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【事件名】宣材写真の無断複製事件
【年月日】平成29年11月29日
 東京地裁 平成28年(ワ)第35002号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年9月14日)

判決
原告 株式会社ジンセイプロ
同訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
同 大木勇
同 品川潤
同 小佐々奨
被告 A(以下「被告A」という。)
被告 株式会社オフィス亜都夢(以下「被告会社」という。)
上記二名訴訟代理人弁護士 野本智之


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して330万円及びこれに対する平成26年7月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、別紙1の写真(以下「本件宣材写真」という。)の著作権者であると主張する原告が、ホテルセンチュリー静岡が頒布した別紙2のイベント広告用チラシ(以下「本件チラシ」という。)に掲載された写真(以下「本件プロフィール写真」という。)は、本件宣材写真の複製物であるから、ホテルセンチュリー静岡ないしその委託先において本件チラシを作成し、頒布したことは、原告が有する本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)の侵害に当たるところ、同著作権侵害行為は、被告らがホテルセンチュリー静岡ないしその委託先をして行わせた共同不法行為であると主張して、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金330万円及びこれに対する不法行為後の日である平成26年7月16日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
 原告は、演芸家並びに芸能タレントのマネジメント、養成、プロモート業務、芸能プロダクションの経営等を目的とする株式会社である。
 被告会社は、芸能タレントのマネジメント等を行う芸能プロダクションである。
 被告Aは、平成17年9月頃から、原告に所属していたタレントである。
(2) 本件宣材写真
 本件宣材写真は、原告が、平成21年7月頃、被告Aの宣材写真として、有限会社ウエストフォトプロダクションに委託して撮影されたものである(甲4)。
(3) 本件チラシの頒布
 ホテルセンチュリー静岡は、平成26年7月、「2014 SUMMER BEER PARTY IN CENTURY」と題するイベント(以下「本件イベント」という。)を開催し、被告Aが出演した。
 ホテルセンチュリー静岡は、平成26年6月頃、株式会社SBSプロモーション(以下「SBSプロモーション」という。)に対し、本件イベントのチラシを制作するよう委託し、SBSプロモーションは、同委託を受け、本件プロフィール写真が掲載された本件チラシを制作した。ホテルセンチュリー静岡は、その後、本件チラシを頒布した。
 (以上につき、甲2、11)
3 争点
(1) 原告は、本件宣材写真の著作権者であるか(争点1)
(2) 被告Aは、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真を被告会社に提供したか(争点2)
(3) 被告会社は、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真をSBSプロモーションに提供したか(争点3)
(4) 原告が受けた損害の額(争点4)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(原告は、本件宣材写真の著作権者であるか)について
【原告の主張】
 本件宣材写真は、原告が、被告Aの宣材写真として有限会社ウエストフォトプロダクションに委託して撮影したものであり、原告は、平成21年7月頃、同社から本件宣材写真の著作権の譲渡を受けたものである。
【被告らの主張】
 原告が本件宣材写真の著作権の譲渡を受けたとの事実は不知。
(2) 争点2(被告Aは、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真を被告会社に提供したか)について
【原告の主張】
 本件プロフィール写真は、本件宣材写真を複製したものであることが明らかである。
 被告Aは、本件宣材写真を所持していたところ、被告会社の代表者であるB(以下「B」という。)の求めに応じて、本件イベントのチラシに利用されることを認識しながら、著作権者である原告の承諾を得ることなく、本件宣材写真をBに提供し、その後これを利用した本件チラシが制作され、頒布されたことにより、原告が有する本件宣材写真の複製権及び譲渡権が侵害されたものである。したがって、被告Aは、被告会社の代表者であるBと共同して、ホテルセンチュリー静岡ないしその委託先に原告が有する上記複製権及び譲渡権を侵害させたものと評価でき、被告会社と連帯して原告が受けた損害を賠償する責任を負う。
【被告らの主張】
 被告Aは、本件宣材写真をBに提供していない。
 被告Aは、Bから、本件イベントの宣伝に用いる可能性があるとして写真の提供を求められ、自ら撮影した写真を提供したことはあるが、本件宣材写真は所持しておらず、これを提供したこともない。
(3) 争点3(被告会社は、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真をSBSプロモーションに提供したか)について
【原告の主張】
 被告会社の代表者であるBは、前記((2)【原告の主張】)のとおり、被告Aから本件宣材写真の提供を受け、本件イベントのチラシに利用されることを認識しながら、これをSBSプロモーションの担当者であるC(以下「C」という。)に提供し、その後これを利用した本件チラシが制作され、頒布されたことにより、原告が有する本件宣材写真の複製権及び譲渡権が侵害されたものである。したがって、Bは、被告Aと共同して、ホテルセンチュリー静岡ないしその委託先に原告が有する上記複製権及び譲渡権を侵害させたものと評価でき、被告会社は、被告Aと連帯して原告が受けた損害を賠償する責任を負う。
 BがCに本件宣材写真を提供したことは、B自身が、平成26年10月8日に原告代表者と面談した際に、「もらったやつを使った」と述べていることからも明らかである(甲5の1、2)。
【被告らの主張】
 Bは、本件宣材写真をCに提供していない。
 被告Aが本件イベントに出演することとなったのは、Bが、D(以下「D」という。)の依頼を受けて被告Aを紹介したことが契機となっているが、本件チラシの作成に関しては、DがSBSプロモーションとやりとりを行っており、被告会社ないしBは関与していない。
 なお、Bは、本件イベントの宣伝に用いる可能性があると考え、被告Aに対して、前もって写真の提供を求めたが、被告Aが提供した写真は宣材写真として使い物にならなかったため、別途宣材写真の撮影を行った(乙2、3)。しかし、結局、本件イベントの宣伝に関しては、Dから宣材写真の提供を求められることはなかったものである。
(4) 争点4(原告が受けた損害の額)について
【原告の主張】
ア 著作権法114条2項により、本件宣材写真の著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したホテルセンチュリー静岡が得た利益の額は、原告が受けた損害の額と推定されるべきところ、その額は、300万円を下回ることはない。
 仮に、著作権法114条2項が本件に適用されないとしても、一般にタレントの宣材写真の価値が極めて高いことからすれば、原告が本件宣材写真の著作権を行使する場合に受けるべき金銭の額は、300万円を下回ることはないから、著作権法114条3項により、同額が損害と認められるべきである。
イ 弁護士費用として、30万円が認められるべきである。
【被告らの主張】
 否認し、争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点2(被告Aは、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真を被告会社に提供したか)及び争点3(被告会社は、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真をSBSプロモーションに提供したか)について
(1) 本件全証拠によるも、原告が請求原因として主張するところの、被告Aが、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真を被告会社に提供したとの事実関係、及び、被告会社が、本件宣材写真の著作権(複製権、譲渡権)が侵害されることを知りながら、本件宣材写真をSBSプロモーションのCに提供したとの事実関係を認めることは、いずれも困難である。
(2) かえって、証拠(甲2、11、乙4、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 「SUMMER BEER PARTY IN CENTURY」は、毎年SBSプロモーションがホテルセンチュリー静岡にて開催しているイベントであり、Dがリーダーを務めるテリーズというバンドの演奏と、タレントによるショーとが披露されることが通例となっていた。
 SBSプロモーションの担当者であるCは、平成26年2月頃、本件イベントに出演するタレントの紹介をDに依頼し、DはさらにこれをBに依頼した。Bは、当初別のタレントを紹介したが、その後被告AをDに紹介し、SBSプロモーションとホテルセンチュリー静岡のいずれもがこれを了承したことから、被告Aが本件イベントに出演することが決まった。
イ Cは、本件イベントのチラシを作成するために、Dに対し、被告Aの宣材写真を提供するよう求めた。Dは、その後しばらくして、Cに対し、インターネット上のウェブサイトにある被告Aの写真を使用するよう述べた。そこで、Cは、インターネットで被告Aの芸名を検索して表示されたウェブサイトを外注先のデザイナーに伝え、同サイトに掲載されている写真を利用してチラシを制作するように伝え、同デザイナーにより本件チラシが制作された。
(3) 上記(2)で言及した証拠等に基づいて認められる事実関係によれば、本件チラシに掲載された本件プロフィール写真は、SBSプロモーションから本件チラシの制作を依頼されたデザイナーが、Cから伝えられたインターネット上のウェブサイトから取得したものであることになり、被告AがBに提供し、BがCに提供した本件宣材写真を利用して本件チラシが制作されたとの原告主張に係る事実関係は存在しないことになるといえる。
2 結論
 以上によれば、原告の本件各請求は、その余の争点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
 なお、原告は、平成29年9月14日の本件第2回口頭弁論期日において、証人(C)と被告会社代表者(B)の尋問を実施した後に、請求原因の変更を予定していると陳述したが、同期日において具体的な請求原因事実を主張しなかった。
 当裁判所は、原告が本件訴訟に先立ち、原告が権利を有する宣材写真を被告Aが無断で利用したことなどを原因として被告Aに対して損害賠償等を求めた訴訟につき、原告の主張する事実関係を認めず請求を棄却した判決が確定していること(乙1の2、1の3)に加え、本件訴えが平成28年10月17日に提起されたものであり、本件第1回口頭弁論期日の後、5回にわたって弁論準備手続期日を開いて争点及び証拠を整理した後に上記尋問を実施しているところ、原告が請求原因を変更した場合にはこれに対応して更なる証拠調べを要することとなり、訴訟の完結が遅延することが明らかと認められること、原告が本件第2回口頭弁論期日において書証の申出をしたい旨述べたDの陳述書(写し)(甲12)は、その記載内容が明確ではなく、仮に、同陳述書(写し)を取り調べたとしても、これをもって直ちに被告らの不法行為責任が基礎付けられるとは認め難いこと、Dが証人として出廷する見通しも立っていないことなどに照らし、本件第2回口頭弁論期日において弁論を終結したものである。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 天野研司
 裁判官 西山芳樹


(別紙省略)
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