判例全文 line
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【事件名】消防支援車の取扱説明書等侵害事件
【年月日】平成29年11月16日
 東京地裁 平成28年(ワ)第19080号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年9月5日)

判決
原告 株式会社ヨコハマ・モーターセールス
同訴訟代理人弁護士 村西大作
同 弓削田博
同 河部康弘
同 藤沼光太
同補佐人 佐々木智也
同 貞島亮介
被告 株式会社トノックス(以下「被告トノックス」という。)
同訴訟代理人弁護士 岡林俊夫
同 竹内教敏
被告 有限会社マルチデバイス(以下「被告マルチデバイス」という。)
同訴訟代理人弁護士 日下隆浩


主文
1 被告トノックスは、原告に対し、12万7000円及びこれに対する平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告トノックスに対するその余の請求及び被告マルチデバイスに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して4億6750万円及びこれに対する平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、消防支援車T型(以下「支援車T型」という。)の製造等を行っている原告が、一般競争入札で支援車T型17台を落札して製造した被告トノックス及びその製造に関与した被告マルチデバイスに対し、被告トノックスは不当に安い金額で支援車T型を落札したほか、支援車T型の製造に当たり原告が提供した資料を流用するなどし、また、被告らは原告が著作権を有する支援車T型の制御プログラム、タッチパネル画面、取扱説明書及び警告用のシールの複製権又は翻案権を侵害したと主張して、主位的には上記一連の行為による不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条1項前段)として、予備的には上記各著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、719条1項前段、著作権法114条1項又は3項)として、損害金4億6750万円及びこれに対する不法行為の日又はその後の日である平成25年2月13日(被告トノックスによる支援車T型の納車日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、自動車、キャンピングカー及びその部品等の製造並びに販売等を業とする株式会社である。
イ 被告トノックスは、自動車、中古車及びその部分品の開発、製造等を業とする株式会社である。
ウ 被告マルチデバイスは、通信用電子機器の設計、製造、販売等を業とする有限会社である。
(2) 支援車T型の機能等
ア 支援車T型とは、災害時に被災地で消防隊員等が寝泊まりしながら救援活動を行うために、情報事務処理スペース、資機材積載スペース、トイレ、シャワー、キッチン、ベッド等が備えられている車両である。
イ 支援車T型には、居室等の空間を車両内に収納し、停車時に当該空間を車両側面から突出させることにより、車両内の空間を拡幅する機能(以下「拡幅機能」という。)を備えるものがある。
(3) 原告による支援車T型の製造等
ア 原告は、平成17年頃から拡幅機能を備える車両の製造に関与するようになり、平成19年3月頃、拡幅機能を備える支援車T型を製造し、神奈川県相模原市消防局等に納品した。この時製造された車両には、車両の拡幅操作等を行うためのプログラム(以下「原告プログラム(1)」という。)及びタッチパネル(甲61。以下「相模原市消防局車両向けタッチパネル」という。)が搭載されていた。原告プログラム(1)のうち、拡幅操作に関する部分は別紙1のとおりである。
イ 消防庁は、平成22年2月10日、拡幅機能を備える支援車T型47台の製造を一般競争入札(以下「平成22年入札」という。)に付し、同年4月5日の入札により、第一実業株式会社(以下「第一実業」という。)がこれを落札した。
ウ 第一実業は、上記イの落札の後、原告に対し、支援車T型47台の製造を委託した。原告は、第一実業からの委託を受けて支援車T型47台を製造するに当たり、被告マルチデバイスに対し、車両のシーケンス制御、電気回路や電気配線の設計、部品製作及び取付け作業等を含め、電機部門の作業の一切を委託した。
エ 原告が製造した拡幅機能を備える支援車T型47台(以下「原告車両」と総称する。)は、平成23年3月に消防庁に納品された。
(4) 被告トノックスによる支援車T型17台の落札等
ア 消防庁は、平成24年2月3日、拡幅機能を備える支援車T型17台の製造を一般競争入札(以下「平成24年入札」という。)に付し、同年4月5日の入札により、被告トノックスが1台当たり5750万円の価格でこれを落札した。
イ 被告トノックスは、平成25年2月頃、被告トノックスが製造した拡幅機能を備える支援車T型17台(以下「被告車両」と総称する。)を消防庁へ納品した。
(5) 原告車両及び被告車両の仕様等
ア 原告車両及び被告車両には、それぞれ車両を制御するためのプログラム(以下、原告車両のプログラムを「原告プログラム(2)」と、被告車両のプログラムを「被告プログラム」という。)が組み込まれており、車両の拡幅操作等を行うためのタッチパネル(以下、原告車両のタッチパネルを「原告タッチパネル」と、被告車両のタッチパネルを「被告タッチパネル」という。)が搭載されている。
 原告プログラム(2)のうち、画面制御に関する部分は別紙2のとおりであり、被告プログラムのうち、拡幅操作に関する部分は別紙3の、画面制御に関する部分は別紙4のとおりである。また、原告タッチパネルの各画面は別紙5のとおりであり(ただし、(11)の番号が付されている画像を除く。)、被告タッチパネルの各画面は別紙6のとおりである。
イ 原告車両及び被告車両には、それぞれ車両の設備や機能及びその取扱方法等を記載した取扱説明書(以下、原告車両の取扱説明書を「原告説明書」と、被告車両の取扱説明書を「被告説明書」という。)が付属しており、原告説明書には別紙7「取扱説明書対照表」の「原告説明書」欄の、被告説明書には同対照表の「被告トノックス説明書」欄のとおりの説明文が記載されている(ただし、各欄における下線、文字色及びラインマーカーは原告代理人が付したものである。)。
ウ 原告車両及び被告車両のキャブルーフ部には、立ち入ってはならない旨を示すため、絵柄と「NO STEP」という文字とを組み合わせたシール(以下、原告車両のシールを「原告警告シール」と、被告車両のシールを「被告警告シール」という。)がそれぞれ貼られている。原告警告シールは別紙8のとおりであり、被告警告シールが被告車両に貼付されている様子は別紙9のとおりである。
2 争点
(1) 以下のア〜エによる原告の利益の侵害と不法行為の成否
ア 不当な価格での入札による原告の利益の侵害
イ 資料流用による原告の利益の侵害
ウ 原告車両の形態等の模倣による原告の利益の侵害
エ 原告タッチパネル画面、原告説明書又は原告警告シールの利用による原告の利益の侵害
(2) 以下のア〜オの著作権侵害の有無
ア 原告プログラム(1)
イ 原告プログラム(2)
ウ 原告タッチパネル画面
エ 原告説明書
オ 原告警告シール
(3) 被告らの故意過失及び関連共同の有無
(4) 原告の損害額
(5) 消滅時効の成否
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(不当な価格での入札による原告の利益の侵害の有無)について
(原告の主張)
 入札においては、仕様書が求める水準を満たし、現場での使用に耐え得る支援車T型を納品することが大前提となるところ、被告トノックスは、支援車T型を製造販売した経験がなく、僅か1年で17台もの支援車T型を製造することができないことを認識していたにもかかわらず、平成24年入札において1台当たり5750万円という不当に安い価格で入札をし、支援車T型17台を落札した。1台当たり5750万円という価格では、十分な水準を備えた製品を製造することが不可能であり、実際に、被告トノックスが納品した支援車T型は、種々の不具合があり、現場での使用に耐え得るものではなかった。
 原告は、被告トノックス以外の平成24年入札の入札者との間で、これらの者が落札をした場合にはこれらの者から支援車T型17台の製造を受注する旨の口頭の合意をしていたところ、被告トノックスによる入札は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において到底許されないものであり、著しく不公正な手段を用いて原告の営業活動上の利益を侵害するものである。被告トノックスは、当該行為及び後記(2)〜(4)の原告の主張欄記載の一連の行為により原告から支援車T型17台の受注機会を喪失させたものであり、これら一連の行為は不法行為を構成する。
(被告トノックスの主張)
被告車両は、仕様書が求める水準を満たし、現場での使用に耐え得る製品である。また、被告トノックスの落札金額である1台当たり5750万円という金額は、適正な利益額での製造であれば、妥当なものである。
 原告は平成24年入札には参加しておらず、下請企業にすぎないから、被告トノックスと市場において競合していない。
(2) 争点(1)イ(資料流用による原告の利益の侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 被告トノックスは、平成24年4月14日、原告との間で支援車T型17台の製造を原告に発注する旨合意し、同月17日、原告に対し、原告の車両概要図、シャーシ関係図、ぎ装関係図等を要求した。原告代表者は、同時点では被告トノックスが原告に対して支援車T型の発注をすることが確実であると考えたため、支援車T型17台を受注する前提で、同月18日、被告トノックスに対して最大安定傾斜角度計算書等(甲20の1〜5)を提供した。しかし、被告トノックスは、原告に対して支援車T型の製造を発注しなかった。被告トノックスは、原告に対し支援車T型17台の製造を発注すると原告を誤信させ、その誤信に基づき原告が提供した資料を利用するなどして支援車T型を製造した。
イ また、原告は、同月11日、被告トノックスに対し、キャブチルト等に関する図面(甲16の2)を提供したところ、被告トノックスは、原告が提供したキャブチルト等に関する図面を流用することにより、キャブチルトの角度やウェザストリップの取付場所等の試行錯誤の段階を省略し、コストを抑えて被告車両を製造した。
ウ 被告トノックスによる上記各行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において許される行為ではなく、著しく不公正な手段を用いて原告の営業活動上の利益を侵害する行為である。当該行為は、前記(1)並びに後記(3)及び(4)の原告の主張欄記載の行為と一連のものとして不法行為を構成するとともに、当該行為自体が単独で不法行為となる。
(被告トノックスの主張)
ア 被告トノックスは、同年4月17日、原告に対し、総務省に提出するための資料として車両の概要図やシャーシ関係図等の提供を依頼したが、これは、原告に支援車T型の製造を委託した場合には、被告トノックスが予定していたいすず製のシャーシではなく、日野製のシャーシが用いられることとなり、図面の差し替えが必要となるためである。被告トノックスは、原告に上記各資料の提供を依頼した時点では、原告に製造を委託した場合の見積額が被告トノックスによる落札価格を上回ることは認識していなかったのであり、これを認識していれば、上記依頼をすることはなかった。
 また、キャブチルト等に関する図面(甲16の2)はそもそも受け取っていない。
イ 被告トノックスは、原告に対して支援車T型の製造を委託しなかったため、原告から提供を受けた最大安定傾斜角度計算書等(甲20の1〜5)を総務省に提出していない。また、シャーシ自体にいすず製と日野自動車製の違いがあるため、これらの資料は被告車両の製造に当たり参考にならなかった。そもそも、原告から提供された数枚の図面で支援車T型を完成させることは不可能である。
 なお、仮に被告トノックスが原告から提供された資料を流用していたとしても、原告と被告トノックスとの間には、当該資料の使用制限や秘密保持に関する合意は何ら存在していないし、原告は、被告トノックスに資料を提供した3か月後に、業界の専門雑誌でその内容を公表しているから、被告による流用行為が不法行為となることはない。
(3) 争点(1)ウ(原告車両の形態等の模倣による原告の利益の侵害の有無)について
(原告の主張)
 被告トノックス及び被告マルチデバイスは、原告から受領した資料や原告車両の製造時に原告が被告マルチデバイスに作成させた資料等に基づき、次の(1)〜(21)に係る原告車両の商品形態を模倣して被告車両を製造した。被告らによるこれらの模倣行為は、原告が長年かけて培ってきた支援車T型の製造ノウハウにフリーライドするものである。
(1)屋根に設置した太陽光発電装置の保護枠の形状、デザイン、材質、サイズ及び塗装色
(2)配電盤の供給電源表示帯のデザイン及び表示方法
(3)車両内部の配電盤表示部のスイッチ等の配置及びデザイン
(4)屋根に設置したルーフ一体成形のFRP縞板
(5)屋根に設置した折り畳み指揮台
(6)ガス給湯器の取付け位置
(7)車両右側の拡幅部分の窓の形状
(8)運転席と助手席間のセンターコンソールボックスの形状、デザイン、サイズ及び取り付けられている部品
(9)運転席頭上のワーニングモニターの警告部位及びイラスト表示マーク
(10)配電盤取り付けキャビネットの形状デザイン及び設計寸法
(11)車両内部のウォークスルーステップ部の構造及びデザイン
(12)車両内部のコーションラベル
(13)車体両側面に貼られた「総務省 消防庁」、「支援車」、「各県20名」等の文字の位置
(14)車両正面の上部ルーフの前部赤色警光灯2個の取付け位置及び取付け部の座面形状
(15)車両後部の屋根上スピーカーの形状及び取付け位置
(16)テーブル収納部位置、形状及び固定方法
(17)ステンレス製シンク、液晶テレビ、冷蔵庫、電子レンジ及びガスコンロの配置とこれらに係るキャビネットの形状
(18)発電機の固定方法
(19)車体左側面の乗降扉と乗降用電動ステップの動作条件
(20)車両ぎ装の動脈に相当するメインワイヤーハーネス各種
(21)被告マルチデバイスが所持する原告の発注した電気回路図等
(被告トノックスの主張)
 原告が類似点であると主張する(1)〜(21)のうち、(1)〜(11)、(13)〜(17)について原告車両と被告車両に類似する点があること、(12)についてコーションラベルの文言が同一であることは認める。他方、(18)は一般的な方法にすぎず、(19)はごく一般に採用されるものである。(20)はシャーシが異なるため類似するとはいえない。
 平成24年に被告トノックスが落札した支援車T型17台は、平成22年入札により納品された原告車両の追加配備分であるため、平成24年入札の仕様書の内容は平成22年入札のものとほとんど変わらないものであった。被告トノックスは、消防庁から車両の外観、内部や装備する器具備品等を可能な限り原告車両と同じものとするよう要望されたため、消防庁とともに原告車両の現物も確認しながら、支援車T型17台の製作を行った。したがって、被告車両と原告車両とで外観や器具備品等に類似する点があることは当然である。
 被告トノックスは、原告が類似点であると主張する(1)〜(21)のうち、(2)、(3)及び(9)については被告マルチデバイスに発注をし、全てを任せていた。(21)についても、被告マルチデバイスに全てを任せており、被告マルチデバイスが作成した電機回路図をそのまま消防庁に提出したにすぎない。
(被告マルチデバイスの主張)
 原告車両と被告車両に類似点があることは認める。類似点があるのは、発注者である消防庁の意向によるものである。また、原告が類似点であると主張する(1)〜(21)のうち、(2)、(3)、(9)及び(21)は、原告車両及び被告車両の当該部分をいずれも被告マルチデバイスが作成したものであるから、類似するのは当然である。被告マルチデバイスが原告車両の作成の際に自ら作成したものを被告車両に利用することは、何ら問題がない。
(4) 争点(1)エ(原告タッチパネル画面、原告説明書又は原告警告シールの利用による原告の利益の侵害)について
(原告の主張)
 被告トノックスの行為が後記(7)〜(9)で述べる原告タッチパネル、原告説明書又は原告警告シールの著作権侵害に当たらないとしても、被告トノックスが被告タッチパネル、被告説明書及び被告警告シールを作成等した行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為となる。
(被告らの主張)
 争う。
(5) 争点(2)ア(原告プログラム(1)についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 原告プログラム(1)の著作物性
(ア) 支援車T型は、タッチパネル形式で拡幅操作やポップアップフロアの操作などを行うことが求められているため、これらの一連の動作の順番につきシーケンス制御と呼ばれる制御が行われる。そして、支援車T型におけるシーケンス制御のためには、PLCと呼ばれる制御装置が使用される。PLCでは、ラダー図と呼ばれる特殊なプログラム言語が使用されるところ、ラダー図の設計は自由度が非常に高く、同じプログラマーが一度作成した同内容のシーケンス制御をするラダー図を作成しようとしても、同一のラダー図を作成することができないほどである。
(イ) 被告プログラムの各ブロックのうち、原告プログラム(1)のブロックの要素を全て含むブロックは22ブロックある。このうち、2通り以上の記載方法があるブロックは20ブロックであるから、上記共通部分の表現方法は、どんなに少なく見積もったとしても104万8576通り(2の20乗)あることになる。実際には、各ブロックには複数の要素が含まれており、表現方法が1000通りを超えるブロックもあるのであって、上記20ブロックのほか、原告プログラム(1)として抽出した拡幅操作部分以外のラダー図も考慮すると、その表現方法は天文学的な数字になる。原告プログラム(1)は、このように天文学的な数の回路構成が考えられる中から1通りを選択したものであり、同じ回路構成を想到することはほとんどあり得ず、その選択の幅の広さからすれば、独創性及び創造性が認められることは明らかである。なお、各ブロックは表現の幅を数値化するための便宜的なものであり、各ブロックの表記が短いことは、原告プログラム(1)の著作物性には何ら影響しない。原告プログラム(1)の著作物性は、ブロックの集合体について判断されるべきものである。
(ウ) ラダー図の描き方にどれだけ裁量の余地があり、描き方の違いによってラダー図の表現方法にどれほどの影響があるかについて、原告プログラム(1)のブロックY25を例に、説明をする。
 Y25のラダー図を言語により表現すると、
 (1)MR202、MR302、MR402及びMR912のいずれかがONであって、かつ、MR205、MR305、MR406及びMR913のいずれかがOFFのとき、R30203がONになる
 となる。
 これは、論理的には、次の(2)〜(4)を組み合わせた表現と同じ意味である。
 (2)MR202、MR302、MR402及びMR912のいずれかがONのとき、MR990がONになる。
 (3)MR205、MR305、MR406及びMR913のいずれかがOFFのとき、MR991がONになる。
 (4)MR990及びMR991がONのとき、R30203がONになる。
 この(2)〜(4)を組み合わせた表現をラダー図で表現したものは、別紙10のラダー図変形例記載1のとおりである。
 さらに、Y25の論理を言語により表現する方法には、以下の(5)〜(11)を組み合わせる方法もある。
 (5)MR202又はMR302がONのとき、MR990がONになる。
 (6)MR402又はMR912がONのとき、MR991がONになる。
 (7)MR990又はMR991がONのとき、MR992がONになる。
 (8)MR205又はMR305がOFFのとき、MR993がONになる。
 (9)MR406又はMR913がOFFのとき、MR994がONになる。
 (10)MR993又はMR994がONのとき、MR995がONになる。
 (11)MR992及びMR995がONのとき、R30203がONになる。
 この(5)〜(11)を組み合わせた表現をラダー図で表現したものは、別紙10のラダー図変形例記載2のとおりである。
 このように、同じシーケンス制御をする回路構成でありながら、視覚的に受ける印象が全く異なる描き方が多数存在するのであって、その中からY25のような表現方法を選択した原告プログラム(1)に、独創性及び創造性が認められることは明らかである。
(エ) なお、被告マルチデバイスが主張するビギナーズテキストは、使用方法の説明書のようなものであり、表現方法を限定するものではない。ビギナーズテキストは、支援車T型の制御という具体的な制御方法については何ら触れていないのであり、ビギナーズテキストを参考にしたからといって、表現の選択肢が絞られるものではない。
イ 原告プログラム(1)の著作権者
 原告プログラム(1)は、平成19年3月頃、相模原市に支援車T型を納品するため、原告が当時原告の従業員であったDに作成させたものであるから、著作権法15条2項により、原告が著作権者となる。
ウ 原告プログラム(1)の複製権又は翻案権侵害
 原告プログラム(1)と被告プログラムの作成日時は、いずれも平成19年3月6日13時14分30秒であり、被告プログラムが原告プログラム(1)に依拠していることは明らかである。
 原告プログラム(1)と被告プログラムは拡幅操作部分だけでも一致部分が22ブロックもあるところ、当該部分は原告プログラム(1)のデッドコピーであり、実質的に同一であるから、被告プログラムは原告プログラム(1)を複製したものである。また、被告プログラムからは原告プログラム(1)の本質的特徴を直接感得することができるから、被告プログラムは原告プログラム(2)を翻案したものである。
エ 被告トノックスの著作権侵害についての認識
 被告トノックスは、原告が提供した資料により、被告マルチデバイスが原告車両の製造に関して原告から業務委託を受けていたことを認識していた。被告トノックスは(住所は省略)の会社であるのに対し、被告マルチデバイスは(住所は省略)に所在する資本金350万円の小企業であることからすると、被告プログラムの作成以前に被告トノックスと被告マルチデバイスとの間に取引関係があったとは考えられない。被告トノックスが被告プログラムの作成をあえて被告マルチデバイスに依頼したのは、被告マルチデバイスが原告から業務委託を受けていたためである。このような状況からすれば、被告トノックスは、被告マルチデバイスによる被告プログラムの作成に関し、原告の著作権を侵害するとの認識を有していた。
(被告トノックスの主張)
ア 原告プログラム(1)は、自動制御のためのプログラムとして極めて一般的なプログラムであり、表現自体に特段の創作性を有していないから、著作物とはいえない。
イ 仮に原告プログラム(1)が著作物に当たり、原告がその著作権者であるとしても、被告トノックスは被告プログラムの作成をすべて被告マルチデバイスに依頼しており、原告の著作権を侵害するものであることの認識がなかった。
(被告マルチデバイスの主張)
ア 原告プログラム(1)において、どのような動作をどのような順番でプログラムするか、すなわち、各ブロックの内容及びその順番は、著作権法10条3項3号の「解法」に該当し、著作物としての保護を受けない。また、原告プログラム(1)は、株式会社キーエンスが製作したKV−5000/3000というプログラマブルコントローラを使用して作成されているところ、原告プログラム(1)と被告ブログラムにおいて表記が一致する各ブロックは、いずれも僅か数行のごく短い表現にすぎず、同社が配布している同コントローラ用のビギナーズテキストを参考にすれば簡単にプログラミングできるありふれた表現にすぎない。したがって、原告プログラム(1)に創作性は認められない。
イ 被告プログラムは、原告プログラム(1)に依拠したものではない。
(6) 争点(2)イ(原告プログラム(2)についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 原告プログラム(2)の著作物性
 原告プログラム(2)と被告プログラムの画面制御部分とは、いずれも56ブロックからなるものであるが、原告プログラム(2)の各ブロックと被告プログラムの画面制御部分の各ブロックの表現は完全に一致している。この56ブロックのうち、2通り以上の記載方法があるブロックは少なくとも39ブロックであるから、原告プログラム(2)と被告プログラムの共通部分の表現方法は、どれだけ少なく見積もっても5497億5581万3888通り(2の39乗)あることになる。
 ラダー図の表現の自由度が高いこと、原告プログラム(2)には独創性及び創造性が認められること等は、原告プログラム(1)について主張したところと同様である。
イ 原告プログラム(2)の著作権者
(ア) 原告プログラム(2)は、原告車両の製造に際し、原告が被告マルチデバイスに対して原告プログラム(1)を複製させた上で、原告プログラム(1)を基礎として作成させたプログラムであり、原告プログラム(1)の翻案物である。したがって、原告は原著作者として原告プログラム(2)の著作権を有する。
 仮に被告マルチデバイスが著作者であったとしても、原告は、原告車両の製造の際に、被告マルチデバイスに対し、原告プログラム(2)の作成を含む電気系統全般の製造業務の委託料として、合計で4763万9100万円を支払っている。このような関係からすれば、契約書等により明示されていなくても、被告マルチデバイスは原告に対し原告プログラム(2)の著作権を譲渡していたといえる。また、上記製造業務の委託料につき被告マルチデバイスの代表者との間で取り交わした書面(甲77)には、手書きで「クレーム部品」、「クレーム外注費」、「ハード・ソフト」などと追記がされている。これは、後に問題が起きた場合に対処するための費用や、原告プログラム(2)の著作権譲渡を含む知的財産権一切の費用が含まれていることを示すものであり、当該内容は原告代表者と被告マルチデバイス代表者との間で合意されたものである。
(イ) 被告マルチデバイスは、原告が原告プログラム(2)の著作権者であるとしても、その著作権は原告から第一実業や消防庁に移転したと主張するが、第一実業や消防庁は自ら支援車T型を製造することはなく、原告プログラム(2)の著作権を必要としないため、原告から第一実業又は消防庁に原告プログラム(2)の著作権は譲渡されていない。
ウ 原告プログラム(2)の複製権侵害
 被告プログラムは原告プログラム(2)に依拠したものである。そして、原告プログラム(2)と被告プログラムは画面制御部分だけでも一致部分が56ブロックもあるところ、当該部分は原告プログラム(2)のデッドコピーであり、実質的に同一であるから、被告プログラムは原告プログラム(2)を複製したものである。
エ 被告トノックスの著作権侵害についての認識
 上記(5)で主張したとおりである。
(被告トノックスの主張)
 原告プログラム(1)について主張したところと同様である。
(被告マルチデバイスの主張)
ア 原告プログラム(2)は、原告プログラム(1)を基礎にしたものではあるが、被告マルチデバイスがその大半を自ら作成したものであり、原告プログラム(1)の翻案プログラムではない。
イ 原告プログラム(2)も、原告プログラム(1)と同様に、各ブロックの内容及びその順番は「解法」に該当し著作物としての保護を受けない。また、各ブロックの内容は、ありふれた表現にすぎず、創作性が認められない。
ウ 仮に原告プログラム(2)が著作物であったとしても、原告はその著作権者ではない。すなわち、原告プログラム(2)は被告マルチデバイスが原告からの委託を受けて作成したものであり、原告と被告マルチデバイスは、原告プログラム(2)の著作権の帰属について何の取決めもしていない。被告マルチデバイスが原告から受領した業務委託料のうち、原告プログラム(2)の作成に係る報酬は、タッチパネルの作成と合わせて僅か141万円であり、著作権の譲渡代金を含むものとは考えられない。したがって、原告プログラム(2)の著作権者は被告マルチデバイスである。
エ なお、仮に原告プログラム(2)の著作権が被告マルチデバイスから原告に移転しているならば、原告プログラム(2)の著作権は、その後、原告から第一実業又は消防庁に移転したものといえる。
オ 被告プログラムは原告プログラム(2)に依拠しているが、いずれも被告マルチデバイスが作成したものであるため、当然のことである。
(7) 争点(2)ウ(原告タッチパネル画面についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 著作物性
 原告タッチパネルの各画面は、支援車T型の操作に必要な様々な場面について、それぞれ独特の画面配置、配色、ボタンのデザイン及び表示文言等を用いたものであり、その画面の枚数も考え合わせると、ありふれたものとはいえず、創作性が認められる。
 なお、被告マルチデバイスが指摘するクイックデザインテキストは、一般的なタッチパネル画面の作画方法は記載されているものの、支援車T型の具体的な操作方法とタッチパネルの関係について記載するものではない。また、タッチパネルの作画について選択肢を示してはいるものの、どのような画面を作画するかという点や、それぞれの選択肢をどの組み合わせるかという点についての限定は一切ない。したがって、クイックデザインテキストは、原告タッチパネルの各画面の著作物性を否定する根拠とはならない。
イ 著作権者
(ア) 原告タッチパネルの画面のデザインは、原告が原告車両を製造する際に原告従業員に作成させたものであるから、著作権法15条1項により、職務著作として原告が著作権者となる。
(イ) 原告タッチパネルの画面は、原告車両の製造に当たり、原告が作成した相模原市消防局車両向けタッチパネル画面を基礎とし、当該タッチパネル画面に存在しない画面については、原告代表者が表示画面のイメージ画を作成して被告マルチデバイスに提示し、被告マルチデバイスが電子化した画面につき原告代表者が修正を要求するという過程を繰り返して作成されたものである。このように、原告が原告タッチパネルの各画面の表現を決定している一方、被告マルチデバイスは手直し程度の貢献しかしていない。したがって、原告タッチパネルの各画面の著作権は原告に帰属する。
(ウ) 仮に、原告タッチパネルの各画面の著作権の全部が原告に帰属しないとしても、原告がその創作に深く関与していることは明らかであるから、原告タッチパネルの各画面は、少なくとも原告と被告マルチデバイスの共同著作物に当たる。したがって、被告マルチデバイスは、原告の合意なくして原告タッチパネルの各画面についての著作権を行使することができない。
ウ 原告タッチパネルの複製権又は譲渡権侵害
 原告タッチパネルと被告タッチパネルの各画面は、(1)スタート画面、(2)暗証番号入力画面、(3)機能選択画面、(4)安全確認画面、(5)拡幅操作タッチパネルモード画面、(6)センサーステータス画面、(7)非常停止画面、(8)ジャッキ操作画面、(9)拡幅操作リモコン画面、(10)燃料残量警告画面(2種類)、(11)暗証番号登録情報画面、暗証番号新規登録画面T及びU、暗証番号変更・抹消画面、暗証番号管理者登録画面、(12)メンテナンスモード画面において、表示が実質的に同一であるから、被告タッチパネルの各画面は原告タッチパネルの各画面を複製したものである。
 原告タッチパネルの各画面が共同著作物である場合には、被告マルチデバイスは、原告の合意なくして原告タッチパネルの各画面についての著作権を行使することはできないから、被告マルチデバイスによる複製行為や譲渡行為は、複製権又は譲渡権の侵害となる。
(被告トノックスの主張)
ア 原告タッチパネルの各画面は、特段目新しい表現をするものではなく、創作性があるとはいえないから、著作物には当たらない。
イ 仮にこれが著作物であるとしても、原告タッチパネルは株式会社キーエンス製のものであり、その画面は、付属のソフトウェアの表示画面に若干の変更を加えたものにすぎないから、著作権者は制作者であるキーエンスである。
ウ 仮に原告が著作権者であるとしても、被告トノックスは被告タッチパネルの作成をすべて被告マルチデバイスに依頼しており、原告の著作権を侵害するものであることの認識がなかった。
(被告マルチデバイスの主張)
ア 原告タッチパネルの各画面は、株式会社キーエンスが製作したVT−STUDIOという作画ソフトを使用して作成されている。同社は、同ソフトのクイックデザインテキストを配布しており、このテキストを参考にすれば簡単に画面の作画ができるようになっている。したがって、原告タッチパネルの各画面に創作性は認められず、原告タッチパネルの各画面は著作物ではない。
イ 仮に原告タッチパネルの各画面が著作物であったとしても、原告はその著作権者ではない。すなわち、原告タッチパネルの各画面は被告マルチデバイスが原告からの委託を受けて作成したものであり、原告と被告マルチデバイスは、その著作権の帰属について何の取決めもしていない。被告マルチデバイスが原告から受領した業務委託料のうち、原告タッチパネルの作成に係る報酬は、原告プログラム(2)の作成と合わせて僅か141万円であり、著作権の譲渡代金を含むものとは考えられない。したがって、原告タッチパネルの各画面の著作権者は被告マルチデバイスである。
ウ なお、仮に原告が原告タッチパネルの各画面の著作権者であるとしても、その著作権は、その後、原告から第一実業又は消防庁に移転した。
エ 仮に原告にタッチパネルの各画面の著作権が帰属していたとしても、原告タッチパネルの各画面と被告タッチパネルの各画面とでは表示が異なる部分がある。タッチパネルの画面は表現の幅がそれほどあるものではないことを考慮すれば、原告タッチパネルの各画面と被告タッチパネルの各画面とに多少の類似点があるからといって、実質的同一性があるとはいえない。
オ 被告タッチパネルの各画面は原告タッチパネルの各画面に依拠しているが、いずれも被告マルチデバイスが作成したものであるため、当然のことである。
(8) 争点(2)エ(原告説明書についての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 著作物性
(ア) 原告説明書は、その分量も膨大であり、構成や表現がありふれたものでないことは明らかであるから、言語の著作物に当たる。
(イ) 原告説明書は、次の点において、支援車T型の使用方法の説明につき取捨選択を行った結果が表現されており、作成者の個性が表現されている。したがって、原告説明書には、編集著作物としての著作物性が認められる。
(1)各頁に掲載する情報の量
(2)拡幅操作部分については説明をせずに拡幅操作説明書に任せていること
(3)「はじめに」及び「各部の名称」から始まり、「鍵の種類」、「ワーニングモニターパネル」、「配電盤」、「外部電源入力」、「発電機」、「バッテリー充電」、「室内各部スイッチ」、「FFヒーター」、「換気扇」、「LPガスシステム」、「給湯器」、「冷蔵庫」、「座席、簡易ベッド、テーブル」、「リヤシート、折り畳みベッド」、「給水口、給水タンク」、「排水タンク、排水用水中ポンプ」、「エントランスドア」、「エントランスステップ」、「外部収納庫」、「シャワー(シャワールーム、アウターシャワー)」、「折畳み指揮台」、「キャブティルト」、「パワーゲート」、「ラップポントイレ」、「センターコンソールボックス(無線機、サイレンアンプ ほか)」という項目立てとその順番
(4)写真を使用して説明する場合には、左側に写真を配置し、説明文を右側に配置していること(Microsoft Wordのような一般的な文書作成ソフトを使用する場合、写真を右側に配置する方が編集しやすい。)
イ 著作権者
 原告説明書は、原告の指示に従って原告従業員が作成したものであり、原告説明書の表紙に原告の社名が記載されていることから明らかなとおり、原告の法人名で公表するものであるから、著作権法15条1項に規定する職務著作に該当する。したがって、原告説明書の著作権者は原告である。
ウ 原告説明書の複製権及び翻案権侵害
(ア) 被告説明書は原告説明書に依拠したものであるところ、被告説明書の文言が原告説明書と一致する部分は9割を超え、実質的に同一であるといえるから、少なくとも原告説明書の文章部分については、被告説明書が原告説明書を複製したものであることは明らかである。
 また、原告説明書と被告説明書は本文から注意書きに至るまで、文章部分はほとんどデッドコピーといえるものであり、図や写真の配置及び項目立て等の構成もほぼ同一であるから、被告説明書からは、原告説明書の本質的部分を直接感得することができる。したがって、被告説明書は原告説明書を翻案したものである。
(イ) 被告説明書は、原告説明書の編集著作物としての著作物性を基礎付ける上記ア(イ)の(1)〜(4)の各事情において原告著作物と同一であり、文書部分についてはその表現のほとんどが原告説明書と一致しているから、原告説明書に依拠して作成されたことは明らかであり、原告説明書の複製権及び翻案権を侵害する。
(被告トノックスの主張)
ア 被告説明書は原告説明書を参考にしているが、原告説明書に記載されている内容は、支援車に設置された装備及び機器の名称や操作方法といった客観的事実についての説明であり、シンプルな表現が用いられている。このため、その表現は必然的にありふれたものとなっており、特段の創作性は見当たらない。したがって、原告説明書は言語の著作物には該当しない。
イ 製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するに当たっては、次のような内容や表記方法は、原則としてありふれた表記であるとされる。
(ア) 製品の概要(機能、構造、部品やその名称)、取扱方法、発生し得るトラブルやその対処方法、注意ないし禁止事項などを、文章や図面・イラストによって説明する。
(イ) 説明内容を示すタイトルを付けたり、説明内容の重要度に応じて、文字の大きさや太さに変化を付ける、強調のための文字飾りを付す、注意を促すマークを付すなどする。
(ウ) 説明内容を理解しやすくするため、説明文の近くに、製品を簡単にデフォルメしたイラストや、製品そのものの写真を掲載する。
ウ 原告が原告説明書の編集著作物性の根拠としてあげるもののうち、原告の主張ア(1)(1)は上記イ(イ)に該当し、同(4)も上記イ(ア)又は(ウ)に該当する。また、同(2)は、拡幅機能を持つことが支援車T型の1つの特徴であることからすれば自然なことであり、同(3)についても、仕様書の記載から導かれる項目立てとして特別なものではなく、順番に創作性があるともいえない。したがって、原告説明書は編集著作物に当たらない。
エ 仮に原告説明書に著作物性が認められるとしても、その著作権は、第一実業又は消防庁に移転している。
(9) 争点(2)オ(原告警告シールについての著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
ア 著作物性
 原告警告シールは、絵のデザインや配色、これらの配置や大きさなどがありふれたものとはいえず、著作物に該当する。
イ 著作権者
 原告警告シールは、原告車両の製造の際に、原告が原告従業員に作成を指示したものであり、支援車T型は原告が製造したものとして消防庁に納品しているから、原告が自己の名義で公表するものとして、職務著作に該当する(著作権法15条2項)。したがって、原告警告シールの著作者は原告である。株式会社アクトは、原告による警告シールのデザインをシールにするための業務を請け負ったにすぎない。
ウ 原告警告シールの複製権侵害
 被告トノックスは、原告が提供した資料や、原告の元従業員からの情報を通じて、原告警告シールのデザインを知ることができた。また、被告警告シールは原告警告シールのデッドコピーといえるものであり、原告警告シールに依拠していることは明らかである。
 被告警告シールは、絵のデザイン、配色、文字のフォント、それらの大きさの比率や配置が全て原告警告シールと全く同一であり、原告警告シールのデッドコピーといえ、原告警告シールを複製したものである。
(被告トノックスの主張)
ア 原告警告シールは、足で踏み込むことを禁止する警告機能を目的とするものであるところ、足の図に×を組み合わせた図形であり、警告機能をそのまま表現したありふれたものであって、創作性がないから、著作物とはいえない。
イ 仮に原告警告シールが著作物に当たるとしても、原告警告シール及び被告警告シールは、いずれも株式会社アクトが製作したものであるから、同社が著作権者である。また、被告トノックスは株式会社アクトが著作権者であると認識していた。
ウ 原告警告シールと被告警告シールとは、縦横の寸法が異なり、全く同一ではない。
(被告マルチデバイスの主張)
 いずれも争う。
(10) 争点(3)(被告らの故意過失及び関連共同の有無)について
(原告の主張)
 被告トノックスは、平成24年4月14日に原告との間で支援車T型17台の製造を原告に委託することに合意して原告に資料を提供させた上で、合意を守らず、資料を無断で流用した。また、被告トノックスは、原告資料や原告から引き抜いた従業員及び被告マルチデバイスを通じて、原告が以前製作した支援車T型の構造や使用、支援車T型に関する原告の著作物を認識しつつ、これに依拠して原告車両を模倣した。
 被告マルチデバイスも、原告から原告車両に関して委託を受けた際に作成した電機回路図等を流用し、被告車両の製作に協力した。
 したがって、被告らには、一連の不法行為及び各著作権侵害についての認識があり、故意又は過失が認められる。また、以上で述べたところによれば、被告らによる一連の不法行為及び各著作権侵害は、被告らの共同不法行為に当たる。
(被告らの主張)
 争う。
(11) 争点(4)(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 受注機会を喪失させた不法行為による損害額
 原告は、被告らの一連の不法行為により、支援車T型17台の受注の機会を喪失した。
 原告が製造する支援車T型1台当たりの売上額は●(省略)●円であり、変動費等を控除した限界利益の額は●(省略)●円である。したがって、支援車T型1台当たりの利益額は2500万円を下らず、2500万円を利益額とすると、支援車T型17台の受注機会を失ったことによる損害額は4億2500万円である。
 上記の不法行為と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用の額は、4250万円を下らない。したがって、上記不法行為による原告の損害額は、合計4億6750万円である。
 原告は、被告トノックスが被告車両を納車したことにより支援車T型17台の受注機会を失い、同時点をもって損害が現実化したといえるから、上記不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金の起算日は、被告トノックスが被告車両を納車した日である平成25年2月13日となる。
イ 著作権侵害行為全体による損害額
(ア) 著作権法114条1項に基づく損害
 被告らは、複数の著作権侵害行為により被告車両を製造し、これを消防庁に譲渡したから、被告らが「譲渡した物」である支援車T型の譲渡台数17台に、支援車T型1台当たりの原告の利益額である2500万円を乗じた額が原告の損害額と推定される(同項)。したがって、原告の損害額は4億2500万円である。
(イ) 同条3項に基づく損害
 原告が各著作物を被告らにライセンスすることはあり得ないため、同項に基づくラインセンス料相当額は4億2500万円である。
(ウ) 弁護士及び弁理士費用相当額並びに遅延損害金の起算点
 上記侵害と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用の額は4250万円を下らない。
 また、被告らは、遅くとも被告車両を消防庁に納車した日までには各著作権侵害行為を行っているから、遅延損害金の起算日は、遅くとも平成25年2月13日となる。
ウ 各著作権侵害行為による個別の損害額
(ア) 同法114条1項に基づく損害
 原告プログラム(1)、原告プログラム(2)、原告説明書、原告タッチパネル及び警告シールは、いずれも支援車T型の販売を伴わない単体での取引がおよそ想定されないものであるから、上記各著作物の著作権侵害による損害額は、支援車T型1台当たりの利益額を基礎として計算すべきであり、原告が製造する支援車T型1台当たりの利益額が2500万円であることは上記アのとおりである。
 原告プログラム(2)の支援車T型の利益額に対する寄与率は、1台当たり50%を下らないから、原告プログラム(2)の著作権侵害による損害額は、2億1250万円(2500万円×17台×50%)である。
 原告プログラム(1)の支援車T型の利益額に対する寄与率は、1台当たり45%を下らないから、仮に原告プログラム(2)の著作権侵害が認められなかったとしても、原告プログラム(1)の著作権侵害による損害が発生しており、その損害額は1億9125万円(2500万円×17台×45%)である。
 原告説明書の支援車T型の利益額に対する寄与率は、1台当たり15%を下らないから、原告説明書の著作権侵害による損害額は、6375万円(2500万円×17台×15%)である。
 原告タッチパネルの支援車T型の利益額に対する寄与率は、1台当たり2.5%を下らないから、原告タッチパネルの著作権侵害による損害額は、1062万5000円(2500万円×17台×2.5%)である。
 原告警告シールの支援車T型の利益額に対する寄与率は、1台当たり2.5%を下らないから、原告警告シールの著作権侵害による損害額は、1062万5000円(2500万円×17台×2.5%)である。
(イ) 同条3項に基づく損害
 原告プログラム(2)に係る著作権のライセンス料相当額は、被告車両の売上額の20%を下らないから、原告プログラム(2)の著作権侵害による損害額は、1億9550万円(5750万円×17台×20%)である。
 原告プログラム(1)に係る著作権のライセンス料相当額は、被告車両の売上額の18%を下らないから、原告プログラム(1)の著作権侵害による損害額は、1億7595万円(5750万円×17台×18%)である。
 原告説明書に係る著作権のライセンス料相当額は、被告車両の売上額の6%を下らないから、原告説明書の著作権侵害による損害額は、5865万円(5750万円×17台×6%)である。
 原告タッチパネルに係る著作権のライセンス料相当額は、被告車両の売上額の1%を下らないから、原告タッチパネルの著作権侵害による損害額は、977万5000円(5750万円×17台×1%)である。
 原告警告シールに係る著作権のライセンス料相当額は、被告車両の売上額の1%を下らないから、原告警告シールの著作権侵害による損害額は、977万5000円(5750万円×17台×1%)である。
(ウ) 弁護士及び弁理士費用相当額
 被告らによる著作権侵害行為により要した弁護士及び弁理士費用相当額は、2975万円を下らない。
(被告トノックスの主張)
ア 損害に関する主張は、いずれも争う。
イ 原告は、原告が支援車T型を製造する場合の1台当たりの利益額は2500万円を下らないと主張するが、利益額は純利益を基礎として計算されるべきであり、その額は約301万円程度である。
ウ 著作権法114条1項により損害額が計算される場合、各著作物の支援車T型の利益額に対する寄与率は、原告プログラム(1)、原告プログラム(2)及び原告タッチパネルにつきいずれも0.21%、原告説明書につき0.1%、原告警告シールにつき0.01%程度にすぎない。
 同条3項により損害額が計算される場合、各著作物のライセンス料相当額は、原告プログラム(1)、原告プログラム(2)及び原告タッチパネルにつき、いずれも被告車両の売上額の0.01%、原告説明書につき0.005%、原告警告シールにつき0.0005%程度にすぎない。
(被告マルチデバイスの主張)
 いずれも争う。
(12) 争点(5)(消滅時効の成否)について
(被告トノックスの主張)
 仮に、原告の主張を前提とした場合であっても、原告が受注機会を失い損害を被ったのは、平成24年4月5日に被告トノックスが支援車T型17台を落札したからにほかならない。そうすると、受注機会を喪失させた不法行為に基づく損害賠償請求権については、同日が消滅時効の起算点となり、その消滅時効は本件訴訟が提起される前である平成27年4月5日に完成している。
 また、仮に被告車両の納品日である平成25年2月13日を上記請求権に係る消滅時効の起算点であるとした場合でも、その消滅時効は本件訴訟が提起される前である平成28年2月13日に完成している。なお、原告は、平成27年12月11日付けの通知書の送付が民法153条に定める催告に該当すると主張するが、同通知書は、著作権侵害以外のいかなる不法行為につき請求を行うものかが全く読み取れない極めて抽象的な記載であるから、受注機会を喪失させた不法行為に基づく損害賠償請求権との関係では、催告に当たらない。
 よって、被告トノックスは、上記損害賠償請求権につき、消滅時効を援用する(平成28年9月27日の第1回弁論準備手続期日において陳述した被告トノックス準備書面(1)における意思表示)。
(原告の主張)
 支援車T型を落札した場合でも、落札者が辞退をする等の理由により、他社が落札をすることができる可能性は依然として存在する。したがって、平成24年4月5日の時点では損害は具体化しておらず、同時点は受注機会を喪失させた不法行為に基づく損害賠償請求権についての消滅時効の起算点とはなり得ない。
 また、支援車T型の納車日である平成25年2月13日を消滅時効の起算日とした場合についても、原告が平成27年12月11日付けで被告トノックスに送付した通知書の記載からは、支援車T型17台に関する不法行為に基づく損害賠償請求権を問題とするものであることが理解できるから、同通知書の送付は民法153条の催告に当たる。そして、原告は同通知書が被告に到達した日(平成27年12月14日)から6か月が経過する前の平成28年6月8日に本件訴訟を提起しているから、消滅時効は中断している。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 平成24年入札に係る被告トノックスと原告との間の交渉等
ア 平成24年入札には、被告トノックスのほか、株式会社モリタ(以下「モリタ」という。)、帝国繊維株式会社(以下「テイセン」という。)及び第一実業が参加した。
イ 入札に当たっては、納入物品が仕様書を満たすものであることを示す資料として製品仕様書や図面等を事前に消防庁に提出する必要があった。第一実業が提出した図面等は、日野自動車製のシャーシをベースとするものであり、原告が作成したものであった。被告トノックスは、いすず自動車製のシャーシをベースとした図面等を作成して消防庁に提出し、モリタもいすず自動車製のシャーシをベースとした図面等を提出した。また、テイセンが提出した図面は、原告が作成したものではなかった。(甲71〜74)
ウ 平成24年入札における入札価格は、被告トノックスが1台当たり5750万円、モリタが1台当たり6650万円、テイセンが1台当たり6850万円、第一実業が1台当たり7170万円であった。(甲11)
エ 被告トノックスが支援車T型17台を落札した後である平成24年4月6日、第一実業の従業員であるA(以下「A」という。)は、被告トノックスに対し、支援車T型17台の製造を第一実業及び原告に委託する話を持ちかけた。原告代表者及びAは、同月7日に被告トノックスを訪れ、上記製造の委託に関し、被告トノックスの営業部長であるB(以下「B営業部長」という。)及び技術部長であるC(以下「C技術部長」という。)と面談をした。(原告代表者本人、被告トノックス代表者本人)
オ 原告代表者は、同月11日までに、被告に対して支援車T型量産フローチャート(甲16の1。以下「フローチャート」という。)及びFRP縞板のサンプルを交付した。(原告代表者本人、被告トノックス代表者本人)
カ 原告代表者は、同月14日に被告トノックスを訪れた際、被告トノックスから、支援車T型17台の製造委託に関する見積書の提出を求められ、「見積書は元請である第一実業から発行する。」旨を伝えた。(甲76、被告トノックス代表者本人)
キ 同月17日、被告トノックスは、原告に対し、落札者が総務省に提出しなければならない資料として、車両の概要図、シャシ関係図、ぎ装関係図等の提供を依頼した。なお、これらの資料の提供を依頼した時点では、被告トノックスは、後記クの見積書を受領していなかった。(甲19、原告代表者本人、被告トノックス代表者本人)
ク 第一実業のAは、同日、被告トノックスのB営業部長宛ての電子メールで、支援車T型17台の受注額を税抜きで総額11億6790万円(1台当たり6870万円)とする見積書を提出した(甲18)。
ケ 同月18日、原告の担当者は、被告トノックスのC技術部長に対し、依頼されていた資料に関連した資料として、最大安定傾斜角度計算書、車両の外観図及び室内配置図等(以下「最大安定傾斜角度計算書等」という。)を電子メールによって送付した(甲20の1〜5、甲21)。
 原告が被告トノックスに送付した最大安定傾斜角度計算書等は、第一実業が平成24年入札に当たり消防庁に提出した書面に含まれていたものであり、日野自動車製のシャーシをベースとするものであった(甲72)。
コ 被告トノックスのB営業部長は、同月19日頃、原告代表者に電話をかけ、見積金額を安くしてもらえないかという趣旨の話をした。原告代表者は、これに対し、第一実業と価格交渉をしてほしい旨を回答した。(原告代表者本人)
サ 原告代表者は、同月下旬頃、被告トノックスの担当者に対し、支援車T型の部品については、第一実業を介さずに販売することも可能である旨を伝えた。(原告代表者本人)
シ 原告代表者は、同年7月頃、被告トノックスのC技術部長から部品購入の見積り等についての問い合わせを受けたため、見積書を交付した。また、被告トノックスは、この頃、原告から「支援車T型販売用艤装部品」と題する書面(甲13。以下「販売用部品一覧」という。)の提供を受けた。(甲78、原告代表者本人、被告トノックス代表者本人)
ス 原告は、同月28日に被告トノックスに対して再度見積書(甲22)を交付したが、被告トノックスは原告に対して部品の発注をしなかった。
セ 原告は、平成25年1月19日、被告トノックスに対し、原告が被告トノックスに提供した資料として、フローチャート、販売用部品一覧及びFRP縞板一体ルーフ標本3種の返却を要求し、最大安定傾斜角度計算書等のデータの廃棄を求めた。被告トノックスは、FRP縞板一体ルーフ標本3種のうちの2種を原告に返却したが、その余の資料は返却していない。(甲14、15)
ソ 原告と被告トノックスの間で、被告トノックスが支援車T型を製造するに当たり、原告から提供を受けた資料を使用してはならない旨の合意や、原告車両の構造等を参照してはならない旨の合意がされたことはない。
(2) 被告トノックスによる被告マルチデバイスへの業務の委託
ア 被告トノックスは、平成24年7月頃、被告マルチデバイスに対し、支援車T型17台の電気部分に関する業務を委託した。被告マルチデバイスが受託した業務は、具体的には、車両制御プログラム、タッチパネルの各表示画面、配電盤及びワーニングモニターの作成業務並びにこれらの車両への取付業務並びに電気回路図の作成等であった。(乙ロ9)
イ 被告マルチデバイスは、被告プログラム、被告タッチパネルの各画面、被告車両の配電盤、ワーニングモニター及び電気回路図等を作成し、被告車両に取り付けるなどして、被告トノックスに納品した。
(3) 被告トノックスによる被告車両の納入等
ア 平成24年入札による支援車T型の納入期限は、平成25年3月31日とされていたが(甲10)、被告トノックスは、納入期限の前である同年2月に被告車両を消防庁へ納品した。(甲10、前記前提事実(イ)イ)
イ 平成26年頃、被告車両のうちの2台につき、走行中又は停車中に拡幅部分が10〜30センチメートル程度張り出すという不具合が生じた。被告トノックスは、当該不具合を受けて、被告車両にロック機能を追加した。(被告トノックス代表者本人)
2 争点(1)ア(不当な価格での入札による原告の利益の侵害の有無)について
 原告は、被告トノックスは、支援車T型17台を製造する能力がないことを認識していたにもかかわらず、平成24年入札において不当に安い価格で入札をして、原告の営業上の利益を侵害したと主張する。
 しかし、入札は当該事業の発注のために行われるものであって、入札者の能力が低いなどの事情が落札後に当該事業の発注者との関係で問題となることがあり得るとしても、入札に参加することが他の入札者やその関係者、競合企業との関係で直ちにその利益を侵害し違法であるとして不法行為となることはないというべきである。そして、被告トノックスは、実際に支援車T型を納期に納入し、また、その後生じた不具合にも対処したことが認められるのであり(前記1(3)ア及びイ)、被告トノックスが支援車T型17台を製造する能力がなかったと認めるに足りる証拠はなく、また、他の入札者の入札価格や原告が主張する支援車T型1台当たりの利益額(2500万円)等を考慮すれば、被告トノックスによる入札価格が不当に安い価格であると認めるには足りない。その他、被告トノックスによる入札への参加が原告との関係で違法となるような特別の事情があることを認めるには足りない。
 以上によれば、その余を判断するまでもなく、被告トノックスによる入札への参加により原告の営業上の利益が侵害された旨の原告の主張は、採用することができない。
3 争点(1)イ(資料流用による原告の利益の侵害の有無)について
(1) 原告は、被告トノックスは原告に支援車T型17台の製造を発注する旨原告を誤信させた上で、平成24年4月17日にシャシ関係図等の提供を依頼し、原告は当該誤信に基づいて最大安定傾斜角度計算書等を提供したところ、被告トノックスが当該資料を流用して被告車両を製造したと主張する。
 上記誤信を生じた理由に関し、原告は、同月14日に原告代表者と被告トノックス代表者との間で原告に対して車両の製造を委託する話がまとまっていたと主張し、原告代表者も同旨の供述をする。しかし、同日時点では見積書も提出されておらず、価格に関する交渉も開始されていないこと(前記1(1)カ)、被告トノックスからの車両製造の委託に関しては第一実業が元請企業となるものとされており(原告代表者本人)、原告と被告トノックスの間で委託についての合意をすることは不自然であることに照らせば、同日、車両の製造の委託に関する話がまとまった旨の原告代表者の上記供述は採用することができない。また、原告代表者は、被告トノックスが原告に対してシャシ関係図等の提供を依頼したことから、原告が車両の製造を受注することが決まったと解釈した旨の供述もしている。しかし、本件の事実経過(前記1(1)カ〜コ)によれば、被告トノックスが上記資料の提供を依頼した時点で受注金額が決まっていないことは原告代表者も認識していたと認められ、受注の成否が金額に左右されることは当然であるから、上記のような段階で受注が確実であると考えることはできないというべきである。そうすると、被告トノックスからシャシ関係図等の提供依頼があったために受注が決まったと解釈したことは合理的であるとはいえない。
 他方、被告トノックスは、同月17日の資料提供の依頼について、被告トノックスが支援車T型を製造する場合と原告らに製造を委託する場合とでは使用されるシャーシが異なるため、原告らに委託をする場合に備えて総務省に提出する資料の提供を依頼したものであると主張する。被告トノックスが使用を予定していたシャーシはいすず製のものであり(前記1(1)イ)、原告が提供した最大安定傾斜角度計算書等が日野製のシャーシに関するものであることに照らせば(同ケ)、被告トノックスが、上記の理由により資料提供の依頼をしたことは不合理なものではない。そして、他に被告トノックスが原告に製造を委託する旨原告を誤信させるような言動をしたという事実はうかがわれない。
 以上によれば、被告トノックスが原告を誤信させて最大安定傾斜角度計算書等を提供させたと認めることはできない。
 なお、被告トノックスが最大安定傾斜角度計算書等を流用したことを裏付ける具体的な証拠はないこと、上記のとおり被告車両はいすず製のシャーシを用いるものである一方、最大安定傾斜角度計算書等は日野製のシャーシを前提とするものであることに照らせば、被告トノックスが被告車両の製造に当たりこれらの資料を流用したと認めることもできない。
(2) 原告は、被告トノックスにはキャブチルト等に関する図面(甲16の2)も提供したところ、被告トノックスは当該資料を流用して被告車両を製造したとも主張する。
 この点に関し、原告代表者は、同月7日にフローチャート及び販売用部品一覧とともにキャブチルト等に関する図面を被告トノックスに交付したと供述するが、これを裏付ける証拠はない。そして、平成25年1月19日に原告が被告トノックスに対して返還を求めた資料の中に同図面が含まれていないこと(前記1(1)セに鑑みれば、原告が同図面を被告トノックスに対して提供したと認めることはできない。
(3) 以上によれば、資料の流用による原告の利益の侵害に関する原告の主張は、採用することができない。
4 争点(1)ウ(原告車両の形態等の模倣による原告の利益の侵害)について
(1) 原告は、被告トノックスが原告車両の形態等を模倣して被告車両を製造したと主張する。被告車両は、少なくとも(1)屋根に設置した太陽光発電装置の保護枠の形状、デザイン、材質、サイズ及び塗装色、(2)配電盤の供給電源表示帯のデザイン及び表示方法、(3)車両内部の配電盤表示部のスイッチ等の配置及びデザイン、(4)屋根に設置したルーフ一体成形のFRP縞板、(5)屋根に設置した折り畳み指揮台、(6)ガス給湯器の取付け位置、(7)車両右側の拡幅部分の窓の形状、(8)運転席と助手席間のセンターコンソールボックスの形状、デザイン、サイズ及び取り付けられている部品、(9)運転席頭上のワーニングモニターの警告部位及びイラスト表示マーク、(10)配電盤取り付けキャビネットの形状デザイン及び設計寸法、(11)車両内部のウォークスルーステップ部の構造及びデザイン、(12)車両内部のコーションラベル、(13)車体両側面に貼られた「総務省 消防庁」、「支援車」、「各県名」等の文字の位置、(14)車両正面の上部ルーフの前部赤色警光灯2個の取付け位置及び取付け部の座面形状、(15)車両後部の屋根上スピーカーの形状及び取付け位置、(16)テーブル収納部位置、形状及び固定方法、(17)ステンレス製シンク、液晶テレビ、冷蔵庫、電子レンジ及びガスコンロの配置とこれらに係るキャビネットの形状に関し、原告車両と類似する点があることは、当事者間に争いがない。
(2) しかし、上記は、原告車両の構造、装置、形状、デザインに関わるものである。原告は、原告車両の上記構造、装置、形状、デザインについて、特許権、意匠権、商標権又は著作権を有することを主張するものではないし、被告トノックスが不正競争防止法に違反する行為をしたことを主張するものではない。そして、特許法、意匠法、商標法、著作権法又は不正競争防止法により保護されていない形状、構造、デザイン等を利用する行為は、上記の各法律が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害したり、自由競争の範囲を逸脱し原告に損害を与えることを目的として行われたりするなどの特段の事情が存在しない限り、違法と評価されるものではないと解するのが相当である。
 原告が主張する前記(1)〜(17)は、原告によって平成23年3月に消防庁に納入された原告車両の形状、構造等である。原告車両も被告車両も消防庁の入札に係る支援車T型であり、同一の発注者に納入する製品の構造その他の仕様等の一部について、特段の事情がない限り、他者の権利に抵触しない範囲において、同一又は類似のものとすることが自由競争の範囲を逸脱するものとは認められない。被告トノックスは原告から最大安定傾斜角度計算書その他の資料を得たが、これらの資料は被告トノックスが原告を誤信させて得たものではないし(前記3(1) )、原告と被告トノックスとの間で、原告から得た資料や原告車両の構造等について、被告トノックスによる使用を禁止する旨の合意がされたことはない(前記1(1)ソ)。これらに加え、被告トノックスと原告又は第一実業との間では見積書の交付を超えて、契約締結や発注についての具体的なやりとりには至らなかったなどの前記交渉の経緯等に照らせば、被告トノックスが、仮に原告から得た資料の一部や既に消防庁に納入されていた原告車両の構造等に係る情報を何らかの形で利用したとしても、当該行為が原告との関係で自由競争の範囲を逸脱するものとは認められない。また、被告車両の前記(1)〜(17)の形状、構造、デザイン等の利用について、特許法、意匠法、商標法又は著作権法が規律の対象とする利益とは異なる法的利益に保護された利益が侵害されたことを認めることはできない。したがって、本件全証拠に照らしても、被告トノックスが原告車両と類似点を有する被告車両を製造したことにつき、特許法等が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された原告の利益を侵害するなどの特段の事情や、自由競争の範囲を逸脱し原告に損害を与えることのみを目的として行われたなどの特段の事情を認めることはできない。
 原告は、被告トノックスは著しく不公正な手段を用いて原告の営業上の利益を侵害し一般不法行為が成立すると主張するが、上記に照らし、採用することができない。
(3) したがって、原告車両の形態等の模倣による営業上の利益の侵害に関する原告の主張は採用することができない。
5 争点(1)エ(原告タッチパネル画面、原告説明書又は原告警告シールの利用による原告の利益の侵害)について
 原告は、被告トノックスによる被告タッチパネル、被告説明書及び被告警告シールの作成行為は、原告タッチパネル、原告説明書及び原告警告シールに関する著作権侵害行為に当たると主張するほか(前記争点(2)ウ〜オに関する原告の主張)、これらの行為は、著作権侵害行為に当たらなくとも不法行為を構成すると主張する。
 このうち、被告警告シールの作成については、後記10のとおり、被告トノックスによる著作権侵害が認められる。
 他方、被告タッチパネル及び被告説明書の作成について、原告の著作権が侵害されたとは認められない(後記8、9)。そして、著作権法に違反しない行為は、著作権法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情が存在しない限り、違法とならないと解されるところ、前記4(2)で述べたところに照らし、被告トノックスの行為が不法行為となることはない。
 その他、原告は、上記各行為や資料の流用行為、原告車両の形態等の模倣行為等の被告トノックスが被告車両を製造するまでの一連の行為が原告に対する不法行為である旨主張するが、原告警告シールの著作権侵害を除き、上記各行為について違法な行為であると認めることはできないことはこれまでの説示のとおりであり、他に原告に対する違法な行為があるとは認めるには足りない。また、それら行為が一連の行為とされたとしても、それらの行為が違法になるとも認められない。原告の主張は採用することができない。
6 争点(2)ア(原告プログラム(1)についての著作権侵害の有無)について
(1) 原告は、被告マルチデバイスは原告が著作権を有する著作物である原告プログラム(1)を複製又は翻案したと主張するのに対し、被告らは、原告プログラム(1)は著作物ではないなどと主張する。そして、原告が具体的に被告プログラムとの対比を行い、著作物性及び複製権又は翻案権侵害を主張しているのは、原告プログラム(1)のうちの拡幅操作部分であるので、以下、当該部分の著作権侵害の有無を検討する。
(2) 証拠(甲41、43、45、46、乙ロ1、3)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 機械や装置などの動作をあらかじめ決められた順序に従って制御することをシーケンス制御といい、シーケンス制御を行うための装置をPLCという。PLCによるシーケンス制御を行うためには、ラダープログラム(ラダー図)と呼ばれるプログラムが必要である。
 ラダープログラムにおいては、機器の接点や接続状況等を記号や端子の番号等で表現した回路が示される。
イ ラダープログラムに用いられる接点及び回路には、次のようなものがある。また、各接点及び回路には、動作内容に関するコメントを付すことができる。
(ア) a接点
 スイッチが入れられることによりオンとなる接点。
(イ) b接点
 スイッチが入れられることによりオフとなる接点。
(ウ) AND回路
 複数の接点が直列につながれた回路。全ての接点が条件を満たすことにより動作する。
(エ) OR回路
 複数の接点が並列につながれた回路。いずれか一つの接点が条件を満たせば動作する。
(オ) リレー回路
 下図のように、リレー(下図では(M0))と同じ名称の接点を設けることにより、リレーがオンとなると同じ名称の接点がいずれもオンとなる回路。
ウ 原告プログラム(1)及び被告プログラムは、株式会社キーエンス(以下「キーエンス」という。)製のプログラマブルコントローラKV−5000/3000を利用して作成されたラダープログラムである。
 原告が指摘する原告プログラム(1)の拡幅操作部分は34ブロックであり、その内容は別紙1のとおりである。また、被告プログラムの拡幅操作部分は36ブロックであり、その内容は別紙3のとおりである(以下、上記各プログラムの個別のブロックについて、別紙1、3の記載に従い、「Y01」などということがある。)。
エ 原告プログラム(1)の拡幅操作部分34ブロックと被告プログラムの拡幅操作部分36ブロックを対比した場合、原告プログラム(1)のうち、被告プログラムと同一の回路構成となっているブロックは22ブロック(Y03、Y04、Y07〜17、Y22、Y25〜32。以下、これらのブロックを「共通ブロック」と総称する。)である(ただし、Y17と同一の回路構成である被告プログラムのブロックT22には、接点の接続に関し、Y17とは異なる表現が用いられている部分がある。)。
オ 共通ブロックのうち、Y07、Y12、Y14、Y22の各ブロックは、いずれも接点が一つしかなく、当該接点に応じた命令も一つしか存在しない。
カ 共通ブロックのうち、Y27及びY30〜32の各ブロックは、いずれも接点がなく、一つの命令のみで回路が構成されている。
キ 共通ブロックのうち、上記オ及びカの各ブロックを除く14ブロック(Y03、Y04、Y08〜11、Y13、Y15〜17、Y25、Y26、Y28、Y29)につき、各ブロックの回路を構成する接点等の要素の数は、それぞれ以下のとおりである。
 Y03 5
 Y04 8
 Y08 4
 Y09 10
 Y10 3
 Y11 4
 Y13 8
 Y15 8
 Y16 5
 Y17 11
 Y25 9
 Y26 9
 Y28 4
 Y29 3
(3)ア 原告は、ラダープログラムの設計は自由度が非常に高いところ、原告プログラム(1)は天文学的な数の回路構成が考えられる中からある特定の回路を選択したものであり、その選択の幅の広さからすれば、原告プログラム(1)には独創性及び創造性が認められると主張する。
イ しかし、前記(2)のとおり、共通ブロックのうち、Y07、Y12、Y14、Y22の各ブロックは、いずれも接点が1つしかなく、それに応じた命令も1つしか存在しないブロックであり、Y27及びY30〜32の各ブロックは、いずれも接点がなく、1つの命令のみで回路が構成されているブロックである。そうすると、これら8つのブロックについては、他の組合せを検討する余地がなく、回路の表現が1通りしか存在しないと認められる。したがって、これらのブロックには、作成者の個性が表れることはなく、表現上の創作性があるとは認められない。
ウ その余の14ブロックについてみると、例えば、回路を構成する要素の数が最も多いブロックY17(要素の数11。前記(2)キ)は、拡幅待機という動作の実行に関して、10個のb接点を全て直列で接続したAND回路である。動作の実行に関して、関係する接点を全てAND回路で接続することは極めて一般的でありふれた表現である。また、上記各接点の順序に技術的な意味はなく、その順序に個性が表れているということはできない。
 また、Y09(要素の数10。前記(2)キ)は、1つのスイッチにリモコンモード、タッチパネルモード及びメンテナンスモードという3つのモードが対応し、モードごとの動作を実行するため、上記各モードに応じて2つの接点からなるAND回路を設け、スイッチに係るa接点と各AND回路をAND回路で接続するものである。命令の実行のために必要な接点をAND回路で接続することは極めて一般的な回路の描き方であり、1つのスイッチに3つのモードが対応する場合に、各モードごとのAND回路をスイッチに係る接点とそれぞれ接続するという構成も一般的でありふれたものといえる。
 さらに、ブロックY25(要素の数9。同上)は、ポップアップフロアを上昇させる動作を実行するためのブロックであるが、拡幅フロアの上昇又は下降に関しては、拡幅フロア上昇に関する接点及び拡幅フロア下降に関する接点がそれぞれ4つずつ存在するという状況下において、同ブロックでは、拡幅フロア上昇に関する接点をa接点、拡幅フロア下降に関する接点をb接点とした上で、4つのa接点及び4つのb接点をそれぞれOR回路とし、これら2つのOR回路をAND回路で接続している。拡幅フロアの上昇と下降という相反する動作に関する接点が存在する場合において、目的とする動作のスイッチが入り、目的に反する動作のスイッチが入っていないときに、目的とする動作が実行されるために、目的とする動作の接点をa接点、これと反する動作の接点をb接点としてAND回路で接続し、命令をオンとする回路で表現することは、a接点及びb接点の役割に照らすと、ありふれたものといえる。また、同一の動作に関する接点が複数あり、目的とする動作の接点であるa接点のいずれかがオンとなったときに目的とする動作が実行されるようにするため、それらの接点をOR回路で表現することもありふれたものといえ、Y25は、全体としてみても、当該動作を実行するために、ありふれた表現であり、個性が発揮されたものとはいえない。
 その他、共通ブロックの各ブロックは、目的とする動作を実行するため、AND回路、OR回路を一般的又は自然に表現したものであり、個性が発揮されたものとはいえない。エ 原告は、ブロックY25を例に挙げ、ラダープログラムでは機械に一定の動作をさせるための回路構成が多数存在するから、プログラムの表現についての選択の幅が広いと主張する。
 しかし、ブロックY25の表現は、上記のとおり、目的とする動作を実行するために容易に導かれ、ありふれた表現といえるものであり、他の回路構成が多数存在するからといって、同ブロックで選択された表現に作成者の個性が表れていると認めることはできない。なお、上記の主張のほか、原告プログラム(1)の各ブロックの具体的表現につき、その表現自体や表現の組合せ、表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることについての原告による具体的な主張立証はない。
オ 以上によれば、被告プログラムには原告プログラム(1)と回路構成が一致するブロックがあるが、その各ブロックの表現につき、創作性を認めることはできず、それらを著作物と認めることはできない。
 また、原告は、原告プログラム(1)の著作物性はブロックの集合体について判断されるべきであるとも主張する。しかし、上記のとおり、被告プログラムは原告プログラム(1)とは回路構成が異なるブロックを多く含んでいるから、被告プログラムが原告プログラム(1)を複製又は翻案したものであると直ちに認めることはできない。
(4) したがって、原告プログラム(1)についての複製権又は翻案権侵害を認めることはできない。
7 争点(2)イ(原告プログラム(2)についての著作権侵害の有無)について
(1) 原告は、原告プログラム(2)は原告が著作権を有する著作物であり、これを被告マルチデバイスが複製して被告プログラムを作成したと主張している。これに対し、被告マルチデバイスは、原告プログラム(2)の著作物性を争うほか、仮に原告プログラム(2)が著作物に当たるとしても原告は原告プログラム(2)の著作権を有しない旨主張する。
(2) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、平成18年2月頃までに、福井県敦賀美方消防組合に納品する車両として、拡幅機能を備える支援車T型を製造した。当該車両にはシーケンス制御のためのラダープログラムが搭載されていた。当該プログラムは、原告の従業員であったD(以下「D」という。)が作成したものであった。(甲75)
イ 原告は、平成19年3月頃、拡幅機能を備える支援車T型を製造し、神奈川県相模原市消防局に納品した。Dは、上記支援車T型の製造に当たり、上記アのプログラムを改良して原告プログラム(1)を作成した。(甲75)
ウ 原告は、平成22年4月頃、原告車両の製造に当たり、車両制御プログラムの作成を含む電気部門の作業一切に関する業務を被告マルチデバイスに委託した。被告マルチデバイスは、上記委託に基づき、原告プログラム(1)を参考にして原告プログラム(2)を作成し、原告に納品した。なお、上記業務委託に際し、契約書は作成されなかった。(原告代表者本人、被告マルチデバイス代表者本人)
エ 被告マルチデバイス代表者は、平成23年1月頃、原告の指示を受けて、上記アの委託代金(以下「本件委託代金」という。)の算定に関して「Y183ハーネス、制御盤製作業務費」と題する書面を作成した。同書面は、人件費及び交通費、仕入れ部材、経費(電気、水道、燃料、灯油)及び会社利益(社長報酬を含む)という項目それぞれについての金額が記載されたものであり、各項目の金額の合計額は、4763万9100円と記載されていた。(乙ロ6、原告代表者本人、被告マルチデバイス代表者本人)
オ 原告代表者と被告マルチデバイス代表者は、同月下旬頃、上記エの書面5に基づいて本件委託代金に関する協議を行った。このとき、原告代表者は、上記エの書面の合計金額欄の下部余白部分に、手書きで「出張旅費」、「クレーム部品」、「クレーム外注費」、「ハード・ソフト」、「トラブルシューティング」と加筆した(甲77。以下、原告代表者による加筆後の書面を「本件書面」という。)。
(3) 原告は、原告プログラム(2)は、職務著作として原告が著作権を有する原告プログラム(1)を翻案したものであるから、原告は原告プログラム(2)につき原著作者として著作権を有すると主張する。
 しかし、原告プログラム(2)は被告マルチデバイスによって原告プログラム(1)を参考にして作成されたものではあるが(前記(2)ウ;原告は、原告プログラム(2)において、原告プログラム(1)のどのような表現の本質的特徴が存在するかや、原告プログラム(1)のどのような表現の本質的特徴を感得することができるかについて、何ら主張立証をしない。したがって、原告プログラム(2)が原告プログラム(1)を翻案したものであると認めることはできず、原告プログラム(2)につき原告が原著作者として著作権を有するとは認められない。
(4) 原告は、原告プログラム(2)の著作者が被告マルチデバイスであるとしても、本件委託代金には原告プログラム(2)の譲渡代金が含まれていて、原告プログラムAの著作権は原告に譲渡され、本件書面において本件委託代金に原告プログラム(2)の譲渡代金が含まれることが確認されていると主張する。
 しかし、本件書面には、単に「ハード・ソフト」との手書きの文字が記載されているのみであり、原告プログラム(2)の著作権の帰属等に関する記載は一切ない。原告代表者は、「ハード・ソフト」との記載をした際に、被告マルチデバイス代表者に対し、ハード及びソフトに関する権利は原告に帰属するものであることの確認をした旨供述するが、被告マルチデバイス代表者はこれを否定し、原告代表者による上記記載は、ハードやソフトについて不具合等が発生した場合であっても、追加代金は発生しない旨を確認したものであると供述する。「ハード・ソフト」という記載は、ハード及びソフトに関する何らかの話合いがされたことを推認させるが、当該記載から著作権譲渡の趣旨を直ちに読み取ることはできない。権利の帰属が特に確認されたのであればその旨の記載がされるのが自然ともいえるところ権利の帰属に関する記載が何もされていないこと、「ハード・ソフト」との記載の前後の「クレーム部品」、「クレーム外注費」、「トラブルシューティング」などの原告代表者によるその他の記載は、被告マルチデバイスが原告に納入した製品に今後問題が生じたとしても合意された金額以上の代金が発生しないことを意味するとも解され、被告マルチデバイス代表者の供述と整合的であることなどに照らせば、原告代表者の上記供述を直ちに採用することはできない。そうすると、本件書面に基づいて原告プログラム(2)の著作権が被告マルチデバイスから原告に譲渡されたと認めることはできず、その他、同譲渡を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告プログラム(2)の著作権譲渡に関する原告の主張は、採用することができない。
(5) 以上によれば、原告プログラム(2)の著作権が原告に帰属する旨の原告の主張はいずれも採用することができず、原告プログラム(2)の複製権侵害に関する原告の主張は理由がない。
8 争点(2)ウ(原告タッチパネル画面についての著作権侵害の有無)について
(1) 原告は、原告タッチパネルの画面は原告が著作権を有する著作物であるか、原告と被告マルチデバイスが共同して著作権を有する著作物であるところ、被告マルチデバイスは原告の同意なく原告タッチパネルの画面を複製又は翻案して被告タッチパネルの画面を作成したと主張する。そして、(1)原告タッチパネルは原告従業員に作成させたものである、(2)原告タッチパネルの画面は、原告が作成し原告の著作物である相模原市消防局車両向けタッチパネルの画面を基礎として作成され、当該タッチパネル画面に存在しない画面は、原告代表者が表示画面のイメージ画を作成して被告マルチデバイスに提示するなどして作成されたものであると主張する。
(2)ア まず、原告タッチパネルの作成経緯について検討すると、証拠(乙ロ2、原告代表者本人、被告マルチデバイス代表者本人)によれば、原告タッチパネルは、原告車両の製造に当たり、原告の委託を受け、被告マルチデバイスがキーエンスのプログラムを使用して作成したものであると認められる。
 原告は、前記(1)(1)のとおり、原告タッチパネルは原告従業員に作成させたものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、同事実を認めることはできない。
イ 原告は、前記(1)(2)のとおり主張し、原告タッチパネルの画面の一部は、原告の著作物である相模原市消防局車両向けタッチパネルの画面を複製又は翻案したものであり、その余の画面は原告代表者が創作したものであるため原告に著作権が帰属すると主張する。
 そこで検討すると、証拠(甲54、61)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成19年2月頃、相模原消防本部に支援車T型を納入したこと、同支援車には、拡幅操作に関する指示をするためのタッチパネルが設けられていたこと、そのタッチパネルの画面には、楕円や長方形を基礎とし、「動作確認」、「OPEN」、「CLOSE」などの説明を表示したボタン等が設けられ、同種のボタンは上下、左右に配置されていたこと、相模原市消防局車両向けタッチパネルの「タッチパネルモード画面」、「リモコンモード画面」及び「メンテナンスモード画面」に表示される機能の内容、ボタンの形や配置等と、原告タッチパネル画面のうちの「拡幅操作タッチパネルモード」、「拡幅操作リモコンモード」及び「メンテナンスモード」の3画面に表示される機能の内容、ボタンの形や配置等が類似していることが認められる。
 しかし、相模原市消防局車両向けタッチパネルの上記各画面は、支援車T型を操作するためのボタンや表示画面、ボタンにより行われる動作の説明の表示を組み合わせたものである。その各ボタンのデザインは楕円や長方形を基礎とするありふれたものであり、各ボタンの配置も上下、左右に同種のボタンを並べるなど単純なもので、ボタンにおける説明の表示も通常の表示である。そうすると、上記各画面には作成者の個性が発揮されておらず、これらの画面に創作性を認めることはできないから、その余を判断するまでもなく、これらの画面を著作権法により保護される著作物であると認めることはできない。したがって、これらの画面と類似する画面が原告タッチパネルにあったとしても、原告タッチパネルの当該画面について原告が著作権を有することはない。
 また、原告代表者が原告タッチパネル画面のイメージ画を作成して被告マルチデバイスに提示したことを裏付ける証拠はない。原告は、原告タッチパネルの画面は原告と被告トノックスとの共同著作物であるとも主張するが、原告代表者がタッチパネル画面の創作に関与したと認めるに足りる証拠もない。
 なお、上記7(4)で原告プログラム(2)について説示したところと同様の理由により、原告タッチパネルの著作権が被告マルチデバイスから原告に譲渡されたと認めることはできない。
(3) 以上によれば、原告タッチパネルの画面の著作権侵害に関する原告の主張は、採用することができない。
9 争点(2)エ(原告説明書についての著作権侵害の有無)について
(1) 原告は、原告説明書について、分量も膨大であり、構成や表現がありふれたものでないことは明らかであるから、言語の著作物に当たると主張する。
 原告は、別紙7の原告説明書欄記載の原告説明書の表現を問題とするところ、それらの表現は、配電盤や発電機、キャブチルトの取扱方法等、支援車T型の装備や機器の機能、操作方法等の客観的な事項を簡潔な表現で説明しているものであり、いずれも個別の表現に作成者の個性が発揮されているものとはいえない。そして、原告説明書に用いられている表現に作成者の個性が発揮されていると認められない以上、原告説明書の分量が膨大であるからといって、原告説明書に創作性が認められるものではない。
 したがって、原告説明書は言語の著作物であるとは認められない。
(2) 原告は、原告説明書について、(1)各頁に掲載する情報の量、(2)拡幅操作部分については説明をせずに拡幅操作説明書に任せていること、(3)項目立てとその順番、(4)写真を使用して説明する場合には、左側に写真を配置し説明文を右側に配置していることという点において、説明内容につき取捨選択を行った結果が表現されており、作成者の個性が表現されているから、編集著作物に該当すると主張する。
 編集著作物とは、編集物で、素材の選択又は配列によって創作性を有するものであるから(著作権法12条1項)、編集著作物として著作権法の保護を受けるためには、素材の選択、配列に係る具体的な表現形式において、創作性が認められることが必要である。
 ここで、原告が主張する上記(1)は素材の選択や配列に係る具体的な表現形式であるとはいえない。また、拡幅機能は原告車両が備える特別な機能であると認められるところ、製品の特別な機能に関して製品全体に関する説明書とは別に説明書を作成することも通常考えられるといえるから、上記(2)により、原告説明書には素材の選択又は配列において創作性があるということはできない。
 上記(3)について、原告説明書の項目及びその順序は、「はじめに」、「各部の名称」、「鍵の種類」、「ワーニングモニターパネル」、「配電盤」、「外部電源入力」、「発電機」、「バッテリー充電」、「室内各部スイッチ」、「FFヒーター」、「換気扇」、「LPガスシステム」、「給湯器」、「冷蔵庫」、「座席、簡易ベッド、テーブル」、「リヤシート、折り畳みベッド」、「給水口、給水タンク」、「排水タンク、排水用水中ポンプ」、「エントランスドア」、「エントランスステップ」、「外部収納庫」、「シャワー(シャワールーム、アウターシャワー)」、「折畳み指揮台」、「キャブティルト」、「パワーゲート」、「ラップポントイレ」、「センターコンソールボックス(無線機、サイレンアンプ ほか)」というものであるところ(甲30)、これらの項目はいずれも原告車両が備える設備、機能に関するものであって、取扱説明書において必然的に説明を要するものであり、素材の選択に作成者の個性が発揮されているとはいえない。また、原告説明書における上記各項目の配列に格別の工夫があるとは認めるに足りず、その配列に作成者の個性が発揮されていると認めることはできない。
 上記(4)についても、原告説明書における写真と説明文の配置は、製品の説明書として一般的なものといえ、そこに創作性があるとはいえない。
 したがって、原告説明書が編集著作物であると認めることはできない。
(3) 以上によれば、原告説明書の著作権侵害に関する原告の主張は、いずれも採用することができない。
10 争点(2)オ(原告警告シールについての著作権侵害の有無)について
(1) 原告は、被告トノックスは原告が著作権を有する著作物である原告警告シールを複製したと主張し、被告トノックスは、原告警告シールの著作物性を争うなどする。
(2) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、平成22年6月頃、原告車両のワーニングモニター用デカール及びキャブルーフに貼付する警告シールの製作を株式会社アクト(以下「アクト」という。)に委託した。(甲76)
イ 原告の従業員は、同年9月29日、警告シールのデザイン変更案を作成し、アクトに対して提示した。アクトは、原告従業員から受領したデザイン変更案に基づき原告警告シールを印刷し、原告に納品した。(甲62、63)
ウ 原告警告シールは、別紙8のとおり、図柄と「NO STEP」との文字を組み合わせた縦長の長方形状のものであり、上記図柄は、黒色で縁取られた黄色の略正方形状の四角の中に、白い足形のマーク(以下「足形マーク」という。)と対角線状の×印を描いたものである。×印は四角を縁取る黒い線とおおむね同じ太さの黒い線で描かれており、足形マークはこれらよりも若干細い黒い線で縁取られている。足形マークは、人間のすねから足先までを真横から見た形状であり、四角の右上にすねの部分が、左下に靴の部分が位置するような状態で斜めに描かれ、靴が左上の先端が上がった状態で斜めに描かれている。また、足形マークは、足首の部分が若干細くなっており、足首から上はズボンをはいた形を、足首から下は靴をはいた形をしている。靴のデザインは、足先に向けて細くなり、つま先がとがった形状となっているほか、靴底が平らではなく、かかと部分に段差がある形状となっている。
エ 被告トノックスは、被告車両の製造に当たり、ワーニングデカール及びキャブルーフに貼付する警告シールの製作をアクトに依頼した。被告トノックスは、アクトからデザイン一覧表を提示され、同一覧表に掲載されていた原告警告シールのデザイン(ただし、色が付されていないもの)を被告警告シールのデザインに採用した。上記デザイン一覧表の下部には、「株式会社ヨコハマモーターセールス 様」との記載があり、設計年月日が「2011.01.11」と記載されていた。(乙イ7、14)
(3) 立入り禁止や踏込み禁止という趣旨をイラストで表現するに当たり、足のマークに×印を組み合わせること、目を引くように背景色に黄色を用いること、図柄と「NO STEP」という文字を組み合わせること自体は、ありふれた表現であるといえる。
 しかし、立入り禁止や踏込み禁止という趣旨を表すイラストにおいて足のマークをどのように表現するかについては選択の幅があるところ、原告警告シールにおける足形マークは、前記(2)ウのとおり、ズボン及び靴をはいた状態の足を描いたものであり、靴は足先に向けて細くなり、つま先がとがっているなどの特徴を有するほか、四角の右上にすねの部分が、左下に靴の部分が位置するような状態で斜めに描かれ、靴の全体も左上の先端が上がった状態で斜めに描かれているという特徴を有する。このような足形マークと×印等を組み合わせたという特徴を有する原告警告シールは、必ずしもありふれた表現であるとはいえず、作成者の個性が表れ思想又は感情を創作的に表現したものであって、著作物に当たると認められる。
 被告らは、原告警告シールの表現はありふれたものであると主張するが、上記で説示したところに照らし、採用することができない。
(4) 前記(2)ア及びイによれば、原告警告シールは、原告従業員が、原告の業務に従事する過程において、原告が同人名義で委託先に納入する車両に貼付することを目的として作成したものであると認められる。このような事情に照らせば、原告警告シールの著作権は原告に帰属すると認めるのが相当である。
(5) 別紙9では、被告警告シールはデザインの一部が明らかではないが、デザインが明らかになっている部分は原告警告シールの表現と実質的に同一といえること、前記(2)エのとおり、被告トノックスはアクトからデザイン一覧表の提示を受け、同一覧表に掲載されていた原告警告シールのデザインを被告警告シールのデザインに採用したものであることからすると、被告警告シールは、仮に寸法等が原告警告シールと異なるとしても、原告警告シールと実質的に同一の表現であり、原告警告シールに依拠したものであると認められる。
 したがって、被告警告シールは原告警告シールを複製したものであると認められ、被告トノックスによる被告警告シールの作成は、原告警告シールの複製権を侵害する。
11 争点(3)(被告らの故意過失及び関連共同の有無)について
(1) 以上によれば、被告トノックスは原告警告シールの複製権を侵害している。そして、前記10(2)エによれば、原告警告シールのデザインは、アクトから被告トノックスに提示されたデザイン一覧表に掲載されていたものであるが、同一覧表の下部には、原告の名称が記載されているのであるから、被告トノックスには、少なくとも、同デザインの権利関係等につきアクトに確認をする義務があり、当該義務を怠った過失があるというべきである。被告トノックスは、原告警告シールのデザインはアクトから提示されたものであり、アクトが著作権を有すると認識していた旨主張するが、仮にそうであったとしても、上記の説示に照らせば、上記の過失を否定することはできない。
 よって、被告トノックスによる被告警告シールの作成は、原告警告シールの複製権を侵害する不法行為であると認められる。
(2) 原告は、被告トノックスの上記行為につき被告マルチデバイスに共同不法行為が成立すると主張するが、被告警告シールのデザインに被告マルチデバイスが関与したことを具体的にうかがわせる事情はない。なお、被告マルチデバイスは、平成24年9月19日にアクトに対し、原告車両について製作されたものと同様のデカールの注文をしているが、当該注文に係るデカールは表示確認用(赤色部後部からLED点灯)アクリル板に関するものであり、警告シールとは無関係である(甲23)。
 したがって、共同不法行為に関する原告の上記主張は採用することができない。
12 争点(4)(原告の損害額)について
(1) 以上のとおり、被告トノックスは、原告警告シールの複製権を侵害し、これにより被った原告の損害を賠償する義務を負う。そこで、上記複製権侵害により被った原告の損害額を検討する。
(2) 原告は、損害につき、主位的に著作権法114条1項に基づく請求をする。
ア 前記前提事実1(4)イ、同(5)ウ及び前記10によれば、被告トノックスは、原告警告シールを複製して被告警告シールを作成し、被告車両17台の各キャブルーフに被告警告シール(被告車両1台について1枚、合計17枚)を貼付して消防庁に納品したと認められる。
 著作権者等が侵害の行為がなければ「販売することができた物」(著作権法114条1項)とは、侵害品と市場において競合関係に立つ製品であると解されるところ、原告警告シールは、シールとして原告に納品され(前記10(2)イ、原告車両に貼付されたものであって、原告車両とは別個の取引の対象として販売されることもあり得るものといえる。そして、原告警告シールは、原告警告シールの役割等にも照らせば、被告警告シールと市場において競合関係に立つ製品ということができ、「販売することができた物」に当たるというべきである。
 他方、上記に照らせば、原告警告シールの複製権侵害による損害額の検討に当たっては、原告警告シールが「販売することができた物」に当たるのであり、原告車両全体が「販売することができた物」に当たるということはできない。
イ 次に、原告警告シールの単位当たりの利益の額について検討すると、証拠(甲81〜83)によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、原告車両の製造に関し、第一実業から1台当たり●(省略)●円の委託料を受領した(甲81、82)。
(イ) 原告が原告車両の製造のために支出した部品代及び外注費の合計額は、●(省略)●円であった(甲83)。
(ウ) 第一実業が原告に対して交付した原告車両の発注書には、作業項目毎に1台当たりの部品代や工賃が記載されており、「塗装ロゴデカール」に関しては、●(省略)●とされ、工賃には「キャブ補機部品脱着」、「下地処理」、「ボディー朱色一色塗装」、「ロゴデカール貼り付け−部品・工賃は塗装に含む」、「下回りブラック塗装」が含まれる旨が記載されている(甲81)。
ウ 原告警告シールはロゴデカールに含まれるものであるところ、上記認定事実によれば、原告車両1台当たりの塗装ロゴデカールに関する委託料は合計で●(省略)●円である。そして、塗装ロゴデカールに関する部品代や工賃には、下地処理やボディー朱色一色塗装、下回りブラック塗装等、広範囲にわたる作業やその部品代が含まれている一方、原告警告シールはキャブルーフの1か所に貼付されるものであって、その内容や形状等からして、作成に多額の費用がかかったり複雑な作業等を要したりするものとは認められない。これらに照らせば、上記委託料のうち、原告警告シールの販売価格に相当する額は1万円と認めるのが相当である。
 また、前記(2)ア及びイによれば、原告車両の1台当たりの利益率は60%を下らないと認められるところ、原告車両を構成する部品毎に利益率が異なることをうかがわせる証拠はない。したがって、原告警告シールの利益率は60%であると認めるのが相当である。
 以上によれば、原告警告シールの単位当たりの利益の額は、6000円であると認められる。
エ 上記ア〜ウで述べたところによれば、原告警告シールの複製権侵害につき、著作権法114条1項に基づく原告の損害額は、10万2000円(6000円×17枚)であると認められる。
 これに対し原告は、原告警告シールの原告車両1台当たりの利益額に対する寄与率は2.5%を下らないから、同項に基づく損害額は1062万5000円であると主張する。しかし、前記のとおり、本件で「販売することができた物」は原告警告シールと解すべきであるから、原告車両を基準とする上記主張を採用することはできない。他方、原告の損害額に関する被告トノックスの主張は、控除すべき費用の額等に関する裏付けも十分ではなく、採用することができない。
(3) 原告は予備的に同条3項に基づく請求をしているが、原告警告シールの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額が上記金額を上回ると認めるに足りる証拠はない。
(4) 本件訴訟の内容、経緯、認容額等に照らし、原告警告シールの複製権侵害と相当因果関係のある弁護士及び弁理士費用の額は、2万5000円と認めるのが相当である。
(5) したがって、被告トノックスは原告に対し、複製権侵害に基づき上記損害額の合計額である12万7000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
 なお、被告トノックスは損害賠償請求権の消滅時効の主張をするが、同主張は受注機会を喪失させた不法行為によって被った損害の賠償請求権に関するものであり、著作権侵害に基づいて被った損害の賠償請求権に関するものではないから(前記第2の4(12))、上記時効の主張を判断するには及ばない。
13 以上によれば、原告の被告トノックスに対する請求は上記12(5)の限度で理由があるからこれを認容することとし、被告トノックスに対するその余の請求及び被告マルチデバイスに対する請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条、64条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 萩原孝基
 裁判官 林雅子


(別紙省略)
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