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【事件名】NTTぷららへの発信者情報開示請求事件
【年月日】平成29年6月2日
 東京地裁 平成29年(ワ)第9325号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年5月17日)

判決
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 大熊裕司
同 島川知子
被告 株式会社NTTぷらら
同訴訟代理人弁護士 松尾翼
同 小杉丈夫
同 西村光治
同 橋慶彦
同 花見佳澄


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の電子掲示板に写真を投稿したことにより原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。)
(1) 当事者
 原告は、肩書地に居住する者である(甲10)。
 被告は、電気通信事業を営み、インターネット接続サービスを提供する株式会社である。
(2) 氏名不詳者による写真の投稿
 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、インターネット掲示板「ホストラブ」(以下「本件ウェブサイト」という。)内に設置された「●(省略)●」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)において、別紙投稿記事目録1及び2記載の記事(以下、同目録記載の番号に従って「本件記事1」、「本件記事2」といい、これらを併せて「本件各記事」という。)を発信した(甲2、3)。
(3) 被告の「開示関係役務提供者」該当性
 原告は、本件ウェブサイトの管理者に対し、本件発信者に係る発信者情報の開示請求をし、同管理者からIPアドレス等の開示を受けたところ(甲5)、このIPアドレスは被告の保有に係るものであり、本件発信者は、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件各記事を本件ウェブサイトに発信していた(甲6)。
 したがって、被告は本件発信者に対してインターネット接続サービスを提供していたから、本件各記事の投稿に関し、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(4) 被告による情報の保有
 被告は、本件発信者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの各情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
2 争点
(1) 権利侵害の明白性
(2) 発信者情報開示を受けるべき正当理由の有無
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(権利侵害の明白性)について
〔原告の主張〕
(1) 本件記事1に掲載されている写真(以下「本件写真1」という。)は、原告が平成28年10月頃にスマートフォンで撮影した写真(以下「原告写真1」という。)のコピーであり、原告が著作権を有している。原告は、平成28年11月9日、「ワクワクメール」における日記に原告写真1を掲載したが、同月10日、本件発信者によって本件写真1を本件スレッドに掲載された。原告は、本件写真1を本件スレッドに掲載することを許諾しておらず、本件記事1は、原告の原告写真1に係る複製権・公衆送信権を侵害する。
(2) 本件記事2に掲載されている写真(以下「本件写真2」という。)は、原告が平成28年2月頃にスマートフォンで撮影した写真(以下「原告写真2」という。)のコピーであり(なお、赤字で丸印、矢印を記載したのは原告ではなく、本件発信者である。)、原告が著作権及び著作者人格権を有している。原告は、「ワクワクメール」における日記に、原告写真2を掲載したが、平成28年11月10日、本件発信者によって本件写真2を本件スレッドに掲載された。原告は、本件写真2を本件スレッドに掲載することを許諾しておらず、本件記事2は、原告の原告写真2に係る複製権・公衆送信権を侵害する。また、本件発信者が当該写真の一部を拡大し、赤字で丸印、矢印を記載した行為は、原告の原告写真2に係る同一性保持権を侵害する。
(3) よって、本件写真1及び2が、本件記事1及び2にそれぞれ掲載されたことにより、原告の権利が侵害されたことが明らかである。
〔被告の主張〕
 否認する。
 本件記事1につき、そもそも原告が原告写真1を撮影したのか不明であり、原告が著作権を有することが立証されていない。
 本件記事2につき、原告が撮影したことの根拠とする写真(甲8)は、本件写真2とは被写体や構図等を全く異にする写真であり、本件写真2の被写体と類似する物品が存在することを示唆するにとどまっており、原告が原告写真2について著作権及び著作者人格権を有することが客観的に明らかにされていない。
2 争点(2)(本件発信者情報の開示を受けるべき正当理由の有無)について
〔原告の主張〕
 原告は、本件発信者に対して著作権侵害に基づく損害賠償を請求するため、被告に対し、本件発信者の本件発信者情報の開示を求めるものであるから、正当理由の要件を充足している。
〔被告の主張〕
 不知ないし争う。
第4 争点に対する判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 証拠(甲2、8〜10)及び弁論の全趣旨によれば、原告は平成28年10月頃、青空や白い雲などを被写体とした原告写真1をスマートフォンで撮影し、平成28年11月9日、「コミュニティサイト『ワクワクメール』」における日記に同写真を掲載したことが認められる。そして、同月10日、本件発信者が上記日記に掲載された原告写真1を複製して本件写真1を本件スレッドに掲載したものと推認できる。また、証拠(甲3、8〜10)及び弁論の全趣旨によれば、原告は平成28年2月頃、花の咲いた鉢植えなどを被写体とした原告写真2をスマートフォンで撮影し、上記「ワクワクメール」における日記に同写真を掲載したことが認められる。そして、同年11月10日、本件発信者が上記日記に掲載された原告写真2を複製し、これを切り取り、拡大するなどした上、画像上に赤字で丸印や矢印を付した本件写真2を本件スレッドに掲載したものと推認できる。
(2) そうすると、原告が原告写真1及び2の著作者であること、本件各記事に掲載された本件写真1及び2はそれぞれ原告の著作物である原告写真1及び2を複製したものであること、本件写真2は原告写真2の一部を切り取り、拡大するなどした上、赤字で丸印や矢印を付して改変したものであることが認められるから、本件発信者による本件各記事の投稿は原告写真1及び2に係る原告の複製権及び公衆送信権並びに原告写真2に係る同一性保持権の侵害に当たると認めるのが相当である。
(3) 被告の主張に対する判断
 この点に関して被告は、原告写真1及び2の撮影者が原告であるかどうかが不明である旨主張する。
 しかし、原告が原告写真1及び2を撮影した旨の原告の陳述書(甲9、10)の記載に不自然な点はうかがわれず、不鮮明ではあるものの前記「ワクワクメール」に投稿をした原告写真1と本件写真1が同じ画像と評価できること(甲2、8)、本件写真2の被写体の一部を原告が保有しているものと認められること(甲3、8)に加え、原告の陳述書の記載に反する客観的証拠もないことからすると、原告が原告写真1及び2を撮影したとする上記陳述書の記載の信用性は否定されるものではない。
 そして、本件の関係各証拠上、本件写真1及び2に係る著作権及び著作者人格権を制限する事由が存在することはうかがわれない。
(4) したがって、本件各記事が本件ウェブサイトに掲載されたことによって原告の権利が侵害されたことは明らかである。
2 争点2(発信者情報開示を受けるべき正当理由の有無)について
 原告は、本件発信者に対して原告写真1及び2の複製権及び公衆送信権並びに原告写真2の同一性保持権侵害を理由とする損害賠償請求権等を行使することができるところ、その行使をするためには、その発信者情報の開示が必要であると認められる。
 したがって、原告には被告から本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
3 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。
 
東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 東海林保
 裁判官 廣瀬孝
 裁判官 遠山敦士


別紙 発信者情報目録
 別紙投稿記事目録記載の各投稿記事に同目録記載の投稿用URLに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する情報であって、次に掲げるもの
@氏名または名称
A住所
B電子メールアドレス
 以上

別紙 投稿記事目録
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