判例全文 line
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【事件名】“マリカー”不正競争事件
【年月日】平成30年9月27日
 東京地裁 平成29年(ワ)第6293号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年6月26日)

判決
原告 任天堂株式会社
同訴訟代理人弁護士 松田俊治
同 田島弘基
同 小槻英之
被告 株式会社MARIモビリティ開発(以下「被告会社」という。)
同訴訟代理人弁護士 長沢幸男
被告 A(以下「被告A」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 鮫島正洋
同 高瀬亜富
同 永島太郎
同 内田公志


主文
1 被告会社は、営業上の施設及び活動(外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシによるものを除く。)において、別紙被告標章目録第1記載1ないし4の各標章を使用してはならない。
2 被告会社は、前項記載の標章を、前項記載の営業上の施設、広告宣伝物及びカート車両から抹消せよ。
3 被告会社は、営業上の施設及び活動において、別紙被告標章目録第2記載1ないし11の各標章を使用してはならない。
4 被告会社は、別紙投稿動画目録記載1ないし16の各動画のデータを廃棄せよ。
5 被告会社は別紙ドメイン名目録記載1ないし4の各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合を除き使用してはならない。
6 被告会社は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成30年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は、原告に生じた費用の5分の4と被告会社に生じた費用の5分の4を被告会社の負担とし、その余は原告の負担とする。
9 この判決は、第6項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告会社は、営業上の施設及び活動において、別紙被告標章目録第1記載1ないし4の各標章を使用してはならない。
2 被告会社は、前項記載の標章を、店舗その他の営業上の施設、広告宣伝物及び自動車、自転車、軽車両その他の営業表示物件から抹消せよ。
3 被告会社は、東京法務局平成27年6月4日設立の商業登記中、「株式会社マリカー」の商号登記の抹消登記手続をせよ。
4 被告会社は、別紙原告表現物目録記載1ないし4の著作物を複製又は翻案してはならない。
5 被告会社は、被告会社が運営しているウェブサイトや動画共有サービスにおいて、別紙原告表現物目録記載1ないし4の著作物の複製物又は翻案物を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
6 主文第3項同旨。
7 被告会社は、別紙掲載写真目録記載1ないし3の各写真をウェブサイトから削除し、当該写真データを廃棄せよ。
8 被告会社は、別紙投稿動画目録記載1ないし16の各動画をウェブサイトから削除し、当該動画のデータを廃棄せよ。
9 被告会社は、別紙ドメイン名目録記載1ないし4の各ドメイン名を使用してはならない。
10 被告会社は、別紙ドメイン名目録記載2及び4の各ドメイン名の登録を抹消せよ。
11 被告会社は、別紙貸与物目録記載1ないし6の各コスチュームを顧客に貸与してはならない。
12 被告らは、原告に対し、連帯して1000万円及びこれに対する平成29年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告会社による①原告の周知又は著名な商品等表示である文字表示である「マリオカート」及び「マリカー」(以下、これらを併せて「原告文字表示」という。)と類似する別紙被告標章目録第1記載の各標章(以下「被告標章第1」という。)の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に、②原告が著作権を有する別紙原告表現物目録記載の各表現物(以下「原告表現物」という。)と類似する部分を含む別紙掲載写真目録記載の各写真(以下「本件各写真」という。)及び同投稿動画目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を作成(以下「本件制作行為」という。)してインターネット上のサイトへアップロードする行為(以下、この掲載及びアップロード行為を「本件掲載行為」という。)が原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権等)侵害に、③原告の周知又は著名な商品等表示である原告表現物又は別紙原告商品等表示目録記載の商品等表示(以下「原告立体像」という。)と類似する表示である別紙被告標章目録第2記載の各標章(コスチューム及び人形、以下「被告標章第2」といい、同目録記載の標章を「被告標章第2のい1」等と特定する。)を使用する行為である本件掲載行為、従業員のコスチューム着用行為及び店舗における人形の設置行為(以下、併せて「本件宣伝行為」という。)が不競法2条1項1号及び2号の不正競争に、④原告の特定商品等表示である原告文字表示と類似する別紙ドメイン名目録記載の各ドメイン名(以下「本件各ドメイン名」という。)の使用が同項13号の不正競争に、⑤原告表現物の複製物又は翻案物である別紙貸与物目録記載の各コスチューム(以下「本件各コスチューム」という。)を貸与する行為(以下「本件貸与行為」という。)が原告の著作権(貸与権)侵害に、各該当すると主張して、被告会社に対し、前記各不正競争該当行為(前記①、③及び④)につき不競法3条1項及び2項に基づき、著作権侵害該当行為(前記②及び⑤)につき著作権法112条1項及び2項に基づき、前記①につき被告標章第1の使用差止め、同抹消及び商号登記の抹消を(請求の趣旨第1ないし3項)、前記②につき原告表現物の複製又は翻案及び複製物等の自動公衆送信等の各差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄を(請求の趣旨第4、5、7及び8項)、前記③につき被告標章第2の使用差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄を(請求の趣旨第6ないし8項)、前記④につき本件各ドメイン名の使用差止め及び同ドメイン名の一部の登録抹消を(請求の趣旨第9及び10項)、前記⑤につき本件貸与行為の差止めを(請求の趣旨第11項)、被告らに対し、前記各不正競争該当行為(前記①、③及び④)につき不競法4条、5条3項1号及び4号に基づき、著作権侵害行為(前記②及び⑤につき民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償として1000万円(一部請求)及びこれに対する不法行為後の日である平成29年3月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告は、娯楽用品、運動具、音響機器及び乗物の製造及び販売、ゲーム、映像及び音楽等のコンテンツの制作、製造及び販売、キャラクター商品の企画、製造及び販売並びに知的財産権の許諾等を業とする株式会社である。
イ 被告会社は、自動車等の売買、リース、レンタル等を業とする株式会社であり、平成27年6月4日に設立された。
ウ 被告Aは、被告会社の代表取締役である(甲2)。
(2)原告によるゲームソフト「マリオカート」シリーズの開発販売
ア 原告は、平成4年8月27日、ゲーム機種スーパーファミコン用のゲームソフトとして「スーパーマリオカート」を発売し、平成26年5月29日までの間に、合計8本の「マリオカート」シリーズのゲームソフトを販売した(甲7)。
「マリオカート」は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」等のキャラクターが、カートに乗車して様々なコースを走行し、レースを繰り広げることを特徴とするゲームシリーズである(甲8の1ないし9)。
イ 原告表現物目録記載1の「マリオ」(以下「原告表現物マリオ」といい、その他の原告表現物も同様に特定する。)、原告表現物ルイージ、原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパは、人物又は生物のイラストで、絵画の著作物であり、原告が著作権を有する。原告表現物は、「スーパーマリオブラザーズ」をはじめとする原告の一連のゲームシリーズである「マリオ」シリーズ等に登場し、「マリオカート」シリーズにもカートの運転手として登場するキャラクターである「マリオ」、「ルイージ」、「クッパ」及び「ヨッシー」の人物又は生物としての表現上の特徴を再現したといえるものである。(甲7、8の1ないし9、94の2)。
(3)被告会社等による公道カート等のレンタル事業
ア 被告会社は、設立時である平成27年6月4日から、少なくとも平成28年6月23日まで間、「MariCAR」との屋号を用いて、公道を走行することが可能なカート(以下「公道カート」という。)のレンタルとそれに付随する事業(以下「本件レンタル事業」という。)を営んでいた。なお、被告会社が、平成28年6月24日以降も引き続き本件レンタル事業を営んでいたか否かについては争いがある(争点1参照)。
イ 本件レンタル事業に係るサービスを提供する店舗は、当初は品川店のみであったが、遅くとも平成29年2月23日までには、渋谷店、秋葉原第1号店、秋葉原第2号店、秋葉原第3号店、秋葉原第4号店、富士河口湖店、大阪店及び沖縄店が加わった(甲3、6の1ないし4)。
ウ 平成29年10月6日当時において、被告会社から公道カートの提供を受けたとして「MariCAR」との屋号を用いて本件レンタル事業に関与していた団体として、品川カート有限事業責任組合(以下「品川組合」という。)、秋葉原カート有限事業責任組合(以下「秋葉原組合」という。)、株式会社PLAN–S、株式会社マリカー大阪、沖縄カート有限事業責任組合(以下「沖縄組合」という)及び合同会社エコカート(以下、前記の各団体を併せて「関係団体」という。)があった。このうち品川組合は品川店及び渋谷店の、秋葉原組合は秋葉原第1号店ないし第4号店の、株式会社PLAN–S社は富士河口湖店の、株式会社マリカー大阪は大阪店の、沖縄組合は沖縄店の、合同会社エコカートは六本木店の、それぞれ運営に関与していた(甲6の1、甲62の1、乙48の1ないし5、弁論の全趣旨)。
 被告会社は、平成28年6月24日から平成29年10月23日までの間は品川組合の、同年6月13日から同年10月24日までの間は秋葉原組合の、同年6月26日から同年11月6日までの間は沖縄組合の、各組合員であった(甲121の1、3、4)。
エ 被告会社は、平成28年6月24日以降、関係団体に対し公道カート及びその部品を販売して提供しているとし、また本件レンタル事業等に供される公道カートのメンテナンスサービスを提供している(以下、同事業を「本件販売整備事業」という。甲6の1、2、4、甲102の1、甲132の1、2、乙1ないし3の2、甲41の5ないし9)。
(4)被告標章第1の使用
ア 被告標章目録第1記載1の標章(以下「被告標章第1の1」といい、その他の被告標章第1も同様に特定する。)(「マリカー」)
(ア)被告会社は、平成27年6月4日の設立時から平成30年3月21日まで、「株式会社マリカー」との商号を用いていたが、同月22日付けで、その商号を「株式会社MARIモビリティ開発」に変更した(乙84)。
(イ)平成28年10月頃に作成され、同年11月15日当時に品川店において配布されていた本件レンタル事業に係るチラシ(以下「本件チラシ」という。)には、「マリカーは、普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタル&ツアーサービスです。」、「マリカーは普通運転免許(AT可)が必要なアクティビティです!」との記載があった(甲3、4、59の1)。
(ウ)被告会社は、平成29年2月23日当時、同社のウェブサイト(http://以下省略、以下「被告会社サイト」という。)に、「マリカー・ハロウィンイベント実施」、「マリカーAmazon店が正式OPEN」、「マリカーYahoo!Japanショッピング店が正式」、「マリカーに乗って道路を走っていると自然と笑顔になれる。」と記載していた(甲6の3、争いのない事実)。
(エ)品川店のウェブサイト(http://以下省略、以下「品川店サイト1」という。)及び富士河口湖店のウェブサイト(http://以下省略、以下「河口湖店サイト」という。)には、平成29年2月23日当時、それぞれ、「マリカーとは?」、「マリカーは、日本最大級の公道カートのレンタル&ツアーサービスです」、「みんなで日本一の公道カート『マリカー』を楽しんじゃってください!!ぜひ日本最大級のマリカーに遊びに来て下さい!」等と記載されていた(甲6の1、2)。
(オ)品川店のウェブサイト(http://以下省略、以下「品川店サイト2」という。)には、平成29年8月10日及び同年11月14日当時、「私たち、マリカーは、毎日通常通りに営業を行っております。マリカーは法律を遵守しており、今後も法律に則って運営して参ります。」、「マリカーに合わせて楽しいオプションをご用意。」等と記載されていた(甲74、102の1)。
(カ)秋葉原第1号店のウェブサイト(http://以下省略及びhttp://以下省略、以下、それぞれ「秋葉原第1号店サイト1」及び「秋葉原第1号店サイト2」という。)には、平成29年10月2日当時は秋葉原第1号店サイト2に、平成30年5月7日当時は秋葉原1号店サイト1及び2に、前記(オ)と同一の記載がされていた(甲132の1、2、乙41の6)。
(キ)渋谷店のウェブサイト(http://以下省略、以下「渋谷店サイト」という。)、大阪店のウェブサイト(http://以下省略、以下「大阪店サイト」という。)、沖縄店のウェブサイト(http://以下省略、以下「沖縄店サイト」という。)には、平成29年10月2日当時、それぞれ前記(オ)と同一の記載がされていた(乙41の7ないし9)。
イ 被告標章第1の2(「MariCar」)
(ア)本件レンタル事業に供される公道カートの前部及び側面等には、少なくとも平成28年11月15日から平成30年5月7日頃までの間、黄色又は白色の文字で「MariCar」とペイントされていた(甲4、6の1ないし4、甲74、85の3、甲102の1、甲106の1、2、6ないし9、甲132の1、2、甲134の2、乙85)。
(イ)被告会社は、平成29年2月23日当時、被告会社サイトに前記標章をペイントした公道カートの写真を掲載して、同標章を表示していた(甲6の3、争いのない事実)。
ウ 被告標章第1の3(「MARICAR」)
(ア)被告会社は、平成29年2月23日当時、被告会社サイトに、「MARICAR」との文字及びカートに乗った人物を組み合わせたロゴ(以下「本件ロゴ」という。)を複数箇所に掲示していた(甲6の3)。
(イ)品川店サイト1及び2、河口湖店サイトには、平成29年2月23日当時、それぞれ本件ロゴが掲示されていた(甲6の1、2、4)。
(ウ)品川店サイト2には、平成29年8月10日、同年10月2日及び同年11月14日当時、本件ロゴが掲示されていた(甲74、102の1、乙41の1ないし5)。
(エ)平成29年10月2日当時、秋葉原第1号店サイト2に、平成30年5月7日当時、秋葉原第1号店サイト1及び2に、それぞれ本件ロゴが掲載されていた(甲132の1、2、乙41の6)。
(オ)渋谷店サイト、大阪店サイト及び沖縄店サイトには、平成29年10月2日当時、それぞれ本件ロゴが掲載されていた(乙41の7ないし9)。
(カ)本件レンタル事業に供される公道カートの前部や側面等には、少なくとも平成28年11月15日から平成30年5月7日頃までの間、本件ロゴがペイントされていた(甲4、6の1ないし4、甲132の1、2、甲134の2、乙85)。
(キ)本件チラシには、その両面の左上部分に本件ロゴが記載されていた(甲3、4)。
(ク)品川店においては、平成28年11月15日当時、本件ロゴが印刷された名刺(以下「本件名刺」という。)を配布していた(甲4、57)。
エ 被告標章第1の4(「maricar」)
 本件チラシには、「maricar.以下省略」と記載されていた(甲3、4)。
(5)本件掲載行為
ア 本件各写真の掲載
(ア)別紙掲載写真目録記載1の写真(以下「本件写真1」といい、その他の本件各写真も同様に特定する。)は、遅くとも平成29年2月23日までに、品川店サイト1に掲載された(甲6の1)。
(イ)本件写真2及び3は、遅くとも平成29年2月23日までに、河口湖店サイトに掲載された(甲6の2)。
(ウ)本件各写真は、遅くとも平成29年6月16日までに上記の各サイトから削除された(弁論の全趣旨)。
イ本件各動画の掲載
(ア)別紙投稿動画目録記載1の動画(以下「本件動画1」といい、その他の本件各動画も同様に特定する。)は、平成27年11月2日に、本件動画2は同月3日に、本件動画3及び本件動画4は同月4日に、本件動画5は同月22日に、本件動画6は同月23日に、本件動画7は同年12月5日に、本件動画8は同月22日に、本件動画9及び10は同月26日に、本件動画11は平成28年1月6日に、本件動画12は同月10日に、本件動画13は同月11日に、本件動画14は同月26日に、本件動画15は同年8月15日に、本件動画16は平成29年1月12日に、それぞれインターネット上の動画共有サービスであるYouTubeにアップロードされた(弁論の全趣旨)。
 本件各動画のうち、本件動画1ないし12及び16は、本件レンタル事業の利用者らが、コスチュームを着用し、公道カートに乗車して東京都内を走行する様子等を撮影して作成されたものであり、本件動画13ないし15は、本件レンタル事業について放映されたテレビ番組を録画して作成されたものである(甲42の1ないし16、甲43の1ないし16)。
(イ)本件各動画は、遅くとも平成29年6月16日までに上記のサービスから削除された(弁論の全趣旨)。
(6)従業員によるコスチューム着用行為及び人形の設置行為
ア 本件レンタル事業においては、公道カートをレンタルした利用者がガイドに案内されて東京都内を走行するツアーが用意されており、平成27年6月4日頃から平成29年6月16日頃までの間、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」等のコスチュームを着用した従業員が公道カートに乗車して利用者を先導することより、ガイドを勤めていた(甲4、6の1、甲43の13、16、乙63)。
イ 品川店においては、遅くとも平成28年6月4日頃から平成29年2月24日頃までの間、店舗内の入口付近に、入口側に背を向ける方向で、身長120㎝ほどの「マリオ」の人形(別紙被告標章目録第2記載11、以下「本件マリオ人形」という。)が設置されていた(甲4、84、108の1、2)。
 本件マリオ人形は、遅くとも平成29年6月16日までに撤去された
(弁論の全趣旨)。
(7)本件各ドメイン名の使用
ア 被告会社は、遅くとも平成29年1月31日までに、別紙ドメイン名目録記載2のドメイン名(以下「本件ドメイン名2」といい、その他の本件各ドメイン名も同様に特定する。)につきドメイン名登録機関から登録を受け、平成29年2月23日当時、これを被告会社サイトの開設に使用していた(甲55の2)。
イ 被告会社は、遅くとも平成29年1月31日までに、本件ドメイン名4につきドメイン名登録機関から登録を受けたが、平成30年1月31日までの間に、同登録を抹消した。
本件ドメイン名4は、平成29年2月23日当時には品川店サイト2の開設に、同年10月2日当時には秋葉原第1号店サイト2、渋谷店サイト、大阪店サイト及び沖縄店サイトの開設に、平成30年5月7日当時には秋葉原第1号店サイト2の開設に、それぞれ使用されていた(甲6の4、甲55の4、甲132の2、乙41の5、7ないし9、甲56)。
ウ 株式会社ゼント社(以下「ゼント社」という。)は、遅くとも平成29年1月31日までに、本件ドメイン名1及び3につきドメイン登録機関から登録を受けた。
 本件ドメイン名1は、平成29年2月23日当時は品川店サイトの開設に、平成30年5月7日当時は秋葉原第1号店サイト1の開設に、それぞれ使用されていた。
 本件ドメイン名3は、平成29年2月23日当時、河口湖店サイトの開設に使用されていた(甲6の1、2、甲55の1、3、甲132の1)。
(8)本件貸与行為
ア 品川店においては、少なくとも平成28年1月11日頃から平成29年11月16日頃までの間、本件貸与行為を行っていた(甲6の1、4、甲39、甲42の13、甲43の13、甲75の1、甲105の1、甲106の5、8)。
イ 河口湖店においては、少なくとも平成29年2月23日から同年11月15日頃までの間、本件貸与行為を行っていた(甲6の2、甲102の2、甲105の2)。
ウ 大阪店においては、少なくとも平成29年5月27日頃から同年11月15日頃までの間、本件貸与行為を行っていた(甲105の3、甲106の7)。
(9)登録商標
 被告会社は、「マリカー」の標準文字からなる以下の商標(以下「本件商標」という。)に係る商標権を有している(甲66の1ないし3、乙21)。
 登録番号 第5860284号
 出願日 平成27年5月13日
 登録日 平成28年6月24日
 登録商標 マリカー(標準文字)
 指定商品及び指定役務並びに商品及び役務の区分
 第39類 船舶・航空機・乗物・自動車・オートバイ・自転車・乳母車・人力車・そり・手押し車・荷車・馬車・リアカーの貸与及びこれらに関する情報の提供等
2 争点
(1)被告会社が平成28年6月24日以降、被告標章第1の4の使用、本件制作行為、本件掲載行為を含めた本件宣伝行為、本件ドメイン名1、3及び4の使用並びに本件貸与行為(以下「本件各行為」という。)を行ったか否か(争点1)
 被告会社が、平成28年6月24日以降、「株式会社マリカー」との商号を使用するとともに、本件ドメイン名2を使用し、これによって開設した被告会社サイトにおいて、被告標章第1の1及び2を表示したことについては争いがなく、本件ロゴを掲載することによって被告標章第1の3を表示したことは前記前提事実(4)ウ(ア)のとおり容易に認定することができる。一方、同日以降、原告が不正競争行為、著作権侵害行為に該当すると主張するその余の本件各行為を行ったのが被告会社であるか否かについては争いがある。
(2)不競法に基づく請求について
ア 被告標章第1の使用差止及び抹消請求の可否
(ア)被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か(争点2)
(イ)登録商標の抗弁の成否(争点3)
(ウ)使用差止及び抹消請求の可否及び範囲(争点4)
イ 被告標章第2の使用差止並びに本件各写真等の削除及び廃棄請求の可否
(ア)被告標章第2を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か(争点5)
(イ)使用差止及び抹消・廃棄請求の可否及び範囲(争点6)
ウ 本件ドメイン名の使用差止及び登録抹消請求の可否
(ア)本件ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争に該当するか否か(争点7)
(イ)使用差止及び登録抹消請求の可否及び範囲(争点8)
(3)著作権法に基づく請求について
ア 原告表現物の複製又は翻案の差止請求並びに本件各写真等の抹消及び廃棄請求の可否
(ア)本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点9)
(イ)複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲(争点10)
イ 本件貸与行為の差止請求の可否
(ア)本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点11)
(4)損害論
ア 被告Aに対する損害賠償請求の可否(争点12)
イ 原告の損害額(争点13)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(被告会社が平成28年6月24日以降、本件各行為を行ったか否か)について
(原告の主張)
ア 被告会社は、平成27年6月4日に設立された後、本件レンタル事業を開始し、本件訴訟提起後に至るまで、顧客に対して、有償で公道カート、本件各コスチュームその他の機器・物品等をレンタルするビジネスを営んでいる。
イ 仮に、被告会社が、関係団体に本件レンタル事業を形式的に移管したと認められるとしても、被告会社は、同事業の具体的な内容及び手順等を実質的に管理・支配することにより、これら関係団体を自らの手足ないし道具として侵害行為を行っているにすぎないから、侵害行為の実質的又は規範的な主体と評価されるべきである。
(被告らの主張)
ア 被告会社は本件レンタル事業を立ち上げたものの、平成28年6月24日以降は、本件レンタル事業を関係団体へ移管し、同日以降は関連団体が同事業を実施している。被告会社は、同日以降は、関係団体に対し、公道カートを販売したり、メンテナンスの業務を提供したり、可能な範囲で事業運営に関するアドバイス等を行ったり、自己の有する登録商標の使用を許諾する等して本件レンタル事業に関与していたにすぎない。
 したがって、被告会社が、平成28年6月24日以降、本件各行為を行った事実はない。
イ 原告は、被告会社が関係団体を管理・支配していたと主張するが、安全面等について関係者で協力し、情報共有しているというだけの話であり、管理・支配関係は存在しない。
(2)争点2(被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か)について
(原告の主張)
ア 原告文字表示の周知性又は著名性
(ア)原告文字表示のうち「マリオカート」(以下「原告文字表示マリオカート」という。)は、原告が開発販売する著名なゲーム作品である「マリオ」シリーズに登場する「マリオ」をはじめとするキャラクターがカートレースを繰り広げるアクションレースゲームの名称であり、同ゲームシリーズは平成4年8月27日に第一作目が発売されて以降、平成28年12月末日時点でシリーズ合計8作の全世界での累計販売本数は1億1000万本を超え、世界有数のゲームシリーズである上、原告によるライセンス商品の広告・宣伝及び販売並びにコラボレーション活動を通じて、非常に高度な知名度を獲得した。
 また、原告文字表示のうち「マリカー」(以下「原告文字表示マリカー」という。)は、「マリオカート」を「マリオ」と「カート」の二単語に分け、それぞれの冒頭二文字を切り出し、再度結合して作られた「マリオカート」の略称であり、遅くとも平成8年頃から現在に至るまで、様々なメディア(ゲーム雑誌、テレビ番組、漫画作品等)や多数のユーザーにおいて広く一般に使用されている。
 したがって、原告文字表示マリオカート及びその略称である原告文字表示マリカーは、原告の周知かつ著名な商品等表示である。
(イ)被告らは、本件レンタル事業の需要者を訪日外国人に限定されると主張するが、同事業におけるサービスの提供を受ける者に日本人が含まれることは明らかであり、被告らの前記主張は前提において誤っている。
 また、被告らの主張は訪日外国人が日本語を理解できないことを前提としているが、在日米軍関係者や在日本大使館員等、日本に居所があり一定期間居住している外国人の中には、片仮名の読み書きができる者が相当程度存在する上、本件レンタル事業を利用する訪日外国人は、日本文化、とりわけ原告の「マリオ」シリーズに強い関心を持つ者であるから、これらの者には日本語に理解のある者も相当程度存在し、訪日外国人であれば日本語を理解できないという経験則はない。
イ 被告標章第1と原告文字表示との類否
(ア)被告標章第1の1は、原告文字表示マリカーと外観、称呼、観念が同一であり、類似することは明らかである。
 また、被告標章第1の2ないし4は、原告文字表示マリカーと称呼において同一であり、「Mari」「MARI」及び「mari」は「マリオ」の省略形である「マリ」の英語表記、「カー」は「カート」の称呼の省略形であるか、「カート」を含んだ車両という意味の上位概念である「カー」(「Car」「CAR」及び「car」)を指すものと理解されることからすれば、「マリオカート」の略称である「マリカー」を連想させ、観念においても同一又は極めて類似している。さらに、被告会社は、前記各標章を「マリオ」シリーズのキャラクターの写真や動画とともに使用しているのであるから、取引者又は需要者は、当該具体的な使用態様の下においては、前記各標章と原告文字表示マリカーを類似のものとして受け取るといえる。(イ)また、被告標章第1は、前記のとおり「マリオカート」の略称である「マリカー」を連想させるといえるから、同時に原告文字表示マリオカートを想記させるといえる。
ウ 混同を生じさせるおそれの有無
 被告会社の営む本件レンタル事業は、需要者から「マリオカート」を公道上においてリアルに体験するものであると評価されており、同事業の平均的な需要者は、被告会社が、原告の関連会社であるか、原告との間に知的財産権に関するライセンスを受けるといった緊密な営業上の関係、その他の同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存在していると理解することは確実であるから、被告会社による被告標章第1の使用行為は、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」に該当する。
(被告らの主張)
ア 原告文字表示の周知性又は著名性
 本件レンタル事業の需要者は、外国人旅行者、在日米軍関係者又は在日大使館員などの訪日外国人であるところ、原告は、原告文字表示マリオカート及び原告文字表示マリカーが訪日外国人において周知かつ著名であることについての主張立証を行っていない。原告が原告文字表示マリカーの周知性・著名性の根拠として提出する証拠は、すべて日本語で表記された日本人向けメディアによるものであり、訪日外国人についてこれを立証する証拠はない。
 また、「マリカー」の欧文字は「MariKar」又は「MariKa」となるところ、これらの文字列について、インターネットの検索エンジンで検索しても「マリオカート」に関するウェブサイトは一切表示されないのであるから、片仮名表示による「マリカー」表示が訪日外国人にとって周知かつ著名といえるはずがない。このことは、訪日外国人に対するアンケート調査において、「マリカー」の片仮名の表示を原告のビデオゲームソフトの名前として認知している者の割合がわずか0.4%(228名中1人)にすぎなかったことからも明らかである。
イ 被告標章第1と原告文字表示との類否
 本件レンタル事業の需要者である訪日外国人にとって、片仮名の原告文字表示と被告標章第1が同一でないことはもちろん、類似するともいえないことは明らかである。
ウ 混同を生じさせるおそれの有無
 現在では、関係団体のウェブサイト上に、英語、フランス語、中国語、韓国語及び日本語で、「ゲーム『マリオカート』(MarioKart)とは全くの別物です」という趣旨の記載がされており、本件レンタル事業と原告とは一切関係がないことが明示的かつ対外的に示されているのであるから、将来的にも混同のおそれが生じる可能性はない。
(3)争点3(登録商標の抗弁の成否)について
(被告らの主張)
 被告会社は、本件商標の商標権者であるから、被告会社及び同社から使用を許諾された関係団体は、「マリカー」という標章を使用する正当な権限を有する。
 なお、平成5年法律第47号による不競法の改正により、それまで同法6条にあった登録商標の抗弁に係る規定は削除されたが、周知表示の存在にもかかわらず商標権者側が登録商標を使用することが可能であることを前提とする商標法32条2項及び商標権者が指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利を専有することを規定した同法25条からすれば、被告会社は登録商標の抗弁を主張することができる。
(原告の主張)
 前記不競法6条の削除後においては、不競法に基づく主張と商標権に基づく主張との調整は、権利の行使は濫用にわたらない限り許されるとの一般原則により行われることになる。そして、原告文字表示が被告会社による本件商標の出願時において原告の周知かつ著名な商品等表示となっていたこと、被告会社による本件商標の出願そのものが他人の業務上の信用・顧客吸引力を利用する意図を持ってなされたこと及び被告会社による被告標章第1の使用が、原告の周知かつ著名な原告文字表示が有する顧客吸引力を利用する意図の下にされたことからすれば、被告会社による商標権の行使は、権利の濫用として許されない。
(4)争点4(使用差止及び抹消請求の可否及び範囲)について
(原告の主張)
 被告会社による被告標章第1の使用行為は本件訴訟提起後も継続しており、原告は、長年の営業努力によって獲得した営業上の信用にただ乗りされ、営業上の信用が損なわれることによって、営業上の利益を侵害されている。
(被告らの主張)
 争う。
 被告会社は、平成30年3月22日付けで、その商号を「株式会社マリカー」から「株式会社MARIモビリティ開発」に変更したから、「株式会社マリカー」の商号登記の抹消登記手続を求める原告の請求には理由がない。
(5)争点5(被告標章第2を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か)について
(原告の主張)
ア 原告表現物及び原告立体像の周知性又は著名性
(ア)原告表現物マリオ、原告表現物ルイージ、原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパは、いずれも原告が販売する主要かつ著名なゲーム作品である「スーパーマリオブラザーズ」等に登場し、その商品化事業を通じて、原告の周知かつ著名な商品等表示となった。
(イ)原告立体像は、「マリオ」シリーズのキャラクターである原告表現物を三次元のコスチュームに立体的に具体化したものであり、原告が商品の広告宣伝活動に原告立体像を積極的に活用してきたことに照らせば、原告の周知かつ著名な商品等表示である。
イ 原告表現物及び原告立体像と本件宣伝行為との類否
(ア)原告表現物及び原告立体像と、本件各写真及び本件各動画に掲載された「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」及び「クッパ」のキャラクターのコスチューム(被告標章第2のコスチューム)を着た人物とを比較すると、「マリオ」については、いずれも①全体的に膨らみをもって、正面に半円形のつばがついた形状をして、正面に白い丸のなかに赤字で大きくMと書かれた赤い帽子をかぶり、②両腕と胸の一部が赤い長袖シャツ様の模様になっており、③赤い長袖シャツ様になっている部分以外は青色で、かつ太い肩紐のような部分があり、胸の部分に黄色く大きな丸いボタンの柄がついたオーバーオール様の模様になっているという点又は①ないし③の主要な点において類似している。
 「ルイージ」については、①全体的に膨らみをもって、正面に半円形のつばがついた形状をして、正面に白い丸の中に緑色の字で大きくLと書かれた緑色の帽子をかぶり、②両腕と胸の上部の一部が緑色の長袖シャツ様の模様になっており、③緑色の長袖シャツ様になっている部分以外は青色で、かつ太い肩紐のような部分があり、胸の部分に黄色く大きな丸いボタンの柄がついたオーバーオール様の模様になっているという点又は①ないし③の主要な点において類似している。
 「ヨッシー」については、①頭部は鼻の部分が丸くて大きな緑色の球体になっており、その後ろに頭部の大半を占めるように白い縦長の丸を二つ重ねた中にそれぞれ黒目を置いた目があり、その周りをなぞるように緑色の縁取りがなされるような形状で頭部が形成されており、頬に当たる部分は白くて丸みを帯びてやや膨らんでいて、後頭部に半円形の朱色の背びれのようなものがついた恐竜をユーモラスにしたような生物の顔のかぶり物をして、②四肢と脇腹の部分は緑色、それ以外の腹部前面等の部分は白色をしており、背中に大きな赤い丸を白く縁取った模様があり、円錐に近い形の短い尻尾を付けているという点又は①及び②の主要な点において類似している。
 「クッパ」については、①牛のような二本の角が生えていて、鼻と唇は一体になっており分厚く肌色で、口の中には牙が生えており、目は鋭くつり上がっていて赤く豊かな眉を生やしており、頭頂部から後頭部にかけて赤く豊かなたてがみが生えているかぶり物をして、②胴体の中心にはお腹から胸にかけて大きく縦長の円に複数の横線が入った肌色の模様があり、それ以外の四肢と脇腹の部分は黄色く、首並びに左右の手首及び上腕部には複数の銀色のとげのような飾りの付いた黒い首輪及び腕輪をしており、③後ろから見ると複数本の太くて白いとげがあり、白い縁のついた緑色の甲羅を背負っていて、円錐に近い形の黄色く短い二本のとげのついた尻尾を有するという点又は前記①ないし③の主要な点において類似している。
(イ)被告会社が従業員に着用させているコスチュームは、前記(ア)のコスチュームと同様のものであるから、原告表現物及び原告立体像と同コスチュームを着用した被告会社の従業員とは類似している。
(ウ)被告会社が店舗に設置する本件マリオ人形は、前記(ア)で述べた点において原告表現物マリオと類似しているから、原告表現物及び原告立体像の「マリオ」と同人形は類似している。
ウ 商品等表示としての使用の有無
 原告の周知かつ著名な原告表現物及び原告立体像と類似する被告標章第2の各コスチュームを使用することは、視聴者に対して自他商品識別機能を発揮しているから、これらを表示することは「商品等表示としての使用」に該当する。
 被告会社は、本件各動画には運営主体を示す本件ロゴが付されていると主張するが、本件ロゴが映し出されるのは冒頭の数秒である上、本件ロゴの「MARICAR」は、原告の周知かつ著名な商品等表示である原告文字表示マリオカート又は原告文字表示マリカーを使用するものであり、原告の商品又は営業と誤認を生じさせる行為に該当するのであるから、本件ロゴの表示をもって被告標章第2の使用が「商品等表示としての使用」に該当しないということはできない。
 また、本件マリオ人形についても、店内が「マリオ」シリーズに登場するキャラクターによって装飾されている状況に照らせば、入口部分に設置された同人形には、他の店舗装飾と一体となって同店舗で提供するサービスの宣伝広告のために使用されていたといえる。エ 混同を生じさせるおそれの有無
 被告会社は、本件レンタル事業における広告宣伝に被告標章第2の各標章を使用し、本件各写真及び本件各動画を利用し、従業員に原告のキャラクターのコスチュームを着用させて公道カートの先導等の接客業務を行わせ、店舗の入口部分に本件マリオ人形を設置することによって原告のキャラクターを自社の事業に利用していて、これらの行為は、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」に該当する。
(被告らの主張)
ア 原告表現物及び原告立体像の周知性又は著名性
 不知ないし争う。
 原告が提出する証拠はいずれも日本国内で放映されたテレビコマーシャルであり、本件レンタル事業の需要者である訪日外国人の間で原告立体像が周知又は著名であったとは認められない。
イ 原告表現物及び原告立体像と本件宣伝行為との類否
 否認ないし争う。
ウ 商品等表示としての使用の有無
 本件動画4を除く本件各動画の冒頭においては、関係団体の自己識別表示であり、原告を想記させるような記載がない本件ロゴが表示されていることに加え、本件宣伝行為におけるコスチュームを着用した人物の使用は、「コスプレをして公道をカートで走る」という本件レンタル事業の内容を説明するためのものであり、「商品等表示としての使用」には当たらない。
 また、本件マリオ人形は、店舗内に販売目的で設置されていた商品である。
エ 混同を生じさせるおそれの有無
 不知ないし争う。
(6)争点6(使用差止及び抹消・廃棄請求の可否及び範囲)について
(原告の主張)
 被告会社による被告標章第2の使用は本件訴訟提起後も継続しており、原告は、長年の営業努力によって獲得した営業上の信用にただ乗りされ、営業上の信用が損なわれることによって、営業上の利益を侵害されている。
(被告らの主張)
 争う。
 本件各写真及び本件各動画は既に削除され、本件マリオ人形も撤去され、関係団体は、現在ではコスチュームを着用しての接客は行っていない。
(7)争点7(本件各ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争に該当するか否か)について
(原告の主張)
ア 本件各ドメイン名と原告文字表示の類否
 本件各ドメイン名の要部は、いずれも「maricar」であるところ、前記(2)イ(ア)のとおり、取引者又は需要者からすると、原告文字表示と「maricar」表示を類似のものとして受け取るおそれがあり、原告文字表示と本件各ドメイン名は類似する。
イ 図利加害目的の有無
 被告会社は、「maricar」表示を使用し、本件各ドメイン名を使用して開設したウェブサイトにおいて本件掲載行為を行うなど原告の有する顧客吸引力を不正に利用しており、他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的を有していたと認められる。
(被告らの主張)
ア 本件各ドメイン名と原告文字表示の類否
 本件レンタル事業の需要者である訪日外国人は、日本語が分からないのであるから、原告文字表示と原告が本件各ドメイン名の要部と主張する「maricar」とを全体的に類似のものとして受けとるおそれはない。
イ 図利加害目的の有無
 被告会社において他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的を有していたのであれば、当該他人の表現と同一か類似のドメイン名を使用するのが自然であるところ、原告文字表示と本件各ドメイン名は同一でも類似でもないのであるから、前記目的は認められない。
(8)争点8(使用差止及び登録抹消請求の可否及び範囲)について
(原告の主張)
 被告会社は本件各ドメイン名を使用して開設したウェブサイトにおいて本件掲載行為を行うことによって本件レンタル事業を行っているのであり、原告の営業上の利益が侵害されている。
(被告らの主張)
 争う。
(9)争点9(本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か)について
(原告の主張)
ア 原告表現物マリオは、①赤い帽子をかぶり、赤い長袖シャツと青いオーバーオールを着た人物であり、②赤い帽子は全体的に膨らみをもって、正面に半円形のつばがついた形状をしており、帽子の正面には白い丸の中に赤字で大きくMと書かれた部分があり、③赤い長袖シャツは、両腕部分及びオーバーオール(つなぎ)に覆われていない首に近い部分が見えており、④ゆったりとしたサイズの青いオーバーオールは、長ズボン部分と、正面の胸当てからなる前面部と、背中部分と当該前面部と背中部分とをつなぐサスペンダー(太い肩紐からなるズボンつり部分)から構成され、赤い長袖シャツが見えている部分を除いた足首から肩にかけての全身を覆い、⑤オーバーオールの胸あてのあたりにあるサスペンダーのすぐ下の部分には黄色く大きな丸いボタンのようなものがついているという特徴を有する。
 より詳細には、まず、前記①については、帽子と長袖シャツの赤色は少し朱色がかった明るく鮮やかな赤色(PANTONE●省略●又は当該商品の素材等による色味等の制約の下でそれと同様の印象を与える色、以下の色名の説明においても、いずれも当該商品の素材等による色味等の制約の下でそれと同様の印象を与える色を含むものとする。)で、オーバーオールの青色は明るくしっかりとした青色(PANTONE●省略●)で描かれており、前記②については、帽子の正面に描かれた白い丸は、完全な円ではなく、帽子のつばの縁に沿って円の下方部が切り取られた形状の少し横に広い楕円であり、白い丸の中に描かれた赤いMのマークは、帽子及び長袖シャツと同一色である赤色であり、Mを上からつぶして横に広げたような形状で中央のへこみは浅く描かれ、両端の辺の部分は上部に向けて幅が狭く、他方で下部に向けて広がるように、全体的に鋭角的に描かれており、帽子の膨らみについては、額の上に当たる部分に大きな膨らみをもたせるとともに、後頭部に当たる部分に小さ10な膨らみをもたせ、双方の膨らみの間にくぼみを設けたうえで、正面から見たときに横に広い印象を与えないように描かれている。また、前記④については、オーバーオールのお腹の部分は、小太りの男性が着用したようにゆったりと膨らむように描かれており、胸当てもズボン部分と幅において一体化し、一般的なオーバーオールよりも極端に横に広く大きく、胸のあたりまでをほぼ全て覆うように描かれていて、サスペンダーも一般的なオーバーオールよりも極端に太く短めに描かれている。前記⑤については、オーバーオールの胸当てとサスペンダーの下部が重なるように描かれており、当該重なりの部分をほぼ占めるように、一般的なオーバーオールに使用するには極端に大きく、目立ちすぎる原色の黄色(PANTONE●省略●)の円形のボタンがついている。
 本件写真1及び2並びに本件動画1ないし16には、前記主要な特徴を同じくするコスチュームを着た人物が写っているから、その部分は、原告の著作物である原告表現物マリオの表現内容及び形式を覚知させるに足りるものであり、少なくともそれらの本質的特徴を直接感得させるものであることは明らかである。
イ 原告表現物ルイージは、①緑色の帽子をかぶり、緑色の長袖シャツと青いオーバーオールを着た人物であり、②緑色の帽子は全体的に膨らみをもって、正面に半円形のつばがついた形状をしており、帽子の正面には白い丸のなかに緑色の字で大きくLと書かれた部分があり、③緑色の長袖シャツは、両腕部分及びオーバーオールに覆われていない首に近い部分が見えており、④ゆったりとしたサイズの青いオーバーオールは、長ズボン部分と正面の胸当てからなる前面部と背中部分と当該前面部と背中部分とをつなぐサスペンダーから構成され、緑色の長袖シャツが見えている部分を除いた足首から肩にかけての全身を覆い、⑤オーバーオールの胸のあたりにあるサスペンダーのすぐ下の部分には黄色く大きな丸いボタンのようなものがついているという特徴を有する。
 より詳細には、前記①については、帽子及び長袖シャツの緑色は明るく鮮やかな緑色(PANTONE●省略●)で、オーバーオールの青色は「マリオ」のオーバーオールよりも暗めで色の濃い、紺色に近い青色(PANTONE●省略●)で描かれており、前記②については、帽子の正面に描かれた白い丸は、完全な円ではなく、帽子のつばの縁に沿って円の下方部が切り取られた形状のわずかに横に広い楕円であり、白い丸の中に描かれた緑色のLのマークは、帽子及び長袖シャツと同一色である青色であり、縦の辺と横の辺が接合する箇所に向けてだんだんとやや狭く、接合箇所と反対方向に向けてやや太くなっていくうえに、縦の辺と比べて横の辺が若干太くなるように描かれていて、帽子の膨らみについては、額の上に当たる部分に大きな膨らみをもたせるとともに、後頭部に当たる部分に小さな膨らみをもたせ、双方の膨らみの間にくぼみを設けたうえで、正面から見たときに横に広い印象を与えないように描かれている。また、前記④については、オーバーオールのお腹の部分は若干ゆったりと膨らむように描かれており、胸当てもズボン部分と幅において一体化し、一般的なオーバーオールよりも極端に横に広く大きく、胸のあたりまでをほぼ全て覆うように描かれていて、サスペンダーも、一般的なオーバーオールよりも極端に太く短めに描かれている。前記⑤については、オーバーオールの胸当てとサスペンダーの下部が重なるように描かれて、当該重なりの部分をほぼ占めるように、一般的なオーバーオールに使用するには極端に大きく目立ちすぎる色の黄色(PANTONE●省略●)の円形のボタンがついている。
 本件写真1及び2並びに本件動画1ないし4、6ないし10、12ないし16には、前記主要な特徴を同じくするコスチュームを着た人物が写っているから、その部分は、原告の著作物である原告表現物ルイージの表現内容及び形式を覚知させるに足りるものであり、少なくともそれらの本質的特徴を直接感得させるものであることは明らかである。
ウ 原告表現物ヨッシーは、①緑と白を基調とした二足歩行の恐竜をユーモラスにしたような架空の生物であり、②正面から見ると、頭部は鼻の部分が丸くて大きな緑色の球体になっており、その後ろに頭部の大半を占めるように白い縦長の丸を二つ重ねた中にそれぞれ黒目を置いた目があり、その周りをなぞるように緑色の縁取りがなされるような形状で頭部が形成されており、頬に当たる部分は白くて丸みを帯びてやや膨らんでいて、四肢と脇腹の部分は緑色、それ以外の腹部前面等の部分は白色をしており、③後ろから見ると、頭部の後ろに半円形で朱色の背びれ様のものがついていて、背中に大きな赤い丸を白く縁取った模様があり、円錐に近い形の短い尻尾があって、両頬の部分と尻尾のうち地面に面した部分が白くそれ以外が緑色であるという特徴を有する。
 より詳細には、前記①については、皮膚等の緑色は黄緑色に近い緑色(PANTONE●省略●)であり、頬やお腹及び甲羅の縁の白色は通常の白色(PANTONE●省略●)でそれぞれ描かれており、前記②については、頭部のうち目については、正面から見ても鼻で目が隠れないよう、白目、黒目及び緑色の縁取りは十分な高さをもって描かれるとともに、白目の下端は、横から見ても白目がはっきりと見えるよう、白い部分がやや幅をもって描かれており、その形状は、楕円の下方部分がつぶれたようになっており、頬の部分は白い部分が真後ろから見てもはっきり分かるように後頭部に至る程度にまで一定の広がりと十分な膨らみをもって描かれていて、腹部前面の白い部分は、首から胸部及び腹部を経由し股のあたりまでを広く覆うように描かれている。前記③については、背びれは、オレンジ色に近い朱色(PANTONE●省略●)をしており、半円に近い形で相応の高さをもって描かれており、甲羅にあたる部分の背中の大きな赤い丸を白く縁取った模様のうち、甲羅の赤色は少し朱色がかった明るく鮮やかな赤色(PANTONE●省略●)であり、甲羅の白い縁取りも丸みをもって立体的に描かれていて、尻尾は根元の部分が太く、横又は後ろから見たときに底面の白い部分が十分見えるように描かれている。
 本件写真1及び3並びに本件動画1、3、7、8、11ないし16には、前記主要な特徴を同じくするコスチュームを着た人物が写っているから、その部分は、原告の著作物である原告表現物ヨッシーの表現内容及び形式を覚知させるに足りるものであり、少なくともそれらの本質的特徴を直接感得させるものであることは明らかである。
エ 原告表現物クッパは、①顔と甲羅が主に緑色で、黄色い胴体を有する二足歩行の怪物のような生物であり、②正面から見ると、(A)緑色の頭部には牛のような二本の角が生えていて、鼻と唇は一体になっており分厚く肌色で、口の中には牙が生えており、目は鋭くつり上がっていて赤く豊かな眉を生やしており、頭頂部から後頭部にかけて赤く豊かなたてがみが生えていて、(b)胴体の中心にはお腹から胸にかけて大きく縦長の円に複数の横線の入った肌色の模様があり、それ以外の四肢と脇腹の部分は黄色く、首並びに左右の手首及び上腕部には複数の銀色のとげのような飾りの付いた黒い首輪及び腕輪をしており、③後ろから見ると複数本の太くて白いとげがあり、白い縁のついた緑色の甲羅を背負っていて、円錐に近い形の黄色く短い二本のとげのついた尻尾を有するという特徴を有する。
 より詳細には、前記①については、顔の緑色は少し明るく薄めの緑色(PANTONE●省略●)である一方、甲羅の緑色はより深く、濃く鮮やかな緑色(PANTONE●省略●)であり、胴体の黄色は少し黄土色っぽい濃く明るめの黄色(PANTONE●省略●)でそれぞれ描かれおり、前記②については、頭部の角は、甲羅のトゲと同様に肌色に近いクリーム色がかった白色(PANTONE●省略●)であり、その根元部分は薄めの茶色(PANTONE●省略●)で描かれており、目の上部に豊かな眉を生やしており、その色はオレンジ色に近い赤色(PANTONE●省略●)であり、鼻と唇については少し黄色に近い肌色(PANTONE●省略●)であり、鼻が高くなりすぎないように、また鼻の下の唇の割れ目が深くなりすぎないように描かれているとともに、黒色の瞳孔の周りはすこしオレンジ色に近い赤色(PANTONE●省略●)で縁取るように瞳の虹彩の部分が描かれていて、たてがみは後ろに流れるように、頭頂部から後頭部までを覆うように描かれており、その色はオレンジ色に近い赤色(PANTONE●省略●)であり、上腕部の腕輪は肩に近い部分についているように描かれている。前記③については、甲羅についているとげの白色は、角と同一の色で肌色に近いクリーム色がかった白色(PANTONE●省略●)であり、角と同様に根元が薄めの茶色(PANTONE●省略●)で描かれており、甲羅の周りの縁部分の白は通常の白色(PANTONE●省略●)であって、丸みをもって立体的に描かれている。
 本件写真3並びに本件動画1、3、4、7、8、11、12、14及び16には、前記主要な特徴を同じくするコスチュームを着た人物が写っているから、その部分は、原告の著作物である原告表現物クッパの表現内容及び形式を覚知させるに足りるものであり、少なくともそれらの本質的特徴を直接感得させるものであることは明らかである。
オ 以上のとおり、本件各写真及び本件各動画は、原告の著作物である原告表現物の複製物又は翻案物であるから、本件制作行為は、原告の複製権及び翻案権を侵害し、本件掲載行為は原告の公衆送信権ないし送信可能化権を侵害する。
(被告らの主張)
ア 原告が原告表現物マリオ及び原告表現物ルイージの特徴として主張する①ないし⑤は、そもそも表現ではないアイデアか、創作性が認められないありふれた表現であり、表現上の本質的特徴ではあり得ない。すなわち、特徴②はかぶっている「キャスケット」と呼ばれる種類の帽子の形状をありのままに表現したものにすぎず、特徴③及び④はオーバーオールと長袖シャツを着た場合に当然に生じる状態をありのままに表現したものにすぎず、特徴⑤はオーバーオールという種類の洋服の特徴をありのままに表現したものにすぎない。
イ 具体的表現から離れた抽象的概念としてのキャラクターには著作物性は認められないところ、原告が原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの特徴として主張する①ないし③は、具体的表現である原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの3点のイラストを離れた抽象的概念としての「ヨッシー」及び「クッパ」を観念し、その特徴を述べるものである。
 さらに、本件各写真及び本件各動画に写っているのは「緑と白を基調とした服を着た人間」あるいは「肌色及び白を基調とした服を着た人間」であり、原告が原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの特徴として主張する①ないし③を直接感得することはできない。
(10)争点10(複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲)について
(原告の主張)
 原告は、著作権法112条1項に基づき、原告の著作物の複製又は翻案の差止め及び原告の著作物の複製物又は翻案物の公衆送信又は送信可能化の差止めを求める(請求の趣旨第4項及び第5項)。
(被告らの主張)
 抽象的、一般的な差止請求は認められない。
(11)争点11(本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か)について
(原告の主張)
ア 本件各コスチュームは、キャラクターへのコスプレ等をするために着用することを望む利用者のために、原告による正規の商品化ライセンスに基づいて作成されたものである。そして、一般的な衣料とは大きく異なる表現上の特徴がコスチュームに確実に再現されるように、原告が、ライセンシーに対して様々な資料を事前に交付し、サンプル品の提供を受けて検査し、詳細な修正指示を行うなど詳細な監修を行って製作されたものである。
イ 原告表現物マリオ、原告表現物ルイージ、原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの本質的特徴は前記(9)アないしエで述べたとおりであるところ、本件各コスチュームは、それらの特徴をいずれも備えており、原告表現物の本質的特徴を直接感得させ、本件各コスチュームは、原告の著作物である原告表現物の複製物又は翻案物であるから、本件貸与行為は原告の貸与権を侵害する。
(被告らの主張)
ア 前記(9)アで述べたとおり、原告が主張する原告表現物マリオ及び原告表現物ルイージの特徴①ないし⑤は表現上の本質的特徴とはいえず、本件コスチューム1ないし4から原告表現物マリオ及び原告表現物ルイージの本質的特徴は看取できない。
 原告表現物マリオを「マリオ」たらしめている表現上の本質的な特徴は、極めて特徴的に描かれている①大きな目、②大きくて丸い鼻、③目や鼻の下部に沿って生え、その両端が通常の人間ではありえないほどに上向いた髭、④への字型の眉等といった顔部分であり、「マリオ」が着用している衣服ではない。
 また、原告が主張する原告表現物マリオの特徴のうち①及び②は帽子の、①及び③ないし⑤は衣服の特徴をいうものであるが、このような帽子や衣服のデザインに著作権法の保護を与えれば、新規性や創作容易性といった厳格な要件をクリアしたもののみ20年に限って独占的実施を認める意匠制度の存在意義がなくなってしまう。
イ 前記(9)イで述べたとおり、原告が原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの特徴として主張する①ないし③は、具体的表現である原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの表現上の本質的特徴を主張するものではない。
 また、原告が主張する原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパと本件コスチューム5及び6の共通点は、いずれもアイデアであるか、恐竜、悪役怪獣等をイラスト化ないしキャラクター化する際に一般的に用いられるありふれた表現であって、これらの点が共通するからといって、本件コスチューム5及び6が原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパの複製物又は翻案物となるものではない。
(12)争点12(被告Aに対する損害賠償請求の可否)について
(原告の主張)
 被告Aは、被告会社について放送されたテレビ番組において、「マリオ」のコスチュームを着用してインタビューを受け、同コスチュームのまま公道カートに乗車して公道を走行することにより本件レンタル事業を宣伝するなどしていたことからすれば、原告の顧客吸引力を不正に利用することについて積極的に認識・認容していたと認めるのが相当である。
 これらの事実からすれば、被告Aは、被告会社の代表取締役として、被告会社による不正競争行為及び著作権侵害行為を認識しながらこれに加担したのであり、その職務を行うにつき、悪意又は重大な過失があるから、会社法429条1項に基づき、被告会社と連帯して損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
 原告が主張する事実によって被告Aの違法性の認識及び認容を導くことはできない。
 原告が主張する各行為が不正競争行為又は著作権侵害行為に該当するか否かについては、過去に類似の裁判例も存在せず、むしろ特許庁は本件商標に対する原告の異議申立てを排斥し、商標登録を維持するとの決定を下しているのであるから、被告Aが違法性を認識することは困難である。
 したがって、被告Aが、被告会社の職務を行うについて、任務懈怠及び悪意又は重大な過失があったとは認められず、被告Aは損害賠償義務を負わない。
(13)争点13(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 不競法5条3項1号、4号及び著作権法114条3項に基づく損害額
 原告は、著作権法114条3項、不競法5条3項1号、4号により推定される、著作権の行使又は商品等表示の使用若しくはドメイン名の使用について受けるべき金銭の額に相当する額を損害額として主張する。
(ア)売上げ
 損害賠償額算定の基礎となる売上げは、被告会社から公道カートの提供を受け、MariCarとの屋号を用いて本件レンタル事業を営んでいる7店舗(品川店、渋谷店、秋葉原店、河口湖店、大阪店、沖縄店、六本木店)の売上げの全てである。
 このうち、被告会社設立時(平成27年6月4日)から訴訟提起時(平成29年2月)までの売上げは、以下のとおり、2億5000万円を下らない。
 すなわち、被告会社においては、同行ガイド付きの2時間ツアーの料金は1時間当たり8000円であるところ、利用者が平均5人1組で来店し、前記ツアーを選択したとすると、1組当たりの売上げは4万円(8000円×5名)となる。全店舗を通じて、1日当たり10組が利用したとすると、1日当たりの被告会社の売上げは、少なくとも40万円(4万円×10組)となるところ、被告会社の設立から訴訟提起までの期間は1年9か月(630日)であるから、当該期間における売上げは2億5200万円(40万円×630日)となり、2億5000万円を下らない。
 また、本件訴訟提起後、平成30年3月までの売上げは、以下のとおり、3億円を下らない。
 すなわち、本件訴訟提起後、被告会社は店舗数を拡大し、連日50台以上の公道カートを貸し出しているとの報道があることからすれば、利用者は訴訟提起前の3倍になっていると推測することができる。そうすると、1日当たりの被告会社の売上げは120万円(4万円×30組)であるから、当該期間における売上げは、4億6800万円(120万円×390日)となり、少なくとも4億4400万円を下らない。
 したがって、被告会社の売上げは、合計6億9400万円(2億5000万円+4億4000万円)を下らない。なお、被告会社が開示している補助残高一覧表(乙59・別紙3)の金額を基礎としても、前記期間における売上げは少なくとも●省略●を下らないと合理的に推計することができる。
(イ)実施料率
 被告会社が侵害する原告の著作権の重要性、原告の商品等表示の著名性及び顧客吸引力の強さ並びに同著作権及び商品等表示に関連する約定実施料からすれば、本件における実施料率は10%を下らない。
(ウ)損害額
 損害額は、以下の計算式のとおり、6940万円を下らない。6億9400万円×0.1=6940万円
イ 弁護士費用
 被告らによる不正競争行為及び著作権侵害行為と相当因果関係ある弁護士費用相当損害金は550万円を下らない。
ウ 小括
 よって、被告会社は民法709条及び不競法4条に基づき、被告Aは会社法429条1項に基づき、連帯して7490万円の損害賠償義務を負うところ、原告は、被告らに対し、その一部である1000万円の支払を求める。
エ 有限責任事業組合契約に関する法律(以下「LLP法」という。)15条に基づく抗弁について
 原告は、本件レンタル事業の運営主体である被告会社の行為が不正競争行為及び著作権侵害行為に該当し被告会社が損害賠償債務を負うと主張しているのであり、組合員である被告会社が組合の債務として損害賠償義務を負うと主張していない。
 したがって、LLP法15条に基づく被告らの主張は、実体法上の抗弁として成り立つものではなく、失当である。
 また、被告らの同主張は、損害論の審理に入ってから半年以上が経過し、審理が終結されるべきことが明らかな段階に至って初めて新たな証拠を提出してなされたものであり、時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されるべきである。
 加えて、被告会社の企業規模や売上げに照らして、被告らが主張する●省略●という出資の価額は低額にすぎて信用できない。
 なお、原告は、予備的に、LLP法3条3項に基づき、本件において組合契約が濫用されているとの再抗弁を主張する。
(被告らの主張)
ア 不競法5条3項1号、4号及び著作権法114条3項に基づく損害額
(ア)売上げ
 本件で損害額算定の根拠となる売上げは、被告会社が本件レンタル事業を立ち上げた後、関係団体にこれを移管するまでの期間(平成27年6月4日から平成28年6月23日)の売上げに限られる。本件販売整備事業から得た売上げは算定の基礎とされるべきではない。
 したがって、損害額算定の基礎となる金額は●省略●となる。
 原告による本件レンタル事業の売上げに関する主張は、対象店舗、1日の平均来客数、一人当たりの平均ツアー料金及び対象期間といった各要素について、恣意的に数字等を選択した根拠のないもので合理性がない。
(イ)実施料率
 本件レンタル事業は、公道カートやサービス自体の魅力、また営業努力により、それ自体が高い顧客吸引力を有しており、原告文字表示マリカー等自体の売上げに対する寄与は低い。
 また、本件販売整備事業については、その取引相手は関係団体であって、同団体は被告会社と原告の間に何らの取引関係も存在しないことを理解しているから、原告の顧客吸引力が前記事業の売上げに寄与することはあり得ない。
 したがって、原告文字表示マリカー等に係る実施料率はゼロか大幅に減額されるべきである。
イ 弁護士費用
 争う。
ウ LLP法15条に基づく抗弁
 被告会社は、関係団体である各組合の業務に関し、原告に対して損害賠償責任を負うとしても、その範囲は、被告会社が各組合の組合員であった期間に生じた債務に限られ、かつ最大でも組合に出資した金額(●省略●)が限度となる。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告会社が平成28年6月24日以降、本件各行為を行ったか否か)について
(1)掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 被告会社は、平成28年2月1日、公道カートをレンタルする際に適用される「マリカー利用規約」を作成した。同利用規約には、公道カートのレンタルを受ける利用者は、運営会社と定義される被告会社から車両及び附属品等を借り受ける旨の記載がある(甲5)。同利用規約は、同年11月15日当時、品川店の入口の窓ガラスに掲示されていた(甲4)。
イ 被告会社は、平成28年6月24日頃、品川組合に係る組合契約を締結し、同組合を結成した。同組合の組合員は、被告会社及びK-Kart株式会社の2社であった(甲62の1、5)。
 被告会社は、本件訴訟提起後である平成29年10月23日に同組合を脱退し、その後、同組合は、同年12月6日、組合の名称を東京観光有限責任事業組合に変更し、同月20日に解散した(甲121の1、甲122)。
ウ 被告会社は、平成28年9月28日、本件ロゴに関する商標登録の出願をした(乙29)。
エ 株式会社ディー・エヌ・エーの「FindTravel」というウェブサイトは、平成28年9月28日、「マリオカートをレンタルして公道を走れるって知ってた?実は気軽にできる面白体験をご紹介!」と題する記事を掲載し、その中で、品川店を「リアルマリオカートをレンタルできるお店の株式会社マリカー(X-Kart正規店)品川店」と紹介した(甲39)。
オ 被告会社は、平成28年10月4日頃、本件レンタル事業を行う各店舗における店長等を募集する求人広告をした。同広告において、被告会社は、同社の事業内容を「普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタル」等と、また「日本最大級の公道カートのレンタル&ツアーサービスとして、国内外で大きな注目を集める株式会社マリカー。東京での増店と、大阪・山梨・沖縄での新店オープンが決定しているため、『店長』『メンテナンススタッフ』を募集します。」、「当社はこれまでの1年でビジネスの運用を固め、大きな実績を残しましたので、ここから爆発的に事業規模を拡大させます。」とし、勤務地として「東京・沖縄などのマリカー各店グローバルな職場です入社後は東京の店舗にて研修予定」と記載した(甲59の1)。
カ 品川店においては、平成28年11月15日当時、前記アのとおり被告会社の作成した「マリカー利用規約」が掲示されていたほか、被告会社の会社名(株式会社マリカー)が記載された本件名刺が配布され、同名刺には「車両レンタル・車両販売・カスタム整備・広告企画」と記載されていた(甲4、57)。また同店においては、同日当時、本件レンタル事業に係るレンタル料金の支払につき、被告会社名で領収証が発行されていた(甲4、57、58)。
キ 被告会社は、平成29年2月23日当時、被告会社サイトにおいて、自社を「公道カート総合サービスを提供する株式会社マリカー」、「日本最大級の公道カート!レンタル/販売/整備・カスタム/広告宣伝」と紹介するとともに、同社の事業として「レンタル事業・広告宣伝事業」と「販売事業・整備陸送事業」の2つを挙げ、「レンタル事業」については「日本全国へレンタル加盟店を展開」、「公道カートを製造販売できる強みを生かし、レンタル事業の整備も行っております。」と、「販売事業」については「レンタル事業で公道カートの認知度を上げ、最低価格保証で公道カートを販売。」と記載していた(甲6の3)。
ク 被告会社は、平成29年6月13日頃、秋葉原組合に係る組合契約を締結し、同組合を結成した。同組合の組合員は、品川組合と同様に被告会社及びK-Kart株式会社の2社であった。
 被告会社は、平成29年10月24日に同組合を脱退した(甲121の3、乙48の1)。
ケ 被告会社は、平成29年6月26日頃、沖縄組合に係る組合契約を締結し、同組合を結成した。同組合の組合員は、品川組合と同様に被告会社及びK-Kart株式会社の2社であった。
 被告会社は、平成29年11月6日に同組合を脱退した(甲121の4、乙48の4)。
コ 平成29年2月23日当時、品川店サイト1及び河口湖店サイトのデザイン、本件レンタル事業に係る説明等の記載は概ね同一であり、平成29年10月2日時点においては、品川店サイト2、秋葉原第1号店サイト2、渋谷店サイト、大阪店サイト及び沖縄店サイトはいずれも本件ドメイン名4を使用して開設され、その記載内容も概ね同一であった(甲6の1、2、乙41の1ないし8)。
(2)以上を前提に、被告会社が平成28年6月24日以降、本件各行為を行ったか否かについて検討する。
 前記前提事実及び前記(1)の事実によれば、被告会社は、①少なくともその設立時である平成27年6月4日から平成28年6月23日までの間、本件レンタル事業を営んでいたこと(前記前提事実(3)ア)、②関係団体に同事業を移管したとする同月24日以降も、被告会社サイトにおいて、自社を「公道カート総合サービスを提供する株式会社マリカー」とし、同社の事業の1つとして日本全国への加盟店の展開によるレンタル事業を掲げ、レンタル事業について「公道カートを製造販売できる強みを生かし」て運営することができると記載していたこと(前記キ)、③雇用主として、秋葉原店、大阪店、河口湖店、沖縄店等の新規に立ち上げる店舗において同事業に従事する店長等の従業員を募集する求人広告を出したこと(前記オ)、④自社が組合員となって本件レンタル事業を運営する3つの有限責任事業者組合を立ち上げ、同組合に品川店、渋谷店、秋葉原店及び沖縄店を運営させたこと(前記イ、ク、ケ、前記前提事実(3)ウ)が認められ、被告会社は、平成28年6月24日以降も、本件レンタル事業の運営に積極的に関与したと認めることができる。
 また、平成28年6月24日以降の各店舗における本件レンタル事業の実態をみても、①各店舗において本件レンタル事業に供する公道カートはいずれも被告会社が販売したとするものであり、そのメンテナンスも被告会社が行っていること(前記前提事実(3)エ)、②品川店においては被告会社を運営会社とする「マリカー利用規約」を掲示し、被告会社の名刺を配布し、被告会社名で領収証を発行しており、本件レンタル事業を取り上げたウェブ上の記事においても品川店の運営主体は被告会社であると紹介されていたこと(前記ア、エ及びカ)、③品川店、秋葉原第1号店、渋谷店、河口湖店、大阪店及び沖縄店のウェブサイトのデザイン及び記載内容は酷似し、平成29年10月頃には河口湖店を除いて同一のドメイン名を使用して開設されており、いずれも被告会社が商標登録を出願した本件ロゴを掲示していたこと(前記前提事実(4)ウ、前記ウ及びコ)が認められる。これらによれば、各店舗における本件レンタル事業の営業は、それぞれが独立したものではなく、被告会社の関与の下で統一的に実施されていたものということができる。
 そして、前記の各事実からすれば、被告会社は、平成28年6月24日以降も、引き続き、自らが、全国に本件レンタル事業に係るサービスを提供する店舗を拡大し、同店舗を運営する有限責任事業者組合を立ち上げるなどして各店舗において自社の定めた規約に従ったサービスを提供させているということができるのであり、その関与の程度の強さから、本件レンタル事業に主体的に関与し、少なくとも、関係団体と共同して本件レンタル事業を実施していると認めるのが相当である。
(3)これに対し、被告らは、被告会社の平成29年1月1日以降の売上げに本件レンタル事業に係る売上げが含まれていないのに対し、品川組合の同時期の売上げのほとんどがレンタル事業によるものであること(乙2、6)、品川組合は本件レンタル事業に供する公道カートを所有し、同業務を行わせるアルバイトを雇用したこと(乙4の1ないし3、乙5の1ないし3)などを挙げ、被告会社は、平成28年6月24日以降、本件各行為を行っていない旨主張する。
 しかしながら、被告らが主張する前記各事実は、いずれも、被告会社が関係団体と共同して本件レンタル事業を営んでいたとの前記認定事実と矛盾するものではない。
 したがって、被告らの前記主張には理由がない。
(4)以上によれば、被告会社は、平成28年6月24日以降も、本件各行為を行ったものと認めることができる。
2 不競法に基づく被告標章第1の使用差止及び抹消請求の可否
(1)争点2(被告標章第1の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か)について
ア 本件レンタル事業の需要者
(ア)掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
a 本件レンタル事業について、日本語、英語、中国語、フランス語、韓国語で記載されたウェブサイトがあり、いずれのウェブサイトにおいても、本件レンタル事業の内容や料金が説明され、公道カートの利用に当たって、まず空き状況を確認すること等の予約の流れや、具体的な利用方法が説明されている。また、店舗(いずれも日本国内)の地図が表示され、最寄り駅から店舗への道順なども表示される。日本語のサイトには、「公道カートで忘れられない体験を」、「マリカーでは、普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタルや観光ツアーを提供しています。」、「マリカーでは、訪日旅行客向けに国際免許で運転できる一人乗りの公道カートの観光ツアーを提供しています。(中略)ここでしか体験できない最高の思い出作りに、公道カート『マリカー』を楽しんじゃってください!」などという利用者を勧誘する文章が記載されていた(甲6の1ないし4、乙41の1ないし9)。
b 本件レンタル事業のサービスを提供する店舗に置かれるなどしていた本件チラシ(前記前提事実(4)ア(イ))は、日本語と英語が両面印刷されたものであり、日本語の記載部分には、料金や店舗の所在地等のほか、「マリカーは、普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタカー&ツアーサービスです。」などと記載されていた(甲3)。
c 本件レンタル事業のサービスを提供する店舗において、利用者に記入を求めていたアンケート用紙は、日本語と英語が両面印刷されたものであり、どの地域から来たのか、マリカーに載るのが何回目であるか、マリカーをどのように知ったかなどの項目があった(甲4〔15、17枚目〕、乙14の1、2)。
d 株式会社ディー・エヌ・エーが開設する「FindTravel」という名称のウェブサイトには、日本語で、「東京観光」の一体験として被告会社による本件レンタル事業の内容、品川店の所在地、営業時間、地図等が紹介され、「このカート、専用の技術がある人しか乗れないんじゃないの、なんてがっかりしている人に朗報です。普通自動車第一種免許があれば、誰でも乗ることができちゃうんです!」など掲載されていた(甲39)。
(イ)前記によれば、本件レンタル事業は、レーシングカートといった競技用車両によるレースに関心を有する者に限定されず、観光の体験等として公道カートを運転してみたい一般人を対象としているといえる。そして、ウェブサイトや店舗におけるチラシその他の文書等の言語、内容、店舗の所在地等に照らせば、その対象者には、日本語、英語、中国語、フランス語、韓国語を解する者が含まれ、また、海外から観光等で日本を訪れる者も含まれるが、日本国内に住んでいる者も含まれる。
 したがって、本件レンタル事業の需要者は、観光の体験等として公道カートを運転してみたい一般人であり、海外から日本を訪れる者と日本国内に住んでいる者が含まれ、日本語を解しない者も含まれるが、日本語を解する者も当然に含まれるといえる。
イ 原告文字表示の周知性
(ア)掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
a 原告は、平成4年8月27日に「マリオカート」シリーズの第一作目として、ゲーム機種スーパーファミコン用ソフト「スーパーマリオカート」を発売し、平成8年12月14日にゲーム機種NINTENDO64用ソフト「マリオカート64」を、平成13年7月21日にゲーム機種ゲームボーイアドバンス用ソフト「マリオカートアドバンス」を、平成15年11月7日にゲーム機種ニンテンドーゲームキューブ用ソフト「マリオカートダブルダッシュ!!」を、平成17年12月8日にゲーム機種ニンテンドーDS用ソフト「マリオカートDS」を、平成20年4月10日にゲーム機種Wii用ソフト「マリオカートWii」を、平成23年12月1日にゲーム機種ニンテンドー3DS用ソフト「マリオカート7」を、平成26年5月29日にゲーム機種WiiU用ソフト「マリオカート8」を、平成29年4月28日にゲーム機種NintendoSwitch用ソフト「マリオカート8デラックス」を、それぞれ発売した(甲7、8の1ないし9)。
b 前記各ゲームソフトの売上げは、平成28年12月31日時点において、概ね以下のとおりであった(甲7、9、10)。
タイトル 国内累計出荷本数 国内・世界累計出荷本数
スーパーマリオカート 382万本 876万本
マリオカート64 224万本 987万本
マリオカートアドバンス ●省略● 591万本
マリオカートダブルダッシュ!! ●省略● 687万本
マリオカートDS 402万本 2354万本
マリオカートWii 383万本 3526万本
マリオカート7 272万本 1303万本
マリオカート8 126万本 826万本
(合計) ●省略● 1億1150万本
c 前記各ゲームソフトのうち、「マリオカートDS」は、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会が平成28年7月に発行した「2016年CESAゲーム白書」における国内歴代ミリオン出荷タイトルの18位に、「マリオカートWii」及び「スーパーマリオカート」は22位及び23位に、「マリオカート7」は44位に、それぞれランクインした。また、同様に、「マリオカートWii」は世界歴代ミリオン出荷タイトル(国内及び世界における出荷本数を累計して順位付けしたもの)の3位に、「マリオカートDS」は11位に、「マリオカート7」は23位に、「マリオカート64」は37位に、「スーパーマリオカート」は43位に、それぞれランクインした(甲9)。
d 前記各ゲームソフトのうち第一作目である「スーパーマリオカート」は、発売直後である平成4年9月から10月にかけて、ゲーム雑誌の人気ランキングにおいて1位を獲得し、第八作目である「マリオカート8」もまた、発売直後である平成26年6月及び同年7月において、人気ランキング1位を獲得し、一般雑誌のゲームに関する記事においても「誰もが一度はプレイしたことがある『マリオカート』シリーズの8作目」と紹介された(甲11の2ないし5、甲12の4、6、甲13の2)。
e 原告は、上位各ゲームソフトのうち第八作目である「マリオカート8」の発売前後である平成26年5月ないし8月、主要地上波テレビ局において少なくとも84回コマーシャルを放映し、原告の放映した「マリオカート」シリーズに係る国内のテレビコマーシャルの放送回数合計は、平成27年7月時点で583回となった(甲14、15)。
f 原告は、「マリオカート」シリーズについて、平成19年から平成28年にかけて、株式会社タカラトミー、株式会社バンダイナムコエンターテインメント及び株式会社サンアートとの間でライセンス契約を締結し、玩具、文具、アーケードゲーム等のライセンス商品を販売等した(甲16の1の1ないし6、甲16の2の1ないし3、甲16の6の1ないし7)。
g 「マリカー」は、遅くとも、平成8年12月13日発行のゲーム雑誌「ファミマガ64」において、「マリオカート」の略称として、「今や遅しと手ぐすね引いて『マリカー』を待っているファンに贈る徹底ガイド。」、「プレイに必要な『マリカー』のすべてを解説するぞ。」という形で使用された。また、例えば、平成13年10月1日発行のゲーム雑誌「電撃GBアドバンス」において、「ジワジワと販売本数を伸ばしていった今までの『マリカー』シリーズの売れ方を考えると・・・」という形で使用され、平成15年11月1日発行のゲーム雑誌「電撃ゲームキューブ」において、「1人乗りだったマシンが『マリカーD!』では2人乗りに大きく変更された。」という形で使用された(甲17ないし19)。
h 「マリカー」は、例えば、平成22年から平成25年にかけて発行された3作の漫画作品中で、「マリカーの訓練を…」、「あの2人から家賃もらった日はマリカーハイスコアが出るんよねえ…」、「いや~結局マリカー対決10周…」、「マリカーのキラー状態じゃねーか!!」といった台詞において、何らの注釈を付することもなく「マリオカート」の略称として使用された(甲21の1ないし23の1)。
i ウェブ上に短文のつぶやき(ツイート)を投稿して共有する情報サービスであるTwitterにおいては、例えば、被告会社が設立される前日である平成27年6月3日、「マリカー」を「マリオカート」の略称として使用するツイートが600以上投稿された(甲24)。
 また、「マリオカート8デラックス」が発売される旨の報道がされた平成29年1月13日には、同様のツイートが約3000に上った(甲25)。
j 平成28年6月4日に放映された被告Aを取材したテレビ番組において、出演したタレントが「僕らだって昔からマリオカートゲームでやってて『マリカーやった?』『マリカーやった?』って」言っていた旨発言した(甲108の1、2)。
k 氏名不詳の一般人複数名は、本件訴訟提起に係る報道がされた平成29年2月23日から同月26日までの間、被告会社について、Twitterに、「会社名からしてまんますぎると思うんだ」、「会社名までマリカーだしさすがになんかの許可もらってるだと思ってた。」、「まぁ何にせよ会社名からしてもそうだし、(中略)任天堂に許可を求めなきゃダメだよね。」、「マリカーとまで社名名乗ってんのに任天堂には許可もらってないとか」、「任天堂に許可貰って営業してたんじゃないの?違うの?だったら会社名からしてアウトだよ。」、「社名にマリカーとまで書いておいて全く許可その他諸々クリアしてなかったのがある意味すごいわ」、「社名が『マリカー』、かつマリオの衣装貸して公道でカート走らせといて任天堂に許可取ってなかったんかい。。。そらアカンやろ。」等と投稿した(甲81の1、3ないし7、9)。
(イ)事案に鑑み、原告文字表示のうち、原告文字表示マリカーである「マリカー」の周知性について検討する。
 「マリカー」は、前記(ア)gないしkのとおり、「マリオカート」の略称として使用されている表示である。「マリオカート」は、原告が平成4年から順次発売したゲームシリーズの名称である。そして、「マリオカート」のゲームシリーズは、累計出荷本数が相当数に及ぶほか、歴代の出荷本数ランキングにも複数の作品が入り(前記(ア)b及びc)、人気ゲームとして雑誌に取り上げられたり、人気ゲームのランキングにも入ったりするなどし(同d)、複数のライセンス商品が販売され(同f)、テレビコマーシャルも相当数放送された(同e)ことなどから、人気ゲームシリーズとして、日本全国のゲームに関心を有する者の間で相当に広く知られていたといえる。
 そして、「マリカー」は、①ゲームソフト「マリオカート」の略称として、遅くとも平成8年頃には、ゲーム雑誌において使用されていて(前記(ア)g)、②少なくとも平成22年頃には、ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあったこと(前記(ア)h)、③被告会社が設立される前日である平成27年6月3日には、その一日をとってみても、「マリオカート」を「マリカー」との略称で表現するツイートが600以上投稿されたこと(前記(ア)i)が認められる。また、被告会社の設立後においても、テレビ番組においてタレントが、子供の頃から原告のゲームシリーズである「マリオカート」の略称として「マリカー」を使用していたと発言し(前記(ア)j)、本件訴訟提起に係る報道が出された後には、複数の一般人から、被告会社の社名である「マリカー」が原告のゲームシリーズ「マリオカート」を意味するにもかかわらず、被告会社が原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる(前記(ア)k)。
 これらの事実からすると、原告文字表示マリカーは、広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として、本件証拠上、遅くとも平成22年頃には、日本全国のゲームに関心を有する者の間で、広く知られていたということができる。そして、日本においてゲームに関心を有する層は相当広範囲にわたっていることは明らかであり、観光の体験等で公道カートを運転してみたい一般人も含まれ、原告文字表示マリカーは、日本全国の本件レンタル事業の需要者において広く知られていたと認めることができる。
 他方、原告文字表示マリカーは「マリカー」という日本語の表示であり、日本語を解しない者の間で、原告の商品等表示として広く知られていたとは認められない(乙53)。
ウ 被告標章第1と原告文字表示との類否
 被告標章第1のうち被告標章第1の1(マリカー)は、原告文字表示マリカーと外観、称呼が同一であるから、同一の標章と認められる。
 また、被告標章第1のうち被告標章第1の2ないし4(MariCar、MARICAR、maricar)は、いずれも大文字と小文字のアルファベットから構成されており、原告文字表示マリカーとは外観において異なるものの、称呼はどちらも「マリカー」であり同一である。また前記各被告標章は、ひとまとまりの語として独自の意味をもった英語その他の外国語の単語と認識されるものではないが、「Car」「CAR」「car」との部分については、英語における「車」と同一の綴りであるから、全体として「マリ」と「車」を結合したものとの観念を生じさせる。そして、前記のとおり「マリオカート」が広く知られており、ゲームシリーズである「マリオカート」が「マリオ」等のキャラクターがカートに乗車して様々なコースを走行することを特徴とすることなどを考慮すると、「マリ」は「マリオ」を連想させ、「車」はカートを連想させることからすれば、両者の観念は類似するといえ、前記各被告標章と原告文字表示マリカーは類似のものとして受け取られるおそれがあるというべきである。
 したがって、被告標章第1は原告文字表示マリカーと同一若しくは類似の標章と認めることができる。
エ 混同を生じさせるおそれの有無
(ア)前記のとおり、原告文字表示マリカーは、本件証拠上、遅くとも平成22年頃には、広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として、本件レンタル事業の日本全国の需要者の間においても広く知られていたと認めることができる。原告の業務に係る商品はゲームソフトであるのに対し、被告標章1の付された役務は公道カートのレンタルである。しかし、映画やゲームといった二次元の世界をテーマパーク等において現実のアトラクションとして再現し集客するビジネスが数多く存在し、実際、原告においてもそのようなテーマパークの展開を計画しているとの報道発表がされている上(甲26の1)、本件レンタル業務は、キャラクターがカートに乗車して走行するゲームシリーズ「マリオカート」に登場するキャラクターのコスチュームを利用者が着用するなどして公道カートを運転するものであるから(甲6の1ないし4等)、両者の商品ないし役務の間には強い関連性が認められる。
 これらの事情からすれば、本件レンタル事業において使用された場合、被告標章第1は、前記のとおり周知性が認められる原告文字表示マリカーと類似している上、両者の商品ないし役務の間には強い関連性が認められるから、これに接した日本全国の需要者に対し原告文字表示マリカーを連想させ、その営業が原告又は原告と関係があると誤信させると認められる。
 なお、実際に、本件訴訟提起に係る報道が出された後には、複数の者から、Twitterに、被告会社が原告の系列会社か関連会社である、あるいは本件レンタル事業が原告による宣伝活動か少なくとも許可を得て行われていると誤解していた旨の投稿がされており、これらは前記認定を裏付けるといえる(甲81の1、11、14、18、19、24、27)。
 他方、前記のとおり、日本語を解しない者の間では原告文字表示マリカーが周知又は著名であったとはいえず、それらの者の間では、原告文字表示マリカーとの関係において、被告標章第1に接した需要者に対し、それを付した営業が原告又は原告と関係があるとの混同のおそれを発生させるものとはいえない。また、原告は原告文字表示マリオカートの周知又は著名性も主張するが、日本語を解しない者の間で、それが周知又は著名であったとはいえない。
(イ)これに対し、被告らは、同事業の需要者は訪日外国人(外国人旅行者、在日米軍関係者又は在日大使館員等)であり、原告文字表示マリカーは訪日外国人に周知ではないと主張して被告標章第1に接した需要者の混同のおそれを否定し、利用者に実施したアンケートの集計結果(乙14の1、2)等を根拠に、本件レンタル事業の利用者の約95%は訪日外国人であると主張する。
 しかしながら、上記集計結果は、平成29年2月から4月頃までの3か月の間に品川店及び渋谷店の利用者に記入させたものであり(乙14の1、弁論の全趣旨)、本件レンタル事業を営む複数の店舗のうちの一部における短期間の任意のアンケートの結果であるほか、上記アンケートにおいても人数的には相当数の日本人が利用者としてアンケートに答えていることが示されているだけでなく、前記アで認定したとおり、本件レンタル事業においては、その宣伝のために日本語による複数のウェブサイトが開設され、日本語のチラシやアンケートが使用されているのであって、本件レンタル事業の需要者には日本語を解する者が含まれる。それら日本語を解する需要者について混同のおそれが認められるにもかかわらず、被告会社の行為が全て不正競争行為に該当しないとすることは相当でない。被告らの主張は、本件における需要者として日本語を解する者が含まれないことを前提とする点においては採用することができない。
 また、被告らは、本件レンタル事業に係るウェブサイトや公道カートの車体等に、本件レンタル事業とゲーム「マリオカート」とは関連がない旨の打ち消し表示を付したから、混同のおそれは生じないと主張する。
 ここで、被告会社は、①平成29年10月2日頃、品川店サイト2、秋葉原第1号店サイト2、渋谷店サイト、大阪店サイト及び沖縄店サイトに、英語、フランス語、中国語、韓国語及び日本語で「注意、マリカーはゲーム『マリオカート』とは全く別物です。」と表示したこと、②同日頃、本件レンタル事業の利用者が署名する英語の誓約書にも同様の表示をしたこと(乙42)、③平成30年1月18日頃、動画共有サイトYouTube上にアップロードされた2つの動画(F1レーサーが公道カートに乗車するもの、甲103の1及び2、104の1及び2)の映像中に「MariCARはゲーム『マリオカート』とは無関係です。」との表示をしたこと(乙57)、④同月31日頃、被告会社サイトに「株式会社マリカーは、任天堂株式会社、ゲーム『マリオカート』とは無関係です。」と表示したこと(乙55)、⑤同月22日頃、品川店の窓ガラスにも同様の表示をしたこと(乙57)、⑥同年2月4日頃、本件ドメイン名2及び4を検索するとウェブサイトの紹介文に同様の表示がされるようにしたこと(乙57)、⑦同年4月26日頃、レンタルする公道カートの車体5か所に同様の表示を付したこと(乙85)、⑧同日頃、品川店のメールアドレスにメールを送信した場合に自動的に返信される電子メールの文面に同様の表示がされるようにしたこと(乙85)が認められる。
 しかしながら、前記のとおり、被告標章第1は、原告文字表示と同一のものもあり、類似の表示も原告文字表示マリカーと称呼が同一であるなど類似の程度は高いといえるものである。他方、前記前提事実(4)で述べたとおり、被告標章第1は、商号、チラシ、ウェブサイト、公道カートの車体、ロゴ等の様々な態様で使用され、ウェブサイトにおいても様々な画面で使用されていること、被告標章第1が前記で認定した打ち消し表示と常に一体として使用されるとは限らないものであることなどの事情がある。これらを考慮すると、前記①ないし⑧の事実関係が認められるとしても、被告標章第1の使用によって原告又は原告と関係があるとの混同のおそれが生じなくなるということはできない。また、公道カートの車体に表示された打ち消し表示の文字は、停車中のカートに近寄って見なければ判読できない程度に小さいから、本件レンタル事業の利用者に対する効果も確実とは言い難い上、同カートを公道上で目撃する需要者が直ちに認識できるものではない。被告らの主張は採用することができない。
(2)争点3(登録商標の抗弁の成否)について
 被告らは、被告会社は、「マリカー」の標準文字からなる本件商標を有しており、「マリカー」という標章を使用する正当な権限を有するから、不競法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張する。
 しかしながら、被告会社が本件商標の登録を出願したのは平成27年5月13日であるところ(前記前提事実(9))、前記2(1)イ(イ)で述べたとおり、その5年程度前である平成22年頃には、既に原告文字表示マリカーは原告の商品を識別するものとして需要者の間に広く知られていたということができる。
 被告標章第1を使用する被告会社の行為は不正競争行為となるところ、上記事情を考えると、原告に対して、被告会社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきである。
 したがって、被告会社の前記主張には理由がない。
(3)争点4(使用差止及び抹消請求の可否及び範囲)について
ア 被告標章第1の使用差止及び抹消請求
 被告会社は、前記前提事実(4)のとおり、被告標章第1の1及び4(マリカー、maricar)を平成28年11月15日頃に本件レンタル事業の宣伝のために配布した本件チラシに記載し、また被告標章同第1の1を少なくとも平成30年5月7日まで各店舗のウェブサイトで表示し、被告標章第1の2(MariCar)を、少なくとも同日頃までレンタルに供する公道カートに表示し、被告標章第1の3(MARICAR)を含む本件ロゴを、少なくとも同日頃まで各店舗のウェブサイトに表示したと認められる。
 これらの事実からすれば、被告会社は、被告標章第1の使用行為を継続する可能性があるというべきであるから、原告は、前記使用行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあると認められる。
 したがって、原告は、被告会社に対し、不競法3条1項に基づき、営業上の施設及び活動において被告標章第1を使用してはならないことを求めることができる。また、原告は、同条2項に基づき、侵害行為の停止又は予防に必要な行為として、営業上の施設、ウェブサイトを含む広告宣伝物及びカート車両から被告標章第1を抹消することを求めることができる。
 他方、原告は、自動車、自転車及び軽車両からも被告標章第1を抹消するよう求めているが、カート車両以外の上記自動車等に被告標章第1が表示されたことを認めるに足りる証拠もなく、またそのおそれも認められない。
 また、前記2(1)イ(イ)で述べたとおり、原告文字表示マリカーは、日本語を解しない者の間では周知性が認められない。そして、本件レンタル事業の需要者には日本語を解しない者もいるところ、被告会社は、外国語のみが記載されたウェブサイトやチラシを作成等していて(甲3、乙41の2ないし41の4)、日本語のウェブサイト等がある状況でこれらは日本語を解しない者のみを対象とするといえる。前記に照らし、日本語を解しない需要者のみを対象とする行為において被告標章第1を表示することを差し止め、これらの広告宣伝物から同標章を抹消させることは認められず、外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシにおける被告標章第1の使用についての差止及び抹消請求は認められない。
イ 「株式会社マリカー」の商号登記の抹消登記手続請求
 原告は、不競法3条2項に基づき、「株式会社マリカー」との商号登記の抹消登記手続を求めているが(請求の趣旨第3項)、被告会社は、平成30年3月22日付けで、「株式会社マリカー」との商号を「株式会社MARIモビリティ開発」に変更した(前提事実(4)ア(ア)、乙84)。したがって、原告の上記請求には理由がない。
3 不競法に基づく被告標章第2の使用差止並びに本件各写真等の削除及び廃棄請求の可否
(1)争点5(被告標章第2を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か)について
ア 原告表現物の周知性
(ア)掲記の証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
a 原告表現物(原告表現物マリオ、原告表現物ルイージ、原告表現物クッパ及び原告表現物ヨッシー)は、前記前提事実(2)イのとおり、人物又は生物のイラストである。原告表現物は、「スーパーマリオブラザーズ」を初めとする原告の一連のゲームシリーズである「マリオ」シリーズ等に登場するキャラクターである「マリオ」、「ルイージ」、「クッパ」及び「ヨッシー」の人物又は生物としての表現上の特徴を再現したものといえる。
b 「マリオ」は、原告が昭和58年9月9日に発売したゲームソフト「マリオブラザーズ」のメインキャラクターである。原告は、前記ゲームソフトに続き、「マリオ」が登場する一連のゲームシリーズを順次発売して、その全世界における累計販売本数は、平成28年8月当時で3億2000万本に及んでいた(甲45、46)。
 また、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会が平成28年7月に発行した「2016年CESAゲーム白書」において、前記「マリオ」シリーズのゲーム作品のうち、「スーパーマリオブラザーズ」は国内歴代ミリオン出荷タイトルの1位(681万本)に、「Newスーパーマリオブラザーズ」は2位(649万本)に、「NewスーパーマリオブラザーズWii」は11位(467万本)に、「スーパーマリオランド」は15位(419万本)に、「スーパーマリオブラザーズ3」は21位(384万本)に、「スーパーマリオワールド」は30位(355万本)に、「スーパーマリオランド2:6つの金貨」は45位(270万本)に、「スーパーマリオブラザーズ2(書き換えディスク)」は48位(265万本)に、それぞれランクインした。同様に、「スーパーマリオブラザーズ」は国内及び世界における出荷本数を累計して順位付けした世界歴代ミリオン出荷タイトルの2位(4024万本)に、「Newスーパーマリオブラザーズ」は5位(3072万本)に、「NewスーパーマリオブラザーズWii」は7位(2846万本)に、「スーパーマリオワールド」は14位(2061万本)に、「スーパーマリオランド」は16位(1814万本)に、「スーパーマリオブラザーズ3」は18位(1728万本)に、「スーパーマリオギャラクシー」は25位(1213万本)に、「スーパーマリオ64」は27位(1191万本)に、「スーパーマリオランド2:6つの金貨」、「スーパーマリオ64DS」、「スーパーマリオ3Dランド」、「スーパーマリオコレクション」及び「Newスーパーマリオブラザーズ2」は、31位ないし35位(1118万本、1101万本、1063万本、1055万本及び1004万本)に、「マリオパーティDS」は39位(931万本)に、「マリオパーティ8」は42位(885万本)に、それぞれランクインした(甲9)。
c 「マリオ」は、「ギネス世界記録」(GuinnessWorldRecords)が平成23年11月頃に発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において、1位を獲得した(甲48)。
d 「マリオ」シリーズにおいて、「ルイージ」は昭和58年9月9日に発売された「マリオブラザーズ」から、「クッパ」は昭和60年9月13日に発売された「スーパーマリオブラザーズ」から、「ヨッシー」は平成2年11月21日に発売された「スーパーマリオワールド」から登場する(甲45)。
 また、「ルイージ」を主役とするゲーム作品として、平成13年9月14日に「ルイージマンション」が、平成25年3月20日に「ルイージマンション2」がそれぞれ発売され、このうち「ルイージマンション2」は前記国内歴代ミリオン出荷タイトルの173位(118万本)、世界歴代ミリオン出荷タイトルの96位(475万本)にランクインした(甲9、45)。
 「ヨッシー」を主役とするゲーム作品として、平成7年8月5日に「スーパーマリオヨッシーアイランド」が発売され、同ゲームは前記国内歴代ミリオン出荷タイトルの90位(177万本)、世界歴代ミリオン出荷タイトルの108位(412万本)にランクインした(甲9、45)。
e 「ヨッシー」は、「ギネス世界記録」が発表した前記「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において、21位を獲得した(甲48)。
 また、「クッパ」は、「ギネス世界記録」が平成25年1月頃に発表した「ビデオゲーム史に名を残す悪役トップ50」において、1位を獲得した(甲49)。
f 「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」及び「クッパ」の造形は、それぞれがゲーム作品に登場した当初から現在に至るまで、ゲーム作品の画面やパッケージ、当該作品を取り上げた書籍や雑誌記事等に掲載されてきた。
 原告表現物の人物又は生物としての基本的な表現上の特徴として、後記イ(ア)のとおりの各特徴を挙げることができる(原告表現物マリオについてイ(ア)a(A)ないし(G)、同ルイージについてイ(ア)b(A)ないし(G)、同ヨッシーについてイ(ア)c(A)ないし(D)、同クッパについてイ(ア)d(A)ないし(C))。前記ゲーム作品の画面等に掲載された表現は、多くは、原告表現物の人物又は生物としての前記の表現上の特徴をいずれも備えていた(「マリオ」について甲8の1ないし9、甲10、11の1、3ないし6、甲16の1の1、甲16の1の2、3、5、6、甲16の2の2、3、甲16の3、甲16の4の2、甲16の5、甲16の6の1ないし7、甲17、19、20、45、69の2、甲94の2ないし4、6、7、「ルイージ」について甲8の2、6、7、甲11の3、4、甲16の1の1、甲16の1の2、3、6、甲16の3、甲16の4の2、甲16の5、甲16の6の3、7、甲18、19、69の4、5、甲94の2、3、5、7、「ヨッシー」について甲8の2、7、甲11の4、甲16の1の1、甲16の1の3、甲16の3、甲17、94の2、3、5、「クッパ」について甲8の2、7、11の4、甲16の1の1、甲16の1の2、3、甲16の3、甲16の6の3、甲17、甲94の3、5)。
(イ)これらの事実によれば、原告表現物マリオは、その人物のイラストとしての基本的な表現上の特徴を同じくする「マリオ」が登場する原告のゲームソフトである「マリオ」シリーズの長年にわたる販売及び人気により、原告の商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり、遅くとも、国内出荷本数ランキングで2位を、国内及び世界における出荷本数ランキングで5位を獲得する売上げを記録した「Newスーパーマリオブラザーズ」が発売された平成18年5月には、日本全国の者の間で、原告の商品等表示として少なくとも周知性を得ており、また、遅くとも、「マリオ」が「ギネス世界記録」が発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において1位を獲得した平成23年11月には、外国に在住して日本を訪問する者の間でも、原告の商品等表示として広く認識されていたと認めることが相当である。
 さらに、原告表現物ルイージ、原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパについても、その人物又は生物のイラストとしての基本的な表現上の特徴を同じくする「ルイージ」、「ヨッシー」及び「クッパ」が登場する原告のゲームソフトである「マリオ」シリーズ等の長年にわたる販売及び人気により、原告の商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり、遅くとも、前記「Newスーパーマリオブラザーズ」が発売された平成18年5月には、日本全国の者の間で、原告の商品等表示として広く認識されていたと認められ、また、①「マリオカート」シリーズ及び「マリオ」シリーズが日本国内のみならず海外においても大きな売上げを記録したこと(b)、②「ルイージ」や「ヨッシー」を主役とするゲーム作品も世界歴代ミリオン出荷タイトルの96位及び108位にランクインしたこと(d)、③「ヨッシー」は「ギネス世界記録」が平成23年11月に発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において21位を、「クッパ」は同じく「ギネス世界記録」が発表した「ビデオゲーム史に名を残す悪役トップ50」において1位をそれぞれ獲得したこと(e)からすれば、原告表現物ルイージ、原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパもまた、遅くとも、前記ギネス記録が発表された平成25年1月までには、外国に在住して日本を訪問する者の間でも、原告の商品等表示として広く認識されていたと認めることが相当である。
イ 原告表現物と本件宣伝行為との類否
(ア)原告表現物の特徴
a 原告表現物マリオは別紙原告表現物目録記載1のとおりである。
 その人物のイラストとしての表現上の特徴として、(A)赤い帽子をかぶり、赤い長袖シャツと青いオーバーオールを着た人物であり、(B)顔は、目は楕円形を縦長にした形で瞳はより小さな青色と黒色の楕円形で表現され、つり上がった「へ」の字型の眉をし、大きな横長の楕円形の鼻と、その下に両端が上を向き下が波形になった形のひげを生やし、(C)帽子は正面前方に大きな膨らみと後方に小さな膨らみをもたせ、双方の膨らみの間にくぼみを設け、正面に半円形のつばがついた形状であり、正面中央につばの縁に沿って円の下方部が切り取られた横長の楕円状の白い丸があり、その中に帽子及び長袖シャツと同色の赤色でM(上からつぶして横に広げたような形状で中央のへこみは浅く描かれ、両端の辺の部分は上部に向けて幅が狭く、下部に向けて広がる形状)と書かれた部分があり、(D)赤い長袖シャツは、両腕部分及びオーバーオールに覆われていない首下部分が表面に見えており、(E)オーバーオールは、長ズボン部分と、正面の胸当てからなる前面部と、背中部分と、当該前面部と背中部分とをつなぐサスペンダー(太い肩紐からなるズボンつり部分)から構成され、赤い長袖シャツが見えている部分を除いた足首から肩にかけての全身を覆い、腹部はゆったりと膨らんで前方にせり出し、胸当てとサスペンダーの下部が重なるように描かれ、当該重なり部分に、サスペンダーの幅と直径が概ね一致する大きさの円形の黄色いボタンが付され、(F)白い手袋をし、(G)茶色の靴を履いているという特徴がある(甲112。以下、これらを「原告表現物マリオの特徴(A)」などといい、その他の原告表現物の特徴についても同様にいうことがある。)。
b 原告表現物ルイージは別紙原告表現物目録記載2のとおりである。
 その人物のイラストとしての表現上の特徴として、(A)緑色の帽子をかぶり、緑色の長袖シャツと紺色に近い青いオーバーオールを着た人物であり、(B)顔は、目は楕円形を縦長にした形で瞳はより小さな青色と黒色の楕円形で表現され、つり上がった「へ」の字型の眉をし、大きな横長の楕円形の鼻と、その下に両端が上を向き下が弧を描く形のひげを生やし、(C)帽子は正面前方に大きな膨らみと後方に小さな膨らみをもたせ、双方の膨らみの間にくぼみを設け、正面に半円形のつばがついた形状であり、正面中央につばの縁に沿って円の下方部が切り取られた横長の楕円状の白い丸があり、その中に帽子及び長袖シャツと同色の緑色でL(縦の辺と横の辺が接合する箇所に向けてだんだんとやや狭く、接合箇所と反対方向に向けてやや太くなっていく形状)と書かれた部分があり、(D)緑色の長袖シャツは、両腕部分及びオーバーオールに覆われていない首下部分が表面に見えており、(E)オーバーオールは、長ズボン部分と、正面の胸当てからなる前面部、と背中部分と、当該前面部と背中部分とをつなぐサスペンダーから構成され、緑色の長袖シャツが見えている部分を除いた足首から肩にかけての全身を覆い、腹部はゆったりと膨らんで前方にせり出し、胸当てとサスペンダーの下部が重なるように描かれ、当該重なり部分に、サスペンダーの幅と直径が概ね一致する大きさの円形の黄色いボタンが付され、(F)白い手袋をし、(G)茶色の靴を履いているという特徴がある(甲113)。
c 原告表現物ヨッシーは別紙原告表現物目録記載3のとおりである。
 その生物のイラストとしての表現上の特徴として、(A)黄緑の近い緑と白を基調とした二足歩行の恐竜をユーモラスにしたような生物であり、(B)正面から捉えたイラストでは、頭部は鼻の部分が丸くて大きな緑色の球体になっており、その後ろに頭部の大半を占めるように白い縦長の丸を二つ重ねた中にそれぞれ黒目を置いた目があり、その周りをなぞるように緑色の縁取りがなされるような形状で頭部が形成されており、頬に当たる部分は白くて丸みを帯びてやや膨らんでいて、四肢と脇腹の部分は緑色、それ以外の腹部前面等の部分は白色をしており、腹部前面の白い部分は、首から胸部及び腹部を経由し股のあたりまでを広く覆うように描かれ、(C)後ろ及び横方向から捉えたイラストでは、後頭部に半円形で朱色の背びれ様のとげが3つついていて、背中には大きな赤い丸及びこれを白く縁取った甲羅様の突起物があり、尻尾は根元が太く、円錐形に近い形で短く、先端が背中の甲羅様の部分とほぼ水平になる位置まで上を向き、(D)茶色のブーツを履いているという特徴がある(甲114)。
d 原告表現物クッパは別紙原告表現物目録記載4のとおりである。
 その生物のイラストとしての表現上の特徴として、(A)顔と甲羅が主に緑色で、黄色い胴体を有する二足歩行の怪物のような生物であり、(B)正面から捉えたイラストでは、(A)緑色の頭部には牛のような二本の角(全体が肌色で根元部分に茶色の縁取りがある)が生えていて、鼻と唇は一体になっており分厚く肌色で、口の中には白い牙が生えており、目(虹彩部分はオレンジに近い赤色、瞳孔部分は黒色)は鋭くつり上がっていて赤く豊かな眉を生やしており、頭頂部から後頭部にかけて赤く豊かなたてがみが生えていて、(b)胴体の中心にはお腹から胸にかけて大きく縦長の円に複数の横線の入った肌色の模様があり、それ以外の四肢と脇腹の部分は黄色く、首並びに左右の手首及び上腕部には複数の銀色のとげ様の飾りの付いた黒い首輪及び腕輪をしており、(C)後ろ及び横方向から捉えたイラストでは、複数本の太いとげ(頭部と同様に全体が肌色で根元部分に茶色の縁取りがある)があり、白い縁のついた緑色の甲羅を背負っていて、尻尾は根元が太く、円錐形に近い形で短く、上側に尻尾と同色の短い二本のとげを有するという特徴がある(甲115)。
(イ)本件各写真
a 本件写真1には、複数の人物が表示されているが、画像が不鮮明であることからその詳細は不明であり、原告表現物に類似するとは認められない。
 なお、原告は、本件写真1について、原告立体像の複製物又は翻案物である人物が表示されているとも主張しているが、前記と同様の理由により、原告立体像に類似する表示があるとは認められない。
b 本件写真2には、公道カートに乗車した人物が2名表示されているところ、手前の人物は、少なくとも、原告表現物マリオの特徴(C)ないし(E)を備えているコスチューム(以下、同様の特徴を備えたコスチュームを「本件マリオコスチューム」という。)を着用しており、本件写真3には、公道カートに乗車した人物が2名表示されているところ、手前の人物は、原告表現物ヨッシーの特徴(A)及び(B)を備えているコスチューム(以下、同様の特徴を備えたコスチュームを「本件ヨッシーコスチューム」という。)を着用している。
c 本件写真2及び3は、河口湖店サイトに掲載されていたものである。
 公道カートのレンタル事業のサイトにおいて、原告の商品等表示といえる原告表現物と同一又は類似の表示がされた場合、その表示は、少なくとも、提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたということができる。
 そして、本件写真2及び3において、いずれも原告表現物マリオ及びヨッシーの特徴の一部を備えたコスチューム(被告標章第2の1ないし3、8、9のいずれかのコスチューム)を着用した人物が表示されていること、これらの人物は、いずれも公道カートに乗車していること、「マリオ」、「ヨッシー」等がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること(前記2(1)イ(ア))、これらの写真が「マリカー」と称する本件レンタル事業を宣伝するウェブサイトにおいて掲載されていたことからすれば(甲6の2)、これらのコスチュームを着用した人物の表示は、本件レンタル事業の需要者をして、ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」、「ヨッシー」を連想させるといえる。そして、これらの人物と、本件レンタル事業の需要者において周知の商品等表示である原告表現物マリオ、原告表現物ヨッシーとを類似のものと受け取り、前記2(1)エで述べたとおり、その商品等表示が示す原告の業務と被告会社が行っている役務には関連性があるといえることから、被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。
(ウ)本件各動画
 本件各動画については、少なくとも、以下のとおり、原告表現物の特徴の少なくとも一部を備えたコスチュームを着た人物が表示されている。
a 本件動画1
 本件動画1は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」、「公道カート東京ツアーbyマリカー」との表示がある画面から始まり、本件動画1の0:09秒及び0:13秒時点には、原告表現物クッパの特徴(A)ないし(C)を備えたコスチューム(以下、同様の特徴を備えたコスチュームを「本件クッパコスチューム」という。)を着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「マリカー」による「カート」ツアーの利用者として表示されている(甲42の1、甲43の1)。
b 本件動画2
 本件動画2は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「マリカー公道カート東京ツアー」との表示がある画面から始まり、本件動画2の0:07秒時点には、本件マリオコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「マリカー」による「カート」ツアーの利用者として表示されている(甲42の2、甲43の2)。
c 本件動画3
 本件動画3は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画3の0:59ないし1:09秒時点には、本件クッパコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の3、甲43の3)。
d 本件動画4
 本件動画4の3:09秒時点には、本件マリオコスチュームを着用して、公道カートに乗車する人物が表示されている。本件動画4には「ハロウィンの当日にあの『マリカー』で渋谷を走ってみたら大変なことになった」との表示が挿入されており、上記人物は「マリカー」による公道カートのツアーの利用者として表示されている(甲42の4、甲43の4)。
e 本件動画5
 本件動画5は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画5の12:57秒時点には、本件マリオコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者としてとして表示されている(甲42の5、甲43の5)。
f 本件動画6
 本件動画6は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画6の1:50秒時点には、本件マリオコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の6、甲43の6)。
g 本件動画7
 本件動画7は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画7の0:09秒時点には、本件ヨッシーコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42
の7、甲43の7)。
h 本件動画8
 本件動画8は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画8の0:19ないし0:20秒時点には、本件クッパコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の8、甲43の8)。
i 本件動画9
 本件動画9は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画9の0:17秒時点には、原告表現物ルイージの特徴(C)ないし(E)の少なくとも一部を備えたコスチューム(以下、同様の特徴を備えたコスチュームを「本件ルイージコスチューム」という。)を着用して、公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の9、甲43の9)。
j 本件動画10
 本件動画10は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画10の0:16秒時点には、本件ルイージコスチュームを着用して、公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の10、甲43の10)。
k 本件動画1
 本件動画11は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画11の0:03秒時点には、本件マリオコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の11、甲43の11)。
l 本件動画12
 本件動画12は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「PUBLIC ROAD GO-KARTING TOKYO TOUR」との表示がある画面から始まり、本件動画12の0:03秒時点には、本件マリオコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「KARTING」のツアーの利用者として表示されている(甲42の12、43の12)。
m 本件動画13
 本件動画13の0:27ないし0:32秒時点には、本件ヨッシーコスチュームを着用して公道カートに乗車しようとする人物が表示されている。本件動画13は品川店による本件レンタル事業の内容を取材して作成されたものであり、上記人物は同事業によるカートレンタルサービスの内容を実演する者として表示されている(甲42の13、甲43の13)。
n 本件動画14
 本件動画14の1:22秒時点には、本件クッパコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。本件動画14の中において、上記人物は「マリカー」によるカートツアーの利用者とされ、本件レンタル事業の概要が説明されている(甲42の14、甲43の14)。
o 本件動画15
 本件動画15の0:33ないし0:36秒時点には、本件ヨッシーコスチュームを着用して本件ロゴ等がペイントされた公道カートに乗車する人物が表示されており、「マリオカートの運転手」と説明されている(甲42の15、甲43の15)。
p 本件動画16
 本件動画16は「MARICAR」との表示を含む本件ロゴと「Street Go-Karting Tour」との表示がある画面から始まり、本件動画16の0:14秒時点には、本件ルイージコスチュームを着用して公道カートに乗車する人物が表示されている。上記人物は「MARICAR」による「Karting」のツアーの利用者として表示されている(甲42の16、甲43の16)。
(エ)本件動画1ないし16は、インターネット上の動画共有サービスであるYouTubeにアップロードされたものであり、本件動画1ないし3、5ないし12及び16については、その冒頭において被告会社が行う本件レンタル事業に関する動画であることが表示されている。また、本件動画4は本件レンタル事業に係る利用者がコスチュームを着用して公道カートを運転する様子が撮影された動画であり、本件動画13及び14は本件レンタル事業について紹介するテレビ番組の当該紹介部分を切り取って作成された動画であり、本件動画15は本件ロゴ等がペイントされた公道カートを運転する本件レンタル事業の利用者を撮影したテレビ番組の当該部分を切り取って作成された動画であり、いずれも被告会社あるいは関係団体が、本件レンタル事業を広く紹介するために動画共有サービスにアップロードしたものと認められる。
 そして、被告がその役務である本件レンタル事業を紹介する動画において、原告の商品等表示といえる原告表現物と類似の表示がされた場合、その表示は、少なくとも被告会社が提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたということができる。
 本件動画1ないし16においては、いずれも原告表現物の特徴の一部を備えたコスチューム(被告標章第2の1ないし10のいずれかのコスチューム)を着用した人物が表示されていること、これらの人物はいずれも公道カートに乗車していること、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること(前記2(1)イ(ア))、これらの動画の冒頭に「MARICAR」などという表示がされていたことからすれば、これらのコスチュームを着用した動画上の人物は、本件レンタル事業の需要者をして、ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」を連想させ、上記各人物と、本件レンタル事業の需要者において周知の商品等表示である原告表現物とを類似のものと受け取らせ、その商品等表示と被告会社が行っている役務に関連性があると誤認させ、被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。
(オ)コスチュームを着用した被告従業員
 前記(イ)及び(ウ)のとおり、本件マリオコスチューム、本件ルイージコスチューム、本件ヨッシーコスチューム及び本件クッパコスチューム(被告標章第2の1ないし10の各コスチューム)は原告表現物の特徴の一部を備えるところ、これらを着用し、カートツアーの先導者として「MARICAR」「MariCar」といった被告標章第1を表示する公道カートに乗車することは、前記(ウ)と同様の理由により、需要者をして、ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」及び「クッパ」を連想させ、その先導者と、本件レンタル事業の需要者の間において周知の商品等表示である原告表現物とを類似のものと受け取らせ、被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。
(カ)本件マリオ人形
 本件マリオ人形(被告標章第2の11の人形)は、原告表現物マリオの特徴を全て備えており、原告表現物マリオと類似するといえる。
 そして、本件マリオ人形が設置されている被告会社の店舗において本件レンタル事業が行なわれていること、「マリオ」等がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること(前記2(1)イ(ア))からすると、同設置行為は、少なくとも提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたものといえ、原告表現物マリオが本件レンタル事業の需要者において周知の原告の商品等表示であることから、被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。
ウ 以上によれば、被告が、被告標章第2を使用して行った本件宣伝行為(本件写真1の表示を除く、以下同じ。)は、原告の周知の商品等表示と類似する標章を商品等表示として使用しているものであり、これに接した需要者に対し、被告会社と原告との間に、原告と同一の商品化事業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存するものと誤信させるものと認められる。
エ 以上に対し、被告は、本件各動画のほとんどには冒頭に本件ロゴが表示されており原告を想起させるような表示はないから、本件宣伝行為は商品等表示としての使用には該当しない旨主張する。しかし、本件ロゴは原告の周知表示である「マリカー」と類似する被告標章第1の3「MARICAR」を含むものであるから、原告を想起させるような表示がない旨の前記主張は前提において理由がなく、前記に述べたところにより、本件宣伝行為は商品等表示としての使用に該当する。
 また、被告は、本件マリオ人形は販売目的で設置されていたから、商品等表示としての使用に該当しない旨主張するが、同人形が売り物であったと認めるに足りる証拠はない上、仮に被告会社に同人形を販売する意図があったとしても、これを需要者の目に止まる店舗内に展示することによって、需要者に対し、同店舗におけるサービスの提供が原告と関連するものであると推認させるといえるから、商品等表示としての使用に当たるといえる。(2)争点6(使用差止及び抹消・廃棄請求の可否及び範囲)について
ア 原告は、原告表現物が原告の周知な商品等表示であると主張して、被告会社がこれと類似する被告標章第2の各標章を営業上の施設及び活動において使用することの差止めを求める(請求の趣旨第6項)。
 原告表現物は、原告の周知な商品等表示である(前記(1)ア)。そして、上記請求において、差止めの対象となる標章は別紙被告標章目録第2における各標章(コスチューム又は人形)として特定されているところ、これらの被告標章第2の各標章は原告表現物の特徴の一部又は全部を備えている。そして、被告会社がこのような標章を使用する場合、その営業の内容、「マリオカート」のゲームの内容、出荷本数等のほか、原告表現物の周知性の程度の高さからも、被告標章第2の各標章は商品等表示として使用されたものとなり、それに接した需要者に対して、被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるといえるものである。また、後記イのとおり、本件においては、差止めの必要性もあるというべきである。
 そうすると、被告会社に対し、被告標章第2を営業上の施設及び活動において使用することの差止めを求める原告の請求には理由がある。したがって、被告会社は、上記標章を営業上の施設及び活動において使用してはならない。これによって、被告会社は、上記標章が使用された本件写真2及び3を同社が運営するウェブサイトに掲載すること、本件各動画を動画共有サービスに掲載すること、従業員に被告標章第2の1ないし10のコスチュームを着用させること、店舗内に同目録記載11の人形を設置することや、営業活動において上記標章である上記各コスチュームを貸与という形で使用すること(上記各コスチュームを貸与すること)など、被告標章第2の各標章を営業上の施設及び活動において使用することが禁止されることとなる。
 なお、原告は、原告立体像の周知性又は著名性も主張するが、原告表現物が原告の周知な商品等表示として認められ、それにより原告が問題とする行為に対する差止め等が認められるため、原告立体像が原告の周知な商品等表示であるか否かについては、判断しない。
イ 被告会社は、前記前提事実(5)、(6)及び(8)で述べたとおり、被告標章第2を使用した本件写真2及び3を遅くとも平成29年2月23日から同年6月16日まで河口湖店サイトに掲載し、被告標章第2を使用した本件各動画を平成27年11月2日から平成29年1月12日までの間に順次YouTubeにアップロードして、遅くとも平成29年6月16日まで視聴可能な状態にし、平成27年6月4日頃から平成29年6月16日頃までの間、従業員に被告標章第2の各コスチュームを着用させてカートツアーの先導をさせ、平成28年6月4日頃から平成29年2月24日頃までの間、品川店の店舗内に被告標章第2の11である本件マリオ人形を設置して展示したと認められる。また、利用者に対し、口頭弁論終結時に至るまで、少なくとも被告標章第2の2、3、5、6、8及び10の各コスチューム(本件各コスチューム)の貸与行為を継続していたと認められる(弁論の全趣旨)。
 被告会社は、本件各写真及び本件各動画の掲載、従業員による被告標章第2の各コスチュームを着用させての先導、本件マリオ人形の設置については本件の口頭弁論終結時までに中止したと認められるものの、中止した行為も再開するのは容易であることなどから、原告には、なお同行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
ウ 原告は、本件各写真及び本件各動画の削除及び当該データの廃棄を求める(請求の趣旨第7項、第8項)。しかし、これらの写真及び動画は既にウェブサイトに掲載されていなくて視聴可能な状態ではないから、それらの削除の請求には理由がなく、本件各写真のデータ自体は、その内容に照らせば不正競争行為とならない利用方法があることからその廃棄は認められない。広告のために作成されたといえる本件各動画のデータの廃棄の請求には理由がある。
4 不競法に基づく本件ドメイン名の使用差止及び登録抹消請求の可否
(1)争点7(本件ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争に該当するか否か)について
ア 本件ドメイン名と原告文字表示の類否
 原告の特定商品等表示である原告文字表示マリカーと、本件各ドメイン名の類否について、本件ドメイン名のうち「.jp」、「.co.jp」及び「.com」部分は多くのドメイン名に共通して用いられるものであるから、出所を表示する機能を有する部分は「maricar」又は「fuji-maricar」であり、同部分が本件各ドメイン名の要部と認められる。このうち「maricar」部分については、前記2(1)イで述べたとおり、原告文字表示マリカーと類似すると認められる。
 また、「fuji-maricar」について、前記のとおり「maricar」部分が原告文字表示マリカーと類似し、「fuji-」の部分は「maricar」に付加されたものと受け取ることができるものであり、「fuji-maricar」も、原告文字表示マリカーと類似するものといえる。
 したがって、本件ドメイン名はいずれも原告文字表示マリカーと類似する。
イ 図利加害目的の有無
 前記2(1)イ(イ)で述べたとおり、原告文字表示マリカーは、被告会社が設立された平成27年6月4日の相当程度以前である平成22年頃から、原告の販売するゲームシリーズ「マリオカート」の略称として、ゲームに関心を有する需要者の間で全国的に知られており、被告会社がこれを認識していなかったとは認め難いこと、被告会社は、本件訴訟提起前の平成29年2月23日当時、本件ドメイン名1ないし3を使用して開設したサイト(被告会社サイト、品川店サイト1、河口湖店サイト)において、「マリオカート」シリーズに登場する主要キャラクターである「マリオ」「ルイージ」等のコスチュームを着用した利用者が公道カートを運転するという本件レンタル事業のサービス内容を写真等と共に宣伝し、「みんなでコスプレして走れば、リアルマリカーで楽しさ倍増。」と記載しており、被告会社の意図が、原告の「マリオカート」シリーズにおけるゲームの世界を現実世界で体験することを売りにして顧客を惹きつけようとするものであったと推認できることからすれば(甲6の1ないし3)、被告会社は、原告文字表示マリカーと類似する本件各ドメイン名を使用することにより、同文字表示が有する高い知名度を利用し、原告の公認あるいは協力の下で本件レンタル事業を営んでいるかのような外観を作出し、不当に利益を上げる目的があったものと認めることができる。
 したがって、本件各ドメイン名の使用につき、「不正の利益を得る目的」を有していたと認めることができる。
ウ 小括
 以上によれば、被告会社は、本件レンタル事業の宣伝行為のために、不正の利益を得る目的をもって、原告の特定商品等表示である原告文字表示マリカーと類似する本件各ドメイン名を使用したと認められるから、同行為は不競法2条1項13号所定の不正競争行為に該当する。
(2)争点8(使用差止及び登録抹消請求の可否及び範囲)について
ア 被告会社は、前記前提事実(7)で述べたとおり、少なくとも平成29年2月23日から平成30年5月7日までの間、本件各ドメイン名を使用して被告会社サイト、品川店サイト、秋葉原第1号店サイト1、2、渋谷店サイト、大阪店サイト及び沖縄店サイトを開設し、本件レンタル事業の宣伝行為を行っていたと認められる。
 そして、被告会社が、平成30年5月16日頃にはmarimobility.以下省略との新たなドメイン名を使用して同社のサイトを開設したとの事実は認められるものの(乙88の1)、本件各ドメイン名を営業活動に使用していないと認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、被告会社は、本件各ドメイン名の使用行為を継続する可能性が高いというべきであるから、原告は、前記使用行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあると認められる。
 したがって、原告は、被告会社に対し、不競法3条1項に基づき、本件各ドメイン名の使用の差止めを求めることができる。
 ただし、前記2(1)イ(イ)で述べたとおり、本件各ドメイン名は原告の特定商品等表示である原告文字表示マリカーと類似するためにその使用が不競法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するところ、原告文字表示マリカーは、日本語を解しない者の間では周知性が認められず、原告に生じる前記営業上の利益侵害は、被告会社が本件各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合には認められないから、上記差止めは、本件各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合には認められない。
イ 被告会社は、前記のとおり本件ドメイン名2を本件レンタル事業の宣伝をするウェブサイトの開設に使用しているところ、前記アのとおり、その使用の差止めが認められない場合があり、被告会社に対してその登録の抹消を求める原告の請求は認められない。また、前記前提事実(7)イのとおり、被告会社は平成30年1月31日までに本件ドメイン名4に係る登録を抹消しており、被告会社に対して本件ドメイン名4の登録の抹消を求める原告の請求には理由がない。
5 著作権法に基づく原告表現物の複製又は翻案の差止請求並びに本件写真等の抹消及び廃棄請求の可否
(1)争点10(複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲)について
 原告は、請求の趣旨第4項において、原告表現物の複製又は翻案の差止めを求め、請求の趣旨第5項において、原告表現物の複製物又は翻案物の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを求めている。
 原告表現物を複製又は翻案する行為には、広範かつ多様な行為があるところ、原告の請求は、絵画の著作物である原告表現物を絵画上複製するという行為がされていない本件において、差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく、広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするものといえ、自動公衆送信又は送信可能化の差止めについても、その差止めの対象自体を複製物又は翻案物とすることから、同様のものといえる。このような無限定な内容の行為について、被告会社がこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めるに足りる立証はされていない。原告の前記請求には理由がない。
(2)争点9(本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か)及び争点11(本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か)について
 本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点9)については、これらが複製物又は翻案物に当たることを前提とする請求である請求の趣旨第4項、第5項に係る請求が前記3(1)の理由により認められないため、判断するに及ばない。
 また、原告は、請求の趣旨第11項において、本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たることを前提として会社である被告会社にその貸与の禁止を求めている。本件各コスチュームである別紙貸与物目録記載1ないし6の各コスチュームは、それぞれ、被告標章第2の2、3、5、6、8、10のコスチュームである。ここで、不競法に基づく請求の趣旨第6項に係る請求には被告会社がこれらのコスチュームを使用(貸与)することの禁止を求める請求が含まれると解され、この部分は、請求の趣旨第11項に係る請求と選択的併合の関係に立つと解される。前記3のとおり、不競法に基づき被告会社がこれらのコスチュームの貸与をすることが禁止されることによって、請求の趣旨第11項に係る請求について判断をするに及ばなくなるから、本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点11)は判断するには及ばない。
6 損害
(1)争点12(被告Aに対する損害賠償請求の可否)について
 原告は、被告会社の代表取締役である被告Aが、被告会社について放送されたテレビ番組において、「マリオ」のコスチュームを着用してインタビューを受け、同コスチュームのまま公道カートに乗車して公道を走行するなど本件レンタル事業を宣伝していたことからすれば、同人は被告会社による不正競争行為及び著作権侵害行為を認識しながらこれに加担したのであり、会社法429条1項に基づき、被告会社と連帯して損害賠償責任を負う旨主張する。
 しかしながら、被告Aの前記行為から、直ちに、同人が被告会社による被告標章1の使用行為等の原告が本件で問題とする行為が不正競争又は著作権侵害に当たると認識していたと認めることはできず、その他、同人がこれを認識しながら、あるいは容易に認識できたにもかかわらず、前記各行為を推進したと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告Aに被告会社の職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとは認められず、原告の前記主張には理由がない。
(2)争点13(原告の損害額)について
ア 被告会社による不正競争行為
 これまで検討したとおり、被告会社は不正競争行為を行ったと認めることができ、このうち被告標章第1及び被告標章第2の使用は不競法2条1項1号所定の不正競争行為に、本件各ドメイン名の使用は同項13号所定の不正競争行為に、それぞれ該当し、被告会社には少なくとも過失が認められるから、被告会社は、原告に対し、不競法4条本文に基づき、原告に生じた損害を賠償する責めに任ずる。
 また、原告は、被告会社が設立された平成27年6月4日から平成30年3月31日までに行われた行為の損害を主張しているから、前記期間の行為によって生じた損害の賠償を請求するものと解される。
イ 不競法5条3項1号、4号に基づく損害
(ア)売上げ
 前記1で述べたとおり、被告会社は、平成27年6月4日から平成28年6月24日までは単独で、同月25日以降は少なくとも関係団体と共同して本件レンタル事業を行い、その過程で不正競争行為を行ったと認めることができるから、損害賠償額算定の基礎となる売上げは、関係団体が運営する各店舗における売上げを含めた本件レンタル事業による全売上げとすることが相当である。そして、証拠(乙59)によれば、平成27年6月4日から平成28年6月30日までの本件レンタル事業による売上げは、●省略●と認められる。
 被告会社は、平成28年7月1日以降の売上げを明らかにしないが、①本件レンタル事業に係るサービスを提供する店舗は、当初は品川店のみであったが、少なくとも、同日以降、大阪店、富士河口湖店、沖縄店、秋葉原第1ないし第4号店が開業したことがうかがわれ(前記1(1)オ、ク)、平成29年2月23日までには9店舗まで拡大したこと(前提事実(3)イ)、②平成27年6月4日から平成28年6月30日までの売上げの推移をみると、●省略●と認められることからすれば(乙59)、平成28年7月1日以降の一日当たりの売上げは、その直近の6か月(平成28年1月から同年6月まで、売上合計額は●省略●)の一日当たりの売上げの●省略●は下らないものと推認することができる。
 そうすると、平成27年6月4日から平成30年3月31日までの本件レンタル事業に係る売上げは、以下の計算式のとおり、少なくとも、●省略●
(イ)使用料相当損害
 原告が原告の商品等表示及び著作物に関してこれまで締結したライセンス契約における実施料率(甲128の1、2)、本件レンタル事業の態様、原告文字表示マリカーや特に原告表現物に強い顧客吸引力が認められること等の諸般の事情を勘案すれば、使用料相当損害として、●省略●を認めるのが相当である。なお、被告標章第1及び本件各ドメイン名の使用に関して不正競争行為が認められるのは日本語を解する者を対象とする場合に限定されるが、その他の不正競争行為についてはそのような限定はなく、特に原告表現物に強い顧客吸引力が認められるため、使用料相当損害として上記の額を認める。
(ウ)これに対し、被告会社は、同社が各組合の行なった不正競争行為について損害賠償責任を負うとしても、その範囲は、LLP法15条に基づき、最大でも同社が各組合の組合員として出資した金額(●省略●)が限度となる旨主張する。
 しかしながら、LLP法15条は「組合員は、その出資の価額を限度として、組合の債務を弁済する責任を負う。」と規定し、有限責任事業者組合の事業活動によって生じた組合の債務について、組合員は出資の価額を限度として弁済を負う旨を定めているところ、原告は、被告会社の行為のみを請求原因として主張しており、各組合の行為によって同組合が損害賠償義務を負い、各組合の組合員である被告会社が組合の債務を弁済する債務を負うとの主張をしていないから、被告会社の前記主張は、同社の債務の発生を一部阻止する抗弁として機能するものではない。
 したがって、被告らの前記主張は、時機に後れた攻撃防御方法に当たるか否か等、その余の点を判断するまでもなく、失当である。
ウ 弁護士費用
 本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経緯、本件審理の経過等の諸般の事情に鑑みれば、被告会社の不正競争行為と相当因果関係がある原告の弁護士費用相当額は、93万円と認めるのが相当である。
エ 総計
 以上を合計すると、原告が、被告会社の不正競争行為によって被った損害は1026万4609円と認められるため、原告の被告会社に対する請求はその全額(1000万円)を認容すべきである。
 また、遅延損害金は、原告が請求する前記期間(平成27年6月4日から平成30年3月31日)に係る不正競争行為の最終日である平成30年3月31日から生じるものと解される。
7 結論
 以上のとおりであるから、原告の請求は、主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、主文第1項ないし第5項については、相当でないから仮執行宣言を付さず、主文第6項には仮執行宣言を付すことが相当であるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 安岡美香子
 裁判官 佐藤雅浩


(別紙)被告標章目録第1
1 マリカー
2 MariCar
3 MARICAR
4 maricar

(別紙)原告表現物目録
(別紙)原告商品等表示目録
(別紙)被告標章目録第2
(別紙)掲載写真目録
(別紙)投稿動画目録
(別紙)ドメイン名目録
(別紙)貸与物目録
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