判例全文 line
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【事件名】総合業務管理ソフトの譲渡契約事件(2)
【年月日】平成29年4月27日
 知財高裁 平成28年(ネ)第10107号 不正競争行為差止、プログラム著作権確認各請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成28年(ワ)第360号、第2943号(第1事件)、同第4961号(第2事件))
 (口頭弁論終結日 平成29年2月21日)

判決
控訴人(一審原告) ソフトウェア部品株式会社
控訴人(第1事件参加人・第2事件原告) 株 式 会 社 ビ ー エ ス エ ス
控訴人(第1事件参加人・第2事件原告) ソフトウエア部品開発株式会社
控訴人(第1事件参加人・第2事件原告) X1
控訴人(第1事件参加人・第2事件原告) X2
被控訴人(一審被告) 日本電子計算株式会社
訴訟代理人弁護士 難波修一
同 三谷革司
同 和氣礎


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1) 被控訴人は、JIPROS(以下「被控訴人製品」という。)を販売してはならない。
(2) 被控訴人は、被控訴人製品及びカタログ類を全て廃棄せよ。
(3) 被控訴人は、被控訴人のホームページ上及びインターネットを利用した広告媒体上から被控訴人製品に関係する掲載情報を全て削除せよ。
(4) 被控訴人は、被控訴人製品のファイルを含むプログラム(オブジェクトコード及びソースコード)及び別紙BSS―PACK中核部(ミドルソフト)営業秘密部プログラム目録記載のプログラム(オブジェクトコード及びソースコード)をこれらが保存されている記録媒体を含むコンピュータから全て削除せよ。
3 別紙プログラム目録記載1から3までの各プログラムの著作権は、控訴人らが保有することを確認する。
第2 事案の概要(以下、用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほか、原判決に従い、原判決で付された略称に「原告」とあるのを「控訴人」に、「被告」とあるのを「被控訴人」に、適宜読み替える。)
1 事案の要旨
 第1事件は、控訴人(一審原告)ソフトウェア部品株式会社(以下「控訴人ソフトウェア部品社」という。)が、被控訴人(一審被告)に対し、別紙BSS―PACK中核部(ミドルソフト)営業秘密部プログラム目録記載のプログラム(オブジェクトコード及びソースコード。以下「本件営業秘密部プログラム」という。)が、控訴人ソフトウェア部品社の営業秘密に当たるところ、被控訴人がこれを取得して使用し、被控訴人製品を製造して販売したことが不正競争防止法2条1項4号、5号及び10号に該当すると主張して、不正競争防止法3条1項に基づき、被控訴人製品の販売の差止を求めるとともに、同条2項に基づき、被控訴人製品の廃棄等を求める事案である。控訴人(第1事件参加人・第2事件原告)株式会社ビーエスエス(以下「控訴人ビーエスエス社」という。)、同株式会社ソフトウエア部品開発株式会社(以下「控訴人ソフトウエア部品開発社」という。)、同X1(以下「控訴人X1」という。)及び同X2(以下「控訴人X2」という。)は、いずれも、控訴人ソフトウェア部品社から、本件営業秘密部プログラムの持分の譲渡を受け、控訴人ソフトウェア部品社と、本件営業秘密部プログラムを共有するに至ったと主張して、承継参加を申し出て、前記の控訴人ソフトウェア部品社の各請求と同じ各請求をしている。
 第2事件は、控訴人らが、被控訴人に対し、別紙プログラム目録記載1〜3の各プログラム(以下「本件先行ソフトウェア部品プログラム」という。)について、原著作権又は二次的著作権を有すると主張して、本件先行ソフトウェア部品プログラムの著作権を有することの確認を求める事案である。
 原判決は、控訴人ビーエスエス社が本件営業秘密部プログラムについての営業秘密や本件先行ソフトウェア部品プログラムについての著作権を有していたとしても、これらは株式会社サンライズ・テクノロジー(以下「サンライズ社」という。)に譲渡されており、控訴人らが現時点でこれらを有するということはできないとして、控訴人らの第1事件及び第2事件に係る各請求をいずれも棄却したため、控訴人らは、これを不服として本件控訴を提起した。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
 以下のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の2(3頁18行目〜6頁1行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁23行目及び25行目の各「である」を「である(甲1、3、4)」とそれぞれ改める。
(2) 原判決4頁26行目の「乙1」を「甲19の1・2、乙1の1〜5」と改める。
(3) 原判決5頁24行目の「乙1」を「甲19の1・2、乙1の1〜5」と改める。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
 争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり、当審における主張を追加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の3(6頁2行目〜8頁13行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決6頁21行目の「本件営業秘密部プログラムは」の後に「、それが営業秘密に該当するか否かにかかわらず、」を加え、7頁1行目〜2行目の「エスクロウ目的のためと」を「エスクロウエージェントにソフトウェアのソースコード(写し)を預託することでエンドユーザーにおける当該ソフトウェアの安定的な使用の確保を目的とした制度である、エスクロウのためと」に改め、同頁4行目の「取得し、」の後に「平成19年10月には、」を加え、同頁6行目の「に当たる。」の後に「この不正な状態は現在も続いており、これを是正するために、その販売の差止めが必要である。」を加え、同頁8行目の「被告は、」の後に「平成21年5月22日、株式会社フロンテック(以下「フロンテック」という。)から、」を加え、同頁9行目の「適法に譲り受けたのであり」を「、フロンテックが譲渡対象プログラム等に係る著作権を適法に保有していることを前提として、譲り受けたのであるから」に改め、同頁18行目〜19行目の「そして、原告らは・・・合意をした」を「これらは、控訴人ビービーエス社が平成18年12月15日に事業を休止したことから、控訴人ソフトウェア部品開発社に譲渡され、同社が平成21年8月に事業を休止したことから、控訴人ソフトウェア部品社に譲渡され、控訴人らは、平成28年1月18日付けで、これらの本件各著作権を共有する旨の合意をした(丙1)」と改め、8頁1行目の「争うので」を「争い、控訴人ソフトウェア部品社は、別件判決の理由中の判断で本件先行ソフトウェア部品プログラムの著作権の移転があったとの判断がされた(甲27)ため、当該製品の販売を停止しているところ、早期に事業を再開するため、本件各著作権の確認が必要であるから」に、同頁8行目〜9行目の「原告らに留保されていたものと推定される」を「控訴人ビーエスエス社に留保されていた」にそれぞれ改める。
(当審における当事者の主張)
1 控訴人ら
(1) 本件譲渡契約は、次のとおり、民法90条により、無効である。
ア(ア) 旧BSS−PACKの全プログラムとその著作権及びソースコードは、本件譲渡契約時、控訴人X1が保有していたのであり、また、その他にBSS−PACKに関する知的財産権で控訴人X1が保有していたものがあった。本件譲渡契約は、控訴人ビーエスエス社が保有しない他人(控訴人X1)が保有する権利をもその対象とすることとなり、民法90条により無効である。
(イ) 控訴人ビーエスエス社には、契約時現在保有していないプログラムとその権利を当該他人から譲り受けてまでもこれを譲渡する義務はない。
イ 本件譲渡契約の対価である11億5000万円は、@開発原価(約24億円)に及ばないこと、A平成18年3月のBSS−PACK製品全体での現在価値(著作権保護期間の残存期間の販売見込総額に複利現価を乗じて算出。ただし、本件営業秘密部プログラムは営業秘密である限り年数の限度はない。)は、50年後までを算定すると約41兆円、40年後までとしても約22兆円であること、B著作者人格権の不行使までもサンライズ社に約していること、Cその対価が相殺契約により支払われていないこと(控訴人ビーエスエス社がサンライズ社から本件合意に基づく支援金として現金として支払を受けた 1 億8千万円弱が、実質的に対価ということもできる。)、D原判決は、登録、非登録にかかわらず一切のプログラムについて著作権法27条、28条の権利が含まれるとしたことにより、妥当性はなく、本件譲渡契約は、暴利行為であるから、民法90条により無効である。
ウ サンライズ社と控訴人ビーエスエス社との間の事業継続支援の合意の最終契約として本件譲渡契約があるとすれば、サンライズ社による控訴人ビーエスエス社及びこれを承継した控訴人ソフトウエア部品開発社への支援に期限はないから、本件譲渡契約の履行が完了しても、サンライズ社は、協業と支援を継続する義務があった。それにもかかわらず、サンライズ社は、支援を打ち切った。
 サンライズ社は、資金窮乏の状態にあった控訴人ビーエスエス社から一切のBSS−PACKプログラムとその権利を取得するために、まずサンライズ社との協業発展を持ち掛け、そのために支援をするとし、この支援が長期間継続するかに見せ掛けて、控訴人X1を欺罔し、協業体制とその支援が継続するとの錯誤に陥れて、本件登録プログラムの著作権とそのソースコード及び本件営業秘密部プログラムのソースコードを詐取した。
 サンライズ社がBSS−PACKに関する一切の権利を保有する状態に置き続けることを容認することは、正義の観念に反するから、本件譲渡契約は、民法90条により無効である。
エ 平成7年頃には日本IBM社と控訴人ビーエスエス社は独占契約を締結したが、これ以後、平成8年の日本開発銀行等との譲渡担保権設定契約のほか、現在に至るまでの違法な行為により、控訴人らの権利が侵害され続けている(憲法29条、民法34条)。
 個々の契約は、一見それ自体有効に成立している外観を持ってはいるが、事件全体を貫くものは、独占禁止法違反(日本IBM社の優越的地位による独占納入義務の強要)、暴利行為(譲渡担保権設定契約で譲担保権者による貸付額と利息を超えた資金回収)、有印私文書偽造(控訴人X1所有物を含めて控訴人ビーエスエス社保有の資産一切を譲渡するとの文書と代表者実印の偽造)とその行使、著作権侵害(控訴人ビーエスエス社が許諾をしていないユーザー等によるBSS−PACKの使用、改変、不正販売等)、不正競争行為(BSS−PACK営業秘密部プログラムの不正取得、営業秘密侵害行為)などの違法行為である。
 サンライズ社を使って、最終目的である控訴人ビーエスエス社創作の資産一切を取得し、永久に横領を継続する計画であった。資産一切を取得した後は、控訴人ビーエスエス社らの権利主張を封じる必要があることから、控訴人ビーエスエス社らを破産に至らしめ、本件登録プログラムの著作権登録を抹消して、旧BSS−PACKを含むBSS−PACKが控訴人ビーエスエス社により創作された事実を抹消する必要があり、これを実現させる計画であった。
 本件譲渡契約は、この違法な目的を達成させるために違法な契約締結を積み重ねる過程でのその一段階であり、事件全体の違法性という観点から、民法90条により無効である。
(2)ア 被控訴人は善意の第三者であるとの主張に対して
 被控訴人は、前記(1)エの首謀者であるから、善意の第三者ではない。また、仮に、被控訴人が善意の第三者であったとしても、被控訴人は、非登録プログラム著作物に関して、その唯一のソースコードである創作したソースコードそのもの(通常、その開発環境とともにハードウェアにある、以下「創作ソースコード」という。)とその他これに関連する一切の著作物等(以下この二つを指す場合には「創作ソースコード等」という。)の引渡しを受けて保有をしなければ、現在の保有者である控訴人らにその権利保有を対抗することはできない。
 控訴人ビーエスエス社は、本件登録プログラムの以外の非登録プログラムの創作ソースコード等をサンライズ社に引き渡しておらず、創作ソースコードは、その開発環境とともにこれを格納するハードウェアごと、これに関連するユーザーズマニュアル等ほか一切の著作物等とともに、平成18年12月16日にすべて控訴人ソフトウエア部品開発社が保有した。その後、平成20年4月1日には控訴人ソフトウェア部品社が保有し、これを控訴人ソフトウエア部品開発社に貸与等した。その後、平成21年8月、控訴人ソフトウエア部品開発社の休業により、控訴人ソフトウェア部品社が事業を承継した。創作ソースコードの著作権は、平成28年1月、控訴人らが共有し、管理は共有者の一人である控訴人ソフトウェア部品社が行っている。
イ 控訴人ビーエスエス社は法定追認したとの主張に対して
 控訴人ビーエスエス社は、平成19年3月、本件登録プログラム代が未払であることから、サンライズ社に対して、この代金を請求したところ、この訴訟は請求棄却となり、その結果、代金の支払はなく、法定追認と本件譲渡契約の有効性及びサンライズ社が本件登録プログラムの著作権者であることが確定することになった(東京地判平成20年7月29日、以下「平成20年判決」という。)が、サンライズ社は、控訴人ソフトウエア部品開発社を資金窮乏状態にして、控訴人ビーエスエス社が必ず請求するように仕向け、敗訴させたものである。サンライズ社が行った詐欺行為(民法96条1項)は、その法定追認(民法125条2号)により、本件譲渡契約を解除させないようにするためであった。
2 被控訴人
(1) そもそも、旧BSS−PACKが存在し、それに関する権利を控訴人X1が保有していたか否かも不明であるが、仮に控訴人X1が当時そのような権利を保有しており、それが本件譲渡契約の目的物に含まれるとしても、控訴人ビーエスエス社が控訴人X1から譲渡を受けた上で本件譲渡契約の譲受人に引き渡す義務を負うことになるだけであって、本件譲渡契約の効力には影響しない。
(2) 本件譲渡契約締結当時、BSS−PACKには十分な売上げがなかったのであり、このようなソフトウェアの対価として11億5000万円という金額が不当に安価とは考えられない。
(3) 被控訴人は、本件譲渡契約等の締結経緯を知らないが、控訴人らの主張を前提としても、サンライズ社は、本件譲渡契約締結後半年間の支援を行っており、サンライズ社による欺罔行為があったとは考え難い。
 仮にサンライズ社による欺罔行為があったと仮定しても、問題になるのは詐欺取消し(民法96条1項)であり、本件譲渡契約が民法90条により無効となることはない。
 控訴人ビーエスエス社は、平成20年に、控訴人らが主張する「事業継続支援の不当な打ち切り」を認識した上で、本件譲渡契約の譲渡対価をサンライズ社に請求しており(平成20年判決)、履行の請求(民法125条2号)により、取消権を喪失しているし、善意の第三者である被控訴人に対し、取消しを対抗することができない(民法96条3項)。
(4) 違法な目的を達成させるための過程の一段階であるとの控訴人らの主張は憶測にすぎず、事実と異なる。
 そもそも、「事件全体の違法性」から個別契約が民法90条で無効となるようなことはなく、失当である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、当審における主張及び立証を踏まえても、控訴人らが、本件営業秘密部プログラムについての営業秘密や本件先行ソフトウェアプログラムについての本件各著作権を有するということはできないものと判断した原判決は、相当であると判断する。
 その理由は、次のとおりである。
(1) 前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
ア(ア) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)及びBSS−PACKサーバー(UNIX)につき、平成8年3月29日、控訴人ビーエスエス社から日本開発銀行及び株式会社住友銀行に対する平成8年1月31日譲渡担保権設定契約に基づく著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1、乙1の1・2)。
(イ) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)及びBSS−PACKサーバー(UNIX)につき、平成9年8月7日、日本開発銀行及び株式会社住友銀行から控訴人ビーエスエス社に対する平成9年3月17日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされるとともに、控訴人ビーエスエス社から日本開発銀行、株式会社住友銀行、株式会社三和銀行及び株式会社東京三菱銀行に対する平成9年3月17日譲渡担保権設定契約に基づく著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1、乙1の1・2)。
(ウ) 本件登録プログラムのうち、部品マイスターにつき、平成11年1月12日、控訴人ビーエスエス社からインターナショナル・システム・サービス株式会社、株式会社富士銀行、株式会社あさひ銀行、株式会社東海銀行、株式会社群馬銀行、東洋信託銀行株式会社、更生会社株式会社日本リース管財人に対する平成10年3月31日譲渡担保権設定契約に基づく著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(乙1の4)。
(エ) 本件登録プログラムのうち、部品ビューにつき、平成11年7月28日、控訴人ビーエスエス社から日本開発銀行及びインターナショナル・システム・サービス株式会社に対する平成11年7月12日譲渡担保権設定契約に基づく著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(乙1の5)。
(オ) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)及びBSS−PACKサーバー(UNIX)につき、平成13年4月27日、日本政策投資銀行、株式会社住友銀行、株式会社三和銀行及び株式会社東京三菱銀行から控訴人ビーエスエス社に対する平成13年3月30日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされるとともに、本件登録プログラムのうち、前記各プログラムのほか、BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)につき、控訴人ビーエスエス社から日本政策投資銀行、株式会社住友銀行、株式会社三和銀行、株式会社東京三菱銀行及びインターナショナル・システム・サービス株式会社に対する平成13年3月30日譲渡担保権設定契約に基づく著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜3)。
(カ) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)、BSS−PACKサーバー(UNIX)及びBSS−PACKサーバー(WindowsNT版)につき、平成14年11月15日、株式会社三和銀行が商号変更した株式会社ユーエフジェイ銀行及び株式会社東京三菱銀行の日本政策投資銀行、株式会社住友銀行が商号変更した株式会社三井住友銀行及びインターナショナル・システム・サービス社に対する平成14年9月30日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の持分の譲渡があった(持分は、日本政策投資銀行494085229分の200000000、株式会社三井住友銀行494085229分の108600487、インターナショナル・システム・サービス社494085229分の185484742)との著作権の持分の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜3)。
(キ) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)、BSS−PACKサーバー(UNIX)及びBSS−PACKサーバー(WindowsNT版)につき、平成15年3月14日、日本政策投資銀行及び株式会社三井住友銀行のインターナショナル・システム・サービス株式会社に対する平成15年2月10日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の持分全ての譲渡があり当該著作権はインターナショナル・システム・サービス株式会社が単独で保有することになったとの著作権の持分の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜3)。
 また、本件登録プログラムのうち、部品ビューにつき、平成15年3月14日、日本政策投資銀行のインターナショナル・システム・サービス株式会社に対する平成15年2月10日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の持分全ての譲渡があり当該著作権はインターナショナル・システム・サービス株式会社が単独で保有することになったとの著作権の持分の譲渡の登録がされた(乙1の5)。
(ク) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)、BSS−PACKサーバー(UNIX)、BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)及び部品ビューにつき、平成18年4月11日、インターナショナル・システム・サービス株式会社から控訴人ビーエスエス社に対する平成18年2月1日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜3、5)。
(ケ) 本件登録プログラムのうち、BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)、BSS−PACKサーバー(UNIX)及びBSS−PACKサーバー(WindowsNT版)及び部品ビューにつき、平成18年4月17日、控訴人ビーエスエス社からサンライズ社に対する平成18年4月7日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜3、5)。
(コ) 本件登録プログラムのうち、部品マイスターにつき、平成18年10月4日、インターナショナル・システム・サービス株式会社、グローバル債権回収株式会社及び株式会社山田債権回収管理総合事務所から控訴人ビーエスエス社に対する平成18年9月27日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされるとともに、控訴人ビーエスエス社からサンライズ社に対する平成18年9月27日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(乙1の4)。
(サ) 本件登録プログラムにつき、平成19年10月3日、サンライズ社からフロンテックに対する平成19年9月19日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜5)。
(シ) 本件登録プログラムにつき、平成21年6月8日、フロンテックから被控訴人に対する平成21年5月22日著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡の登録がされた(甲19の1・2、乙1の1〜5)。
イ 控訴人ビーエスエス社とサンライズ社は、平成18年3月28日、本件合意書(甲44、乙3。以下「本件合意書」という。))記載のとおりの次の内容の本件合意をした。
 「第1条(ソフトウェアの譲渡の合意)
1 乙(判決注:控訴人ビーエスエス社。以下同じ。)は甲(判決注:サンライズ社。以下同じ。)に対し、乙の所有する下記記載のプログラムその他の著作物(文書、図面、磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)及び当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権(以下、「本件ソフトウェア」という。)の所有権を以下の条件で移転し、かつ当該各著作物を引き渡すことに合意する。なお、本件ソフトウェアの譲渡にあたっては、甲及び乙は、より詳細な条件を定めた最終契約書(以下、「本件最終契約書」という。)を別途締結するものとする。

(1) 登録済プログラム著作物
(判決注:本件合意書記載の表示番号、著作物の題号のみを記載し、登録年月日及び枠線の記載は省略する。)
@ P第4574号 BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)
A P第4724号 BSS−PACKサーバー(UNIX)
B P第5363号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)
C P第6339号 部品ビュー
D P第5814号 部品マイスター
(登録先:財団法人ソフトウェア情報センター)
(2) 非登録プログラム著作物
 上記(1)の著作物のバージョンアップ等改良後のプログラム著作物、その他関連する一切のプログラム著作物
(3) 上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物
 ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物
2 乙は、本件最終契約書締結日に、本件ソフトウェアについて、担保権その他本件ソフトウェアを制限する一切の権利を抹消し、何等制限のない状態で甲に引渡す。但し、前記(1)D及びそれに関る前項(2)(3)のプログラムその他の著作権に対して乙が第三者のために設定している譲渡担保権については、乙は、甲乙間で別途定める期日までに当該譲渡担保権の抹消を行うものとする。
3 乙は、本条第1項(1)に関する著作権については、本件最終契約書締結後すみやかに移転登録手続きを行い、登録の完了を証する書類を甲に提出するものとする。但し、本条第1項(1)Dに関する著作権については、乙は、甲乙間で別途定める期日までに移転登録手続きを完了させるものとする。なお、当該移転登録手続きに要する一切の費用は乙の負担とする。
4 本件ソフトウェアの譲渡価額は金1、150、000、000円(消費税別)とする。
5 甲は乙に対し、前項の譲渡代金を本条第3項の移転登録手続き完了後6ヶ月以内に、乙の指定する銀行口座に振込みにより支払うものとする。
6 乙は甲に対し、本件最終契約書締結日以降、本件ソフトウェアについて著作者人格権を一切行使しないものとする。
第2条(事業継続支援に関する合意)
 甲は、甲の指定する会社に乙の従業員を全員移籍させ継続的に雇用を確保するとともに、当該会社に対し本件ソフトウェアに関わる開発を委託するものとし、当該会社が継続的に事業を行える様に支援を行うことに合意する。
第3条(解除)
 甲及び乙は、次の各号の場合、相手方に対して書面にて通知することにより本合意書を解除することができる。但し、本条の解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない。
@ 相手方が本合意書を履行しなかった場合
A 乙の表明及び保証に虚偽があることが判明した場合(以下略)」
ウ 控訴人ビーエスエス社とサンライズ社は、平成18年3月30日付け「ソフトウェア譲渡契約書」(甲20。以下「本件譲渡契約書」という。)記載のとおりの次の内容の本件譲渡契約を締結した。
 「株式会社ビーエスエス(以下、「甲」という。)と、株式会社サンライズ・テクノロジー(以下、「乙」という。)とは、甲が乙に対し甲の所有するソフトウェアを譲渡することに合意したので、ここにソフトウェア譲渡契約書を締結する。
第1条(ソフトウェアの譲渡)
1 甲は乙に対し、平成18年4月末日までに、甲の所有する下記記載のプログラムその他の著作物(文書、図面、磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)及び当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権(以下、「本件ソフトウェア」という。)の所有権を移転し、かつ当該各著作物を引き渡す。

(1) 登録済プログラム著作物
(判決注:本件譲渡契約書記載の表示番号、著作物の題号のみを記載し、登録年月日及び枠線の記載は省略する。)
@ P第4574号 BSS−PACKクライアント(メニュークリエイト)
A P第4724号 BSS−PACKサーバー(UNIX)
B P第5363号 BSS−PACKサーバー(WindowsNT版)
C P第6339号 部品ビュー
D P第5814号 部品マイスター
(登録先:財団法人ソフトウェア情報センター)
(2) 非登録プログラム著作物
 上記(1)の著作物のバージョンアップ等改良後のプログラム著作物、その他関連する一切のプログラム著作物
(3) 上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物
 ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物
2 甲は、本件ソフトウェアについて、担保権その他本件ソフトウェアを制限する一切の権利を抹消し、何等制限のない状態で乙に引渡す。但し、前記(1)D及びそれに関わる前項(2)(3)のプログラムその他の著作権に対して甲が第三者のために設定している譲渡担保権については、甲は平成18年6月30日までに当該譲渡担保権の抹消を行うものとする。
3 甲は、本条第1項(1)に関する著作権については、本契約書締結後すみやかに移転登録手続きを行い、登録の完了を証する書類を乙に提出するものとする。但し、本条第1項(1)Dに関する著作権については、甲は平成18年6月30日までに移転登録手続きを完了させるものとする。なお、当該移転登録手続きに要する一切の費用は甲の負担とする。
第2条(譲渡価額及び支払方法)
1 本件ソフトウェアの譲渡価額は金1、150、000、000円(消費税別)とする。
2 乙は甲に対し、前項の譲渡代金を第1条第3項の移転登録手続き完了後6ヶ月以内に、甲の指定する銀行口座に振込みにより支払うものとする。
第3条(表明保証)
 甲は乙に対し、次の各号について表明し、保証する。
@ 本契約書締結日において、本件ソフトウェア(第1条第1項(1)D及びそれに関わる同条同項(2)(3)のプログラムその他著作物に関する著作権を除く。)について、担保権者等として権利を主張する第三者が存在しないこと。
A 本件著作物が第三者の著作権その他の権利を侵害していないこと。
第4条(著作者人格権)
 甲は乙に対し、本件ソフトウェアについて著作者人格権を一切行使しないものとする。第5条(解除)
 甲及び乙は、次の各号の場合、相手方に対して書面にて通知することにより本契約を解除することができる。但し、本条の解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない。
@ 相手方が本契約を履行しなかった場合
A 甲の表明及び保証に虚偽があることが判明した場合(以下略)」
(2) 控訴人らの主張するところによっても、平成9年以後、控訴人ビーエスエス社は、資金逼迫状態が続いていたというのであり(原審原告準備書面(2)14頁)、前記認定事実、証拠(甲50の1・2)及び弁論の全趣旨によると、控訴人ビービーエス社は、前記(1)アの登録のとおりの各契約を、各契約の相手方と締結したことが認められる。
 前記認定事実、証拠(甲50の1・2、乙2)及び弁論の全趣旨によると、@控訴人ビーエスエス社は、平成9年頃以降、本件登録プログラムに譲渡担保権を設定して多数の金融機関から融資を受けていたが、インターナショナル・システム・サービス株式会社からも融資を受けるようになり、平成15年には、部品マイスターを除く本件登録プログラムの著作権は、インターナショナル・システム・サービス株式会社が単独で保有するに至っていたこと、A控訴人ビーエスエス社は、平成18年3月頃までに、インターナショナル・システム・サービス株式会社に替えて、サンライズ社から資金援助を受けることとし、そのために、控訴人ビーエスエス社は、部品マイスターを除く本件登録プログラムの著作権のインターナショナル・システム・サービス株式会社から取得した上、これをサンライズ社に譲渡し、その旨の登録をするとともに、本件登録プログラムのうち、部品マイスターの著作権については、譲渡担保権者と交渉の上、譲渡権設定契約の解除を受けて、これをサンライズ社に譲渡し、その旨の登録をすることになったこと、B控訴人ビーエスエス社とサンライズ社は、平成18年3月28日、控訴人ビーエスエス社が、サンライズ社が指定する会社(以下「指定会社」という。)に控訴人ビーエスエス社の全従業員を移籍させ、サンライズ社は、控訴人ビーエスエス社から譲渡を受けるプログラムに関わる開発を、指定会社に委託し、指定会社が継続的に事業を行えるように支援することになったこと、C平成18年3月28日までには、譲渡対象のプログラムとその対価は合意されていたが、契約の履行期限は定まっておらず、その日時が定まった段階で、最終的な譲渡契約書を作成して譲渡契約を締結することとされたこと、Dこれを受けて、平成18年3月30日付けで本件譲渡契約書が作成され、本件譲渡契約が締結されたことが認められる。
 以上に、前記前提事実及び弁論の全趣旨を総合すると、控訴人ビーエスエス社とサンライズ社は、控訴人ビーエスエス社のBSS−PACKに係る全事業を全従業員ごと指定会社に移転させ、その事業に係るプログラムについての全ての権利をサンライズ社に譲渡し、サンライズ社が前記権利から利益を得るとともに、サンライズ社が、本件譲渡契約の対価を控訴人ビーエスエス社に支払い、指定会社が当該事業を継続的に行えるように支援をすることを約したものということができる。
 そうすると、本件譲渡契約において、本件営業秘密部プログラム及び本件先行ソフトウェア部品プログラムを含むBSS−PACKに係るプログラムについての全ての権利が、登録の有無を問わず、著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて、譲渡の対象とされたものと認められる。
 以上によると、本件営業秘密部プログラムについての営業秘密や本件先行ソフトウェア部品プログラムについての本件各著作権を、現時点において控訴人らが有するということはできない。
(3)ア 控訴人らは、控訴人ビーエスエス社とサンライズ社との間で、本件営業秘密部プログラムが控訴人ビーエスエス社に留保されていたことを前提とする「第二の契約」の締結が予定されていたことからして、本件営業秘密部プログラムは本件譲渡契約の対象となっていなかった旨主張し、控訴人X1及び同X2の各供述(甲10、31、48、54)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、控訴人らは、その主張する「第二の契約」の内容につき、在庫として一定量のハードロックを仕入れること等を内容としたものである(原審原告準備書面(2)14頁)、本件営業秘密部プログラムが控訴人ビーエスエス社に留保されていることを前提としたソフトロック、ハードロックの控訴人ビーエスエス社又はその事業承継者からの仕入れを主な内容とするものである(原審原告準備書面(4)14頁)などと主張するのみで、その具体的内容を特定する主張をしない。また、控訴人らが、サンライズ社が本件営業秘密部プログラムが作動するハードロックを控訴人ビーエスエス社に発注する意思があり、サンライズ社が、本件営業秘密部プログラムの譲渡を受けていないことを認めていることを証明する証拠として提出した「株式会社ビーエスエス X1」名義の平成18年10月27日付けメール(甲43)には、控訴人ビーエスエス社が「先日のミーティングの中にて、ご提案をいただきました LOCK の在庫方式へのスキームの変更に関して、検討を致しました。ビジネスの本格スタートに当たり、御社とソフトウエア部品開発との関係を明確化することは、極めて重要であると考えます。そこで、「業務協力契約」の締結をご検討いただきたく、素案を作成しましたので、添付いたします。」、「また、現在の御社からの借入金と LOCK との相殺ですが、ご注文後、約2週間にて納品することが可能です。以上よろしくご検討くださいますようお願い申し上げます。」などと記載されているところ、添付されていたはずの「素案」は提出されておらず、このメールによって、控訴人らが主張するところの「第二の契約」の具体的内容は明らかにならない。
 また、前記認定事実((1)イ及びウ)及び弁論の全趣旨によると、本件合意では「より詳細な条件を定めた最終契約書を別途締結するものとする」とされていたところ、本件合意書作成段階で、譲渡対象や対価等、本件譲渡契約の内容の主要な点は合意されていたが、履行期限が決まっておらず、本件譲渡契約書作成段階で決まっていたこと、本件譲渡契約書では、本件合意書には記載がなかった、虚偽があることが判明した場合に、解除権の行使が可能とされている控訴人ビーエスエス社のサンライズ社に対する表明及び保証の内容として、譲渡対象のプログラムにつき、部品マイスターとそれに関わるプログラムその他著作物に関する著作権を除き、担保権者等として権利を主張する第三者が存在せず、譲渡対象のプログラムが第三者の著作権その他の権利を侵害していないことが付加されたこと、本件譲渡契約書の文言は、本件合意書と同旨の内容を記載した部分は、「甲」と「乙」を入れ替えた以外、同文の部分が多いが、本件合意書第1条第1項の「なお、本件ソフトウェアの譲渡にあたっては、甲及び乙は、より詳細な条件を定めた最終契約書(以下「本件最終契約書」という。)を別途締結するものとする。」との記載、第1条第2項の「本件最終契約書締結日に」との記載は、本件譲渡契約書にはなく、本件合意書第1条2項及び第3項の「甲乙間で別途定める期日」は、本件譲渡契約書では「平成18年6月30日」となり、本件合意書第1条第3項の「本件最終契約書締結後」は、本件譲渡契約書では「本契約書締結後」になっているのであって、その記載内容からして、サンライズ社と控訴人ビーエスエス社は、本件合意書記載の「最終契約書」として、本件譲渡契約書を作成して本件譲渡契約を締結したものと認められる。本件合意書の作成日付は平成18年3月28日で、本件譲渡契約書の作成日付がその後であることも、前記認定と整合する(控訴人らは、本件合意及び本件譲渡契約がいずれも平成18年4月4日に締結された旨主張する(原審原告準備書面(4)11頁)が、前記認定の本件合意書及び本件譲渡契約書の各記載内容は、同じ日に締結される内容としては不自然である上、控訴人らの前記主張を裏付けるに足りる客観的証拠はなく、控訴人X2の供述内容(甲31)とも一致しないから、採用することができない。)。
 そもそも、控訴人らは、本件先行ソフトウェア部品プログラムを作動させるためには、中核部(ミドルソフト)を必要とし、特に本件営業秘密部プログラムとソフトロック及びハードロックがないとシステムとして全く作動しない仕組みになっていた旨主張しており(原審原告準備書面(4)21頁)、そうであるとすれば、控訴人ビーエスエス社においてBSS−PACKに係る事業を継続するのではなく、サンライズ社がプログラムの譲渡を受け、同社から委託を受けた会社がこれを行うことが予定されているのに、控訴人ビーエスエス社とサンライズ社との間において、システムに不可欠なプログラムを除外して譲渡対象とされたというのは、不自然である。
 したがって、控訴人X1及び同X2の前記供述部分は、採用することができず、控訴人らの前記主張は、認められない。
イ 控訴人らは、本件譲渡契約書には譲渡対象となる「当該各著作物を引き渡す」と規定されている(第1条第1項)が、控訴人ビーエスエス社は、サンライズ社にエスクロウの協力要請を受けて本件営業秘密部プログラムのソースコードを送付したにとどまり、サンライズ社に対して本件営業秘密部プログラムを引き渡していないことなどからすると、本件営業秘密部プログラムは本件譲渡契約の対象となっていない旨主張し、控訴人X1及び同X2の各供述(甲10、31、48、54)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、本件譲渡契約にいう「当該各著作物を引き渡す」との文言から、引渡しのされなかったものが本件譲渡契約の譲渡対象に含まれていないと解することはできない。
 なお、控訴人らは、控訴人ビーエスエス社が、サンライズ社に対し、平成18年9月7日、本件営業費秘密部プログラムを除く中核部(ミドルソフト)のソースコードを送り(甲32の1)、同年10月17日、本件営業秘密部プログラムのソースコードをCDに書き込み、エスクロウ用として送付した(甲32の2)と主張する(原審原告準備書面(2)14頁〜15頁)が、甲32の1・2はいずれも佐川急便株式会社の送り状のお客様控えであり、甲32の1は、東京都千代田区<以下略>の控訴人ビーエスエス社から東京都千代田区<以下略>のサンライズ社宛てに「、ソフトウェアエスクロウ契約関係(資料)」を、甲32の2は、東京都千代田区<以下略>の控訴人ビーエスエス社から東京都港区のサンライズ社宛てに、「ソフトウェアエスクロウ関係資料」を送った旨記載されているだけで、内容物が控訴人ら主張のものであったことを裏付けるに足りない。仮に、控訴人ビーエスエス社が、平成18年10月17日、本件営業秘密部プログラムをエスクロウ目的でサンライズ社に送付したという事実があったとしても、サンライズ社が自社が保有する本件営業秘密部プログラムにつきエスクロウ制度を利用するに当たり、控訴人ビーエスエス社に資料送付を依頼したものとみても、不自然ではなく、控訴人ビーエスエス社が本件営業秘密部プログラムに係る権利を保有したまま、エスクロウのためにそのソースコードを送付したことを裏付けるに足りるものではない。
 したがって、控訴人X1及び同X2の前記供述部分は、採用することができず、控訴人らの前記主張は、認められない。
ウ 控訴人らは、本件譲渡契約の譲渡対象に本件先行ソフトウェア部品プログラムが含まれているとしても、本件先行ソフトウェア部品プログラムに係る著作権法27条及び28条に規定する権利は、控訴人ビーエスエス社に留保されている(同法61条2項)旨主張し、控訴人X1の供述(甲48)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、前記認定の本件合意及び本件譲渡契約の内容からすると、控訴人ビーエスエス社とサンライズ社は、控訴人ビーエスエス社の全従業員を、指定会社に移籍させ、控訴人ビーエスエス社がサンライズ社にBSS−PACKに係るプログラムについての権利を譲渡し、指定会社が、サンライズ社から委託を受けて、控訴人ビーエスエス社が行っていたBSS−PACKに係る事業を継続することとして、控訴人ビーエスエス社の側では、控訴人ビーエスエス社の従業員の雇用とBSS−PACKに係る事業の継続等を指定会社において確保し、サンライズ社の側では、BSS−PACKに係る事業から得られる収入を得ること等を意図して、本件合意及び本件譲渡契約をしたと認めるのが相当であり、このことに鑑みると、BSS−PACKに係る著作物の翻案権等(著作権法27条)及び二次的著作物利用に関する原著作者の権利を控訴人ビービーエス社に留保するということは、本件合意及び本件譲渡契約の趣旨に反するものであって、不自然である。
 また、前記認定事実((1)ア(ケ)、(コ)、ウ)によると、本件譲渡契約により譲渡された本件登録プログラムについては、本件譲渡契約において、著作権法27条及び28条の権利の移転につき明文がないにもかかわらず、著作権法27条及び28条に規定する権利を含む著作権の譲渡がされた旨の登録がされている。
 さらに、前記認定事実((1)イ、ウ)のとおり、本件合意及び本件譲渡契約においては、本件登録プログラムである「上記(1)の著作物」の「バージョンアップ等改良後のプログラム著作物、その他関連する一切のプログラム著作物」である「(2)非登録プログラム著作物」及び「上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物 ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物」が譲渡対象とされている。
 以上からすると、本件譲渡契約では、著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて著作権を譲渡する旨の合意があったと認められるのであって、同法61条2項の推定は覆ったというべきである。
 したがって、控訴人X1の前記供述部分は、採用することができず、控訴人らの前記主張は、認められない。
(4)ア 控訴人らは、旧BSS−PACKの全プログラムとその著作権及びソースコードは、本件譲渡契約時、控訴人X1が保有していたのであり、また、その他にBSS−PACKに関する知的財産権で控訴人X1が保有していたものがあったから、本件譲渡契約は、他人が保有する権利をその対象とすることとなり、民法90条により無効である旨主張し、控訴人X1の供述(甲48、54)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、前記認定事実((1)ウ)によると、本件譲渡契約においては、控訴人ビーエスエス社は、サンライズ社に対し、譲渡対象が控訴人ビーエスエスの所有する知的財産権であることを明示した上、担保権者等として権利を主張する第三者が存在しないこと、譲渡対象が第三者の著作権その他の権利を侵害していないことを保証し、その保証に虚偽があることが判明した場合は、解除理由になるとされていることが認められるところ、控訴人らが前記主張を原審ではせず、甲51を提出していなかったことを考え合わせると、本件譲渡契約の対象は、全て控訴人ビーエスエス社が所有していたものと認められるのであり、控訴人X1が保有していたものが含まれていたと認めることはできない。
 したがって、控訴人X1の前記供述部分は、採用することができず、控訴人らの前記主張は、認められない。
 なお、そもそも、民法は他人物売買を認めている(民法555条、561条等)のであって、本件譲渡契約の対象の一部が他人物であったとしても、それだけで、本件譲渡契約が公序良俗違反となるということはできない。
イ 控訴人らは、本件譲渡契約の対価である11億5000万円は、譲渡対象の価値に比して廉価であり、本件譲渡契約は、暴利行為であるから、民法90条により無効である旨主張し、控訴人X1の供述(甲48、54)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、ソフトウェアの市場価格が常に開発原価以上であることを裏付けるに足りる証拠はない。また、前記前提事実のとおり、旧BSS−PACKは平成9年以前から、BSS−PACKは平成9年からその販売が開始されていたにもかかわらず、前記(2)認定のとおり、控訴人ビーエスエス社は、平成9年から平成18年に至るまで資金逼迫状態が続き、金融機関からの融資だけではなく、他社からの資金援助を必要とするに至っていたのであって、BSS−PACKに係るソフトウェアが、控訴人ビーエスエスの経営を好転させるに足りる利益を控訴人ビーエスエス社にもたらしていなかったといえ、BSS−PACKに控訴人らが主張するような現在価値があったとは認められない。以上の認定は、著作者人格権の不行使の合意や、譲渡対象が、登録、非登録にかかわらず、一切のプログラムであり、著作権法27条及び28条の権利が含まれることを前提としても、左右されるものではない。
 なお、控訴人らが主張するとおり、本件譲渡契約の対価が相殺契約により支払われなかったとしても、控訴人ビーエスエス社は、相殺の対象である債務を免れたはずであり、これをもって、本件譲渡契約の対価が高額に過ぎることを裏付けるに足りる事実とはいえない。
 したがって、控訴人X1の前記供述部分は、採用することができず、控訴人らの前記主張は、認められない。
ウ 控訴人らは、サンライズ社は、控訴人ビーエスエス社及び控訴人ソフトウエア部品開発社への支援が長期間継続するかに見せ掛けて、控訴人X1を欺罔し、協業体制と支援が継続するとの錯誤に陥れて、本件登録プログラムの著作権とそのソースコード及び本件営業秘密部プログラムのソースコードを詐取したのであって、サンライズ社がBSS−PACKに関する一切の権利を保有する状態に置き続けることを容認することは、正義の観念に反するから、本件譲渡契約は、民法90条により無効である旨主張し、控訴人X1及び同X2の各供述(甲10、31、48、54)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、前記認定事実((1)イ)によると、本件合意書には、サンライズ社の指定会社への支援の具体的内容は記載されておらず、支援の期間も記載されておらず、控訴人ビーエスエス社がサンライズ社からの長期間の支援を期待していたとしても、サンライズ社が支援の具体的内容及び期間につき、実際に控訴人ビーエスエス社及び控訴人ソフトウエア部品開発社に対して行った以上のことを行う旨を、本件譲渡契約締結に先立ち、控訴人ビーエスエス社に伝えていたことを認めるに足りる客観的証拠はなく、サンライズ社の控訴人ビーエスエス社に対する欺罔行為の存在を認めるに足りる客観的証拠はない。
 したがって、控訴人X1及び同X2の前記各供述部分のみでは、控訴人らが主張する上記事実を認めることはできず、控訴人らの前記主張は、認められない。
エ 控訴人は、本件譲渡契約は、違法な目的を達成するための違法な契約締結を積み重ねる過程でのその一段階であるから、民法90条により無効である旨主張し、控訴人X1及び同X2の各供述(甲10、31、48、54)中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、控訴人X1及び同X2の前記各供述部分のみによっては、控訴人らの主張する違法行為の存在を認めることができず、他にこれらの違法行為の存在を認めるに足りる証拠はない(本訴の対象となっている不正競争行為が認められないことは、既に認定したとおり、控訴人らが本件営業秘密部プログラムについての営業秘密を有しないことから明らかである。)。そして、控訴人らの主張する「計画」については、その存在を裏付けるに足りる客観的証拠はなく、控訴人X1及び同X2の前記各供述部分のみでは、上記「計画」の存在を認めることはできない。
 したがって、控訴人らの前記主張は、認められない。
オ 以上のとおりであって、本件譲渡契約が公序良俗違反(民法90条)により無効であるとは認められない。
2 以上のとおり、控訴人らが本件営業秘密部プログラムや本件先行ソフトウェア部品プログラムについての著作権を有しているとは認められない。
 なお、控訴人らは、創作ソースコード等の引渡しを受けて保有していなければ、その権利保有を対抗することはできないと主張するが、そのように解すべき法的根拠はなく、採用することはできない。
 また、その他、控訴人らが主張するところによっても、前記(1)〜(4)の認定、判断が左右されることはない。
第4 結論
 以上の次第で、控訴人らの本件各請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がなく、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 森岡礼子
 裁判官 中村恭は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 森義之
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