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【事件名】ネット紹介書籍の著者名表記事件
【年月日】平成30年8月2日
 東京地裁 平成30年(ワ)第8291号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年6月21日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 渡邉淳夫
被告 株式会社キッズ・カンパニー
同訴訟代理人弁護士 辻村和彦


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成30年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告が開設するホームページ(以下「被告ホームページ」という。)において、原告の著作物である書籍2冊(以下「本件各書籍」と総称する。)を原告以外の者の著作物であるなどと表示し、これが原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害に当たると主張し、民法709条に基づく損害賠償金100万円及び不法行為の日の後である平成30年1月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
 原告は、タイ式ヨガに関する教室の運営及び運営に関するコンサルタント、インストラクターの育成、派遣等を業とし、タイ式ヨガの普及を目的とした日本ルーシーダットン普及連盟を組織・運営している株式会社ルーシーダットンの代表取締役である。
 被告は、スポーツクラブ、スイミングクラブ等の健康トレーニング施設の経営及び経営指導等を業とする株式会社である。
 訴外B(以下「B」という。)は、健康エクササイズの開発、健康指導者の育成・指導等の活動をしている者であり、「C」との通称名でも活動している。
(甲3)
(2)本件各書籍
 本件各書籍のうち、「乾貴美子のがんばらないで最短キレイ!ルーシーダットン」(以下「本件書籍1」という。)は、平成18年11月に発行された書籍であり、書籍の表紙、背表紙、裏表紙及び奥付(66頁)には、監修者として原告の氏名が記載されており、奥付の横の頁には原告の氏名及び顔写真が掲載されている。また、本件書籍1の5頁や奥付には、ポーズ指導者として、Bの氏名が記載されるなどしている。(甲1)本件各書籍のうち、「5分で効く!効く!DVDでわかるルーシーダットン」(以下「本件書籍2」という。)は、平成19年3月に発行された書籍であり、書籍の表紙、背表紙及び奥付には、監修者として原告の氏名が記載されており、奥付には原告の氏名及び顔写真が掲載されている。また、本件書籍2の奥付には、技術指導者・DVD出演者として、Bの通称名及び顔写真が掲載されている。(甲2)
(3)被告ホームページの表示
 被告は、被告ホームページにBのプロフィールや活動内容等を掲載しており、そこには下記の表示(以下「本件表示」という。)がある。被告ホームページにおいて、本件各書籍の具体的な表現が掲載されているものではなく、また、その内容が提供されているものではない。(甲3)
 記
 ■主な著書
 ・『くびれスッキリ!ろっ骨エクササイズ』(C著/ソフトバンククリエイティブ社)
 ・『5分で効く!効く!ルーシーダットン』メイツ出版(全面指導解説、DVD全面出演指導)
 ・『乾貴美子のがんばらないで最短キレイ!ルーシーダットン』自由国民社(全面指導解説)
 ・『もっと楽しく!ゆったり長く泳げるコツ50』山海堂(監修)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)原告は本件各書籍の著作者であるか
(原告の主張)
 原告は、本件各書籍の企画を立案し、出版元と協議しながら、内容の作成や出版を進めた。本件各書籍の表紙等には、監修者として原告の氏名が掲載されていること、原告は現在まで本件各書籍の著作権料を取得していることからも、原告は本件各書籍の著作者である。
(被告の主張)
 本件各書籍の内容は、B及び同人の委託を受けたライターの協議を経て創作されたものであり、原告は本件各書籍の創作に関与しておらず、原告は本件各書籍の著作者ではない。
(2)本件表示は原告の氏名表示権を侵害するか
(原告の主張)
 本件表示においては、「主な著書」との見出しに続けて、本件各書籍が表示されていて、本件表示を見た者は、本件各書籍は、Bの単独著作物か、少なくとも、Bが創作のほぼ全てに関与した書籍であると認識するから、本件表示は、原告の氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害している。
(被告の主張)
 本件表示においては、「くびれスッキリ!ろっ骨エクササイズ」は「C著」、「もっと楽しく!ゆったり長く泳げるコツ50」は「(監修)」と表示され、他方、本件書籍1は「(全面指導解説)」と、本件書籍2は「(全面指導解説、DVD全面出演指導)」と表示されている。そうすると、本件表示を見た者は、「くびれスッキリ!ろっ骨エクササイズ」はBの著作物であり、他方、本件各書籍は、Bが全面指導解説やDVD全面出演指導した書籍であると認識するのであり、原告が主張するような誤解は生じないから、本件表示は原告の氏名表示権を侵害しない。
(3)原告の損害額
(原告の主張)
 被告は、遅くとも平成22年4月以降現在に至るまで原告の氏名表示権を侵害し、原告は、被告による氏名表示権侵害行為により著しい精神的苦痛を被ったのであり、これを慰謝するに足りる金銭は100万円を下らない。
 よって、原告は、被告に対し、民法709条に基づく損害賠償金100万円及び不法行為の日の後である平成30年1月16日から支払済みまで年5分割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1争点(2)(本件表示は原告の氏名表示権を侵害するか)について
 事案に鑑み、まず、争点(2)について判断する。
 氏名表示権(著作権法19条1項)は、著作者が原作品に、又は著作物の公衆への提供、提示に際し、著作者名を表示するか否か、表示するとすれば実名を表示するか変名を表示するかを決定する権利である。
 本件表示は、Bの活動等を紹介する記事中の「主な著書」との見出しに続けて、本件各書籍等のタイトル及び出版社を表示し、その表示に続けて、本件書籍1については「(全面指導解説)」、本件書籍2については「(全面指導解説、DVD全面出演指導)」と表示するものである。被告ホームページにおいて、本件各書籍の具体的な表現が掲載されたり、その内容が提供されたりしているものではない。被告ホームページのこのような内容に照らせば、著作物である本件各書籍につき、被告ホームページにおいて公衆への提供、提示がされているとはいえないから、本件表示は、著作物(本件各書籍)の公衆への提供、提示に際してされたものということはできない。また、本件表示は本件各書籍の原作品における表示と関係するものではない。
 したがって、仮に原告が本件各書籍の著作者であるとしても(争点(1))、本件表示は、本件各書籍に係る原告の氏名表示権を侵害するものではない。
 これに対し、原告は、本件表示を見た者は、本件各書籍は、Bの単独著作物か、少なくとも、Bが創作のほぼ全てに関与した書籍であると認識すると主張する。しかしながら、本件表示によって本件各書籍に係る原告の氏名表示権(著作権法19条1項)が侵害されているということができないことは前記説示のとおりである。
 なお、原告は、侵害されたと主張する権利等の内容を明らかにするよう求められたのに対し、本件においては、本件各書籍に係る著作権法19条1項の氏名表示権の侵害を主張すると述べた。
2 結論
 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐藤雅浩
 裁判官 大下良仁
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