の会社を経営しており、その会社は、平成12年、大阪市(以下略)で、「コンタクトレンズギャラリー上新庄店」(以下「原告の上新庄店」という。)を開店した。原告の上新庄店には、P1が経営する会社が運営する眼科が併設されていた(甲28)。 イ P1は、平成16年、P2と知り合い、その後、原告の上新庄店に併設される眼科として、医療法人山樹会が「P2眼科」を開業し、P2がそこで眼科医として診察するようになった(甲28、乙30)。 ウ その後、P1が経営する上記会社(平成20年11月25日に原告が設立された後は原告)(原告の上新庄店)と医療法人山樹会(P2眼科)は、業務提携に係る契約を締結し、原告の上新庄店にコンタクトレンズを買いに来た客には、まずP2眼科で受診してもらい、原告の上新庄店では、眼科医であるP2が作成した指示書に基づいてコンタクトレンズを販売していた(甲28、乙30)。 エ P2は、平成25年までには、コンタクトレンズ販売店を営もうと考え、そのことをP1に話し、P1がその店舗を開店するための賃借物件を探してくるなどした。そして、同年11月頃、大阪駅前第1ビルの地下2階にコンタクトレンズ販売店である「スマートコンタクト大阪駅前店」(以下「旧大阪駅前店」という。)が開店され、被告は原告に対し、その運営を委託した(ただし、原告と被告との間の契約の内容等については、当事者間で争われている。)。旧大阪駅前店は、それまでのコンタクトレンズ店と異なり、眼科を併設せず、眼科の検査なしでコンタクトレンズが買えるというビジネスモデルを採用した。そして、原告は、旧大阪駅前店を運営するに当たり、従業員との間で自ら雇用契約を締結した(甲28、30、乙30、31)。 (3)旧大阪駅前店が開店され、閉店されるまでの事実関係 ア 告は、平成26年2月、「スマートコンタクト堺東店」(以下「旧東店」という。)の運営も原告に委託したほか、同年9月には、「スマートコンタクト心斎橋店」の運営も原告に委託した。いずれの店舗も眼科を併設しておらず、また原告が各店舗の従業員との間で自ら雇用契約を締結した(甲30、乙31)。 イ 平成28年1月8日、P1が被告の取締役を解任された旨の登記がされるとともに、P2は被告の代表取締役を辞任し、P3が被告の代表取締役に就任した。 ウ 原告の上新庄店とP2眼科との業務提携に係る契約(前記(2)ウ)は、平成28年5月又は6月で終了した。その後も原告の上新庄店は営業を続けていたが、被告が同年7月又は8月頃から、その隣(原告の上新庄店とP2眼科との間。甲13の添付資料2参照)にコンタクトレンズ販売店である「スマイルコンタクト上新庄店」(以下「被告の上新庄店」という。)を開店し、その後、被告(被告の上新庄店)と医療法人山樹会(P2眼科)とは提携関係にあった(甲13、乙29)。 エ 原告は被告に対し、平成28年4月1日付けで、旧大阪駅前店、旧堺東店及び心斎橋店の運営委託に係る契約を解除するとの意思表示をし、他方で、被告は原告に対し、同年6月7日付けで、その契約を解除するとの意思表示をした(甲30、乙30) オ 原告は、平成28年10月2日までには、旧大阪駅前店及び旧堺東店の運営を終了し、同日、被告に対し、各店舗の物件を明け渡した。なお、心斎橋店については、その後も原告が運営を継続した(乙30)。 (4)旧大阪駅前店閉店の後の経過 ア 被告は、平成28年10月6日、旧大阪駅前店と同じ場所(大阪駅前第1ビルの地下2階)で、コンタクトレンズ販売店である「スマイルコンタクト大阪駅前店」(以下「スマイル大阪駅前店」という。)を開店したほか、旧堺東店と同じ場所で、コンタクトレンズ販売店である「スマイルコンタクト堺東店」(以下「スマイル堺東店」という。)を開店した。他方で、原告と契約関係にある別の会社が、大阪駅前第2ビルの地下2階で、コンタクトレンズ販売店である「スマートコンタクト大阪駅前店」を開店した(甲1、3、15、30、乙30、P2証言)。 イ 被告は、スマイル大阪駅前店の販売宣伝のために、別紙「対比表bP」ないし「対比表bS」の右側の内容のチラシ(甲3。同bPと2が表面、同bRと4が裏面である。以下「被告チラシ」という。)を作成し、配布した。 なお、旧大阪駅前店でもその販売宣伝のためにチラシが作成・配布されていたところ、その内容は別紙「著作物目録」のチラシ(甲2。同別紙の1枚目が表面、2枚目が裏面である。ただし、その著作物性については、当事者間で争われている。以下「本件チラシ」という。)のとおりであり、これは当初、株式会社ジョブポート(以下「ジョブポート」という。)に注文して作成され、平成27年12月以降は、ジョブポートから独立したP4が経営する株式会社アルテ(以下「アルテ」という。)に注文して作成されていた(乙11)。 3 争点 (1)著作権・著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求関係 ア 本件チラシの著作物性(争点1−1) イ 本件チラシに係る著作権・著作者人格権の帰属(争点1−2) ウ 著作権・著作者人格権侵害の不法行為の成否(争点1−3) エ 被告の著作権・著作者人格権侵害による原告の損害(争点1−4) (2)違法な従業員の引抜きに係る不法行為に基づく損害賠償請求関係 ア 従業員の引抜きによる不法行為の成否(争点2−1) イ 被告の引抜行為による原告の損害(争点2−2) (3)競業避止義務違反又は違法な競業行為を理由とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求関係 ア 被告は競業避止義務を負い、これに違反し、又は違法な競業行為をしたか(争点3−1) イ 被告の競業避止義務違反又は違法な競業行為による原告の損害(争点3−2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1(本件チラシの著作物性)について (原告の主張) (1)本件チラシは、次の3箇所それぞれが創作性を有する表現であるため、それぞれに著作物性が認められるべきである。 ア 「検査時間受診代金[注:各文言の上に『×』の記号あり]」や「検査なしスグ買える!」という宣伝文句は、旧大阪駅前店のキャッチフレーズである。P2も自認しているとおり、提携眼科を設けないでコンタクトレンズ販売店をオープンさせるというのは、かなり思い切った試みであったから、上記の各キャッチフレーズは、コンタクトレンズ販売店が用いるありふれた表現などではなく、むしろ先進的な表現であったといえる。 イ 「コンタクトレンズの買い方比較」という表は、比較する競合店の対象を、他の販売店やインターネット販売店として抽出し、さらに、比較項目を、商品代金、待ち時間、受診代、送料、受取までの期間として抽出したものである。これら抽出した競合店の種類や比較項目は、消費者が何に着目してコンタクトレンズを購入しているのかという、行動心理を読み取って抽出したものであり、これらを比較する場合、表にしなくとも、文章で伝えるなどの表現方法はいくらでも存在する。そして、「検査なしでスグ買える」という、旧大阪駅前店のキャッチフレーズを、チラシをとった消費者に視覚的にアピールしやすいように表形式にしているものである。 ウ さらに、「なぜ検査なしで購入できるの?」という箇所で、検査なしでコンタクトレンズを購入できる理由を書いた説明文言を記載している。この説明文言は、コンタクトレンズが高度管理医療機器に該当するため、一見購入には処方箋が必要と思われがちであるが、法的には必要とされない旨を記載したものである。つまり、「検査なしでスグ買える」という、旧大阪駅前店のキャッチフレーズの適法性を支える要素となっているものである。 (2)仮に上記(1)の3箇所が創作性を有するとは認められないとしても、上記3箇所の組合せ、又は上記3箇所に視力検査をしている人のイラストを組み合わせた箇所は、各構成要素の組合せにより、「検査なしでスグ買える」という旧大阪駅前店のキャッチフレーズを創作的に表現したものであり、著作物性が認められるべきである。 (3)被告は本件チラシの著作物性を争っているが、本件チラシの表現は、旧大阪駅前店の優位性をチラシを手に取った消費者に対して視覚的に分かりやすくアピールし、消費者が一目で理解できるように工夫している。被告が証拠提出する他のコンタクトレンズ販売店のチラシをみても、他のコンタクトレンズ販売店との比較を視覚的に分かりやすく表現したチラシや、その場ですぐ買えるというコンセプトをうたったチラシは見当たらない。 本件チラシは、原告がそれまでコンタクトレンズ販売業で培ってきたコンタクトレンズ販売のノウハウに基づき創意工夫して作成されたものであり、その思想又は感情が創作的に表現されたものといえるから、著作物に該当する。 (被告の主張) (1)原告の主張は否認し、争う。 (2)コンタクトレンズ販売店のチラシというものが概ね本件チラシと同様のものであることからも明らかなとおり、本件チラシは創作性が欠け、著作物性が認められない。すなわち、@いわゆるクーポン券の添付はごくありふれた表現であること、Aクーポン券や商品の配置は表現形式が制約されている表現と言わざるを得ないこと、Bコンタクトレンズの買い方比較表の作成や「検査時間受診代金」の文言に×印を付するアイデアなどの他店への優位性をアピールする表現もまた、アイデアと一体となった表現あるいは表現形式が制約されている表現と言わざるを得ないか、誰もが表現するようなありふれた表現であることからして、本件チラシには創作性が欠けるというほかない。なお、他のコンタクトレンズ販売店との比較を視覚的に分かりやすく表現することや、その場ですぐ買えるというコンセプトを謳うということは、検査なしですぐコンタクトレンズを買えるという販売システムについてのアイデアにすぎず、表現の創作性とは関係がない。 また、検査なしでコンタクトレンズを購入できる理由を記載した説明文書は、客観的な事実を説明しているものであるから、何ら思想や感情を表現したものではなく、またその表現に創作性が発揮される余地もない。 2 争点1−2(本件チラシに係る著作権・著作者人格権の帰属)について (原告の主張) (1)本件チラシは、@原告がその作成を企画、構想したものであること(=法人の発意)、A原告の従業員であったP5が職務上作成したものであること、B原告がその屋号の一つである「スマートコンタクト」の名義を付して公表していること、C作成時における原告の就業規則等に別段の定めはないことから、職務著作に該当する。 (2)原告においては、旧大阪駅前店が開店する平成25年11月より前から、原告の指示の下、P5が旧大阪駅前店のチラシの作成を開始し、その後も、試行錯誤を繰り返してその改訂を積み重ねていった。そして、旧大阪駅前店の開店から約1年後、本件チラシの原版ともいうべき原稿が完成し、その後、原稿のデザインを維持しつつ、その時々に応じた掲載商品や商品価格等の変更を繰り返していった。 本件チラシをPCで加工したのはジョブポートの従業員であったP4であるが、P5がした詳細な指示に基づき加工したにすぎず、P5が加工データを受け取った後、P4に更に指示をして修正させるといった手順でチラシの作成を進めていった。この過程で、P4からチラシの内容や文言等についての助言や提案は一切なく、文字のフォントや位置の修正等の形式的かつ軽微な点について助言があったにすぎない。これに反する被告の下記主張は否認し、争う。 (3)被告は本件チラシの著作権が被告又はジョブポートに帰属していたなどと主張しているが、否認し、争う。ジョブポートに対して広告物の印刷等を発注していたのは原告であるし、被告とジョブポートとの間の契約書なるものは本件チラシの著作権の帰属に何ら影響を与えない。 (4)したがって、本件チラシの著作権・著作者人格権は原告に帰属する。 (被告の主張) (1)コンタクトレンズの買い方比較表の作成や「検査時間受診代金」の文言に×印を付するアイデアなど、他店への優位性をアピールすることを考えたのはP2であり、P5ではない。また、P5が被告からの受託者である原告の従業員としてジョブポートのP4に対してチラシの記載内容を伝えたことはあったが、チラシのデザインをしたのはP4である。 したがって、仮に本件チラシに著作物性が認められるのであれば、P2(及びP4)が著作者であるから、原告に著作権が帰属することはない。 (2)原告は本件チラシに「スマートコンタクト」の名義が付されていることを指摘しているが、「スマートコンタクト」というのは、被告が原告に業務を委託する際に、被告のコンタクトレンズ販売店のために考えられた屋号であって、そもそも原告の屋号ではないし、原告と被告の間で、「スマートコンタクト」の屋号を原告に帰属させるという合意をしたこともないから、「自己の著作の名義の下に公表するもの」(著作権法15条1項)ではない。 (3)仮に、P5が本件チラシを作成したと認定されることがあったとしても、本件チラシ作成の経緯等からして、原告と被告の間では、本件チラシの著作権は、被告又はジョブポートに帰属するとの明示又は黙示の合意があった。 また、被告が旧大阪駅前店の広告物等のデザインをジョブポートに依頼した際、広告掲示物デザイン及び製作契約書(乙7)を作成し、ジョブポートに依頼した広告物の著作権は、ジョブポートに帰属することを合意した。そして、その経緯等からして、P5、原告、被告のいずれにとっても、本件チラシが被告のために作成され、今後、被告がコンタクトレンズ販売業を行う限り使用していくことが当然の前提となっていたものであるから、本件チラシの著作権は被告又はジョブポートに帰属するというのが当事者の合理的意思である。 (4)原告のその余の主張は否認し、争う。 3 争点1−3(著作権・著作者人格権侵害の不法行為の成否)について (原告の主張) (1)被告が作成している被告チラシの1枚目の左側では、本件チラシの表、宣伝文句等が利用されており、本件チラシのいわばデッドコピーともいうべき形態で有形的に再製している(別紙「対比表bP」)。また、本件チラシにおける各商品の配列等も、ほとんど同一の形で有形的に再製している(同bQないし4)。したがって、被告チラシの内容は、本件チラシの内容と同一ないし極めて類似しており、本件チラシにおける表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させるものである。 (2)被告チラシが本件チラシに依拠したものであることは、これらが同一ないし極めて類似した内容であることから明らかである。 また、平成28年10月頃、原告が本件チラシの元となったデータの加工を依頼していたアルテから原告に対し、今後は原告のチラシの加工を引き受けることはできないとの連絡があり、それ以後、同社による原告のチラシの加工は行われなくなった。アルテは、P2から今後原告のチラシの加工を行わないよう指示があったことから、原告との取引を打ち切ったものと考えられる。そして、被告は、原告から本件チラシの元となったデータを受領していたアルテを通じて当該データを入手し、原告の許諾を得ることなく利用しているものと考えられる。 (3)また、被告チラシにおいては、著作者たる原告の氏名が表示されていない。 (4)被告チラシは本件チラシに依拠して作成されたものであるから、被告には著作権・著作者人格権侵害につき故意があるし、少なくとも過失がある。 (5)したがって、被告は原告の有する本件チラシの著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したから、不法行為が成立する。 (被告の主張) 原告の主張のうち、被告が作成している被告チラシと本件チラシの1枚目の左側の記載内容が本件チラシとほぼ同じであること、各商品の配列等もほぼ同内容であることは認め、その余の主張は不知又は否認し、争う。本件チラシに著作物性が認められるのであれば、その著作者はP2であるから、上記のことは当然のことである。 4 争点1−4(被告の著作権・著作者人格権侵害による原告の損害)について (原告の主張) (1)利用料相当額(著作権法114条3項) チラシのライセンス料は、1枚当たり30円を下回らない。そして、被告は、平成28年10月以降、スマイル大阪駅前店に限ってみても、被告チラシを1か月当たり約6000枚配布していると考えられる。 以上から、被告は、スマイル大阪駅前店に限ってみても、同月以降、平成29年6月末時点まで、被告チラシを少なくとも5万4000枚配布していることになるから、原告が本件チラシの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、30円×5万4000枚=162万円である。 (2)弁護士費用 被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、上記(1)の金額の1割に当たる16万2000円を下回らない。 (被告の主張) 被告チラシを配布していることは認めるが、原告のその余の主張は否認し、争う。被告が配布している被告チラシの枚数は、せいぜい1か月当たり1670枚程度である。 5 争点2−1(従業員の引抜きによる不法行為の成否)について (原告の主張) (1)P6は、平成18年3月からP1が経営していた別会社に勤務し、その後原告にて勤務していた従業員であり、各店舗のスタッフからすると「上司」にあたる人物であり、原告の各店舗のシフト管理もP6に委ねられていた。 ところが、P6は、原告と被告がコンタクトレンズ販売店の経営を巡って紛争状態にあった最中、平成28年9月20日付けで、「実家の岡山に帰る」旨虚偽の説明をして原告を退職し、秘密保持誓約書も提出せず、その後被告において勤務するに至った。 P6の退職を契機に、原告においては、同月30日付けで従業員5名(別紙「原告従業員退職一覧表」記載のP7、P8、P9、P10及びP11が一斉に退職し(他に、同別紙記載のP12及びP13も同日に退職した。)、その後も平成29年2月までに、5名(同別紙記載のP14、P15、P16、P17及びP18)が立て続けに退職した。これらの従業員の中には被告に移籍する旨明言していた者もいるし、そうでない者も被告に勤務していると思われる。 平成28年8月当時、原告の各店舗の従業員構成は、天王寺店が合計5名(社員3名、アルバイト2名)、京橋店が合計4名(社員3名、アルバイト1名)、心斎橋店が合計3名(社員2名、アルバイト1名)であったから、これらの店舗に限ったとしても大量の従業員が被告に移籍した。 また、P6は、上記従業員以外の原告の従業員に対しても、原告から被告に移籍するよう勧誘を行っていたほか、原告の元従業員で被告に移籍したP15も、他の従業員に被告に移籍するよう勧誘していた。 (2)上記経緯等に照らせば、上記従業員が真に任意で原告を退職したのではなく、被告が、被告の意を受けたP6ら従業員をして、上記従業員を不当に引き抜いたものというほかない。 また、引抜行為の態様についてみても、原告の従業員の多数が立て続けに引き抜かれており、その態様は極めて悪質である。コンタクトレンズ販売業の「素人」であった被告が、今やコンタクトレンズ販売店を複数店舗経営することができるようになったのは、原告においてコンタクトレンズ販売業のノウハウ(顧客獲得のための販売戦略や広告戦略、在庫管理や従業員管理等のノウハウ)を習得した従業員を大量に引き抜き、そのノウハウを不当に利用しているからにほかならない。被告の引抜行為は、原告からコンタクトレンズ販売業のノウハウを不当に侵奪することを目的とした極めて悪質な行為であるといわざるを得ない。 以上から、被告の引抜行為は、原告の従業員に対して自社に転職するように勧誘するに当たって、社会的相当性を逸脱した方法で行われたものであり、被告には故意又は過失があることは明らかであるから、原告の営業ないし原告の上記従業員との雇用契約上の債権を侵害するものとして不法行為に該当する。 (3)被告の下記主張は否認し、争う。短期間に大量の従業員が一斉に退職したことや、P6が原告に対して虚偽の説明をして被告に移籍したこと、他の従業員も退職理由について虚偽の説明をしたこと、当初、従業員をP2の意のままに動かせる派遣会社に派遣登録させ、同社を隠れ蓑に使っていたことなどからして、被告による引抜行為が行われたことは明らかである。 (被告の主張) (1)P6やP7ら(P16を除く。)が原告を退職したこと、P6やP7ら(P16を除く。)が被告で勤務するようになったこと、P15が原告の従業員に対して被告に雇用される際の条件等を話したことがあることは認め、原告のその余の主張は不知又は否認し、争う。 (2)被告がP6らに対して原告を退職するよう働きかけたり、原告の従業員を引き抜くように指示したりしたことは一切ない。 また、P7、P8、P9、P10及びP11は、引き続き同じ店舗で働くことを希望し、原告を自主退職したものと聞いている。P14、P15、P17及びP18は、原告が社会保険料の標準報酬月額を偽っていたことや、P6に対して退職後速やかに退職金を支払わなかった事実等を知り、原告に対する不信感を持ち、原告を自主退職するに至ったと聞いている。さらに、P12及びP13も、同人らからの申入れがあり、被告で勤務するに至ったのである。 以上のように、上記従業員が原告を退職したのは、その自由意思によるものである。そもそも、被告は従業員の引抜きを行う必要がなく、被告代表者は原告の従業員に個別に連絡をとることさえ不可能であった。 なお、P15は、原告の従業員から聞かれたから、被告に雇用される際の条件等を話したにすぎない。 以上より、被告に不法行為が成立する余地は全くない。 6 争点2−2(被告の引抜行為による原告の損害)について (原告の主張) (1)従業員の求人募集費用及び外部委託費 原告においては、被告の引抜行為により、各店舗で販売活動等を行うスタッフに不足が生じたため、各店舗の売上げが売上目標に到達しなかった。そのため、売上目標を達成するために、不足した販売活動を補うべく、原告において新たに従業員を雇用せざるを得なかった。そのために要した従業員の求人募集費用は、平成28年9月から平成29年2月までで合計78万8616円であった。 また、原告においては、外部委託費も増加させざるを得なくなったほか、新たに雇用した従業員の人件費がかかることとなった。これらの費用から、被告の引抜行為により被告に移籍した従業員の給与を控除した額は、心斎橋店についていえば、合計95万8741円である。 したがって、原告は、被告の引抜行為により少なくとも同額の損害を被ったことになる。 (2)弁護士費用 被告の引抜行為と相当因果関係のある弁護士費用は、上記(1)の合計額の1割に当たる17万4735円を下回らない。 (被告の主張) 原告の主張は否認し、争う。 7 争点3−1(被告は競業避止義務を負い、これに違反し、又は違法な競業行為をしたか)について (原告の主張) (1)原告と被告は、原告の屋号である「スマートコンタクト」を用いてコンタクトレンズ販売を行う旨のフランチャイズ契約を締結した(平成26年12月頃、覚書(甲12)を作成した。)。被告は、同契約に基づくフランチャイジーの義務として、フランチャイザーである原告に対し競業避止義務を負い、原告との間で不当な競争行為を行ってはならない義務を負っていた。 しかし、平成28年8月6日、被告は上記義務に違反し、原告の上新庄店の隣に被告の上新庄店をオープンした。 その後、被告は、原告の上新庄店があるビル4階の共用部に被告の指揮監督下にある者を配置し、原告の店舗への来店客が、「スマイル(コンタクト)または眼科に行かなければならないのですか」などと質問したのに対し、「眼科が運営しているコンタクトレンズ屋さんができまして」などと述べて(甲13、17)、被告の上新庄店に執拗に誘導しようとしていたほか、あたかもコンタクトレンズを購入するために眼科に行かなければならないかのような虚偽の説明を行って被告の上新庄店に顧客を不当に誘導しようとしていた。また、被告の上新庄店を運営しているのは被告であって、「眼科」ではなく、被告は誘導員にその運営主体について虚偽の説明を行わせており、これは眼科に対する一般消費者の信用・信頼を利用した優良誤認表示(不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)5条1号)にも該当するものである。 そして、被告は、これらの行為を、少なくとも平成28年8月以降、長期間に亘って継続的に行っていた。 (2)このように、原告が経営するコンタクトレンズ販売店の隣にコンタクトレンズ販売店を出店した上、原告のコンタクトレンズ販売店に入店しようとする顧客に対し、長期間に亘って、執拗に被告のコンタクトレンズ販売店に誘導するほか、虚偽の説明を行って不当に誘導する行為(競業行為)は、原告に対する競業避止義務に違反するものであり、被告には帰責性又は故意若しくは過失があるから、債務不履行又は不法行為に該当する。 また、上記競業行為は、原告の営業を不当に妨害するものであり、顧客に対する勧誘方法として自由競争を逸脱した行為であるところ、被告には故意又は過失があるから、競業避止義務の有無如何にかかわらず、原告に対する不法行為に該当する。 (被告の主張) (1)原告の主張のうち、原告の上新庄店の隣に被告の上新庄店をオープンしたこと、甲13に記載され、甲17に撮影されている誘導員が派遣会社から被告に派遣された者であることは認め、その余は否認し、争う。 (2)P2は覚書(甲12)に押印していないし、これはP1がコンタクトレンズメーカーに、フランチャイズ契約があると見せかけるためだけに作成したもので、原告と被告との間の真の合意内容が示されたものではなく、原告と被告が締結していたのは業務委託契約である。そもそも、上記覚書には被告の競業避止義務を定める規定自体が存在していない。したがって、被告は原告との間で競業避止義務の合意をしていない。 また、被告が被告の上新庄店をオープンしたのは、原告の上新庄店との提携関係解消後も、P2眼科ではコンタクトレンズ外来の患者の割合が多く、その診察を続けていくために必要であったからである。 (3)仮に甲13の内容を前提としても、誘導員は被告の上新庄店の来訪を勧めているのみであり、「コンタクトレンズギャラリーに行きます。」と言う客に対して、それ以上何らの働きかけを行っていないなど、不当な勧誘行為は行っていない。仮に誘導員が一時的に「眼科が運営しているコンタクトレンズ屋」と説明したとしても、被告の上新庄店は、実際にP2が深く経営に関与し、P2眼科と提携関係にあるから、実態とかい離した説明をしているわけではなく、その説明内容からして、来店客に誤解を与えるものでも、優良誤認表示でもない。 したがって、被告は自由競争を逸脱するような不当な勧誘行為を行っていない。 8 争点3−2(被告の競業避止義務違反又は違法な競業行為による原告の損害)について (原告の主張) (1)得られるはずであった利益 被告による競業行為が始まる前の平成28年3月分から同年7月分までの5か月間の原告の上新庄店の平均粗利益額は、月254万2388円であった。しかし、かかる粗利益は、被告による競業行為が始まった同年8月には約2分の1である約112万円にまで大幅に減少し、平成29年4月分の粗利益は15万3666円にまで落ち込んでいる(甲14)。 平成28年8月を境に粗利益が大幅に減少した原因は、被告による競業行為以外に考えられないから、それまでの平均粗利益月額254万2388円から平成28年8月以降の粗利益(平成29年4月までの9か月の粗利益は合計602万9803円)を差し引いた粗利益が被告の競業行為により原告が被った損害を構成する。 したがって、被告の競業行為により原告が被った損害は少なくとも1685万1689円であり、原告はその一部である500万円の損害賠償を求める。 (2)弁護士費用 被告の競業行為と相当因果関係のある弁護士費用は、上記(1)の請求額の1割に当たる50万円を下回らない。 (被告の主張) 原告の主張は否認し、争う。仮に原告の上新庄店の売上げ等の減少があったとしても、それは被告の上新庄店のオープンによるものである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1−1(本件チラシの著作物性)について (1)本件チラシの内容 ア 本件チラシの内容は別紙「著作物目録」のとおりであり、表面の左側には、「コンタクトレンズの買い方比較」という表題が付された表が掲載されるとともに、その下に「調子良くコンタクトをご使用中の方へ」と記載され、さらにその下に、「検査時間」と「受診代金」という太くて大きな文字の上に「×」を付したものが記載され、その横に、視力検査をしている男の子のイラストが付されている(なお、このイラストはインターネット上のフリーアイコン等を使用したものである(弁論の全趣旨)。下記イの女の子のイラストも同じ。)。そして、これらの下に大きな赤字で「検査なしでスグ買える!!」と記載され、さらにその下には、「なぜ検査なしで購入できるの?」という質問と、それに対する説明が記載されている(その説明内容は、同別紙記載のとおりである。)。 イ また、本件チラシの表面の右側には、「検査なし/スグ買える!」と記載されているところ、このうち「検査なし」、「スグ」という文字が大きく、太く記載されるとともに、それに続いて若干小さく、細い文字で「買」という文字が、さらに小さく、細い文字で「える!」という文字が記載されている。また、「スグ」という部分に黄色の着色がされ、かつこれを女の子のイラストから出された吹き出しの中に記載されることで、「スグ」という文字が強調されている。 そして、その下には、商品の写真や値段等、店舗名と地図が記載・掲載され、一番下に割引クーポンが付されている。 ウ 本件チラシの裏面には、商品の写真を掲げつつ、その下側に商品名や値段等が記載されるとともに、適宜商品の説明やアピールポイント等の記載が付加されている。 (2)本件チラシ中の表現の著作物性 ア 原告は、本件チラシの表現のうち、@「検査時間受診代金[注:各文言の上に『×』の記号あり]」や「検査なしスグ買える!」という宣伝文句(キャッチフレーズ)(上記(1)のア及びイ)、A「コンタクトレンズの買い方比較」という表(同ア)及びB「なぜ検査なしで購入できるの?」という箇所における説明文言(同ア)の3点について、創作性があるとして、本件チラシに著作物性が認められると主張している。 イ しかし、まず上記@は、旧大阪駅前店において採用された眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができるという特徴を表現したのであり、眼科での受診(検査)が不要であると、検査時間や受診代金が不要となり、また検査が不要である結果、コンタクトレンズをすぐ買えることになると認められる。そして、上記@の宣伝文句は、以上のビジネスモデルによる顧客の利便性を消費者に分かりやすく表現しようとしたものと認められるが、不要になる事項を文字(単語)で抽出し、その文字(単語)の上に「×」を付すことはありふれた表現方法であるし、「検査なしスグ買える!」という表現は、眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店のビジネスモデルによる利便性を、文章を若干省略しつつそのまま記載したものにすぎず、そこに個性が現れているということはできない上に、強調したい部分に着色等したり、「!」を付したりするなどして強調することもありふれた表現方法にすぎない。以上より、上記@に創作性があるとは認められない。 また、上記Aはマトリックスの表形式にすることによって、旧大阪駅前店と他の店舗や他の販売方法との違いを分かりやすく表現したものである。確かに、表現方法としては文章で伝えるなどの別の方法が存することは原告主張のとおりであるが、本件チラシは販売宣伝のために作成されたものであるから、その性質上、表現が記載されるスペースは限られ、また見た者が一目で認識、理解し得るような表現をすべきことも求められるから、表現方法の選択の幅はそれほど広いとは認められない。そして、文字で表現しようと思えばできる事項を表形式にまとめることは通常行われる手法であり(例えば、甲5の1枚目の料金表、甲23の1頁目の略歴の表、乙12の表、反訴状と題する書面の15頁の表、反訴状訂正申立書の1ないし2頁の表参照)、表形式で比較するに当たり、縦の欄に旧大阪駅前店と他の店舗や他の販売方法を並べ、横の欄に複数の事項を列記し、マトリックス形式でまとめるというのも、ありふれた手法にすぎない(例えば、甲11、14、乙13及び14の表、反訴状と題する書面の12ないし13頁の表2つ参照)。そしてまた、ここで比較の対象としている事項の選択も、眼科での受診(検査)を不要とし、店舗に来店して購入するという旧大阪駅前店でのビジネスモデルから自ずと導き出されるものばかりである。以上より、上記Aに創作性があるとは認められない。 さらに、上記Bの説明文言は、旧大阪駅前店では眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができる理由を文章で説明したもので、その内容は法規の内容や運用を説明した上で、旧大阪駅前店では、顧客の経済的・時間的な負担の観点から、販売時に処方箋の有無を前提としていないことを説明したものにすぎない。これは上記のビジネスモデルの客観的な背景や方針をそのまま文章で記載したものにすぎず、文章表現自体に特段の工夫があるとはいえない上、その記載方法も相当の文字数を使用して、しかも小さな文字で記載したものにすぎないから、その表現方法に何らかの工夫がみられるわけでもない。以上より、上記Bに創作性があるとは認められない。 以上より、上記@ないしBの各記載について、創作性は認められない。 ウ 以上の点につき原告は、提携眼科を設けないでコンタクトレンズ販売店をオープンさせるというのは、かなり思い切った試みであったとか、検査なしでコンタクトレンズを購入できる理由を書いた説明文言は適法性を支える要素となっているなどと主張しているが、旧大阪駅前店におけるビジネスモデル自体が著作権による保護の対象になるわけではなく、そのビジネスモデルを表現した本件チラシにおける各表現方法自体がありふれたものにすぎないことなどは、上記認定・判示のとおりである。したがって、原告の上記主張によって、上記判断は左右されない。 (3)本件チラシの各表現の組合せによる著作物性 原告は上記(2)の@ないしB等の組合せに著作物性が認められるべきであるとも主張している。 確かに、上記@ないしBは、眼科での受診(検査)を不要とし、コンタクトレンズをすぐ買えるという旧大阪駅前店でのビジネスモデルを強調するために、それが可能な理由等を小さな文字で説明する(上記B)とともに、当該ビジネスモデルによって不要となる事項を文字(単語)で抽出し、その上に「×」を付すなどしてキャッチフレーズを用いたり(上記@)、マトリックスの表形式で他の店舗や他の販売方法と比較したりした(上記A)もので、それらを組み合わせることによって当該ビジネスモデルを強調し、読み手に分かりやすく説明しようとしたものということはできる。しかし、何かを強調し、分かりやすく伝えるために、説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることそれ自体は、特徴的な手法とは認められないから、上記(2)で判示したとおり上記@ないしBの各表現に創作性が認められないことを踏まえると、これらの組合せ自体にも創作性は認められない。 なお、本件チラシでは、さらに視力検査をしている男の子のイラストが組み合わされているが、原告はイラスト自体の著作物性を主張するものではない上、広告宣伝において適宜関連するイラストを配することもありふれた表現方法にすぎないから、このイラストと組み合わせることによって、創作性が基礎付けられるとはいえない。 また、原告は当初、被告チラシの各商品の配列等が本件チラシとほとんど同一であることを主張していた。しかし、本件チラシにおいては商品の写真を掲げつつ、その下側に商品名や値段等を記載し、適宜商品の説明やアピールポイント等を付加しているところ、そのような各商品の配列等は、コンタクトレンズ販売店の広告としてありふれたものであると認められるから(乙1ないし6)、創作性は認められず、原告の上記主張によって本件チラシの著作物性は基礎付けられない。 (4)以上より、本件チラシに著作物性は認められないから、その余の争点について判断するまでもなく、被告の行為に著作権・著作者人格権侵害が成立するとはいえない。したがって、被告の著作権・著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。 2 争点2−1(従業員の引抜きによる不法行為の成否)について (1)前提事実に加え、証拠(甲9、11、13、14、16、20、21、23、28、乙15ないし17、27ないし29、P5証言、P2証言)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア 原告は、平成28年8月ないし9月当時、被告から運営を委託されていた旧大阪駅前店、旧堺東店及び心斎橋店のほか、独自の店舗として、スマートコンタクト天王寺店(以下「天王寺店」という。)並びにコンタクトレンズギャラリー京橋店(以下「京橋店」という。)、上新庄店(原告の上新庄店)、江坂店、草津店及び王寺店を運営していた。 これに対し、被告は、原告に運営を委託していた上記3店舗以外に、同年7月又は8月頃から、被告の上新庄店を運営しており、被告の上新庄店では、従前、P2眼科に勤務していた者が従業員として勤務していた。 イ 平成28年8月当時、原告が運営している次の各店舗の従業員数は、次のとおりであった。ただし、従業員がヘルプとして他の店舗で勤務することもあった。 (ア)旧大阪駅前店合計4名(アルバイトを含む。) (イ)旧堺東店合計3名 (ウ)心斎橋店合計3名(社員2名、アルバイト1名) (エ)天王寺店合計5名(社員3名、アルバイト2名) (オ)京橋店合計4名(社員3名、アルバイト1名) ウ 原告においては、少なくとも平成26年11月から平成28年9月までの間、従業員の給与が増額された場合でも、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)の標準報酬月額の変更手続がとられておらず、その結果、給与から控除して納付すべき保険料が納付されていなかった。 エ P6は、P1が経営していた原告とは別の会社で勤務した後、原告に勤務するようになり、原告の従業員の中では最も古くから勤務している従業員であった。そして、P6は、平成28年8月ないし9月当時、天王寺店の店長を務め、各店舗のシフト管理も担っていた。ところが、P6は、同年9月20日付けで原告を退職し、原告を退職する際には、しばらくはゆっくりしたい旨述べていた。なお、P6は、原告が作成を求めた秘密保持の確認や秘密の帰属、退職後の秘密保持の誓約、競業避止義務の確認等が記載された「秘密保持に関する誓約書(退職時)」(甲9)に署名押印しなかった。 オ P6は、その後、P2が平成28年末まで株主(オーナー)となっていたジョブポートに派遣登録し、そこから派遣される形で、被告の本社事務所で事務職に就いていたが、平成29年5月に被告での勤務を辞めた。 カ 原告は、被告から旧大阪駅前店及び旧堺東店の店舗の物件の明渡しを求める仮処分を申し立てられていたところ、遅くとも平成28年8月までには、旧大阪駅前店及び旧堺東店の運営を終了し、各店舗の物件を被告に明け渡すことにした。そして、各店舗の従業員には、P5を通じて店舗を閉鎖することを伝え、その際にP5は、被告とトラブルになって、被告との提携関係が解消になったため、店舗を閉鎖することを説明するとともに、原告の他の店舗に異動して勤務してほしいという話をした。 その際、旧堺東店のP9らから、P5に対し、店舗閉鎖後、店舗(旧堺東店)はどうなるのかという趣旨の質問があったが、P5は分からない旨回答した。 キ その後、平成28年8月中旬頃、旧堺東店のP9、P10及びP11は、P9が代表してP2と連絡をとった上で、P6を交えてP2と会い、被告が開店する店舗(後に開店されるスマイル堺東店)で勤務することについて話をした。そして、P9及びP10がP2と会って話をしたことをP5に話したところ、P5はそのことをP1に報告し、原告は、P9及びP10に対し、懲戒解雇の意思表示をした。ただし、この懲戒解雇は最終的には撤回され、原告が後にP9及びP10に対して交付した離職票では、離職理由は「自己都合」とされていた。 また、旧大阪駅前店のP7は、旧大阪駅前店の従業員を代表して、P2と連絡をとった上で、P2と、被告が開店する店舗(後に開店されるスマイル大阪駅前店)で勤務することについて話をした。 ク P11は、別紙「原告従業員退職一覧表」記載のとおり、平成28年9月3日、原告に対し、同月30日を退職日とする退職届(甲20)を提出した。また、同別紙記載のとおり、P7、P8、P12、P13、P9及びP10も原告に対し、同日を退職日とする退職届を提出した。 ケ 上記ク記載の者らは、平成28年10月、ジョブポートに派遣登録し、スマイル大阪駅前店又はスマイル堺東店に派遣され、各店舗で勤務するようになった(スマイル大阪駅前店の店長はP7、スマイル堺東店の店長はP9)。 コ P5は、遅くとも平成28年12月上旬までには、原告の従業員に対し、P9及びP10が懲戒解雇されたことを記載したメールを送信した。 サ 原告は、P6が平成28年9月に退職した後も、同人に対して退職金を支払わず、P6は同年12月12日、原告を相手に退職金を請求する訴訟を提起した。なお、原告はその後、P6に対して退職金を支払った。 シ P14、P15、P17及びP18は、別紙「原告従業員退職一覧表」記載のとおり、平成28年10月ないし12月にかけて、原告に対し、後の日を退職日とする退職届(甲16)を提出した。このうちP18は、原告の従業員の中では、P6に次いで、古くから勤務している従業員であった。 なお、原告はP16も原告を退職し、被告で勤務するようになった旨主張しているが、被告はP16が被告で勤務するようになったことを否認しているところ、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。 ス P14、P15、P17及びP18もその後、ジョブポートに派遣登録し、被告の本社(本部)や店舗に派遣され、本社や店舗で勤務するようになった。そして、上記ク記載の者らを含め、平成29年夏頃に派遣されていた者については、その頃、被告が直接雇用するようになった。 セ 被告は、平成29年3月、コンタクトレンズ販売店である「スマイルコンタクト江坂店」を開店した。その開店時の従業員は5名であり、そのうち2名はP9とP18であり、その余(3名)は「とらばーゆ」の求人広告を利用して募集し、採用した。そして、スマイル堺東店に勤務していたP9がその江坂店の店長となった。 ソ 他方で、原告は、従業員に他の店舗で勤務させたり、従業員を新たに採用したりするなどして、心斎橋店、天王寺店及び京橋店等の運営を継続したほか、原告と契約関係にある別の会社が「スマートコンタクト大阪駅前店」を開店した。そして、原告は平成29年12月の時点で、合計7店舗を運営していた。 (2)上記認定事実をもとに原告の主張を検討する。 ア そもそも、従業員には職業選択(転職)の自由があるから、その自由意思によって勤務する会社を選択することが許容されることはいうまでもない。また、事業者には営業の自由があるから、より良い人材を求めて、他社の従業員に対して有利な勤務条件を提示するなどして、勤務している会社を退職して自らの下で勤務するよう勧誘すること自体は何ら違法ではない。したがって、他社の従業員に対する転職の勧誘行為を不法行為上違法と評価し得るためには、それが他社の信用を不当に害する方法によるものであったり、他社の営業に重大な打撃を与えることを目的とするものであったりするなど、社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであることを要すると解するのが相当である。 イ 本件では、別紙「原告従業員退職一覧表」のとおり、原告が運営する複数の店舗の従業員が短期間の間に原告を退職し、その多くが被告において就業するに至っているから、原告において、それらの従業員に対する被告側からの勧誘がされたと疑うことには相応の合理性がある。 ウ しかし、平成28年後半当時の被告代表者であったP3やその前任者であるP2において、自ら原告の従業員に対して被告への勧誘行為をし、又はP6らに対して被告への勧誘をするよう指示するなどしたことを直接的にうかがわせる証拠はない。 エ また、原告は、原告の従業員の退職の経緯に関して甲21及び24を提出し、そこでは、原告の複数の従業員が、P6やP15から被告での勤務の勧誘を受けた旨が記載されているが、甲21及び24によっても、P6やP15は原告の他の従業員に対して被告の店舗での有利な勤務条件を告げて勧誘したにすぎず、それ自体は、自由競争の範囲内にとどまっている。甲24にはP6が複数回にわたって勧誘した旨陳述されているものの、勧誘行為が許容される以上、その回数が複数回に及ぶことも自由競争の範囲内の行為というべきであり、陳述されている事情だけでは、勧誘態様が自由競争の範囲を逸脱するものであったとまで認めることはできない。 オ さらに、P2は、平成28年8月から9月頃にかけて、P6やP7らから、被告で働かせてほしいという申入れを受けるようになったなどと証言しているのに対し、原告は被告の店舗で勤務するようになった者が自分から希望して被告の店舗で勤務するようになったことを否認し、争っている。 しかし、前記認定の同年8月ないし9月頃の経緯に照らせば、少なくとも旧大阪駅前店及び旧堺東店の従業員については、原告による各店舗の運営を終了することとなり、P5は、店舗閉鎖後、店舗はどうなるのかという従業員からの質問に対しても、分からないと回答し、他の店舗への異動を提示するだけであり、原告においてP9らがP2と会って話をしただけで懲戒解雇の処分とした状況であったから、店舗閉鎖に至る経緯やP5の説明内容等に不信感を感じるなどし、又は被告が従前の店舗と同じ場所で開店する店舗での勤務を希望して、その自由意思によって原告を退職し、ジョブポートに派遣登録し、被告の店舗で勤務するようになったことも十分考えられることである。そして、旧大阪駅前店についてはP7が、旧堺東店についてはP9が、代表してP2と連絡をとり、これらの店舗の従業員全員が被告の店舗で勤務するようになったが、当時、被告は、それら店舗の運営委託に係る契約の解消を受けて自らそれら店舗を運営しようとする状況にあり、原告はそれら店舗の運営からは退くという状況にあったから、たとえ被告がそれら店舗の従業員に対して被告の店舗での勤務を勧誘したとしても、勧誘には相応の合理性があるというべきであり、また、それら店舗の従業員全員が被告の店舗で勤務することになったのも、店舗が閉鎖されたという特殊事情が大きく影響したと考えられるのであって、以上の経緯から、被告による違法な勧誘行為があったことや、各従業員の自由意思によるものでなかったことが推認されるとはいえない。 また、心斎橋店及び京橋店のP14、P15及びP18も自らの意思で原告を退職し、被告の店舗で勤務するに至った旨陳述しているところ(乙19ないし21、27)、同人らが原告退職の理由として挙げていること(旧大阪駅前店及び旧堺東店が突然閉店となったこと、原告において社会保険料がしっかりと支払われていなかったこと、旧堺東店の従業員が懲戒解雇されたこと、P6の退職金がなかなか支払われなかったこと、店舗の他の従業員との人間関係等)は、上記認定した事実に限ってみても、その性質上、いずれも従業員の立場から見ると、使用者である原告に対する不信感を抱いてしかるべきものであるから、それらの者に対して被告による違法な勧誘行為があったと推認することはできない。そして、天王寺店のP17については、陳述書が提出されていないものの、同人だけが自らの意思によらずに被告に違法に引き抜かれたというのは不自然である。 そうすると、原告が挙げている各従業員の退職が、被告による違法な勧誘によるものであったと認めることはできない。 カ 原告のその余の主張やP5の証言・陳述について まず、原告は短期間に大量の従業員が一斉に退職したことを指摘しているが、上記オで判示したとおり、平成28年9月30日に退職した従業員7名は旧大阪駅前店及び旧堺東店の従業員であり、これらの店舗についての被告から原告への運営委託が終了したという特殊事情が影響したと認められるから、当然に被告による違法な引抜行為があったことを推認させる事情とはいえない。そして、確かに退職者には、原告に古くから勤務している従業員や店長を務めていた者が含まれていたとはいえ、原告においては、平成28年10月以降も運営が終了された店舗以外の店舗の運営を維持し続けることができており、同月には原告と契約関係にある別の会社が「スマートコンタクト大阪駅前店」を開店し、平成29年12月の時点でも原告の運営する店舗は7店舗あったから、原告が挙げている各従業員の退職による原告へのダメージが著しかったとまで認めることはできない。 また、原告は態様の悪質性を主張しているが、仮に被告が従業員の勧誘に何らか関与していたとしても、後記3(1)で判示するところによれば、被告は原告との関係で競業避止義務を負っているとはいえないから、競業のために従業員を勧誘すること自体は何ら違法ではない。そして、P7らは原告に後の日を退職日とする退職届を提出するなどした上で退職したのであるし、退職時期も旧大阪駅前店及び旧堺東店の従業員を除けば、平成28年12月から平成29年1月にかけて順次退職したのである。そして、旧堺東店のP9らはP5に対し、P2と会って話をしたことを話したのであり、従業員の退職等が秘密裏に計画されて行われたとは認められず、退職の態様が、特別悪質であったこともうかがえない。 さらに、原告は、従業員が退職する際に、退職理由について虚偽の説明をしたなどと主張し、P5はそれに沿う証言をしている。しかし、旧大阪駅前店の従業員は原告が被告とトラブルになって被告との提携関係が解消になったことを説明されていたことや、平成28年12月から平成29年1月にかけて退職した従業員は、先に原告を退職し、被告の店舗で勤務していたP9及びP10が懲戒解雇されたことを伝えられていたことなどから、自発的に真の退職理由を告げることを避けた可能性も否定できず、原告主張の上記事情は、直ちに被告による違法な引抜行為の存在を推認させる事情とはいえない。 加えて、原告は被告がジョブポートを隠れ蓑に使っていたと主張しているが、ジョブポートから被告の本社や店舗に派遣されていたから、隠れ蓑であるとの原告の主張は当たらない。 そして、その他の原告の主張によっても、被告による違法な引抜行為があったことが推認されるとはいえない。 キ 以上より、被告が自ら又は第三者を通じて、P7らに対して社会通念上自由競争の範囲を逸脱した勧誘行為をしたとは認められないから、被告が不法行為責任を負うとはいえない。 (3)以上より、被告による従業員の引抜きを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。 3 争点3−1(被告は競業避止義務を負い、これに違反し、又は違法な競業行為をしたか)について (1)競業避止義務に関する合意の有無について ア 原告は被告が競業避止義務を負う法的根拠について、被告との間でフランチャイズ契約を締結したことを前提として、被告が同契約に基づくフランチャイジーの義務として競業避止義務を負うと主張している。そこで、以下、そのような契約がされたかを検討する。イ 前提事実に加え、証拠(甲28、30、乙23、24、30、31)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (ア)被告は、平成25年11月頃、原告に対し、旧大阪駅前店の運営を委託したところ、この際に、原告・被告間でその契約に係る契約書等は作成されなかった。また、旧堺東店や心斎橋店の運営の委託に当たっても同様であった。 (イ)平成26年12月頃、上記各店舗の取引先(仕入先)の1社より、原告から被告に商品を転売することは契約違反である旨の指摘があり、P1はP2に対してそのことを話し、当該取引先に提出するために原告・被告間の「覚書」を作成することを考えた。 (ウ)P1は、平成26年12月25日午後4時28分、P2に対し、下記の内容の平成25年10月21日付けの「覚書」と題する書面に原告の印を押したものを添付したメールを送信した。P1は、このメールの本文に、「ジョンソンからは、SNYとの取引関係であって資本関係(連結対象)がない、傘下(FC関係)でなく何ら関係がない法人への転売は契約違反との指摘があり何らかのペナルティを課せられる状況にあると説明を受けております。その状況を脱する為に可能性のある方法のひとつに、FC契約が考えられますので、先ずは書類の作成を致しました。」と記載するとともに、「覚書」の要点は「屋号スマートコンタクトはSNYに所属する。」、「屋号使用に対するFCロイヤリティが発生する。」というもので、「ジョンソンからいつ提出を求められるか判りませんので、内容をご確認のうえ至急ローテックの社判・押印のうえ返信願います。」と記載した。 記 原告と被告は、甲(以下「原告」と表記する。)が経営するコンタクトレンズ販売店の傘下において乙(以下「被告」と表記する。)がコンタクトレンズ販売店(屋号:スマートコンタクト)を展開する事に同意し、原告被告間で以下の事を取り決める。 a 屋号「スマートコンタクト」の名称権は、原告に帰属する。 b 被告は、店舗運営を原告に委託する。 c 被告は、全ての商品を原告から供給され、原告以外からの仕入れは行わない。 d 原告の被告への商品納入単価は原告の仕入単価とし、原告は別途FCロイヤリティを被告より受け取る。当該ロイヤリティは店舗単位で単月黒字化した月より発生するが、金額については店舗毎に協議のうえ決定する。 e 原告が被告に対して被告の仕入代金及び販売管理費の請求書を送付した時は、被告はすみやかに支払う事とする。 f 業務提携により互いに発展維持に努めるが、法律改正や社会情勢の変化等により継続することが困難になった場合、原告被告協議のうえ6ヶ月の予告期間の後解約することが出来る。 (エ)P1は、同日午後6時17分、P2に対し、上記(ウ)の「覚書」と題する書面と同内容のもの(ただし、原告の印が押されていないもの)をメールで再送した。 ウ 原告は被告との間でフランチャイズ契約を締結し、甲12の「覚書」が交わされたと主張し、P1はそれに沿う供述をしている。そして、甲12には競業避止義務が明記されていないが、原告は、フランチャイズ契約の性質上、当然に競業避止合意も含まれていると主張する趣旨と解される。 確かに、甲12に押印されている被告名義の印が被告の印と異なることはうかがえないものの、上記イで認定したことを踏まえると、甲12の「覚書」は被告が原告に対して旧大阪駅前店の運営を委託した当初から作成されていたものではないから、甲12のような内容の合意が当初から存在していたとは直ちにいえない。むしろ、平成26年12月にP1がP2に対して送信したメールには、甲12の元になった覚書の案に「FC(注:フランチャイズ)」と記載されている理由について、取引先から「資本関係(連結対象)がない、傘下(FC関係)でなく何ら関係がない法人への」商品の転売が契約違反に当たり、何らかのペナルティを課す旨の指摘があり、その状況から脱するために可能性のある方法を検討した結果であると説明されている。この経緯に照らせば、仮に甲12が真正に成立したものであるとしても、それは、取引先からの契約違反との指摘に対応するために、原告と被告の間には本来、「FC関係」はないものの、原告と被告がそのような関係にあることを、日付を遡らせて仮装するために作成された可能性が高いというべきである。 もっとも、原告は従前からコンタクトレンズ店を展開しており、被告はそのような原告に対して旧大阪駅前店等の運営を委託したのであるから、それら店舗の運営は原告のノウハウを用いてされたものであり、その点で本部が加盟店に対して店舗指導を行いつつ店舗運営を行うというフランチャイズ的な要素もないわけではない。しかし、前記のような甲12の作成経緯に照らすと、原告と被告とが、各店舗の運営委託を超えて、被告が原告の傘下で店舗を展開し、原告に対して競業避止義務を負うようなフランチャイズ契約を締結する意思を有していたとまで認めることはできない。 以上のことを踏まえると、原告と被告との間で、契約当初から又は平成26年12月の時点で、甲12の内容のとおりの合意がされたとまで認めることはできず、原告・被告間でフランチャイズ契約が締結された旨のP1の供述も採用できないものといわざるを得ない。 エ したがって、被告がフランチャイジーの義務として競業避止義務を負っていたということはできないし、原告はその他に被告が原告との関係で競業避止義務を負う法的根拠を主張していないから、被告が競業避止義務を負っていたとは認められない。 よって、被告の競業避止義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。 (2)原告主張の競業行為の違法性の有無について ア 原告は、被告が被告の上新庄店を開店したことや、不当な勧誘行為をしたこと(競業行為)について不法行為が成立すると主張している。 しかし、上記(1)で判示したとおり、被告が原告との関係で競業避止義務を負うとはいえないから、被告が平成28年7月又は8月頃に被告の上新庄店を開店したことについて不法行為が成立するとはいえない。 そこで、被告による勧誘行為について不法行為が成立するかということのみが問題となるが、被告にも営業の自由があることに照らせば、これが違法(不法行為)となるのは、その勧誘行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものである場合に限られると解するのが相当である。 イ 前提事実に加え、証拠(甲13、17、25ないし27)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (ア)平成28年7月又は8月頃以降、P2眼科、原告の上新庄店及び被告の上新庄店は、いずれも大阪市(以下略)に所在する「●(省略)●ビル」の4階で開業していた。このビルは6階建てのビルであり、エレベーターが2機設置されていて、4階にはエレベーターから降りた者から見て、正面左側に原告の上新庄店が、正面右側に被告の上新庄店が所在しており、P2眼科はそのさらに右側(被告の上新庄店のさらに右側)に所在していた。 (イ)少なくとも、平成28年8月27日午後4時ないし5時20分頃、原告の上新庄店と被告の上新庄店の間のビルの共用スペースに、派遣会社から被告に派遣された白衣を着用した若い男性がおり、その男性は、エレベーターから降りてきて、原告の上新庄店に入ろうとする者に対し、被告の上新庄店を案内したり、被告の上新庄店で新規オープンセールをしているとして、勧誘したりし、その際、被告の上新庄店について、「眼科が運営しているコンタクトレンズ屋さんができまして。」と説明した。 また、その者が原告の上新庄店に入り、初めての場合には眼科の処方が必要である旨説明を受けてから、店舗を出ると、上記若い男性は、どちらの眼科へ行くのかと聞いた。 (ウ)それ以降、少なくとも平成29年12月まで、上記共用スペースに被告の関係者(従業員等)がおり、被告の上新庄店への勧誘行為を継続的に行っていた。 ウ 以上認定の事実をもとに、被告の関係者による勧誘行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであったかを検討する。 (ア)確かに、被告の上新庄店の関係者がいる場所は原告の上新庄店と被告の上新庄店との間であり、しかも、被告の上新庄店への勧誘行為は継続的に、エレベーターを降りて来た者に対して直接的に行われているから、その勧誘行為によって、原告の上新庄店に行くべき者が被告の上新庄店に行くに至るという事態が発生している可能性は否定できない。 しかし、被告の関係者がいる場所は、ビルの共有スペースであるし、原告の上新庄店に行こうとする者に声をかけて、被告の上新庄店を案内したり、被告の上新庄店のサービス等を宣伝したりすることそのものは、顧客勧誘の範疇の行為であって、自由競争の範囲内の行為ということができる。 また、勧誘方法としても、甲13及び17によれば、被告の関係者は、原告の上新庄店に行く意思を明確にした者には、「わかりました。失礼しました。」と言って、それ以上の勧誘をしようとはしていない。甲13には「執拗に質問を行っていた」との記載があるが、勧誘することが許容される以上、ある程度執拗に勧誘することも違法とはいえないと解されるし、甲13及び17の内容は、どちらの眼科へ行くのかと1回聞くという程度にすぎず、そもそも執拗に勧誘したものとまでいうことはできないから、その態様が自由競争を逸脱したものであったと認めることはできない。 さらに、被告の関係者は、被告の上新庄店について、「眼科が運営しているコンタクトレンズ屋さんができまして。」と説明したところ、被告の上新庄店は被告が経営しており、P2眼科を経営する医療法人山樹会が直接経営(運営)しているものではないから、上記説明は不正確である。しかし、被告の上新庄店が開店した後は、被告(同店)と医療法人山樹会(P2眼科)が提携関係にあったから、P2眼科と提携関係にあるコンタクトレンズ販売店であること(原告の上新庄店がP2眼科と提携関係にないこと)を説明することは何ら問題ない。そうすると、上記説明はコンタクトレンズ販売店の運営主体を誤ったものといわざるを得ないが、眼科と何ら関係がないのに、眼科と関係があることを強調したものではなく、また被告の上新庄店でも眼科での受診を必要としていたから、それが不要であるのに、眼科と関係していることを告げたわけでもない。さらに、原告の上新庄店でも初めてコンタクトレンズを購入する場合には眼科での受診を必要としていたから、その点では被告の上新庄店と異なるわけではない。そうすると、上記説明は誤ったものであるといっても、全くの架空の事実を述べたものとはいえないし、顧客の判断を誤らせる程度のものであったということもできないから、勧誘に当たっての説明内容が自由競争を逸脱したものであったとまで認めることはできない。 (イ)原告のその余の主張等について 原告は被告の関係者による説明が景品表示法の優良誤認表示に当たると主張しているが、上記判示によれば、被告の関係者の説明が、被告の役務等が実際のものよりも著しく優良であることを示したものなどと認めることはできないから、原告の主張はその前提を欠くといわざるを得ない。 また、甲27では、被告の上新庄店のスタッフが「受付が変わりました。眼科からどうぞ。」などと声をかけていた旨陳述されている。しかし、この説明は、原告の上新庄店の受付を被告の上新庄店の受付と誤認させるものではなく、また原告の上新庄店でも初めてコンタクトレンズを購入する場合には眼科での受診を必要としていたから、顧客に対して原告の上新庄店では眼科の受診が不要であるのに、それが必要であるかのような誤信をさせて、原告の上新庄店から顧客を奪取したわけではない。 なお、甲13及び27にはP2眼科での説明等も記載されているが、その裏付けがなく、その内容を直ちに認定することはできないし、その説明等はP2眼科における説明等にすぎず、被告の行為とはいえないから、これによって直ちに被告の行為の違法性が基礎付けられるとはいえない。また、甲27には、P2眼科と被告の上新庄店のスペースが繋がっており、所管官庁から指導を受けていることが記載されているが、これは被告の上新庄店の運営に関することにすぎず、直ちに顧客に対する勧誘方法の違法性を基礎付ける事情になるとはいえない。 (ウ)以上より、被告の関係者による勧誘行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであったとは認められないから、被告がそれによる不法行為責任を負うとはいえない。 エ 以上より、被告の違法な競業行為を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求にも理由がない。 4 結論 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松宏之 裁判官 野上誠一 裁判官 大門宏一郎 別紙1 別紙2 原告従業員退職一覧表
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