判例全文 | ||
【事件名】類似“映画字幕制作ソフト”事件B 【年月日】平成30年11月29日 東京地裁 平成27年(ワ)第16423号 不正競争行為差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成30年8月2日) 判決 原告 株式会社カンバス 上記訴訟代理人弁護士 安國忠彦 同 朝吹英太 被告 株式会社フェイス(以下「被告フェイス」という。) 被告 A(以下「A」という。) 被告 B(以下「B」という。) 上記3名訴訟代理人弁護士 永井健三 主文 1 被告フェイス及びBは、別紙物件目録1記載のソフトウェアを生産し、使用し、譲渡し(電気通信回線を通じた提供を含む。)、貸し渡し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。 2 被告フェイス及びBは、その占有にかかる別紙物件目録1記載のソフトウェアのプログラムを収納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。 3 被告フェイス及びBは、別紙物件目録2−2記載の各ソースコードを使用してはならない。 4 被告フェイス及びBは、別紙物件目録2−2記載の各ソースコードを記録したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。 5 被告フェイス及びBは、原告に対し、連帯して、198万9168円及びこれに対する被告フェイスについては平成27年6月19日から、Bについては同月20日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の1と被告フェイスに生じた費用の5分の3を被告フェイスの負担とし、原告に生じた費用の5分の1とBに生じた費用の5分の3をBの負担とし、その余を原告の負担とする。 8 この判決は、第5項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙物件目録1記載のソフトウェアを生産し、使用し、譲渡し(電気通信回線を通じた提供を含む。)、貸し渡し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。 2 被告らは、その占有にかかる別紙物件目録1記載のソフトウェアのプログラムを収納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。 3 被告らは、別紙物件目録2−1記載のソースコードを使用してはならない。 4 被告らは、別紙物件目録2−1記載のソースコードの全部又は一部を記録したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。 5 被告らは、自ら又は第三者をして、被告らが製造、譲渡する製品に、Template.mdb形式の字幕データのインポート機能もしくはエクスポート機能を実装し、又は実装せしめてはならない。 6 被告らは、原告に対し、連帯して金3000万円及びこれに対する被告フェイスについては平成27年6月19日(訴状送達の日の翌日)から、Aについては同月23日(同上)から、Bについては同月20日(同上)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が、@原告の従業員であったA又はBが原告の営業秘密である字幕制作ソフトウェア「SSTG1」(以下「原告ソフトウェア」という。)を構成するソースコードプログラム(以下「本件ソースコード」という。)及びそのファイル「Template.mdb」を正当な権限なく原告から持ち出して被告フェイスに開示し、又は開発担当者として保有していた本件ソースコード等を不正の利益を得る目的で被告フェイスに開示したこと、A被告フェイスが本件ソースコード等の前記@の不正取得又は不正開示を知りながら字幕制作ソフトウェアである別紙物件目録1記載のソフトウェア(「Babel」。以下「被告ソフトウェア」という。)の制作に当たって本件ソースコード等を取得又は使用したこと、BBが被告フェイスからの業務委託を受け、Aによる本件ソースコード等の前記@の不正取得又は不正開示を知りながら被告ソフトウェアの制作に当たって本件ソースコード等を取得又は使用したことを理由として、被告らに対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項及び2項に基づき、@本件ソースコードが使用された被告ソフトウェアの製造等の差止め及び廃棄、A本件ソースコードそのものの使用の禁止、B本件ソースコードの全部又は一部を記録した記憶媒体の廃棄、CTemplate.mdbを利用して原告ソフトウェアとの互換性を確保しようとする行為の禁止を求めるとともに、同法4条に基づき、損害賠償金(一部請求)及び遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実) (1)原告は、平成10年12月15日に設立されたコンピュータソフトウェアの開発、映画及びテレビ番組等の字幕制作等を目的とする株式会社である。(甲1) 被告フェイスは、平成22年2月1日に設立されたコンピュータソフトウェアの開発等、映画及びテレビ番組等の字幕制作、放送用関連技術及び映像制作に関する教室の経営等を目的とする株式会社である。(争いがない) Aは、平成13年8月7日から平成22年5月15日まで原告においてシステムエンジニアとして稼働し、原告ソフトウェアの開発、制作に携わった。Aは、平成21年2月24日から平成22年4月5日までは原告の取締役であり、原告を退職した時点ではシステム部の部長であった。Aは、原告を退職した後、被告フェイスにおいて、監督的立場から、被告ソフトウェアの開発、制作に携わった。(争いがない、弁論の全趣旨) Bは、原告ソフトウェアの開発、制作に携わった者の一人で、原告外部の技術者としてその開発、制作に携わり、その後、被告から委託を受け、被告ソフトウェアの実際の開発、制作を担当した。(争いがない、甲27、37、81の1及び2、弁論の全趣旨) (2)原告は、平成14年4月30日、米国のソフトレード社から字幕制作ソフトウェア「SST」について日本国内における独占的な改変、複製、利用、販売等のライセンスを受けた。(甲4の1、2) 原告代表者は、平成16年4月14日、ソフトレード社から前記「SST」の著作権を買い受けた。(甲5) 原告は、平成18年1月頃までに、前記「SST」を改良して原告ソフトウェアを開発、制作し、日本国内において販売を開始した。(争いがない)原告代表者は、平成18年5月30日、原告に対して前記「SST」を改良したソフトウェアについての権利が原告に帰属することに同意した。(甲6) (3)被告フェイスは、遅くとも、平成25年2月1日から被告ソフトウェアの販売を開始した。被告ソフトウェアは、少なくとも、原告ソフトウェアが具備している機能の一部を具備している。(争いがない) 被告フェイスは、原告ソフトウェアに含まれているTemplate.mdbを複製し、「Plugdtm.dll」と改称した上で、被告ソフトウェアにおいてそのまま利用している。(争いがない、甲16) (4)原告は、平成25年、被告ソフトウェアは原告の著作物であるプログラム(本件ソースコード)を複製又は翻案したもので原告の著作権を侵害するものであると主張して、被告フェイスに対し、被告ソフトウェアの販売等の差止めや損害賠償等を求める訴訟を当庁に提起した。平成27年6月25日、原告の請求を棄却する判決がされた(当庁平成25年(ワ)第18110号)。(乙4) 原告は、同判決を不服として控訴するとともに、控訴審において被告ソフトウェアはTemplate.mdbを複製していると主張してTemplate.mdbの使用等の差止請求を追加したが、平成28年3月23日、原告の請求をいずれも棄却すべきものとする判決がされ、同判決はその後確定した(知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10102号。以下、これらの訴訟を「先行訴訟」という。)。(乙17) 3 争点 (1)本件ソースコード及びTemplate.mdb(以下、これらを「本件ソースコード等」と総称することがある。)について、@A又はBが被告フェイスに対してそれらを開示したこと、A被告フェイスが被告ソフトウェアの制作に際してA又はBからそれらを取得して使用したこと、BAが被告フェイスに対してそれらを開示していた場合には、Bが、被告フェイスからの業務委託を受けて、被告ソフトウェアの制作に際してAからそれらを取得し、使用したことという各事実(以下、これらの被告らによる使用、取得等の行為を「被告らによる使用等」と総称することがある。)の有無(争点1) (2)本件ソースコード等についての被告らによる使用等の不正競争行為該当性 (争点2) ア 被告らによる使用等がされた本件ソースコード等が営業秘密であるといえるか(争点2−1) イ 被告らによる使用等が不競法2条1項4号、5号、7号及び8号に規定する不正競争のいずれかに該当するか(争点2−2) (3)損害の発生の有無及びその額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1)本件ソースコード等についての被告らによる使用等の有無(争点1) (原告の主張) ア 本件ソースコード全体について 以下の各事実を総合すれば、本件ソースコード全体について、被告らによる使用等を推認することができる。 (ア)被告ソフトウェアに原告ソフトウェアで使用されているsdb形式の字幕データベースが実装されていること 被告ソフトウェア(発売から約2か月のバージョン)には、少なくとも5カ所にsdb形式の字幕データベースが実装されていた。sdb形式の字幕データベースは、二重のセキュリティで保護されていて本来は開けないものであるし、仮に開けたとしても、そのフィールドにどのようなデータが入っているかについては、本件ソースコードを参照して解析しない限り理解できない。したがって、sdb形式の字幕データベースが実装されていた事実は、被告らが、本件ソースコードを不当に入手、利用していることを推認させる。 (イ)被告ソフトウェアと原告ソフトウェアには以下のとおりの共通したバグが存在すること @ 字幕の全体設定(デフォルト)を縦書きに設定して作成されたmdbファイルをインポートした場合に、原告ソフトウェアも被告ソフトウェアも横書きでインポートされてしまう。 A 被告フェイスは平成22年に設立されていて、それ以降に開発された被告ソフトウェアからエクスポートしたExcelファイルの拡張子は「.xlsx」となるはずであるところ、被告ソフトウェアのエクスポート先の拡張子は「.xls」である。 B Excelの言語設定を英語にした状態で、Excelファイルをエクスポートすると、原告ソフトウェアも被告ソフトウェアもハングアップする。 C エクスポート先をC:¥に設定してExcelファイルをエクスポートすると、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアもハングアップする。 D 横書きで、例えば「ワシントンD.C.」と入力した字幕を縦書きに変換すると、原告ソフトウェアも被告ソフトウェアも「D.C.」のピリオドの位置がおかしくなってしまう。 (ウ)被告ソフトウェアのソースコードにおけるコメント、変数、誤植が本件ソースコードと一致すること 被告ソフトウェアのソースコードには、本件ソースコードを複製したのでなければ到底発生し得ない、字数の長い変数や定数の定義がスペルミスを含めて一致し、無意味なコメントも一致している。被告らは、どちらのソフトウェアもBが開発したものであり、前記の一致はBの癖であるなどと主張するが、原告ソフトウェアの開発には少なくとも4名がかかわっていたのであるから、Bが該当部分を作成したか否かは明らかでない。 (エ)Bが以前に実施された証拠保全の際にソースコードについて虚偽の説明をしたこと Bは、sdb形式の字幕データベースを実装していた被告ソフトウェアのソースコードについて、証拠保全の際、裁判官に対して被告ソフトウェアには関係がないなどと虚偽の説明をして開示を拒否し、マニュアルやソースコードリストの一部のみを開示した。 (オ)被告らが被告ソフトウェアのソースコードの履歴管理を行っていないと虚偽の説明をしたこと 被告ソフトウェアの開発環境では、バージョン管理ソフト上で履歴管理を示す鍵マークが表示され「ソースコード管理」の文字があったことや、Aは原告に在籍している際に「SST」のソースコードの履歴管理を実施していたことなどの事情から、被告らは被告ソフトウェアのソースコードのバージョン管理を行っていた。被告らはそれを否定するが、被告らが事実と異なる説明をするのは、本件ソースコードの流用の痕跡が残る古いソースコードの提出を拒み、改変を進めるためである。 (カ)被告ソフトウェアが通常では考えられない開発工数(費用)や期間で開発されていること 原告は、平成16年5月から平成18年1月に至るまで、総工数約60人月(作業者4名)をかけて原告ソフトウェアを開発し、原告ソフトウェアが発売された直後の平成18年2月1日に原告ソフトウェアとして3054万3987円(約60人月)が資産計上され、平成21年5月まで通算した原告ソフトウェアの開発コスト(固定資産計上分のみ)は、「SST」を参考にしたにもかかわらず、約5800万円(約120人月)以上を要した。 他方、被告ソフトウェアの主たる開発期間は約1年であり、また、開発ステップから開発工数を算出する手法によれば少なくとも約77人月の開発工数を要するものであるのに、被告らは、被告ソフトウェアを12人月で開発、制作したことを認めている。 このように、原告が少なくとも120人月を要して開発した原告ソフトウェアを、被告フェイスが僅か12人月程度で開発したという事実は、被告フェイスが本件ソースコードを取得、使用したことを推認させる。 (キ)被告ソフトウェアが低廉な販売価格を設定していること 原告ソフトウェアと比較した場合、被告ソフトウェアの価格は約5分の1ないし約4分の1程度である。映像翻訳用字幕ソフトの市場は寡占状態にあるから、事業の継続性を考えた場合、被告ソフトウェアの価格設定は明らかに異常に低い。被告フェイスが本件ソースコードを流用しない限り、このような価格設定は不可能である。 (ク)被告ソフトウェアではC++/CLI言語による無用なコーディングが行われていること 字幕制作ソフトのレベルにおいて、二つの言語を使用することによる手間をかけてまでC++言語で組まなければ処理の速度で問題が生じるという事態は起こらないところ、被告ソフトウェアではC♯言語とC++言語、さらにはC++/CLI言語(C++言語の発展形)でのコーディングが行われている。C++/CLI言語は、基本的に過去の資産を再利用するためのプログラミング言語であるから、被告ソフトウェアにおけるC++/CLI言語での余計なコーディングの存在は、過去の資産である原告から持ち出したC++言語のソースコードを流用したことを推認させる。 (ケ)原告を退職した際、Aは当時使用していたパソコンのHDD(ハードディスク)を無断で換装したこと Aは、退職時に使用していたHDDを換装したことを原告に報告していなかった。また、被告らの退職後に原告から複数のソースコードが消失しており、これらもAが前記HDDの換装をした際に、本件ソースコードと併せて持ち出した。 (コ)被告ソフトウェアの開発環境が「VisualStudio2005」であること 原告ソフトウェアの開発環境は「VisualStudio2005」であった。他方、被告ソフトウェアの開発が開始した平成24年頃には、「VisualStudio2008」と「VisualStudio2010」という2つの新しい開発環境がリリースされ、広く一般的に利用されていた。それにもかかわらず、被告ソフトウェアの当初の開発環境は「VisualStudio2005」であった。最新の開発環境でソフトウェアを開発しないことは通常あり得ないことから、被告ソフトウェアは「VisualStudio2005」で開発された本件ソースコードを流用していることが推認される。 (サ)被告らがTemplate.mdbの複製を自認していること Template.mdbは、本件ソースコードと不可分のプログラムであるから、Template.mdbを使用するということは、本件ソースコードを使用することと同じである。 Template.mdbのstrFormatフィールドは字幕の装飾情報(ルビや大きさ、色、エッジ等)を格納するフィールドであって字幕そのもの(文字列)の情報は格納されておらず、それらを格納しているのはstrTranslationフィールドであるから、原告ソフトウェアも被告ソフトウェアもTemplate.mdbを読み込んで字幕を表示するときは、少なくともこの二つのフィールドの情報を組み合わせて字幕を表示することになる。そして、strFormatフィールドはバイト位置で範囲指定をするMBCS(マルチバイト文字セット)であり、strTranslationフィールドは文字位置で範囲指定をするUNICODEであるため、ソースコードでそれらを変換しなければ正確に字幕を表示することはできないところ、被告ソフトウェアはこれを正確に実現することができている。 これらからすると、Template.mdbの画面表示からは確認することができないロジックが本件ソースコード上に存在しており、そのロジックを被告ソフトウェアが使用している。 (シ)被告ソフトウェアに不要なソースコードが存在していること 原告ソフトウェアのソースファイル「GlobalSettings.cpp(232行目、235行目から242行目、244行目から246行目、249行目から256行目の20か所)」のソースコード(本件鑑定における類似箇所3。本件鑑定において、本件ソースコードのうち被告ソフトウェアと一致ないし類似すると指摘された箇所が5箇所あり、以下、本件ソースコードのうち、本件鑑定で被告ソフトウェアのソースコードと一致ないし類似すると指摘された箇所を鑑定書の記載に従って「類似箇所1」などと表記することがある。)は、編集中の字幕のフォーマット情報を保存しようとする際、既存のフォーマットのリストの中に、保存しようとする前記フォーマット情報と同一のものがあるか否かを判断するために呼び出される比較処理部分であるところ、そもそも被告ソフトウェアにはフォーマット情報をファイルに保存してリスト化する機能はないから、この部分は被告ソフトウェアにとって不要である。このような不要なソースコードが被告ソフトウェアに存在することは、被告らが本件ソースコードを流用したことを推認させる。 (ス)被告ソフトウェアと原告ソフトウェアには字幕制作ソフトでは通常生じ得ない特異な処理が共通して存在すること 本件ソースコードでは、ルビとして一定のアルファベット文字列(ITALIC_SYNC、ITALIC_ASYNC)を設定すると、Template.mdbをインポートした際にこの文字列が消去されてしまうという特異な処理を行っているところ、被告ソフトウェアでも同様の処理が行われる。このような特異な処理が行われていることは、被告らが被告ソフトウェアにおいて本件ソースコードを流用したことを推認させる。 イ 類似箇所1ないし4及びSTTDB.cppファイルについて 鑑定の結果によれば、類似箇所1ないし4はいずれも不自然に一致ないし類似するとされた。 また、本件鑑定において、類似箇所4として、被告ソフトウェアのデータベース(Mdb.ccp)で用いられたフィールド名は全て原告ソフトウェアのデータベース(SSTDB.cpp)で用いられているフィールド名に一致するとされたところ、当該ファイルの内容が実質的に類似又は共通することは明らかであるから、原告ソフトウェアの「SSTDB.cpp」の3000行のソースコード(STTDB.cppファイル)が被告ソフトウェアの「Mdb.cpp」のソースコードと類似又は共通すると認められたというべきである。 これらについて、被告らによる使用等がある。 ウ Template.mdbのセマンティクスについて Template.mdbは、公開されている情報を見ただけでは利用することは不可能であり、Template.mdbの仕様を知る者はAやBなど原告ソフトウェアの開発に関与した限定された範囲にとどまる。被告らがTemplate.mdbと互換性を有する被告ソフトウェアを複製、利用、頒布していることは、被告らがTemplate.mdbのセマンティクスを不正に取得、使用等したことを意味する。 (被告らの主張) ア 本件ソースコード全体について 原告が主張する事実は、本件ソースコード全体について、被告らによる使用等を推認させるものではない。 かえって、本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードの一致の有無を鑑定した結果、類似箇所1ないし4のみがそれらに対応する被告ソフトウェアのソースコードと一致ないし類似し、それ以外に一致ないし類似が疑われるところはないという結論であった。そして、前記の一致ないし類似部分はソースコードの定義部分であるから、実際の作動に関わるプログラム部分には一致ないし類似する部分はないということになる。ソースコードを不正取得しようとした場合に、定義部分だけを複製して実際の作動に関わるプログラム部分を複製しないということは通常考えられない。 また、本件ソースコード全体と類似箇所の量的な比較という観点から見ても、有意な一致ないし類似箇所は原告ソースコード全体の0.018パーセントないし0.056パーセント、被告ソースコードの0.038パーセントないし0.119パーセントにすぎないのであるから、類似箇所は極めて微小である。 以上によれば、本件ソースコード全体についての被告らによる使用等はなかったと認められる。 イ 類似箇所1ないし3について 被告ソフトウェアにおいて、類似箇所1ないし3と一致するソースコードが存在するのは以下のような経緯があったためである。 (ア)類似箇所1とそれに対応する被告ソフトウェアのソースコードの一致は、原告ソフトウェアの開発時に主に外部ライブラリの評価を目的としてBが独自に作成した簡易な評価プログラムについて、これが被告ソフトウェアの開発時にもBのパソコンに残っていたため、Bがその変数定義部分を参照したことによって生じた。 (イ)類似箇所2は代入演算子のオーバーロード部分であるところ、当該部分は入力ミスを防止するため基本的に定義を複製して実装する。Bは原告ソフトウェア開発時も被告ソフトウェア開発時も、類似箇所1を複製して類似箇所2を作成した。 (ウ)類似箇所3は比較演算子のオーバーロード部分であるところ、当該部分は入力ミスを防止するため基本的に定義を複製して実装する。Bは原告ソフトウェア開発時も被告ソフトウェア開発時も、類似箇所1を複製して類似箇所3を作成した。 ウ 類似箇所4及びSTTDB.cppファイルについて 鑑定の結果によれば、原告ソフトウェアの「SSTDB.cpp」のフィールド名と被告ソフトウェアの「MDB.cpp」のフィールド名は一致ないし類似しているが(類似箇所4)、それを超えて、STTDB.cppファイル全体について被告ソフトウェアのソースコードと一致ないし類似しているものではなく、それについての被告らによる使用等はない。 エ Template.mdbのセマンティクスについて Template.mdbのファイルは単なる書式にすぎず、被告ソフトウェアがmdbファイルと互換性を有するためには、被告ソフトウェアが独自にソースコードを実装しなければならない。そして、Template.mdbのセマンティクスは、一般に流通しているmdbファイルに記載された具体的なデータと字幕の表示画面を見ながら互換性を有することとしたい箇所に関係しそうなデータ(値)を変化させ、それが字幕の表示画面にどのように反映されるかという相関関係を見れば容易に把握することができる。被告らは被告ソフトウェアを開発するに際し、既存のmdbファイルから独自にその仕様を把握し、互換性を有するためのソースコードを独自に開発して被告ソフトウェアに実装した。 したがって、Template.mdbのセマンティクスについての被告らによる使用等はなかった。 (2)本件ソースコード等についての被告らによる使用等の不正競争該当性(争点2) ア 被告らによる使用等がされた本件ソースコード等が営業秘密であるといえるか(争点2−1) (原告の主張) (ア)本件ソースコード全体について 原告ソフトウェアのような商用ソフトウェアは、コンパイルした実行形式のみを配布するなどし、ソースコードを顧客の稼働環境に納品した場合もこれを開示しない措置を取ることが通常である。したがって、本件ソースコードは原告の営業秘密に該当する。 (イ)類似箇所1について 類似箇所1は、変数名や型名等を宣言するものであり、本件ソースコードにおいて様々な形で利用され、多岐にわたる機能に影響を及ぼすものであるから、その有用性は明らかである。 字幕のフォーマットデータをどのように構成するかを設計した後、そのフォーマットデータの構成要素にどのような変数名を付するのか、設定した変数をどのような型にするのかといったことは、本件ソースコード上にしか記載がない。 被告ソフトウェアにおいて類似箇所1と同一の変数名を有する「SourceDefault.h」は、被告ソフトウェアでプロジェクト管理機能のデータ・ソースとして分類されており、字幕データの標準値情報として定義されている。被告フェイスは、証拠保全の際に、当該部分は営業秘密に該当することを理由として開示を拒否した。 (ウ)類似箇所2について 類似箇所2は、特定のフォーマット情報を、メモリ上に、編集中のプロジェクト(字幕データ)のフォーマット情報として格納する機能であり、その有用性は明らかである。 類似箇所2について、フォーマットデータの構成要素にどのような変数名を付けるか、各変数名にどのような順番で変数を代入するかは、いずれも有用性の高い、秘密に管理された非公開の情報である。 被告ソフトウェアにおいて類似箇所2と同一の変数名を有する「SourceDefault.cpp」は、被告ソフトウェアでプロジェクト管理機能のデータ・ソースとして分類されており、字幕データの標準値情報(フォーマット情報)を処理する機能がある。被告フェイスは、証拠保全の際に当該部分は営業秘密に該当することを理由として開示を拒否した。 (エ)類似箇所3について 類似箇所3は、編集中の字幕のフォーマット情報を保存しようとする際、既存のフォーマットのリストの中に、保存しようとする前記フォーマット情報と同一のものがあるか否かを判断するために呼び出される比較処理部分である。すなわち、類似箇所3は、作成中の字幕のフォーマットを他の字幕の作成にも流用したいと考えた場合に、そのフォーマット情報を重複なくファイルに保存するために利用されるソースコードであり、その有用性は明らかである。 類似箇所3について、フォーマットデータの構成要素にどのような変数名を付けるか、各変数名にどのような順番で変数を代入するかは、いずれも有用性の高い、秘密に管理された非公開の情報である。 (オ)類似箇所4について 前記のとおり、鑑定において、「データベースのフィールド名の一致」が認められたことにより、「SSTDB.cpp」の約3000行のソースコードであるSTTDB.cppファイル全体が、被告ソフトウェアの「Mdb.cpp」のソースコードと類似又は共通することが認められたというべきである。原告は、Template.mdbのテーブル名やフィールド名が営業秘密であるとの主張はしていない。 STTDB.cppファイルは、Template.mdbに字幕データをセマンティクスに従って記述及び保存する機能、Template.mdb形式の字幕ファイルからセマンティクスに従って字幕データを解析する機能及びTemplate.mdb形式の字幕データをセマンティクスに従って原告ソフトウェアのデータメモリ領域に展開する機能を有する。STTDB.cppファイルだけではTemplate.mdbを解析するための処理は収まり切らないため、その解析のために様々な関数や定義を呼び出しており、STTDB.cppファイルが起点となる処理は多岐にわたる。 被告ソフトウェアにおいてSTTDB.cppファイルと同一のフィールド名を有する「Mdb.cpp」は、被告ソフトウェアにおいて、数あるインポート・エクスポート処理中の共通処理に分類されており、被告ソフトウェアにおけるインポート処理とエクスポート処理は、全て「Mdb.cpp」を経由する。当該部分は、有用性の高い、秘密に管理された非公知の情報である。被告フェイスは、証拠保全の際に、当該部分は営業秘密に該当することを理由として開示を拒否した。 原告ソフトウェアのTemplate.mdb(mdbファイル)をMicrosoftAccessで開いたとしても、原告の営業秘密である本件ソースコードを利用しない限り、原告ソフトウェアと互換性のあるデータにはならない。 (カ)Template.mdbについて @ Template.mdbの内容 本件ソースコードとTemplate.mdb自体の仕様を理解した者でなければ解読できない文字列が有機的一体となって相互に関連性を有して構成されていること(Template.mdbのセマンティクス)は、それ自体が営業秘密としての意義を有する。原告は、Template.mdbの仕様書を作成せず、本件ソースコードに解析の手がかりを残すという方法によって、Template.mdbのセマンティクスを営業秘密として保持している。 A 秘密管理性・非公知性 原告ソフトウェアは、「SST」との互換性を確保するために、Template.mdbを利用しており、それをハンドリングするプログラムは約6000行にも及ぶのであって、原告ソフトウェアの中核的なプログラムになっている。 Template.mdbに仕様書は存在しておらず、流通しているmdbファイルのレコード名(テーブル名)やフィールド名を調べることは比較的容易であったとしても、各フィールドがどのようなセマンティクスを持つのかを正確に把握することは容易ではないから、原告ソフトウェアのソースコードを解析してそれが何を意味するのかを確認、検証しない限り、Template.mdbを利用することはできない。 字幕をTemplate.mdbにエクスポートし、ビデオトロン社の字幕ソフト「EVC−500」(以下、単に「EVC−500」という。)にインポートした場合には、ルビの位置がずれ、文字の色や大きさが抜け、エッジの情報も無くなることがあるから、両者の互換性は保たれているとはいえない。 B 有用性 原告ソフトウェアは、バージョンのアップグレードとダウングレードが簡易かつ自由に実行できる設計となっており、ユーザーはmdb形式の字幕データを利用したい場合には、原告ソフトウェアを古いバージョンにダウングレードするだけで足りる。そして、mdb形式の字幕データは、制作会社等に膨大な数がストックされており、近年、過去のコンテンツについての需要が急激に拡大している。 また、Template.mdbは字幕データそれ自体として多数の情報を網羅し、優れた機能を実現する設計に基づいており、有用性は否定し得ない。 (被告らの主張) (ア)本件ソースコード全体について 本件ソースコード全体が原告の営業秘密であることは積極的に争わない。 (イ)類似箇所1について 類似箇所1は変数の定義部分であり、類似箇所1が列挙しているのは字幕の表示パターンの項目(文字のフォント、大きさ、色、輪郭の有無、ルビの有無など)である。これらの項目は、原告ソフトウェアのユーザーが字幕表示パターンの設定を行う際に使用するダイアログ(表示画面)で確認することができ、秘密ではない。 変数の定義部分は、一般的に「型」、「変数名」及び「注釈」で構成されるところ、類似箇所1は、「型名」、「変数名」、「注釈」及び「空白文字列」で構成され、「空白文字列」は営業秘密と無関係である。これらは変数の定義の仕方として一般的であり、それぞれの項目も、「型名」欄の記載はマイクロソフト社が提供する標準の型の名称であり、「変数名」欄の記載は字幕ソフトが使用する一般的な内容を短い英語表記にしただけであり、「注釈」欄の記載はありふれた一般的な説明である。 したがって、類似箇所1は営業秘密として保護されるものではない。 (ウ)類似箇所2について 類似箇所2は代入演算子のオーバーロードであり、C++言語の仕様の実装にすぎないものであって定型的なものであるから、営業秘密として保護されるものではない。 (エ)類似箇所3について 類似箇所3は比較演算子のオーバーロードであり、C++言語の仕様の実装にすぎないものであって定型的なものであるから、営業秘密として保護されるものではない。 (オ)類似箇所4について Template.mdbと互換性を有するようにするためには、まず互換性を有することとした機能に関係すると考えられるフィールドを探し、そのフィールド名にわかりやすい名前が付されていれば、その名前から内容を容易に把握することができる。 フィールド名から内容が把握できない場合でも、一般に流通するmdbファイルに記載された具体的なデータと字幕の表示画面を見ながら互換性を有することとしたい箇所に関係しそうなデータ(値)を変化させ、それが字幕の表示画面にどのように反映されるかという相関関係を把握すれば、原告が主張するセマンティクスを把握することは容易である。互換性を有するために字幕制作ソフトがどのような手順でその字幕を表示するのかという処理手順のレベルまで把握する必要はなく、その部分のソースコードを被告が独自に書けば足りる。したがって、原告が主張するものが営業秘密として保護されるものではない。 (カ)Template.mdbについて @ Template.mdbの内容 Template.mdbは、本件ソースコードで取り込んだり作成したりした文字データや設定情報を格納するための書式であり、その書式に具体的な字幕データが上書きされて出来上がるものがmdbファイルである。 原告は、Template.mdbのセマンティクスも営業秘密であると主張するところ、セマンティクスとは「データの意味」という意味であり、Template.mdbは書式であることから、セマンティクスを含むという主張は「書式のデータの意味を含む」ということにしかならず、意味が不明である。仮に、原告の主張がmdbファイルのセマンティクスを含むという趣旨であったとしても、下記のとおり、その情報はパスワードがかけられないまま流通しているのであるから、営業秘密に該当しない。 A 秘密管理性・非公知性 本件ソースコードは、書式であるTemplate.mdbのどのフィールドを対象として読み書きするかを指定するためにフィールド名を使用しているだけであり、Template.mdbに字幕データ等を格納するためのソースコードは別に存在しているから、Template.mdbは本件ソースコードと不可分な関係にはない。 Template.mdbは、MicrosoftAccessで作られたファイルであり、フィールド名やデータの型はソフトウェアを利用する者が誰でも確認することができるから、その内容を秘密にしたいのであればパスワードを設定すべきであるが原告はパスワードを設定していない。原告は、Template.mdbを開いただけでは内容を理解できないから秘密に管理されていると主張するが、フィールド名はその内容を容易に推測できる名前が付されているし、仮にフィールド名から内容を推測できない項目があったとしても、それが字幕に関わる項目であることは明らかであるから、推測できた項目を除いていけば内容を予測することができる。 また、Template.mdbの情報は字幕制作者や映像制作者の間で流通するmdbファイルからも確認することができるから、該当箇所の項目の数値を変えて字幕の変化を見たり、逆に目標とする字幕を見つけて該当項目の数値を確認した上で、字幕の設定を変えて数値の変化を確認したりすることにより、機能とフィールド名の相関関係を把握することができる。 さらに、EVC−500もmdbファイルと互換性を有することから、ビデオトロン社もTemplate.mdbの内容を理解していと考えられる。互換性を有するようにするために原告からソースコードを盗み出したとは考え難いのであるから、このことからも、一般に流通しているmdbファイルを見ることによってTemplate.mdbの仕様を理解できると考えられる。 B有用性 被告ソフトウェアは、字幕を保存する方式としてはTemplate.mdbを使用していない。また、原告ソフトウェアにおいても新バージョンではTemplate.mdbの利用を停止している。これらの事情はTemplate.mdbに有用性がないことを示している。 イ 被告らによる使用等が不競法2条1項4号、5号、7号及び8号に規定する不正競争のいずれかに該当するか(争点2−2) (原告の主張) 前記(1)(原告の主張)記載のとおり、本件ソースコード等について、被告らによる使用等があった。また、鑑定の結果によれば類似箇所1ないし3、原告主張の類似箇所4はいずれも不自然に一致ないし類似するとされていること、字幕制作ソフトウェアの業界は原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの寡占状態にあり両者が競争関係にあること、以下のようなAやBの行動及び立場等を総合的に勘案すれば、被告らによる使用等は、不競法2条1項4号、5号、7号及び8号に規定する不正競争のいずれかに該当する。 (ア)Bは、平成16年12月1日、原告に従業員として雇用され、平成22年4月9日に退職するまで、期間の定めのない雇用契約の下で、原告ソフトウェアの開発、制作に携わっていて、本件ソースコードが営業秘密であることを当然認識できた。仮に、Bがフリーの技術者であったとしても、Bは、実質的には被告フェイスの業務に集中的に従事し、被告フェイスの利益のために稼働していて、独立性は乏しく、被告フェイスにおいて一定の権限を有する地位にあった。 (イ)Aは、平成13年8月7日から平成22年5月15日まで、原告においてシステムエンジニアとして稼働し、原告ソフトウェアの開発責任者として本件ソースコードを作成、管理する立場にあり、本件ソースコードにアクセスすることができ、本件ソースコードが原告の営業秘密に該当することを認識できた。Aは、原告を退職した際、Aが所管する事務についての引継ぎを十分に行わず、原告ソフトウェアについての引継ぎの連絡担当として最適である原告の営業部門責任者であったCとのやり取りを拒否し、連絡窓口として原告ソフトウェアについて全く無知であるDを指定するなど非協力的な姿勢をとっていた。 (被告らの主張) (ア)本件ソースコード全体について 本件ソースコード全体について、被告らによる使用等がないのであるから、不正競争の有無を検討する前提を欠く。 (イ)類似箇所1ないし3、SSTDB.cppファイルについて 前記(1)(被告らの主張)記載の経緯のとおり、Bは、被告ソフトウェアの制作に際して類似箇所1ないし3を参照し、被告フェイスはそれにより類似箇所1ないし3を含む被告ソフトウェアを開発、販売した。 しかし、Bはフリーの技術者であるから、新しい技術のテストや外部ライブラリの評価のために自ら独自に評価プログラムを作ることは珍しいことではない。そして、従前作った評価プログラムを別のクライアントのために再利用することは法律上も契約上も禁止されていないから、被告フェイスからの業務委託を受け、被告ソフトウェアを開発するに当たって、自らのパソコンに残っていた類似箇所1を参照して使用したり、そこから類似箇所2及び3を複製して使用したりしたことは非難されることではない。 したがって、Bや被告フェイスの前記行為は、いずれも不正競争に該当しない。 被告らによる使用があると原告が主張するSSTDB.cppファイル全体については、被告らによる使用等がないのであるから、不正競争の有無を検討する前提を欠く。 (ウ)Template.mdbについて 前記(1)(被告らの主張)記載のとおり、Template.mdbのセマンティクスについての被告らによる使用等はなかったのであるから、不正競争の有無を検討する前提を欠く。 (3)損害の発生の有無及びその額(争点3) (原告の主張) ア 不競法5条1項 原告ソフトウェアの価格は90万7200円であり、その利益率は40パーセントを下らないから、単位数量当たりの利益額は36万2880円である。また、被告ソフトウェアの売上本数は、●(省略)● イ 不競法5条2項 被告らの主張を前提とすれば、被告ソフトウェアの売上は●(省略)●同額が原告が被った損害額となる。 ウ 弁護士費用(ア、イ共通) 被告らの不正競争行為と因果関係のある弁護士費用は500万円を下ることはない。 (被告らの主張) ア 不競法5条1項 原告ソフトウェアの購入者のほとんどは個人の翻訳家であり、個人の翻訳家は基本機能のみのバージョンを購入することになるところ、その価格は14万円から30万円程度であるから、原告が主張する利益率である40パーセントを前提としたとしても(被告らは利益率が40パーセントであることは争う。)、単位数量当たりの利益額は5万6000円から12万円程度である。 被告ソフトウェアの売上は、●(省略)●ドングル版以外の前記AないしCについては、原告は原告ソフトウェアにおいて対応するものを展開していないことなどから、販売することができない事情があるというべきである(不競法5条1項ただし書)。 さらに、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの類似箇所は全体の0.018パーセントにすぎないのであるから、寄与率を乗じた損害額の減額がされるべきであるし、字幕ソフトウェアの分野では原告ソフトウェアと被告ソフトウェアのほかに競合品が存在しているから、それを踏まえた損害額の減額がされるべきである。 イ 不競法5条2項 被告ソフトウェアの販売利益は出ておらず、赤字である。また、被告ソフトウェアの売上は、前記アのとおりである。 第3 争点に対する判断 1 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。 (1)本件鑑定で用いられたソースコードの分析の手法及びその鑑定結果の概要は以下のとおりである。(鑑定の結果〔4頁ないし12頁、17頁、24頁ないし27頁〕) ア 本件鑑定においては、原告の意見等も踏まえ、本件ソースコードのうち114種類のソースファイルが鑑定対象とされ、本件ソースコードのうち一つまたは複数のソースコードに対して被告ソフトウェアの複数のソースコードを比較すべき場合があることから、300組のソースコードのペアについて、一致点の有無等が判断された。 イ 前記の300組のソースコードのペアについて、類似性や共通性を判断するため、8種類のコードクローン検出(コードクローンとはソースコード中に相互に一致又は類似したコード断片をいう。)を実施した。 8種類のコードクローン検出の方法の概要は、@識別子とリテラルのオーバーラップ係数を用いて名前の包含度合いを確認する、A識別子とリテラルのコサイン係数を用いて名前の一致度合いを確認する、B識別子とリテラルの部分文字列のオーバーラップ係数を用いて名前の文字並びの包含度合いを確認する、C識別子とリテラルの部分文字列のコサイン係数を用いて名前の文字並びの一致度合いを確認する、Dコメントの部分文字列のオーバーラップ係数を用いてコメントの文字並びの包含度合いを確認する、Eコメントの文字列のコサイン係数を用いてコメントの文字並びの一致度合いを確認する、Fキーワードや記号の系列にSmith−Watermanアルゴリズムを適用してソースコードの文字並びの一致度合いを確認する、G前記アルゴリズムをソースコードの長さで正規化してソースコードの構造の一致度合いを確認するというものであった。 ウ 前記イの8種類のコードクローン検出を実施し、1種類以上の方法で類似性についての一定の閾値を超えたものを要注意コード・ペアとして取り扱った。この要注意コード・ペアは、300組中57組存在した。 エ 前記ウの結果を参考にしつつ、鑑定人が300組全てのソースコードのペアについて目視確認を行い、共通性や類似性が疑われるソースコードのペアを選んだ。その結果、原告ソフトウェアのソースファイルと被告ソフトウェアのソースファイルには、@「GlobalSettings.h」と「SourceDefault.h」(順に、原告ソフトウェアのソースファイルと被告ソフトウェアのソースファイル。以下、同じ。)、A「GlobalSettings.cpp」と「SourceDefault.cpp」、B「SSTDB.cpp」と「Mdb.cpp」、C「AutoLocker.h」と「SafeLocker.h」、D「AutoLocker.cpp」と「SafeLocker.cpp」につき、共通性や類似性が疑われる箇所が発見された(類似箇所1ないし5)。 オ(ア)類似箇所1について 前記エの@の一致点ないし類似点は別紙a(鑑定書の表1.3及び1.4)記載のとおりである。被告ソフトウェアでは、字幕データの標準値をSourceDefault.hのCsourceDefaultクラスのパブリック変数に格納し、原告ソフトウェアでは、字幕データの標準値をGlobalSettings.hのCGlobalSettingsクラスのパブリック変数に格納しており、それらの主な役割は字幕データの標準値を格納する変数を宣言することにある。被告ソフトウェアのソースコードで宣言されている変数30個のうち、20個の宣言については型、コメント、インデント(型名と変数名の間の空白文字列、変数名と注釈の間の空白文字列)を含めて本件ソースコードの類似箇所1と完全に一致し、5個の宣言については少なくとも変数名が本件ソースコードの類似箇所1と一致していた。 (イ)類似箇所2について 前記エのAの一致点ないし類似点は別紙b(鑑定書の表1.5及び1.6)記載のとおりである。被告ソフトウェアのソースコードのSourceDefault.cppが実装するCsourceDefaultクラスの代入演算子のオーバーロードで参照されている変数30個のうち21個の変数について、本件ソースコードの類似箇所2のGlobalSettings.cppが実装するCGlobalSettingsクラスの代入演算値のオーバーロードで参照される変数と変数名及び注釈が一致していた。 (ウ)類似箇所3について 前記エのBの一致点ないし類似点は別紙c(鑑定書の表1.7及び表1.8)記載のとおりである。被告ソフトウェアのソースコードのSourceDefault.cppが実装するCsourceDefaultクラスの比較演算子のオーバーロードで参照されている変数29個のうち20個の変数について、本件ソースコードの類似箇所3のGlobalSettings.cppが実装するCGlobalSettingsクラスの比較演算値のオーバーロードで参照される変数と変数名及び注釈が一致していた。 (エ)類似箇所4について 前記エのCの一致点ないし類似点は別紙d(鑑定書の表1.9)記載のとおりである。原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、字幕データの標準値をmdb形式のデータベースに保管するために、ActiveXDateObjects(ADO)を利用しており、ADOでデータの読み書きをする場合にはRecordsetと呼ばれるオブジェクトを経由する。Recordsetはレコード(行)とフィールド(列)で構成され、フィールド名を指定してレコードの読み書きを行う。 被告ソフトウェアのデータベース(Mdb.cpp)で用いられている52件のフィールド名は、全て原告ソフトウェアのデータベース(SSTDB.cpp)で用いられているフィールド名(類似箇所4)と同じものであった。 (オ)類似箇所5について 前記エのDの一致点ないし類似点(類似箇所5)は別紙e(鑑定書の表1.10)記載のとおりである。クリティカルセクションに関するユーティリティクラスを実装する部分についての共通性が見られた。 カ 鑑定人は、類似箇所1ないし4について原告と被告のソースコードが不自然に類似・共通する箇所が存在すると判断し、類似箇所5については原告と被告のソースコードに類似性や共通性が見られるがその理由が不自然であるとまではいえないと判断した。 また、類似箇所1ないし5のほかに、鑑定対象とされた300組のソースコードのペアの中に共通性や類似性が疑われる箇所は発見されなかった。 キ 鑑定人は、類似箇所1ないし5について、原告ソフトウェアを参照せずに被告らが独自に作成することが可能であるか否かにつき、以下のとおり判断した。 (ア)類似箇所1について 原告ソフトウェアのソースコードの一部がサンプルで公開されていたなどといった外部要因がないことを前提とすれば、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの開発者は必ず同一人物である。被告ソフトウェアを開発する際に原告ソフトウェアを参照した可能性が高いが、参照せずに開発することが全く不可能であるとまでは言い切れない。 もっとも、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの開発者が同一人物であり、その人物の記憶を手掛かりとしても、原告ソフトウェアのソースコードを参照せずに類似箇所1で見られるような細かい特徴まで一致させることは難しいと考えることが自然である。 (イ)類似箇所2、3について 類似箇所2、3については、類似箇所1の変数やコメントをコピーして作成された可能性があるから、これらの類似点のみによって原告ソフトウェアを参照せずに被告らが被告ソフトウェアを独自に作成することが可能であるか否かを判断することはできない。 (ウ)類似箇所4について 被告らがmdbファイルに関する情報を全く持っていなかったと仮定すれば、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの開発者は必ず同一人物である。類似箇所4とそれに対応する被告ソフトウェアのソースコードの一致が発生する要因としては、@被告らが原告ソフトウェアを参照して被告ソフトウェアを開発した、A被告らが原告ソフトウェアのmdbデータベースの構造を解析して、フィールド名を抽出した上で被告ソフトウェアを開発した、B何らかの事情により、原告ソフトウェアのmdbデータベースのフィールド名に関する情報が公開されていたという事情が考えられる。前記@が唯一の要因であるとすれば、被告ソフトウェアの独自性は著しく低いと判断される。 mdbファイルはMicrosoftAccessで開くことができるため、原告ソフトウェアが生成するmdbファイルのレコード名(テーブル名)やフィールド名を調べることは比較的容易である。ただし、各フィールドがどのようなセマンティクスを持つのかを正確に把握することは容易なことではない。 (エ)類似箇所5について クリティカルセクションに関する処理は定型的であること、クリティカルセクションに関する処理は字幕制作に特化したものではないこと、同一人物が同じ発想で実装することが不可能ではないと考えられることなどの事情から、ソースコードが似てしまうのはやむを得ないと考えられ、類似箇所5とそれに対応する被告ソフトウェアのソースコードの一致から被告ソフトウェアを開発する際に原告ソフトウェアを参照したとは推定することはできない。 (2)ア 被告ソフトウェアのソースコードには、少なくとも5か所に「SDB」という文字が表示されていた。(甲51の1ないし5) イ(ア)原告ソフトウェアには、「.xlsx」(平成19年以降のバージョンの拡張子)形式のExcelファイルをエクスポートする際に「.xls」(同年以前のバージョンの拡張子)形式でエクスポートするという不具合が存在していたところ、平成25年に発売された被告ソフトウェアにも同様の不具合が存在していた。(甲17、18、乙4) 鑑定人は、前記の現象が生じた原因として考えられるものとして、@被告ソフトウェアの開発環境が何らかの理由で古く、Excel2007よりも古いバージョンのExcelがインストールされていた、AExcel2007以降のバージョンがインストールされていた場合の問題点に被告ソフトウェアの開発者が気付いていなかった、BExcel2007以降でデフォルトの拡張子が「.xlsx」に変更されたことを被告ソフトウェアの開発者が知らなかった、C被告ソフトウェアのテストを十分に行っていなかったという事情を挙げるとともに、前記の現象を根拠として被告らが原告ソフトウェアを参照ないし複製したと主張するのは無理があるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔34、35頁〕) (イ)原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、Excelの言語設定を英語にした上でExcelファイルをエクスポートすると、いずれもハングアップするという現象が生じた。(甲62) 鑑定人は、前記の現象が生じた原因として考えられるものとして、@Excelの編集言語が日本語以外に設定されたとき、ルビに関するインターフェイスが利用不可になるという仕様を原告と被告らの開発者が知らなかった、A原告と被告らはExcelの編集言語が日本語以外に設定されている環境でソフトウェアのテストを実施しなかった、B原告と被告らの開発者はともにエラー処理への対応を十分にコーディングしていなかったという事情を挙げるとともに、前記の現象を根拠として被告らが原告ソフトウェアを参照ないし複製したと主張するのは無理があるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔38、39頁〕) (ウ)原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、エクスポート先をC:¥に設定した上でExcelファイルをエクスポートすると、いずれもハングアップするという現象が生じた。(甲63) 鑑定人は、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアでは、前記の現象が発生する原因が異なっていて、前記の現象を根拠として被告らが原告ソフトウェアを参照ないし複製したと主張するのは無理があるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔40、41頁〕) (エ)原告ソフトウェアで字幕表示位置の初期値を「縦右」にしたファイルを作成しエクスポートした後、それを原告ソフトウェアと被告ソフトウェアにインポートした場合、どちらも「横書」の設定でインポートされるという不具合が生じた。(甲60) (オ)原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、字幕表示位置を縦書、右側寄せに設定した場合、ピリオドの表示位置が通常あるべき位置からずれるという現象が生じた。(甲64、65) 鑑定人は、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアで文字の表示位置を左下から右上に移動させる処理が大きく異なっていることなどから、前記の現象を根拠として被告らが原告ソフトウェアを参照ないし複製したと主張するのは無理があるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔46、47頁〕) ウ 本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードでは、字数の長い変数や定数の定義が完全に一致している箇所が3か所あったほか、「Quotate」と記載すべきところを「Quatate」としている誤記が一致していた。(甲19) 本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードでは、「円周率(VC7はmath.hに定義有り)」という無意味なコメントが一致していた。(甲20、21) 鑑定人は、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアにはスペルミスがあるが、これらのスペルミスは、いずれかのソフトウェアのみに存在するものが多く、両者のソフトウェアで共通するものは圧倒的に少ないことから、スペルミスの共通性を根拠として被告らが原告ソフトウェアを参照ないし複製したと主張するのは無理があるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔28頁〕) エ 原告ソフトウェアにおいて、ルビを「ITALIC_SYNC」、「ITALIC_ASYNC」と設定し、Template.mdbでエクスポートし、それを原告ソフトウェア及び被告ソフトウェアにインポートした場合、それらのルビが消えるという現象が生じる。EVC−500にインポートした場合には、それらのルビが消えることはなかった。(甲110の1ないし5) オ 原告は、被告ソフトウェアのソースコード等を対象として証拠保全の申立てをし(千葉地方裁判所松戸支部平成25年(モ)第31号)、平成25年3月8日付け証拠保全決定に基づき、同年4月4日、被告フェイスの松戸事務所において証拠保全手続が実施された。被告フェイスは、被告ソフトウェアのソースコードの一部を任意で開示したが、被告ソフトウェアのソースツリーに表示された「Draw」以下に含まれるデータについては、いわゆるライブラリであり、被告フェイスの他のソフトウェアも参照するものであるとして、開示を拒否した。(甲26、27、乙4) 原告は、平成25年4月6日時点で被告フェイスが販売している被告ソフトウェアのソースコードのうち、C++言語で記述された周辺機能のライブラリ部分に含まれる13のプログラムのソースコードを対象とする証拠保全の申立てをし(千葉地方裁判所松戸支部平成25年(モ)第50号)、同年5月10日付け証拠保全決定等に基づき、同月17日、被告フェイスの松戸事務所において証拠保全手続が実施された。当該手続は、対象となるソースコードについては更新日時が同年4月6日以前のものは存在しないことを理由として、検証不能により終了した。(甲28、29、乙4) カ 被告ソフトウェアの開発環境(VisualSouceSafe)には、ソース管理ツールの出力ウィンドウに「操作は…正常に完了しました。」という表示があった。(甲22の4) 被告ソフトウェアのPlug.dllファイルやProject.dllファイルは、平成25年から平成26年の間に、ファイルバージョンが更新された。(甲68) 被告フェイスは、被告ソフトウェアの機能が更新される都度、その修正事項や追加事項についてのリリースノートを公表していた。(甲44) キ 原告ソフトウェアの価格は、平成24年7月時点で、基本編集機能につき28万円(税抜価格。以下同じ。)、高等編集機能につき19万円、データインポートオプション(4項目)につき1項目当たり9万8000円、データエクスポートオプション(12項目)につき1項目当たり9万8000円から29万8000円であった。なお、被告ソフトウェアに対応する機能の価格を合計すると、消費税率を5パーセントとした場合の税込価格は90万7200円となる。(甲14、43) 他方、被告ソフトウェアの基本バージョンは15万円であり、実際に販売された被告ソフトウェアのドングル版の価格はその機能に応じて10万円から30万円程度である。(甲15、弁論の全趣旨−被告準備書面17別紙) ク 被告ソフトウェアのソースコードは、C#言語(拡張子が「.cs」のファイル)とC++言語(拡張子が「.cpp」のファイル)の二つの言語で構成されており、C++/CLI言語で書かれたソースコードも多数含まれていた。(甲22の1及び2、弁論の全趣旨) 鑑定人は、「Visualstudio」を用いた開発において、C++言語とC#言語を使い分けることは合理的な選択であるし、C++/CLI言語はそれらの橋渡しをするものであるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔52頁〕) ケ 被告ソフトウェアの開発環境は、「VisualStudio2005」であったところ、この開発環境はWindows7までのOSにしか対応しておらず、平成23年から試用版が提供され、平成24年10月に発売された次世代のWindows8では動作しなかった。(甲53、弁論の全趣旨) 鑑定人は、被告らが「Visualstudio2005」を開発環境とした理由は不明であるが、あえて推測すれば、@被告らが「Visualstudio2005」のライセンスを既に所有しており、新バージョンのライセンスを購入するコストを節約したかった、A他の開発プロジェクト等で「Visualstudio2005」を使用していたため、新バージョンの「Visualstudio」の開発環境との共存が難しかった、B開発5者が最も使い慣れている開発環境が「Visualstudio2005」及び「.NetFramework2.0」であった、C被告ソフトウェアの開発が始まったとされる時期よりも前に、何らかの理由によりC#言語及び「.NetFramework」でソフトウェアの開発を開始していた、D被告ソフトウェアの開発において、開発環境をアップグレードすることによって得られるメリットが少なかったという事情が考えられるとの意見を述べた。(鑑定の結果〔54ないし56頁〕) (3)ア Template.mdbは、字幕データや設定情報等を格納するための書式であり、その書式に具体的な字幕データ等が上書きされて出来上がるデータがmdbファイルである。mdbファイルは、字幕制作者や映像制作者の間で字幕データ等のファイルの一つとして一般的に使われている。(弁論の全趣旨) イ 原告ソフトウェアでは、Template.mdbは「SST」のアプリに関連する。Template.mdbのデータの扱いには約6000行のソースコードが関連している。(甲57、75、76の1及び2、104) ウ Template.mdbは、MicrosoftAccessのデザインビューで開くと、各テーブルのフィールド名やデータの型等を確認することができる。(甲48、50) エ Template.mdbのsrtFormatフィールドは、以下のとおり使用される。(甲111(枝番を含む。以下同じ。)ないし116) ●(省略)● カ 原告ソフトウェアで作成した字幕ファイルをTemplate.mdbでエクスポートした後、それをEVC−500にインポートすると、字幕位置を「横下中頭」、「横下中末」及び「縦右行頭」とした場合には互換性を有していたが、それ以外の設定では互換性を有していなかった。他方、被告ソフトウェアでは完全に互換性を有していた。(甲107の1ないし4、125、乙26) キ 原告ソフトウェアにおいて、ルビを「ITALIC_SYNC」、「ITALIC_ASYNC」と設定し、Template.mdbでエクスポートし、それを原告ソフトウェア及び被告ソフトウェアにインポートした場合、それらのルビが消えるという現象が生じるが、EVC−500にインポートした場合には、それらのルビが消えることはなかった。(前記) 2 争点1(本件ソースコード等についての被告らによる使用等の有無)について (1)前記1(1)によれば、本件ソースコードについて、鑑定対象とされた300組のソースコードのペアにおいて、共通性や類似性が疑われる箇所は類似箇所1ないし5のみであったこと、本件鑑定の手法に不合理な部分は認められないことが認められ、また、本件ソースコードについて被告らによる使用等の根拠として原告が主張する事実は、そもそも被告らによる使用等を推認させるとはいえないとの意見を鑑定人が述べたものがあるほか(前記1(2)イ、ウ、ク、ケ)、その内容から、いずれも被告らによる本件ソースコードの使用等を直接裏付けるものとはいえない。更に、後記(5)ウのとおり、Template.mdbに関する原告の主張は採用することはできない。 これらを総合すれば、鑑定において類似箇所として指摘された部分である類似箇所1ないし5は別として、本件ソースコード全体やTemplate.mdbに関して原告が主張する情報、前記類似箇所以外の本件ソースコードの一部について、被告らによる使用等はなかったと認めるのが相当である。 (2)類似箇所1ないし3について 前記1(1)によれば、類似箇所1ないし3について、本件ソースコードの被告らによる使用等があったと認められる。そして、Bが、原告ソフトウェアの開発に携わった者の一人であり、被告ソフトウェアについて実際の開発、制作を担当したこと(前提事実(1))及び弁論の全趣旨から、Bは、被告ソフトウェアの開発の際、本件ソースコードの類似箇所1ないし3に対応する部分を使用して被告ソフトウェアを制作等し、もって、類似箇所1ないし3を被告フェイスに対して開示し、また、被告フェイスにおいてそれを取得して使用したと認められる。 (3)類似箇所4について 前記1(1)によれば、類似箇所4については、被告ソフトウェアのデータベースで用いられている52件のフィールドの名前が原告ソフトウェアのデータベースで用いられているものと同じであると指摘されており、被告らもTemplate.mdbの複製について認めていることに照らせば、類似箇所4については、類似箇所1ないし3についてと同様の理由から、Bから被告フェイスに対する開示及び被告フェイスによるその使用があったと認められる。 (4)類似箇所5について 鑑定において、前記1(1)キ(エ)のとおり、類似箇所5について、当該部分の処理が定型的なものであることなどからソースコードが似てしまうのはやむを得ないなどとして、ソースコードの一致から、被告らが被告ソフトウェアを開発する際に原告ソフトウェアを参照したと推定することはできないとされた。そして、他に類似箇所5を被告らが使用等したことを的確に裏付ける証拠はない。 これらによれば、類似箇所5についての被告らによる使用等は認められない。 (5)類似箇所1ないし5以外について ア 本件ソースコード全体について 原告は、被告ソフトウェアに原告ソフトウェアで使用されているsdb形式の字幕データベースが実装されていること、被告ソフトウェアと原告ソフトウェアに共通したバグが存在していることなど、第2の4(1)争点1に関する当事者の主張)の(原告の主張)ア記載のとおりの事実を主張して、本件ソースコード全体について被告らによる使用等があると推認することができると主張する。そして、前記主張に関連する事実として、前記1(2)アないしケの事実が認められる。 しかしながら、前記1(2)で認定した事実のうち一部(前記1(2)イ、ウ、ク、ケ)について、鑑定人は、それらの事実からは被告らによる使用等を推認できないという意見を述べていることや、前記1のとおり、類似箇所1ないし5以外に類似はないとした鑑定の手法に不合理な点がないこと、前記1(2)アないしケの事実は被告らによる使用等を直接裏付けるものとはいえないこと等を踏まえれば、原告の主張する事実によって本件ソースコード全体について被告らによる使用等があったと推認するには足らない。したがって、原告の前記主張は採用できない。 イ STTDB.cppファイル全体について 原告は、類似箇所4に関連して、フィールド名だけでなく、SSTDB.cppファイル全体について、被告らによる使用等があったと主張する。しかしながら、前記1(1)のとおり、鑑定においても、類似箇所4についてはフィールド名の一致が指摘されるにとどまり、本件ソースコードと被告ソフトウェアのソースコードとの間には類似箇所1ないし5以外に一致ないし類似している箇所はなかったとされた。これらによれば、SSTDB.cppファイル全体について被告らによる使用等があったとは認められず、原告の前記主張は採用できない。 ウ Template.mdbについて25 原告は、被告ソフトウェアが原告ソフトウェア(Template.mdb)と互換性を有している事実等から、Template.mdbのセマンティクスについて被告らによる使用等があったことが推認されると主張する。 しかしながら、前記1(3)ア、ウ及びオのとおり、Template.mdbに具体的な字幕データ等を上書きしたファイルであるmdbファイルは字幕製作者等の間で字幕データのファイルの一つとして一般的に使われているものである。そして、mdbファイルを市販されているMicrosoftAccessで開くと、フィールド名に分かりやすい名前が付されている場合には、その名前から内容を容易に把握することができるし(甲50)、そうでない場合であっても、例えば、●(省略)● そうすると、mdbファイルのフィールド名から内容を把握できなくても、MicrosoftAccessという市販されているソフトウェアによって、そのフィールドにおける字幕データの入力内容を変化させ、その変化に対して前記の数字や文字列がどのように変化するかを確認することができ、この確認に基づいて字幕データとmdbファイルで各フィールドに表示される数字や文字列の関係を把握することが可能であると認められる。そして、その把握を基礎として、字幕データが各指定項目において変化してもmdbファイルと同様の字幕を表示することができるような独自のソースコードを開発して、Template.mdbと互換性を有することとなるようにプログラムを作成することが可能であると認められる。原告と関係なく開発されたと考えられるEVC−500が一定の範囲ではあるが、原告ソフトウェア(Template.mdb)と互換性を有すること(前記1(3)カ)も、このことを裏付けるといえる。上記のような開発は、本件で営業秘密と主張されているソースコード等を使用したものとはいえない。なお、EVC−500には項目によっては互換性を有しないものもあるが、どの範囲において互換性を有することとするかは開発者の方針に従って定められるものであり、EVC−500が互換性を有しない項目について、前記に述べた方法で開発をすることが不可能であることを認めるに足りる証拠はないから、EVC−500が全ての項目において互換性を有しないとしても、前記の認定を左右するものではない。鑑定人も、前記1(1)のとおり、類似箇所4とそれに対応する被告ソフトウェアのソースコードの一致が生じた原因として、被告らがmdbデータベースの構造を解析し、フィールド名を抽出した上で被告ソフトウェアを開発した可能性を指摘するとともに、このような開発がされた場合には類似箇所4とそれに対応する被告ソフトウェアのソースコードの一致から被告ソフトウェアの独自性が低いとは判断できないとしている。なお、鑑定人はフィールドが持つセマンティクスを正確に把握することは容易ではないという意見も述べているが(前記1(1)キ(ウ))、原告ソフトウェアにおけるソースコードの具体的な内容そのものを把握することは困難であったとしても、互換性を有することとなるように被告らが独自にソースコードを開発することは前記のとおり可能であったと認められる。 また、原告は、原告ソフトウェアにおいて、ルビを「ITALIC_SYNC」、「ITALIC_ASYNC」と設定し、Template.mdbでエクスポートし、それを原告ソフトウェア及び被告ソフトウェアにインポートした場合には、それらのルビが消えるという共通の現象が生じると主張する。しかし、仮にそのような現象が認められるとしても、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアはいずれもBが開発に関与したものであり、Bが自らの手法の一つとして「ITALIC_SYNC」を制御文字列に使用することはあり得るのであり(被告らは、被告ソフトウェアについて可能な限り原告ソフトウェアと互換性を有するように開発していたところ、原告ソフトウェアの開発者でもあったBは、原告ソフトウェアの開発の際にmdbファイルでシンク機能を実現するために「ITALIC_SYNC」という造語を制御文字列として使った記憶があったため、被告ソフトウェアの開発の際にも同様の機能を有することにしたと主張する。)、それらによってTemplate.mdbのセマンティクスの被告らによる使用等を認めるには足りない。 以上によれば、被告ソフトウェアが原告ソフトウェア(Template.mdb)と互換性を有している事実は、Template.mdbのセマンティクスについての被告らによる使用等を推認させるものではない。 したがって、原告の前記主張は採用できない。 (6)小括 以上によれば、本件ソースコード等のうち、類似箇所1ないし4について、Bの被告フェイスに対する開示及び被告フェイスによるその使用等があったと認められるが、その余の部分についての被告らによる使用等は認められない。 3 争点2(本件ソースコード等についての被告らによる使用等の不正競争行為該当性)について 類似箇所4は、ソースファイル「SSTDB.cpp」のフィールド名であり、これについて被告らによる使用等が認められるところ、原告は、前記フィールド名については原告の営業秘密であるとの主張はしておらず(原告第9準備書面の22頁)、前記2において被告らによる使用等が認められた部分のうち、類似箇所1ないし3についての営業秘密性及び不正競争該当性について、以下検討する。 (1)争点2−1(営業秘密性)について ア 前記1(1)のとおり、類似箇所1ないし3はいずれも本件ソースコードの一部を構成するものである。そして、原告が開発、制作して販売している原告ソフトウェアに係る本件ソースコードの全体は原告の営業秘密であると認められるところ、ソースコードはそれぞれの構成部分が相互に関連したり作用したりしながら一定の動作を実現するものであることに照らせば、特段の事情がない限り、本件ソースコードの構成部分である類似箇所1ないし3も原告の営業秘密であると認めることが相当である。 そして、類似箇所1ないし3は本件ソースコードにおける変数名、型名、注釈等を宣言するものであるところ、それらが本件ソースコードの他の部分と異なって管理されていたとは認めるに足りない。また、それらは本件ソースコードにおいて様々な形で利用され、多岐にわたる機能に影響を及ぼす有用なものであるといえるし、被告らも将来的な機能の拡張に対応するという観点に照らして型名が選択される場合もあると主張しており(被告準備書面(13)、19頁)、型名の選択も有用性を肯定し得る。さらに、類似箇所1とそれに対応する被告ソフトウェアのソースコードはそれらの字幕データの標準値(変数名)をパブリック・メンバ変数(公開変数)に格納している点も一致しており(鑑定の結果〔4頁〕)、ソースコードにおいて変数を公開とするか非公開とするかという情報もその開発に際して技術的に有用なものであることは当業者が知り得る技術常識であるといい得る。これらの内容について、後記イのとおり外部に全て明らかであったとはいえず、その他公然と知られていたことを肯定するような事情は見当たらない。 これらによれば、本件で特段の事情はなく、類似箇所1ないし3は、いずれも原告の営業秘密であると認められる。 イ これに対し、被告らは、類似箇所1については原告ソフトウェアのユーザーが字幕表示パターンの設定を行う際に使用するダイアログ(表示画面)で確認することができるから秘密にする意味がなく、変数の定義の仕方としても一般的なものであると主張する。しかし、ダイアログ(表示画面)から認識できるのはその設定項目のみであり、型名についてはmdbファイルを開いてもそれを完全に把握することまでは困難である可能性があり(甲49、50)、変数名及び注釈や変数を公開とするか非公開とするかという情報については、ソースコードを見ない限り、ソースコード中でどのように宣言されているのかはユーザーから認識することはできない。また、被告らは、類似箇所2、3についてもこれらは演算子のオーバーロードであって定型的な処理であるなどと主張するが、前記と同様に、具体的なソースコードの記載内容はソースコードを見ない限りユーザーから認識できない。これらによれば、類似箇所1ないし3が営業秘密ではないとする被告らの主張は採用できない。 (2)争点2−2(不正競争該当性)について ア 原告は、原告代表者が著作権を買い受けた字幕制作ソフトウェア「SST」を改良することとし、開発を進めて原告ソフトウェアを制作した。Bは、原告ソフトウェアの開発、制作に携わった者の一人であり、前記の開発、制作に当たり、原告との間で、勤務場所を原告の本社とし、勤務時間を午前11時から午後5時をコアタイムとし、休憩時間を午前12時から午後1時とする1日8時間として、基本給を時間制で定め、勤務の翌々月の15日に1か月分の賃金を受け取る契約を締結していた(前提事実(1)、甲37)。 Bは、その後、被告フェイスからの業務委託に基づき被告ソフトウェアの実際の開発、制作を担当した(前提事実(2))。 イ 原告ソフトウェアが開発されるに至った経緯や原告ソフトウェア開発の際のBの勤務の形態等に照らしても、原告ソフトウェアの開発、制作は原告の指示に基づきされたといえるものであり、本件ソースコードは原告が保有すると認められる。そして、原告ソフトウェアの開発、制作に携わった者の一人であるBは、類似箇所1ないし3が本件ソースコードの一部であることや、販売用ソフトウェアのソースコードという本件ソースコードの性質やその開発等の経緯等から、それが原告が保有する営業秘密であることを認識できたといえる。 これらを考慮すると、Bが原告ソフトウェアと販売上も競合する被告ソフトウェアを開発、制作するに当たって類似箇所1ないし3を使用したことは、原告から示された営業秘密を、図利加害目的をもって被告フェイスに開示したものと認めることが相当である(不競法2条1項7号)。 被告フェイスは、被告ソフトウェアが原告ソフトウェアと同種の製品であり、字幕データファイル等について互換性を有するという特徴を有するものであることや、上記のような機能を有する被告ソフトウェアの開発を具体的に行うBが原告ソフトウェアの開発に携わった者の一人であったことは認識していたと認められる。これらのことから、被告フェイスは、被告ソフトウェアの具体的な開発を委託したBによる被告ソフトウェアの開発過程等において違法行為が行われないよう特に注意を払うべき立場にあった。不競法2条1項8号にいう重過失とは、取引上要求される注意義務を尽くせば容易に不正開示行為等が判明するにもかかわらずその義務に違反した場合をいうところ、被告フェイスにおいて、前記の事情に照らせば、前記の注意義務を尽くせば被告ソフトウェアの開発過程等においてBの不正開示行為が介在したことが容易に判明したといえ、被告フェイスは、少なくとも重過失により、原告の営業秘密である類似箇所1ないし3をBから取得し、それらを被告ソフトウェアに用いて販売したと認めるのが相当である(不競法2条1項8号)。 Aについて、被告ソフトウェアの開発、制作に当たって、具体的な本件ソースコードを被告フェイスに開示した事実を認めるには足りないし、その他、Aにおいて、不正競争行為となる事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、Aについて、不正競争行為は認められない。 イ 被告らは、類似箇所1ないし3が被告ソフトウェアのソースコードと一致ないし類似するに至った原因は、Bが、原告ソフトウェアを開発するに際してライブラリの選択等のために独自に自らのパソコンで作成し、そのパソコンに残っていた簡易な評価プログラムやそのプログラムに含まれる変数定義部分を被告ソフトウェアの開発の際にも参照したことにあり、そのような行為は非難されるべきものではないなどと主張する。 しかしながら、同事実関係を裏付ける証拠はない。また、前記の評価プログラムは、それが作成、使用されたとしても、その評価の対象となる本件ソースコードの存在を前提として作成、使用されたものと考えられ、変数定義部分が前記評価プログラムの作成又は使用によってBのパソコンに残っていたとしても、それが本件ソースコードの一部である以上、前記に述べたところと同様の理由により、原告から示された営業秘密であるとするのが相当であり、また、Bにおいて、そのことを認識することができたといえる。これらに照らせば、被告らの主張は、Bにおいて類似箇所1ないし3を被告ソフトウェアの開発の際に使用する行為が不競法2条1項7号にいう不正競争に該当するなどの前記結論を左右するものではない。 (3)小括 以上の検討によれば、Bの行為は不競法2条1項7号の不正競争に、被告フェイスの行為は不競法2条1項8号の不正競争にそれぞれ該当する。 4 営業上の利益の侵害又はそのおそれの有無 前記3のとおり、原告の営業秘密である類似箇所1ないし3についてB及び被告フェイスの不正競争行為が存在しているから、それらを使用する被告ソフトウェアの製造や販売によって、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。 したがって、原告は、不競法3条1項及び2項に基づき、B及び被告フェイスに対し、類似箇所1ないし3が使用された被告ソフトウェアの製造等の差止め及び廃棄を求めることができる。また、被告らによる使用等がされた部分に照らせば、原告ソフトウェアを構成するソースコードの全体について使用等のおそれがあると認めるには足りないが、そのうちの類似箇所1ないし3のソースコードである別紙物件目録2−2記載のソースコードについては、使用等のおそれがあり、その使用等が不正競争行為になるから、原告は、B及び被告フェイスに対し、その使用等の禁止及び同ソースコードを記録した記憶媒体の廃棄を求めることができる。 5 争点3に関する判断 (1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。 ア 平成25年2月から平成30年1月までにおける被告ソフトウェアについて、@ソフトウェアの利用にドングルというハードウェアキーが必要であるドングル版のソフトウェアの販売数が●(省略)● イ 被告ソフトウェアのドングル版とオンライン版は、システム要件、基本編集機能、インポート/エクスポート機能及び対応映像フォーマットのいずれの機能においても差異はない。(甲138) ウ 原告ソフトウェアの価格(税抜価格)は、平成24年7月時点で、@基本編集機能28万円、A高等編集オプション19万円、Bデータインポートオプションは一種類のインポート機能につき9万8000円、Cデータエクスポートオプションは一種類のエクスポート機能につき9万8000円から29万8000円である。(甲14) エ 原告の取引先は、制作会社や官公庁が約132団体であり、個人の翻訳家が約2500人である。(乙41) オ 原告は、平成25年3月から、原告ソフトウェアの廉価版である「SSTG1Lite」を14万2000円(税抜価格)で販売している。(乙5、42) 原告は、平成27年2月から、原告ソフトウェアについて、翻訳学校や大学、専門学校等における教育用として、「NetSSTG1School」を1万9800円(年間利用者20名以上の場合)又は2万4800円(年間利用者20名未満の場合)で販売を開始した。前記ソフトウェアは教育用であり、業務用に利用することは禁じられているが、業務用の原告ソフトウェアと基本的な機能は同一である。(甲141) (2)不競法5条1項に基づく請求 ア 被告ソフトウェアの譲渡数量 前記(1)アのとおり、被告ソフトウェアの販売数は、主として業務用として利用されるドングル版が●(省略)● ここで、オンライン版とスクール版の前記個数については同一顧客によって更新された回数が含まれているところ、オンライン版とスクール版については、価格(更新の価格も含む。)がドングル版に比較して相当安価に設定されていて、同一顧客による同内容のソフトウェアの継続利用とその更新を前提としている部分があると認められる。このことに原告ソフトウェアの価格から推測されるその利用方法を考慮すると、本件においては、オンライン版とスクール版については、不競法5条1項にいう「譲渡数量」としては、同一顧客に対する販売を1個とすることが相当であるというべきである。 したがって、不競法5条1項における被告ソフトウェアの譲渡数量は、ドングル版が●(省略)●であると認めるのが相当である。 イ 原告ソフトウェアの単位数量当たりの利益の額 前記(1)ウのとおり、主として業務用に利用される原告ソフトウェアの価格は、基本編集機能を搭載したもので28万円である。また、前記オのとおり、主として教育用に利用される原告ソフトウェアの価格は、割引を考慮しない場合は2万4800円である。 そして、平成21年から平成23年までの間及び平成27年について、減価償却費や人件費を控除して算出された原告商品の利益率は、最も利益率が低い期間の利益率においても53.2パーセントを超えること(甲38の2、甲133)及び弁論の全趣旨から、原告ソフトウェアの限界利益の利益率は、少なくとも40パーセントであると認められる。 以上によれば、主として業務用に利用される原告ソフトウェアの前記利益の額は11万2000円(28万円×0.4)、主として教育用に利用される原告ソフトウェアの前記利益の額は9920円(2万4800円×0.4)であると認められる。 これに対し、原告は、原告ソフトウェアの価格は90万7200円であると主張する。しかしながら、前記(1)オのとおり、原告は原告ソフトウェアの廉価版である「SSTG1Lite」を14万2000円で販売している。また、90万7200円という金額は高等機能オプションやデータのインポート/エクスポートオプション等の大部分を搭載した場合における金額であるところ、前記のとおり、原告ソフトウェアを利用する顧客の中には個人の顧客もかなりの割合で存在しており、そのような個人の顧客が基本編集機能に加えてそれらのオプションを搭載したものを購入しているか否かは証拠上明らかではなく、むしろ、証拠(乙5、42)によれば個人の顧客の97パーセントは基本編集機能のみを購入していることがうかがわれる。したがって、原告の前記主張は採用できない。 ウ 小括 前記ア及びイによれば、以下の計算式のとおり、主として業務用に利用されるソフトウェアの関係では2654万4000円が原告の損害額と推定され、主として教育用に利用されるソフトウェアの関係では1123万9360円が原告の損害額と推定される(合計3778万3360円)。 (計算式) ●(省略)● エ 推定覆滅事由についての検討 前記3のとおり、被告ソフトウェアに関連し、原告の営業秘密である類似箇所1ないし3についてB及び被告フェイスの不正競争行為が認められる。ここで、類似箇所1ないし3はいずれも変数定義部分等であり、ソフトウェアの動作に不可欠な有用な部分ではあるが、ソフトウェアの画面表示、インターフェイスや動作といったソフトウェアの利用者に関係する機能等の制御に直接的に関係する部分ではなく、また、類似箇所1ないし3の内容に照らし、それらが被告ソフトウェアに対して他のソフトウェアでは一般的とはいえない特別の動作をもたらすものであるとは認められない。他方、前記1(1)のとおり、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアのソースコードは、類似箇所1ないし5以外に類似している箇所があるとは認められず、ソフトウェアの利用者に関係する機能等の制御に直接的に関係する部分については原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの間に共通する部分は存在していないともいえる。 これらを考慮すると、被告らの不正競争行為が被告ソフトウェアの利用者に関係する機能を同種のソフトウェアに関する機能と大きく異なるものにしたとは直ちにはいえず、被告ソフトウェアの売上げは、基本的には、被告ソフトウェアの不正競争行為ではない行為により作成された機能に基づく商品としての価値や被告フェイスの営業努力等によって実現されていたとするのが相当である。 以上によれば、被告ソフトウェアの譲渡数量のうちの相当程度の数量の原告ソフトウェアについて、原告が販売することができなかった事情があると認めるのが相当であり、以上のほか、本件にあらわれた一切の事情を総合的に勘案すれば前記ウの推定は95パーセントの限度で覆滅し、被告フェイス及びBによる不正競争によって原告に生じた損害は、前記ウ記載の損害の5パーセントであると認めるのが相当である。また、弁護士費用としては、10万円をもって相当と認める。 なお、被告らは、「おこ助」と称する字幕ソフトウェアがシェアを拡大しており、原告ソフトウェアとの競合品が存在していることが推定覆滅事由に該当するなど主張するが、前記「おこ助」の販売台数や機能等の詳細は明らかでなく、むしろ、証拠(乙38、39)によれば前記「おこ助」は主として聴覚障がい者向けの字幕制作のためのソフトウェアであることがうかがわれることに照らせば、前記「おこ助」が原告ソフトウェアの競合品であることを理由とした被告らの前記主張は認められない。 したがって、原告の損害は、以下の計算式のとおり、198万9168円であると認められる。なお、原告は、不競法5条2項に基づく請求もしているが、本件において、被告らの不正競争によって被告らが得た営業上の利益の額を認めるに足りる証拠はない。 (計算式) 3778万3360円×0.05=188万9168円 188万9168円+10万円(弁護士費用)=198万9168円 (3)小括 以上によれば、原告は、被告フェイス及びBに対し、不競法4条による損害賠償請求権に基づき198万9168円及びこれに対する被告フェイスについては平成27年6月19日から、Bについては同月20日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 第4 結論 よって、原告の請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 佐藤雅浩 裁判官 大下良仁 (別紙省略) |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |