判例全文 | ||
【事件名】リーチサイト「はるか夢の址」事件(刑) 【年月日】平成31年1月17日 大阪地裁 平成29年(わ)第4356号 著作権法違反、不正指令電磁的記録作成等事件 判決 主文 被告人Aを懲役3年6月に、被告人Bを懲役3年に、被告人Cを懲役2年4月に処する。 未決勾留日数中、被告人Aに対しては20日を、被告人Bに対ては100日を、それぞれその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】 第1 被告人3名は、「D」の名称で、インターネットサイト「E」を運営・管理していたものであるが、別表(省略)記載のとおり、Fら15名と共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、別表番号5ないし9においては被告人Cが、その余においてはG以外の前記Fら14名が、平成28年3月2日から平成29年7月18日までの間、48回にわたり、埼玉県草加市内前記F方等15か所において、同所に設置されたパーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し、H等44名が著作権を有する著作物である漫画「I第J巻」等68点の各書籍データを、インターネットに接続された自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記録媒体に記録・蔵置した上、平成28年3月2日から平成29年7月18日までの間、48回にわたり、前記F方等15か所において、前記パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し、前記各書籍データを記録・蔵置した場所を示すURLを、「K」等2事業者が管理する前記「E」のサーバコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置し、インターネットを利用する不特定多数の者に前記著作物68点の各書籍データを自動公衆送信可能な状態にし、もってそれぞれ前記著作権者の著作権を侵害した。 第2 被告人A及び被告人Bは、正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、L及びMと共謀の上、 1 平成29年1月18日午後6時58分頃、堺市内N方において、同所に設置された電子計算機を使用して、人が電子計算機から電気通信回線を介してインターネット上の当該プログラムが蔵置されたウェブページに接続すれば、接続者の意思に反して、指定されたウェブサイトに指定の間隔で連続してアクセスするプログラムを作成し、 2 同日午後9時31分頃、和歌山県紀の川市内所在のO大学PキャンパスQ号館R館S号において、同所に設置された電子計算機を使用して、前同様のプログラムを作成し、もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成した。 【証拠の標目】 省略 【法令の適用】 罰条 判示第1の行為 被告人3名につき、別表番号毎に(別表番号7、10、12、21、27、28、29、39、44はそれぞれ包括して)刑法60条、著作権法119条1項、23条1項(なお、別表番号3と4、17と18は、それぞれ実行行為者が同じで、投稿日時も分単位まで同じであるが、別の操作として記録されており、行為としては別であること、被害者である著作権者が異なること、実行行為者において、同種行為を多数している中で偶々連続したにすぎず、1個の犯意に基づくものとはいえないことから、1罪とは認めず、併合罪とした。) 判示第2の行為 被告人A及び被告人Bにつき、包括して刑法60条、168条の2第1項1号(検察官の起訴は判示1と2を併合罪とするものであるが、判示2のプログラムは、同1のプログラムを改良する意図で同プログラム作成後短時間で作成したものであり、時間的に近接し、1個の犯意に基づいて行われたものと認められるから、包括一罪とした。) 刑種の選択 判示各罪(被告人Cは判示第1の各罪) 被告人3名につき、いずれも懲役刑を選択 併合罪の処理 被告人3名につき、刑法45条前段、47条本文、10条(被告人A及び被告人Bにつき、刑及び犯情の最も重い判示第1別表番号44の罪の刑に法定の加重。被告人Cにつき、犯情の最も重い判示第1別表番号44の罪の刑に法定の加重。) 未決勾留日数算入 被告人A及び被告人Bにつき、刑法21条 訴訟費用の処理 被告人3名につき、刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担) 【量刑の理由】 1 各犯行の評価 被告人3名が、他の共犯者らと共謀して行った判示第1の各犯行は、インターネットサイト(以下「本件サイト」という。)のサーバコンピュータ内に、違法にアップロードされた漫画等の書籍データのリンクを掲載するなどして、不特定多数の者に対して書籍データを自動送信可能な状態にしたものである。本件サイトには、利用者による違法なアップロードと投稿を助長するための様々な仕組みがあり、犯行は常習的なものである。著作権を侵害された者は44名、書籍は68点に上り、被告人3名において本件サイトを利用者の多いものに成長させていたこともあって、書籍の販売価格とダウンロード回数を掛け合わせた額は約3931万円に及んでいる。その全額が著作権者が得られるはずであった利益ではないにせよ、多くの財産的な損害が発生していると認められるし、著作権には人格的な利益も含まれており、多数の著作権者らに総体として大きな損害が発生していると認められる。なお、検察官は、本件サイトによる推定損害額を具体的に主張し、著作権協会の関係者の心情等も主張しているところ、この犯行は親告罪であり、告訴されていない被害に係る損害や著作権者以外の者の心情を量刑上考慮することはできないが、判示第1の各犯行が、同種事案の中でも際立って大規模で社会に大きな影響を及ぼす行為の一環としてされたものであり、その結果として、起訴に係る多くの損害を発生させていることは考慮に値する。このように、判示第1の各犯行は同種事案の中でも相当悪質で結果も重大なものであるといえる。 次に、被告人A及び被告人Bによる判示第2の犯行は、同犯行の共犯者らから、同人らが運営するサイトの競合サイトを潰すことを依頼されて、本件サイトを介して攻撃対象のサイトに連続して多数アクセスさせ、当該サイトのサーバに負荷をかける機能を有する攻撃用スクリプトを作成したというものであり、判示第2の2のものは、リンク元のページの情報が分からないようにされた巧妙で悪質なものである。 2 被告人Aについて 被告人Aは、インターネット上の知識は無制限にリンクされるべきである、面白くない、あるいは、役に立たなかったコンテンツに対して対価を支払う必要はないなどといった考えから、本件サイトを開設し、その運営・管理全般を統括する中で、サイトを大きく有名にしたいといった願望から、利用者による違法なアップロードと投稿を助長するための様々な仕組みを作り、本件サイトを利用者の多いものに成長させていったものであり、判示第1の各犯行の首謀者といえる。また、被告人Aは、被告人Bから依頼されて判示第2のプログラムを作成しており、同犯行の実行犯である。以上によれば、被告人Aの刑事責任は重いといわざるを得ず、同被告人が反省し、50万円の贖罪寄付をしていること、前科前歴がないこと、母が同被告人を監督する旨述べていることなどの酌むべき事情を考慮しても、刑の執行を猶予する余地はなく、主文の実刑はやむを得ないところである。 3 被告人Bについて 被告人Bは、もともと自身が運営していたリーチサイトとの業務提携を打診したことをきっかけとして、本件サイトの運営に関わるようになり、インターネットに関する豊富な技術や知識を生かして、被告人Aに助言をし、本件サイトが摘発されないようにするためにサーバを海外に移行することを提案した上で、自らサーバの契約をし、サーバの保守・管理も引き受けていた。このように、被告人Bは、判示第1の各犯行を下支えしていたものであり、重要な役割を果たしていたといえる。また、大きな利益を得るには至っていなかったものの、経済的利益を得るために、広告を掲載することを被告人Aに承諾させるなどしており、利欲的側面も有している。加えて、判示第2の犯行は、被告人Bが、知人から頼まれて、被告人Aに犯行を依頼したものであり、同犯行の対価も得ており、その犯情も悪い。以上によれば、被告人Bの刑事責任は被告人Aに準じて重いといわざるを得ず、被告人Bが反省し、母が同被告人を監督する旨述べていることなどの酌むべき事情を考慮しても、刑の執行を猶予できる事案ではなく、主文の実刑はやむを得ないところである。 4 被告人Cについて 被告人Cは、本件サイトの会員となり、報酬目的で書籍データをアップロード等しているうちに、誘われて同サイトを管理する立場の一人となり、投稿を削除、編集等する投稿管理の役割を担うとともに、利用者拡大のための提言を被告人Aにして採用されるなどし、更に、自ら書籍データを違法にアップロードして本件サイトにリンクを投稿する判示第1の別表番号5ないし9の各犯行に及んだものである。利欲目的の動機に酌量の余地はなく、果たした役割は大きいといえるとともに、実行行為者としても常習性が認められる。被告人Aらよりは立場が下であるとはいえ、悪質で結果重大な犯行において、上記のような大きな役割を果たすなどしているのであるから、被告人Cの刑事責任も軽いといえるものではない。そうすると、同被告人が反省していること、同被告人には持病があり、健康状態が良くないこと、母が同被告人の監督を誓う書面を作成していること、同被告人には妻がいることなどの酌むべき事情を考慮しても、刑の執行を猶予するのが相当であるとはいえず、主文の実刑はやむを得ないところである。 (求刑―被告人Aにつき懲役4年6月、被告人Bにつき懲役4年、被告人Cにつき懲役3年) 平成31年1月17日 大阪地方裁判所第14刑事部 裁判官 飯島健太郎 |
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