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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件K
【年月日】平成30年7月19日
 東京地裁 平成30年(ワ)第6484号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年5月31日)

判決
原告 株式会社フライングドッグ
原告 株式会社ポニーキャニオン
上記両名訴訟代理人弁護士 笠島祐輝
同 林幸平
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 小川泰寛
同 湯川信吾


主文
1 被告は、原告株式会社ポニーキャニオンに対し、別紙発信者情報目録記載1の情報を開示せよ。
2 被告は、原告株式会社フライングドッグに対し、別紙発信者情報目録記載2の情報を開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項及び第2項と同旨
第2 事案の概要
 本件は、レコード製作会社である原告らが、自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ、氏名不詳者において、当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置し、インターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインターネット接続サービスを経由して自動的に送信し得る状態にして、原告らの送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記氏名不詳者に係る発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提事実
(1)ア 原告株式会社ポニーキャニオン(以下「原告ポニーキャニオン」という。)は、実演家甲が歌唱する楽曲「Resonant Heart」を録音したレコード(以下「本件レコード1」という。)を製作したレコード製作者であり、平成28年5月11日、同楽曲を収録した「Resonant Heart」との名称の商業用レコードCD(商品番号 PCCG−70314)を発売した(甲3の1)。
イ 原告株式会社フライングドッグ(以下「原告フライングドッグ」という。)は、実演家乙が歌唱する楽曲「愛の詩−words of love−」を録音したレコード(以下、「本件レコード2」といい、本件レコード1と併せて「本件各レコード」という。)を製作したレコード製作者であり、平成28年4月27日、同楽曲を収録した「愛の詩−wordsof love−」との名称の商業用レコードCD(商品番号 VTCL−35225)を発売した(甲3の2)。
(2) 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行う特定電気通信役務提供者(プロバイダ責任制限法2条3号)であり、インターネットプロトコルアドレス(以下「IPアドレス」という。)「106.172.237.173」(以下「本件IPアドレス」という。)を管理している(当事者間に争いがない。)。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件各レコードの送信可能化権を侵害されたことが明らかであるか
(原告ら)
ア 氏名不詳者は、本件レコード1を複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上、被告から割り当てられた本件IPアドレスを使用して上記コンピュータをインターネットに接続させ、平成29年8月7日0時2分8秒頃、ファイル交換共有ソフトであるShare互換ソフトウェアを用いて、同ソフトを利用する他の不特定の利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して上記ファイルを自動的に送信し得る状態にした。
イ 氏名不詳者は、本件レコード2を複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上、被告から割り当てられた本件IPアドレスを使用して上記コンピュータをインターネットに接続させ、平成29年8月11日7時34分42秒頃、ファイル交換共有ソフトであるShare互換ソフトウェアを用いて、同ソフトを利用する他の不特定の利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して上記ファイルを自動的に送信し得る状態にした。
(被告)
 原告らが送信可能化されたと主張する各ファイルが、本件各レコードの複製物であることが客観的に立証されていない上、上記各ファイルが送信可能化された日時やその際に使用されたIPアドレスが正確なものであることも立証されていないから、権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
 また、上記各ファイルを送信可能化した当該氏名不詳者が、Share互換ソフトウェアのファイル共有ソフトとしての機能を十分に認識し、又は過失により認識せずに利用していたことが認められず、故意又は過失の有無が明らかであるとはいえないから、権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
(2) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか
(原告ら)
 原告らは、本件各レコードの送信可能化権を侵害した氏名不詳者に対し、損害賠償請求権や差止請求権を行使する必要があるから、上記氏名不詳者に係る発信者情報(住所、氏名及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告)
 損害賠償請求権や差止請求権を行使するために電子メールアドレスの開示を受ける必要はないから、電子メールアドレスについては、開示を受けるべき正当な理由があるとは認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 証拠(甲2の1、2の2、3の1、3の2、5)によれば、次の事実が認められる。
ア 株式会社クロスワープ(以下「クロスワープ」という。)は、平成29年8月7日及び同月11日当時、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会によりP2P型ファイル交換ソフトの利用者のIPアドレス等を特定する方法として信頼性が認められると認定された「P2P FINDER」というシステム(以下「本件システム」という。)を使用して、P2P型ファイル交換ソフトであるShare(以下「本件交換ソフト」という。)を介して公開されている音楽ファイルを監視していた。
 本件システムは、設定されたキーワードに基づき、本件交換ソフトを介して公開されている音楽ファイルの中からそのキーワードを含む音楽ファイルを検索し、その音楽ファイルが検出された場合には、ダウンロード先のIPアドレス等の当該ファイルに関する情報を自動的に取得してダウンロードを要求し、当該ファイルを自動的にダウンロードすることにより、市販されている音楽CDの音源が本件交換ソフトを介して公開されていないか監視するものである。
イ(ア) クロスワープがキーワードを「EAC」と設定して本件システムにより検索した結果、ファイル名「[EAC][160511]TVアニメ『聖戦ケルベロス 竜刻のファタリテ』OPテーマ『Resonant Heart』/甲.rar」及びファイルサイズ「150762636」の音楽ファイル(以下「本件ファイル1」という。)が検出され、平成29年8月7日0時2分8秒頃、本件ファイル1のダウンロードが完了した。本件ファイル1のダウンロード先のIPアドレスは、「106.172.237.173」(本件IPアドレス)であった。
(イ) クロスワープは、本件ファイル1を他のファイルとともにDVD−Rに記録し、そのDVD−Rを原告ポニーキャニオンの担当者に交付した。
(ウ) 上記担当者が本件ファイル1を再生して記録されている音楽を聴取した結果、本件ファイル1には本件レコード1に録音された楽曲を複製した音楽が記録されていることが確認された。
ウ(ア) また、クロスワープがキーワードを「EAC」と設定して本件システムにより検索した結果、ファイル名「[EAC][160427]TVアニメ『学戦都市アスタリスク2ndSEASON』EDテーマ『愛の詩−words of love−』/乙.rar」及びファイルサイズ「174967595」の音楽ファイル(以下、「本件ファイル2」といい、本件ファイル1と併せて「本件各ファイル」という。)が検出され、平成29年8月11日7時34分42秒頃、本件ファイル2のダウンロードが完了した。本件ファイル2のダウンロード先のIPアドレスは、「106.172.237.173」(本件IPアドレス)であった。
(イ)クロスワープは、本件ファイル2を他のファイルとともにDVD−Rに記録し、そのDVD−Rを原告フライングドッグの親会社の担当者に交付した。
(ウ) 上記担当者が本件ファイル2を再生して記録されている音楽を聴取した結果、本件ファイル2には本件レコード2に録音された楽曲を複製した音楽が記録されていることが確認された。
(2)ア 前記前提事実(1)ア及び(2)並びに前記(1)ア及びイ(ア)ないし(ウ)によると、被告から本件IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者が、インターネットに接続し、平成29年8月7日0時2分8秒頃、本件交換ソフトを介して本件ファイル1を公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって、原告ポニーキャニオンが有する本件レコード1の送信可能化権を侵害したことが認められる。
イ また、前記前提事実(1)イ及び(2)並びに前記(1)ア及びウ(ア)ないし(ウ)によると、被告から本件IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者が、インターネットに接続し、平成29年8月11日7時34分42秒頃、本件交換ソフトを介して本件ファイル2を公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって、原告フライングドッグが有する本件レコード2の送信可能化権を侵害したことが認められる。
(3)ア これに対し、被告は、@本件各ファイルに記録された音楽が本件各レコードに録音された楽曲の複製物であることが客観的に立証されていない上、A本件各ファイルが本件システムによりダウンロードされた日時、及びそのダウンロード先のIPアドレスが正確なものであることも立証されていないから、権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない旨主張する。
 しかし、@については、被告が当該主張をした後に提出された本件各ファイルに記録された楽曲(検甲1の1、2の1)及び本件各レコードに録音された楽曲(検甲1の2、2の2)の比較に加えて、本件各ファイルに記録された楽曲が本件各レコードに録音された楽曲を複製したものである旨を述べる担当者らの陳述書(甲3の1、3の2)、及び被告が上記両楽曲の具体的相違点について主張はないとしていること(第2回口頭弁論調書)を併せれば、上記@に係る被告の主張は採用できない。
 また、Aについては、本件システムは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により本件交換ソフト等のP2P型ファイル交換ソフトを利用した者のIPアドレス等を特定する方法として信頼性が認められると認定されたシステムである(前記1(1)ア)ところ、本件全証拠によっても、本件システムが本件各ファイルをダウンロードしたときに正常に作動していなかったことをうかがわせる事情は見当たらないし、被告も正確性を疑わせる具体的事情を主張しないから、上記Aに係る被告の主張も採用できない。
イ また、被告は、本件各レコードの送信可能化権を侵害した者の故意又は過失の有無が明らかであるとはいえないから、権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない旨主張する。
 しかし、本件各レコードの送信可能化権を侵害した者の故意又は過失の有無にかかわらず、同送信可能化権が侵害されたことに変わりはないから、被告の上記主張は採用できない。
2 争点(2)について
 前記1(2)ア及びイによれば、被告は、被告から本件IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者による本件各レコードの送信可能化権侵害との関係において、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たるところ、原告らが同侵害に基づく差止請求権や損害賠償請求権を行使するためには、電子メールアドレスを含め、上記氏名不詳者に係る発信者情報の開示を受ける必要があり、原告らにはその発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
3 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 横山真通
 裁判官 櫻慎平


(別紙)発信者情報目録
1 平成29年8月7日0時2分8秒頃に「106.172.237.173」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(又は名称)、住所及び電子メールアドレス
2 平成29年8月11日7時34分42秒頃に「106.172.237.173」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(又は名称)、住所及び電子メールアドレス
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