判例全文 | ||
【事件名】健康器具の中傷サイト事件 【年月日】平成29年3月21日 大阪地裁 平成28年(ワ)第7393号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成29年1月20日) 判決 原告 共和ゴム株式会社 同訴訟代理人弁護士 久世勝之 被告 P1 同訴訟代理人弁護士 五十嵐丈博 同 関裕治朗 主文 1 被告は、原告に対し、65万円及びこれに対する平成28年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを50分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成28年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、「アクシスフォーマー」との名称の健康器具を販売している原告が、その開設するウェブサイトで原告の上記製品についてのコメント等を掲載している被告に対し、下記請求をした事案である。 記 @ 被告が、その開設するウェブサイト下のウェブページに掲載している記載内容が原告製品ひいては原告の信用を棄損するもので名誉棄損の不法行為を構成することを理由とする不法行為に基づく700万円(名誉棄損による無形損害500万円、営業上の逸失利益200万円)の損害賠償請求 A 被告が、その開設するウェブサイトに原告の特定商品等表示と類似するドメイン名を使用していることが不正競争防止法2条1項13号(平成27年法律第54号による法改正前の12号。以下、単に「13号」という。)の不正競争に該当することを理由とする使用料相当額の50万円の損害賠償請求 B 被告が、その開設するウェブサイト下のウェブページに原告の著作物を掲載していることが著作権(複製権、公衆送信権)侵害であることを理由とする利用料相当額の50万円の損害賠償請求 C 原告が、被告を特定するためにインターネット業者に対して発信者情報開示請求訴訟の提起を余儀なくされたことによる弁護士費用相当額100万円の損害賠償請求 D 原告が、本件訴訟の提起及び追行のために要した弁護士費用相当額100万円の損害賠償請求 E 上記@ないしDの損害額合計1000万円に対する不法行為の後の日である平成28年8月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求 1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実) (1) 当事者 ア 原告は、工業用ゴム製品、各種パッキン、スポンジ、合成樹脂成形加工品の製造販売等を業とする株式会社である。 イ 被告は、「xn--cckor6ak2ooc9mb.com」及び「アクシスフォーマー.com」のドメイン名(以下両者を併せて、「本件ドメイン名」という。なお、後者の日本語ドメイン名(以下「本件日本語ドメイン名」という。)は、前者のドメイン名がブラウザに実装されている Punycode によって変換されることによりブラウザのURL欄に表示される。)を取得登録し、さくらインターネット株式会社(以下「訴外会社」という。)とインターネットサービス契約を締結し、遅くとも平成27年3月以降、同社のレンタルサーバーにおいて、不特定多数の者からの求めに応じて、その内容を自動的に送信できる本件ドメイン名のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し運営していた者である(甲5)。 (2) 原告の商標権及び原告作成に係るコンテンツ ア 原告は、別紙商標権目録記載の商標権を有しており、これを商品名とした「アクシスフォーマー」という名称の健康用具(以下「原告製品」といい、その製品名を「原告製品名」という。)を製造販売している(甲1の1、甲1の2)。 イ 原告は、原告製品の販売に関連して、「Axis Former ロングタイプ ソフトロングタイプ」と題する取扱説明書(甲2、以下「原告説明書」ということがある。)、ショッピングモール「楽天市場」内に開設されたネットショップのウェブページ(甲3の1ないし3)及び原告のホームページ(甲4)中に表示されている各コンテンツ(以下、これらを「原告コンテンツ」という。)を、それぞれ作成した(甲2ないし甲4)。 (3) 本件ウェブページの記載(甲5) 被告は、本件ウェブサイト下のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に、別紙対比表1、2の被告侵害部分欄記載のとおり、同対比表左欄に記載した原告コンテンツをそのまま撮影した映像やキャプチャーした画像を掲載していたほか、次のとおりの箇所に原告製品について以下の記載(以下、これらを順に「本件記載@」、「本件記載A」といい、これらをまとめて「本件記載」ということがある。)を掲載していた。 ア トップページ 「アクシスフォーマー」のトップページには、以下の記載(本件記載@)が掲載されていた。 「他社メーカーの本格健康アイテムを自社の名前で売り出しているだけなので驚きの低価格を実現。規格は同等でも、製造クオリティが非常に低い商品です。(詳細は最新情報をcheck!)」(「非常に低い商品」が太字で強調されている。) イ 「アクシスフォーマー/アクシスフォーマー ハーフ」のページ 同ページ中の「アクシスフォーマーハーフ(ロングタイプ)の販売開始は」の項には、以下の記載(本件記載A)が掲載されていた。 「更に、この下図の過去キャッシュから切り抜いてきたキャプチャーですが、在庫処分品と明記するどころか、「有名メーカーと同じ素材で驚きの価格を実現」という表記は、意図的に在庫処分品を自社製品かのように錯覚させる表記であり、消費者庁が指導を行なわなかったことにも疑問を感じるところです。」 ウ 「アクシスフォーマー/アクシスフォーマー ハーフ」のページ中 同ページ中の「アクシスフォーマーハーフのページで指摘する理由」の項には、以下の記載(本件記載B)が掲載されていた。 「商標権の侵害から芋づる式に消費者庁入電等のリスクを回避できたのですから、私の調査もお役に立った訳です。逆に共和ゴムさんより先にアクシスフォーマーハーフなどのヒントに繋がったと思われるメーカー側がこのページを見つけると、同社はピンチになり、本サイトから出品しているオークションも大ピンチになる訳ですから、どうぞメーカーさんは見つけてもオークションが終わるまで見てみない振りをしてください。」 エ 「アクシスフォーマー 使い方」のページ 同ページに引用し掲載されている原告製品の「ご使用上の注意」の4項目目に記載された「多少の変形は使用上問題ありません。」との説明について、以下の記載(本件記載C)が掲載されていた。 「4項目目の使い方注意事項に関して私感を述べさせて頂いておりますが、「多少の変形」ということは、目視もしくは触って分かる範囲の変形だと思います。それほどの変形が起こっているということは、背骨の矯正や体感トレーニングに用いるエクササイズ器具としては買替え時期だと述べるのが全うではないかと思います。その記述をセールスだと受け止めるのか、適切な記述と受け止めるかは使用者の問題ですが、製造元が「変形は問題ない」と言い切ってしまうのはどうかと思います。」 オ 「アクシスフォーマー 使い方」のページ 同ページに引用し掲載されているに原告製品の「禁忌事項」について、以下の記載(本件記載D)が掲載されていた。 「禁忌事項の冒頭にある「こんな場合はひとりでエクササイズを行なわないでください」ですが、挙げられていることほとんどは、「ひとりでエクササイズを行なわない」どころか、使用を中止しなくてはならない状態だと感じます。この開発者は本当に身体のことを正しく学んでいるのか疑わしい限りです。」 カ 「アクシスフォーマー 使い方」のページ 同ページには、原告説明書3頁の「アクシスフォーマー 『Axis Former』とは、体軸(Body Axis)を整え、形成する、というコンセプトから生まれたセルフコンディショニングツールです。」との説明が引用された上、これについての以下の記載(本件記載E)が掲載されていた。 「アクシスフォーマーが“体軸を整えるというコンセプトから生まれた”とありますが、アクシスフォーマーの製造販売元である共和ゴム株式会社は、アクシスフォーマーという商品を販売する以前は、アクシスフォーマーの前身に当たる本家製品のOEM製造工場でした。 この本家製品というのは、スポーツ及び健康産業に従事する企業が、この会社の代表の先輩に当たる方で海外でも活躍する一流トレーナーの方が海外で使用されていた、「フォームローラー」を日本人の身体の特性に合わせ再開発された商品ですので、アクシスフォーマーが『何かしら身体を整えるためのコンセプトを基に生まれた』という表記は適切でないと考えられますし、それら自社開発を裏付ける記載は共和ゴム株式会社の公式サイト及び楽天ショップ内には一切見つけることができませんでした。」 キ 「アクシスフォーマーの品質」のページ 同ページの「アクシスフォーマー・ソフトロングタイプ驚きの事実」及びそれに続く「本家同等規格製品は芯材が抜けない」との項には、別紙「本件記載F」のとおり、原告製品であるアクシスフォーマー・ソフトロングと被告が本家同等規格製品という製品を一部分解した写真を対比できるよう複数掲載され、それにコメント等が記載されていた(以下「本件記載F」という。)。 (4) 本件日本語ドメイン名と原告製品名の類似性 本件日本語ドメイン名である「アクシスフォーマー.com」の要部は「アクシスフォーマー」の部分であり、原告製品名と類似している。 (5) 前件訴訟 原告は、本件ウェブサイトの開設者を知るため、訴外会社に対して発信者の情報開示を求めて当裁判所に特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)に基づき発信者情報開示請求訴訟(当庁平成27年(ワ)第7540号、以下「前件訴訟」という。)を提起した。訴外会社は、平成28年1月21日、発信者情報を開示するよう命じられる判決(以下「前件判決」という。)を言い渡され、本件ウェブサイトの開設者である被告の氏名及び住所を原告に開示した(甲8、甲9)。 2 争点 (1) 本件ウェブページによる名誉棄損の成否 (原告の主張) 被告がトップレベルドメイン以外で原告製品名と同一である本件ドメイン名を使用することにより、例えば原告製品を購入しようとする需要者がインターネット検索等をした場合、その検索結果において本件ウェブサイトが上位に表示され、そのため需要者は本件ウェブサイトにアクセスして本件ウェブページの本件記載を閲覧する可能性が高い。 そして、被告は、不特定多数の者がこのような本件ウェブページに掲載された本件記載にアクセスできるようにして、需要者の原告製品の購入意欲を削ぎ製品に対する信用を棄損しただけではなく、ひいては、それを製造する原告のメーカーとしての信用をも毀損した。 (被告の主張) 次のとおり、本件記載は、原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 ア 本件記載@について 被告は、被告にとって出所が不明の大量の原告製品を販売しなければならない状況に陥ったことから、原告製品について調査の上、買主に対して原告製品がどのようなものであるかを説明したものであり、売主としての説明責任を果たすべく、率直なところを記載したにすぎない。本件記載@は、被告が原告製品を安く販売することができる理由を記載したものであるが、これは、被告が債務不履行責任や瑕疵担保責任を追及されるのを防止するために必要なものである。 イ 本件記載Aについて 原告は、原告が売っていた原告製品が在庫処分品であることを隠して販売していたということであるから、この記載内容は間違った指摘とはいえず、穏当な評論にすぎない。被告は事実に基づいて原告の商売の実際のところを指摘したものであって、それは原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 ウ 本件記載Bについて 同記載は、原告は、被告の調査によって何らかのリスクを回避することができたということである。また、仮に訴外メーカーが原告に先立って被告の調査結果を入手していた場合という仮定の場合を述べていて、そのような場合であれば、原告及び被告は損害を受けていたであろうということを述べるものであり、原告は被告のおかげで危機を乗り越えたということが記載されているだけであるから、原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 エ 本件記載Cについて 同記載は、原告及び被告の原告製品の買替え時期に関する見解の違いが述べられているだけであるから、原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 オ 本件記載Dについて 同記載は、どのような場合に運動(エクササイズ)を中止すべきかについて、原告製品の開発者と被告との見解の相違を述べているだけである。したがって、同記載は、原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 カ 本件記載Eについて 同記載は、原告が原告製品について、あたかも自社開発であるかのような宣伝をしていたことに対し、被告は、原告製品を開発したのは原告ではないということを、根拠及び証拠を示しながら述べるものである。これはあくまで原告製品の開発元がどこであるかを述べているだけであるから、原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 キ 本件記載Fについて 比較広告のように、自由競争のもとでは、常に競業品との競争にさらされることになることは自然なことである。原告は、原告製品が、被告が比較対象に用いた本家同等規格製品より劣っていると扱われていることに対し、これを被告の責任であるといわんばかりであるが、誤りである。確かに原告製品は、耐久性等の品質面において本家同等規格製品と比べると見劣りがするかもしれないが、製品のアピールポイントは、製品の品質だけではなく、値段の安さ等もあるのであり、品質について本家同等規格製品と比較しているにすぎない被告の本件ウェブページの記載は、原告製品及び原告の信用を毀損するものではない。 (2) 名誉棄損の免責事由の有無 (被告の主張) 本件ウェブページの記載は、原告が株式会社であって公的な存在であり、そのような公的な存在である原告が製造する原告製品に関するものであるから、公共の利害に関する事実に係るものである。 また、被告は、広く世間で使用される原告製品に関する真実であるところを記載するという目的で本件ウェブページを作成し公開したのであるから、専ら公益を図る目的に出たといえる。 さらに、被告が摘示した事実は真実であるか、少なくとも被告が真実と信じていたことに合理的な理由がある。 したがって、被告の本件ウェブページの本件記載の掲載行為は、違法性が阻却されるか、少なくとも過失がないから不法行為とはならない。 (原告の主張) 本件ウェブページの本件記載の掲載行為は、原告に損害を加える目的によるものであり、専ら公益を図る目的に出たものとはいえない。 また、本件ウェブページ中の本件記載は真実ではなく、これを信じるに足りる正当な理由を根拠付ける事実はない。 したがって、被告の本件記載の掲載行為についての不法行為の成立は妨げられない。 (3) 被告の行為が著作権(複製権、公衆送信権)侵害に該当するか。 (原告の主張) ア 被告は、別紙対比表1、2記載のとおり、本件ウェブページに原告コンテンツをそのまま撮影した映像やキャプチャーした画像を掲載した。被告の行為は、原告が著作権を有する原告コンテンツを複製して本件ウェブページに掲載し、本件ウェブページにより不特定多数の者からの求めに応じてその内容とともに原告コンテンツが自動的に公衆に送信できるようにし、原告が原告コンテンツについて有する複製権、公衆送信権を侵害したといえる。 イ 本件ウェブページに本件記載を掲載したのは原告に損害を加える目的によるものであるから、正当な目的での利用ではあり得ない。 また、原告製品の使用方法を説明するためであるとしても、説明書全体を撮影ないしスキャンしたものを掲載することは、必要かつ適切な方法による利用ではあり得ない。ましてや、被告は、原告説明書の記載内容を否定する記載をしているのである。もし被告が使用方法を説明したいのなら、被告が正しいと信じる説明を記載すべきであったのに、それをしなかったのは、原告説明書を利用する目的が、まさに原告製品ひいては原告の信用を棄損する点にあったからといわざるを得ない。 原告は、少なくとも原告コンテンツが第三者に不当に利用されることを拒絶することができるのであるから、原告に与える影響が軽微であるとする被告の主張も失当である。 以上のとおり、被告による原告コンテンツの利用が著作権法32条1項の「引用」に該当する旨の被告主張は失当である。 (被告の主張) ア 被告の行為が原告の著作権侵害に該当するとの主張は争う。 イ 被告は、本件ウェブページにおいて、「当サイトは、訳あって・・・アクシスフォーマーをオークションサイトで処分して頂く流れになった経緯を説明し、この商品を誤った使い方により身体の不調を起こされる方が出ないように注意を促すことを目的」としたものと説明している。 これは、形式的には本件ウェブサイトの開設の目的を述べたものであるが、実質的には原告コンテンツの利用目的を述べたものといえる。 したがって、被告は、原告コンテンツを原告製品の使用方法を説明するために利用しているのであり、まさに原告が原告コンテンツを創作した意図に合致する目的で利用したといえる。 被告による原告コンテンツ利用の方法、態様は、別紙対比表1、2から明らかなとおり、原告コンテンツにおける原告製品使用方法の解説などを紹介しつつ、これについて被告の意見を付記するという方法、態様がとられている。このように、被告は、必要もないのに原告コンテンツを引用しているのではなく、原告製品の使用方法を説明するために、まずは原告による説明を紹介し、これに被告の意見を付記するという必要かつ適切な方法、態様で原告コンテンツを利用している。 原告説明書は、文字通り、原告製品の使用方法を説明するためのものであって、それが独立して市場において経済的価値をもった商品として取引されるものではない。このことは、本件ウェブページについても同様である。 原告コンテンツは、原告製品の説明や販売のためのものである。原告は、原告コンテンツの販売やライセンスから利益を得ているものではないから、被告の行為により、原告が原告コンテンツから経済的利益を得る機会が失われたということもない。 以上を総合すれば、被告による原告コンテンツの利用は、著作権法32条1項の「引用」に該当し、原告の複製権侵害、公衆送信権侵害は成立しない。 (4) 本件日本語ドメイン名を使用する行為が不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当するか否か。 (原告の主張) 前記(1)(原告の主張)で述べたとおり、被告は本件ウェブページで原告製品ひいては原告の信用を損なう記載を掲載しており、原告に損害を加える目的を有していたものである。 したがって、被告は、他人に損害を加える目的で、原告の特定商品等表示である原告製品名と類似の本件日本語ドメイン名を使用したものであり、これは不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当する。 (被告の主張) 原告の主張は争う。前記(1)(被告の主張)記載のとおり、被告は、原告に損害を加える目的で本件日本語ドメイン名を使用したものではない。 (5) 損害 (原告の主張) 原告は、被告による一連の行為により以下の損害を被った。 ア 本件記載を本件ウェブページに掲載したことによる損害 合計700万円 (ア) 本件ウェブページに本件記載を掲載する行為は、原告の信用を毀損し、原告を侮辱するとともに、原告の業務を妨害する名誉棄損行為であり、これにより生じた無形損害の額は500万円を下回らない。 (イ) 原告は、本件記載が本件ウェブページ上に掲載されたことにより、当時原告と原告製品についての取引開始をしようとしていた会社のうち3社から原告との取引を見送られ、そのため原告にはこれらの取引から得られたはずの利益として少なくとも200万円を失った。 イ 本件日本語ドメイン名の使用による許諾料相当額 50万円 原告の特定商品等表示と類似のドメイン名を本件ウェブサイトに使用したことに対して受け取るべき金銭の額は50万円を下回らない。 ウ 原告コンテンツの著作権侵害による利用許諾相当額 50万円 原告コンテンツに係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額は50万円を下回らない。 エ 弁護士費用相当の損害額 合計200万円 (ア) 本件訴訟に先立ち、原告は訴外会社に対して発信者情報開示請求を行ったが、被告から開示不同意の意思表示を受けた訴外会社が発信者情報の開示に応じなかったため、原告は、前記発信者情報開示請求訴訟の提起を余儀なくされたものであり、そのために要した弁護士費用相当の損害額は100万円を下回らない。 (イ) 原告が、本件訴訟の提起及び追行のために要した弁護士費用相当の損害額は100万円を下回らない。 (被告の主張) 原告の主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件ウェブページによる名誉棄損の成否)について 本件ウェブページに掲載されている本件記載は、原告製品は、他社製品の模倣品であり、同等規格製品と比較すると、芯材部分が抜けやすく、芯材中央が凹んでいるなどの欠陥を有する粗悪品であること、原告は、原告製品に買替えが必要な程度の変形が生じているにもかかわらず、その説明をせずに問題がないと言い切るなど、身体のメカニズムや健康器具について必要な知識も有しない者であり、消費者庁の指導を受けてしかるべき者であるなどと指摘するものである。特に、「製造クオリティが非常に低い商品です。」(本件記載@)、「消費者庁が指導を行わなかったことにも疑問を感じるところです」(本件記載A)、「挙げられていることほとんどは、「ひとりでエクササイズを行なわない」どころか、使用を中止しなくてはならない状態だと感じます。この開発者は本当に身体のことを正しく学んでいるのか疑わしい限りです。」」(本件記載D)等の記載部分もあるから、本件ウェブサイトにアクセスして本件記載に接した一般の需要者は、原告製品は粗悪品であって信用できず、ひいてはその製造者である原告も信用できない企業であると認識するものと認められる。 したがって、本件ウェブページの記載が原告の社会的評価を低下させ信用を棄損することは明らかであるから、本件ウェブページに本件記載を掲載した被告の行為は、原告の名誉を毀損する行為というべきである。 2 争点2(名誉棄損の免責事由の有無)について 民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。また、摘示された事実が真実であることが証明されなくても、その行為者において、当該事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、その行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。 以上により本件についてみると、原告の具体的な事業規模及び社会的な影響力等は不明であるが、その販売に係る製品が健康用品であるから、原告製品の品質等に関する本件記載は、消費者の健康や安全に密接に関連するものであるということができ、したがって、本件記載は、公共の利害に関する事実に係るものということができる。 しかし、本件記載の内容は、単に原告製品の品質等に関する事実や疑問点を摘示するのみならず、「製造クオリティが非常に低い」、「消費者庁が指導を行わなかったことにも疑問を感じるところです」、「本当に身体のことを正しく学んでいるのか疑わしい限りです」など、原告ないし原告製品に対する批評の程度を超えて誹謗に当たる表現が用いられている一方で、原告製品の具体的問題点及びそれが使用者の身体に及ぼす具体的影響等、本来、消費者に伝えるべきはずの事項について言及した部分は、少なくともこれら表現を含む本件記載の周辺には見当たらないものである。そして、このような原告製品についての否定的評価についての記載内容が真実であることの立証はなく、またこれを真実であると信じることにつき相当の理由があるというべき事情も認められるわけではない。 これらの事情からすると、被告が本件記載を本件ウェブページに掲載したことが、専ら公益を図る目的によるものであると認めることはできないというべきである。 なお、被告は、大量の原告製品を販売する必要が生じたところ、売主としての説明責任を果たすべく、本件記載のようなコメントを付したなどと主張するが、これら記載に係る事実が真実又は真実と信じることにつき相当の理由あるものと認めることができない以上、これを売主がすべき商品説明として正当な行為であるということはできない。 したがって、被告の主張を踏まえても、被告が本件記載を本件ウェブページに掲載した行為について不法行為の成立は妨げられない。 3 争点3(被告の行為が著作権(複製権、公衆送信権)侵害に該当するか)について (1) 別紙対比表1、2の「被告侵害部分」で特定された原告コンテンツの各記載は、その内容や記載の順序、文体等に照らし原告の個性が表出されているものと認められるから、これらはいずれも原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作権法上の著作物であるということができ、したがって原告は、その作成者としてその著作権(複製権、公衆送信権)を有するものと認められる。 そして、別紙対比表1、2記載のとおり、被告は、原告コンテンツをそのまま自らの本件ウェブページに転載したものであり、不特定多数の者が本件ウェブサイトにアクセスして本件ウェブページを自由に閲覧することができるものであることからすると、被告は、原告の複製権及び公衆送信権を侵害したものというべきである。 (2) 被告は、これら記載の掲載行為は著作権法32条1項の「引用」に該当する旨主張する。 しかし、被告が引用した原告コンテンツの一部の傍らには、本件記載のようなコメントが付されているのであって、既に説示したとおり、これらコメントを付す行為は、原告製品ひいては原告を批評するという公益を図る目的でされたものとは認められず、むしろ原告製品ひいては原告の信用を毀損する目的でされた違法な行為というべきものであり、また売主の説明責任を果たすための正当な行為と認めることもできないことからすれば、その引用が「公正な慣行に合致するもの」とも「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ものともということはできない。 したがって、被告による原告コンテンツの掲載行為を、著作権法32条1項の「引用」として適法と認めることはできない。 なお、被告は、原告コンテンツはそれ自体経済的価値を有するものとして市場で取引されるものではないなどと主張するが、その指摘はそうであるとしても、これをもって「引用の目的上正当な範囲内で行なわれ」たということはできない。 4 争点4(本件日本語ドメイン名を使用する行為が不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当するか否か。)について (1) 前提事実記載のとおり、本件日本語ドメイン名は、原告の特定商品等表示と類似のドメイン名である。 (2) 原告製品の購入を検討しようとする需要者がインターネットを利用する場合、原告製品名である「アクシスフォーマー」を検索ワードとして、グーグル等の検索エンジンを利用して検索するのが一般的と考えられるが、本件ウェブサイトは、本件日本語ドメイン名に「アクシスフォーマー」を含むものであるから、本件ウェブサイトは検索結果として上位になり、またそのドメイン名から目的とする検索サイトであると理解されるため、アクシスフォーマーという原告製品名を手掛かりとしてインターネット検索をした一般的な需要者は、必然的に本件ウェブサイトに誘導されるものと考えられる。 そして、一旦、本件ウェブサイトにアクセスした場合、その需要者は、本件ウェブサイトが目的とした原告製品を販売商品として取り扱うサイトであるので、その内容に注目して閲覧することになるが、本件ウェブページの記載内容は、前記のとおり、一般的な商品取扱いサイトのように取扱商品の優秀性を謳うものではなく、むしろ原告製品が問題のある商品というものであり、それだけでなく、それを製造販売する原告にも問題があるようにいうものである。 すなわち、本件ウェブサイトでは、原告製品に興味を持ち、その購入を検討しようとしてインターネットを利用してアクセスしてきた需要者に対し、本件ウェブページの随所において、原告製品の信用を棄損して需要者の購入意欲を損なわせるような内容の記載をしているのであり、また、その記載は、併せて製造者としての原告の信用を棄損するような内容のものである。 これらのことからすると、本件ウェブサイト自体が、原告に損害を加える目的で開設されたサイトであるといわざるを得ないものというべきである。 (3) したがって、本件ウェブサイトの開設者である被告は、原告に損害を加える目的で、原告の特定商品等表示である原告製品名と類似の本件日本語ドメイン名を使用したものというべきであり、これは不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当する。 5 争点5(損害)について (1) 本件記載を本件ウェブページに掲載したことによる損害額について 前記認定のとおり、被告は、原告に損害を加える目的で本件ウェブページに原告製品ひいては原告の信用を棄損する内容を含む本件記載を掲載していたものであり、このような被告の行為によって、原告は、原告製品の一般需要者に与える印象を害されるだけでなく、一般需要者に誤った企業イメージを持たれるなど信用を棄損されたのであるから、被告は損害発生について故意があったものとして、これにより原告が受けた損害を賠償する責任を負うべきである。 しかし、本件において、原告製品の販売規模等のみならず原告の事業規模等について的確な立証はなく、また、原告は3社との取引が中止されたと主張するものの取引先との関係において具体的に何らかの影響を受けたことの立証もないことからすると、被告の上記行為により生じた原告の損害は、名誉棄損による無形損害の損害額として50万円の限度で認めるのが相当である。 (2) 本件日本語ドメイン名の使用料相当額について 被告は、原告の特定商品等表示と類似のドメイン名の使用したのであるから、これにより原告が受けた損害について故意の損害賠償責任を負うべきところ、その使用料相当額については、本件に現れた事情を斟酌し、3万円の限度で認定するのが相当である。 (3) 原告コンテンツの著作権侵害による利用許諾相当額について 被告は、原告コンテンツについて原告の有する著作権を故意に侵害したのであるから、これにより原告が受けた損害について故意の損害賠償責任を負うべきところ、原告コンテンツに係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額は、本件に現れた事情を斟酌し、3万円の限度で認定するのが相当である。 (4) 前件訴訟の弁護士費用相当の損害額について 原告が前件訴訟の提起を余儀なくされたのは、プロバイダ責任制限法所定の要件が満たされているにもかかわらず、訴外会社が原告からの発信者情報開示請求に応じなかったことが直接的な原因であるといえる。 しかし、原告が前件訴訟の提起を余儀なくされたのは、被告に対する損害賠償請求をするための調査の一環であって、被告の不法行為と因果関係があり、また訴外会社が、上記の対応をしたことについては、被告が訴外会社に対して開示を不同意としたことが寄与していると認められるから、原告が前件訴訟の訴訟提起及び追行に要した弁護士費用相当の損害として認められるべき額5万円の8割については、被告の不法行為と因果関係のある損害と認めるべきである。 したがって、原告主張に係る上記損害の額については、5万円の8割である4万円の限度で認めるのが相当である。 (5) 本件訴訟の弁護士費用相当の損害額について 本件事案に鑑み、被告の上記認定に係る不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、5万円と認めるのが相当である。 6 以上によれば、原告の請求は、被告に対して65万円の損害及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年8月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度で理由があるからその限度で認容することとし、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 森崎英二 裁判官 田原美奈子 裁判官 大川潤子 (別紙) 商標権目録 登録番号 第5453396号 登録年月日 平成23年11月25日 指定商品 第28類 運動用具、エクササイズトレーニング用運動用具、ストレッチ運動用具、運動補助用クッション(運動用具)、釣り具、スキーワックス、遊園地用機械器具(「業務用テレビゲーム機」を除く。)、おもちゃ、人形、遊戯用器具、ビリヤード用具、囲碁用具、歌がるた、将棋用具、さいころ、すごろく、ダイスカップ、ダイヤモンドゲーム、チェス用具、チェッカー用具、手品用具、ドミノ用具、トランプ、花札、マージャン用具 登録商標 アクシスフォーマー AXISFORMER |
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