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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】平成29年11月16日
 東京地裁 平成29年(ワ)第16883号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年10月12日)

判決
原告 株式会社h.m.p
同訴訟代理人弁護士 提箸欣也
同 渡邉俊太郎
同 野口耕治
同 藤沢浩一
同 成豪哲
同 小椋優
同 鶴谷秀哲
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 平出晋一
同 橋利昌
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理 由
第1 請求
 主文と同旨

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して、インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する映像作品を複製して作成した動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。
1 請求原因(原告の主張)
(1) 株式会社メディア・ジャック(以下「メディア・ジャック」という。)は、平成21年4月頃、「KIRAKIRA COLLECTION キラ★コレ 明日花キララ」と題する映像作品(以下「本件著作物」という。)の製作に発意と責任を有し、本件著作物の監督はメディア・ジャックに対してその製作に参加することを約束した上で本件著作物を製作し、メディア・ジャックは本件著作物の著作権を取得した。その後、株式会社パートナーズ(以下「パートナーズ」という。)は、同年5月1日、メディア・ジャックを吸収合併し、本件著作物の著作権を取得した。また、パートナーズは、同年12月1日、原告に対して製作販売に属する事業と共に本件著作物の著作権を譲渡した。
(2) 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、インターネットプロトコルアドレス(IP)アドレス「(省略)」(以下「本件IPアドレス」という。)の割当てを受けてインターネットに接続し、別紙動画目録の「投稿日時」欄記載の日時に、本件著作物の一部を複製して作成した別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)のデータを、別紙動画目録の「投稿先URL」欄記載のインターネット上の動画共有サイトにアップロードし、本件動画を不特定多数の者が閲覧できる状態に置いた。
(3)被告は、本件発信者に対し、本件IPアドレスを割り当ててインターネット接続サービスを提供していた。したがって、被告はプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(4)被告は、本件発信者についての氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの情報(別紙発信者情報目録記載の情報。以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
(5)原告は、本件発信者に対し、本件著作物について有する公衆送信権の侵害に基づく損害賠償等の請求を行う必要があるが、本件発信者の氏名、住所等が不明であるため、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
2 請求原因に対する認否(被告の主張)
 請求原因(1)及び(2)につき、事実は不知であり、主張は争う。
 請求原因(3)につき、被告がプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たるとの主張は争い、その余は認める。
 請求原因(4)は認める。
 請求原因(5)は争う。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因(1)について
(1)メディア・ジャックの著作権取得について
 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、メディア・ジャックは、「明日花キララ」名の女優が出演し、発売予定日を平成21年4月とする映像作品の製作を企画したこと(甲8)、同月に発売された同女優の出演作品は本件著作物のみであること(甲16)が認められる。そうすると、メディア・ジャックが本件著作物の製作を企画したと認められる。
 また、本件著作物は「中目黒浩治」名の監督(ただし、本名は「A」である。)が製作した映像作品であり(甲16)、同監督は本件著作物の著作者であると認められる(著作権法16条本文)。そして、同監督はメディア・ジャックから本件著作物の監督料の支払を受けていること(甲9、16)が認められる。
 そうすると、メディア・ジャックは本件著作物の製作に発意と責任を有し、本件著作物の監督はメディア・ジャックに対して製作に参加することを約束して本件著作物を製作したと認められる。
 したがって、メディア・ジャックは、映画製作者として本件著作物の著作権を取得したと認められる(著作権法29条1項)。
(2)原告の著作権取得について
 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、メディア・ジャックは、平成21年5月1日、パートナーズに吸収合併されたこと(甲10)、パートナーズは、同年12月1日、原告に対して製作販売に属する事業を譲渡したこと(甲11)、本件著作物はインターネット上のウェブサイト「DMM.R18通販」において販売されているところ、本件著作物の「メーカー」として原告が表示されていること(甲5)、以上の事実が認められる。
 そうすると、パートナーズは、メディア・ジャックを吸収合併したことにより本件著作物の著作権を取得し、その後、パートナーズが原告に対して製作販売に属する事業と共に本件著作物の著作権を譲渡したと認められる。
(3)以上から、請求原因(1)は認められる。
2 請求原因(2)について
 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者が別紙動画目録の「投稿日時」欄記載の日時に、「投稿先URL」欄記載の動画共有サイトに本件動画をアップロードしたこと(甲3の1、2)、上記日時に上記動画をアップロードするために使用されたIPアドレスが本件IPアドレスであること、本件動画が本件著作物の一部と内容において同一であること(甲4、15、弁論の全趣旨)が認められる。
 そうすると、本件発信者が別紙動画目録の「投稿日時」欄記載の日時に本件IPアドレスを利用して本件著作物の一部を複製した本件動画をアップロードしたことが明らかであるから、請求原因(2)の事実が認められる。
3 請求原因(3)ないし(5)について
 上記のとおり、本件発信者は、原告が著作権を有する本件著作物の一部を複製して作成した本件動画を多数の者に対して送信可能な状態に置いたものであるから、本件発信者が原告の本件著作物に係る公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したことが明らかであるところ、本件発信者は被告が提供するインターネット接続サービスを経由して本件動画をアップロードしたのであるから(当事者間に争いがない。)、被告がプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たること(請求原因(3))は明らかである。
 したがって、原告は本件発信者情報を保有する被告(請求原因(4)。当事者間に争いがない。)に対し、その開示を受けるべき正当な理由がある(請求原因(5))ということができる。
4 結論
 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 林雅子
 裁判官 大下良仁


(別紙)発信者情報目録
 別紙動画目録記載の投稿日時頃に、同目録記載のIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の次の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
 以上

(別紙)動画目録
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投稿先URL (省略)
投稿日時 2016/07/23 20:02:00
IPアドレス (省略)
 以上
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