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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件F
【年月日】平成29年11月30日
 東京地裁 平成29年(ワ)第21046号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年10月20日)

判決
原告 有限会社プレステージ
同訴訟代理人弁護士 提箸欣也
同 渡邉俊太郎
同 野口耕治
同 藤沢浩一
同 成豪哲
同 小椋優
同 鶴谷秀哲
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 平出晋一
同 橋利昌
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、別紙2著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権を有しており、被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト「FC2動画」(以下「本件サイト」という。)に別紙3動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)がアップロードされた行為により原告の上記著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、上記行為についての損害賠償請求権等の行使のために、被告とのインターネット接続サービスに係る契約に基づき被告から上記アップロード行為に係るIPアドレスを割り当てられていた者(以下「本件契約者」という。)に関する別紙1発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」と総称する。)の開示を受ける必要があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、被告に対し、本件発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨によって容易に認められる。)
(1) 当事者
ア 原告は、ビデオソフト、DVDビデオソフトの制作及び販売等を業とする有限会社である。
イ 被告は、インターネットサービス等の電気通信事業を営む株式会社である。
(2) 本件動画のアップロード(甲1の1及び2、甲7の1及び2、甲8の1及び2、甲9)
 本件動画は、別紙3動画目録の「投稿日時」欄記載の日時(以下「本件投稿日時」という。)に、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して、同目録の「投稿先URL」欄に記載のとおり、本件サイトにアップロードされ、公衆の求めに応じて自動的に公衆送信が行われる状態におかれた(以下「本件アップロード行為」という。)。
 本件アップロード行為の際に被告が割り当てたIPアドレスは、別紙3動画目録の「IPアドレス」欄に記載されたもの(以下「本件IPアドレス」という。)である。
 なお、本件契約者は、被告とインターネット接続サービスに係る契約を締結しており、同契約に基づき、被告から本件IPアドレスを割り当てられた。
2 争点
(1) 原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点(1))
ア 原告は本件著作物の著作権者であるか(争点(1)ア)
イ 本件アップロード行為は本件著作物に係る著作権(公衆送信権)を侵害するか(争点(1)イ)
(2) 被告が開示関係役務提供者に当たるか(争点(2))
(3) 本件アップロード行為を行ったのは本件契約者であるか(争点(3))
(4) 原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点(4))
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
ア 争点(1)ア(原告は本件著作物の著作権者であるか)について
【原告の主張】
 原告は、本件著作物を、そのまま、又はDVDに収録するなどした上で、自らのウェブサイト等において販売しているところ、同DVDのパッケージ(甲4)には、原告の社名及び登録商標(甲5)が、発売者として通常の方法により表示されているから、著作権法14条により、原告は本件著作物の著作者と推定される。
 このほか、本件著作物を有料配信しているサイトにおいても、メーカー名として原告を示す「プレステージ」と示されており(甲6)、同作品の著作者が原告であることは明らかである。
 なお、本件著作物の再生時間(112分32秒)について、DVDパッケージ等では115分と表記しているが、これは5分単位で簡易化して表記したにすぎず、異なる収録時間を示したものではない。
【被告の主張】
 事実については不知、主張は争う。
 本件著作物の総再生時間は1時間52分32秒であると解される(甲2)が、他方で、DVD販売ページ(甲3)及びDVDパッケージ写真(甲4)にはこれと一致しない時間が記載されており、本件著作物が現に存在するか、またその内容についても不明であり、本件著作物の著作権が原告に帰属することについても不知である。
イ 争点(1)イ(本件アップロード行為は本件著作物に係る著作権(公衆送信権)を侵害するか)について
【原告の主張】
 本件動画は総再生時間10分58秒の動画であり、そのサムネイル画像や再生途中の1コマが本件著作物の1コマと一致する(甲1の1、2)。また、保存されていた本件動画データを確認したところ、これは本件著作物の一部10分58秒であった(甲12)。したがって、本件動画は、本件著作物の一部分をアップロードしたものであり、本件アップロード行為により原告の公衆送信権を侵害したことが明らかである。
【被告の主張】
 事実については不知、解釈ないし主張については争う。
 本件動画と本件著作物の動画としての同一性は確認されておらず、侵害の事実及び侵害箇所の特定が不十分である。
(2) 争点(2)(被告が開示関係役務提供者に当たるか)について
【原告の主張】
 原告は、本件サイトを運営するFC2、Inc.から、本件アップロード行為をした者に関する情報の開示を受けた上で、被告に対し、任意での情報開示等を請求したところ、被告は、「被告は同情報を保有しており、法に基づき発信者に意見聴取をしたが、同人が開示に同意しない旨回答したことから任意での開示には応じられない」旨回答した(甲9)。以上からすれば、被告が本件発信者情報を保有しており、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たることが明らかである。
【被告の主張】
 被告が本件契約者に対して意見聴取をした上で、原告主張の回答(甲9)を行ったことは認め、その余の事実は不知、主張は争う。
(3) 争点(3)(本件アップロード行為を行ったのは本件契約者であるか)について
【原告の主張】
 本件アップロード行為を行ったのは本件契約者である。
 被告は、本件契約者が、不詳の第三者において勝手に同人の回線を使用してアップロードした旨主張していることを指摘する。しかし、そもそも本件投稿日時は、本件契約者が主張するホテル宿泊日の前日の夜であり、ホテルの予約に関する証拠は、いわゆるアリバイの証拠として成立していない。このほか、本件契約者の回答は、非現実的で合理性・信用性がなく、検討に値しない。
【被告の主張】
 本件契約者は、「本件投稿日時には旅行中で自宅にはおらず、操作不可能であり、また同人以外の誰でも接続可能な設定であったので、第三者が本件動画をアップロードしたものと解され、自らは本件動画をアップロードしていない」旨主張し、その根拠としてホテルの予約書面(乙1)を提出している。
 以上のとおり、本件契約者は、自らは本件動画を投稿していないので、発信者情報の開示に同意しない旨主張した。本件訴訟に真の利害関係を有する実質的な当事者であるIPアドレス使用者から発信者情報の開示について同意が得られない以上、その講学上の法定訴訟担当に当たる被告としては、その主張に沿って原告の事実ないし法律上の主張を争わざるを得ない。
(4) 争点(4)(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
【原告の主張】
 原告は、本件契約者に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるが、同権利行使のためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受けることが必須である。
【被告の主張】
 不知。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1) 争点(1)ア(原告は本件著作物の著作権者であるか)について
 証拠(甲3ないし6)によれば、本件著作物を収録したDVDは、原告のウェブサイト(甲3)及びウェブサイト「DMM.R18通販」(甲6)において販売されていること、同DVDのパッケージ(甲4)には、原告が有する商標権に係る登録商標(図形と「PRESTIGE」との文字を組み合わせたもの、甲5)が付されているほか、「プレステージ」との文字が記載されていること、上記の両ウェブサイト(甲3、6)の本件著作物(DVD)の販売ページには、「メーカー」ないし「メーカー名」として「プレステージ」と記載されていることがそれぞれ認められる。
 以上の事実を総合すれば、原告が本件著作物の著作者であり、本件著作物の著作権を取得したものと認められる。
 なお、被告は、本件著作物の総再生時間についての記載が一貫しない事実を指摘し、本件著作物の存在や内容について疑問を呈するが、本件著作物の存在及び内容については、証拠(甲14)上明らかである。
(2) 争点(1)イ(本件アップロード行為は原告の著作権(公衆送信権)を侵害するか)について
 証拠(甲2、3、6、12ないし16)によれば、本件著作物は再生時間約115分(正確には1時間52分32秒)の動画であること、本件動画は総再生時間約10分58秒の動画であり、本件著作物の再生時間16分51秒ころから27分49秒ころまでの部分と一致することがそれぞれ認められるから、以上によれば、本件動画は、本件著作物の一部の複製物であると認められる(なお、証拠(甲14ないし16)によれば、本件著作物の上記部分には著作権侵害を裏付けるに足りる創作的表現が含まれると認められる。)。
 そして、前記第2、1(2)のとおり、本件動画は本件サイトにアップロードされ、公衆の求めに応じて自動的に公衆送信が行われる状態におかれたものであり、この本件アップロード行為により原告が有する本件著作物の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
2 争点(2)(被告が開示関係役務提供者に当たるか)について
 最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダは、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当する(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁)。
 そして、被告は、いわゆる経由プロバイダであるところ、前記第2、1(2)のとおり、本件動画は、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件サイトにアップロードされたものであり、これによって、最終的に不特定の者が本件動画を受信可能な状態となったものであるから、被告は、法2条3号所定の「特定電気通信役務提供者」及び法4条1項所定の「開示関係役務提供者」に該当するものと認められる。
3 争点(3)(本件アップロード行為を行ったのは本件契約者であるか)について
 前記第2、1(2)のとおり、本件契約者は、被告とインターネット接続サービスに係る契約を締結しており、同契約に基づき、被告から本件IPアドレスを割り当てられた者であるから、そうであれば、特段の事情がない限り、本件アップロード行為を行った者は本件契約者であると推認されるものというべきであるところ、本件全証拠によっても、上記特段の事情を認めるに足りない。
 この点につき、被告は、本件契約者の主張に沿って、同人が、本件投稿日時には旅行中で自宅にはおらず、また同人以外の者でも(本件IPアドレスを用いて)本件動画をアップロードできる状態であったものであり、同人自身は本件動画を投稿していない旨主張するが、上記主張を認めるに足りる証拠はない。なお、被告が提出した証拠(乙1)は、原告も指摘するとおり、平成28年8月15日から16日にかけての京都のホテルへの予約を証するものであるが、予約者が何ら特定されていないし、実際に同予約者が同ホテルに宿泊したかも不明である上、仮に本件契約者が上記日程で京都のホテルに宿泊したとしても、その日程は本件投稿日時である同月15日午前1時26分ころと重ならないから、上記証拠は被告の上記主張を裏付けるに足りるものとはいえない。
 したがって、本件アップロード行為を行った者は本件契約者であると推認される。
4 争点(4)(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
 原告は、原告が有する本件著作物の著作権(公衆送信権)が侵害されたことに基づき、本件契約者に対して損害賠償等を請求するため、本件発信者情報の開示を求めているところ、損害賠償等を請求するためには本件アップロード行為を行った者を特定する必要があるから、原告は、同特定のために本件発信者情報の開示を受ける必要があり、開示について正当な理由があるものと認められる。
5 結論
 以上のとおり、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 矢口俊哉
 裁判官 廣瀬達人


(別紙1)発信者情報目録
 別紙3動画目録記載の投稿日時に、同目録記載のIPアドレスを使用していた者の下記情報
 記
 @ 氏名又は名称
 A 住所
 B 電子メールアドレス

(別紙2)著作物目録
 下記の動画
 記
 題名 「エスカレートするドしろーと娘 235」
 再生時間 約1時間52分32秒
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日本ユニ著作権センター
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