判例全文 | ||
【事件名】CADソフト“DRA−CAD11”事件 【年月日】平成30年1月30日 東京地裁 平成29年(ワ)第31837号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成29年12月5日) 判決 原告 株式会社建築ピボット 同訴訟代理人弁護士 野村吉太郎 被告 A 主文 1 被告は、原告に対し、969万5700円及びこれに対する平成28年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成28年7月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、「建築CADソフトウェア「DRA-CAD11」(以下「本件ソフトウェア」という。)について著作権及び著作者人格権を有し、また「DRA-CAD」との文字からなる商標に係る商標権を有しているところ、被告において、原告の許諾なしに本件ソフトウェアをダウンロード販売等すると共に、本件ソフトウェアのアクティベーション機能(正規品のシリアルナンバー等を入力しないとプログラムが起動・実行されないようにする機能をいう。)を回避するプログラムを顧客に提供して同機能の効果を妨げたものであり、かかる被告の行為は、原告の上記著作権(複製権、翻案権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとともに、原告の上記商標権を侵害し、さらに平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条1項11号(同号は、同改正後の同法2条1項12号に相当する。以下、単に「旧11号」という。)所定の不正競争行為に該当する」と主張して、被告に対し、上記各不法行為に基づき、損害賠償金2812万9500円の一部である1000万円及びこれに対する平成28年7月2日(被告が上記商標権侵害に関する刑事事件において有罪判決を受けた日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。これに対し、被告は、商標権侵害の事実を認めるが、著作権侵害及び不正競争防止法違反の各事実及び原告の損害額を争う。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告は、建築設計関連のプログラム開発及びこれらに関連するインターネットの技術開発を業とする株式会社である。 イ 被告は、ヤフー株式会社が運営するインターネットオークションサイト(以下「ヤフオク」という。)において、多くのソフトウェアを出品していた者である。 (2) 本件ソフトウェア ア 本件ソフトウェア(DRA-CAD11)は、いわゆる建築CADソフトウェアであり、建築設計図面の作成、編集、印刷及び建築3次元モデル作成、レンダリングを行う機能を有するWindowsオペレーティングシステム向けプログラムであるDRA-CADシリーズの一つである。 なお、本件ソフトウェアは、アクティベーション機能により、正規のユーザー以外の者は使えないようになっており、Bというモジュールプログラムが上記アクティベーション機能を担っている(弁論の全趣旨)。 イ 原告は、本件ソフトウェアを販売しており、その定価は税込み19万9500円であったが、営業担当者経由での直接販売ないしオンライン販売の場合、原則として、10%引きの税込み17万9550円で販売していた(甲12)。 (3) 原告の著作権及び商標権 ア 本件ソフトウェアの著作者は原告であり(著作権法15条2項)、原告は本件ソフトウェアの著作権及び著作者人格権を有している(後者につき弁論の全趣旨)。 イ 原告は、別紙商標目録記載の商標(「DRA-CAD」との文字からなるもの、以下「本件商標」という。)に係る以下の商標権(以下「本件商標権」という。)を有している(甲7、8)。 登録番号 第5165277号 登録日 平成20年9月12日 指定商品及び役務の区分 第9類 指定商品 電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、映写フィルム、スライドフィルム、スライドフィルム用マウント、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル、録画済みビデオディスク及びビデオテープ、電子出版物 第16類 指定商品 印刷物 (4) 被告の行為 ア 被告は、平成27年2月から4月にかけて、ヤフオクにおいて、商品名を「『DRA-CAD11』建築設計・製図CAD」などと記載し(以下、当該オークション対象商品を「本件商品」という。なお、後記のとおり、原告は、本件商品は本件ソフトウェアであると主張するのに対し、被告は、本件商品はマニュアルであって、ソフトウェアではないと主張している。)、即決価格4980円で多数出品していた(甲9ないし11〔枝番の記載は省略する。以下同様〕)。 被告は、上記ヤフオクにおいて、「商品説明」欄に「DRA-CAD11」と、「注意事項」欄に「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」などと、「発送詳細」欄において「ダウンロード販売」であるなどとそれぞれ記載していた。 イ 被告は、上記アの出品に際し、原告の許諾なく、ヤフオクにおいて出品情報(「DRA-CAD11」との表示を含む。)を掲載し、これによって原告の本件商標権を侵害した。 ウ 被告は、ヤフオクにおいて本件商品を入札して代金を被告に支払った顧客に対し、本件ソフトウェア及びBのプログラムのクラック版(いずれも原告の許諾がないもの)が蔵置されていたオンラインストレージサイト「C」のURLをダウンロード先として教示し、かつ当該Bのプログラムのクラック版の起動方法及び本件ソフトウェアの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供していた。当該顧客は、上記ダウンロード先から本件ソフトウェア(無許諾品)及びセットアップCDの内容とクラックされたBVer.11.0.1.3を入手することができ、セットアップを行った後、クラック版のBを上書きすると、本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避することができた。(甲6、弁論の全趣旨) (5) 被告に対する刑事事件 ア 被告は、平成28年2月8日、別件の著作権法違反及び不正競争防止法違反を被疑事実として逮捕・勾留され、その後、本件に関する商標法違反等を被疑事実として再逮捕された。 イ 秋田地方検察庁大館支部は、別件に関する不正競争防止法違反で被告を起訴し、さらに同年5月20日に、本件に関する商標法違反で被告を追起訴した。同事件において、被告は、本件商標に類似する商標をヤフオク上に掲載し、インターネット端末を利用する不特定多数の者に閲覧させた(商標法37条1号違反)とされていた。 ウ 秋田地方裁判所大館支部において、同年6月10日に第1回公判期日が開かれ、被告は、起訴事実を全て認めた。 同裁判所は、同年7月1日、被告に対し、懲役2年6月(執行猶予4年)罰金200万円の有罪判決を言い渡し、同判決は確定した。 2 争点 (1) 被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無 (2) 被告による旧11号所定の不正競争行為の有無 (3) 原告の損害額 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について 【原告の主張】 ア 原告が、本件ソフトウェアの正規品と、被告がダウンロード販売していたソフトウェア商品(本件商品)のファイル構成を比較したところ、両者が同一であることが判明し、また本件商品においてセットアップを行ったところ、正規品を実行させた場合と同じ結果になった。 以上のとおり、被告がダウンロード販売していた本件商品は、原告が著作権等を有するプログラムが複製されたものである(複製権侵害)。なお、原告は、被告に対し、本件ソフトウェアをオンラインストレージサイト「C」において記録蔵置(複製)することを許諾していない。 また、被告は、正規品で要求しているアクティベーションを回避して利用できるようにするため、アクティベーション機能を持たせるためのモジュールプログラムであるBを翻案し、正規のシリアル番号等を入力しなくても本件ソフトウェアが起動・実行するように改変した(著作者人格権(同一性保持権)及び翻案権侵害)。 さらに、被告は、原告の許諾を得ずに、本件ソフトウェアをダウンロード販売という形態で第三者に譲渡し、譲渡対価を得ていた(譲渡権侵害)。 以上のとおり、被告は、原告の許諾なく、原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。 イ 被告は、自らが出品したヤフオクの商品説明(甲11)において、「ダウンロード販売ですので送料は不要になります」と説明していたにもかかわらず、インストールマニュアルという「紙」を販売しただけと主張するが、購入者はあくまでソフトウェアを購入するために被告に代金を支払ったのである。 被告は、もともとソフトウェアが違法にアップロードされているという著作権法等違反の状態を認識しており、また「アップロードされている場所を教える」とは、違法状態にあるソフトウェアの存在場所を知る立場を積極的に利用して、場所を教えることにより、購入者に違法状態にあるソフトウェアの利用を可能にさせ、また本件ソフトウェアのように正規のシリアル番号等を入力しなければ正常に起動・実行されないアクティベーション機能を回避するための方法を購入者に教えて、本件ソフトウェアの利用を可能にさせる行為である。 以上によれば、被告の行為は、マニュアルという「紙」を販売しただけではなく、著作権法に違反する行為と評価されるべきである。 【被告の主張】 被告は、ソフトウェアのダウンロード販売をしたものではなく、ソフトウェアがもともと違法にアップロードされている場所(ダウンロードアドレス)を教えて、そのインストール方法をマニュアル化して販売したにすぎない。ヤフオクでの購入者は、インストールマニュアルについて代金を支払ったものである。 実際に、落札後のやりとりの「落札通知」には、オークションの対象がマニュアルであることが記載されており、このように落札前の「商品説明」と「落札通知」とで内容が異なるため、落札者がキャンセルする場合も多かった。 以上のとおり、被告は、本件ソフトウェアを改変、記録蔵置(複製)、ダウンロード販売等してはいない。 (2) 争点(2)(被告による旧11号所定の不正競争行為の有無)について 【原告の主張】 本件ソフトウェアについて、被告は、正規購入者以外の者によるプログラムの実行を制限するために用いている、いわゆるアクティベーション機能(正規品のシリアルナンバー等を入力しないとプログラムが起動・実行されないようにするもの)を回避するプログラムを顧客に提供してアクティベーション機能の効果を妨げた。 具体的には、被告は、本件商品を入札して代金を被告に支払った、正規ユーザーではない者に、Bのプログラムのクラック版が蔵置されていたオンラインストレージサイト「C」のURLを教示し、かつ当該Bのプログラムのクラック版の起動方法及び本件商品の起動・実行方法を教示するマニュアル書面を郵送し、上記非正規ユーザーが被告の指示どおりインターネットである電気通信回線を通じて入手するようにさせたものであり、これは、被告が、他人(原告)が、特定の者(正規ユーザー)以外の者にプログラム(本件ソフトウェア)の実行をさせないために営業上用いている技術的制限手段(アクティベーション機能)により制限されているプログラム(本件ソフトウェア)の実行を、当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラム(Bのプログラムのクラック版)を、当該特定の者(正規ユーザー)以外の者(ヤフオクで被告の出品した本件商品を入札して代金を被告に支払った、正規ユーザーではない者)に電気通信回線を通じて提供したものである。 このように、被告は、原告が営業上用いている技術的制限手段により制限されているプログラムの実行を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供したものであるから、旧11号に違反するものである。 【被告の主張】 否認ないし争う。被告は、単にマニュアルを販売したにすぎず、プログラムを顧客に提供したことはない。 (3) 争点(3)(原告の損害額)について 【原告の主張】 ア 被告は、本件商品について4980円で出品しており、平成27年2月8日時点で、被告がヤフオクに出品した本件商品は142点にのぼるところ、DRA-CAD10(本件ソフトウェアの1つ前のバージョンの製品)の違法複製品の落札実績(4980円で出品され、56点全てについて入札・落札された。)と、本件商品の販売価格が著しく低額であることからすれば、本件商品も、出品数142点全てが落札されたものと予測されるが、そのうち1点は、原告社員が、本件商品が本件ソフトウェアのデッドコピーであるかどうかを確認するために落札したものであるため、逸失利益から控除する。そうすると、原告は、被告の不法行為により本件ソフトウェアの141点分につき、正規に販売する機会を失ったというべきである。 また、本件ソフトウェアの標準小売価格は19万9500円(消費税込み)であり、その141本分は合計2812万9500円となる。 なお、本件での著作権侵害に基づく原告の損害額は、著作権法114条3項に基づいて算定しているところ、原告が本件ソフトウェアを販売する場合に購入者が通常支払う金額は1本当たり19万9500円(消費税込み)であるから、上記のような違法行為を行った被告には同額を負担させるのが正義にかなうというべきである(著作権法114条4項の規定も同趣旨)。 このほか、商標権侵害及び不正競争防止法違反による損害額については、それぞれ商標法38条3項及び4項並びに不正競争防止法5条3項及び4項によるべきであるが、いずれも著作権法114条3項及び4項と同趣旨の規定であり、原告の被告に対する各請求権は、請求権競合の関係にあるから、やはり上記同様、原告の標準小売価格が基準になるというべきである。 以上のとおり、被告の不法行為による原告の損害額は、19万9500円×141本=2812万9500円となるが、原告は、このうち1000万円についてのみ被告に対して請求する(一部請求)。 イ 仮に上記アの主張が否定されるとしても、被告が販売した本件商品のうち、少なくとも66本分は落札され、被告が代金を取得したものである(甲9〜11)から、これによる原告の損害額は19万9500円×66本=1316万7000円となり、原告は被告に対し、そのうち1000万円の支払を請求する。 【被告の主張】 そもそも被告は原告の著作権等を侵害していないから、それを前提とする原告の損害額についての主張は理由がない。 また、本件商品の落札者は、落札後、「落札通知」によってインストールマニュアルの送付及び連絡を受け、その時に購入するかキャンセルするかの選択が可能であり、よく読まずに代金を支払った場合には返金可能としていた。したがって、入金後のキャンセルも多数あり、被告が落札数の全部の代金を取得したことはない。 また、価格差を考慮すれば、被告がマニュアルを販売しなかった場合に、(需要者が)既に旧製品で販売されていなかった本件ソフトウェアを17万9550円で購入することにはならない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について (1) 前記第2、1前提事実(4)のとおり、被告は、ヤフオクにおいて、商品名を「『DRA-CAD11』建築設計・製図CAD」などと記載し、即決価格4980円で多数出品し、その際、「商品説明」欄に「DRA-CAD11」と、「注意事項」欄に「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」などと、「発送詳細」欄において「ダウンロード販売」であるなどとそれぞれ記載していた。そして、被告は、ヤフオクにおいて本件商品を入札して代金を被告に支払った顧客に対し、本件ソフトウェア及びBのプログラムのクラック版(いずれも原告の許諾がないもの)が蔵置されていたオンラインストレージサイト「C」のURLをダウンロード先として教示し、かつ当該Bのプログラムのクラック版の起動方法及び本件ソフトウェアの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供していた。その結果、当該顧客は、上記ダウンロード先から本件ソフトウェア(無許諾品)及びセットアップCDの内容とクラックされたBVer.11.0.1.3を入手することができ、セットアップを行った後、クラック版のBを上書きすることにより、本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避することができた、というのである。 (2) 上記事実によれば、@被告は、ヤフオクにおいて、あくまで「DRA-CAD11」建築設計・製図CAD自体をオークションの対象物と表示して出品しており、「商品説明」欄には「DRA-CAD11」、「注意事項」欄には「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」、「発送詳細」欄には「ダウロード販売」と記載されていたこと、Aかかる表示を見てオークションに入札した顧客も、当然、本件ソフトウェアを安価に入手する意図で入札を行ったと推認できること、B被告は、顧客に対し、本件ソフトウェア及びそのアクティべーション機能を担うプログラムのクラック版(いずれも原告の無許諾)のダウンロード先をあえて教示し、かつこれらの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供し、その結果、顧客が、本件ソフトウェア(無許諾品)を入手した上、本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避してこれを実行することができるという結果をもたらしており、被告の上記行為は、かかる結果を発生させるのに不可欠なものであったこと、C被告は、営利目的でかかる行為を行い、後記3認定のとおり多額の利益を得ていること、以上の事実が認められる。 これらの事情を総合すれば、上記(1)の一連の経過により、被告は、本件ソフトウェアの一部に原告の許諾なく改変(アクティベーション機能の回避)を加え(本件ソフトウェアの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、変更等を加えて新たな創作的表現を付加し)、同改変後のものをダウンロード販売したものと評価できるから、被告は、原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものと評価すべきであり、これに反する被告の主張は採用できない。なお、原告は、譲渡権侵害を主張しているが、有体物の譲渡ではなくソフトウェアのダウンロードが行われたものとして、公衆送信権が侵害されたものと解すべきである。 他方で、原告は、被告が本件ソフトウェアをオンラインストレージサイト「C」において記録蔵置(複製)している旨主張するが、本件ソフトウェアを「C」という名前のサーバに保存したのが被告であることを認めるに足りる証拠はないから、原告の上記主張は採用できない。 2 争点(2)(被告による旧11号所定の不正競争行為の有無)について (1) 前記第2、1前提事実(2)のとおり、原告は、自らが販売する本件ソフトウェアについて、Bというプログラムが担うアクティベーション機能によって、正規の購入者がシリアルナンバー等を入力しなければ利用できないようにしていたところ、前記1(1)のとおり、被告は、Bのクラック版が蔵置されていたサイトのアドレス(ダウンロード先)をヤフオクでの落札者に知らせるとともに、別途、インストール方法が記載されたマニュアルを提供して、本件ソフトウェアが要求するアクティベーションを回避可能にし、落札者がインターネット回線を通じて本件ソフトウェアと同等の本件商品をダウンロード可能な状態にしたものである。 (2) 上記事実によれば、被告は、原告が営業上用いている技術的制限手段(アクティベーション)により制限されているプログラム(本件ソフトウェア)の実行を、当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラム(Bのクラック版)を、電気通信回線(インターネット回線)を通じて提供したものと評価できるから、被告は旧11号所定の不正競争行為を行ったものと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 3 争点(3)(原告の損害額)について (1) まず、著作権侵害による損害額についてみる。 第2、1前提事実(2)のとおり、本件ソフトウェアの定価は19万9500円(税込み)であったものの、原告は、営業担当者経由での直接販売ないしオンライン販売の場合、本件ソフトウェアを、原則として、定価から10%割引きした17万9550円(税込み)で販売していたものである。 そして、被告による本件ソフトウェアのプログラムの著作権(翻案権及び公衆送信権)侵害の態様は、故意により、本件ソフトウェアのアクティベーション機能を無効化するプログラム(Bのクラック版)の利用を教示することにより、本件商品が本件ソフトウェアと同一であるものとしてヤフオクに出品し、本件商品を落札者に対してダウンロード販売したものと評価できるものであり、違法性が高いものといわざるを得ない。これによって本件ソフトウェアの販売者(原告)や正規購入者に対して与える影響をも考慮すると、本件において、原告が、被告の上記著作権侵害行為について、本件ソフトウェアの上記著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は、本件ソフトウェアの定価19万9500円から10%を控除した17万9550円に、本件商品の落札本数と認められる54本(甲9ないし11。これを超える本数が落札・販売された事実を認めるに足りる証拠はない。)を乗じた969万5700円であると認められる。 なお、被告は、ヤフオクでいったん落札された取引においても、入金後にキャンセルされた場合も多数あると主張するが、同主張を認めるに足りる証拠はない。 また、被告は、両商品の価格差等を考慮すれば、仮に被告の行為がなかったとしても原告が本件ソフトウェアを(対象本数分)販売できたとはいえない旨主張するが、前記のとおり、本件における被告の行為態様の悪質性に鑑みれば、このような理由で損害額を減額するのは相当ではない。 なお、原告は、著作者人格権侵害も主張するが、これと原告の主張する損害との間には因果関係が認められない。 (2) 原告は、著作権侵害以外に、商標権侵害や不正競争防止法違反による不法行為についても損害賠償を請求するところ(原告は、これらが実体法上は請求権競合であるとする。)、本件全証拠によっても、商標権侵害及び不正競争防止法違反による原告の損害額のいずれについても、上記(1)の著作権侵害に基づく損害額である969万5700円を超えるものとは認められない。 4 結論 以上によれば、原告の請求は、損害賠償金969万5700円及びこれに対する不法行為後である平成28年7月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれらをいずれも棄却し、原告の敗訴部分はごくわずかであるので、民訴法64条ただし書により訴訟費用を全て被告に負担させることとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 沖中康人 裁判官 矢口俊哉 裁判官 櫻慎平 |
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