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【事件名】「メランコリーメリーゴーランドガール」事件
【年月日】平成29年7月27日
 東京地裁 平成29年(ワ)第2694号 著作権確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年5月25日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 河西邦剛
同 舟橋和宏
同 森伸恵
被告 B(以下「被告B」という。)
被告 CAPビジネスマネジメント株式会社(以下「被告CAP社」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 渡辺征二郎
被告 一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「被告JASRAC」という。)
同訴訟代理人弁護士 藤原浩
同 市村直也


主文
1 本件訴えのうち、原告が被告らに対し、原告が別紙1著作物目録記載の歌曲に係る楽曲について著作権を有することの確認を求める請求に係る部分を却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原告と被告らの間において、原告が別紙1著作物目録記載の歌曲に係る楽曲についての著作権を有することを確認する。
2 被告JASRACは、別紙1著作物目録記載の歌曲に係る楽曲が使用(演奏、上演、上映、公衆送信、伝達及び口述、録音、頒布権及び録音物に係る譲渡、貸与、出版権及び出版物に係る譲渡、映画への録音、ビデオグラム等への録音、ゲームソフトへの録音、コマーシャル送信用録音、放送・有線放送、インタラクティブ配信、並びに業務用通信カラオケでの使用)された場合、当該歌曲に係る楽曲についての著作物使用料を徴収してはならない。
3 被告Bは、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコに本店のあるtwitter, Incが運営するTwitter(ツイッター)の同被告アカウント(ユーザー名「b」ユーザーID「@b」)において、本訴訟の判決確定日から30日間、別紙2謝罪広告目録記載の広告を掲載せよ。
4 被告Bは、(住所は省略)所在の株式会社朝日新聞社発行の「朝日新聞 全国版朝刊」に、別紙3広告の要領記載の要領をもって、別紙2謝罪広告目録記載の広告を1回掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、別紙1著作物目録記載の歌曲(歌詞と音楽の両方を含み、以下「本件歌曲」という。)に係る楽曲(音楽部分のみを指し、以下「本件楽曲」という。)の作曲者でその著作権を有する原告が、本件歌曲に係る歌詞部分(以下「本件歌詞」という。)の作詞者である被告Bにおいて、自らが本件楽曲の作曲者であると偽って本件楽曲を含む本件歌曲の著作権を被告CAP社に譲渡し、被告CAP社において、被告JASRACに対して本件歌曲に係る著作権管理を信託し、被告JASRACにおいて、本件歌曲の著作権を管理し著作物使用料を徴収しているなどと主張して、@被告らに対し、原告が本件楽曲の著作権を有することの確認を、A被告JASRACに対し、著作権法112条に基づき、本件楽曲が使用された場合における著作物使用料の徴収の差止めを、B被告Bに対し、同法115条に基づき、謝罪広告の掲載を、それぞれ求める事案である。
 これに対し、被告らは、原告の確認請求に係る訴えについては確認の利益がないとして却下を求め、その余の請求については理由がないとして棄却を求めている。
1 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠又は弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、楽曲制作等をする作家であり、被告JASRACとの間で信託契約を締結していない。
イ 被告Bは、かつてCというアイドルグループのプロデューサーを務めていた者であり、「b」という芸名を有している。
ウ 被告CAP社は、知的財産権の取得、譲渡、貸与、管理や経営コンサルタント業務を主たる目的とする音楽出版社・コンサルティング会社である。
エ 被告JASRACは、音楽の著作物の著作権に関する管理事業等を行う一般社団法人である。
(2) 本件歌曲の著作者
 原告は、本件歌曲の楽曲部分(本件楽曲)を作曲した。
 被告Bは、本件歌曲の歌詞部分(本件歌詞)を作詞した。
(3) 本件歌曲の管理状況
 被告JASRACのウェブサイトにおいて公開している作品検索データベース「J−WID」(以下「J−WID」という。)において、本件歌曲について検索すると、作詞者・作曲者がいずれも被告B、出版社が被告CAP社と記載されていた時期があったが(甲4)、その後、被告JASRACが表示を訂正し、本件歌曲について検索しても、「検索条件に該当するデータが見つかりませんでした。」と記載されるようになった(乙A2)。
2 争点
(1) 原告と被告らとの間における「原告が本件楽曲の著作権を有すること」についての確認の利益の有無
(2) 原告の被告JASRACに対する著作物使用料の徴収の差止めを求める請求の当否
(3) 原告の被告Bに対する謝罪広告掲載請求の当否
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(確認の利益の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 確認の利益の存在
 被告Bは、本件楽曲につき著作権を有しないのに、自らが本件楽曲の作曲者であると偽って本件楽曲を含む本件歌曲の著作権を被告CAP社に譲渡し、被告CAP社は、被告JASRACに対して本件歌曲に係る著作権管理を信託し、被告JASRACは、本件歌曲の著作権を管理し、これが使用された場合には著作物使用料を徴収している。
 被告Bは、本件歌曲の作曲者を原告と認識しながら被告CAP社との間で著作権譲渡契約を締結しており、このことは、原告の本件楽曲に係る著作権(複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、伝達権、口述権、譲渡権、貸与権、著作権法27条及び28条所定の権利)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する。
 被告CAP社は、本件楽曲の著作権管理を被告JASRACに信託しているから、仮に原告と被告Bとの間でのみ、本件楽曲の著作権を原告が有することが確認されても、被告CAP社・被告JASRAC間においては、本件楽曲についての信託が継続される危険性がある。
 被告JASRACのウェブサイト表示では、被告CAP社が本件楽曲の著作権者となっており、被告JASRACに対してウェブサイトの表示の変更を求めるため、被告JASRACとの間において本件楽曲の著作権が原告に帰属することを確認する必要性がある。
 以上の事情に照らせば、被告らとの間において、原告が本件楽曲の著作権を有することを確認する利益がある。
(イ) 被告B及び被告CAP社(以下両者を併せて「被告Bら」という。)の主張について
a 被告Bが被告CAP社に対し、真に、平成28年11月1日付け契約(乙B1及び2)によって著作権譲渡をしたのであれば、本件歌曲に関する譲渡対象が本件歌詞の著作権のみであることは明らかであり、被告CAP社の従業員による誤入力は起こり得ない。そのため、被告Bが、被告CAP社との間で、上記各契約とは別の著作権譲渡契約を締結した可能性も否定できないし、被告CAP社は、被告JASRACに対して本件歌曲に係る著作権を信託した時点で、本件楽曲の作曲者が原告であることを認めていなかった可能性が高い。
b なお、Cが所属する株式会社アライバルがファン向けの特典CDを製作した際に、本件歌曲は同CDに収録されていないにもかかわらず、被告Bは、自らのツイッターアカウントにおいて、同CDに本件歌曲を含む被告Bが関わった曲が収録されたという前提で書き込みを行い(甲7)、被告CAP社は、同CDに収録された曲について被告Bの権利主張を行っている(甲8)。そうすると、被告Bらは、本件楽曲について原告の著作権を争っていたとも解され、今後も争うことは十分に考えられる。
(ウ) 被告JASRACの主張について
a 仮に、被告JASRACが本件歌曲についての著作権を管理対象から除外したとしても、原告が本件楽曲の作曲者であるとして被告JASRACに対して作品届出をした際に、同被告は、原告が本件楽曲の作曲者であることに疑義がある等として同作品届出を受け付けない可能性がある。また、被告JASRACは、当初、本件楽曲の作曲者を被告Bと表示して著作権管理を行っていたものであり、かつ、原告が本件楽曲の作曲者であることを明確に認めていない。以上によれば、原告が被告JASRACとの間においても、本件楽曲に係る著作権者であることを確定する必要性は高く、即時確定の利益が認められる。
b 民事訴訟法115条1項4号の規定は、文言上「請求の目的物」となっているため、「物」の引渡請求訴訟等の給付の訴えがされた場合に判決の効力を物の所持者に拡張しようとするものであるから、本件において判決の効力が被告JASRACに拡張されるとは断定できない。また、同号の規定は、自己固有の利益がない者に対しては当事者として手続保障を与える必要がないという考えが前提となっているところ、本件では、原告の被告JASRACに対する即時確定の利益が認められることから、同被告にも手続保障を与える必要性がある。
 以上によれば、被告JASRACの被告適格は明らかである。
イ 被告Bらの主張
(ア) 被告Bは、平成28年11月1日付けで、被告CAP社との間で著作権管理のための信託譲渡契約を締結したが(乙B1、2)、本件歌曲については本件歌詞の著作権のみが対象で、本件楽曲の著作権は譲渡対象ではなかった。しかし、このときの譲渡対象歌曲が12曲と複数であったため、被告JASRACに対して対象歌曲について再譲渡(信託譲渡)するための手続の際に、被告CAP社の担当職員が誤って本件楽曲の著作権の入力欄に「被告B」と入力してしまった。そして、被告CAP社は、本件訴訟が提起されるまで、上記誤入力に気付かなかった。
 このように、被告Bはもちろん、被告CAP社においても、いずれも本件楽曲の著作権が原告に帰属することについて、これまで一度も争ったことがなく、今後も争うつもりはない。
 したがって、本件訴えのうち確認請求に係る部分につき、確認の利益はない。
(イ) なお、甲8の記載は、仮に株式会社アライバルが製作した特典CDに被告Bが著作権を有する楽曲が収録されるならば、これは同被告の著作権を侵害するものであるから、同CDに含まれる楽曲等を明らかにするように求める旨であり、被告Bが本件楽曲の著作権を有するなどと主張するものではない。
ウ 被告JASRACの主張
(ア) 原告は、自らが本件楽曲の著作権を有していることを前提として、被告JASRACに対し、著作権管理の停止を求める給付請求をしている以上、その前提問題にすぎない本件楽曲の著作権の帰属につき確認する必要は全くない。
(イ) 被告JASRACは、本件楽曲の著作権の帰属につき固有の利益を有しないから、原告が主張する権利又は法律関係を争う立場になく、実際にこれまで原告の主張を争ったことはない。
 また、被告JASRACは、被告CAP社からの著作権信託契約に基づき、本件歌曲の著作権を管理していたが、平成29年2月22日、被告CAP社から、「既に提出済みの本件歌曲に関する作品届は同被告の事務処理上のミスに起因する誤った内容のものであるため、本件歌曲の著作権の管理を行わないように求める」旨の書面が提出されたため、直ちに、本件歌曲を管理対象から除外するとともに、J−WID上の本件歌曲に関する表示も削除した。このように、被告JASRACは、既に本件歌曲を管理対象から除外するとともに、J−WID上の本件歌曲に関する表示も削除しているから、原告の主張する権利又は法律関係に何らの不安も危険も現存しない。
(ウ) 上記のとおり、被告JASRACは、原告の主張する権利又は法律関係を争う立場になく、紛争の当事者である原告と被告Bらとの間で確定した法律関係に従って本件歌曲を取り扱うほかない。そもそも、被告JASRACは、当事者のために請求の目的物を所持する者(民訴法115条1項4号)として、被告Bらに対する判決の既判力が及ぶ立場であるから、原告が被告JASRACを相手方として改めて法律関係を確認する必要は全くなく、同被告に被告適格がないことは明らかである。
(エ) 以上によれば、本件での確認請求は、明らかに確認の利益を欠く違法な訴えであり、却下を免れない。
(2) 争点(2)(被告JASRACに対する差止請求の当否)について
ア 原告の主張
 本件楽曲についての著作物使用料を無権利者により徴収されている状態を是正するため、原告は、被告JASRACに対し、著作権法112条に基づき、同使用料の徴収停止を求める。
 本件では、被告JASRACは被告CAP社から信託を受けて本件楽曲の著作権管理を開始していたとの過去の事実があり、今後、被告Bらの主張が変化した場合等に、被告JASRACが著作権管理を再開するおそれは十分にあるため、差止めの必要性がある。
 また、被告JASRACは、本件楽曲について利用許諾行為を行っているから、著作権侵害を惹起する者であり、著作権法112条所定の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当するといえるから、同被告は、差止請求の名宛人になるべき者である。
イ 被告JASRACの主張
 被告JASRACは、被告CAP社の申出に基づき、既に本件歌曲の著作権を管理対象から除外するとともに、J−WIDの表示からも本件歌曲に関する表示を削除している。したがって、差止請求の対象たる行為は既に存在せず、将来にわたってこれが再開されるおそれは全くないから、同請求は棄却されるべきである。
 なお、本件楽曲については、利用者からの利用許諾申請は皆無であり、被告JASRACが本件楽曲につき利用許諾及び使用料徴収をした事実は全くない。
 また、被告JASRACは、委託者の委託に基づき本件歌曲の著作権管理を引き受ける立場の者にすぎず、自ら著作物の利用を全く行っていないから、そもそも著作権法112条が規定する差止請求権の名宛人ではない。
(3) 争点(3)(被告Bに対する謝罪広告掲載請求の当否)について
ア 原告の主張
 被告Bは、被告CAP社との間で著作権譲渡契約を締結することにより、原告の本件楽曲に係る著作権(譲渡権等)を侵害しており、被告Bが本件楽曲の作曲者であると広く表示された(氏名表示権の侵害)ことから、この表示を見た人の誤解を解き、原告が作曲者であることを広く公表する必要があるため、原告は、著作権法115条により、被告Bに対して謝罪広告掲載を求める。
イ 被告Bの主張
 争う。前記(1)イのとおり、被告Bは、著作権信託譲渡契約において、被告CAP社に対して本件歌曲の作曲著作権を譲渡しておらず、被告CAP社から被告JASRACに対する著作権信託譲渡手続の際の誤入力を知る由もなく、被告Bにおいて原告の著作権を侵害した事実は全くない。したがって、被告Bによる著作権侵害を前提とする、同人に対する謝罪広告掲載請求は、理由がないことが明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 証拠(甲5、乙A1ないし4、乙B1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告JASRACは、音楽の著作物(楽曲を伴う歌詞を含む。)の著作権の擁護と利用の円滑を図るため、音楽の著作物の著作権の管理を委託する作詞者、作曲者、音楽出版社等(委託者)との間で著作権信託契約を締結している。
 そして、委託者は、その有する全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を、信託期間中、信託財産として被告JASRACに移転し、同被告は、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作物使用料等を受益者(原則として委託者)に分配する。
 被告JASRACには、著作権信託契約を締結している委託者から、大量の作品届(著作権の管理委託対象となる音楽著作物の権利関係を記載した届出書)が提出されるところ、同被告は、その都度、作品届の記載に基づき、作品データベースに当該音楽著作物の権利関係を登録し、また管理著作物に関する権利関係の変更や作品届の訂正の申出等があると、既に作品データベースに登録済みの情報の変更・修正を行う。このように整備された作品データベースは、被告JASRACが行う著作権管理業務に使用されるほか、その一部の情報は、同被告のウェブサイトにおいて、作品検索データベース「J−WID」として一般向けに公開されている。
(2) 被告CAP社と被告JASRACとは、平成27年8月1日付けで、著作権信託契約を締結した。
(3) 被告Bは、平成28年11月1日、被告CAP社との間で、本件歌曲を含む複数の歌曲について著作権の譲渡契約を締結した。
 その際、本件歌曲以外の歌曲は、いずれも作詞作曲ともに被告Bが行ったものであったが、本件歌曲のみ、作曲者が被告Bではなく原告であり、本件歌曲のうち歌詞を除く部分(本件楽曲)については、上記契約の対象となってはいなかった。
 被告Bは、上記契約によって、対象歌曲の著作権管理の一切を被告CAP社に委ねたため、その後、被告CAP社が被告JASRACに対して行った登録手続には一切関与していない。
(4) 被告CAP社は、平成28年11月28日、被告JASRACに対し、被告Bとの上記契約の対象となった歌曲につき、インターネット上でのデータ入力により信託財産として移転したが、そのための作品届を記入する際、被告CAP社の担当者が誤って本件歌曲の作詞者・作曲者ともに被告Bと入力してしまい、かつ、被告CAP社はこの誤りを全く認識していなかった。
(5) 被告JASRACは、同月30日、被告CAP社から提出された作品届に基づき、本件歌曲の作詞者及び作曲者をいずれも被告Bとする権利関係を作品データベースに登録し、この内容をJ−WID上に公開した。
(6) 本件訴訟が提起された後、被告CAP社が被告JASRACに対し、本件歌曲の登録情報を確認したところ、作曲者として被告Bが登録されていることが判明した。
 そこで、被告CAP社は、その対処方法について被告JASRACに確認したところ、「作品届の撤回」手続をするよう指示されたため、平成29年2月22日付けで、被告JASRACあてに「作品届の撤回について」と題する書面(乙A1)を提出した。その際、被告CAP社は、本件歌曲について、歌詞と楽曲のいずれも区別なく信託譲渡を撤回した。
 上記書面(乙A1)には、本件歌曲に関して平成28年11月28日付けで提出した作品届の内容に誤りがあったため撤回するとし、被告JASRACにおいて、本件歌曲の著作権管理を行わないように求める旨記載されていた。さらに、同書面には、上記作品届の撤回の理由として、本件歌曲の真の作曲者は原告であるところ、被告CAP社の事務処理上のミスにより、これを被告Bが作曲者であると誤って届け出たものであり、被告CAP社は原告との間で著作権譲渡契約を締結しておらず、今後も同契約を締結する見込みがないためとしている。
(7) 被告JASRACは、平成29年2月24日、本件歌曲の作品届が提出された平成28年11月28日に遡って、本件歌曲を被告JASRACの管理著作物から除外する処理をするとともに、平成29年2月25日、J―WIDから本件歌曲に関する表示を全て削除した。
 その結果、本件歌曲は、現時点では、J−WID上、検索不能となっている。
(8) 被告JASRACが被告CAP社から本件歌曲の作品届を受理してから、上記(7)の除外処理を完了するまでの間、本件歌曲については利用許諾の申込みがなく、被告JASRACが第三者に対して本件歌曲の利用を許諾したり、使用料を徴収した実績はない。
(9) 被告らは、これまで一度も、原告が本件楽曲の著作権を有することを争っておらず、本件訴訟においても、原告が本件楽曲の著作権を有することを認めている。
2 争点(1)(確認の利益の有無)について
(1) 前記1認定のとおり、被告Bは自らが著作者ではない本件楽曲については被告CAP社との間における著作権譲渡契約の対象から外していたが、被告CAP社が、本件歌曲についての作品届を被告JASRACに提出する際に担当者において誤って本件楽曲の作曲者も被告Bである旨入力したために、本件楽曲が被告JASRACにおいて管理されるに至ったにすぎず、本件訴訟の提起後に上記誤りを認識した被告CAP社は、被告JASRACに対し、本件歌曲の信託譲渡を撤回する旨の書面を提出し、被告JASRACは、これを受けて、本件歌曲を同被告の管理著作物から除外する処理を速やかに行い、J−WIDにおいても本件楽曲は検索不可能となっているものであり、被告らは、本件訴訟も含めてこれまで一度も、原告が本件楽曲の著作権を有することを争っていない。以上の事実に照らせば、原告が被告らに対し、原告が本件楽曲の著作権を有することの確認の利益があるとは認められないというべきである。
(2) これに対し、原告は、被告CAP社・被告JASRAC間において著作権信託契約があることから、今後も本件楽曲についての信託が継続される危険性があると主張するが、前記1(6)(7)のとおり、被告CAP社は、被告JASRACに対し、本件歌曲に係る信託譲渡を撤回済みであり、また被告JASRACも、本件歌曲を管理対象から除外したものであり、同被告が、今後、本件楽曲の著作権者が原告ではないことを前提に本件歌曲を管理するおそれがあるとは認められない。
 また、原告は、平成28年11月1日付け契約(乙B1及び2)の存在によれば誤入力などあり得ないため、これとは別途、被告Bが本件楽曲の著作権を被告CAP社に譲渡した可能性があるし、被告CAP社は、本件歌曲に係る著作権を被告JASRACに信託した時点で、本件楽曲の作曲者が原告であることを認めていなかった可能性が高いと主張するが、手作業により入力をする場合には誤入力は発生し得るものであるから、誤入力があり得ないことを前提とする上記主張は採用できない。
 さらに、原告は、甲7及び8における記載を根拠に、被告Bや被告CAP社が本件楽曲についての原告の著作権を争う可能性があると主張するが、甲7及び8は、いずれも、被告Bや被告CAP社が、被告Bが著作権を有する歌曲を第三者が利用したならば、これは著作権侵害であるとして、著作権に基づく権利主張をしようとしたものにすぎず、被告Bが本件楽曲について著作権を有する旨主張したものではない。
 加えて、原告は、今後、原告が本件楽曲について被告JASRACに届け出た際に、同被告が原告の著作権を争うおそれがあるとも主張するが、前記(1)の説示に照らせば、そのようなおそれがあるとは認められない。
 このほか、原告は、確認の利益についてるる主張するが、いずれも採用できない。
(3) 以上のとおり、本件訴えのうち原告が本件楽曲の著作権を有することの確認を求める請求に係る部分については、確認の利益が認められないから、これを不適法として却下することとする。
3 争点(2)(被告JASRACに対する差止請求の当否)について
 前記1認定のとおり、被告JASRACは、本件訴訟の提起後に本件歌曲の作品届の誤りを認識した被告CAP社から本件歌曲の信託譲渡を撤回する旨の書面が提出されたことを受けて、直ちに、本件歌曲を同被告の管理著作物から除外する処理を速やかに行い、J−WIDにおいても本件楽曲は検索不可能となっていたものであり、被告JASRACは、本件訴訟も含めてこれまで一度も、原告が本件楽曲の著作権を有することを争っていないものである。
 以上の事実によれば、被告JASRACが、今後、原告が著作権を有する本件楽曲についてその著作権者が原告ではないことを前提にこれを管理し、これが利用された場合に著作物使用料を徴収するおそれがあるとは認められず、これに反する原告の主張は採用できないから、原告の被告JASRACに対する本件楽曲についての著作物使用料の徴収の差止請求は理由がない。
4 争点(3)(被告Bに対する謝罪広告掲載請求の当否)について
 前記1認定のとおり、被告Bは自らが著作者ではない本件楽曲については被告CAP社との間における著作権譲渡契約の対象から外していたが、被告CAP社の事務処理上の誤りにより、本件楽曲が被告JASRACにおいて管理されるに至ったものであり、このことに被告Bが関与したとは認められず、また、このような事態の発生について被告Bに故意・過失があったとも認められない。
 以上のとおり、被告Bが、本件楽曲に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害したとは認められないし、故意・過失があったとも認められないから、著作者人格権の侵害を前提とする同被告に対する謝罪広告掲載請求は理由がない。
 なお、原告は、著作権(譲渡権等)の侵害も上記請求の根拠とするかのようにも見えるが、そうであれば、著作権法115条に照らし、主張自体失当である。
5 結論
 以上によれば、原告の訴えのうち原告が本件楽曲の著作権を有することの確認請求に係る部分は不適法であるから、これを却下することとし、その余の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 沖中康人
 裁判官 矢口俊哉
 裁判官 島田美喜子は、差支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官 沖中康人


別紙1著作物目録
題名 メランコリーメリーゴーランドガール(一般社団法人日本音楽著作権協会 作品コード223−6769−1)
作曲者 原告 A
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/