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【事件名】商標“ルイ・ヴィトン”侵害事件(2)
【年月日】平成30年10月23日
 知財高裁 平成30年(ネ)第10042号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第5423号)
 (口頭弁論終結の日 平成30年9月20日)

判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要等(略称は原判決に従う。)
1 本件は、被控訴人が、控訴人が原判決別紙被告商品目録記載1〜8(被告各商品)を譲渡し、譲渡のために展示した行為について、@被控訴人が有する原判決別紙原告商標権目録1及び2記載の商標権(原告各商標権)(被告商品1、2、5〜8につき原告商標権2、被告商品3及び4につき原告商標権1)を侵害し又は侵害するものとみなされる(商標法25条、37条1号)と主張すると共に、A被控訴人の商品等表示として周知又は著名な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用したものであり不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争行為に該当すると主張して、民法709条又は不正競争防止法4条に基づき(選択的主張)、合計237万9278円の損害賠償及びこれに対する不法行為又は不正競争行為後の日である平成29年3月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、控訴人による被告各商品の譲渡等は不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当するとして、173万1490円の損害賠償及び遅延損害金の支払を認容しその余を棄却した。控訴人は、これを不服として控訴した。
2 前提事実
 前提事実は、原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決2頁11行目〜3頁5行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点
 本件における争点は、原判決「事実及び理由」の第2の3(原判決3頁6行目〜20行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当事者の主張
1 原判決の引用
 当事者の主張は、原判決5頁9行目の末尾に、改行の上、以下のとおり付加するとともに、後記2のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第3(原判決3頁21行目〜9頁20行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 「被告各商品は、原告モノグラム標章の一部を付すことで、被告各商品の外観を全体的に見た場合、元来チープな商品に原告モノグラム標章が有する高級感というイメージを付加することによるミスマッチ感及び遊び心感を醸し出し、「ナウな感じ」、「カッコ良い感じ」、「面白い感じ」を醸し出すストリート系ファッションとして仕上げるためのデザインとして利用されている。」
2 当審における当事者の主張
(1)控訴人の行為が不正競争防止法2条1項2号に該当するか
〔被控訴人の主張〕
ア 原告標章は、世界的に著名な高級ブランドを擁するフランス法人である被控訴人が、1896年から原告商品にのみ付す形で使用し、大規模かつ継続的な宣伝広告により世界的な著名性を獲得しているものであるから、それが付された商品が被控訴人の商品であることを示すという点において、高い自他識別機能又は出所表示機能を有している。他方、被告各標章は、原告標章と同一の記号を同一に配置したものであって、その使用態様も、原告商品と同じく、被告各商品に応じて被告各標章の一部が切り取って付される形で使用されているものである。
 このように、高い自他識別機能又は出所表示機能を有する商品等表示である原告標章と同一の記号・配置の標章が原告商品と同一の使用態様で使用されている以上、被告各標章は、被告各商品において自他識別機能又は出所表示機能を有する態様で使用されているものであるから、不正競争防止法2条1項2号の「商品等表示」に該当する。
イ 控訴人の主張について
(ア)控訴人は、被告各商品に被控訴人の著名表示が付されていることを認めつつ、需要者がその出所につき控訴人であり被控訴人ではないと認識し得るものであり、著名表示は商品のデザインとしてのみ使用されていることから、著名表示が「商品等表示」として使用されているとはいえないなどと主張する。
 しかし、標章が意匠として使用されていることをもって直ちに自他識別機能又は出所表示機能を有する態様での標章の使用であることが否定されるものではない。原告標章を用いた原告モノグラム表示は、偽造品対策として考案されたものであるという沿革を持つものであり、原告標章は、その沿革上、デザインとしての使用と自他識別機能を有する態様での使用が使用態様として両立している。
 また、出所の誤認混同は標章の商品等表示性とは関係がないし、著名表示冒用行為該当性の判断にあたって出所の誤認混同は要件とされていない。
 さらに、被告各標章の表示態様や使用状況等は、原告商品に使用される原告標章と同一又は著しく類似している。このため、原告標章の自他識別機能及び出所表示機能の高さと合わせ、被告各商品に接した需要者が、その出所が被控訴人であると誤解するおそれは非常に大きい。控訴人がそのウェブページ等に「REMAKE」、「CUSTOM」の表示をしていたとしても、これらは出所の誤認のおそれを確定的に打ち消す表示とはならないし、当該ページに被控訴人を示す「LOUISVUITTON」との表示が敢えて行われていることもあって、上記表示により、需要者において被告各商品の出所を誤認するおそれは払拭されていない。
(イ)控訴人は、被告各商品の販売等により、被控訴人にとっての表示希釈や表示汚染は発生しておらず、被控訴人の営業上の利益に対する侵害はない旨主張する。
 しかし、原告標章と被告各標章とは、その構成する記号が同一であり、それらの記号が同一の配置に従って配列されており、その使用形態も、各商品に応じて標章の一部を切り取って商品に付されて使用されていることから、被告各標章は、著名な原告標章と著名な被控訴人との一対一の対応関係を崩し、稀釈化を引き起こす程度に類似する。
 また、被告商品4は、同種商品の販売価格として相応に高価格であるが、原告商品のスニーカーに比して粗雑な作りであり、両者間には大きな品質の差が存在する。控訴人は、そのような被告各商品に、原告標章と同一又は著しく類似する被告各標章を自他識別機能又は出所表示機能を果たす態様で使用した上で販売等しているのであるから、被告各商品の出所を被控訴人であると誤解した需要者において、原告商品の品質につき、粗雑な被告各商品の品質の程度と誤解するおそれが大きい。
 したがって、控訴人による被告各商品の販売等により、被控訴人には、希釈化及び表示汚染に起因する営業上の利益の侵害が現実に発生している。
〔控訴人の主張〕
ア 「商品等表示」に該当しないこと
(ア)不正競争防止法2条1項2号に基づく請求が認められるには、冒用者とされる控訴人が、被控訴人の著名表示を、自己の商品の出所を示すものとして使用することが必要である。その判断においては、表示の外観や印象等のほか、取引の実情の下において、需要者が、著名表示を商品の出所を示すものとして把握していたか否かが考慮されなければならない。
(イ)被告各商品はいずれもインターネットのウェブページ上で販売されているところ、そこでは、被告商品1〜5及び8について、「REMAKE」、「VINTAGEのLOUISVUITTONの生地を…落とし込んだ」、「カスタム」という記載がなされて展示販売されている。
 また、控訴人こと「JUNKMANIA」は、リメイク品を販売する業者として愛好者の間で広く知られている。その上、「JUNKMANIA」という屋号の業者のウェブページ上で被告各商品が展示販売されていること、同ページには上記のような記載されているとともに、被控訴人に限らず他の有名ブランドのロゴが記載された商品が販売のために展示されていることを考慮すれば、需要者が、控訴人につき、「高級ブランド品の一部を材料として、元の商品と異なるテイストのデザインの商品を、独自に作製・販売しようとしている業者である」と認識することは明らかであり、控訴人が当該ウェブページ上で被控訴人の製品を展示販売していると考える需要者は存在しない。
 被告商品6及び7についても、その価格がそれなりに高額であること、控訴人の他の販売商品が「REMAKE」、「CUSTOM」品として販売されていること、控訴人がストリート系ファッションを取り扱い、上記のとおりリメイク品を販売する業者として愛好者の間で広く知られていること、被控訴人の商品と被告各商品との価格差等といった事情が存在する。これらの取引の実情に照らせば、需要者は、控訴人につき、単なる偽物を扱う業者ではない「REMAKE品を販売する業者」であると十分認識し、限られた被控訴人の卸先と認識することもあり得ない。
 さらに、中古品市場においても、被告各商品は「控訴人が被控訴人の製品をカスタムした物」として売買されている。
 以上より、被告各商品は、被控訴人の著名表示が付されているものの、需要者がその出所につき控訴人であり被控訴人ではないと認識し得るものであり、著名表示は商品のデザインとしてのみ使用されていることから、著名表示が「商品等表示」として使用されているとはいえない。
イ 営業上の利益の侵害の不存在
 不正競争防止法2条1項2号に該当するためには、単に著名表示が使用されているだけでは足りず、著名表示使用者の行為により著名表示の顧客吸引力が一定程度減少される場合など、著名表示の主体の営業上の利益が侵害されるような場合でなければならない。
 本件の場合、前記のとおり、需要者にとっては被告各商品の出所が控訴人であることは明らかであり、著名表示はあくまでもデザインとしてのみ使用されているにすぎない。このため、需要者が著名表示から想起する主体は被控訴人以外になく、控訴人による著名表示の使用態様は、著名表示とそれを本来使用してきた被控訴人との結びつきを強めるものであっても、薄めるものではない。また、被告各商品の品質に問題があったとしても、そのことによって需要者からの信用が毀損されるのは商品の製作者である控訴人であって、著名表示の主体である被控訴人ではない。
 そうである以上、被控訴人の営業上の利益は何ら侵害されていないから、控訴人の行為は不正競争防止法2条1項2号に該当しない。
(2)損害の有無及び額
〔被控訴人の主張〕
ア 逸失利益
(ア)原告標章と被告各標章とが同一又は著しく類似していること、原告商品と被告各商品は、ウェブサイト上でも販売されている点で販売形態が同一であること、いずれの商品も同種商品に比べ価格帯が相応に高額であり、需要者層に一定の重なり合いがあること等からすれば、「控訴人の販売等の行為がなければ被控訴人が利益を得られた」という関係があることは明らかである。
(イ)不正競争防止法5条2項における「利益」とは、侵害者の商品の販売価格から、侵害品の譲渡数量に相当する商品を追加的に製造又は販売する経費を控除した金額(いわゆる限界利益)であり、その算定にあたっては、侵害品の販売量の増減に応じて比例的に増減する原価(変動費)は控除されるが、販売量の増減に影響されない原価(固定費)については控除することはできない。
 これに対し、控訴人は、売上額から売上原価及び経費の全額を控除した金額をもって利益率及び利益額を算定しているが、現実の変動費については何ら主張立証がない。
 よって、同項に基づき、被控訴人が受けた損害の額は108万1490円と推定される。
(ウ)控訴人は、被告各商品へ付された原告標章の利益額への寄与度は50%にすぎない旨主張する。
 しかし、その割合の算定根拠等は明らかでない。また、被告各商品は、原告商品には及ばないものの、同種商品に比べ価格帯が相応に高額である。これは、原告標章と同一又は著しく類似する被告各標章を付したことによるものであって、このような被告各商品の販売等によって控訴人が得た利益のほとんどが、高いブランド力ないし顧客吸引力を有する原告標章にフリーライドすることによってもたらされていたものであることは明らかである。
 よって、この点に関する控訴人の主張は失当である。
イ 信用毀損等の無形損害
 被控訴人は、原告標章について、多額の広告宣伝費用を支出して各種媒体での広告宣伝を実施し、日本国内においても著名性を獲得しており、その一方で、原告標章等を使用した偽造品対策にも多額の時間・費用及び努力を費やし、その顧客吸引力の維持・向上に努めている。そのような状況の中で、被控訴人と何らの業務上の関係を有しない控訴人による被告各商品の販売等によって、前記のとおり被控訴人に稀釈化や表示汚染といった現実の損害が生じ、これにより原告商品ひいては被控訴人に対する信用や価値が毀損されるという無形の損害が被控訴人に発生している。
〔控訴人の主張〕
ア 逸失利益について
(ア)前記のとおり、需要者は、被告各商品が被控訴人によって販売されていない商品であることを認識しながら敢えてこれを購入している以上、求めている商品は被控訴人の商品ではなく、著名表示が付された控訴人の商品である。このため、控訴人による被告各商品の販売行為がなければ被控訴人が利益を得られたであろうという関係にはない。
 したがって、控訴人による上記行為によって、被控訴人にはいかなる逸失利益も発生していない。
(イ)控訴人の平成26年度〜平成28年度における売上高に占める利益(売上高から売上原価及び経費合計を控除した額)の割合(利益率)は、高くても7%であり、売上げが176万3450円であるならば、控訴人の利益は12万3442円である。
(ウ)万一、被告各商品の出所を被控訴人と考える者がいるとしても、そのような者はほとんどいない。それなりに高価な被告各商品を購入したということは、その者が、控訴人を「REMAKE品を販売する業者」であると十分認識していたからこそである。
 したがって、仮に不正競争防止法5条2項が適用されるとしても、同項により推定を受ける被控訴人の損害額は、原告標章の一部の被告各商品への使用により控訴人が得た利益に限定されるところ、これに対する原告標章の寄与度は50%にとどまり、6万2721円を超えることはない。
イ 信用毀損等の無形損害について
 被控訴人が控訴人による被告各商品の展示販売によって具体的にその信用を毀損されたことを認めるに足りる証拠はない。そもそも、被告各商品は、被控訴人の生地等著名表示を付した「REMAKE」、「CUSTOM」品であり、控訴人の著名表示に対するリスペクトに基づくものであるから、需要者に対し、被控訴人の商品又は原告標章への評価・信用を高めるものであっても、低めるものではない。
 したがって、被控訴人の信用が毀損されることはない。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人による本件控訴を棄却すべきものと判断する。理由は、以下のとおりである。
1 原判決の引用
 認定事実、争点2(控訴人の行為が不正競争(不正競争防止法2条1項1号又は2号)に該当するか)、争点3(被控訴人の損害額)については、以下のとおり訂正するとともに、後記2のとおり当審における当事者の主張について付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第4の1〜3(原判決9頁22行目〜19頁22行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決11頁12行目の「すくなくとも」を「少なくとも」に、また、同頁14行目の「平成1億3700万円」を「平成25年には1億3700万円」に、それぞれ改める。
(2)原判決15頁21行目の「被告各標章」を、「原告標章」に改める。
(3)原判決15頁24行目の「商品等表示として使用ではない」を、「商品等表示としての使用ではない」に改める。
(4)原判決19頁13行目の「小活」を、「小括」に改める。
2 当審における当事者の主張について
(1)不正競争防止法2条1項2号該当性
ア 控訴人は、被告各商品に被控訴人の著名表示が付されていることは認めつつ、需要者がその出所につき控訴人であり被控訴人ではないと認識し得る場合であり、著名表示は商品のデザインとしてのみ使用されていることから、著名表示が「商品等表示」として使用されているとはいえないなどと主張する。
 しかし、不正競争防止法2条1項2号は、同項1号と異なり、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」であることを要件としていない。これは、同項2号の趣旨が、著名な商品等表示について、その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止すると共に、その出所表示機能及び品質表示機能が希釈化により害されることを防止するところにあることによるものである。このため、他人の著名な商品等表示と同一又は類似の表示が、商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられている場合には、商品等表示としての使用であると認められるのであって、需要者が当該表示により示される出所の混同を生じるか否かが直ちにこの点を左右するものではない。
 また、原告標章は著名性を有し、高い出所識別機能を有するものであること、原告モノグラム表示の使用態様として、商品に応じてその一部分のみを商品に付して使用されており、必ずしも「LOUISVUITTON」との文字商標を必要とはしていないことは、前記のとおりである(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の2(1)及び(2))。他方、被告標章1〜7は、原告標章を構成する原告記号a〜dと同一の記号により構成され、その配置も原告標章と同一の規則性に基づくものの一部分ということができ、また、被告標章8は、被告記号eの存在や配色において原告標章と異なるものの、配置の規則性の点では原告標章と同一に配置されたものの一部分ということができる。このような原告標章の著名性や、原告標章と被告各標章との構成要素及び使用態様の共通性に鑑みると、被告各標章は、いずれも、これを見た者の認識において、容易に著名表示である原告標章を想起させるものであることは明らかである。このことは、控訴人が取引の実情として指摘する「REMAKE」、「VINTAGEのLOUISVUITTONの生地を…落とし込んだ」「カスタム」、「CUSTOM」といったウェブ上の記載の存在や「JUNKMANIA」という屋号の表示の存在等を考慮しても異ならない。
 以上より、被告各標章は、それがデザインとして認識されるか否かはさておき、出所識別機能を有する態様で用いられているものと認められるのであって、この点に関し控訴人がるる指摘する事情を考慮しても、控訴人の主張は採用できない。
イ さらに、控訴人は、不正競争防止法2条1項2号に該当するには著名表示の主体の営業上の利益が侵害されるような場合でなければならないと主張する。
 しかし、後記のとおり、表示希釈及び表示汚染という観点をも含め、控訴人の行為により被控訴人に現に損害を生じていると認められることから、仮に控訴人の主張を前提としても、この点をもって不正競争防止法2条1項2号該当性が否定されることにはならない。
ウ したがって、控訴人の行為は、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
(2)損害の額について
ア 控訴人は、需要者は、被告各商品が被控訴人によって販売されていない商品であることを認識しながら、敢えて控訴人の商品を購入しており、控訴人による被告各商品の展示販売行為がなければ被控訴人が利益を得られたであろうという関係にはないなどと主張する。
 しかし、原告標章と被告各標章との類似性の程度、原告商品及び被告商品の販路の共通性並びに需要者層の重なり合いの蓋然性に鑑みると、被控訴人には、控訴人による侵害行為がなければ利益を得られたであろうという事情が認められることは、前記のとおりである(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の3(1))。
イ 控訴人は、被告各商品の販売により受けた利益は12万3442円であり、かつ、この利益額への原告標章の貢献の程度はその50%にとどまるなどと主張する。
 不正競争防止法5条2項に基づく損害額は、侵害者の売上額から原材料の仕入価格その他の変動経費を控除した限界利益と解すべきであって、売上高の多寡にかかわらず発生し得る販売費及び一般管理費等は原則として控除されないと解される。そして、控訴人は、経費の控除につき、その項目を区別することなく、決算書上「経費」として計上したもの全額の控除を主張するにとどまり、変動経費の額に関する具体的な主張立証はない。
 また、推定覆滅事情は控訴人において主張立証すべきところ、控訴人主張の被告各商品の売上げに対する原告標章の貢献の程度を裏付けるに足りる証拠はないから、この点に関する控訴人の主張も採用し得ない。
ウ 控訴人は、被告各商品の展示販売により被控訴人の信用が毀損されることはないなどと主張する。
 しかし、前記のとおり(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の3(2))、原告標章は著名性を獲得した商品等表示であり、また、被控訴人は、その商品の品質及びブランドイメージを維持管理するために多大な努力を払ってきたことが認められる。他方、被告各商品の中には、被告商品4のように、品質の点で原告商品と比較して粗雑というべきものが含まれていると認められることに加え、控訴人自身、被告各商品は、原告標章(ないし原告モノグラム表示)の著名性に便乗し、被控訴人の商品の「高級感を揶揄し風刺する意図」で製作販売された「チープな商品」と主張しているものであり、客観的にも、その構成等から、そのような意図等で製作販売された商品であることが容易にうかがわれる。
 このような被告各商品が市場に存在することが、原告商品の品質及びブランドイメージに悪影響を及ぼし得ることは明らかである。
 そうすると、控訴人による不正競争行為は、被控訴人が長年の企業努力により獲得した原告標章の著名性及びそれにより得られる顧客誘引力を不当に利用して利得するものであり、被控訴人の企業努力の成果を実質的に減殺するものであって、著名な原告標章を希釈化するのみならず、これを汚染するものというべきである。これにより、需要者の原告商品又は原告標章に対する信用や価値が毀損され、被控訴人は無形の損害を被ったものと認められる。
エ したがって、この点に関する控訴人の主張はいずれも採用できず、不正競争防止法5条2項に基づく損害額は108万1490円、信用毀損等の無形損害の額は50万円及び弁護士費用相当額15万円を、いずれも下回ることはない。
3 結論
 以上のとおり、被告各商品は、自己の商品等表示として被控訴人の著名な商品等表示同一又は類似の表示を付した商品を譲渡し、また、譲渡のために展示したものであるから、被控訴人の請求は、控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づき、合計173万1490円の損害賠償及び不正競争行為後の日である平成29年3月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 杉浦正樹
 裁判官 片瀬亮


(別紙)当事者目録
控訴人X
同訴訟代理人弁護士 簗瀬捨治
同 花澤俊之
被控訴人 ルイ ヴィトン マルチェ
同訴訟代理人弁護士 國久眞一
同 高松薫
同 鈴木銀治郎
同 鈴岡正
同 大石忠生
同 伊藤愼司
同 多田光毅
同 野本健太郎
同 木下達彦
同 大澤俊行
同 藤田剛敬
同 坂下良治
同 金子典正
同 石田晃士
同 滝口博一
同 鈴木康之
同 大倉丈明
同 椿原直
同 加藤裕之
同 柴田真理子
同 鈴木一平
同 宮内望
同 神村泰輝
同 奥田紗弓
同 原野二結花
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