判例全文 line
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【事件名】商標“GODZILLA”侵害事件(2)
【年月日】平成30年6月12日
 知財高裁 平成29年(行ケ)第10214号 審決取消請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年5月29日)

判決
原告 東宝株式会社
同訴訟代理人弁護士 辻居幸一
同 佐竹勝一
同 山本飛翔
同弁理士 井滝裕敬
同 石戸孝
被告 株式会社タグチ工業
同訴訟代理人弁理士 森寿夫


主文
1 特許庁が無効2017−890010号事件について平成29年10月16日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は、平成23年11月21日、別紙商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)につき、指定商品を第7類「鉱山機械器具、土木機械器具、荷役機械器具、農業用機械器具、廃棄物圧縮装置、廃棄物破砕装置」(以下「本件指定商品」という。)として、商標登録出願をし、本件商標は、平成24年4月27日、登録された(登録第5490432号)。(甲1)
(2) 原告は、平成29年2月22日、本件商標について、商標登録無効審判を請求した。なお、原告は、商標法4条1項15号及び19号に関し、「GODZILLA」との文字から成る商標(以下「引用商標」という。)を引用した。(甲175)
(3) 特許庁は、原告の請求を無効2017−890010号事件として審理し、平成29年10月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする別紙審決書(写し)記載の審決をし(以下「本件審決」という。)、その謄本は、同月26日、原告に送達された。
(4) 原告は、平成29年11月22日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨
 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりである。要するに、@本件商標は、これを本件指定商品に使用しても、その取引者及び需要者において、当該商品が、原告や原告と緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれはないから、商標法4条1項15号に該当しない、A本件商標は、不正の目的をもって使用をするものではないから、同項19号に該当しない、B本件商標は、非道徳的なものなどではなく、商標登録出願の経緯などに社会的相当性を欠くものもないから、同項7号に該当しない、というものである。
3 取消事由
(1) 商標法4条1項15号該当性判断の誤り(取消事由1)
(2) 商標法4条1項19号該当性判断の誤り(取消事由2)
(3) 商標法4条1項7号該当性判断の誤り(取消事由3)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 商標の類似性の程度
ア 外観
 本件商標と引用商標の外観は、ともに8文字からなり、看者にとって印象の薄い2文字目及び3文字目が異なるにすぎず、その他の6文字を共通にする。本件商標と引用商標は、外観上強く印象に残る語頭の「G」と極めて特徴的な「ZILLA」の文字を共通にする。また、本件商標の構成自体や、被告商品への使用態様からすれば、本件商標の「U」は視認しにくく、「O」と見誤るおそれがあり、「ZZ」も、常にデザイン化されて使用されているものではない。本件商標は、外観上引用商標に類似する。
イ 称呼
 本件商標は「ガジラ」とともに、英語読みすれば「ガァジラ」との称呼が生じ、引用商標は「ゴジラ」との称呼が生じる。本件商標と引用商標は、「ガァ」と「ゴ」の差異を有するが、子音(g)を共通にし、母音の(a)と(o)も近似音であって、それぞれ相紛らわしい音である。
 また、本件商標の語頭音は「ゴ」の音に聞き間違えられるおそれがあり、「ガ」の音とは判別し難い「ガ」と「ゴ」の中間音である。引用商標の語頭音は「ゴ」と「ガ」の中間の音として称呼され得る。本件商標と引用商標の語韻、語感は極めて紛らわしい。
 さらに、本件商標の「U」を「O」と見誤れば、本件商標は「ゴジラ」と称呼される可能性も高い。
ウ 観念
 本件商標と引用商標とが、観念において類似するとはいえないことは争わないが、後記のとおり、両者のイメージは共通する。
(2) 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
 引用商標が本件商標の商標登録出願日のはるか前から現在に至るまで周知著名であることは明白である。
 また、引用商標は、原告の創作にかかるものであって、独創的で識別力の高い表示である。特許情報プラットフォームにおいては、語頭が「G」で始まり、語尾が「ZILLA」で終わる商標は、本件商標等の被告の商標を除き、原告の引用商標「GODZILLA」しか存在しない。
(3) 商品の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性
ア 本件商標採用の経緯
 被告は、建築物等の破壊という引用商標におけるイメージを流用するために、本件商標を採用したものと推察され、被告は引用商標のイメージにただ乗りしている。
イ 本件指定商品と原告の業務に係る商品及び引用商標による商品化事業等との関連性
 原告は、映画の制作・配給・上映、映画・演芸・演劇の興行、テレビ放送番組及び録画の制作等を主たる業務とし、業界におけるわが国の代表的な企業である。また、原告は、土地及び建物の賃貸、管理、売買及びこれらの仲介並びに駐車場の経営も行うなど、極めて広い業務を行っている。さらに、原告は「GODZILLA」の文字及びキャラクターについて、多くの企業にいわゆる商品化権を与えている。ライセンシーの総数は97社であり、それらの商品は、人形、ぬいぐるみ、玩具、陶器、カード、菓子、キーホルダー、ライター、パズル、貯金箱、氷型器、ぺーパーホルダー、コード、シール、文房具、時計、CDケース、エプロン、メンコ、ポスター、バッジ、Tシャツ、トランクス、トレーナー、電気スタンド、ぬりえ、バック、ミニリュック、ルアー、缶詰、食料品、ガラス食器等々多岐にわたっている。これらの商品には、引用商標が商品自体、商品の包装、宣伝広告物、取引書類等のいずれかに使用されている。
 一方、本件指定商品は、広範な範囲の機械器具を含んでおり、例えば、(家庭用)エレベーター、エスカレーター、ジャッキ、草刈機、すき、耕うん機、脱穀機等日常生活で日々目に触れる商品が含まれている。また、本件指定商品のうち、「土木機械器具」には、油圧式ジャッキ、電動ジャッキ、チェーンブロック、ウインチが含まれ、「農業用機械器具」には、刈払機、電動式高枝ハサミ、ヘッジトリマ、草刈機が含まれる。これらの本件指定商品は、ホームセンター等の店舗やオンラインショッピング、テレビショッピング等で一般消費者に極めて広範に安価で販売されているものであり、一般消費者の目線で取引し購入する製品である。このような商品が引用商標の商品化事業の対象となったとしても決して不自然ではない。さらに、本件指定商品は、産業用ロボットや工業用ロボットを含むところ、「ゴジラ」シリーズでは、怪獣の「ゴジラ」だけでなく、ロボットの「メカゴジラ」も広く知られている。加えて、被告は、被告商品について、重機ロボットのキャラクター「SUPER GUZZILLA」の顧客吸引力を利用している。
ウ 需要者の共通性
 本件指定商品は、広範な範囲の機械器具を含んでおり、日常生活で日々目に触れる商品、一般消費者に購入される商品が含まれている。これらは、多種多様な引用商標の商品化事業の対象になり得る。原告の商品・役務の需要者は、年齢、性別、職種等を問わず、あらゆる分野の広汎な一般消費者であり、その中には、本件指定商品の分野の需要者である建築・土木従事者も当然含まれている。したがって、原告の商品及び本件指定商品の需要者層は共通する。
エ 引用商標と本件商標を使用した被告の商品とのイメージの共通性
 引用商標のキャラクターの特徴は、街や建造物を破壊するという点にある。一方、本件商標を使用した被告の商品は、「鉄骨や鉄筋を含んだコンクリート構造物も切断・圧砕する驚異の切断力」などと紹介されている。引用商標と被告の商品は、建造物等を破壊するという点において、共通したイメージを有し、いいかえれば、被告の商品は、引用商標のイメージにただ乗りしている。
オ 被告による本件商標の使用状況
 原告は、平成5年にスーパーファミコン用ゲーム「超ゴジラ」を発売し、海外では「SUPER GODZILLA」のタイトルでライセンスして販売し、好評を博した。一方、被告は、最近、「SUPER GUZZILLA」という「重機ロボット」を用いて、被告の商品の宣伝広告を積極的に展開している。また、被告は「SUPER GUZZILLA」のキャラクターをシューティングゲームの敵役として使用することを許諾したところ、同キャラクターは、引用商標のキャラクターに類似している。
 また、原告は、平成6年に映画「ゴジラVSスペースゴジラ」を公開し、380万人にのぼる観客動員があった。それ以降、「スペースゴジラ」「SPACEGODZILLA」は原告のキャラクターとして広く親しまれている。一方、被告は、「SPACE GUZZILLA」の使用を開始した。
 このような、被告による「SUPER GUZZILLA」の使用及びゲームへの使用許諾、並びに、「SPACE GUZZILLA」の使用は、一般消費者をして、本件商標から引用商標を連想・想起させる。また、本件商標が引用商標と同様なキャラクター名であることをイメージさせ、引用商標を希釈化している。
 加えて、被告は、本件商標をタオル、腕時計、手袋、帽子、Tシャツ、パーカー等に付することによって商品化事業を幅広く展開しており、このような被告の事業活動は、原告による引用商標の商品化事業と近似する。したがって、被告の行為は、引用商標のイメージにただ乗りするものであって、引用商標の希釈化を生ぜしめるおそれがある。
(4) 出所混同のおそれ
 原告の周知著名な引用商標と類似する本件商標が本件指定商品に使用されれば、当該商品はあたかも原告又は原告が許諾する商品であるかのようにその出所につき誤認・混同を生じさせることは明らかである。
 仮に本件商標が引用商標に類似するとまではいえないとしても、本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知著名性と独創性の高さに加え、需要者が共通し、本件商標の指定商品が引用商標の商品化事業に含まれ得ること、さらには、引用商標と被告の商品のイメージの共通性を考慮すれば、本件商標が引用商標を連想・想起させ、混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
(5) 小括
 よって、本件商標は商標法4条1項15号に該当する。
〔被告の主張〕
(1) 商標の類似性の程度
ア 外観
 本件商標は、2文字目「U」と3文字目「Z」は各文字の上端が連続し、7文字目「L」と8文字目「A」は各文字の下端が連続しているほか、3文字目「Z」と4文字目「Z」の両文字は、それらの左下端がともに鋭く前下方に突尖しているというデザイン上の特徴があるために、一見するとこれら「ZZ」の文字部分が際立って、常に看者の目を強く惹きつける。被告製品の破砕機に表記された「GUZZILLA」の文字は概ね人の頭ほどの大きさであるから、「U」の文字部分は離れた位置からも十分に視認でき、「ZZ」の文字部分も、一際目立つ特徴として視認できる。
 一方、引用商標は、その構成文字に様々な書体のものがあるが、構成文字の一部が連続していたり、中央部分が鋭く前下方に突尖したりしたデザインが施された表示は、一切見当たらない。また、前半部分「GOD」は「神」等を意味する英単語として広く習熟されており、語尾が「ZILLA」で終わる商標は、本件商標以外にも複数存在する。
 本件商標と引用商標とは、2文字目及び3文字目の「UZ」の文字と「OD」の文字とにおいて相違し、さらに本件商標がデザイン化されていることから、外観上、区別し得る。
イ 称呼
 本件商標の「GU」の文字部分は、英単語「GULF」や「GUM」が「ガルフ」や「ガム」と読まれるように、単に「ガ」と片仮名表記される。本件商標からは「グッジーラ」とか「グッジッラ」、「グッジラ」といった発音がされるとも考えられるものの、本件商標と同一商標を含む被告の登録商標の存在や、被告が永年併用してきた称呼によって、本件商標からは、主として「ガジラ」なる称呼が生ずると考えるのが自然である。
 一方、引用商標は、これが原告の映画やこれに登場する架空の生物たる怪獣として著名な「ゴジラ」のローマ字表記であるから、日本語らしく1音1音明瞭に「ゴジラ」と称呼されるのが自然である。
 本件商標の称呼「ガジラ」と、引用商標の称呼「ゴジラ」を比較すると、両者は、称呼における識別上重要な語頭音において「ガ」の音と「ゴ」の音に差異を有する。そして、これらの差異が、ともに短い3音構成からなる両称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえない。それぞれの称呼を全体として称呼するときにおいて、アクセントが置かれる語頭音の差異によってその語調や語感が相違したものとなり、互いに聞き誤るおそれはない。
ウ 観念
 引用商標からは「怪獣の名称としてのゴジラ」なる観念しか連想し得ない。一方、本件商標は、被告による造語として何ら特定の観念が生じ得ない。
(2) 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
 原告の映画やこれに登場する怪獣「ゴジラ」の著名性については認めるが、引用商標については、そのローマ字表記として使用されていたにとどまる。
 また、架空の怪獣キャラクターにおいて「濁音」や「ラ」を伴う3文字からなる名称は、ありふれたパターンの名称であると考えられるから、本件商標もまた、せいぜいそうした空想上のキャラクターの一つと認識されるにとどまり、引用商標を連想・想起させるおそれはない。
(3) 商品の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性
ア 本件商標採用の経緯
 本件商標は、被告が開発した破砕機等の機能や動作から想像される「〜をガツガツ食う。〜をガブガブ飲む。」の意味に対応した英単語「GUZZLE」と、力強い動物の代表例である「ゴリラ」を意味する英単語「GORILLA」とを組み合わせ、さらに、架空の怪獣キャラクター名称としてありがちなパターンの「濁音」や「ラ」を伴う3文字からなる語として、被告により創作された造語である。
イ 本件指定商品と原告の業務に係る商品及び引用商標による商品化事業等との関連性
 原告は、「GODZILLA」の文字及びキャラクターについて、多くの企業にいわゆる商品化権を与えているものの、そのライセンス商品に、本件指定商品はない。商品化事業は、漫画や映画等のキャラクターの顧客吸引力を利用して経済的利益を得るものであるが、産業機械器具分野においては、機械そのものの性能や品質が問題とされる。本件指定商品は、専門的な特殊な機械器具装置であり、同種商品においてキャラクターが付いている商品の方が需要者の購買意欲が増すという性格の商品ではない。多種多様な商品が氾濫している日用品分野においてはキャラクターの顧客吸引力が有効に機能するが、被告製品の破砕機や、産業用ロボット、工業用ロボットなどは、いずれも専門的・職業的な分野において使用される特殊な機械器具装置であり、専らその性能や品質、信頼性、安定性などが商品選択の基準とされるから、商品化事業には全く馴染まないのである。本件指定商品について、映画やそのキャラクターのライセンスがなされるという商慣習はない。地球征服のために、無秩序に日本中を破壊するという「メカゴジラ」のイメージは、本件指定商品のイメージとは異なる。
 引用商標のライセンス商品は、総じて数千円の小売価格にとどまる。一方、被告が本件商標を使用している建設機械用アタッチメントは極めて高額である。油圧式ジャッキ、電動ジャッキ、チェーンブロック、ウインチは「土木機械器具」ではなく、「荷役機械器具」に含まれる。ヘッジトリマ、草刈機は、「農業用機械器具」と本件指定商品に含まれない「芝刈機」の両方の性格を備えている。また、油圧式ジャッキは、その価額、使用目的や機能等からすれば、一般消費者が購入する商品ではない。油圧式ジャッキ、電動ジャッキ、チェーンブロック、ウインチ、刈払機、電動式高枝ハサミ、ヘッジトリマ、草刈機という商品の目的や機能等に照らせば、これらの商品の需要者は、自己責任において当該商品を安全に取り扱うことができる人、いわば専門業者に準ずる知識や操作能力を有している人が対象として想定される。実際にも、これらの商品は、ホームセンター等の店舗において、玩具等とは区別された特別な売り場で陳列販売されている。これらの商品は、使用者次第で安全性に不安が生じ、引用商標を用いた事業のイメージを減損するから、原告が直ちに商品化権に応じるとはいえない。
ウ 需要者の共通性
 本件指定商品は、およそ一般消費者の目線で取引し購入する商品ではなく、当業界の専門家・職業人としての知見や経験を背景に、対象商品自体の性能や機能、品質、信頼性、安定性、経済性、メンテナンス作業性などに加えて、当該商品の製造・販売業者によるアフターフォローなどを総合考慮しながら、一台一台を吟味して選択購入される性質のものである。したがって、例えば、引用商標の使用許諾がされたキャラクター商品の一つであるTシャツの需要者が、建築・土木従事者と同一であったとしても、それぞれの商品に対峙したときに普通に払われる注意の程度は自ずと異なる。
エ 引用商標と本件商標を使用した被告の商品とのイメージの共通性
 土木解体作業という専門職業人による「仕事」に使用される被告商品と、建造物を手当たり次第、無秩序に「破壊」する原告映画やその怪獣キャラクターとは、全くイメージが異なる。
 被告によるロボット型作業用重機「SUPER GUZZILLA」も、被告の社内で製作され、実際に走行でき破砕作業も行えるものであり、実在するのに対し、引用商標のキャラクターの特徴は全て架空のものである。ロボット型作業用重機は、専門性の高い破砕機等のアタッチメントの製造を主たる事業とする被告やその製品(破砕機等)の広告宣伝の一環として製作されたものであり、ゲームアプリへの展開やタオル、時計、手袋、帽子、Tシャツ、ミニチュアモデルへの展開もまた、企業PRの一環として被告自らが限定的に(委託)生産し販売しているだけであって、原告のような商品化事業などではない。当該商品の性格上、一般消費者に向けたものではないので、自社ウエブサイト内に設けた専用の通販ページにおいて販売しているにすぎない。
オ 被告による本件商標の使用状況
 被告は、平成25年2月、地元広告代理店より、被告製品を用いてビル解体を体験するスマートフォン用アプリケーション「ガジラAR」の制作提案を受けた。その後、被告は、当該アプリに登場する架空のロボット型作業用重機のみならず、実際に製作したロボット型作業用重機についても、地元広告代理店から仮称として提案された「スーパーガジラ」の名称をそのまま使用し、また「SUPER GUZZILLA」とも表示してきた。原告の「超ゴジラ」によって生み出される創造的な世界観は、全てが空想上のものであるから、被告の「スーパーガジラ」や「SUPER GUZZILLA」が、引用商標を連想させることはない。
 被告は、平成27年7月頃、大手広告代理店より、「スーパーガジラを、スペースガジラへ。」と題した事業提案を受け、同代理店の全面的な協力を得て、宇宙開発事業へ取り組むようになった。被告は、被告の技術が惑星探査に応用される可能性が拓けたことを表現する言葉として、「スペースガジラ」との名称が丁度良かったことから、こうした被告の研究事業全般につき「スペースガジラ」や「SPACE GUZZILLA」なる表示を使用している。
 被告は、本件商標を付してロボット型作業用重機、アプリ、タオル、時計、手袋、帽子、Tシャツ等を展開しているものの、これらは企業PRの一環であり、原告のように商品化事業を行っているものではない。被告は、タオル等を、関係事業者、販売代理店、製品を購入したユーザー等に無償配布や販売しているものであって、これらは、被告の商品の性格上、一般消費者に向けたものではない。
(4) 出所混同のおそれ
 本件商標と引用商標とは、外観及び称呼の相違のみならず観念においても著しい相違がある。そして、引用商標が、いわゆるキャラクタービジネスによって多種多用な商品に使用されているとしても、キャラクタービジネスゆえにそれら対象商品は普段使いの日用品ばかりであって、本件指定商品である土木機械器具等とは商取引の実情が全く異なる。本件指定商品と引用商標に係る商品の需要者層は異なり、連想するイメージも異なる。本件商標は引用商標にただ乗りするものではないし、本件商標から派生したロボット型の作業用重機「SUPER GUZZILLA」等は、原告が制作する娯楽映画としての架空の怪獣「ゴジラ」が創出してきた独特の世界観に何らの影響を及ぼすものではないから、引用商標の希釈化も生じ得ない。
 このように、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれがない非類似の商標であって、双方の商品の需要者層も相違しているから、本件商標は、これを本件指定商品について使用された場合においても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
(5) 小括
 よって、本件商標は商標法4条1項15号に該当しない。
2 取消事由2(商標法4条1項19号該当性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 商標の類似
 前記1〔原告の主張〕(1)のとおり、本件商標は引用商標に類似する。
(2) 不正の目的
 引用商標は、原告の周知著名商標である。また、引用商標は、独創的な商標であるから、原告の出所を表示する標識として極めて強い出所表示力を有している。しかも、語頭が「G」で始まり語尾が「ZILLA」で終了する登録商標は、原告と被告の商標以外に存在しない。したがって、原告の周知著名商標と類似する本件商標が原告の引用商標と無関係に採択されたとは到底考えられず、本件商標は引用商標の有する顧客吸引力を利用しようとするものである。また、本件商標の採用の経緯や、被告による本件商標の使用態様等を考慮すれば、被告には引用商標にただ乗りする意図が存在することは明らかである。引用商標の他にも、被告は、「ガリガリ君」や「STUDIO GABULLI」等の商標について商標登録していることからも、被告が、周知著名商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗りする意図を有していたことは明らかである。
 さらに、本件商標が原告の商品と無関係の商品に使用されれば、長年にわたり注意深くそのキャラクター商品の品質維持に努めてきた原告の信用・イメージが大きく損なわれる。
(3) 小括
 よって、本件商標は商標法4条1項19号に該当する。
〔被告の主張〕
(1) 商標の類似
 前記1〔被告の主張〕(1)のとおり、本件商標は引用商標に類似しない。
(2) 不正の目的
 被告において、他人の商標に化体した信用等にただ乗りするような「不正の目的」はない。
 なお、「ガリガリ君」や「STUDIO GABULLI」との被告の登録商標は、その内容において氷菓やアニメ映画製作会社の事業内容とは全く無関係であることに加えて、被告による実際の使用態様においても氷菓やアニメ映画製作会社による各商標の使用態様とは全く異なるから、被告の使用に「不正の目的」は認められない。
(3) 小括
 よって、本件商標は商標法4条1項19号に該当しない。
3 取消事由3(商標法4条1項7号該当性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 社会的相当性
 引用商標は原告の周知著名な商標であり、本件商標は引用商標に類似し、又は少なくとも引用商標を連想・想起させる。そして、被告は、引用商標に化体した信用、名声及び顧客吸引力にただ乗りする不正の目的を有していたものである。本件商標に使用実績があったとしても、それは、引用商標にただ乗りすることによる使用実績であって、商標法の保護に値しない。
 したがって、本件商標は、公正な取引秩序を乱し、商道徳に反するものであるから、その登録出願の経緯は、社会的相当性を欠く。
(2) 小括
 よって、本件商標は商標法4条1項7号に該当する。
〔被告の主張〕
(1) 社会的相当性
 本件商標は、被告により創作された造語であり、遅くとも平成6年9月頃にはその使用を開始し、その後も様々な事業努力によって使用実績を積み重ねながら、被告商品を含む指定商品について、平成23年11月21日に登録出願した。その経緯に社会的相当性を欠くところはない。
 さらに、本件商標は、商標登録後も被告による一層の工夫と努力によって使用実績を重ね、今や相応の信用が化体していることは明らかであるところ、引用商標との関係においても、本件商標を本件指定商品に使用することが社会公共の利益、社会の一般的道徳観念に反するものではない。
(2) 小括
 よって、本件商標は商標法4条1項7号に該当しない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして、上記の「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
(2) 商標の類似性の程度
ア 外観
 本件商標は、「GUZZILLA」と、8文字の欧文字から成る。本件商標において、「G」と「A」の字体は、やや丸みを帯び、「U」と3文字目の「Z」の上端及び7文字目の「L」と「A」の下端は、それぞれ結合し、3文字目及び4文字目の「Z」は、両文字の左下が前下方に鋭く突尖しているほか、やや縦長の太文字で表されることによって、デザイン化されている。
 引用商標は、「GODZILLA」と、8文字の欧文字から成る。原告が引用した引用商標の文字は、標準文字であって、デザイン化されていないが、実際には、様々な書体で使用されている。
 本件商標と引用商標の外観とを対比すると、いずれも8文字の欧文字からなり、語頭の「G」と語尾の5文字「ZILLA」を共通にする。2文字目において、本件商標は「U」から成るのに対し、引用商標は「O」から成るが、本件商標において「U」と3文字目の「Z」の上端は結合し、やや縦長の太文字で表されているから、見誤るおそれがある。もっとも、本件商標と引用商標は、3文字目において相違するほか、本件商標は前記のとおりデザイン化され、全体的に外観上まとまりよく表されている。
 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において相紛らわしい点を含むものということができる。
イ 称呼
 本件商標の語頭の2文字「GU」は、ローマ字の表記に従って発音すれば「グ」と称呼され、我が国において、なじみのある「GUM」などの英単語と同様に発音すれば「ガ」と称呼される。したがって、本件商標は、「グジラ」又は「ガジラ」と称呼され、語頭音は「グ」と「ガ」の中間音としても称呼されるものである。なお、被告が製造販売等する建設機械用アタッチメント(以下「被告アタッチメント」という。)は、本件商標の商標登録出願日以前において、その外観に本件商標が付され、「ガジラ」との名称で取引されていたことが認められるものの(甲167〜170)、その名称が「ガジラ」として、広く知られていたと認めるに足りる証拠はない。よって、本件商標から「ガジラ」との称呼のみが生じるとはいえない。
 引用商標は、後記(3)イのとおり、怪獣映画に登場する怪獣の名称として著名な「ゴジラ」の欧文字表記として広く知られているから、「ゴジラ」と称呼されるものである。また、引用商標の語頭音は、英語の発音において、「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼され、現に大ヒットした映画「シン・ゴジラ」でも、「ゴ」と「ガ」の中間音として称呼されていたものである(甲192〜194)。そして、我が国において、本件商標の商標登録出願時、引用商標の英語の発音による称呼も一般化していたものであるから(甲79〜82(枝番を含む。))、引用商標の語頭音の「ゴ」は、「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼されるものである。
 本件商標と引用商標の称呼を対比すると、語頭音を除く称呼は「ジラ」と共通する。また、語頭音は、本件商標は「グ」と「ガ」の中間音として称呼され得るものであって、引用商標は「ゴ」と「ガ」の中間音として称呼され得るものであるところ、本件商標における「グ」と「ガ」の中間音と、引用商標における「ゴ」と「ガ」の中間音とは、いずれも子音を共通にし、母音も近似する。
 したがって、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいものというべきである。
ウ 観念
 本件商標からは特定の観念が生じず、引用商標からは怪獣映画に登場する怪獣「ゴジラ」との観念が生じる。
エ 本件商標と引用商標の類似性
 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいものであって、外観においても相紛らわしい点を含むものということができる。
(3) 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
ア 怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」は、原告によって創作されたものであり(甲4)、「ゴジラ」が著名であることは当事者間に争いがない。
イ 怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」には、昭和30年、欧文字表記として引用商標が当てられ、その後、引用商標が「ゴジラ」を示すものとして使用されるようになったものである(甲7、8)。欧文字表記の引用商標は、我が国において、遅くとも昭和32年以降、映画の広告や当該映画中に頻繁に使用され(甲7、8、21、39〜43、46〜50、55、79、80、81の1〜3、82、84)、遅くとも昭和58年以降、怪獣である「ゴジラ」を紹介する書籍や、これを基にした物品に多数使用されていること(甲17、18、21、22、26、45、52〜54、56〜61、63〜73、77、78、86の1、92、101の3、102の4、162)、さらに、怪獣である「ゴジラ」の英語表記として多くの辞書にも掲載されていること(甲125〜129、143〜153)からすれば、引用商標は著名であるということができる。
ウ 語頭が「G」で始まり、語尾が「ZILLA」で終わる登録商標は、引用商標の他には、本件商標を除き見当たらない。架空の怪獣の名称において、語頭が濁音で始まり、語尾が「ラ」で終わる3文字のものが多いとしても、これらは怪獣「ゴジラ」が著名であることの影響によるものと認められ(甲173、174)、さらに、欧文字表記において、引用商標と類似するものも見当たらない。
エ 以上によれば、引用商標は周知著名であって、その独創性の程度も高いというべきである。
(4) 商品の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性
ア 商品の関連性の程度
 本件指定商品は、第7類「鉱山機械器具、土木機械器具、荷役機械器具、農業用機械器具、廃棄物圧縮装置、廃棄物破砕装置」である。本件指定商品には、専門的・職業的な分野において使用される機械器具が含まれる。また、これに加えて、本件指定商品のうち、「荷役機械器具」には、油圧式ジャッキ、電動ジャッキ、チェーンブロック、ウインチが、「農業用機械器具」には、刈払機、電動式高枝ハサミ、ヘッジトリマ、草刈機が、含まれる(甲225、226、231〜234、243、253、乙18)。
 これに対し、原告の主な業務は、映画の制作・配給、演劇の制作・興行、不動産経営等のほか、キャラクター商品等の企画・制作・販売・賃貸、著作権・商品化権・商標権その他の知的財産権の取得・使用・利用許諾その他の管理であり(甲135)、多角化している。原告は、百社近くの企業に対し、引用商標の使用を許諾しているところ、その対象商品は、人形やぬいぐるみなどの玩具、文房具、衣料品、食料品、雑貨等であるなど、多岐にわたる(甲12、83〜96、98〜102、199〜211(枝番を含む。))。
 本件指定商品のうち専門的・職業的な分野において使用される機械器具と、原告が引用商標の使用を許諾した玩具、文房具、衣料品、食料品、雑貨等とは、前者が、工場や事業所などの産業現場で、人間の業務を補助する機械であって、専らその性能や品質などが商品選択の基準とされるのに対し、後者は、日常生活で、一般消費者によって使用される物であって、同種製品との差別化が難しいものであるから、性質、用途及び目的における関連性の程度は高くない。
 一方、本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ、電動ジャッキ、チェーンブロック、ウインチ、刈払機、電動式高枝ハサミ、ヘッジトリマ、草刈機等の商品は、ホームセンター等の店舗やオンラインショッピング、テレビショッピングにおいて、一般消費者に比較的安価で販売され得るものである(甲235〜242、244〜252、254(枝番を含む。))。そうすると、これらの商品は、日常生活で、一般消費者によって使用される物であって、同種製品との差別化が難しいものということができる。これらの商品は、一般的な玩具等とは異なり、使用方法によっては、身体・財産に危険が生じるものではあるが、比較的小型の機械器具であって、その操作方法も比較的単純であるから、専門的な業務用途に限られるものではなく、特別な知識、能力を有する者のみにその使用が限定されるものでもない。したがって、本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ、電動ジャッキ、チェーンブロック、ウインチ、刈払機、電動式高枝ハサミ、ヘッジトリマ、草刈機等と、原告が引用商標の使用を許諾した玩具、雑貨等とは、ホームセンター等の店舗やオンラインショッピング、テレビショッピングにおいて、一般消費者に比較的安価で販売され得るものであり、日常生活で、一般消費者によって使用されるなど、性質、用途又は目的において一定の関連性を有しているといわざるを得ない。
 よって、本件指定商品に含まれる商品の中には、原告の業務に係る商品と比較した場合、性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれているというべきである。
イ 取引者及び需要者の共通性
 本件指定商品に含まれる前記油圧式ジャッキ等の、比較的小型で、操作方法も比較的単純な荷役機械器具及び農業用機械器具の需要者は一般消費者であり、その取引者は、これらの器具の製造販売や小売り等を行う者である。また、原告が引用商標の使用を許諾した玩具、雑貨等の需要者は一般消費者であり、その取引者は、これらの商品の製造販売や小売り等を行う者である。本件指定商品の取引者及び需要者の中には、原告の業務に係る商品の取引者及び需要者と共通する者が含まれる。そして、商品の性質、用途又は目的からすれば、これら共通する取引者及び需要者は、商品の性能や品質のみを重視するということはできず、商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うというべきである。
(5) 出所混同のおそれ
 以上のとおり、「混同を生じるおそれ」の有無を判断するに当たっての各事情について、取引の実情などに照らして考慮すれば、本件指定商品に含まれる専門的・職業的な分野において使用される機械器具と、原告の業務にかかる商品との関連性の程度は高くない。
 しかし、本件商標と引用商標とは、称呼において相紛らわしいものであって、外観においても相紛らわしい点を含む。また、引用商標は周知著名であって、その独創性の程度も高い。さらに、原告の業務は多角化しており、本件指定商品に含まれる商品の中には、原告の業務に係る商品と比較した場合、性質、用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれる。加えて、これらの商品の取引者及び需要者と、原告の業務に係る商品の取引者及び需要者とは共通し、これらの取引者及び需要者は、取引の際に、商品の性能や品質のみではなく、商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うものということができる。
 そうすると、本件指定商品に含まれる商品の中には、本件商標を使用したときに、当該商品が原告又は原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるものが含まれるといわざるを得ない。
(6) 被告の主張について
ア 被告は、被告アタッチメント等は、特殊な機械器具であり、専らその性能や品質、信頼性、安定性などが商品選択の基準とされるから、商品化事業に全く馴染まないと主張する。
 本件指定商品のうち、被告アタッチメント等の専門的・職業的な分野において使用される機械器具は、産業現場で、人間の業務を補助するために、専らその性能や品質などが商品選択の基準とされ、その需要者は産業機械分野の業務に従事する者であり、その取引者は産業機械器具の製造販売やリース等を行う者である。このように、本件指定商品に含まれる一部の商品については、原告が引用商標の使用を許諾した商品との関連性の程度が高くなく、その取引者及び需要者も異なるということはできる。しかし、この事実は、本件指定商品には、原告の業務に係る商品と一定の関連性を有するものが含まれ、本件指定商品の取引者及び需要者の中には、原告が引用商標の使用を許諾した商品の取引者及び需要者と共通する者が含まれることや、これらの者が、商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うことを否定するものにはならない。
 そうすると、本件商標を被告アタッチメント等の専門的・職業的な分野において使用される機械器具に使用したときのみをもって、本件商標が原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるか否かを判断することはできないから、被告の主張は採用できない。
イ 被告は、本件商標は、被告により、英単語「GUZZLE」と「GORILLA」とを組み合わせるなどして創作された造語であると主張する。
 しかし、引用商標は、周知著名なものであって、怪獣映画に登場する怪獣との観念を生じさせるものであり、街や建造物を破壊するという力強いイメージを有するものである(甲9〜11、52〜73)。本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ等は、比較的小型で、操作方法も比較的単純な荷役機械器具及び農業用機械器具であるから、その取引者及び需要者は、引用商標が有する力強いイメージに誘引されて、取引を行うことが十分に考えられるものである。一方、本件指定商品のうち油圧式ジャッキ等の取引者及び需要者において、本件商標が、英単語「GUZZLE」と「GORILLA」とを組み合わせるなどして独自に創作された造語であって、引用商標と異なるということを認識した上で取引を行うことは、英単語「GUZZLE」が見慣れない英単語であることからすれば(甲154)、考えにくいものである。
 したがって、本件商標が被告により創作された造語であるとの被告の主張は、本件商標を本件指定商品に使用したときに、本件指定商品が原告の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとの判断を左右するものにはならない。
ウ 被告は、本件商標は引用商標にただ乗りするものではないし、本件商標を使用しても引用商標の希釈化は生じないと主張する。
 しかし、前記イのとおり、本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ等の取引者及び需要者は、引用商標が有する力強いイメージに誘引されて、取引を行うことが十分に考えられるから、本件指定商品に本件商標が使用されれば、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリュージョン)を招く結果を生じかねない。
 また、被告は、平成8年頃から、コンクリート等を圧搾する機能を有する被告アタッチメントに本件商標を付して使用していることからすれば(甲130、167〜170)、被告は、引用商標が有する力強いイメージを想起させることを企図して、被告アタッチメントに、引用商標と称呼において相紛らわしく、外観においても相紛らわしい点を含む本件商標を付していたものといわざるを得ない。さらに、被告は、本件商標の商標出願日である平成23年11月21日以降ではあるものの、原告が使用していた「SUPER GODZILLA」「SPACE GOZILLA」と相紛らわしい「SUPER GUZZILLA」「SPACE GUZZILLA」を使用している(甲30、55、62、131、132、136〜138、155〜158、161〜165、198)。また、被告は、本件商標の商標出願日以降ではあるものの、本件商標をタオル、腕時計、手袋、帽子、Tシャツ、パーカー等に付して、広く無償配布及び販売している(甲178〜188、218、228、229)。加えて、被告は、本件商標の商標登録日以降ではあるものの、我が国における周知著名な商標と相紛らわしい「ガリガリ君」や「STUDIO GABULLI」との文字から成る商標につき商標登録出願もしている(甲139〜142)。これらの被告の行為は、本件商標の商標登録出願時において、本件指定商品に本件商標が使用されれば、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招く結果を生じかねなかったことを間接的に裏付けるものといえる。
 このように、本件指定商品に本件商標が使用されれば、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招く結果を生じかねないから、被告の主張は採用できない。
(7) 小括
 以上によれば、本件商標は商標法4条1項15号に該当する。取消事由1は理由がある。
2 結論
 よって、その余の取消事由について判断するまでもなく、本件審決は取り消されるべきものであるから、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 杉浦正樹
 裁判官 片瀬亮


別紙 商標目録
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