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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件J
【年月日】平成29年10月2日
 東京地裁 平成29年(ワ)第21232号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年9月4日)

判決
原告 A@
同訴訟代理人弁護士 中澤佑一
同 柴田佳佑
同 船越雄一
同 西郷豊成
同 延時千鶴子
同 岩本瑞穗
同 松本紘明
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 光石俊郎
同 光石春平


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、別紙3著作物目録記載の文書(以下「本件文書」という。)の著作権者であると主張する原告が、被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の掲示板「2ちゃんねる」(以下「本件掲示板」という。)に投稿された別紙2投稿記事目録記載の各投稿記事(以下「本件各記事」という。)により、原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権)及び著作権(送信可能化権)が侵害されたことは明らかであると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「」という。)4条1項に基づき、被告に対し、本件各記事に係る別紙1発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実等(当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)
(1) 当事者
ア 原告は、国際空手道連盟極真会館世界総極真(以下「総極真」という。)に所属する者である(甲1)。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、本件においては、いわゆる経由プロバイダであって、「特定電気通信役務提供者」(法2条3号)に該当する。
(2) 本件文書
 本件文書は、原告が総極真の代表選挙に立候補した際に作成した公約文であり、別紙3著作物目録記載のとおりの記述がある(甲5の1及び2)。
(3) 本件各記事
 本件各記事は、別紙2投稿記事目録の「投稿日時」欄に記載の日時頃、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件掲示板に投稿され、公衆の求めに応じて自動的に公衆送信が行われる状態におかれた。
 本件各記事を本件掲示板に投稿した氏名不詳者がその時点で使用していたIPアドレスは、別紙2投稿記事目録の「IPアドレス」欄に記載のとおりである。
 なお、本件各記事の記述を併せると、4件目の投稿記事の末尾(「A@’」)の部分を除いて、本件文書と同一である。(以上につき、甲2から4まで)
3 争点
(1) 著作権又は著作者人格権の侵害が明らかであるか(争点1)
(2) 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点2)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(著作権又は著作者人格権の侵害が明らかであるか)について
【原告の主張】
ア 本件文書は、総極真の代表選挙における原告の公約文であり、「押しも押されない地にしっかりと根を張った」などの個性的な表現を含む40文近くからなり、誰が作成しても同様の表現になるとはいえないから、原告を著作者とする言語の著作物に該当することは明らかである。
イ 本件各記事は、何者かが本件文書の全文をコピーし、本件掲示板に投稿したものであり、以下のとおり、原告の著作者人格権(公表権、氏名表示権)及び著作権(送信可能化権)を侵害することは明らかである。
(ア) 本件文書は、原告が代表選挙で使用するという目的に限定して一部の関係者にのみ回覧したものであるから、これを本件掲示板に掲載することは未公表の著作物を公衆に提供、提示するものであり、原告の公表権を侵害することは明らかである。
(イ) また、本件各記事の末尾には「A@’」と表示されているが、原告の氏名は「A@」であり、原告の意に反する著作者名の表示である。これを本件掲示板に掲載することは、著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、著作者の意に反する著作者名を表示するものであり、原告の氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害することは明らかである。
(ウ) さらに、本件各記事は、インターネット上で誰でも閲覧可能な本件掲示板で公開され送信可能化されているから、原告の送信可能化権(著作権法23条1項かっこ書)を侵害することは明らかである。
【被告の主張】
ア 本件文書の著作物性について争う。本件文書を構成する個々の表現は、公約としてありふれた表現であり、創作性は認められない。
イ(ア) 本件文書は、相当数の道場ないし会員を擁する団体の総会での代表戦の公約として広く頒布されて公衆に提供されたものであり、「著作物でまだ公表されていないもの」(著作権法18条1項)に該当しないから、公表権侵害は成立しない。
(イ) 氏名表示権侵害については、不知ないし争う。
(ウ) 送信可能化権侵害については、不知。
(2) 争点2(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
【原告の主張】
 原告は、本件各記事の投稿者に対し、本件文書の著作者人格権侵害及び著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする準備をしており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
【被告の主張】
 不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(著作権又は著作者人格権の侵害が明らかであるか)について
(1) 本件文書は、総極真の代表選挙における原告の公約文であり、被告は、本件文書を構成する個々の表現は、公約としてありふれた表現であるとして、著作物性を争う旨主張する。
 しかしながら、もとより、選挙公約には様々な内容のものがあり得るところ、別紙3著作物目録のとおり、本件文書には、総極真の代表選挙における原告の19個もの公約や信条に係る記載があり、全体として40以上の文章からなるまとまりのある文書であると認められるから、その内容や記載順序等において、原告の個性が表出されていると認められる。
 したがって、本件文書は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであると認められ、言語の著作物(著作権法10条1項1号)として著作物性を有し、原告は、その作成者として、その著作権を有するものと認められる。
(2) また、前記前提事実等(3)のとおり、本件各記事は、末尾の部分を除いて40以上の文章からなる本件文書と同一であるから、氏名不詳者において、本件文書を分割して転載したものであると認められ、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件掲示板に投稿されたことによって、公衆の求めに応じて自動的に公衆送信が行われる状態におかれている。
 したがって、少なくとも、原告が有する本件文書の著作権(送信可能化権)が侵害されたことは明らかであると認められる。
2 争点2(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
 証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件発信者情報を保有しており、原告は、本件文書の著作権(送信可能化権)が侵害されたことなどを原因として、本件各記事の投稿者に対して不法行為による損害賠償請求権を行使するため、本件発信者情報の開示を求めているものと認められる。
 原告が著作権(送信可能化権)侵害を原因として不法行為による損害賠償請求権を行使するためには、本件各記事の投稿者を特定する必要があるから、原告には、そのために本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
3 結論
 以上によれば、著作者人格権(公表権、氏名表示権)侵害について検討するまでもなく、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 嶋末和秀
 裁判官 天野研司
 裁判官 西山芳樹


(別紙1)発信者情報目録
 別紙2投稿記事目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各投稿日時頃に被告から割り当てられていた契約者に関する下記情報
 記
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電子メールアドレス
 以上

(別紙2)投稿記事目録
 閲覧用URL http:// 以下省略
 番号170 投稿日時 2017/04/14 19:32:34.23 IPアドレス 106.172.4.212
 番号171 投稿日時 2017/04/14 19:33:00.76 10 IPアドレス  106.172.4.212
 番号172 投稿日時 2017/04/14 19:33:26.66 IPアドレス 106.172.4.212
 番号173 投稿日時 2017/04/14 19:33:56.65 IPアドレス 106.172.4.212
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