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【事件名】ジェイコムイーストへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成30年1月30日
 東京地裁 平成29年(ワ)第37117号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年12月21日)

判決
原告 AことX
同訴訟代理人弁護士 清水陽平
同訴訟復代理人弁護士 二部新吾
被告 株式会社ジェイコムイースト
同訴訟代理人弁護士 萬幸男


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別表(対比表)の原告記事欄の番号欄1~11の内容欄の各文章(以下「原告記事」と総称し、個別の文章を上記の番号に従い「原告記事1」などという。)につき著作権を有する原告が、被告に対し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して原告記事を氏名不詳者がウェブサイト上にアップロードした行為により原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(後記(1)は弁論の全趣旨によれば認められ、その余は争いがない。)
(1) 当事者
 原告は「A」という通称で宗教活動をしている者であり、被告は一般放送事業、電気通信事業、一般放送及び電気通信の業務に用いる電気通信設備並びに回線の貸与等を業とする株式会社である。
(2) 原告記事の作成
 原告は、上記通称名義で原告記事を作成し、メールマガジンとして配信した。
(3) 本件投稿行為
 別紙投稿記事目録記載のIPアドレス(インターネットプロトコルアドレス)の割当てを受けてインターネットに接続した氏名不詳者(以下「本件利用者」という。)は、別表(対比表)の本件投稿記事欄番号1~20の内容欄の各文章(以下、「本件投稿記事」と総称し、個別の本件投稿記事を上記の番号に従い「本件投稿記事1」などという。)を、同欄の各下線部分(以下「本件引用部分」と総称し、個別の本件引用部分を上記の番号に従い「本件引用部分1」などという。この部分は、別表(対比表)の原告記事欄の下線部分と同一である。)につき原告記事を複製した上で作成し、同目録投稿日時欄記載の日時に閲覧用URL欄記載の場所に投稿して、利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた(以下、この行為を「本件投稿行為」という。)。
(4) 開示関係役務提供者
 被告は、上記各日時において、本件利用者に対し、前記IPアドレスを割り当ててインターネット接続サービスを提供していた。したがって、被告はプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(5) 発信者情報の保有
 被告は、本件利用者についての住所、氏名及び電子メールアドレスの情報(別紙発信者情報目録記載の情報。以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
3 争点
(1) 権利侵害の明白性の有無
ア 原告記事の著作物性
イ 引用の成否
(2) 正当な理由の有無
4 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(権利侵害の明白性の有無)について
(原告の主張)
ア 原告記事の著作物性
 原告記事は、宗教的な世界観に基づく極めて宗教的かつ独創的な経験をそのまま文章として表現したものであるから、著作物性がある。原告記事5のうち本件投稿記事7において引用された部分は原告が行ったサッカーの試合の始球式を告知する内容を中心としているが、単に始球式をする事実を述べるにとどまらず、その具体的な内容及び効果について原告なりの思想を交えて創作的に表現したものであるから、当該部分についても著作物性がある。
イ 引用の成否
 適法な引用となるには、引用して利用する側が主、引用部分が従の関係にあることが必要であるが、本件投稿記事はいずれについてもこの関係を満たしていない。また、本件投稿記事1~3においては、出所として「メルマガ」の文字と「vol.」に続く発行番号が記載されているのみであって、出所を明示したといえない。
 したがって、本件投稿記事において原告記事を複製した部分は、適法な引用(著作権法32条1項)に当たらない。
(被告の主張)
ア 原告記事の著作物性
 原告記事のうち本件記事において引用された部分は、日々の事実の羅列であるか、ありふれた表現であるから、著作物性はない。
イ 引用の成否
 原告記事は原告がインターネット上で公開したもので、本件投稿記事において引用元のURLや題目、出典を記載している。
 本件投稿記事は原告記事を批評するという目的で作成されたものであり、その目的の範囲内で引用したものであり、引用部分のうち一部の創作的に見えなくもない文章に比べて本件投稿記事におけるコメントの部分の分量の方が多いから、コメントが主、引用部分が従の関係にある。また、引用部分の前後に線引きすることや「以下抜粋」と記載することで引用部分とコメント部分が明確に区分されているから、どこが引用部分であるかは明白である。本件発信者は原告記事を摘示し、その記載内容について発信者の意見その他の論評を加えるために引用しており、引用の必然性がある。
 そして、「メルマガ」という文字と「vol.」に続く発行番号が記載されていること、本件投稿記事が投稿されたブログの題名が「サルでもわかるワールドメイト入門」であることからすれば、引用部分の出所は明示されているといえる。
 したがって、本件投稿記事における原告記事の引用は適法な引用(著作権法32条1項)であって、本件投稿行為は著作権(複製権及び公衆送信権)侵害とならない。
(2) 争点(2)(正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件利用者に対し、原告記事について有する複製権、公衆送信権の侵害に基づく損害賠償等の請求を行う必要があるが、本件利用者の氏名、住所等が不明であるため、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(権利侵害の明白性の有無)について
(1) 原告記事の著作物性
ア 本件引用部分についてみると、①本件引用部分1は「1月3日になった深夜1時過ぎ」に体験したこと及び「泰澄上人」について、②本件引用部分2は世界の平均気温の変化とその予測、オーディンの神示について、③本件引用部分3は「5月30日」にナオミ・キャンベルが原告のいる店に来店したことや同人についての原告の印象等について、④本件引用部分4~6は「6月2日」に原告が経験したこと等及びこれに基づく原告の意見について、⑤本件引用部分7は「東京ヴェルディのISPSスポンサーデイ」における始球式の内容について、⑥本件引用部分8及び9は原告がした墓参りについて、⑦本件引用部分10は「ダイヤモンドプラチナ黄金浜松エリア本部の奉鎮祭」について、⑧本件引用部分11及び12は「今朝4時すぎ」に原告が経験したことについて、⑨本件引用部分13は平成29年8月8日頃における原告の感情や「キャンディタイムの時計」について、⑩本件引用部分14及び15は「氷見」での神事等及びこれに関して原告が考えたことについて、⑪本件引用部分16~20は「HANDA Watch World」に対するクレームとこれに関する原告の考えについて、いずれも原告の認識を基に表現を工夫して作成された文章であるということができる。
 したがって、本件引用部分は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものということができるから、著作物性を有する。
イ 被告は、本件引用部分は日々の事実の羅列であるか、ありふれた表現であると主張する。しかし、上記アのとおり、本件引用部分を事実の伝達にすぎないということはできないし、原告が認識した事項を表現する際には様々な表現があり得ると認められ、ありふれた表現であるということもできない。被告の上記主張は採用することができない。
(2) 引用の成否
ア 被告は、本件投稿記事における本件引用部分の複製について、本件投稿記事においては原告記事を批評する目的で本件引用部分を引用したものであり、当該引用は公正な慣行に合致し、正当な範囲内で行われたから、適法な引用(著作権法32条1項)に当たると主張する。
イ(ア) 本件投稿記事は、別表(対比表)の本件投稿記事欄のとおりであり、その内容及び個別の投稿記事の終わりの「続く」の記載等を踏まえると、本件投稿記事1、本件投稿記事2、本件投稿記事3、本件投稿記事4~6、本件投稿記事8及び9、本件投稿記事10、本件投稿記事11及び12、本件投稿記事13、本件投稿記事14及び15並びに本件投稿記事16~20が、それぞれ一体の文章であると認められる。
(イ) 以上の一体の文章としてみた各本件投稿記事には、いずれも本件利用者が独自に作成したと考えられる部分(以下「独自部分」という。)と本件引用部分があり、本件投稿記事における本件引用部分は別表(対比表)の本件投稿記事欄の下線を付した部分であり、独自部分は本件投稿記事欄の下線を付していない部分である。独自部分は各本件投稿記事の冒頭か末尾又はその双方にあり、冒頭にあるものは本件引用部分との間に空白の行があるか破線が記載されるなどし、末尾にあるものは本件引用部分との間に破線が記載されている。
ウ ここで、一体の文章としてみた各本件投稿記事において、本件引用部分が相当のまとまりをもった原告記事を複製したものであるのに対し、独自部分は、特定のURLだけ(本件投稿記事7)、短歌1首と記事の標題だけ(本件投稿記事8及び9)、短歌2首と本件引用部分11及び12の紹介文だけ(本件投稿記事11及び12)、短歌1首又は2首だけ(本件投稿記事10、本件投稿記事13、本件投稿記事16~20)というものが多く、本件利用者によると考えられる批評等が記載されている記事(本件投稿記事1、本件投稿記事2、本件投稿記事3、本件投稿記事4~6、本件投稿記事14及び15)においても、その批評等はいずれも簡潔なものである。上記のうち、本件利用者によると考えられる批評等が記載されていない本件投稿記事における本件引用部分は、いずれも被告が主張する批評目的による原告記事の利用であるとは直ちには認め難い。また、本件利用者によると考えられる批評等の記載がある記事をみても、その批評等は簡潔なもので、独自部分における批評等が本件引用部分全部を批評するものとはいえないし、本件引用部分全部を利用しなければ批評の目的が達成できないものともいえず、批評のために本件引用部分全体を利用する必要があるとは認め難い。仮に、独自部分の短歌に批評の趣旨があるとしても同様である。
 そうすると、本件引用部分の利用は、いずれも、少なくとも原告記事を批評する目的上正当な範囲内のものであるということはできないから、これが「引用」であるか否かその他の著作権法32条1項の要件について判断するまでもなく、本件投稿行為が同項の引用として適法となることはない。
(3) 小括
 以上のとおり、本件投稿行為は、著作権法32条1項により適法となることはなく、他に同法30条以下に定める著作権の制限事由が存在することはうかがわれないから、原告の原告記事に係る複製権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかである。
2 争点(2)(正当な理由の有無)について
 以上によれば、原告は、本件利用者に対し、原告記事について有する複製権、公衆送信権の侵害に基づく損害賠償等の請求を行うことができるところ、本件利用者の氏名、住所等が不明であることからすれば、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
3 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 萩原孝基
 裁判官 林雅子は、差し支えにつき署名押印することができない。
裁判長裁判官 柴田義明


(別紙)発信者情報目録
 別紙投稿記事目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の日時頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス

(別紙)投稿記事目録

(別表 (対比表))
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