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【事件名】“壁ドン”イラスト無断転載事件
【年月日】平成30年6月7日
 東京地裁 平成29年(ワ)第39658号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成30年4月19日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 平野敬
被告 株式会社スタークラウン
同訴訟代理人弁護士 中村昌樹
同 中尾義孝


主文
1 被告は、原告に対し、30万円及びこれに対する平成26年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その7を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、99万円及びこれに対する平成26年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告が運営するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)に、原告が著作権を有するイラスト3点(以下「本件各イラスト」と総称する。)を掲載した行為が送信可能化権(著作権法23条1項)の侵害に当たると主張して、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償金99万円及びこれに対する不法行為日(本件各イラストを掲載した日)である平成26年7月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、イラストレータとして活動している者である。
 被告は、インターネットメディア事業等を目的とする株式会社であり、「ガールズVIPまとめ」と題するウェブサイト(本件サイト)を運営している。
(2)本件各イラスト
 本件各イラストは、次のイラスト3点であり、いずれも原告が制作したものであり、原告は本件各イラストの著作権者である。原告は、本件各イラストを、ツイッター及び原告が運営するウェブサイトに掲載している。(甲2)
ア 「どの壁ドンがお好き?」と題する、左側に壁があり、壁側に女性、反対側に男性が立ち、向かい合っている4つの場面が描かれ、各場面についてそれぞれ説明文が付されているイラスト
イ 「どの壁ドンがお好き?その2」と題する、後方に壁があり、男女が向かい合ったり、抱き合ったりしている5つの場面及びプテラノドンが飛んでいる場面が描かれ、各場面についてそれぞれ説明文が付されているイラスト
ウ 「不本意な壁ドンをされたときに、効果的な対処法をまとめました!」と題する、壁側に女性、反対側に男性が立ち、女性が、男性の腹部や顎部を突くなどする4つの場面が描かれ、各場面についてそれぞれ説明文が付されているイラスト
(3)被告の行為
 被告は、平成26年7月31日、本件各イラストを本件サイトに掲載した。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)原告は、被告が本件各イラストを本件サイトに掲載することを許諾していたか
(被告の主張)
 原告は、被告が本件各イラストを掲載することを許諾していた。すなわち、原告は、平26年8月3日、ツイッターにおいて、「私はどっちかというと作者名さえ消されなければ無断転載?どんどんやってくれたまえガハハ!というタイプなんですが」とのコメントを載せており、平成26年8月当時、原告は、被告を含む第三者が原告のイラストを掲載することについて許諾していた。
 したがって、被告が本件各イラストを本件サイトに掲載した行為について、著作権侵害は成立しない。
(原告の主張)
 否認ないし争う。被告は、原告のツイッターにおける言動を恣意的に切り取っている。原告は、平成26年8月頃、他のツイッターユーザーから原告のイラストが無断転載されていると知らされたため、無断転載者に連絡してイラストの掲載を止めさせたことがあった。原告は、ツイッター上で、上記の件に関し、被告が指摘するコメントを載せたが、原告は、当該コメントに続けて、無断転載を放置していると無断転載者に不当に利益を与えてしまうことになるとコメントしており、むしろ、無断転載を許容しない旨の意見を表明している。
(2)原告の損害額
(原告の主張)
ア 著作権法114条3項に基づく損害
(ア)原告は、専門的な技能を有するイラストレータであり、出版社等から依頼を受けてイラストを作成している。原告のイラストは、インターネット上でも多大な人気を博しており、その価値は極めて高い。
 そして、原告は、@ウェブサイト上に掲載する漫画について、漫画1頁当たり2万円、カラー扉絵は1頁当たり4万円という原稿料での制作依頼を受けたこと、A書籍の表紙用に制作したカラーイラストの原稿料が3万円であったこと、B年賀状用に制作したカラーイラストの原稿料が2万4000円であったことから、本件各イラストの使用料は1年当たり10万円を下らないというべきである。
(イ)被告は、平成26年7月31日以降、本件各イラストを掲載しているから、使用料相当額は90万円(10万円×3点×3年分)を下らない。なお、被告は、平成29年6月8日に本件各イラストの掲載を取り止めたと主張する。被告の当該主張については不知であるが、被告の主張を前提としても、被告は本件各イラストを2年11か月間掲載していたことになり、原告は1年単位で使用料を設定しているため、本件において原告が受けるべき使用料相当額は3年分となる。
イ 弁護士費用相当額の損害額
 弁護士費用相当額の損害額は9万円が相当である。
ウ よって、原告は、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、上記損害賠償金合計99万円及びこれに対する不法行為日(本件各イラストの掲載日)である平成26年7月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
ア ツイッターのサービス利用規約上、ツイッターの利用者は、他の利用者(投稿者)が投稿した記事(ツイート)については、ツイート自体を埋め込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている。原告は本件各イラストをツイッターに掲載しているから、原告は、第三者が原告のツイート自体を埋め込む方法で他のウェブサイトに掲載することは承諾していたといえる。被告は、当時、十分な経験がなかったことから、本件各イラストの画像自体を掲載する方法を採ってしまったが、ツイート自体を埋め込む方法を採れば適法に掲載することが可能であった。この点は損害額の認定に当たって考慮されるべきである。
イ 原告は、3年分の使用料を請求しているが、被告は、平成29年6月8日に本件各イラストの掲載を取り止めている。また、本件各イラストが掲載されていた本件サイトの閲覧回数(PV数)は2万5696回であり、そのほとんどは公開後約2か月間に集中しており、平成27年7月以降の閲覧はなく、被告において本件各イラストを掲載していたといえるのは公開後から半年程度であるから、掲載期間全部を使用料の算定根拠とすることは不当である。
ウ 原告は、本件各イラストの使用料は1年当たり10万円を下らないと主張する。しかしながら、原告は、本件訴訟提起前、被告に対し、本件各イラストの著作権侵害の損害賠償金として9万円(1点3万円×3点)を請求していた。また、上記の原告の主張の(ア)@について、漫画の原稿料にはストーリー制作作業に対する対価も含まれると考えられること、同Aについて、書籍の表紙用のイラストと本件各イラストでは完成度が異なることから、いずれも本件各イラストの使用料の算定資料として適切ではない。むしろ、本件各イラストの性質上、同Aの書籍の扉絵の原稿料(1点3000円)が算定資料になり得る事例であり、本件各イラストは3点(描かれた場面の数は合計14枚)であり、構図も3種類程度しかないこと等を踏まえると、本件各イラストの使用料は高くても1回2〜3万円程度である。
 また、被告は、本件サイトの1PV当たりおよそ0.1円の広告料を受け取っているところ、上記イのとおり、本件各イラストが掲載されたサイトのPV数は2万5696回であり、被告が本件各イラストの掲載によって得た利益は2500円程度であるから、被告が得た利益に比べても、原告が主張する使用料は過大である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告は、被告が本件各イラストを本件サイトに掲載することを許諾していたか)について
 被告は、原告のツイッター上の言動によれば、原告は、被告が本件各イラストを掲載することを許諾していたと主張する。
 原告は、平成26年8月3日、ツイッターにおいて、「私はどっちかというと作者名さえ消されなければ無断転載?どんどんやってくれたまえガハハ!というタイプなんですが この方針で無断転載イヤ派の方の画像も転載してるBOTとかを放置してると、海賊にエサを与えてることになってしまうんですよねえ。イヤな渡世です。」とのコメントを掲載した(甲8、乙3)。当該コメントは、原告が、本来、無断転載について寛容な考え方であるものの、無断転載を放置すると無断転載者に不当な利益を与えることとなってしまうと述べるもので、無断転載を無条件に許容することは問題がある旨の意見を表明するといえるものである。当該コメントによって、原告が被告による本件各イラストを本件サイトに掲載することを許諾していたと認めることはできず、他に、原告が、被告による本件各イラストの掲載を許諾していた事実を認めるに足りる証拠はなく、被告の主張は採用することができない。
2 争点(2)(損害額)について
(1)以上のとおり、被告は、原告が著作権を有する本件各イラストを本件サイト上に掲載することによって、本件各イラストに係る送信可能化権(著作権法23条1項)を侵害した。そして、本件各イラストの内容その他認定説示したところによれば、被告には、当該侵害行為につき故意又は少なくとも過失が認められる。
 したがって、原告は、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、本件各イラストの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害賠償金の支払を求めることができるというべきである。
(2)著作権侵害(著作権法114条3項に基づく損害)について
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、平成29年6月頃、ウェブサイト上に掲載する漫画の制作依頼を受けたところ、この依頼において、掲載期間を1年間(2年目以降も掲載する場合には契約更新を行う。)とし、原稿料は、漫画本編は1頁当たり2万円、カラー扉絵は4万円との条件を示されたこと(甲12)、A原告は、平成28年頃、書籍の表紙用のカラーイラスト(スーツを着て、ペンとメモ帳を持った女性のイラスト)及び当該書籍中の扉絵4点を制作したところ、原稿料は、表紙のイラストについて3万円、扉絵について3000円であったこと(甲14の1・2)、B原告は、平成29年の年賀状用のカラーイラスト(餅と鳥を組み合わせたイラスト)を制作したところ、原稿料は2万4000円であったこと(甲15の1・2)、以上の事実が認められる。
 これらの事実に加え、本件各イラストの内容(前提事実 )、 本件サイトはインターネットメディア事業を行うことなどを目的とする被告が運営し、その閲覧数に応じて被告が収入を得るものであること(弁論の全趣旨)、その他本件における諸事情を総合すると、本件各イラストの使用に対し受けるべき金額は1年当たり3万円とするのが相当である。
 そして、弁論の全趣旨によれば、被告が本件サイト上に本件各イラストを掲載していた期間は、平成26年7月31日から平成29年6月8日までであると認められるから、原告が、本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額は合計27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)となる。
イ これに対し、原告は、原告が制作するイラストの使用料は1年当たり10万円を下らないと主張し、原告本人の陳述書中にも同旨の記載がある(甲1)が、上記アの認定事実に照らし、原告の主張は採用することはできない。
ウ(ア)他方、被告は、ツイッターのサービス利用規約上、ツイート自体を埋め込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている点を損害額の算定において考慮すべきであると主張するが、被告の主張を前提としても、本件における被告の掲載行為が適法となる余地はなく、上記に述べた本件サイトの性質等に照らしても、被告の上記主張は採用することができない。
(イ)また、被告は、本件各イラストが掲載されていた本件サイトのPV数は公開後約2か月間に集中しており、その後はほとんど閲覧されていないから、掲載期間全部を損害額算定の根拠することは不当であると主張する。しかしながら、本件において原告が受けるべき金員の額は、被告による本件各イラストの掲載行為の内容等を踏まえて算定すべきであるから、被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)さらに、被告は、原告が本件訴訟提起前に被告に対し本件各イラストの著作権侵害による損害賠償金として9万円(1点3万円×3点)を請求していたこと、上記ア@について、漫画の原稿料にはストーリー制作作業に対する対価も含まれると考えられること、同Aについて、書籍の表紙となるイラストと本件各イラストでは完成度が異なることから、いずれも本件各イラストの使用料相当額の算定資料としては適切ではなく、むしろ、本件各イラストの性質上、同Aの書籍の扉絵の原稿料(1点3000円)が算定資料になり得る事例であり、本件各イラストは3点(描かれた場面の数は合計14枚)であり、構図も3種類程度しかないこと等を踏まえると、本件各イラストの使用料は高くても1回2〜3万円程度であると主張する。
 しかしながら、本件訴訟提訴前に一定の金額を提示したとしてもその金額が直ちに本件各イラストの使用料相当額であるとはいえない。また、本件各イラストにおいては、複数の場面が多色カラーで描かれ、各場面に合わせた説明文も記載されており、これらの場面設定や説明文についても原告が創作していることを踏まえると、本件各イラストの使用料相当額が、漫画や書籍の表紙の原稿料と比べて低額になるとはいえず、被告の主張は採用することができない。
(エ)被告は、被告が本件各イラストの掲載によって得た利益は2500円程度に過ぎないとも主張するが、本件サイトの性質等を踏まえても、上記アで認定した本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額が不相当であるとはいえない。
エ したがって、原告が、本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額は27万円である。
(3)弁護士費用相当額の損害額
 本件における弁護士費用相当額の損害額は3万円とするのが相当である。
3 結論
 よって、原告は、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、30万円及びこれに対する不法行為日(本件各イラストを掲載した日)である平成26年7月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 安岡美香子
 裁判官 大下良仁
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