判例全文 line
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【事件名】通販管理システムの利用契約事件(2)
【年月日】平成29年3月14日
 知財高裁 平成28年(ネ)第10102号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成27年(ワ)第5619号)
 (口頭弁論終結日 平成29年2月14日)

判決
控訴人 株式会社カーネルコンセプト
同訴訟代理人弁護士 森田辰彦
被控訴人 ナチュラルメディスン株式会社
同訴訟代理人弁護士 伊藤雅浩
同 高瀬亜富
同 山本真祐子


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、1896万4000円及びこれに対する平成27年4月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 訴訟の概要(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。)
(1) 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人は、控訴人が被控訴人との契約(本件契約)に基づいて作成し、被控訴人に使用させていた通販管理システム(本件システム)を機能させるためのプログラム(本件プログラム)を、本件契約終了後に違法に複製し、本件プログラムの著作権(複製権)を侵害したとして、不法行為(民法709条)に基づき、本件契約終了日の翌日である平成25年11月1日から平成26年12月31日までの著作権法114条3項による損害の賠償等及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 原判決は、本件プログラムに含まれるHTML(本件HTML)についても本件プログラムについても、控訴人の従業員が創作的表現を作成したと認めるに足りず、したがって、仮に本件HTMLや本件プログラムの一部に創作的表現が含まれるとしても、控訴人が本件HTMLや本件プログラムの著作者であるとはいえないとして、控訴人の請求を棄却した。
 控訴人は、原判決を不服として控訴した。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実を含む。)
 原判決4頁25行目から5頁9行目を以下のとおり改めるほかは、原判決の事実及び理由第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
 「ア 甲第6号証の1ないし5記載のHTML(甲27の1から5の各右欄記載のHTMLと同じ。以下「本件HTML」と総称する。)は、控訴人が作成したものであり、被控訴人の新規会員登録に関するホームページにおいて、「新規会員登録」(甲27の1左欄)、「登録申請時確認テスト」(甲27の2左欄)、「登録申請時確認テスト解説」(甲27の3左欄)、「基礎情報登録」(甲27の4左欄)、「基礎情報登録の確認」(甲27の5左欄)の順に遷移する画面(以下「本件画面」と総称する。)に対応する構成を記述したものである。本件画面は、少なくとも本件契約が終了する平成25年10月31日まで使用されていた。
 甲第7号証の1ないし5記載のHTML(以下「被控訴人HTML」という。)は、被控訴人が作成したものであり、被控訴人の新規会員登録に関するホームページにおいて、「新規会員登録」(乙7の1)、「登録申請時確認テスト」(乙7の2)、「登録申請時確認テスト解説」(乙7の3)、「基礎情報登録」(乙7の4)、「基礎情報登録の確認」(乙7の5)の順に遷移する画面(以下「被控訴人画面」と総称する。)に対応する構成を記述したものである(乙8、9)。被控訴人画面は、本件契約終了後の平成25年11月頃から平成27年11月頃まで使用されていた。
 本件画面と被控訴人画面は、ほぼ同一の内容である。
 被控訴人は、平成27年12月頃、新規会員登録に関するホームページをリニューアルしており、それ以降、本件画面及び被控訴人画面のいずれも使用されていない(乙13)。
イ なお、HTMLとは、ウェブページの画面を記述するためのプログラム言語であるが、同言語で記述されたプログラムもHTMLと呼ばれている。」
3 争点
(1) 本件プログラムの著作物性及び著作者
(2) 被控訴人による本件プログラムの複製権侵害の有無
(3) 控訴人の損害額
第3 当事者の主張
1 争点(1)(本件プログラムの著作物性及び著作者)について
〔控訴人の主張〕
(1) 本件プログラムについて
ア 本件プログラムの著作物性について
 控訴人は、被控訴人が営む連鎖販売取引の複雑な仕組みを理解して、その会員の報酬等を管理する制御プログラムである本件プログラムを作成した。被控訴人の複雑な報酬プランに基づいて控訴人が作成した本件プログラムのシステム仕様書を見れば、本件プログラムが控訴人の創意に基づくものであり、よって、著作権法10条1項9号所定の著作物に該当することは、明らかである。
 本件プログラムの一部である本件HTMLのみを単独で取り上げてその創作性を評価の対象とすべきではないが、後記(2)のとおり本件HTML自体も創作的表現を含む著作物であるから、この点からも、本件プログラムは著作物に該当するものということができる。
イ 本件プログラムの著作者について
 控訴人は、平成20年10月頃、その発意に基づき、自社の業務に従事する従業員を使用して本件プログラムを作成したのであるから、著作権法15条2項により、本件プログラムの著作者である。
 控訴人とライオンハートとの間では、本件プログラムのように複雑な会員取引に関するプログラムを作成する控訴人が、被控訴人の連鎖販売取引に参加する会員管理のためのシステムを作成し、ホームページの作成を業とするライオンハートが、一般向けのホームページを作成するという明確な役割分担がされていた。
 本件プログラムのユーザーである被控訴人が、画面に表示する文章自体を指定するのは当然であり、同事実は、本件プログラムの著作権の帰属とは関係がない。
(2) 本件HTMLについて
ア 本件HTMLの創作的表現について
 本件HTMLには、単にウェブ画面を表示するための表現のみならず、会員登録システムを制御するphpプログラム(以下「本件phpプログラム」という。)やデータベースと連動するための表現が含まれている。また、本件HTMLによって表示されるウェブ画面には、会員登録希望者をして表示された設問に回答させる画面があり、全問正解すれば次の画面に進ませ、誤答がある場合は次の画面に進ませず、戻って再度回答させる機能がある。
 本件HTMLには、本件phpプログラム等との連動や上記機能を備えさせるために、以下のとおり特別な記述が含まれており、これらの記述は、単なる画面表示のみのための一義的に定まるタグを用いて作成されたものではなく、控訴人の従業員のAによる独自の創作に基づく創作的表現である。
(ア) 別紙の@について
 一般のHTMLにはない、本件phpプログラムと連動するための記述であり、「?ts=%ts%」という独自の記述もある。
(イ) 別紙のAについて
 会員登録希望者がいずれにチェックしたかを判定するデータとして、通常は「1」か「2」又は「Y」か「N」を送るところ、「1」か「ア」を送るようにしている。
(ウ) 別紙のBについて
 控訴人が独自に開発したものである。
(エ) 別紙のCについて
 一般のHTMLにはない、番号数値の入力に対して紹介者の氏名が表示されるなどの機能に係る部分である。
(オ) 別紙のDについて
 入力に間違いがある場合に再度このページを開く際、先の入力値をそのまま表示できるようにした独自の工夫である。
(カ) 別紙のEについて
 会員登録に同意のチェックをすると確認ボタンが出るように、本件phpプログラムと連動するための独自の記述である。
(キ) 別紙のFについて
 入力データの正誤をチェックして間違いの内容を表示させる独自の記述である。
(ク) 別紙のGについて
 前のページで確認をクリックした際、前のページで入力した値を表示するための独自の記述である。
イ 本件HTMLの著作物性について
 前記アのとおり、本件HTMLは、Aによる創作的表現を含むものであるから、著作物に該当する。
 Aは、コンテンツの概要については、クライアントである被控訴人の指示に従ったが、具体的な表現、すなわち字体、字の大きさ、レイアウト、細かい表現については、専ら自身で考案した。コンテンツの概要についてシステムの開発者がクライアントの要望を忠実に反映させるのは当然であり、それをもってAの創作性を否定することはできない。具体的には、Aは、甲第19号証(本件画面と本件HTMLのファイルを対比したもの)左側の本件画面のうち、青枠で囲った部分のデザイン、すなわち、文字の太さ、大きさ、配列、背景色等を考案し、それに基づいて本件HTMLを作成した。加えて、Aは、甲第25号証(ライオンハートから送付されたHTMLと本件HTMLを対比したもの)の2から4頁を作成したものであるが、そのうち青枠で囲った部分は、誰が作成しても同じになるものや、ライオンハートが作成する一般向けのホームページとデザインを統一するために同ホームページとそろえたものであるが、その余はAの創作に係るものである。
 さらに、本件HTMLは、控訴人が開発した著作物である本件phpプログラムと連動することからも、著作物に該当するということができる。
ウ 本件HTMLの著作者について
 前記ア及びイのとおり、創作的表現を含む本件HTMLを作成したのは控訴人の従業員のAであるから、本件HTMLの著作者は控訴人である。
 本件HTMLは、被控訴人の連鎖販売取引に参加しようとする者がオンラインで会員登録するためのものであり、広く一般公衆を対象として被控訴人とその商品を宣伝する媒体ではない。したがって、本件HTMLは、本件覚書によって控訴人の開発範囲から除外された「一般人が閲覧するホームページ」には該当しない。
〔被控訴人の主張〕
(1) 本件プログラムについて
ア 本件プログラムの著作物性について
 本件HTMLについては、後記(2)のとおり著作物性は認められず、本件プログラムのその余の部分については、著作物性が十分に主張されていない。
イ 本件プログラムの著作者について
 後記(2)ウと同様の理由により、控訴人は、本件プログラムの著作者ではない。
(2) 本件HTMLについて
ア 本件HTMLの創作的表現について
 控訴人が主張する創作的表現は、被控訴人HTML(甲7の1〜5)とは共通しない部分に係るものであったり、本件HTMLによって表示されるウェブ画面の機能にすぎないものであるなど、いずれもそれ自体失当である。
(ア) 別紙の@について
 「本件phpプログラムと連動するための記述」は、機能を主張するものにすぎず、どの表現について創作性を主張しているのかも明らかではない。
 「?ts=%ts%」のような短い記述にプログラム作成者の個性が表れるとは考えられず、どのような意味で「特別」なのかも不明である。さらに、 「?ts=%ts%」は、被控訴人HTMLにはない。
 「?ts=%ts%」以外は、HTMLプログラムの文法に従って、ユーザーによるボタンクリック等の結果をサーバに送信する機能を持たせるために記述された一般的かつありふれた表現にすぎない。
(イ) 別紙のAについて
 「はい」の場合は「1」を、「いいえ」の場合は「ア」を送信するというアイデアを表現する場合には、他に選択肢がなく、このように表現の選択の幅がない記述は、思想又は感情を「創作的に」表現したものとはいえない。また、Aは、上記記述はシステム全体として無駄をなくすための工夫によるものと述べて、本件HTMLの機能に由来する記述であることを認めている。したがって、上記記述に本件HTML作成者の個性が発揮されていないことは、明らかである。
 さらに、「%comp1_1%disable_comp%」との記述は、被控訴人HTMLの対応する箇所では使用されていない。
 本件HTMLと被控訴人HTMLの共通する記述は、「〈input name="comp1"type="radio" value="1" /〉はい〈input name="comp1" type="radio" value="ア" /〉いいえ」である。サーバに送信するフォームの中で入力・選択する情報を「input」要素として記述すること、「input」に続いて「name」として送信する情報の名前を指定すること、「type」として画面に表示するフォームの部品を指定すること、「value」としてサーバに送信する値を指定することは、いずれもHTMLプログラムに関するルールに則った通常の記述方法であるから、上記記述は、HTMLプログラムの文法に従った一般的かつありふれた表現である。
(ウ) 別紙のBについて
 どのような意味で創作的であるかが不明である。
(エ) 別紙のCについて
 控訴人は、機能を主張するにすぎず、どの表現について創作性を主張しているのか明らかではない。
 別紙のCの記述のうち、「onkeyup」は、入力フォームにおいてキーボードのキーから放れた際に何らかの動作を指示するときに一般的に使用される記述である。「member」は、一定の値を入力したときに動作するプログラムを指定するもので、あらかじめ決められたプログラムの名称を記載するのみであり、プログラム作成者の創意・工夫が発揮される余地はない。(’frm_member’、this. value)は、「member」が動作する条件として、甲第27号証の4の2頁右側13行目の「INPUT type」以下が指定する要件を満たす7けたの数字(「this value」)が「紹介者の会員番号」の右横にある入力枠に入力されることを定めるものであり、実現すべき機能をありのままに記述したものにすぎない。
 したがって、別紙のCの記述は、HTMLプログラムの文法に従ったにすぎない記述や、本件HTMLが実現すべき機能を端的に表現した記述であり、創作的な表現ではない。
(オ) 別紙のDについて
 ここでは、入力に間違いがある場合に再度このページを開く際、先の入力値をそのまま表示できるようにする処理が意図されているところ、別紙のDの記述は、表示すべき項目を指定するものにすぎない。また、{# #}との記述は、被控訴人HTMLの対応する箇所では使用されていない。
(カ) 別紙のEについて
 控訴人は、機能を主張するにすぎず、どの表現について創作性を主張しているのか明らかではない。
 「%check 31%」との記述は、被控訴人HTMLの対応する箇所では使用されていない。
 本件HTMLと被控訴人HTMLの共通する記述は、「name="check 3" value="1"onClick="name3.check3( )」であるが、前記(イ)のとおり「input」要素における「name」や「value」といった属性の指定は、HTMLプログラムに関するルールに則った通常の記述方法であり、onClickとの属性も、クリック時の処理を指示する記述として一般的に使用されているものであるから、上記記述は、創作的なものではない。
(キ) 別紙のFについて
 控訴人は、機能を主張するにすぎず、どの表現について創作性を主張しているのか明らかではない。また、別紙のFの記述は、例えば改行を指示する〈br /〉、文字の色を指定する〈font color="#FF0000"〉など、いずれもHTMLプログラムに関する文法・定義に従ったありふれた記述にすぎない。
(ク) 別紙のGについて
 別紙のGの記述のどの部分がどのように独自の記述であるのか明らかではない。{{}}で囲まれた文字列は、画面で表示される情報の内容を英語表記したものにすぎない。加えて、被控訴人HTMLは、{{}}で文字列を囲む記述はしていない。
イ 本件HTMLの著作物性について
 前記アのとおり、本件HTMLには、創作的表現の存在は認められず、よって、著作物に該当しない。
 本件HTMLのうち日本語表現(コンテンツ部分)については、被控訴人の思想又は感情を表現することによって作成するのは当然であり、被控訴人は、画面に表示すべき文章については自ら作成し、画面デザインについてはライオンハートに別途その作成を委託し、同社に上記文章を提供するとともに適宜協議しながら画面デザインを作成させた。本件HTMLは、この画面のデザインからほぼ一義的に決まるものであり、このように、あらかじめデザインされた画面を表示させるというHTMLプログラムの性質上、その表現の選択の幅は極めて狭く、作成者の個性が発揮される余地はほとんどない。
 本件HTMLの創作性は、本件HTML中の表現に作成者の個性が表れているか否かにより判断されるべきであり、本件HTMLとは動作する環境、機能及び文法を異にする全く別個のプログラムである本件phpプログラムをもって本件HTMLの創作性を判断することはできない。
ウ 本件HTMLの著作者について
 本件HTMLは会員登録ページを表示するためのものであり、会員登録していない一般のインターネット利用者が閲覧するページに関するものであるから、本件覚書によって被控訴人の開発範囲から除外された「一般人が閲覧するホームページ」に関するプログラムに該当する。このような除外がされたのは、本件HTMLなど被控訴人のウェブサイトの訪問者が目にする画面のHTMLについては、被控訴人及びライオンハートが作成することとされていたことによるものである。現に、被控訴人は、ライオンハートに対し、ウェブサイトの開発を委託しており、画面デザインのみならずHTMLの作成も同社の作業範囲とされていた。控訴人は、ライオンハートから画面デザイン及びこれをHTMLに変換したものの提供を受けて、本件システムに組み込んだにすぎない。よって、控訴人は、本件HTMLの著作者ではない。
 仮に、Aが本件HTMLを作成したとしても、本件HTMLは、控訴人が内容の決定に関知しないコンテンツと、画面デザインと構造が決まればほぼ一義的に定まるタグの集合であるから、控訴人は、本件HTMLの著作者ではない。
2 争点(2) (被控訴人による本件プログラムの複製権侵害の有無)について
〔控訴人の主張〕
 原判決10頁15行目から11頁5行目記載のとおりであるから、これを引用する。
〔被控訴人の主張〕
 以下のとおり付加訂正するほかは、原判決11頁7行目から15行目記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決11頁8行目の後に行を改めて以下のとおり付加する。
 「(イ) 前記1〔被控訴人の主張〕(2)アのとおり、本件HTMLのうち控訴人において創作的表現がある旨主張する部分の多くは、被控訴人HTMLの該当する箇所に存在しない。」
(2) 原判決11頁9行目の「(イ)」を「(ウ)」に改める。
3 争点(3) (控訴人の損害額)について
 原判決11頁17行目から12頁5行目記載のとおりであるから、これを引用する。
第4 当裁判所の判断
1 本件HTMLの作成経緯について
(1) 前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 控訴人は、平成20年5月1日に締結した本件契約に基づいて通販管理システム(本件システム)及びこれを機能させるためのプログラム(本件プログラム)を作成し、被控訴人は、同年11月頃以降、本件システム及び本件プログラムを使用していた。本件契約は、平成21年10月23日付けの通販管理システム継続利用に関する覚書(甲2。以下「本件継続覚書」という。)によって更新された。
イ 被控訴人は、その業務である連鎖販売取引について、平成23年1月又は2月頃、オンラインによる会員登録システムの開発を開始した。
 本件HTML(甲6の1〜5、27の1〜5の各右欄)は、控訴人が作成したものであり、被控訴人の新規会員登録に関するホームページにおいて、「新規会員登録」(甲27の1左欄)、「登録申請時確認テスト」(甲27の2左欄)、「登録申請時確認テスト解説」(甲27の3左欄)、「基礎情報登録」(甲27の4左欄)、「基礎情報登録の確認」(甲27の5左欄)の順に遷移する本件画面に対応する構成を記述したものである。本件画面は、少なくとも本件契約が終了する平成25年10月31日まで使用されていた。
ウ 控訴人の従業員であるAは、平成23年2月頃から9月にかけて、被控訴人の従業員であるB及びライオンハートの従業員であるCと頻繁に連絡をとりつつ、本件画面に関する作業に携わっていた(甲14の1〜9、15の1〜5、18、乙6の1・2、14、25、28〜34)。
 被控訴人は、事業運営の一環として本件画面の記載内容を決定してこれを控訴人に伝えるとともに、その文字の大きさ、配列及び図柄等の表現形式についても、控訴人に詳細な指示を与えた(甲14の1〜9、乙18、28〜34)。ライオンハートは、被控訴人からサイトのリニューアル及びデザイン・システム制作を委託されており(乙15)、同委託に基づき、画面デザイン等を制作してそのデータを控訴人に送信した(甲15の1〜5、16、25、乙6の1・2、14、25)。
 控訴人は、上記のとおり被控訴人が決定した内容を、被控訴人から指示された文字の大きさ、配列等の形式に従い、ライオンハートから送信された画面デザイン等のデータを用いて、本件HTMLを作成した。
 また、控訴人は、本件HTMLを制御する本件phpプログラムを作成した(甲17、20)。
エ なお、被控訴人は、控訴人に対し、本件継続覚書の4項所定の「利用期間中の機能追加」として、本件phpプログラム及び本件HTMLの作成を委託したものであり、これらはいずれも本件プログラムの一部である。
(2) Aの供述について
ア Aは、例えば「会員番号を入力すると、自動的に氏名が表示されます。」との文章は、開発者である自分しか書けない旨述べる(甲26)。
 しかし、被控訴人の従業員のBがAに対して会員ページとオンラインサインアップのページの修正を依頼した平成23年4月12日送信のメール(乙32)には、「紹介者の氏名の下に、以下の注意書きを入れてください。※会員番号を入力すると、自動的にお名前が表示されます。」との記載があり、よって、上記文章は、被控訴人から指示されたものにほかならない。
イ Aは、本件HTMLのヘッダーとフッターの部分を除き、会員登録に関する文章や文字列等のデザインは自ら考案したものである旨述べる(甲26)。
 しかし、前記(1)ウのとおり、被控訴人は、文字の大きさ、配列及び図柄等の形式について、控訴人に詳細な指示を与えたこと、ライオンハートは、画面等を制作してそのデータを控訴人に送信したことが認められ、これらの事実に照らせば、A自らが上記デザインを考案したと認めるに足りない。
2 本件HTMLについて
(1) 本件HTMLの構成について
ア 本件HTMLは、主として、@新規会員登録の画面(甲27の1左欄)に対応する構成を記述したonline.html(甲6の1、27の1右欄)、A登録申請時確認テストの画面(甲27の2左欄)に対応する構成を記述したcompliance.html(甲6の2、27の2右欄)、B登録申請時確認テスト解説の画面(甲27の3左欄)に対応する構成を記述したcompl_check.html(甲6の3、27の3右欄)、C基礎情報登録の画面(甲27の4左欄)に対応する構成を記述したfund3.html(甲6の4、27の4右欄)、D基礎情報登録の確認の画面(甲27の5左欄)に対応する構成を記述したfund3_check.html(甲6の5、27の5右欄)から成る。また、本件phpプログラムは、主として@online.php、Acompliance.php、Bcompl_check.php、Cfund3.php、Dfund3_check.php、Efund3_finish.phpから成る(甲17)。
イ 本件HTMLにおいて、online.phpにアクセスすると、同プログラムによってonline.htmlに係る新規会員登録の画面(甲27の1左欄)が表示される。
 上記画面には、会員登録要件等が記載されており、下部の「上記を全て満たすので会員登録手続きへ進む。」のボタンをクリックすると、compliance.phpにアクセスし、同プログラムによってcompliance.htmlに係る登録申請時確認テストの画面(甲27の2左欄)が表示される。
 上記画面には、10問の問題が記載されており、各問につき「○はい○いいえ」の回答欄が設けられ、いずれかにチェックする仕組みである。全問回答した後に、下部の「確認」ボタンをクリックすると、compl_check.phpにアクセスし、同プログラムによって回答の正誤がチェックされ、誤答がある場合にはその問題の解説を追加して登録申請時確認テストの画面を再度表示させ、全問正解の場合にはcompl_check.htmlに係る登録申請時確認テスト解説の画面(甲27の3左欄)が表示される。
 上記画面下部の「次へ」のボタンをクリックすると、fund3.phpにアクセスし、同プログラムによってfund3.htmlに係る基礎情報登録の画面(甲27の4左欄)が表示される。
 上記画面には、「紹介者の会員番号」、「あなたの会員番号(会員登録申請書記載)」、「メールアドレス」、「メールアドレス(確認)」を入力する欄並びに「会員登録に同意する」の記載及びその右に設けられたチェック欄がある。「紹介者の会員番号」に入力すると、ajax_member.jsというプログラムにより、入力された会員番号を有する会員の氏名が表示され、入力された会員番号が存在しない場合には「該当なし」と表示される。「あなたの会員番号(会員登録申請書記載)」、「メールアドレス」、「メールアドレス(確認)」に入力し、上記チェック欄にチェックを入れると、name3.jsというプログラムにより、「確認」ボタンが表示される。そして、同ボタンをクリックすると、入力されたデータがfund3_check.phpに送られ、同プログラムにおいて、会員番号が7けたのものであるか、2つのメールアドレスが同一のものであるかなどの形式面を確認し、全て問題ない場合にはfund3_check.htmlに係る基礎情報登録の確認の画面(甲27の5左欄)が表示される。
 上記画面には、基礎情報登録の画面において入力された内容が表示され、下部の「登録に同意し、仮パスワードを発行する。」のボタンをクリックすると、fund3_finish.phpにアクセスし、データベースへの会員登録及び仮登録完了を知らせるメールが送信される(甲17、22)。
(2) プログラムの著作物性について
 著作物性が認められるためには、創作性(著作権法2条1項1号)を要するところ、創作性は、表現に作者の個性が表れていることを指すものと解される。プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同条1項10号の2)であり、コンピュータに対する指令の組合せであるから、正確かつ論理的なものでなければならないとともに、著作権法の保護が及ばないプログラム言語、規約及び解法(同法10条3項)の制約を受ける。そうすると、プログラムの作成者の個性は、コンピュータに対する指令をどのように表現するか、指令の表現をどのように組み合わせるか、どのような表現順序とするかなどといったところに表れることとなる。したがって、プログラムの著作物性が認められるためには、指令の表現自体、同表現の組合せ、同表現の順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要するということができる。プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは、選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地がなくなり、著作物性は認められなくなる。
 前記1のとおり、本件HTMLは、被控訴人が決定した内容を、被控訴人が指示した文字の大きさや配列等の形式に従って表現するものであり、そもそも、表現の選択の幅は著しく狭いものということができる。
(3) 控訴人においてAによる創作的表現と主張している部分について
 以上を前提として、控訴人においてAによる創作的表現と主張している部分につき、検討する。
ア 別紙の@について
(ア) 〈form name="frm_member" action="compliance.php?ts=%ts%" method="post"〉(甲27の1右欄)は、online.htmlにおいて、新規会員登録の画面下部の「上記を全て満たすので会員登録手続きへ進む。」のボタンをクリックすると、compliance.phpにアクセスすることに関するものと解される。
 HTMLに関する事典ないし辞典において、@「<form>」は、後出の「</form>」との間の範囲が入力フォームであることを示すこと(乙35)、Aフォームの送信先や送信方法等は、上記「form」タグの属性で指定し、属性="属性値"で表すこと(乙20、35、36)、B「name」は、フォームに名前を付与する属性であること(乙36)、C「action」は、フォームに入力されたデータを処理するプログラムのURLを指定する属性であること(乙35)、D「method」は、入力されたデータの送信形式を指定する属性であり、フォームのデータのみを本文として送信する「post」と「action」属性で指定したURLフォームのデータを追加して送信する「get」のいずれかを選択するものとされていること(乙35)が記載されている。
 したがって、上記記述は、その大半が、HTMLに関する事典ないし辞典に記載された記述のルールに従ったものであり、作成者の個性の余地があるとは考え難い。
 よって、控訴人主張に係る上記の記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 〈form name="frm_member" action="./compl_check.php?ts=%ts%" method="post"〉(甲27の2右欄)は、compliance.htmlにおいて、登録申請時確認テストの画面の問題に全問回答した後に、下部の「確認」ボタンをクリックすると、compl_check.phpにアクセスすることに関するものと解されるが、前記(ア)と同様に、作成者の個性が表れているということはできない。
(ウ) <form name="frm_member"action="https://www.natural-medicine.co.jp/member/online/fund3.php?ts=%ts%"method="post"〉(甲27の3右欄)は、compl_check.htmlにおいて、登録申請時確認テスト解説の画面下部の「次へ」のボタンをクリックすると、fund3.phpにアクセスすることに関するものと解されるが、前記(ア)と同様に、作成者の個性が表れているということはできない。
(エ) <form name="frm_member"action="./fund3_check.php?ts=%ts%"method="post"style="margin:0px;"onsubmit="return false;"〉(甲27の4右欄)は、fund3.htmlにおいて、基礎情報登録の画面に入力した上で、「会員登録に同意する」の記載の右に設けられたチェック欄にチェックし、表示された「確認」ボタンをクリックすると、fund3_check.phpに入力されたデータが送られることに関するものと解される。
 HTMLに関する教本及び辞典には、@HTMLには、style要素があること(乙20)、A文書の表示形式等を定めたCSSファイルをHTMLのタグに直接記述するインラインという方法があり、例えば<p style="font-size:20px;">と表されること(乙19)が記載されており、また、BHTMLにおいて長さを指定する方法としてピクセル数を単位に整数で指定する方法があること(乙35)、C「submit」は「送信ボタン」を意味する語として用いられていること(乙37)が記載されている。これらの記載によれば、「"margin:0px;"」は、余白0ピクセルを意味するもの、「onsubmit」は送信ボタンに関するものと解される。また、「"return false;"」は、実行中止を意味するものである。
 以上に加え、前記(ア)にも鑑みると、控訴人主張に係る上記記述は、HTMLに関する教本及び辞典に記載された記述のルールに従った、作成者の個性の表れる余地があるとは考え難いものや、語義からその内容が明らかなありふれたものから成り、したがって、作成者の個性が表れているということはできない。
(オ) 〈form action="./fund3 finish.php?ts=%ts%" method="post"〉(甲27の5右欄)は、fund3_check.htmlにおいて、基礎情報登録の確認の画面下部の「登録に同意し、仮パスワードを発行する。」のボタンをクリックすると、fund3_finish.phpにアクセスすることに関するものと解されるが、前記(ア)と同様に、作成者の個性が表れているということはできない。
(カ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙の@の記述につき、一般のHTMLにはない、本件phpプログラムと連動するための記述であり、「?ts=%ts%」という独自の記述もある旨主張する。
 しかし、前記(ア)から(オ)のとおり、別紙の@の記述は、本件phpプログラムへのアクセスに関するものであるが、その大半がHTMLに関する事典や辞典など基本的な文献に記載された記述のルールに従った、作成者の個性の表れる余地があるとは考え難いものである。
 「?ts=%ts%」につき、Aは、特別な期限を設けるための特別な記述である旨述べる。
 しかし、「"compliance.php?ts=%ts%"」については、「?」が同記号より後ろがURLに付加するクエリ情報であることを示す記号であると解されることから、「compliance.php」とのURLに「ts=%ts%」なるクエリ情報が付加されたものにすぎず、URLにクエリ情報を付加して送信することは、頻用されている手法である。また、「% %」は、この間に変数を挟むことで同変数を認識しやすくするものであり、これも、プログラム表記においてありふれた手法である。
イ 別紙のAについて
(ア) 〈input name="comp1" type="radio" value= "1" %comp1_1%%disable_comp%/〉はい〈input name="comp1" type="radio" value="ア" %comp1_ア%%disable_comp%/〉いいえ等(甲27の2右欄)は、compliance.htmlにおいて、登録申請時確認テストの画面に記載された10問の問題に対し、「はい」の回答については「1」が、「いいえ」の回答については「ア」が、回答の正誤をチェックするcompl_check.phpに送られることに関するものと解される。
 HTMLに関する辞典には、@テキストの入力フィールドや送信ボタンなど、フォームの部品を作成する様々なタグは、全て<form>から</form>タグの間に配置すること(乙35)、A上記部品の多くは、終了タグのない空要素であるinput要素で作成することができ、input要素に指定できる主な属性として、入力・選択されたデータと対になってサーバーに送信される名前に係るname属性(name="名前")、表示させたいフォームの部品の種類をキーワードで指定するtype属性(type="キーワード")、value属性(value="値")があること(乙37)、Btype属性の値として、複数の選択肢から1つのみ選択し得るラジオボタンを表示する「radio」があること(乙37)、C上記Aのvalue属性は、Bのラジオボタンの場合においては、ある項目が選択されたときサーバーに送信する値を指定するものであること(乙37)が記載されている。
 したがって、別紙のAの記述の大半は、上記のHTMLに関する辞典に記載された記述のルールに従ったものにすぎず、作成者の個性の表れる余地があるとは考え難い。
 よって、別紙のAの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙のAの記述につき、会員登録希望者がいずれにチェックしたかを判定するデータとして、通常は「1」か「2」又は「Y」か「N」を送るところ、「1」か「ア」を送るようにしている旨主張する。
 しかし、上記主張は、「○はい○いいえ」の選択結果をサーバーに送信する値の指定に係るものであり、どのような値を指定するかは、本件HTMLのプログラムに用いる変数の問題であり、プログラム自体の著作物性の問題ではない。
ウ 別紙のBについて
(ア) <!-- IF [err_comp1] -->{{err_comp1}}<br /><!--END [err_comp1]-->等(甲27の2右欄)は、compliance.htmlにおいて、登録申請時確認テストの画面上、10問の問題に対する回答に誤りがあった場合や回答漏れがあった場合のエラー表示の方法に関するものである。
 HTMLに関する辞典(乙20)には、「<!--」と「-->」で囲って記述する手法は、コメントとしてその部分を無視させるものであることが記載されており、したがって、上記の記述のうちIF[err_comp1]及びEND[err_comp1]はコメントであり、それ自体は、指令ではない。なお、特定の記述の前後に、その記述に関するコメントを付加すること自体は、ありふれた手法である。
 また、{{err_comp1}}の「{{ }}」は、この間に変数を挟むことで、同変数を認識しやすくするものであり、この手法は、プログラム表記においてありふれた手法である。
 「br」は、改行を示すものであることが上記辞典に記載されている。
 したがって、別紙のBの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙のBの記述につき、独自に開発したものである旨主張するが、前記(ア)に照らし、採用できない。
エ 別紙のCについて
(ア) onkeyup="member('frm_member'、this.value)"、<span id="memberName"></span>(甲27の4右欄)は、fund3.htmlにおいて、基礎情報登録の画面上、「紹介者の会員番号」に入力すると、入力された会員番号を有する会員の氏名が表示され、入力された会員番号が存在しない場合には「該当なし」と表示される処理に関するものである。
 インターネットのウェブサイト(乙38)において、「onkeyup」は、@キーボードのいずれかのキーを放したときのイベントに関する記述であること、Aテキスト入力欄にキーボードのキーを押して入力すると、「入力欄のテキスト:」の右横に、入力欄に入力したテキストを表示するという動作を実現するためのプログラムとして、JavaScriptで「…document.getElementById( "sample1output" ).…」と記述し、かつ、HTMLで「…<p>入力欄のテキスト:<span id="sample1output"></span></p>」と記述することが記載されている。
 前記(1)イのとおり、基礎情報登録の画面における上記処理は、ajax_member.jsというJavaScriptによって行われることから、onkeyupによるmember('frm_member'、this.value)」というイベントハンドラ(キーを放したときに行われるイベント)や「memberName」との変数についての定義は、上記JavaScriptで定義されており、番号数値を氏名に変換する処理は本件HTMLではなく、上記のJavaScriptで行われる処理である。よって、同処理に関して、本件HTMLに作者の個性が表れているということはできない。また、HTMLにおいて、連動するJavaScript等のプログラムで処理や変換された戻り値を得ることはありふれたものである。
 さらに、「member」、「frm_member」、「this.value」、「memberName」なる名称は、それぞれの変数等に割り当てられた情報の意味を名称化したものにすぎず、これらの名称においても、作成者の個性が表れているということはできない。
 したがって、別紙のCの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙のCの記述は、一般のHTMLにはない、番号数値の入力に対して紹介者の氏名が表示されるなどの機能に係る部分である旨主張するが、前記(ア)のとおり、上記機能は、本件HTMLではなく、ajax_member.jsというJavaScriptで行われる処理に係るものであるから、本件HTMLの著作物性の有無に関わるものではない。
オ 別紙のDについて
(ア) "{#member_id#}" 、"{#email#}"及び"{#email2#}"(甲27の4右欄)は、fund3.htmlにおいて、基礎情報登録の画面上、「あなたの会員番号(会員登録申請書記載)」、「メールアドレス」、「メールアドレス(確認)」を入力する欄に誤りがあった場合、再度上記画面を表示する際に先に入力された値をそのまま表示できるようにするための記述に関するものである。
 「member_id」、「email」及び「email2」が、それぞれ上記各欄に入力された内容を指すものであることは明らかである。{# #}は、この間に変数を挟むことで、同変数を認識しやすくするものであり、この手法は、プログラム表記においてありふれた手法である。
 したがって、別紙のDの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙のDの記述は、独自の工夫である旨主張するが、前記(ア)に照らし、採用できない。
カ 別紙のEについて
(ア) name="check_3"value="1"%check_3_1%onClick="name3.check3()"、<p id="btn_submit3"class="formBtn_kakunin">、<a href="fund3_check.php?ts=%ts%" name="bt_submit"value=" "onClick="sent_form();return false;">、
 <img src="../img/bt_oo_toumei.gif" /></a></p>(甲27の4右欄)は、fund3.htmlにおいて、基礎情報登録の画面上、「会員登録に同意する」の右に設けられたチェック欄にチェックを入れると、「確認」ボタンが表示されることに関するものである。
 「name="check_3" value="1" %check_3_1%onClick="name3.check3()"」との記述については、その前に、「<td>会員登録に同意する</td><td><input id="check_3"type="checkbox"」との記述があり、前記(1)イのとおり「確認」ボタンの表示等はname3.jsというプログラムによるものであるから、name3.jsプログラムファイル(甲20)を参酌すると、「会員登録に同意する」との画面上に表示された文字列に続くチェックボックスにチェックされるとブロックボックスが表示され、チェックされないとブロックボックスなどの要素は表示されないという動作を奏するものであると解されるものの、チェックボックスのチェックの有無によるブロックボックス表示の制御はname3.jsに係る動作であるから、この点に関して、本件HTMLの記述に作者の個性が表れることは考え難い。
 HTMLに関する教本及び辞典ないし事典に、@「p」は、段落を表すものであること(乙19)、A「id」属性や「class」属性は、HTMLの骨組みに使用する要素に名前を付し、各要素の役割を明確にするものであること(乙19)、B「href」は、リンク先のURLを指定するものであること(乙24)、C「../」は、リンク先のURLが上位階層にあることを意味すること(乙19)が記載されている。JavaScriptに関するウェブサイト(乙39)には、リンクやフォーム内のボタンなどをクリックした場合の処理は、<onClick="処理">と記述される旨が記載されており、フォーム内のボタンをクリックしたときの処理の記述例、リンク内のボタン等をクリックしたときの処理の記述例として、それぞれ、「<input type="button "…onClick="kakunin() "」、「<a href="・・・・ "onClick="処理">」が記載されている。別紙のEの記述は、上記各記載に係る記述のルールに従ったものであり、この点において作成者の個性の表れる余地があるとは考え難い。変数や関数の名前についても、「formBtn_kakunin」等の意味不明なものや、「check3」などその変数や関数に割り当てられた事項や意味を名称化したものにすぎず、作成者の個性が表れているとみることはできない。
 したがって、別紙のEの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙のEの記述は、本件phpプログラムと連動するための独自の技術である旨主張するが、前記(ア)に照らし、採用できない。
キ 別紙のFについて
(ア) <!--IF[err_int_member_id]--><br/><font color="#FF0000">{{err_int_member_id}} </font><!-- END[err_int_member_id]-->(甲27の4右欄)等の記述は、fund3.htmlにおいて、基礎情報登録の画面に入力されたデータの正誤をチェックし、誤りがあれば、再度fund3.htmlを表示し、誤った内容を赤文字で表示させることに関するものである。
 「<!--」と「-->」、「IF」、「err」、「br」、「END」及び「{{}}」については、前記ウと同様である。また、HTMLに関する辞典(乙35)には、@HTMLで色を指定する方法として「#」に続けて赤(r)、青(b)及び緑(g)の値を00〜ffの16進数計6けたで表現する方法があり、赤を指定する場合には「#ff0000」となること、A文字色を指定する場合は、色を指定する文字列の直前に「<font color="色指定値">」と記述することが記載されている。別紙のFの記述は、同記載に係るルールに従ったものであり、この点において作成者の個性の表れる余地は乏しい。
 そして、「int_member_id」、「member_id_2」、「email」及び「email2」は、それぞれ、「紹介者の会員番号」、「あなたの会員番号」、「メールアドレス」及び「メールアドレス(確認)」の各入力欄に対応し、その変数の名前も各入力欄に入力される情報を名称化にしたものにすぎない。
 したがって、別紙のFの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、別紙のFの記述は、入力データの正誤をチェックして間違いの内容を表示させる独自の技術である旨主張するが、前記(ア)に照らし、採用できない。
ク 別紙のGについて
(ア) {{int_member_id}}、{{int_member_name}}、{{member_id}}、{{email}}(甲27の5右欄)は、fund3_check.htmlにおいて、基礎情報登録の確認の画面に、基礎情報登録の画面において入力された内容が表示されることに関するものであるが、前記キ(ア)と同様に、「int_member_id」、「int_member_name」、「member_id」、「email」は、それぞれ、「紹介者の会員番号」、「紹介者の氏名」、「あなたの会員番号」及び「メールアドレス」の各入力欄に対応し、その変数の名前も各入力欄に入力される情報を名称化したものすぎない。
 したがって、別紙のGの記述において作成者の個性が表れているということはできない。
(イ) 控訴人の主張について
 控訴人は、前のページで確認をクリックした際、前のページで入力した値を表示するための独自の技術である旨主張するが、前記(ア)に照らし、採用できない。
ケ 小括
 以上のとおり、控訴人においてAによる創作的表現である旨を主張している部分についても、作成者の個性が表れているということはできず、よって、著作物性は認められない。
(4) 本件HTMLの著作物性について
 前記(3)のとおり、本件HTMLにおいて、控訴人がAによる創作的表現である旨を主張している部分に著作物性が認められず、本件HTMLの著作物性は認められない。
 控訴人は、本件HTMLは、控訴人が開発した著作物である本件phpプログラムと連動することからも著作物に該当する旨主張するが、HTMLをphpプログラムやJavaScriptと連動させること自体はありふれたものであり、また、本件phpプログラムの著作物性に関しては具体的な主張も立証もない。よって、本件HTMLに著作物性があるということはできない。
3 本件プログラムの著作物性について
(1) 前記2のとおり、本件HTMLの著作物性は認められない。
 そして、控訴人は、本件HTML以外、本件プログラムのどの部分に作成者の個性が表れているかを具体的に主張・立証しておらず、本件phpプログラムも含め本件プログラムの本件HTML以外の部分に著作物性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
(2) 控訴人の主張について
 控訴人は、被控訴人が営む連鎖販売取引の複雑な仕組みを理解して、その会員の報酬等を管理する制御プログラムである本件プログラムを作成したのであり、被控訴人の複雑な報酬プランに基づいて控訴人が作成した本件プログラムのシステム仕様書を見れば、本件プログラムが控訴人の創意に基づくものであり、よって、著作権法10条1項9号所定の著作物に該当することは、明らかである旨主張する。
 上記システム仕様書(甲11、12)は、平成20年5月に作成されたものであり、当時、被控訴人の新規会員登録は書類によって行われていたことから、上記システム仕様書に本件HTMLと関係する記載は見られない。その余の本件プログラムについても、上記システム仕様書の内容をもって、作成者の個性が表れていることを認めるに足りない。
4 結論
 以上のとおり、本件プログラムの著作物性が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求を棄却した原判決は結論において正当である。よって、控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 古河謙一
 裁判官 鈴木わかな
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