判例全文 line
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【事件名】大阪府知事vs前新潟県知事 名誉毀損事件
【年月日】平成30年9月20日
 大阪地裁 平成29年(ワ)第11605号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する平成29年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを50分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、550万円及びこれに対する平成29年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、大阪府知事である原告が、当時新潟県知事であった被告がツイッター上に行った投稿によって原告の社会的評価を低下させたとして、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円及びこれに対する平成29年10月28日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は、現職の大阪府知事であり、国政政党「A」の代表である(争いがない。)。
(2) 被告は、下記(3)の当時、新潟県知事であった(争いがない。)。
(3) 被告は、平成29年10月29日午後4時48分頃、ツイッター上に、「因みにこの『高校』は大阪府立高校であり、その責任者はBさんの好きなAのX(注:原告名)さんであり、異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足するという眼前の光景と随分似ていて、それが伝染している様にも見えるのですが、その辺全部スルー若しくはOKというのが興味深いです」と記載した記事の投稿(以下「本件投稿」という。)をした(甲2、乙4。なお、投稿時間について、甲第2号証では同月28日午後 9時48分頃となっているが、そうなると被告の釈明の投稿が同月29日午前3時40分頃に行われていることになって不自然である上(甲5)、原告自身が同月29日を投稿日として催告していること(甲3)からすれば、甲号証の投稿時間は設定上の誤表示であり、日本時間を正確に示していないものと解される。)。
(4) 本件投稿は、同月28日午前11時47分頃、Bが投稿した「ちなみに外国人にも染めさせてるという情報の真偽はしらないけど、まあどんな1984年に迷い込んだんだとおもうよね。私が公教育でときどき体験したあの感じを思いだす。支配への従順さを強要する態度。染める行為に従順さを見出し満足するという教師として最低の態度。」との記事を引用して投稿したものであった(甲2、乙3、4)。
 Bの上記投稿は、大阪府立高校の生徒が、生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう教諭らから何度も指導され精神的な苦痛を受けたとして、大阪府に賠償を求める訴訟を起こし、同月27日第1回口頭弁論期日が開かれ、大阪府が請求棄却を求めた旨の同日の報道を受けてされたものであった(甲7、弁論の全趣旨)。
(5) 原告は、本件投稿のうち、「AのXさんであり、異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する」という部分(以下「本件投稿部分」という。)が原告の社会的評価を低下させたとして、同年11月28日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
2 争点
(1) 本件投稿部分の主語が原告であるか
(原告の主張)
ア 本件投稿部分では「AのXさんであり」という名前が出ているのに続いて「異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせて」という話が続くことから、主語は政党における役職の高い者であることが推認され、原告以外の者が主語として記載されていない以上、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件投稿部分の主語は原告であると考えられる。
イ 仮に本件投稿部分がAという政党に対する論評であっても、その内容から主語としては地位の高い者に限定され、結果的にそれは代表である原告に対する言及に外ならない。
ウ 本件投稿後、本件投稿部分について、被告が原告のことを書いたものではない旨の投稿をツイッター上に行ったとしても、本件投稿と時間がかけ離れており、かつ、原告の投稿に対する回答として初めて示されたものであるから、本件投稿 部分と一体的に解釈することはできない。
エ 本件投稿部分が原告のことを書いたものであることを前提に一般閲覧者もコメントしている。
(被告の主張)
ア 本件投稿部分では、「AのXさんであり」と「異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足するという眼前の光景と随分似ていて 」との間には読点があって区切られているから、後者の 主語は特定されていない。被告がその後も繰り返し原告のことを指して発言したわけではないと投稿したことと一体的に解釈すれば、本件投稿部分の主語が 原告ではないことは明らかである。
イ 本件投稿部分は、A創設者のCがAのD議員をツイッター上で罵倒していたことを指して、Aという政党に対する論評を加えたものである。
ウ 本件投稿部分の主語が地位の高い者に限定されるという原告の解釈は成立しないが、仮にそれ を認めるにしても、Aの代表者が原告であることの一般人における認知度は いまださほど高くなく、一般人の認識では Aの最も役職の高い人物はいまだCであるから、本件投稿部分の主語はCになるはずである。
エ 原告の主張エは、原告に同調する原告の支持者が相応にいるということにすぎず、本件投稿 部分を解釈する証拠となるものではない。
(2) 本件投稿部分の主語が原告であるとして、事実を摘示したものか論評にとどまるものか
(原告の主張)
ア 一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件投稿部分は、「Aという政党の代表者である原告は、党(代表)の方針と異なる意見を述べる者に対しては 徹底的に攻撃して、党(代表)が決めた方針・決定に従うことを誓わせる人物である」との事実を適示している。
イ 上記アの事実の存否は、A関係者等の供述等から証明可能である。
(被告の主張)
ア 原告の主張アは、本件投稿の記載ではなく原告の解釈に基づいて創作された表現であって、本件投稿部分が事実を摘示したものかを判断することはできない。
イ 仮に原告の主張で判断するとしても、証拠等客観的な事実によっては決し難い「評価」の問題であり、明らかに原告の人物像に対する論評である。
(3) 原告の社会的評価の低下の有無
(原告の主張)
 本件投稿部分を見た一般の閲覧者は、原告が党内においては独裁者であるかのごとく振る舞っているとの印象を抱くのであり、したがって、原告の社会的評価が低下する。
(被告の主張)
 原告の主張は、否認する。
 一般の閲覧者 の普通の注意と読み方を基準にすれば、そのような印象を抱くことはない。
(4) 違法性阻却の有無等
(被告の主張)
ア 本件投稿は、大阪府における髪染め事件についてこれを所管する公務員たる大阪府知事である原告の姿勢についてされたものであり、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図るものであったこと」は明らかである。
イ 本件投稿部分が前提としている事実は、CがD議員をツイッター上で複数回にわたって罵倒するという事態に対し、原告は、代表者としてその事態を知って止め得る立場であったにもかかわらず、Cに公衆の面前で罵倒を行うべきではない旨申し入れたり、党に対する不当な介入であり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表してD議員の名誉を守ったりすることなく看過したというものであり、これは一般的な報道からも明らかに真実であり、仮に真実でないとしても、真実と信ずるについて相当の理由がある。
 Cは、Aの創設者であること、Aの法律顧問であったこと、原告とE総理大臣との会談に同席する程に原告と親しかったことなどからすると、原告の関係者であることは明らかであり、そのようなCがD議員を叩きつぶし党への恭順を誓わ せてその従順さに満足することに対して、原告が何らの行動をとることなく看過・放置したのであるから、原告がD議員を叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足すると評価し得るし、評価されてもやむを得ない。
ウ また、「異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足」という表現は、上記イの原告の行為に対する評価であり、原告の個性や信念を攻撃するものではないから、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではない」ことも明らかである。
エ したがって、本件投稿部分の投稿は、違法性を欠き、故意又は過失が否定されるから、不法行為は成立しない。
(原告の主張)
ア 原告もAも、党(代表)の方針と異なる意見を述べる者に対しては徹底的に攻撃して、党(代表)が決めた方針・決定に従うことを誓わせるような政党運営は行っておらず、かかる事実は真実ではない。
 被告自身が、「異論を叩き潰して恭順を求めているのはXさんじゃない」とツイートしているとおり、原告が他者に対して異論を叩き潰して恭順を求めたという事実は存在しない。
イ 被告は、「原告自身の直接関与の度合いは不明」「詳細は知るところではない」と自認しているとおり、A内における出来事について、自ら一切調査しておらず、詳細を知らないのであれば、報道等の事実から分かる事実のみを前提に論評すべきであり、真実であると信ずる相当性は認められない。
ウ Cは、2年以上も前に政界を引退してAには所属しておらず、原告との間には一切の上下関係はないのであるから、原告には私人であるCの自由な表現活動に対して止める手立ては基本的に存在しない。
エ したがって、本件投稿部分の投稿について、違法性は阻却されず、故意又は過失もある。
(5) 原告の損害
(原告の主張)
 原告は、本件投稿により、以下の損害を被った。
ア 慰謝料 500万円
イ 弁護士費用 50万円
ウ 合計 550万円
(被告の主張)
 原告の主張は、いずれも否認する。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
 前記争いのない事実等、証拠及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認定できる(認定根拠は、各事実の末尾に記載している。)。
(1) 本件投稿後、原告と被告との間でされたツイッター上でのやり取り
ア 原告は、平成29年10月29日午後9時26分頃、本件投稿を受けて、ツイッター上に、「Y(注:被告名)君、いつ僕が異論を出した党員を叩き潰したの?君も公人なんだから、自身の発言には責任取る覚悟を持ってるでしょうね。いつ僕が異論を出したものに恭順を誓わせたのか説明して下さい。」と本件投稿を 引用して投稿した(乙8)。
イ 被告は、同日午後10時40分頃、上記アの投稿を受けて、ツイッター上に、「どこにもXさんとは書いていないのですが...。文章上分かりづらかったなら恐縮ですが、状況上誰かは言わずもがな当然Xさんもご存知と思います。叩き潰していないという理屈は勿論言われるのでしょうが、あれだけ衆人環視で罵倒されれば、普通の人は異論は言えないと思います。違いますでしょうか?」と上記アの投稿を引用して投稿した(乙 1、10)。
ウ これに対し、原告は、同日午後11時04分頃、ツイッター上に、「話をすり替えるのはやめなさい。僕がいつ党員の意見を叩き潰したのか?恭順させたのか?答えなさい。」などと投稿した(乙12)。
エ 被告は、同日午後11時48分頃、上記ウの投稿を受けて、ツイッター上に、「いやだから異論を叩き潰して恭順を求めているのはXさんじゃないと言ってますが。どなたかはご存知でしょう。」などと上記ウの投稿を引用して投稿した(乙15)。
オ さらに、被告は、同月31日午後0時27分頃、ツイッター上に、「Xさんも公人としてご発言に責任をお持ち頂けると思うのですが、繰り返し私はXさんではなく言わずもがなの方と申し上げておりますし、もとよりツィートもその趣旨で主語を記しておりません。」などと上記アの投稿を引用して投稿した(乙16 )。
(2) 本件投稿及び上記(1)の一連の投稿に対する一般閲覧者の反応
ア 平成29年10月29日、「F」というハンドルネームの一般閲覧者が、「私達の大阪の知事を悪く言うのは、やめてください!」などとコメントしている(甲9)。
イ 同日、「G」というハンドルネームの一般閲覧者が、「ツイートで、個人攻撃は何であれダメでしょう。」などとコメントしている(甲11)。
ウ 同月30日、「H」というハンドルネームの一般閲覧者が、「Xさんがいつそんなことしたの!?」などとコメントしている(甲10)。
エ 平成30年1月22日、「I」というハンドルネームの一般閲覧者が、@「Y氏のtweetの解釈1(改行)『因みにこの「高校」は大阪府立高校であり、その責任者はBさんの好きなAのXさんであり、』(改行)これは、髪染めの問題で大阪府を提訴した高校生に対して応訴する意向を府が示した、その責任者が X氏だと言う意味ですね(改行)応訴した限りは生徒指導を是としたということです」、A「『異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足するという眼前の光景と随分似ていて、』(改行)眼前の光景とは『これはD議員に対するC氏の行為』を暗に示しています(改行)その行為に似ているとY氏は記していますからX氏を示していませんね」、B「『それが伝染している様にも見えるのですが、』(改行)これでY氏の主張がはっきりします(改行)高校生がに対する応訴と、『A関係者が誰かを叩き潰すような乱暴な行為』が似ているから伝染しているように見える、ということなのでしょう」、C「だからY知事は(改行)『そして指摘を受け、当日中にこのように、「文章が分かりづらかったなら恐縮です」』(改行)説明したのでしょう」、D「もし、このtweetだけで、Y知事を提訴したのなら、X知事の行為にただただ驚くばかりです」とコメントしている(乙28)。
(3) 本件投稿の背景事情等
 ア 平成29年10月24日、D議員が、ツイッター上に、「X代表が再び再選してもしなくても、堺(市長選)・衆院選総括と代表選なしに前に進めない」などと投稿したのに対し、Cが、「ボケ!」、「口のきき方も知らない若造が勘違いしてきた」などと 複数回にわたって書き込んで罵倒し、言い争いになっていた。
 なお、Cは、Aの創設者であるが、2年以上前に政界を引退し、本件投稿当時はAに所属しておらず、Aの法律顧問という立場であった。(甲8、乙26、32、弁論の全趣旨)
イ 同月31日、D議員が同月30日付けで離党届を提出したことを明らかにした記者会見を開き、Cについて「実質的に党内で逆らえない人だ」と指摘した上で、「発言の間違いについて指摘することになるので、けじめをつけなければならないと思い(離党届を)提出した」と説明した旨の報道がされた(乙29)。
ウ 同年11月1日、原告が、D議員について幹事長が慰留しており、Cに批判があることについて、「表現がきつかった。Cさんの表現があまりにも辛辣(しんらつ)できつすぎるから、文字で見た人は『なんで、ここまで言うの』ということでの批判だと思う。」と発言し、「(C氏は)党の運営に関わっている人じゃないので、私人として情報発信するのに『これはやめて』というのはおかしいと思う。党に関係している幹部なら言う。」と発言した旨の報道がされた(甲8)。
エ 原告は、Cに対し、公衆の面前で罵倒を行うべきではない旨申し入れたり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表してD議員の名誉を守ったりしなかった(弁論の全趣旨)。
オ その後、同年12月20日、AがD議員の離党届を保留していたことが報道され、平成30年1月9日、 D議員が離党届を取り下げた旨の報道がなされた(乙30、31)。
2 争点(1) (本件投稿部分の主語が原告であるか)について
(1) 本件投稿部分が原告の社会的評価を低下させるか否かは、本件投稿部分についての一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した意味内容に従って判断すべきものである(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)から、本件投稿部分の主語が原告であるかについても、上記基準に従って検討すべきである。
(2) 前記争いのない事実等によれば、被告は、ツイッター上に、「因みにこの『高校』は大阪府立高校であり、その責任者は Bさんの好きなAのXさんであり、異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足するという眼前の光景と随分似ていて、それが伝染している様にも見えるのですが、その辺全部スルー若しくはOKというのが興味深いです」と本件投稿をしており(前記第2の1(3))、この中には原告の名字以外に個人を特定する文言が出ていないこと、「AのXさんであり、異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する」という本件投稿部分(同(5))は、読点はあるものの続いた文章になっていることがそれぞれ認められる。読点で区切られていたとしても、特段主語が明示されていなければ、通常その文の主語は読点より前の文の主語と同様であると考えられ、本件投稿部分の読点の直前の文の主語は原告である。また、原告は、現職の大阪府知事であり、Aの代表者である(同(1))から、読点の直後の文(異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する)の主語と表現されても不自然ではない。
 そうすると、一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準にすれば、本件投稿部分の主語は原告であると認められる。一般閲覧者が本件投稿に対して「私達の大阪の知事を悪く言うのは、やめてください!」、「ツイートで、個人攻撃は何であれダメでしょう。」、「Xさんがいつそんなことしたの!?」などとコメントしていること(前記1(2)アからウまで)も上記認定の裏付けとなるものである(この点、「『異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足するという眼前の光景と随分似ていて、』(改行)眼前の光景とは『これはD議員に対するC氏の行為』を暗に示しています(改行)その行為に似ているとY氏は記していますからX氏を示していませんね」とコメントする一般閲覧者もいるが(同エ)、当該コメントは本件訴訟が提起された平成29年11月28日よりも後の平成30年1月22日のコメントであり(前記第2の1(5)、前記1(2)エ)、本件投稿とその後の一連の投稿(前記1(1))とを含めて精読した上でコメントしたものと解されるから、前記認定を左右させるものではない。)。
(3)ア これに対し、被告は、本件投稿後に繰り返し原告のことを指して発言したわけではないと投稿したことと一体的に解釈すれば、本件投稿部分の主語が原告ではないことは明らかである旨主張する。
 しかしながら、ツイッターの仕組み上、投稿は投稿ごとに切り離されて表示されるものである上、本件投稿は平成29年10月29日午後4時48分頃にされたこと(前記第2の1(3))、被告がツイッター上に、「どこにもXさんとは書いていないのですが...。」と投稿したのが同日午後10時40分頃であること(前記1(1)イ)がそれぞれ認められ、約6時間後になって初めて被告が釈明したのであるから、本件投稿とその他の投稿を一体的に見ることはできない。
イ また、被告は、本件投稿部分は、CがD議員をツイッター上で罵倒していたことを指して、Aという政党に対する論評を加えたものである旨、本件投稿部分の主語が地位の高い者に限定されるとしても主語はCになるはずである旨それぞれ主張する。
 しかしながら、本件投稿よりも前に、CがD議員をツイッター上で罵倒し、両者間で言い争いになっていたこと(前記1(3)ア)は認められるものの、一般の閲覧者が本件投稿部分を見た際に普通の注意をもってこれを想起できたと認めるに足りる証拠はない。そして、前記(2)のとおり、本件投稿部分の読点の直前の文の主語が原告であることなどからすれば、CがAの創設者であることを考慮しても、一般の閲覧者が普通の注意をもって本件投稿部分の主語がA又はCであると読むことは困難である。
ウ したがって、被告の前記主張はいずれも採用できない。
3 争点(2) (本件投稿部分の主語が原告であるとして、事実を摘示したものか論評にとどまるものか)について
(1) 本件投稿部分が事実を摘示するものか意見ないし論評の表明であるかかについては、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、特定の事項について事実を摘示するものと解され、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論等は、意見ないし論評の表明に属するというべきであるから(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁、同平成16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)、上記基準に従って検討する。
(2) 前記争いのない事実等及び前記認定事実によれば、原告が、現職の大阪府知事であり、Aの代表であること(前記第2の1(1))、大阪府立高校の生徒が、生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう教諭らから何度も指導され精神的な苦痛を受けたとして大阪府を相手に訴訟を提起したことに関し、Bがツイッター上に「ちなみに外国人にも染めさせてるという情報の真偽はしらないけど、まあどんな1984年に迷い込んだんだとおもうよね。私が公教育でときどき体験したあの感じを思いだす。支配への従順さを強要する態度。染める行為に従順さを見出し満足するという教師として最低の態度。」との記事を投稿したのに対して、被告が本件投稿をツイッター上に行ったこと(同(3)及び(4))、本件投稿よりも前に、CがD議員をツイッター上で罵倒し、両者間で言い争いになっていたこと(前記1(3)ア)がそれぞれ認められる。これらからすると、大阪府立高校の教諭が生徒に髪を黒く染めるように指導し、生徒がそれに従って髪を染める行為をすることに対し「染める行為に従順さを見出し満足する」とBが表現したのに対し、被告は、CがD議員を罵倒する事態を想起し、高校を所管する大阪府の代表が知事である原告であり、Aの代表が原告であったことから、大阪府立高校の問題とAで起こった問題とが似ているものと感じ、Bの表現に合わせて「異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する」と表現したものと認められる。
 本件投稿部分の文言に加え、このような本件投稿の経緯も併せて考慮すると、Bの上記投稿は、証拠等をもってその存否を決することができる「高校の方針に反する生徒を指導し生徒に従わせること」に対し、その教師の姿勢を「従順さを見出し満足する」とBが否定的に評価して表現したものと認めるのが相当であり、被告による本件投稿部分もまた、証拠等をもってその存否を決することができる「党の方針に異論を唱える者に党の創設者が反論すること 」に対し、その党の代表者たる原告の姿勢を「異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する」と被告が否定的に評価して表現したものと認めるのが相当である。
 そうすると、本件投稿部分は、原告が、異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足する人物であるという原告の人物像に対する批評であって意見ないし論評の表明であると認められる。
(3) これに対し、原告は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件投稿は、「Aという政党の代表者である原告は、党(代表)の方針と異なる意見を述べる者に対しては徹底的に攻撃して、党(代表)が決めた方針・決定に従うことを誓わせる人物である」との事実を適示し、かかる事実の存否はA関係者等の供述等から証明可能である旨主張する。
 しかしながら、異論を出した者に対して反論して意見を変えさせることが直ちに「叩きつぶす」との表現につながるものではないし、意見を変えたことが直ちに「恭順」や「従順」との表現につながるものではなく、A関係者等が「叩きつぶす」、「恭順」、「従順」との供述をしたとしても、それらは供述者の評価が加わった表現にすぎない。
 したがって、原告の前記主張は採用できない。
4 争点(3) (原告の社会的評価の低下の有無)について
 前記争いのない事実等によれば、被告は、平成29年10月29日午後4時48分頃、ツイッター上に、「因みにこの『高校』は大阪府立高校であり、その責任者はBさんの好きなAのXさんであり、異論を出したものを叩きつぶし党への恭順を誓わせてその従順さに満足するという眼前の光景と随分似ていて、それが伝染している様にも見えるのですが、その辺全部スルー若しくはOKというのが興味深いです」と記載した記事の本件投稿をしたことが認められる(前記第2の1(3))。
 そうすると、本件投稿部分は、これを見た一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準にすれば、原告が党内においては独裁者であるかのごとく振る舞っているとの印象を抱かせるものであるから、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
5 争点(4) (違法性阻却の有無等)について
(1) 判断枠組
 ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明により、社会的評価が低下したとしても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実である ことの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意又は過失は否定される(前記最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
(2) 公共の利害に関する事実及び公益目的について
 前記3(争点(2))での認定のとおり、本件投稿は、大阪府立高校の問題とAで起こった問題があったところ、大阪府の代表が大阪府知事である原告であり、Aの代表も原告であったことから、被告は、両問題の最終的な責任者がいずれも原告であると考え、両問題を関連付けて本件投稿を行ったものであると推認される。また、原告も、公共の利害に関する事実及び公益目的について争っていないものと認められる(弁論の全趣旨)。
 そうすると、本件投稿は、公人たる 原告の所属する党での振る舞いについて論評するものであるから、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったことが認められる。
(3) 前提事実の重要な部分の真実性又は真実であると信ずる相当な理由について
ア 被告は、本件投稿部分が前提としている事実は、CがD議員をツイッター上で複数回にわたって罵倒するという事態に対し、原告は、代表者としてその事態を知って止め得る立場であったにもかかわらず、Cに公衆の面前で罵倒を行うべきではない旨申し入れたり、党に対する不当な介入であり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表してD議員の名誉を守ったりすることなく看過したというものである旨主張するため、当該事実の重要な部分が真実であるか否か又は真実であると信ずる相当な理由があるか否かを検討する。
イ 前記争いのない事実等及び前記認定事実によれば、原告が、現職の大阪府知事であり、Aの代表であること(前記第2の1(1))、本件投稿よりも前に、CがD議員をツイッター上で罵倒し、両者間で言い争いになっていたこと、Cは、Aの創設者であるが、2年以上前に政界を引退し、本件投稿当時はAに所属しておらず、Aの法律顧問という立場であったこと(以上、前記1(3)ア)、本件投稿後の平成29年10月30日にD議員がAに離党届を提出したこと(同イ)、それに対してAの幹事長が離党を慰留したこと(同ウ)、原告がCに公衆の面前で罵倒を行うべきではない旨申し入れたり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表してD議員の名誉を守ったりしなかったこと(同エ)がそれぞれ認められる。
 しかしながら、何もしないということと、看過・容認しているということとは、事実としては異なるものである。所属議員がそのツイッター上での発言に対して第三者から罵倒される事態が生じたとしても、それは私人間の問題であり、議員が所属する党の代表者において、罵倒した第三者に対して罵倒すべきでない旨申し入れたり、党に対する不当な介入であり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表して所属議員の名誉を守ったりするなどして、私人間の問題に対して何らかの行動を取ることが求められるわけではないから、その代表者が何らかの行動を取らなかったとしても、その代表者が事態を看過・容認していたと評価されるものではない。このことは、第三者が党に所属していない者である以上、党の創設者であって党との関係が深い者であったとしても、同人の行為と代表者の行為とを同視し得る特段の事情がない限り変わるものではない。
 Cは、2年以上前に政界を引退して本件投稿当時はAに所属していなかったものであり、同人がAの創設者でAの法律顧問であったこと、原告、C、E首相及びJ官房長官の4者で会談することがあったこと(乙27)を考慮しても上記特段の事情があったとは認められない。そうすると、Aに所属するD議員のツイッター上での発言に対してCが罵倒したとしても、それは私人間の問題であって原告に何らかの行動を取ることが求められるわけではなく、原告がCに公衆の面前で罵倒を行うべきではない旨申し入れたり、党に対する不当な介入であり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表してD議員の名誉を守ったりしなかったとしても、原告が看過・容認していたとの事実が真実であったとは認められない。本件投稿後の事情ではあるが、離党届を提出したD議員に対してAの幹事長が慰留していること(前記1(3)ウ)も、原告がCの行為を看過・容認していたわけではないことを一定程度裏付けるものといえる。
 また、通常の注意を払えば、D議員のツイッター上での発言に対してCから罵倒されるという私人間の問題に対し、原告がCに対して罵倒すべきでない旨申し入れたり、党に対する不当な介入であり、そのような罵倒には一切左右されない旨公表してD議員の名誉を守ったりするなどしなかったからといって、直ちに原告がその問題を看過・容認していることにはならないことは理解し得るものである。ましてや、本件投稿当時、新潟県知事であった被告が、党の所属議員と第三者との間の私人間の問題に代表者が何らかの行動を取らなかった場合、代表者が看過・容認しているとの評価を受けると信じる相当な理由があったと認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告が看過・容認していたとの事実が真実であると信ずる相当な理由があったとは認められない。
 そして、本件投稿部分の前提事実のうち、原告が看過していたか否かは原告に対する論評の対象となる行為であるから、前提事実の重要な部分であると認められる。
 したがって、本件投稿部分の前提事実の重要な部分が真実であった又は真実であると信ずる相当な理由があったとは認められない。
ウ 以上より、本件投稿部分による名誉毀損につき、違法性又は故意若しくは過失が否定されることはなく、これに反する被告の主張は採用できない。
6 争点(5)(原告の損害)について
 前記2のとおり、本件投稿部分の主語は原告であると認められるが、本件投稿部分は原告に対する論評ではなく、A又はCに対する論評のつもりで投稿したとの被告の主張を排斥するに足りる証拠はないから、本件は主語を明確にすることなく論評したことによって原告の名誉を毀損した過失の不法行為であると認められる。また、本件投稿部分は、公人である原告に対する論評であって、その表現の自由は特に保護されるべきである。さらに、本件は公人間の紛争であり、原告は被告に対してツイッター上で反論することにより自己の名誉を回復することも容易であったのであり、実際に、本件投稿後に原告が反論したのに対して本件投稿部分が原告に対する論評ではないと被告が釈明したこと(前記1(1))により、原告の社会的評価の低下の拡大が防がれ、その評価が一定程度回復していると認められる。
 以上の事情等本件に関する一切の事情を総合考慮すれば、被告が本件投稿を行って原告の名誉を毀損したことにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては、30万円をもって相当と認める。
 また、原告は、本件訴訟を追行するために弁護士に委任しているところ、弁護士費用のうち被告による前記不法行為と相当因果関係を有する損害は、本件訴訟の経過及び以上の認定判断に照らし、3万円と認めるのが相当である。
第4 結論
 以上によると、原告の請求は、主文第1項の範囲で理由があるから、その限度において認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第22民事部
 裁判長裁判官 北川清
 裁判官 新海寿加子
 裁判官 菅野裕希
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