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【事件名】エキサイトへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成29年12月12日
 東京地裁 平成29年(ワ)第27352号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年11月21日)

判決
原告 株式会社コロプラ
同訴訟代理人弁護士 鎌田真理雄
同 小西智志
被告 エキサイト株式会社
同訴訟代理人弁護士 藤井康弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告に対し、氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを経由して、インターネット上のブログに原告が著作権を有するイラスト画像を複製して作成したイラスト画像を含む記事を投稿した行為により、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とする株式会社である(甲1の2)。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2) インターネット上のブログへの記事の投稿
ア 平成29年5月16日、インターネット上の「しろそく!白猫まとめ!攻略速報!」と題するブログ(以下「本件ブログ」という。)に、別紙情報目録記載1の記事(以下「本件記事1」という。)が投稿された(甲8の1)。
 本件記事1の投稿に係る情報の発信は、同日午後7時00分20秒頃及び同日午後7時27分46秒頃に行われており、各発信の発信者は、上記各日時頃、いずれも被告から割当てを受けたIPアドレス「(省略)」を使用してインターネットに接続していた(甲6、甲7の1及び2)。
 本件記事1には、別紙イラスト画像目録1記載の各イラスト画像(以下、「本件イラスト画像1」と総称し、目録記載の番号に応じて「本件イラスト画像1−1」などという。)が掲載されていた(甲8の1)。
イ 平成29年5月30日、本件ブログに別紙情報目録記載2の記事(以下「本件記事2」という。)が投稿された(甲9の1)。
 本件記事2の投稿に係る情報の発信は、同日午後9時33分14秒頃及び同日午後9時36分38秒頃に行われており、各発信の発信者は、上記各日時頃、いずれも被告から割当てを受けたIPアドレス「(省略)」を使用してインターネットに接続していた(甲6、甲7の1及び2)。
 本件記事2には、別紙イラスト画像目録2記載の各イラスト画像(以下、「本件イラスト画像2」と総称し、目録記載の番号に応じて「本件イラスト画像2−1」などという。)が掲載されていた(甲9の1)。
ウ 本件記事1及び本件記事2の投稿に係る各発信の発信者(以下「本件氏名不詳者ら」という。)が本件ブログの管理会社に登録している電子メールアドレスは、同一のものである(甲6)。
(3) 被告による情報の保有
 被告は、本件氏名不詳者らの氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの各情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
ア 原告は、ソーシャルゲームである「白猫プロジェクト」(以下「本件ゲーム」という。)の開発及び運営を行っている。原告は、本件ゲームに係るキャラクタのイラスト画像の作成をイラスト制作会社に委託し、イラスト制作会社から、別紙原告イラスト画像目録1及び別紙原告イラスト画像目録2記載の各画像(以下、目録の番号に従い、それぞれ「原告イラスト画像1」、「原告イラスト画像2」と総称し、各目録記載の番号に応じて「原告イラスト画像1−1」などという。)の原画(以下、原告イラスト画像1の原画を「本件原画1」、原告イラスト画像2の原画を「本件原画2」と総称する。)の著作権を譲り受けた。
 原告の従業員は、原告の指示を受けて、本件原画1及び本件原画2にレタッチや合成を加えるなどして原告イラスト画像1及び原告イラスト画像2を作成した。原告イラスト画像1及び原告イラスト画像2は、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する従業員が原告の職務上作成したものであり、原告名義で公表するものであるから、職務著作に該当し、原告が著作権を有する(著作権法15条1項)。
イ 本件イラスト画像1は、本件原画1及び原告イラスト画像1を複製したものであるから、本件イラスト画像1を含む本件記事1の投稿により、少なくとも、本件原画1及び原告イラスト画像1に係る原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかである。
 本件イラスト画像2は、本件原画2及び原告イラスト画像2を複製したものであるから、本件イラスト画像2を含む本件記事2の投稿により、少なくとも、本件原画2及び原告イラスト画像2に係る原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
 事実はいずれも不知。なお、本件では、本件原画1及び本件原画2並びに原告イラスト画像1及び原告イラスト画像2につき原告が著作権を有することの主張立証が不十分である。法的評価については争う。
(2) 争点2(被告の「開示関係役務提供者」(プロバイダ責任制限法4条1項)該当性)について
(原告の主張)
 本件記事1及び本件記事2の投稿は不特定の者に受信されることを目的とする電気通信であり、被告は本件氏名不詳者らにインターネット接続サービスを提供しているから、被告はプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(被告の主張)
 本件記事1及び本件記事2の投稿が同法2条1号に定める「特定電気通信」に該当することは不知。特定電気通信の用に供される限りにおいて、被告の用いる電気通信設備が特定電気通信設備(同法2条1号)に該当すること及び被告が特定電気通信役務提供者に該当すること(同条3号)は認める。被告が同法4条1項の「開示役務提供者」に該当することは争う。
(3) 争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件氏名不詳者らに対して著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であり、そのためには被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 証拠(甲11の3、甲12の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、株式会社アクアに対し、本件ゲームに係るキャラクタのイラスト画像制作を委託したこと、同社は、上記委託に基づき、原告イラスト画像1−2の原画(以下「本件原画1−2」という。)及び原告イラスト画像2−11に描かれているキャラクタのイラスト画像の原画(以下「本件原画2−11」という。)を原告に納品したこと、同社は上記各原画の納品に当たり、制作者から上記各原画の著作権を譲り受けた上でその著作権を原告に譲渡したことが認められるから、原告は、本件原画1−2及び本件原画2−11につき著作権を有すると認められる。
(2) 証拠(甲8の1、甲9の1、甲12の1)及び弁論の全趣旨によれば、本件イラスト画像1−2は本件原画1−2を、本件イラスト画像2−11は本件原画2−11をそれぞれ複製したものであると認められる。また、本件記事1及び本件記事2はインターネット上のブログに投稿されたものであるから、上記各記事の投稿により、本件イラスト画像1−2及び本件イラスト画像2−11は不特定多数の者が閲覧することができる状態に置かれたものと認められる。
(3) 以上によれば、本件イラスト画像1−2を含む本件記事1の投稿は、本件原画1−2に係る原告の複製権及び公衆送信権の侵害に当たると判断すべきものであり、本件イラスト画像2−11を含む本件記事2の投稿は、本件原画2−11に係る原告の複製権及び公衆送信権の侵害に当たると判断すべきものである。
 なお、本件記事1及び本件記事2に関してはそれぞれ2回の発信が行われたが(前記前提となる事実1(2)ア及びイ)、いずれの記事についても、2回の発信は近接して行われ(前同)、発信をした者が本件ブログの管理会社に登録しているメールアドレスも同一である(同ウ)から、各記事は、それぞれ同一の者による一体の行為により発信されたとみるのが相当である。
 そして、本件の関係各証拠上、本件原画1−2及び本件原画2−11に係る複製権及び公衆送信権を制限する事由が存在することはうかがわれない。したがって、本件イラスト画像1−2を含む本件記事1及び本件イラスト画像2−11を含む本件記事2の投稿により、本件原画1−2及び本件原画2−11に係る原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかである。
2 争点2(被告の「開示関係役務提供者」該当性)について
 本件記事1及び本件記事2はインターネット上のブログに投稿されたものであり、不特定の者に受信されることを目的とするものであると認められるから、本件記事1及び本件記事2の投稿は、プロバイダ責任制限法2条1号に規定する「特定電気通信」に該当する。そして、被告は本件氏名不詳者らにインターネット接続サービスを提供していたから、被告は、本件記事1及び本件記事2の投稿に関し、同法4条1項に規定する「開示関係役務提供者」に当たる。
3 争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について原告は、本件氏名不詳者らに対して前記1(3)の複製権及び公衆送信権侵害を理由とする損害賠償請求権等を行使することができるところ、原告がこれらの者の氏名や住所等を覚知することは困難であると考えられるから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
4 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 萩原孝基
 裁判官 林雅子

(別紙省略)
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