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【事件名】“一竹辻が花”事件
【年月日】平成30年6月19日
 東京地裁 平成28年(ワ)第32742号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年1月30日)

判決
原告 A
原告 株式会社一竹工房
上記2名訴訟代理人弁護士 山本隆司
同 植田貴之
同 佐竹希
被告株式会社 FCF
同訴訟代理人弁護士 額田雄一郎
同 山内真之
同 井上乾介
同 原田亮
同 菅野龍太郎


主文
1 被告は、原告Aに対し、別紙「被告配布物目録」1ないし5、7、8、10ないし12記載の各配布物を複製、頒布してはならない。
2 被告は、原告株式会社一竹工房に対し、別紙「被告配布物目録」6及び9記載の各配布物を複製、頒布してはならない。
3 被告は、原告Aに対し、「久保田一竹美術館」と題するホームページ(http://以下省略)の「一竹辻が花染め」(http://以下省略)及び「略歴」(http://以下省略)において、別紙「被告HP目録」記載の各文章を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
4 被告は、原告Aに対し、1555万5154円及びこれに対する平成28年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は、原告株式会社一竹工房に対し、68万8115円及びこれに対する平成28年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
8 この判決は、第4項及び第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項ないし第3項と同旨
2 被告は、原告A(以下「原告A」という。)に対し、2765万4034円及びこれに対する平成28年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告株式会社一竹工房(以下「原告工房」という。)に対し、125万6783円及びこれに対する平成28年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、故久保田一竹(以下「故一竹」という。)が開発した「一竹辻が花」という独自の染色技術を用いた創作着物作品や、その制作工程に関する文章及び写真等について著作権及び著作者人格権を有している(具体的には、原告Aが、後記一竹作品、制作工程写真及び美術館写真の著作権を有するとともに、後記制作工程文章及び旧HPコンテンツの著作権及び著作者人格権を有し、原告工房が、後記工房作品の著作権及び著作者人格権を有する。)ところ、久保田一竹美術館(以下「一竹美術館」という。)を経営する被告が、同美術館において販売している商品等に原告らに無断で上記着物作品等を複製等したことにより、原告らの著作権(複製権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権等)を侵害したと主張して、@原告Aにおいて、被告に対し、著作権法112条1項に基づき、別紙「被告配布物目録」1ないし5、7、8、10ないし12記載の各配布物の複製・頒布の差止め、及び被告のウェブサイトにおける別紙「被告HP目録」記載の各文章の自動公衆送信等の差止めを求めるとともに、民法709条及び著作権法114条1項ないし3項に基づき、損害賠償金2765万4034円及びこれに対する不法行為後である平成28年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、また、A原告工房において、被告に対し、著作権法112条1項に基づき、別紙「被告配布物目録」6及び9記載の各配布物の複製・頒布の差止めを求めるとともに、民法709条及び著作権法114条1項ないし3項に基づき、損害賠償金125万6783円及びこれに対する不法行為後である平成28年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、各項記載の証拠(枝番を記載しない場合はすべての枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1)当事者
ア 原告Aは、故一竹の長男であり、故一竹が開発した「一竹辻が花」という独自の染色技術を用いた創作着物「辻が花染」の制作者として活動している。
イ 原告工房は、故一竹の死後、「一竹辻が花」の染色技術を継承し、「辻が花染」の制作を継続している法人である。
ウ 被告は、山梨県南都留郡富士河口湖町にて、一竹美術館を運営する法人である。
(2)着物作品等
ア 着物作品
(ア)一竹作品
 故一竹は、昭和35年頃から平成15年頃までの間に、「一竹辻が花」という独自の染色技術を用いて、別紙「一竹作品目録」(31、32、40、54、61、62、69を除く)記載の一品制作物の着物作品63点(以下、まとめて「一竹作品」という。)を創作し、その著作権を取得した。
 故一竹は、平成15年4月26日に死亡し、同人の法定相続人は、原告A及び訴外B(以下「訴外B」という。)を含む合計8名であったが、原告A及び訴外B以外の者は相続放棄をした。そして、原告Aは、訴外Bとの遺産分割合意により、故一竹が制作した全ての着物作品(一竹作品を含む。)の著作権を単独で相続した。(甲1ないし4)
(イ)工房作品
 また、故一竹の死後、原告工房の従業員が、別紙「一竹作品目録」31、32、40、54、61、62、69記載の着物作品7点(以下、まとめて「工房作品」という。)を職務上創作したところ、原告工房は、職務上作成する著作物(著作権法15条1項)として、工房作品の著作権及び著作者人格権を有している。(弁論の全趣旨)
イ 制作工程文章
 別紙「制作工程文章目録」記載の一竹作品の制作工程について説明した各文章(以下、同目録記載の番号に応じて「制作工程文章1」などと表記し、まとめて「制作工程文章」という。)は、訴外株式会社一竹辻が花(以下「訴外一竹辻が花」という。)が平成3年に出版した『ヨーロッパ巡回展帰朝記念一竹辻が花展』(以下「欧州巡回作品集」という。)の「一竹辻が花の技法」という頁に掲載され、公表された。(甲5)
ウ 制作工程写真
 別紙「制作工程写真目録」記載の7点の写真を含む一竹作品の制作工程を被写体とする写真12点(以下、同目録記載の写真をその番号に応じて「制作工程写真1」などと表記し、まとめて「制作工程写真」という。)は、欧州巡回作品集の「一竹辻が花の技法」という頁に掲載され、公表された。(甲5)
エ 旧HPコンテンツ
 別紙「旧HPコンテンツ目録」記載の「辻が花染」、「久保田一竹と一竹辻が花染」、「シュヴァリエ章の勲章メッセージ」及び「スミソニアンよりの感謝状」(以下、同目録記載の番号に応じて「旧HPコンテンツ1」などと表記し、まとめて「旧HPコンテンツ」という。)は、平成6年頃、原告工房が当時保有していた一竹美術館のホームページ(http://以下省略)(以下「旧HP」という。)に掲載され、公表された。(甲7)
オ 美術館写真
 別紙「美術館写真目録」記載の一竹美術館新館の全景及び同美術館蜻蛉玉ギャラリーをそれぞれ被写体とする写真2点(以下、まとめて「美術館写真」という。)は、『久保田一竹作品集』(1998年版)(以下「原告作品集」ということがある。)の「新館『久保田一竹コレクションギャラリー』蜻蛉玉ギャラリー」というページに掲載され、公表された。(甲8)
(3)一竹美術館
ア 平成6年、原告工房が主体となって、一竹美術館を設立した。
イ 原告工房は、平成17年までは主力事業である着物製作販売事業の売上が借入を上回っていたが、平成18年に金融機関から借り増しをする一方、着物の売上は減少したため、債務超過となり、平成22年2月には支払停止状態となって、同年3月2日、東京地方裁判所に民事再生申立てを行い、同月8日、同裁判所において再生手続開始決定がされた。(乙2、乙3)
ウ 民事再生手続の開始により、故一竹の作品が個別に売却され、離散することが危惧されたところ、ロシアの富豪であるC(以下「訴外C」という。)が、その知人である訴外D(以下「訴外D」という。)が経営する訴外株式会社ICF(以下「訴外ICF」という。)を通じて、故一竹の作品を一括して取得することを申し出た。これにより、「美術館を展示品の文化財的価値に理解を有する第三者に売却する」という趣旨の再生計画案が策定され、同年10月6日、再生計画が認可された。(乙8、10)
エ 同年9月21日、訴外ICFと原告ら及び原告Aが代表を務める訴外一竹辻が花は、原告工房が所有していた一竹美術館の土地、建物、着物作品等を一括して売却する不動産等売買等契約を締結し、同年11月8日、土地、建物について移転登記手続がされた。(甲32、乙9)
オ 同年10月29日、訴外ICFと原告工房は、上記不動産等売買等契約に付随する合意として、原告工房が一竹美術館の土地、建物、着物作品を1か月間だけ賃借することを主たる内容とする附属合意を締結した。(乙11)
カ 成24年5月29日、訴外ICFは、一竹美術館の土地、建物、着物作品等の所有権を被告に譲渡し、同日、土地、建物について移転登記された。(乙21、甲32)
(4)製作・販売行為等
ア 品集『久保田一竹一竹辻が花』
 被告は、作品集『久保田一竹一竹辻が花』(以下「被告作品集」という。)に、別紙「被告複製目録」の「被告作品集」欄記載のとおり、一竹作品51点及び工房作品4点の合計55点、制作工程文章1ないし7及び9、制作工程写真、旧HPコンテンツ1及び2、並びに美術館写真を複製し(なお、被告は、上記制作工程文章については別紙「原被告作品対比表」1記載のとおり、上記旧HPコンテンツについては別紙「原被告作品対比表」2記載のとおり、それぞれ一部改変している。)、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、日本語版につき販売価格2930円(税込み。以下同じ。)で3359冊、英語版につき販売価格2500円で54冊を販売した。また、日本語版につき674冊、英語版につき38冊を無償配布した。(甲9)
イ 小冊子『ITCHIKUKUBOTAARTMUSEUM』
 被告は、小冊子『ITCHIKUKUBOTAARTMUSEUM』(以下「被告小冊子」という。)に、別紙「被告複製目録」の「被告小冊子」欄記載のとおり、一竹作品合計22点を複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、日本語版につき販売価格500円で3027冊、英語版1につき販売価格500円で1781冊、英語版2につき販売価格400円で425冊を販売した。(甲11)
ウ カレンダー
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告カレンダー」欄記載のとおり、一竹作品11点及び工房作品2点の合計13点をカレンダー(以下「被告カレンダー」という。)に複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、A4カレンダーにつき販売価格1700円で1405個、卓上カレンダーにつき販売価格1820円で228個、ポスターカレンダーにつき販売価格2500円で118個を販売した。(甲12)
エ 絵葉書
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告絵葉書」欄記載のとおり、一竹作品少なくとも1点を絵葉書(以下「被告絵葉書」という。)に複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格1枚120円で6万8781枚を販売した。(甲13)
オ 一筆箋
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告一筆箋」欄記載のとおり、少なくとも一竹作品5点を一筆箋(以下「被告一筆箋」という。)に複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格450円で7717枚を販売した。(甲14)
カ クリアファイル
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告クリアファイル」欄記載のとおり、少なくとも一竹作品2点を1点ずつ2種類のクリアファイル(以下「被告クリアファイル」という。)に複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、A4クリアファイルにつき販売価格350円で8487枚、A5クリアファイルにつき販売価格320円で1021枚を販売した。(甲15)
キ ハンカチ
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告ハンカチ」欄記載のとおり、一竹作品2点をハンカチ(以下「被告ハンカチ」という。)に複製し、平成26年4月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格600円で1729枚を販売した。(甲16)
ク わさびチューブ
 被告は、別紙「被告複製目録」記載の「被告わさびチューブ」欄記載のとおり、一竹作品1点をわさびチューブ(以下「被告わさびチューブ」という。)に複製し、平成25年4月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格650円で918本を販売した。(甲17)
ケ 石鹸
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告石鹸」欄記載のとおり、一竹作品16点及び工房作品2点の合計18点を石鹸(以下「被告石鹸」という。)に複製し、平成27年3月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格648円で1539個を販売した。(甲15、甲18)
コ シール
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告シール」欄記載のとおり、工房作品1点をシール(以下「被告シール」という。)に複製し、平成27年9月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップで販売しているハンカチ(前記キ)に貼付して、配布した。(甲19)
サ 入場券
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告入場券」欄記載のとおり、一竹作品1点を入場券(以下「被告入場券」という。)に複製し、平成24年10月から現在まで、美術館入り口において入場者に対して配布しており、少なくとも20万枚を製作した。(甲20)
シ しおり
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告しおり」欄記載のとおり、一竹作品少なくとも4点を1点ずつしおり(以下「被告しおり」という。)に複製し、平成24年7月から現在まで、美術館入り口において入場者に対して配布しており、少なくとも2万5300部を製作した。(甲21)
ス ポスター
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告ポスター」欄記載のとおり、一竹作品1点をポスター(以下「被告ポスター」という。)に複製し、美術館入り口近くにおいて、展示している。(甲22)
セ パンフレット
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告パンフレット」欄記載のとおり、一竹作品4点及び工房作品2点の合計6点のうちいずれか1点を、日本語版、フランス語版、英語版、中国語版、韓国語版、スペイン語版又はロシア語版のパンフレット(以下、まとめて「被告パンフレット」という。)に複製し、また、旧HPコンテンツ1及び2を、別紙「原被告作品対比表」3記載のとおり、被告パンフレット中面において、改変して複製し、平成24年6月から現在まで、美術館入り口において配布しており、少なくとも13万6000部を製作した。(甲23)
ソ 特別割引券
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告特別割引券」欄記載のとおり、一竹作品2点を特別割引券(以下「被告特別割引券」という。)に複製し、また、旧HPコンテンツ2を、別紙「原被告作品対比表」4記載のとおり、被告特別割引券の中面において、一部改変して複製し、平成24年5月29日から現在まで、一竹美術館周辺の店舗にて配布しており、少なくとも34万部を製作した。(甲24)
タ 展示案内チラシ
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告展示案内チラシ」欄記載のとおり、一竹作品4点を展示案内チラシ日本語版及び英語版(以下、まとめて「被告展示案内チラシ」という。)に複製し、平成24年5月29日から現在まで、一竹美術館にて配布しており、少なくとも合計20万部を製作した。(甲25)
チ イベント案内チラシ
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告イベント案内チラシ」欄記載のとおり、一竹作品2点及び工房作品1点の合計3点をイベント案内チラシ(以下「被告イベント案内チラシ」という。)に複製し、平成24年5月29日から平成27年12月頃まで、美術館にて配布しており、少なくとも20万部を製作した。(甲26)
ツ Facebookへの投稿
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告Facebook」欄記載のとおり、少なくとも一竹作品3点及び工房作品1点を複製し、美術館のFacebookページ(https://以下省略)(以下「被告Facebook」という。)において、同欄記載の各投稿日時から平成28年8月まで、公衆送信した。(甲27)
テ ホームページへの掲載
 被告は、別紙「被告複製目録」の「被告HP」欄及び別紙「原被告作品対比表」5記載のとおり、旧HPコンテンツを複製し、平成24年5月29日から少なくとも平成28年8月まで、一竹美術館の現在のホームページ(http://以下省略)(以下「被告HP」という。)の「一竹辻が花染め」(http://以下省略)及び「略歴」(http://以下省略)に掲載して、公衆送信している。(甲28)
2 争点
(1)著作権侵害の成否
ア 著作物性の有無(制作工程写真、美術館写真、制作工程文章及び旧HPコンテンツについて)(争点1)
イ 著作権及び著作者人格権の主体(同上)(争点2)
ウ 複製等の成否(同上)(争点3)
エ 明示又は黙示による利用許諾の有無(争点4)
オ 権利濫用の有無(争点5)
カ 著作権法47条の抗弁の成否(争点6)
キ 著作権法32条1項の抗弁の成否(争点7)
(2)損害額等(争点8)
(3)消滅時効の成否(争点9)
(4)差止めの必要性(争点10)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(著作物性の有無)について
(原告らの主張)
ア 制作工程写真の創作性
 いずれの制作工程写真も、その被写体の選択・配置、構図、焦点、背景等にカメラマンの個性が表れており、創作性がある。被写体の選択一つをとっても、制作工程における被写体として何を選択するかは、選択肢が無数にある。特定の被写体についても、いかなる配置・構図で撮影するかには無数の選択肢がある。
 すなわち、制作工程写真1は、故一竹、制作中の着物全体及び作業スペース全体を被写体として、同氏の左斜め前方向から、また、焦点を同氏及び制作着物に合わせ撮影したもので、被写体の選択・配置、構図、焦点、背景等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 制作工程写真2は、故一竹及び製作中の着物生地を被写体として、背景は作業部屋にし、光を写真の右側から同氏の手元・指先に向けて当てて、撮影しており被写体の選択・配置、構図、光線、背景等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 制作工程写真3は、故一竹、同氏の手元及び製作中の着物生地を被写体として、同氏の正面から光を照射し、背景の作業室部分に影を作る構図で、撮影しており、被写体の選択・配置、構図、光線、印影の付け方、背景等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 制作工程写真4は、故一竹及び制作着物を被写体として、背景は作業室及び作業道具にして、同氏が糸を加えて口で引っ張る瞬間を、同氏の左側から光を照射して撮影しており、被写体の選択・配置、構図、シャッターチャンスの捕捉、光線、印影の付け方、背景等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 制作工程写真5は、蒸し箱の前に立つ故一竹及び蒸し箱全体を被写体として、写真右側から自然光を照射して、蒸し箱から湯気が立ち上がる瞬間を、蒸し箱のやや左側から撮影しており、被写体の選択・配置、構図、シャッターチャンスの捕捉、光線等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 制作工程写真6は、水洗い場に立つ故一竹、水洗い場及び制作着物を被写体として、制作着物の水洗いをする瞬間を、同氏の左側から光を照射し、同氏右側部分に影が形成する構図にて撮影しており、被写体の選択・配置、構図、シャッターチャンスの捕捉、光線等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 制作工程写真7は、故一竹の手元及び製作中の着物生地を被写体として、同氏が糸抜きをする瞬間を、同氏の正面から光を当て、同氏の背後に影が形成する構図にて、同氏のやや右側から撮影しており、被写体の選択・配置、構図、シャッターチャンスの捕捉、光線、印影の付け方等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
イ 術館写真の創作性
 いずれの美術館写真も、その被写体の配置、構図、焦点、背景等にカメラマンの個性がれており創作性がある。被写体の配置・構図一つをとっても、何を選択するかは、選択肢が無数にある。
 すなわち、美術館写真1は、美術館新館(手前に写っている白基調の建物)、美術館新館の背後にある美術館本館、美術館周辺に植えられた樹木を被写体としている。また、撮影の時間帯は、美術館新館の左側から太陽光が当たり美術館新館の入り口付近が影となる時間帯、撮影時期は、樹木の葉が赤く色づく秋の季節を選択して行っている。そして、美術館新館の正面やや左側から撮影をしている。したがって、美術館写真1は、構図、シャッターチャンスの捕捉、光線、背景等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
 美術館写真2は、美術館内部の蜻蛉玉ギャラリーについて、正面の展示物や左右壁沿いに並べられた展示物が写り、かつギャラリー全体も写るような構図で、入り口正面から撮影をしている。また、ギャラリー全体が明るく見えるよう、光度等も調整している。したがって、美術館写真2は、構図、光度、背景等にカメラマンの個性が表れており創作性がある。
ウ 制作工程文章の創作性
 一竹作品の制作工程は、複雑雑多な工程からなるところ、制作工程文章は、原告Aが、その複雑雑多な工程の中から素人が理解する上で「基本」となる工程を選択して、原告Aの知見と考察に基づいて記述したものであり、その工程の選択と描写において、原告Aの個性が表れている。
 すなわち、制作工程文章において、原告Aは、「下絵」、「糸入れ・絞り」、「色さし」、「防染」、「蒸す」、「水洗い」、「干す」、「糸切り・糸抜き」という8個の工程のみを抽出している。また、各工程の具体的説明表現においても、各工程の難易(例えば、「色さし」箇所の、「これが最も難しい。絞り込んであるため模様の位置関係が分かりにくく、「光響」連作のように色の錯綜する絵柄では、構図の細かい部分まで頭に入っていないとこの作業はできない」等)、各工程の意義(例えば、「下絵」箇所の、「青花を使うのは、水蒸気にあてるだけで簡単に筆の線を消すことができるためだが、実際に描き直しはほとんどない。」等)、各工程の注意点(例えば、「糸切り」箇所の、「絵柄や絞りの具合によって力の入れ加減や方向が異なる。糸を抜こうと乱暴に引くと布が裂けることもあるので、慎重に行う。」等)等について、素人が外部から見ていただけでは決して表現されることのない内容を記述しており、原告A独自の知見と考察がなければありえない記述であるから、その表現には原告Aの個性が表れている。なお、先代故一竹も、昭和59年3月頃に、「一竹辻が花」の制作工程を説明する文章を作成しているが(甲41)、当該文章は制作工程文章とは全く異なる文章表現となっており、多様な表現方法があることが明らかである。
 よって、制作工程文章には、創作性がある。
エ 旧HPコンテンツ
 歴史的事実に基づく記述であっても、いかなる事実を取り上げるのか、またその事実をどのように記述するのかという点において、記述者の個性が表れる。
 すなわち、旧HPコンテンツのうち、「辻が花染」の項及び「久保田一竹と一竹辻が花染」の項は、原告Aが、辻が花染の由来、故一竹と辻が花染めの出会い、一竹辻が花完成の経緯等について、多々ある歴史的事実(甲42、43)や多々ある見解(甲42)の中から、原告Aの視点で重要だと思う事実や見解を選択した上で、原告Aなりの表現を用いて説明をしたものであり、個性が表れている。原告A以外の者が作成した説明文章(甲42、44及び45)が示すとおり、「一竹辻が花」に関する説明をするための表現方法には多種多様なものがある。よって、「辻が花染」及び「久保田一竹と一竹辻が花染」は、両者全体として創作性がある。
 また、「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ」の項及び「スミソニアンよりの感謝状」の項は、誰が翻訳しても同じ表現になるものではない。原告Aが、原文を独自に解釈し、単語を選択し、文章化し、さらに各文章を繋げることにより日本語に翻訳したものであり、その表現(翻訳文)には個性が表れている。よって、「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ」及び「スミソニアンよりの感謝状」は、それぞれ原文の翻訳文として創作性がある。
(被告の主張)
ア 制作工程写真が創作性を有さないこと
 写真の著作物の創作性は、具体的な撮影方法や現像方法の工夫(角度・光度の調節、背景・構図・照明・絞り等)によって判断され、例えば、版画の原画をできるだけ忠実に再現するために撮影された写真の著作物性が否定されている。
 そして、制作工程写真は、制作工程を忠実に再現するために撮影されるものであるところ、現に、制作工程を工程に応じてそれぞれ撮影したものにとどまり、具体的な撮影方法や現像方法に特段の工夫は見られず、およそ創作性はない。
イ 美術館写真が創作性を有さないこと
 美術館写真は、美術館を忠実に紹介するために撮影されるものであるところ、実際の表現も美術館を紹介するために内部を撮影したものであって具体的な撮影方法や現像方法に特段の工夫は見られず、およそ創作性はない。
ウ 制作工程文章が創作性を有さないこと
 一般に、著作物に必要な創作性は、創作者の個性が表れていればよいとされているが、誰が表現しても同じ表現にならざるを得ない表現やありふれた表現は著作物性を有さないとされている。
 そして、制作工程文章は、「辻が花染」の制作工程を説明するための文章であるところ、制作工程自体を正確に説明する文章は、誰が表現しても同じ表現にならざるを得ないし、制作工程文章の文章表現も、いずれもありふれた表現である。したがって、制作工程文章は、全体として著作物性を有さない。
エ 旧HPコンテンツが創作性を有さないこと
(ア)「辻が花染め」と題した文章
 辻が花染めの由来や歴史的経緯について説明した文章であり、辻が花染めの由来や歴史的経緯を正確に表現しようとすれば、誰が表現したとしても歴史的事実には触れざるを得ず、同じ表現にならざるを得ない。
 また、表現自体もごくありふれたものである。したがって、全体として創作性がなく、著作物性を有さない。
(イ)「久保田一竹と一竹辻が花染め」と題した文章
 先代故一竹が、「辻が花染め」と出会った経緯について説明した文章であり、東京国立博物館で初めて「辻が花染め」に出会って魅了されたこと等、先代故一竹が、「辻が花染め」と出会った経緯を説明しようとすれば誰が表現したとしても同じ表現にならざるを得ない。また、わずかにみられる具体的な文章表現も「心血を注ぐ」などごくありふれたものである。したがって、全体として創作性がなく、著作物性を有さない。
(ウ)「シュヴァリエ章の勲章メッセージ(和訳文)」
 先代久保田一竹の功績の表彰及び勲章の授与を記載した文章であり、そもそも、原文の著作権者は原告らではない。和訳文が原文を正確に翻訳したものであれば、誰が翻訳したとしても同じ表現にならざるを得ない。また、用いられている表現もありふれたものである。そして、和訳文については原文に対して新たに創作性が付加された範囲のみ保護されると解されるところ、原文に対して新たに創作性が付加された部分の特定もなされていない。したがって、全体として創作性がなく、著作物性を有さない。
(エ)「スミソニアンよりの感謝状(和訳文)」
 先代久保田一竹の功績の表彰と感謝の意を表した文章であり、原文の著作権者はやはり原告らではない。同様に和訳文が原文を正確に翻訳したものであれば、誰が翻訳したとしても大要同じ表現にならざるを得ない。また、用いられている表現もありふれたものである。そして、原文に対して新たに創作性が付加された部分の特定もなされていない。したがって、全体として創作性がなく、著作物性を有さない。
(2)争点2(著作権及び著作者人格権の主体)について
(原告らの主張)
ア 制作工程文章
 原告Aは、昭和60年頃、制作工程文章を作成した。
 制作工程文章は、もともと一竹作品の展示会や展覧会で使用するパネルや案内状用に、原告Aが父故一竹のために作成したものであり、他に著作者は存在しないし、訴外一竹辻が花の職務著作の要件も満たさない。欧州巡回作品集(甲5)奥付の「?活齟|辻が花」との記載は、当該作品集の編集(作品の選定や順序決め)を行った訴外一竹辻が花が編集著作物に対する著作権を有していることを示しているにすぎず、各素材(着物、着物の写真、文書、その他の写真など)に対する著作権者であることを表示するものではない。したがって、原告Aが制作工程文章の著作者及び著作権者であることを否定するものではない。
イ 制作工程写真
 写真家である訴外E(以下「訴外E」という。)は、昭和60年頃、制作工程写真を含む一竹作品の撮影工程を被写体とする写真12点を撮影した。訴外Eは、制作工程写真の著作権を撮影時に原告Aに譲渡したため、原告Aはその著作権を有している(甲6)。
 被告の主張のとおり、制作工程写真は、当時の慣行どおり、原告Aが訴外Eから著作権を制作当時に買い取ったものである。しかし、やはり当時の慣行どおり、その書面は作成しなかった。それゆえ、訴外Eと原告Aとの間に著作権譲渡の認識が存在するので、今般の訴訟のために訴外Eが当該譲渡の事実を確認した(甲6)ものである。
 また、被告は、故一竹存命中に制作工程写真の著作権を原告Aに譲渡することは不自然であると主張するが、制作工程写真の撮影は、原告AがEと個人的な関係に基づいて、原告Aが自己の名義と出捐でEに依頼したものであり、その写真の著作権が依頼者である原告Aに譲渡されることは何ら不自然ではない。
 さらに、欧州巡回作品集(甲5)奥付の「?活齟|辻が花」との記載は、当該作品集の編集(作品の選定や順序決め)を行った訴外一竹辻が花が編集著作物に対する著作権を有していることを示しているにすぎず、各素材(着物、着物の写真、文書、その他の写真など)に対する著作権者であることを表示するものではない。したがって、原告Aが制作工程写真の著作権者であることを否定するものではない。
ウ 旧HPコンテンツ
 原告Aは、平成3年頃から平成9年頃にかけて、旧HPコンテンツを作成した。
 旧HPコンテンツは、もともと久保田一竹作品の展示会や展覧会で使用するパネルや案内状用に、原告Aが父故一竹のために作成したものである。したがって、職務著作は成立せず、著作者及び著作権者は原告Aである。また、旧HPにおける「ItchikuTsujigahanaCo.、Ltd」との記載(甲7)は、旧HPの制作(レイアウト決め)を行った訴外一竹辻が花が編集著作物に対する著作権を有していることを示しているにすぎず、各素材に対する著作権者であることを表示するものではない。したがって、原告Aが旧HPコンテンツの著作者及び著作権者であることを否定するものではない。
エ 美術館写真
 訴外Eは、平成9年頃、美術館写真を撮影し、美術館写真の著作権を撮影時に原告Aに譲渡したため、原告Aはその著作権を有している(甲6)。
 被告は、訴外Eの確認書の作成が不自然であると主張するが、制作工程写真と同様、確認書に何ら不自然な点はない。
 また、欧州巡回作品集(甲5)奥付の「?活齟|辻が花」との記載は、当該作品集の編集(作品の選定や順序決め)を行った訴外一竹辻が花が編集著作物に対する著作権を有していることを示しているにすぎず、各素材に対する著作権者であることを表示するものではない。したがって、原告Aが美術館写真の著作権者であることを否定するものではない。
(被告の主張)
ア 制作工程文章
 原告Aが制作工程文章を作成し、著作権及び著作者人格権を保有しているとの主張は争う。制作工程文章のどこにも「A」との著作権表示はなく、原告Aが作成したことを裏付ける客観的事実は何ら示されていない。また、制作工程文章が掲載されたと主張する「ヨーロッパ巡回展帰朝記念一竹辻が花展」(甲5)の作成者は「(株)一竹辻が花」と記載されており、いずれにしても原告Aが著作者であることをうかがわせる事情は何もない。さらに、制作工程文章は、@訴外一竹辻が花の発意により作成され、A作成者が職務上作成し、B訴外一竹辻が花名義で公表されていることから、職務著作(著作権法15条1項)に当たり、その著作者は訴外一竹辻が花であって、原告Aではない。
イ 制作工程写真
 原告Aが著作権者であるとの主張は否認する。原告らが、制作工程写真が公表されたと主張する「ヨーロッパ巡回展帰朝記念一竹辻が花展」(甲5)の作成名義は「(株)一竹辻が花」となっており、原告らの著作権表示はない。原告Aは、訴外Eから制作工程写真の著作権の譲渡を受けていると主張している。しかし、制作工程写真の撮影時は、昭和60年と約30年以上前であるところ、確認書は、紛争が顕在化した平成28年4月になって初めて作成されている(甲6)。一般に、写真は買取りが業界の慣行であることから、訴外Eが、制作工程写真撮影時に、既に譲渡している可能性が高い。さらに、撮影当時は、先代故一竹がまだ存命であり、また先代故一竹の妻をはじめとする推定相続人がいるにもかかわらず、先代故一竹を撮影した写真の著作権を原告Aに譲渡することなど不自然極まりない。
ウ 旧HPコンテンツ
 原告Aが著作者であるとの主張は否認する。旧HPコンテンツには「A」との著作権表示は一切なく、原告Aが作成したことを裏付ける客観的事実は何ら示されていない。著作権者は「ItchikuTsujigahanaCo.、Ltd」と表示されている(甲7)。原告らの主張する作成経緯が事実であるとした場合、旧HPコンテンツは職務著作(著作権法15条1項)の要件を満たすことから、原告らが著作者となることはありえない。
エ 美術館写真
 原告Aが著作権者であるとの主張は否認する。原告らが、美術館写真が公表されたと主張する「久保田一竹作品集」の奥付の著作権表示は「(株)一竹辻が花」となっている(甲8)。制作工程写真と同様、美術館写真も「久保田一竹作品集」に掲載された時点で、著作者である訴外Eが、写真の著作権を譲渡している可能性が高い。美術館写真の撮影は、平成9年と約20年以上前であるところ、確認書は、平成28年4月になって初めて作成されており、不自然である点は制作工程写真と同様である。
(3)争点3(複製等の成否)について
(原告らの主張)
 被告は、前記前提事実(4)記載の製作・販売行為等により、原告らの著作権(複製権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、著作権法113条6項)を侵害した。
ア 制作工程文章の同一性
 被告は、被告作品集130−131頁において、別紙「被告複製目録」の「被告作品集」欄及び別紙「原被告作品対比表」1記載のとおり、制作工程文章1ないし7及び9を原告Aに無断で改変の上複製した。
 被告は、被告作品集130−131頁の制作工程の記述と制作工程文章は、創作性のない部分について同一性を有するにすぎないと主張するが、被告作品集130−131頁における制作工程の記述は、別紙「原被告作品対比表」1のとおり、原告Aが抽出した8個の工程中、「干す」の工程を除く7個の工程を同様に抽出し、それら7個の工程の説明文をほとんどそのまま複製したものである(なお、被告作品集の「水洗い」の項目の記述は、原告Aが制作工程文章を改変して平成20年発行の『久保田一竹作品集』(甲8の改訂版)に掲載したもの(甲47)をそのまま複製したものである。)。また、上記の7個の工程に対する記述も、原告Aの知見と考察に基づいて記述したものであるから、原告Aの個性が表れている部分である。
 よって、被告作品集130−131頁の制作工程の記述と制作工程文章は、創作性のある部分について同一性を有する。
イ 旧HPコンテンツ
(ア)被告作品集5頁と旧HPコンテンツの同一性
 被告作品集5頁と旧HPコンテンツの共通部分は、別紙「原被告作品対比表」2のとおりであり、両者を対比すれば、大半が同一であることから、原告Aによる歴史的事実の選択及びその記述方法において、同一性が存することは明らかである。
(イ)被告パンフレットと旧HPコンテンツの同一性
 被告パンフレットと旧HPコンテンツで同一性を有する部分は、別紙「原被告作品対比表」3のとおりであり、両者を対比すれば、大半が同一であることから、原告Aによる歴史的事実の選択及びその記述方法において、同一性が存することは明らかである。
(ウ)被告特別割引券と旧HPコンテンツの同一性
 被告特別割引券と旧HPコンテンツで同一性を有する部分は、別紙「原被告作品対比表」4のとおりであり、両者を対比すれば、大半が同一であることから、原告Aによる歴史的事実の選択及びその記述方法において、同一性が存することは明らかである。
(エ)被告HPと旧HPコンテンツ(「辻が花染」)の同一性
 被告HPと旧HPコンテンツ(「辻が花染」)で同一性を有する部分は、別紙「原被告作品対比表」5のとおりであり、両者を対比すれば、「辻が花染」の記述は完全に同一である。「辻が花染」の記述は、いかなる事実を取り上げるのか、またその事実をどのように記述するのかという点において記述者の個性が表れている部分であるから、原告Aによる歴史的事実の選択及びその記述方法において、同一性が存することは明らかである。
(オ)被告HPと旧HPコンテンツ(「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ」と「スミソニアンよりの感謝状」)の同一性
 被告HPと旧HPコンテンツ(「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ」と「スミソニアンよりの感謝状」)の記述は、別紙「原被告作品対比表」5のとおり、完全に同一であるから、創作性のある表現について同一性を有することが明らかである。
ウ 同一性保持権侵害について
 被告は、制作工程文章及び旧HPコンテンツの各利用について、「通常の著作者の名誉感情を害することとは到底いえないことから意に反する改変には当たらない」と主張するが、「意に反する改変」は、「通常の著作20者の名誉感情を害する」という客観的基準に基づく判断ではなく、「著作者の主観的意図に反する」という主観的基準に基づく判断である。被告による改変は、いずれも原告Aに無断で行われたものであり、被告は、制作工程文章及び旧HPコンテンツについて原告Aが有する同一性保持権を侵害する。
エ 著作権法113条6項所定の著作者人格権侵害について
 前記前提事実(4)ク、ケ記載の被告の行為は、わさび、石鹸という日常品に、高度の芸術性を認められた一竹作品を縮小してラベルとして貼り付けるというもので、故一竹の名誉・声望を著しく害する態様であるから、著作者人格権侵害とみなされる。
(被告の主張)
ア 制作工程文章
(ア)言語の著作物の侵害判断
 一般に、著作物に必要な創作性は、創作者の個性が表れていればよいとされているが、誰が表現しても同じ表現にならざるを得ない表現やありふれた表現は著作物性を有さないとされている。そして、既存の著作物と同一性を有する場合であっても、表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合は、既存の著作物の複製にも翻案にも当たらないとされている。
(イ)被告の各利用が創作性のある部分を複製・翻案したものでないこと
 仮に、創作性があるとしても、被告の各利用は、あくまで「辻が花」の各制作工程を説明する部分において同一性を有するにすぎず、それ以外の部分において同一性を有していない。したがって、被告の各利用は制作工程文章の創作性のない部分について同一性を有するにすぎず、複製にも翻案にも当たらない。
(ウ)被告の各利用が同一性保持権を侵害しないこと
 被告の各利用は複製にも翻案にも当たらず、また通常の著作者の名誉感情を害することとは到底いえないことから意に反する改変(著作権法20条1項)に当たらない。
イ 旧HPコンテンツ
(ア)被告の各利用が創作性のある部分を複製・翻案したものでないこと
a 被告作品集5頁と旧HPコンテンツの比較
 被告作品集5頁と旧HPコンテンツは以下の点で同一性を有する。
@ 辻が花染が室町時代に栄えた縫締紋の紋様染であること
A 名称の由来が定かでないこと
B 庶民の小袖から始まったといわれていること
C 武家に愛され、高級品として一世を風靡したこと
D 江戸時代初期に姿を消したこと
E 友禅の出現により辻が花染めが衰退したといわれていること
 しかし、これらは辻が花染めに関する歴史的事実であって、およそ創作性のある表現とはいえない。
b 被告パンフレットと旧HPコンテンツの比較
 被告パンフレットと旧HPコンテンツは、以下の点で同一性を有する。
@ 20歳のときに東京国立博物館で「辻が花染め」に魅了されたこと
A 「辻が花」の制作に注力したこと
B シベリアでの抑留を経て40歳から「辻が花」の研究に取り組んだこと
C 60歳で「一竹辻が花」を完成させたこと
D 1977年から個展を開催したこと
E 1990年にはフランス政府より勲章を受けていること
E 1993年には文化庁長官賞を受賞していること
F 2003年4月26日に死去していること
 しかし、これらはいずれも先代故一竹に関する歴史的事実であって、何ら創作性のある表現ではなく、複製又は翻案には当たらない。
c 被告特別割引券との比較
 被告特別割引券と旧HPコンテンツは以下の点で同一性を有している。
@ 20歳のときに東京国立博物館で「辻が花染め」に魅了されたこと
A 「辻が花」の制作に注力したこと
B シベリアでの抑留を経て40歳から「辻が花」の研究に取り組んだこと、
C 60歳で「一竹辻が花」を完成させたこと
D 1977年から古典を開催していること
 しかし、前述のとおり、いずれも先代久保田一竹に関する歴史的事実であって何ら創作性のある表現ではなく、複製又は翻案には当たらない。
d 被告HPとの比較
 被告HPと旧HPコンテンツは以下の点で同一性を有する。
@ 辻が花染が室町時代に栄えた縫締紋の紋様染であること
A 名称の由来が定かでないこと
B 庶民の小袖から始まったといわれていること
C 武家に愛され、高級品として一世を風靡したこと
D 江戸時代初期に姿を消したこと
E 友禅の出現により辻が花染めが衰退したといわれていること
F 久保田一竹が20歳のときに「辻が花染め」と出会ったこと
G 久保田一竹が60歳のときに完成品を「一竹辻が花」と命名したこと
H フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ
I スミソニアンよりの感謝状
 しかし、@ないしGは「辻が花染め」や故一竹に関する歴史的事実であって、創作性を有しない。また、原告らはHIの原文の著作者ではなく、和訳には何らの創作性もなく、複製又は翻案には当たらない。
(イ)被告の各利用が原告Aの同一性保持権を侵害しないこと
 被告の各利用は複製にも翻案にも当たらず、また通常の著作者の名誉感情を害するとは到底いえないことから意に反する改変(著作権法20条1項)に当たらない。
(4)争点4(明示又は黙示による利用許諾の有無)について
(被告の主張)
ア 一竹作品及び工房作品の利用許諾
(ア)明示の利用許諾
 原告らは、着物の引渡し日以降に、訴外ICFが着物を撮影する方法によって、着物の著作物を複製することを許諾し、かつ、美術館の運営に必要な範囲で利用することを明示的に許諾した。以下、詳述する。
a 締結に至る事情
 再生計画案(乙8)においても、「買受予定者」(訴外ICF)が「久保田一竹美術館」の名称を継続して使用すること、美術館でのイベントの実施や物品の販売(乙8・2頁)など、美術館事業の継続が明記されている。また、美術館の運営を継続することが買受人の条件とされていたことは、原告自身が主張するところである。以上から、美術館の経営権は一体として訴外ICFに譲渡されたものである。
 そして、本美術館の運営において、入場券やチラシ、ポスター、インターネットにおける着物著作物の利用は、美術館自体の宣伝に必要不可欠である。また、着物著作物を利用した物品販売は、美術館事業の副次的な収入源であるとともに、宣伝効果をもたらすものである。前者の利用のためには、複製権、翻案権、送信可能化権の許諾が必要であり、後者の利用を行うためには、複製権、翻案権、譲渡権が不可欠である。
 したがって、美術館事業を全体として譲渡したという締結に至る事情からして、当事者間において着物の著作権の利用許諾は当然含まれていたものと解すべきである。
b 契約書の文言
 不動産等売買等契約書(乙9)、附属合意書(乙11)の文言も、以下のとおり、著作物の利用許諾があったことを裏付ける。
(a) 契約関係が訴外ICFに承継されていること
 不動産等売買等契約書(乙9)において、原告工房から訴外ICFに美術館の運営に必要な契約書類を引き継ぐことが定められている(5条3項)。契約書類の承継は権利関係の承継にほかならず、訴外ICFが着物の著作物の利用権の承継をすることも当然含まれている。
(b) 対外的に「一竹辻が花」名称等の使用継続を認めていること
 附属合意書(乙11)において、原告らは、訴外ICFに対し、原告らが有する「一竹辻が花」「一竹」「久保田一竹」等の名称をその目的のために通常必要とする範囲内において無償で使用することを許諾している(6条)。「一竹辻が花」「一竹」「久保田一竹」などの単語自体を説明文等に使用することができるのは当然であるから、これらの規定は、訴外ICFにおいて「一竹辻が花」「一竹」「久保田一竹」の名称を着物の著作物の複製物等の商品を作成して付する利用方法を前提としている。
(c) 協力義務があえて明記されていること
 不動産等売買等契約書(乙9)において、原告らと訴外ICFが美術館の運営に相互に協力すると定められており(26条)、これを受けた付属合意書(乙11)において、原告らは訴外ICFが美術館を運営するにあたって適切な協力を行うとされている(4条1項)。
 原告らの主張のとおり、着物の展示だけであれば、訴外ICFは著作物の原作品の所有者として自由に展示し得るのであって、原告らの協力は不要である(著作権法45条1項)。そして、美術館運営に著作権の利用許諾が不可欠であることに鑑みれば、「協力」には、美術館の運営に必要な着物の著作物の利用許諾を含むと解すべきであり、少なくとも、美術館の運営を困難にする形での著作権や著作者人格権の行使を行わないことが前提とされているというべきである。
(d) 協力内容が具体化されていること
 附属合意書(乙11)において、原告らは訴外ICFが美術館を運営するために必要が生じた場合には訴外ICFの要請に従い、美術館運営に関する必要な情報や資料等の提供、適切な助言や催し物への参加その他の協力等を行う(4条2項)とされている。これは、着物の著作物の宣伝的利用について許諾したことを裏付けるものである。また、原告らは、美術館等でのみやげ物その他の物品の販売などにつき、訴外ICFからの要請があった場合には、訴外ICFと協議の上、これに全面的に協力をするものとする(5条)。これは、着物の著作物の物品利用について許諾したことを裏付けるものである。
(e) 利用方法が具体的に指定されていること
 附属合意書(乙11)において、着物の引渡し日以降に撮影された着物の写真の著作権は訴外ICFの帰属とする(7条)と定められている。これに従い、訴外ICFは、平成22年11月8日の着物の引き渡し後に、写真家である訴外Fに委託して、着物の写真を全て新しく撮影した(甲9・135頁)。いうまでもなく、着物の写真を撮影することは、着物の著作物を複製する法定利用行為である。したがって、上記文言から、少なくとも、着物の引き渡し日以降に、訴外ICFが自ら写真を撮影するという着物の著作物の利用方法については、明示的に利用許諾を与えている。そして、写真を撮影する方法による複製のみを許諾し、その写真の複製等の利用を全く許さないとするのでは、写真を撮影する方法による複製を許諾したことが全く意味をなさない。あえて、写真の著作権が帰属することを確認したのは、当事者間において、訴外ICFが撮影した写真を利用する限りにおいては、被写体である着物の著作物を利用することの許諾が含まれているから以外には考えられない。したがって、引き渡し後に訴外ICFが撮影した写真を利用する方法であれば、被写体である着物の著作物を美術館の運営に必要な限度で他の方法で利用することも許諾したと解すべきである。
c 小括
 以上から、原告らは訴外ICFに対し、着物の引き渡し日以降に、訴外ICFが自ら撮影した着物の著作物については、美術館の運営に必要な範囲で着物の著作物の利用(宣伝的利用及び物品利用)を許諾したものである。美術館で販売されている商品は、着物の引渡後に訴外ICFが新規に撮影した写真を利用して作成されたものであり、被告の利用方法は、全て美術館の運営に必要な限度でされている。したがって、被告の利用方法は、原告らからの利用許諾の範囲内であり、原告らの著作権等の権利を何ら侵害しない。
(イ)黙示の利用許諾
 原告Aは、被告に対し、平成24年及び平成26年に被告が美術館で製造・販売している商品の一部に関し、原告Aの権利を侵害する旨の申入れを行ったが、被告が訴外ICFの撮影に係る写真を利用して商品を作成し美術館で販売していたことについては何らの指摘もしていない。むしろ、原告らの製造・販売中止の申入れが@原告Aが撮影した写真の利用及びA原告工房の事業と直接関連する布製品の製造・販売に限定されていることは、黙示の許諾を与えていたことを裏付ける。したがって、遅くとも、平成26年までには、原告らは、被告の利用方法を黙示的に許諾していたことは明らかである。
イ 旧HPコンテンツの利用許諾
 被告は、以下のとおり、旧HPコンテンツを被告HP目録記載の方法で利用することも対象に含む包括的な許諾を受けている。
(ア)明示の利用許諾
 旧HPコンテンツは、一竹辻が花染めの説明や先代故一竹の略歴などであり、「美術館運営に要する必要な情報や資料等」(乙11・4条2項)に当たることは明らかである。そして、旧HPコンテンツは、美術館の経営譲渡の際に、訴外ICF並びに訴外Cに提供された。
 したがって、訴外ICF並びに訴外Cは、美術館を運営するにあたって、旧HPコンテンツを必要な範囲で利用することを包括的に許諾されたものであり、被告はその訴外Cから美術館の運営を委託され、美術館の運営に必要な範囲で、旧HPコンテンツを、被告HP目録記載の方法で被告HPに利用しているにすぎない。したがって、被告の利用は、原告Aの旧HPコンテンツに対する著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を何ら侵害しない。
(イ)黙示の利用許諾
 前記(ア)の事実に加え、原告Aが真に旧HPコンテンツの著作権者であるとすれば、原告工房が平成22年に訴外ICFに美術館を譲渡した際に、旧HPコンテンツの利用中止を求めることも自由にできたはずである。ところが、原告Aは、平成28年に至るまで約6年もの間、訴外ICF及び被告の旧HPコンテンツの利用に何らの異議を申し立てていない。したがって、旧HPコンテンツについて黙示の許諾があった。
ウ 原告らの主張に対する反論
 原告らは、仮に訴外ICFへの利用許諾が含まれるとしても被告に移転することはできないと主張するが、まず、訴外ICFに対する協力は、美術館の運営に必要な限度での利用の許諾であり、美術館の経営に伴うものであるから、当然に美術館の運営の承継者(被告)に対する再許諾の権限をも含んでいる。また、原告らは平成22年以降に訴外G(以下「訴外G」という。)と接触し、美術館における着物の利用方法について認識しておきながら、平成28年に至るまで、何らの異議を述べておらず、訴外ICFから被告への利用許諾の移転ないし再許諾を追認しているというべきである。
(原告らの主張)
ア 明示の利用許諾について
(ア)美術館譲渡契約に至る事情について
 第1に、再生計画案(乙8)は、再生債務者である原告工房の再生計画であり、その中に原告工房の資産負債が含まれることがあっても原告工房が処分権限を保有しない著作権やその使用権が含まれることはあり得ない。第2に、訴外ICFは一竹作品の所有権に基づき一竹作品を展示することができたのだから、原告の許諾が無くとも美術館事業の継続には何らの支障もなく、美術館運営の継続が譲渡の前提となっていたことは許諾の根拠とはならない。第3に、美術館の広告宣伝に係る経費は、いくらそれが経営に有用であったとしても、美術館所有者であり運営者である訴外ICFや被告が負担すべきものであり、運営に一切関与していない原告が負担する根拠はどこにもない。したがって、被告の主張には何らの合理性もない。
(イ)契約書の文言について
a 被告は、不動産等売買等契約書(乙9)において契約関係が訴外ICFに承継されている(5条3項)と主張する。しかし、同契約書の譲渡の対象には、「事業」は含まれていない。すなわち、同契約書1条1項が規定するとおり、譲渡の対象は、同別紙目録記載の不動産及び動産に限られている。また、そもそも、訴外ICF及び被告は、原告らの許諾がなくても一竹作品の所有権に基づいて、美術館において展示することができるのであるから、一竹作品等の著作物に対する原告らからの利用許諾がなくても、美術館の運営は可能である。したがって、訴外ICFによる美術館の運営を前提にした契約上の各規定は、一竹作品等の著作物に対する原告らからの利用許諾を推認するものではない。また、同契約書5条3項にいう「契約書類」とは、「「本件建物等」の設計図書、「本件美術館」運営に係る施設の維持・管理等に関する契約書類」(同項)のことであり、一竹作品の権利に関する契約書類が含まれないことは文言上明らかである。実際、原告らは、訴外ICFへの美術館引き渡しの際に、美術館のボイラー、浄化槽メンテナンス、エアコンメンテナンス等の保守関連契約に関する書類を引き渡したが、着物の著作物の利用に関する書類は一切取り交わしていない。
b 被告は、附属合意書(乙11)において対外的に「一竹辻が花」名称等の使用継続を認めている(6条)と主張するが、同条は、商標の使用許諾を規定するものであって、著作物の利用許諾を規定するものではない。また、当該規定は、「一竹」等の名称を美術館に使用することを許諾したにすぎず、商品等への使用許諾は別途の合意によって行うこととしていた(同条ただし書)。
c 被告は、不動産等売買等契約書(乙9)及び附属合意書(乙11)において協力義務があえて明記されている(それぞれ26条、4条1項)と主張するが、不動産等売買契約書26条は、一竹作品等の著作物について、訴外ICFの協力要請があった場合に原告らが相当な対価を条件に許諾することを定めた規定であり、無償・無断で利用することを許諾したものではない。原告らは、相当な対価を条件として使用許諾契約を締結する意思はあったが、訴外ICFからも被告からも、その申入れを受けたことはない。
d 被告は、附属合意書(乙11)において協力内容が具体化されている(4条2項、5条)と主張するが、一竹作品等の著作物に対する原告らからの利用許諾がなくても、美術館の運営は可能であるから、訴外ICFによる美術館の運営を前提にした契約上の各規定は、一竹作品等の著作物に対する原告らからの利用許諾を推認するものではないし、また、当該規定は、一竹作品等の著作物を無償・無断で利用できることを許諾したものではない。
e 被告は、附属合意書(乙11)において利用方法が具体的に指定されている(7条)と主張するが、同条は、「上記引渡日(当日を含む)以降に撮影される「本件衣装等」の写真等の著作権は甲が有することを確認する」として訴外ICFが撮影した写真の著作権の帰属について規定するのみであり、「美術館の運営に必要な限度で自由に利用すること」への許諾については一切規定していない。また、同条ただし書は、訴外ICFが本件衣装等の引渡日以降の撮影により保有する写真の著作物に対する「著作権の帰属もしくはその使用などについては、甲(訴外ICF)と乙(原告工房)との間で別途協議して定めることができる」と規定しているが、訴外ICFからも被告からも当該協議を求められたことはない。訴外ICFが本件衣装等の引渡日以降の撮影により保有する写真の著作物について、原告らが被告にその利用許諾を与えたこともない。
f なお、不動産等売買契約書(乙9)及び附属合意書(乙11)の当事者は、訴外ICFであって、被告でも訴外Cでもない。したがって、仮に同合意書等に原告らによる一竹作品等の著作物に対する利用許諾が含まれていたとしても、原告らの同意なく、被告にそれを移転することはできない。
(ウ)結論
 以上のとおり、原告工房は、不動産等売買契約書(乙9)及び附属合意書(乙11)において、一竹作品等の著作物を「美術館の運営に必要な限度で自由に利用すること」を被告に対して許諾したとの事実は存在しない。
イ 黙示の利用許諾
 被告は、原告Aが「平成24年及び平成26年に被告が美術館で製造・販売している商品に関し、申入れを行って」おり、しかも「原告Aは、被告が、訴外ICFが撮影した写真を利用して商品を作成し、美術館で販売していたことについて何らの指摘もしていない」ことから、これが被告の利用方法に対する黙示の利用許諾に該当すると主張するが、そもそも、単に権利主張しなかったという消極的な事実は、黙示の利用許諾を構成しない。
(5)争点5(権利濫用の有無)について
(被告の主張)
 本件は、原告Aが美術館の経営に失敗して民事再生申立てを行ったことに端を発する。買い手が見つからず、一竹作品が競売に付されて離散する直前に、訴外Cが約2億7000万円を投じて美術館と展示品を一括して購入した。その結果、美術館及び一竹作品は離散の憂き目を免れ、さらには原告工房がかろうじて破産、解散を回避したものである。すなわち、原告らは美術館及び着物の売却によって十二分に利益を得ている。他方で、訴外Cは、関連会社であるArnebPTELtd.(以下「Arneb」という。)を通じ、現在に至るまで美術館の運営、維持のために私財を投じ、資金援助を継続的に行っており(融資契約書(乙25))、訴外Cによる美術館への資金援助は累計約2億4670万円に上っている(送金一覧(乙26))。これに対して、原告らは、美術館譲渡時の附属合意書(乙11)において、訴外ICFの美術館経営に協力すること(4条1項・2項)、物品販売に協力すること(5条)を約したにもかかわらず、これをあっさり反故にし、本訴において、美術館の経営活動のために行っている活動の差止めを求め、約3000万円もの損害賠償請求を行っている。原告らの行動は、実質的には、利益の二重取りに他ならず、権利の濫用である。
(原告らの主張)
 第1に、原告らは、美術館及び着物の所有権譲渡の対価として2億5000万円(訴外一竹辻が花分2000万円を含む。)を得ただけであり(乙9)、これにより原告らの著作権の行使が妨げられる理由はない。その金額も、通常の取引で譲渡すれば、優に10億円を下らない上記資産を、原告工房が経営難に陥って再生手続に入っていることを奇貨として、わずか2億5000万円で買い取ったものである。第2に、訴外Cが、平成25年6月26日にArnebと被告との間に締結した融資契約書に基づいて、美術館に対して2億4760万円の融資を始めたとの事実は、原告らが(訴外ICFを介して)訴外Cに美術館を譲渡した後のことであり、訴外Cによる当該資金援助は、自己の保有する資産(一竹美術館)に対する自己の財布(Arneb)からの投資であって、原告らとはまったく無関係である。第3に、原告らは、訴外ICF、訴外C、被告のいずれからも、一竹美術館における一竹作品等の利用に関して、協力ないし利用許諾の申入れを受けたことは一度もなく、附属合意書において協力を約したことを反故にしたという主張は当たらない。かえって、信頼関係を破壊したのは、当該附属合意書の当事者である訴外ICFである。
 以上のとおり、被告の権利濫用の主張には、全く理由がない。
(6)争点6(著作権法47条の抗弁の成否)
(被告の主張)
ア 著作権法47条の要件
 著作権法47条は、美術の著作物等の原作品の所有者など、原作品を展示する権利を有する者が観覧者のために解説又は紹介のための小冊子を作成することを認めている。そして、一般に、同条の「小冊子」は、観覧者のために展示された著作物を解説又は紹介することを目的とする小型のカタログ、目録又は図録等を意味するものであるとされている。
イ 被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券が「小冊子」に該当すること
 本件では、訴外Cが一竹作品、工房作品の所有権を有し、被告は訴外Cから許諾を受けて、これらの作品を展示しているものである。そして、被告が作成する被告小冊子、被告パンフレット及び被告特別割引券は、いずれも観覧者のために展示された著作物を解説又は紹介することを目的とする小型のカタログ、目録又は図録であり、それ自体が独立して鑑賞の対象となるものではない。
 具体的にみると、まず、被告小冊子は「ITCHIKUKUBOTAARTMUSEUM」と題し、一竹作品、工房作品等を含む展示品及び美術館の紹介の冊子である。被告作品集が136頁であるのに対し、被告小冊子は28頁と各段に少なく、被告小冊子が観賞用の図書として販売されているものと同様の価値を有するとはいえない。展示品の紹介の方法も実際に展示されている様子を撮影した写真が主である。
 また、被告パンフレット(甲23の1ないし7)及び被告特別割引券(甲24)は、美術館の所在地や展示内容の紹介が大半を占めており、一竹作品ないし工房作品の写真はわずかに三つ折表面の2分の1ほど、すなわち全体の12分の1を占めるにすぎない。そして、その写真も着物の柄をデザイン的に接写して利用したものであり、鑑賞の対象とはいえない。
 したがって、いずれも著作権法47条の「小冊子」に該当し、著作権侵害とはならない。
(原告らの主張)
 被告は、被告小冊子、被告パンフレット及び被告特別割引券が著作権法47条の「小冊子」に該当し、一竹作品及び工房作品をこれらに利用することが適法であると主張する。
 しかし、第1に、被告パンフレット(甲23)は、一竹作品を単に表紙デザインとして用いるだけであり、掲載作品(例えば、日本語版であれば「華鳥」)について何らの解説や紹介をしていない。したがって、被告パンフレット(甲23)は、「著作物を解説又は紹介することを目的」とする小冊子に該当しない。
 第2に、たとえ、観覧者に頒布されるものであっても、紙質、判型、作品の複製態様等を総合して、複製された作品の鑑賞用の図書として販売されているものと同様の価値を有するものは、同条所定の小冊子に含まれない。被告小冊子(甲11)は、各一竹作品の複製態様からして、観賞用の図書として販売されている被告作品集(甲9)と同様の価値を有するから、「小冊子」に該当しない。すなわち、被告小冊子は、一竹作品22点を上質な紙にオールカラーで掲載している。また、22点のうち4点(2頁目、5頁目、8頁目及び裏表紙)は1頁サイズ、1点(20頁目)は2/3頁サイズ、1点(19頁目)は1/3頁サイズとなっており、一見して一竹作品の細部を鮮明に鑑賞することができる。実際、その掲載態様は、作品の観賞用の図書として販売されている被告作品集(甲9)のそれと何ら変わりがない。したがって、被告パンフレット(甲23)は、「小冊子」に該当しない。
 第3に、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されるものは「小冊子」に含まれない。ところが、日本語版以外の被告パンフレットは、被告HP上にアップロードされており(甲46)、観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布されているから、やはり「小冊子」には該当しない。また、被告特別割引券(甲24)は、観覧の有無にかかわらず、美術館外(例えば、美術館近くのレストラン「紅葉亭」(甲24))で多数人に配布されているものであるから、やはり「小冊子」に該当しない。
(7)争点7(著作権法32条1項の抗弁の成否)
(被告の主張)
ア 著作権法32条1項の要件
 著作権法32条1項は、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲である引用については、権利制限規定の対象としている。同条の引用該当性につき、従来の判例及び裁判例は「明瞭区別性」及び「主従関係」という2要件によって判断していた(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁。以下「2要件説」という。)。他方、近時の裁判例の主流は、条文に即して、引用が「公正な慣行に合致」し、「引用の目的上正当な範囲内」にあるかによって判断している。具体的には、利用の目的、方法、態様、利用される著作物の種類や性質、著作権者に及ぼす影響の有無・程度を総合的に考慮して、引用該当性を判断している(以下「総合考慮説」という。)。
 被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ、被告Facebookへの投稿は、以下のとおり、いずれの立場からも「引用」に該当するものである。
イ 被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ、被告Facebookへの投稿が「引用」に該当すること
(ア)2要件説
a 明瞭区別性
 被告の各利用は、言語の著作物である説明文と美術の著作物である一竹作品を組み合わせたものであり、明瞭に区別できる。
b 主従関係
 被告小冊子、被告パンフレット及び被告特別割引券はいずれも美術館及び展示品を紹介するものであり、一竹作品の画像はあくまでその説明のために利用されている。被告展示案内チラシや被告イベント案内チラシ及び被告Facebookへの投稿も、同様に美術館での展示やイベントを告知することが主なのであって、画像の利用はこれを補足するために利用されているにすぎない。
c 小括
 したがって、2要件説の下では被告の各利用は引用として適法である。
(イ)総合考慮説
 被告の利用方法は、観覧者に対して美術館での展示品の解説を行う目的(被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券)あるいは美術館の展示又はイベントの告知を行う目的(被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ、被告Facebookへの投稿)で作成されている。上記のとおり、美術の著作物等の展示による複製が権利制限の対象となっている趣旨からすれば、展示品の解説を行い、また美術館の展示の告知を行なう目的は「引用の目的上正当な範囲」にあるといえる。そして、利用の方法、態様についてみると、いずれの利用方法も一竹作品・工房作品を大幅に縮小し、また解像度を下げて利用しているものであり、独立して鑑賞の対象や取引の対象となり得る品質を備えていない。
 また、著作権者に及ぼす影響の有無・程度についてみると、そもそも、着物の展示は、所有者である訴外Cの許諾を得た被告がそもそも適法に行い得るものである。そして、被告の各利用方法は、美術館の展示品を解説する限度や美術館の展示やイベントを告知する限度で作成されており、独立して鑑賞の対象や取引の対象となるような品質を備えていない以上、原告らの権利に影響を及ぼすことはほぼないといえる。したがって、被告の利用方法によって原告らに及ぼす影響は皆無である。
 以上から、いわゆる総合考慮説の立場からも、被告の各利用は引用として適法である。
(原告らの主張)
 被告は、被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ及び被告Facebookへの投稿が、「引用」(32条)に該当するから適法であると主張する。
 しかし、第1に、被告小冊子(甲11)には、一竹作品を引用する被告の主張ないし著作物は存在しない。被告小冊子(甲11)は、単に一竹作品を制限的ではあるが、鑑賞させる目的で作成されたものであることが明らかである。
 第2に、被告パンフレット(甲23)、被告特別割引券、被告展示案内チラシ(甲25)、被告イベント案内チラシ(甲26)、被告Facebook(甲27)への投稿は、いずれも専ら美術館への顧客吸引が目的である。一竹作品を引用する被告の主張ないし著作物は、そこには存在しないから、被告パンフレット(甲23)等の目的ではあり得ない。
 したがって、上記のいずれの利用も、著作権法32条1項に規定する引用には該当しない。
(8)争点8(損害額等)について
(原告らの主張)
 被告は、故意又は過失により、前記著作権及び著作者人格権侵害行為を行い、原告らは、これにより損害を被った。
 原告らは、主位的に、@被告作品集及び被告小冊子について、著作権法114条1項に基づく損害額を主張し、A被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ及び被告石鹸について、著作権法114条2項に基づく損害額を主張し、B被告シール、被告入場券、被告しおり、被告ポスター、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ、被告Facebook及び被告HPについて、著作権法114条3項に基づく損害額を主張する。
 また、原告らは、仮に上記@又はAが認められない場合に備えて、予備的に、被告作品集、被告小冊子、被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ及び被告石鹸について、著作権法114条3項に基づく損害額を主張する。
 詳細は、別紙「損害額に関する当事者の主張」の「原告らの主張」欄記載のとおり。
(被告の主張)
 争う。上記@及びAの製品について、著作権法114条1項又は同条2項は適用されず、または、これらに基づく推定は覆滅される。
 したがって、被告は、売上の1%を基礎として、全品目を著作権法114条3項に基づき算定した額を主位的主張とし、使用料規程を基礎として著作権法114条3項に基づき全品目を算定した額を第1順位の予備的主張とし、さらに、原告らが主張する被告小冊子、被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ、被告石鹸について、著作権法114条2項の適用がある場合に、実利益額に基づいた算定額を第2順位の予備的主張とする。
 詳細は、別紙「損害額に関する当事者の主張」の「被告の主張」欄記載のとおり。
(9)争点9(消滅時効の成否)
(被告の主張)
 原告Aは、平成24年に、被告の担当者である訴外Gに対し、一竹美術館で被告が販売している商品について、販売中止の申入れを行なっている。そうすると、遅くとも平成24年には、原告Aは一竹作品の各利用方法について知っていたことは明らかである。したがって、平成28年3月28日の被告への通知から3年前の平成25年3月28日以前の損害賠償請求権については、全て消滅時効が完成している。
(原告らの主張)
 原告Aは、平成24年に、被告に対して、商品販売中止の申入れを行っていない。そもそも、原告Aは、平成26年4月に訴外Gからモスクワでの展示会で原告らの写真を無断使用している事実を発見するまで、訴外Cないし被告が原告らの著作物を無断使用しているとは夢想だにしなかった。それ以降、訴外Cないし被告の侵害に注意するようになり、また対策を原告代理人に相談するに至ったものである。よって、本件で、損害賠償請求権について消滅時効が成立する余地はない。
(10)争点10(差止めの必要性)
(原告らの主張)
 被告は、現在に至るまで、被告入場券、被告しおり、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、及び被告HPについて侵害行為を継続しているから、差止めの必要性がある。
(被告の主張)
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(著作物性の有無)について
(1)制作工程写真及び美術館写真の著作物性について
ア 制作工程写真について
 制作工程写真は、別紙「制作工程写真目録」記載のとおり、故一竹による「辻が花染」の制作工程の各場面を撮影したものであるところ、これら制作工程写真の目的は、その性質上、いずれも制作工程の一場面を忠実に撮影することにあり、そのため、被写体の選択、構図の設定、被写体と光線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず、誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって、撮影者の個性が表れないものというべきである。したがって、制作工程写真は、いずれも著作物とは認められない。これに反する原告らの主張は採用できない。
イ 美術館写真について
 美術館写真は、別紙「美術館写真目録」記載のとおり、一竹美術館の外観又は内部を撮影したものであるところ、これら美術館写真の目的は、その性質上、いずれも一竹美術館の外観又は内部を忠実に撮影することにあり、そのため、被写体の選択、構図の設定、被写体と光線との関係等といった写真の表現上の諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず、誰が撮影しても同じように撮影されるべきものであって、撮影者の個性が表れないものである。したがって、美術館写真は、いずれも著作物とは認められない。これに反する原告らの主張は採用できない。
(2)制作工程文章の著作物性について
 制作工程文章は、別紙「制作工程文章目録」記載のとおり、「辻が花染」の各制作工程を説明したものである。その目的は、各制作工程を説明することにあるため、表現上一定の制約はあるものの、制作工程文章が、同様に「辻が花染」の制作工程について説明した故一竹作成の文章(甲41)とも異なっていることに照らしても、各制作工程文章の具体的表現は、その作成者の経験を踏まえた独自のものとなっており、作成者の個性が表現されているといえるから、制作工程文章は全体として創作性があり、著作物と認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
(3)旧HPコンテンツの著作物性について
 旧HPコンテンツは、別紙「旧HPコンテンツ目録」記載のとおりであり、旧HPコンテンツ1は「辻が花染」の歴史的説明、旧HPコンテンツ2は故一竹と「辻が花染」との関わり、旧HPコンテンツ3はフランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージの和訳、旧HPコンテンツ4はスミソニアン国立自然史博物館からの感謝状の和訳である。旧HPコンテンツ1及び2はいずれも歴史的事実に関する記述ではあるものの、その事実の取捨選択、表現の仕方には様々なものがあり得、その具体的表現には筆者の個性が表れているといえるから、創作性があり、著作物と認められる。また、旧HPコンテンツ3及び4はいずれも仏語ないし英語の翻訳であるが、翻訳の表現には幅があり、用語の選択や訳し方等その具体的表現に翻訳者の個性が表れているといえるから、創作性があり、著作物と認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 争点2(著作権及び著作者人格権の主体)について
(1)制作工程文章の著作権及び著作者人格権の主体
 制作工程文章は、故一竹が開発した「一竹辻が花」という独自の染色技術を用いた着物の制作工程を説明したものであり、その性質上、「一竹辻が花」の技法に精通した者が作成したものと考えられること、前記前提事実(2)イのとおり、制作工程文章は、訴外一竹辻が花が平成3年に出版した欧州巡回作品集(甲5)に掲載されているところ、訴外一竹辻が花の代表は原告Aが務めていたこと(甲50)、以上の事実からすれば、制作工程文章は原告Aが作成したものであり、原告Aが著作権及び著作者人格権を有しているものと認められる。
 これに対して、被告は、欧州巡回作品集の奥付の著作権表示が訴外一竹辻が花であり、原告Aが著作者であることを示す客観的証拠はないこと、訴外一竹辻が花の職務著作に当たることなどを主張するが、奥付の著作権表示が訴外一竹辻が花であるとしても、それは編集著作物としての欧州巡回作品集の著作権者を表示しているにすぎないと考えられるし、また、個々の著作物に原告Aが著作権者であることを示す表示等がなくても、原告Aが自己の著作物にかかる表示を常に行っていたといった事情を認めるに足りる証拠もないから特に不自然ではなく、上記認定に反する証拠はない。また、訴外一竹辻が花の職務著作に当たることを認めるに足りる証拠もない。よって、被告の主張は採用できない。
(2)旧HPコンテンツの著作権及び著作者人格権の主体
 旧HPコンテンツは、前記前提事実(2)エのとおり、原告工房が一竹美術館を運営していた時に作成され、同美術館のホームページ(旧HP)に掲載されたものであること、また、特に旧HPコンテンツ1及び2については、「辻が花染」、あるいは故一竹と「辻が花染」との関わりを理解している者が作成したものと考えられることからすれば、旧HPコンテンツは原告Aが作成したものであり、原告Aが著作権及び著作者人格権を有しているものと認められる。
 これに対して、被告は、原告Aが作成したことを裏付ける客観的事実は何ら示されていないこと、旧HPには著作権者として「Itchiku Tsujigahana Co.,Ltd」と表示されていること、原告らの主張する作成経緯が事実であるとした場合、旧HPコンテンツは職務著作(著作権法15条1項)の要件を満たすことを主張するが、上記のとおり、旧HPコンテンツは原告Aが作成したものと合理的に推認できるし、「Itchiku Tsujigahana Co.,Ltd」との表示は、旧HPの各ページのレイアウトを含む編集著作物に対する著作権者を示すもので、必ずしも個々の文章等の著作権者を示すものではないと考えられる。また、訴外一竹辻が花の職務著作に当たることを認めるに足りる証拠はない。よって、被告の主張は採用できない。
3 点3(複製等の成否)について
(1)制作工程文章について
 被告作品集の制作工程に関する文章と制作工程文章の表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解すべきである。また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきである(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 被告作品集130−131頁(甲9)と制作工程文章を別紙「原被告作品対比表」記載1のとおり比較対照すると、被告作品集130−131頁の制作工程に関する各文章は、制作工程文章1ないし7及び9の各文章と全く同一か、又はほとんど同一であり、一部改変され、相違点はあるものの、全体として制作工程文章の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。よって、被告は被告作品集130−131頁において制作工程文章1ないし7及び9を複製ないし翻案したものと認められ、複製権ないし翻案権を侵害する。そして、上記改変は著作者の意に反する改変といえるから、同一性保持権を侵害する。
 これに対して、被告は、両各文章は創作性のない部分について同一性を有するにすぎず、複製にも翻案にも当たらないと主張するが、上記のとおり、制作工程文章の創作的部分において同一性が認められるから、被告の主張は採用できない。
(2)旧HPコンテンツについて
ア 被告作品集5頁の文章と旧HPコンテンツ1及び2との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 被告作品集5頁(甲9)と旧HPコンテンツ1及び2を別紙「原被告作品対比表」記載2のとおり比較対照すると、被告作品集5頁の「「辻が花」とは室町時代に・・・される説が有力です。」との部分は、「名称」が「名前」とされ、「忽然と」が付加されたほかは、旧HPコンテンツ1と全く同一である。また、被告作品集5頁の「一竹は、辻が花との初めての・・・31歳で無事復員。」との部分は、旧HPコンテンツ2の一部分を要約したもので、一部改変されているものの、その表現上の本質的特徴を直接感得することができる。そうすると、被告作品集5頁の上記各部分はそれぞれ旧HPコンテンツ1及び2を複製ないし翻案したものと認められ、複製権ないし翻案権を侵害する。そして、上記改変は著作者の意に反する改変といえるから、同一性保持権を侵害する。
イ 被告パンフレットと旧HPコンテンツ1及び2との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 被告パンフレット日本語版(甲23の1)と旧HPコンテンツ1及び2を別紙「原被告作品対比表」記載3のとおり比較対照すると、被告パンフレットの「辻が花染め」との表題及び文章は、旧HPコンテンツ1とほとんど同一であり、一部改変しているものの、その表現上の本質的特徴を直接感得することができる。また、被告パンフレットの「久保田一竹と一竹辻が花」との表題及び文章は、旧HPコンテンツ2を一部改変しつつ要約したもので、その表現上の本質的特徴を直接感得することができる。そうすると、被告パンフレットの上記各文章はそれぞれ旧HPコンテンツ1ないし2を翻案したものと認められ、翻案権を侵害する。そして、上記改変は著作者の意に反する改変といえるから、同一性保持権を侵害する。
ウ 被告特別割引券と旧HPコンテンツ2との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 被告特別割引券(甲24)と旧HPコンテンツ2を別紙「原被告作品対比表」記載4のとおり比較対照すると、被告特別割引券の「久保田一竹と一竹辻が花」との表題及び文章は、旧HPコンテンツ2をわずかに改変しながら要約したもので、その表現上の本質的特徴を直接感得することができる。そうすると、被告特別割引券の上記文章は旧HPコンテンツ2を翻案したものと認められ、翻案権を侵害する。そして、上記改変は著作者の意に反する改変といえるから、同一性保持権を侵害する。
エ 被告HPと旧HPコンテンツ1、3及び4との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 被告HP(甲28)と旧HPコンテンツ1、3及び4を別紙「原被告作品対比表」記載5のとおり比較対照すると、被告HPの「一竹辻が花染め」とのページに記載されている文章は、「【辻が花染め】とは、」の後の文章が旧HPコンテンツ1と全く同一である。また、被告HPの「略歴」における「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ」との表題及び文章は旧HPコンテンツ3と、同ページの「スミソニアンよりの感謝状」との表題及び文章は旧HPコンテンツ4と、それぞれ全く同一である。そうすると、被告HPの上記各文章は、旧HPコンテンツ1、3ないし4をそれぞれ複製したものと認められ、複製権及び公衆送信権を侵害する。なお、改変はされていないから、同一性保持権の侵害は認められない。
オ 被告の主張について
 被告は、被告作品集、被告パンフレット、被告特別割引券、被告HPの各文章との同一性がある部分は創作性のある表現ではないから、複製にも翻案にも当たらないと主張するが、前記のとおり、被告作品集等の各文章とは創作性のある表現について同一性があると認められるから、被告の主張は採用できない。
(3)著作権法113条6項所定の著作者人格権侵害について
 なお、原告Aは、前記前提事実(4)ク、ケ記載の被告の行為が、わさび・石鹸という日常品に一竹作品を縮小してラベルとして貼り付けるというもので、故一竹の名誉・声望を害するから、著作者人格権侵害とみなされる旨主張するが、原告Aは、一竹作品の著作者ではなく、著作者人格権を有しないから、上記主張は採用できない。
4 争点4(明示又は黙示による利用許諾の有無)について
(1)一竹作品及び工房作品の利用許諾の有無
ア 明示の利用許諾の有無
(ア)被告は、原告工房の再生計画案(乙8)、原告工房及び訴外一竹辻が花と被告との不動産等売買等契約書(乙9)、及び附属合意書(乙11)の内容に照らし、原告らは、着物(一竹作品及び工房作品)の引渡し日以降に、訴外ICFが着物を撮影する方法によって、着物の著作物を複製することを許諾し、かつ、美術館の運営に必要な範囲で利用することを明示的に許諾したと主張する。
(イ)しかしながら、そもそも上記再生計画案において一竹美術館(土地、建物及び展示作品)の買受予定者とされ、実際に不動産等売買等契約書及び附属合意書の締結の主体となったのは訴外ICFであるところ、仮に同契約書等により、一竹作品及び工房作品の著作権について利用許諾がされていたとしても、訴外ICFから一竹美術館を買い受けた被告が当然に利用許諾を受けることにはならない。
(ウ)また、被告が根拠として主張する原告工房の再生計画案(乙8)の計画内容、並びに不動産等売買等契約書(乙9)及び附属合意書(乙11)の条項を検討しても、原告らが、訴外ICFに対して、一竹作品及び工房作品の著作権について明示的に利用許諾したことを認めるに足りない。その理由は以下のとおりである。
a 再生計画案(乙8)では、展示作品を含む一竹美術館の買受予定者(訴外ICF)が「久保田一竹美術館」の名称を継続使用し、同美術館でのイベントの実施や物品販売等について再生債務者である原告工房と緊密な連携を保ちながら同美術館の運営を行っていくことを予定している旨の記載があり、訴外ICFが原告工房と連携しながら一竹美術館を継続して運営していく予定であったことが認められるものの、そのことから直ちに一竹美術館の展示作品の著作権について訴外ICFへの利用許諾が予定されていたものとはいえない。
b また、不動産等売買等契約書(乙9)5条3項は、原告工房が訴外ICFに対し、美術館運営に係る施設の維持・管理等に関する契約書類等を引き渡すこと等について規定したもので、美術館の展示作品の著作権利用については何ら規定していない。
c 附属合意書(乙11)6条は、原告工房が、訴外ICFが一竹美術館の運営をする場合には、原告工房の有する「一竹辻が花」等の登録商標を通常必要とする範囲内において無償使用することを承諾する旨の規定であるところ、これは登録商標の使用許諾に関する規定であって、美術館の展示作品の著作権利用については何ら規定していない。
d 不動産等売買等契約書(乙9)26条は、一竹美術館の運営への協力など同契約に定めのない事項については、訴外ICFと原告ら及び訴外一竹辻が花が相互に誠意をもって協議する旨を、また、附属合意書(乙11)4条1項は、訴外ICFが一竹美術館を運営する場合には、訴外ICFと原告工房は、相手方の要請に基づき、誠意をもって適切な協力を行う旨を、それぞれ規定するところ、これらは一竹美術館の運営協力について誠意をもって協議することや、相手方の要請に 基づいて適切な協力を行うことを規定するのみで、美術館の展示作品の著作権利用については何ら規定していない。
e 附属合意書(乙11)4条2項は、原告工房は、訴外ICFが一竹美術館を運営するために必要が生じた場合には、原告工房の要請に従い、誠意をもって美術館運営に必要な情報や資料等の提供、適切な助言や催し物等への参加その他の協力等を行う旨を、また、同5条は、原告工房は一竹美術館等での土産物その他の物品販売等について訴外ICFから要請があった場合には、訴外ICFと協議の上、全面的に協力する旨を、それぞれ規定し、協力内容を具体的に定めているものの、やはり美術館の展示作品の著作権利用については何ら規定していない。
f 附属合意書(乙11)7条は、訴外ICFと原告工房は、展示作品の引渡日(当日を含む。)以降に撮影される展示作品の写真等の著作権は訴外ICFが有することを確認する旨、及びその著作権の帰属又はその利用については訴外ICFと原告工房との間で別途協議して定めることができる旨を規定しており、展示作品の写真の著作権の帰属及びその利用について定めているが、展示作品自体の著作権の帰属及びその利用については何ら規定していない。
(エ)結局、原告らが、被告に対し、一竹作品及び工房作品の著作権を美術館の運営に必要な範囲で利用することについて明示的に利用許諾しているものとは認めるに足りる証拠はないから、被告の主張は採用できない。
イ 黙示の利用許諾の有無
 被告は、原告Aが被告に対し、平成24年及び平成26年に被告が美術館で製造・販売している商品の一部に関し、原告Aの権利を侵害する旨の申入れを行っているが、その際に、被告が訴外ICFの撮影に係る写真利用して商品を作成し美術館で販売していたことについては何らの指摘もしておらず、むしろ、申入れが、@原告Aが撮影した写真の利用及びA原告工房の事業と直接関連する布製品の製造・販売に限定されていることから、遅くとも平成26年までには、原告らは、被告の利用方法を黙示的に許諾していたと主張する。
 しかしながら、単に権利行使をしていなかったことからただちに黙示的な許諾があったものと認めることはできず、そのほか原告らが積極的に被告の行為を容認していたといった事情を認めるに足りる証拠はないから、原告らが被告による著作権利用を黙示的に許諾していたことを認めるに足りず、被告の主張は採用できない。
(2)旧HPコンテンツの利用許諾の有無
ア 明示の利用許諾の有無
 被告は、旧HPコンテンツは、一竹辻が花染めの説明や先代故一竹の略歴などであり、「美術館運営に要する必要な情報や資料等」(乙11・4条2項)に当たり、美術館の経営譲渡の際に、訴外ICF並びに訴外Cに提供された旨主張する。
 しかしながら、仮に、旧HPコンテンツが附属合意書(乙11)4条2項の「美術館運営に要する必要な情報や資料等」に当たるとしても、前記(1)アのとおり、同条項は、当該資料等の提供等の協力について規定するのみで、当該資料等の著作権利用については何ら規定していない。また、同条項は、協力等の具体的な内容・範囲等は、その都度、訴外ICFと原告工房との間で別途、協議して定めるとする旨規定するところ、協議により旧HPコンテンツの著作権利用について訴外ICFと原告工房との間で合意されたといった事情も認められない。
 したがって、上記附属合意書の条項は被告の主張を裏付けるものとはいえず、そのほか旧HPコンテンツの明示的な利用許諾があったことを認めるに足りる証拠はないから、被告の主張は採用できない。
イ 黙示の利用許諾の有無
 被告は、原告Aが真に旧HPコンテンツの著作権者であるとすれば、原告工房が平成22年に訴外ICFに美術館を譲渡した際に、旧HPコンテンツの利用中止を求めることも自由にできたはずであるが、平成28年に至るまで約6年間、訴外ICF及び被告の旧HPコンテンツの利用に何らの異議を申し立てていないことから、旧HPコンテンツについて黙示の許諾があったと主張する。
 しかしながら、前記(1)イと同様、単に権利行使をしていなかったことからただちに黙示的な利用許諾があったものと認めることはできず、そのほか原告らが黙示的に利用許諾していたことを認めるに足りる証拠はないから、被告の主張は採用できない。
5 争点5(権利濫用の有無)について
 被告は、要旨、原告らは訴外Cによる美術館と展示品等の一括購入により十二分に利益を受けているところ、訴外Cが継続的に美術館への資金援助を行う一方、原告らは、付属合意書(乙11)において約した美術館経営等への協力を行わず、著作権侵害を主張して本訴による差止請求及び損害賠償請求を行っているから、本訴請求は、利益の実質的な二重取りであり、権利濫用に当たる旨主張する。
 しかしながら、不動産等売買等契約書(乙9)及び附属合意書(乙11)により売買の対象とされたのは一竹美術館の土地建物と展示作品の所有権であり、これに著作権は含まれておらず、また、前記4(1)ア(ウ)のとおり、その利用許諾もなされていない。そして、上記売買の後、訴外Cの経済的出捐で一竹美術館の維持・運営が行われており、それにより一竹作品等の離散が防止されている面があるとしても、そのことから直ちに、原告らが有している着物作品等の著作権及び著作者人格権の権利行使が制限されることにはならない。原告らが著作権侵害に基づいて本訴請求を行うことが利益の実質的な二重取りであるとの指摘は当たらず、そのほか原告らの権利行使が権利濫用に当たるものと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告の主張は採用できない。
6 争点6(著作権法47条の抗弁の成否)について
 被告は、被告小冊子、被告パンフレット及び被告特別割引券が著作権法47条の「小冊子」に当たると主張する。
 そこで検討するに、著作権法47条の「小冊子」とは、観覧者のために展示作品を解説又は紹介することを目的とする小型のカタログ、目録又は図録等をいい、観覧者に頒布されるものであっても、紙質、装丁、版型、展示作品の複製規模や複製態様、展示作品の複製部分と解説・資料部分の割合等を総合考慮して、観賞用の画集や写真集等と同視し得るものは「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。また、同条における「小冊子」は、あくまでも「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであることを前提としているから、著作物の解説又は紹介以外を主目的とするものや、実際に作品を観覧する者以外に配布されるものは、「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、被告小冊子(甲11)は、A4程度の大きさの上質紙に、一竹作品22点を印刷しているところ、そのうち4点は1頁サイズ、1点は2/3頁サイズ、1点は1/3頁サイズとなっており、一竹作品の細部を鮮明に鑑賞できるものとなっている一方、解説部分は小さな文字で、わずかに記載されているだけであり、観賞用の作品集である被告作品集(甲9)と比較しても、着物作品の掲載の仕方が似ている。また、被告小冊子には、一竹作品のほかにも、一竹美術館の外観や敷地、着物作品以外の展示品等も掲載されており、全体として一竹美術館自体を紹介する要素が強いものと認められる。そうすると、被告小冊子は観賞用の作品集と同視し得る上、著作物の解説又は紹介以外を主目的とするものといえるから、著作権法47条の「小冊子」には当たらない。
 また、被告パンフレット(甲23)は、一竹作品を表紙デザインとして使用しているところ、作品についての解説や紹介は一切記載されていない。また、証拠(甲46)によれば、被告パンフレットのうち日本語以外のものについては、被告HP上にアップロードされているものと認められ、実際に作品を観覧する者以外に配布されている。そうすると、被告パンフレットは、「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものではないから、著作権法47条の「小冊子」には当たらない。
 さらに、被告特別割引券(甲24)は、割引券という性質上、実際に作品を観覧する者か否かにかかわらず、美術館外部で多数人に配布されるものであり、その「お取り扱い店印」欄の記載によれば、現実にも美術館周辺の飲食店等において配布されているものと認められる。そうすると、「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものではないから、著作権法47条の「小冊子」には当たらない。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用できない。
7 争点7(著作権法32条1項の抗弁の成否)について
 被告は、被告小冊子(甲11)、被告パンフレット(甲23)、被告特別割引券(甲24)、被告展示案内チラシ(甲25)、被告イベント案内チラシ(甲26)及び被告Facebookへの投稿(甲27)における一竹作品等の複製は、著作権法32条1項の「引用」に当たると主張する。
 そこで検討するに、著作権法32条1項所定の適法な引用と認められるためには、@引用されるのが公表された著作物であること、A引用であること、B公正な慣行に合致すること、C報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること、が必要である。
 これを本件についてみるに、被告小冊子、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ及び被告Facebookは、いずれも一竹美術館の顧客誘引目的に作成されたものであるところ、それらにおける一竹作品等の利用は、一竹美術館に顧客を誘引するために、一竹作品が美術館の展示品であることを示すもので、それ自体が主たる内容として用いられているものである。旧HPコンテンツの利用も、それ自体を主たる内容として掲載するものである。そうすると、これらはいずれも、そもそも引用に当たらないか、少なくとも公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われているものとは認められないから、著作権法32条1項の「引用」に当たらない。
 したがって、被告の主張はいずれも採用できない。
8 争点8(損害額等)について
 以上のとおり、制作工程写真及び美術館写真を除く部分について、被告による原告らの著作権(複製権、譲渡権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害が認められる(被告わさびチューブ及び被告石鹸についての著作者人格権侵害を除く。)ところ、既に説示したところに照らせば、被告にはこの点につき少なくとも過失があったと認められる。そこで、以下、原告らの損害額について検討する。
(1)被告作品集
ア 著作権法114条1項の適用の有無
 原告らは、被告作品集の販売に係る損害額について原告作品集の利益額に基づき114条1項の適用があると主張するのに対し、被告はこれを争うため、以下検討する。
(ア)原告作品集の販売主体及び原告らの販売能力
 原告作品集の奥付には「??1998 活齟|辻が花」と記載され、原告作品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいて販売されていることが認められる(甲8、29)ところ、訴外一竹辻が花(昭和59年5月8日に「株式会社オピューレンス」から商号変更)は平成22年まで原告Aが代表者を務めていた会社であり(甲50の1及び2)、原告工房も含めて実質的には原告Aらの経営によるものと認められ、その販売主体は実質的には原告らとみることができる。また、原告作品集の制作には、故一竹を引き継いで「辻が花染」を制作する原告Aの関与が大きいものと考えられることも併せ考慮すれば、原告らには原告作品集の販売能力があると認められる。
 これに対し、被告は、そもそも原告らが原告作品集を販売しておらず、販売能力がないから、被告作品集への114条1項の適用の基礎を欠くと主張するが、上記説示に照らして採用できない(なお、被告は、原告作品集の奥付に「制作(株)便利堂」と記載されていること(甲8)も指摘するが、この点は販売能力とは関係がない。)。
(イ)原告作品集と被告作品集の代替性
 原告作品集と被告作品集は、その大部分において、着物作品(部分を含む。)を1頁に大きく配置して紹介するとともに、観賞の対象とするものであり、そのほかの部分においても、故一竹の略歴、制作工程の説明、美術館の紹介が記載されており、内容は類似するものと認められる(甲9、51)。また、上記内容の共通性に照らして、着物作品の観賞を主としつつ、故一竹と「辻が花染」について理解を深めるという利用目的・利用態様も基本的には同一であると認められる。そうすると、後記のとおり、販売ルートの違いはあるものの、両作品集には代替性が認められる。被告は、内容、利用目的・利用態様及び販売ルートの相違から、原告作品集と被告作品集には代替性がないと主張するが、上記説示に照らして採用できない。
(ウ)以上からすれば、被告作品集の販売に係る損害額について原告作品集の利益額に基づき著作権法114条1項の適用があるというべきである。
イ 原告らが販売することができないとする事情(推定覆滅事情)
 被告は、販売市場の相違、被告の営業努力、被告作品集の顧客吸引力により、被告作品集の譲渡数量の全数について販売することができないとする事情があると主張する。
 そこで検討するに、原告作品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいてインターネット上で販売されている(甲29)のに対し、被告作品集は一竹美術館のショップ内で販売されており(前記前提事実(4)ア)、顧客層に一定の違いがあると考えられること、また、被告作品集は、美術館のショップにおいてまさに一竹作品等を観賞した者に対して販売されていることにより、販売態様の異なる原告作品集とは顧客誘引力に違いがあると考えられること、以上の事情を踏まえると、被告作品集の30%については、原告らが販売することができないとする事情があったと認めるのが相当である。
ウ 損害額
 以上を前提に損害額を算定する。
(ア)逸失利益
a 譲渡数量
 前記前提事実(4)アのとおり、被告は、原告作品集を、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、日本語版につき3359冊、英語版につき54冊を販売し、また、日本語版につき674冊、英語版につき38冊を無償配布した(合計4125冊)。
b 1冊あたりの原告らの利益額
 証拠(甲29、30)によれば、原告作品集は、1冊3500円で販売され、製造原価は1冊あたり1499円(小数点以下切り捨て。以下同じ。)と認められるから、一冊あたりの限界利益額は、2001円(3500円−1499円)と認められる。
c 逸失利益
 よって、平成28年4月までに原告らに発生した逸失利益は、著作権法114条1項に基づき、577万7887円(4125冊×0.7×2001円)と推定される(推定覆滅後)。
 このうち、原告Aの逸失利益は、被告作品集に掲載されている原告らの著作物計57点(一竹作品51点、工房作品4点、制作工程文章1点、旧HPコンテンツ1点)中、原告Aが著作権を有する著作物が53点であるから、著作物数で按分し、537万2421円である。
 原告工房の逸失利益は、被告作品集に掲載されている原告らの著作物57点中、原告工房が著作権を有する著作物が4点であるから、著作物数で按分し、40万5465円である。
(イ)購入費用
 証拠(甲9)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するため、被告作品集を3000円で購入したものと認められるから、同額の損害が発生した。
(ウ)慰謝料
 前記前提事実(4)ア、前記3(1)及び同(2)アのとおり、被告は、制作工程文章(1ないし7及び9)及び旧HPコンテンツ(1及び2)を一部改変して被告作品集に掲載しており、これは原告Aの意に反する改変といえるから、同一性保持権の侵害に当たる。その改変の内容、程度に照らし、原告Aが受けた精神的苦痛を慰謝するのに必要な金額は、制作工程文章及び旧HPコンテンツにつきそれぞれ5万円の合計10万円と認めるのが相当である。
(エ)合計
 以上より、被告による被告作品集の販売により、原告Aに547万5421円、原告工房に40万5465円の損害が発生した。
(2)被告小冊子
ア 著作権法114条1項の適用の有無
(ア)原告作品集の販売主体及び原告らの販売能力
 原告作品集の販売主体が原告らであること、原告らに販売能力があることは、前記(1)ア(ア)のとおりである。
(イ)原告作品集と被告小冊子の代替性
 被告小冊子は、一竹美術館を紹介することを主たる目的とした冊子と認められるが、一竹作品22点を掲載しており、それ自体を観賞することができるから、原告作品集と一定の代替性があるものと認められる。後記のとおり、被告が主張する内容、利用目的・態様、販売ルート等の相違は、原告らが販売することができないとする事情として考慮すべきものである。
(ウ)以上からすれば、被告小冊子の販売に係る損害額について原告作品集の利益額に基づき著作権法114条1項の適用があるというべきである。
イ 原告らが販売することができないとする事情(推定覆滅事情)
 被告は、販売市場の相違、被告の営業努力、被告作品集の顧客吸引力により、被告作品集の譲渡数量の全数について販売することができないとする事情があると主張する。
 そこで検討するに、原告作品集は訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいてインターネット上において3500円で販売されているのに対し、被告小冊子は一竹美術館のショップ内において500円で販売され、また一部は旅行代理店やホテル等において(弁論の全趣旨)無料配布されており、顧客層や販売価格に相当の違いがあること、また、被告小冊子は原告作品集の5分の1程度の頁数であることに加え、一竹作品のほかにも、一竹美術館の外観や敷地、着物作品以外の展示品等も掲載されており、全体として一竹美術館自体を紹介する要素が強く、作品集とは内容・性格がかなり異なるものと認められること(甲11)、原告自身も寄与率を15%と主張していること、以上の事情を踏まえると、被告小冊子の90%については、原告らが販売することができないとする事情があったと認めるのが相当である。
ウ 損害額
 以上を前提に損害額を算定する。
(ア)逸失利益
a 譲渡数量
 前記前提事実(4)イのとおり、被告は、被告小冊子を、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、日本語版につき3027冊、英語版1につき1781冊、英語版2につき425冊の合計5233冊を販売した。
b 1冊あたりの原告らの利益額
 前記(1)ウ(ア)bのとおり、一冊あたりの限界利益額は、2001円と認められる。
c 逸失利益
 よって、平成28年4月までに原告らに発生した逸失利益は、著作権法114条1項に基づき、104万7123円(5233冊×0.1×2001円)と推定される(推定覆滅後)。
(イ)権利侵害による支出
 証拠(甲11)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するため、被告小冊子1冊を500円で購入したものと認められるから、同額の損害が発生した。
(ウ)合計
 以上より、被告による被告小冊子の販売により、原告Aに104万7623円の損害が発生した。
(3)被告絵葉書、被告一筆箋及び被告ハンカチ
ア 著作権114条2項の適用の有無
 著作権者に、侵害者による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、著作権法114条2項の適用が認められると解すべきであり、著作権者と侵害者の販売経路等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である(知財高裁平成25年2月1日特別部判決参照)。
 証拠(甲29)によれば、原告らは、訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいて、スカーフ、ハンカチ、袱紗、パーティバッグ、小物入れ及び絵葉書を販売していることが認められる。
 そうすると、被告絵葉書、被告一筆箋及び被告ハンカチについては、上記原告らの販売商品との代替性が認められ、被告による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するものといえるから、著作権法114条2項の適用が認められる。一方で、被告カレンダー、被告クリアファイル、被告わさびチューブ及び被告石鹸については、上記原告らの販売商品とはおよそ異なるものであり、被告による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するものとはいえないから、著作権法114条2項の適用は認められない。
イ 定覆滅事情
 被告は、販売ルート、外観の相違から、原告らの商品と被告の商品との間には代替性がなく、被告の得た利益全部について損害の推定が覆滅されると主張する。
 そこで検討するに、原告らの商品は、訴外一竹辻が花のウェブサイトにおいて、絵葉書につき500円(8枚又は6枚セット)、ハンカチにつき1800円で販売されているのに対し、被告の商品は、一竹美術館のショップにおいて、被告絵葉書につき120円(1枚)、被告ハンカチにつき600円、被告一筆箋につき450円で販売されており、顧客層及び販売価格に一定の相違があること、ハンカチについては原告らの商品と被告の商品はデザイン、外観に相当の違いがあると認められること(甲16、29)、原告らは一筆箋を販売していないこと、被告の商品は美術館のショップにおいてまさに一竹作品等を観賞した者に対して販売されていることにより、販売態様の異なる原告の商品とは顧客誘引力に違いがあると考えられること、以上の事情を踏まえると、被告絵葉書、被告一筆箋、被告ハンカチの販売により得た利益の30%については、原告らの損害であるとの推定が覆滅するものと認めるのが相当である。
 上を前提に損害額を算定する。
ウ 被告絵葉書
(ア)逸失利益
 前記前提事実(4)エのとおり、被告は、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、被告絵葉書を販売価格1枚120円で6万8781枚販売した。
 被告絵葉書1枚あたりの限界利益は96円である(争いのない事実)。
 そうすると、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、著作権法114条2項に基づき、462万2083円(6万8781枚×96円×0.7)と推定される(推定覆滅後)。
(イ)購入費用
 証拠(甲13)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するために、被告絵葉書1枚を120円で購入し、同額の損害を被ったことが認められる。
(ウ)合計
 以上より、被告による被告絵葉書の販売により、原告Aに462万2203円の損害が発生した。
エ 被告一筆箋
(ア)逸失利益
 前記前提事実(4)オのとおり、被告は、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、被告一筆箋を販売価格450円で7717枚販売した。
 証拠(乙30)によれば、被告一筆箋の仕入額は215.24円であると認められるから、一枚あたりの限界利益額は234.76円(450円−215.24円)である。
 そうすると、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、著作権法114条2項に基づき、126万8150円(7717枚×234.76円×0.7)と推定される(推定覆滅後)。
(イ)購入費用
 証拠(甲14)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するために、被告一筆箋1枚を450円で購入したため、同額の損害が発生したことが認められる。
(ウ)合計
 以上より、被告による被告一筆箋の販売により、原告Aに合計126万8600円の損害が発生した。
オ 被告ハンカチ
(ア)逸失利益
 前記前提事実(4)キのとおり、被告は、平成26年4月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、被告ハンカチを販売価格600円で1729枚販売した。
 証拠(乙32)によれば、被告ハンカチの仕入額は472.23円であると認められるから、一枚あたりの限界利益額は127.77円(600円−472.23円)である。
 そうすると、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、著作権法114条2項に基づき、15万4640円(1729枚×127.77円×0.7)と推定される(推定覆滅後)。
(イ)購入費用
 証拠(甲16)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するために、被告ハンカチ1枚を600円で購入したため、同額の損害が発生したことが認められる。
(ウ)合計
 以上より、被告による被告ハンカチの販売により、原告Aに合計15万5240円の損害が発生した。
(4)その他の被告商品
ア 使用料相当額
 前記(1)ないし(3)以外の被告商品の販売等に係る損害については、著作権法114条3項に基づき算定する。同項の「受けるべき金銭の額に相当する額」については、東京美術倶楽部の使用料規程(甲31)(以下、単に「規程」という。)が美術の著作物及び言語の著作物の使用料の額を定めていること(1条参照)に照らし、同規程に基づいて算定するのが相当である。
 これに対して被告は、売上の1%が使用料相当額であると主張するが、何ら根拠のない主張であるから採用できない。
 また、被告は、東京美術倶楽部の管理委託契約約款(乙35)(以下、単に「約款」という。)8条1項によれば、手数料は利用料の2割の範囲内で定められるとされていることから、仮に同団体の料率を適用する場合には、手数料として20%が控除されるべきであると主張する。しかしながら、約款8条1項(「委託者が受託者に支払う報酬は、受託者が収受した使用料の20%以内で受託者が定めた率とする。」)は、著作権者である委託者が東京美術倶楽部に著作物の利用許諾の取次を委任した場合の報酬を定めるものである(同約款1条参照)から、単に同倶楽部の使用料規程を参照して使用料相当額を算定する場合には、控除する必要のないものである。よって、被告の主張は採用できない。
 以上を前提に、被告が販売する各商品について検討する。
イ 被告カレンダー
(ア)逸失利益
a 美術の著作物1点をカレンダーに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×7〜10%×(該当作品数÷全体収録作品数)」である(規程3条2(8)B)。使用料率については、中間値の8.5%とするのが相当である。
b 前記前提事実(4)ウのとおり、被告は、一竹作品11点及び工房作品2点の合計13点を被告カレンダーに複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、A4カレンダーにつき販売価格1700円、卓上カレンダーにつき販売価格1820円、ポスターカレンダーにつき販売価格2500円で販売した。制作部数については、それぞれ1770部、800部、150部と認められる(甲10)。
c 以上を踏まえた使用料相当額の算定は以下のとおりであり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
(a) A4カレンダー
 原告Aにつき21万6416円(1700円×1770部×8.5%×(11÷13))
 原告工房につき3万9348円(1700円×1770部×8.5%×(2÷13))
(b) 卓上カレンダー
 原告Aにつき10万4720円(1820円×800部×8.5%×(11÷13))
 原告工房につき1万9040円(1820円×800部×8.5%×(2÷13))
(c) ポスターカレンダー
 原告Aにつき2万6971円(2500円×150部×8.5%×(11÷13))
 原告工房につき4903円(2500円×150部×8.5%×(2÷13))
(d) 合計
 原告Aにつき34万8107円
 原告工房につき6万3291円
(イ)購入費用
 証拠(甲12)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するため、被告カレンダー(A4カレンダー)1部を1700円で購入したものと認められるから、同額の損害が発生した。
(ウ)合計
 以上より、被告による被告カレンダーの製作販売により、原告Aに34万9807円、原告工房に6万3291円の損害が発生した。
ウ 被告クリアファイル
(ア)逸失利益
a 美術の著作物1点をクリアファイルに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(規程3条2(8)A)。使用料率については、中間値の6.5%とするのが相当である。
b 前記前提事実(4)カのとおり、被告は、少なくとも一竹作品2点を1点ずつ2種類の被告クリアファイルに複製し、平成24年6月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、A4クリアファイルにつき販売価格350円で、A5クリアファイルにつき販売価格320円で販売した。制作部数は、A4クリアファイルについては少なくとも8958部(被告が販売した8487部及び平成28年4月時点の在庫数471部の合計)、A5クリアファイルについては2000部と認められる(甲10)。
c 以上を踏まえた使用料相当額の算定は以下のとおりであり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
(a) A4クリアファイル
 20万3794円(350円×8958部×6.5%)
(b) A5クリアファイル
 4万1600円(320円×2000部×6.5%)
(c) 合計
 24万5394円
(イ)購入費用
 証拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するため、被告クリアファイル(A4版)1部を350円で購入したものと認められるから、同額の損害が発生した。
(ウ)合計
 以上より、被告による被告クリアファイルの製作販売により、原告Aに24万5744円の損害が発生した。
エ 被告わさびチューブ
(ア)逸失利益
a わさびチューブは「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれらに類するもの」といえるから(被告も特に争わない。)、美術の著作物1点をわさびチューブに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条2(8)A)。使用料率については、中間値の6.5%とするのが相当である。
b 前記前提事実(4)クのとおり、被告は、一竹作品1点を被告わさびチューブに複製し、平成25年4月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格650円で販売した。制作部数については、1250個と認められる(甲10)。
c 以上を踏まえた使用料相当額の算定は以下のとおりであり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 5万2812円(650円×1250個×6.5%)
(イ)購入費用
 証拠(甲17)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するため、被告わさびチューブ1本を650円で購入したものと認められるから、同額の損害が発生した。
(ウ)慰謝料
 原告Aは、被告の著作権法113条6項該当行為により、原告Aには少なくとも10万円の精神的損害が発生したと主張するが、前記3(3)のとおり、原告Aは著作者ではなく著作者人格権を有しないから、原告Aの上記主張はその前提を欠き採用できない。
(エ)合計
 以上より、被告による被告わさびチューブの製作販売により、原告Aに5万3462円の損害が発生した。
オ 被告石鹸
(ア)逸失利益
a 石鹸は「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれらに類するもの」といえるから(被告も特に争わない。)、美術の著作物1点を石鹸に使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(規程3条2(8)A)。使用料率については、中間値の6.5%とするのが相当である。
b 前記前提事実(4)ケのとおり、被告は、一竹作品16点及び工房作品2点の合計18点を被告石鹸に複製し、平成27年3月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップにおいて、販売価格648円で1539個を販売した。制作部数については、1800個(18種類×100個)と認められ(甲10、15、18)、一竹作品を利用した石鹸は16種類で合計1600個、工房作品を利用した石鹸は2種類で合計200個と推認される。
c 以上を踏まえた使用料相当額の算定は以下のとおりであり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 原告Aにつき6万7392円(648円×1600個×6.5%)
 原告工房につき8424円(648円×200個×6.5%)
(イ)購入費用
 証拠(甲18)によれば、原告Aは、被告による侵害行為を特定し、本訴において侵害を立証するため、被告石鹸1個を648円で購入したものと認められるから、同額の損害が発生した。
(ウ)慰謝料
 原告らは、原告らにはそれぞれ少なくとも10万円の精神的損害が発生したと主張するが、前記エ(ウ)と同様、原告らの主張は採用できない。
(エ)合計
 以上より、被告による被告石鹸の製作販売により、原告Aに6万8040円、原告工房に8424円の損害が発生した。
カ 被告シール
 シールは「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれに類するもの」といえるから(被告も特に争わない。)、美術の著作物1点をシールに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」であるが、最低保証使用料は5000円である(規程3条2(8)A)。
 前記前提事実(4)コのとおり、被告は、工房作品1点を被告シールに複製し、平成27年9月から平成28年4月までの間、一竹美術館のショップで販売している被告ハンカチに貼付して、配布した。
 そうすると、販売価格はないため、上記算定式に基づく使用料は0円となり、使用料相当額は、最低保証使用料の5000円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告による被告シールの製作配布により、原告工房に5000円の損害が発生した
キ 被告入場券
 美術の著作物1点を入場券に使用する場合の使用料は、3/4頁以上の場合、3万部までが8500円であり、3万部を超える場合には5000部毎に800円が追加される(規程3条2(7)@)。
 前記前提事実(4)サ及び証拠(甲20)によれば、被告は、一竹作品1点を被告入場券に3/4頁以上の大きさで複製し、平成24年10月から現在まで、美術館入り口において入場者に対して配布しており、少なくとも20万枚を製作した。
 そうすると、使用料相当額は、3万5700円(8500円+800円×17万部÷5000部)であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告による被告入場券の製作配布により、原告Aに3万5700円の損害が発生した。
ク 被告しおり
 しおりは「入場券・チラシ・リーフレット・パンフレット等」に類するものといえるから、美術の著作物1点をしおりに使用する場合の使用料は、3/4頁以上の場合、3万部までが8500円である(規程3条2(7)@)。
 前記前提事実(4)シ及び証拠(甲21)によれば、被告は、一竹作品少なくとも4点を1点ずつ被告しおりに3/4頁以上の大きさで複製し、平成24年7月から現在まで、美術館入り口において入場者に対して配布しており、少なくとも2万5300部を製作した。
 そうすると、一竹作品4点の使用料相当額は、8500円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告による被告しおりの製作配布により、原告Aに8500円の損害が発生した。
ケ 被告ポスター
 美術の著作物1点を告知用ポスターに使用する場合、B2(515o×728mm)超B0(1030mm×1456mm)以下の場合、1000部までは3万7500円である(規程3条2(7)A)。
 前記前提事実(4)ス及び証拠(甲22)によれば、被告は、一竹作品1点をB2超B0以下の大きさの被告ポスターに複製し、美術館入り口近くにおいて、展示している。
 そうすると、一竹作品の使用料相当額は、3万7500円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告による被告ポスターの製作展示により、原告Aに3万7500円の損害が発生した。
コ 被告パンフレット
(ア)算定式
 美術の著作物1点をパンフレットに使用する場合の使用料は、1/2頁以上の場合、3万部までが5100円であり、3万部を超える場合には5000部毎に800円が加算される(規程3条2(7)@)。
 言語の著作物を展覧会の広報宣伝等に用いる場合の使用料は、「2000円×(総文字数÷200字(小数点以下切上げ))」である(3条3(7))。
(イ)前記前提事実(4)セ及び証拠(甲23)によれば、被告は、一竹作品4点及び工房作品2点の合計6点のうちいずれか1点を被告パンフレットに各1/2頁の大きさで複製し、また、旧HPコンテンツ1及び2(総文字数906字)を被告パンフレットに改変して複製し、平成24年6月から現在まで、美術館入り口において配布しており、少なくとも13万6000部を製作した。
(ウ)以上を踏まえた使用料相当額の算定は以下のとおりである。
a 一竹作品及び工房作品の使用料相当額
 2万2700円(5100円+800円×22(≒10万6000部÷5000部))
 被告パンフレット7種のうち、一竹作品を利用したパンフレットは5種、工房作品を利用したパンフレットは2種であるから、一竹作品の使用料相当額は1万6214円(2万2700円×5÷7)、工房作品の使用料相当額は6485円(2万2700円×2÷7)である。
b 旧HPコンテンツの使用料相当額
 1万円(2000円×5(≒906÷200字))
c 小計
 よって、原告Aの使用料相当額は合計2万6214円、原告工房の使用料相当額は合計6485円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
(エ)慰謝料
 前記前提事実(4)セ及び前記3(2)イのとおり、被告は、旧HPコンテンツ1及び2を一部改変して被告パンフレットに掲載しており、これは原告Aの意に反する改変といえ、同一性保持権の侵害に当たる。その改変の内容、程度に照らし、原告Aが受けた精神的苦痛を慰謝するのに必要な金額は5万円と認めるのが相当である。
(オ)合計
 以上より、被告による被告パンフレットの製作配布により、原告Aに合計7万6214円、原告工房に6485円の損害が発生した。
サ 被告特別割引券
(ア)算定式
 美術の著作物1点を特別割引券に使用する場合の使用料は、3/4頁以上の場合、3万部までが8500円、1/2頁以上の場合、3万部までが5100円であり、いずれも3万部を超える場合には5000部毎に800円が加算される(規程3条2(7)@)。
 言語の著作物を展覧会の広報宣伝等に用いる場合の使用料は、「2000円×(総文字数÷200字(小数点以下切上げ))」である(3条3(7))。
(イ)前記前提事実(4)ソ及び証拠(甲24)のとおり、被告は、一竹作品2点を被告特別割引券に1頁程度の大きさと1/2頁程度の大きさで1点ずつ複製し、また、旧HPコンテンツ2(総文字数737字)を被告特別割引券に一部改変して複製し、平成24年5月29日から現在まで、一竹美術館周辺の店舗にて配布しており、少なくとも34万部を製作した。
(ウ)以上を踏まえた使用料相当額の算定は以下のとおりである。
a 一竹作品の使用料
 11万2800円((8500円+5100円)+(800円+800円)×31万部÷5000部)
b 旧HPコンテンツの使用料
 8000円(2000円×4(≒737÷200字))である。
c 小計
 よって、原告Aの使用料相当額は、合計12万0800円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
(エ)慰謝料
 前記前提事実(4)ソ及び前記3(2)ウのとおり、被告は、旧HPコンテンツ2を一部改変して被告特別割引券に掲載しており、これは原告Aの意に反する改変といえ、同一性保持権の侵害に当たる。その改変の内容、程度に照らし、原告Aが受けた精神的苦痛を慰謝するのに必要な金額は5万円と認めるのが相当である。
(オ)合計
 以上より、被告による被告特別割引券の製作配布により、原告Aに合計17万0800円の損害が発生した。
シ 被告展示案内チラシ
 美術の著作物1点をチラシに使用する場合の使用料は、1/4頁未満の場合、3万部までが3400円であり、3万部を超える場合には5000部毎に800円が加算される(規程3条2(7)@)。
 前記前提事実(4)タ及び証拠(甲25)のとおり、被告は、一竹作品4点を被告展示案内チラシにいずれも1/4頁未満の大きさで複製し、平成24年5月29日から現在まで、一竹美術館にて配布しており、少なくとも合計20万部を製作した。
 そうすると、使用料相当額は、一竹作品1点あたり、3万0600円(3400円+800円×17万部÷5000部)であり、一竹作品4点では、12万2400円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告による被告展示案内チラシの製作配布により、原告Aに12万2400円の損害が発生した。
ス 被告イベント案内チラシ
 美術の著作物1点をチラシに使用する場合の使用料は、3/4頁以上の場合、3万部までが8500円であり、3万部を超える場合には5000部毎に800円が加算される(規程3条2(7)@)。
 前記前提事実(4)チ及び証拠(甲26)のとおり、被告は、一竹作品2点及び工房作品1点の合計3点をいずれも3/4頁以上の大きさで被告イベント案内チラシに複製し、平成24年5月29日から平成27年12月頃まで、美術館にて配布しており、少なくとも20万部を製作した。
 そうすると、使用料相当額は、一竹作品1点あたり、3万5700円(8500円+800円×17万部÷5000部)である。被告イベント案内チラシでは、一竹作品が2点、工房作品が1点使用されているから、一竹作品及び工房作品の使用料相当額は、それぞれ7万1400円及び3万5700円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告によるイベント案内チラシの製作配布により、原告Aに7万1400円、原告工房に3万5700円の損害が発生した。
セ 被告Facebookへの投稿
 美術の著作物をコンピューター・ネットワークにより利用する場合の使用料は、1か月までが7,500円であり、2か月目以降が3,750円/月である(規程3条2(5))。
 前記前提事実(4)ツのとおり、被告は、被告Facebookに、一竹作品「春陽」を平成27年1月11日から平成28年8月まで20か月間、一竹作品「頭」を平成27年3月26日から平成28年8月まで18か月間、一竹作品「華鳥」を平成27年12月10日から平成28年8月まで9か月間、工房作品「垂れ桜姫」を平成27年5月3日から平成28年8月まで16か月間、それぞれ掲載した。
 そうすると、一竹作品の使用料相当額はそれぞれ7万8750円、7万1250円、3万7500円の合計18万7500円であり、工房作品の使用料相当額は6万3750円であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 以上より、被告による被告Facebookへの投稿により、原告Aに合計18万7500円、原告工房に6万3750円の損害が発生した。
ソ 被告HPへの掲載
 言語の著作物をコンピューター・ネットワークにおいて利用する場合の使用料は、1か月あたり「2000円×(総文字数÷200字(小数点以下切上げ))」であり、2か月目以降は当該使用料の50%である(規程3条3(5))。
 前記前提事実(4)テ及び証拠(甲28)のとおり、被告は、旧HPコンテンツ1、3及び4(総文字数491字)を複製し、平成24年5月29日から少なくとも平成28年8月まで(52か月)、被告HPに掲載して、公衆送信している。
 旧HPコンテンツの1月あたりの使用料相当額は、1か月目は6000円(2000円×3(≒491字÷200字))で、2か月目以降は3000円であり、使用料相当額の合計は15万9000円(6000円+3000円×51か月)であり、著作権法114条3項に基づき同額が損害額となる。
 なお、前記3(2)エのとおり、同一性保持権の侵害は認められない。
 以上より、被告による被告HPへの掲載により、原告Aに合計15万9000円の損害が発生した。
(5)弁護士費用
 原告らの各損害合計額その他諸般の事情を考慮すると、弁護士費用としては、原告Aにつき140万円、原告工房につき10万円が相当である。
(6)損害額合計
 以上を合計すると、原告Aにつき合計1555万5154円、原告工房につき合計68万8115円の損害が発生した。
9 争点9(消滅時効の成否)について
 被告は、原告Aは、平成24年に、被告の担当者である訴外Gに対し、一竹美術館で被告が販売している商品について、販売中止の申入れを行なっており、遅くとも平成24年には、一竹作品の各利用方法について知っていたから、平成28年3月28日の被告への通知から3年前の平成25年3月28日以前の損害賠償請求権については時効消滅している旨主張する。
 しかしながら、原告Aが平成24年に訴外Gに一竹美術館で被告が販売する商品について販売中止の申入れを行ったことを認めるに足りる証拠はなく、そのほか、原告らが、平成25年3月28日以前に、原告らの著作権が侵害されたことを知っていたと認めるに足りる証拠はないから、被告の主張する上記時効消滅は認めることができない。
10 争点10(差止めの必要性)について
 前記のとおり、被告が、別紙被告配布物目録記載の配布物や別紙被告HP目録記載のホームページに係る著作権侵害及び著作者人格権侵害の成立を全面的に争っていること等に照らせば、主文第1項ないし第3項掲記の差止めを命じる必要性が認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求は、主文第1項ないし第5項の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 櫻慎平
 裁判官 廣瀬達人は転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 沖中康人


(別紙)損害額に関する当事者の主張
(原告らの主張)
1 主位的主張
(1)著作権法114条1項に基づく損害(被告作品集、被告小冊子)
ア 114条1項の適用があること
(ア)原告らの販売能力について
 被告は、原告作品集を制作販売したのは、原告らではなく、訴外一竹辻が花や訴外株式会社便利堂(以下「訴外便利堂」という。)であるとして、同項の適用を否定する。しかし、まず、便利堂は印刷会社であり、原告作品集を印刷製本したにすぎない。原告らが原告作品集の印刷製本を印刷会社に依頼することは、原告らに制作能力がないことを意味しない。したがって、そのことは原告らに販売能力がないことを意味しない。また、原告らが訴外一竹辻が花を販売名義人にしていることは、原告らに販売能力がないことを意味しない。販売自体は、いくらでも専門の業者を使って、または自社のHPを使って可能であるからである。
 原告作品集や被告作品集のような著作物の販売能力を規定するのは、企画制作能力と、製造・販売についての知識経験である。その企画制作能力としては、この作品分野における作品の選択眼と編集能力である。原告作品集において作品の選択眼と編集能力を持っているのは、訴外一竹辻が花の代表者(当時)でも原告工房の代表者でもある原告Aである(甲50)。また、この作品分野における印刷委託先及び販売について知識経験を有するのは、原告Aである。訴外一竹辻が花は、原告工房とは別法人ではあるものの、両者ともに原告Aが代表者を務めていた法人であり(甲50)、実質的には原告工房と同様に原告Aの屋号にすぎない。原告らは、従来から着物や商品の制作は原告工房名義とし、制作した着物や商品の販売は訴外一竹辻が花名義とするという、名義上の棲み分けをしていたため、原告作品集についても訴外一竹辻が花名義で販売したにすぎない。以上のとおり、原告らが原告作品集を制作・販売する潜在的能力を有することは明かである。
 したがって、原告らは、原告作品集を販売する能力を有しており、本件には114条1項が適用される。
(イ)被告作品集との代替性について
a 原告作品集の内容について
 原告作品集全体(甲51)から、被告作品集が原告作品集に対して代替性を有することは明かである。
b 利用の目的・態様について
 両作品集は、いずれも、一竹作品及び工房作品を多数掲載することにより、これらの作品の世界観を読者に伝えるものである。それぞれの作品掲載数も、原告作品集が51作品であるのに対して、被告作品集も55作品でありほぼ同数である。しかも、原告作品集は3500円で販売されているのに対し(甲29)、被告作品集は3000円で販売されており(甲10)、価格帯もほぼ同じである。したがって、両作品集における一竹作品及び工房作品の利用目的及び態様は、ほぼ同一である。
c 販売ルートについて
 原告作品集も被告作品集も、一竹作品及び工房作品の世界観に魅了された全ての者を対象に、何らの制限なく販売されているのだから、販売顧客層は同一である。被告は、原告作品集と被告作品集の販売方法の違いを指摘するが、それは両作品集の代替性を否定することにはならない。例えば、一竹辻が花のHP上で原告作品集を購入予定だった者が、一竹美術館において原告作品集の代わりに被告作品集を購入することも十分にあり得る。
(ウ)著作権者が販売することができないとする事情について
 被告は、美術館の来館者増加によって、被告作品集の販売が増加したことを何ら立証していない。また、被告作品集の表紙(甲9)の装丁も、一竹作品である「極光」(一竹作品目録48)の一部をそのまま利用しただけであり、被告自身は何らの工夫もしていない。むしろ、購入者は、一目で一竹作品が表紙に利用されていることを認識できるのだから、一竹作品自体が専ら被告著作物の売上に寄与していることは明らかである。
イ 被告作品集の制作販売による損害
(ア)逸失利益
 平成24年10月から平成28年4月までの被告作品集の譲渡数量は、日本語版については、有償譲渡が3,359部、無償譲渡が674部、英語版については有償譲渡が54部、無償譲渡が38部であり、合計4,125部である。
 また、原告らは、被告作品集と代替性を有するものとして、現在、訴外一竹辻が花名義で、一竹作品、制作工程文章、制作工程写真、旧HPコンテンツ並びに美術館写真を掲載した原告作品集(甲8)を販売しているが(甲29)、原告作品集は、1,000冊毎1,499,400円(一冊あたり1,499円)で業者に発注して制作し(甲30)、一冊あたり3,500円で販売しているから(甲29)、一冊あたりの限界利益は、2,001円(=3500円−1,499円)である。
 したがって、平成28年4月までに原告らに発生した逸失利益は、8,254,125円(=4,125部×2,001円)である。
 このうち原告Aに発生した逸失利益は、被告作品集に掲載されている著作物計57点(一竹作品51点、工房作品4点、制作工程文章1点、旧HPコンテンツ1点)中、原告Aが著作権を有する著作物は53点(上記57点から、工房作品「波」、「渦」、「天祥」及び「薀」の4点を除いたもの)であるから、著作物数で按分して、7,674,888円(=8,254,125円÷57×53)である。
 また、原告工房に発生した逸失利益は、被告作品集に掲載されている著作物57点中、原告工房が著作権を有する著作物は4点(「波」、「渦」、「天祥」、「薀」)であるから、著作物数で按分して、579,236円(=8,254,125円÷57×4)である。
(イ)侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告作品集を購入した(甲9)。よって、購入費用3,000円(甲10)について、損害が発生した。
(ウ)慰謝料
 原告Aは、被告が制作工程文章及び旧HPコンテンツについて原告Aの意に反する改変を行なったことにより精神的苦痛を受けたことから、2件で少なくとも20万円の精神的損害が発生した。
(エ)合計
 よって、被告による被告作品集の販売により、原告Aに合計7,877,888円、原告工房に合計579,236円の損害が発生した。
ウ 被告小冊子の制作販売による損害
(ア)逸失利益
 原告は一竹作品を多数掲載した原告作品集(甲51)を販売しているので(甲29)、被告小冊子(甲11)のような一竹作品を複数掲載した小冊子をいつでも制作販売することができる。
 前記イ(ア)のとおり、原告作品集の限界利益は2,001円であり(甲29、30)、原告作品集の販売価格は3,500円であるから(甲29)、原告作品集の限界利益率は57%(=2,001円/3,500円)である。被告小冊子は、原告作品集とページ数こそ異なるものの、一竹作品を高画質でかつ多数掲載した書籍である点で共通する。
 被告は、被告小冊子を、日本語版、英語版@及び英語版A合計で、5,233部(=3,027部+1,781部+425部)を各500円で販売した。
 したがって、原告Aの逸失利益は、1,491,405円(=500円×57%×5,233部)である。なお、ここでいう500円とは、原告作品集の販売価格(3,500円)に被告小冊子による寄与率(実質的な作品数の割合)15%を乗じた金額(下2桁切り捨て)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による権利侵害及び侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告小冊子を購入した。
 よって、購入費用500円について損害が発生した(甲9)。
(ウ)合計
 よって、被告による被告小冊子の制作販売により、原告Aに合計1,491,905円の損害が発生した。
(2)著作権法114条2項に基づく損害(被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ、被告石鹸)
ア 114条2項の適用があること
(ア)原告らが自ら販売していないとの主張について
 原告作品集同様、原告らは、原告らと実質的に同一法人である訴外一竹辻が花の名義を利用して、スカーフやハンカチといった商品を販売していたにすぎないのであって、これらの商品の実質的な制作販売主体は原告らであるから、114条2項は当然に適用される。
(イ)原告らが販売する製品と、被告カレンダー、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告わさびチューブ及び被告石鹸の代替性について
 原告が販売する商品と被告が販売する商品との間に、代替性は必要なく、著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要であるにとどまる。
 原告らは、ホームページ上において、スカーフ、ハンカチ、袱紗、パーティバッグ、小物入れ、絵葉書、作品集、自伝等を販売する(甲29)。被告が販売するカレンダー、一筆箋、クリアファイル、わさびチューブ、石鹸等は、原告らが販売するスカーフ、ハンカチ、袱紗、パーティバッグ、小物入れ等と同様に、雑貨、文具に属する。しかも、これらの商品は、既成製品に単に一竹作品または工房作品をプリントしただけのものである。原告らがその意思さえあれば販売できる蓋然性のあることは明かである。
 原告Aが美術家としての心情として一竹作品を食材や日常消費財とを一緒にしたくないということは、原告が被告販売商品を販売できる蓋然性と無関係である。原告Aが、一竹美術館に対し、布製品について販売中止を申し入れたことは、原告らが被告の販売する商品を販売できる蓋然性とは無関係である。
(ウ)原告らが販売する商品と、被告ハンカチ及び被告絵葉書の代替性について
 原被告作品集と同じように、原告商品も被告商品も、一竹作品及び工房作品の世界観に魅了された全ての者を対象に、何らの制限なく販売されているのだから、販売顧客層は同一である。
 被告ハンカチ及び被告絵葉書は、いずれも一竹作品及び工房作品をそのまま利用した商品にすぎず、原告らが保有する著作物のデザインをそのまま利用したという点において全く同じである。したがって、一竹作品や工房作品を利用した被告ハンカチや被告絵葉書の販売によって、同じく一竹作品や工房作品を利用した原告らのハンカチや絵葉書の売上が減少するのは至極当然である。
(エ)原告の制作販売能力について
 スカーフ、ハンカチ等の制作に必要なのは、既成商品に利用する一竹作品や工房作品をうまく切り取るノウハウないし経験であり、製造自体は、製造業者に委託するだけである。販売に必要なのは、販売人員や店舗ないしHPのような販売媒体である。被告が販売しているようなカレンダー、一筆箋、クリアファイル、石鹸等の制作販売に必要なノウハウや知識経験、販売媒体についても、原告らが制作販売するスカーフ、ハンカチ、絵葉書等と何ら変わりはないから、原告らはいつでも商品を供給できる潜在的能力を有している。商品によって異なるのは製造工程だけであるが、被告同様、製造は製造業者に委託するから、原告らが製造設備や技術を持っているか否かは、原告らの制作販売能力とは無関係である。
(オ)限界利益についての被告提出証拠について
 被告は、被告が販売する各商品の限界利益を示す資料として乙27ないし乙34を提出するが、被告提出の証拠をベースとして被告の利益額を算定すると、被告小冊子英語版の利益がマイナスとなり、また、被告わさびチューブの利益がほぼゼロとなるが、通常そのような利益率で商売をすることはあり得ない。したがって、被告が限界利益を示す資料と提出した乙27ないし乙34は全体として信用性がない。
 長い期間在庫として抱えることのできる被告小冊子について、あえて大幅に原価割れとなるまで販売価格を引き下げる必要性は全くないから、被告の主張は信用できない。被告わさびチューブについても、販売開始当初からほとんど利益の出ない商品を販売することはまずあり得ない。
 被告において、仕入れ価格が大きく、被告が原告主張の通常の限界利益を出していないのは、被告が、被告の関係会社を製造委託先との間に噛ませて、利益の中抜きをやっているからであり、被告主張の限界利益は、被告の内部関係者によって操作された金額であるから、114条2項の適用に当たって、原告が被った損害と推定するのは適当ではない。
イ 被告カレンダーの制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告カレンダーの販売数量は、A4版が1,405部、卓上版が228部、ポスター版が118部である。また、カレンダーの販売価格は、A4版が1,700円、卓上版が1,820円、ポスター版が2,500円である(甲10)ところ、限界利益率は少なくとも6割は下回らないから、A4版の限界利益は1,020円、卓上版の限界利益は1,092円、ポスター版の限界利益は1,500円である。
 したがって、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、A4版については1,433,100円、卓上版については248,976円、ポスター版については177,000円、合計1,859,076円である。
 そして、被告カレンダーの掲載作品合計数13点のうち一竹作品の掲載数は11点、工房作品の掲載数は2点であるから、原告A及び原告工房に発生した逸失利益は、それぞれ1,573,064円(=1,859,076÷13×11)及び286,011円(=1,859,076÷13×2)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告カレンダーを購入した(甲12)。よって、購入費用1,700円について、損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告カレンダーの制作販売により、平成28年4月までに原告Aに合計1,574,764円、原告工房に合計286,011円の損害が発生した。
ウ 被告絵葉書の制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告絵葉書の販売数量は、68,781枚である。また、絵葉書の販売価格は120円であるところ、限界利益率は少なくとも8割は下回らないから、一枚あたりの限界利益は96円である。
 したがって、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、6,602,976円(=68,781部×96円)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告絵葉書1枚を購入した(甲13)。よって、購入費用120円について、損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告絵葉書の制作販売により、平成28年4月までに原告Aに合計6,603,096円の損害が発生した。
エ 被告一筆箋の制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告一筆箋の販売数量は、7,717枚である。また、被告一筆箋の販売価格は450円であるところ、限界利益率は少なくとも8割は下回らないから、一枚あたりの限界利益は360円である。
 したがって、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、2,778,120円(=7,717枚×360円)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告一筆箋を購入した(甲14)。よって、購入費用450円について、損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告の被告一筆箋の制作販売により、平成28年4月までに原告Aに合計2,778,570円の損害が発生した。
オ 被告クリアファイルの制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告クリアファイルの販売数量は、A4版が8,487部、A5版が1,021部である。また、被告クリアファイルの販売価格はA4版が350円、A5版が320円であるところ、限界利益率は少なくとも6割は下回らないから、一枚あたりの限界利益はA4版が210円、B5版が192円である。
 したがって、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、A4版が1,782,270円(=8,487部×210円)、B5版が196,032円(=1,021部×192円)、合計1,978,302円である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告クリアファイルを購入した(甲15)。よって、購入費用350円について、損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告クリアファイルの制作販売により、平成28年4月までに原告Aに合計1,978,652円の損害が発生した。
カ 被告ハンカチの制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告ハンカチの販売数量は、1,729枚である。また、被告ハンカチの販売価格は600円であるところ、限界利益率は少なくとも6割は下回らないから、一枚あたりの限界利益は360円である。
 したがって、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、622,440円(=1,729枚×360円)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告ハンカチを購入した(甲16)。よって、購入費用600円について、損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告ハンカチの制作販売により、平成28年4月までに原告Aに合計623,040円の損害が発生した。
キ 被告わさびチューブの制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告わさびチューブの販売数量は、918個である。また、わさびチューブの販売価格は650円であるところ、限界利益率は少なくとも6割は下回らないから、一個あたりの限界利益は390円である。
 したがって、平成28年4月までの原告Aの逸失利益は、358,020円(=918個×390円)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告わさびチューブを購入した(甲17)。よって、購入費用650円について、損害が発生した。
(ウ)慰謝料
 原告Aは、故一竹の遺族・相続人であるだけではなく、故一竹が「一竹辻が花」として作り出した芸術世界の正当承継人であり(甲48及び49)、一竹作品に対し、著作者である故一竹と同様に、深い携わりや愛着を有してきた。しかしながら、被告は、わさびという日常食品のチューブに、一竹作品を縮小し、かつラベルとして貼り付けたことにより、故一竹の名誉声望のみならず、原告固有の名誉感情を著しく害した(甲48)。したがって、原告Aには、少なくとも10万円の精神的損害が発生した。
(エ)合計
 よって、被告による被告わさびチューブの制作販売により、平成28年4月までに原告Aに合計458,670円の損害が発生した。
ク 被告石鹸の制作販売による損害
(ア)逸失利益
 被告石鹸の販売数量は、1,539個である。また、被告石鹸の販売価格は648円であるところ、限界利益率は少なくとも6割は下回らないから、一個あたりの限界利益は388円である。
 したがって、平成28年4月までの原告らの逸失利益は、597,132円(=1,539個×388円)である。
 そして、被告石鹸の作品利用合計数18点のうち一竹作品の掲載数は16点、工房作品の掲載数は2点であるから、原告A及び原告工房に発生した逸失利益は、それぞれ530,784円(=597,132÷18×16)及び66,348円(=597,132÷18×2)である。
(イ)権利侵害による支出
 原告Aは、被告による侵害行為を特定し、また本訴において侵害を立証するために、一竹美術館において被告石鹸1個を購入した(甲18)。よって、購入費用648円について、損害が発生した。
(ウ)慰謝料
 被告は、石鹸という日常消費財に、一竹作品を縮小し、かつラベルとして貼り付けたことにより、故一竹の名誉声望のみならず、原告固有の名誉感情を著しく害した(甲48)。したがって、原告Aには、少なくとも10万円の精神的損害が発生した。
 また、被告は、工房作品も同様に、これを縮小し、かつラベルとして石鹸に貼り付けたことにより、工房作品の著作者である原告工房の名誉感情を著しく害した(甲48)。したがって、原告工房には、少なくとも10万円の精神的損害が発生した。
(エ)合計
 よって、被告による被告石鹸の制作販売により、平成28年4月までに、原告Aに合計631、432円、原告工房に合計166,348円の損害が発生した。
(3)著作権法114条3項に基づく損害(被告シール、被告入場券、被告しおり、被告ポスター、被告パンフレット、被告特別割引券、被告展示案内チラシ、被告イベント案内チラシ、被告Facebook、被告HP)
 使用料相当額の算定にあたっては、東京美術倶楽部の使用料規程(甲31)(以下、単に「規程」という。)を使用する。被告は、規程を参照する場合には、同団体の管理委託約款8条1項が定める20%の管理手数料を控除すべきであると主張するが、114条3項が損害額として法定する金額は、「著作権の行使につき受けるべき金額」、すなわち著作権行使の対価であり、行使にかかる経費等を考慮した金額ではない。そもそも、原告らは、管理団体に権利の管理を委託しておらず、管理団体による管理手数料に相当するサービスを受けていないから、管理手数料を被告のために控除する理由が存在せず、管理手数料分は使用料相当額から控除すべきとの被告の主張は誤りである。
ア 被告シールの制作配布による損害
 同規定においてシールは「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれに類するもの」であるから、使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条8項2号)。ただし、最低保証使用料は5,000円である。被告シールは、被告ハンカチに貼付して無償配布されるものであり、販売価格はないため、上記算式に基づく使用料は0円となる。したがって、工房作品の使用料相当額は、最低保証価格の5,000円である。
 よって、被告による被告シールの制作配布により、平成28年4月までに、原告工房に5,000円の損害が発生した。
イ 被告入場券の制作配布による損害
 被告は、平成28年7月7日時点で、被告入場券を20万部制作している(甲10)。規程によれば、美術の著作物を入場券に使用する場合、3/4頁以上の面積で、30,000部までが8,500円で、30,000部を超える場合には5,000部毎に800円である(3条2(7)@)。したがって、200,000部発行する場合、一竹作品の使用料相当額は、35,700円(=8,500円+800円×170,000部÷5,000部)である。
 よって、被告による被告入場券の制作配布により、平成28年7月7日までに、原告Aに合計35,700円の損害が発生した。
ウ 被告しおりの制作配布による損害
 被告は、平成28年7月7日時点で、被告しおりを25,300部制作している。規程において、しおりは「入場券・チラシ・リーフレット・パンフレット等」に類するものであるから、使用料は、3/4頁以上の面積で、30,000部までが8,500円である(3条2(7)@)。したがって、被告しおり25,300部(4種類合計)に対する一竹作品の使用料相当額は、8,500円である。
 よって、被告による被告しおりの配布により、平成28年7月7日までに、原告Aに合計8,500円の損害が発生した。
エ 被告ポスターの制作による損害
 被告は、平成28年3月4日の時点(甲22)で、被告ポスターを少なくとも1部制作している。規程をもとに、同項の使用料相当額を算定する。規程によれば、美術の著作物を告知用ポスターに使用する場合、B0(1030mm×1456mm)サイズ以下で、1,000部未満の発行数の場合、使用料は37,500円である(3条2(7)A)。したがって、被告ポスターに対する一竹作品の使用料相当額は、37,500円である。
 よって、被告による被告ポスターの複製により、平成28年3月4日までに、原告Aに37,500円の損害が発生した。
オ 被告パンフレットの制作配布による損害
(ア)逸失利益
a 一竹作品の使用料
 被告は、平成24年6月から平成28年7月7日までの間に、被告パンフレットを136,000部制作した(7ヶ国語合計)(甲10)。被告パンフレットは、各1/2頁の大きさで、一竹作品ないし工房作品6点のうちいずれか1点を複製している。規程によれば、美術の著作物1点をパンフレットに使用する場合、1/2頁以上で、30,000部までが5,100円で、30,000部を超える場合には5,000部毎に800円加算される(3条2(7)@)。なお、単位部数に満たない場合には、切り上げられる。
 したがって、被告パンフレット136,000部発行に対する使用料相当額は、22,700円(=5,100円+800円×22)である。そして、被告パンフレット7種のうち、一竹作品を利用したパンフレットは5種、工房作品を利用したパンフレットは2種であるから、一竹作品及び工房作品の使用料相当額は、それぞれ16,214円(=22,700÷7×5)及び6,485円(=22,700÷7×2)である。
b 旧HPコンテンツの使用料
 言語の著作物を、展覧会の広報宣伝等に用いる場合の使用料は、「2,000円×(総文字数÷200字)」である(3条3(7))。なお、(総文字数÷200字)は、小数点以下が切り上げられる。被告が被告パンフレットに複製をした「辻が花染」及び「久保田一竹と一竹辻が花染」の文章の総文字数は、906字であるから、平成28年7月7日までの使用料相当額は10,000円(=2,000円×5)である。
c 逸失利益総額
 よって、平成28年7月7日までの原告Aの逸失利益は合計26,214円、原告工房の逸失利益は合計6,485円である。
(イ)慰謝料
 原告Aは、被告が旧HPコンテンツについて、原告の意に反する改変を行なったことにより、精神的苦痛を受けたことから、少なくとも10万円の慰謝料損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告パンフレットの制作配布により、平成28年7月7日までに、原告Aに合計126,214円、原告工房に6,485円の損害が発生した。
カ 被告特別割引券の制作配布による損害
(ア)逸失利益
a 一竹作品の使用料
 被告は、平成22年12月から平成28年7月7日までの間に、被告特別割引券を34万部制作した(甲10)。被告特別割引券は、1頁程度の大きさと1/2頁程度の大きさで一竹作品を1点ずつ用いている。3/4頁以上での使用料は、30,000部までが8,500円で、30,000部を超える場合には5,000部毎に800円加算される(3条2(7)@)。また、1/2頁以上での使用料、30,000部までが5,100円で、30,000部を超える場合には5,000部毎に800円加算される。したがって、被告特別割引券における一竹作品の使用料相当額は、合計112,800円(=(8,500円+5100円)+(800円+800円)×310,000部÷5000部)である。
b 旧HPコンテンツの使用料
 言語の著作物を、展覧会の広報宣伝等に用いる場合の使用料は、「2,000円×(総文字数÷200字)」である(3条3(7))。なお、(総文字数÷200字)は、小数点以下が切り上げられる。
 被告が被告特別割引券に複製をした「久保田一竹と一竹辻が花染」の文字数は、737字であるから、使用料は8,000円(=2,000円×4)である。
c 逸失利益総額
 よって、原告Aの逸失利益は、合計120,800円である。
(イ)慰謝料
 原告Aは、被告が旧HPコンテンツについて、原告Aの意に反する改変を行なったことにより、精神的苦痛を受けたことから、少なくとも10万円の慰謝料損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告特別割引券の制作配布により、平成28年7月7日までに、原告Aに合計220,800円の損害が発生した。
キ 被告展示案内チラシの制作販売による損害
 被告は、平成22年12月から平成28年7月7日までの間に、展示案内チラシを20万部制作した(甲10)。美術の著作物1点をチラシに使用する場合、1/4頁未満の大きさで、30,000部までが3,400円で、30,000部を超える場合には5,000部毎に800円加算される(3条2(7)@)。したがって、20万部発行する場合、使用料は一竹作品1点あたり、30,600円(=3,400円+800円×170,000部÷5,000部)である。展示案内チラシでは、一竹作品4点が使用されているから、一竹作品の使用料相当額は、122,400円である。
 よって、被告による展示案内チラシの制作配布により、平成28年7月7日までに、原告Aに122,400円の損害が発生した。
ク 被告イベント案内チラシの制作販売による損害
 被告は、平成22年12月から平成28年7月7日までの間に、イベント案内チラシを20万部制作した(3種類合計)(甲10)。美術の著作物1点をチラシに使用する場合、3/4頁以上の大きさで、30,000部までが8,500円で、30,000部を超える場合には5,000部毎に800円加算される(3条2(7)@)。したがって、200,000部発行する場合、使用料は一竹作品1点あたり、35,700円(=8,500円+800円×170,000部÷5,000部)である。イベント案内チラシでは、一竹作品が2点、工房作品が1点使用されているから、一竹作品及び工房作品の使用料相当額は、それぞれ71,400円及び35,700円である。
 よって、被告によるイベント案内チラシの制作配布により、平成28年7月7日までに、原告Aに71,400円、原告工房に35,700円の損害が発生した。
ケ 被告Facebookによる損害
(ア)逸失利益
 美術の著作物をコンピューター・ネットワークにより利用する場合の使用料相当額は、1ヶ月目が7,500円で、2ヶ月目以降が3,750円/月である(3条2項5号)。
 被告は、一竹作品「春陽」を、平成27年1月11日から平成28年8月に至るまで20ヶ月掲載した(甲27の1)。したがって、平成28年8月までの使用料相当額は、78,750円である。
 被告は、一竹作品「頭」を、平成27年3月26日から平成28年8月に至るまで18ヶ月掲載した(甲27の2)。したがって、平成28年8月までの使用料相当額は、71,250円である。
 被告は、一竹作品「華鳥」を、平成27年12月10日から平成28年8月に至るまで9ヶ月掲載した(甲27の4)。したがって、平成28年8月までの使用料相当額は、37,500円である。
 よって、一竹作品の使用料相当額は、合計187,500円である。
 また、被告は、工房作品「垂れ桜姫」を、平成27年5月3日から平成28年8月に至るまで16ヶ月掲載した(甲27の3)。したがって、平成28年8月までの使用料相当額は、63,750円である。
 よって、平成28年8月末日までの、工房作品の使用料相当額は、63,750円である。
(イ)合計
 よって、被告による被告Facebookページの公衆送信により、原告Aに、平成28年8月末日までに、合計187,500円、原告工房に63,750円の損害が発生した。
コ 被告HPの制作による損害
(ア)逸失利益
 言語の著作物を、コンピューター・ネットワークにおいて利用する場合の使用料は、1カ月あたり「2,000円×(総文字数÷200字)」であり、2ヶ月目以降は当該使用料の50%である(3条3項5号)。なお、(総文字数÷200字)は、小数点以下が切り上げられる。旧HPコンテンツ「辻が花染」、「久保田一竹と一竹辻が花染」、「フランス芸術文化勲章シュヴァリエ章勲章メッセージ(和訳)」及び「スミソニアンよりの感謝状(和訳)」における利用箇所の総文字数は、788文字であるから、最初の1カ月の使用料は、8,000円(=2,000円×4)、2ヶ月目以降は4,000円である。被告は、被告HPを、平成24年5月(甲32)から平成28年8月までの52カ月間使用しているので、一竹作品の使用料相当額は、212,000円(=8,000円+4,000円×51)である。
(イ)慰謝料
 原告Aは、被告が旧HPコンテンツについて、原告の意に反する改変を行なったことにより、精神的苦痛を受けたことから、少なくとも10万円の慰謝料損害が発生した。
(ウ)合計
 よって、被告による被告HPの公衆送信により、平成28年8月末日までに、原告Aに、合計312,000円の損害が発生した。
(4)弁護士費用
 原告は、被告に対して、著作権侵害をやめるよう警告した後も(甲33)、話し合いによる解決の途を探ったが、被告は原告が提示した案に対して何らの反応を見せず、誠意ある対応を見せなかったため、やむなく本訴を提起するに至った。
 上記(1)ないし(3)のうち原告Aの損害額合計は25,140,031円である。原告Aに生じた弁護士費用のうち、当該合計額の10%相当額である2,514,003円については、被告の侵害行為との間に相当因果関係がある。
 また、上記(1)ないし(3)のうち原告工房の損害額合計は1,142,530円である。原告工房に生じた弁護士費用のうち、当該合計額の10%相当額である114,253円については、被告の侵害行為との間に相当因果関係がある。
(5)元本合計
 以上より、原告Aの損害の元本額は27,654,034円であり、原告工房の損害の元本額は1,256,783円である。
2 予備的主張
 予備的に、被告作品集、被告小冊子、被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ、被告石鹸について114条3項に基づく損害を主張する。使用料相当額の算定にあたっては、規程を使用する。
(1)被告作品集
ア 被告作品集は「書籍」に該当すること
 規程は、「書籍」をISBNコードや日本図書コードが付された書籍、又は一般に流通する書籍に限定していない。そもそも、ISBNコードや日本図書コードは、書籍を書店等の一般的な販売ルートを通して販売する際に、書籍の特定の便宜のために付されるものであり、自主販売のような通常とは異なるルートで販売される書籍に付されるものではない。したがって、ISBNコードや日本図書コードの有無は、単に流通ルートの違いを示すにすぎず、「書籍」該当性の判断要素にはなり得ない。また、被告作品集は、一竹美術館でのみ販売されているとしても、不特定多数の来館者に対して販売されており、その流通性は書店等で一般に販売されている書籍と何ら変わりはない。さらに、規程の「図録」は、「展覧会の広報宣伝等」(3条2(7))での使用を前提したものである。しかし、被告作品集は、もっぱら美術館の「広報宣伝等」を目的とするものではない。むしろ被告作品集それ自体によって一竹作品及び工房作品を読者に鑑賞させることを主要な目的としていることが明らかである。したがって、「図録」には該当しない。
 よって、被告作品集は、規程の「書籍」に該当する。
イ 逸失利益
(ア)一竹作品及び工房作品の使用料
a 被告は、一竹作品51点及び工房作品4点を、被告作品集の1頁サイズで使用して、被告作品集(日本語版)を6,000部制作した(甲10)。規程において、美術の著作物を書籍に使用する場合の使用料は、サイズが1頁サイズで制作部数が6,000部だと、1点当たり18,200円である(3条2項1号@)。また、表紙に使用する場合は、制作部数が6,000部だと1点当たり36,000円である(3条2項1号A)。一竹作品51点のうち1点(「極光」)は被告作品集の表紙に用いられ、50点は表紙以外に用いられているから、一竹作品の使用料は、946,000円(=36,000円×1点+18,200円×50点)である。
 また、工房作品4点は表紙以外に用いられているから、工房作品の使用料は、72,800円(=18,200円×4点)である。
 したがって、被告作品集(日本語版)の制作販売により、原告Aに946,000円、原告工房に72,800円の逸失利益が発生した。
b 次に、被告は、一竹作品51点及び工房作品4点を、被告作品集の1頁サイズで使用して、被告作品集(英語版)を3,000部制作した(甲10)。規程において、美術の著作物を書籍に使用する場合の使用料は、サイズが1頁サイズで制作部数が3,000部だと、1点当たり15,000円である(3条2項1号@)。また、表紙に使用する場合は、制作部数が3,000部だと1点当たり30,000円である(3条2項1号A)。一竹作品51点のうち1点(「極光」)は被告作品集の表紙に用いられ、50点は表紙以外に用いられているから、一竹作品の使用料は、780,000円(=30,000円×1点+15,000円×50点)である。
 また、工房作品4点は、表紙以外に用いられているから、工房作品の使用料は、60,000円(=15,000円×4点)である。
 したがって、被告作品集(英語版)の制作販売により、原告Aに780,000円、原告工房に60,000円の逸失利益が発生した。
c 以上より、原告Aに発生した逸失利益は、日本語版と英語版合計で1,726,000円、原告工房に発生した逸失利益は、日本語版と英語版合計で132,800円である。
(イ)制作工程文章の使用料
 被告は、制作工程文章1,048文字を被告作品集2頁分に使用し、総頁数136頁の被告作品集(日本語版)を販売価格3,000円で6,000部発行した(甲10)。規程において、言語の著作物を書籍に使用する場合の使用料は、「2,000円×(総文字数÷200字(小数点以下切上げ))」か「販売価格×発行部数×10%×(著作物掲載頁数÷総頁数)」のいずれか多い額である(3条3項1号)。
 前者を用いた場合の使用料は、12,000円(=2,000円×(1,048字÷200字))である。また、後者を用いた場合の使用料は、26,470円(=3,000円×6,000部×10%×(2頁÷136頁))である。したがって、後者を適用して、被告作品集(日本語版)の制作販売による逸失利益は、26,470円である。
 また、被告は、同様に総頁数136頁の被告作品集(英語版)を販売価格2,500円で3,000部発行した(甲10)。
 前者を用いた場合の使用料は、12,000円(=2,000円×(1,048字÷2500字))である。また、後者を用いた場合の使用料は、11,029円(=2500円×3,000部×10%×(2頁÷136頁))である。したがって、前者を適用して、被告作品集(英語版)の制作販売による逸失利益は12,000円である。
 よって、原告Aに発生した逸失利益は、日本語版と英語版合計で38,470円である。
(ウ) 被告は、旧HPコンテンツ337文字を被告作品集1頁分に使用し、総頁数136頁の被告作品集(日本語版)を販売価格3,000円で6,000部発行した(甲10)。言語の著作物を書籍に使用する場合の使用料は、「2,000円×(総文字数÷200字(小数点以下切上げ))」か「販売価格×発行部数×10%×(著作物掲載頁数÷総頁数)」のいずれか多い額である(3条3項1号)。
 前者を用いた場合の使用料は、4,000円(=2,000円×(337字÷200字))である。また、後者を用いた場合の使用料は13,235円(=3,000円×6,000部×10%×(1頁÷136頁))である。したがって、後者を適用して、被告作品集(日本語版)の制作販売による逸失利益は13,235円である。
 また、被告は、同様に総頁数136頁の被告作品集(英語版)を販売価格2,500円で3,000部発行した。前者を用いた場合の使用料は、4,000円(=2,000円×(337字÷200字))である。また、後者を用いた場合の使用料は5,514円(=2,500円×3,000部×10%×(1頁÷136頁))である。したがって、後者を適用して、被告作品集(英語版)の制作販売による逸失利益は5,514円である。
 よって、原告Aに発生した逸失利益は、日本語版と英語版合計で18,749円である。
(エ)合計
 以上より、被告による被告作品集の制作販売により、原告Aに発生した逸失利益は、1,783,219円である。また、原告工房に発生した逸失利益は、132,800円である。
ウ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用3,000円の損害が発生した。
エ 慰謝料
 原告Aには少なくとも20万円の精神的損害が発生した。
オ 合計
 よって、原告Aに1,986,219円、原告工房に132,800円の損害が発生した。
(2)被告小冊子
ア 被告小冊子は「書籍」に該当すること
 規程は、「書籍」についてISBNコードや日本図書コードが付された書籍、または一般に流通する書籍に限定していない。また、ISBNコードや日本図書コードの有無は、単に流通ルートの違いを示すにすぎず、「書籍」該当性の判断要素にはなり得ない。また、被告小冊子は、美術館でのみ販売されているとしても、不特定多数の来館者に対して販売されており、その流通性は書店等で一般に販売されている書籍と何ら変わりはない。さらに、規程の「リーフレット・パンフレット等」は、「展覧会の広報宣伝等」(3条2(7))での使用を前提したものである。しかし、被告小冊子は、もっぱら美術館の「広報宣伝等」を目的とするものではない。むしろそれを超えて被告小冊子それ自体によって一竹作品を読者に鑑賞させるに足るものである。したがって、被告小冊子は、「リーフレット・パンフレット等」には該当しない。
 よって、被告小冊子は、規程の「書籍」に該当する。
イ 逸失利益
 被告は、一竹作品22点が無断複製された被告小冊子(日本語版)を、平成24年6月に訴外ICFから少なくとも5,452部(=3,027部+2,425部)仕入れ、これを販売した。22点のうち4点は小冊子1頁サイズ、1点は小冊子2/3頁程度のサイズ、1点は小冊子1/3頁程度のサイズ、9点は小冊子1/5頁程度のサイズ、7点は小冊子1/7頁程度のサイズにて複製されている。
 規程によると、制作部数(仕入れ数に相当する)が5,452部の場合は、小冊子1頁サイズ4点の使用料は72,800円(=18,200円×4点)、小冊子2/3頁程度のサイズ1点の使用料は13,000円、小冊子1/3頁程度のサイズ1点の使用料は8,500円、小冊子1/5頁程度のサイズ9点の使用料は41,400円(=4,600円×9点)、小冊子1/7頁程度のサイズ7点の使用料は32,200円(=4,600円×7点)である(3条2項1号@)。よって、被告小冊子(日本語版)の一竹作品の使用料合計は、167,900円である。
 また、被告は、被告小冊子(日本語版)と同様に、一竹作品22点が無断複製された被告小冊子(英語版1)を、平成24年6月に訴外ICFから少なくとも1,781部仕入れ、これを販売した。
 規程によると、制作部数(仕入れ数に相当する)が1,781部の場合は、小冊子1頁サイズ4点の使用料は60,000円(=15、000円×4点)、小冊子2/3頁程度のサイズ1点の使用料は10,800円、小冊子1/3頁程度のサイズ1点の使用料は7,100円、小冊子1/5頁程度のサイズ9点の使用料は35,100円(=3,900円×9点)、小冊子1/7頁程度のサイズ7点の使用料は27,300円(=3,900円×7点)である(3条2項1号@)。よって、被告小冊子(英語版1)の一竹作品の使用料合計は、140,300円である。
 さらに、被告は、被告小冊子(日本語版)と同様に、一竹作品22点を無断複製した被告小冊子(英語版2)を自ら4,200部制作し(甲10)、これを販売した。
 規程によると、制作部数が4,200部の場合は、小冊子1頁サイズ4点の使用料は72,800円(=18,200円×4点)、小冊子2/3頁程度のサイズ1点の使用料は13,000円、小冊子1/3頁程度のサイズ1点の使用料は8,500円、小冊子1/5頁程度のサイズ9点の使用料は41,400円(=4,600円×910点)、小冊子1/7頁程度のサイズ7点の使用料は32,200円(=4,600円×7点)である(3条2項1号@)。よって、被告小冊子(英語版2)の一竹作品の使用料合計は、167,900円である。
 以上より、原告Aの逸失利益は、日本語版、英語版1、英語版2合計で、476,100円である。
ウ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用500円の損害が発生した。
エ 合計
 よって、被告による被告小冊子の販売により、原告Aに476,600円の損害が発生した。
(3)被告カレンダー
ア 逸失利益
 美術の著作物をカレンダーに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×7〜10%×(該当作品数÷全体収録作品数)」である(3条2項8号B)。「7〜10%」という可変数については、中間値の8.5%をとることとする。
 被告は、一竹作品11点及び工房作品2点を利用して、被告カレンダーを制作し、これを販売した。そのうち、A4版の制作部数は1,770部で(甲10)、販売価格は1,700円である。また、卓上版の制作部数は800部であり(甲10)、販売価格は1,820円である。さらにポスター版の制作部数は150部であり(甲10)、販売価格は2,500円である。
 したがって、A4版の使用料相当額は、一竹作品分が216,416円(=1,700円×1,770部×8.5%×(11÷13))、工房作品分が39,348円(=1700円×1,770部×8.5%×(2÷13))である。また、卓上版の使用料相当額は、一竹作品分が104,720円(=1,820円×800部×8.5%×(11÷13))、工房作品分が19,040円(=1,820円×800部×8.5%×(2÷13))である。さらに、ポスター版の使用料相当額は、一竹作品分が26,971円(=2,500円×150部×8.5%×(11÷13))、工房作品分が4,903円(=2,500円×150部×8.5%×(2÷13))である。
 よって、原告Aに発生した逸失利益の合計は、348,107円、原告工房に発生した逸失利益の合計は、63,291円である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用1,700円の損害が発生した。
ウ 合計
 よって、原告Aに349,807円、原告工房に63,291円の損害が発生した。
(4)被告絵葉書
ア 逸失利益
 美術の著作物を絵葉書に使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×8%」である(3条2項8号@)。制作部数は、訴外ICFからの仕入れ数に相当する。
 被告は、一竹作品が無断複製された被告絵葉書を、平成24年6月に訴外ICFから少なくとも90,375枚(=68,781枚+21,594枚)仕入れ、単価120円で販売した。
 したがって、使用料相当額は、867,600円(=120円×90,375枚×8%)である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用120円の損害が発生した。
ウ 合計
 よって、原告Aに867,720円の損害が発生した。
(5)被告一筆箋
ア 逸失利益
 美術の著作物を一筆箋に使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条2項8号A)。「5〜8%」という可変数については、中間値の6.5%をとることとする。制作部数は、訴外ICFからの仕入れ数に相当する。
 被告は、一竹作品が無断複製された被告一筆箋を、平成24年6月に訴外ICFから少なくとも8,623枚(=7,717枚+906枚)仕入れ、単価450円で販売した。
 したがって、使用料相当額は、252,222円(=450円×8,623枚×6.5%)である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用450円の損害が発生した。
ウ 合計
 よって、原告Aに、252,672円の損害が発生した。
(6)被告クリアファイル
ア 逸失利益
 美術の著作物をクリアファイルに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条2項8号A)。「5〜8%」という可変数については、中間値の6.5%をとることとする。制作部数は、訴外ICFが制作したA4版については、仕入れ数に相当する。
 被告は、一竹作品が無断複製された被告クリアファイル(A4版)を、平成24年6月に訴外ICFから少なくとも8,958部(=8,487部+471部)仕入れ、単価350円で販売した。また、被告は、一竹作品を無断複製した被告クリアファイル(A5版)を自ら2,000部制作し(甲10)、単価320円で販売した。
 したがって、A4版の使用料相当額は、203,794円(=350円×8,958部×6.5%)である。また、A5版の使用料相当額は41,600円(=320円×2,000部×6.5%)である。
 よって、原告Aの逸失利益は、245,394円である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用350円の損害が発生した。
ウ 合計
 よって、原告Aの損害は、245,744円である。
(7)被告ハンカチ
ア 逸失利益
 ハンカチは「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれらに類するもの」であるから、美術の著作物をハンカチに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条2項8号A)。「5〜8%」という可変数については、中間値の6.5%をとることとする。
 被告は、一竹作品を利用し、被告ハンカチ1,729部制作し(甲10)、単価600円で販売した。したがって、被告ハンカチの使用料相当額は、67,431円(=600円×1,729部×6.5%)である。
 よって、原告Aの逸失利益は、67,431円である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用600円の損害が発生した。
ウ 合計
 よって、原告Aに68,031円の損害が発生した。
(8)被告わさびチューブ
ア 逸失利益
 わさびチューブは「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれらに類するもの」であるから、美術の著作物をわさびチューブに使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条2項8号A)。「5〜8%」という可変数については、中間値の6.5%をとることとする。
 被告は、一竹作品を利用し、被告わさびチューブ1,250個を制作し(甲10)、単価650円で販売した。したがって、被告わさびチューブの使用料相当額は、52,812円(=650円×1,250個×6.5%)である。
 よって、原告Aの逸失利益は、52,812円である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用650円の損害が発生した。
ウ 慰謝料
 原告Aには少なくとも10万円の精神的損害が発生した。
エ 合計
 よって、原告Aに、153,462円の損害が発生した。
(9)被告石鹸
ア 逸失利益
 石鹸は「クリアファイル・一筆箋・レターセット・ポチ袋等及びこれらに類するもの」であるから、美術の著作物を石鹸に使用する場合の使用料は、「販売価格×制作部数×5〜8%」である(3条2項8号A)。「5〜8%」という可変数については、中間値の6.5%をとることとする。
 被告は、一竹作品及び工房作品を利用して、被告石鹸18種類を合計1,800個制作し、単価648円で販売した。このうち、一竹作品を利用した石鹸は16種類、工房作品を利用した石鹸は2種類である。また、全種類100個ずつ制作したと推定されるから、一竹作品を利用した石鹸は1、600個、工房作品を利用した石鹸は200個制作したことになる。
 したがって、一竹作品の使用料相当額は、67,392円(=648円×1,600個×6.5%)あり、工房作品の使用料相当額は、8,424円(=648円×200個×6.5%)である。
 よって、原告Aの逸失利益は67,392円、原告工房の逸失利益は8,424円である。
イ 権利侵害による支出
 原告Aに購入費用648円の損害が発生した。
ウ 慰謝料
 原告Aには少なくとも10万円の精神的損害が、原告工房には少なくとも10万円の精神的損害が発生した。
エ 合計
 よって、原告Aに168,040円、原告工房に108,424円の損害が発生した。
3 原告らの主位的主張及び予備的主張をまとめると、別紙「原告損害一覧表」のとおり。
(被告の主張)
1 著作権法114条1項の不適用又は推定の排除(被告作品集、被告小冊子)
(1)著作権法114条1項の不適用
ア 著作権法114条1項の適用要件
 著作権法114条1項は、侵害品の販売によって「著作権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物」が減少したこと(損害の事実の発生)が主張立証されたことを前提に、侵害品の譲渡数量に「著作権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物」の利益額を乗じた額を損害額として推定する規定である。
 そして、同項が適用される前提となる「著作権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物」とは、権利者自らが侵害品販売時点において、侵害品と競合する製品を販売していることが必要である。
イ 被告作品集の制作・販売への不適用
(ア)原告らが「久保田一竹作品集」を制作・販売していないこと
a 原告らが「久保田一竹作品集」を制作・販売していないこと
 まず、制作については「久保田一竹作品集」(甲8)の奥付には「制作(株)便利堂」と記載されている。また、「久保田一竹作品集」の証拠説明書の作成者欄には「(株)一竹辻が花」と記載されている。
 次に、販売については、訴外一竹辻が花のウェブサイト(甲29)において、訴外一竹辻が花が「久保田一竹作品集」を販売しているとうかがえる記載があるのみである。
b 原告らの主張への反論
 原告らは、訴外一竹辻が花は、原告Aの屋号にすぎないと主張するが、訴外一竹辻が花は別法人として現在も存在している(甲50の1ないし2)。したがって、原告A又は原告工房が、訴外一竹辻が花と同一視できるとの主張は、全く事実の裏付けを欠く。
c 小括
 以上から、原告A、原告工房のいずれも「久保田一竹作品集」を制作・販売していないのであり、そもそも著作権法114条1項の前提を欠く。
(イ)原告らが「久保田一竹作品集」を制作・販売する能力がないこと(予備的主張)
a 原告らが「久保田一竹作品集」を制作・販売する能力がないこと
 上記のとおり、「久保田一竹作品集」を制作したのは「(株)便利堂」又は訴外一竹辻が花であり、これを販売したのは訴外一竹辻が花であって、原告Aでも原告工房でもないのであり、原告A及び原告工房は、いずれも「久保田一竹作品集」の制作・販売能力を有していなかった。
b 原告らの主張への反論
 原告らは、販売能力とは、作品の選択眼と編集能力を含む企画制作能力と製造・販売についての知識経験を指す、と主張するが、これらは、原告らの独自の見解にすぎない。万一、かかる能力が販売能力の要素を構成していたとしても、原告A又は原告工房がかかる能力を有していることの具体的裏付けは全くない。さらに、原告らの主張によれば、着物や商品の販売は訴外一竹辻が花のみが行うという棲み分けを行っていたというのである。かかる主張は、むしろ、原告A又は原告工房に販売能力がないことを裏付けるものである。
c 小括
 以上のとおり、原告らは、「久保田一竹作品集」を制作・販売する能力を有さない。
(ウ)「久保田一竹作品集」と被告作品集との間に代替性がないこと
a 内容、利用目的・利用態様及び販売ルートの相違から、代替性が否定されること
 「久保田一竹作品集」と被告作品集とは、内容面について、前者が故一竹の功績及びその芸術に焦点を充てた内容となっているのに対し、後者は一竹美術館及び所蔵品を紹介するという内容となっており、重要な相違がみられる。また、利用目的・利用態様についてみると、「久保田一竹作品集」が訴外一竹辻が花の着物の販売促進の利用目的であるのに対し、被告作品集は、一竹美術館の所蔵品を直接鑑賞する目的であり、これに即した内容となっていることから、利用目的・態様において重要な相違がみられる。さらに、販売ルートについてみると「久保田一竹作品集」が訴外一竹辻が花のウェブサイトのみにおいて販売されているのに対し、被告作品集は一竹美術館内のミュージアム・ショップでのみ販売されている。
 したがって、@内容、A利用目的・態様、B販売ルートのいずれにおいても「久保田一竹作品集」と被告作品集とは競合しない。
b 原告らの主張への反論
 原告らは、販売顧客層は同一であると主張するが、販売顧客層を恣意的に抽象化している。具体的に事実に即して見れば、「久保田一竹作品集」については、訴外一竹辻が花のウェブサイトを訪れた者に対してインターネット上で販売している一方で、被告作品集については、一竹美術館を訪れた来館者に対し、ミュージアム・ショップでのみ販売しており、販売顧客層は明らかに異なっている。
c 小括
 以上から、「久保田一竹作品集」と被告作品集との間には代替性がない。
ウ 被告小冊子の制作・配布への不適用
(ア)原告らが「久保田一竹作品集」を制作・販売していないこと
 前記イ(ア)及び(イ)のとおりである。
(イ)「久保田一竹作品集」と被告小冊子との間に代替性がないこと
 まず、内容については、「久保田一竹作品集」が故一竹の功績及びその芸術に焦点を充てた内容となっているのに対し、被告小冊子は、一竹美術館とその所蔵品の紹介が主な内容となっている。次に、利用目的・態様については、「久保田一竹作品集」が訴外一竹辻が花の着物の販売促進を利用目的とし、これに沿った利用態様であるのに対し、被告小冊子は、一竹美術館とのその所蔵品の紹介を目的とし、これに沿った利用態様である。また、販売ルート(被告小冊子については配布ルート)についても、「久保田一竹作品集」が、訴外一竹辻が花のウェブサイトを訪れた者に対し、インターネット上で販売しているのに対し、被告小冊子は一竹美術館の関係者や旅行代理店、ホテル等で無料配布しており、全く販売(配布)ルートが異なる。
(ウ)小括
 以上から、被告小冊子の制作・配布につき、著作権法114条1項を適用する余地は全くない。
(2)著作権法114条1項の推定の排除
ア 「販売することができないとする事情」があること
(ア)販売市場の相違
 「久保田一竹作品集」は訴外一竹辻が花のウェブサイトを訪れた者に対し、インターネット上で販売している。他方で、被告作品集は、一竹美術館の来館者に対して、ミュージアム・ショップ内で販売し、被告小冊子は一竹美術館の関係者や旅行代理店、ホテル等で無料配布している。
 具体的事実に即してみれば、両者の販売市場は全く異なっているのであって、「久保田一竹作品集」を被告作品集や被告小冊子の市場で販売(ないし配布)することはおよそ観念できない。
(イ)侵害者の営業努力
 まず、被告作品集は、一竹美術館の来館者にのみ販売していることから、被告作品集の販売は、一竹美術館の来館者の増加への被告の営業努力によるものである。また、被告小冊子は、まさに一竹美術館及び所蔵品を紹介する冊子であることから、配布数の増加は、一竹美術館の来館者の増加への被告の営業努力によるものである。
(ウ)侵害品固有の顧客吸引力
 まず、被告作品集と被告小冊子はともに「久保田一竹作品集」の表紙とは異なる装丁を施している。そして、被告作品集は、一竹美術館の来館者に、被告小冊子は一竹美術館への潜在的来館者を対象として一竹美術館及び所蔵作品の紹介を行うものであって、それぞれに固有の顧客誘引力を有している。
イ 小括
 以上から被告作品集と被告小冊子の全数について「販売することができないとする事情」がある。
(3)まとめ
 以上から、被告作品集の販売、被告小冊子の配布には著作権法114条1項の適用はない。また、仮に適用があるとしても、全数について「販売することができないとする事情」があることから、推定は排除される。
2 著作権法114条2項の不適用又は推定の覆滅(被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ、被告石鹸)
(1)著作権法114条2項の不適用
ア 著作権法114条2項の適用要件
 著作権法114条2項も同条1項と同様に、損害事実が主張立証された上で、侵害者が受けている利益額を損害額として推定する規定である。したがって、@原告自らが販売していること及びA原告ら製品と被告製品との間に代替性があることを主張立証することが必要である。
イ 原告らが、甲29記載の物品を自ら販売していないこと
 原告らは、甲29を引用し、原告らがスカーフ、ハンカチ、袱紗、パーティバッグ、小物入れ、絵葉書、作品集、自伝等を販売していると主張する。しかし、前記のとおり、甲29からは訴外一竹辻が花がこれらの物品を販売していることがうかがえるのみであり、原告A又は原告工房が販売主体であることをうかがわせる記載は一切ない。また、原告らは、訴外一竹辻が花が原告らと実質的に同一であると主張するが、代表者が共通するほかは何ら具体的な事実の主張・立証はない。したがって、甲29記載の物品が被告製品と競合するかを判断するまでもなく、著作権法114条2項の適用の余地はない。
ウ 甲29記載の物品と被告製品との間に代替性がないこと
 万が一、原告らが甲29記載の物品を販売していると仮定しても、被告製品との代替性はない。すなわち、被告は、甲29記載の物品のうち、スカーフ、袱紗、パーティバッグ、小物入れと同種の物品は、一切販売していない。また、甲29記載のハンカチ及び絵葉書と被告の販売する被告ハンカチ(甲16の1)及び被告絵葉書とは、販売ルートが異なる(前者がインターネットでの販売、後者が一竹美術館のミュージアム・ショップでの販売)。また、外観も大きく異なる(前者が一竹作品を拡大し接写して色鮮やかな外観を呈しているのに対し、後者が「辻が花」の柄を単色の着物デザインのワンポイントとして織り込んでいるにすぎない)。さらに、甲29記載の絵葉書については、原告Aによる販売中止申入れ(乙23)に含まれていないことから、被告絵葉書との代替性がないことを原告A自身で認めたものである。
 以上から、甲29記載のハンカチ及び絵葉書についても、被告ハンカチ及び被告絵葉書との代替性はない。
(2)著作権法114条2項の推定の覆滅
ア 原告らに損害が生じなかったこと(推定覆滅事情1・主位的主張)
 前記(1)のとおり、原告らは甲29記載の物品を販売しておらず、また、甲29記載の物品と被告が販売する各製品との間に代替性はない。したがって、被告が利益を得ることによって原告らに損害が生じる可能性はないのであるから、全数について推定は覆滅される。
イ 被告が得た利益(推定覆滅事情2・予備的主張)
 さらに、被告が現実に得た利益は後記のとおりであるから、反証により、これを超える限度の推定は覆滅する。
(3)まとめ
 以上から、被告カレンダー以下の物品の販売には著作権法114条2項の適用はない。また、仮に適用があるとしても、被告が利益を得ることによって原告らに損害が生じる可能性はないのであるから、全数について推定は覆滅される。さらに万が一、全数について覆滅されないとしても、後記のとおり、被告が現実に得た利益を超える限度の推定は覆滅する。
3 著作権法114条3項の適用について
(1)規程の解釈の誤り
ア 被告作品集が「書籍」に該当しないこと
 被告作品集は、形式面においてISBNコード・日本図書コードなど書籍の一般的特徴を欠いており、内容面においても、一竹美術館についての記述を多く含んでいることから、あくまで一竹美術館の所蔵品としての一竹作品が紹介されている。さらに、「書籍」に関して規定した規程3条2項(1)の注記の記載を見ると「単行本」「文庫本」「新書版」など一般に流通する書籍を前提としていることが明らかである。以上から、被告作品集が、「書籍」ではなく、「図録」(3条2項7号B)であることは明らかである
 この点、原告らは、被告作品集が一般の書籍と流通経路が異なることは「書籍」であることを否定しないと主張するが、流通経路という根本的な特徴において、一般的な書籍と相違していることは、被告作品集が書籍でないことを裏付ける事実である。
 また、原告らは、被告作品集がそれ自体に一竹作品を読者に鑑賞させるに足るものであると主張するが、原告らがかかる主張を裏付ける具体的な事実を何ら摘示していない。また、上記のとおり、一竹作品の掲載は、一竹美術館の所蔵品の紹介としての位置付けであって、独立の書籍とは到底いえない。
イ 被告小冊子が「書籍」に該当しないこと
 被告小冊子についても、形式面においてISBNコード・日本図書コードなど書籍の一般的特徴を欠いており、内容面においても、所蔵品を展示する美術館の広報宣伝等の目的で作成されたものであって、「リーフレット・パンフレット等」(規程3条2項7号@)に当たる。
ウ まとめ
 以上から、仮に、規程の適用があるとしても、被告作品集は「図録」(3条2項7号B)、被告小冊子は「リーフレット・パンフレット等」(3条2項7号@)の料率に基づいて計算されるべきである。
(2)管理団体の手数料を控除すべきであること
 規程は利用料の規定であり、権利者が実際に受けるべき金銭の額は、同団体の手数料を控除した額である。同団体の管理委託約款8条1項によれば、手数料は利用料の2割の範囲内で定められるとされている(乙35)。したがって、仮に同団体の料率を適用するとしても、20パーセントは控除されるべきである。
4 被告主張の損害額のまとめ
 売上の1%を基礎として、全品目を著作権法114条3項に基づき、算定した額を主位的主張、規程を基礎として著作権法114条3項に基づき、全品目を算定した額を第1順位の予備的主張とし、さらに、原告らが主張する被告小冊子、被告カレンダー、被告絵葉書、被告一筆箋、被告クリアファイル、被告ハンカチ、被告わさびチューブ、被告石鹸について、著作権法114条2項の適用がある場合に、実利益額に基づいた算定額を第2順位の予備的主張とし、以下のとおり主張する。
(1)被告作品集
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
(ア)被告作品集(日本語)
 2930円(価格)×3359冊×1%=9万8418.7円
 9万8418.7円×53/57≒9万1511円(原告A)
 9万8418.7円×4/57≒6906円(原告工房)
(イ)制作工程文章(日本語)
 0円(原告A)
(ウ)旧HPコンテンツ(日本語)
 0円(原告A)
(エ)被告作品集(英語)
 2500円(価格)×54冊×1%=1350円
 1350円×53/57≒1255円(原告A)
 1350円×4/57≒94円(原告工房)
(オ)制作工程文章(英語)
 0円
(カ)旧HPコンテンツ(英語)
 0円
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
(ア)被告作品集(日本語)
 制作部数:6000部
a 表紙
 1万1500円+(1100円×4)(4000部超500部
 毎1100円加算)=1万5900円(一竹作品)
b 表紙以外
 一竹作品1万円(4000部まで)+(1000円×4)(4000部超500部毎1000円加算)=1万4000円
 1万4000円×50点=70万円(一竹作品)
 工房作品1万4000円×4点=5万6000円(工房作品)
c 手数料控除後の原告らの使用料相当額
 (1万5900円(表紙)+70万円(表紙以外))×0.8=57万2720円(原告A)
  5万6000円(表紙以外)×0.8=4万4800円(原告工房)
(イ)制作工程文章(日本語)
 2万6740円×0.8=2万1392円(原告A)
(ウ)旧HPコンテンツ(日本語)
 13万3235円×0.8=10万6588円(原告A)
(エ)被告作品集(英語)
 1万3500円(原告らの自白に基づく売り上げの10%)
 1万3500円×50/(50+4)=1万2500円(原告A)
 1万3500円×4/(50+4)=1000円(原告工房)
(オ)制作工程文章(英語)
 1万2000円×0.8=9600円(原告A)
(カ)旧HPコンテンツ(英語)
 5514円×0.8=4411円(原告A)
(キ)小計
a 原告A
 57万2720円(被告作品集(日本語))+1万2500円(被告作品集(英語))+2万1392円(制作工程文章(日本語))+9600円(制作工程文章(英語))+10万6588円(旧HPコンテンツ(日本語))+4411円(旧HPコンテンツ(英語))=72万7211円
b 原告工房
 4万4800円(被告作品集(日本語))+1000円(被告作品集(英語))=4万5800円
(2)被告小冊子
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
(ア)被告小冊子(日本語)
 500円(価格)×3027冊×1%=1万5135円(原告A)
(イ)被告小冊子(英語1)
 500円(価格)×1781冊×1%=8905円(原告A)
(ウ)被告小冊子(英語2)
 400円(価格)×425冊×1%=1700円(原告A)
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
(ア)被告小冊子(日本語)
a 1頁サイズ
 5000円(6000部まで)×4点=2万円
b 2/3頁サイズ
 3000円(6000部まで)×1点=3000円
c 1/3頁サイズ
 2500円(6000部まで)×1点=2500円
d 1/5頁サイズ
 2000円(6000部まで)×9点=1万8000円
e 1/7頁サイズ
 2000円(6000部まで)×7点=1万4000円
f 小計
 2万円+3000円+2500円+1万8000円+1万4000円=5万7500円
g 手数料控除
 5万7500円×0.8=4万6000円(原告A)
h まとめ
 以上から、原告Aの使用料相当額は4万6000円となる。
(イ)被告小冊子(英語1)
a 1頁サイズ
 5000円(6000部まで)×4点=2万円
b 2/3頁サイズ
 3000円(6000部まで)×1点=3000円
c 1/3頁サイズ
 2500円(6000部まで)×1点=2500円
d 1/5頁サイズ
 2000円(6000部まで)×9点=1万8000円
e 1/7頁サイズ
 2000円(6000部まで)×7点=1万4000円
f 小計
 2万円+3000円+2500円+1万8000円+1万4000円=5万7500円
g 手数料控除
 5万7500円×0.8=4万6000円(原告A)
h まとめ
 以上から、原告Aの使用料相当額は4万6000円となる。
(ウ)被告小冊子(英語2)
a 1頁サイズ
 5000円(6000部まで)×4点=2万円
b 2/3頁サイズ
 3000円(6000部まで)×1点=3000円
c 1/3頁サイズ
 2500円(6000部まで)×1点=2500円
d 1/5頁サイズ
 2000円(6000部まで)×9点=1万8000円
e 1/7頁サイズ
 2000円(6000部まで)×7点=1万4000円
f 小計
 2万円+3000円+2500円+1万8000円+1万4000円=5万7500円
g 手数料控除
 5万7500円×0.8=4万6000円(原告A)
h 売り上げの10%
 400円×425部=17万円
 17万円×0.1=1万7000円
i まとめ
 以上から、原告Aの使用料相当額は1万7000円となる。
(3)被告カレンダー
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
(ア)被告カレンダー(A4)
 1700円(価格)×1405部×1%=2万3885円
 2万3885円×11/13≒2万210円(原告A)
 2万3885円×2/13≒3674円(原告工房)
(イ)被告カレンダー(卓上)
 1820円(価格)×228部×1%=4149.6円
 4149.6円×11/13≒3511円(原告A)
 4149.6円×2/13≒638円(原告工房)
(ウ)被告カレンダー(ポスター)
 2500円(価格)×118部×1%=2950円
 2950円×11/13≒2496円(原告A)
 2950円×2/13≒453円(原告工房)
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
(ア)被告カレンダー(A4)
a 原告A
 1700円×1405部×7%×(11÷13)=14万1472円
 手数料控除14万1472円×0.8=11万3177円
b 原告工房
 1700円×1405部×7%×(2÷13)=2万5722円
 手数料控除2万5722円×0.8=2万577円
(イ)被告カレンダー(卓上)
a 原告A
 1820円×228部×7%×(11÷13)=2万4578円
 手数料控除2万4578円×0.8=1万9662円
b 原告工房
 1820円×228部×7%×(2÷13)=4468円
 手数料控除4468円×0.8=3574円
(ウ)被告カレンダー(ポスター)
a 原告A
 2500円×118部×7%×(11÷13)=1万7473円
 手数料控除1万7473円×0.8=1万3978円
b 原告工房
 2500円×118部×7%×(2÷13)=3176円
 手数料控除3176円×0.8=2540円
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項に基づく算定額)
(ア)被告カレンダー(A4)
 1700円(販売額)−1337.97円(仕入額。乙29)=362.03円(1部あたりの利益額)
 362.03円×1405部=50万8652.15円
 50万8652円×11/13≒43万397円(原告A)
 50万8652円×2/13≒7万8254円(原告工房)
(イ)被告カレンダー(卓上)
 1820円(販売額)−1435.19円(仕入額。乙29)=384.81円(1部あたりの利益額)
 384.81円×228部=8万7736.68円
 8万7736.68円×11/13≒7万4238円(原告A)
 8万7736.68円×2/13≒1万3497円(原告工房)
(ウ)被告カレンダー(ポスター)
 2500円(販売額)−1967.60円(仕入額。乙29)=532.4円(1部あたりの利益額)
 532.4円×118部=6万2823.2円
 6万2823円×11/13≒5万3157円(原告A)
 6万2823円×2/13≒9665円(原告工房)
(エ)小計
 原告A:43万397円+7万4238円+5万3157円=55万7792円
 原告工房:7万8254円+1万3497円+9665円=10万1416円
(4)被告絵葉書
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 120円(価格)×68781枚×1%≒8万2537円
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
 120円×6万8781枚×8%=66万297円
 66万297円×0.8=52万8237円(手数料控除)
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項に基づく算定額)
 96円(一枚あたりの利益額)×6万8781枚=660万2976円
(5)被告一筆箋
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 450円(価格)×7717枚×1%≒3万4726円
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
 450円×7717枚×5%=17万3632円
 17万3632円×0.8≒13万8905円(手数料控除)
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項)
 450円(販売額)−215.24円(仕入額。乙30)=234.76円(1部あたりの利益額)
 234.76円×7717部≒181万1642円
(6)被告クリアファイル
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
(ア)被告クリアファイル(A4)
 350円(価格)×8487個×1%≒2万9704円
(イ)被告クリアファイル(A5)
 320円(価格)×1021個×1%≒3267円
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
(ア)被告クリアファイル(A4)
 350円×8487部×5%=14万8522円
 14万8522円×0.8=11万8817円(手数料控除)
(イ)被告クリアファイル(A5)
 320円×2000部×5%=3万2000円
 3万2000円×0.8=2万5600円(手数料控除)
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項)
(ア)被告クリアファイル(A4)
 350円(販売額)−168.63円(仕入額。乙31)=181.37円(1部あたりの利益額)
 181.37円×8487部≒153万9287円
(イ)被告クリアファイル(A5)
 192円(1部あたりの利益額)×1021部=19万6032円
(7)被告ハンカチ
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 600円(価格)×1729枚×1%=1万374円
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
 600円×1729部×5%=5万1870円
 5万1870円×0.8=4万1496円
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項に基づく算定額)
 600円(販売額)−472.23円(仕入額。乙32)=127.77円(1個あたりの利益額)
 127.77円×1729個≒22万0914円(なお、被告は、仕入額を427.23円と記載しているが、472.23円の誤記と認められる。)
(8)被告わさびチューブ
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 650円(価格)×918個×1%=5967円
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
 650円×1250円×5%=4万625円 
 4万625円×0.8=3万2500円(手数料控除)
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項に基づく算定額)
 650円(販売額)−642.86円(仕入額。乙33)=7.14円(1個あたりの利益額)
 7.14円×918個≒6554円
(9)被告石鹸
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 648円(価格)×1539個×1%=9972.72円
 原告A:8864円(18分の16)
 原告工房:1108円(18分の2)
イ 予備的主張1(規程に基づく算定額)
(ア)原告A
 648円×1539個×(16÷18)×5%=4万4323円
 4万4323円×0.8=3万5458円(手数料控除)
(イ)原告工房
 648円×1539個×(2÷18)×5%=5540円
 5540円×0.8=4432円(手数料控除)
ウ 予備的主張2(著作権法114条2項に基づく算定額)
 648円−481.49円(乙34)=166.51円
 166.51円×1539個=25万6258.89円
 原告A:22万7785円(18分の16)
 原告工房:2万8473円(18分の2)
(10)被告シール
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 5000円(原告主張額)×80%=4000円(原告工房)
(11)被告入場券
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 3万5700円(原告主張額)×80%=2万8560円(原告A)
(12)被告しおり
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 8500円(原告主張額)×80%=6800円(原告A)
(13)被告ポスター
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 20万6000円×0.01=2060円(原告A)
 イ予備的主張(規程に基づく算定額)
 3万7500円(原告主張額)×80%=3万円(原告A)
(14)被告パンフレット
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 原告A2万6214円(原告主張額)×80%≒2万971円
 原告工房6485円(原告主張額)×80%≒5188円
(15)被告特別割引券
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 12万800円(原告主張額)×80%=9万6640円(原告A)
(16)被告展示案内チラシ
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 12万2400円(原告主張額)×80%=9万7920円(原告A)
(17)被告イベント案内チラシ
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 原告A7万1400円(原告主張額)×80%=5万7120円
 原告工房3万5700円(原告主張額)×80%=2万8560円
(18)被告Facebook
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 原告A18万7500円(原告主張額)×80%=15万円
 原告工房6万3750円(原告主張額)×80%=5万1000円
(19)被告HP
ア 主位的主張(売上の1%に基づく算定額)
 0円
イ 予備的主張(規程に基づく算定額)
 21万2000円(原告主張額)×80%=16万9600円(原告A)
(20)まとめ
 以上から、被告の主張に基づく損害額は別紙「被告損害額一覧表」のとおりとなる。

(別紙1)
(別紙2)
(別紙3)
(別紙4)
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