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【事件名】ハイホーへの発信者情報開示請求事件 【年月日】平成29年7月20日 東京地裁 平成28年(ワ)第37610号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 平成29年5月23日) 判決 原告 有限会社プレステージ 同訴訟代理人弁護士 提箸欣也 同 渡邉俊太郎 同 野口耕治 同 藤沢浩一 同 成豪哲 同 小椋優 同 鶴谷秀哲 被告 株式会社ハイホー 同訴訟代理人弁護士 梅野晴一郎 同 山内貴博 同 山口敦史 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告に対し、氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して、インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 原告は、アダルトビデオの制作、販売等を業とする株式会社である。 被告は、インターネット接続サービスの提供等の電気通信事業を営む株式会社である。 (2) 本件原告動画 題名を「ギャルハメウィークエンド!!Vol.003」とし、全編の再生時間が195分間である映像の著作物(以下「本件原告動画」という。)は、原告の従業員が職務上作成し、原告の名義の下に公表されたものである。本件原告動画はインターネット上において有料配信されている。(甲5、7、10、12) (3) 本件発信者の行為 被告からインターネットプロトコル(IP)アドレス「(IPアドレスは省略)」の割当てを受けてインターネットに接続した氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、平成28年1月8日午後8時51分41秒頃、本件原告動画の一部を複製して作成した約10分間の動画(以下「本件発信者動画」という。)のデータを動画共有サイトである「FC2動画」の別紙動画目録の投稿先URL欄記載の場所にアップロードし、本件発信者動画を不特定多数の者が閲覧できる状態に置いた(以下、当該行為を「本件投稿行為」という。)。(甲3) (4) 本件発信者動画の内容等 ア 本件発信者動画は、「あのクッキー☆声優がAVデビュー!?.ギャルハメウィークエンド!!Vol.003」との題名が付けられており、冒頭から以下の(ア)〜(ウ)の部分を結合したものである。(甲3、乙3、6) (ア) 本件原告動画のうち冒頭の約3分38秒間の部分であって、男女数名が参加する海辺で開かれたパーティーを男性数名が取材している場面を撮影したもの(以下「本件冒頭部分」という。) (イ) 本件原告動画のうち「HoriHori氏」という名称の者が作成した楽曲(以下「本件楽曲」という。)がBGM(背景音楽)として使用されている約2分18秒間の部分であって、本件冒頭部分に登場した水着の女性数名と男性数名の性交渉の場面を撮影したもの(以下「本件楽曲使用部分」という。) (ウ) 動画共有サイトである「ニコニコ動画」にアップロードされていた、本件楽曲が使用されている約4分4秒間の動画(以下「本件楽曲動画」という。)の部分 イ 本件原告動画のうち、本件楽曲がBGMとして使用されている部分は本件楽曲使用部分のみである。 ウ 本件発信者動画は既に動画共有サイトから削除されている。 (5) 被告による発信者情報の保有 被告はプロバイダ責任制限法4条1項所定の「開示関係役務提供者」であり、本件発信者についての氏名、住所及び電子メールアドレスの情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。 2 争点及び争点に関する当事者の主張 (1) 権利侵害の明白性(プロバイダ責任制限法4条1項1号) (原告の主張) ア 原告は本件原告動画に係る著作権を有するところ(著作権法15条1項)、本件発信者は本件原告動画を含む本件発信者動画のデータを動画共有サイトにアップロードする本件投稿行為をした。これによって本件原告動画に係る原告の公衆送信権(同法23条1項)が侵害されたことは明らかである。 イ 被告は、本件投稿行為は同法32条1項の適法な「引用」である、そうでないとしても正当な行為であると主張する。 しかし、本件発信者動画は他人の著作物を結合した編集物にすぎず「引用」に該当しない。また、本件発信者による本件投稿行為の目的は、本件原告動画中に本件楽曲がBGMとして使用されているという話題を盛り上げることにあり、原告による著作権侵害行為の事実を一般のインターネットユーザーに知らしめて批評することにはない。また、仮にそのような目的があったとしても本件冒頭部分を利用する必要がないこと、被引用著作物である本件原告動画と引用物の主従関係が明確ではないこと、約2分18秒間の性交渉のシーンである本件楽曲使用部分は視聴者の性的欲求を満たすのに足りるものであり、本件原告動画の有料視聴の需要を減少させるものであることから、本件投稿行為は公正な慣行に合致した正当な範囲内で行われたものとはいえず、「引用」として適法になる余地はない。 また、仮に本件発信者が原告による著作権侵害行為を問題視していたのであれば本件発信者動画をアップロードする前に原告に問い合わせること等の別の手段を採ることも容易にできたこと、本件投稿行為の際に閲覧できるインターネットユーザーを限定することもできたこと等からすると、本件投稿行為が正当な行為として違法性が阻却されることはない。 (被告の主張) ア 本件投稿行為は著作権法32条1項の適法な引用である。すなわち、本件発信者は、原告が本件原告動画において本件楽曲をBGMとして使用することにより本件楽曲の著作権者の権利を侵害していることを一般のインターネットユーザーに知らしめて批評することが目的であったこと、本件楽曲使用部分のほか、本件楽曲使用部分が本件原告動画の一場面であることを示すために本件冒頭部分を利用している一方でその他の部分は利用しておらず、上記目的に必要な範囲内の利用であること、本件発信者動画に利用されたのは本件原告動画全体の僅か3%程度にすぎず、本件原告動画に係る原告の経済的利益に対する悪影響が皆無であること、本件発信者動画のデータを動画共有サイトにアップロードするに当たり、本件原告動画の出所も明示していること(同法48条1項1号)から、本件投稿行為は公正な慣行に合致した正当な範囲内の利用であり、引用として適法である。 イ 仮に、本件投稿行為が適法な引用に該当しないとしても、上記アの本件発信者動画に利用された本件原告動画の割合及び本件発信者による本件投稿行為の目的に照らせば、本件投稿行為は正当な行為として違法性が阻却される。 ウ したがって、本件投稿行為によって本件原告動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかとはいえない。 (2) 正当な理由の有無(プロバイダ責任制限法4条1項2号) (原告の主張) 原告は、本件発信者に対して損害賠償請求をする予定であり、そのためには本件発信者情報の開示を受ける必要がある。 (被告の主張) 原告が本件投稿行為により生じた損害について具体的に主張立証をしないこと、本件発信者動画は既に削除されていることに加え、前記の本件投稿行為の目的、本件発信者動画に利用された本件原告動画の割合及びこれによる本件原告動画に係る原告の経済的利益に対する影響の程度を踏まえると、プロバイダ責任制限法の趣旨に照らし、本件において原告が本件発信者の情報の開示を求めることに「正当な理由」はなく、あるいは権利の濫用というべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(権利侵害の明白性)について (1) 本件原告動画に係る原告の著作権侵害について 本件原告動画は、原告の従業員が職務上作成した著作物であって原告の名義の下に公表されたものであるから(前提事実(2))、本件原告動画は原告の職務著作(著作権法15条1項)に当たり、原告は本件原告動画に係る著作権を有する。そして、本件原告動画から本件冒頭部分及び本件楽曲使用部分を複製して作成された本件発信者動画のデータを本件発信者が動画共有サイトにアップロードし、これを不特定多数の者が閲覧できる状態に置く本件投稿行為をした(前提事実(3))のであるから、本件投稿行為により原告の公衆送信権が侵害されたということができる。 (2) 本件投稿行為は適法な引用(著作権法32条1項)に該当するか ア 被告は、本件発信者動画は本件楽曲の著作権を本件原告動画が侵害していることを示して批評する目的で本件原告動画の一部を引用したものであり、その引用は公正な慣行に合致し、正当な範囲内で行われたから、本件投稿行為は著作権法32条1項の適法な引用であると主張する。 イ そこで、まず、本件発信者動画における本件原告動画の利用が被告の主張する上記批評目的との関係で「正当な範囲内」(著作権法32条1項)の利用であるという余地があるか否かにつき検討する。 前提事実(4)ア、イのとおり、@本件発信者動画は冒頭から順に本件冒頭部分(約3分38秒)、本件楽曲使用部分(約2分18秒)及び本件楽曲動画(約4分4秒)から構成され、A本件楽曲使用部分以外に本件原告動画において本件楽曲が使用された部分がない。ここで、本件原告動画において本件楽曲が使用されている事実を摘示するためには、本件楽曲使用部分又はその一部を利用すれば足りる。本件冒頭部分の内容(前提事実(4)アに照らしても、本件原告動画において本件楽曲が使用されている事実を摘示するために本件冒頭部分を利用する必要はないし、上記の事実の摘示との関係で本件楽曲部分の背景等を理解するために本件冒頭部分が必要であるとも認められない。そうすると、仮に本件発信者に被告主張の批評目的があったと認められるとしても、本件発信者動画における本件冒頭部分も含む本件原告動画の上記利用は目的との関係において「正当な範囲内」の利用であるという余地はない。 この点につき、被告は、本件楽曲使用部分が本件原告動画に含まれることを示すために本件冒頭部分を利用したと主張する。しかし、上記各部分の内容(前提事実(4)ア)に照らせば、本件楽曲使用部分が本件原告動画に含まれると判断するために本件冒頭部分の利用が必要であると認めることはできない。 ウ 以上によれば、本件原告動画の利用が引用に当たるか否かやその余の著作権法32条1項の要件につき検討するまでもなく、本件原告動画の利用が同項の適法な引用となることはない。被告の主張は採用することはできない。 (3) 本件投稿行為が正当な行為として違法性が阻却されるか 被告は、本件原告動画のうち本件発信者動画に利用された割合及び本件発信者による本件投稿行為の目的に照らせば本件投稿行為が正当な行為として違法性が阻却されると主張する。しかし、仮に上記目的が認められるとしても、著作権法32条1項の適法な引用に該当しない以上、正当な行為として違法性が阻却されるとはいえないというべきである。 (4) 小括 以上によれば、本件投稿行為を正当化する事由は見当たらないから、本件発信者が原告の本件原告動画に係る公衆送信権を侵害したことが明らかである。 2 争点(2)(正当な理由の有無)について 上記1によれば、原告は本件発信者に対して本件原告動画に係る著作権侵害に基づき損害賠償請求権等を行使し得る。そして、本件発信者の氏名、住所等を知る手段が他にあるとうかがわれないから、原告が本件発信者に対して損害賠償を請求するために本件発信者情報の開示が必要であることは明らかである。 これに対し、被告は、本件において原告が本件発信者情報の開示を求めることに「正当な理由」はなく、あるいは権利の濫用というべきであると主張するが、本件発信者動画に使用されたのが本件原告動画全体の一部にすぎないことや、既に本件発信者動画が削除されていること等の理由から上記損害賠償請求権等の行使が権利の濫用となるとはいえないから、本件発信者情報の開示の必要性は失われない。したがって、被告の主張は採用することができない。 3 結論 よって、原告の請求には理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 萩原孝基 裁判官 大下良仁 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の投稿日時頃に、同目録記載のIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の下記情報 記 @ 氏名又は名称 A 住所 B 電子メールアドレス 以上 (別紙)動画目録 投稿先URL (省略) 投稿日時 2016/01/08 20:51:41 IPアドレス (省略) 以上 |
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