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【事件名】アマゾンジャパンへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成30年7月20日
 東京地裁 平成30年(ワ)第8214号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年6月22日)

判決
原告 株式会社ルアンジュ
同訴訟代理人弁護士 松田純一
同 岩月泰頼
同 梅澤隼
被告 アマゾンジャパン合同会社
同訴訟代理人弁護士 青井裕美子
同 渋谷洋平
同 廣瀬智彦
同 鈴木理沙子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告が運用するインターネットのウェブサイト上に掲載された別紙発信者商品画像目録記載の各画像が原告の著作権(複製権又は翻案権及び公衆送信権)を侵害することは明らかであるなどと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実)
(1)ア 原告は、バッグ、靴、アパレル等の輸入、企画、製造及び販売等を目的とする会社である。(甲1)
イ 被告は、インターネット等を利用した電子商取引事業及び電子商取引サイトへの出品サービス業務等を目的とする会社である。
(2)別紙発信者商品画像目録記載1〜3の発信者商品画像1〜3(以下、これらを一括して「本件各発信者商品画像」という。)が、平成29年7月18日において、インターネットショッピングサイト「(省略)」(URL(省略))(以下「本件サイト」という。)の「A」なる出品者のページに掲載されていた。本件各発信者商品画像が掲載された具体的なURLは、同目録記載1(2)「上記画像が掲載されていたURL」欄に記載のとおりである。(甲6、8〜10)
(3)原告は、本件に先立ち、当裁判所に対し、被告を債務者として、本件各発信者商品画像等が本件サイトに掲載されたことに関し、発信者情報の開示を求める仮処分の申立てをした(当裁判所平成29年(ヨ)第22167号。以下「本件仮処分申立事件」という。)。(甲7)
3 争点
(1)原告が別紙原告商品画像目録記載1〜3の原告商品画像1〜3(以下、これらを一括して「本件各原告商品画像」という。)の著作権者か否か
(2)原告が被告に対して本件発信者情報の開示を求めることができるか否か
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)原告が本件各原告商品画像の著作権者か否か)について
(原告の主張)
ア 原告は、自社ブランドである「B」のインターネットショッピングサイトにおいて、本件各原告商品画像を掲載している。本件各原告商品画像は、原告の販売する商品のブランドイメージを高めるような工夫が施されているから、写真の著作物に当たる。
イ 原告は、C(以下「C」という。)との間で、平成24年8月7日、原告が、Cに対し、原告製品及びウェブページ制作やカタログ制作に使用する写真の撮影並びに加工等の業務を委託料月額30万円で委託する旨の業務委託契約(以下「本件業務委託契約1」という。甲11)を締結した。しかし、本件業務委託契約1には成果物の権利帰属関係の定めがなかった。そこで、原告とCは、平成27年3月30日、改めて、原告が、Cに対し、原告の商品、モデル撮影および撮影後の加工作業、撮影手配に対する業務を委託料月額64万8000円で委託する旨や、業務委託により作成された成果物に関する無体財産権及び有体物に関する一切の権利が原告に帰属する旨の内容を含む業務委託契約(以下「本件業務委託契約2」という。甲12)を締結した。本件業務委託契約2においては、Cにより既に作成された成果物の権利を原告に帰属させるため、委託開始時期を平成25年6月1日まで遡らせている。
ウ 本件各原告商品画像は、いずれもCが撮影したものであり、原告商品画像1及び3の撮影日時は、それぞれ平成28年6月17日及び同年3月18日であるから、これらの著作権は原告に帰属する。原告商品画像2の撮影日時は平成25年4月22日であるが、この著作権についてもCから原告に譲渡された。
エ したがって、原告が、本件各原告商品画像の著作権者である。
(被告の主張)
 本件各原告商品画像の著作物性は争う。
 Cが本件各原告商品画像の著作者であることの立証は不十分である。また、原告商品画像2の撮影日は平成25年4月22日であり、本件業務委託契約2で委託の始期とされた平成25年6月1日より前であるから、原告商品画像2の著作権は同契約により原告に移転していない。
(2) 争点(2)(原告が被告に対して本件発信者情報の開示を求めることができるか否か)について
(原告の主張)
ア 発信者商品画像1は、原告商品画像1の一部を切り取り、モデルの男性が左手に持っている小銭入れを発信者の商品に取り換えて、本件サイト上に有形的に再製したものである。同行為は、原告の複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害する。
 発信者商品画像2及び3は、原告商品画像2及び3をそれぞれデッドコピーして本件サイトに掲載したものである。同各行為は、いずれも原告の複製権及び公衆送信権を侵害する。
イ 原告は、上記著作権侵害の不法行為に基づき、本件各発信者商品画像を本件サイトに掲載した者(以下「本件発信者」という。)に対して損害賠償請求をするため、被告に本件発信者に係る発信者情報の開示を求めるものであるから、かかる開示を受けるべき正当な理由がある。
ウ 被告は、プロバイダ責任制限法4条1項の開示関係役務提供者に当たる。
(被告の主張)
 否認又は争う。本件サイトの管理運営主体は、被告ではなく、Amazon Services LLCであり、被告は、同社の問合せ先にすぎない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告が本件各原告商品画像の著作権者か否か)について
(1)証拠(甲2、8〜12、14、15)によれば、次の事実を認めることができる。
ア 原告は、カメラマンであるCと、平成24年8月7日、原告が、Cに対し、原告の製品及びウェブページ制作やカタログ制作に使用する写真の撮影、撮影した写真の加工等の業務を、委託料月額30万円、契約期間平成24年8月1日から同月31日までの1か月間(自動更新)で委託することなどを内容とする本件業務委託契約1を締結した。
イ Cは、平成25年4月22日、本件業務委託契約1に基づき、原告商品画像2の写真を撮影した。
ウ 原告は、Cと、平成27年3月30日、原告が、被告に対し、原告の商品、モデル撮影および撮影後の加工作業等の業務を、委託料月額64万8000円で委託する旨、業務委託により作成された成果物に関する無体財産権及び有体物に関する一切の権利は原告に帰属する旨などを内容とする本件業務委託契約2を締結した。同契約においては、既に撮影された写真の著作権を原告に帰属させる目的で、委託の始期を平成25年6月1日からとする旨が定められた。
エ Cは、本件業務委託契約2に基づき、平成28年3月18日に原告商品画像3の写真を、同年6月17日に原告商品画像1の写真をそれぞれ撮影した。
(2)本件各原告商品画像は、上記のようにカメラマンであるCが撮影した写真であって、証拠(甲8〜10、14、15)によれば、構図や陰影などに工夫を凝らして撮影されたものといえるから、創作性があり、いずれも写真の著作物と認められる。
 そして、前記(1)認定によれば、原告商品画像1及び3は、本件業務委託契約2に基づいて撮影されたものであるから、これらの著作権は、同契約に基づき、原告に帰属するものと認められる。また、証拠(甲2、15)によれば、原告商品画像2についても、遅くとも本件業務委託契約2が締結された時までに、その著作権が譲渡されて原告に帰属したものと認められる。
2 争点(2)(原告が被告に対して本件発信者情報の開示を求めることができるか否か)について
(1)証拠(甲6〜8)及び弁論の全趣旨を総合すると、@原告は、自社ブランドである「B」のインターネットショッピングサイトに本件各原告商品画像を掲載していること、A発信者商品画像1は、原告商品画像1の上部と下部をトリミングし、被写体の男性が左手に所持する小銭入れの色や柄等を変え、同人の右胸腹部付近の文字を消し、上記小銭入れの上側付近に文字を入れるという変更を加えたものであること、B発信者商品画像2は原告商品画像2の、発信者商品画像3は原告商品画像3のデッドコピーであることの各事実が認められる。
 これらの事実によれば、本件発信者は、本件各原告商品画像を複製ないし翻案した上で本件サイトに掲載して公衆送信したと認められるので、原告の本件各原告商品画像に係る著作権(複製権又は翻案権及び公衆送信権)がこうした行為により侵害されたことは明らかというべきである。
(2)原告がかかる著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、本件発信者情報の開示が必要であると認められるから、原告は、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
(3)被告は本件サイトの管理運営主体でないと主張するが、被告がプロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に当たることを自認していること、本件サイトが全て日本語で構成され、日本国内を対象に運営されていること(甲4、6)、被告は日本国内における問合せ先としての立場にあること(甲4)、被告が本件仮処分申立事件の審理において発信者情報の保有を自認し、発信者に対する意見照会を行っていること(甲7)などによれば、被告はプロバイダ責任制限法4条1項の開示関係役務提供者に当たり、かつ、本件発信者情報を保有しているものと認めるのが相当である。
(4)したがって、原告は、被告に対し、同項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができるものと認められる。
3 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 三井大有
 裁判官 遠山敦士


別紙 発信者情報目録
 別紙発信者商品画像目録に係る発信者商品画像1、2及び3をインターネットショッピングサイト「(省略)」に掲載した者に関する情報であって、次に掲げるもの。
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス

別紙 発信者商品画像目録
別紙 原告商品画像目録
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