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【事件名】宣材写真の無断複製事件(2)
【年月日】平成30年5月28日
 知財高裁 平成30年(ネ)第10002号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成28年(ワ)第35002号)
 (口頭弁論終結日 平成30年4月16日)

判決
控訴人 株式会社ジンセイプロ
同訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
同 大木勇
同 品川潤
同 白井徹
同 小佐々奨
被控訴人 X(以下「被控訴人X」という。)
被控訴人 株式会社オフィス亜都夢(以下「被控訴人会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 野本智之


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、330万円及びこれに対する平成26年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要(略称は、原判決に従う。)
1 本件は、本件宣材写真の著作権者であると主張する控訴人が、ホテルセンチュリー静岡ないしその委託先において本件宣材写真の複製物を掲載した本件チラシを作成、頒布したことは、控訴人が有する本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)の侵害に当たるところ、かかる侵害行為は被控訴人らがホテルセンチュリー静岡ないしその委託先をして行わせた共同不法行為であると主張して、被控訴人らに対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金330万円及びこれに対する不法行為後の日である平成26年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで、控訴人が、原判決を不服として控訴した。
2 前提事実
 原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点
(1) 本件宣材写真の著作権者(争点1)
(2) 被控訴人らの不法行為責任等の有無(争点2)
(3) 控訴人の損害額(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件宣材写真の著作権者)について
〔控訴人の主張〕
 本件宣材写真は、控訴人が、被控訴人Xの宣材写真として、有限会社ウエストフォトプロダクションに委託して撮影したものである。控訴人は、平成21年7月頃、同社から本件宣材写真の著作権の譲渡を受けた。
〔被控訴人らの主張〕
 控訴人が本件宣材写真の著作権の譲渡を受けたとの事実については、不知。
2 争点2(被控訴人らの不法行為責任等の有無)について
〔控訴人の主張〕
(1) 本件宣材写真を提供したことによる被控訴人らの責任
 本件プロフィール写真は、本件宣材写真を複製したものである。被控訴人Xは、本件宣材写真を所持していたところ、被控訴人会社の代表者であるAの求めに応じて、本件イベントのチラシに利用されることを認識しながら、控訴人の承諾を得ることなく、同写真をAに提供した。そして、Aは、本件イベントのチラシに利用されることを認識しながら、これをSBSプロモーションの担当者であるBに提供し、その後、本件宣材写真を利用した本件チラシが制作され、頒布されたことにより、本件宣材写真の複製権及び譲渡権が侵害されたものである。
したがって、被控訴人らは、共同して、ホテルセンチュリー静岡ないしその委託先に上記複製権及び譲渡権を侵害させたものと評価することができ、控訴人が受けた損害を連帯して賠償する責任を負う。
(2) 本件宣材写真のデータをダウンロードさせたことによる被控訴人会社の責任
 Aは、文化屋楽器店の代表者であるCを介して、Bに対し、本件チラシに掲載する目的であり、かつ権利者である控訴人の承諾がないことを認識の上、本件宣材写真のデータがアップロードされているウェブサイトを指定し、ここから同データをダウンロードするよう指示した。このような方法により、SBSプロモーションに本件宣材写真のデータを取得させ、本件チラシに本件宣材写真を掲載させた被控訴人会社の行為は、控訴人の本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)を侵害するものであり、不法行為責任を負う。
(3) 被控訴人Xの信義則上の責任
 被控訴人Xは、本件宣材写真に控訴人の権利が及ぶことを当然に認識していたものであり、控訴人とのタレント契約を解消して以降も、信義則上の義務として、控訴人が権利を有する写真等が使用されないよう確認し、防止する義務があった。しかし、被控訴人Xは、本件チラシに本件宣材写真が掲載されていることを認識した後も、SBSプロモーションやホテルセンチュリー静岡に対し、何ら削除・訂正を求めるなどしなかったものであり、上記義務に違反するものとして、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
〔被控訴人らの主張〕
(1) 本件宣材写真を提供したことによる被控訴人らの責任
 被控訴人Xは、本件宣材写真をAに提供しておらず、Aも、本件宣材写真をBに提供していない。被控訴人Xは、Aから、本件イベントの宣伝に用いる可能性があるとして写真の提供を求められ、自ら撮影した写真を提供したことはあるが、本件宣材写真は所持しておらず、これを提供したこともない。
 被控訴人Xが本件イベントに出演することとなったのは、AがCの依頼を受けて被控訴人Xを紹介したことが契機であるが、本件チラシの作成に関しては、CがSBSプロモーションとやりとりを行っており、被控訴人会社ないしAは関与していない。なお、Aは、本件イベントの宣伝に用いる可能性があると考え、被控訴人Xに対して、前もって写真の提供を求めたが、被控訴人Xが提供した写真は宣材写真として使い物にならなかったため、別途宣材写真の撮影を行った。しかし、結局、本件イベントの宣伝に関しては、Cから宣材写真の提供を求められなかった。
(2) 本件宣材写真のデータをダウンロードさせたことによる被控訴人会社の責任
 AがCに対して、本件宣材写真のデータがアップロードされたウェブサイトを指定して、データをダウンロードするよう指示した事実はない。Aは、Cから、宣材写真を準備するように指示されなかった。
(3) 被控訴人Xの信義則上の責任
 被控訴人Xはタレントであるが、タレントであるというだけで、自己の写真について著作権侵害がされないように防止する義務などを負うものではない。また、被控訴人Xは、どのような経緯で本件チラシが作成されたのか、どのようなチラシが作成されたのか、全く知らなかった。
3 争点3(控訴人の損害額)について
〔控訴人の主張〕
(1) 著作権法114条2項により、本件宣材写真の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したホテルセンチュリー静岡が得た利益の額は、控訴人が受けた損害の額と推定されるところ、その額は、300万円を下回ることはない。仮に、同項が本件に適用されないとしても、一般にタレントの宣材写真の価値が極めて高いことからすれば、控訴人が本件宣材写真の著作権を行使する場合に受けるべき金銭の額は、300万円を下回ることはないから、同条3項により、同額が損害と認められる。
(2) 前記⑴のほか、弁護士費用として30万円が認められるべきである。
〔被控訴人らの主張〕
 否認し、争う。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求は、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 認定事実
 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 「SUMMER BEER PARTY IN CENTURY」は、毎年SBSプロモーションがホテルセンチュリー静岡において開催しているイベントであり、Cがリーダーを務めるテリーズというバンドの演奏と、タレントによるショーとが披露されることが通例となっていた。
 SBSプロモーションの担当者であるBは、平成26年2月頃、本件イベントに出演するタレントの紹介をCに依頼し、Cはさらにこれを被控訴人会社のAに依頼した。Aは、当初別のタレントを紹介したが、その後被控訴人XをCに紹介し、SBSプロモーションとホテルセンチュリー静岡のいずれもがこれを了承したことから、被控訴人Xが本件イベントに出演することが決まった。
(甲2、11、12、乙4、証人B、被控訴人会社代表者)
(2) Bは、本件イベントのチラシを作成するために、Cに対し、被控訴人Xの宣材写真を提供するよう求めた。Cは、その後しばらくして、Bに対し、インターネット上のウェブサイトにある被控訴人Xの写真を使用するよう述べた。そこで、Bは、インターネットで被控訴人Xの芸名を検索して表示されたウェブサイト(甲13。以下「本件ウェブサイト」という。)を外注先のデザイナーに伝えた。そして、同デザイナーにより本件チラシが制作された。(甲2、11~13、乙4、証人B)
(3) 被控訴人Xは、平成17年9月頃から控訴人に所属していたが、平成24年8月31日、控訴人とのタレント契約(以下「本件タレント契約」という。)を解消した。控訴人は、平成25年2月19日、東京地方裁判所に対し、被控訴人Xを被告として、①本件タレント契約が継続しているとして、同契約上の権利を有する地位にあることの確認、②被控訴人Xが控訴人の所属タレントであるにもかわらず、一方的に業務を放棄したなどとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。被控訴人Xは、本件タレント契約は終了しているなどと主張し、これを争った。
 同裁判所は、平成28年6月2日、①控訴人と被控訴人Xとの間には、平成24年8月31日をもって本件タレント契約を終了させる旨の合意が成立したと認められる、②被控訴人Xには、控訴人が主張する債務不履行又は不法行為は認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決をし、同判決は確定した。
(乙1、1の2、1の3、5)
2 争点2(被控訴人らの不法行為責任等の有無)について
(1) 本件宣材写真を提供したことによる被控訴人らの責任
 被控訴人XがAに提供し、AがBに提供した本件宣材写真を利用して本件チラシが制作されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、本件チラシに掲載された本件プロフィール写真は、SBSプロモーションから本件チラシの制作を依頼されたデザイナーが、Bから伝えられた本件ウェブサイトから取得したものであることは、前記1のとおりである。
(2) 本件宣材写真のデータをダウンロードさせたことによる被控訴人会社の責任控訴人は、Aが、Cを介してBに対し、本件ウェブサイトを指定し、ここから本件宣材写真のデータをダウンロードするよう指示した旨主張し、Cの陳述書(甲12)には、同主張に沿う部分がある。
 しかし、Cの上記陳述は、客観的な裏付けを欠くものであり、陳述の内容も、「3年も前のことなので、今となってはどのウェブサイトと言われたかはっきりと覚えていない。Aから、被控訴人Xのウェブサイトから取るように言われたので、そのようにBに伝えたと思う。」旨の曖昧なものである。そして、①Aは、Cに対して上記指示をした事実はなく、Cから被控訴人Xの宣材写真を準備するよう指示された事実もない旨供述していること(原審における被控訴人会社代表者、乙4)、②被控訴人Xは、本件イベントが開催された平成26年当時、既に控訴人とのタレント契約を解消していたものであるが、同契約が解消されているか否かをめぐって控訴人と紛争状態にあり、民事裁判が係属中であったものであり(前記1(3))、Aも、被控訴人Xの所属をめぐり同人と控訴人との間で紛争となっていることを認識していたこと(原審における被控訴人会社代表者)からすると、控訴人との間に更なるトラブルを招きかねない、本件宣材写真を控訴人に無断でダウンロードするような行為をすることは、にわかに考えにくいこと、③本件宣材写真は、被控訴人Xが控訴人に所属していた際の公式ブログである本件ウェブサイトに掲載されていたものであり、同ウェブサイトから誰でも自由に取得できる状態にあったことなどの事実関係に照らしても、Cの上記陳述はにわかに信用し難く、これを採用することはできない。また、そのほかに、控訴人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、Aが本件宣材写真のデータをダウンロードさせたとの事実関係を前提とする控訴人の主張(前記2(2))は、理由がない。
(3) 被控訴人Xの信義則上の責任
 控訴人は、被控訴人Xは、信義則上の義務として、控訴人が権利を有する写真等が使用されないよう確認し、防止する義務があったところ、上記義務に違反した旨主張する。
 しかし、被控訴人Xにおいて、控訴人とのタレント契約を解消したというだけで、自己の写真について控訴人の著作権侵害がされないように防止する信義則上の義務を負うとまでは認め難い。また、被控訴人Xにおいて、どのような経緯で本件チラシに本件宣材写真が掲載されることになったのかを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人の主張は採用できない。
(4) 小括
 以上のとおり、控訴人の主張は、その前提となる事実関係等を欠くものであり、被控訴人らの不法行為責任ないし債務不履行責任を認めることはできない。
3 結論
 したがって、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がないから、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は、相当である。
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 山門優
 裁判官 筈井卓矢
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