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【事件名】「生命の實相」復刻出版事件D(2)
【年月日】平成30年10月9日
 知財高裁 平成29年(ネ)第10101号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成27年(ワ)第29705号)
 (口頭弁論終結の日 平成30年7月19日)

判決
控訴人 公益財団法人生長の家社会事業団(以下「控訴人事業団」という。)
控訴人 株式会社光明思想社(以下「控訴人光明思想社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 内田智
同 平尾正樹
被控訴人 生長の家(以下「被控訴人生長の家」という。)
被控訴人 Y
上記両名訴訟代理人弁護士 田中美登里
同 田中伸一郎
同 相良由里子
同 外村玲子


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人光明思想社の当審における追加請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は全て控訴人らの負担とする。

事実及び理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人事業団に対し、原判決別紙書籍目録記載1及び2の各書籍につき、原判決別紙著作物目録記載の著作物を削除又は抹消しない限り、複製、頒布し、又はインターネットのホームページ等の媒体を用いて販売の申出をしてはならない。
3 被控訴人らは、控訴人事業団に対し、前項の各書籍につき、原判決別紙著作物目録記載の著作物を削除又は抹消しない限り、自ら在庫として保管し又は一般財産法人世界聖典普及協会(以下「世界聖典普及協会」という。)、株式会社日本教文社(以下「日本教文社」という。)及び全国の生長の家各教化部において保管する前項の各書籍を廃棄せよ。
4 被控訴人らは、控訴人光明思想社に対し、第1項の各書籍を複製してはならない。
5 被控訴人らは、各自、控訴人事業団に対し、160万円及びこれに対する被控訴人生長の家につき平成27年11月19日から、被控訴人Yにつき同月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被控訴人らは、各自、控訴人光明思想社に対し、100万円及びこれに対する被控訴人生長の家につき平成27年11月19日から、被控訴人Yにつき同月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
1 本件は、(1) 控訴人事業団が、同控訴人は、言語の著作物である「大調和の神示」(「『七つの燈薹の點燈者』の神示」あるいは「『七つの灯台の点灯者』の神示」という題号のときもある。)(本件著作物)の著作権を有するところ、被控訴人らによる原判決別紙書籍目録記載1及び2の各書籍(本件各書籍)の出版が控訴人事業団の著作権(複製権)を侵害する旨主張して、被控訴人らに対し、@ 著作権法112条1項及び2項に基づく本件各書籍の複製、頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄(世界聖典普及協会、日本教文社及び被控訴人生長の家教化部の保管するものを含む。)、A 不法行為に基づく損害賠償金160万円及びこれに対する不法行為の日以後である訴状送達日の翌日(被控訴人生長の家につき平成27年11月19日、被控訴人Yにつき同月15日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、(2) 控訴人光明思想社が、同控訴人は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権(各著作物につき、別々の出版権設定契約に基づくもの。)を有するところ、被控訴人らによる本件各書籍の出版が控訴人光明思想社の上記各出版権を侵害する旨主張して、被控訴人らに対し、@ 著作権法112条1項に基づく本件各書籍の複製の差止め、A 不法行為に基づく損害賠償金100万円及びこれに対する不法行為の日以後である上記訴状送達日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。
2 原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、これを不服とする控訴人らが控訴した。
 当審において、控訴人光明思想社は、控訴人光明思想社が本件著作物の出版権(上記1(2)の出版権設定契約とは別の出版権設定契約に基づくもの。)を有するところ、被控訴人らによる本件各書籍の出版が控訴人光明思想社の上記出版権を侵害する旨主張して、上記1(2)@及びAと同様の差止め及び損害賠償を求める請求を追加した(3つの出版権に基づく請求の併合形態は選択的併合)。
3 前提事実
 前提事実は、原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要」「2 前提事実」(原判決3頁14行目から6頁2行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 争点及び当事者の主張
 本件における当事者の主張は、次のとおり付加訂正し、後記5のとおり当審における補充主張及び後記6のとおり当審における追加主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要」「3 争点」(原判決6頁3行目から同頁10行目まで)及び「第3 当事者の主張」(原判決6頁11行目から18頁3行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決4頁3行目「宗教法人の」を「宗教法人法上の」と改める。
(2) 原判決10頁18行目及び同頁20行目の「弁論準備」の後に「手続」を加える。
(3) 原判決13頁14行目「共産党」を「日本共産党」と改める。
(4) 原判決15頁1行目冒頭から3行目末尾までを次のとおり改める。
  「(1) 控訴人光明思想社と控訴人事業団は、平成23年7月1日に「生命の實相」について、平成25年8月8日に「甘露の法雨」について、控訴人事業団が控訴人光明思想社に出版権を設定する旨の出版権設定契約を締結し、控訴人光明思想社は、同日、上記各著作物についての出版権を取得した。
 「生命の實相」及び「甘露の法雨」には本件著作物が含まれているから、被控訴人らが本件著作物を含む本件各書籍を頒布の目的をもって複製することは、控訴人光明思想社の上記各出版権を侵害する。」
5 当審における補充主張
(1) 争点(1)(本件著作物の著作権の帰属)について
(控訴人らの主張)
ア 本件著作物は「生命の實相」の目次ないしはしがきの前の巻頭に掲載されているが、これは本件著作物が「生命の實相」の教えのエッセンスであり他の教えと横並びにすることは相当ではないことから格上に扱ったものにすぎず、本件著作物が「生命の實相」の一部ではないとの原判決の判断は誤りである。
イ Aは本件著作物が「『甘露の法雨』の巻頭の神示」であるとしており、本件著作物は「甘露の法雨」と一体である。被控訴人らは、「甘露の法雨」の巻頭に本件著作物が掲載されていない例(乙21)を提出するが、この例以外には確認されていない。
(被控訴人らの主張)
 本件著作物は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」とは独立した著作物であり、生長の家の宗教活動に不可欠なものである。Aが社会厚生事業を行う公益財団法人であって布教活動に関わらない控訴人事業団にその著作権を譲渡することは考えられないから、Aが本件著作物の著作権を控訴人事業団に移転したとする原判決の判断は誤りである。
(2) 争点(2)(黙示の許諾の有無)について
(控訴人らの主張)
ア 原判決は、使用許諾を認定する理由として、本件著作物が他の書籍に掲載されていることを挙げる。しかし、被控訴人生長の家が編纂したかのような奥付の表示がされた「聖光録(生長の家家族必携)」、「新編聖光録(生長の家信徒必携)」及び「こどもの祈り」も実際にはAの著作物であって、被控訴人生長の家は編纂に関与していない。現に、Aの相続人であるBが被控訴人生長の家に「聖光録(生長の家家族必携)」及び「新編聖光録(生長の家信徒必携)」の著作権を売却した旨の売買契約書が存在しており、上記の奥付の表示は営業目的の表示に過ぎない。したがって、控訴人事業団がこれらの書籍における本件著作物の使用に異議を述べず著作権使用の対価を求めなかった事実は、控訴人事業団がAないし出版社である日本教文社に使用許諾をしたことを裏付ける余地があるとしても、被控訴人生長の家に対する使用許諾を裏付けるものではない。
 また、被控訴人生長の家が編纂に関与した「生長の家五十年史」については、著作権法32条に基づく引用であるから控訴人事業団が異議を述べる理由もなく、仮にそうでないとしても、道義的に異議を述べたり著作権使用料を請求したりすることはできなかった。
イ 控訴人事業団は、Aの著作物の使用に関し、日本教文社との間で各種の出版契約書を取り交わし、被控訴人生長の家との間でも各種の書面を取り交わしており、仮に使用許諾がされたのであれば書面を作成するはずである。
ウ 被控訴人生長の家の法人の目的には、昭和63年8月までは、出版業は掲げられておらず、それまでは出版業を行うことはできなかったし、現に行っておらず、また、行う必要もなかったのであるから、昭和28年1月1日頃までの間に、同被控訴人の活動との関係で、本件著作物の使用許諾をすることはない。
エ 控訴人事業団はAの著作物の印税収入により運営することが予定されていたのであるから、本件著作物を無償で被控訴人生長の家による出版に使用させることは想定されていなかった。原判決が認定した使用許諾は「生長の家の布教・伝道に必要なAの著作物」を対象としており、「生命の實相」及び「甘露の法雨」等が含まれていることになるが、これらの書籍を被控訴人生長の家が無償で使用できるとすると控訴人事業団は印税収入を得る途が絶たれて経済的基盤を失うことになり、Aの意図に反することは明らかである。
オ 被控訴人生長の家が出版を決定した「大自然讃歌」及び「観世音菩薩讃歌」に、収録が予定されている「招神歌」(「甘露の法雨」に含まれる。)や本件著作物を収録しないよう要求したところ、被控訴人生長の家はこの要求に従っており、これは使用許諾がなかったことを裏付ける事実である。
(被控訴人らの主張)
ア Aが、教えの根本をなす特別な神示であり、生長の家の教えを伝道するために必須のものである本件著作物の著作権について、包括宗教法人である被控訴人生長の家が、社会厚生事業を行う控訴人事業団から、その使用を差し止められるような状況を是認するはずはなく、控訴人らの主張は使用許諾の趣旨に反する。
イ 原判決が使用許諾を認定する理由として挙げた書籍は形式的には日本教文社が出版したものではあるが、被控訴人生長の家がその宗教活動のために必要であると判断してその指示に基づいて出版されたものであり、控訴人事業団の承諾を得ることなく、被控訴人生長の家が本件著作物を使用した事例である。また、これらの書籍のうち著作者がAのものについても、被控訴人生長の家の当時の総裁であるAが生長の家の宗教活動のために必要であると判断し、その指示に基づいて出版したものである。
(3) 争点(3)(解約の有効性)について
(控訴人らの主張)
ア 次のとおり、被控訴人生長の家が自ら本件著作物を出版する必要はなく、控訴人事業団が使用許諾を解約するにつき正当な理由は不要である。
 被控訴人生長の家は、Cがその実権を掌握した平成初期(4〜5年)以降、本件著作物を含む書籍を、和歌山県教化部の発行した書籍を含めても2点(乙33、35)しか発行していない。また、被控訴人生長の家がCの著作である「大自然讃歌」及び「観世音菩薩讃歌」を出版しようとした際に、控訴人事業団が本件著作物の収録禁止を求めたところ、被控訴人生長の家は直ちにこれに従った。
イ 仮に解約のために正当な理由が必要だとしても、次のとおり、控訴人事業団と被控訴人生長の家の間の信頼関係は完全に失われているから、控訴人事業団には正当な理由がある。
(ア) 被控訴人生長の家は、上記引用に係る訂正後の原判決第3の3〔原告らの主張〕(2)アのとおり、かつてと全く異なる別の宗教団体となってしまい、そのため、その信者数は、昭和59年12月31日時点の308万人余から平成23年12月31日時点の61万人余、平成27年12月31日時点の49万人余まで減少している。
(イ) さらに、控訴人事業団と被控訴人生長の家の間には、同第3の3〔原告らの主張〕(2)イのとおりの事情に加えて、次のとおりの事情があり、これらの種々の係争により信頼関係は著しく破壊されている。
a 控訴人事業団が、平成23年6月30日、世界聖典普及協会に控訴人光明思想社から出版する「生命の實相」及び「甘露の法雨」の取扱いを要請したところ、世界聖典普及協会は、被控訴人生長の家から控訴人光明思想社が出版する書籍は使うなと指示されていることを理由にこれを拒絶した。
b 被控訴人生長の家は、平成26年4月から12月にかけて、生長の家の宗教の本尊や教えの象徴である「實相」の書及び「光輪卍十字架」図を商標登録し、「A先生を学ぶ会」が集会においてこれらの書及び図を使用しないよう求め、控訴人事業団は同会と被控訴人生長の家の訴訟において、同会に補助参加して激しく争った。
(ウ) 控訴人事業団は、被控訴人教団の教えの宗教的誤りを指摘し、是正するための主張を行う信教の自由を有しているとともに、自身が著作権を有する著作物を、自身が誤った宗教と判断するもののために使用を許諾しない信教の自由を有するから、信教の自由に基づいて使用許諾を解約する正当な理由がある。
(エ) 本件各書籍の出版は著作者の意を明らかに害するものであり、著作者人格権の侵害となる行為であるから容認できない。
(被控訴人らの主張)
ア 被控訴人生長の家が、「生命の實相」や「甘露の法雨」等を購入するのでなければ本件著作物を使用できないとすると、本件著作物を使用して伝道を行う際に控訴人事業団によって「正しい教え」であるか否かを評価され、控訴人事業団の考えに沿わない限り本件訴訟のような係争に巻き込まれるということになり、生長の家の教えを伝道すべき被控訴人生長の家の宗教活動に大いに支障があることは明白である。
イ 本件著作物は、被控訴人生長の家の教えの根本をなす、神示の中でも極めて特別な神示であって、本件教規にも明記されているものであり、その自由な使用が制約されることは、宗教法人の宗教活動に支障を及ぼすことは明白であるから、仮に控訴人事業団が著作権を有するとしても、その黙示の使用許諾の合意を解約するに足りる「正当な理由」は、厳格に解釈されなければならない。
6 当審における追加主張
(1) 「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権の対抗要件の具備
(控訴人らの主張)
ア 控訴人光明思想社は、平成30年3月22日、「生命の實相」及び「甘露の法雨」についての出版権の設定登録をした(登録番号第20300号の1及び第20301号の1)。
イ 被控訴人らの主張について
(ア) 出版権の設定登録の主張の提出は時機に後れたものではない。
(イ) 著作権者が著作物の使用許諾をした後に、その者との関係が悪化したために出版権を設定して登録することは自由であり、著作権法は、使用許諾による利用権を第三者に対抗するための制度を定めていないから、出版権の登録によって使用許諾を受けた者が著作物を使用できなくなるのは当然である。そして、控訴人らは、誤った原判決の効力を排除するため、自己の正当な宗教運動の目的実現のために自己の著作権及び出版権を行使しているに過ぎない。また、控訴人事業団と控訴人光明思想社は、公益財団法人と株式会社という全くの別法人であるから、同視できるものではない。
(ウ) 宗教的に中立な態度であるべき裁判所が信教の自由、宗教活動の自由やそれに密接に関連する活動につき、対立する宗教活動の担い手の一方(被控訴人生長の家)の主張に加担して、相手方(控訴人ら)を宗教的背信者(背教者)と決めつけ「背信性は明白」などとして正当な権利行使を妨げることは許されない。
(エ) 被控訴人教団が本件著作物を使用できなくても、現在の被控訴人生長の家は本件著作物を重要なものとしていないこと、本件著作物については控訴人光明思想社が万全の供給態勢を敷いていることからすれば、特に甚大な悪影響を被るものではない。
(被控訴人らの主張)
ア 出版権の設定登録の主張の提出は時機に後れており、不適法である。
イ 出版権につき対抗要件を備えた出版権者が、出版権設定時に、その著作物につき既に出版許諾を受けた者がいることを知っていた場合には、出版権者は当該出版許諾を受けた者による出版の違法を主張することは許されない。控訴人光明思想社は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権を設定した際、控訴人事業団が被控訴人生長の家に対し本件著作物の使用許諾をしていたことを知っていたのであるから、本件各書籍の出版が違法であると主張することは許されない。
ウ 次の事情からすれば、控訴人光明思想社が被控訴人生長の家に対し出版権侵害を主張することは権利の濫用として許されない。
(ア) 控訴人事業団と被控訴人生長の家の間の紛争においては、控訴人光明思想社は控訴人事業団と一体となって活動をしているから、控訴人事業団と被控訴人生長の家との間におけるAの著作物の著作権をめぐる法律関係においては、控訴人事業団と控訴人光明思想社を同視することができる。
(イ) 控訴人光明思想社は、これまで「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権につき出版権設定登録をしていなかったにもかかわらず、平成30年2月になって突然出版権設定登録申請をしており、これは、原判決を踏まえて、被控訴人生長の家による本件著作物の使用を妨げ、宗教活動を害する目的でされたものであり、背信性は明らかである。
(2) 本件著作物の出版権の設定及び対抗要件の具備
(控訴人らの主張)
ア 控訴人光明思想社と控訴人事業団は、平成29年11月22日、控訴人事業団が控訴人光明思想社に本件著作物につき出版権を設定する旨の出版権設定契約を締結し、控訴人光明思想社は、同日、本件著作物についての出版権を取得した。
イ 控訴人光明思想社は、平成30年3月22日に上記出版権の設定登録をした(登録番号第20402号の1)。
ウ 被控訴人らによる本件各書籍の出版は、控訴人光明思想社の上記出版権を侵害する。
エ 被控訴人らの主張について
(ア) 出版権の設定登録の主張の提出は時機に後れたものではない。
(イ) 上記(1)(控訴人らの主張)イ(イ)〜(エ)に述べたところが本件著作物の出版権行使についても妥当する。
(ウ) 本件著作物の出版権設定契約は契約締結日をバックデートさせたものではない。また、原審の心証開示の際には、控訴人らとしては、使用許諾の解約が認められるものと考えていた。
(被控訴人らの主張)
ア 本件著作権の出版権設定契約の主張の提出は時機に後れており、不適法である。
イ 上記(1)(被控訴人らの主張)イと同様に、控訴人光明思想社は、本件著作物の出版権を設定した際、控訴人事業団が被控訴人生長の家に対し本件著作物の使用許諾をしていたことを知っていたのであるから、本件各書籍の出版が違法であると主張することは許されない。
ウ 上記(1)(被控訴人らの主張)ウのとおりの事情に加えて、次のとおりの事情があり、控訴人光明思想社が被控訴人生長の家に対し出版権侵害を主張することは権利の濫用として許されない。
(ア) 本件著作物の出版権設定契約の締結日は平成29年11月22日とされているが、出版権登録申請日が平成30年2月14日であることに照らせば、控訴人らは、原判決の言渡日である平成29年11月29日より後に、契約締結日をバックデートさせて本件著作物の著作権設定契約を締結したものと推測される。控訴人らは、原審で敗訴したことから、被控訴人生長の家による宗教活動を害する目的で、出版権を設定したものである。
(イ) 仮に上記(ア)のように契約締結日をバックデートさせたと認められないとしても、原審において平成29年1月25日の第10回弁論準備手続期日において、控訴人事業団の被控訴人生長の家に対する黙示の使用許諾が認められる旨の心証開示がされ、同年6月27日の第14回弁論準備手続期日までの間、これを前提とする和解が試みられたという経過からすれば、控訴人光明思想社は、被控訴人生長の家が上記黙示の使用許諾を受けていることを知りながら、被控訴人生長の家を害する目的で、控訴人事業団と共同して出版権設定契約を締結したものである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 認定事実は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「第4 当裁判所の判断」「1 認定事実」(原判決18頁5行目から22頁3行目まで)記載のとおりである。
(1) 原判決18頁11行目末尾に、改行の上、次のとおり付加する。
 「 「生命の實相」は、Aが、自身が執筆して上記機関誌に随時発表した複数の文章の著作物の中から本件著作物を含む多数の著作物を選択・配列して書籍としたものである。
 生長の家の伝道は、Aの著作物を用いた文書による伝道(文書伝道)が中心とされている。」
(2) 原判決18頁13行目「した。」を「し、理事長に就任した。」と改める。
(3) 原判決18頁24行目「本件教規(乙2)」から25行目「制定された。」までを、「昭和26年9月9日、生長の家の教規として本件教規(乙2)が制定された。また、昭和27年5月30日、単位宗教団体の包括宗教法人として被控訴人生長の家(その前身は宗教法人生長の家教團)が設立された。(甲31の2、甲121)」と改める。
(4) 原判決19頁10行目冒頭から12行目末尾までを次のとおり改める。
 「 「甘露の法雨」は「生命の實相」にも収録され、その際には「甘露の法雨」の冒頭に本件著作物は掲載されていないが(乙21)、「甘露の法雨」が書籍(経典や肌守り)として通常発行される場合にはその冒頭に本件著作物が掲載されている。」
(5) 原判決19頁18行目末尾に「また、生長の家において、信者は宗教行として日常的に本件著作物を読誦すべきものとされている。」と付加し、同頁19行目「2013年」を「平成25年」と改める。
(6) 原判決19頁23行目「本件取り決め」から20頁7行目末尾までを次のとおり改める。
 「 本件著作物は、生長の家に関係する書籍である、@ 「聖光録(生長の家家族必携)」(乙9。昭和28年1月1日初版発行。編纂 生長の家本部、発行所 日本教文社。)、A 「菩薩は何を為すべきか」(乙16。昭和35年2月15日初版発行。A・D著、発行所 日本教文社。)、B 「神ひとに語り給ふ」(乙10。昭和35年11月15日初版発行。著者 A、発行所 日本教文社。)、C 「實相研鑽〔第一集〕」(乙15。昭和49年1月25日初版発行。A監輯、発行所 日本教文社。)、D 「新編聖光録(生長の家信徒必携)」(乙11。昭和54年3月1日初版発行。編纂 生長の家本部、監修 D、発行所 日本教文社。)、E 「生長の家五十年史」(乙18。昭和55年11月22日初版発行。編纂 生長の家本部、発行所 日本教文社。)、F「御守護(神示集)」(乙12。昭和56年9月27日初版発行。著者A、発行所 日本教文社。)、G 「こどもの祈り」(乙17。昭和59年8月20日初版発行。A著、生長の家本部編、発行所 日本教文社。)、H 「幸福の哲学」(乙19。昭和63年5月5日初版発行。著者 A、発行所 日本教文社。)、I 「新版菩薩は何を為すべきか」(乙20。平成8年5月5日初版発行。A・D著、発行所 日本教文社。)、J 生長の家月刊誌「理想世界(平成21年7月号)」(乙33。平成21年7月15日発行。編集著作 被控訴人生長の家、発行所日本教文社。)及びK 「和光(平成21年9月号)」(乙35。平成21年9月1日発行。発行所 生長の家和歌山教化部。)にも掲載されている。」
(7) 原判決21頁1行目から2行目の「以下「前件事件」という。」を削除する。
(8) 原判決21頁20行目「原告事業団は、」から25行目末尾までを次のとおり改める。
 「 控訴人事業団は、平成24年6月8日頃、被控訴人生長の家に対し、被控訴人生長の家が出版を計画している「大自然讃歌」及び「観世音菩薩讃歌」に関し、@ 上記両書籍に「招神歌」(「甘露の法雨」に含まれる。)を収録し、「観世音菩薩讃歌」にはさらに本件著作物を収録することは、控訴人事業団が保有する「甘露の法雨」の著作権を侵害すること、A 上記両書籍は「甘露の法雨」の二次的著作物に該当することなどを主張し、「甘露の法雨」の複製権、頒布権及び翻案権の侵害を主張した。その後、被控訴人生長の家は、「招神歌」及び本件著作物を収録せずに「観世音菩薩讃歌」を出版した。(甲16の1、23の1〜3)」
(9) 原判決21頁25行目末尾に、改行の上、次のとおり加え、同頁26行目「(9)」を「(10)」と改める。
 「(9) 被控訴人生長の家は、平成26年4月から12月にかけて、「實相」及び「光輪卍十字架」の標章について商標登録した(登録番号第5665365号、第5730197号、第5704789号。甲136〜138)。被控訴人生長の家は、「A先生を学ぶ会」に対し、同会の集会において上記標章を使用しないよう求めたことから、「A先生を学ぶ会」は上記商標登録につき無効審判請求し、さらに無効不成立審決の審決取消訴訟を提起し(知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10221号事件。)、同訴訟において控訴人事業団は同会に補助参加して商標登録の有効性を争った(甲89、132)。」
2 争点(1)(本件著作物の著作権の帰属)について
(1) 上記認定事実によれば、本件著作物はAが執筆した著作物であり、
 「生命の實相」は、Aが、本件著作物を含む既発表の複数の文章の著作物を創作的に選択・配列した編集著作物であるというべきである。
 また、本件著作物は「生命の實相」の初版の発行当時からその冒頭に配置されており、Aの著作物においても「「生命の實相」の巻頭にある「天地一切のものと和解せよ」の神示(判決注:本件著作物を指す。)に基づいて…」と言及されている(乙8)ことからすれば、本件著作物は編集著作物である「生命の實相」を構成する素材であると認めるのが相当である。
 そして、Aが本件寄附行為により控訴人事業団に「生命の實相」の著作権を移転したのは、控訴人事業団に「生命の實相」の著作権を保有させ、その印税収入により生長の家の宗教的信念に基づく社会厚生事業を行わせる点にあると解され、その際に「生命の實相」の各素材の著作権を留保したことをうかがわせる事情はないから、上記寄附行為により、素材である本件著作物の著作権も控訴人事業団に移転したものと認められる。
 よって、本件著作物の著作権は控訴人事業団に帰属する。
(2) 被控訴人らの主張について
 被控訴人らは、本件著作物は「生命の實相」とは別個の著作物であると主張するが、この点に関する判断は上記(1)のとおりである。
 また、被控訴人らは、本件著作物は生長の家の宗教活動にとって不可欠なものであるから、Aが控訴人事業団にその著作権を譲渡したとは考え難いと主張するが、控訴人事業団が設立された当時、同控訴人と被控訴人生長の家とは一体として活動していたものと推認されるから、Aにとって、本件著作物の著作権をそのいずれに帰属させるかは、宗教活動の観点からは特に重要な問題ではなかったものと考えられる。そして、Aが編集著作物である「生命の實相」の著作権を移転するに際し、本件著作物の著作権を寄附行為の対象から除外したことはうかがわれないから、被控訴人らの主張は採用できない。
3 争点(2)(黙示の許諾の有無)について
(1) 控訴人事業団は、生長の家の創始者であるAにより設立され、寄附行為により提供された財産を用いて社会厚生事業を行うことを目的とする公益財団法人であり、被控訴人生長の家は、伝道活動を通じてAが創始した生長の家の教義を広めることを主たる目的として、Aの意向に基づいて設立された宗教法人である。
 また、本件著作物は、@ Aに啓示された「神示」をAが著述したものであり、A 本件教規においても教義の根本としてその全文が掲げられ、B 生長の家が聖典と仰ぐ「生命の實相」や聖経である「甘露の法雨」においても、本編とは区別して巻頭に掲載され、C 「生命の實相 頭注版第25巻」(乙7)等にも本件著作物が「生長の家の教えの中心」である旨の記載が存在することなどからすれば、本件著作物は、生長の家の宗教伝道に用いられる文章の中でも特に重要な宗教上の意義を有するものと解される。
 以上のような控訴人事業団及び被控訴人生長の家設立の趣旨及び経緯並びに生長の家における本件著作物の重要性に加え、生長の家の伝道は文書伝道が中心であることに照らせば、Aにおいて、寄附行為により本件著作物の著作権を控訴人事業団に移転した後も、本件著作物については、A自身やAの意向に基づいて設立される生長の家の宗教法人に無償で使用させることを当初から想定していたと認めるのが相当である。
 そして、上記引用に係る訂正された原判決第4の1(6)のとおり、本件寄附行為後、@ 昭和28年1月1日から平成21年7月15日にかけて、被控訴人生長の家が編纂した「聖光録(生長の家家族必携)」、「新編聖光録(生長の家信徒必携)」、「生長の家五十年史」、「こどもの祈り」及び「理想世界(平成21年7月号)」に、また、A 昭和35年2月15日から平成8年5月5日にかけて、Aが著者である(共著者であるもの、監輯とされているものを含む。)「菩薩は何を為すべきか」、「神ひとに語り給ふ」、「實相研鑽〔第一集〕」、「御守護(神示集)」、「幸福の哲学」及び「新版菩薩は何を為すべきか」に、それぞれ本件著作物が掲載されており、控訴人事業団が約50年以上にわたりこれについて異議を述べたり本件著作物の使用料の対価を請求したりした形跡がないことも、上記認定を裏付けるものといえる。
 以上のような本件寄附行為当時及びその後の経過に照らせば、被控訴人生長の家の設立時から遅くとも「聖光録(生長の家家族必携)」が発行された昭和28年1月1日までの間には、控訴人事業団は、被控訴人生長の家に対し、本件著作物を無償で個別の承諾なく使用することを少なくとも黙示に許諾したものというべきである(以下「本件使用許諾」という。)。
 (2) 控訴人らの主張について
ア 控訴人らは、上記「聖光録(生長の家家族必携)」、「新編聖光録(生長の家信徒必携)」及び「こどもの祈り」に付された被控訴人生長の家が編纂した旨の奥付は営業目的のものであり、このような奥付の表示に関わらず実際はAの著作物であり、被控訴人生長の家は編纂に関与していないと主張し、その根拠として、Aの相続人であるBが被控訴人生長の家に「聖光録(生長の家家族必携)」及び「新編聖光録(生長の家信徒必携)」の著作権を売却した旨の売買契約書が存在する旨主張する。しかし、上記売買契約書(甲156の2)は両書籍の発行から30年以上、Aの死後20年以上経過した平成22年7月12日付けのもので書籍発行時の奥付の記載を否定するには足りない。また、「聖光録(生長の家家族必携)」及び「新編聖光録(生長の家信徒必携)」がAの著作物を被控訴人生長の家が編纂したものであるとすれば両書籍の奥付と上記売買契約書には大きな矛盾はないとみることもできる。そして、ほかに、上記3点の書籍が被控訴人生長の家の編纂によるものであるとの奥付の記載を否定するに足りる的確な証拠もないから、控訴人らの主張は採用できない。
 また、控訴人らは、被控訴人生長の家が編纂に関与した「生長の家五十年史」中に本件著作物が記述されているのは著作権法32条に基づく引用であるとか、そうでないとしても道義的に異議を述べることはできなかったと主張するが、控訴人らの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
イ 控訴人らは、控訴人事業団は日本教文社との間で各種の出版契約書を取り交わし、被控訴人生長の家との間でも著作物の使用に関する書面を取り交わしているから、仮に本件使用許諾がされたのであれば書面によるはずであると主張する。しかし、控訴人事業団がAの著作物の使用について契約書を作成したことがあるとしても、過去に本件著作物の使用に関する書面が作成されたことはうかがわれず、控訴人らの主張する点は本件使用許諾に関する上記認定を左右するものではない。
ウ 控訴人らは、昭和63年8月までは、被控訴人生長の家の法人の目的に出版業が含まれていなかったことから昭和28年1月1日頃までに本件使用許諾をすることはないと主張するが、被控訴人生長の家が複数の書籍の編纂を行い、その際に本件著作物を使用していることは上記(1)のとおりであるから、控訴人らの主張する点は本件使用許諾に関する上記認定を左右するものではない。
エ 控訴人らは、控訴人事業団は、Aの著作物の印税収入により運営することが予定されていたのであるから、被控訴人生長の家が本件著作物を出版において無償で使用させることは想定していなかったと主張するが、控訴人事業団が「生命の實相」等の特定の書籍の印税収入を得ることが予定されていたことは認められるものの、その素材である本件著作物を出版しその印税収入により運営することが予定されていたとまでは認め難い。本件使用許諾にかかわらず、控訴人事業団は聖典である「生命の實相」や聖経である「甘露の法雨」の出版をすることができるのであるから、本件使用許諾は控訴人事業団の設立の趣旨に反するものではなく、控訴人らの主張は採用できない。
オ 控訴人らは、被控訴人生長の家が、控訴人事業団の要求に応じて「大自然讃歌」及び「観世音菩薩讃歌」に「招神歌」及び本件著作物を収録するのをやめたことは本件使用許諾がなかったことを裏付ける事実であると主張するが、控訴人らはその要求において本件著作物のほか「招神歌」にも言及し、また翻案権侵害についても言及しており、「大自然讃歌」及び「観世音菩薩讃歌」に「招神歌」及び本件著作物が収録されなかった理由も明らかではない。控訴人らの主張は採用できない。
4 争点(3)(解約の有効性)について
(1) 正当な理由の要否
ア 控訴人らは、本件使用許諾の合意は無償の使用許諾であるから、正当な理由の有無にかかわらず、同合意を解約することができると主張する。
 しかし、上記3(1)において説示したとおり、本件著作物は生長の家の宗教伝道に用いられる文章の中でも特に重要な宗教上の意義を有するものであり、本件著作物が本件教規に記載され、生長の家における宗教行として日常的にその読誦をすべきものとされていることからすれば、本件著作物の掲載された書籍を信徒が控訴人らから購入することができることを考慮しても、被控訴人生長の家が本件著作物を使用できない場合、生長の家の教義の伝道に支障が生じる可能性が高いというべきである。
 また、上記3(1)において説示したとおり、本件著作物の著作権が控訴人事業団に移転した後も、A自身やAの意向に基づいて設立される生長の家の宗教法人に本件著作物を無償で使用させることを当初から想定していたのであるから、本件使用許諾が、控訴人事業団が正当な理由なく自由にいつでも解約し、被控訴人生長の家による使用を禁止することができるとの趣旨を含むものであったとは考え難い。
 そして、被控訴人生長の家は、50年以上にわたり、無償で本件著作物を使用し、安定して生長の家の教義の伝道に使用してきたとの事実が認められることは、上記3(1)に説示したとおりである。
 以上によれば、本件使用許諾の合意を解約するためには、これを是認するに足りる正当な理由が必要であるというべきである。
イ 控訴人らの主張について
 控訴人らは、被控訴人生長の家は、Cがその実権を掌握して以降、本件著作物が収録された書籍を被包括下宗教団体である和歌山県教化部の発行した書籍を含めても2点(乙33、35)しか発行していないこと、被控訴人生長の家が「大自然讃歌」及び「観世音菩薩讃歌」を出版しようとした際に本件著作物の収録をやめたことからすれば、正当な理由は不要であると主張するが、上記アに説示した本件著作物の重要性に照らせば、控訴人らの主張する点は正当な理由の要否についての判断を左右するものではない。
(2) 正当な理由の有無
ア そこで、正当な理由の有無について検討するに、前記前提事実のとおり、本件各書籍(甲7、8)は、いずれも巻頭に本件著作物の全文を掲載した上で、本編に「天地一切と和解する祈り」を含む6編(A著作3編、C著作3編)を収録したものであり、本件書籍1は手帳型の経本の体裁、本件書籍2はお守りの体裁を持つ著作物である。このような本件各書籍の内容や体裁等によると、本件各書籍は、本件著作物を収録する他の著作物と同様、生長の家の伝道に使用されるために発行されたものであると認められ、その目的・使用態様は本件使用許諾の趣旨を逸脱するものではないということができる。
イ これに対し、控訴人らは、使用許諾の合意を解約するための正当な理由として、以下の各事情を主張するが、控訴人らが主張するいずれの解約の意思表示の時点においても、本件使用許諾の合意を解約することを是認するに足りる正当な理由があるとは認められない。
(ア) 控訴人らは、控訴人事業団と被控訴人生長の家との間には、種々の係争が存在し、両者間の信頼関係が著しく破壊され、関係修復は困難であると主張するので、まずこの点について検討する。
a 控訴人らは、控訴人事業団と被控訴人生長の家との間には複数の訴訟が提起されるなど、その対立は激しく、もはや両者間の信頼関係は著しく破壊されていると主張する。
 確かに、上記認定事実のとおり、控訴人事業団と被控訴人生長の家との間には、平成21年以降、複数の訴訟を含め著作権及び商標権に関する種々の係争が存在し、両者が本件使用許諾の合意当時の協力関係を再構築することは相当程度困難な状況にあると認められる。
 しかし、上記3(1)に説示したとおりの本件使用許諾の合意に係る事情に照らせば、本件使用許諾の合意に係る当事者間の関係は、同合意の解約の正当な理由を基礎付ける一事情として考慮されるべきではあるものの、両者の対立状況や関係修復の可能性から直ちに解約の正当な理由があるということはできず、本件著作物の使用期間、本件著作物の使用目的・態様、本件著作物が使用できなくなった場合に被控訴人生長の家が受ける不利益の程度等を総合して、解約の正当な理由の有無を判断することが相当である。
 控訴人事業団と被控訴人生長の家は、いずれもAの意向に基づいて設立された法人であり、現在もAの宗教的信念の実現に向けた活動を行っているところ(控訴人らは、被控訴人生長の家が宗教的に変質したと主張するが、このような主張の当否は裁判所が判断すべき筋合いのものではないことは後述のとおりである。)、本件においては、@ 本件著作物は生長の家の教義の根本というべき著作物であり、これを使用できないと生長の家の伝道活動に支障が生じる可能性が高いこと、A 本件著作物の使用は50年以上という長期間に及ぶ安定したものであること、B 本件各書籍は、本件著作物を収録する他の著作物と同様、生長の家の教義の伝道に使用されるものであり、本件使用許諾の趣旨を逸脱するということはできないし、他に被控訴人生長の家が本件著作物を本件使用許諾の趣旨を逸脱して使用した形跡もうかがわれないことなどの事情が認められる。本件に現れたこれらの事情を考慮すると、控訴人事業団と被控訴人生長の家との間に係争が存在し、関係の修復が相当程度困難であるとしても、本件使用許諾の合意を解約し、被控訴人生長の家に上記の不利益を受忍させるに足りる正当な理由があると認めることはできない。
b 控訴人らは、被控訴人生長の家は、現時点でもなお平成21年に控訴人事業団に対して提訴した際の主張をウェブサイトに掲載し続け、訴訟でその主張が否定されたにもかかわらず、その記載を削除・訂正していないと主張する。
 しかし、上記認定事実のとおり、被控訴人生長の家は、平成25年5月31日、敗訴した事実をウェブサイトで報告しているのであり(甲70)、それ以前のニュースリリースがウェブサイト上に残されていたとしても、そのことをもって、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる事情であるということはできない。
c 控訴人らは、@ Cは、控訴人事業団の行為を「背教的行為」等と評し、その名誉を毀損した、A 被控訴人生長の家は、控訴人事業団が運営する児童養護施設「生長の家神の国寮」に入所している児童が被控訴人生長の家の教化部が主催する「生長の家青少年練成会」の行事に参加することを拒否した、B 被控訴人生長の家は、平成21年以降、控訴人事業団役員等を被控訴人生長の家の「青年会」から正当な理由なく除名し、同控訴人の理事長等を被控訴人生長の家の「相愛会」から正当な理由なく退会させた、C 被控訴人生長の家の職員は、日本教文社の株主総会において、控訴人事業団役員等に罵声を浴びせかけたなどと主張するが、これらの事実は、本件著作物及びその使用許諾との関連性が薄く、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足る事情であるということはできない。
d 控訴人らは、世界聖典普及協会が、被控訴人生長の家から控訴人光明思想社が出版する書籍は使うなと指示されていることを理由に、控訴人事業団が控訴人光明思想社から出版する「生命の實相」及び「甘露の法雨」の取扱いを拒絶したと主張するが、被控訴人生長の家の上記指示を認めるに足りる的確な証拠はない。
(イ) また、控訴人らは、被控訴人生長の家がかつての教団と全く異なる別の宗教活動を行う団体に変質したとし、その具体的な事情として、@ 現教団は、日本共産党と共闘し、左翼的思想を有する環境保護運動団体へと変容したこと、A 被控訴人生長の家の総本山における祭神を「住吉大神」から「造化三神」に変更したこと、B Aの講義が記載された著作物を事実上の絶版状態とし、毎年の重要な祭事・行事を行わなくなったこと、C これらにより被控訴人生長の家の信徒が減少したことを主張する。
 しかし、被控訴人生長の家の宗教活動が変質したか否かは宗教上の教義に関する問題であり、その内容について裁判所が審理判断すべきではない。そして、上記3(1)において説示したとおり、控訴人事業団と被控訴人生長の家は、いずれもAの意向に基づいて設立された法人であり、控訴人事業団は社会厚生事業を行うことを目的とする公益財団法人であり、被控訴人生長の家は伝道活動を通じて生長の家の教義を広めることを主たる目的とする包括宗教法人であって、両者は、いわば車の両輪として活動することが予定されていたものと考えられることからすると、両者の間に宗教的対立が生じ、それが、本件使用許諾の解約の正当な理由として主張されるようなことは、本件使用許諾がおよそ想定するところではなかったというべきであり、この点からしても、控訴人らの主張は失当である。
(ウ) さらに、控訴人らは、控訴人事業団の信教の自由に基づいて本件使用許諾を解約する正当な理由があるとも主張するが、本件においては、使用許諾の解約の可否という私人間の紛争において、控訴人事業団及び被控訴人生長の家の双方の信教の自由が問題となっているのであるから、控訴人事業団の信教の自由のみを考慮することは相当ではなく、上記のとおり、解約の可否を市民法的観点から判断すべきである。
(エ) 加えて、控訴人らは、本件各書籍の出版は著作者の意を明らかに害するものであり、著者が生存していれば著作者人格権の侵害となる行為であるから容認できないと主張するが、控訴人事業団は著作者の遺族ではないから、この点に関する控訴人らの主張は採用できない。
(3) 以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人事業団の請求はいずれも理由がない。
5 争点(4)(控訴人光明思想社の出版権侵害の成否)について
(1) 時機に後れた攻撃防御方法の却下について
 被控訴人らは、控訴人光明思想社による、@ 「生命の實相」及び「甘露の法雨」の対抗要件具備、A 本件著作物についての出版権設定及び対抗要件具備の主張について、民事訴訟法157条に該当すると主張する。控訴人らは、平成30年6月5日の当審第1回口頭弁論期日に上記主張をしたものであるが、上記主張に係る事実はいずれも原審口頭弁論終結日(平成29年9月29日)より後のものであり、当審第1回口頭弁論期日に主張したことをもって、同条の「時機に後れた」ものとはいえない。
(2) 「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権侵害について
 控訴人光明思想社は、被控訴人生長の家による本件各書籍の出版は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権を侵害すると主張する。しかし、「生命の實相」及び「甘露の法雨」と本件各書籍は題号のみならず内容も異なる書籍であり、「生命の實相」及び「甘露の法雨」を原作のまま複製したものということはできないから、本件各書籍の出版は「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権を侵害するものではない。
 よって、その余の点を判断するまでもなく、これらの著作物の出版権に基づく控訴人光明思想社の請求は理由がない。
(3) 本件著作物の出版権侵害について
ア 控訴人光明思想社は、平成30年3月22日までに、控訴人事業団から本件著作物に係る出版権の設定を受け(以下「本件出版権」という。)、その旨の出版権設定登録をしたことが認められる(甲152)。
 そして、本件各書籍には本件著作物の本文が全部収録されていることからすれば、本件各書籍の出版は本件出版権を侵害するものと解するのが相当である。
イ そこで、控訴人光明思想社による本件出版権の行使が権利の濫用に当たるか否かが問題となる。
 本件出版権の設定契約締結に関しては、被控訴人生長の家が原審において控訴人事業団から本件著作物の使用許諾を受けていた旨並びに本件著作物と「生命の實相」及び「甘露の法雨」は別個の著作物である旨の主張をしたことから、これを受けて、控訴人らが、原審の口頭弁論終結日より後に、出版権設定契約をした上でその設定登録をしたという経過が認められる(弁論の全趣旨)。
 このような経過に照らせば、控訴人事業団は、本件訴訟において本件使用許諾の解約が認められなかった場合に備えて、被控訴人生長の家による本件使用許諾に基づく本件著作物の使用を妨げる目的で新たに本件出版権を設定したことが明らかである。また、控訴人光明思想社は、控訴人事業団及び被控訴人生長の家が当事者となった過去の複数の訴訟において、共同原告ないし共同被告となって控訴人事業団とおおむね同じ主張をして、被控訴人生長の家と対立していたものであり(甲10、11、20、27)、本件訴訟においても訴え提起の当初から控訴人事業団の共同原告として同一の訴訟代理人に委任し同一の主張をして訴訟を追行していたのであるから、控訴人光明思想社においても、上記と同様の目的をもって、本件出版権の設定契約をしたと推認することができる。
 以上に加え、控訴人光明思想社が、本件出版権の設定契約までに「生命の實相」及び「甘露の法雨」と別個に本件著作物を独立して出版していた事情はうかがわれないことをも併せ考慮すると、控訴人光明思想社による被控訴人生長の家に対する本件出版権の行使は権利の濫用として許されないものというべきである。
ウ 控訴人らの主張について
 控訴人らは、原判決は誤っているから、その効力を排除するために本件出版権を設定するのは正当な権利行使である旨を主張するが、本件の事実関係の下においては被控訴人生長の家に対し本件出版権を行使するのが権利の濫用となるのは、上記イに説示したとおりである。
 また、控訴人らは、宗教的に中立な態度であるべき裁判所が信教の自由、宗教活動の自由やそれに密接に関連する活動につき、対立する宗教活動の担い手の一方の主張に加担して、相手方を宗教的背信者(背教者)と決めつけて正当な権利行使を妨げることは許されないとも主張するが、権利の濫用に当たるとの上記判断は宗教的背信者であるかの判断とは無関係であるから、控訴人らの主張は理由がない。
 さらに、控訴人らは、本件著作物については控訴人光明思想社が供給できることから本件使用許諾の解約を認めても甚大な悪影響を被るものではないと主張するが、本件著作物を控訴人光明思想社が出版することは上記権利の濫用の判断を左右するものではない。
(4) 以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、控訴人光明思想社の請求はいずれも理由がない。
6 以上のとおり、控訴人らの請求はいずれも理由がないから、本件控訴は理由がなく、控訴人らの控訴をいずれも棄却し、控訴人光明思想社の当審における追加請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 高橋彩
 裁判官 寺田利彦
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