判例全文 line
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【事件名】類似“糸はんだ供給機”の不正競争事件
【年月日】平成29年12月22日
 東京地裁 平成27年(ワ)第33412号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年10月25日)

判決
原告 アオバ自動機株式会社
同訴訟代理人弁護士 新宅正雄
被告 株式会社堀内電機製作所(以下「被告堀内電機」という。)
同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 田中伸一郎
同 奥村直樹
同 山本飛翔
同補佐人弁理士 山本泰史
被告 第一実業株式会社(以下「被告第一実業」といい、被告堀内電機と被告第一実業を併せて「被告ら」という。)
同訴訟代理人弁護士 木村育代
同 松永章吾
同補佐人弁理士 上島類


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して3300万円及びこれに対する平成28年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、別紙被告商品目録1記載の製品及び別紙被告商品目録2記載の製品を製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
3 被告らは、別紙被告商品目録1記載の製品及び別紙被告商品目録2記載の製品を破棄せよ。
4 被告堀内電機は、別紙営業秘密目録(1)ないし(3)各記載の情報を使用して、半田フィーダを設計又は製造してはならない。
5 被告堀内電機は、別紙営業秘密目録(1)ないし(3)各記載の情報を使用して制作した設計データを廃棄し、そのデータの電磁的記録を消去せよ。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、糸半田供給機(半田フィーダ)の開発、製造、販売等を行う原告が、被告堀内電機が製造し、被告らが共同して展示及び販売した別紙被告商品目録1及び2記載の各商品(以下「被告商品1」及び「被告商品2」といい、併せて「被告各商品」という。)について、@別紙原告商品目録記載の商品(型式:ASTY−V1100H。以下「原告商品」という。)の形態を模倣したものであり、被告らの行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号所定の不正競争に当たると主張して、被告らに対し、同法4条、5条3項2号に基づき損害賠償金3300万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年2月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め(ア)、A被告各商品は、美術の著作物である原告商品の複製ないし翻案物に当たると主張して、被告らに対し、著作権法114条3項に基づき上記(ア)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求めるとともに(イ−1)、被告各商品の製造、販売、展示等の差止め(イ−2)及び破棄(イ−3)を求め、B被告らが、原告から示された営業秘密である別紙営業秘密目録(1)ないし(3)記載の情報(以下「本件情報」という。)を不正に使用したと主張して(不競法2条1項7号)、被告らに対し、不競法4条、5条3項3号に基づき上記(ア)と同額の損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求めるとともに(ウ−1)、被告各商品の破棄を求め(ウ−2)、更に、被告堀内電機に対し、本件情報を使用して半田フィーダを設計及び製造することの差止め(ウ−3)並びに本件情報を使用して制作した設計データの廃棄及びその電磁的記録の消去を求める(ウ−4)事案である。
 請求の趣旨第1項に係る上記ア、イ−1、ウ−1の各請求、同第3項に係る上記イ−3、ウ−2の各請求は、いずれも選択的に併合されている。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決においては、原告商品及び被告各商品並びにその構成部材に関し、「半田フィーダ」、「ホルダ」、「モータ」、「ローラ」、「センサ」、「エアシリンダ」、「レバー」、「カバー」、「レーザー」との用語で表記することとする。)
(1) 当事者
ア 原告は、生産設備機械の設計、製作等を事業目的として平成3年2月に設立され、半田フィーダの開発、製造、販売等を業とする株式会社である。
イ 被告堀内電機は、電機部品及び通信機部品の製造販売等を事業目的として昭和28年10月に設立され、FA機器の開発、製造及び販売、その他電子部品の製造等を業とする株式会社である。
ウ 被告第一実業は、各種機械器具等の貿易及び国内販売を事業目的として昭和23年8月に設立され、エネルギー、化学、FA、エレクトロニクスその他の分野の機械器具等の販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告商品等
ア 原告は、平成18年1月、ASTY−V1000型の半田フィーダを販売した。同型の半田フィーダは出口ノズルを備えているが、フィーダ本体部はボックス状のケースに覆われている。(甲44ないし46)
イ 原告は、そのウェブサイト上に「つの出しVカットフィーダ ASTY−V1100シリーズ」の製品を掲示している。(乙3、4、7)
ウ 原告商品は、ASTY−V1100に配線チューブ、半田チューブ、ワイヤチューブ、中継ボックス(以下、原告商品に接続して使用する原告製の中継ボックスを「本件中継ボックス」という。)を構成品として追加したユニット製品であり、原告は、その型式をASTY−V1100Hとして被告堀内電機に販売した。(甲33、41)
(3) 被告商品1の開発・販売
ア 被告堀内電機は、平成22年頃、シャープタカヤ電子工業株式会社(以下「シャープタカヤ」という。)に納入する半田付け装置を検討した結果、細い半田径にも対応可能であるとする原告の製品を購入することとし、同年11月以降、原告商品を79台購入した。(乙6)
ウ 被告堀内電機は、平成22年11月から平成23年1月にかけて、原告商品を、レーザー半田付け装置に組み込み、被告第一実業を経由して、シャープタカヤのベトナム工場向けに販売した。
 その後、被告らは、シャープタカヤより原告商品について不具合が発生したとして対応を求められた。被告らは、原告と協議を行ったものの、不具合の解消に至らなかったことから、最終的には、被告堀内電機において原告製品の設計変更を行い、平成23年12月、シャープタカヤに対し、原告商品に上記の変更を加えた商品の納入を開始し、平成24年4月17日から被告商品1(3Dマイクロソルダリングシステム)の販売を開始した。(乙6)
(4) 被告商品2の開発・販売
 被告第一実業は、平成25年11月20日、被告商品2を搭載したレーザー半田付け装置(インラインマルチポイントレーザー)を被告堀内電機と共同開発し、同商品の販売を開始する旨の発表をした。(甲21、22)
3 争点
(1) 不競法2条1項3号の不正競争に基づく請求の可否
ア 形態模倣に当たるか
イ 日本国内における最初の販売から3年が経過しているか
(2) 著作権に基づく請求の可否
ア 原告商品の著作物性
イ 原告商品と被告各商品の類否
(3) 不競法2条1項7号の不正競争に基づく請求の可否(営業秘密性)
(4) 損害の発生及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(形態模倣に当たるか)について
〔原告の主張〕
 原告商品と被告各商品の形態は実質的に同一であり、被告堀内電機は、原告商品の形態を模倣して被告各商品を製造した。
(1) 原告商品の特徴的な形態
 原告商品は、小型軽量化、高機能化、細径半田への対応という他社製品にはない独自の特徴と機能を有するものであるところ、その構成、寸法等は、次のとおりである(別紙原告商品目録及び別紙「原告商品と被告商品1の比較」参照)。
ア 構成
(ア) 全体的な形状
 原告商品は、全体として拳銃型をした半田フィーダであり、直方体のベースの先端には、直針状の出口ノズルが突き出ている。
(イ) ベース上面
 直方体のベースの上面には、直方体のチューブホルダを介して、半透明の配線チューブ、半透明の半田チューブが配置され、直方体のノズルホルダを介して円筒状の入口ノズルA、Bが円柱状の挟み送りローラ(駆動ローラと従動ローラ)に隣接して配置されている。
(ウ) ベース下面
 直方体のベースの下面には、大部分が露出したステッピングモータが装着されており、L型カバーが隣接している。
(エ) ベース側面
 ベース側面には、ロックナット付M3のねじが取り付けられ、L型カバーがベースの掘込み部分とモータの口出し線部分を覆っている。スイングレバー側面に出口ノズル、下部にカラーが取り付けられ、形態全体は長方形である。
(オ) チューブ
 チューブホルダから出た配線チューブは、本件中継ボックス(甲70)の上面に取り付けるためのブッシングを有し、同じくチューブホルダから出た半田チューブは、配線チューブと併設され、その半田入り口部分は本件中継ボックス上面の半田リールスタンドに取り付けられる。
イ 寸法(別紙「原告商品と被告商品1の比較」1枚目)
 原告商品の直方体の寸法は、ベースの長手方向が78mm、横手方向が23mmであり、ステッピングモータの寸法は、長手方向が30mm、横手方向が20mmである。L型カバーの寸法は、長手方向が30mm、横手方向が27.7mmである。
 また、ベースの上面図上に取り付けてあるスイングレバー取り付けセンター、送りローラセンター、入口ノズルホルダ右端面、口出し線等の取り出し孔センター、モータセンター、配線チューブホルダ右端面のベース左端面からの寸法は、それぞれ5mm、13mm、32.8mm、24mm、37.7mm、78mmである。
(2) 原告商品と被告各商品との対比
ア 被告各商品との共通点
(ア) 構成
 被告各商品は、上記(1)ア記載の構成を全て有する。
(イ) 寸法
 被告商品1の寸法は、原告商品と比較すると、直方体のベースの長手方向、直針状の出口ノズルにおいてそれぞれ20mm、14.5mm短いが、原告商品と被告商品1は、従前の半田フィーダと比べて最小化が実現されているという点で共通している。
 被告商品2について、被告らは原告商品と大きさが異なると主張するが、原告商品と被告商品2のフィーダ本体の大きさが異なるとしても、形態の実質的同一性に影響を及ぼすものではない。
(ウ) 以上のとおり、被告各商品の形態は、原告商品と形態と実質的に同一である。
イ 被告らの主張について
(ア) 被告らは、被告各商品のうち原告商品と共通する形態は、商品の機能を確保するために不可欠なものであると主張するが、例えば、出口ノズルの形態を取り上げても、フレキシブルチューブから注射針まで多様であり、被告各商品の形態が同種商品の基本的な機能や効用を発揮するために不可欠ということはできない。
(イ) 原告商品の化粧カバー(駆動ローラ、従動ローラ等を覆うカバー)、出口ノズルカバー、ジグ(止め板)は、取り外しが可能であり、現場では実際に取り外されて使用されていることが多いので、これらのカバー等は原告商品の形態に含まれない。
(ウ) 原告商品と被告各商品は、いずれも拳銃型であり、その銃口に位置する部分に注射器のように細く伸びた出口ノズルが配置されているという特徴を有するところ、被告らが主張する相違点は、いずれも外観上際立った差違ではなく、形態の同一性に影響を与えない。
 なお、被告商品2にはブッシング(甲84、別紙「営業秘密目録(1)」参照)がないが、フィーダ本体と配線チューブには原告商品と同じ形態上の特徴がみられることに変わりがなく、形態としてはささいな差異にすぎない。
〔被告らの主張〕
 被告各製品は、原告商品の形態を模倣したものではなく、原告商品と被告各商品の形態が実質的に同一であるということはできない。
(1) 原告商品との共通点について
 原告商品と被告各商品の形態で共通する部分は、商品の機能を確保するための不可欠な構成である。半田フィーダにおいて糸半田の径が小さい場合でもスムーズに半田を送るには、吐出するノズル部近くに送りローラを配置することになる。原告は原告商品の形態を「拳銃型」と称し、特異なもののように主張しているが、ノズル部は、その性質上、注射器のように細く伸びて、前方に突出し、ローラ駆動源であるモータは相当程度の大きさを有し、ノズルの伸びる方向と直角に設けられるから、自動半田送り装置において、送りローラをノズル部入口付近に設ける限り、商品全体の形状は必然的に「拳銃型」になる。
 また、原告は、原告商品のチューブ及びブッシングの形状が特徴的であると主張するが、チューブ及びブッシングはフィーダ本体部を作動させるために不可欠な構成部品であり、原告商品で用いられているチューブ、円形状リング、ブッシングはいずれも市販品であるから、商品の機能上必須の構成をありふれた態様で実現したものにすぎない。
(2) 原告商品と被告各商品の対比
 原告商品と被告各商品を対比すると、以下の点で相違する。これらの相違点から明らかなとおり、被告各商品の形態は原告商品の形態と大きく異なるものである。
ア カバーの有無
 原告商品には化粧カバー、出口ノズルカバー、ジグ(止め板)が付されており、駆動ローラと従動ローラ、スイングレバー及びノズルホルダ等が覆われて外部から見えないのに対して、被告各商品には、カバーは設けられていない(なお、原告商品の化粧カバー及びジグについては、別紙「原告商品と被告各商品の比較」1枚目及び2枚目の左側の各写真、出口ノズルカバーについては甲31の写真3参照)。原告は、カバーがない状態を原告商品の形態であると主張しているが、商品の形態とは通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる商品の外部及び内部の形状をいうものであるところ、原告商品はカバーが付された状態で販売されており、カバーを付したまま使用することが通常であるから(乙4、5)、カバーがされた状態をもって原告商品の形態というべきである。被告各商品とカバーを付した原告商品が大きく異なることは明らかである。
 また、カバーのない状態で比較しても、以下のとおり、その形態は大きく異なる。
イ 体的な寸法
 被告各商品と原告商品を比較すると、別紙「原告商品と被告各商品の比較」の写真に見られるとおり、全体的に大きさが異なることは一目瞭然である。フィーダ本体部の長さだけを比較しても、原告商品の長さは一番短く、被告商品2の2分の1強ほどであり、被告商品1と比べても、原告商品のフィーダ本体部が短いことは一見して明らかである。このため、各商品の全体的な寸法は大きく異なる。
ウ ノズルを含むフィーダ先端部の相違(別紙「原告商品と被告各商品の比較」参照)
 原告商品においては、ノズルは特別加工品で構成され、更に出口ノズルカバーで覆われているが、被告各商品においては、ネジの切られた取り付け部を設け、市販のノズルをねじ込みで取り付ける形状である。
 また、原告商品のフィーダ先端部の根元は細く平らな筒状になっているのに対し、被告商品1の先端部の根元は原告商品より太く、ノズルの装着部の直前(同別紙2枚目の青丸で囲まれた部分)が扇状に広がって平らな筒状になっていない。また、被告商品2は、ノズル装着時の長さが原告商品に比して長い上、根元部の太さも原告商品より太く、しかも太さが二段階に分かれている。
エ チューブホルダの位置
 原告商品ではフィーダ本体の端部にチューブホルダが位置するのに対し、被告各商品においては、チューブホルダがフィーダ本体の端部より中心寄りに配置されている。これにより、半田チューブが配線されている位置も原告商品と被告各商品では異なっている。
オ 従動ローラのガイド溝の有無
 原告商品の従動ローラには糸半田の位置を決めるガイド溝が設けられているが、被告各商品においては、駆動ローラにガイド溝が設けられ、従動ローラには溝が設けられていない。
カ 角型調整用ブラケット、ローラストッパねじの存在
 被告各商品においては、従動ローラを駆動ローラのカッター刃に押し付けるためにローラ押し付けばねを設け、同ばねを保持するために角型調整用ブラケットが設けられるとともに、駆動ローラと従動ローラの間隔を強制的に広げるためにローラストッパねじが駆動ローラとノズルホルダの横に目立つように設けられているが、原告商品には同様のねじ等は設けられていない。
キ 上昇下降機構の相違
 原告商品においては、ワイヤを引っ張るスライド機構が設けられているが、被告各商品においてはエアシリンダが別途設けられている。また、被告各商品では、エアシリンダに空気を送るための黒色チューブが目立つように取り付けられているのに対し、原告商品において同様のチューブは存在しない。
ク 調整用シャフトの有無
 被告各商品においては、ステッピングモータのノズル先端側に調整用シャフトが存在するが、原告商品には同様のシャフトは設けられていない。
ケ チューブの接続位置
 原告商品では、上昇・下降用ケーブル(被告各商品の上昇・下降シリンダセンサケーブルに相当)が、配線チューブ及び半田チューブとほぼ縦一列になってフィーダ本体部に接続されているのに対し、被告各商品においては、配線チューブと半田チューブは、ほぼ横方向に近接してフィーダ本体に接続されているものの、上昇・下降シリンダセンサケーブルは、フィーダ本体の横方向(幅方向)に接続されている(別紙「原告商品と被告商品1の比較」2、3枚目参照)。
コ チューブ自体に関する相違
 被告各商品はエアシリンダセンサリード線(甲84)があるのに対し、原告商品にはそのような線はない。また、被告商品2は本件中継ボックスに接続されるものではないので、ブッシングが設けられていない。
2 争点(1)イ(最初の販売から3年が経過しているか)について
〔被告らの主張〕
(1) 原告は、原告商品はASTY−V1100Hであると主張するところ、同商品は原告の製品であるASTY−V1100について若干の仕様変更をしたものにすぎないから、ASTY−V1100の形態は原告商品と実質的に同一である。そして、ASTY−V1100とそれよりも以前に発売されたASTY−V1000の形態は同一である。
 ASTY−V1000は平成18年10月に販売されていたから、原告商品と実質的に同一形態の製品が、同月に日本国内で販売されていたものと認められ、そこから3年間が経過した平成21年10月以降の被告らの行為について原告は不競法2条1項3号に基づく請求をすることはできない(不競法19条1項5号イ)。
(2) 仮にASTY−V1000と原告商品が実質同一形態とはいえないとしても、原告の取り扱う「つの出しVカットフィーダ ASTY−V1100シリーズ」は、遅くとも、平成22年8月9日には我が国で販売されている(乙7)。
 したがって、原告は、平成25年8月以降の被告らの行為に対して、不競法2条1項3号に基づく請求をすることはできない。
(3) 被告各商品の販売
 被告商品1の最初の販売日は、平成24年4月17日であり、被告商品2の最初の販売日は、平成25年8月以降であるから、原告は、被告各商品について不競法2条1項3号に基づく請求をすることはできず、仮に上記(1)の主張が認められないとしても被告商品2については、同請求をすることができない。
〔原告の主張〕
(1) ASTY―V1000が平成18年10月に1台販売されたことは認めるが、ASTY―V1000のフィーダ本体部の形態はボックス型であり(甲44、46)、原告商品(ASTY―V1100H)のフィーダ本体部の形態は拳銃型(又は「露出アングル型」。甲45の2)であるから、同一の形態ではない。
 したがって、ASTY―V1000の販売日を不競法19条1項5号イの規定する3年の起算日とすることはできない。
(2) ASTY−V1100は、原告商品とはその形態が異なるものであるところ、その国内における最初の販売日は、原告商品の販売日(平成22年11月15日)の後であり、被告らの主張する同年8月9日には販売されていない。原告のウェブサイトに掲載された画像は「ASTY−SY−K16×ΦD」の型式のデモ機であり、原告商品ではない。
(3) 被告堀内電機は、遅くとも平成23年12月にシャープタカヤに対し、また、平成24年4月17日にはその他の販売先に対し、被告商品1を販売した(乙6)。
 また、被告第一実業は、平成25年11月20日、被告商品2を搭載したレーザー半田付け装置「インラインマルチポインターレーザー」を被告堀内電機と共同開発したと発表し、被告らは、平成26年1月に開催された展示会において被告商品2を展示した。
3 争点(2)ア(原告商品の著作物性)について
〔原告の主張〕
 半田フィーダの機能を確保する形態には、数多くの形態(甲29、30)があるところ、原告は、半田フィーダに出口ノズルを取り付け、出口ノズルのスイング機能・伝動及び検出機構をベースに内蔵させ、小型化、高性能化を実現するとともに、美観も考慮し、出口ノズルとステッピングモータの位置を拳銃の形態とし、更に同モータのリード線部分以外を外観とし、リード線ダクト機能をL型下カバーとして構成したのであり、そこに創作性が認められる。
 したがって、原告商品には創作性があり、著作物性が認められる。
〔被告らの主張〕
 原告商品は、半田を送るための機構であり、半田付けという実用目的に用いられる量産品である。著作権法上、実用目的の量産品は、物品としてその実用的な用途・機能に即して使用することを主たる目的とするものであり、物品の利用者がその形象に現れた美的創作性を鑑賞するという観点は希薄である。実用目的の量産品デザインの保護は、本来的に意匠法を通して達成されるべきものであり、純粋美術や美術工芸品と同程度にその形象が美的鑑賞の対象となるものでない限り、その著作物性は否定される。このような量産品又は実用品について著作物性が肯定されるのは、純粋美術や美術工芸品と同程度にその形象が美的鑑賞の対象となるような極めて限定的事例にすぎない。
 原告商品について原告が著作物性を主張する構成は、結局のところ、半田送り機構としての機能を実現するための機能的構造であり、その実用的機能を離れて見た場合に美的鑑賞の対象となるようなものではなく、原告商品は著作権法における著作物に該当しない。
4 争点(2)イ(原告商品と被告各商品の類否)について
〔原告の主張〕
 被告各商品は、拳銃の形態をしており、その銃口の先端に位置する部分には注射器のように細く伸びた出口ノズルが配置されているのであり、原告商品の複製又は翻案に当たる。原告商品の形態の特徴的部分は前記1〔原告の主張〕で主張したとおりであり、原告商品に依拠することなく被告各商品を製造することは不可能である。
 したがって、被告らによる被告各商品の製造及び販売は、原告の複製権及び翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著作者の権利のいずれも侵害する。
〔被告らの主張〕
 原告の主張は、否認又は争う。
5 争点(3)(不競法2条1項7号の不正競争に基づく請求の可否(営業秘密性))について
〔原告の主張〕
 本件情報は、不競法にいう「営業秘密」に該当する。
(1) 秘密管理性
 原告は別紙営業秘密目録(1)ないし(3)記載の本件情報を、次のとおり秘密として管理している。
ア 原告においては、原告代表者及び従業員1名のみが開発に従事しており、図面、製作データ等を管理するためのパソコンのパスワードは同人らのみが知っていた。
イ 原告商品の販売先は、被告堀内電機のみであり、原告は、被告堀内電機に対し、原告商品に関する技術情報について守秘義務を課した上で原告商品を販売したのであるから、本件情報は秘密として管理されていたということができる。
 すなわち、原告は、平成22年10月18日、被告堀内電機に対しASTY−SY−K16を貸与したところ、原告代表者は、同年11月11日、被告堀内電機のA部長を訪問し、その模倣を禁じる旨伝え、同部長はこれを了承した。この合意は、議事録におけるサインで確認することとなり、原告代表者とA部長が、平成22年11月11日付け議事録(甲52)にサインをすることにより、被告堀内電機が原告商品を模倣しない旨を確認したものである。(甲12ないし15、52)
(2) 非公知性
ア 被告らは、本件情報は購入者であれば容易に得られた情報であると主張するが、原告商品の外形に現れた形状に関する「数値」は、状況に応じて、化粧カバーなどで非公知性を確保できる。また、商品の形状に関する「数値」と部品の位置が公知であったとしても、その相互関係又は組立てに関する情報は原告商品に化体しているものであり、非公知性がある。
イ 原告は、被告堀内電機に対して、原告商品に関する情報が秘密であることを容易に認識できるようにして原告商品を販売したのであるから、本件情報を原告商品から知り得るとしても、公知性は失われない。
(3) 有用性
 本件情報は、原告が多大な年月と費用をかけて開発した原告商品についての製造上の技術情報であり、有用性がある。
 したがって、本件情報は営業秘密に当たる。
〔被告らの主張〕
 本件情報は、不競法にいう「営業秘密」に該当しない。
(1) 秘密管理性
 本件情報が原告により秘密として管理されていたとの事実は不知又は否認する。また、被告堀内電機が、原告との間において、本件情報を秘密として保持する旨の合意をしたことはない。
(2) 非公知性
 本件情報は、原告商品の外観を観察すれば容易に知り得る事項にすぎない。また、原告が営業秘密として主張する事項は、ASTY−V1100のパンフレット(乙4)において公開されており公知であった。
(3) 有用性
 本件情報の有用性は争う。
6 争点(4)(原告の損害の発生及びその額)について
〔原告の主張〕
(1) 形態模倣による損害額
 原告商品とこれに付随する本件中継ボックスは、機能上及び形態上、連動した一体のものとして制作販売されているところ、被告らによる被告各商品及び本件中継ボックスの年間売上高は少なくとも8億円(1台800万円×100台)である。
 そして、形態模倣に係る原告商品及び本件中継ボックスの形態の年間実施料ないし使用料は、その10%である8000万円を下らないが、そのうち、原告商品の模倣に係る部分は年1000万円である。
 原告は、被告らに対し、平成23年8月から平成26年7月までの実施料ないし使用料相当損害金として、不競法4条、5条3項2号により、3000万円の連帯支払を請求する。
 なお、本請求は、後記(2)及び(3)の損害と選択的に請求するものである。
(2) 著作権侵害による損害額
 上記(1)と同様、著作物である原告商品及び本件中継ボックスの複製・翻案に係る実施料率ないし使用料率は売上高の10%を下らず、著作物である原告商品の実施料ないし使用料相当額は年1000万円である。
 原告は、被告らに対し、平成23年8月から平成26年7月までの実施料ないし使用料相当損害金として、著作権法114条3項により3000万円の連帯支払を請求する。
(3) 営業秘密の不正使用による損害額
 上記(1)(2)と同様、原告の営業秘密の使用料率ないし実施料率は売上高の10%を下らず、原告商品の技術的情報である本件情報の使用料ないし実施料相当額は年1000万円である。
 原告は、被告らに対し、平成23年8月から平成26年7月までの実施料ないし使用料相当損害金として、不競法4条、5条3項3号により3000万円の連帯支払を請求する。
(4) 弁護士費用
 被告らによる違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は300万円である。
(5) 合計額
 原告は、被告らに対し、3300万円の連帯支払を請求する。
〔被告らの主張〕
 すべて否認ないし争う。また、形態模倣に係る請求は前記2〔被告らの主張〕のとおり、不競法19条1項5号イにより、最初の販売から3年が経過した後は認められない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(形態模倣に当たるか)について
(1) 不競法2条1項3号の「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいうところ(同条5項)、作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と実質的に同一かどうかは、商品の形態を比較した上で、その相違部分についての改変の内容・程度、改変の着想の難易、改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に考慮して判断するべきである。
(2) 原告商品の形態及び被告各商品の形態
 原告商品及び被告各商品は、いずれも、半田フィーダ及び中継ケーブルである。原告商品の形態は別紙原告商品目録記載のとおりであり、被告各商品の形態は、別紙被告商品目録1及び別紙被告商品目録2各記載のとおりである。
(3) 原告商品と被告各商品との共通点
 前記(2)の原告商品と被告各商品の形態を比較すると、次の共通点があることが認められる。
ア 原告商品と被告各商品の共通点
(ア) 半田フィーダのベースは直方体で、その先端に直針状の出口ノズルが突き出ており、ベースの下面にはステッピングモータが突き出すように配置されている。
(イ) ベースの上面に直方体のチューブホルダがあり、半透明の配線チューブ及び半透明の半田チューブが上記チューブホルダを通っている。
(ウ) ベースの上面に駆動ローラと従動ローラが隣接して、ノズルと直角の方向に配置されている。
(エ) ベースの上面において、駆動ローラ及び従動ローラが配置されている部分とベースの先端との間に、略台形の部材(原告がスイングレバーと呼ぶ部分)が配置されている。
イ 原告商品と被告商品1の共通点
 原告商品と被告商品1を比較すると、上記アに加え、次の共通点がある。
(ア) ベースの先端側の側面に調整ネジ及びナットが取り付けられている。
(イ) ベースの下面にL型カバーがあり、L型カバーはステッピングモータに接している。
(ウ) 配線チューブの先端にはブッシングがある。
(4) 原告商品と被告各商品の相違点
 原告商品と被告各商品を比較すると、次の相違点があると認められる(甲1ないし8、31、32、36、43、51、62、63、76ないし84、乙5、13、18、19。枝番のあるものはいずれも枝番を含む。)。
ア カバーの有無
 原告商品には化粧カバー、出口ノズルカバー、ジグ(止め板)が取り付けられて販売されており、駆動ローラと従動ローラ、スイングレバー及びノズルホルダ等が覆われて外部から見えないのに対して、被告各商品には、カバーは取り付けられていない。被告らは、上記各カバー及びジグ(止め板)の取り付けられた状態で原告商品を買い受け、そのままの状態でシャープタカヤに納入し、同社もその状態で使用をしていた(乙5、6)。
イ 全体的な寸法
 被告各商品と原告商品を比較すると、原告商品のフィーダ本体部の長さは一番短く、被告商品2の同部分の長さとは相当程度異なり、被告商品1と比べても、原告商品のフィーダ本体部は短い。
ウ ノズルを含むフィーダ先端部の相違
 原告商品においては、ノズルは特別加工品で構成されているが、被告各商品においては、ネジの切られた取り付け部を設け、市販のノズルをねじ込みで取り付ける形状である。
 また、原告商品のノズルは、根元部分(ベースの先端から出ている部分)から先端に至るに従い二段階に細くなっているが、その太さは段階ごとにほぼ一定しているのに対し、被告商品1では根元部分から先端に至るに従い太くなった後に、細い一定の太さのノズル先端部分が接続されており、被告商品2では、根元部分に近いところに根元部分よりも太い部材が接続された後に細長く太さが一定であるノズル先端部分が接続されている。
エ チューブホルダの位置
 原告商品ではフィーダ本体の端部にチューブホルダが位置するのに対し、被告各商品においては、チューブホルダがフィーダ本体の中ほどに配置されており、チューブホルダの位置からベースの端まである程度の距離がある。
オ 従動ローラのガイド溝の有無
 原告商品の従動ローラには糸半田の位置を決めるガイド溝が設けられているが、被告各商品においては、駆動ローラにガイド溝が設けられ、従動ローラには溝が設けられていない。
カ 角型調整用ブラケット、ローラストッパねじの存在
 被告各商品においては、従動ローラを駆動ローラのカッター刃に押し付けるためにローラ押し付けばねを設け、同ばねを保持するために角型調整用ブラケットが設けられるとともに、駆動ローラと従動ローラの間隔を強制的に広げるためにローラストッパねじが駆動ローラとノズルホルダの横に設けられているが、原告商品には同様のねじ等は設けられていない。
キ 上昇下降機構の相違
 原告商品においては、フィーダの下部にワイヤを引くためのスライド機構が設けられているが、被告各商品においてはエアシリンダが別途設けられている。これに伴い、被告各商品では、エアシリンダに空気を送るための黒色チューブが取り付けられているのに対し、原告商品には同様のチューブは設けられていない。
ク 調整用シャフトの有無
 被告各商品においては、ステッピングモータのノズル先端側に調整用シャフトが存在するが、原告商品には同様のシャフトは設けられていない。
ケ チューブの接続位置
 原告商品では、上昇・下降用ケーブル(被告各商品の上昇・下降シリンダセンサケーブルに相当)が、配線チューブ及び半田チューブとほぼ縦一列になってフィーダ本体部に接続されているのに対し、被告各商品においては、上昇・下降用シリンダセンサケーブルが、フィーダ本体の横方向(幅方向)に接続されている。
コ チューブ自体に関する相違
 被告各商品はエアシリンダセンサリード線(甲84)があるのに対し、原告商品にはそのような線は存在しない。また、被告商品2にはブッシングが設けられていない。
(5) 実質的同一性の有無
 以上を踏まえ、原告商品と被告各商品の形態が実質的に同一といえるかどうかについて検討する。
ア 原告商品と被告各商品を対比すると、その基本的な構成や配置に共通する点が認められることは、上記(3)認定のとおりである。
 しかし、原告商品と被告各商品との間で共通する構成は、半田フィーダのベース、出口ノズル、駆動ローラ、従動ローラ、ステッピングモータ、チューブホルダなど、半田フィーダが機能するために不可欠な構成であるということができる。
 また、これらの構成の形状や配置についても、直針状の出口ノズルがフィーダ本体部から突き出た形状であることは他の製品(乙11、12)にも見られるものであって、特に特徴的な形状であるということはできず、出口ノズルに近いフィーダ本体部の一面に駆動ローラと従動ローラが隣接して配置し、その反対側にこれらを駆動するモータを配置することについても、原告商品の製造、販売前に公知となっている文献(乙8、9)にも示されているとおり、原告商品に特有の構成ということはできない。さらに、出口ノズルの反対側のフィーダ本体部にチューブを配置し、これに伴いフィーダ本体部にチューブホルダを設置することも、半田フィーダの機能に照らし、通常考え得るものであるということができる。
 そうすると、原告商品と被告各商品との間で共通する構成、配置、形状等は、その設計に一定の自由度はあるとしても、半田フィーダの機能から通常想起し得るものであり、特に特徴的なものであるということはできない。
イ 他方、原告商品と被告各商品には、上記(4)認定のとおりの相違点が存在すると認められる。
(ア) 原告商品と被告各商品の相違点のうち、化粧カバー、出口ノズルカバー、ジグ(止め板)を原告商品の形態の一部と考えるかどうかについては、当事者間に争いがあるが、商品の形態とは通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる商品の外部及び内部の形状等をいうものであるところ、前記のとおり、被告らは、上記各カバー及びジグ(止め板)の取り付けられた状態で原告商品を買い受け、そのままの状態でシャープタカヤに納入し、同社もその状態で使用をしていたと認められる(乙5、6)。そして、商品としての性質上、その内部の形状が購入するかどうかの意思決定上、重要とも考えられない。これによれば、原告商品の化粧カバー、出口ノズルカバー、ジグ(止め板)は取り外しが可能であるとしても、通常作業をする際にはこれらのカバー等を装着することが通常の用法であり、この用法に従って使用した際には、カバー等を装着した状態が知覚により認識できる原告商品の形状であるというべきである。
 そうすると、原告商品と被告各商品の形態を対比するに当たっては、上記カバー等の装着された原告商品と被告各商品を対比することが相当である。これを前提として原告商品と被告各商品を対比すると、出口ノズル、駆動ローラ、従動ローラ、スイングレバー及びノズルホルダ等がカバーに覆われた原告商品とこれらの部材がカバーで覆われていない被告各商品の形態が大きく異なることは明らかである。
(イ) 仮に、原告商品の上記カバー等が原告商品の形態の一部を構成しないとしても、上記(4)イないしコの相違点を総合すると、次のとおり、原告商品と被告各商品の形態は実質的に同一とはいえないというべきである。
 すなわち、まず、原告商品と被告各商品のフィーダ本体部を対比すると、前記認定のとおり、原告商品と被告商品2では長手方向、横手方向ともに長さが大きく異なる上、被告商品1との対比でも、長手方向の長さが相当程度異なることが看取できる。また、被告各商品には原告商品に存在しないエアシリンダが設けられ、それに伴い、被告各商品には黒色のチューブが目立つ態様で取り付けられ、原告商品とは異なる印象を与えている。さらに、原告商品と被告各商品ではチューブホルダの位置が異なり、これがフィーダ本体部の形状に差異をもたらしていること、被告各商品にはローラストッパネジが目立つ態様で取り付けられていることなどが認められ、その他の相違点も考慮すると、原告商品と被告各商品のフィーダ本体部の形状が実質的に同一であるということはできない。
 次に、原告商品と被告各商品の出口ノズル及びフィーダ先端部を対比すると、原告商品においては、ノズルは特別加工品で構成されているのに対し、被告各商品においては、市販のノズルを取り付ける形状であるとの相違点があり、この点は、出口ノズルの形態として大きな差異であるということができる。また、フィーダ先端部についても、前記のとおり、出口ノズルの根元部分の太さやその太さが一定かどうかについて差異が存在することを考慮すると、原告商品と被告各商品の出口ノズル及びフィーダ先端部の形状が実質的に同一であるということはできない。
 さらに、原告は、本訴係属中に配線チューブ等を原告商品の形態に加え、配線チューブ等についても原告商品と被告各商品は実質的に同一であると主張するが、原告商品及び被告各商品の配線チューブは一般的な形態にすぎず、その形態が共通していることから直ちに原告商品及び被告各商品の形態が実質的に同一であるということはできない。
 以上のとおり、原告商品の上記カバー等が原告商品の形態の一部を構成しないとしても、原告商品と被告各商品のその余の相違点を総合すると、原告商品と被告各商品の形態が実質的に同一であるとは認め難い。
ウ 原告は、原告商品について、全体が「拳銃型」をしている形状に独自の特徴を有すると主張する。
 しかし、原告の主張するところの「拳銃型」とは、ベースの先端に直針状の出口ノズルが突き出し、ベースの下部にステッピングモータ等が装着され、これらの構成部材から形成される外観が拳銃に類する外観となることを意味すると解されるところ、前記判示のとおり、半田フィーダにおいてベースの先端に直針状の出口ノズルが突き出ていることは特に特徴的な形状ということはできず、フィーダ本体部の上部に駆動ローラ、従動ローラ等を配置し、その反対側にこれらを駆動するモータを配置することも通常考え得る構成、配置であるということができる。そうすると、こうした構成、配置の結果、半田フィーダが「拳銃」に類する外観を呈したとしても、それをもって、原告商品の係る形状が特徴的であるということはできない。
 また、原告は、平成26年に開催された展示会において、原告代表者が被告堀内電機の担当者に対し、原告商品の模倣をやめるように求めたところ、同担当者が「アオバの対応が悪かったからだ」などを述べたことをもって原告商品を模倣したことを自認したと主張するが、原告商品と被告各商品の形状が実質的に同一とはいえないことは前記判示のとおりであり、また上記のやりとりをもって模倣を自認したということはできない。
エ したがって、原告商品と被告各商品の形状が実質的同一性を有していると認めることはできないから、その余の争点について検討するまでもなく、形態模倣を理由とする原告の請求には理由がない。
2 争点(2)ア(原告商品の著作物性)について
 原告は、原告商品について、出口ノズルとステッピングモータの位置を拳銃の形態とし、更に同モータのリード線部分以外を外観とし、リード線ダクト機能をL型下カバーとして構成した点に創作性が認められるので、「美術の著作物」として著作物性が認められると主張する。
 しかし、前記判示のとおり、原告商品は産業用の利用を目的とする機器であり、ベース、出口ノズル、駆動ローラ、従動ローラ及びステッピングモータなどは、半田フィーダとしての機能を果たす上で不可欠な構成要素であるし、ベースの先端から直針状の出口ノズルが突き出し、フィーダ本体部の上部に駆動ローラ、従動ローラ等を配置し、その下部に同モータを配置して拳銃型の形状とすることについても、半田フィーダとしての機能を発揮するために通常考え得る選択肢の一つであって、係る形状の原告商品が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているということはできない。
 また、原告が主張する小型化、高性能化などの特徴は機能面に関する工夫であり、それにより原告商品の著作物性を認めることができるものではない。
 したがって、原告商品に著作物性があると認めることはできないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の著作権侵害に基づく請求には理由がない。
3 争点(3)(不競法2条1項7号の不正競争に基づく請求の可否(営業秘密性))について
 原告は、本件情報が不競法2条6項の営業秘密に該当すると主張するので、以下検討する。
(1) 非公知性について
 原告が営業秘密であると主張する本件情報は、別紙営業秘密目録(1)ないし(3)記載の各情報であるが、これらの情報は、原告商品から知り得る構造及び寸法であると認められる。
 この点、原告は、原告商品の外形に現れた形状に関する「数値」について、化粧カバーなどで非公知性を確保でき、商品の形状に関する「数値」と部品の位置が公知であったとしても、その相互関係ないし組立てに関する情報は、非公知であるなどと主張するが、商品の寸法、部品の位置などの情報はいずれも原告商品から知り得るものであって、原告の主張は理由がない。
 そして、原告商品は、下記(2)のとおり、被告堀内電機に守秘義務を課すことなく販売され、さらにシャープタカヤを含む第三者に対して販売されているのであるから、原告商品から知り得る本件情報は、公知の情報に当たるというべきである。
(2) 秘密管理性について
 原告は、原告商品に関する図面、製作データ等を管理するためのパソコンのパスワードは原告代表者と従業員1名のみが知っていたと主張するが、これらのデータ等がパスワートを付すなどして秘密として管理されていたことを裏付けるに足る客観的な証拠は存在しない。
 また、原告は、原告商品を販売する際、本件情報について被告堀内電機に守秘義務を負わせたと主張するが、原告と被告堀内電機との間において、本件情報を秘密として管理することに合意をしたと認めるに足りる証拠はない。原告がその根拠として挙げる「仕様、取引案に関する確認書(原案)」と題する書面(甲12)には被告堀内電機の代表者の署名はない上、情報の秘密管理に関する記載はない。また、同被告の担当者が出席した打合せ議事録(甲52)の記載をもって上記合意がされたと認めることもできない。
(3) 以上のとおり、本件情報は、営業秘密に当たらないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の不競法2条1項7号の不正競争に基づく請求には理由がない。
4 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 勝又来未子
 裁判官 遠山敦士は、差し支えのため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 佐藤達文

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