判例全文 line
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【事件名】消防支援車の取扱説明書等侵害事件(2)
【年月日】平成30年6月20日
 知財高裁 平成29年(ネ)第10103号 損害賠償請求控訴事件、平成30年(ネ)第10012号 同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成28年(ワ)第19080号)
 (口頭弁論終結日 平成30年4月16日)

判決
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社ヨコハマ・モーターセールス(以下「控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 村西大作
同 弓削田博
同 河部康弘
同 藤沼光太
同 同補佐人弁理士 佐々木智也
同 貞島亮介
被控訴人兼附帯控訴人 株式会社トノックス(以下「被控訴人トノックス」という。)
同訴訟代理人弁護士 岡林俊夫
同 竹内教敏
被控訴人 有限会社マルチデバイス(以下「被控訴人マルチデバイス」という。)
同訴訟代理人弁護士 日下隆浩


主文
1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人トノックスの負担とする。

事実及び理由
第1 事者の求めた裁判
1 控訴
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して4億6750万円及びこれに対する平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴
(1) 原判決のうち被控訴人トノックス敗訴部分を取り消す。
(2) 控訴人の被控訴人トノックスに対する請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、キャンピングカー及び特殊車両等の製造等を行っている控訴人が、消防庁における消防用特殊車両の製造に係る一般競争入札に参加して落札し、自ら上記車両を製造し、これを消防庁に納入した被控訴人トノックス及びその製造に関与した被控訴人マルチデバイスに対し、被控訴人トノックスは、不当に安い金額で上記落札をしたほか、上記車両の製造に当たり控訴人から提供を受けた資料を流用し、また、被控訴人らは、上記車両の製造に当たって、控訴人が著作権を有する制御プログラム、タッチパネル画面、取扱説明書及び警告用のシールを複製、翻案したと主張して、主位的に、上記一連の行為は不法行為を構成するとして、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条1項前段)として、予備的に、上記各著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条1項前段、著作権法114条1項又は3項)として、損害金4億6750万円及びこれに対する不法行為の日又はその後の日である平成25年2月13日(被控訴人トノックスが上記車両を消防庁に納車した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
 原審は、上記警告用シールの著作権侵害による不法行為に基づく請求のうち、被控訴人トノックスに対して12万7000円及びこれに対する上記平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が本件控訴を、被控訴人トノックスが本件附帯控訴をそれぞれ提起した。
2 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められた事実)、争点及び争点に対する当事者の主張は、原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と改めるとともに、次のとおり補正するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第2 事案の概要」1〜3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁9行目の「支援車T型」を「消防支援車T型(以下「支援車T型」という。)」に改め、19行目の「この時製造された車両」の次に「(以下「控訴人19年車両」という。)」を加える。
(2) 原判決6頁17行目の末尾の次に、次のとおり加える。
 「すなわち、消防庁に納車した被控訴人車両には、走行中又は停止中に拡幅部分が10〜30センチメートルも張り出すという通常あり得ない重大な不具合が生じているが、同事実は被控訴人トノックスが支援車T型を製造することができないことの証左である。また、被控訴人トノックスは、支援車T型を一度も製造したことはなく、製造のためのノウハウを有していなかったのであるから、被控訴人車両を製造するに当たっての初期投資は膨大な金額となるはずであり、この点も考慮すれば、被控訴人トノックスによる入札価格は不当に安価であるといえる。なお、控訴人が支援車T型を製造した場合の1台当たりの利益額は2500万円余りであるが、これは、支援車T型の製造のノウハウを蓄積している控訴人が支援車T型を47台製造した場合のものであるから、被控訴人トノックスが製造する場合とは事情が異なる。」
(3) 原判決7頁5行目の末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「この点、控訴人は、被控訴人車両において、走行中又は停止中に拡幅部分が10〜30センチメートル張り出すという不具合が生じたことをもって、被控訴人トノックスには支援車T型を製造する能力がない旨主張するが、上記不具合は作業員の操作ミスによって生じた疑いもあること、被控訴人トノックスは、上記不具合の発生後、直ちにロック装置を加え、その後は、被控訴人車両に一切不具合が生じていないことからすると、上記不具合をもって被控訴人トノックスが支援車T型を製造する能力を有していなかったということはできない。」
(4) 原判決7頁17行目の末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「仮に、被控訴人トノックスの代表者が、上記資料の提供を要求する時点で控訴人から送付された見積書を確認していなかったとしても、上記資料の提供依頼の前に見積書は送付されていることからすると、控訴人代表者が、被控訴人トノックスが控訴人に支援車T型の製造の発注をすることが確実であると誤信することは無理もないというべきである。
 被訴人トノックスに提供した上記資料のうち、一部については営業秘密に当たるとして原審において閲覧制限が認められていることから、この資料が控訴人において重要かつ有用な資料であることは明らかであり、通常、取引を行わない企業がこのような資料を請求することはない。
 そして、前記(1)で主張したとおり、被控訴人トノックスは支援車T型を製造する能力がなかったことを考慮すると、被控訴人トノックスは、控訴人から提供された上記資料を流用して被控訴人車両を製造したと考えざるを得ない。」
(5) 原判決9頁1行目の冒頭から1行目の「受領した資料」までを次のとおり改める。
 「被控訴人らは、被控訴人トノックスにおいて、控訴人に対し、支援車T型の製造を控訴人に発注すると誤信させた上で、控訴人に各種資料を提供させ、これらの資料」
(6) 原判決9頁5行目の「するものである。」を「するものであり、自由競争の範囲を逸脱する。」に改める。
(7) 原判決12頁6行目の「表現方法」から9行目の「字になる。」までを次のとおり改める。
 「例えば、Y09については48通り(2(上段右側の左右を入れ替える)×2(中段右側の左右を入れ替える)×2(下段右側の左右を入れ替える)×3!(上下を入れ替える)=48)、Y13については48通り(2(上下を入れ替える)×2(下段の左右を入れ替える)×2(上段左側の左右を入れ替える)×3!(上段右側の3つを入れ替える)=48)、Y25及びY26については各1152通り(4!(1列目の上下を入れ替える)×4!(2列目の上下を入れ替える)×2(1列目と2列目を入れ替える)=1152)、Y03については12通り(3!(1列目の上下を入れ替える)×2(1列目と2列目を入れ替える)=12)、Y15については192通り(2(1・2列目の上下を入れ替える)×2(上段1・2列目を入れ替える)×2(下段1・2列目を入れ替える)×4!(1・2列目と3列目、4列目、5列目を入れ替える)=192)の選択の幅が存在し、これらだけを考慮しても11京5422兆3326億3741万3376通りの選択の幅となり、これに残る14ブロック、さらには拡幅操作部分以外のモジュールを考慮すると、その表現の選択の幅は天文学的な数字となる。」
(8) 原判決12頁12行目の「なお、」から16行目末尾までを削除する。
(9) 原判決14頁5行目末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「(エ)控訴人プログラム@をブロックごとに区分したのは、表現の幅を数値化するための便宜上のものであり、各ブロック単体で支援車T型の操作ができるのではなく、あくまでその集合体によって支援車T型を操作できるのであるから、著作物性を検討するに当たってはブロックの集合体を対象として検討すべきである。
(オ)また、ラダー図では、プログラムをモジュールに分割できるところ、モジュール分割に当たっては、モジュール分割の程度(どれだけ細かく分割するか)や一つのモジュールにどのような内容の命令を組み込むかについてプログラマーの思想が反映される。例えば、前者については、「タッチパネルモード」というモジュールの中にタッチパネル操作に関するすべての命令を組み込むのか、「拡幅動作タッチパネルモード」という具合にタッチパネル操作の内容に応じてさらにモジュール分割をするのかという形でプログラマーの個性が反映され、後者については、「リモコンオンリー」と「リモコンモード」を違う内容と捉えてモジュール分割をするのか、同じ「リモコン」という括りで一つのモジュールとするのかという形でプログラマーの個性が反映される。
 控訴人プログラム@のモジュール分割には、プログラム全体の見栄えをきれいにしたい、後からプログラムを見返した際にどこにどのような内容の記載があるかを容易に把握できるようにしたい、後から新しい機能を追加するプログラムを加えやすいようにしたい、といったプログラマーの思想が反映されている。」
(10) 原判決14頁6行目の「(エ)」を「(カ)」に改め、10行目の末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「(キ)以上より、控訴人プログラム@に著作物性が認められることは明らかである。」
(11) 原判決14頁13行目の「A」の次に「(以下「A」という。)」を加え、14行目末尾に「また、控訴人プログラム@の著作権は、神奈川県相模原市消防局等に対して譲渡されていない。」を加える。
(12) 原判決15頁9行目の末尾に行を改め、次のとおり加える。
 「また、被控訴人トノックスには、被控訴人マルチデバイスが被控訴人プログラムの作成に当たって、控訴人プログラム@を流用していないか、控訴人プログラム@の著作権者は誰であるかを確認する義務があるところ、被控訴人プログラムの作成日時は平成19年3月6日となっており(甲50)、これは被控訴人トノックスが被控訴人マルチデバイスから営業を受けたと主張する平成24年6月下旬より5年以上も早いから、納品されたプログラム自体によって、被控訴人トノックスは、被控訴人プログラムが控訴人プログラム@を複製又は翻案したものであることを知ることができた。したがって、その調査を怠った被控訴人トノックスには過失が存するというべきである。」
(13) 原判決16頁3行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「ウ 控訴人プログラム@の著作権は、控訴人から神奈川県相模原市消防局等に対して譲渡されている。」
(14) 原判決16頁13行目の末尾の次に「さらに、各ブロックの実際の記載方法の幅を考慮すると、控訴人プログラムAの表現の選択の幅は控訴人プログラム@の選択の幅を上回ることになる。」を加える。
(15) 原判決16頁23行目の冒頭から17頁8行目末尾までを次のとおり改める。
 「(イ)また、控訴人は、控訴人車両の製造の際に、被控訴人マルチデバイスに対し、控訴人プログラムAを含む控訴人車両の電気系統全般の製造業務を委託した(同委託に係る契約を、以下「本件契約」という。)が、控訴人は、本件契約により、被控訴人マルチデバイスから控訴人プログラムAの著作権の譲渡を受けた。
 控訴人及び被控訴人マルチデバイスが本件契約に控訴人プログラムAの著作権の譲渡も含まれることを確認したことを示す証拠として、甲77の書面(以下「甲77書面」という。)がある。控訴人は、被控訴人マルチデバイスから、本件契約の報酬額の総額を示す書面(乙ロ6。以下「乙ロ6書面」という。)が提出されところ、被控訴人マルチデバイスから乙ロ6書面記載の報酬以外の追加報酬を請求されたり、権利の帰属が争われたりする危険があったことから、乙ロ6書面に手書きで、「出張旅費」、「クレーム部品」、「ハード・ソフト」、「トラブルシューティング」等と追記したが、この手書きの記載がある書面が甲77書面であり、甲77書面の「ハード・ソフト」の記載により、控訴人が控訴人プログラムAを自由に利用することについて追加の費用が発生しないことが確認された。
 確かに、甲77書面には著作権の文言は記載されていないが、控訴人代表者は、プログラム著作権に関する正確な知識がなかったため、著作権譲渡の記載をしなかっただけで、同記載がないことから著作権譲渡の合意がされなかったということにはならない。仮に、控訴人が本件契約により控訴人プログラムAの著作権の譲渡を受けなかったとすると、控訴人は、以降、支援車T型を受注しても、控訴人プログラムAを使用できないという不合理な結果となるが、控訴人プログラムAは控訴人プログラム@を改良したプログラムであること、控訴人プログラムAは汎用性がなく、その著作権を被控訴人マルチデバイスに残す意味はないこと、控訴人と被控訴人マルチデバイスとの力関係からすると、双方とも、控訴人プログラムAの著作権を被控訴人マルチデバイスに残すことを前提とした交渉をすることは考えられない。
 したがって、控訴人は、控訴人プログラムAの著作権を有しており、仮に、控訴人プログラムAが控訴人プログラム@の翻案物であるといえないとしても、控訴人プログラムAの著作権に基づき権利行使をすることができる。」
(16) 原判決17頁9行目の「(イ)」を「(ウ)」に改め、10行目及び12行目の各「又は消防庁」を削り、18頁11行目の「考えられない。」の次に、次のとおり加える。
 「被控訴人マルチデバイス代表者及び控訴人代表者は、平成23年1月下旬に、乙ロ6書面を基に本件契約の報酬額について協議をしたが、同協議においては、追加報酬は発生しないことを協議しただけであり、著作権譲渡の話は一切出なかった。甲77書面の「ハード・ソフト」という記載は、被控訴人マルチデバイスが製作し納品した制御盤関係(ハード)及び支援車T型を作動させるプログラム(ソフト)に納品後に追加修理等の作業が発生しても追加料金は発生しないという意味である。」
(17) 原判決18頁14行目の「その後」から15行目末尾までを「その後、控訴人から第一実業へ、第一実業から消防庁へそれぞれ移転したものである。」と改める。
(18) 原判決20頁16行目から17行目にかけての「株式会社キーエンス」の次に「(以下「キーエンス」という。)」を加え、24行目の「株式会社」を削る。
(19) 原判決21頁26行目の冒頭から22頁1行目の末尾までを次のとおり改める。
 「(ア)言語の著作物に求められる創作性の程度は低いところ、控訴人説明書は40頁にも及ぶ膨大なものであり、また、それぞれの機能について表題を付けて整理している点、それぞれ数行程度の簡略な文章で説明している点及び一定の箇所の文字部分を四角く囲って目立たせている点などに工夫があるから、控訴人説明書に創作性が認められる。
 また、控訴人説明書は、以下のとおり、その構成及び文字部分において、他社作成の支援車T型の取扱説明書の記載(甲90)と大きく異なっており、表現の幅が狭いわけではないことが分かる。
a 構成について
(a) 控訴人説明書の表紙の構成は、支援車T型を斜めに撮影した写真を中央に配置し、その上に「支援車T型」及び「取扱説明書」の各文字を段落を分けて大きく記載し、一番下に会社名及び会社ロゴを記載するというものであるが、他社の取扱説明書では、写真を掲載せず、「仙台消防局殿向け」、「支援車T型取扱説明書」、「平成23年度」及び「日本機械工業株式会社」という最低限の文字情報だけを記載したシンプルな構成となっている。
(b) 控訴人説明書における説明の順番は、他社の取扱説明書の説明の順番と異なっている。
(c) 控訴人説明書では、装備等の各部に番号を振った上で、番号に対応した名を列挙した表を掲載しているが、他社の取扱説明書では、表を用いずに、各部の近くに名称を記載し、同記載と各部とを矢印で繋いでいる。
(d) 控訴人説明書では、鍵の写真を1個ごとに分けて掲載し、その隣に同鍵の名称を記載しているのに対し、他社の取扱説明書では、各鍵にその名称を記載したタグを付け、それらの鍵をまとめて撮影した写真を掲載している。
(e) 控訴人説明書では、電気関係について、配電盤に基づき各スイッチ等の役割という形で説明しているが、他社の取扱説明書では、配電盤の説明においては各部の名称程度しか記載していない。
(f) 控訴人説明書では、多くの頁において、文字説明は写真の有無にかかわらず中央より右側に配置しているが、他社の取扱説明書では、写真がない部分では、文字説明を左側に詰めている、
(g) 各所のスイッチについて、控訴人説明書は、左側に写真1枚、右側に文字説明という形で説明し、各スイッチの場所については文字のみで説明しているのに対し、他社の取扱説明書では、写真を横に2枚並べるなどし、各スイッチの場所について図で説明している
(h) 冷蔵庫について、控訴人説明書では、同説明書内で説明しているが、他社の取扱説明書では、同説明書内では説明しておらず、別途説明書を用意している。
(i) リヤシートの説明について、控訴人説明書では3枚の写真で簡潔に説明しているのに対し、他社の取扱説明書では、多くの写真を使用するのみならず、文字説明と写真を番号で紐づけて分かりやすく説明している。
(j) エントランスドアのステップについて、控訴人説明書では、左側に写真を配置し、写真と文字部分の説明を対応させ、ステップの作動条件について表でまとめているが、他社の取扱説明書では、ステップの位置を支援車T型の図で説明し、写真と文字部分を対応させず、ステップの作動条件をまとめることもしていない。
(k) 拡幅操作について、控訴人説明書では、別途説明書を用意しているが、他社の取扱説明書では、同説明書内で説明している。
b 文字説明について
(a) インバーターについて、控訴人説明書では、「〔ON〕にするとDC12Vサブバッテリー電源からAC100Vに変換し供給することができます。」と、「供給」という電力側の事情から表現されているが、他社の取扱説明書では、「DC24V電源をAC100V電源に変換します。走行中にAC100V機器を使用できるようになります。」と2文に分けて、「走行中に」、「使用できる」というユーザー側の事情から表現されている。
(b) 控訴人説明書では、「インバーターのAC出力は、拡幅ボディ右壁2箇所のインバーター専用コンセントと液晶テレビ、電子レンジ、トイレユニット、水中ポンプに供給されます。インバーター専用コンセントを除く電力は、発電機を運転すると自動的に発電機からの供給に切り換わります。」と表現されているが、他社の取扱説明書では、「1台のインバーターで、拡幅または居室内一部の100V機器、コンセントを使用できるようにしています。各使用時に、切替えスイッチで切替え使用します。」、「インバーターで使用できるAC100V機器は、『テレビ』『冷蔵庫』『トイレ』が使用出来ます。」と表現されており、両者では、「供給」という電力側の事情から表現するのか、「使用できる」というユーザー側の事情から表現するのかなどが異なる。
(c) DCメインスイッチについて、控訴人説明書では、「エンジンキー“ACC”又はDCメインスイッチONでメインバッテリーの電源が供給されます。」と表現されているが、他社の取扱説明書では、「DC24V電源を使用する場合は、配電盤のブレーカースイッチ『DCメイン』をONにし、サイドドア内右手『DCメイン』スイッチをONにして使用して下さい。」と表現されており、両者では、「供給」という電力側の事情から表現するのか、「使用できる」というユーザー側の事情から表現するのかで異なっている。」
(20) 原判決22頁6行目の「情報」の次に「及び余白」を加え、19行目の「項目立てとその順番」を次のとおり改める。
 「項目を設けた点、項目立てについて、大項目と小項目を設けるという方法を採用せずに、すべての項目を並列させた点及び項目立ての順番」
(21) 原判決22頁23行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
 「(ウ)控訴人説明書は、言語で支援車T型の使用方法を説明するものであるという側面からすると言語の著作物であり、写真を用いているという側面からすると写真の著作物であり、各部の説明をどのように一冊の説明書にまとめるかという側面からすると編集著作物であり得る。
 控訴人説明書の創作性は、これらの要素を持つ複合的なものとして、その表現の幅がどれだけ存在するのかという観点からされなければならず、控訴人説明書が創作性を有することは明かである。」
(22) 原判決23頁2行目末尾の次に、「また、控訴人は、控訴人説明書の著作権を第一実業へ譲渡していない。」を加え、24頁14行目の「第一」から15行目末尾までを「控訴人から第一実業へ、第一実業から消防庁へ、それぞれ移転している。」と改める。
(23) 原判決24頁26行目の「株式会社アクト」の次に「(以下「アクト」という。)」を加える。
(24) 原判決25頁1行目末尾の次に、行を改めて「 また、控訴人は、控訴人警告シールの著作権を第一実業へ譲渡していない。」を加え、16行目の「株式会社」を削る。
(25) 原判決25頁17行目の「また、」から18行目の末尾までを、行を改めた上で次のとおり改める。
 「また、仮に、控訴人警告シールが著作物に当たり、その著作者が控訴人であるとしても、控訴人は、黙示的に控訴人警告シールの著作権を第一実業に譲渡してるはずである。すなわち、消防庁としては、一般入札で支援車T型の追加発注をする場合、既存のものと類似する支援車T型を製造することを望んでいるところ、その場合、権利関係についての無用のトラブルを避けるため、支援車T型に関する著作権その他の知的財産権をすべて消防庁に帰属させているはずであるから、控訴人警告シールの著作権も、控訴人から第一実業へ、第一実業から消防庁へと移転しているはずである。」
(26) 原判決25頁20行目末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「エ 仮に、控訴人警告シールに著作物性が認められ、その著作権者が控訴人であるとしても、被控訴人トノックスは、控訴人警告シールの著作者はアクトであると認識しており、被控訴人トノックスが控訴人警告シールを使用したことについて過失はない。なお、被控訴人トノックスは、アクトから控訴人警告シールが掲載されているデザイン一覧表を提示されたところ、同一覧表の下部に控訴人の名称が記載されていたが、同一覧表には、作成者としてアクトのBの名前が記載されており、かつ、同一覧表の提示を受けるに当たって、アクトから権利関係等について何らの指摘もなかったから、被控訴人トノックスとしては、控訴人に控訴人警告シールの著作権が帰属するとは思わないのが通常であり、この点について控訴人に確認する義務はない。」
(27) 原判決26頁12行目の末尾の次に、「被控訴人トノックスに著作権侵害の故意、過失がないことは、前記(5)イ、(6)、(7)ウ及び(9)エの被控訴人トノックスの主張のとおりである。」を加える。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本件各請求は、被控訴人トノックスに対し、控訴人警告シールの著作権侵害の不法行為に基づき12万7000円及びこれに対する平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、「代表者本人」をすべて「代表者」と改めるとともに、次のとおり補正するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第3 裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決32頁9行目から10行目にかけての「及びFRP縞板のサンプル」を削る。
(2) 原判決32頁18行目の「なお、」から19行目の「受領していなかった。」までを次のとおり改める。
 「この依頼はメールによって行われたが、同メールは、控訴人代表者及び第一実業の担当者に宛てたものであり、文中には「今回業務のお見積書、お待ちしております。」との文言があり、同メールを送付した時点では、被控訴人トノックスは後記クの見積書の交付を受けておらず、また、控訴人代表者もそのことを認識していた。」
(3) 原判決33頁16行目の「(甲13。以下「販売用部品一覧」という。)」の次に「及びFRP縞板のサンプル」を加え、17行目の「甲78」を「甲76、乙イ14」に改める。
(4) 原判決33頁23行目の「求めた。」を次のとおり改める。
 「求める旨の書面を送付した(なお、同書面には、返還や廃棄を求める資料として、キャブチルト等に関する図面(甲16の2)の記載はない。)。」
(5) 原判決34頁19行目の「した」の次に「ところ、上記不具合に係る被控訴人車両の問題点は解消された」を加える。
(6) 原判決35頁2行目の「支援車T型」を「被控訴人車両」に改め、9行目の末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「この点、控訴人は、被控訴人トノックスが消防庁に納品した被控訴人車両に、走行中又は停車中に拡幅部分が10〜30センチメートル張り出すという不具合が生じたことを理由として、被控訴人には、支援車T型を製造する能力がなかった旨主張する。
 しかし、被控訴人トノックスは、納期までに被控訴人車両を納入したこと、上記不具合に係る被控訴人車両の問題点については、被控訴人トノックスがロック機能を追加することにより解消されたことは上記のとおりであり、同事実を考慮すると、上記の不具合が発生したことから直ちに被控訴人トノックスが支援車T型を製造する能力がなかったということはできず、控訴人の上記主張は理由がない。
 また、控訴人は、支援車T型を製造した場合の利益額は2500万円余りであるところ、このような利益額となったのは、控訴人には支援車T型の製造ノウハウの蓄積があるため、初期投資等の経費を抑えられたからであると主張する。
 しかし、被控訴人の主張する上記ノウハウによって経費がどの程度削減されるのかについては、これを認めるに足りる証拠はない。そして、控訴人は、22年入札の際の支援車T型1台当たりの売上高は(省略)円であり、そのうちの変動経費は(省略)円である旨主張するところ、支援車T型1台当たりの上記変動経費の額からすると、控訴人の上記主張を考慮しても、1台当たり5750万円という被控訴人トノックスの入札価格が不当に安価であると認めることはできない。
(7) 原判決35頁18行目の冒頭に「ア」を加え、36頁4行目の「受注金額が決まっていないこと」を「被控訴人トノックスは上記製造委託に係る見積書を受領しておらず、そのことを控訴人代表者は認識していたのであるから、受注金額も決まっていないこと」に改める。
(8) 原判決36頁21行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
 「イ また、前記1のとおり、最大安定傾斜角度計算書等は日野自動車製のシャーシを前提としているのに対し、被控訴人車両はいすず製のシャーシであるから、被控訴人車両が35度の最大傾斜角度を達成するのに、最大安定傾斜角度計算書等が利用できるかは判然としないこと、控訴人も、被控訴人車両における各荷重物の重量及び配置の状況と最大安定傾斜角度計算書等の内容とを比較検討した上で上記の主張をしているわけではなく、控訴人から、被控訴人車両が最大安定傾斜角度計算書等を利用して製造されたことを示す客観的な証拠は提出されていないことからすると、被控訴人トノックスが、被控訴人車両を製造するに当たり、最大安定傾斜角度計算書等を利用したと認めることはできない。
ウ そして、以上の認定は、最大安定傾斜角度計算書等について原審において営業秘密に当たるとして閲覧等の制限が認められているからといって左右されるものではない。」
(9) 原判決37頁22行目の「コーションラベル」を「コーションラベルの文言」に、39頁4行目の「利益に保護された」を「に保護された」に、それぞれ改める。
(10) 原判決40頁9行目の「それら行為」から10行目の「認められない。」までを次のとおり改める。
 「これらの行為を一連の行為としてみても、さらに、これらの行為に被控訴人トノックスが控訴人の従業員を引き抜いた旨の控訴人の指摘を考慮しても、これらの行為が自由競争の範囲を逸脱したものということはできず、したがって、上記行為が不法行為を構成するものと認めることはできない。」
(11) 原判決41頁17行目から18行目にかけての「株式会社キーエンス(以下「キーエンス」という。)」を「キーエンス」に改め、42頁12行目冒頭から43頁8行目末尾までを次のとおり改める。
 「オ 控訴人プログラム@は、ワーニングモニターパネルに係るモジュール(ウォーニング回路1)、拡幅操作に係るモジュール(拡幅)、リモコンオンリーモードに係るモジュール(リモコンオンリー)、リモコンモードに係るモジュール(リモコンモード)、タッチパネルモードに係るモジュール(タッチパネルモード)、メンテナンスモードに係るモジュール(メンテナンスモード)の六つのモジュールから構成されているところ、拡幅操作部分のうち、リモコンオンリーモード、リモコンモード、タッチパネルモード及びメンテナンスモード部分は、それぞれ別個のモジュールとして分割されている。そして、リモコンオンリーモジュールは、拡幅操作部分のモジュールのブロックY06によって開始し、ブロックY07によって停止し、リモコンモード、タッチパネルモード及びメンテナンスモードの各モジュールは、ブロックY09によって開始し、ブロックY11によって停止する。
 なお、控訴人19年車両の拡幅操作には、タッチパネルを起動した上でリモコンにより操作するリモコンモード、タッチパネルで操作するタッチパネルモード及び設定の調整や修理を行う場合に操作されるメンテナンスモードのほか、タッチパネルが故障したときにリモコンで操作をするリモコンオンリーモードの四つのモードがある(甲44、弁論の全趣旨)。」
(12) 原判決43頁9行目冒頭から46頁1行目末尾までを次のとおり改める。
 「(3)ア 著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには、作成者の何らかの個性が表れている必要があり、表現方法がありふれている場合など、作成者の個性が何ら表れていない場合は、「創作的に表現したもの」ということはできないと解するのが相当である。
 ラダー図は、電機の配線図を模式化したシーケンス図をさらに模式化したものであるから、ラダー図は配線図に対応し、配線図が決まれば、ラダー図の内容も決まることとなり(乙ロ1)、したがって、その表現方法の制約は大きい。ラダー図においては、接点等の順番やリレー回路の使用の仕方を変更することにより、理論的には、同一の内容のものを無数の方法により表現できるが、作成者自身にとってその内容を把握しやすいものとし、また、作成者以外の者もその内容を容易に把握できるようにするには、ラダー図全体を簡潔なものとし、また、接点等の順番やリレー回路の使用方法について一定の規則性を持たせる必要があり、実際のラダー図の作成においては、ラダー図がいたずらに冗長なものとならないようにし、また、接点等の順番やリレー回路の使用方法も規則性を持たせているのが通常である(乙ロ1、3)。
イ 控訴人プログラム@は、控訴人19年車両の車両制御を行うためのラダー図であるが、共通ブロックの各ブロックは、いずれも、各接点や回路等の記号を規則に従って使用して、当該命令に係る条件と出力とを簡潔に記載しているものであり、また、接点の順番やリレー回路の使用方法も一般的なものであると考えられる。
 すなわち、例えば、ブロックY09は、リモコンモード、タッチパネルモード及びメンテナンスモードという三つのモードのモジュールを開始する条件を規定したブロックであるところ、同ブロックでは、一つのスイッチに上記三つのモードが対応し、モードごとの動作を実行するため、上記各モードに応じて二つの接点からなるAND回路を設け、スイッチに係るa接点と各AND回路をAND回路で接続しているが、このような回路の描き方は一般的であると考えられる。また、同ブロックでは、上段にリモコンモード、中段にタッチパネルモード、下段にメンテナンスモードを記載しているが、控訴人プログラム@の他のブロック(Y11、Y23、Y24、Y25、Y26)の記載から明らかなように、控訴人プログラム@では、リモコンモード(RM)、タッチパネルモード(TP)、メンテナンスモード(MM)の順番で記載されている(なお、これらにリモコンオンリーモード(RO)が加わる場合は、同モードが一番先に記載される。)から、ブロックY09においても、それらの順番と同じ順番にしたものであり、また、メンテナンスモードを最後に配置した点も、同モードがメンテナンス時に使用される特殊なモードであることを考慮すると、一般的なものであると評価できる。さらに、「これだけ!シーケンス制御」との題名の書籍に、「動作条件は一番左側」と記載されている(乙ロ3)ように、ラダー図においては、通常、動作条件となる接点は左側に記載されるものと認められるところ、ブロックY09の上記各段の左側の接点は、各モードを開始するための接点であり、同接点がONとなることを動作条件とするものであるから、通常、上記左側の各接点は左側に記載され、これと右側の接点とを入れ替えるということはしないというべきであり、したがって、上記各段における接点の順番も一般的なものである。したがって、同ブロックの表現方法に作成者の個性が表れているということはできない。
 また、ブロックY17は、拡幅待機中であることを規定するブロックであるところ、拡幅待機中をONにする条件として、10個のb接点をすべてAND回路で接続しているが、上記条件を表現する回路として、関係する接点を全てAND回路で接続することは一般的なものであると考えられる。また、上記各接点の順番も、リモコンオンリーモード、リモコンモード、タッチパネルモード及びメンテナンスモードの順番にし、各モードごとに開の動作条件と閉の動作条件の順番としたものであるところ、前記のとおり、上記各モードの順番は、他のブロックの順番と同じにしたものであり、開の動作条件と閉の動作条件の順番も一般的なものである。したがって、同ブロックの表現方法に作成者の個性が表れているということはできない。
 さらに、ブロックY25は、ポップアップフロアを上昇させる動作を実行するためのブロックであるが、拡幅フロアの上昇又は下降に関しては、拡幅フロア上昇に関する接点及び拡幅フロア下降に関する接点がそれぞれ四つずつ存在するという状況下において、同ブロックでは、拡幅フロア上昇に関する接点をa接点、拡幅フロア下降に関する接点をb接点とした上で、四つのa接点及び四つのb接点をそれぞれOR回路とし、これら二つのOR回路をAND回路で接続している。拡幅フロアの上昇と下降という相反する動作に関する接点が存在する場合において、目的とする動作のスイッチが入り、目的に反する動作のスイッチが入っていないときに、目的とする動作が実行されるために、目的とする動作の接点をa接点、これと反する動作の接点をb接点としてAND回路で接続し、命令をONとする回路で表現することは、a接点及びb接点の役割に照らすと、ありふれたものといえる。また、同一の動作に関する接点が複数あり、目的とする動作の接点であるa接点のいずれかがONとなったときに目的とする動作が実行されるようにするため、それらの接点をOR回路で表現することもありふれたものといえる。さらに、OR回路で接続された四つの段においては、リモコンオンリーモード、リモコンモード、タッチパネルモード及びメンテナンスモードの順番としているが、前記のとおり、この順番は、他のブロックの順番と同じにしたものである。ブロックY26は、ポップアップフロアを下降させる動作を実行するためのブロックであり、上記のブロックY25で述べたのと同様のことをいうことができる。加えて、ブロックY25及びブロックY26のAND回路で接続された各二つの列においては、上昇又は下降のa接点、下降又は上昇のb接点の順番としているが、前記のとおり、ラダー図においては動作条件となる接点は左側に記載されるところ、ブロックY25及びブロックY26の各1列目は、「拡幅フロア上昇」又は「拡幅フロア下降」の動作条件となる接点であると認められるから、通常、同ブロックのとおりの順番で接続され、1列目と2列目を入れ替えるということはしないものということができる。したがって、これらのブロックの表現方法に作成者の個性が表れているということはできない。
ウ 控訴人プログラム@のモジュール分割の方法も、以下のとおり、ありふれたものであり、創作性を認めることはできない。
 すなわち、控訴人プログラム@は、前記(2)のとおり、ワーニングモニターパネルに係るモジュール(ウォーニング回路1)、拡幅操作に係るモジュール(拡幅)、リモコンオンリーモードに係るモジュール(リモコンオンリー)、リモコンモードに係るモジュール(リモコンモード)、タッチパネルモードに係るモジュール(タッチパネルモード)、メンテナンスモードに係るモジュール(メンテナンスモード)の六つのモジュールから構成されている。
 控訴人プログラム@は、ワーニングモニターパネル及び拡幅操作を制御するためのプログラムであるところ、ワーニングモニターパネルと拡幅操作とは、機能や利用場面が大きく異なることから、これらを別のモジュールとすることは一般的なモジュール分割といえる。また、前記(2)のとおり、控訴人19年車両の拡幅操作には、タッチパネルを起動した上でリモコンにより操作するリモコンモード、タッチパネルで操作するタッチパネルモード及び設定の調整や修理を行う場合に操作されるメンテナンスモードのほか、タッチパネルが故障したときにリモコンで操作をするリモコンオンリーモードの四つのモードがあるところ、上記各モードに係るプログラムの量は相当のものとなるため、これらを拡幅操作のモジュールから独立させて別のモジュールとすることにより、拡幅操作の全体の流れを理解し易くなるという利点があることから、上記各モードについて拡幅操作のモジュールから独立させることは一般的に行われることであるといえる。また、上記各モジュールの内容からすれば、上記各モジュールを更に分割する必要性もうかがえない。
 したがって、控訴人プログラム@のモジュール分割の方法もありふれたものであり、この点に作成者の個性が表れているということはできない。
エ(ア) これに対し、控訴人は、ラダープログラムの設計の自由度は高く、OR回路で接続された回路の各接点の上下の順番やAND回路で接続された回路の各接点の左右の順番を変えた場合の選択肢の多さを考慮すると、控訴人プログラム@の表現方法の選択の幅は天文学的な数字となる旨主張する。
 しかし、ラダー図の作成に当たっては、OR回路で接続された回路の各接点の上下の順番やAND回路で接続された回路の各接点の左右の順番は、一定の規則性を持つことになるから、実際に控訴人プログラム@を作成するに当たっては、上記の順番の選択は相当程度限定されることは前記アのとおりであって、控訴人が主張するような選択の幅はない。
 控訴人は、ブロックY09について、@OR回路で接続された各モードの3段の回路の順番を入れ替えることにより6通り(3!)の表現方法が、A上記各段の左右を入れ替えることにより8通り(2×2×2)の表現方法があり、これらの組合せにより合計48通りの表現方法がある旨主張するが、上記@については、上記3段の回路の順番は他のブロックにおける順番と一致させたものであり、通常、これらを入れ替えることはしないことは前記イのとおりであり、また、上記Aについては、上記各段における各接点の順番は通常採用される順番であり、通常、これらを入れ替えることはしないことは前記イのとおりであるから、ブロックY09について、控訴人が主張するような表現方法の選択の幅はないというべきである。
 また、控訴人は、ブロックY25及びブロックY26について、それぞれ、@1列目の各段の順番を入れ替えることにより24通り(4!)の表現方法が、A2列目の各段の順番を入れ替えることにより24通り(4!)の表現方法が、B1列目と2列目の順番を入れ替えることにより2通りの表現方法があり、Cそれらの組み合わせにより各1152通り(4!×4!×2)の表現方法がある旨主張するが、上記@、A及びBの点については、前記イのとおり、他のブロックの順番と一致させたものであるか、通常、これらの順番のとおりに記載されるものであり、これらの順番を入れ替えることはしないこと、上記Cの点については、1列目と2列目はセットとなっている(例えば、リモコンオンリーモードの「拡幅フロア上昇」のa接点とAND回路で接続するのは同じリモコンオンリーモードの「拡幅フロア下降」のb接点となり、リモコンオンリーモード以外のモードの「拡幅フロア下降」のb接点と接続することはない。)から、それらを入れ替えることは考え難いことを考慮すると、ブロックY25及びブロックY26について、控訴人が主張するような表現方法の選択の幅はないというべきである。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
(イ)また、控訴人は、リレー回路を使用すれば、表現方法の選択の幅が広がる旨主張し、その例として原判決別紙10のラダー図変形例記載1、2の各ラダー図を示す。
 しかし、リレー回路は、同一のリレー接点を複数回使用するときに使用する意味があり、実際にも、その場面で使用するのが一般的である(乙ロ1)から、控訴人の例示する上記の各ラダー図におけるリレー回路のようにリレー接点を1回しか使用しない場合に、リレー回路を使用することは一般的でないというべきである。
 また、仮に、上記例示のようにリレー回路を使用するのであれば、通常、他のブロック(例えば、ブロックY23、ブロックY24、ブロックY26)においても同様の方法によりリレー回路を使用することになり、各ブロックの組合せが多数のものとなるということにはならないから、リレー回路を使用することにより表現方法の選択の幅が広がるとしてもその範囲は限定的である。
 さらに、そもそも、ラダー図の作成に当たっては、リレー回路を使用した結果、全体の流れの把握が困難となったり、また、冗長なものとなったりすることを避けるのが通常であるから、一般的な方法によりリレー回路を使用すれば、リレー回路の使用によって表現方法の選択の幅が大きく広がるということはない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ) 控訴人は、モジュール分割の方法の選択の幅について、リモコンオンリーモードとリモコンモードを同一のモジュールとすることも考えられる旨主張するが、リモコンオンリーモードは、タッチパネルが故障した非常時に使用されるのであるから、タッチパネルが作動している際に使用されるリモコンモードと同一のモジュールとすることは考え難いというべきである。
 また、控訴人は、タッチパネルモードのモジュールをタッチパネル操作の内容に応じてさらにモジュール分割することも考えられる旨主張するが、控訴人プログラム@のタッチパネルモードは、拡幅操作のうちのタッチパネルモードについてのプログラムであり、拡幅操作以外のタッチパネルモードは存在しない以上、控訴人プログラム@のタッチパネルモードモジュールに、それ以外のものを組み込むことはできないし、また、タッチパネルモードのモジュールの内容からすれば、これをさらに分割するということも考え難いというべきである。
 したがって、モジュール分割の方法の選択の幅についての控訴人の上記主張は理由がない。
オ このように、共通ブロックの各ブロックの表現方法はありふれたものであり、創作性を認めることはできず、共通ブロックを全体として見ても、創作性を認めることはできないというべきである。
 なお、控訴人プログラム@の拡幅操作部分のうち共通ブロック以外のプログラム部分は、被控訴人プログラムと異なる回路構成であるから、上記の共通ブロック以外のプログラムの著作物性について判断するまでもなく、同部分の著作権に基づく請求は認められない。
(4) 以上のとおり、控訴人プログラム@の拡幅操作部分には創作性は認められず、また、控訴人プログラム@のモジュール分割の方法にも創作性は認められない。
 そして、控訴人プログラム@のその他の部分の創作性については、控訴人から何らの指摘もないところ、証拠(甲41)上、創作性を認めるに足りる部分の存在もうかがえないから、同部分についても創作性を認めることはできない。
 したがって、控訴人プログラム@の著作物性は認められないから、控訴人プログラム@の著作権侵害は認められない。」
(13) 原判決46頁3行目冒頭から48頁23行目末尾までを次のとおり改める。
 「(1)控訴人は、控訴人プログラムAは控訴人プログラム@の翻案物であるから、控訴人プログラム@の著作権者である控訴人は、控訴人プログラムAについて、原著作者としての権利を有する旨主張する。
 しかし、前記6で判示したとおり、そもそも、控訴人プログラム@には著作物性が認められないのであるから、控訴人が控訴人プログラム@の著作権を有しているということはできず、したがって、控訴人が控訴人プログラムAについて原著作者としての権利を有しているということもできない。
 よって、控訴人の上記主張は理由がない。
(2) 次に、控訴人プログラムAの著作物性について検討する。
ア 控訴人プログラムAは、控訴人車両の車両制御をするためのラダー図であり、「ワーニング回路1」、「拡幅操作」、「リモコンオンリー」、「リモコンモード」、「タッチパネルモード」、「メンテナンスモード」、「画面制御」、「ジャッキ操作」、「パネル表示制御」及び「警告制御」の10個のモジュールから構成されている(甲42)。
 上記の「ワーニング回路1」、「拡幅操作」、「リモコンオンリー」、「リモコンモード」、「タッチパネルモード」及び「メンテナンスモード」の各モジュールには、控訴人プログラム@と一致している部分があり、この部分については創作性が認められないことは前記6(3)のとおりである。また、その余の部分についても、その創作性について控訴人から何ら指摘がなく、また、同部分から創作性を認めるに足りる部分の存在はうかがえないから、これらの部分についても創作性を認めることはできない。
イ 前記6(3)のとおり、ラダー図の表現方法は相当限定されているところ、控訴人プログラムAの画面制御部分のうち、被控訴人プログラムと共通する部分のブロックは、いずれも、各接点や回路等の記号を規則に従って使用して、当該命令に係る条件と出力とを簡潔に記載し、また、接点の順番やリレー回路の使用方法も一般的なものであり、作成者の何らかの個性が表れているとは認められない。
 また、上記各ブロックを一体として見ても、作成者の何らかの個性が表れているとは認められない。
 なお、控訴人プログラムAの画面制御部分のうち、被控訴人プログラムと共通する部分以外の部分は、被控訴人プログラムと異なる回路構成であるから、同部分の著作物性について判断するまでもなく、同部分の著作権に基づく請求は認められない。
 また、控訴人プログラムAのうち「ジャッキ操作」、「パネル表示制御」及び「警告制御」の各モジュール部分の創作性については、控訴人から何らの指摘もないところ、証拠(甲42)上、創作性を認めるに足る部分の存在もうかがえないから、同部分についても創作性を認めることはできない。
ウ また、モジュール分割の創作性については、「ワーニング回路1」、「拡幅操作」、「リモコンオンリー」、「リモコンモード」、「タッチパネルモード」及び「メンテナンスモード」の各モジュールの分割方法に創作性がないことは前記6(3)で判示したとおりである。
 そして、「画面制御」、「ジャッキ操作」、「パネル表示制御」及び「警告制御」の各モジュールの分割についても、各モジュールの操作内容やモジュール内のプログラムの量を考慮すると、上記のように分割するのは一般的であり、そのほか、本件において、上記分割に創作性があることをうかがわせる事情は存在しない。
 したがって、モジュール分割の方法についても創作性は認められない。
エ この点、控訴人は、控訴人プログラムAの画面制御部分の表現の選択の幅が天文学的数字になることについて主張するが、前記6(3)で判示したところと同様の理由により、控訴人の主張するような選択の幅は認められない。
 例えば、控訴人は、ブロックM05については、OR回路で接続された四つの接点の順番を入れ替えることにより24通り(4!)の表現方法があり、AND回路で接続された四つの接点の順番を入れ替えることによる24通り(4!)の表現方法があり、これらの組合せにより合計576通りの表現方法となる旨主張するが、OR回路で接続された各接点は、「#50」(50頁を意味する。)の接点、「#52」(52頁を意味する。)の接点、「#55」(55頁を意味する。)の接点の順番に並べられており、最後に「54項 管理者表示」の特殊な接点が配置されているから、通常、これらを入れ替えることはしないこと、AND回路で接続された接点についても、前記6(3)のとおり、動作条件となる接点が一番左側に配置される以上、同ブロックの1列目の接点を移動させることはしないことから、控訴人の主張するような表現方法の選択の幅はないというべきである。
 また、控訴人は、ブロックM46について、リレー回路を使用すれば、表現方法の選択の幅が広がる旨主張するが、前記6(3)エ(イ)で判示したところからすると、同ブロックにおいてリレー回路を使用するのは一般的ではないから、控訴人の上記主張は理由がない。
(3) 仮に、控訴人プログラムAに著作物性が認められた場合、控訴人が被控訴人マルチデバイスから控訴人プログラムAの著作権の譲渡を受けたといえるかについて、以下、検討する。
ア 証拠(甲75、77、乙ロ6、控訴人代表者【原審】、被控訴人マルチデバイス代表者【原審】)及び弁論の全趣旨によると、以下の各事実が認められる。
(ア) 控訴人は、平成19年3月頃、控訴人19年車両を製造し、神奈川県相模原市消防局に納入したが、同車両の製造に当たって、控訴人の従業員Aは、同車両の制御プログラムとして控訴人プログラム@を作成した。
(イ) 控訴人は、平成22年4月頃、控訴人車両の製造に当たり、被控訴人マルチデバイスとの間で、控訴人車両の車両制御プログラムの作成を含む電機部門の作業一切に関する業務を委託する契約(本件契約)を締結し、被控訴人マルチデバイスは、本件契約に基づき、控訴人プログラム@を参考にして控訴人プログラムAを作成し、これを控訴人に納入した。
 控訴人及び被控訴人マルチデバイスは、本件契約の契約書は作成せず、また、本件契約に係る業務から何らかの著作権が発生した場合の処理についての契約書も作成しなかった。
(ウ) 被控訴人マルチデバイスは、平成23年1月中旬頃、本件契約の請求書である乙ロ6書面を作成し、これを控訴人に送付した。
 乙ロ6書面には、「人件費及び交通費(1934.5人分)2010/6−2011/2 残業、休出含む」として「2380万5900円」、「仕入れ部材」として「315万7450円」、「経費(電気、水道、燃料、灯油)」として「267万5750円」、「会社利益(社長報酬)含む」として「1800万円」、合計「4763万9100円」の記載がある。
(エ) 控訴人代表者と被控訴人マルチデバイス代表者は、同月下旬頃、被控訴人マルチデバイスの作成した乙ロ6書面を基に、本件契約において控訴人が支払うべき金額を確定するための協議をした。同協議の結果、上記金額は、乙ロ6書面に記載した額が上限であり、追加の金銭負担は生じないことが確認され、控訴人代表者は、乙ロ6書面に、手書きで、「出張旅費」、「クレーム部品」、「クレーム外注費」、「ハード・ソフト」、「トラブルシューティング」と記載し、その書面(甲77書面)をコピーして控訴人及び被控訴人マルチデバイス双方が一部ずつ保管することにした。
イ(ア) 前記アのとおり、控訴人と被控訴人との間で、本件契約に係る業務から著作権が発生した場合の処理についての契約書は作成されていない。
 そして、控訴人代表者は、原審での尋問において、本件契約では、著作権が発生するという認識は有していなかったため、被控訴人マルチデバイスとの間で著作権に関する話は出なかった旨供述していることからすると、控訴人代表者は、本件契約に係る業務の遂行において何らかの著作権が発生するとの認識はなかったものと認められ、したがって、控訴人と被控訴人との間で、口頭で、控訴人プログラムAの著作権の譲渡の合意があったと認めることもできない。
(イ) これに対し、控訴人は、甲77書面に「ハード・ソフト」という文言が記載されており、同記載から、控訴人及び被控訴人マルチデバイスの間で、控訴人プログラムAの著作権の譲渡の合意があったことが認められる旨主張する。
 しかし、前記アのとおり、控訴人代表者及び被控訴人マルチデバイス代表者が本件契約に基づき控訴人が支払うべき金額を確定するための協議をした際に、甲77書面が作成されたところ、甲77書面は、費目ごとの金額及びこれらの総額が印刷された書面(乙ロ6書面)の余白に、控訴人代表者が手書きで、乙ロ6書面に記載された費目に挙がっていない事項である「出張旅費」、「クレーム部品」、「クレーム外注費」、「ハード・ソフト」及び「トラブルシューティング」の文字を追記したことからすると、上記手書きの部分を追記したのは、「出張旅費」、「クレーム部品」、「クレーム外注費」、「ハード・ソフト」及び「トラブルシューティング」に係る費用も甲77書面記載の総額に含まれ、追加の金銭負担は生じないことを確認するためであったと認められる。そして、このことに、前記のとおり、控訴人代表者は、本件契約に係る業務の遂行において何らかの著作権が発生するとの認識を有していなかったことを併せ考慮すると、上記の「ソフト」の文言を追記した趣旨は、控訴人において、被控訴人マルチデバイスに対し、控訴人プログラムAに係る費用を、上記総額とは別に支払う必要がないことを確認したに過ぎず、控訴人プログラムAの著作権が控訴人に帰属することまでも確認したものではないというべきである。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ) また、控訴人は、本件契約において、控訴人プログラムAの著作権の譲渡が合意されていないとすれば、本件契約後、控訴人が支援車T型を受注しても、控訴人プログラムAを使用できないという不合理な結果となることなどからすると、被控訴人マルチデバイスのもとに控訴人プログラムAの著作権を残すことを前提とした交渉をすることは考えられないとも主張する。
 しかし、前記のとおり、控訴人代表者は、本件契約に係る業務の遂行において何らかの著作権が発生するとの認識を有していなかったのであるから、控訴人プログラムAの著作権の譲渡の合意をしなかった場合の不利益も認識していなかったことになり、控訴人が主張する他の事情を考慮しても、控訴人代表者が、被控訴人マルチデバイスとの間で、控訴人プログラムAの著作権を譲り受けないことを前提とした交渉をすることは考えられないということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
(エ) よって、仮に、控訴人プログラムAの著作物性が認められたとしても、控訴人は、その著作権を有していない。
(4) 以上より、控訴人プログラムAの著作権に基づく控訴人の請求は理由がない。」
(14) 原判決50頁19行目の「被告トノックス」を「被控訴人マルチデバイス」に改める。
(15) 原判決51頁2行目冒頭から52頁19行目末尾までを次のとおり改める。
 「(1)まず、控訴人説明書の著作物性について検討する。
ア 証拠(甲30)によると、控訴人説明書について以下の事実が認められる。
 控訴人説明書は、控訴人車両の装備及び機器等の操作方法等を解説した取扱説明書であり、説明する装備又は機器として、「鍵の種類」、「ワーニングモニターパネル」、「配電盤」、「外部電源入力」、「発電機」、「バッテリー充電」、「室内各部スイッチ」、「FFヒーター」、「換気扇」、「LPガスシステム」、「給湯器」、「冷蔵庫」、「座席、簡易ベッド、テーブル」、「リヤシート、折り畳みベッド」、「給水口、給水タンク」、「排水タンク、排水用水中ポンプ」、「エントランスドア」、「エントランスステップ」、「外部収納庫」、「シャワー(シャワールーム、アウターシャワー)」、「折畳み指揮台」、「キャブティルト」、「パワーゲート」、「ラップポントイレ」及び「センターコンソールボックス(無線機、サイレンアンプほか)」を選択し、これらにつき、各装備、機器ごとに、上記の順番で説明をしているが、同説明は、概ね、当該装備、機器の写真を掲載した上で、同写真と同一の頁に当該装備、機器の機能、操作方法及び使用上の注意事項等を記載するという方法で説明している。また、上記写真は、説明対象部分を特定するために、その部分を実線又は破線で囲み、矢印を付し、さらに、対象部分とその説明部分に同じ番号を付すなどしている。
イ 以上を前提に検討する。
(ア) 前記6のとおり、著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには、作成者の何らかの個性が表れている必要があり、表現方法がありふれている場合など、作成者の個性が何ら表れていない場合は、「創作的に表現したもの」ということはできないと解するのが相当であるところ、控訴人説明書は、前記アのとおり、控訴人車両の装備、機器の機能や操作方法及び使用上の注意事項を説明したものであるが、証拠(甲30)によると、いずれも、機能及び操作方法や注意事項を、事実に即して簡潔に説明しているものと認められ、その表現方法はありふれたものであり、装備、機器の機能や操作方法が同じであれば、その説明も似たものにならざるを得ないことをも考慮すると、作成者の何らかの個性が表れていると評価することはできない。
 したがって、控訴人説明書に著作物性を認めることはできない。
(イ)a これに対し、控訴人は、控訴人車両の各機能について表題を付けて整理している点、それぞれ数行程度の簡略な文章で説明している点及び一定の箇所の文字部分を四角で囲って目立たせている点などに創作性が認められる旨主張する。
 しかし、説明事項について表題を付けることや、注意喚起をしたい部分を四角で囲うことは、取扱説明書において一般的に採用されている方法であり、この点に創作性が認められるということはできないというべきである。また、説明文を簡略なものとした点については、控訴人説明書のような取扱説明書においては、説明文は簡略なものとする必要があり、簡略な表現としたことから直ちに創作性が認められることにはならないところ、証拠(甲30)によると、控訴人説明書の各説明文は、説明事項を取扱説明書における説明方法として一般的な方法で表現したものであり、その分量も取扱説明書としては通常のものであると認められるから、説明文を簡略化したことによって控訴人説明書に創作性が認められるということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
b また、控訴人は、控訴人説明書のうち、@「〔ON〕にするとDC12Vサブバッテリー電源からAC100Vに変換し供給することができます。」、A「インバーターのAC出力は、拡幅ボディ右壁2箇所のインバーター専用コンセントと液晶テレビ、電子レンジ、トイレユニット、水中ポンプに供給されます。インバーター専用コンセントを除く電力は、発電機を運転すると自動的に発電機からの供給に切り換わります。」、B「エンジンキー“ACC”又はDCメインスイッチONでメインバッテリーの電源が供給されます。」と表現されている部分は、他社が作成した支援車T型についての取扱説明書における表現と異なることから、表現方法の選択の幅は狭くないと主張する。
 しかし、上記の各説明部分は、インバータースイッチの機能(上記@の文について)、インバーターのAC出力の供給先及びインバーター専用コンセント以外の電力は発電機を運転すると自動的に発電機からの供給に切り替わること(上記Aの文について)、エンジンキーをACCの位置にするか、DCメインスイッチをONとすることによりメインバッテリーの電源が供給されること(上記Bの文について)を説明したものであるが、同説明をするための表現方法が上記説明部分の表現に限らないのは当然であり、表現方法が他にあることから直ちに創作性が認められることにはならない。控訴人説明書のような取扱説明書の説明文は、機器等の機能や使用方法等を、事実に即して平易な表現を用いて、簡潔かつ明確なものとする必要があるところ、控訴人説明書の上記各説明部分は、当該機器の実際の機能、使用方法に即して通常の方法で表現したものであり、作成者の何らかの個性が表れているということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
c また、控訴人は、控訴人説明書の構成は他社の取扱説明書と異なる構成となっているから、その表現方法の選択の幅は狭くない旨主張する。
 しかし、控訴人の主張は、控訴人説明書の抽象的構成について主張するにすぎないから、いずれもアイデアに属するものであって、著作権法による保護は及ばないというべきである。
 なお、仮に、控訴人が、上記構成が具体的な表現となった部分についての著作物性を主張するものであるとしても、それらの部分の表現方法は、取扱説明書においては一般的な表現方法であって、ありふれたものであり、著作物性を認めることはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
d なお、控訴人は、控訴人説明書の写真部分に著作物性が認められるかのような主張をするが、同写真に対応する被控訴人説明書の写真が、控訴人説明書の写真を複製又は翻案したものと認めることはできないから、仮に上記写真部分に著作物性が認められたとしても、同写真部分の著作権侵害は認められず、したがって、上記写真部分の著作権侵害の主張は理由がない。
(2) 次に、控訴人説明書が編集著作物に該当するかについて検討する。
ア 編集著作物とは、編集物で、素材の選択又は配列によって創作性を有するものであり(著作権法12条1項)、編集著作物として著作権法の保護を受けるためには、素材の選択、配列に係る具体的な表現形式において、創作性が認められることが必要である。
 前記(1)アのとおり、控訴人説明書は、控訴人車両の装備及び機器等の操作方法等を解説した取扱説明書であるから、説明の対象として控訴人車両の装備、機器を選択することは当然であるところ、証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によると、控訴人説明書で説明されている装備や機器は控訴人車両に搭載された装備、機器であり、取扱説明書による説明が必要なものであると推認できるから、控訴人説明書に掲載した装備、機器の選択の点に作成者の個性が表れているということはできないし、また、その説明の順番にも作成者の個性が表れているということはできない。したがって、これらの点について、素材の選択又は配列に創作性を認めることはできない。
 また、控訴人説明書は、説明対象として選択した装備、機器について、項目立てに階層を設けず、並列的に項目立てをし、それらの項目について順次説明しているが、このような記載方法は一般的なものであるから、この点において素材の配列に創作性を認めることはできない。
イ(ア) これに対し、控訴人は、控訴人説明書では、説明の対象として拡幅操作部分を選択していない点に創作性が認められる旨主張する。
 しかし、証拠(甲30、44、90)及び弁論の全趣旨によると、拡幅操作の説明文は大部となること、他の機器の操作部分とは独立性が強いことが認められるから、拡幅操作の説明を別の説明書で行うことは、利用者の利便性の観点からは、一般的に採用され得るところであり、したがって、この部分を控訴人説明書の説明対象から除いたことに作成者の個性が表れているということはできない。
 よって、控訴人の上記主張は理由がない。
(イ) また、控訴人は、各頁に記載する情報及び余白の量、各説明文における写真と文章の配置に創作性が認められる旨主張するが、前記証拠によると、控訴人説明書の各頁の写真、説明文及び余白の配置は、取扱説明書としてはありふれたものであると認められ、この点に創作性を認めることはできないというべきであり、したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
ウ 以上のとおり、控訴人説明書は編集著作物であると認めることはできない。」
(16) 原判決53頁2行目から3行目にかけての「株式会社アクト(以下「アクト」という。を「アクト」に改め、26行目の「記載」の次に「や、「設計」の欄に「B」の記載」を加える。
(17) 原判決54頁22行目末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。
 「なお、被控訴人トノックスは、控訴人警告シールの著作者が控訴人であったとしても、その著作権は第一実業へ譲渡された旨主張するが、同主張事実を認めるに足りる証拠はない。」
(18) 原判決55頁14行目から15行目にかけての「被告トノックス」から17行目末尾までを次のとおり改める。
 「被控訴人トノックスは、控訴人警告シールが掲載されているデザイン一覧表の下部には、作成者としてアクトのBの名前が掲載されていたこと、アクトからは控訴人警告シールの著作権の権利関係について何らの指摘もなかったことから、被控訴人トノックスには過失はない旨主張するが、上記デザイン一覧表には控訴人の名称が記載されていたのであるから、被控訴人トノックスとしては、権利関係についてアクトに確認すべきことは上記のとおりであり、被控訴人トノックスの主張する上記の点を考慮しても、被控訴人トノックスの過失を否定することはできない。」
2 結論
 以上のとおり、原判決は相当であって、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 佐野信
 裁判官 熊谷大輔
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