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【事件名】動画サイトへのAV無断投稿事件B(2)
【年月日】平成30年6月29日
 大阪高裁 平成30年(ネ)第433号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成29年(ワ)第7901号)
 (口頭弁論終結日 平成30年5月11日)

判決
控訴人(一審原告) 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 酒井康生
被控訴人(一審被告) P1


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、800万円及びこれに対する平成26年1月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
 以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。
1 請求の内容
 本件は、控訴人が著作権を有する本件著作物を被控訴人が無断で「FC2アダルト」にアップロードして同サイトにアクセスした者の視聴に提供した行為が、控訴人が本件著作物について有する公衆送信権を侵害するとして、控訴人が、被控訴人に対し、不法行為(著作権侵害)に基づき、損害賠償金2353万0600円の一部である800万円及びこれに対する平成26年1月20日(最終の不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
2 訴訟の経過
 原審は、控訴人の請求を、損害賠償金85万6546円及びこれに対する平成26年1月20日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却した。
 これに対し、控訴人が敗訴部分を不服として控訴を提起した。
3 判断の基礎となる事実
(1)当事者等
 控訴人は、映画、ビデオの映像製作、編集業務、販売等を営む株式会社である。
 株式会社CA(平成21年10月1日に「株式会社北都」から商号変更)は、「溜池ゴロー」、「マドンナ」及び「ROOKIE」というメーカー名(屋号)を用いてアダルトDVDの製作を行っていた株式会社であり、本件著作物の著作権者であったが、平成28年12月1日、控訴人に吸収合併された(甲1の1・2、甲3、4、9)。
(2)本件著作物
ア 株式会社CAは、映画の著作物である本件著作物を製作し、本件著作物を、いずれも控訴人のグループ企業の一つである「DMM.com」のウェブサイト上にて有料でインターネット配信していた(甲1の1・2)。
イ 同ウェブサイトで本件著作物を視聴する場合の最低料金は、本件著作物1について400円、本件著作物2について300円である。なお、その場合の視聴方法は、視聴者パソコンにデータの残らないストリーミングであり、料金を支払った者は、そのストリーミングを1週間の間は、何度でも自由に繰り返すことができた(甲1の1・2)。
(3)被控訴人の行為
ア 被控訴人は、原判決別紙被告アップロード目録記載の日時に、インターネット上の動画共有サイトである「FC2アダルト」にそれぞれ同目録記載のタイトルを付した動画データ(被告アップロード著作物1ないし3)を、投稿者名をP2としてアップロードし被告アップロード著作物1ないし3を公衆に自動送信しうる状態に置いた(甲2の1〜甲2の3)。
イ 被告アップロード著作物の「FC2アダルト」における再生回数は、以下のとおりであった(甲2の1〜甲2の3)。
(ア)被告アップロード著作物1:再生回数3万3019回
(イ)被告アップロード著作物2:再生回数2万2533回
(ウ)被告アップロード著作物3:再生回数1万1877回
(4)株式会社CAのコンテンツの利用許諾
 株式会社CAは、第三者との間で、第三者がその著作物を利用する場合に関し、コンテンツ提供基本契約を締結していた。同契約においては、株式会社CAが、第三者との間で、その有する「コンテンツ」を個別契約によって定める場所や方法等により、第三者自身が、又はサービス事業者等を通じて「コンテンツ」の配信・放送をすることを許諾することとされており、その対価や配信方法については個別契約をもって定めることとされていた。そして、個別契約たる「覚書」においては、各著作物を配信許諾コンテンツに指定し、第三者が各著作物を配信することにより配信料を得る一方、株式会社CAがコンテンツ売上総額の38%を利用許諾の対価として取得するものとされていた(甲8の1・2)。
4 争点
(1)本件著作物と被告アップロード著作物の同一性
(2)控訴人の受けた損害額
5 争点に関する当事者の主張
 争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、当審における控訴人の主張を加えるほか、原判決の「事実及び理由」中の第2の2(原判決3頁17行目から5頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決3頁23行目の「原告からではなく」を「控訴人又は株式会社CAの販売サイトからではなく」に改める。
(2)原判決9頁4行目の「」を「」に改める。
(当審における控訴人の主張)
(1)著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の解釈
ア 著作権法114条3項は、平成12年の改正により、「通常」という文言が削除された。これは、損害額の算定に当たり、権利者と侵害者の間の具体的な事情を総合的に勘案すべきで、正規の使用料に必ずしも縛られる必要はないという趣旨を明確にしたものである。
イ 以上によれば、被告アップロード著作物が本件著作物の一部でしかないとしても、収録時間に応じて減額するのは相当でない。また、原判決のように3分の1を乗じるのも相当でない。
(2)10円動画
ア 控訴人が配信を許諾しているDMM.comのサイトにおいては、作品の一部のみを1週間視聴できるサービスはない。他方、作品の一部のみを視聴する料金設定として、10円動画というものがある。これは、各作品について、視聴者が好みの場面を任意に選択し、そこから1分ごとに10ポイント(505ポイントが=500円なので、10ポイントは約10円となる。)で1回のみのストリーミングを行うことができるというサービスである(5分ストリーミングをすれば50ポイントが差し引かれ、5分30秒ストリーミングをすれば60ポイントが差し引かれる。)。
イ 以上によれば、控訴人の損害は以下のとおり、合計644万2425円となる(ポイント数は収録時間に対応したもの)。
(ア)被告アップロード著作物1
 0.99円×340ポイント×38%×3万3019回=422万3394円
(イ)被告アップロード著作物2
 0.99円×130ポイント×38%×2万2533回=110万1999円
(ウ)被告アップロード著作物3
 0.99円×250ポイント×38%×1万1877回=111万7032円
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件著作物と被告アップロード著作物の同一性)について
 当裁判所も、被告アップロード著作物1は本件著作物1の一部であり、被告アップロード著作物2、3はいずれも本件著作物2の一部であって、その限度において同一性が認められると判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」中の第3の1(原判決5頁11行目から25行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決5頁15行目の「原告からではなく」を「控訴人又は株式会社CAの販売サイトからではなく」と改める。
2 争点(2)(控訴人の受けた損害額)について
 当裁判所も、控訴人の受けた損害額は、合計85万6546円であると判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」中の第3の2(原判決5頁26行目から7頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決6頁4行目の「回数に乗じる」を「回数を乗じる」と改める。
3 当審における控訴人の主張について
(1)著作権法114条3項の解釈(当審主張(1))について
ア 著作権法114条3項は、平成12年の改正により、「通常受けるべき金銭」の「通常」の文言が削除された。これは、使用料額の認定において、一般的相場にとらわれることなく、訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当な使用料額が認定できることを明確にしたものである。
 控訴人は、上記改正の経緯に照らすと、原判決の損害額算定方法は相当でないと主張する。
イ 本件著作物及び被告アップロード著作物はいずれも映画であるが、控訴人が本件著作物の配信を許諾しているサイトでは、本件著作物の一部のみを視聴できるサービスを提供しており、単位時間当たり一定の対価の支払を受けている(甲10、11)。そして、前記2において引用した原判決「事実及び理由」第3の2(2)のとおり、被告アップロード著作物はその一部であり、その収録時間は、被告アップロード著作物1で、本件著作物1の約37%であり、被告アップロード著作物2では、本件著作物2の約14%、被告アップロード著作物3では、本件著作物2の約27%にすぎない。
 以上によると、本件著作物を自動公衆送信により得ることのできる金銭は、視聴できる時間(上映時間、ストリーミングの時間)に大きく影響されることが推認される。法改正の経緯は上記アのとおりであるものの、被告アップロード著作物の配信1回につき、これに対応する本件著作物の1回分の使用料額をそのまま、本件著作物にかかる著作権等の行使につき受けるべき金銭とすることは相当とはいえない。
 以上によると、配信した著作物の収録時間に応じて使用料相当額を算定するのが相当である。
ウ また、本件の場合、本件著作物の利用者は、ストリーミングで1週間見放題になるというのであるから、本件著作物の配信を受ける対価は、1週間という利用期間を前提に設定されているものであって、これを「FC2アダルト」における公衆への自動送信1回ごとに対応する対価とすることは合理的でない。本件著作物の利用者が、1週間に数回視聴することを前提とし、更に3分の1を乗じるのが相当である。
エ 以上のとおりで、著作権法114条3項の文言が改正された経緯(前記ア)を踏まえても、本件著作物にかかる著作権等の行使につき受けるべき金銭は、原判決の「事実及び理由」中の第3の2に記載のとおり算定するのが相当である。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
(2)10円動画(当審主張(2))について
ア 控訴人は、DMM.comのサイトには10円動画が存在するので、これに基づいて使用料相当額を算定するのが相当であると主張する。
イ 前記(1)イのとおり、控訴人から本件著作物の配信の許諾を受けたDMM.coのサイトでは、視聴者が好みの場面を任意に選択し、そこから1分ごとに10ポイント(約10円)で1回のみのストリーミングができるサービスを提供している(甲10、11)。
 しかし、被控訴人は、上記10円動画のような方法で、被告アップロード著作物を配信しておらず、被控訴人による被告アップロード著作物の1回の配信について、上記10円動画による料金算定方法を用いて、本件著作物にかかる著作権等の行使につき受けるべき金銭を算定することは相当とはいえない。
 また、本件著作物を上記サイトにおいて10円動画で視聴する場合、控訴人の計算によれば、被告アップロード著作物1について自動送信1回につき336円(1円未満切り捨て。以下同じ。)、被告アップロード著作物2について自動送信1回につき128円、被告アップロード著作物3について自動送信1回につき247円となって、前記第2の3(2)イと比較して相当に割高となる。このため、本件著作物を視聴する者が、被告アップロード著作物に相当する分を、上記10円動画の方法により視聴するとは考えにくく、DMM.comのサイトにおける10円動画のサービスの利用者の割合が不明であることも併せ考えると、10円動画で設定された料金を本件における損害額算定の基礎とすることは相当とはいえない。
ウ したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
第4 結論
 以上によれば、控訴人の被控訴人に対する請求は、損害賠償金85万6546円及びこれに対する平成26年1月20日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 山田陽三
 裁判官 中尾彰
 裁判官 三井教匡
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