判例全文 | ||
【事件名】動画サイトへのAV無断投稿事件B 【年月日】平成30年1月23日 東京地裁 平成29年(ワ)第7901号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成29年12月8日) 判決 原告 株式会社WILL 同訴訟代理人弁護士 酒井康生 同訴訟復代理人弁護士 小関利幸 被告 P1 主文 1 被告は、原告に対し、85万6546円及びこれに対する平成26年1月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、800万円及びこれに対する平成26年1月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の著作物(以下、順に「本件著作物1、2」といい、まとめて「本件著作物」ともいう。)を被告が無断で「FC2アダルト」にアップロードして同サイトにアクセスした者の視聴に提供した行為が、原告が本件著作物について有する公衆送信権を侵害すると主張して、原告が被告に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金800万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成26年1月20日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者等 原告は、映画、ビデオの映像製作、編集業務、販売等を営む株式会社である。 株式会社CAは、「溜池ゴロー」、「マドンナ」及び「ROOKIE」というメーカー名(屋号)を用いてアダルトDVDの製作を行っていた株式会社であり、本件著作物の著作権者であったが、平成28年12月1日、原告に吸収合併された(甲1の1、2、甲3、甲4)。 (2) 本件著作物 ア 株式会社CAは、映画の著作物である本件著作物を製作し、本件著作物を、いずれも原告のグループ企業の一つである「DMM.com」のウェブサイト上にて有料でインターネット配信していた(甲1の1、2)。 イ 同ウェブサイトで本件著作物を視聴する場合の最低料金は、本件著作物1について400円、本件著作物2について300円である。なお、その場合の視聴方法は、視聴者のパソコンにデータの残らないストリーミングであり、料金を支払った者は、そのストリーミングを1週間の間は、何度でも自由に繰り返すことができた(甲1の1、2)。 (3) 被告の行為 ア 被告は、別紙被告アップロード目録記載の日時に、インターネット上の動画共有サイトである「FC2アダルト」にそれぞれ同目録記載のタイトルを付した動画データ(以下、順に「被告アップロード著作物1ないし3」といい、まとめて「被告アップロード著作物」という。)を、投稿者名をP2としてアップロードし、被告アップロード著作物1ないし3を公衆に自動送信しうる状態に置いた(甲2の1ないし3)。 イ 被告アップロード著作物の「FC2アダルト」における再生回数は、以下のとおりであった(甲2の1ないし3)。 (ア) 被告アップロード著作物1:再生回数 3万3019回 (イ) 被告アップロード著作物2:再生回数 2万2533回 (ウ) 被告アップロード著作物3:再生回数 1万1877回 (4) 株式会社CAのコンテンツの利用許諾 株式会社CAは、第三者との間で、第三者がその著作物を利用する場合に関し、コンテンツ提供基本契約を締結していた。同契約においては、株式会社CAが、第三者との間で、その有する「コンテンツ」を個別契約によって定める場所や方法等により、第三者自身が、又はサービス事業者等を通じて「コンテンツ」の配信・放送をすることを許諾することとされており、その対価や配信方法については個別契約をもって定めることとされていた。そして、個別契約たる「覚書」においては、各著作物を配信許諾コンテンツに指定し、第三者が各著作物を配信することにより配信料を得る一方、株式会社CAがコンテンツ売上総額の38%を利用許諾の対価として取得するものとされていた(甲8の1、2)。 2 争点 (1) 本件著作物と被告アップロード著作物の同一性 (原告の主張) 被告アップロード著作物1は本件著作物1の一部であり、被告アップロード著作物2、3は本件著作物2の一部である。 (被告の主張) 被告アップロード著作物は、原告からではなく無修正サイトから入手した動画である。本件著作物と異なっていずれもモザイク加工が施されておらず、収録時間も短いから、本件著作物とは異なる。 (2) 原告の受けた損害額 (原告の主張) ア 被告による上記著作権侵害行為により受けた損害の額は、本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準に、原告が本件著作物について利用許諾する場合の料率38%を乗じ、さらに被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数、すなわち公衆に自動送信された回数に乗じることにより、著作権法114条3項の規定に基づき、以下のとおり算定される。 (ア) 被告アップロード著作物1 400円×38%×3万3019回=501万8888円 (イ) 被告アップロード著作物2 300円×38%×2万2533回=256万8762円 (ウ) 被告アップロード著作物3 300円×38%×1万1877回=135万3978円 イ 仮に被告アップロード著作物が本件著作物の一部でしかないことを考慮するとしても、単純な収録時間比ではなく、基本となる許諾料は作品全体に対する料金よりも2倍程度割高に設定されるべきであり、その額は被告アップロード著作物1につき267円(配信料400円の3分の2)、同2につき75円(配信料300円の4分の1)、同3につき150円(配信料300円の2分の1)が相当であるから、これにより計算した損害額は以下のとおりである。 (ア) 被告アップロード著作物1 267円×38%×3万3019回=335万0108円 (イ) 被告アップロード著作物2 75円×38%×2万2533回=64万2190円 (ウ) 被告アップロード著作物3 150円×38%×1万1877回=67万6989円 (被告の主張) ア 原告が本件著作物について利用許諾する場合の料率が38%であることは認める。 イ 著作権法114条3項に基づく損害賠償を請求するに当たり、本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金である本件著作物1につき400円、本件著作物2につき300円を基準とすること、その利用回数として「FC2アダルト」における再生回数を用いることは争う。 被告アップロード著作物の「FC2アダルト」における視聴は無料であるから、無料で視聴された回数がそのまま有料動画の販売機会の逸失回数とはならず、したがって、その再生回数をそのまま有料動画の場合にあてはめて算出した金額を損害額とすることはできない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について 証拠(甲1の1、2、甲2の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、被告アップロード著作物1は本件著作物1の一部であり、被告アップロード著作物2、3は本件著作物2の一部であると認められる。 被告は、被告アップロード著作物は、原告からではなく無修正サイトから入手した動画であり、本件著作物と異なっていずれもモザイク加工が施されておらず、収録時間も短いとして本件著作物との同一性を争うが、被告主張に係る事情は、被告アップロード著作物1が本件著作物1の一部であり、被告アップロード著作物2、3が本件著作物2の一部であるとの上記認定を左右するものではない。 したがって、被告による被告アップロード著作物1を「FC2アダルト」にアップロードして公衆に自動送信しうる状態に置く行為は、原告が本件著作物1について有する公衆送信権(著作権法23条1項)を、被告アップロード著作物2、3を「FC2アダルト」にアップロードして公衆に自動送信しうる状態に置く行為は、原告が本件著作物2について有する公衆送信権(著作権法23条1項)を、それぞれ侵害する行為であるということになる。 2 争点(2)について (1) 原告は、被告による上記著作権侵害行為により受けた損害の額を、本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準に、原告が本件著作物について利用許諾する場合の料率38%を乗じ、さらに被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数、すなわち公衆に自動送信された回数に乗じることにより、著作権法114条3項の規定に基づき請求している。 (2) しかし、同項の規定に基づく損害額を算定するに当たり、利用許諾の料率を原告の通常の場合と同様の38%とし、被告アップロード著作物が「FC2アダルト」において再生された回数、すなわち公衆に自動送信された回数を用いることは適切であるが、本件著作物を適法に視聴する場合の最低料金を基準とすることは高きに失するというべきである(なお、著作権法114条3項の趣旨に照らし、被告アップロード著作物の視聴が無料である事情は、その再生回数をもって視聴が有料である本件著作物の損害額算定の根拠に用いることを妨げないものと解する。)。 すなわち、原告も予備的に主張するとおり、被告アップロード著作物はいずれも本件著作物の一部でしかなく、その収録時間は被告アップロード著作物1で本件著作物1の約37%、被告アップロード著作物2で本件著作物2の約14%、被告アップロード著作物3で本件著作物2の約27%にすぎない。また原告の主張する正規の利用料金を負担した場合、ストリーミングで1週間見放題になるというのであるから、正規の利用料金は、1週間という利用期間を前提に設定されているものであって、これを「FC2アダルト」における公衆への自動送信1回ごとの料金の基準とすることは合理的ではない。 したがって、上記事情を勘案すれば、被告の行為が原告に無断でなされたことを考慮したとしても、被告アップロード著作物の自動送信1回の損害額の基準となる額は、正規の利用料金に収録時間の割合を乗じ、さらにこれを3分の1とした額が相当であり、この計算によれば、被告アップロード著作物1については自動送信1回につき49円、被告アップロード著作物2については自動送信1回につき14円、被告アップロード著作物3については自動送信1回につき27円として算定するのが相当である。 (3) 以上より、著作権法114条3項に基づき原告の受けた損害の額を算定すると、以下のとおりであって合計85万6546円と認められる。 ア 被告アップロード著作物1 49円×38%×3万3019回=61万4813円 イ 被告アップロード著作物2 14円×38%×2万2533回=11万9875円 ウ 被告アップロード著作物3 27円×38%×1万1877回=12万1858円 3 以上によれば、原告の被告に対する請求は、85万6546円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成26年1月20日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項を適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二 裁判官 野上誠一 裁判官 大川潤子 別紙 著作物目録 1 作品タイトル: 品番: DMM作品URL: 収録時間:90分 2 作品タイトル: 品番: DMM作品URL: 収録時間:90分 別紙 被告アップロード目録 1 作品タイトル: 収録時間:33分24秒 アップロード日時:平成26年1月9日 12:00:52 2 作品タイトル: 収録時間:12分18秒 アップロード日時:平成26年1月20日 03:56:36 3 作品タイトル: 収録時間:24分44秒 アップロード日時:平成26年1月20日 17:56:46 |
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