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【事件名】類似“ごみ箱”の不正競争事件 【年月日】平成30年10月18日 大阪地裁 平成28年(ワ)第6539号 意匠権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成30年8月23日) 判決 原告 山崎実業株式会社 同訴訟代理人弁護士 宇佐美貴史 同訴訟代理人弁理士 柳野隆生 同補佐人弁理士 関口久由 同 大西裕人 被告 不二貿易株式会社 同訴訟代理人弁護士 辰巳和正 同 吉田裕一 主文 1 被告は、別紙被告製品目録1記載のごみ箱(色違いを含む)を販売し、又は広告宣伝してはならない。 2 被告は、前項のごみ箱を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、5万6516円及びこれに対する平成28年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを20分し、その19を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、別紙被告製品目録1記載のごみ箱(色違い含む)を製造し、販売し、輸入し、又は広告宣伝してはならない。 2 被告は、前項のごみ箱及びその半製品(同目録1記載の基本的構成態様及び具体的構成態様を具備しているが、製品として完成するに至らないもの)並びにこれらの製造に用いる金型を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、朝日新聞全国版、読売新聞全国版及び毎日新聞全国版の3新聞に、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を、その表題及び原被告の各商号は4号活字、その他は8ポイント活字で、引続き2回掲載せよ。 4 被告は、原告に対し、844万5500円及びこれに対する平成28年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求の要旨 本件は、家庭日用品の企画、製造、販売等を目的とする株式会社である原告が、雑貨品等の輸入、販売等を目的とする株式会社である被告が、別紙被告製品目録1記載のごみ箱(以下「被告ごみ箱」という。)並びに同目録2記載の傘立て(以下「被告傘立て1」という。)及び同目録3記載の傘立て(以下「被告傘立て2」という。)を輸入、販売したことに関し、以下の各請求をする事案である。 (1)被告ごみ箱のみに関する請求 ア 意匠権に関する請求 別紙意匠権目録記載の意匠権(以下「本件意匠権」という。)を有する原告は、被告が被告ごみ箱を販売等する行為が本件意匠権を侵害するとして、被告に対し、@意匠法37条1項に基づいて被告ごみ箱の販売等の差止請求(第1の1項)を、A同条2項に基づいて被告ごみ箱及びその半製品並びにそれらの製造に用いた金型の廃棄請求(第1の2項)を、B同法41条に基づいて謝罪広告請求(第1の3項)を、C不法行為(本件意匠権の侵害)に基づいて損害金90万6295円(平成27年6月15日から平成28年10月11日までの逸失利益)の一部として73万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)を、それぞれしている。 イ 不正競争防止法に関する請求 原告は、被告が、原告が商品化した別紙原告製品目録1記載のごみ箱(以下「原告ごみ箱」という。)の形態を模倣した被告ごみ箱を販売等する行為が不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するとして、被告に対し、同法4条に基づいて損害金171万5500円(平成24年1月31日から平成27年1月31日までの間の逸失利益)及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 ウ 一般不法行為に関する請求 原告は、被告が、原告ごみ箱の形態を模倣して安価な材料で製造され、原告ごみ箱の商品ラベルを模倣した商品ラベルが貼付された被告ごみ箱を販売等する行為が、原告が得るべき利益を侵害する一般不法行為を構成するとして、被告に対し、不法行為に基づいて損害金244万5500円(平成24年1月31日から平成28年10月11日までの間の逸失利益)及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 なお、原告は、この請求は、上記アCの請求及びイの請求と選択的併合の関係にあるとしている。 (2)被告傘立て1のみに関する請求 原告は、後記ア及びイの各請求は選択的併合の関係にあるとしているところ、後記ウの請求も、これらの請求と選択的併合の関係にあると解される。 ア 不正競争防止法に関する請求 原告は、被告が、原告が商品化した別紙原告製品目録2記載の傘立て(以下「原告傘立て1」という。)の形態を模倣した被告傘立て1を販売等する行為が不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するとして、被告に対し、同法4条に基づいて損害金250万円(平成20年6月から平成22年12月までの間の逸失利益)及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴訟送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 イ 一般不法行為に関する請求 原告は、被告が、原告傘立て1の形態を模倣して粗悪な材料で製造された被告傘立て1を販売等する行為が、原告が得るべき利益を侵害する一般不法行為を構成するとして、不法行為に基づいて損害金250万円(平成20年6月から平成22年12月までの間の逸失利益)及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴訟送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 ウ 著作権に関する請求 原告は、被告が被告傘立て1を製造、販売する行為が、原告傘立て1に係る著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)を侵害するとして、被告に対し、不法行為(原告傘立て1に係る著作権侵害)に基づいて損害金250万円(平成20年6月から平成22年12月までの間の逸失利益)及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴訟送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 (3)被告傘立て2のみに関する請求 原告は、後記ア及びイの各請求は選択的併合の関係にあるとしているところ、後記ウの請求も、これらの請求と選択的併合の関係にあると解される。 ア 不正競争防止法に関する請求 原告は、被告が、原告が商品化した別紙原告製品目録3記載の傘立て(以下「原告傘立て2」という。)の形態を模倣した被告傘立て2を販売等する行為が不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するとして、被告に対し、同法4条に基づいて損害金250万円(平成17年7月から平成20年1月までの間の逸失利益)及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴訟送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 イ 一般不法行為に関する請求 原告は、被告が、原告傘立て2の形態を模倣して粗悪な材料で製造された被告傘立て2を販売等する行為が、原告が得るべき利益を侵害する一般不法行為を構成するとして、被告に対し、不法行為に基づいて損害金(平成17年7月から平成20年1月までの間の逸失利益)250万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴訟送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 ウ 著作権に関する請求 原告は、被告が被告傘立て2を製造、販売する行為が、原告傘立て2に係る著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)を侵害するとして、被告に対し、不法行為(原告傘立て2に係る著作権侵害)に基づいて損害金(平成17年7月から平成20年1月までの間の逸失利益)250万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴訟送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしている。 (4)被告ごみ箱、被告傘立て1及び被告傘立て2のいずれとも関係する請求 原告は、被告による不法行為により本件訴えを提起することを余儀なくされたなどとして、不法行為に基づいて弁護士費用等相当額100万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年7月30日(訴状送達の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(第1の4項に係る請求の一部)をしていると解される。 2 前提事実(争いがないか、後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)原告とその販売商品 原告は、家庭日用品の企画、製造、販売等を目的とする株式会社であり、意匠に係る物品をごみ箱とする本件意匠権を有する。本件意匠権の登録意匠(以下「本件意匠」という。)は、その意匠を秘密にすることの請求がされていたため、その図面が意匠公報に掲載されたのは平成27年6月15日であった(甲2)。原告は、以下のとおり、自ら商品化した「販売商品」欄記載の各商品を「販売開始時期」欄記載の時期に販売を開始した。
ア 家具等の輸入、販売等を目的とする株式会社である被告は、以下のとおり、輸入した「販売商品」欄記載の各商品を、少なくとも「販売時期」欄記載の時期に販売していたことがある(上記各商品の販売開始時期、被告ごみ箱の販売終了時期については争いがある。)。
ウ 被告傘立て1の形態は、別紙「原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表」の「被告傘立て1の形態」欄のうち「争いのない形態」欄記載のとおりである。 エ 被告傘立て2の形態は、別紙「原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表」の「被告傘立て2の形態」欄のうち「争いのない形態」欄記載のとおりである。 3 主たる争点 (1)被告ごみ箱関係(争点1) ア 意匠権関係(争点1−1) (ア)差止請求及び廃棄請求並びに謝罪広告請求の可否(争点1−1−1) (イ)損害額(争点1−1−2) イ 不正競争防止法関係−損害額(争点1−2) ウ 一般不法行為関係(争点1−3) (ア)不法行為の成否(争点1−3−1) (イ)損害額(争点1−3−2) (2)被告傘立て1関係(争点2) ア 不正競争防止法関係(争点2−1) (ア)形態の実質的同一性の有無(争点2−1−1) (イ)損害の発生の有無及び額(争点2−1−2) イ 著作権関係(争点2−2) (ア)著作物性の有無(争点2−2−1) (イ)著作権侵害の有無(争点2−2−2) (ウ)損害額(争点2−2−3) ウ 一般不法行為関係(争点2−3) (ア)不法行為の成否(争点2−3−1) (イ)損害額(争点2−3−2) (3)被告傘立て2関係(争点3) ア 不正競争防止法関係(争点3−1) (ア)形態の実質的同一性の有無(争点3−1−1) (イ)損害の発生の有無及び額(争点3−1−2) イ 著作権関係(争点3−2) (ア)著作物性の有無(争点3−2−1) (イ)著作権侵害の有無(争点3−2−2) (ウ)損害額(争点3−2−3) ウ 一般不法行為関係(争点3−3) (ア)不法行為の成否(争点3−3−1) (イ)損害額(争点3−3−2) 4 主たる争点に関する当事者の主張 別紙「主たる争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 被告ごみ箱関係(争点1)について (1)判断の基礎となる事実関係等 ア 事実関係 前提事実のほか、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実関係が認められる。原告ごみ箱は、平成24年1月31日に販売が開始された。本件意匠は、同年5月25日に設定の登録がされたものの、その意匠を秘密にすることの請求がされていたため、その図面が意匠公報に掲載されたのは平成27年6月15日であった。 被告は、平成26年7月に被告ごみ箱を合計3024個輸入し(調査嘱託の結果、乙16)、同年8月以降小売店に卸売していたところ、平成27年10月8日頃、原告から、被告ごみ箱を輸入、販売する行為が本件意匠権を侵害し、不正競争防止法上の問題が生じさせる可能性があると指摘された(甲4)ことから、同月22日以降、被告ごみ箱の販売を中止し(乙7、8、10、19、22ないし30)、その頃、原告に対し、その旨通知した(甲5)。被告ごみ箱の販売経過は、以下のとおりである。
イ 本件意匠権侵害行為及び形態模倣の不正競争行為 (ア)本件意匠権侵害行為 被告ごみ箱の意匠は本件意匠に類似する(争いがない)から、被告ごみ箱を販売する行為については、本件意匠権を侵害する行為である。この点、被告が平成27年6月15日以降に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売3)については、本件意匠権侵害について過失があったものと推定される(意匠法40条本文)ところ、この推定を覆す事情は認められない。他方、被告が同日よりも前に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売1及び2)については、本件意匠権侵害について過失があったものとは推定されない(同条ただし書き)ところ、過失があったと認めるに足りる証拠はない。 (イ)形態模倣の不正競争行為 被告ごみ箱の形態が原告ごみ箱のそれと実質的に同一であり(争いがない)、この形態同一性は依拠の事実も推認させるところ、この推認を覆す事情は認められないから、被告ごみ箱は原告ごみ箱の形態を模倣した商品であると認められる。したがって、被告が平成27年1月31日までに被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売1)については、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に当たる。他方、被告が同年2月1日以降に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2及び3)については、原告ごみ箱が最初に販売された日から3年が経過しており、同号所定の不正競争行為に当たらない(同法19条1項5号イ)。 (2)一般不法行為の成否(争点1−3−1)について ア 上記(1)イのとおり、被告が平成27年2月1日から同年6月14日までの間に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2)については、不正競争行為に当たらないし、本件意匠権侵害について過失があったとは認められないところ、原告は、被告ごみ箱販売2については公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成すると主張する。 イ しかし、現行法上、創作されたデザインの利用に関しては、著作権法、意匠法及び不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律がその排他的な使用権等の及ぶ範囲、限界を明確にしていることに鑑みると、創作されたデザインの利用行為は、各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。 したがって、原告の主張が、被告が原告ごみ箱の商品形態を模倣した被告ごみ箱を販売したことが不法行為を構成するという趣旨であれば、不正競争防止法で保護された利益と同様の保護利益が侵害された旨を主張しているにすぎないから、採用することはできない。 ウ また、これと異なり、原告の主張が、被告が被告ごみ箱を販売することによって原告の原告ごみ箱に係る営業が妨害され、その営業上の利益が侵害されたという趣旨であれば、上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということができる。しかし、我が国では憲法上営業の自由が保障され、各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると、他人の営業上の行為によって自己の営業上の利益が害されたことをもって、直ちに不法行為上違法と評価するのは相当ではなく、他人の行為が、殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされた場合のように、自由競争の範囲を逸脱し、営業の自由を濫用したものといえるような特段の事情が認められる場合に限り、違法性を有するとして不法行為の成立が認められると解するのが相当である。 そして、本件では、原告の主張を前提としても上記特段の事情があるとは認められない。 エ したがって、被告ごみ箱販売2が一般不法行為を構成するという原告の主張は採用できない。 (3)差止請求及び廃棄請求並びに謝罪広告請求の可否(争点1−1−1)について ア 差止請求 被告は、上記(1)アのとおり、平成27年10月8日頃、原告から、被告ごみ箱を輸入、販売する行為が本件意匠権を侵害するとの指摘を受けたことから、同月22日付けで、被告に対し、被告ごみ箱を販売する行為は本件意匠権を侵害する可能性があると判断して直ちに販売を中止した旨回答した(甲5)だけでなく、現に販売を中止し、本件訴訟においても被告ごみ箱を販売する行為が本件意匠権を侵害することになることを争っていない(弁論の全趣旨)。したがって、被告がさらに被告ごみ箱を輸入するおそれは認められず、また、被告は中国の業者から被告ごみ箱を輸入して販売しているにすぎない(乙19)から、被告ごみ箱を自ら製造するおそれも認められない。 しかし、被告は、被告ごみ箱を平成26年7月に合計3024個輸入し(乙16)、それを平成27年10月22日の販売中止までに合計774個販売した(乙10)と認められるから、多数の在庫を保有していると推認されるところ、被告がそれら在庫を廃棄したことをうかがわせる証拠はない。そうすると、被告は、現在も被告ごみ箱の在庫を保有していると考えざるを得ず、そうである以上、被告が被告ごみ箱を販売するおそれを否定することはできない。したがって、被告ごみ箱の差止請求については、その販売及び広告宣伝の差止めを求める限度で理由がある。 イ 廃棄請求 上記のとおり、被告は被告ごみ箱の在庫を保有していると考えられるから、その廃棄請求については理由がある。 他方、原告は、半製品及び金型の廃棄も請求するところ、前記のとおり被告は中国の業者から被告ごみ箱を輸入して販売しているにすぎず、被告が被告ごみ箱の半製品及び金型を保有しているとは認められないから、それらの廃棄請求は理由がない。 ウ 謝罪広告請求 原告は、被告が被告ごみ箱を販売したことにより業務上の信用が毀損されたと主張する。しかし、謝罪広告を講ずることが必要なほどに被告ごみ箱販売3により原告の業務上の信用が毀損されたと認めるに足りる証拠はないから、謝罪広告請求は理由がない。 この点に関する原告の主張も、被告が平成27年10月22日以降も被告ごみ箱を販売していたことを前提するものであるから、採用できない。 (4)損害額について ア 本件意匠権侵害(被告ごみ箱販売3)による損害額(争点1−1−2)について (ア)原告は、意匠法39条1項による算定に基づく逸失利益の額(90万6295円)を主張する。しかし、原告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益額を認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用できない。 (イ)原告は、同条2項による算定に基づく逸失利益の額(22万2748円)も主張する。 a 被告の過失ある本件意匠権侵害行為の期間は、被告ごみ箱販売1に係る平成27年6月15日から同年10月21日までと認められるところ、被告ごみ箱の単位数量当たりの仕入原価が205.543円であることは当事者間に争いがなく、この期間の被告による被告ごみ箱の合計販売数量は前記のとおり666個と認められる。そして、被告がこの期間に被告ごみ箱を666個販売して得た売上高が16万0380円であること(乙11)に照らせば、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高は240.811円(小数点第4位以下四捨五入)である。したがって、被告が被告ごみ箱を666個販売して得た利益は、2万3488円(1円未満四捨五入)であると認められる。(240.811−205.543)×666≒23,488そうすると、2万3488円が意匠権者である原告の受けた損害の額と推定されるところ、上記推定を覆滅する事由に関する主張、立証はないから、原告の損害額は、2万3488円であると認められる。 b これに対し、原告は、被告の平成27年7月及び同年10月におけるインテリア計画メガマックス千葉NT店に対する販売については、販売額が仕入原価を下回っており、独占禁止法第2条第9項に基づく不公正な取引方法第6項に規定する不当廉売に当たるから、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高を算定するに当たっては、上記販売における売上額に基づくべきではなく、平成26年8月における販売の売上額に基づくべきである(これに従えば、単位数量当たりの売上高は540円となる。)と主張する。 しかし、販売額が仕入原価を下回るからといって直ちに独占禁止法が禁止する不当廉売に当たるわけではない上、意匠法39条2項は、侵害者が実際に得た利益の額をもって意匠権者の損害の額と推定する規定であるから、侵害者が原価以下で販売した場合でも、それが実質的に見て侵害物の廃棄処分と同視し得るといった事情のない限り、実際の販売額に基づいて侵害者の利益を算定すべきものである(意匠権者がそれにとどまらない損害額の賠償を求めるためには、同条1項による損害額を主張立証する道が用意されている。)。そして、上記で原告が指摘するインテリア計画メガマックス千葉NT店に対する販売のうち平成27年7月のものについては、被告が原告から通知書(甲4)を受領する前の時期であるから、通常の取引行為によるものと見るべきであり、その販売単価と同年10月の販売単価は同額である(甲10)から、それらの販売を実質的に見て侵害物の廃棄処分と同視することはできない。 また、原告が被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高を算定するに当たって基礎とすべきであるという平成26年10月における被告の販売(被告ごみ箱販売1における販売)については、上記(1)イのとおり、被告が不法行為(本件意匠権侵害)に基づく損害賠償責任を負うものではない。 以上の諸点に照らせば、原告の上記主張は採用できない。 イ 不正競争行為(被告ごみ箱販売1)による損害額(争点1−3−2)について (ア)原告は、不正競争防止法5条1項による算定に基づく逸失利益の額(171万5500円)を主張する。しかし、原告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益額を認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用できない。 (イ)原告は、同条2項による算定に基づく逸失利益の額(2万6088円)も主張する。 a 被告による不正競争行為の期間は、被告ごみ箱販売1に係る平成27年1月31日までであるところ、この期間の被告ごみ箱の単位数量当たりの仕入原価が205.543円であることは当事者間に争いがなく、被告による被告ごみ箱の合計販売数量は前記のとおり78個である。被告が被告ごみ箱を78個販売して得た売上高が3万9060円であること(乙10)に照らせば、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高は500.769円(小数点第4位以下四捨五入)である。したがって、被告が被告ごみ箱を78個販売して得た利益は、2万3028円(1円未満四捨五入)であると認められる。(500、769−205.543)×78≒23、028 そうすると、2万3028円が営業上の利益を侵害された原告の受けた損害の額と推定されるところ、上記推定を覆滅する事由に関する主張、立証はないから、原告の損害額は、2万3028円であると認められる。 b これに対し、原告は、上記ア(イ)bと同様の主張をするが、上記と同様に採用できない。 2 被告傘立て1関係(争点2)について (1)不正競争行為による損害の発生の有無(争点2−1−2)について 原告傘立て1が平成19年12月に販売が開始されたことは、当事者間に争いがないところ、原告は、不正競争防止法19条1項5号イの規定を踏まえ、被告が平成22年12月までの間に被告傘立て1を販売した、すなわち被告傘立て1に係る不正競争行為が存在することを前提に、その販売行為がなければ原告が利益を得られたであろう逸失利益を損害として主張する。これに対し、被告は、被告傘立て1の販売を開始したのは平成24年10月であり、平成22年12月までの間に被告傘立て1を販売した事実はない、すなわち被告傘立て1に係る不正競争行為は存在しないと主張する。 この点、商品カタログは、需要者に商品をアピールするために格好の宣伝媒体であると考えられるところ、被告の商品カタログを見ると、被告傘立て1は、平成17年9月発行(乙1)、平成19年3月発行(乙2)、平成20年1月発行(乙3)、平成23年12月発行(乙5)の商品カタログには掲載されていない一方、平成24年10月発行(乙6)の商品カタログには掲載されていることは、被告の上記主張に沿う事情である。もっとも、原告が主張するように、取り扱う全ての商品が商品カタログに掲載されるとも限らないから、商品カタログに掲載されていないからといって直ちに商品が販売されていなかったと断定できるものではない。しかし、被告が被告傘立て1を輸入した時期が平成23年3月より前であることを認めるに足りる証拠はなく(調査嘱託の結果、乙32)、他に原告の主張を裏付ける証拠もないことからすると、被告が平成22年12月までの間に被告傘立て1を販売したとは認められないから、原告の上記主張は採用できない。 (2)著作物性の有無(争点2−2−1)について ア 原告傘立て1が傘立てとして実用に供されるためにデザインされた工業製品であることは当事者間に争いがないところ、原告は、これを前提に、原告傘立て1が美術の著作物として保護を受けると主張する。 イ この点、著作権法2条2項は美術工業品が美術の著作物として保護されることを明記したにすぎず、それ以外の実用的機能を有する美的創作物を一切保護の対象外とする趣旨とは解されないものの、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地からすれば、それに著作物性が認められるためには、その実用的な機能を離れて見た場合に、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていることを要すると解するのが相当である。 この観点から見ると、傘立てが、玄関等に置いておいて傘を立てて入れておくための家具であることに照らせば、有底略角柱状の容器である原告傘立て1の基本的形状(甲19、乙12。別紙原告製品目録2記載の各写真参照)は、傘立てとしての実用的機能に基づく形態である。また、原告は、原告傘立て1の側壁のデザインが鑑賞の対象であると主張するが、そこではタイルが壁面に格子状に貼付された様になっている(甲19。別紙原告製品目録2記載の【斜め上からの斜視図】及び【下方からの斜視図】の各写真参照)にすぎず、これは壁状のものによく見られる形状であって、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。したがって、原告傘立て1について、美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。 (3)一般不法行為の成否(争点2−3−1)について 上記(1)及び(2)のとおり、被告が被告傘立て1を販売した行為については、不正競争行為に当たらないし、著作権侵害行為にも当たらないところ、原告は、被告傘立て1を販売する行為についても公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成すると主張する。 しかし、上記1(2)の通り、その主張が知的財産関係の各法律の保護法益と同様の法益の侵害を主張するものであれば失当である。また、その主張が営業上の利益を侵害するとの趣旨であるとしても、被告による被告傘立て1の販売行為が市場において利益を追求するという観点を離れて、殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り、一般不法行為を構成することはないところ、原告の主張を前提としても上記特段の事情があるとは認められない。 したがって、被告による被告傘立て1の販売行為が一般不法行為を構成するという原告の主張は採用できない。 3 被告傘立て2関係(争点3)について (1)不正競争行為による損害の発生の有無(争点3−1−2)について 原告傘立て2が平成17年1月に販売が開始されたことは、当事者間に争いがないところ、原告は、不正競争防止法19条1項5号イの規定を踏まえ、被告が平成20年1月までの間に被告傘立て2を販売した、すなわち被告傘立て2に係る不正競争行為が存在することを前提に、その販売行為がなければ原告が利益を得られたであろう逸失利益を損害として主張する。これに対し、被告は、被告傘立て2の販売を開始したのは平成20年10月であり、平成20年1月までの間に被告傘立て2を販売した事実はない、すなわち被告傘立て2に係る不正競争行為は存在しないと主張する。 この点、被告の商品カタログを見ると、被告傘立て1は、平成17年9月発行(乙1)、平成19年3月発行(乙2)、平成20年1月発行(乙3)の商品カタログには掲載されていない一方、平成23年12月発行(乙5)の商品カタログに掲載されていることは、被告の上記主張に沿う事情である。このほかにも、被告が平成21年4月に「新商品紹介」を銘打って被告傘立て2を紹介していたり(乙4)、被告が被告傘立て2を輸入した時期に関する証拠(乙18、32)及び調査嘱託の結果からも、被告の上記主張に矛盾する証拠はなく、他方、原告の主張を裏付ける証拠もないことからすると、被告が平成20年1月までの間に被告傘立て2を販売したとは認められないから、原告の上記主張は採用できない。 (2)著作物性の有無(争点3−2−1)について 原告傘立て2が傘立てとして実用に供されるためにデザインされた工業製品であることは当事者間に争いがないところ、原告は、これを前提に、原告傘立て2が美の著作物として保護を受けると主張する。 しかし、上記2(2)イで言及した傘立ての実用的機能に照らせば、有底略円筒状である原告傘立て2の基本的形状(甲20、乙13.別紙原告製品目録3記載の各写真参照)は、傘立てとしての実用的機能に基づく形態である。また、原告は、原告傘立て2の外周面のデザインが鑑賞の対象であると主張するが、そこでは円弧状に凹没する環状凹条が多数かつ水平にわたって上下方向に等間隔に連続して形成され、全体として略蛇腹形状とされている(甲20。別紙原告製品目録3記載の【下方からの斜視図】参照)にすぎず、これは筒状ないし管状のものによく見られる形状であって、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。 したがって、原告傘立て2について、美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。 (3)一般不法行為の成否(争点3−3−1)について 上記(1)及び(2)のとおり、被告が被告傘立て2を販売した行為については、不正競争行為に当たらないし、著作権侵害行為にも当たらないところ、原告は、被告傘立て2を販売する行為についても公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成すると主張する。 しかし、上記2(3)と同様、この主張を採用することはできない。 4 弁護士費用について 上記1の認容額を始めとする本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告の各不法行為(本件意匠権侵害及び被告ごみ箱関係の不正競争行為)と相当因果関係に立つ弁護士費用の損害額は、各5000円(合計1万円)と認めるのが相当である。 第4 結論 以上の次第で、原告の請求は、被告に対し、@意匠法37条1項に基づき被告ごみ箱の販売等の差止めを、A同条2項に基づき被告ごみ箱の廃棄を、B本件意匠権侵害の不法行為に基づき2万8488円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の後である平成28年7月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を、不正競争防止法4条(被告ごみ箱の販売行為が不正競争行為)に基づき2万8028円及びこれに対する不法行為の後である平成28年7月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから、その限度で認容することとし(なお、主文第1項及び第2項については、仮執行宣言を付するのは相当でないから、これを付さないこととする。)、その余は理由がないことからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松宏之 裁判官 野上誠一 裁判官 大門宏一郎 (別紙)被告製品目録1 (別紙)被告製品目録2 (別紙)被告製品目録3 (別紙)謝罪広告目録(省略) (別紙)意匠権目録 (別紙)六面図 (別紙)原告製品目録1 (別紙)原告製品目録2 (別紙)原告製品目録3 (別紙)主たる争点に関する当事者の主張 1 争点1−1−1(差止請求及び廃棄請求並びに謝罪広告請求の可否)について (原告の主張) 被告は、平成27年10月22日付けで原告に対して被告ごみ箱の販売を中止したと伝えながら、それ以降も被告ごみ箱の販売を行っていたことに照らせば、その差止めはもとより、製造用金型も含めて廃棄させる必要がある。被告が被告ごみ箱を合計666個も販売して原告の業務上の信用を害していることに照らせば、謝罪広告の形で信用回復措置を取る必要性がある。 (被告の主張) 被告は、被告ごみ箱を製造販売ではなく輸入販売していたにすぎず、その金型を所有していないところ、原告からの指摘を受けて間もない平成27年10月22日から被告ごみ箱の販売を中止していることに照らせば、被告が被告ごみ箱を販売等するおそれはない。また、原告の主張は、被告が被告ごみ箱を小売販売ではなく卸売販売をしていたことを看過しており、被告は金型を所有していない。 本件意匠権侵害行為による販売数量が666個にとどまることに照らせば、信用回復措置を取る必要性はない。 2 争点1−1−2(損害額)について (原告の主張) 本件意匠権侵害行為による損害賠償を求める期間は、平成27年6月15日以降分の逸失利益である。 (1)原告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益が365円であり、被告による被告ごみ箱の販売数量が2483個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は90万6295円と推定される(意匠法39条1項による算定)。 (2)そうでないとしても、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高が少なくとも540円であり(被告ごみ箱は、少なくとも平成26年8月に合計6個販売され、合計売上高は3240円であった。)、その仕入原価が205.543円であったことから、その利益が少なくとも334.457円であること、平成27年6月15日以降の被告による被告ごみ箱の合計販売数量が少なくとも666個であることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも22万2748円と推定される(意匠法39条2項による算定)。 (被告の主張) 原告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益が365円であることは否認する。被告ごみ箱の単位数量当たりの仕入原価が205.543円、平成27年6月15日から被告が被告ごみ箱の販売を中止した平成27年10月22日までの被告による被告による被告ごみ箱の合計販売数量が666個であることは認める。 被告ごみ箱は、同日以降に合計666個販売され、その合計売上高が16万0380円であったことに照らせば、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高は240.811円である。 3 争点1−2(損害額)について (原告の主張) 不正競争行為による損害賠償を求める期間は、平成24年1月31日から平成27年1月31日までの間の逸失利益である。 (1)原告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益が365円であり、被告による被告ごみ箱の販売数量が4700個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は171万5500円と推定される(不正競争防止法5条1項による算定)。 (2)そうでないとしても、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益が少なくとも334.457円(単位数量当たりの売上高は少なくとも540円、仕入原価は205.543円)であること、平成24年1月31日から平成27年1月31日までの間の被告による被告ごみ箱の合計販売数量が少なくとも78個であることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも2万6088円と推定される(不正競争防止法5条2項による算定)。 (被告の主張) 原告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益が365円であることは否認する。被告ごみ箱の単位数量当たりの仕入原価が205.543円、平成24年1月31日から平成27年1月31日までの間の被告による被告ごみ箱の合計販売数量が78個であることは認める。 被告ごみ箱は、上記の期間に合計78個販売され、その合計売上高が3万9060円であったことに照らせば、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高は500.769円である。 4 争点1−3−1(不法行為の成否)について (原告の主張) 被告が、原告ごみ箱の形態を模倣して安価な材料で製造され、原告ごみ箱の商品ラベルを模倣した商品ラベルが貼付された被告ごみ箱を販売する行為(平成27年2月1日から同年6月14日までの販売分)は、不正競争行為に当たらないとしても、公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成する。 (被告の主張) 被告が平成27年2月1日から同年6月14日までの間に被告ごみ箱を販売した行為は、自由競争の範囲を著しく逸脱したものではないし、原告が侵害されたと主張する利益は知的財産法が保護している利益にすぎない。したがって、被告の上記販売行為は、一般不法行為を構成しない。 5 争点1−3−2(損害額)について (原告の主張) (1)一般不法行為による損害賠償を求める期間は、平成24年1月31日から平成28年10月11日までの間の逸失利益であり、その額は244万5500円である。 (2)また、平成27年2月1日から同年6月14日までの期間については、被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの利益が少なくとも334.457円(単位数量当たりの売上は少なくとも540円、仕入原価は205.543円)であり、上記の期間の被告による被告ごみ箱の合計販売数量が少なくとも30個であることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも1万0034円と推定される。 (被告の主張) 被告ごみ箱の単位数量当たりの仕入原価が205.543円、平成27年2月1日から同年6月14日までの間の被告による被告ごみ箱の合計販売数量が30個であることは認め、その余は争う。 被告ごみ箱は、上記の期間に合計30個販売され、その合計売上高が1万0200円であることに照らせば、上記の期間の被告ごみ箱の販売の単位数量当たりの売上高は340円である。 6 争点2−1−1(形態の実質的同一性の有無)について (原告の主張) 原告傘立て1の形態は、別紙「原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表」の「原告傘立て1の形態」欄のうち「原告の主張」欄記載のとおりである。 被告傘立て1と原告傘立て1の形態を対比すると、基本的構成態様が同一である上、高さ寸法、タイル状の凹条の段数及び列数並びに水平方向中央部のタイル部の幅寸法も同一であり、縦横寸法及び水平方向両端のタイル部の幅寸法の相違は肉眼で認識困難なほどの微細な差異にすぎないことに照らせば、被告傘立て1の形態は原告傘立て1の形態と実質的に同一である。 (被告の主張) 原告傘立て1の形態が、別紙「原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表」の「原告傘立て1の形態」欄のうち「原告の主張」欄記載のとおりであることは不知である。 被告傘立て1と原告傘立て1の形態を対比すると、別紙「原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表」の「原告傘立て1の形態」欄のうち「被告の主張」欄及び「被告傘立て1の形態」欄のうち「被告の主張」欄記載のとおりの相違点があり、全体的に、被告傘立て1の形態はやや丸みのあるずっしりとしたチープな印象を与えるものであるのに対し、原告傘立て1の形態は繊細で直線的なシャープな印象を与えるものである点で相違することに照らせば、被告傘立て1の形態は原告傘立て1の形態のいわゆるデッドコピーではない。 7 争点2−1−2(損害の発生の有無及び額)について (原告の主張) 不正競争行為による損害賠償を求める期間は、平成20年6月から平成22年12月までの間の逸失利益である。被告傘立て1の販売の単位数量当たりの利益が500円であり、被告による被告傘立て1の合計販売数量が5000個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は250万円と推定される(不正競争防止法5条2項による算定)。 (被告の主張) 被告は、平成24年10月に被告傘立て1の販売を開始しており、原告が損害賠償対象期間であると主張する期間(平成20年6月から平成22年12月までの間)については、被告傘立て1を販売していないから、原告に逸失利益は存在しない。 8 争点2−2−1(著作物性の有無)について (原告の主張) 原告傘立て1のようないわゆる応用美術につき、他の表現物と同様に、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性を認めても、一般社会における利用、流通に関し、実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは、考え難い。したがって、原告傘立て1も、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性が認められる。 タイルが壁面に格子状に貼付された様な原告傘立て1のデザインは、従来存在しておらず、作成者の個性が発揮されたものであるといえるから、原告傘立て1は著作物性を有する。 (被告の主張) 原告傘立て1のような応用美術については、実用面及び機能面を離れてそれ自体完結した美術品として専ら美的鑑賞の対象とされるような、純粋美術と同視し得る創作性を有するものに限って、美術の著作物として保護される。 しかし、規則的な格子状で無地のタイルは、タイルとして一般的なものであるところ、そのようなタイルが貼付された様な原告傘立て1のデザインも、平凡でありふれており、原告傘立て1が傘立てとしてではなく鑑賞の対象となるものではないから、著作物性を有しない。 9 争点2−2−2(著作権侵害の有無)について (原告の主張) 被告傘立て1のデザインは、四面の略平坦な側壁に縦七段、横三列の格子状に凹条が形成され、格子状の凹条がタイルの目地のように見え、平坦な側壁にタイルが貼られているかのような外観を呈する原告傘立て1のデザインと同一であり、これに依拠して作成されたものである。したがって、被告がこのような被告傘立て1を製造した点は複製権又は翻案権を侵害し、これを販売した点は譲渡権を侵害したものである。 (被告の主張) 否認ないし争う。 10 争点2−2−3(損害額)について (原告の主張) (1)被告傘立て1の販売の単位数量当たりの利益が500円であり、被告による被告傘立て1の販売数量が合計5000個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は250万円と推定される(著作権法114条2項による算定)。 (2)被告傘立て1の販売の単位数量当たりの利益が1833.4円(単位数量当たりの売上は2210円、仕入原価は376.6円)であるところ、被告が平成24年4月に被告傘立て1を600個輸入しており、全て販売したと考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも110万0040円と推定される(著作権法114条2項による算定)。 (被告の主張) 否認ないし争う。 11 争点2−3−1(不法行為の成否)について (原告の主張) 被告が、原告傘立て1の形態を模倣した粗悪な品質の被告傘立て1を販売する行為は、不正競争行為及び著作権侵害行為に当たらないとしても、公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成する。 (被告の主張) 被告が被告傘立て1を販売した行為は、自由競争の範囲を著しく逸脱したものではないし、原告が侵害されたと主張する利益は知的財産法が保護している利益にすぎない。したがって、被告の上記販売行為は、一般不法行為を構成しない。 12 争点2−3−2(損害額)について (原告の主張) (1)被告傘立て1の販売の単位数量当たりの利益が500円であり、被告による被告傘立て1の販売数量が合計5000個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は250万円と推定される。 (2)被告傘立て1の販売の単位数量当たりの利益が1833.4円(単位数量当たりの売上は2210円、仕入原価は376.6円)であるところ、被告が平成24年4月に被告傘立て1を600個輸入しており、全て販売したと考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも110万0040円と推定される。 (被告の主張) 否認ないし争う。 13 争点3−1−1(形態の実質的同一性の有無)について (原告の主張) 原告傘立て2の形態は、別紙「原告傘立て2と被告傘立て2の形態対比表」の「原告傘立て2の形態」欄のうち「原告の主張」欄記載のとおりである。被告傘立て2と原告傘立て2の形態を対比すると、両形態は、基本的構成態様において、全体として、上方を開口した有底略円筒状の容器であり、外周面に円弧状に凹没する環状凹条が多数、水平かつ上下方向に等間隔に連続して形成され、該凹条によって外周面が略蛇腹形状とされ、上端開口及び底面は円形、材質は陶器である点で共通し、具体的構成態様において、底面及び側壁が一様な板厚で形成され、底面はその中央が上方に円形状に底上げされ、上方開口周縁には側壁上端から内方に屈曲する幅狭の縁部が形成され、側壁の外周面に円弧状に凹没する環状凹条が上端から下端に亘って滑らかな曲線が連続するように多数形成されている点で共通する上、幅寸法、高さ寸法、環状凹条の段数の相違は僅かな差異にすぎないことに照らせば、被告傘立て2の形態は原告傘立て2の形態と実質的に同一である。 (被告の主張) 原告傘立て2の形態が、別紙「原告傘立て2と被告傘立て2の形態対比表」の「原告傘立て2の形態」欄のうち「原告の主張」欄記載のとおりであることは不知である。 被告傘立て2と原告傘立て2の形態を対比すると、別紙「原告傘立て2と被告傘立て2の形態対比表」の「原告傘立て2の形態」欄のうち「被告の主張」欄及び「被告傘立て2の形態」欄のうち「被告の主張」欄記載のとおりの相違点があり、全体的に、被告傘立て2の形態はずっしりとしたチープな印象を与える形態であるのものであるのに対し、原告傘立て2の形態は高級で華奢な印象を与えるものである点で相違することに照らせば、被告傘立て2の形態は原告傘立て2の形態のいわゆるデッドコピーではない。 14 争点3−1−2(損害の発生の有無及び額)について (原告の主張) 不正競争行為による損害賠償を求める期間は、平成17年7月から平成20年1月までの間の逸失利益である。被告傘立て2の販売の単位数量当たりの利益が500円であり、被告による被告傘立て2の合計販売数量が5000個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は250万円と推定される(不正競争防止法5条2項による算定)。 (被告の主張) 被告は、平成20年10月に被告傘立て2の販売を開始しており、原告が損害賠償対象期間であると主張する期間(平成17年7月から平成20年1月までの間)については、被告傘立て2を販売していないから、原告に逸失利益は存在しない。 15 争点3−2−1(著作物性の有無)について (原告の主張) 原告傘立て2も、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性が認められる。 原告傘立て2のデザインは、外周面に円弧状に凹没する環状凹条が多数、水平かつ上下方向に等間隔に連続して形成され、該凹条によって外周面が略蛇腹形状とされ、上端開口及び底面を円形とした形態的特徴によって、見る者の感情に柔らかで落ち着いた上質な高級感を呼び起こさせる独創的なデザインであり、作成者の個性が発揮されたものであるといえるから、原告傘立て2は著作物性を有する。 (被告の主張) 原告傘立て2のように水平方向に延びる環状のラインが円形の底面から上下方向に等間隔に積み重ねられた形状の傘立ては平凡でありふれており、原告傘立て2が傘立てとしてではなく鑑賞の対象となるものではないから、著作物性を有しない。 16 争点3−2−2(著作権侵害の有無)について (原告の主張) 被告傘立て2の形態的特徴は、外周面に円弧状に凹没する環状凹条が多数、水平かつ上下方向に等間隔に連続して形成され、該凹条によって外周面が略蛇腹形状とされ、上端開口及び底面を円形とした原告傘立て2の形態的特徴と同一であり、これに依拠して作成されたものである。したがって、被告がこのような被告傘立て2を製造した点は複製権又は翻案権を侵害し、これを販売した点は譲渡権を侵害したものである。 (被告の主張) 否認ないし争う。 17 争点3−2−3(損害額)について (原告の主張) (1)被告傘立て2の販売の単位数量当たりの利益が500円であり、被告による被告傘立て2の販売数量が合計5000個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は250万円と推定される(著作権法114条2項による算定)。 (2)被告傘立て2の販売の単位数量当たりの利益が1133.791円(単位数量当たりの売上は1480円、仕入原価は346.209円)であるところ、被告が平成21年10月に被告傘立て2を900個輸入するなど合計1455個輸入しており、全て販売したと考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも164万9666円(1円未満四捨五入)と推定される(著作権法114条2項による算定)。 (被告の主張) 否認ないし争う。 18 争点3−3−1(不法行為の成否)について (原告の主張) 被告が、原告傘立て2の形態を模倣した粗悪な品質の被告傘立て2を販売する行為は、不正競争行為及び著作権侵害行為に当たらないとしても、公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから、一般不法行為を構成する。 (被告の主張) 被告が被告傘立て2を販売した行為は、自由競争の範囲を著しく逸脱したものではないし、原告が侵害されたと主張する利益は知的財産法が保護している利益にすぎない。したがって、被告の上記販売行為は、一般不法行為を構成しない。 19 争点3−3−2 (原告の主張) (1)被告傘立て2の販売の単位数量当たりの利益が500円であり、被告による被告傘立て2の販売数量が合計5000個であると考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は250万円と推定される。 (2)被告傘立て2の販売の単位数量当たりの利益が1133.791円(単位数量当たりの売上は1480円、仕入原価は346.209円)であるところ、被告が平成21年10月に被告傘立て2を900個輸入するなど合計1455個輸入しており、全て販売したと考えられることに照らせば、原告の逸失利益の額は少なくとも164万9666円(1円未満四捨五入)と推定される。 (被告の主張) 否認ないし争う。 以上 (別紙)原告傘立て1と被告傘立て1の形態対比表
(別紙)原告傘立て2と被告傘立て2の形態対比表
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