判例全文 | ||
【事件名】GMOペパボへの発信者情報開示請求事件 【年月日】平成30年10月26日 東京地裁 平成30年(ワ)第21931号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成30年9月28日) 判決 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上岡弘明 被告 GMOペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士 佐藤明夫 同 尾西祥平 同 塩川理恵 同 松本雄真 主文 1 被告は、原告に対し、別紙侵害行為目録記載の行為に係る別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、被告が運用するレンタルサーバ上のウェブサイト上に掲載された写真は原告が撮影した著作物であるから、これを無断で掲載することが原告の著作権(複製権及び送信可能可権)を侵害することは明らかであるなどと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記著作権侵害行為に係る別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠(枝番のあるものは、特記なき限り、その全てを含む。以下も同じ。)及び弁論の全趣旨により認定することができる事実) (1)被告は、第三者がウェブページ等を運営するためのサーバを提供するホスティング(レンタルサーバ)事業等を営む株式会社である。 (2)平成29年11月8日頃、別紙侵害行為目録記載@のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に、別紙侵害行為目録記載Aの写真(以下「本件写真1」という。)及び同記載Bの写真(以下「本件写真2」といい、本件写真1と併せて「本件各写真」という。)の画像ファイルが掲載された。本件ウェブページは、被告が管理する特定電気通信設備により提供されたものであり、上記掲載を行った者(以下「本件発信者」という。)は、上記掲載により、本件各写真の画像ファイルを送信可能化したものである。 (3)ウェブ上のアルバム提供サービスである「Flickr」の「A」名義のアカウント(以下「本件アカウント」という。)上のアルバムのページ(以下「本件ウェブアルバム」という。)に、本件各写真の画像ファイルが掲載された。本件写真1の撮影日は平成26年8月16日、本件写真2の撮影日は平成28年3月20日である。(甲1、2) 3 争点 (1)本件各写真の著作物性 (2)本件各写真の著作者 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(本件各写真の著作物性)について (原告の主張) 本件各写真は、カメラマンである原告が、絞り、露光時間及び光の感度などを調整し、構図等にも工夫を凝らして撮影したものであるから、創作性があり、著作物性が認められる。 (被告の主張) 著名なコスプレイヤーを撮影した本件各写真の独自性の大部分は、被写体の姿にこそ認められるもので、撮影者が撮影時刻、カメラの露光や陰影の付け方等に独自の工夫を凝らしたものではないから、創作性がなく、本件各写真には著作物性が認められない。 2 争点(2)(本件各写真の著作者)について (原告の主張) 本件各写真を撮影したのは原告であるから、原告が本件各写真の著作者である。なお、本件アカウントは、原告のアカウントである。 (被告の主張) 原告が本件各写真の撮影者であることは否認する。本件アカウントが原告のアカウントであると認め得る証拠はないし、仮にそうであったとしても、原告が「Flickr」上に本件各写真のデータを投稿したとの事実以上に原告が本件各写真を撮影したとの事実まで認められるわけではなく、これを認め得る証拠は提出されていない。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件各写真の著作物性)について 証拠(甲1の2・3、甲2)によれば、本件各写真は、いずれも有名な女性コスプレイヤーを被写体とするものであるが、本件写真1は、日中の屋外において身体を横向きにして視線をカメラに向けた被写体のバストアップの写真であり、被写体の後方をぼやけさせ、フラッシュを発光させるなどして撮影されたものであること、本件写真2は、屋内において身体を正面に向け視線をカメラに向けた被写体の上半身の写真であり、被写体の後方をぼやけさせ、フラッシュを発光させるなどして撮影されたものであることが認められる。このように、本件各写真は、絞りや陰影、構図やアングルなどを工夫して撮影されたものであるから、写真の著作物であると認められる。 被告は、本件各写真の独自性の大部分は被写体の姿にこそ認められるなどと主張して、本件各写真の著作物性を否定するが、本件各写真の撮影において上記のような創作性が認められるのであるから、採用することができない。 2 争点(2)(本件各写真の著作者)について (1)前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ア 原告は、平成30年1月頃以降、自ら又は代理人を通じ、被告に対し、原告が撮影した本件各写真の画像ファイルが本件ウェブページに無断で掲載されて原告の著作権が侵害されているとして、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき本件発信者情報を開示するよう書面や電子メールにより複数回請求したが、被告は、本件発信者が開示に同意しないことや、原告の権利が侵害されたことが明らかであると判断することは困難であることから、本件発信者情報を開示することはできない旨の回答をしていた。(甲3の1〜5) イ 東京地方裁判所は、平成30年6月22日、原告の申立てに基づき、被告に対し、本件発信者情報の消去を禁ずる旨の仮処分決定をした。 ウ 「Flickr」の本件アカウントに係るページには、本件ウェブアルバムでの本件アカウント保有者の表示名が「A」であることが表示されているほか、支払方法として登録されたクレジットカード上の住所として原告の住所が表示されている。(甲1の1) エ 本件ウェブアルバムには、本件各写真を撮影したのがデジタルカメラ「NikonD610」であること、本件各写真の撮影日、絞りやシャッタースピードなどの本件各写真の撮影条件が掲載されているほか、「A」が平成30年1月に被告に対し発信者情報開示請求をしたことが記載されている。(甲1の2・3) (2)前記(1)認定によれば、原告が、平成30年1月頃以降、自らが本件各写真を撮影した著作者であるとして被告に本件発信者情報の開示を求め、その消去禁止の仮処分決定を得るなど、原告が本件各写真の著作者として行動していること、また、「Flickr」の本件アカウントに係るページには原告の住所が表示されている上、本件ウェブアルバムには、被告に発信者情報の開示を求めた旨の上記原告の行動と合致する内容の記載もあることが認められる。これらの事実に加え、原告が、本件アカウントが原告のものであることに間違いない旨述べていること(甲1の1)、本件各写真の撮影者(著作者)が原告以外の者であることをうかがわせる証拠は何もないことを総合考慮すれば、原告が本件各写真を撮影した著作者であると認めることができる。 (3)被告は、仮に、本件ウェブアルバムに本件各写真を掲載したのが原告であったとしても、当然に原告がその撮影者であるとはいえないとの趣旨の主張をするが、本件各写真の撮影者が原告以外の者であることをうかがわせる証拠がないことは前記のとおりである。 3 以上のとおり、本件各写真の著作者は原告であると認められるところ、本件発信者による本件各写真の画像データの入手先が本件アルバム以外に考え難いことからすれば、本件発信者は、本件ウェブアルバムから本件各写真の画像ファイルを複製した上、本件ウェブページに掲載(アップロード)して、上記画像ファイルを送信可能化したものと認められる。また、本件ウェブページ上の記載からは誰が本件各写真の画像ファイルを掲載したのかが判然とせず(甲2)、原告がいまだ被告から本件発信者情報の開示を受けていないことからすれば、原告において、本件各写真に係る著作権侵害に基づく損害賠償請求権の行使をするためには、本件発信者情報の開示が必要であると認められる。そして、本件ウェブページが被告の管理する特定電気通信設備により提供されていることからすれば、被告は、本件発信者による原告の著作権侵害行為に係る開示関係役務提供者であると認められる。 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。 4 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 今野智紀 別紙 侵害行為目録 平成29年11月8日頃、以下の@のウェブページを作成し、同ウェブページにA及びBの画像ファイルを掲載した。 @http://以下省略 Ahttp://以下省略 Bhttp://以下省略 別紙 発信者情報目録 発信者に係る次の各項の情報 1 氏名又は名称 2 住所 3 電子メールアドレス |
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