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【事件名】システム開発委託に伴う著作権帰属事件
【年月日】平成30年6月21日
 東京地裁 平成29年(ワ)第32433号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年4月26日)

判決
原告 株式会社マルスジャパン
同訴訟代理人弁護士 青木寛文
同 町田麻美
被告 株式会社マルイチ産商(以下「被告マルイチ産商」という。)
同訴訟代理人弁護士 中山修
同 中山耕平
同 中山千晶
被告 株式会社テクニカルパートナー(以下「被告テクニカルパートナー」という。)
被告 A(以下「被告A」という。)
被告 B(以下「被告B」という。)
上記三名訴訟代理人弁護士 倉ア哲矢


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
(主位的請求)
1 被告らは、原告に対し、連帯して1620万円及びこれに対する被告マルイチ産商、被告A、被告Bにつき平成29年10月15日から、被告テクニカルパートナーにつき同月16日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成29年9月17日から被告マルイチ産商が別紙目録記載のプログラム(以下「本件別紙プログラム」という。)の使用を停止するまで1か月45万円の割合による金員を支払え。
2 被告マルイチ産商は、本件別紙プログラムを使用してはならない。
3 被告マルイチ産商は、本件別紙プログラムのソースコードを廃棄せよ。
(予備的請求1)
1 被告マルイチ産商は、原告に対し、1620万円及びこれに対する平成29年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成29年9月17日から被告マルイチ産商が本件別紙プログラムの使用を停止するまで1か月45万円の割合による金員を支払え。
2 主位的請求2項及び3項と同旨
(予備的請求2)
 被告マルイチ産商は、原告に対し、1620万円及びこれに対する平成29年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成29年9月17日から被告マルイチ産商が本件別紙プログラムの使用を停止するまで1か月45万円の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告マルイチ産商に対してソフトウェア開発委託契約に基づき原告が著作権を有するプログラムの使用を許諾していたところ、被告らが違法に同プログラムの複製又は翻案を行い、また、上記委託契約が終了したにもかかわらず、被告マルイチ産商がプログラムの使用を継続し、複製又は翻案していると主張して、被告らに対し、次の請求をする事案である。
(1)主位的請求
ア 被告らが、原告の著作権(複製権又は翻案権)を侵害していると主張し、被告らに対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づく損害賠償請求として、1620万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(被告マルイチ産商、被告A、被告Bにつき平成29年10月15日、被告テクニカルパートナーにつき同月16日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
イ 被告マルイチ産商による本件別紙プログラムの使用が著作権法113条2項又はその類推適用により、本件別紙プログラムに係る著作権を侵害するものとみなされると主張し、被告らに対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づく損害賠償請求として、被告マルイチ産商が本件別紙プログラムの使用を停止するまでの間1か月45万円の使用料相当額の支払
ウ 被告マルイチ産商に対し、著作権法112条1項及び2項に基づく本件別紙プログラムの使用の差止め及び本件別紙プログラムのソースコードの廃棄
(2)予備的請求
 被告マルイチ産商はソフトウェア開発委託契約又は条理に基づき、本件別紙プログラムの使用を停止し、ソースコードを廃棄する債務を負うところ、被告マルイチ産商が本件別紙プログラムの使用を継続していることが上記債務の不履行に当たり、又は本件別紙プログラムの使用料相当額の支払を免れていることが不当利得に当たると主張し、被告マルイチ産商に対し、
ア 債務不履行に基づく損害賠償請求(予備的請求1)又は不当利得に基づく利得金返還請求(予備的請求2)として、1620万円及びこれに対する平成29年10月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払並びに被告マルイチ産商が本件別紙プログラムの使用を停止するまでの間1か月当たり45万円の使用料相当額の支払
イ ソフトウェア開発委託契約又は条理に基づく債務の履行請求として本件別紙プログラムの使用の差止め及びソースコードの廃棄(予備的請求1)
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告
 原告は、システム構築やソフトウェア開発等を目的とする株式会社である。
イ 被告
(ア)被告マルイチ産商は、食品類の卸売業、小売店舗支援事業、物流・冷蔵倉庫事業等を目的とする株式会社である。
(イ)被告テクニカルパートナーは、システム開発・基盤構築等を目的とする株式会社である。
(ウ)被告Aは、平成24年10月頃から被告テクニカルパートナーに勤務する者であり、以前は原告に勤務していた。
(エ)被告Bは、平成25年4月頃から被告テクニカルパートナーに勤務する者であり、以前は原告に勤務していた。
(2)ソフトウェア開発委託基本契約の締結
 原告と被告マルイチ産商は、平成20年9月17日、原告が被告マルイチ産商に対してソフトウェア開発業務を委託する旨の、ソフトウェア開発委託基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した(甲6)。本件基本契約には、次の定め(原告を甲とし、被告を乙とする。)がある。
 第1条(目的)
  本契約は、締結日現在における甲乙間の合意によるものであり、本契約締結以前に甲乙間でなされた合意事項または相手方から提供された文書等と本契約の内容とが相違する場合には、本契約を優先して適用する。
 第2条(定義)
  本契約にて使用する用語の定義は、次の各号のとおりとする。
 (1)「ソフトウェア開発委託」とは、成果物の作成を含むシステムの分析、設計、テスト、運用その他システムに関連する業務の全部または一部を委託することをいう。
 (2)「成果物」とは、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムに関する設計書、仕様書、マニュアル等の資料およびその他甲が作成を委託するコンピュータシステムに関わる有体物又は無形物全般をいう。
 第3条(個別契約)
 1.本件取引に関する甲乙間の個別契約(以下「個別契約」という。)は、別途締結する個別契約書又は甲が発行する注文書に対し乙が承諾することにより成立するものとする。なお、個別契約は別段の定めのない限り、本契約が適用されるものとし、個別契約の規定と本契約の規定が相違する場合には、個別契約の規定が優先するものとする。
 2.乙が前項の注文書受領後15日以内に諾否の通知をしない場合には、当該注文書に対し承諾したものとみなす。
 第16条(納入)
 1.乙は、個別契約およびシステム確認書所定の成果物を完成し、当該完成した成果物と甲所定の検収依頼書を、個別契約記載の納期までに、個別契約記載の納入場所に納入するものとする。
 2.略
 3.略
 第17条(検収)
 1.甲は、前条により納入された成果物につき、甲所定の検査方法に基づき受入検査を行い、乙に対し検収完了通知書を発行するものとする。受入検査は個別契約及びシステム確認書所定の期限までに行うこととする。
 2.前項の検収完了通知書の発行をもって、当該成果物の甲の乙に対する検収完了とする。
 第19条(成果物の所有権移転)
 1.成果物の所有権は、第17条の検収完了をもって乙から甲に移転するものとする。
 2.前項にかかわらず、検収完了前に甲が乙に対して取引金額を支払うときは、代金支払をもって成果物の所有権は甲に移転するものとする。
 第21条(著作権・知的財産権および諸権利の帰属)
 1.略
 2.略
 3.成果物にかかる著作権の帰属については、個別契約において別段の定めのない限り、以下のとおりとする。
 (1)新規に作成された成果物
  成果物のうち新規に作成された成果物の著作権については、当該プログラムに関する検収完了をもって、乙の著作権の持分の半分を甲に譲渡することにより、甲乙両者の共有とする。この場合、甲及び乙は、当該成果物につき、それぞれ相手方の了承および対価の支払なく自由に著作権法に基づく利用を行い、あるいは第三者に著作権法に基づく利用を行わせることができるものとする。なお、甲および乙は、当該成果物につき、その持分を処分しようとする場合には、それぞれ相手方の了承を得るものとする。
 (2)甲または乙が従前から有していた成果物
  甲または乙が従前から有していた成果物の著作権については、それぞれ甲または乙に帰属するものとする。この場合、乙は甲に対し、当該成果物について、甲が自ら対象ソフトウェアを使用するために必要な範囲で、著作権法に基づく利用を無償で許諾するものとする。また、成果物のうち、甲または乙が従前から保有していたプログラムを改変(コンバージョンを含み、以下同じ)して作成されたプログラムの著作権は、当該改変前のプログラムの著作権者に帰属するものとする。なお、乙は甲に対し、乙が従前から保有していたプログラムを改変して作成されたプログラムにつき、甲が自ら対象ソフトウェアを使用するために必要な範囲で、著作権法に基づく利用(著作権法に基づく複製権、翻案権等の著作物を利用する権利をいう)を無償で許諾するものとする。ただし、当該プログラムにつき別途甲乙間で使用に関する契約を締結している場合には、当該契約が本契約に優先して適用されるものとする。
 4.略
 第26条(契約終了後の権利義務)
  本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合でも、本契約に定める権利侵害、著作権・知的財産権および諸権利の帰属、秘密保持、個人情報保護、損害賠償、準拠法、管轄裁判所および本項の規定は当該契約終了以後も有効とする。
 第28条(有効期間)
 1.本契約の有効期間は平成20年9月17日から平成21年9月16日までとする。ただし、期間満了の3か月前までに甲乙いずれからも文書による解約の意思表示のない限り、さらに1年間同一条件をもって継続するものとし、以後も同様とする。
 2.略
(3)「新冷蔵庫・社内受発注システム」の開発に関する個別契約の締結
ア 原告と被告マルイチ産商は、被告マルイチ産商が本件基本契約3条に基づいて原告に対し平成20年9月17日付け注文書(以下「本件注文書」という。)を交付し、原告が本件注文書を受領してから15日以内に諾否の通知をしなかったことから、本件注文書記載の内容のとおり、「新冷蔵庫・社内受発注システム」(以下「本件新冷蔵庫等システム」という。)の開発に関する個別契約(以下「本件個別契約」という。)を締結した(甲4)。
イ 本件注文書には、次の定めがある。
(ア)注文明細
 ハードウェア97万円
 ソフトウェア(開発ツール・データベース) 221万円
 システム開発(共通環境設定) 300万円
 システム開発(冷蔵庫管理システム) 300万円
 システム開発(社内受発注システム) 300万円
(イ)契約要件
 原告との間に別途基本契約が締結されている場合、本件注文書に記載なき事項は、基本契約の取り決めによるものとする。
ウ 上記イ(ア)の「共通環境設定」とは、本件新冷蔵庫等システムを使用する際に必要となる、データベース接続等のプログラム一般に共通する機能をまとめたプログラム(以下「本件共通環境設定プログラム」という。)である。ただし、納入の対象として、本件共通環境設定プログラムのソースコードが含まれるかについては争いがある。また、原告は、本件別紙プログラムが本件共通環境設定プログラムであると主張するが、この点にも争いがある。
(4)原告は、平成20年10月16日から平成21年2月10日にかけて、被告マルイチ産商に対し、本件基本契約及び本件個別契約の成果物として、本件新冷蔵庫等システム及び本件共通環境設定プログラムを納入し、被告マルイチ産商は、上記各プログラムを検収した上で、開発委託費を支払った(乙1〜3〔枝番省略〕)。なお、この際、納入された本件共通環境設定プログラムのファイルの種類には争いがある。
(5)原告と被告マルイチ産商は、平成21年8月1日、本件新冷蔵庫等システムに関する保守管理契約(以下「本件保守契約」という。)を締結し(乙4〔枝番省略〕)、原告は本件保守契約に基づき保守管理業務を行っていたが、その後、被告マルイチ産商が原告に対して本件保守契約の解除を申し入れ、平成25年11月末頃、本件保守契約は解除された。
(6)原告は、平成26年6月13日、被告マルイチ産商に対し、本件基本契約を更新しない旨通知したことにより、本件基本契約は、本件基本契約28条1項により、平成26年9月17日に終了した(甲7の1・2)。
3 争点
(1)本件共通環境設定プログラムの著作権の帰属
(2)本件共通環境設定プログラムの著作権侵害の有無
(2)−1本件新冷蔵庫等システムの移行に伴う本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権侵害の有無
(2)−2本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴う複製権又は翻案権侵害の有無
(2)−3本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項)の有無
(3)被告テクニカルパートナー、被告A及び被告B(以下「被告テクニカルパートナーら」という。)の故意又は過失の有無
(4)被告マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務の有無
(5)不当利得返還請求権の有無
(6)損害額及び不当利得額
(7)消滅時効の抗弁の成否
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)本件共通環境設定プログラムの著作権の帰属)について
(原告の主張)
ア 本件共通環境設定プログラムの著作権はすべて原告に帰属する。すなわち、原告と被告マルイチ産商は、本件新冷蔵庫等システムの開発に当たり、共通環境設定プログラムを新たに開発すると多額の費用を要すると見込まれることから、@原告が既に開発し、著作権を有している共通環境設定プログラムを用いることとし、A当該プログラムの著作権は原告に留保し、Bソースコードは提供せず、本件新冷蔵庫等システムに実装したEXEファイル及びDLLファイルのみを納入することを合意した。このことは、原告が、平成20年8月22日、本件基本契約の締結に先立って被告マルイチ産商に対して交付した見積書(甲5。以下「本件見積書」という。)に「ただし、システム共通クラスライブラリ及び、運用制御アプリケーションについてはソースは対象外、dll・excでの納品。」と記載されていることからも明らかである。
 また、本件共通環境設定プログラムの著作権が原告に留保されることは、本件基本契約21条3項において、原告が従前から有していたプログラムを改変して作成したプログラムの著作権は原告に帰属する旨規定されていることからも明らかである。そして、被告マルイチ産商は、本件新冷蔵庫等システムのソフトウェアを使用するために必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを使用することができるにすぎない(本件基本契約21条3項(2))。
イ 被告は、本件個別契約に基づくシステム開発委託の対象には本件共通環境設定プログラムも含まれており、開発委託費として300万円を支払っていること、原告から本件共通環境設定プログラムの提供を受けたことから、本件共通環境設定プログラムの著作権の2分の1及びプログラムの複製物の所有権が被告に帰属すると主張する。しかしながら、この300万円という対価は本件共通環境設定プログラムの設定等に対する対価にすぎず、著作権の譲渡対価ではないし、本件注文書の対価の記載は、契約全体の開発委託費を納品物ごとに形式的に割り振ったものにすぎない。また、原告は、被告から「納品という以上、何か形のあるものが欲しい。」と言われたため、本件新冷蔵庫等システムの納品の際に本件共通環境設定プログラムの元となったプログラムのソースコードを記録媒体に保存して交付したにすぎず、本件共通環境設定プログラムのソースコード自体を提供した事実はない。
(被告マルイチ産商の主張)
ア 本件個別契約に基づくシステム開発委託の対象には、本件新冷蔵庫等システムだけでなく、本件共通環境設定プログラムも含まれているから、本件共通環境設定プログラムの著作権の2分の1及び原告から提供を受けた本件共通環境設定プログラムの複製物(ソースコードを含む。)の所有権は被告マルイチ産商に帰属する。このことは、本件注文書(甲4)に、開発委託の対象として「システム開発(共通環境設定)」、開発委託費300万円との記載があること、被告マルイチ産商は原告から本件共通環境設定プログラムのソースコードを提供されていること、開発委託費として300万円を支払っていること(乙1の1・2)からも明らかである。
イ 原告は、原告と被告マルイチ産商は、上記原告の主張ア@ないしBのとおり合意したなどと主張するが、本件見積書や本件注文書には同@Aの記載はない。同Bについて、本件見積書には原告が指摘する記載があるが、本件注文書には記載されていないから、同@ないしBの合意が成立した事実はない。なお、仮に、同Bの合意があったとしても、本件共通環境設定プログラムについて動産としては納入しないとの合意にすぎず、本件共通環境設定プログラムは本件新冷蔵庫等システムに一体化されて納入されている。また、原告は、原告が既に有していたプログラムを改変して本件共通環境設定プログラムを制作したとも主張するが、本件共通環境設定プログラムが、原告が既に開発済みのプログラムと全く同一のものであるとは考えがたい。
(被告テクニカルパートナーらの主張)
 いずれも不知。
(2)争点(2)本件共通環境設定プログラムの著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 争点(2)−1(本件新冷蔵庫等システムの移行に伴う本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権侵害)について
(ア)上記(1)の原告の主張アのとおり、原告は、当初、被告マルイチ産商に対して本件共通環境設定プログラムのソースコードを提供していなかった。その後、原告と被告マルイチ産商は本件保守契約を締結し、原告は本件新冷蔵庫等システムのメンテナンスを請け負ったが、メンテナンス作業には本件共通環境設定プログラムのソースコードのメンテナンスが不可欠であったことから、原告は、メンテナンス作業の便宜のため、被告マルイチ産商本社サーバに本件共通環境設定プログラムのソースコードを保存した。被告マルイチ産商本社サーバに保存された本件共通環境設定プログラムのソースコードは、原告の作業の便宜のために保存されたものであるから、当然、被告マルイチ産商が当該プログラムを複製等することは許されない。
 ところが、被告マルイチ産商は、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に際し、被告マルイチ産商本社サーバに保存されていた本件共通環境設定
プログラムのソースコードを用いて、同プログラムを新サーバに移行することによって、本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案した。そして、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行をしたのは、被告テクニカルパートナー並びに同社従業員である被告A及び被告Bである。
 したがって、被告らは、本件新冷蔵庫等システムを新サーバに移行する際に本件共通環境設定プログラムに係る原告の複製権又は翻案権を侵害した。
 なお、被告らは、本件共通環境設定プログラムのソースコードを複製又は翻案した事実はないと主張するが、本件共通環境設定プログラムを新しいサーバに移行することにより、当然に本件共通環境設定プログラムが複製されるから、被告らがサーバ移行を行っているのであれば、本件共通環境設定プログラムを複製している。
 また、被告らの主張するサーバ移行の方法を前提としても、この方法は、新サーバである仮想サーバにおいて、旧サーバ内にあった本件共通環境設定プログラムのハードディスク変換を行い、仮想システムのフォルダに配置し、仮想サーバに本件共通環境設定プログラムを新たに存在させるものであり、この作業に際し、仮想ハードディスク自体を旧サーバから新サーバにコピーする必要があり、これによりサーバOS及びOSで動作するすべてのプログラムのデータが複製されることになるから、本件共通環境設定プログラムは複製されている。
(イ)被告マルイチ産商は、本件基本契約21条3項の規定により、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案をすることができると主張するが、本件新冷蔵庫等システムを使用するために本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案する必要はない。
(ウ)被告らは、著作権法47条の3第1項により、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案をすることができると主張するが、被告マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムの複製物の所有権を有していないし、また、本件新冷蔵庫等システムを使用するために本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案する必要はないから、著作権法47条の3第1項の適用はない。
イ 争点(2)−2(本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴う複製権又は翻案権侵害)について
(ア)被告マルイチ産商と被告テクニカルパートナーは、平成23年12月以降、被告マルイチ産商のコンピュータ保守管理のための人材派遣契約を締5結し、被告テクニカルパートナーらは、上記派遣契約に基づき、被告マルイチ産商のコンピュータの保守管理業務を行っており、被告らは、本件基本契約が終了した平成26年9月17日以降も、保守管理業務の一環として、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案を行っている。なお、被告らは、平成26年9月17日以降、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案をした事実はないと主張するが、数年にわたり、プログラムのメンテナンスをせずに使用を続けることはあり得ない。
(イ)また、被告マルイチ産商は、本件基本契約21条3項、26条に基づき、本件基本契約終了後も必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することができると主張するが、本件基本契約は更新しない旨の意思表示による解約(28条1項但書)により終了したから、同26条の「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合」に直接該当しないし、同26条が規定するのは「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」であり、例えば、同21条3項が定める権利の帰属主体が契約終了によっても変わらないことを定めているに過ぎず、同項の利用に関する定めは射程外である。
ウ 争点(2)−3(本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項))について
(ア)被告マルイチ産商は、本件基本契約が終了した平成26年9月17日以降も、本件共通環境設定プログラムの使用を継続している。被告マルイチ産商のサーバに本件共通環境設定プログラムを複製したのは原告であるから、被告マルイチ産商が使用する本件共通環境設定プログラムは「著作権を侵害する行為によって作成された複製物」(著作権法113条2項)には直接該当しないが、著作権法113条2項の趣旨に照らせば、本件の被告マルイチ産商の行為についても同項が適用ないし類推適用される。したがって、被告マルイチ産商による平成26年9月17日以降の本件共通環境設定プログラムの使用行為は、著作権法113条2項のみなし侵害行為に該当する。
(イ)被告マルイチ産商は、本件共通環境設定プログラムの複製物の所有者として、本件共通環境設定プログラムを使用することができると主張するが、被告マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムの複製物の所有権を有していない。
(被告マルイチ産商の主張)
ア 争点(2)−1(本件新冷蔵庫等システムの移行に伴う本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権侵害)について
(ア)被告マルイチ産商は、サーバの老朽化対策等を目的として、平成25年11月27日、被告マルイチ産商の本社にあるサーバに保存されていた本件新冷蔵庫等システムのプログラム及び本件共通環境設定プログラムを、被告マルイチ産商が別の場所に設置した新サーバ(本件新冷蔵庫等システム専用の仮想サーバ)に単純移行しただけであり、被告らが本件新冷蔵庫等システムの移行の際に本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案した事実はない。
(イ)仮に、被告らが本件新冷蔵庫等システムの移行の際に本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案したとしても、上記の被告マルイチ産商の主張のとおり、本件共通環境設定プログラムの著作権の2分の1は被告マルイチ産商に帰属しているから、被告マルイチ産商は著作権者として本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することができる。
(ウ)また、仮に、本件共通環境設定プログラムの著作権がすべて原告に帰属しているとしても、本件基本契約21条3項は、原告に著作権が帰属するプログラム(原告が従前から有していたプログラム又は当該プログラムを改変して作成されたプログラム)について、開発対象のソフトウェアを使用するために必要な範囲で著作権法に基づく利用を無償で許諾すると規定しているから、被告マルイチ産商は、本件基本契約及び著作権法47条の8に基づき、必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することができる。
(エ)被告マルイチ産商は、本社サーバ内に保存されていた本件共通環境設定プログラムの複製物(ソースコードを含む。)の所有者であり、著作権法47条の3第1項により必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することができる。なお、原告は、被告に対して本件共通環境設定プログラムの元となったプログラムのソースコードを記録媒体に保存して交付したにすぎず、本件共通環境設定プログラムのソースコード自体を提供した事実はないなどと主張するが、原告は被告マルイチ産商にそのことを何ら説明しておらず、被告マルイチ産商は、本件共通環境設定プログラムのソースコードの完成品の提供を受けたと認識していた。このような事実関係の下で、原告が本件共通環境設定プログラムのソースコード自体を提供した事実はないなどと主張することは、禁反言の原則に反し許されない。
イ 争点(2)−2(本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴う複製権又は翻案権侵害)について
(ア)被告らが、平成26年9月17日以降、保守管理業務の一環として、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案を行っている事実はない。
 被告マルイチ産商と被告テクニカルパートナーは、平成23年12月、情報システム及び情報ネットワークシステム運用保守のための人材派遣契約を締結し、被告テクニカルパートナーは被告マルイチ産商に対して上記運用保守管理業務を請け負っているが、当該契約にはプログラムの保守管理は含まれていない。
(イ)仮に、本件共通環境設定プログラムの著作権がすべて原告に帰属しているとしても、被告マルイチ産商は、本件基本契約21条3項に基づき、必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することが許諾されている。そして、本件基本契約26条は、同21条の規定について、本件基本契約が終了した後も有効であると定めているから、被告マルイチ産商は、本件基本契約終了後も同条3項に基づき、必要な範囲で本件共通環境設定プログラムを複製等することができる。
ウ 争点(2)−3(本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項))について
 上記(1)のとおり、被告マルイチ産商は本件共通環境プログラムの著作権者及び複製物の所有者として、本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができる。また、原告の主張を前提としても、被告マルイチ産商のサーバに本件共通環境設定プログラムを複製したのは原告であるから、著作権法113条2項の適用はなく、みなし侵害が成立する余地はない。
(被告テクニカルパートナーらの主張)
ア 争点(2)−1(本件新冷蔵庫等システムの移行に伴う本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権侵害)について
 被告テクニカルパートナーは、平成25年11月27日、被告マルイチ産商からの依頼に基づき、被告マルイチ産商の本社サーバに保存されていた本件新冷蔵庫等システムを別の場所に設置されている新サーバに移行しただけであり、被告らが本件新冷蔵庫等システムの移行の際に本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案した事実はない。
 仮に、被告テクニカルパートナーらが実施した作業が複製又は翻案に該当するとしても、被告マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムの複製物の所有者であり、サーバ移行のため、当該複製物を複製又は翻案したのであるから、著作権法47条の3第1項が適用され、複製権又は翻案権侵害とはならない。
イ 争点(2)−2(本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴う複製権又は翻案権侵害)について
 被告テクニカルパートナーと被告マルイチ産商は、平成23年12月、情報システム及び情報ネットワークシステム運用保守のための人材派遣契約を締結し、被告テクニカルパートナーは被告マルイチ産商に対して上記運用保守管理業務を請け負っているが、当該契約にはプログラムの保守管理は含まれていない。
(3)争点(3)(被告テクニカルパートナーらの故意又は過失の有無)について
(原告の主張)
 被告A及び被告Bは、原告の元従業員であり、本件共通環境設定プログラムの著作権が原告に帰属しており、被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することができなかったことを認識していたのであるから、被告テクニカルパートナーらには故意又は過失がある。
(被告テクニカルパートナーらの主張)
 仮に本件共通環境設定プログラムの著作権が原告に留保されており、被告マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムを複製又は翻案することができなかったとしても、被告テクニカルパートナーらは、原告と被告マルイチ産商間の契約や合意の内容を知り得る立場になく、複製権又は翻案権侵害について、被告テクニカルパートナーらに故意又は過失はない。
(4)争点(4)(被告マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務の有無)について
(原告の主張)
 仮に被告らによる本件共通環境設定プログラムの著作権侵害が成立しないとしても、被告マルイチ産商は、本件基本契約に基づいて、本件共通環境設定プログラムを使用することができるにすぎず、本件基本契約終了により本件共通環境設定プログラムの使用権限は失われるから、被告マルイチ産商は、本件基本契約及び条理上、本件基本契約終了後は、本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、ソースコードを廃棄する債務を負っているにもかかわらず、かかる債務を怠り、本件共通環境設定プログラムの使用を継続している。
 したがって、原告は被告マルイチ産商に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求金の支払を求めることができる。
(被告マルイチ産商の主張)
 上記(2)の被告マルイチ産商の主張のとおり、被告マルイチ産商は本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができるから、被告マルイチ産商が、本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務を負うことはない。
(5)争点(5)(不当利得返還請求権の有無)について
(原告の主張)
 仮に被告らによる本件共通環境設定プログラムの著作権侵害行為が成立せず、また、被告マルイチ産商に債務不履行が成立しないとしても、被告マルイチ産商は、本件基本契約に基づいて、本件共通環境設定プログラムを使用することができるにすぎず、本件基本契約終了により本件共通環境設定プログラムの使用権限は失われたが、被告マルイチ産商は、本件基本契約終了日である平成26年9月17日以降も本件共通環境設定プログラムの使用を継続しており、法律上の原因なく、本件共通環境設定プログラムの使用料相当額の利得を得て、原告に同額の損失を与えた。
 したがって、原告は被告マルイチ産商に対し、不当利得に基づく不当利得金の返還を求めることができる。
(被告マルイチ産商の主張)
 上記(2)の被告マルイチ産商の主張のとおり、被告マルイチ産商は本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができるから、被告マルイチ産商が、法律上の原因なく、本件共通環境設定プログラムの使用料相当額の利得を得て、原告に同額の損失を与えたとはいえない。
(6)争点(6)(損害額及び不当利得額)について
(原告の主張)
ア 損害額
(ア)著作権法114条3項に基づく損害
 本件共通環境設定プログラムの使用料は1か月当たり45万円である。そして、被告マルイチ産商は、本件基本契約の終了日である平成26年9月17日以降、現在まで本件共通環境設定プログラムを使用し、本件共通環境設定プログラムにかかる原告の著作権を侵害している。したがって、原告は、被告らに対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、平成26年9月17日から平成29年9月16日まで期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円(45万円×36か月)及び同月17日から被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまで、1か月当たり45万円の使用料相当額の損害賠償金の支払を求めることができる。
(イ)債務不履行に基づく損害
 原告は、被告マルイチ産商に対し、債務不履行に基づき、平成26年9月17日から平成29年9月16日まで期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円(45万円×36か月)及び同月17日から被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまで、1か月当たり45万円の使用料相当額の損害賠償金の支払を求めることができる。
イ 不当利得額
 原告は、被告マルイチ産商に対し、不当利得に基づき、平成26年9月17日から平成29年9月16日まで期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円(45万円×36か月)及び同月17日から被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまで、1か月当たり45万円の使用料相当額の不当利得金の支払を求めることができる。
ウ まとめ
 よって、原告は、主位的請求として、被告らに対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づく、平成26年9月17日から平成29年9月16日まで期間の本件共通環境設定プログラムの使用料相当額合計1620万円及びこれに対する遅延損害金並びに同月17日から被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止するまでの1か月当たり45万円の使用料相当額の損害賠償金の支払、被告マルイチ産商に対し、著作権法112条1項及び2項に基づく、本件共通環境設定プログラムである本件別紙プログラムの使用停止及び廃棄を求め、予備的請求として、被告マルイチ産商に対し、債務不履行又は不当利得に基づく、上記各金員の支払並びに本件別紙プログラムの使用停止及び本件別紙プログラムのソースコードの廃棄を求める。
(被告マルイチ産商の主張)
 原告の主張する損害額及び不当利得額は争う。
 また、原告は、本件共通環境設定プログラムは本件別紙プログラムであると主張するが、別紙目録(訴状に添付されている目録)記載のプログラムの一覧表は平成22年2月18日付であり、原告が被告マルイチ産商に本件共通環境設定プログラムを納品した日である平成20年10月16日よりも後の日の一覧表であることから、本件共通環境設定プログラムが本件別紙プログラムと同一であるかは疑問である。
(被告テクニカルパートナーらの主張)
 原告の主張する損害額は争う。
(7)争点(7)(消滅時効の抗弁の成否)について
(被告テクニカルパートナーらの主張)
 原告は、遅くとも平成26年8月8日までには、本件不法行為について損害の発生及び加害者を認識した。そして、被告テクニカルパートナーらは、答弁書において消滅時効を援用する旨の意思表示をしたから、原告の不法行為に基づく損害賠償請求権は時効消滅した。
(原告の主張)
 争う。複製行為は、著作物を記録し、保存するというものであり、複製権侵害は継続的な不法行為である。被告A及び被告Bが、被告テクニカルパートナーの従業員として行った複製行為は現在まで継続しており、現在まで損害が発生しているから、消滅時効は成立しないし、違法に複製された著作物の利用を継続しているにもかかわらず、消滅時効を援用することは権利の濫用に当たり、許されない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(2)(本件共通環境設定プログラムの著作権侵害の有無)について
 事案に鑑み、まず、争点(2)について判断する。
(1)争点(2)−1(本件新冷蔵庫等システムの移行に伴う本件共通環境設定プログラムの複製権又は翻案権侵害の有無)について
ア 前提事実に加え、証拠(乙1〜3〔枝番省略〕、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件共通環境設定プログラムには、実行形式のファイルであるEXEファイル及びDLLファイルがあり、これらのファイルについてのソースコードが存在すること、EXEファイル及びDLLファイルは本件新冷蔵庫等システムに実装されて一体として機能し、システムを機能させるために必要であること、ソースコードはプログラムの保守管理を行う際に必要であること、原告は、被告マルイチ産商に対し本件新冷蔵庫等システムを被告マルイチ産商本社サーバに保存する方法によって納入した際、少なくとも本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルを本件新冷蔵庫等システムに実装する形で被告マルイチ産商本社サーバに保存して提供したこと、被告マルイチ産商は、平成25年11月27日、本社サーバの老朽化対策等を目的として、被告テクニカルパートナーに依頼して、本社サーバに保存されていた本件新冷蔵庫等システムを、別の場所に設置された新サーバ(本件新冷蔵庫等システム専用の仮想サーバ)に移行したことが認められる。
イ 上記認定事実のとおり、本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルは本件新冷蔵庫等システムに実装され、同システムとともに被告マルイチ産商の本社サーバに保存され、システムを機能させるために必要なプログラムファイルであるというのであるから、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行を行えば、当然、上記EXEファイル及びDLLファイルもサーバ移行され、複製されたと認められる。
 他方、本件共通環境設定プログラムのソースコードは、本件新冷蔵庫等システムに実装され、システムを機能させるために必要なものではないから、本件新冷蔵庫等システムをサーバ移行した事実から、直ちに本件共通環境設定プログラムのソースコードが複製されたと認めることはできない。サーバ移行後、システムを機能させるためにソースコード自体の複製等が必要となる場合があるとしても、原告はこの点について何ら主張立証していない。また、原告は、サーバ移行に際し、旧サーバ内の「共通環境設定プログラム」について、ハードディスク変換を行い、仮想ハードディスクが旧サーバから新サーバにコピーされ、旧サーバ内のすべてのプログラムが複製されたと主張するが、原告の主張を認めるに足りる証拠はなく、その他、被告マルイチ産商が、サーバ移行の際に本件共通環境設定プログラムのソースコードを複製又は翻案したと認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 上記のとおり、被告らは、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行の際に本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルを複製したと認められるが、次のとおり、本件共通環境設定プログラムの複製権侵害は成立しないと解するのが相当である。
 すなわち、前提事実(3)及び上記アの認定事実によれば、本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルは、本件新冷蔵庫等システムに実装されて一体として機能するプログラムであり、原告が、本件基本契約及び本件個別契約に基づき、被告マルイチ産商から委託され、作成したコンピュータプログラムである(原告の主張によっても、本件共通環境設定プログラムは、原告が従前から有していたプログラムを改変して作成したコンピュータプログラムである。)から、本件基本契約2条における「成果物」である。そして、上記「成果物」について、被告マルイチ産商は、それが従前から原告が有し、その著作権が原告に帰属するものであっても、「対象ソフトウェア」である本件共通環境設定プログラムを使用するために必要な範囲で複製又は翻案をすることが許諾されている(本件基本契約21条3項)。コンピュータプログラムを継続的に使用する上で、コンピュータプログラムを保存しているサーバの老朽化等の理由により、新サーバにコンピュータプログラムを移行することは必要な事項であるといえるから、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行のために、同システムに実装され、一体として機能する本件共通環境設定プログラムのEXEファイル及びDLLファイルを複製することは本件基本契約21条3項によって許諾されているというべきである。
 なお、本件共通環境設定プログラムの著作権の2分の1が被告マルイチ産商に帰属するものである場合も、本件共通環境設定プログラムを使用するために必要な範囲で複製又は翻案をすることは許諾されている(本件基本契約21条3項(1))
エ また、上記イのとおり、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行の際に本件共通環境設定プログラムのソースコードが複製されたと認めることはできないが、仮にこれが認められたとしても、複製権侵害は成立しないと解するのが相当である。
 すなわち、本件個別契約の内容である本件注文書には、本件新冷蔵庫等システム等とともに本件共通環境設定プログラムが開発委託の対象として記載され(甲4の1枚目)、本件注文書に添付されている開発依頼書には、納品媒体として「CD−Rおよび紙」と記載され(甲4の5枚目)、本件新冷蔵庫等システムの納入及び検収(前提事実(4))の際、原告と被告マルイチ産商間で取り交わされた納品物件一覧及び検収物件一覧(乙1の1・2)には、「システム共通関数プログラム(1)クラスライブラリー機能一覧(2)共通関数仕様(3)共通関数ソースプログラム」等と記載され、本件共通環境設定プログラムのソースコードが納品物件の対象であると明記されている。これらからすると、本件共通環境設定プログラムのソースコードも本件基本契約の納品の対象であり、上記「成果物」に含まれると認められる。これに対し、原告は、本件共通環境設定プログラムにつき、業務プログラムに実装したEXEファイル及びDLLファイルのみ提供すると合意し、ソースコードを提供することは合意されていないと主張し、このことは、原告が、平成20年8月22日、本件基本契約の締結に先立って被告マルイチ産商に対して交付した本件見積書(甲5)にも記載されていると主張する。しかし、原告と被告マルイチ産商が、本件見積書(なお、本件見積書には「exc」と記載されているが、「exe」(EXEファイル)の誤記であると考えられる。)の記載のとおりに合意したと認めるに足りる証拠はない。その他、原告の主張を裏付ける的確な証拠はなく、上記認定事実に照らせば、原告の主張は採用することはできない。
 そして、上記ウのとおり、被告マルイチ産商は本件共通環境設定プログラムを使用するために必要な範囲で複製又は翻案をすることが許諾されているところ(本件基本契約21条3項(1)、(2))、コンピュータプログラムを継続的に使用するに当たり、コンピュータプログラムの保守管理が必要となる場合があり、保守管理にはソースコードが必要であるから(上記アの認定事実)、新サーバにコンピュータプログラムを移行する際にそのソースコードを複製することは、本件基本契約によって許容されているというべきである。
オ 以上によれば、被告らが、本件新冷蔵庫等システムのサーバ移行に伴い、本件共通環境設定プログラムにかかる原告の複製権又は翻案権を侵害したとは認められない。
(2)争点(2)−2(本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴う複製権又は翻案権侵害)について
ア 原告は、被告マルイチ産商と被告テクニカルパートナーは、被告マルイチ産商のコンピュータ保守管理のための人材派遣契約を締結し、被告テクニカルパートナーらは、上記派遣契約に基づき、被告マルイチ産商のコンピュータの保守管理業務を行っており、本件基本契約が終了した平成26年9月17日以降も、保守管理業務の一環として、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案を行ったと主張する。
 しかし、保守管理業務の一環として本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案が行われた事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張を採用することはできない。
イ また、仮に、被告らが本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの保守管理業務に伴い、本件共通環境設定プログラムの複製又は翻案を行ったとしても、本件基本契約26条は、「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」に関する定めが本件基本契約の終了後も有効であると定めており、被告マルイチ産商は、本件基本契約終了後も「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」に関する定めである本件基本契約21条3項に基づき、本件共通環境設定プログラムを複製等することができると解するのが相当であるから、複製権又は翻案権侵害は成立しないと解するのが相当である。
 これに対し、原告は、本件基本契約は更新しない旨の意思表示による解約(28条1項但書)により終了したのであり、本件基本契約26条の「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合」に直接該当しないし、本件基本契約26条が規定するのは「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」であり、本件基本契約21条3項が定める権利の帰属主体が契約終了によっても変わらないことを定めているとしても、同項の利用に関する定めは射程外であると主張する。
 しかし、本件基本契約26条は、「契約終了後の権利義務」との見出しの下で「本契約が合意の解約により終了した場合および解除により終了した場合でも」と定めており、他の原因による終了の場合にも適用されることを前提にしていると解され、本件基本契約中に他の原因による契約終了時の権利義務等を定める条項がないことからしても、本件基本契約26条は、更新しない旨の意思表示による解約による契約終了の場合の権利義務の帰趨も定めていると解釈すべきである。
 また、本件基本契約26条における「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」との文言は、本件基本契約21条の見出しと同一であること、また、同条3項は、成果物の著作権・知的財産権および諸権利の帰属を定めるとともに、著作権が共有となる場合(同項)には双方が利用することができることを定め、原告のみに帰属する場合(同項)には被告マルイチ産商に対して利用することができる範囲を定めており、著作権の帰属の違いに対応して利用することができる範囲をそれぞれ定めているものであり、そのような定めにおいて、契約終了後、著作権の帰属の定めのみ有効に存続すると解するのは不自然であること、契約中に契約終了後の利用やその禁止についての定めはないことからすると、本件基本契約26条において契約終了後も有効とされる「著作権・知的財産権および諸権利の帰属」の定めとは、同21条の定め全体を指し、同条が定める利用に関する定めも含んでいると解釈するのが相当である。原告が主張する本件基本契約の解釈によれば、本件新冷蔵庫等システムの使用のために必要となる本件共通環境設定プログラムは本件基本契約終了により一切複製等できなくなり、本件共通環境設定プログラムのサーバ移行等を行うことができず、本件新冷蔵庫等システム自体の使用を継続することも不可能ないし困難となるが、そのような解釈は不合理である。
(3)争点(2)−3本件基本契約終了後の本件共通環境設定プログラムの使用によるみなし侵害(著作権法113条2項))について
 上記(1)のとおり、本件共通環境設定プログラムのソースコード、EXEファイル及びDLLファイルはいずれも「成果物」であり、被告マルイチ産商は、これらのデータファイルの複製物の所有権を取得しているから(本件基本契約19条)、本件共通環境設定プログラムの複製物を使用することができる。
 したがって、本件について、みなし侵害(著作権法113条2項)は成立しない。
(4)以上によれば、本件共通環境設定プログラムの著作権の帰属(争点(1))の点を検討するまでもなく、被告らによる本件共通環境設定プログラムの著作権侵害は認められず、原告の主位的請求にはいずれも理由がない。
2 争点(4)(被告マルイチ産商の本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務の有無)及び争点(不当利得返還請求権の有無)について
 上記1のとおり、被告マルイチ産商は本件基本契約終了後も本件共通環境設定プログラムを使用することができるから、被告マルイチ産商が本件共通環境設定プログラムの使用を停止し、廃棄する債務を負うことはなく、その使用が債務不履行となることはない。また、被告マルイチ産商が、法律上の原因なく、本件共通環境設定プログラムの使用料相当額の利得を得て、原告に同額の損失を与えたとはいえず、被告マルイチ産商の使用について不当利得が成立することはない。
 したがって、原告の予備的請求にはいずれも理由がない。
3 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないことから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐藤雅浩
 裁判官 大下良仁


(別紙省略)
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