判例全文 line
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【事件名】「生命の實相」復刻出版事件D
【年月日】平成29年11月29日
 東京地裁 平成27年(ワ)第29705号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年9月29日)

判決
原告 公益財団法人生長の家社会事業団
原告 株式会社光明思想社
原告両名訴訟代理人弁護士 内田智
被告 生長の家
被告 A
被告両名訴訟代理人弁護士 田中美登里
同 田中伸一郎
同 相良由里子
同 外村玲子


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告公益財団法人生長の家社会事業団(以下「原告事業団」という。)に対し、別紙書籍目録1及び2記載の各書籍につき、別紙著作物目録記載の著作物を削除又は抹消しない限り、複製し、頒布し、又はインターネットのホームページ等の媒体を用いて販売の申し出をしてはならない。
2 被告らは、原告事業団に対し、前項の各書籍につき、別紙著作物目録記載の著作物を削除又は抹消しない限り、自ら在庫として保管し又は一般財団法人世界聖典普及協会(以下「世界聖典普及協会」という。)、株式会社日本教文社(以下「日本教文社」という。)及び全国の生長の家各「教化部」(以下「教化部」という。)において保管する前項の各書籍を、廃棄せよ。
3 被告らは、原告株式会社光明思想社(以下「原告光明思想社」という。)に対し、第1項の各書籍を複製してはならない。
4 被告らは、各自、原告事業団に対し、160万円及びこれに対する被告生長の家につき平成27年11月19日から、被告A(以下「被告A」という。)につき平成27年11月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告らは、各自、原告光明思想社に対し、100万円及びこれに対する被告生長の家につき平成27年11月19日から、被告Aにつき平成27年11月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 第4項及び第5項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、@原告事業団が、別紙著作物目録記載の言語の著作物である「大調和の神示」(「『七つの燈薹の點燈者』の神示」あるいは「『七つの灯台の点灯者』の神示」という題号のときもある。以下「本件著作物」という。)の著作権を有するところ、別紙書籍目録記載1及び2記載の各書籍(以下、各書籍を「本件書籍1」などといい、両者を併せて「本件各書籍」という。)の出版は、本件著作物に係る原告事業団の著作権(複製権)を侵害する旨主張して、被告らに対し、本件著作物の著作権に基づき、本件各書籍の複製、頒布又は販売の申出の差止め及び廃棄(世界聖典普及協会、日本教文社及び教化部の保管するものを含む。)を求め、不法行為による損害賠償請求権に基づき、160万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達日の翌日(被告生長の家につき平成27年11月19日、被告Aにつき平成27年11月15日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払、A原告光明思想社が、本件著作物につき、出版権を有するところ、被告らによる本件各書籍の出版は、本件著作物に係る原告光明思想社の出版権を侵害する旨主張して、被告らに対し、本件著作物の出版権に基づき、本件各書籍の複製の差止めを求め、不法行為による損害賠償請求権に基づき、100万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達日の翌日(被告生長の家につき平成27年11月19日、被告Aにつき平成27年11月15日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
(1) 当事者等
ア(ア) 原告事業団は、創立者B(以下「B」という。)の日本救国・世界救済の宗教的信念に基づき、社会厚生事業及び社会文化事業の発展強化を図ることを目的とする公益財団法人である。原告事業団は、財団法人として昭和21年1月8日に成立し、平成24年4月1日に公益財団法人に移行した。(甲1)
(イ) 原告光明思想社は、書籍及び雑誌の刊行等を目的とする法人であり、原告事業団との間でBの主要な著作である「生命の實相」及び「聖経甘露の法雨」(以下「甘露の法雨」という。)につき、出版権設定契約を締結している。(甲5、6)
イ(ア) 被告生長の家は、人類光明化のため、その教規に基づき、生長の家(なお、以下、宗教としての「生長の家」を指す場合には、単に「生長の家」という。)の教義を広め、教化道場及び礼拝施設を備えて、儀式行事を行い、信者を教化育成することなどを目的とする宗教法人上の法人である。
 生長の家の創始者であるBは、生長の家の初代総裁であったが、昭和60年6月17日に亡くなった。その後、C(以下「C」という。)が後を継いだが、平成20年10月28日に亡くなり、D(以下「D」という。)が生長の家の三代目総裁となった。(甲54)
(イ) 被告Aは、被告生長の家の宗教法人法上の代表者である。
(ウ) 世界聖典普及協会は、宗教聖典及び「生長の家」教義に関する月刊誌・書籍等の普及頒布事業を行うこと等を目的とする一般財団法人である。(甲35)
(エ) 日本教文社は、生長の家の文書伝道を実践するため、昭和9年11月25日に設立された出版社である。(乙13)
(オ) 生長の家の各「教化部」は、包括宗教法人である被告生長の家の被包括下にある各単位宗教法人であり、生長の家の教義の宣布の中心機関である。(甲36)
(2) 「生命の實相」及び「甘露の法雨」について
 「生命の實相」及び「甘露の法雨」は、Bの代表的著作である。
 「生命の實相」は、生長の家が聖典と仰ぐ著作物であり、Bが月刊誌に掲載した多数の論文を分類してまとめたものである。「生命の實相」には、装丁等の異なる各種の版があるが、最初に出版された「生命の實相〈革表紙版〉」は昭和7年1月1日に発行された。(甲3)
 「甘露の法雨」は、宗教詩としての形式をとる、生長の家の聖経と位置づけられる著作物であり、昭和11年2月1日に最初に出版された。(甲4)
 Bは、昭和21年1月8日、「生命の實相」の著作権を含む財産を出捐し、原告事業団を創設するとの内容の寄附行為(以下「本件寄附行為」という。)をした。原告事業団の原始寄附行為(甲50)第5条には、「基本資産」として「B著作「生命の實相」ノ著作物」が、「流動資産」として「基本資産ヨリ生スル収入」がそれぞれ掲げられている。
 「生命の實相」及び「甘露の法雨」については、いずれも、昭和63年4月27日、著作権の譲渡を登録の目的とし、譲渡人をB、譲受人を原告事業団とする著作権登録がされている。(甲3、4)
(3) 本件著作物について
 本件著作物は、昭和6年9月27日夜にBに啓示された「神示」をBが著述したとされる、「汝ら天地一切のものと和解せよ。」で始まる言語の著作物(全文は、別紙著作物目録記載のとおり)であり、「大調和の神示」という題号(「『七つの燈薹の點燈者』の神示」や「『七つの灯台の点灯者』の神示」という題号のときもある。)が付されている。本件著作物は、昭和6年12月1日発行の機関誌「生長の家」(乙1)に発表され、それ以後、「生命の實相」、「甘露の法雨」を含め、複数の著作物(例として、甲14、乙3)に所収されている。
(4) 本件各書籍について
 本件各書籍(甲7、8)は、いずれも巻頭に本件著作物の全文を掲載した上で、本編に「天地一切と和解する祈り」を含む合計6編(B著作3編、D著作3編)を、巻末にCが作詞した「かみをたたえて」を収録している。本件書籍1(単価800円(税込み))は手帳型の経本の体裁、本件書籍2(非売品)はお守りの体裁をした著作物であり、B及びDの著作物を信徒が日々読誦しやすいように一冊にまとめ、信徒等がこれらの祈りを読誦することにより、万物調和の祈りが深まることを意図するものである。本件書籍1は、平成27年6月頃に発行され、本件書籍2は、同年8月末頃に発行され、いずれも、信徒等に対して複製、頒布されている。(甲15、17、18)
3 争点
(1) 本件著作物の著作権の帰属
(2) 黙示の許諾の有無
(3) 解約の有効性
(4) 原告光明思想社の出版権侵害の成否
25 (5) 被告Aの責任
(6) 廃棄請求の可否
(7) 損害の有無及びその額
第3 当事者の主張
1 争点(1)(本件著作物の著作権の帰属)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件著作物は独立したものではなく、原告事業団が著作権を有する「生命の實相」及び「甘露の法雨」の一部を構成するものにすぎない。一つの著作物に含まれる引用句の著作権と本編の著作権とを分離すべき合理的な理由はない。
(2) 「生命の實相」及び「甘露の法雨」の著作権は、原告事業団の設立の際に、10 Bから同原告に譲渡されたものであり、その旨の著作権登録も経ているのであるから、その一部にすぎない本件著作物の著作権は、原告事業団に帰属する。被告らは、本件著作物が生長の家の教義の根本に位置付けられることから、Bが同原告にその著作権を譲渡したとは考え難いと主張するが、Bは、同原告にその著作物の全ての著作権を譲渡し、その中には、生長の家から聖典と仰がれる「生命の實相」なども含まれているのであるから、本件著作物が譲渡の対象外であるとは考えられない。
(3) 「生命の實相」が編集著作物であるとしても、Bは、「生命の實相」をその素材である各論文の著作権を含め、原告事業団に移転したものである。
(4) 原告事業団とBとの間で、被告生長の家の布教、伝道活動に資するように著作権を行使するという黙示の合意が成立したことはない。そもそも、原告事業団が設立された昭和21年1月8日時点において、法人としての被告生長の家は成立していなかったのであるから、存在しない団体のために著作権の行使の制限となるような合意がされるとは考えられない。
〔被告らの主張〕
(1) 本件著作物は、昭和6年12月1日に発行された機関誌「生長の家」(乙1)に掲載された独立の著作物である。「生命の實相」、「甘露の法雨」を含め、本件著作物が掲載された書籍のほぼ全てにおいて、本件著作物は、巻頭に引用句(いわゆるエピグラム)として掲載されている。また、本件著作物を掲載する「生命の實相」では、目次に本件著作物が記載されていないか(乙3〜6)、記載されているとしても、本文とは別に頁数が振られている。このように、形式上も、本件著作物は、「生命の實相」や「甘露の法雨」の著作物とは異なる独立した著作物である。
 原告らは、本件著作物は、「生命の實相」又は「甘露の法雨」の一部であると主張するが、 「生命の實相」又は「甘露の法雨」以外のBの著作物(乙9〜12、15〜20)にも本件著作物は掲載されているのであるから、本件著作物は「生命の實相」又は「甘露の法雨」とは別の著作物である。
(2) 本件著作物は、原告事業団の設立に伴い、寄附行為としてBから同原告に著作権が譲渡された著作物には含まれていない。本件著作物は、生長の家の最高規範である「生長の家教規」(以下「本件教規」という。乙2)にも全文が掲載され、生長の家の教義の根本に位置付けられ、その宗教活動にとって不可欠なものであるから、Bが寄附行為によって原告事業団にその著作権を譲渡したとは考え難い。また、著作権の登録原簿上も、本件著作物については何ら記載がない。
(3) 仮に、本件著作物が「生命の實相」等の一部であるとしても、寄附行為により原告事業団に譲渡されたのは、「生命の實相」の編集著作権のみであって、素材としての著作物の著作権は含まれない。
(4) 仮に、本件著作物の著作権が寄附行為により原告事業団に譲渡されたとしても、その際に、同原告は、生長の家の布教、伝道活動に資するように著作権を行使するという黙示の合意が存在したのであるから、原告らによる本件訴訟における権利行使は許されない。
2 争点(2)(黙示の許諾の有無)について
〔被告らの主張〕
 原告事業団は、以下のとおり、遅くとも昭和28年1月1日には、被告生長の家に対し、同被告が本件著作物を一般的・包括的に利用することを黙示に許諾した。
(1) 本件著作物は、Bの創始した生長の家の教義の根幹をなすものであって、その使用は宗教活動に不可欠である。Bは、本件著作物の著作権を原告事業団に移転したとしても、宗教団体である生長の家が同原告の許諾を受けることができず、本件著作物を利用して布教・伝道できなくなることを想定していなかった。
(2) 原告事業団への「生命の實相」の著作権の譲渡後、初めて本件著作物が掲載されたのは、昭和28年1月1日に発行された生長の家本部編「聖光録」(乙9)である。その後、被告生長の家は、多数の著作物に本件著作物を掲載してきたが、原告事業団は、約62年間にわたり、異議を述べたことはなかった。
(3) 本件教規の細則には、昭和59年2月7日に制定された「B先生、E先生、C先生、F先生、D先生、G先生のご講話、ご文章の取扱いについての取り決め」(以下「本件取り決め」。乙25)が存在する。これは、Bらの著作物が被告生長の家の布教、伝道活動に不可欠であることから、関係者団体が、著作権の帰属にかかわらず、一定の限度で、Bらの著作物の使用を相互に許諾したものであり、その内容については、原告らも十分に認識していた(乙27〜30)。そして、本件取り決めに基づき、例えば、全国の教化部が各教区の信徒向けに発行している無料の機関誌(乙31〜38)の巻頭などに、本件著作物を含むBらの著作物が掲載されてきたが、原告事業団は異議を述べたことはなかった。
(4) 原告らは、本件著作物の使用許諾は、原告事業団が設立された際の原始寄附行為に反し許されないと主張するが、原告らがその根拠とする原始寄附行為第7条は、基本資産の散逸を禁止するものにすぎず、本件著作物の利用を第三者に許諾しても原告事業団は本件著作物を利用できるのであるから、同条にいう「消費又ハ消滅」に当たらない。
〔原告らの主張〕
 原告事業団は、以下のとおり、被告生長の家に対し、本件著作物を複製・利用することについて、黙示の一般的・包括的な許諾をしたことはない。
(1) 本件著作物を一般的・包括的に使用許諾することは、原告事業団の設立の際の原始寄附行為(甲50)第7条の「基本資産ハ社會環境ノ自然的変化ヨル減價滅失等ニヨルホカ人爲的ニハ消費又ハ消滅セシムルコト」に該当し、昭和28年当時、そもそもすることができなかった。また、昭和30年以降は、やむを得ない事由がある場合に、理事会決議と主務官庁の承認を得て基本資産の処分ができるようになったが、本件著作物についてそのような決議又は承認はされていない。
(2) 本件著作物の著作権を無償で永続的に被告生長の家に利用させることは、原告事業団にとって、基本資産である本件著作物の著作権を放棄するに等しいのであるから、書面による合意なく、同原告が黙示に承諾することはあり得ない。
(3) 昭和28年以降において、被告生長の家の著作物で本件著作物を利用しているのは5点(乙9、11、12、17、18)であり、乙18は、実質的に絶版状態となっている。このような限られた数の著作物において本件著作物が掲載されていることをもって、本件著作物の使用許諾があったということはできない。
(4) 本件取り決めは、その当事者ではない原告事業団を拘束するものではなく、その利用許諾の対象である著作物は、被告生長の家自身が保有する著作物とC保有のものに限定されており、同原告が著作権を有する著作物は対象となっていない。また、本件取り決めに基づいて、本件著作物が掲載されているとしても、それは、原告事業団が個別に承認したか、その事実に気付かなかったにすぎない。
3 争点(3)(解約の有効性)について
〔原告らの主張〕
(1) 仮に、本件著作物について黙示に許諾する旨の合意が認められるとしても、原告事業団は、以下のとおり、同合意を解約する旨の意思表示をしたので、同合意は解約された。以下の各意思表示のうち、@を主位的に、ABをこの順位で予備的に主張する。
@ 使用許諾の合意を解約する旨の記載をした平成29年2月28日付け準備書面8(3頁)を同年3月6日の弁論準備期日において陳述した。
A 本件著作物の使用を拒絶する旨の主張を記載した平成28年3月8日付け準備書面1(14頁)を同月15日の弁論準備期日において陳述した。
B 平成24年6月8日付け請求書(甲23)において、本件著作物の使用を拒否する通知をし、同通知は、平成24年6月10日頃、被告生長の家に到達した。
(2) 本件著作物の黙示の許諾が認められる場合でも、著作権者として同許諾の合意を解約することは正当な権利行使であって、解約のための正当な理由は不要である。仮に、同解約について正当な理由が必要とされるとしても、以下のとおり、解約をするについて正当な理由が存在する。
ア 被告生長の家は、以下のとおり、かつての教団と全く異なる別な宗教活動を行う団体に変質している。
(ア) 被告生長の家は、天皇国日本の実相顕現を通じた人類光明化運動を展開していたが、現教団は、皇室尊重とおよそ相容れない政治理念を有する政党である日本共産党と共闘し、平成28年に行われた参議院選挙の際には、同党や左翼革命勢力を利する野党統一候補への支持を公的に表明するなど、左翼的思想を有する環境保護運動団体へと変容している(甲39〜47、53、54、91〜93)。
(イ) 被告生長の家の総本山における信仰対象であり礼拝施設における儀式行事の客体である祭神を「住吉大神」から「造化三神」に変更した(甲5 75〜80、85)。
(ウ) 被告生長の家は、Bの講義が記載された「神ひとに語り給ふ 神示講義教の巻」を事実上の絶版状態としたほか、「大調和の神示祭」や講義など、毎年の祭事・行事を行わなくなった(甲25、26、61)。
イ 原告事業団と被告生長の家との間には、以下のとおり、種々の係争が存在することにより、両者間の信頼関係が著しく破壊され、関係修復は困難である。
(ア) 原告事業団と被告生長の家の間では、Bを著作者とする著作物の著作権やこれによる印税などをめぐり、平成21年以降、複数の訴訟が提起され、平成25年5月27日の最高裁判決により「甘露の法雨」や「生命の實相」の著作権が同原告に帰属することが確定した(甲9〜11)。しかし、被告生長の家は、これに反し、原告事業団がBによる寄附行為によって設立時から保有してきた著作物(本件著作物を含む。)の著作権が同原告に帰属することを否定し続けている(甲65〜74)。
(イ) 被告生長の家は、現時点でもなお平成21年に原告事業団に対して提訴した際の主張をウェブサイトに掲載し続け、訴訟でその主張が否定されたにもかかわらず、その記載を削除・訂正していない(甲65〜72)。
(ウ) 生長の家の現総裁のDは、平成28年11月22日、聴衆250名に対し、原告事業団前理事長H(以下「H前理事長」という。)及び原告事業団の行為を「背教的行為」などと評し、その名誉を毀損した(甲82)。同様に、被告生長の家は、宗教団体の正式な機関誌「生長の家」2017年2月号においても、原告事業団の行為を「悪」、「背教的行為」などと決めつけ、同原告及びH前理事長の社会的評価を低下させる事実を伝えた(甲83)。
(エ) 被告生長の家は、原告事業団が運営する児童養護施設「生長の家神の国寮」に入所している児童が被告生長の家の教化部が主催する「生長の家青少年練成会」の行事に参加することを拒否したため、同原告は、法務局に対し、人権侵害の申告を行った(甲84)。
(オ) 被告生長の家は、平成21年以降、原告事業団役員(当時)I及び職員Jを同被告の「青年会」から正当な理由なく除名し、同原告のH前理事長及び職員Kを同被告の「相愛会」から正当な理由なく退会させた(甲86)。
(カ) 被告生長の家の職員は、平成26年6月30日及び平成28年6月26日に(開催地は省略)で開催された日本教文社の株主総会において、神像を拝礼したいとの原告事業団役員等からの申し出に対し、罵声を浴びせてこれを拒否した(甲86、87)。これにより、H前理事長の遺族であるLは、遺族として重大な精神的被害を受けた。
〔被告らの主張〕
(1) 本件著作物の使用許諾の合意の解約の意思表示のうち、上記A及びBについては、解約の意思表示と認めることはできない。また、上記@については、その効力を争う。
(2) 本件著作物は、本件教規に掲げられ、生長の家の教義の根幹となるものであって、これまでも自由に書籍に掲載をしてきたものである。原告事業団が60年以上にわたるこれまでの法律関係を否定し、本件著作物の利用について異議を述べるためには、信頼関係が破壊されたと評価されるに足りるだけの特別な事情が必要とされるべきであるが、本件においては、以下のとおり、そのような事情は存在しない。
ア 被告生長の家は、本件著作物を教義の根本にして宗教活動を行っているのであり、宗教団体としての同一性が失われたものではない。
(ア) 生長の家では、聖経読誦は信徒の日常の宗教行となっており、信徒は、聖経「甘露の法雨」の詩の読誦の前に本件著作物等を読誦している。また、合宿形式で学ぶ錬成会の早朝行事でも本件著作物の読誦がされる。このように、本件著作物の読誦は生長の家の宗教行の基本であり、それは現在でも変わりはない。被告生長の家が共産党を支持するようになったとの原告らの主張は否認する。
(イ) 被告生長の家の総本山における祭神については、「住吉大神」は現在も龍宮住吉本宮に祭祀されており、そこに「造化三神」が新たに加わったにすぎないのであり、祭神を変更したわけではない。Bの教えによれば、「住吉大神」と「造化三神」は、いずれも「宇宙本源の大神」の現れであり(本件教規第6条)、「造化三神」を総本山に新たに祀ったことはBの教えに沿うものである。
(ウ) 原告事業団は、毎年の祭事・行事を行わなくなったなどと主張するが、生長の家の教義や儀式に変更はなく、宗教団体としての活動の同一性に影響を及ぼすものではない。
イ 原告らが主張する事情は、原告事業団と被告生長の家との間の信頼関係を破壊する事情には該当しない。
(ア) 原告事業団と被告生長の家の間では、平成21年以降、複数の訴訟が提起されていることは事実であるが、本件著作物の使用許諾の合意の解約は被告生長の家の宗教団体としての活動の根幹を奪うことになることや、原告事業団がこれまでその使用について60年以上にわたり異議を述べていないことに照らすと、両者間に紛争が発生していることは本件著作物の使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる特別な事情には当たらない。
(イ) 被告生長の家は、2013年5月31日付けのニュースリリース(甲70)において、同被告が敗訴したことを報じているのであるから、過去のニュースリリースが同被告のウェブサイトに残っているとしても、原告事業団の名誉を害することにはならない。
(ウ) 原告らは、Dが「背教的な敵対行為」(甲82)などの表現をしたことにより名誉を毀損されたと主張するが、例えば、甲82の上記表現は、「私たちの立場から見れば、これは一種の“背教的行為”です。」と記載されているのであって、原告事業団等を非難する趣旨の文章ではない。原告らが指摘する他の表現も同様に、原告事業団等の名誉を毀損するものではない。
(エ) 原告事業団が運営する児童養護施設に入所している児童への対応は、同原告と被告生長の家が係争中であることにより児童に悪影響が及ぶことを避けるための暫定的な措置にすぎず、法務局から処分を受けたこともない。
(オ) 原告事業団役員等を「青年会」から理由なく除名し、同原告の理事長等を「相愛会」から理由なく退会させたとの主張は、否認する。
(カ) 被告生長の家の職員が原告事業団役員等に対して罵声を浴びせかけたとの主張は、否認する。
4 争点(4)(原告光明思想社の出版権侵害の成否)について
〔原告らの主張〕
(1) 原告光明思想社は、原告事業団との間で「生命の實相」及び「甘露の法雨」の出版権設定契約を締結しており、被告らの複製・頒布行為はかかる出版権を侵害するものである。
(2) 著作権法80条の解釈上、著作物の一部について出版権を設定することは許される。
〔被告らの主張〕
(1) 原告事業団が本件著作物の著作権を有しない以上、同原告と原告光明思想社が出版権設定契約を締結しているとしても、当該契約には本件著作物は含まれない。また、原告事業団は、被告生長の家に対し、本件著作物を利用することについて黙示の許諾をしているので、同許諾後に設定された出版権に基づいて請求をすることはできない。
(2) 仮に、原告光明思想社が出版権を有するとしても、出版権は「原作のまま」複製する独占的な権利であるから(著作権法80条)、「生命の實相」や「甘露の法雨」の一部のみを抜き出して複製する行為に対して出版権を行使することはできない。
5 争点(5)(被告Aの責任)について
〔原告らの主張〕
 被告Aは、本件書籍1の「発行者」であり、個人として法的責任を負う。
 また、被告生長の家の違法行為は、「宗教法人の目的の範囲外の行為」(宗教法人法11条2項)であるところ、被告Aは、被告生長の家の代表者として、本件各書籍の発注、納品、代金支払、頒布について自ら関与し又は指揮命令をしたのであるから、被告生長の家の「代表役員」又は「その事項の決議に賛成した責任役員」として、同項に基づき、被告生長の家と連帯責任を負う。
 さらに、被告Aの上記の行為は民事上の不法行為ともいえるから、予備的に、民法709条に基づく損害賠償責任を負う(その場合、被告生長の家は民法715条の使用者責任を負う。)。
〔被告らの主張〕
 被告Aが発行者としての責任を負うとの主張については、否認又は争う。
 宗教法人法11条2項は、法人の代表者が行った不法行為が職務を行うにつきなされたものと認められない場合の規定であり、原告らが問題とする本件各書籍の出版等の行為は被告生長の家の目的の範囲内の行為である。したがって、被告Aが同項に基づく責任を負うことはない。
 さらに、民法709条に基づく予備的主張についても、被告Aの行為には違法性が認められないから理由がない。
6 争点(6)(廃棄請求の可否)について
〔原告らの主張〕
 世界聖典普及協会は、被告生長の家の出版物を取り扱う団体であり(甲35)、本件各書籍を保管している。日本教文社も、生長の家の信徒に対して著作物を出版する会社であるので、被告生長の家から委託されて本件各書籍を保管している可能性がある。また、教化部は、被告生長の家の布教活動の地方組織として機能しており、被告生長の家の手足となって一体的に活動しているので(甲36〜38)、被告生長の家の指示により、本件各書籍を占有・保管している。したがって、上記各団体に保管されている本件各書籍も、原告らの著作権等侵害を回復し、保全するために廃棄される必要がある。
〔被告らの主張〕
 原告らが主張する各団体において保管されている本件各書籍は、被告生長の家とは法人格を異にする各団体においてそれぞれ所有するものにほかならないから、被告らがそれらを廃棄することはできない。
7 争点(7)(損害の有無及びその額)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件著作物につき、少なくとも初版2000部が発行され、本件書籍1は1部あたり200円、本件書籍2は1部あたり100円の各経済的損害を被ったものであり、原告事業団に合計60万円の損害が生じた。また、本件訴訟提起を余儀なくされたことにより、原告代理人弁護士に委任をせざるを得なくなり、原告らそれぞれ100万円の支払を約定しており、いずれもが相当因果関係のある損害である。
(2) 被告らの主張(本件書籍1の平成27年6月から平成28年7月8日までの販売部数は2万2663部。本件書籍2の平成27年8月から平成28年25 6月23日までの交付総数は4万3931体。)に基づき、毎月の販売等部数を計算し、本件各書籍の一部あたりの損害額(200円(本件書籍1)及び100円(本件書籍2))を乗ずると、毎月の損害額は、それぞれ以下のとおりである。
本件書籍1: 2万2663÷12≒1888(毎月部数)
  200円×1888部=37万7600円
本件書籍2: 4万3931÷11≒3993(毎月部数)
  100円×3993部=39万9300円(毎月損害額)
 仮に、平成29年3月6日の意思表示により解約が認められた場合、同月7日以降支払済みに至るまで、月額当たり37万7600円(本件書籍1)及び月額当たり39万9300円(本件書籍2)の割合で計算される損害の支払、平成28年3月15日の意思表示により解約が認められた場合、同月16日以降支払済みに至るまで、月額当たり37万7600円(本件書籍1)及び月額当たり39万9300円(本件書籍2)の割合で計算される損害の支払、平成24年6月10日の意思表示により解約が認められた場合、本件各書籍発行以降、支払済みに至るまで月額当たり37万7600円(本件書籍1)及び月額当たり39万9300円(本件書籍2)の割合で計算される損害の支払、をいずれも60万円に満つるまでの範囲で求める。
〔被告らの主張〕
 本件書籍1の単価は800円(税込)であり、平成28年7月8日までの販売部数は2万2663部であった。本件書籍2は非売品であり、同年6月23日までの交付総数は4万3931体であった。
 その余の主張は否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実に加え、当事者間に争いのない事実、証拠(後記文中又は末尾掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 前記第2、2(2)(3)記載のとおり、本件著作物は、昭和6年12月1日発行の機関誌「生長の家」に発表され、「生命の實相」は、昭和7年1月1日に初めて出版され、「甘露の法雨」は、昭和11年2月1日に初めて出版された。
(2) 生長の家の創始者であるBは、昭和21年1月8日、原告事業団を設立した。その原始寄附行為(甲50)第5条には、「基本資産」として「B著作「生命の實相」ノ著作物」が、「流動資産」として「基本資産ヨリ生スル収入」がそれぞれ掲げられている。なお、上記原始寄附行為第7条には、「基又ハ消滅セシムルコトヲ得ズ」との定めが置かれている。
 その後、寄附行為は、主務官庁の認可を経て変更されており、平成25年10月18日付け寄附行為(甲2の1)においては、「B著「生命の實相」等の著作権」が基本資産とされ(同第5条二、6条)、同日付け原告事業団定款(甲2の2)別表第2には「公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産」として、「生命の實相」、「甘露の法雨」等の著作物が掲げられている。
(3) 本件教規(乙2)は、昭和26年9月9日、Bが総裁であった被告生長の家により制定された。生長の家の教義に関する本件教規第5条には、「教義の根本たるものは『生命の實相』巻頭の「『七つの燈薹の點燈者』の神示なり。曰く―」との記載に続けて、本件著作物の全文がそのまま掲載されている。
(4) 「生命の實相」には各種の版があるが、@初版革表紙「生命の實相」復刻版〈發刊50年記念出版〉」(昭和57年5月1日初版発行 乙3)、A「生命の實相」〈布製携帯版〉第1巻(昭和31年11月10日初版発行 乙4)、B「生命の實相」〈頭注版〉第1巻(昭和37年5月5日初版発行 乙5)、C「生命の實相」〈愛蔵版〉第1巻(昭和45年10月15日初版発行 乙6)においては、いずれも、本件著作物が巻頭に掲載され、本件著作物は目次に記載されていない。
 本件著作物は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」(甲14)のほか、「聖光録(生長の家家族必携)」(昭和28年1月1日初版発行 乙9)などの著作物(乙9のほかに乙10〜12、15〜20)にも掲載されている。
(5) 生長の家の教義における本件著作物の重要性に関し、B著作に係る「生命の實相 頭注版 第25巻」(昭和39年10月10日初版発行 乙7)には、本件著作物の「汝ら、天地一切のものと和解せよ」との記載が生長の家の教えの中心になっている旨の記載があり、同様にB著作に係る「生命の實相 頭注版 第30巻(B著)」(昭和40年8月10日初版発行 乙8)にも同様の記載がある。
 また、2013年3月1日発行の機関誌「生長の家」(乙24)に掲載されたD著作に係る「原点に回帰して飛躍しよう」と題する挨拶文には、「「大調和の神示」というのは生長の家の神示の中で最も重要な神示です。」との記載がある。
(6) 本件取り決め(乙25)は、昭和59年2月7日、本件教規の細則として制定された。これは、B、C、Dらの講話、文章などの著作物を引用、転載する場合の留意点についての定めであり、著作権の帰属について特段の限定をすることなく、原告事業団を含む関係団体の発行する印刷物も対象とされている。本件取り決めは、被告生長の家の理事会で決定され、その際に出席した理事には原告事業団の理事も含まれていた。(乙26〜30)
 本件取り決めの制定後、これに基づき、全国の教化部が各教区の信徒向けに発行している機関誌など(乙31〜33、35〜38)に、Bらの著作物が掲載され、その中には本件著作物の全部又は一部を掲載するものもあったが(乙33、35)、これに対し原告事業団が異議を述べたことはなかった。
(7) 原告事業団は、平成21年、日本教文社に対し、「初版革表紙 生命の實相 復刻版」等の書籍に関し、未払印税の支払等を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成21年(ワ)第6368号事件)。他方、被告生長の家は、原告事業団及び原告光明思想社に対し、「古事記と日本国の世界的使命―甦る『生命の實相』神道篇」等の書籍の出版等の差止め等を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成21年(ワ)第17073号事件)。また、日本教文社は、原告事業団に対し、「聖経 甘露の法雨(大型)」等の書籍の出版権の確認を求めるとともに、原告事業団及び原告光明思想社に対し、上記書籍の出版等の差止めを求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成21年(ワ)第41398号事件)。上記3件の訴訟は併合して審理され、上訴審(知的財産高等裁判所平成23年(ネ)第10028号事件等、最高裁判所平成24年(オ)第830号事件等)を経た上で、最終的に、原告事業団の未払印税の支払を求める請求の一部が認容され、被告生長の家や日本教文社の請求はいずれも棄却する判決が確定した。(甲9〜11)
 また、原告事業団及び原告光明思想社は、平成25年、被告生長の家及び日本教文社に対し、「生命の教育」との題号を付した書籍(日本教文社が昭和41年4月ころに出版したものであり、「生命の實相 頭注版」の第14巻、第25巻及び第30巻に収録された論文のうち一部を抜き出して1冊にまとめたもの。)及び「甘露の法雨」(経本)につき、差止等を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所平成25年(ワ)第28342号事件。以下「前件事件」という。)。一審判決は、原告事業団に「生命の實相」(編集著作物としての素材を構成する論文を含む)及び「甘露の法雨」の著作権が、昭和21年の本件寄附行為により、Bから原告事業団に移転したこと、原告事業団から被告生長の家に対する「生命の實相」の使用許諾及び「甘露の法雨」の使用に関する覚書による合意が認められること、それらはいずれも解約されたことを認め、被告生長の家及び日本教文社に対する差止等の請求を認容したが、控訴審(知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10062号事件等)は、「生命の實相」に関する原告事業団の日本教文社に対する差止等の請求は認容したものの、「甘露の法雨」(経本)に関する原告事業団の被告生長の家に対する差止請求については、覚書に係る合意につき解約を正当とする理由があるとはいえないとして、棄却をし、最終的に同判決が確定をした。(甲20、27)
 被告生長の家は、平成21年10月27日、東京地方裁判所に訴え(上記東京地方裁判所平成21年(ワ)第6368号事件)を提起したことをウェブサイト上で告知するとともに、同被告の見解を掲載した。同訴訟は、上記のとおり、上告審まで争われた後、被告生長の家の敗訴が確定し、同被告は、平成25年5月31日、訴訟の結果をウェブサイトで報告した。(甲65、70)
(8) 原告事業団は、平成24年6月8日ころ、被告生長の家に対し、被告生長の家が出版を計画している「観世音菩薩讃歌」に本件著作物を含む著作物を収録することが原告事業団の有する著作権を侵害するとして、使用の停止を求める通知をし、同通知は、同月10日ころ到達した。その後、「観世音菩薩讃歌」が発行されたが、本件著作物は収録されなかった。(甲16の1、23の1、弁論の全趣旨)
(9) 被告生長の家は、本件書籍1を平成27年6月25日に発刊したところ、原告事業団は、同年7月17日、被告生長の家に対し、本件著作物を収録する本件書籍1の発行は、「生命の實相」及び「甘露の法雨」の著作権侵害に当たることを理由として、侵害行為の停止等を求めた。(甲16の1、2)
2 争点(1)(本件著作物の著作権の帰属)について
(1) 前記のとおり、本件著作物は、「生命の實相」や「甘露の法雨」の発行に先立ち、昭和6年12月1日発行の機関誌「生長の家」(乙1)に単独の著作物として掲載されたものである。そして、本件著作物は「生命の實相」に収録されている場合(乙3〜6)には、目次やはしがきの前の巻頭に掲載され、本編の一部を構成しておらず、また、「生命の實相」や「甘露の法雨」に限らず、「聖光録(生長の家家族必携)」(乙9)を初めとする他の複数の著作物(乙10〜12、15〜20)にも本件著作物が掲載されているとの事実が認められる。こうした事実に照らすと、本件著作物は、「生命の實相」や「甘露の法雨」の一部ではなく、独立した著作物であると認めるのが相当である。
 これに対し、原告らは、一つの著作物に含まれる引用句の著作権と本編の著作権とを分離すべき合理的な理由はないので、本件著作物は独立した著作物ではないと主張するが、上記のとおり、本件著作物は「生命の實相」や「甘露の法雨」が発行される前に単独の著作物として発表されていることや、本件著作物を掲載している著作物は「生命の實相」や「甘露の法雨」に限定されないことに照らすと、本件著作物が「生命の實相」及び「甘露の法雨」の一部であるとの原告らの主張は採用できない。
(2) 原告事業団の設立に際し、Bがその著作物を寄附行為として出捐し、原始寄附行為には「B著作「生命の實相」ノ著作物」が「基本資産」として掲げられていることは前記認定のとおりである。同寄附行為には、Bの他の著作物は明示されていないが、平成25年10月18日付け寄附行為(甲2の1)には、「B著「生命の實相」等の著作権」が基本資産とされ(同第5条二、6条)、同日付け原告事業団定款(甲2の2)別表第2には「公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産」として、「生命の實相」、「甘露の法雨」など複数の著作物が掲げられていることによれば、原告事業団設立の際に、Bはその著作物の著作権を全て原告事業団に寄附行為として譲渡したものであり、その中には本件著作物も含まれていたと認めるのが相当である。
 これに対して、被告らは、本件著作物は生長の家の宗教活動にとって不可欠なものであるから、Bが原告事業団にその著作権を譲渡したとは考え難い25 と主張するが、上記のとおり、Bの意思は、その著作物の著作権を包括的に原告事業団に譲渡することにあったと考えられ、本件著作権が寄附行為の対象から除外されていたと認めるに足りる証拠はない。
 また、被告らは、寄附行為により原告事業団に譲渡されたのは、「生命の實相」の編集著作権のみであり、又は生長の家の布教等に資するように著作権を行使するという黙示の合意が存在したと主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件著作物の著作権は、原告事業団に帰属する。
3 争点(2)(黙示の許諾の有無)について
(1) 原告事業団は、生長の家の創始者であるBにより設立され、寄附行為により提供された財産を用いて社会厚生事業を行うことを目的とする公益法人であり、被告生長の家は、布教、伝道活動を通じて生長の家の教義を広めることを主たる目的とする宗教法人である。いずれも、Bにより設立された法人であり、その役割は異なるものの、相互に連携・協力して、Bの宗教的信念の実現に努めることが企図されていたものと考えられる。こうした両法人の設立の趣旨、経緯に照らすと、生長の家の布教・伝道に必要なBの著作物については、寄附行為として原告事業団に譲渡された後も、被告生長の家に無償で使用させることが当初から想定されていたと認めるのが相当である。
 そして、前記認定のとおり、本件著作物は、事前に原告事業団の承諾を得ることなく、「聖光録(生長の家家族必携)」(昭和28年1月1日初版発行 乙9)を初めとする著作物(乙9のほかに乙10〜12、15〜20)に掲載され、このことについて同原告が異議を述べたことを示す証拠はない。
 また、B、C、Dらの講話、文章を引用、転載する場合の留意点についての定めである本件取り決め(乙25)は、著作権の帰属について特段の限定をすることなく、生長の家の関係者,関係団体が無償でB等の著作物を利用することが前提とされている。本件取り決めの制定を決議した理事会には原告事業団の理事も出席していたことによれば、同原告は本件取り決めの制定を当然認識していたと考えられるが、同原告がこれに異議を述べたことを示す証拠はない。
 さらに、前記認定のとおり、本件取り決めの制定後、これに基づき、全国の教化部が各教区の信徒向けに発行している機関誌など(乙31〜33、35〜38)に、本件著作物を含むBらの著作物が掲載され、これに対し原告事業団が異議を述べたことはないと認められる。
 以上のとおり、原告事業団は、その設立以降、60年以上にわたり、被告生長の家が本件著作物を利用することについて異議を述べていないことによれば、原告事業団は、遅くとも、本件著作物の著作権の譲渡後に初めて本件著作物を掲載した著作物が発行された日である昭和28年1月1日には、被告生長の家に対し、本件著作物を無償で個別の承諾なく利用することについて、黙示に許諾したというべきである(以下、認定に係る本件著作物の使用許諾を「本件使用許諾」という。)。
(2) これに対し、原告らは、本件著作物を一般的・包括的に使用許諾することは、原告事業団の設立の際の原始寄附行為(甲50)第7条の「基本資産ハセシムルコト」に該当し、昭和28年当時にすることができなかったと主張する。
 しかしながら、上記規定の趣旨は、基本資産の放棄や無償譲渡等を禁止することにあると解するのが相当であり、本件著作物の利用を生長の家の関係者や関係団体に許諾しても原告事業団は本件著作物を利用できるのであるから、本件使用許諾は、上記規定にいう「消費又ハ消滅」に当たらないというべきである。
 また、原告らは、本件使用許諾はその著作権を放棄するに等しいので原告事業団がそのような許諾をすることはあり得ないと主張するが、同原告の設25 立の目的、趣旨に照らすと、生長の家の布教・伝道のため、被告生長の家にB等の著作物を利用させることが当然の前提とされていたと認められることは、前記判示のとおりである。
 さらに、原告らは、本件取り決めは、原告事業団が著作権を有する著作物は対象となっていないと主張するが、本件取り決めは、Bらの著作物のうち、著作権の帰属による特段の限定をせずに、原告事業団を含む関係団体の発行する印刷物も対象としていることは前記認定のとおりである。原告らは、昭和28年以降において、被告生長の家の著作物で本件著作物を利用しているのは5点にすぎないとも主張するが、被告生長の家が本件著作物を利用している著作物の数の多寡は、前記認定を左右しない。
 したがって、 原告事業団は、遅くとも、昭和28年1月1日には、被告生長の家に対し、本件著作物を無償で個別の承諾なく利用することについて、黙示に許諾したと認められる。
4 争点(3)(解約の有効性)について
(1) 原告らは、本件使用許諾の合意が認められるとしても、無償であるから、正当な理由の有無にかかわらず、同合意を解約することができると主張する。
 しかし、本件著作物は、前記のとおり、@Bに啓示された「神示」をBが著述したものであり、A本件教規においても教義の根本としてその全文が掲げられ、B生長の家が聖典と仰ぐ「生命の實相」や聖経である「甘露の法雨」においても、本編とは区別して巻頭に掲載され、C「生命の實相 頭注版 第25巻」(乙7)等にも本件著作物が「生長の家の教えの中心」である旨の記載が存在し、D生長の家の信徒が重要な宗教行として日常的に読誦しているものであるとの事実が認められる。こうした事実によれば、本件著作物は、生長の家の教義の根本というべき著作物であり、被告生長の家が本件著作物を利用できないということになると、本件著作物の掲載された著作物を信徒が購入することは妨げられないことを考慮しても、生長の家の布教・伝道に支障が生じる可能性が高いというべきである。
 また、前記のとおり、生長の家の布教・伝道に必要なBの著作物については、寄附行為として原告事業団に譲渡された後も、被告生長の家に無償で使用させ、生長の家の教義の普及・伝道のために利用することが想定されていたと認められる。このような原告事業団の設立の趣旨や経緯に照らすと、本件使用許諾が、原告事業団が本件著作物の使用許諾の合意を正当な理由なく自由にいつでも解約し、被告生長の家に対しその使用を禁止することができるとの趣旨を含むものであったとは考え難い。
 そして、被告生長の家は、60年以上にわたり、無償で本件著作物を利用し、布教・伝道に利用してきたとの事実が認められることは、前記判示のとおりである。
 以上によれば、本件使用許諾の合意を解約するためには、これを是認するに足りる正当な理由が必要であるというべきである。
(2) 前記のとおり、本件各書籍(甲7、8)は、いずれも巻頭に本件著作物の全文を掲載した上で、本編に「天地一切と和解する祈り」を含む6編(B著作3編、D著作3編)を収録したものであり、本件書籍1は手帳型の経本の体裁、本件書籍2はお守りの体裁をする著作物である。このような本件各書籍の内容や体裁等によると、本件各書籍は、本件著作物を収録する他の著作物と同様、生長の家の布教・伝道に使用されるために発行されたものであると認められ、その目的・使用態様は本件使用許諾の趣旨を逸脱するものではないということができる。
(3) これに対し、原告らは、本件使用許諾の合意を解約するための正当な理由として、以下の各事情を主張するが、原告らが主張するいずれの解約の意思表示の時点においても、本件許諾の合意を解約することを是認するに足りる正当な理由があるとは認められない。
ア 原告らは、被告生長の家がかつての教団と全く異なる別の宗教活動を行う団体に変質したと主張し、具体的な事情として、@現教団は、日本共産党と共闘し、左翼的思想を有する環境保護運動団体へと変容したこと、A被告生長の家の総本山における祭神を「住吉大神」から「造化三神」に変更したこと、BBの講義が記載された著作物を事実上の絶版状態とし、毎年の重要な祭事・行事を行わなくなったことなどを挙げる。
 しかし、上記@及びAについては、被告生長の家が、平成28年7月に行われた参議院選挙の際、与党及びその候補者を支持しないとの方針を定め、その旨を信徒に周知したとの事実(甲40)、被告生長の家は、平成28年7月13日、「造化三神」の神霊符を総本山において発行し、龍宮住吉本宮に「造化三神」の神霊符を祀る旨の決定をしたとの事実(甲75)が認められるものの、原告が主張するこれらの事実は、本件著作物及びその使用許諾との関連性は薄く、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる事情であるということはできない。他方で、被告生長の家は宗教としての生長の家の布教・伝道活動を継続しており、本件各書籍も本件著作物を生長の家の布教・伝道活動に活用されるものと認められることに照らすと、被告生長の家がかつての教団と全く異なる別の宗教活動を行う団体に変質したと認めるに足りる証拠があるとはいえない。
 また、上記Bについては、Bの一部の著作物が事実上の絶版状態となり、毎年の祭事・行事の一部が行われなくなったとしても、被告生長の家は宗教としての生長の家の布教・伝道活動を継続していることは前記認定のとおりであって、こうした事実に照らすと、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる事情であるということはできない。
 以上によれば、被告生長の家がかつての教団と全く異なる別の宗教活動を行う団体に変質したと認めるに足りる証拠はなく、原告らが挙げる具体的な事情は、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる事情であるということはできない。
イ 原告らは、原告事業団と被告生長の家との間には、種々の係争が存在し、両者間の信頼関係が著しく破壊され、関係修復は困難であると主張する。
(ア) 原告らは、原告事業団と被告生長の家との間には複数の訴訟が提起されるなど、その対立は激しく、もはや両者間の信頼関係は著しく破壊されていると主張する。
 確かに、前記認定のとおり、原告事業団と被告生長の家との間には、平成21年以降、複数の訴訟を含め種々の係争が存在し、両者が本件許諾の合意当時の協力関係を再構築することは相当程度困難な状況にあると認められる。
 しかし、本件使用許諾の合意の当事者間の関係は、同合意の解約の正当理由を基礎付ける一事情として考慮されるべきではあるものの、両者の対立状況や関係修復の可能性から直ちに解約の正当理由があるということはできず、本件使用許諾の期間、本件著作物の使用目的・態様、本件著作物が利用できなくなった場合に被告生長の家が受ける不利益の程度等を総合して、解約の正当理由の有無を判断することが相当である。
 原告事業団と被告生長の家は、いずれもBにより設立された法人であり、現在もBの宗教的信念の実現に向けた活動を行っている点では共通しているところ、本件においては、@本件著作物は生長の家の教義の根本というべき著作物であり、これを使用できないと生長の家の布教・伝道活動に支障が生じる可能性が高いこと、A本件著作物の使用許諾の期間は60年以上という長期間に及ぶこと、B本件各書籍は、本件著作物を収録する他の著作物と同様、生長の家の布教・伝道に使用されるものであり、本件使用許諾の趣旨を逸脱するということはできないことなどの事情が認められる。本件に現れた係る事情を考慮すると、原告事業団と被告生長の家との間に係争が存在し、関係の修復が相当程度困難であるとしても、本件使用許諾の合意を解約し、被告生長の家に上記の不利益を受忍させるに足りる正当な理由があると認めることはできない。
(イ) 原告らは、被告生長の家は、現時点でもなお平成21年に原告事業団に対して提訴した際の主張をウェブサイトに掲載し続け、訴訟でその主張が否定されたにもかかわらず、その記載を削除・訂正していないと主張する。
 しかし、前記のとおり、被告生長の家は、平成25年5月31日、敗訴した事実をウェブサイトで報告しているのであり(甲70)、それ以前のニュースリリースがウェブサイト上に残されていたとしても、そのことをもって、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる事情であるということはできない。
(ウ) 原告らは、Dは、原告事業団の行為を「背教的行為」等と評し、その名誉を毀損したと主張するが、原告らが指摘するDの発言や著述は、本件著作物及びその使用許諾との関連性は薄く、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足りる事情であるということはできない。
(エ) 原告らは、被告生長の家は、原告事業団が運営する児童養護施設「生長の家神の国寮」に入所している児童が被告生長の家の教化部が主催する「生長の家青少年練成会」の行事に参加することを拒否したと主張する。
 この点について、証拠(甲84)によれば、生長の家の教化部は、平成28年5月、原告事業団の運営する児童養護施設生長の家神の国寮に在籍している児童を同教化部の主催する青少年錬成会等の行事の参加対象から外すとの判断をし、その旨を同原告に連絡したとの事実が認められる。しかし、同事実は、本件著作物及びその使用許諾との関連性は薄く、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足る事情であるということはできない。
(オ) 原告らは、被告生長の家は、平成21年以降、原告事業団役員等を同被告の「青年会」から正当な理由なく除名し、同原告の理事長等を同被告の「相愛会」から正当な理由なく退会させたと主張するが、これを認めるに足りる客観的な証拠はない。また、仮に同事実が認められるとしても、本件著作物及びその使用許諾との関連性は薄く、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足る事情であるということはできない。
(カ) 原告らは、被告生長の家の職員は、日本教文社の株主総会において、原告事業団役員等に罵声を浴びせかけたと主張するが、これを認めるに足りる客観的な証拠はない。また、仮に同事実が認められるとしても、本件著作物及びその使用許諾との関連性は薄く、本件使用許諾の合意の解約を正当化するに足る事情であるということはできない。
(4) 以上のとおり、本件使用許諾の合意を解約するためには、正当な理由が必10 要であると解すべきところ、本件では、同合意の解約を是認するに足りる正当な理由があるということはできない。そうすると、原告事業団と被告生長の家との間には、本件著作物を使用することについての許諾が存在するので、被告生長の家の本件各書籍における本件著作物の掲載は、原告事業団の複製権及び原告光明思想社の出版権を侵害するものとはいえず(争点(4))、被告Aの行為が違法であるということもできない(争点(5))。
 したがって、原告らの請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
5 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 遠山敦士
 裁判官 勝又来未子


別紙 書籍目録
1 発行所 生長の家
 題号 「万物調和六章経」
 著者 B、D
 大きさは、縦約13cm×横約7.5cm×厚さ約0.5cm
2 発行所 生長の家
 題号 「万物調和六章経」
 著者 B、D
 縦約8cm×横約4.5cm×厚さ約0.5cmのお守り用ケース入り、書籍本体の大きさ縦約7cm×横約3cm×厚さ約0.4cm
 以上
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