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【事件名】ツイッター掲載写真の無断転載事件
【年月日】平成30年9月27日
 東京地裁 平成29年(ワ)第41277号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年7月3日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 大熊裕司
被告 B


主文
1 被告は、原告に対し、47万1500円及びこれに対する平成29年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、232万1500円及びこれに対する平成29年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告において原告が被写体となっている写真1点(訴状別紙原告写真目録記載の写真。以下「本件写真」という。)を原告に無断で複製してインターネット上の短文投稿サイトTwitter(以下「ツイッター」という。)上にアップロードした行為が、原告の当該写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)、肖像権及びプライバシー権を侵害すると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、著作権法114条3項による使用料相当額12万1500円、慰謝料200万円及び弁護士費用20万円の合計232万1500円及びこれに対する不法行為後である平成29年12月16日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、アカウント名「D」、ユーザー名「E」との登録によりツイッターを利用している女性である。
 被告は、アカウント名「F」、ユーザー名「G」との登録によりツイッターを利用している男性である。
 原告と被告は、ツイッター上で知り合い、オフ会(判決注:「インターネット上で知り合った人同士が直接に会う会」(広辞苑第7版)をいう。)として開催された飲み会で面識を持ち、被告の妻も含め、直接の交流を行うに至り、互いに氏名、住所を知る関係にある。
(2) 本件写真は、民家風の建物の畳敷きの室内において、訴外C(以下「訴外C」という。)が鞭を持って座っている正面に、原告が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況が撮影されたものである。(甲3、4、弁論の全趣旨)
(3) 本件写真は、平成29年10月27日当時、訴外Cのツイッター(アカウント名「H」)上に、「I」との源氏名で掲載され、公開されていた。(甲9、13)
(4) 被告は、本件写真を複製し、同日、本件写真を自らのツイッター上にアップロードした(以下「本件被告行為」という。)。
2 争点
(1) 著作権侵害の成否
(2) プライバシー権侵害の成否
(3) 肖像権侵害の成否
(4) 故意・過失の有無
(5) 損害の有無及び額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(著作権侵害の成否)
(原告の主張)
 原告と訴外Cは、平成25年6月21日、本件写真を共同して創作した。本件写真は、原告が緊縛され、訴外Cが鞭を持ったポーズが取られた写真であり、原告と訴外Cが共同して創作する意思のもと、共同して創作行為を行ったことは明らかである。なお、本件写真は、カメラを固定して自動撮影されている。したがって、本件写真は、原告と訴外Cの共同著作物である。そして、訴外Cは、同日、自己の著作権について原告に譲渡しており、本件写真の著作権は全て原告に帰属している(甲3)。
 本件被告行為は、原告の複製権及び公衆送信権を侵害する行為である。
(被告の主張)
 争う。
 本件写真は、原告及び訴外Cのツイッターアカウント「J」(旧H)において公開している写真である。被告による転用はツイッター上のみのことであり、ツイッター本来の使用目的に照らし正当なものであるから、著作権侵害ではない。
 また、本件被告行為当時の著作権者からの請求ではなく、事後に権利譲渡されたことによる請求は認めることができない。
(2) 争点(2)(プライバシー権侵害の成否)
(原告の主張)
ア プライバシー該当性が認められる要件としては、公開された内容が、@私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られることがらであること、A一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、B一般の人々に未だ知られていないことがらであること、Cこのような公開によって当該私人が実際に不快・不安の念を覚えたこと、が必要である。
 被告の「プロの縄師は決して素人モデルなんか吊るす事は無い、縄の嗜好を持つ者なら誰でも知っている事実」、「また一つ嘘がバレちゃいましたね!」という本件写真を添付したツイート(投稿)により、@原告が緊縛師に緊縛されている姿態が明らかにされ、原告が日常的に緊縛されることを趣味としていると受け取られ、Aこのことは一般人の感受性を基準として、獣医師である原告の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められ、B原告が緊縛されることを趣味としていることは、一般の人々に未だ知られていないことがらであり、C被告の行為によって原告は不快・不安の念を覚えている。
 よって、本件被告行為は、原告のプライバシー権を侵害する。
イ 原告は、平成28年5月30日、「D」というアカウントでツイッターに登録して以降1年以上にわたり、アイコン(プロフィール画像)として、自己の肖像写真(甲2)を使用しており、「D」と原告とは同定可能である。また、本件写真は原告(D)を誹謗中傷する被告の一連のツイートの一つであり、原告の属性をいくつか知る者は、被告がツイートした本件写真を見れば、原告であると容易に理解でき、同定可能である。だからこそ、第三者(アカウント名「K」)や原告の仲間が被告に対し、原告に対する誹謗中傷を止めるよう忠告したのである(甲17)。
ウ 人格価値を表し、人格と密接に結び付いた肖像の利用は、被撮影者の意思に委ねられるべきであり、インターネット上で本件写真が公開されていたからといって、そのことから直ちに方法に限定なく本件写真を公開できるとか、本件写真の公開について被撮影者である原告が包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできないから、本件被告行為は原告のプライバシー権を侵害する。
(被告の主張)
 争う。
 原告は現時点でも本件写真を公開していること、被告は原告の職業について一切触れる言動をしていないこと、被告は原告の本人特定に係る言動はしていないこと等により、プライバシー権侵害による請求は不当である。
(3) 争点(3)(肖像権侵害の成否)
(原告の主張)
 本人の同意なしに個人の容ぼう・姿態を撮影し、公表することは、憲法13条の趣旨に反し、肖像権の侵害となる。本件写真は、社会通念上その公開を欲しない写真であることは明白である。原告は獣医師であり、肖像権侵害が正当化されるような事情はない。
 よって、本件被告行為は、原告の肖像権を侵害する。
(被告の主張)
 争う。
(4) 争点(4)(故意・過失の有無)
(原告の主張)
 原告は、本件写真を被告に譲渡・交付等したことはなく、当然、被告に本件写真を複製・公衆送信することを許諾したこともない。被告は、ツイッター上で、本件写真を添付して、「プロの縄師は決して素人モデルなんか吊るす事は無い、縄の嗜好を持つ者なら誰でも知っている事実」、「また一つ嘘がバレちゃいましたね!」と原告の人格権を侵害するツイートをしている。
 よって、被告は、原告の著作権、肖像権及びプライバシー権を侵害していること、及び後記(5)の損害の発生について、故意又は過失があることは明らかである。
(被告の主張)
 争う。
(5) 争点(5)(損害の有無及び額)
(原告の主張)
ア 著作権法114条3項に基づく損害
 原告が被告からその著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、少なくとも12万1500円である(甲5、6)。
イ 肖像権侵害及びプライバシー権侵害に基づく慰謝料
 原告は、不特定かつ多数の者が閲覧可能なツイッター上に本件写真がツイートされたことで、多大な精神的苦痛を被った。
 また、原告は、ツイッター上では個人が特定されないよう自己の画像を掲載することはなかったが、本件被告行為により不特定多数の者に原告の肖像がさらされることとなった。
 以上の事情を考慮すると、原告が被告による肖像権侵害及びプライバシー権侵害により被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、200万円が相当である。
ウ 弁護士費用
 原告は、被告の上記不法行為に対し、本件訴訟を提起することで事案の解決を図るほかなく、その弁護士費用としては20万円が相当である。
(被告の主張)
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(著作権侵害の成否)について
(1) 前記前提事実(2)のとおり、本件写真は、民家風の建物の畳敷きの室内において、鞭を持って座っている男性の正面に、女性が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況が撮影されたものであるところ、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、被写体と光線との関係、陰影の付け方、部分の強調、背景等の総合的な表現に撮影者等の個性が表れており、創作性が認められ、著作物に当たる。
(2) 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、平成25年6月21日、被写体となっている原告と訴外Cが共同して創作したこと、及び同日、訴外Cが自己の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)を原告に譲渡したことが認められる。
(3) 前記前提事実(3)、(4)のとおり、被告は、訴外Cのツイッター上に掲載されていた本件写真を複製し、平成29年10月27日、本件写真を自己のツイッター上にアップロードした(本件被告行為)ものであるから、被告は、本件被告行為により、原告の本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したものと認められる。
(4) 被告の主張について
ア 被告は、本件写真は、原告及び訴外Cのツイッターアカウント「J」(旧H)において公開している写真である旨、被告による転用はツイッター上のみのことであり、ツイッター本来の使用目的に照らし正当なものである旨を主張する。
 しかしながら、本件写真がツイッター上で公開されているものであること、また、転用(転載の趣旨と思われる。)がツイッター上のみであることは、何ら著作権侵害を否定する理由とはならない。
イ また、被告は、本件被告行為当時の著作権者からの請求ではなく、事後に権利譲渡されたことによる請求は認めることができない旨主張する。
 しかしながら、前記(2)のとおり、原告は、本件写真の共同著作者であり、かつ、本件写真が撮影された平成25年6月21日に、他の共同著作者である訴外Cから本件写真の著作権の譲渡を受けたものと認められるため、本件被告行為当時、原告は本件写真について単独で著作権を有していたものと認められるから、原告の上記主張は採用できない。
2 争点(2)(プライバシー権侵害の成否)及び争点(3)(肖像権侵害の成否)について
(1) 前記前提事実(2)のとおり、本件写真は、鞭を持って座っている男性の正面に、女性である原告が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況を撮影したものであり、被写体の女性においては、その内容に照らし、一般人の感受性を基準にして公開を欲しないものといえるから、このような写真を本人の許諾なく公開することはプライバシー権を侵害し得るものである。
(2) もっとも、本件写真のみからは被写体の向き等により被写体の女性が原告であると同定することはできない(被告もこの点を前提に、自らが原告を特定する言動をしていないことによりプライバシー権侵害が成立しない旨を主張するようである。)。しかし、前記前提事実(1)及び証拠(甲9、20)によれば、原告と被告は、ツイッター上で知り合い、オフ会として開催された仲間内の飲み会で面識を持っていたこと、原告のツイッターのプロフィール画像には平成29年9月頃まで1年以上にわたり原告の写真(甲2)が使用されていたことが認められ、これらの事実からすれば、原告及び被告のツイッター仲間は、アカウント名「D」が原告、アカウント名「F」が被告であることを認識していたものと認められる。そして、証拠(甲4、14ないし19)によれば、本件写真がアップロードされた被告のツイッター上には、本件被告行為以前、原告のツイートや原告を擁護する第三者(アカウント名「K」)のツイートが引用され、これに対する被告のコメントがツイートされており、また、被告のツイート中に原告のアカウント名「D」が記載されていることが認められるから、当該一連のツイートを見た原告のツイッター仲間等は、当該一連のツイートが原告について書かれたものであると認識することができるものと認められる。そうすると、アカウント名「D」が原告であると知る者においては、被告のツイッター上に掲載された本件写真の被写体の女性が原告であると同定することは可能であると認められる。
(3) また、前記前提事実(3)のとおり、本件被告行為当時、本件写真は、訴外Cのツイッター上に掲載され、既に公開されていたものである(被告はこの点もプライバシー権侵害を否定する理由として主張するようである。)。しかし、前記前提事実(3)及び証拠(甲9、13)によれば、訴外Cのツイッターをフォローしている者と、被告のツイッターをフォローしている者は異なること、訴外Cのツイッター上では本件写真の被写体の女性は源氏名で表記され原告であることは公表されていなかったこと、被写体の女性が原告であると気づいた者は原告の認識する限りいなかったこと、以上の事実が認められる。これらの事実からすると、本件写真の被写体の女性が原告であることは未だ社会に知られていなかった事実といえるところ、前記(2)のとおり、本件被告行為によって初めて被写体の女性が原告であるとの同定が可能となり、同事実が公にされるに至ったものと認められる。
(4) 以上からすれば、本件被告行為により原告のプライバシー権が侵害されたものと認められる。
 さらに、肖像権と呼ぶかは別として、人は、自己の容ぼう、姿態を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益を有すると解される(最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁参照)ところ、本件写真は、原告の姿態が撮影されたものであり、前記(1)のとおり、被写体の女性において、その内容に照らして公開を欲しないものというべきであり、また、前記(2)のとおり、被写体の女性が原告であるとの同定も可能であるから、原告の意に反してこれをツイッター上にアップロードすること(本件被告行為)は、原告の上記人格的利益を違法に侵害するものと認められる。
3 争点(4)(故意・過失の有無)について
 前記2のとおり、被告は、自己のツイッター上に本件写真をアップロードすることにより、本件写真の被写体の女性が原告であるとの同定を可能ならしめているところ、その際、「プロの縄師は決して素人モデルなんか吊るす事は無い、縄の嗜好を持つ者なら誰でも知っている事実」、「また一つ嘘がバレちゃいましたね!」とツイートしていること(甲4)も併せ考慮すれば、原告の公開を欲しないであろう写真を暴露するために、本件被告行為を行ったものといえ、前記2のプライバシー権及び人格的利益の侵害について故意を有していたものと認められるし、前記1の著作権侵害についても少なくとも過失が認められる。本件写真が訴外Cのツイッター上で公開されていたこと、被告による転載がツイッター上のみであることが著作権侵害を否定する理由とならないことは前記1(4)のとおりであり、過失を否定する理由ともならない。
4 争点(5)(損害の有無及び額)について
(1) 著作権侵害による損害
 証拠によれば、被告は、本件写真を平成30年6月4日時点においてもツイッター上に掲載し続けていること(甲12)、本件写真と同種趣向の写真をインターネットで利用する際の利用料は6か月以上1年未満の掲載期間で12万1500円とされているものがあること(甲5、6)が認められる。そうすると、原告が被告からその著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、12万1500円と認めるのが相当である。
(2) プライバシー権等の侵害による慰謝料
 前記2のとおり、本件被告行為により、原告のプライバシー権及び自己の容ぼう等をみだりに公表されない人格的利益が侵害されたものであるところ、本件被告行為により、原告を知る不特定多数の者に本件写真が公表されたこと、本件写真は原告が縄で緊縛された状態で柱に吊るされている状況を撮影したもので、その内容に照らして公開を欲しない程度が高いものであること、被告が本件写真を掲載する際、「プロの縄師は決して素人モデルなんか吊るす事は無い、縄の嗜好を持つ者なら誰でも知っている事実」とツイートし、原告が反復継続して本件写真のようなモデルを務めていることを仄めかすような本件写真の公表の態様も踏まえると、原告の被った精神的苦痛は小さくないものと認められる。一方で、本件写真は原告の同意のもと訴外Cのツイッター上に既に公開されており、本件被告行為当時は訴外Cのツイッターアカウントへのアクセスは特に制限されていなかったものである(甲9)。以上の事情を総合すると、原告がプライバシー権等の侵害により被った精神的苦痛を慰謝するのに必要な金額は30万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用相当額
 本件訴訟は専門性が高く、弁護士に訴訟追行を委任する必要があったものといえ、本件事案の内容、上記損害額、訴訟活動の内容等を踏まえると、弁護士費用相当額は5万円と認めるのが相当である。
(4) 合計
 以上より、原告の損害額の合計は、47万1500円と認めるのが相当である。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 奥俊彦
 裁判官 櫻慎平
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